説明

擬石の製造方法および擬石を用いた石積み模擬構築物用プレキャスト部材とその構築方法

【課題】擁壁や護岸、堰堤などの表面に埋め込まれる擬石や、花壇等の縁石などとして配置される擬石の製造方法を簡素化し、低コストで擬石を提供するとともに、この擬石を配置してなるプレキャスト部材を低コストで提供する。
【解決手段】擬石7の製造方法であって、玉石などの自然石(またはそれを基に複製した雄型)3を油分を含んだ粘土塊2に押し込んで型取りを行い、自然石3を取り外した後に、自然石3を押し込んだことにより油分を含んだ粘土塊2にできた凹部4を雌型として、そこに擬石用モルタル、通常のモルタル等のセメント系流動性経時固化材5を流し込み、さらに、流動性経時固化材5に製造する擬石の用途に応じた所定の治具6を埋め込み、流動性経時固化材5が硬化後に治具6を上方に引き上げることで油分を含んだ粘土塊2から取り外して擬石7を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、景観や自然環境保全に配慮して、土木分野において構築される擁壁や護岸、堰堤などの表面に埋め込む擬石、公園や親水河川に複数配置される擬石、建築分野において壁や土間などの表面に埋め込む擬石、一般家庭において花壇等の縁石などとして複数で配置される擬石の製造方法および、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みを模擬した擁壁や護岸、堰堤などを構築するための、表面に擬石等が配置された石積み模擬構築物用プレキャスト部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、土木分野においては、道路擁壁や宅地造成擁壁、河川の護岸、河床整備、堰堤等には人工のコンクリート製品が多く使われてきた。しかし、これらのコンクリート製品は矩形状等の単純な人工形状を有していることから、自然景観を損なうことが問題となっている。そこで、人工的な建造物体であってもより自然で違和感の少ない形態として、表面に石積み・石張模様を模造したブロック、自然石を埋め込んだブロックなども用いられるようになってきた。また、建築分野においても景観に配慮して自然石や擬石を建物体や外構の壁や土間などに埋め込むことが行われており、一般家庭においても自然石を花壇等の縁石などとして配置していることも多い。
【0003】
このようなところに用いられる自然石の入手は、一般に砂利採取業者からの購入や海外輸入などにより行われており、その購入に多大な費用を必要としたり、希望とする形状、寸法、色彩の自然石を必要量確保することが困難となることがあった。そこで、近年ではこれら自然石に代わる擬石やその製造方法が多数提案されている(例えば、特開平6−339915号公報、特開2002−361633号公報)。
【0004】
従来例に係る擬石の製造方法は、擬石のモデルになる自然石に、シリコンゴム等を塗布することにより弾性雌型枠を構成し、さらにこの弾性雌型の外側面にFRP樹脂等を塗布して硬化させることにより保持型枠を構成し、これら弾性雌型枠と保持型枠を自然石から取り外した後に、これら弾性雌型枠と保持型枠を容易に変形しないようにさらに砂や鋼材等で固定して、擬石材料を打ち込むなどの工程で行われている。
【0005】
ここで前記弾性雌型枠は、30回〜50回程度の繰り返し使用により消耗してしまうため、消耗する度にこの工程を繰り返さなければならないことになる。擬石のモデルとなる自然石を所持しておけない場合には、自然石から型取りした弾性雌型枠および保持型枠を擬石製造用の型枠とはせず、これら型枠にFRP樹脂等を塗布して硬化させることによ自然石のテクスチャを複製する雄型を製造する工程を取り入れることも行われる。この場合は、この雄型を原型として、自然石から弾性雌型枠と保持型枠を形成する同様の工程により、擬石製造用の型枠を製造する。この擬石製造用の型枠に用いられる材料としては、シリコンゴムの他、ウレタンゴムやFRP樹脂などが用いられることもある。このようにして製造した擬石製造用型枠に擬石材料を打ち込むなどの工程により擬石を製造する。
【特許文献1】特開平6−339915号公報
【特許文献2】特開2002−361633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、(1)前記従来技術では擬石製造用型枠の製造過程が幾多にも及び、さらにシリコンゴムやFRP等の硬化に時間が多大にかかる。(2)擬石製造用型枠の製造費用が多大となる。(3)擬石製造用型枠は、その素材によりその繰り返し使用回数は異なるものの、擬石の製造により消耗し、消耗した物体は再生利用できないことから廃棄物体となる。(4)擬石の製造にあたっては、擬石製造用型枠にコンクリートとの剥離を良くする剥離剤を塗布する必要があり、使用後は毎回型枠の清掃が必要になること、等が問題視されている。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を改良したもので、景観や自然環境保全に配慮して、土木分野において構築される擁壁や護岸、堰堤などの表面に埋め込む擬石、公園や親水河川に複数配置される擬石、建築分野において壁や土間などの表面に埋め込む擬石、一般家庭において花壇等の縁石などとして複数で配置される擬石の製造方法を簡素化し、低コストで擬石を提供すると共に、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みを模擬した擁壁や護岸、堰堤などの構築物を構築するための、表面に前記の製造方法で製造した擬石等を配置してなるプレキャスト部材を低コストで提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため、本発明は次のように構成する。
【0009】
第1の発明は、景観や自然環境保全に配慮して、土木分野において構築される擁壁や護岸、堰堤などの表面に埋め込む擬石、公園や親水河川に複数配置される擬石、建築分野において壁や土間などの表面に埋め込む擬石、一般家庭において花壇等の縁石などとして複数で配置される擬石の製造方法であって、玉石等の野石、丸割石、割石、間知石などの自然石またはそれらを基に複製した雄型を油分を含んだ粘土塊に押し込んで型取りを行い、前記自然石または雄型を取り外した後に、自然石または雄型を押し込んだことにより前記油分を含んだ粘土塊にできた凹部を雌型として、そこに擬石用モルタル、通常のモルタル等のセメント系流動性経時固化材を流し込み、さらに、前記流動性経時固化材に製造する擬石の用途に応じた所定の治具を埋め込み、前記流動性経時固化材が硬化後に前記治具を上方に引き上げることで前記油分を含んだ粘土塊から取り外して製造することを特徴とする。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、自然石または雄型を押し込んでできた油分を含んだ粘土塊の凹部にヘラまたは/および押し型などにより凹面加工を加えて雌型を完成し、この雌型にセメント系流動性経時固化材を流し込むことを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、景観や自然環境保全に配慮して、土木分野において構築される擁壁や護岸、堰堤などの表面に埋め込む擬石、公園や親水河川に複数配置される擬石、建築分野において壁や土間などの表面に埋め込む擬石、一般家庭において花壇等の縁石などとして複数で配置される擬石の製造方法であって、油分を含んだ粘土塊にヘラまたは/および押し型などにより凹面加工を施して自然石等の擬石の形状を模擬した凹部を形成し、油分を含んだ粘土塊にできた前記凹部を雌型として、そこに擬石用モルタル、通常のモルタル等のセメント系流動性経時固化材を流し込み、さらに、前記流動性経時固化材に製造する擬石の用途に応じた所定の治具を埋め込み、前記流動性経時固化材が硬化後に前記治具を上方に引き上げることで前記油分を含んだ粘土塊から取り外して製造することを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、模擬する玉石等の野石、丸割石、割石、間知石などの大きさ、積み方に応じた所定の形状の型枠に補強鉄筋を配置し、石積み模擬構築物用プレキャスト部材の基体部をなすコンクリートを打ち込み、コンクリートが未固結のうちに、第1〜第3の何れかの発明の製造方法により製造した擬石の背面側から突出した治具をコンクリートに埋め込むと共に、擬石の一部を詰め込むようにして複数個配置し、コンクリートの硬化後脱型して石積み模擬構築物用プレキャスト部材を構築することを特徴とする。
【0013】
第5の発明は、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みなどの各種石積みの積み方や様相を模擬して、配置する擬石の形状や大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組み合わせ方に合わせて凸凹嵌合部を全方向に形成させた任意の平面形状の、パネル型やブロック型などの部材の種類に応じた基体部を形成する型枠に、無筋または補強鉄筋を配筋した状態で、部材の基体部をなす流動性経時固化材を打ち込み、流動性経時固化材が未固結のうちに、第1〜第3の何れかの発明に基づく製造方法により製造した擬石の背面側から突出した治具を流動性経時固化材に埋め込むと共に、擬石の一部を埋め込むようにして1個または複数個配置し、流動性経時固化材が硬化後脱型して完成することを特徴とする。
【0014】
第6の発明は、玉石積みの積み方や様相を模擬して、配置する玉石または擬石の形状や大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組み合わせ方に合わせて凸凹嵌合部を全方向に形成させた任意の平面形状の、パネル型やブロック型などの部材の種類に応じた基体部を形成する型枠に、無筋または補強鉄筋を配筋した状態で、部材の基体部をなす流動性経時固化材を打ち込み、流動性経時固化材が未固結のうちに、玉石または擬石の背面側に事前に埋め込まれた状態で突出させた治具を流動性経時固化材に埋め込むと共に、玉石または擬石の一部を埋め込むようにして1〜3個配置し、流動性経時固化材が硬化後脱型して完成する。
【0015】
第7の発明は、割石積み、間知石積みの積み方や様相を模擬して、配置する擬石の形状や大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組み合わせ方に合わせて凸凹嵌合部を全方向に形成させた任意の平面形状の、パネル型やブロック型などの部材の種類に応じた基体部を形成する型枠に、無筋または補強鉄筋を配筋した状態で、部材の基体部をなす流動性経時固化材を打ち込み、流動性経時固化材が未固結のうちに、擬石の背面側に事前に埋め込まれた状態で突出させた治具を流動性経時固化材に埋め込むと共に、擬石の一部を埋め込むようにして複数個配置し、流動性経時固化材が硬化後脱型して完成することを特徴とする。
【0016】
第8の発明は、 基体部の表面に第1〜第3の何れかに発明に基づいて製造した擬石を配置した第4の発明に係る構築方法で構築した、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みなどを模擬した擁壁や護岸、堰堤などの模擬構築物を構築するためのプレキャスト部材であって、一つのプレキャスト部材において基体部の表面に複数配置した前記擬石の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成されることで、プレキャスト部材毎に表面の石積み造形が異なる(変化している)ように前記の各擬石が配置されていると共に、各プレキャスト部材において複数の擬石の目地部を境としてその厚み方向後側が前記基体部とされており、該基体部はプレキャスト部材同士を結合する凸凹嵌合部を少なくとも一方向に有しており、模擬する石積み形態によっては、前記に加えて上下の接続部において、下側のプレキャスト部材の上部厚み方向の後側を切除し、上側のプレキャスト部材を後側にずらして配置することにより、プレキャスト部材の継ぎ目部の目地模様が画一的でない擁壁などの構築物の構築を可能とし、これにより玉石積み等の野石積み、割石積み、間知石積みなどを忠実に再現(表現)するようにしたことを特徴とする。
【0017】
第9の発明は、基体部の表面に第1〜第3の何れかの発明に基づいて製造した擬石を配置した第5の発明に係る構築方法で構築した、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みなどを模擬した擁壁や護岸、堰堤などの模擬構築物を構築するためのプレキャスト部材であって、一つ又は複数のプレキャスト部材において基体部の表面に1個又は複数個配置される前記擬石の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成されることで、プレキャスト部材毎に表面の石積み造形が異なる(変化している)ようになされていると共に、各プレキャスト部材において一つ又は複数の擬石の目地部を境としてその厚み方向後側が前記基体部とされており、該基体部はプレキャスト部材同士を結合する凸凹嵌合部を平面的に全方向に有しているパネル型またはブロック型などの各種形状であり、該プレキャスト部材を複数組み合わせることにより、玉石積み等の野石積み、割石積み、間知石積みなどを忠実に再現(表現)するようにしたことを特徴とする。
【0018】
第10の発明は、第6の発明に係る構築方法で構築した、玉石積みの積み方を模擬した擁壁や護岸、堰堤などの模擬構築物を構築するためのプレキャスト部材であって、一つ又は複数のプレキャスト部材において基体部の表面に1個〜3個配置される前記玉石又は擬石の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成されることで、プレキャスト部材毎に表面の石積み造形が異なる(変化している)ようになされていると共に、各プレキャスト部材において1個〜3個の玉石又は擬石の目地部を境としてその厚み方向後側が前記基体部とされており、該基体部はプレキャスト部材同士を結合する凸凹嵌合部を平面的に全方向に有しているパネル型またはブロック型などの各種形状であり、該プレキャスト部材を複数組み合わせることにより、玉石積みを忠実に再現(表現)するようにしたことを特徴とする。
【0019】
第11の発明は、第7の発明に係る構築方法で構築した、割石積み、間知石積みの積み方や様相を模擬した擁壁や護岸、堰堤などの模擬構築物を構築するためのプレキャスト部材であって、一つのプレキャスト部材において基体部の表面に複数配置した前記擬石の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成されることで、プレキャスト部材毎に表面の石積み造形が異なる(変化している)ように前記の各擬石が配置されていると共に、各プレキャスト部材において複数の擬石の目地部を境としてその厚み方向後側が前記基体部とされており、該基体部はプレキャスト部材同士を結合する凸凹嵌合部を平面的に全方向に有しているパネル型またはブロック型などの各種形状であり、各プレキャスト部材を複数組み合わせることにより、割石積み、間知石積みを忠実に再現(表現)するようにしたことを特徴とする。
【0020】
第12の発明は、玉石積みの積み方や様相を模擬して、配置される擬石の形状や大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組合せ方に合わせて凸凹嵌合部を全方向に形成された任意の平面形状の、パネル型やブロック型などの部材の種類に応じた基体部を形成する型枠を用いて、基体部の表面に1〜3個の玉石または擬石の一部が埋め込まれているように製造されたプレキャスト部材であって、該プレキャスト部材を複数組合せることにより、玉石積みの伝統的積み方や様相を忠実に再現(表現)した擁壁などの各種構築物の構築を可能とすることを特徴する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると次の効果がある。
【0022】
(1)油分を含んだ粘土は優れた可塑性を持っており、物体を押し付けることにより容易に変形し、その押し付けた物体の押し付けた部分の形態を忠実に複写する性質を持っていることから、擬石のモデルとする玉石等の自然石または雄型を油分を含んだ粘土塊に押し込んで型取りを行うことにより、自然石または雄型のテクスチャを忠実に転写できる。
【0023】
(2)前記の方法で簡単に自然石または雄型のテクスチャを忠実に複写した凹部を形成することができ、さらに、この凹部をそのまま擬石製造用の雌型枠とすることができるので、非常に簡単にしかも短時間で擬石製造用の雌型枠を調達することができる。このように油分を含んだ粘土で簡単に作ることができた雌型枠に、すぐに直接、セメント系の流動性経時固化材を打ち込むことにより擬石を製造でき、しかも簡単にヘラや押し型などにより形状、テクスチャを変更できるので、ある程度限られた個数の自然石または人工の雄型で、任意の多種多様な擬石を容易に製造することができる。
【0024】
(3)油分を含んだ粘土は油を含んでいるため、その全体として他の物体との剥離性が良い性質を持っており、自然石または雄型を油分を含んだ粘土塊に押し込んで型取りを行う際に、自然石または雄型に離型剤等を塗布することなく、そのままの状態で容易に、かつ綺麗に取り外すことができ、特別な型取り後の清掃を必要としない。
【0025】
(4)擬石の製造は、この擬石製造用型枠にセメント系の流動性経時固化材を流し込み、この流動性経時固化材が硬化後に油分を含んだ粘土から取り外すことにより容易に製造できる。
【0026】
(5)先に述べたように、油分を含んだ粘土は剥離性が良い性質であることから、擬石を構成するモルタルなど水分を含み硬化後には水分が消散する物体との剥離性も良く、擬石の製造に際して未固結の流動性経時固化材の内部に擬石の用途に応じた所定の治具を埋め込み、その治具を用いて上方に引き上げるだけで、油分を含んだ粘土塊の表面に転写された自然石などのテクスチャを乱すことなく容易に油分を含んだ粘土から取り外すことができ、その際、特別な剥離剤の塗布や脱型後の清掃を必要としない。
【0027】
(6)油分を含んだ粘土塊で形成された雌型枠は、適度な硬さと柔軟性及び良好な剥離性を持っているため、擬石の製造を繰り返し行っても容易に壊れないことから何度でも使用することができ、油分を含んだ粘土の優れた可塑性を利用して部分的補修・形状変更を行うことも可能であり、全体を練り直して同一または別の自然石や雄型などから再度型取りして使用することも可能である。
【0028】
(7)このように雌型枠として繰り返し使用が可能で、さらに材料としても再生使用が可能なことから、低コストで廃棄物体の発生を抑制することができる。
【0029】
(8)本発明による油分を含んだ粘土塊で形成された雌型枠は、容易にしかも低コストで提供することができることから、多種多様な形状、テクスチャの雌型枠を容易に調達することができる。
【0030】
(9)また、擬石モルタルは配合する骨材の種類や配合、顔料の使用などによりその色彩等を容易に変化させられることから、この技術と形状、テクスチャの異なる複数の雌型枠を組み合わせることにより、多種多様な形状、テクスチャ、色彩の擬石を製造することが可能となる。
【0031】
(10)これら多種多様な擬石を用い、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積み等を模擬して配置し、その擬石の目地部を境としてその厚み方向後側を基体部とし、該基体部は、部材同士を結合する凸凹嵌合部を少なくとも一方向に有し、模擬する石積み形態によっては、前記に加えて上下の接続部において、下側のプレキャスト部材の上部厚み方向の後側を切除し、上側のプレキャスト部材を後側にずらして配置することにより、プレキャスト部材同士の継ぎ目部の目地模様が画一的でない擁壁などの構築物の構築が可能となり、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みなどを忠実に再現(表現)することができる。
【0032】
(11)また、基体部の形状が表面に配置する擬石の形状や大きさ、配置個数や配置の向き、部材の組合せ方に合わせて凸凹嵌合部を全方向に形成された任意の平面形状の、パネル型やブロック型などの型枠を用い、配置する擬石の形状、テクスチャ、色彩等異なる多種多様な擬石等を表面に配置してプレキャスト部材の製造し、そのプレキャスト部材を複数組合せることにより、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みなどの各種石積みの伝統的積み方や様相を忠実に再現(表現)した擁壁などの各種構築物を構築することができる。
【0033】
(12)積み石の種類には、(イ)河川、山その他より集め割らずに積める「野石」(この中に玉石が含まれる)、(ロ)野石の大きなものを割った「丸割石」、(ハ)形を作らず割ったままで使う「割石」、(ニ)所定の寸法に割って作った「間知石」があり、玉石積みの伝統的な積み方には、(ホ)往復(いってこい)積み、(ヘ)俵積み、(ト)矢羽行違積みなどがある。本発明では、前記(イ)〜(ニ)の何れの積み石および、それらの石を使った前記(ホ)〜(ト)などの種々の積み方をした石積みの模擬構造物体の製造を可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0035】
図1(a)〜(e)は、実施形態1に係る擬石製造工程1〜5を示す。図1において枠体1内には所定量の油分を含んだ粘土塊2が詰められている。油分を含んだ粘土塊2は、専用の土練機などを用いて若干柔らかくして成型しやすくしたうえ所定の寸法の枠体1内に詰めて、該油分を含んだ粘土塊2を造る。
【0036】
一般に粘土には、土粘土、紙粘土、油粘土、樹脂粘土その他種々の名称で呼ばれているものがあるが、本発明に用いる油分を含んだ粘土とは、炭酸カルシウムなどに鉱物油、植物油などの油分を混ぜた人工の粘土であって、放置しても固化、乾燥しないため繰り返し使用できる特性を有する粘土であり、一般に油粘土と呼ばれている粘土がこれに含まれる。
【0037】
なお、本実施形態で使用する油分を含んだ粘土塊2の具体例として、中部電磁器工業(株)の製品、商品名:プラスクレイを使用している。
【0038】
前記の油分を含んだ粘土塊2を用いて、実施形態1に係る型取りは、次の工程で作業を行う。
【0039】
図1(a)、(b)の工程1、2では、油分を含んだ粘土の特性を生かすことによりこの油分を含んだ粘土に自然石または人工石の雄型を押し込んで型取りする方法(自然石の形状、テクスチャを忠実に再現する方法)であり、図示のように玉石などの自然石または、別工程で製作した人工の雄型(以下、自然石3と略称することがある)を油分を含んだ粘土塊2に押し付けて型取りを行う。自然石(または雄型)3の油分を含んだ粘土塊2への押し込みは、その押し込む自然石(または雄型)2の大きさや押し込む深さ、油分を含んだ粘土塊2の硬さにより、その押し込み方法は異なるが、自然石(または雄型)3を油分を含んだ粘土塊2の上に置いて手で押え体重をかけて押し込む方法があり、その他、簡易な静的加圧装置を用いて行う(図示省略)。
【0040】
図1(c)、(d)の工程3、4では、油分を含んだ粘土塊2から自然石(または雄型)3を取り外し、油分を含んだ粘土塊2の表面にできた型取り用の凹部4に流動性経時固化材5を投入する。流動性経時固化材5とは、例えば、骨材に景観の良い自然石砕石を用い、固化材に必要に応じて白セメントまたは/および顔料を加えた普通セメントまたは、早期に強度を発現するセメントを用いた擬石用のモルタルなどをいう。その他の流動性経時固化材としては、普通モルタルや普通コンクリートの他、透水性を有するモルタルやポーラスコンクリート、ガラス繊維、炭素繊維などで補強したモルタルやコンクリートなどが適用できる。
【0041】
図1(d)の工程4において、凹部4に投入した流動性経時固化材5にその硬化前に、治具6を埋め込んでおく。この埋め込み治具6は擬石の用途に応じて決めるが、図では一例として、I型に溶接加工した金物体を示している。
【0042】
図1(d)の工程5において、凹部4に投入した流動性経時固化材5が硬化して擬石7となった後、治具6を把持して擬石7を雌型枠8(凹部4が形成された油分を含んだ粘土塊2をこういう)から脱型する。
【0043】
擬石7を脱型した後は、普通に水洗いして製品とするが、必要に応じて(1)酸系の洗い出し剤による洗い出し、(2)ビシャン仕上げ、(3)塗料による着色などを行うこともある。
【0044】
図2(a)〜(f)は、実施形態2に係る型取りの工程を示す。図2(a)−1、図2(b)−1、図2(c)−1、図2(d)、図2(e)、図2(f)は、実施形態3に係る型取りの工程を示す。
【0045】
まず、図2(a)(b)に示す実施形態2の工程1、2では、玉石などの自然石(または、別工程で製作した人工の雄型)3を枠体に詰められた油分を含んだ粘土塊2に押し付けて型取りを行う。自然石(または雄型)3の油分を含んだ粘土塊2への押し込みは、実施形態1と同じである。図2(c)に示す実施形態2の工程3では、型取りでできた凹部4に部分的にヘラ等10で所定の造形を加え、任意の形状、テクスチャの変更をする。
【0046】
図2(d)(e)(f)に示す実施形態2の工程4、5、6は、図1の(c)(d)(e)に示す実施形態1の工程3、4、5と同じである。すなわち、流動性経時固化材5の投入、治具6の埋め込み、擬石7の硬化・脱型の順で実行される。
【0047】
次に、図2(a)−1、(b)−2に示す実施形態3の工程1、2では、枠体1に詰められた油分を含んだ粘土塊2にヘラ等10で大まかな形に雌型となる凹部4を造形し、所定の手加工を施して形成し、さらに図2(c)−1に示す実施形態2の工程3では、ヘラ加工でできた凹部4にさらに任意形状の押し型等11を押し付け、こうしてヘラ等10と押し型等11の複合工程を経て雌型となる凹部4に任意に形状、テクスチャを造形し、油分を含んだ粘土製雌型枠8を作ることができる。
【0048】
実施形態3の工程4〜6は、図2(d)(e)(f)に示す実施形態2の工程4、5、6と同じであり、これらの図を援用する。すなわち、流動性経時固化材5の投入、治具6の埋め込み、擬石7の硬化・脱型の順で実行される。
【0049】
以上述べた実施形態1、2、3では、擬石を1個体で製造する工程を示しているが、模擬する石積み等の積み方に応じて複数の擬石を連結して同時に製造することも可能である。
【0050】
次に、実施形態1〜3の何れかの方法で製造された擬石7を用いた玉石積みを模擬した擁壁構築物用プレキャスト部材の製造工程を、図3によって説明する。
【0051】
図3(a)〜(d)は、玉石積みを模擬した擁壁構築物用プレキャスト部材16の製造工程1〜4を示す。
【0052】
図3(a)に示す工程1では、模擬する玉石の大きさ、積み方に応じた所定の形状の型枠12に支持部材13を介して補強鉄筋14を配置する。図3(b)に示す工程2では、玉石積みを模擬した擁壁構築物用プレキャスト部材の基体部となるコンクリート15を打ち込む。
【0053】
図3(c)に示す工程3では、コンクリート15が未固結のうちに、先に示した擬石の製造方法により製造した擬石7(つまり擬石玉石7a)を配置する(図3dの擬石玉石7aは、これとほぼ同程度の大きさの玉石を調達して実施形態1〜3の方法で製造されている)。これにより擬石7の一部と背面側から突出した治具6がコンクリート15に埋め込まれ、コンクリート15が硬化することで、擬石7の一部と治具6を介してコンクリート15に擬石7がしっかりと固着される。なお、コンクリート15に複数の擬石7を配置する際は、図4に示すプレキャスト部材16の下側となる方から配置していき、擬石7同士の間には目地部17が形成され、実際に玉石を積んだ状態を表現する。
【0054】
次に、図3(d)に示す工程4では、コンクリート15が硬化した後、脱型して玉石積みを模擬した擁壁構築用プレキャスト部材16が完成する。
【0055】
図4は、図3の工程で製造された、玉石積みを模擬した玉石積みを模擬した擁壁構築用プレキャスト部材16の斜視図と断面図を示し、コンクリート基体部15aの前面に多数の擬石7(擬石玉石7a)が固着されており、実際に玉石を積んだ状態を表現している。
【0056】
玉石積みを模擬した擁壁構築用プレキャスト部材16は、表面に配置される擬石7の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なる、または複数種類で構成されており、擬石7(擬石玉石7a)それぞれの彫りが深く、継ぎ目が目立たないよう工夫を施したプレキャスト部材形状のため、玉石積みからなる従来の石垣などを忠実に再現できるプレキャスト部材である。図4は、玉石積みの伝統的な積み方である往復(いってこい)積みを再現したプレキャスト部材の例である。
【0057】
図5(a)は、玉石積みを模擬した石積み模擬構築用プレキャスト部材16を単体で示す正面図、図5(b)は、複数のプレキャスト部材16を組み立てた組立正面図、図5(c)は、縦断側面図の一例である。
【0058】
図5(b)(c)において、玉石積みを模擬した擁壁構築用プレキャスト部材16のコンクリート基体部15aの背面を支持フレーム19の傾斜枠20に固定して自立させ、擁壁基礎18の上に移動しないように設置し、背面にコンクリート23を充填することにより玉石積みを模擬した擬石擁壁21が構築される。この場合、石積み模擬構築物用プレキャスト部材16は、各プレキャスト部材毎に表面の石積み造形が異なる(変えられる)ことにより、組み立てた全体(つまり、玉石積みを模擬した擬石擁壁21)として、画一的なものとならず、従来からある自然の石積みを忠実に再現できる。
【0059】
ここでプレキャスト部材16の上部は、厚み方向の後側を切除してあるので、図5(c)に示すようにプレキャスト部材16の最上部の擬石7がコンクリート基体部15aの上端部22から少し突出していることになる。
【0060】
したがって、上段側のプレキャスト部材16のコンクリート基体部15aの下端部を、下段側のプレキャスト部材16の配置面より後側に少しずらして配置し、かつ下段側のプレキャスト部材16のコンクリート基体部15aの上端部22に載置して支持させ、さらに、上下側のプレキャスト部材16を相対的に横に少しずらして配置することで、図5(b)の正面図から分かるように、下から上へ積み上げたような石積み模様の玉石積みを模擬した擁壁の構築が可能となる。
【0061】
図6(a)、(b)は、玉石積みを模擬した石積み模擬構築物用プレキャスト部材46の他の例を単体で示す正面図、図6(c)は、複数のプレキャスト部材46を組み立てた組み立て正面図、図6(d)は、その縦断側面図の一例である。
【0062】
図6(a)、(b)において、プレキャスト部材46の表層部には形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成される擬石7(擬石玉石7a)が複数個配置されており、複数の擬石7の目地部を境としてその厚み方向後ろ側が基体部51とされており、基体部51はプレキャスト部材同士を結合するための凸凹嵌合部を平面的に少なくとも一方向又は全方向に有している形状とされている。また、この基体部51は、パネル型やブロック方など部材の種類に応じた形状とされている。
【0063】
(任意としてしまうと、嵌合不可能なものも含まれてしまいます。任意を消去するとともに、嵌合可能な凸凹嵌合部を少なくとも1方向又は全方向に有している旨を説明しておけば宜しいと思います。)
【0064】
この平面形状は、配置する擬石の形状や大きさ、配置個数や配置の向き、部材の組合せ方に応じた形状とすることができ、図6(a)、(b)のように大きさを変えることにより、組み合わせたときにその継ぎ目部が通らないようになり、従来からある自然の石積みを忠実に再現できることになる。図6(a)、(b)におけるプレキャスト部材46は、玉石積みの伝統的な積み方である俵積みを再現したプレキャスト部材の例である。
【0065】
このプレキャスト部材46は、図3に示したプレキャスト部材の製造工程と同様の工程において、型枠の形状を配置する擬石の形状、大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組合せ方に合わせて凸凹嵌合部を平面的に全方向に有している任意の形状とすることにより製造される。また、このときにプレキャスト部材の基体部として型枠に打ち込むものとしてはコンクリートのみに限らず、透水性を有するモルタルやポーラスコンクリート、ガラス繊維、炭素繊維などで補強したモルタルやコンクリートなどを用いても良い。
【0066】
図6(c)、(d)は、プレキャスト部材46を既存擁壁52を修景する部材として貼り付ける例を示しており、修景する箇所に合わせて基礎砕石53、基礎コンクリート54、土台ブロック55の順序で構築していき、その上に順次、既存擁壁52の表面及びプレキャスト部材46の背面の両面にポリマーモルタルなどの接着系の材料56を塗って貼り付けるようにして積み上げ、所定の位置に連結アンカー57を設置して連結することにより修景擁壁58が構築される。ここで、修景擁壁58を構成するプレキャスト部材46の表層部には形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成される擬石7(擬石玉石7a)が複数個配置されており、プレキャスト部材46の形状は、継ぎ目部が目立たないように工夫されているため、組み立てた全体(つまり、玉石積みを模擬した修景擁壁)として、画一的なものとならず、従来からある自然の石積みを忠実に再現できることになる。なお、修景擁壁58の構築方法は、ここに示した例に限られるものではなく、既存の技術を駆使した種々の工法で行っても良い。
【0067】
また、プレキャスト部材46を図5(b)(c)に示した方法と同様な方法で固定し、背面にコンクリートを充填することにより擁壁を構築することもできる。
【0068】
図7(a)は、玉石積みを模擬した石積み模擬構築物用プレキャスト部材66のさらに他の例を単体で示す正面図、図7(b)は、複数のプレキャスト部材66を組み立てた組み立て正面図、図7(c)は、その縦断側面図の一例である。
【0069】
この例では、単体のプレキャスト部材66の表層部には形状、テクスチャ、色彩等が異なる擬石7(擬石玉石7a)が2個配置されており、配置する擬石の形状、配置の向きに応じた凸凹嵌合部が平面的に少なくとも一方向又は全方向に有している形状とされている。この図7(a)に示す例においては、玉石積みの伝統的な積み方である往復(いってこい)積みを再現するものとして擬石7の形状と配置の向に応じて略六角形状を異なる向きでつなぎ合わせた2種類の平面形状として、その厚み方向後ろ側がブロック型の基体部となっている。
【0070】
このような形状からなるプレキャスト部材66は、最大で2個の擬石7を配置可能な構成とすれば足りることから、全体的な重量を軽くすることができ、何ら重機を使用することなく一人の作業員が両手で搬送することが可能となる。
【0071】
このプレキャスト部材66は、図3に示したプレキャスト部材の製造工程と同様の工程において、型枠の形状を配置する擬石の形状、大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組合せ方に合わせて凸凹嵌合部を平面的に全方向に有しているブロック型の基体部を形成する形状とすることにより製造される。また、このときにプレキャスト部材の基体部として型枠に打ち込むものとしてはコンクリートのみに限らず、透水性を有するモルタルやポーラスコンクリート、ガラス繊維、炭素繊維などで補強したモルタルやコンクリートなど、いかなる流動性経時固化剤を用いるようにしてもよく、鉄筋を配筋しなくてもよい。
【0072】
さらに、ここでは擬石7を先に示した擬石の製造方法により製造したものとして示しているが、他の製造方法で製造した擬石や自然の玉石の背面に事前に所定の治具を埋め込んでおいたものとしても良く、部材の製造方法も加圧振動締固め装置や遠心加圧振動締め固め装置などの装置を用いて製造しても良い。
【0073】
図7(b)、(c)は、前記プレキャスト部材66を従来の間知ブロック積み擁壁の施工方法に倣って施工した玉石積み模擬擁壁68の例であり、各プレキャスト部材6に配置されている擬石7の形状、テクスチャ、色彩等は全て異なるか又は複数種類で構成されている。また、この玉石積み模擬擁壁68は、土台ブロック55上に構築され、また前記プレキャスト部材66は、図7(c)に示すように裏栗石の前面に配置されることになる。プレキャスト部材66の形状は、継ぎ目部が目立たないように工夫されているため、組み立てた全体(つまり、玉石積みを模擬した擁壁)として、画一的なものとならず、従来からある自然の石積みを忠実に再現できることになる。
【0074】
なお、上述した例においては、あくまで2個の擬石7を配置した玉石積みの往復積みを表現する間知ブロック型のプレキャスト部材66の場合について説明したが、かかる場合に限定されるものではなく、擬石7を1個のみ配置した間知ブロック型または3個以上配置した大型ブロック式等の従来のブロック積み技術と複合させたプレキャスト部材としてもよい。なお、何ら重機を使用することなく一人の作業員が両手で搬送可能とするためには、この擬石を1〜3個で構成することが望ましい。
【0075】
さらには、各種石積みの積み石の種類や形状、積み方(俵積みなど)、部材としての組合せ方によって形状を変えて良く、ブロック型に限らず、パネル型として、コンクリート擁壁の打ち込み型枠として用いてもよい。
【0076】
図8(a)、(b)は、間知石積みを模擬した石積み模擬構築物用プレキャスト部材71の一例を単体で示す正面図、図8(c)は、複数のプレキャスト部材71を組み立てた組み立て正面図、図8(d)は、その縦断側面図の一例である。
【0077】
図8(a)、(b)において、プレキャスト部材71の表層部には形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成される間知を模擬した擬石72が複数個配置されており、複数の擬石72の目地部を境としてその厚み方向後ろ側が基体部とされており、基体部51は、プレキャスト部材同士を結合するための凸凹嵌合部を平面的に少なくとも一方向又は全方向に有している形状とされている。
【0078】
この平面形状は、配置する擬石の形状や大きさ、配置個数や配置の向き、部材の組合せ方によって変えることができ、図8(a)、(b)のように大きさを変えることにより、組み合わせたときにその継ぎ目部が通らないようになり、従来からある自然の石積みを忠実に再現できることになる。図8(a)、(b)におけるプレキャスト部材71は、間知石積みの伝統的な積み方である矢羽積みを再現したプレキャスト部材の例である。
【0079】
このプレキャスト部材71は、図3に示したプレキャスト部材の製造工程と同様の工程において、型枠の形状を配置する擬石の形状、大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組合せ方に合わせて凸凹嵌合部を平面的に全方向に有している任意の形状とすることにより製造される。また、このときにプレキャスト部材の基体部として型枠に打ち込むものとしてはコンクリートのみに限らず、透水性を有するモルタルやポーラスコンクリート、ガラス繊維、炭素繊維などで補強したモルタルやコンクリートなどを用いても良い。
【0080】
また、プレキャスト部材71の表層部に配置される擬石72は、図1または図2に示した擬石の製造工程により製造されることが好ましいが、既往の他の製造工程により製造されても良い。
【0081】
図8(c)、(d)は、プレキャスト部材71をコンクリート擁壁の打ち込み型枠として用い手擁壁を構築する例を示しており、プレキャスト部材71のコンクリート基体部51を支持フレーム83の傾斜枠84に固定して自立させ、基礎砕石85の上に設けられた擁壁基礎86の上に移動しないように設置し、更に背面型枠87を背面型枠支持金物88により支持フレーム83の傾斜枠84と連結して支持してその間にコンクリート89を充填することにより間知石積みを模擬した擬石擁壁90が構築される。この場合、擬石擁壁90の表面を構成するプレキャスト部材71の表層部には形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成される擬石72が複数個配置されており、プレキャスト部材71の形状は、継ぎ目部が目立たないように工夫されているため、組み立てた全体(つまり、間知石積みを模擬した擬石擁壁)として、画一的なものとならず、従来からある自然の石積みを忠実に再現できることになる。なお、擬石擁壁86の構築方法は、ここに示した例に限られるものではなく、既存の技術を駆使した種々の工法で行っても良い。
【0082】
図9は、擬石7(擬石玉石7a)で擬石玉石縁石24を構築した斜視図と断面図である。一般家庭の花壇25などに配置した擬石玉石縁石24の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なる、または複数種類で構成できるので、実際の自然石で構築した縁石と殆ど近い景観を呈する擬石玉石縁石を構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】(a)〜(e)は、実施形態1に係る型取りの工程を示す工程図である。
【図2】(a)〜(f)は、実施形態2に係る型取りの工程を示す工程図、図2(a)−1、図2(b)−1、図2(c)−1、図2(d)、図2(e)、図2(f)は、実施形態3に係る型取りの工程を示す工程図である。
【図3】(a)〜(d)は、玉石積みを模擬した擁壁構築用プレキャスト部材の製造工程を示す工程図である。
【図4】(a)は、図3の工程で製造された、玉石積みを模擬した擁壁構築用プレキャスト部材の斜視図、(b)は、図(a)のA−A断面図である。
【図5】(a)は、玉石積みを模擬した擁壁構築用プレキャスト部材を単体で示す正面図、(b)は、複数のプレキャスト部材を組み立てた組立正面図、(c)は、(b)のB−B断面図である。
【図6】玉石積みを模擬した石積み模擬構築用プレキャスト部材の他の例を示す図である。
【図7】玉石積みを模擬した石積み模擬構築物用プレキャスト部材のさらなる他の例示す図である。
【図8】間知石積みを模擬した石積み模擬構築物用プレキャスト部材の一例を示す図である。
【図9】(a)は、擬石(擬石玉石)で擬石玉石縁石を構築した斜視図、(b)は、(a)のC−C断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 枠体
2 油分を含んだ粘土塊
3 自然石(または人工の雄型)
4 型取り用の凹部
5 流動性経時固化材
6 治具
7 擬石
7a 擬石玉石
8 雌型枠
10 ヘラ等
11 押し型等
12 型枠
13 支持部材
14 補強鉄筋
15 コンクリート
15a,35a コンクリート基体部
16,46 石積みを模擬した擁壁構築用プレキャスト部材
17 目地部
18 擁壁基礎
19 支持フレーム
20 傾斜枠
21 擬石擁壁
22 上端部
23 コンクリート
24 擬石玉石縁石
25 花壇
46、71 プレキャスト部材
52 既存擁壁
53 基礎砕石
54 基礎コンクリート
55 土台ブロック
56 接着系の材料
57 連結アンカー
58 修景擁壁
66 プレキャスト部材
68 玉石積み模擬擁壁
72 擬石
83 支持フレーム
84 傾斜枠
85 基礎砕石
86 擁壁基礎
87 背面型枠
88 背面型枠支持金物
89 コンクリート
90 擬石擁壁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
景観や自然環境保全に配慮して、土木分野において構築される擁壁や護岸、堰堤などの表面に埋め込む擬石、公園や親水河川に複数配置される擬石、建築分野において壁や土間などの表面に埋め込む擬石、一般家庭において花壇等の縁石などとして複数で配置される擬石の製造方法であって、
玉石等の野石、丸割石、割石、間知石などの自然石またはそれらを基に複製した雄型を油分を含んだ粘土塊に押し込んで型取りを行い、前記自然石または雄型を取り外した後に、自然石または雄型を押し込んだことにより前記油分を含んだ粘土塊にできた凹部を雌型として、そこに擬石用モルタル、通常のモルタル等のセメント系流動性経時固化材を流し込み、さらに、前記流動性経時固化材に製造する擬石の用途に応じた所定の治具を埋め込み、前記流動性経時固化材が硬化後に前記治具を上方に引き上げることで前記油分を含んだ粘土塊から取り外して製造することを特徴とする擬石の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、自然石または雄型を押し込んでできた油分を含んだ粘土塊の凹部にヘラまたは/および押し型などにより凹面加工を加えて雌型を完成し、この雌型にセメント系流動性経時固化材を流し込むことを特徴とする擬石の製造方法。
【請求項3】
景観や自然環境保全に配慮して、土木分野において構築される擁壁や護岸、堰堤などの表面に埋め込む擬石、公園や親水河川に複数配置される擬石、建築分野において壁や土間などの表面に埋め込む擬石、一般家庭において花壇等の縁石などとして複数で配置される擬石の製造方法であって、
油分を含んだ粘土塊にヘラまたは/および押し型などにより凹面加工を施して自然石等の擬石の形状を模擬した凹部を形成し、油分を含んだ粘土塊にできた前記凹部を雌型として、そこに擬石用モルタル、通常のモルタル等のセメント系流動性経時固化材を流し込み、さらに、前記流動性経時固化材に製造する擬石の用途に応じた所定の治具を埋め込み、前記流動性経時固化材が硬化後に前記治具を上方に引き上げることで前記油分を含んだ粘土塊から取り外して製造することを特徴とする擬石の製造方法。
【請求項4】
模擬する玉石等の野石、丸割石、割石、間知石などの大きさ、積み方に応じた所定の形状の型枠に補強鉄筋を配置し、石積み模擬構築物用プレキャスト部材の基体部をなすコンクリートを打ち込み、コンクリートが未固結のうちに、請求項1〜3の何れかに記載の製造方法により製造した擬石の背面側から突出した治具をコンクリートに埋め込むと共に、擬石の一部を詰め込むようにして複数個配置し、コンクリートの硬化後脱型して完成することを特徴とする石積み模擬構築物用プレキャスト部材の構築方法。
【請求項5】
玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みなどの各種石積みの積み方や様相を模擬して、配置する擬石の形状や大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組み合わせ方に合わせて凸凹嵌合部を全方向に形成させた任意の平面形状の、パネル型やブロック型などの部材の種類に応じた基体部を形成する型枠に、無筋または補強鉄筋を配筋した状態で、部材の基体部をなす流動性経時固化材を打ち込み、流動性経時固化材が未固結のうちに、請求項1〜3の何れかに記載の製造方法により製造した擬石の背面側から突出した治具を流動性経時固化材に埋め込むと共に、擬石の一部を埋め込むようにして1個または複数個配置し、流動性経時固化材が硬化後脱型して完成することを特徴とする石積み模擬構築物用プレキャスト部材の構築方法。
【請求項6】
玉石積みの積み方や様相を模擬して、配置する玉石または擬石の形状や大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組み合わせ方に合わせて凸凹嵌合部を全方向に形成させた任意の平面形状の、パネル型やブロック型などの部材の種類に応じた基体部を形成する型枠に、無筋または補強鉄筋を配筋した状態で、部材の基体部をなす流動性経時固化材を打ち込み、流動性経時固化材が未固結のうちに、玉石または擬石の背面側に事前に埋め込まれた状態で突出させた治具を流動性経時固化材に埋め込むと共に、玉石または擬石の一部を埋め込むようにして1〜3個配置し、流動性経時固化材が硬化後脱型して完成することを特徴とする石積み模擬構築物用プレキャスト部材の構築方法。
【請求項7】
割石積み、間知石積みの積み方や様相を模擬して、配置する擬石の形状や大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組み合わせ方に合わせて凸凹嵌合部を全方向に形成させた任意の平面形状の、パネル型やブロック型などの部材の種類に応じた基体部を形成する型枠に、無筋または補強鉄筋を配筋した状態で、部材の基体部をなす流動性経時固化材を打ち込み、流動性経時固化材が未固結のうちに、擬石の背面側に事前に埋め込まれた状態で突出させた治具を流動性経時固化材に埋め込むと共に、擬石の一部を埋め込むようにして複数個配置し、流動性経時固化材が硬化後脱型して完成することを特徴とする石積み模擬構築物用プレキャスト部材の構築方法。
【請求項8】
基体部の表面に請求項1〜3の何れかに記載の製造方法で製造した擬石を配置した請求項4記載の構築方法で構築した、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みなどを模擬した擁壁や護岸、堰堤などの模擬構築物を構築するためのプレキャスト部材であって、一つのプレキャスト部材において基体部の表面に複数配置した前記擬石の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成されることで、プレキャスト部材毎に表面の石積み造形が異なる(変化している)ように前記の各擬石が配置されていると共に、各プレキャスト部材において複数の擬石の目地部を境としてその厚み方向後側が前記基体部とされており、該基体部はプレキャスト部材同士を結合する凸凹嵌合部を少なくとも一方向に有しており、模擬する石積み形態によっては、前記に加えて上下の接続部において、下側のプレキャスト部材の上部厚み方向の後側を切除し、上側のプレキャスト部材を後側にずらして配置することにより、プレキャスト部材の継ぎ目部の目地模様が画一的でない擁壁などの構築物の構築を可能とし、これにより玉石積み等の野石積み、割石積み、間知石積みなどを忠実に再現(表現)するようにしたことを特徴とする石積み模擬構築物用プレキャスト部材。
【請求項9】
基体部の表面に請求項1〜3の何れかに記載の製造方法で製造した擬石を配置した請求項5記載の構築方法で構築した、玉石等の野石積み、割石積み、間知石積みなどを模擬した擁壁や護岸、堰堤などの模擬構築物を構築するためのプレキャスト部材であって、一つ又は複数のプレキャスト部材において基体部の表面に1個又は複数個配置される前記擬石の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成されることで、プレキャスト部材毎に表面の石積み造形が異なる(変化している)ようになされていると共に、各プレキャスト部材において一つ又は複数の擬石の目地部を境としてその厚み方向後側が前記基体部とされており、該基体部はプレキャスト部材同士を結合する凸凹嵌合部を平面的に全方向に有しているパネル型またはブロック型などの各種形状であり、該プレキャスト部材を複数組み合わせることにより、玉石積み等の野石積み、割石積み、間知石積みなどを忠実に再現(表現)するようにしたことを特徴とする石積み模擬構築物用プレキャスト部材。
【請求項10】
請求項6記載の構築方法で構築した、玉石積みの積み方を模擬した擁壁や護岸、堰堤などの模擬構築物を構築するためのプレキャスト部材であって、一つ又は複数のプレキャスト部材において基体部の表面に1個〜3個配置される前記玉石又は擬石の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成されることで、プレキャスト部材毎に表面の石積み造形が異なる(変化している)ようになされていると共に、各プレキャスト部材において1個〜3個の玉石又は擬石の目地部を境としてその厚み方向後側が前記基体部とされており、該基体部はプレキャスト部材同士を結合する凸凹嵌合部を平面的に全方向に有しているパネル型またはブロック型などの各種形状であり、該プレキャスト部材を複数組み合わせることにより、玉石積みを忠実に再現(表現)するようにしたことを特徴とする石積み模擬構築物用プレキャスト部材。
【請求項11】
請求項7記載の構築方法で構築した、割石積み、間知石積みの積み方や様相を模擬した擁壁や護岸、堰堤などの模擬構築物を構築するためのプレキャスト部材であって、一つのプレキャスト部材において基体部の表面に複数配置した前記擬石の形状、テクスチャ、色彩等が全て異なるか又は複数種類で構成されることで、プレキャスト部材毎に表面の石積み造形が異なる(変化している)ように前記の各擬石が配置されていると共に、各プレキャスト部材において複数の擬石の目地部を境としてその厚み方向後側が前記基体部とされており、該基体部はプレキャスト部材同士を結合する凸凹嵌合部を平面的に全方向に有しているパネル型またはブロック型などの各種形状であり、各プレキャスト部材を複数組み合わせることにより、割石積み、間知石積みを忠実に再現(表現)するようにしたことを特徴とする石積み模擬構築物用プレキャスト部材。
【請求項12】
玉石積みの積み方や様相を模擬して、配置される擬石の形状や大きさ、配置の向きや配置個数、部材の組合せ方に合わせて凸凹嵌合部を全方向に形成された任意の平面形状の、パネル型やブロック型などの部材の種類に応じた基体部を形成する型枠を用いて、基体部の表面に1〜3個の玉石または擬石の一部が埋め込まれているように製造されたプレキャスト部材であって、該プレキャスト部材を複数組合せることにより、玉石積みの伝統的積み方や様相を忠実に再現(表現)した擁壁などの各種構築物の構築を可能とすることを特徴とした石積み模擬構築物用プレキャスト部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−70694(P2006−70694A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225416(P2005−225416)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(503092319)株式会社造形集団 (3)
【出願人】(305025544)大木建設株式会社 (4)
【Fターム(参考)】