説明

改善されたアルミニウムシリコン合金から成る内燃機関のピストンの製造法

本発明は、内燃機関のピストンの製造法に関し、その際、ピストン素材をアルミニウムシリコン合金から銅成分の添加下で鋳造し、その後、仕上げ加工し、その際、本発明により、前記銅成分が、前記アルミニウムシリコン合金の最大5.5%であること、及び前記アルミニウムシリコン合金に、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)もしくはバナジウム(V)の成分を添加することが予定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、特許請求項1の上位概念の特徴部に従う、ピストン素材(Kolbenrohling)をアルミニウムシリコン合金から銅成分の添加下で鋳造し、その後、仕上げ加工する、内燃機関のピストンの製造法に関する。
【0002】
今日の内燃機関において動かされるピストンは、ますます上昇する噴射圧力と、それに付随してますます上昇する燃焼温度とに基づき、ますます高い負荷に曝されているため、これらのピストンの強度を改善するための措置が根本的にとられなければならない。
【0003】
ピストンの強度を改善するための可能な措置は、該ピストンを鍛造法において製造することである。たしかに鍛造法により所望の強度基準(Festigkeitsanforderungen)が満たされ得るが、その一方で、今日のピストン、殊に軽金属材料からのピストンの複雑な構造形態は、鍛造法においては実現され得ない。
【0004】
所望の複雑な配置構成が得られる、ピストンを製造するための別の可能性は、鋳造法であり、その際、軽金属材料からのピストンを製造するために、好ましくはアルミニウムシリコン合金が使用され、該合金は、溶融物(Giessschmelze)として鋳型に注入され、そこで硬化され、その際、その後、ピストン素材は該鋳型から取り出されることができ、そして仕上げ加工される。一般に、仕上げ加工は、機械加工、例えば旋削又はフライス削りによってピストン素材が寸法決定され、且つ別の機素(例えば環状溝、ピンホール、ピストンにおける冷却用ダクトのための供給口及び排出口)等が導入されることにある。その後、完成したピストンが提供され、且つ内燃機関に装着されることができる。
【0005】
軽金属材料からのピストンを製造するためのこれまで公知の鋳造法の場合、そのうえ費用の掛かる二重の熱処理(固溶化焼なまし(Loesungsgluehen))が必要とされ、その際、これにより、しかしながら、完成したピストンの所望の強度特性は生まれない。
【0006】
従って本発明は、アルミニウムシリコン合金からのピストン素材を鋳造する、ピストンの製造法を扱う。強度基準を高めるために、そのうえまた既に公知になっていることは、この合金に銅成分を添加することであるが、その際、完成したピストンの強度は、基本条件を考慮に入れて、内燃機関のシリンダ室内でのその運転の間なお満足のいくものではない。
【0007】
アルミニウム基合金からの電動の滑り対偶が、DE102005047037A1から公知である。
【0008】
それゆえ本発明の基礎をなしている課題は、内燃機関のピストンの改善された製造法を示すことであり、その際、この方法に従って製造されたピストンは、内燃機関のシリンダ内での運転中に明らかに改善された強度基準を有する。
【0009】
この課題は、特許請求項1の特徴部によって解決される。
【0010】
本発明により、銅成分がアルミニウムシリコン合金の最大5.5%であること、及びアルミニウムシリコン合金にチタン、ジルコニウム、クロムもしくはバナジウムの成分を添加し、且つ全構成成分の合計(可能な不純物を含む)が100%であることが予定される。かかるピストン合金の使用が有する利点とは、それにともなって内燃機関のシリンダ室内での完成ピストンの高い疲労強度が、高い温度で、すなわち全負荷下で、並びに中程度の温度で、すなわち内燃機関の部分負荷下で達成され得ることである。更なる一利点は、ピストン合金の構成成分が簡単に組み合わされ得ることであり、これはピストンの量産に決定的な利点を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来技術からの合金と本発明による合金とを比較した表を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発展形態では、アルミニウムケイ素合金にリンを添加することが予定される。これは、結晶粒微細化効果が改善され、並びにより良好な流動性が生じるという利点を有する。殊に、これらの特性は、リン割合が40〜80ppmである場合に、ピストン合金中の残りの成分との相互作用においてその最適な作用を示す。
【0013】
本発明の発展形態では、ピストン合金にベリリウムバナジウムを添加することが予定される。ベリリウムバナジウムのこの添加は、好ましくは、殊にピストン素材もしくは仕上げ加工されたピストンの表面上での酸化物形成を減らす。本発明の発展形態では、ピストン合金にチタンボロン(TitanBor)を添加することが予定される。チタンボロンのこの添加も、結晶粒微細化効果を改善し(すなわち、材料導入によって溶融物中の核の数が高められる)、且つそのうえまた、さもなければ材料の減衰につながる鋳造されたピストン素材の材料組織における羽状結晶形成(羽状結晶:自由に浮遊し、且つ凝固前面とは離れて凝固する細粒子)を減らす。
【0014】
本発明の発展形態では、仕上げ加工されたピストンをアルフィン処理し、その際、アルフィン処理のために材料にベリリウムバナジウムを添加することが予定される。アルフィン材料へのベリリウムバナジウムの添加により、ピストン表面上でのその接着性が改善され、且つそのうえまた好ましくはスラッジ層が減らされる。
【0015】
全体として、特許保護を請求されるピストン合金の使用下での本発明によるピストンの製造法は、公知の鋳造法により製造されたピストンと比べて、より高い疲労強度を提供し、該疲労強度は、室温及び350℃で測定して、これまで公知の疲労強度と比べて少なくとも15%上昇している。そこから、明らかな軽量化を伴いながら、内燃機関の運転におけるピストンのより高い耐荷力が生まれる。同様に、より高い材料硬度が達成され得、それによって好ましくは、鋳造されたピストン素材もしくは仕上げ加工されたピストンのこれまで常に実施されてきた熱処理(固溶化焼なまし)を省くことができる。
【0016】
添付の表には、従来技術からの種々の合金及びその組成(Mahle GmbH社のM124、M142、M145、M174並びにKS Kolbenschmidt社のKS1295)と、"Timbor"との名称を持つ本発明による合金、及びその組成が記載されている。表の縦の列における数値はパーセント値であり、且つ各々の材料の、その全量に対する百分率に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンの製造法であって、その際、ピストン素材をアルミニウムケイ素合金から銅成分の添加下で鋳造し、その後、仕上げ加工する方法において、前記銅成分が、前記アルミニウムケイ素合金の最大5.5%であること、及び前記アルミニウムケイ素合金にチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)もしくはバナジウム(V)の成分を加え、且つ全ての構成成分の合計が100%であることを特徴とする、内燃機関のピストンの製造法。
【請求項2】
前記アルミニウムケイ素合金にリン(P)を添加することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記リンの割合がピストン合金の40〜80ppmであることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記アルミニウムケイ素合金にベリリウムバナジウム(BeV)を添加することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記アルミニウムケイ素合金にチタンボロン(TiB)を添加することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
仕上げ加工された前記ピストンをアルフィン処理し、その際、アルフィン処理のために前記材料にベリリウムバナジウム(BeV)を添加することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法に従って製造された、内燃機関のピストン。
【請求項8】
前記ピストンが、環状領域及び場合によっては燃焼室キャビティ及び場合によっては冷却用ダクトを備えたピストン上部、並びにピストン軸部及びピンホールを備えた下部を有することを特徴とする、請求項7記載のピストン。
【請求項9】
前記ピストンが、その上部に冷却用ダクトを有し、その際、前記冷却用ダクトには、冷却媒体のための少なくとも1つの供給口と少なくとも1つの排出口とが備え付けられており、その際、少なくとも1つの前記供給口に冷却媒体、殊にエンジンオイルが噴射され、前記冷却用ダクト内で循環し、且つ前記排出口から流出し、且つ流出に際して熱が前記ピストン上部から排除されることを特徴とする、請求項7又は8記載のピストン。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2012−502176(P2012−502176A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525461(P2011−525461)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006393
【国際公開番号】WO2010/025919
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(504233247)カーエス コルベンシュミット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】KS Kolbenschmidt GmbH
【住所又は居所原語表記】Karl−Schmidt−Strasse, D−74172 Neckarsulm, Germany