説明

支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法

【課題】 地震計の故障時や局所的停電時に地震が発生した場合でも、車両の走行を可能にし、安全性の確保を図ることができる、支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法を提供する。
【解決手段】 支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法において、地震計ネットワーク内における地震計の故障時や局所的停電時に、支障地震計3の両側に配置された地震計2及び4が前記支障地震計3を補完するように前記両側に配置された地震計2及び4からの計測値に基づいて中央処理装置6から通信ネットワーク5を介して前記両側に配置された地震計2及び4に対して指令が出されることにより、前記地震計ネットワークのエリア内を走行する車両の速度規制基準値を自動変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法に係り、地震計ネットワーク内における地震計の故障時や局所的停電時に支障地震計を補完する、当該地震計ネットワークのエリアを走行する車両の速度規制基準値の自動変更方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地震が発生した際には、鉄道等では主に線路脇に線状に設置された地震計が記録した地震動の大きさによって、鉄道車両の速度規制(徐行)や運転中止(停止)といった運転規制が行われる。
図2は地震計が設置された鉄道の地震検知点と地震の震央箇所との位置関係をモデル化した模式図である。
【0003】
この図において、鉄道の地震検知点間の距離xkmは、例えば20kmである。速度規制の基準値は、地震検知点間の中央(どちらか一方の検知点からx/2kmの距離)において、最大地震動となることを想定し、過去に鉄道が被災した下限の地震動を見逃すことがないように、設定する必要がある。
なお、この図において、Δk =√〔Δ218 +(x/2)2 〕である。
【0004】
図3は、過去に鉄道が被災した下限のSI値が18kine程度であることから、運行車両の運転中止基準とするSI値を18kineに設定した場合の、検知点位置でのSI値をマグニチュードに対して示す図である。図3におけるaは鉄道が被災した下限のマグニチュードを示している。検知点位置でのSI値は距離減衰式を用いて求めることができるが、ここでは、SI値の距離減衰式として
log(SI)=0.5324・M−0.0017・Δ−0.6501・log
Δ−1.2441を採用した。図5においては、検知点間隔をパラメータとしており、□は検知点間隔が5km、○は検知点間隔が10km、△は15km、▽は20km、◇は40kmの場合をそれぞれ示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】なし
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
地震計は地震発生時において、運行の判断材料となるため重要な機器として位置づけられているが、地震計本体が故障したり、停電が発生することによって地震計が局所的に停止したり、通信回線が切れるなどして地震計の情報が運行管理担当者に伝わらなくなる場合がある。
その際には、地震計ネットワーク内において、支障地震計の両側に設置されている地震計等の情報を用いて運転規制を行うこととなるが、両側の地震計の受け持つ範囲が正常時よりも広くなるため、速度規制基準値を変更する必要がある。
本発明は、上記状況に鑑みて、上記した速度規制基準値の変更を中央処理装置で自動的に行うことにより、地震計の故障時や局所的停電時に地震が発生した場合でも、車両の走行を可能にし、安全性の確保を図ることができる、支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法において、地震計ネットワーク内における地震計の故障時や局所的停電時に、支障地震計の両側に配置された地震計が前記支障地震計を補完するように前記両側に配置された地震計からの計測値に基づいて中央処理装置から通信ネットワークを介して前記両側に配置された地震計に対して指令が出されることにより、前記地震計ネットワークのエリア内を走行する車両の速度規制基準値を自動変更することを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法において、前記車両が前記地震計ネットワークのエリアに位置する路線を走行する鉄道車両であることを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載の支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法において、前記車両が前記地震計ネットワークのエリアに位置する高速道路を走行する自動車両であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地震計ネットワークにおいて地震計の故障や局所的停電等が発生しても、当該地震計ネットワークのエリアを走行する車両の速度規制基準値の変更を自動で行うことにより、車両の走行を可能にし、安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例を示す地震計の故障時や局所的停電時における地震計ネットワークのエリアを走行する車両の速度規制基準値の自動変更に関する概念を説明する模式図である。
【図2】地震計が設置された鉄道の地震検知点と地震の震央箇所との位置関係をモデル化した図である。
【図3】運行車両の運転中止基準とするSI値を18kineに設定し、その地震動が検知点の中央位置で生じた場合の両検知点位置でのSI値をマグニチュードに対し検知点間隔ごとに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法において、地震計ネットワーク内における地震計の故障時や局所的停電時に、支障地震計の両側に配置された地震計からの計測値に基づいて中央処理装置から通信ネットワークを介して前記両側に配置された地震計に対して指令が出されることにより、前記地震計ネットワークのエリア内を走行する車両の速度規制基準値を自動変更する。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す地震計の故障時や局所的停電時における地震計ネットワークのエリアを走行する車両の速度規制基準値の自動変更に関する概念を説明する模式図である。
この図において、Aは地震計ネットワークのエリアに位置する路線、1〜4は地震計ネットワークのエリアに配置される地震計であり、例えば、路線A上において20km毎に配置されている。5は地震計1〜4に接続される通信ネットワーク、6は通信ネットワーク5に接続される中央処理装置(中継サーバー)である。
【0013】
ここで、地震計1〜4の全てが正常に作動している時、地震が発生し地震計1〜4のSI値が18kine以上となると、その地震計が受け持つ範囲を走行する車両には運転中止をするように中央処理装置(中継サーバー)6より指令が出される。また、9kine以上18kine未満となると、その地震計が受け持つ範囲を走行する車両には速度規制をするように、中央処理装置(中継サーバー)6より指令が出される。
【0014】
しかし、例えば、地震計3が故障や局所的停電などによりSI値を送信できなくなった場合、その支障状態を中央処理装置(中継サーバー)6が通信ネットワーク5を介して検知すると、地震計3の両側に位置する地震計2及び4が支障状態にある地震計3を補完するように、中央処理装置(中継サーバー)6から地震計2及び4に指令が出され、地震計2と4の間隔は40kmとなることから地震計2及び4の速度規制基準値が9kineから6kineに変更される。
【0015】
なお、この根拠としては、20km間隔で設置された地震計の1つが故障した場合に、その支障地震計の両側の地震計で補完するとなると、その区間は地震計の間隔が40kmとなる。鉄道が被災した下限のマグニチュードは5.5とされており、図3より、マグニチュード5.5で検知点間隔20kmとした場合のSI値は約9kineである。一方、同じく図3よりマグニチュード5.5で検知点間隔40kmとした場合のSI値は約6kineである。よって、地震計の設置間隔が20kmの場合、正常時の速度規制基準値は9kineであり、支障地震計の両隣の地震計の速度規制基準値は6kineとなる。
【0016】
このように、地震計3が支障状態にある場合には、その両側に配置されている地震計2及び4の速度規制基準値を自動で変更することにより、地震計3を補完するようにしている。
なお、上記実施例では、鉄道車両が走行する路線に沿って地震計を設置する場合について説明したが、本発明は高速道路に沿って地震計を設置し、その高速道路を走行する自動車両に対して速度規制基準値を自動変更するような例にも適用できる。
【0017】
また、本発明の車両の速度規制基準値の自動変更方法が活用できる地震動指標はSI値のみならず、最大加速度や最大速度、計測震度等にも適用できる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法は、地震計ネットワーク内における地震計の故障時や局所的停電時に地震が発生した場合でも、車両の走行を可能にし、安全性の確保を図るために利用可能である。
【符号の説明】
【0019】
A 地震計ネットワークのエリアに位置する路線
1〜4 地震計ネットワークのエリアに配置される地震計
5 地震計に接続される通信ネットワーク
6 通信ネットワークに接続される中央処理装置(中継サーバー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震計ネットワーク内における地震計の故障時や局所的停電時に、支障地震計の両側に配置された地震計が前記支障地震計を補完するように前記両側に配置された地震計からの計測値に基づいて中央処理装置から通信ネットワークを介して前記両側に配置された地震計に対して指令が出されることにより、前記地震計ネットワークのエリア内を走行する車両の速度規制基準値を自動変更することを特徴とする支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法。
【請求項2】
請求項1記載の支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法において、前記車両が前記地震計ネットワークのエリアに位置する路線を走行する鉄道車両であることを特徴とする支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法。
【請求項3】
請求項1記載の支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法において、前記車両が前記地震計ネットワークのエリアに位置する高速道路を走行する自動車両であることを特徴とする支障地震計を補完する車両の速度規制基準値の自動変更方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−60051(P2013−60051A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198517(P2011−198517)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】