説明

改善されたヒアルロン酸産生方法および手段

本発明は、ヒアルロン酸合成量が増大した植物細胞および植物、そのような植物を調製する方法、さらにこれらの植物細胞または植物を用いて、ヒアルロン酸を調製する方法に関する。ここで、本発明による植物細胞または遺伝子改変型植物は、ヒアルロン酸合成酵素活性を有し、さらに、野生植物細胞または野生植物と比較して、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性が増大し、かつUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(UDP−Glc−DH)活性が増大する。さらに、本発明は、ヒアルロン酸、ならびにヒアルロン酸を含む食物または食品を調製するためのヒアルロン酸合成が増大した植物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロン酸合成量が増大した植物細胞および植物、そのような植物を調製する方法、さらに、これらの植物細胞または植物を用いて、ヒアルロン酸を調製する方法に関する。ここで、本発明による植物細胞または遺伝子改変型植物は、ヒアルロン酸合成酵素活性を有し、さらに、野生植物細胞または野生植物と比較して、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性が増大し、かつUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(UDP−Glc−DH)活性が増大している。さらに、本発明は、ヒアルロン酸、ならびにヒアルロン酸を含む食物または食品を調製するためのヒアルロン酸合成が増大した植物の使用に関する。
【0002】
ヒアルロン酸は、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンが交互に連なる分子から構成される、天然非分枝直鎖ムコ多糖(グルコサミノグルカン)である。ヒアルロン酸の基本的構築ブロックは、ニ糖類であるグルクロン酸−β−1,3−N−アセチルグルコサミンから成る。ヒアルロン酸では、これらの繰り返し配列が、β−1,4連鎖を通じて互いに結合している。
【0003】
薬学では、ヒアルロン酸という用語が使用されることが多い。ほとんどの場合、ヒアルロン酸はポリアニオンとして存在し、遊離酸として存在しないので、以下、ヒアルロン酸という用語を好ましく使用するが、それぞれの用語は両分子体を包含すると理解されたい。
【0004】
ヒアルロン酸には、例えば、高分子電解質特性、粘弾特性、高保水能力、ゲル形成特性など、珍しい物理化学特性があり、これらの特性はヒアルロン酸の他の特性と共にLapcikら,による論評記事(1998, Chemical Reviews 98(8), 2663-2684)に記載されている。
【0005】
ヒアルロン酸は、細胞外結合組織成分であり、脊椎動物の体液である。ヒトでは、ヒアルロン酸は、全体細胞の細胞膜、特に間葉系細胞によって合成され、体内、特に、結合組織、細胞外マトリックス、臍帯、滑液、軟骨組織、皮膚および眼の硝子体中に高濃度に偏在している(Bernhard Gebauer, 1998, Inaugural-Dissertation, Virchow-Klinikum Medizinische Fakultat Charite der Humboldt Universit6t zu Berlin; Fraserら,1997, Journal of Internal Medicine 242, 27-33)。
【0006】
近年、ヒアルロン酸は、非脊椎動物生物体(軟体動物)にも見出された(VolpiおよびMaccari, 2003, Biochimie 85, 619-625)。
【0007】
さらに、数種の病原性グラム陽性菌(ストレプトコッカスA群およびC群)およびグラム陰性菌(パスツレラ:Pasteurelle)も、エキソポリサッカライドとしてヒアルロン酸を合成し、このヒアルロン酸は非免疫原性物質なので、ヒアルロン酸によってこれらの細菌は彼らの宿主の免疫系による攻撃からを保護される。
【0008】
クロレラ属の単細胞緑藻の中にはゾウリムシ類中で内部共生体として存在するものがあり、この単細胞緑藻はウイルスに感染されるとその感染ウイルスによってヒアルロン酸を合成する能力を供与される(Gravesら,1999, Virology 257, 15-23)。しかし、ヒアルロン酸を合成する能力は問題の藻類を特徴づける特徴ではない。ヒアルロン酸を合成する藻類の能力は、感染したウイルスのゲノムにヒアルロン酸合成酵素をコードする配列が含まれていることによって媒介される(DeAngelis, 1997, Science 278, 1800-1803)。さらに、そのウイルスゲノムには、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(UDP−Glc−DH)をコードする配列、およびグルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)をコードする配列が含まれている。UDP−Glc−DHは、ヒアルロン酸合成酵素が基質として使用するUDP−グルクロン酸の合成を触媒する。GFATは、フルクトース6−リン酸とグルタミンをグルコサミン−6−リン酸に転換するが、このグルコサミン−6−リン酸は、例えば、細菌におけるヒアルロン酸合成の代謝経路で重要な代謝産物である。活性タンパク質をコードするこれら藻類遺伝子はどちらも、ウイルスのヒアルロン酸合成酵素と同様に、ウイルス感染の初期相で同時に転写される(DeAngelis, 1997, Science 278, 1800-1803、Gravesら,1999, Virology 257, 15-23)。グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質の活性は、ウイルス非感染細胞抽出液にも、ウイルス感染細胞にも検出されなかった(Landsteinら,1998, Virology 250, 388-396)。従って、ウイルス感染クロレラ細胞中で、ヒアルロン酸を合成するためにUDP−Glc−DHとGFATが発現する役割、およびそれらがヒアルロン酸合成に必要であるかどうかは不明である。
【0009】
天然植物それ自体は、そのゲノム中に、ヒアルロン酸合成触媒タンパク質をコードする核酸は持たず、多数の植物炭水化物が記載され特徴づけられているにも関わらず、これまで非感染天然植物中にはヒアルロン酸またはヒアルロン酸に関連する分子を検出することは不可能であった(Gravesら,1999, Virology 257, 15-23)。
【0010】
ヒアルロン酸合成を効果的に触媒するのは、単独の膜統合酵素または膜関連酵素であるヒアルロン酸合成酵素である。これまで研究されてきたヒアルロン酸合成酵素は、クラスIヒアルロン酸合成酵素とクラスIIヒアルロン酸合成酵素という2つの群に分類することができる(DeAngelis, 1999, CMLS, Cellular and Molecular Life Sciences 56, 670-682)。
【0011】
脊椎動物のヒアルロン酸合成酵素は、アイソザイムを同定することによってさらに識別される。様々なアイソザイムは、同定された順にアラビア数字を使用して呼ばれる(例えば、hsHAS1、hsHAS2、hsHAS3)。
【0012】
合成ヒアルロン酸分子を細胞質膜を横切って細胞周囲の媒体に移送する機序は、まだ十分には解明されていない。初期の仮説では、細胞膜を越える輸送はヒアルロン酸合成酵素自体によってもたらされると想定された。しかし、より近年の結果では、細胞質膜を横切るヒアルロン酸分子の輸送は、この作用を担う輸送タンパク質によるエネルギー依存性の輸送によって行われることが示されている。したがって、ストレプトコッカス株は、活性輸送タンパク質の合成を阻害する変異によって作成された。これらの株が合成するヒアルロン酸は、対応する野生型細菌株よりも低かった(Ouskovaら,2004, Glycobiology 14(10), 931-938)。ヒト線維芽細胞では、公知の輸送タンパク質を特異的に阻害する薬剤を用いて、ヒアルロン酸産生量およびヒアルロン酸合成酵素活性の両方を低減できることが実証できた(PrehmおよびSchumacher, 2004, Biochemical Pharmacology 68, 1401-1410)。ヒアルロン酸を輸送できる輸送タンパク質が植物中に、仮に存在するとして、どのような量で存在するかは不明である。
【0013】
ヒアルロン酸には独特の特性があるので、例えば、薬学、美容業界などの様々な分野、食物および食餌の製造、技術的応用(例えば滑沢剤として)等において、適用の可能性は豊かである。現在、ヒアルロン酸が使用されている最も重要な適用例は、医療および美容分野にある(参照、例えば、Lapcikら,1998, Chemical Reviews 98(8), 2663-2684, GoaおよびBenfield, 1994, Drugs 47(3),536-566)。
【0014】
医療分野では、現在、ヒアルロン酸含有製品は、関節症の関節内治療に、および眼手術に使用される眼薬に使用されている。ヒアルロン酸はまた、競走馬の関節疾患の治療に使用される。さらに、ヒアルロン酸は数種の鼻科薬剤の成分であり、それら薬剤は例えば点眼および点鼻の形態で乾燥粘膜を湿潤するのに役立つ。ヒアルロン酸を含む注射液は、鎮痛薬および抗リウマチ薬として使用される。ヒアルロン酸、または誘導体化させたヒアルロン酸を含むパッチは創傷治癒に使用される。皮膚薬として、ヒアルロン酸含有ゲルインプラントは、形成外科で皮膚変形を修正するために使用されている。
【0015】
薬理学的適用に当たっては、高分子量ヒアルロン酸を使用するのが好ましい。
【0016】
美容医薬では、ヒアルロン酸調製物は、最も好適な皮膚充填物質の一つである。ヒアルロン酸を注射することによって、限られた期間内、小皺を伸ばし、または唇の容量を増やすことができる。
【0017】
化粧品では、ヒアルロン酸は、その高保水能力の点で保湿剤として、特にスキンクリームおよびローションに使用されることが多い。
【0018】
さらに、ヒアルロン酸含有調製物は、いわゆる栄養補助食品(食品サプリメント)として販売されており、これらは、動物(例えば、イヌ、ウマ)での関節症の予防および緩和にも使用することができる。
【0019】
市販を目的として使用されるヒアルロン酸は、現在、動物組織(雄鶏のトサカ)から単離され、または細菌培養物を使用し発酵により調製される。
【0020】
米国特許第4,141,973号は、雄鶏のトサカから、または別法として臍帯からヒアルロン酸を単離する方法について記載している。動物組織(例えば、雄鶏のトサカ、臍帯)は、ヒアルロン酸に加えて、さらに硫酸コンドロイチン、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、およびヘパリンなど、ヒアルロン酸に関する別のムコ多糖も含む。さらに、動物は、ヒアルロン酸に特異的に結合するタンパク質(ヒアルアドヘリン)であって、その生物体での最も多様な機能、例えば、肝臓でのヒアルロン酸の分解、細胞移動のリーディング構造としてのヒアルロン酸の機能、エンドサイトーシスの調節、細胞表面上へのヒアルロン酸の固定、またはヒアルロン酸網の形成などに必要なタンパク質を含む(Turley, 1991, Adv Drug Delivery Rev 7, 257 ff.; LaurentおよびFraser, 1992, FASEB J. 6, 183 ff.; StamenkovicおよびAruffo, 1993, Methods Enzymol. 245, 195 ff; KnudsonおよびKnudson, 1993, FASEB 7, 1233 ff.)。
【0021】
細菌によるヒアルロン酸産生に使用されるストレプトコッカス株は完全に病原性の細菌である。培養中にも、これらの細菌は、(発熱性)外毒素および溶血素(ストレプトリシン、特にα−およびβ−溶血素)を産生し培地中に放出する(Kilian, M.: Streptococcus and Enterococcus. In: Medical Microbiology. Greenwood, D.; Slack, RCA; Peutherer, J.F. (Eds.). 第16章. Churchill Livingstone, Edinburgh, UK: pp. 174-188, 2002, ISBN 0443070776)。これにより、ストレプトコッカス株を用いて調製されたヒアルロン酸の精製単離がより困難になる。特に、医薬的適用については、調製物中に外毒素および溶血素が存在することは問題である。
【0022】
米国特許第4,801,539号は、突然変異させた細菌株ストレプトコッカスズーエデミクス(Streptococcus zooedemicus)の発酵によるヒアルロン酸の調製について記載している。使用された変異誘発細菌株は、もはやβ−溶血素を合成しない。得られた収量は、培養物1L当たりヒアルロン酸3.6gであった。
【0023】
欧州特許第0694616号は、ストレプトコッカスズーエデミクスまたはストレプトコッカスエキ(Streptococcus equi)を培養する方法について記載しており、その際、使用する培養条件下では、ストレプトリシンは合成されず、ヒアルロン酸の合成量が増加する。得られた収量は、培養物1L当たりヒアルロン酸3.5gであった。
【0024】
培養中、ストレプトコッカス株は、培地中に酵素ヒアルロニダーゼを放出し、その結果、この産生系でも、精製中にその分子量が減少する。ヒアルロニダーゼ陰性ストレプトコッカス株の使用、または培養中にヒアルロニダーゼの産生を阻害するヒアルロン酸産生法の使用は、米国特許第4,782,046号に記載されている。得られた収量は、培養物1L当たりヒアルロン酸2.5gまでであり、得られた最大平均分子量は3.8×10Daであり、分子量分布は2.4×10〜4.0×10であった。
【0025】
米国特許第20030175902号および国際公開公報第03054163号は、枯草菌のストレプトコッカスエキシミリス(Streptococcus equisimilis)のヒアルロン酸合成酵素の異種発現を利用するヒアルロン酸の調製について記載している。十分な量のヒアルロン酸を産生するためには、ヒアルロン酸合成酵素の異種発現に加えて、バシラス細胞中でのUDP−グルコースデヒドロゲナーゼを同時発現させる必要がある。米国特許第20030175902号および国際公開公報第03054163号は、枯草菌を用いる産生で得られたヒアルロン酸の絶対量については述べていない。得られた最大平均分子量は約4.2×10であった。しかし、この平均分子量は組換えバシラス株についてのみ得られたが、その際、amyQプロモーターの制御下で枯草菌ゲノムに、ストレプトコッカスエキシミリスから得たヒアルロン酸合成酵素遺伝子をコードする遺伝子、および枯草菌から得たUDP−グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を組み込み、同時に枯草菌内在性(チトクロムP450オキシダーゼをコードする)cxpY遺伝子を不活化させた。
【0026】
国際公開公報第05012529号は、クロレラに感染するウイルスから得たヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子を使用する、形質転換した遺伝子導入タバコ植物の調製について記載している。国際公開公報第05012529号では、タバコ植物を形質転換するために、一方でクロレラウイルス株CVH11のヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸配列と、他方でクロレラウイルス株CVKA1のヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸配列を使用した。ヒアルロン酸の合成は、クロレラウイルス株CVKA1から単離したヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸配列により形質転換した植物でのみ実証することができた。クロレラウイルス株CVH11から単離したヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸配列により形質転換したタバコ植物では、対応する遺伝子導入植物でヒアルロン酸の合成を検出することはできなかった。国際公開公報第05012529号では、ヒアルロン酸を産生する遺伝子導入タバコ植物だけから合成したヒアルロン酸量は、測定した容量1mL当たりヒアルロン酸約4.2μgと記載されており、これは、問題の実験を実施するための説明を考慮すると、新鮮植物材料重量1g当たり産生されたヒアルロン酸は、多くてもおよそ12μgの量に相当する。
【0027】
ヒアルロン酸合成酵素は、出発物質であるUDP−N−アセチルグルコサミンとUDP−グルクロン酸のヒアルロン酸合成を触媒する。記載した両出発物質は植物細胞中に存在する。
【0028】
植物細胞では、UDP−グルクロン酸は、アスコルビン酸合成の複数の可能な経路の一経路における代謝産物として(Lorenceら,2004, Plant Physiol 134, 1200-1205)、そしてペクチンおよびヘミセルロースという細胞壁成分を合成するための中心的な代謝産物として役立つが、これらの細胞壁成分は植物細胞の小胞体で合成されるものである(Reiter, 1998, Plant Physiol Biochem 36(1), 167-176)。最も重要であり、最も頻繁に発生するペクチンモノマーは、D−ガラクツロン酸であり(2004, H. W. Heldt in "Plant Biochemistry", 第3版, Academic Press, ISBN 0120883910)、これはUDP−グルクロン酸を使用して合成される。さらに、とりわけ、UDP−グルクロン酸を使用し、ヘミセルロースおよびペクチンを合成するための代謝産物であるUDP−キシロース、UDP−アラビノース、UDP−ガラクトロン酸、およびUDP−アピオースを合成することも可能である(Seitzら,2000, Plant Journal, 21(6), 537-546)。植物細胞では、とりわけ、UDP−Glc−DHによってUDP−グルコースをUDP−グルクロン酸に変換する工程を含むヘキソース−リン酸代謝、あるいはグルクロン酸1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼによって、グルクロン酸1−リン酸をUDP−グルクロン酸に変換する工程を含む酸化的ミオイノシトール代謝によって、UDP−グルクロン酸を合成することができる。グルクロン酸を合成するための両代謝経路は、シロイヌナズナ植物の異なる組織/発生段階で、互いに独立して、そして交互に存在すると思われる(Seitzら,2000, Plant Journal 21(6), 537-546)。UDP−グルクロン酸の合成に向けて記載された2つの代謝経路(ヘキソースリン酸または酸化的ミオイノシトール代謝)のそれぞれの貢献についてはまだ解明されていない(Karkonen, 2005, Plant Biosystems 139(1), 46-49)。
【0029】
酵素UDP−Glc−DHは、UDP−グルコースのUDP−グルクロン酸への変換を触媒する。Samacら(2004, Applied Biochemistry and Biotechnology 113-116, Humana Press, Editor Ashok Mulehandani, 1167-1182)は、植物の茎中のペクチン含有量を増大させるために、アルファルファの師部細胞中で大豆から得たUDP−Glc−DHを過剰発現させることについて記載している。対応する野生植物と比較して、UDP−Glc−DH活性は、200%を超えて増大したが、対応する植物によって産生されるペクチン量は、その対応する野生植物によって産生されるペクチン量よりも少なかった。問題の遺伝子導入植物の細胞壁画分中のキシロースおよびラムノースモノマーの量は増大したが、他方でその細胞壁画分中のマンノースモノマーの量は低減した。
【0030】
アラビドシス(Arabidosis)植物でUDP−Glc−DHを構成的に過剰発現させると、その対応する野生植物と比較して問題の植物の異常な生長をもたらし、萎縮表現型がもたらされた。対応する植物の細胞壁画分では、その対応する野生植物と比較して、マンノースおよびガラクトースの量が増大し、キシロース、アラビノース、およびウロン酸の量が減少した(Roman, 2004, "Studies on The Role of UDP-Glc-DH in Polysaccharide Biosynthesis", 博士論文, Acta Universitatis Upsaliensis, ISBN 91-554-6088-7, ISSN 0282-7476)。すなわち、これらの結果は、対応する遺伝子導入植物の細胞壁画分で、マンノース量が減少しキシロース量が増大したことを検出したSamacらの結果と少なくとも部分的に矛盾している(2004, Applied Biochemistry and Biotechnology 113-116, Humana Press, Editor Ashok Mulehandani, 1167-1182)。
【0031】
植物細胞でのUDP−N−アセチルグルコサミンの合成について、国際公開公報第9835047号が、代謝産物N−アセチルグルコサミン、N−アセチルグルコサミン−6−リン酸、N−アセチルグルコサミン1−リン酸の形成を伴う、数段回の連続的酵素触媒反応工程によって、グルコサミンをUDP−N−アセチルグルコサミンに転換する代謝経路について記載している。代替の代謝経路は、フルクトース6−リン酸とグルタミンからグルコサミン−6−リン酸を得る反応を含み、グルコサミン−6−リン酸は、続いて数段回の連続的酵素触媒反応工程で、代謝産物であるグルコサミン1−リン酸およびN−アセチルグルコサミン1−リン酸を形成しながら、UDP−N−アセチルグルコサミンに転換される。フルクトース6−リン酸とグルタミンのグルコサミン−6−リン酸への変換は、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質が触媒する(Mayerら,1968, Plant Physiol. 43, 1097-1107)。
【0032】
国際公開公報第0011192号は、2−アミノ−無水グルコース分子を有する植物で、カチオン化澱粉を合成することを目的とし、遺伝子導入コーン植物において、GFAT酵素活性を有するタンパク質をコードするコーンの核酸分子を胚乳特異的に過剰発現させることについて記載している。記載された代謝経路は、国際公開公報第0011192号の記載によれば、結果的に2−アミノ−無水グルコースが澱粉中に組み込まれるので、この経路にはとりわけ澱粉合成酵素および/またはグリコーゲン合成酵素によるUDP−グルコサミンの澱粉中への取り込みが含まれる。遺伝子導入コーンでは色素体シグナルペプチドと翻訳的に融合しGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子が過剰に発現したので、問題の遺伝子導入コーンの植物胚乳から得た粉末中に検出されるUDP−グルコサミンの量が増大したと記載されている。シグナルペプチドなしでGFAT(酵素)活性を有するタンパク質が発現した場合には、コーン胚乳組織から得た対応する粉末中に検出されるグルコサミン1−リン酸の量は増大した。遺伝子導入植物では、カチオン化澱粉は検出できなかった。
【0033】
細菌株の発酵によるヒアルロン酸の生産は、高価な制御培養条件下で密封した滅菌容器中で細菌を発酵しなければならないので費用がかかる(参照、例えば、米国特許第4,897,349号)。さらに、細菌株の発酵によって産生できるヒアルロン酸量は、いずれの場合にもその場の産生施設によって制限される。ここで、物理的法則の結果として発酵槽は、極端に大きな培養容量では建造できないことも考慮しなければならない。ここでは、外側から中に供給する物質(例えば、細菌に必須の栄養分供給源、pH調節試薬、酸素)と、効率的産生に必要な培地との均質な混合ついて特に説明しているようであるが、これは、仮に可能であったとしても、大型の発酵槽で莫大な技術的費用をかけたときしか確実に行うことができない。
【0034】
動物体からのヒアルロン酸の精製は複雑である。動物組織中にヒアルロン酸に特異的に結合する他のムコ多糖およびタンパク質が存在するためである。患者に動物性タンパク質によって汚染されたヒアルロン酸含有医薬調製物を使用すると、特に、患者が動物性タンパク質に対してアレルギー性である場合(例えば、ニワトリの卵白)、望ましくない身体免疫反応が生じる恐れがある(米国特許第4,141,973号)。さらに、動物組織から得られる満足できる質および純度のヒアルロン酸量(収量)は低く(雄鶏のトサカ:0.079%w/w、欧州特許第0144019号、米国特許第4,782,046号)、従って多量の動物組織を処理する必要がある。動物組織からヒアルロン酸を単離する際の別の問題は、精製中、動物組織はヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)も含むので、ヒアルロン酸の分子量が減少することにある。
【0035】
記載したヒアルロニダーゼと外毒素に加えて、ストレプトコッカス株が、薬理学的産生物中に存在すると、患者の健康状態を危険にさらすエンドトキシンも産生される。科学研究では、市販されているヒアルロン酸含有医薬製品にすら、検出可能な量の細菌性エンドトキシンが含まれることが示された(Dickら,2003, Eur J Opthalmol. 13(2), 176-184)。ストレプトコッカス株を用いて産生されたヒアルロン酸の別の欠点は、単離したヒアルロン酸の分子量が、雄鶏のトサカから単離したヒアルロン酸の分子量より小さいことである(Lapcikら,1998, Chemical Reviews 98(8), 26632684)。米国特許第20030134393号は、特別に強化したヒアルロン酸カプセル(スーパーカプセル化)を合成するヒアルロン酸を産生するためのストレプトコッカス株の使用について記載している。発酵後に単離したヒアルロン酸の分子量は9.1×10Daであった。しかし、収量は1L当たりわずか350mgであった。
【0036】
細菌による発酵または動物組織からの単離によるヒアルロン酸産生の短所の幾つかは、遺伝子導入植物を使用してヒアルロン酸を産生することによって回避できるが、遺伝子導入植物を使用し産生できる現在実現しているヒアルロン酸量は、比較的多量のヒアルロン酸を産生するためには、培養下、比較的大きな面積が必要である。さらに、ヒアルロン酸含有量が少ない植物からヒアルロン酸を単離しまたは精製するためには、ヒアルロン酸含有量が高い植物から単離しまたは精製するよりも、相当に複雑であり費用がかかる。
【0037】
ヒアルロン酸は珍しい特性を有するが、それが希少であり高価であるために、仮にあったとしても、工業的適用に使用されることは滅多にない。
【0038】
従って、本発明の目的は、十分な量および質でヒアルロン酸を供給することができ、かつ工業的適用および食物や食餌の分野での適用にさえも、ヒアルロン酸を提供できるようにする手段および方法を提供することである。
【0039】
この目的は、特許請求の範囲に記載した実施態様によって実現される。
【0040】
すなわち、本発明は、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子がゲノム中に安定して組み込まれている遺伝子改変型植物細胞または遺伝子改変型植物であって、該植物細胞または該植物においてさらに、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質の活性ならびにUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(UDP−Glc−DH)活性を有するタンパク質の活性が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞または遺伝子非改変型野生植物に比較して増大している遺伝子改変型植物細胞または遺伝子改変型植物に関する。
【0041】
ここで、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物の遺伝子改変とは、遺伝子改変の結果として植物細胞または植物にヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子が安定に組み込まれ、かつ該遺伝子改変型植物細胞または遺伝子改変型植物においてGFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性ならびにUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞または遺伝子非改変型野生植物に比較して増大することである。
【0042】
本発明において、「野生植物細胞」という用語は、本発明による遺伝子改変型植物細胞を調製するための出発物質として役立つ植物細胞を意味すると理解され、すなわちそれら植物細胞の遺伝子情報は、本発明による遺伝子改変型植物細胞の遺伝子情報に対応させると、遺伝子改変が導入されその結果としてヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子が安定に組み込まれ、かつGFAT活性を有するタンパク質の活性およびUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性が増大する遺伝子改変点が異なる。
【0043】
本発明において、「野生植物」という用語は、本発明による遺伝子改変型植物を調製するための出発物質として役立つ植物を意味すると理解され、すなわちそれら植物の遺伝子情報は、本発明による遺伝子改変型植物の遺伝子情報に対応させると、遺伝子改変が導入されその結果としてヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子が安定に組み込まれ、かつGFAT活性を有するタンパク質の活性およびUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性が増大する遺伝子改変点が異なる。
【0044】
本発明において、「対応する」という用語は、複数の対象を比較する場合、互いに比較する問題の対象は同じ条件下に置かれたことを意味する。本発明の状況において、野生植物細胞または野生植物と関連して、「対応する」という用語は、互い比較する植物細胞または植物が同じ培養条件下で培養されたことを意味し、同じ(培養)齢を有することを意味する。
【0045】
本発明において、「ヒアルロン酸合成酵素」(EC2.4.1.212)という用語は、基質であるUDP−グルクロン酸(UDP−GlcA)とN−アセチルグルコサミン(UDP−GlcNAc)からヒアルロン酸を合成するタンパク質を意味すると理解されたい。ヒアルロン酸合成は、以下の反応スキームに従って触媒される。
nUDP−GlcA+nUDP−GlcNAc→β−1,4−[GlcA−β−1,3−GlcNAc]+2nUDP
【0046】
ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子および対応するタンパク質の配列は、とりわけ、以下の生物体について記載されている。ウサギ(アナウサギ(Oryctolagus cuniculus))ocHas2(EMBL AB055978.1、米国特許第20030235893号)、ocHas3(EMBL AB055979.1、米国特許第20030235893号);ヒヒ(アヌビスヒヒ(Papio anubis))paHas1(EMBL AY463695.1);カエル(アフリカツメガエル(Xenopus laevis))xlHas1(EMBL M22249.1、米国特許第20030235893号)、xlHas2(DG42)(EMBL AF168465.1)、xlHas3(EMBL AY302252.1);ヒト(Homo sapiens)hsHAS1(EMBL D84424.1、米国特許第20030235893号)、hsHAS2(EMBL U54804.1、米国特許第20030235893号)、hsHAS3(EMBL AF232772.1、米国特許第20030235893号);マウス(Mus musculus)、mmHas1(EMBL D82964.1、米国特許第20030235893号)、mmHAS2(EMBL U52524.2、米国特許第20030235893号)、mmHas3(EMBL U86408.2、米国特許第20030235893号);ウシ(ボスタウルス(Bos taurus))btHas2(EMBL AJ004951.1、米国特許第20030235893号);ニワトリ(Gallus gallus)ggHas2(EMBL AF106940.1、米国特許第20030235893号);ラット(ドブネズミ(Rattus norvegicus))rnHas1(EMBL AB097568.1、Itanoら,2004, J. Biol. Chem. 279(18) 18679-18678)、rnHas2(EMBL AF008201.1);rnHas3(NCBI NM_172319.1、Itanoら,2004, J. Biol. Chem. 279(18) 18679-18678)、ウマ(Equus caballus)ecHAS2(EMBL AY056582.1、GI:23428486)、ブタ(ミニブタ(Sus scrota))sscHAS2(NCBI NM_214053.1、G1:47522921)、sscHas3(EMBLAB159675)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)brHas1(EMBL AY437407)、brHas2(EMBL AF190742.1)brHas3(EMBL AF190743.1);パストツレラムルトシダ(Pasteurella multocida)pmHas(EMBL AF036004.2);化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)spHas(EMBL、L20853.1、L21187.1、米国特許第6,455,304号、米国特許第20030235893号);ストレプトコッカスエキ(Streptococcus equis)seHas(EMBL AF347022.1、AY173078.1)、ストレプトコッカス ウベリス(Streptococcus uberis)suHasA(EMBL AJ242946.2、米国特許第20030235893号)、ストレプトコッカスエキシミリス(Streptococcus equisimilis)seqHas(EMBL AF023876.1、米国特許第20030235893号);スルホロブスソルファタリクス(Sulfolobus solfataricus)ssHAS(米国特許第20030235893号)、スルホロブストコダイイ(Sulfolobus tokodaii)stHas(AP000988.1)、ミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)クロレラウイルス1、cvHAS(EMBL U42580.3、131342580、米国特許第20030235893号)。
【0047】
本発明において、「UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(UDP−Glc−DH)」(E.C.1.1.1.22)という用語は、UDP−グルコース(UDP−Glc)とNADからUDP−グルクロン酸(UDP−GlcA)とNADHを合成するタンパク質を意味すると理解されたい。この触媒作用は、以下の反応スキームに従って進行する。
UDP−Glc+2NAD→UDP−GlcA+2NADH
【0048】
本発明において、「グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)」(E.C.2.6.1.16)という用語は、専門書ではグルコサミン合成酵素とも言い、出発物質であるグルタミンとフルクトース6−リン酸(Fruc−6−13)からグルコサミン−6−リン酸(GlcN−6−P)を合成するタンパク質を意味すると理解されたい。この触媒作用は、以下の反応スキームに従って進行する。
グルタミン+Fruc−6−P→GlcN−6−P+グルタマート
【0049】
特に、動物体で、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質の異なる2種のイソ形が実証された(その文献では、それぞれ、GFAT−1およびGFAT−2と称した)。Huら,(2004), J. Biol. Chem. 279(29), 29988-29993は、マウス由来のそれぞれのタンパク質の差異について記載している。つまり、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ−1(GFAT−1)、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ−2(GFAT−2)の(酵素)活性を有する問題のタンパク質の組織特異的発現における差異に加えて、CAMP依存性タンパク質キナーゼによるリン酸化によって両イソ型を調節できることが示された。問題のアミド酸配列の、保存されたセリン残基(マウスGFAT−1のセリン205、GenBankアクセッション番号:AF334736.1)がリン酸化することによって、GFAT(酵素)活性−1を有するタンパク質の活性は阻害されるが、問題のアミノ酸配の、保存されたセリン残基(マウスGFAT−2のセリン202、GenBankアクセッション番号:NM_013529)がリン酸化することによって、GFAT−2活性を有するタンパク質の活性は増大する。GFAT−1活性を有するタンパク質とGFAT−2活性を有するタンパク質は両方とも、UDP−N−アセチルグルコサミンにより濃度依存方式で阻害されるが、UDP−N−アセチルグルコサミンによる阻害は、GFAT−2活性を有するタンパク質(UDP−N−アセチルグルコサミンによる最大の活性減少、約15%)の方が、GFAT−1活性を有するタンパク質(UDP−N−アセチルグルコサミンによる最大の活性減少、約51%または80%)に比べて小さい。動物体におけるGFAT−1活性を有するタンパク質の阻害は、高濃度UDP−N−アセチルグルコサミンでは、問題のタンパク質のO−グルコース−N−アセチルグルコサミンの糖鎖形成があるという事実に基づくという示唆がある。O−糖鎖形成によるタンパク質活性の調節が植物細胞で行われるどうかは、まだ十分に解明されていない(HuberおよびHardin, 2004, Current Opinion in Plant Biotechnology 7, 318-322)。
【0050】
本発明において、「グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ−1(GFAT−1)」という用語は、GFAT活性を有し、CAMP依存性タンパク質キナーゼによるリン酸化によって、その活性が阻害されるタンパク質を意味すると理解されたい。
【0051】
本発明において、「グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ−2(GFAT−2)」という用語は、GFAT活性を有し、CAMP依存性タンパク質キナーゼによるリン酸化によって活性化されるタンパク質を意味すると理解されたい。
【0052】
本発明において、「グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)」という用語は、GFAT活性を有する全てのタンパク質を含む包括的用語として使用される。従って、それらだけには限らないが、文献中で、「グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ−1(GFAT−1)」または「グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ−2(GFAT−2)」と称するタンパク質もさらに含まれる。
【0053】
本発明において、「GFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性の増大」という用語は、細胞中で、GFAT活性を有するタンパク質をコードする内在性遺伝子の発現が増大すること、および/またはGFAT活性を有するタンパク質をコードする転写産物の量が増大すること、および/またはGFAT活性を有するタンパク質の量が増大すること、ならびに/あるいは細胞中でGFAT活性を有するタンパク質の酵素活性が増大することを意味する。
【0054】
本発明において、「UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性の増大」という用語は、細胞中で、UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする内在性遺伝子の発現が増大すること、および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする転写産物の量が増大すること、および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の量が増大すること、ならびに/あるいは細胞中でUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の酵素活性が増大することを意味する。
【0055】
本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物は、いずれの場合にも上記条件の少なくとも一つに合致し、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質およびUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の、タンパク質酵素活性が増大することを意味する。
【0056】
発現の増大は、例えば、ノーザンブロット分析またはRT−PCRにより、例えば、GFAT活性を有するタンパク質をコードする転写産物の量、またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする転写産物の量を測定することによって定量できる。ここで、増大は、好ましくは転写産物の量が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞または遺伝子非改変型野生植物と比較して、少なくとも50%、特に少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも100%増大することを意味する。GFAT活性を有するタンパク質をコードする転写産物、またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする転写産物の量が増大するとは、GFAT活性を有するタンパク質をコードする転写産物および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする転写産物を検出可能な量で有しない植物または植物細胞が、本発明による遺伝子改変の後に、GFAT活性を有するタンパク質をコードする転写産物および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする転写産物を検出可能な量で有することをも意味する。
【0057】
GFAT活性を有するタンパク質またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の量が増大すると、結果として問題の植物細胞でこれらのタンパク質の活性が増大し、例えば、免疫学的方法、例えば、ウエスタンブロット分析、ELISA(酵素免疫測定法:Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay)またはRIA(ラジオイムノアッセイ)などによってそのタンパク質の量を定量することができる。特定のタンパク質と特異的に反応する抗体、すなわち、前記タンパク質と特異的に結合する抗体を調製する方法は当業者には公知である(例えば、LottspeichおよびZorbas (編), 1998, Bioanalytik [Bioanaysis], Spektrum akad. Verlag, Heidelberg, Berlin, ISBN 3-8274-0041-4参照)。いくつかの企業(例えばEurogentec社、ベルギー)が、オーダーでそのような抗体の調製サービスを提供している。ここで、好ましくは、タンパク質量の増大とは、GFAT活性を有するタンパク質および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の量が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞または遺伝子非改変型野生植物と比較して、少なくとも50%、特に少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも100%増大することを意味する。GFAT活性を有するタンパク質および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の量が増大するとは、また、検出可能な量のGFAT活性を有するタンパク質および/または検出可能なUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性を有しない植物または植物細胞が、本発明による遺伝子改変の後に、検出可能な量のGFAT活性を有するタンパク質および/または検出可能な量のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質を有することを意味する。
【0058】
植物抽出液中のGFAT活性を有するタンパク質の活性の増大は、例えば、Samacら,(2004, Applied Biochemistry and Biotechnology 113-116, Humana Press, Editor Ashok Mulehandani, 1167-1182, ISSN 0273-2289)に記載されている、当業者には公知の方法によって定量することができる。GFAT活性を有するタンパク質の活性量の好ましい定量法を一般的方法の第6項に示す。
【0059】
植物抽出液中のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性の増大は、例えば、国際公開公報第0011192号に記載されている、当業者には公知の方法を使用し記載することができる。UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性量の好ましい定量法を一般的方法の第7項に示す。
【0060】
対応する遺伝子非改変型野生植物細胞または遺伝子非改変型野生植物と比較して、GFAT活性を有するタンパク質またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の(酵素)活性量が増大するとは、好ましくは、そのようなタンパク質の活性が、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも100%増大することを意味する。GFAT活性を有するタンパク質および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の(酵素)活性の量が増大するとは、また、検出可能な量のGFAT活性を有するタンパク質、および/または検出可能なUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性を有しない植物または植物細胞が、本発明による遺伝子改変の後に、検出可能な量のGFAT活性を有するタンパク質、および/または検出可能な量のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質を有することを意味する。
【0061】
本発明において、「ゲノム」という用語は、植物細胞中に存在する遺伝物質全体を意味すると理解されたい。核に加えて、他の区画(例えば、色素体、ミトコンドリア)も遺伝物質を含むことは当業者には公知である。
【0062】
本発明において、「安定して組み込まれている核酸分子」という用語は、植物ゲノムへの核酸分子の組込みを意味すると理解されたい。安定して組み込まれている核酸分子は、対応する組込み部位を複製中、その組込み部位と境界を接する宿主の核酸配列と共に増幅されることを特徴とし、その結果、複製されたDNA鎖の組込み部位は、複製マトリックスとして役立つ読み取り鎖上の核酸配列と同じ核酸配列によって囲まれている。
【0063】
植物宿主細胞に核酸分子を安定して組み込む技術は多数入手できる。これらの技術には、形質転換手段としてアグロバクテリウムツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウムリゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を使用し、T−DNAによる植物細胞形質転換法、プロトプラスト融合、インジェクション法、DNA電気穿孔法、微粒子銃法によるDNA導入、およびさらにそれ以上の選択肢が含まれる("Transgenic Plants", Leandro編,Humana Press 2004, ISBN 1-59259-827-7の概説)。
【0064】
アグロバクテリウム介在植物細胞形質転換法の使用は詳細に研究され、欧州特許第120516号;Hoekema, IN: The Binary Plant Vector System Offsetdrukkerij Kanters B.V. Alblasserdam (1985),第5章; Fraleyら,Crit. Rev. Plant Sci. 4, 1-46 and in Anら,EMBO J. 4, (1985), 277-287に網羅的に記載されている。ジャガイモの形質転換については、例えば、Rocha-Sosaら,EMBO J. 8, (1989), 29-33、トマト植物の形質転換については、例えば、米国特許第5,565,347号を参照されたい。
【0065】
アグロバクテリウム形質転換に基づく、ベクターを使用する単子葉植物の形質転換についても記載されている。(Chanら,Plant Mol. Biol. 22, (1993), 491-506; Hieiら,Plant J. 6, (1994) 271-282; Dengら,Science in China 33, (1990), 28-34; Wilminkら,Plant Cell Reports 11, (1992), 76-80; Mayら,Bio/Technology 13, (1995), 486-492; ConnerおよびDomisse, Int. J. Plant Sci. 153 (1992), 550-555; Ritchieら,Transgenic Res. 2, (1993), 252-265)。単子葉植物を形質転換する代替系には、微粒子銃手法を使用する形質転換(WanおよびLemaux, Plant Physiol. 104, (1994), 37-48; Vasilら,Bio/Technology 11 (1993), 1553-1558; Ritalaら,Plant Mol. Biol. 24, (1994), 317-325; Spencerら,Theor. Appl. Genet. 79, (1990), 625-631)、プロトプラスト形質転換、部分的に透過処理した細胞の電気穿孔法、ガラス繊維を使用するDNAの導入がある。特に、コーンの形質転換については、文献に数度記載されている(参照、例えば、国際公開公報第95/06128号、欧州特許第0513849号、欧州特許第0465875号、欧州特許第0292435号;Frommら,Biotechnology 8, (1990), 833-844; Gordon-Kammら,Plant Cell 2, (1990), 603-618; Kozielら,Biotechnology 11 (1993), 194-200; Morocら,Theor. Appl. Genet. 80, (1990), 721-726)。他の草類、例えば、アメリカクサキビ(Panicum virgatum)などの形質転換についても記載されている(Richardsら,2001, Plant Cell Reporters 20, 48-54)。
【0066】
他の穀物種の好首尾な形質転換についても、例えば、オオムギ(WanおよびLemaux上記参照;Ritalaら上記参照;Krensら,Nature 296, (1982), 72-74)およびコムギ(Nehraら,Plant J. 5, (1994), 285297; Beckerら,1994, Plant Journal 5, 299-307)が記載されている。上記方法の全てが本発明において適切である。
【0067】
従来技術と比較して、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物は、ヒアルロン酸合成酵素活性のみを有する植物よりも多量のヒアルロン酸を産生するという利点がある。ヒアルロン酸含有量が高い植物からヒアルロン酸の単離することによって、複雑さが減り、費用効率も高くなるので、これにより、ほとんど費用をかけずにヒアルロン酸を産生できるようになる。さらに、従来技術に記載されている植物と比較して、本発明による遺伝子改変型植物を使用すると、ヒアルロン酸を産生するのに必要な培養領域は小さくてよい。これにより、ヒアルロン酸が不足し高価であるために、現在使用されていない工業への適用にすら、十分な量でヒアルロン酸を提供できるようになる。ウイルス感染させたクロレラ属植物体は、比較的多量のヒアルロン酸の産生には適切ではない。ヒアルロン酸の産生では、ウイルス感染藻類は、ヒアルロン酸合成酵素に必要な遺伝子が、そのゲノムに安定して組み込まれないという欠点があり(Van EttenおよびMeints, 1999, Annu. Rev. Microbiol. 53, 447-494)、その結果、ヒアルロン酸を産生するためは、ウイルス感染を繰り返さなければならない。従って、所望の質および量のヒアルロン酸を継続的に合成する、個々のクロレラ細胞を単離することができない。さらに、ウイルス感染クロレラ藻類では、ヒアルロン酸は、限られた時間しか産生されず、ウイルスによる溶解の結果として、藻類は感染からわずか約8時間後に死に至る(Van Ettenら,2002, Arch Virol 147, 1479-1516)。それに反して、本発明が提供するものは、本発明による遺伝子改変型植物細胞および本発明による遺伝子改変型植物が、無制限に生長増殖しまたは性的(sexually)に増殖することができ、かつ継続的にヒアルロン酸を産生するという利点である。
【0068】
国際公開公報第05012529号に記載されている、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子を有する遺伝子導入植物は、合成するヒアルロン酸が比較的少量である。それに反して、本発明が提供するものは、本発明による遺伝子改変型植物細胞および本発明による遺伝子改変型植物が、相当に多量のヒアルロン酸を合成するという利点である。
【0069】
従って、本発明は、ヒアルロン酸を合成する、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物も提供する。本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物は、植物材料の新鮮重(FW)1gに当たり、ヒアルロン酸を好ましくは少なくとも100μg、好ましくは少なくとも600μg、特に好ましくは少なくとも1000μg、特に好ましくは少なくとも1500μgを合成する。
【0070】
好ましくは、本発明による植物細胞または本発明による植物は、新鮮重1g当たりヒアルロン酸を多くても25000μg、好ましくは新鮮重1g当たりヒアルロン酸を多くても20000μg、特に好ましくは新鮮重1g当たりヒアルロン酸を多くても15000μg、特に好ましくは新鮮重1g当たりヒアルロン酸を多くても10000μg、主として好ましくは新鮮重1g当たりヒアルロン酸多くても6500μg合成する。
【0071】
新鮮重に関して、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物のヒアルロン酸含有量の定量には、一般的方法の第2項に記載する植物材料の検査法、および一般的方法の第4項に記載するヒアルロン酸量の定量法を使用するのが好ましい。
【0072】
本発明は、植物材料の乾物重(DW)1g当たり、ヒアルロン酸を少なくとも1000μg、好ましくは少なくとも2000μg、特に好ましくは少なくとも4000μg、特に好ましくは少なくとも5000μgを合成する、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物も提供する。乾物重に関して、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物のヒアルロン酸含有量を定量するには、実施例13k)に記載した植物材料検査法、および一般的方法の第4項に記載するヒアルロン酸量の定量法を使用するのが好ましい。
【0073】
ヒアルロン酸は、生長期間を通じて植物組織に蓄積することが観察されている。従って新鮮重または乾物重に関しては、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物中のヒアルロン酸量は、問題の植物細胞または問題の植物を収穫中、または収穫する数日(1、2日)前に定量するのが特に好ましい。ここで、さらに加工用に使用されるヒアルロン酸の量に関しては、特に、植物材料(例えば、塊茎、種子、葉)が使用される。
【0074】
ヒアルロン酸を合成する、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物は、それらが合成し、その構造が明らかになっているヒアルロン酸を単離することによって同定できる。
【0075】
植物組織は、ヒアルロニダーゼを含まないという利点があるので、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物中のヒアルロン酸の存在を確認するには、単純かつ迅速な単離方法を使用することができる。この目的のためには、検査する植物組織に水を加え、次いで植物組織を機械的に(例えば、ビーズミル、ビーターミル、ワーリングブレンダー、ジュース抽出器などを用いて)細分する。必要な場合は、続いて懸濁液にさらに水を加え、次いで細胞片および非水溶性成分を遠心分離しまたは漉して除去する。次いで、遠心分離後に得られた上清中のヒアルロン酸の存在を、例えば、ヒアルロン酸に特異的に結合するタンパク質を使用し実証することができる。ヒアルロン酸に特異的に結合するタンパク質を用いるヒアルロン酸の検出方法は、例えば、米国特許第5,019,498号に記載されている。米国特許第5,019,498号に記載されている方法を実施するための試験キットは市販されている(例えば、米国コロラド州Corgenix社製ヒアルロン酸(HA)試験キット、製品番号029−001;一般的方法の第4項も参照のこと)。並行して、得られた遠心分離上清のアリコートを最初にヒアルロニダーゼで消化し、次いで上記のようにヒアルロン酸に特異的に結合するタンパク質を用いて、ヒアルロン酸の存在を確認することもできる。並列バッチ中のヒアルロニダーゼの作用によって、その中に存在するヒアルロン酸は分解されるが、そのために完全消化後には顕著な量のヒアルロン酸を検出することはもはや不可能である。
【0076】
さらに、遠心分離上清中のヒアルロン酸の存在は、他の分析方法、例えば、IR、NMR、または質量分光法などを使用し確認することもできる。
【0077】
既に上述したように、UDP−グルクロン酸を合成するために、植物細胞に主として利用されるのはどちらの代謝経路(ヘキソースリン酸代謝経路または酸化ミオイノシトール代謝経路)であるか、そして植物組織および/または植物発生期に応じて、両代謝経路によってUDP−グルクロン酸の合成に量的な違いが出るかどうかは解明されていない。さらに、遺伝子導入植物中のUDP−Glc−DHの過剰発現からは、一貫した結果が得られず、そのような手法を採用して細胞壁のペクチン含有量を増大させるという目的を実現するのは不可能であった。加えて、UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性の調節はUDP−キシロースによって阻害される。これは、原核生物(Campbellら,1997, J. Biol. Chem. 272(6), 3416-3422; Schillerら,1973, Biochim. Biophys Acta 293(1), 1-10)、動物体(Balduiniら,1970, Biochem. J. 120(4), 719-724)、および植物(Hinterberg, 2002, Plant Physiol. Biochem. 40, 1011-1017)を起源とする関連タンパク質でどちらも実証された。さらに、UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質が触媒する反応から生じた反応生成物である、グルクロン酸およびNADHは、GFAT活性を有するタンパク質の活性を調節する阻害薬である(Campbellら,1997, J. Biol. Chem. 272(6), 3416-3422, OrdmanおよびKirkwood, 1977, Biochim Biophys Acta 482(1) 25-32;TurnerおよびBotha, 2002, Archives of Biochem. Biophys.407, 209-216)。
【0078】
色素体シグナルペプチドと翻訳的に融合した、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコーン中で過剰発現させるとUDP−グルコサミン含有量が増大し、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質のサイトゾルをコーン中で過剰発現させると、磨砕した胚乳組織中のグルコサミン1−リン酸含有量が増大した。しかし、UDP−グルコサミンおよびグルコサミン1−リン酸は、ヒアルロン酸合成酵素によるヒアルロン酸合成の出発物質ではない。さらに、グルコサミンは、植物細胞に対して細胞毒性作用を有すること(Robertsら,1971, Plant Physiol. 48, 36-42)、および植物細胞中に比較的高濃度に存在する場合、それはグルコサミン−6−リン酸に転換されることが知られている。グルコサミン−6−リン酸も同様に植物細胞に対して有害である(国際公開公報第9835047号、米国特許第6,444,878号)。さらに、UDP−N−アセチルグルコサミンを合成する、それ以上の代謝経路で形成される代謝産物によって、GFAT活性を有するタンパク質を阻害する方式で調節できることが知られている。真核生物(動物体および植物体)から単離したGFAT活性を有するタンパク質は、例えば、ヒアルロン酸合成酵素の2種の基質の一種であるUDP−N−アセチルグルコサミンによって阻害される(Kornfeld, 1967, J. Biol. Chem. 242(13), 3135-3141; Graackら,2001, Biochem. J. 360, 401-412; Mayerら,1968, Plant Physiol. 43, 1097-1107)。GFAT活性を有する細菌性タンパク質は、GFATが触媒する反応の直接反応生成物であるグルコサミン−6−リン酸によって阻害される(Deng et al., 2005, Metabolic Engineering 7, 201-214)。
【0079】
文献には、植物細胞で合成されたヒアルロン酸量を制限しうるいかなる指摘もない。
【0080】
従って、驚くべきことに、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子を有し、さらにヒアルロン酸合成酵素活性(のみ)を有する遺伝子改変型植物細胞または遺伝子改変型植物と比較して、GFAT活性が増大しUDP−Glc−DH活性も増大した、遺伝子改変型植物細胞または遺伝子改変型植物は、顕著に多量のヒアルロン酸を産生することが判明している。
【0081】
好ましい実施態様では、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に関し、その場合、ヒアルロン酸合成酵素活性(のみ)を有する、遺伝子改変型植物細胞または遺伝子改変型植物と比較して、あるいはヒアルロン酸合成酵素活性を有するが、GFAT活性を有するタンパク質の活性が増大しておらず、かつUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性も増大していない、遺伝子改変型植物細胞と比較して、または遺伝子改変型植物と比較して、これらはヒアルロン酸量を増大させる。
【0082】
好ましくは、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物の植物材料の新鮮重に対するヒアルロン酸産生量は、ヒアルロン酸合成酵素活性(のみ)を有する、対応する遺伝子改変型植物細胞、または対応する遺伝子改変型植物と比較して、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも7.5倍、特に好ましくは少なくとも10倍である。本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物の植物材料の新鮮重に関して、ヒアルロン酸含有量の増大を定量するためには、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物と、ヒアルロン酸合成酵素活性(のみ)を有する対応する植物細胞または植物とを比較することが好ましく、その際、植物細胞または植物の同等材料(例えば、葉、塊茎)を比較すべきであり、この材料を回収した植物細胞または植物は同じ条件下で培養すべきであり、匹敵する時齢(発生段階)の植物材料のヒアルロン酸含有量を比較すべきである。例えば、植物の幼葉と、別の一種または複数の植物の古葉とを比較してはならない。
【0083】
本発明において、「ヒアルロン酸合成酵素活性(のみ)を有する植物細胞または植物」という用語は、遺伝子改変型植物細胞または遺伝子改変型植物を意味すると理解されるが、ただしその遺伝子改変は、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞または遺伝子非改変型野生植物と比較すると、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子を含むことに存する。
【0084】
特に、「ヒアルロン酸合成酵素活性(のみ)を有する植物細胞または植物」は、ヒアルロン酸を合成すること、および遺伝子非改変型野生植物細胞または遺伝子非改変型野生植物中に、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子を導入する以外、追加の遺伝子改変を含まないことを特徴とする。そのような植物のGFAT活性を有するタンパク質の活性は増大せず、かつUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性も増大しないことが好ましい。
【0085】
植物細胞または植物が産生するヒアルロン酸の量は、例えば、市販の試験キット(例えば、米国コロラド州Corgenix社製ヒアルロン酸(HA)試験キット、製品番号029−001)を使用し、既に上記した方法を用いて定量することができる。本発明において、植物細胞または植物中のヒアルロン酸含有量を定量するのに好ましい方法は、一般的方法の4に記載する。
【0086】
本発明の別の実施態様では、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物は、それぞれ、ヒアルロン酸を合成する、緑色陸生植物の植物細胞または緑色陸生植物である。
【0087】
本発明において、「緑色陸生植物(Embryophyta)」という用語は、Strasburger,『Lehrbuch der Botanik』(植物学教本), 第34版, Spektrum Akad. Ved., 1999, (ISBN 3-82740779-6)に定義されている通りであると理解されたい。
【0088】
本発明の好ましい実施態様は、本発明による多細胞植物の遺伝子改変型植物細胞、または本発明による多細胞生物の遺伝子改変型植物に関する。従って、本実施態様は、単細胞植物(原生生物)を起源とするものでも、または原生生物でもない、植物細胞または植物に関する。
【0089】
本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物は、原理的には、それぞれ、任意の植物種、すなわち単子葉植物および双子葉植物の植物細胞および植物であってよい。それらは、作物植物、すなわち、人および動物に食料として与えることを目的として人が培養する植物、またはバイオマスを生成するための植物、および/または技術的工業的用途の物質を調製するための植物(例えば、コーン、イネ、コムギ、アルファルファ、ライムギ、カラスムギ、オオムギ、マニオク、ジャガイモ、トマト、アメリカクサキビ(Panicum virgatum)、サゴヤシ(sago)、リョクトウ、エンドウマメ、モロコシ、ニンジン、ナス、ラディッシュ、アブラナ、大豆、ピーナッツ、キュウリ、カボチャ、メロン、ニラ、ニンニク、キャベツ、ホウレンソウ、サツマイモ、アスパラガス属、ズッキーニ、レタス、アーティチョーク、スイートコーン、パースニップ、フタナミソウ、キクイモ、バナナ、サトウダイコン、サトウキビ、ビートの根、ブロッコリー、キャベツ、タマネギ、黄色ビート、タンポポ、イチゴ、リンゴ、アンズ、プラム、モモ、ブドウの木、カリフラワー、セロリ、ピーマン、スウェーデンカブ、大黄)であることが好ましい。特に好ましい植物は、トマトまたはジャガイモ植物である。
【0090】
好ましい実施態様では、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に関し、その際、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、ウイルスのヒアルロン酸合成酵素をコードすることを特徴とする。ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、藻類に感染するウイルスのヒアルロン酸合成酵素をコードするのが好ましい。
【0091】
藻類に感染するウイルスに関して、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、好ましくはクロレラに感染するウイルスのヒアルロン酸合成酵素をコードし、特に好ましくはミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のヒアルロン酸合成酵素、特に好ましくはH1株のミドリゾウリムシのクロレラウイルスのヒアルロン酸合成酵素をコードする。
【0092】
さらに好ましい実施態様では、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に関し、その際、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、ヒアルロン酸合成酵素の起源である生物のヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子のコドンと比較して、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子のコドンが改変されていることを特徴とする。特に好ましくは、ゲノムにそれらのコドンが組み込まれているか、または組み込まれる植物細胞または植物のコドンの使用頻度にコドンが適合するように、ヒアルロン酸合成酵素のコドンが改変されている。
【0093】
遺伝暗号は縮重するので、アミノ酸は、一個または複数のコドンによってコードされていてよい。生物ごとにアミノ酸をコードするコドンの使用頻度は異なる。発現させるコーディング核酸配列をそのゲノムに組み込もうとする植物細胞または植物において、コーディング核酸配列のコドンをそのコドンの使用頻度に適合させることは、翻訳されるタンパク質の量の増大、および/または特定の植物細胞または植物中での問題のmRNAの安定性に寄与するであろう。問題の植物細胞または植物でのコドンの使用頻度は、当業者ならば、可能な限り多くの問題の生物のコーディング核酸配列を検査して、ある種のコドンがある種のアミノ酸をコードするのに使用される頻度を求めることによって決定できる。ある種の生物のコドンの使用頻度は、当業者には公知であり、コンピュータープログラムを使用し簡単かつ迅速に決定することができる。適切なコンピュータープログラムは、公的に利用可能であり、特にインターネット上に無料で提供されている(例えば、http://gcua.schoedi.de/; http://www.kazusa.or.jp/codon/; http://www.entelechon.com/eng/cutanalysis.html)。発現させるコーディング核酸配列をそのゲノムに組み込もうとする植物細胞または植物において、コーディング核酸配列のコドンをそのコドンの使用頻度に適合させることは、インビトロ変異誘発によって、または好ましくは遺伝子配列を新規に合成することによって行うことができる。核酸配列を新規に合成する方法は、当業者に公知である。新規合成は、例えば、個々の核酸オリゴヌクレオチドをまず合成し、これらと、それに相補的オリゴヌクレオチドとをハイブリダイズし、その結果DNA二本鎖が形成され、次いで所望の核酸配列が得られるように、個々の二本鎖オリゴヌクレオチドを連結することによって実施できる。コドンが使用される頻度をある種の標的生物に適合させる工程を含む核酸配列の新規合成は、このサービスを提供する企業(例えば、ドイツRegensburg在Entelechon GmbH社)から得ることもできる。
【0094】
ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、そのアミノ酸配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一であるヒアルロン酸合成酵素をコードすることを特徴とするのが好ましい。特に好ましい実施態様では、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するヒアルロン酸合成酵素をコードすることを特徴とする。
【0095】
別の実施態様では、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3で示される核酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一である。特に好ましい実施態様では、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、配列番号3で示される核酸配列を有することを特徴とする。
【0096】
ミドリゾウリムシのクロレラウイルスのヒアルロン酸合成酵素をコードする、合成核酸分子を含むプラスミドIC341−222は、ブタペスト条約に従って、ドイツBrunswick, Mascheroder Weg 1b,38124在、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen GmbHに第DSM16664号として2004年8月25日に寄託された。配列番号2に示すアミノ酸配列は、プラスミドIC341−222に組み込まれた核酸配列のコード領域から派生させることができ、かつミドリゾウリムシのクロレラウイルスのヒアルロン酸合成酵素をコードする。
【0097】
従って、本発明はまた、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物にも関し、その際、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、そのアミノ酸配列が、プラスミドDSM16664に挿入した核酸配列のコード領域から派生させることができるタンパク質をコードし、またはそのアミノ酸配列が、プラスミドDSM16664に挿入した核酸配列のコード領域から派生させることができるアミノ酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一であるタンパク質をコードすることを特徴とする。
【0098】
本発明はまた、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物にも関し、その際、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、プラスミドDSM16664に組み込まれたヒアルロン酸−合成酵素−核酸コード配列であり、またはプラスミドDSM16664に組み込まれた核酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一であることを特徴とする。
【0099】
さらに、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に関し、それらのゲノムに一個の外来核酸分子が安定して組み込まれ、または複数の外来核酸分子が安定して組み込まれていることを特徴としており、その一個の前記外来核酸分子または複数の前記外来核酸分子によって、GFAT活性を有するタンパク質の活性ならびにUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞または対応する遺伝子非改変型野生植物に比較して増大する。
【0100】
一個の外来核酸分子が本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物のゲノム中に組み込まれることによって、GFAT活性を有するタンパク質の活性がおよび同時にUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性が、対応する野生植物細胞または対応する野生植物と比較して増大するとしてよい。しかし、複数の外来核酸分子の中の一個の外来核酸分子によってUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性が、および他の一個の外来核酸分子によってUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性が対応する野生植物細胞またはその対応する野生植物と比較して増大するとしてもよい。複数の外来核酸分子が本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物のゲノム中に組み込まれる場合、両外来核酸分子は、一緒に植物細胞または植物のゲノムの一部位に存在してよく,あるいはそれらは、植物細胞または植物のゲノムの異なる部位(例えば、異なる染色体または異なる染色体区域)に局在していてよい。従って、複数の外来核酸分子は、メンデルの法則に従って連結座位または結合した座位として受け継がれても、またはメンデルの法則に従って独立して別々の座位として受け継がれてもよい。
【0101】
本発明において、「外来核酸分子」という用語は、その対応する野生植物細胞中で自然に生起しない分子、または野生植物細胞の実際の空間的配列中で自然に生起しない分子、または野生植物細胞のゲノム中のある部位に局在しているが、その局在は自然には生起しない分子を意味すると理解されたい。外来核酸分子は様々な要素を含む組換え分子であって、ただしそれら要素の組合せまたは特定の空間的配列は植物細胞中で自然には生起しないのが好ましい。
【0102】
本発明において、「組換え核酸分子」という用語は、様々な核酸分子を含有し、それら核酸分子の組合せは組換え核酸分子中では存在するが自然には存在しない核酸分子を意味すると理解されたい。すなわち、組換え核酸分子は、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子、および/または、GFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子に加えて、さらに記載した核酸分子とは通常組み合わさって存在しない核酸配列を有しうる。ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子、またはGFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子と組み合せて組換え核酸分子上に存在する、記載の追加の核酸配列は任意の配列であってよい。例えば、それらの配列は、ゲノム植物核酸配列であってよい。記載した追加の核酸配列は、調節配列(プロモーター、停止シグナル、エンハンサー)であることが好ましく、植物組織で活性である調節配列が特に好ましく、植物組織で活性である組織特異的調節配列が特に好ましい。組換え核酸分子を生起させる方法は、当業者には公知であり、例えば、連結による核酸分子の結合、遺伝子組換え、または核酸分子の新規合成などの遺伝子工学的方法を含む(参照、例えば、Sambrokら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第3版 (2001) Cold Spring Harbour Laboratory Press, Cold Spring Harbour, NY. ISBN: 0879695773, Ausubelら,Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons;第5版(2002), ISBN: 0471250929)。
【0103】
遺伝子改変型植物細胞および遺伝子改変型植物であって、それらのゲノムに安定して組み込まれた一個の外来核酸分子または複数の外来核酸分子によってヒアルロン酸合成酵素がコードされ、GFAT活性を有するタンパク質の活性およびUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性が対応する遺伝子非改変型野生植物細胞または遺伝子非改変型野生植物と比較して増大している遺伝子改変型植物細胞および遺伝子改変型植物を、それぞれ前記野生植物細胞および前記野生植物から識別するためには、とりわけ、それら遺伝子改変型植物細胞および遺伝子改変型植物がそれぞれ野生植物細胞および野生植物中では自然に生起しない一個の外来核酸分子を含んでいるという事実、あるいはそのような外来核酸分子が本発明による遺伝子改変型植物細胞のゲノム中のまたは本発明による遺伝子改変型植物のゲノム中のある部位に組み込まれているがそれは野生植物細胞および野生植物中では、すなわち異なるゲノム環境では生起しないという事実によれば可能である。さらに、そのような本発明による遺伝子改変型植物細胞および本発明による遺伝子改変型植物を、それぞれ遺伝子非改変型野生植物細胞および遺伝子非改変型野生植物から識別するためには、それら遺伝子改変型植物細胞および遺伝子改変型植物が、野生植物細胞または野生植物中に自然に存在する分子の複製以外に外来核酸分子の少なくとも一個の複製をゲノム中に安定して組み込んでいるということにおいて可能である。本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に導入されている外来核酸分子が、野生植物細胞または野生植物中に既に自然に存在している分子以外の追加複製である場合、それら遺伝子改変型植物細胞および遺伝子改変型植物を、それぞれ野生植物細胞および野生植物から識別するためには、特に、遺伝子改変型植物細胞および遺伝子改変型植物のゲノム中の諸部位に局在しているその追加複製/それら追加複製は野生植物細胞および野生植物には存在しないという事実によれば可能である。
【0104】
植物細胞または植物のゲノム中へ核酸分子の安定した組込みは、遺伝子的方法および/または分子生物学の方法によって実証することができる。植物細胞ゲノムまたは植物ゲノム中への核酸分子の安定した組込みは、前記核酸分子を受け継いだ子孫では、親世代と同じゲノム環境で安定して組み込まれる核酸分子が存在することを特徴とする。植物細胞ゲノムまたは植物ゲノム中の核酸配列の安定している組込みの存在は、当業者には公知の方法、とりわけRFLP分析(制限酵素切断フラグメント長多型解析:Restdction Fragment Length Polymorphism)(Namら,1989, The Plant Cell 1, 699-705; LeisterおよびDean, 1993, The Plant Journal 4 (4), 745-750)のサザンブロット分析を援用して、PCRに基づく方法、例えば、増幅したフラグメントの長さの差の分析(増幅断片長多型(Fragment Length Polymorphism)AFLP)(Castiglioniら,1998, Genetics 149, 2039-2056; Meksemら,2001, Molecular Genetics and Genornics 265, 207-214; Meyerら,1998, Molecular and General Genetics 259, 150-160)、または制限エンドヌクレアーゼを用いて切断した増幅フラグメントの使用(増幅切断多型配列(Cleaved Amplified Polymorphic Sequences)、CAPS)(KoniecznyおよびAusubel, 1993, The Plant Journal 4, 403-410; Jarvisら,1994, Plant Molecular Biology 24, 685-687; Bachernら,1996, The Plant Journal 9 (5), 745-753)によって実証することができる。
【0105】
原理的には、外来核酸分子は、植物細胞または植物中で、GFAT活性を有するタンパク質の活性および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性を増大する任意の核酸分子でありうる。
【0106】
本発明において、本発明による遺伝子改変型植物細胞および本発明による遺伝子改変型植物は、挿入変異誘発の使用によって調製することもできる(概説:Thorneycroftら,2001, Journal of experimental Botany 52 (361), 1593-1601)。本発明において、挿入変異誘発は、特に、GFAT活性を有するタンパク質をコードし、かつ/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする遺伝子または遺伝子の近傍に、トランスポゾンまたは転移DNA(T−DNA)を挿入し、それによって問題の細胞中でGFAT活性を有するタンパク質および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性を増大させることを意味すると理解されたい。
【0107】
トランスポゾンは、細胞中で自然に発生するトランスポゾン(内在性トランスポゾン)、あるいは前記細胞中には自然に存在しないが、遺伝子工学、例えば、細胞形質転換などによって細胞に導入されたトランスポゾン(異種トランスポゾン)であってよい。トランスポゾンによる遺伝子の発現の変更は当業者には公知である。植物工学でのツールとして内在性トランスポゾンおよび異種トランスポゾンの使用の概説は、RamachandranおよびSundaresan (2001, Plant Physiology and Biochemistry 39, 234-252)が示している。
【0108】
T−DNA挿入変異誘発は、アグロバクテリウムから得たTiプラスミドのある切片(T−DNA)が植物細胞ゲノムに組み込むことができる、という事実に基づく。植物染色体への組込み部位は決まっておらず、組込みは任意の位置であってよい。遺伝子機能を表す染色体切片または切片の近傍中にT−DNAを組込む場合、これにより、結果として遺伝子の発現は増大し、それによって問題の遺伝子がコードするタンパク質の活性も変化しうる。
【0109】
ゲノムに挿入する配列(特に、トランスポゾンまたはT−DNA)は、結果として、GFAT活性を有するタンパク質をコードする遺伝子、および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする遺伝子(「活性化タギング」)の調節配列を活性化させるような配列を含むことを特徴とする。好ましくは、ゲノムに挿入される配列(特に、トランスポゾンまたはT−DNA)は、GFAT活性を有するタンパク質および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする植物細胞または植物のゲノム中の内在性核酸分子の近傍に組み込まれることを特徴とする。
【0110】
本発明による遺伝子改変型植物細胞および本発明による遺伝子改変型植物は、例えば、活性化タギングを使用し生成することができる(参照、例えば、Waldenら,Plant J. (1991), 281-288; Waldenら,Plant Mol. Biol. 26 (1994), 1521-1528)。この方法は、エンハンサー配列、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35SRNAプロモーターのエンハンサーまたはオクトピン合成酵素エンハンサーなどによって、内在性プロモーターを活性化させることを基礎とする。
【0111】
本発明において、「T−DNA活性化タギング」という用語は、エンハンサー配列を含み、植物細胞ゲノムに組み込みことによって、GFAT活性を有するタンパク質の活性および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質を増大させるT−DNAフラグメントを意味すると理解されたい。
【0112】
本発明において、「トランスポゾン活性化タギング」という用語は、エンハンサー配列を含み、植物細胞ゲノムに組み込むことによって、GFAT活性を有するタンパク質および/またはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性を増大させるトランスポゾンを意味すると理解されたい。
【0113】
本発明の好ましい実施態様は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に関し、その際、少なくとも一の外来核酸分子が、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードし、または少なくとも一の外来核酸分子が、UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードすることを特徴とする。
【0114】
本発明の特に好ましい実施態様は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に関し、その際、第1の外来核酸分子が、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードし、第2の外来核酸分子が、UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードすることを特徴とする。
【0115】
本発明による、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする外来核酸分子は、任意の生物を起源としてもよく、好ましくは、前記核酸分子は、細菌、真菌、動物、植物、またはウイルスを起源とし、特に好ましくは哺乳動物または細菌を起源とし、特に好ましくはマウスまたは大腸菌(Escherichia coli)を起源とする。
【0116】
動物体を起源とするGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする外来核酸分子に関しては、GFAT−2(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子を使用するのが好ましく、特に好ましくは、GFAT−2(酵素)活性を有するタンパク質はマウスを起源とする。
【0117】
ウイルスに関して、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする外来核酸分子は、好ましくは、藻類に感染するウイルスを起源とし、好ましくはクロレラ属の藻類に感染するウイルスを起源とし、特に好ましくはミドリゾウリムシのクロレラウイルスを起源とし、特に好ましくはH1株のミドリゾウリムシのクロレラウイルスを起源とする。
【0118】
GFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする天然核酸分子の代わりに、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に、変異誘発によって生じた核酸分子を導入することも可能であり、その際、前記変異誘発された外来核酸分子は、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードし、(例えば、グルコサミン代謝の)代謝産物による阻害が低減されていることを特徴とする。そのような変異誘発された核酸分子の調製は、大腸菌から得たGFAT(酵素)活性を有するタンパク質を例に、Dengら,(2005, Metabolic Engineering 7, 201-214;国際公開公報第04003175号)が記載している。マウスから得たGFAT活性を有するタンパク質の変異体は、例えば、Huら,(2004, J. Biol. Chem. 279 (29), 29988-29993) が記載している。
【0119】
本発明による、UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする外来核酸分子は、任意の生物を起源としてもよく、好ましくは前記核酸分子は、細菌、真菌、動物、植物、またはウイルスを起源とし、特に好ましくは細菌、植物、またはウイルスを起源とし、特に好ましくはウイルスを起源とする。
【0120】
ウイルスに関しては、UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする外来核酸分子は、好ましくは、藻類に感染するウイルスを起源とし、好ましくはクロレラ属の藻類に感染するウイルスを起源とし、特に好ましくはミドリゾウリムシのクロレラウイルスを起源とし、特に好ましくはH1株のミドリゾウリムシのクロレラウイルスを起源とする。
【0121】
UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする天然核酸分子の代わりに、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に、変異誘発によって生じた核酸分子を導入することも可能であり、その際、前記変異誘発された外来核酸分子は、UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードし、(例えば、グルクロン酸代謝の)代謝産物による阻害が低減されることを特徴とする。
【0122】
GFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子は、当業者には公知であり、文献に記載されている。すなわち、GFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子は、ウイルスからは、例えばクロレラウイルスk2(EMBLアクセッション番号:AB107976.1)について、細菌からは、例えば大腸菌(Escherichia coli)(Dutka-Malen, 1988, Biochemie 70 (2), 287-290;EMBLアクセッション番号:L10328.1)について、真菌からは、例えばサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(EMBLアクセッション番号:AF334737.1、Watzeleら,1989, J. Biol. Chem. 264, 8753-8758)、黒色麹菌(Aspergillus niger)(EMBLアクセッション番号:AY594332.1)、カンジダアルビカンス(Candida albicans)(EMBLアクセッション番号:X94753.1)について、昆虫からは、例えばアエデスアエギチ(Aedes aegyti)(Katoら,2002, Insect. Biol. 11 (3), 207, 216;EMBLアクセッション番号:AF399922.1)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(GFAT−1:EMBLアクセッション番号:Y18627.1、GFAT−2:NCBIアクセッション番号:NM_143360.2)について、藻類からはボルバリエラボルバセア(Volvariella volvacea)(EMBLアクセッション番号:AY661466.1)について、脊椎動物からは、例えばヒト(GFAT−1:EMBLアクセッション番号:AF334737.1;GFAT−2:NCBIアクセッション番号:B0000012.2、Okiら,1999, Genomics 57 (2), 227-34)、マウス(GFAT−1:EMBLアクセッション番号:AF334736.1;GFAT−2:EMBLアクセッション番号:AB016780.1)について、または植物からは、例えばシロイヌナズナ(EMBLアクセッション番号:AP001297.1;cdsNCBIアクセッション番号:BAB03027.1)について記載されている。
【0123】
好ましい実施態様では、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞および本発明による遺伝子改変型植物に関し、それらにおいてGFAT活性を有するタンパク質をコードする外来核酸分子は、
a) 配列番号8で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、配列番号10で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または配列番号12で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子、
b) 配列番号8、配列番号10、または配列番号12で表されるアミノ酸配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一であるタンパク質をコードする核酸分子、
c) 配列番号7で示されるヌクレオチド配列またはその配列に相補的な配列、配列番号9で示されるヌクレオチド配列またはその配列に相補的な配列、配列番号11で示されるヌクレオチド配列またはその配列に相補的な配列または配列番号13で示されるヌクレオチド配列またはその配列に相補的な配列を含む核酸分子、
d) a)またはc)に記載した核酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一である核酸分子、
e) a)またはc)に記載した核酸配列の少なくとも一つの鎖と、ストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸分子、
f) ヌクレオチド配列が、遺伝暗号の変性のために、a)またはc)に記載した核酸分子配列と異なる核酸分子、および
g) a)、b)、c)、d)、e)、またはf)に記載した核酸分子のフラグメント、対立形質変異体、および/または誘導体である核酸分子
からなる群から選択される。
【0124】
UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子は、文献に記載されており、当業者には公知である。すなわち、UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子は、ウイルスからは、例えば、クロレラウイルス1(NCBIアクセッション番号:NC000852.3)について、細菌からは、例えば大腸菌(EMBLアクセッション番号:AF176356.1)について、真菌からは、例えば黒色麹菌(EMBLアクセッション番号:AY594332.1)、クリプトコックスネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)(EMBLアクセッション:AF405548.1)について、昆虫からは、例えばキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(EMBLアクセッション番号:AF001310.1)について、脊椎動物からは、例えばヒト(EMBLアクセッション番号:AF061016.1)、マウス(EMBLアクセッション番号:AF061017.1)、ウシ(Bos taurus)(EMBLアクセッション番号:AF095792.1)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)(EMBLアクセッション番号:AY762616.1)について、または植物からは、例えばポプラ(EMBLアクセッション番号:AF053973.1)、サトイモ(Colocasia esculenta)(EMBLアクセッション番号:AY222335.1)、ズナリエファサリナ(Dunaliefa salina)(EMBLアクセッション番号:AY795899.1)、ダイズ(Glycinemax)(EMBLアクセッション番号:053418.1)について記載されている。
【0125】
さらに好ましい実施態様では、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞および本発明による遺伝子改変型植物に関し、それらにおけるUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする外来核酸分子は、
a) 配列番号5で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子、
b) 配列番号5で表されるアミノ酸配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一であるタンパク質をコードする核酸分子、
c) 配列番号4で示されるヌクレオチド配列またはその配列に相補的な配列、あるいは配列番号6で示されるヌクレオチド配列またはその配列に相補的な配列を含む核酸分子、
d) a)またはc)に記載した核酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一である核酸分子、
e) a)またはc)に記載した核酸配列の少なくとも一つの鎖と、ストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸分子、
f) ヌクレオチド配列が、遺伝暗号の変性のために、a)またはc)に記載した核酸分子配列と異なる核酸分子、および
g) a)、b)、c)、d)、e)、またはf)に記載した核酸分子のフラグメント、対立形質変異体および/または誘導体である核酸分子
からなる群から選択される。
【0126】
本発明において、「ハイブリダイゼーション」という用語は、従来のハイブリッド形成条件下での、好ましくはストリンジェント条件下での、例えば、Sambrookら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第2版, (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)に記載されているハイブリダイゼーションを意味する。特に好ましくは、「ハイブリダイゼーション」は、以下の条件下でのハイブリダイゼーションを意味する。
ハイブリダイゼーション緩衝液:
2×SSC;10×デンハート液(Fikoll400+PEG+BSA;割合1:1:1)、0.1%SDS、5mM EDTA、50mM Na2HPO4、250μg/mlのニシン精子DNA、50μg/mlのRNA、または25Mリン酸ナトリウム緩衝液pH7.2、1mM EDTA、7%SDS
ハイブリダイゼーション温度:
T=65〜68℃
洗浄緩衝液:0.1×SSC;0.1%SDS
洗浄温度:T=65〜68℃。
【0127】
UDP−Glc−DH活性またはGFAT活性を有するタンパク質コードする核酸分子とハイブリダイズする核酸分子は、任意の生物を起源としてよく、従って細菌、真菌、動物、植物、またはウイルスを起源としてよい。
【0128】
UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子とハイブリダイズする核酸分子は、好ましくは、藻類に感染するウイルスを起源とし、好ましくはクロレラ属の藻類に感染するウイルス、特に好ましくはミドリゾウリムシのクロレラウイルス、特に好ましくはH1株のミドリゾウリムシのクロレラウイルスを起源とする。
【0129】
GFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子とハイブリダイズする核酸分子は、特に好ましくは哺乳動物、植物、または細菌を起源とし、特に好ましくはマウスまたは大腸菌を起源とする。
【0130】
GFAT−1またはGFAT−2活性を有するタンパク質をコードする核酸分子とハイブリダイズする核酸分子は、好ましくは、真核生物を起源とし、特に好ましくは動物体を起源とし、特に好ましくはマウスを起源とする。
【0131】
記載した分子とハイブリダイズする核酸分子は、例えば、ゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーから単離することができる。そのような核酸分子は、記載した核酸分子、またはこれらの分子の一部、またはこれらの分子の逆相補鎖を使用し、例えば、標準的方法によるハイブリダイゼーション(参照、例えば、Sambrookら,1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)または増幅PCRを使用することによって同定し、単離することができる。
【0132】
UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸配列を単離するためのハイブリダイゼーション試料として、例えば、配列番号4または配列番号6に示すヌクレオチド配列、あるいはこれらの配列の一部を厳密に、または本質的に、有する核酸分子を使用することができる。
【0133】
GFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸配列を単離するためのハイブリダイゼーション試料として、例えば、配列番号7、または配列番号9、または配列番号11、または配列番号13に示すヌクレオチド配列、あるいはこれらの配列の一部を厳密に、または本質的に、有する核酸分子を使用することができる。
【0134】
ハイブリダイゼーション試料として使用されるフラグメントは、慣用の合成技術を使用し調製し、その配列が、本発明において記載した核酸分子と本質的に同一である、合成フラグメントまたはオリゴヌクレオチドであってもよい。本発明において記載した核酸配列とハイブリダイズする遺伝子を一度同定し単離したならば、その配列を決定し、この配列がコードするタンパク質の特性を分析して、それらが、GFAT、すなわちGFAT−1またはGFAT−2活性、あるいはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質かどうか判定する。GFAT(例えば、Mayerら,1968, Plant Physiol. 43, 1097-1107; Dengら,2005, Metabolic Engineering 7, 201-214)、すなわちGFAT−1またはGFAT−2(例えば、Huら,2004, J. Biol. Chem. 279 (29), 29988-29993)、あるいはUDP−Glc−DH(例えば、De Lucaら,1976, Connective Tissue Research 4, 247-254; Bar-Peledら,2004, Biochem. J. 381, 131-136;TurnerおよびBotha, 2002, Archives Biochem. Biophys. 407, 209-216)の活性を有するタンパク質の活性を、タンパク質が有するかどうかを判定する方法は、当業者には公知であり、とりわけ、記載した文献中に記載されている。
【0135】
本発明において記載した核酸分子とハイブリダイズする分子には、特に、記載した核酸分子のフラグメント、誘導体、および対立形質変異体が含まれる。本発明において、「誘導体」という用語は、これらの分子の配列が、上記の核酸分子配列と一個または複数の位置で異なり、これらの配列と同一性が高いことを意味する。上記の核酸分子との差異は、例えば、欠失、付加、置換、挿入、または組換えによるものであってよい。
【0136】
本発明において、「同一性」という用語は、核酸分子のコード領域の全体長、またはタンパク質をコードするアミノ酸配列の全体長にわたる配列相同性が、少なくとも60%、特に同一性がなくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%であることを意味する。本発明において、「同一性」という用語は、%で表わされ、他のタンパク質/核酸と同一であるアミノ酸/ヌクレオチド(同一性)の数を意味すると理解されたい。好ましくは、UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質に関する同一性は、コンピュータープログラムを用いた、配列番号5で表されるアミノ酸配列と他のタンパク質/核酸との比較によって決定され、UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子に関する同一性は、配列番号4または配列番号6に示される核酸配列との比較によって決定され、GFAT活性を有するタンパク質に関する同一性は、配列番号8、または配列番号10、または配列番号12で表されるアミノ酸配列との比較によって決定され、GFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子に関する同一性は、配列番号7、または配列番号9、または配列番号11、または配列番号13に示される核酸配列との比較によって決定される。互いに比較する配列の長さが異なる場合、短い配列と長い配列が共有するアミノ酸数の同一性%を決定することによって、同一性は決定される。好ましくは、同一性は、公知の公的に入手できるコンピュータープログラムClustalW(Thompsonら,Nucleic Acids Research 22 (1994), 4673-4680)を使用し決定される。ClustalWは、Julie Thompson (Thompson EM BL-Heidelberg.DE)およびToby Gibson (Gibson EMBL-Heidelberg.DE), European Molecular Biology Laboratory, Meyerhofstrasse 1, D 69117 Heidelberg, Germanyから公的に入手できる。ClustalWはまた、様々なインターネットページ、とりわけ、IGBMC (Institut de Gdnrstique et de Biologie Mol6culaire et Cellulaire, B.P.163, 67404 Illkirch Cedex, France; ftp://ftpigbmc.u-strasbg.fr/pub/およびEBI (ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/software/)、EBI (European Bioinformatics Institute, Wellcome Trust Genome Campus, Hinxton, Cambridge CB10 1 SD, UK)の全てのミラーインターネットページからもダウンロードすることができる。
【0137】
本発明において記載するタンパク質と他のタンパク質との同一性を決定するには、ClustalWコンピュータープログラム、バージョン1.8を使用するのが好ましい。ここで、パラメーターは、以下のようにセットするものとする。KTUPLE=1、TOPDIAG=5、WINDOW=5、PAIRGAP=3、GAPOPEN=10、GAPEXTEND=0.05、GAPDIST=8、MAXDIV=40、MATRIX=GONNET、ENDGAPS(OFF)、NOPGAP、NOHGAP。
例えば、本発明において記載する核酸分子のヌクレオチド配列と、他の核酸分子のヌクレオチド配列との同一性を決定するには、ClustalWコンピュータープログラム、バージョン1.8を、使用するのが好ましい。ここで、パラメーターは以下のようにセットするものとする。
KTUPLE=2、TOPDIAGS=4、PAIRGAP=5、DNAMATRIX:IUB、GAPOPEN=10、GAPEXT=5、MAXDIV=40、TRANSITIONS:未加重。
【0138】
さらに、同一性は、問題の核酸分子間に、またはそれらがコードするタンパク質間に、機能性および/または構造上の同等性があることを意味する。上記分子に相同し、これらの分子の誘導体を表す核酸分子は、一般的に、同じ生物学的機能を有する改変を表すこれらの分子の変形である。それらは、天然の変形、例えば、他の種の配列または変異であってよく、その際、これらの変異は自然に生じたものでも、または標的化した変異誘発によって導入したものであってもよい。さらに、変形は合成により生まれた配列であってよい。対立形質変異体は、天然変異体であっても、または合成により生まれた変異体、または組換えDNA技術によって生じた変異体であってもよい。誘導体の特殊な形態は、例えば、遺伝暗号の変性のために、本発明において記載した核酸分子と異なる核酸分子である。
【0139】
GFATまたはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子の様々な誘導体は、ある種の共通する特性を有する。
これらの特性は、例えば、生物学的活性または酵素活性、基質特異性、分子量、免疫学的反応性、立体配座など、さらに物性、例えば、ゲル電気泳動での泳動特性、クロマトグラフィー挙動、沈降係数、溶解性、分光学的特性、安定性、最適pH、最適温度などでありうる。GFATまたはUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の好ましい特性は、当業者には公知であり、既に上に記載し、ここでも同様に当てはまる。
【0140】
さらに好ましい実施態様では、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に関し、それらのGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、および/またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子は、前記核酸分子のコドンが、その親生物の、前記GFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子のコドン、または前記UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子のコドンとは異なることを特徴とする。特に好ましくは、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子のコドンは変化し、それによってそのゲノムにコドンが組み込まれた、または組み込まれる植物細胞または植物のコドンの使用頻度に、それらのコドンは適合されている。
【0141】
さらに、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物を提供し、それらにおいて、ヒアルロン酸合成酵素をコードし、かつ/またはGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードし、かつ/またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする植物細胞または植物のゲノム中に安定して組み込まれている外来核酸分子は、植物細胞で転写を開始する調節エレメント(プロモーター)に結合している。これらは、同属(homologous)または異種(heterologous)プロモーターであってよい。プロモーターは、構成的、組織特異的、発生特異的、または外部要因により調節的でありうる(例えば、化学物質使用後、非生物的要因、例えば、熱および/または低温、乾燥、疾患などの作用による)。ここで、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物のゲノム中にその核酸分子が組み込まれる、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子、またはGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子は、いずれの場合にも同じプロモーターに結合し、またはその個々の配列を異なるプロモーターと結合することもできる。ここで、任意の組合せの2個または3個の異なるプロモーターは、いずれの場合にも、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物中で、ヒアルロン酸合成酵素をコードする適切な外来核酸分子、またはGFAT(酵素)活性を有するタンパク質、またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質に結合させることができる。
【0142】
本発明の好ましい実施態様は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物に関し、それらにおいて、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子、またはGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子からなる群から選択される少なくとも一外来核酸分子、特に好ましくは少なくとも2個の外来核酸分子、特に好ましくは3個の外来核酸分子は、組織特異的プロモーターに結合される。好ましい組織特異的プロモーターは、植物の塊茎、果実、または種子細胞、または葉で特異的に転写を開始するプロモーターである。
【0143】
ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子、またはGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子を発現させるためには、これらの分子を調節DNA配列に結合するのが好ましく、植物細胞中で確実に転写させる。これらは、特にプロモーターを含む。一般に、発現には、植物細胞中で活性な任意のプロモーターが適している。
【0144】
ここで、発現が構成的であり、または植物の発達のある時点で、または外部要因によって決定される時間点で、ある種の組織のみで生じるように、プロモーターを選択することができる。植物に関して、そして発現させる核酸分子に関して、プロモーターは同属または異種なものであってよい。
【0145】
適切なプロモーターは、例えば、構成的発現には、カリフラワーモザイクウイルスの35S RNAプロモーター、またはコーンのユビキチンプロモーター、またはケストルム属(Cestrum)YLCV(黄化葉巻ウイルス、国際公開公報第0173087号; Stavoloneら,2003, Plant Mol. Biol. 53, 703-713);ジャガイモ中での塊茎特異的発現にはパタチンゲン(patatingen)プロモーターB33(Rocha-Sosaら,EMBO J. 8 (1989), 23-29);またはトマト用果実特異的プロモーター、例えば、トマトのポリガラクツロナーゼプロモーター(Montgomeryら,1993, Plant Cell 5, 1049-1062)またはトマトのE8プロモーター(Methaら,2002, Nature Biotechnol. 20(6), 613-618)またはモモのACCオキシダーゼプロモーター(MoonおよびCallahan, 2004, J. Experimental Botany 55 (402), 1519-1528)など;または光合成的活性組織でのみ確実に発現させるプロモーター、例えば、ST−LS1プロモーター(Stockhausら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84 (1987), 7943-7947; Stockhausら,EMBO J. 8 (1989), 2445-2451);または胚乳特異的発現には、コムギのHMWGプロモーター、USPプロモーター、ファゼオリンプロモーター、コーンのゼイン遺伝子プロモーター(Pedersenら,Cell 29 (1982), 1015-1026; Quatroccioら,Plant Mol. Biol. 15 (1990), 81-93)、グルテリンプロモーター(Leisyら,Plant Mol. Biol. 14 (1990), 41-50; Zhengら,Plant J. 4 (1993), 357-366; Yoshiharaら,FEBS Left. 383 (1996), 213-218)、 またはシュルンケン(shrunken)−1プロモーター (Werrら,EMBO J. 4 (1985), 1373-1380)、グロブリンプロモーター(Nakaseら,1996, Gene 170(2), 223-226)またはプロラミンプロモーター(Qu and Takaiwa, 2004, Plant Biotechnology Journal 2(2), 113-125)である。しかし、外部要因によって決定される、ある時点でのみ活性プロモーターを使用することも可能である(参照、例えば、国際公開公報第9307279号)。ここで特に重要なことは、単純な誘発を許すヒートショックタンパク質プロモーターであってもよいことである。さらに、種子特異的プロモーター、例えば、ソラマメおよび他の植物で確実に種子特異的に発現させるソラマメ(Vicia faba)のUSPプロモーターなどを使用することもできる(Fiedlerら,Plant Mol. Biol. 22 (1993), 669-679; Baumleinら,Mot. Gen. Genet. 225 (1991), 459-467)。
【0146】
植物で核酸配列を発現させるのに、藻類に感染するウイルスゲノム中に存在するプロモーターを使用するのも適切である(Mitreら,1994, Biochem. Biophys Res Commun 204(1), 187-194; MitreおよびHiggins, 1994, Plant Mol Biol 26(1), 85-93, Van Efenら,2002, Arch Virol 147, 1479-1516)。
【0147】
本発明において、「組織特異性」という用語は、徴候(例えば、転写の開始)をある種の組織に実質的に限定することを意味すると理解されたい。
【0148】
本発明において、「塊茎、果実、または種子細胞」という用語は、塊茎、果実、または種子中に存在する全細胞を意味すると理解されたい。
【0149】
本発明において、「同属プロモーター」という用語は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物の調製に使用される、植物細胞または植物中に自然に存在するプロモーター(その植物細胞または植物に関して同属)を意味し、またはそこから配列を単離した生物中で遺伝子発現調節を調節するプロモーター(発現させる核酸分子に関して同属)を意味すると理解されたい。
【0150】
本発明において、「異種プロモーター」という用語は、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物の調製に使用される、植物細胞または植物中に自然には存在しないプロモーター(植物細胞または植物に関して異種)を意味し、またはそこから発現させようとする核酸配列生物中で単離されたプロモーターであって、前記核酸配列の発現を調節するためには自然に存在しないプロモーター(発現させる核酸分子に関して異種)を意味すると理解されたい。
【0151】
さらに存在するものは、転写産物にポリ−Aテイルを付加するのに役立つ停止配列(ポリアデニル化シグナル)であってよい。ポリ−Aテイルは、転写産物を安定させる働きをすると思われる。そのような要素は、文献に記載されており(参照、Gielenら,EMBO J. 8 (1989), 23-29)、所望に応じて交換することができる。
【0152】
イントロン配列が、プロモーターとコード領域間に存在することも可能である。そのようなイントロン配列は、植物中で発現を安定させ、かつ発現を増大させうる(Callisら,1987, Genes Devel. 1, 1183-1200; LuehrsenおよびWalbot, 1991, Mol. Gen. Genet. 225, 81-93; Rethmeierら,1997; Plant Journal 12(4), 895-899; RoseおよびBeliakoff, 2000, Plant Physiol. 122 (2), 535-542; Vasilら,1989, Plant Physiol. 91, 1575-1579; XUら,2003, Science in China Series C Vol.46 No.6, 561-569)。適切なイントロン配列は、例えば、コーンのsh1遺伝子の第1イントロン、コーンのポリ−ユビキチン遺伝子1の第1イントロン、イネのEPSPS遺伝子の第1イントロン、またはシロイヌナズナのPAT1遺伝子の最初の2つのイントロンの一つである。
【0153】
本発明はまた、本発明による遺伝子改変型植物細胞を含む植物にも関する。そのような植物は、本発明による遺伝子改変型植物細胞から再生することによって生成しうる。
【0154】
本発明はまた、本発明による遺伝子改変型植物細胞を含む、本発明による遺伝子改変型植物の加工可能または消費可能部分に関する。
【0155】
本発明において、「加工可能部分」という用語は、食品または食餌の調製に使用される植物部分、工業的過程に原料源として、医薬生成物を調製するための原料源として、または化粧品の調製の原料源として使用される植物部分を意味すると理解されたい。
【0156】
本発明において、「消費可能部分」という用語は、人用食物として提供し、または動物用食餌として使用される植物部分を意味すると理解されたい。
【0157】
本発明はまた、本発明による遺伝子改変型植物細胞を含む、本発明による遺伝子改変型植物増殖物質にも関する。
【0158】
ここで、「増殖物質」という用語は、植物生長経路または繁殖経路により子孫を発生させるのに適している植物の成分を含む。植物増殖に適切なものには、例えば、カット物、カルス培養物、根茎、または塊茎である。他の増殖物質には、例えば、果実、種子、実生、プロトプラスト、細胞培養物などが含まれる。増殖物質は、塊茎、果実、または種子の形を取るのが好ましい。
【0159】
別の実施態様では、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物の収穫可能植物部分、例えば、果実、貯蔵根および他の根、花、芽、新芽、葉、または柄、好ましくは種子、果実、または塊茎に関し、これらの収穫可能部分は、本発明による遺伝子改変型植物細胞を含む。
【0160】
好ましくは、本発明は、ヒアルロン酸を含む、本発明による増殖物質または本発明による収穫可能植物部分に関する。特に好ましいものは、ヒアルロン酸を合成する、本発明による増殖物質または本発明による収穫可能植物部分である。
【0161】
本発明において、「ジャガイモ植物」または「ジャガイモ」という用語は、ナス属植物種、特にナス属の塊茎発生種、特にジャガイモ(Solanum tuberosum)を意味すると理解されたい。
【0162】
本発明において、「トマト植物」または「トマト」という用語は、トマト属植物種、特にトマト(Lycopersicon esculentum)を意味すると理解されたい。
【0163】
本発明の別の利点は、本発明による遺伝子改変型植物の収穫可能部分、増殖物質、加工可能部分、または消費可能部分が、文献に記載されているヒアルロン酸合成遺伝子導入植物よりも多くヒアルロン酸を含むということである。従って、本発明による遺伝子改変型植物は、ヒアルロン酸を単離しうる原料としての使用に特に適しているのみならず、食品/食餌として直接使用し、または予防特性または治療特性を有する食品/食餌(例えば、骨関節炎予防、米国特許第6,607,745号)を調製するためにも使用することができる。本発明による遺伝子改変型植物は、文献に記載されている植物よりもヒアルロン酸含有量が高いので、そのような食品/食餌の調製に必要な本発明による遺伝子改変型植物の収穫可能部分、増殖物質、加工可能部分、または消費可能部分は少量でよい。本発明による遺伝子改変型植物の消費可能部分が消費される場合、例えば、いわゆる「栄養補助剤」として直接消費される場合、比較的少量の物質を摂取するだけで正の作用を得ることができる。これは、特に、動物の食餌の製造でとりわけ顕著な可能性がある。それは、植物成分含有量が余りに高い動物の食餌は、様々な動物種の食品として不適切なためである。
【0164】
ヒアルロン酸は水に結合する能力が高いという点で、さらに、固形の食品/食餌を製造する場合、本発明による遺伝子改変型植物の収穫可能部分、増殖物質、加工可能部分、または消費可能部分は、必要になる増粘剤が少ないという利点がある。すなわち、例えば、ゼリーの製造に必要な糖は減少し、それは健康状態に対する別の正の作用と関連する。食品/食餌の製造では、粗植物材料を脱水する必要があり、本発明による遺伝子改変型植物の収穫可能部分、増殖物質、加工可能部分、または消費可能部分を使用する利点は、問題の植物材料から除去しなければならない水が少なく、結果として製造コストは少なくてすむこと、より穏やかに製造法(例えば、低温および/または短時間の熱入力)のために、問題の食品/食餌の栄養価が高いことにある。すなわち、例えば、トマトケチャップの製造では、所望の粘稠性を得るために導入されるエネルギーが低減される。
【0165】
本発明は、さらに、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する方法であって、
a)植物細胞を遺伝子的に改変すること、ただしその遺伝子改変は以下の工程i〜iiiを含む:
i)植物細胞にヒアルロン酸合成酵素をコードする外来核酸分子を導入する工程、
ii)前記植物細胞に遺伝子改変を導入し、その遺伝子改変によって、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質の活性が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大する工程、
iii)前記植物細胞に遺伝子改変を導入し、その遺伝子改変によって、グルタミン:フルクトース6−リン酸UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質の活性が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大する工程、
なお、工程i〜iiiは任意の順序で別個に行うことができ、あるいは工程i〜iiiの任意の組合せを同時に行うことができ、
b)工程a)の植物細胞から植物を再生すること、
c)適切であれば、工程b)による前記植物を使用してさらに植物を発生させること
を含み、
なお、適切であれば、工程b)またはc)による植物から植物細胞を単離して工程工程a)〜c)を繰り返し、最後に再生した植物においてヒアルロン酸合成酵素をコードする外来核酸分子が存在し、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質の活性が対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大し、かつグルタミン:フルクトース6−リン酸UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質の活性が対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大している方法を提供する。
【0166】
本発明は好ましくは、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する方法であって、
a)遺伝子改変が、任意の順序で以下の工程i〜iiiを含み、または工程i〜iiiの任意の組合せを別個にまたは同時に実施することができる、植物細胞を遺伝子的に改変すること、
i)植物細胞にヒアルロン酸合成酵素をコードする一外来核酸分子を導入する工程
ii)前記植物細胞に遺伝子改変を導入する工程であって、結果として該遺伝子改変が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞と比較して、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大させる工程
iii)前記植物細胞に遺伝子改変を導入する工程であって、結果として該遺伝子改変が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞と比較して、UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大させる工程
b)以下の工程に従って、前記遺伝子改変を含む植物細胞から植物を再生すること
i) a)i
ii) a)ii
iii) a)iii
iv) a)iおよびa)ii、
v) a)iおよびa)iii、
vi) a)iiおよびa)iii、あるいは
vii) a)iおよびa)iiおよびa)iii
c) 以下の工程に従って、植物の植物細胞中に導入すること
i) b)i工程a)iiによる遺伝子改変、
ii) b)i工程a)iiiによる遺伝子改変、
iii) b)i工程a)iiによる遺伝子改変と、同時に工程a)iiiによる遺伝子改変、
iv) b)ii工程a)iによる遺伝子改変、
v) b)ii工程a)iiiによる遺伝子改変、
vi) b)ii工程a)iによる遺伝子改変と、同時に工程a)iiiによる遺伝子改変、
vii) b)iii工程a)iによる遺伝子改変、
viii)b)iii工程a)iiによる遺伝子改変、
ix) b)iii工程a)iによる遺伝子改変と、同時に工程a)iiによる遺伝子改変、
x) b)iv工程a)iiiによる遺伝子改変、
xi) b)v工程a)iiによる遺伝子改変、あるいは
xii) b)vi工程a)iによる遺伝子改変、および植物の再生
d) 以下の工程による植物の植物細胞中に導入すること
i) c)i工程a)iiiによる遺伝子改変、
ii) c)ii工程a)iiによる遺伝子改変、
iii) c)iv工程a)iiiによる遺伝子改変、
iv) c)v工程a)iiによる遺伝子改変、
v) c)vii工程a)iiによる遺伝子改変、
vi) c)vii工程a)iによる遺伝子改変、あるいは
vii) c)ix工程a)iiによる遺伝子改変、および植物を再生
e)適切であれば、工程b)vii、c)iii、c)vi、c)x、c)xi、c)xiiのいずれかの工程、または工程d)i〜d)viiのいずれかの工程による植物を用いてさらに植物を発生させること
を含む方法に関する。
【0167】
工程a)に従って植物細胞に導入する遺伝子改変は、原理的には、結果としてGFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大し、かつUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(酵素)活性を有するタンパク質の活性も増大させる、どんな型の改変であってもよい。
【0168】
本発明による方法の工程b)、および適切であれば、工程c)およびd)による植物の再生は、当業者には公知の方法を使用して実施できる(例えば、"Plant Cell Culture Protocols", 1999,R.D. Hall編, Humana Press, ISBN 0-89603-549-2に記載されている)。
【0169】
本発明による方法の植物を(工程(c)または工程e)による過程に応じて)さらに発生させることは、例えば、植物増殖によって(例えば、カット物、塊茎により、またはカルス培養および未処理植物の再生により)、または生殖増殖を通じて行うことができる。この意味において、生殖増殖は、一般的に制御された条件下で行われ、すなわち、特異的特徴を有する選択した植物を互いにハイブリダイズし増幅する。好ましくは、(過程に応じて、工程c)または工程e)により発生する)それ以上の植物が前記工程で導入した改変を含むような方式で選択を行う。
【0170】
ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法では、本発明による遺伝子改変型植物細胞を生成するための遺伝子改変は、同時に、または連続的工程で、かつ任意の組合せで行うことができる。ヒアルロン酸合成酵素をコードする一外来核酸分子が未だ導入されていない野生植物および野生植物細胞、ならびに対応する遺伝子非改変型野生植物細胞と比較して、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大する遺伝子改変が未だ導入されていない野生植物および野生植物細胞、ならびに対応する遺伝子非改変型野生植物細胞と比較して、UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大する遺伝子改変が未だ導入されていない野生植物および野生植物細胞、あるいは既に遺伝子改変されている植物細胞または植物、ならびにヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子が既に導入されている植物細胞または植物、および/または対応する遺伝子非改変型野生植物細胞と比較して、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大させるための遺伝子改変が既に導入されている植物細胞または植物、および/または対応する遺伝子非改変型野生植物細胞と比較して、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大させるための遺伝子改変が既に導入されている植物細胞または植物を出発点として使用することができる。ここで、両遺伝子改変が、一緒になって、同じ植物細胞で結果としてGFAT(酵素)活性を有するタンパク質およびUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大させる場合に限り、結果としてUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大させる遺伝子改変と同じ方法を、結果としてGFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大させる連続的遺伝子改変に使用するかどうかは重要でない。植物細胞に、ヒアルロン酸合成酵素をコードする一外来核酸分子を導入するためにどの方法を使用するかも重要ではない。
【0171】
ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法の別の実施態様では、遺伝子改変は、植物細胞ゲノムへの少なくとも一外来核酸分子の導入に存在し、その際、外来核酸分子の存在または発現が、結果として同じ植物細胞中でGFAT(酵素)活性を有するタンパク質およびUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大させる。
【0172】
ヒアルロン酸を合成する植物を調製するための本発明による方法の別の実施態様では、遺伝子改変は、植物細胞ゲノムへの少なくとも一外来核酸分子または複数の外来核酸分子の導入に存在し、その場合、外来核酸分子は、ヒアルロン酸合成酵素のコード配列およびGFAT(酵素)活性を有するタンパク質のコード配列、およびUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質のコード配列を含む。
【0173】
遺伝子改変するために植物細胞または植物へ導入する外来核酸分子について既に上記したように、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法の工程a)で導入されるものは、個々の核酸分子または複数の核酸分子であってよい。すなわち、ヒアルロン酸合成酵素をコードする外来核酸分子、および/またはGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする外来核酸分子、および/またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする外来核酸分子は、一緒になって一個の核酸分子上に存在してよく、あるいは任意の可能な組合せで、記載した外来核酸分子の2個は、一緒になって一個の核酸分子上に存在し、かつ第3の外来核酸分子は別の核酸分子上に存在してよく、あるいは記載した外来核酸分子の3個全てが、いずれの場合にも個々の別々の核酸分子上に存在してもよい。
【0174】
さらに、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法を実施する際、一外来核酸分子を導入するために、野生植物細胞または野生植物の代わりに、既に、GFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性が増大し、かつ/またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性も増大しているという点で識別される変異細胞または変異体を使用することもできる。既に、その対応する野生植物細胞または野生植物と比較して、その変異細胞または変異体のGFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性が増大し、またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性も増大している場合、ヒアルロン酸合成酵素をコードする一外来核酸分子、ならびに結果として対応する遺伝子非改変型野生植物細胞と比較して、UDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大し、またはGFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性を増大させる遺伝子改変を前記変異細胞または変異体に導入することは、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法を実施するのに十分である。対応する野生植物細胞または対応する野生植物と比較して、既に、その変異細胞または変異体のGFAT(酵素)活性を有するタンパク質の活性が増大し、かつUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質の活性も増大している場合、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法を実施するために、前記変異細胞または変異体にヒアルロン酸合成酵素をコードする一外来核酸分子を導入することができる。
【0175】
本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物の調製に変異体を使用することに関して、上に記載したことは全て、ここでも同様に当てはまる。
【0176】
好ましい実施態様では、本発明は、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法に関し、その際、工程a)のヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子は、以下の核酸分子からなる群から選択される。
a)ウイルスのヒアルロン酸合成酵素をコードすることを特徴とする核酸分子
b)クロレラ感染型ウイルスのヒアルロン酸合成酵素をコードすることを特徴とする核酸分子
c)ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のヒアルロン酸合成酵素をコードすることを特徴とする核酸分子
d)H1株のミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のヒアルロン酸合成酵素コードすることを特徴とする核酸分子
e)ヒアルロン酸合成酵素の親生物のヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子のコドンと比較して、ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子のコドンが改変されていることを特徴とする核酸分子
f) ヒアルロン酸合成酵素のコドンが改変されている核酸分子であって、すなわち、ゲノムにヒアルロン酸合成酵素のコドンが組み込まれる、または組み込まれている植物細胞または植物のコドンの使用頻度に適合することを特徴とする核酸分子
g)配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するヒアルロン酸合成酵素をコードし、またはそのアミノ酸配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一であるヒアルロン酸合成酵素をコードすることを特徴とする核酸分子
h) そのアミノ酸配列が、プラスミドDSM16664に挿入した核酸配列のコード領域から派生させることができるタンパク質をコードし、またはそのアミノ酸配列が、プラスミドDSM16664に挿入した核酸配列のコード領域から派生させることができるアミノ酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一であるタンパク質をコードすることを特徴とする核酸分子
i) 配列番号1または配列番号3で示される核酸配列、あるいは配列番号1または配列番号3で示される核酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一である核酸配列を含む核酸分子
j) プラスミドDSM16664に挿入する核酸配列、またはプラスミドDSM16664に挿入する核酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一である核酸配列を含む核酸分子
k) ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸配列が、植物細胞で転写を開始する調節エレメント(プロモーター)に結合しているヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子、あるいは
l) プロモーターが、組織特異的プロモーターであり、特に好ましくは、植物の塊茎、果実、または種子細胞で特異的に転写の開始するプロモーターであるk)による核酸分子
【0177】
好ましい実施態様では、本発明は、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法に関し、その際、GFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子は、以下の核酸分子からなる群から選択される。
a) 細菌、動物または植物を起源とし、好ましくは大腸菌またはマウスを起源とするGFAT活性を有するタンパク質コードすることを特徴とする核酸分子
b) クロレラ感染型ウイルスのGFAT活性を有するタンパク質をコードすることを特徴とする核酸分子
c) ミドリゾウリムシのクロレラウイルスのGFAT活性を有するタンパク質をコードすることを特徴とする核酸分子
d) その対応する親生物のGFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子のコドンと比較して、GFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子のコドンが改変されていることを特徴とする核酸分子
e) GFAT活性を有するタンパク質のコドンが改変されている核酸分子であって、すなわち、ゲノムにGFAT活性を有するタンパク質のコドンが組み込まれる、または組み込まれている植物細胞または植物のコドンの使用頻度に適合することを特徴とする核酸分子
f) 配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子、または配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質、または配列番号12で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質
g) 配列が、配列番号8、または配列番号10、または配列番号12で示されるアミノ酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一であるタンパク質をコードする核酸分子
h) 配列番号7で示される核酸配列またはその配列に相補的な配列、あるいは配列番号9で示される核酸配列またはその配列に相補的な配列、あるいは配列番号11で示される核酸配列またはその配列に相補的な配列、あるいは配列番号13で示される核酸配列またはその配列に相補的な配列を含む核酸分子
i) h)に記載した核酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一である核酸分子
j) f)またはh)に記載した核酸配列少なくとも一つの鎖とストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸分子
k)遺伝暗号の変性のために、ヌクレオチド配列が、f)またはh)に記載した核酸分子配列と異なる核酸分子、ならびに
l) a)、b)、c)、d)、e)、f)、またはh)に記載した核酸分子のフラグメント、対立形質変異体、および/または誘導体である核酸分子
m) GFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸配列が、植物細胞で転写を開始する調節エレメント(プロモーター)に結合しているGFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、あるいは
n) プロモーターが、組織特異的プロモーターであり、特に好ましくは植物の塊茎、葉、果実、または種子細胞で特異的に転写を開始するプロモーターである、m)による核酸分子
【0178】
好ましい実施態様では、本発明は、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法に関し、その際、外来UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子は、以下の核酸分子からなる群から選択される。
a) ウイルス、細菌、動物、または植物を起源とするUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質コードすることを特徴とする核酸分子
b) クロレラ感染型ウイルスのUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質コードすることを特徴とする核酸分子
c) ミドリゾウリムシのクロレラウイルスのUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質コードすることを特徴とする核酸分子
d) 対応する、親生物UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子のコドンと比較して、UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子のコドンが改変されていることを特徴とする核酸分子
e) UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のコドンが改変されている核酸分子であって、すなわち、ゲノムにUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のコドンが組み込まれる、または組み込まれている植物細胞または植物のコドンの使用頻度に適合することを特徴とする核酸分子
f) 配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸分子;
g) 配列が、配列番号5で示されるアミノ酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%同一であるタンパク質をコードする核酸分子
h)配列番号4で示されるヌクレオチド配列またはその配列に相補的な配列、あるいは配列番号6で示されるヌクレオチド配列またはその配列に相補的な配列を含む核酸分子
i) h)に記載した核酸配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に好ましくは95%、最も好ましくは少なくとも98%同一である核酸分子
j)ストリンジェント条件下で、f)またはh)に記載されている核酸分子の少なくとも一つの鎖とハイブリダイズする核酸分子
k) ヌクレオチド配列が、遺伝暗号の変性のために、f)またはh)に記載した核酸分子配列と異なる核酸分子、ならびに
l) a)、b)、c)、d)、e)、f)、またはh)に記載した核酸分子のフラグメント、対立形質変異体、および/または誘導体である核酸分子
m) UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸配列が、植物細胞で転写を開始する調節エレメント(プロモーター)に結合しているUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、あるいは
n) プロモーターが、組織特異的プロモーターであり、特に好ましくは植物の塊茎、葉、果実、または種子細胞中で特異的に転写の開始するプロモーターである)による核酸分子
【0179】
本発明の好ましい実施態様では、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する方法は、植物材料の新鮮重(FW)1gに当たり、ヒアルロン酸を少なくとも100、好ましくは少なくとも600、特に好ましくは少なくとも1000、特に好ましくは少なくとも1500μg合成する植物の調製法に関する。
【0180】
さらに好ましい実施態様では、ヒアルロン酸を合成する植物を調製する本発明による方法は、本発明による遺伝子改変型植物の調製に使用される。
【0181】
本発明は、ヒアルロン酸を合成する植物を調製するために、本発明による方法によって得られる植物も提供する。
【0182】
さらに、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞、本発明による遺伝子改変型植物、本発明による増殖物質、本発明による収穫可能植物部分、またはヒアルロン酸を合成する植物を調製するために、本発明による方法によって得られる植物、またはこれらの植物部分からヒアルロン酸を抽出する工程を含む、ヒアルロン酸を調製する方法に関する。
【0183】
好ましくは、そのような過程は、さらに、ヒアルロン酸を抽出する前に、培養した本発明による遺伝子改変型植物細胞、本発明による遺伝子改変型植物、本発明による増殖物質、本発明による収穫可能植物部分、本発明による加工可能植物部分を収穫する工程、および特に好ましくはさらに、収穫する前に本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物を培養する工程を含む。
【0184】
細菌組織または動物組織とは対照的に、植物組織はヒアルロニダーゼも、いかなるヒアルアドヘリンも含まない。従って、既に上記したように、比較的単純な方法を使用し、植物組織からのヒアルロン酸の抽出することができる。必要な場合は、ヒアルロン酸を含む植物細胞または組織の上記水性抽出液をさらに、例えば、エタノール沈澱を繰り返すなど、当業者には公知の方法を使用して精製することができる。好ましいヒアルロン酸精製法は、一般的方法の第3項に記載されている。
【0185】
本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物から、既に記載したヒアルロン酸を抽出する方法は、本発明による増殖物質、本発明による収穫可能植物部分、ヒアルロン酸を合成する植物を調製するために、本発明による方法によって得られた植物またはこれらの植物部分からヒアルロン酸を単離するのにも適切である。
【0186】
本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞、本発明による遺伝子改変型植物、本発明による増殖物質、本発明による収穫可能植物部分、本発明による加工可能植物部分、またはヒアルロン酸を調製するための本発明による方法によって得られる植物の使用も提供する。
【0187】
さらに、本発明は、本発明による遺伝子改変型植物細胞を含む組成物にも関する。ここで、植物細胞が、未処理か、またはもはや未処理ではないかというのは重要ではない。というのは、植物細胞は例えば、加工によって破壊されているからである。組成物は、食品または食餌、医薬的または化粧品であることが好ましい。
【0188】
本発明は、好ましくは、本発明による遺伝子改変型植物細胞、本発明による遺伝子改変型植物、本発明による増殖物質、本発明による収穫可能植物部分、本発明による方法によって得られる植物の成分を含み、かつ組換え核酸分子をも含む組成物を提供し、その際、組換え核酸分子は、ヒアルロン酸合成酵素、およびGFAT(酵素)活性を有するタンパク質、およびUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子を含むことを特徴とする。
【0189】
植物細胞または植物のゲノム中へ外来核酸分子を安定して組み込むと、植物細胞または植物のゲノム中へ組み込み後に、結果としてゲノム植物の核酸配列によって外来核酸分子が側置される。従って、好ましい実施態様では、本発明による組成物は、本発明による組成物中に存在する組換え核酸分子がゲノム植物核酸配列を側置することを特徴とする。
ここで、ゲノム植物核酸配列は、本組成物の調製に使用される植物細胞または植物のゲノム中に自然に存在する任意の配列であってよい。
【0190】
本発明による組成物中に存在する組換え核酸分子は、核酸分子上に、ヒアルロン酸合成酵素、およびGFAT(酵素)活性を有するタンパク質、およびUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子が存在し、あるいは別々の組換え核酸分子上に記載した核酸分子が存在しうる、個々のまたは様々な組換え核酸分子であってよい。ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子、またはGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子は、一緒になって一組換え核酸分子上に存在することも、または任意の可能な組合せで記載した核酸分子の2個が、一緒になって一組換え核酸分子上に存在し、第3の核酸分子は別の組換え核酸分子上に存在することも、あるいは記載した3個全ての核酸分子がいずれの場合にも個々の別々の組換え核酸分子上に存在することも可能である。本発明による組成物中にどのようにヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子、またはGFAT(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子、またはUDP−Glc−DH(酵素)活性を有するタンパク質をコードする核酸分子が存在するかに応じて、これらの側面に同一または異なるゲノム植物核酸配列が配置されてもよい。
【0191】
本発明による組成物が組換え核酸分子を含むことは、当業者に公知の方法、例えば、ハイブリダイゼーションに基づく方法、または好ましくは、PCRに基づく方法(ポリメラーゼ連鎖反応)を使用して実証することができる。
【0192】
好ましくは、本発明による組成物は、ヒアルロン酸を少なくとも0.005%、特に少なくとも0.01%、特に好ましくは少なくとも0.05%、特に好ましくは少なくとも0.1%を含む。
【0193】
好ましくは、本発明による組成物は、ヒアルロン酸を多くても5%、好ましくは多くても2%、特に好ましくは多くても1%、特に好ましくは少なくとも0.5%を含む。
【0194】
既に上記したように、食品または食餌を調製するために、本発明による遺伝子改変型植物細胞、本発明による遺伝子改変型植物、本発明による増殖物質、本発明による収穫可能植物部分、本発明による加工可能植物部分、本発明による消費可能植物部分、または本発明による方法によって得られる植物を使用することができる。しかし、ヒアルロン酸を単離しなくても、工業的適用の原料として使用することも可能である。すなわち、例えば、土壌の保水力を高めるために、本発明による遺伝子改変型植物または本発明による遺伝子改変型植物の部分を農業的培養下領域に適用することができる。さらに、本発明による遺伝子改変型植物または本発明による遺伝子改変型植物細胞は、乾燥剤(例えば、出荷時使用、湿気感受性品目)または液体吸収剤(例えば、漏水した液体を吸収するためのナプキン)の調製に使用することができる。そのような適用には、本発明による遺伝子改変型植物全体、本発明による遺伝子改変型植物の部分または細分した(例えば磨砕した)本発明による遺伝子改変型植物、または本発明による植物部分を適宜使用することができる。磨砕した植物または植物部分を使用する適用に適切なものは、ヒアルロン酸を含むが、含水率は非常に低い特に植物部分である。これらは、穀類植物(コーン、イネ、コムギ、ライムギ、カラスムギ、オオムギ、サゴヤシ、またはモロコシ)の穀粒であることが好ましい。本発明による遺伝子改変型植物細胞および本発明による遺伝子改変型植物は、文献に記載されている遺伝子導入植物よりもヒアルロン酸含有量が高いので、本発明による遺伝子改変型植物細胞または本発明による遺伝子改変型植物を使用する際には、これらと比較して少ない物質を工業的適用に使用しなければならない。
【0195】
本発明はまた、本発明による組成物を調製する方法であって、本発明による遺伝子改変型植物細胞、本発明による遺伝子改変型植物、本発明による増殖物質、本発明による収穫可能植物部分、本発明による加工可能植物部分、本発明による消費可能植物部分、またはヒアルロン酸を合成する植物を調製するために、本発明による方法によって得られる植物を使用する方法も提供する。本発明による組成物を調製する方法は、食品または食餌を調製するための方法、医薬生成物を調製するための方法、または化粧品を調製するための方法であることが好ましい。
【0196】
食品または食餌を調製するための方法は、当業者には公知である。工業的領域で本発明による遺伝子改変型植物または本発明による植物部分を使用する過程もまた、当業者には公知であり、とりわけ、本発明による遺伝子改変型植物または本発明による植物部分を粉末する工程または磨砕する工程を含むが、それらの排他的に限定されるものではない。食品/食餌を調製するため、または工業的領域で使用するために、本発明による対象物を使用することによって得られる利点の幾つかは既に上に記載している。
【0197】
組成物を調製するための本発明による方法は、ヒアルロン酸を含む組成物を調製する方法であるのが特に好ましい。
【0198】
本発明による組成物を調製する方法によって得られる組成物は、本発明によって得られるものと同様である。
【0199】
本発明はまた、本発明による組成物を調製するための、本発明による遺伝子改変型植物細胞、本発明による遺伝子改変型植物、本発明による増殖物質、本発明による収穫可能植物部分、本発明による加工可能植物部分、本発明による消費可能植物部分、またはヒアルロン酸を合成する植物を調製するために本発明による方法によって得られる植物の使用に関する。本発明による遺伝子改変型植物細胞、本発明による遺伝子改変型植物、本発明による増殖物質、本発明による収穫可能植物部分、本発明による加工可能植物部分、本発明による消費可能植物部分、あるいは食品または食餌を調製するために、医薬を調製するために、または化粧品を調製するために、ヒアルロン酸を合成する植物を調製するための本発明による方法によって得られる植物を使用するのが好ましい。
【0200】
配列の説明
配列番号1:ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸配列。
配列番号2:ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のヒアルロン酸合成酵素のアミノ酸配列。示したアミノ酸配列は、配列番号1から派生させることができる。
配列番号3:ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のヒアルロン酸合成酵素をコードする合成核酸配列。示した配列のコドンの合成は、植物細胞中でのコドンの使用に適合するように実施した。示した核酸配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする。
配列番号4:ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸配列
配列番号5:ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のアミノ酸配列。示したアミノ酸配列は、配列番号4から派生させることができる。
配列番号6:ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする合成核酸配列。示した配列のコドンの合成は、植物細胞中でのコドンの使用に適合するように実施した。示した核酸配列は、配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする。
配列番号7:マウスのGFAT−1活性を有するタンパク質をコードする核酸配列。
配列番号8:マウスのGFAT−1活性を有するタンパク質のアミノ酸配列。示したアミノ酸配列は、配列番号7から派生させることができる。
配列番号9:マウスのGFAT−2活性を有するタンパク質をコードする核酸配列。
配列番号10:マウスのGFAT−2活性を有するタンパク質のアミノ酸配列。示したアミノ酸配列は、配列番号9から派生させることができる。
配列番号11:大腸菌のGFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸配列。
配列番号12:大腸菌のGFAT活性を有するタンパク質のアミノ酸配列。示したアミノ酸配列は、配列番号11から派生させることができる。
配列番号13:大腸菌のGFAT活性を有するタンパク質をコードする合成核酸配列。示した配列のコドンの合成は、植物細胞中でのコドンの使用に適合するように実施した。示した核酸配列は、配列番号12で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする。
配列番号14:実施例1でプライマーとして使用される合成オリゴヌクレオチド
配列番号15:実施例1でプライマーとして使用される合成オリゴヌクレオチド
【0201】
核酸およびアミノ酸配列のアクセッション番号を含むが、それだけには限らない全ての引用文献を参照として本明細書に援用する。
【0202】
一般的方法
本発明に関連して使用できる方法を以下に記載する。これらの方法は具体的実施態様であるが、本発明はこれらの方法だけには限らない。記載の方法を改変し、かつ/または個々の方法または方法の一部を方法の代替法または代替の一部によって置き換えることによっても、同じように発明を実施できることは当業者には公知である。
【0203】
1.ジャガイモ植物の形質転換
アグロバクテリウムを用いてジャガイモ植物を形質転換する、Rocha-Sosaら,(EMBO J. 8, (1989), 23-29)に記載されている。
【0204】
2.植物組織からのヒアルロン酸の単離
ヒアルロン酸の存在を検出し、植物組織中のヒアルロン酸含有量を定量するために、植物材料を以下のように処理した。水(脱塩、導電率=18MΩ)200μlを塊茎材料約0.3gに加え、研究室用振動ボールミル(MM200、ドイツ、Retsch社製)で混合物を細分した(30Hzで30秒)。次いで、さらに水(脱塩、導電率=18MΩ)800μlを加え、(例えば、ボルテックスミキサーを使用し)混合物をよく混合した。16000×gで5分間遠心分離することによって、細胞残屑および不溶性成分と、上清とを分離した。
【0205】
3.ヒアルロン酸の精製
塊茎約100gの皮を剥き、約1cm大の破片にカットし、水(脱塩、導電率=18MΩ)100mlを加えた後、ワーリングブレンダー中最大速度で約30秒間細分した。次いで、茶漉しを使用して細胞残屑を除去した。除去した細胞残屑を水(脱塩、導電率=18MΩ)300ml中に再懸濁し、再度茶漉しを使用し除去した。得られた2杯の懸濁液(100ml+300ml)を混合し、13000×gで15分間遠心分離した。得られた遠心分離上清にNaClを終濃度が1%に達するまで加えた。NaClが溶解後、2倍量のエタノールを加えることによって析出を行った後、十分に混合し、−20℃で終夜インキュベーションした。次いで、混合物を13000×gで15分間遠心分離機にかけた。この遠心分離後得られた沈殿物を100mlの緩衝液(50mM TrisHCl、pH8.1mM CaCl)に溶解し、次いでプロテイナーゼKを加えて終濃度100μg/mlにし、溶液を42℃で2時間インキュベートした。この後、95℃で10分間インキュベーションした。再度、この溶液の終濃度が1%になるまでNaClを加えた。NaClを溶解後、さらに2倍量のエタノールを加えることによって析出を行い、十分混合し、−20℃で約96時間インキュベーションした。この後、13000×gで15分間遠心分離した。この遠心分離後得られた沈殿物を水(脱塩、導電率=18MΩ)30mlに溶解し、再度、NaClを加えて終濃度1%にした。2倍量のエタノールを加え、十分混合し、終夜−20℃でインキュベーションすることによって、さらに沈殿を行った。さらに13000×gで15分間の遠心分離後に得られた沈殿物を水(脱塩、導電率=18MΩ)20mlに溶解した。
【0206】
遠心分離ろ過することによってさらに精製した。この目的のために、いずれの場合にも、溶解した沈殿物5mlをメンブレンフィルター(CentriconAmicon、孔径10000NMWL、製品番号UCF801096)に通し、その試料を2200×gで遠心分離して、フィルター上に溶液のわずか約3mlを残した。次いで、さらに2回、いずれの場合にも、水(脱塩、導電率=18MΩ)3mlをメンブレン上の溶液に加え、いずれの場合にも、同一条件下で再遠心分離して、最後にフィルター上に溶液のわずか約3mlを残した。遠心分離ろ過後、メンブレン上に依然として存在する溶液を除去し、水(脱塩、導電率=18MΩ)約1.5mlでメンブレンを繰り返し(3〜5回)漱いだ。メンブレン上に依然として存在する全ての溶液と漱いで得られた溶液を混合し、NaClを溶液化した後、そのNaClを加えて終濃度1%にし、2倍量のエタノールを加え、その試料を混合し、−20℃終夜で寝かせることによって沈殿物を得た。さらに13000×gで15分間の遠心分離後に得られた沈殿物を水(脱塩、導電率=18MΩ)4mlに溶解し、次いで凍結乾燥した(0.37mbarの圧力下で24時間、凍結乾燥装置:ドイツ、Osterode在、Christh社製Christ Alpha 1-4)。
【0207】
4.ヒアルロン酸の検出およびヒアルロン酸含有量の定量
市販の試験法(米国コロラド州Corgenix社製ヒアルロン酸(HA)試験キット、製品番号029−001)を使用し、参照としてこれにより本説明に組み込む、その製造業者の使用説明書に従ってヒアルロン酸を検出した。試験の原理は、ヒアルロン酸に特異的に結合するタンパク質(HARP)の利用能に基づき、ELISAと同様に実施するが、その際、色彩反応は検査する試料中のヒアルロン酸含有量を示す。従って、ヒアルロン酸を定量するためには、測定する試料が所定の限度内になるような濃度で使用すべきである(例えば、:限度を超過し、または到達していないかに応じて、問題の試料を希釈し、または植物組織からヒアルロン酸を抽出するための水の使用を削減する)。
【0208】
並行バッチでは、定量する試料のアリコートをまずヒアルロニダーゼ消化にかけ、次いで市販試験を使用し測定した(米国コロラド州Corgenix社製ヒアルロン酸(HA)試験キット、製品番号029−001)。ヒアルロニダーゼ消化は、ジャガイモ塊茎抽出液を含むヒアルロニダーゼ緩衝液(0.1Mリン酸カリウム緩衝液、pH5.3;150mM NaCl)400μlを使用し、ヒアルロニダーゼ(ヒアルロニダーゼIII型、Sigma社製、製品番号H2251)を5μg(約3単位)加え、37℃で30分間インキュベートすることによって実施した。
【0209】
次いで、いずれの場合にも、1:10希釈して全試料をヒアルロン酸含有量の定量に使用した。
【0210】
5.標準偏差の計算
記載する標準偏差は下式を使用し算出した。
平方根[nΣx−(Σx)/n(n−1)]
[式中、xは個々の測定値の値であり、nは、問題の準偏差を決定するために使用した全測定値の合計である]
【0211】
6.GFAT活性の定量
GFAT活性を有するタンパク質の活性をRachelら,(1996, J. Bacteriol. 178 (8), 2320-2327)の記載の通りに定量する。
【0212】
タンパク質がGFAT活性−1またはGFAT−2を有するかどうか識別するために、Huら,(2004, J. Biol. Chem. 279 (29), 29988-29993)に記載の方法を使用する。
【0213】
7.UDP−Glc−DH活性の定量
UDP−Glc−DH活性を有するタンパク質の活性をSpicedら,(1998, J. Bacteriol. 273 (39), 25117-25124)に記載の通りに定量する。
【0214】
8.トマト植物の形質転換
米国特許第5,565,347号に記載の方法を使用し、アグロバクテリウムを用いてトマト植物を形質転換した。
【0215】
実施例
1.植物発現ベクターIR47−71の調製
プラスミドpBinARは、バイナリーベクタープラスミドpBin19(Bevan, 1984, Nucl Acids Res 12: 8711-8721)の誘導体であり、以下のように構築した。
フラグメントプラスミドpDH51から、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターのヌクレオチド6909−7437を含む529長のフラグメントをEcoR I/Kpn Iとして単離し(Pietrzakら,1986 Nucleic Acids Res. 14, 5858)、pUC18のポリリンカーのEcoR IとKpn I制限部位間に連結した。この方式で、プラスミドpUC18−35Sを形成した。制限エンドヌクレアーゼHind IIIおよびPvu IIを使用し、TiプラスミドpTiACH5(Gielenら,1984, EMBO Journal 3, 835-846)(ヌクレオチド11749−11939)のT−DNAのオクトピン合成酵素遺伝子(遺伝子3)のポリアデニル化シグナル(3’末端)を含む192長のフラグメントをプラスミドpAGV40(Herrera-Estrellaら,1983 Nature, 303, 209-213)から単離した。Sph IリンカーをPvu II制限部位に付加した後、フラグメントをpUC18−35SのSph IとHind III制限部位間に連結した。これによりプラスミドpA7が得られた。ここで、EcoR IおよびHind IIIを使用し、35SプロモーターとOcsターミネーターを含むポリリンカー全体を取り出し、適切に切断したベクターpBin19に連結した。これにより植物発現ベクターpBinARが得られた(HofgenおよびWillmitzer, 1990, Plant Science 66, 221-230)。
【0216】
ジャガイモから得たパタチン遺伝子B33のプロモーター(Rocha-Sosaら,1989, EMBO J. 8, 23-29)は、Dra Iフラグメント(ヌクレオチド−1512−+14)として、T4−DNAポリメラーゼを使用し、Sst Iにより切断し、平滑末端にしたベクターpUC19に連結した。これによりプラスミドpUC19−B33が得られた。このプラスミドから、EcoR IとSma Iを使用しB33プロモーターを取り出し、適切に切断したベクターpBinARに連結した。これにより植物発現ベクターpBinB33が得られた。
【0217】
それ以上のクローニング工程を促進するために、MCS(マルチクローニング部位)を伸展した。この目的のために、2本の相補的オリゴヌクレオチドを合成し、95℃で5分間加熱し、徐々に室温に冷まし、良好に固定化(アニーリング)し、pBinB33のSal IとKpn I制限部位間にクローン化した。この目的のために使用したオリゴヌクレオチドは以下の配列を有する。
【0218】
【表1】


得られたプラスミドをIR47−71と名付けた。
【0219】
2.植物発現ベクターpBinARHygの調製
制限エンドヌクレアーゼEcoR IとHind IIIを使用し、35Sプロモーター、Ocsターミネーター、および全マルチクローニング部位を含むフラグメントをpA7から取り出し、同じ制限エンドヌクレアーゼを使用し切断したベクターpBIBHyg(Becker, 1990, Nucleic Acids Res. 18, 203)にクローン化した。得られたプラスミドをpBinARHygと名付けた。
【0220】
3.クローニングベクターIC317−204の調製
制限エンドヌクレアーゼXho IとHind IIIを使用し、OCSターミネーターを含む核酸フラグメントをプラスミドIR47−71から単離し、同じ制限エンドヌクレアーゼにより切断したベクターpBlueScript KS(Stratagene社製、製品番号212207)中にクローン化した。得られたプラスミドをIC306−204と名付けた。
【0221】
制限エンドヌクレアーゼBam HIとEco RIを使用し、B33プロモーターを含む核酸フラグメントをプラスミドIR47−71から単離し、同じ制限エンドヌクレアーゼにより切断したベクターpBlueScript KS(Stratagene社製、製品番号212207)中にクローン化した。得られたプラスミドをIC314−204と名付けた。
【0222】
制限エンドヌクレアーゼBam HIを使用し、OCSターミネーターをIC306−204から単離し、同じ制限エンドヌクレアーゼにより切断したプラスミドIC314−204中にクローン化した。得られたプラスミドをIC317−204と名付けた。
【0223】
4.核酸分子の合成
a) ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子の合成
ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸配列(HAS)をMedigenomix GmbH(ドイツ、ミュンヘン在)により合成し、Invitrogen社製ベクターpCR2.1(製品番号K2000−01)中にクローン化した。得られたプラスミドをIC323−215と名付けた。ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1から得たHASタンパク質をコードする合成核酸配列を配列番号3により示す。ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1から最初に単離した対応する核酸配列を配列番号1により示す。
【0224】
b) ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸分子の合成
ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1から得たUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質をコードする核酸配列をEntelechon GmbHにより合成し、Invitrogen社製ベクターpCR4Topo(製品番号K4510−20)中にクローン化した。得られたプラスミドをIC339−222と名付けた。ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1から得たUDP−Glc−DHタンパク質をコードする合成核酸配列を配列番号6により示す。ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1から最初に単離した対応する核酸配列を配列番号4により示す。
【0225】
c) 大腸菌からのGFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸分子の合成
大腸菌のGFAT活性を有するタンパク質をコードする核酸配列をEntelechon GmbHにより合成し、Invitrogen社製ベクターpCR4Topo(製品番号K4510−20)中にクローン化した。得られたプラスミドをIC373−256と名付けた。大腸菌のGFAT活性を有するタンパク質をコードする合成核酸配列を配列番号13により示す。大腸菌から最初に単離した対応する核酸配列を配列番号11により示す。
【0226】
5.更に別の核酸分子の起源
a) マウスから得たGFAT−1活性を有するタンパク質をコードする核酸分子
GFAT−1活性を有するタンパク質をコードする核酸配列をBioCat GmbH, Heidelberg(Art.No.MMM1013−65346、cDNAクローンMGC:58262、IMAGE:6742987)から購入した。これは、I.M.A.G.E. Konsortium (http://image.llnl.gov)社が製造し、BioCat GmbHが販売しているクローンである。ここで、GFAT−1活性を有するタンパク質をコードするcDNAをInvitrogen社製ベクターpCMV Sport6中にクローン化した。得られたプラスミドをIC365−256と名付けた。IC365−256中に挿入した、マウスから得たGFAT−1活性を有するタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号7で示される核酸配列と比較して、位置1090でのTからCへの塩基交換、および位置2027でのGからAへの塩基交換を有する。これらの塩基交換によって、異なる2個の核酸分子がコードするアミノ酸配列のアミド酸交換が生じることはない。
【0227】
マウスから得たGFAT−1活性を有するタンパク質のコーディング核酸配列を配列番号8に示す。
【0228】
次のクローニング工程を促進するために、制限エンドヌクレアーゼXho IとEco RVを使用し、GFAT−1活性を有するタンパク質をコードする配列をIC365−256から単離し、両端にさらにPac I制限部位を有する、改変したマルチクローニング部位を含むプラスミドpME9(Stratagene社製ベクターpBlueSkript、製品番号212207)であって、同じ制限エンドヌクレアーゼにより既に切断したプラスミド中にクローン化した。得られたプラスミドをIC367−256と名付けた。
【0229】
b) マウスから得たGFAT−2活性を有するタンパク質をコードする核酸分子
マウスから得たGFAT−2活性を有するタンパク質をコードする核酸分子をInvitrogen社から購入した(クローンID4167189、cDNAクローンMGC:18324、IMAGE:4167189)。これは、I.M.A.G.E. Konsortium (http://image.llnl.gov)が製造し、Invitrogen社が販売しているクローンである。ここで、タンパク質をコードするGFAT−2活性を有するcDNAをInvitrogen社製ベクターpCMV Sport6中にクローン化する。プラスミドをIC369−256と名付けた。マウスから得たGFAT−2活性を有するタンパク質をコードする核酸配列を配列番号9により示す。
【0230】
6.ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸配列を含む植物発現ベクターIC341−222の調製
BamH IとXho Iによる制限消化を利用し、ヒアルロン酸合成酵素のコード配列を含む核酸分子をプラスミドIC323−215から単離し、プラスミドIR47−71のBamH IとXho I制限部位中にクローン化した。得られた植物発現ベクターをIC341−222と名付けた。
【0231】
7.マウスから得たGFAT−1活性を有するタンパク質、およびミドリゾウリムシのクロレラウイルス1から得たUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質を含むコーディング核酸配列を含む植物発現ベクターIC370−256およびIC376−256の調製
BamH IとKpn Iによる制限消化を利用し、ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のコード配列を含む核酸分子をプラスミドIC339−222から単離し、同じ制限エンドヌクレアーゼにより切断したプラスミドpA7中にクローン化した。得られたプラスミドをIC342−222と名付けた。
【0232】
Xba IとKpn Iを用いる制限消化によって、ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のコード配列を含む核酸分子をプラスミドIC342−222から単離し、Xba IとKpn Iによって既に切断した発現ベクターpBinAR Hyg中にクローン化した。得られたプラスミドをIC349−222と名付けた。
【0233】
次の工程では、B33プロモーターおよびOCSターミネーターを含む核酸フラグメントであって、Eco IRを使用する制限消化によってIC317−204から単離したフラグメントをIC349−222のEco IR制限部位中にクローン化した。ここで、プロモーター(35SおよびB33)同士が、確実に進行方向が向かい合うように準備する。得られたベクターをIC354−222と名付けた。
【0234】
次のクローニング工程では、Xho IとEco RVを用いる制限消化によって、マウスから得たGFAT−1活性を有するタンパク質のコード配列を含む核酸フラグメントをIC367−256から単離し、Xho IとEcI136 IIによって既に切断したプラスミドIC354−222中にクローン化した。得られた植物発現ベクターをIC370−256と名付けた。
【0235】
プラスミドIC370−256の配列分析後、マウスから得たGFAT−1活性を有するタンパク質のコーディング核酸配列は、プラスミドIC365−256に挿入した核酸配列と比較して2つの位置で改変されていた。配列番号7で示される核酸配列と比較して、プラスミドIC370−256に入れたマウスのGFAT−1活性を有するタンパク質をコードする核酸配列は、位置1160でGからAへ、位置1190でTからCへ、位置1245でTからCへ、および位置2027でGからAへ塩基交換されていることが判明した。この改変された核酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に関して、アミノ酸が位置304でRからQへ、位置366でCからRへ改変されているタンパク質をコードする。
【0236】
正確なマウスのGFAT−1活性を有するタンパク質をコードする核酸配列を含む植物発現ベクターを得るためには、Xho IとEco RVを用いる制限消化によって、マウスから得たGFAT−1活性を有するタンパク質のコード配列を再度IC365−256から単離し、Xho IとEcI136IIによって切断したプラスミドIC354−222中にクローン化した。得られた植物発現ベクターをIC376−256と名付けた。
プラスミドIC376−256に入れたマウスのGFAT−1活性を有するタンパク質をコードする核酸配列は、プラスミド365−256に挿入した、マウスから得たGFAT−1活性を有するタンパク質のコード配列と同一である。この核酸分子がコードするアミノ酸配列を配列番号8により示す。
【0237】
8.マウスから得たGFAT−2活性を有するタンパク質、およびミドリゾウリムシのクロレラウイルス1から得たUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のコーディング核酸配列を含む植物発現ベクターIC372−256の調製
Xho IとEco RVを用いる制限消化によって、マウスから得たGFAT−2活性を有するタンパク質のコード配列を含む核酸フラグメントをIC369−256から単離し、Xho IとEcI136IIによって切断したプラスミドIC354−222中にクローン化した。得られた植物発現ベクターをIC372−256と名付けた。
【0238】
9.大腸菌から得たGFAT活性を有するタンパク質、およびミドリゾウリムシのクロレラウイルス1のUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のコーディング核酸配列を含む植物発現ベクターIC375−271の調製
Xho IとEco RVを用いる制限消化によって、大腸菌から得たGFAT活性を有するタンパク質のコード配列を含む核酸フラグメントをIC373−256から単離し、Xho IとEcI136IIによって切断したプラスミドIC354−222中にクローン化した。得られた植物発現ベクターをIC375−271と名付けた。
【0239】
10.ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子を含む植物発現ベクターによるジャガイモ植物の形質転換
一般的方法の第1項に示した方法を使用し、ジャガイモから得たパタチン遺伝子B33のプロモーターの制御下、ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1から得たヒアルロン酸合成酵素のコーディング核酸配列を含む植物発現ベクターIC341−222を使用し、ジャガイモ植物を形質転換した(Rocha-Sosaら,1989, EMBO J. 8, 23-29)。プラスミドIC341−222で形質転換して得られた遺伝子導入ジャガイモ植物を365ESと名付けた。
【0240】
11.ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子を含む植物発現ベクターで形質転換した遺伝子導入植物の分析
a) 検量線の構築
市販の試験キット(米国コロラド州Corgenix社製ヒアルロン酸(HA)試験キット、製品番号029−001)と共に提供された標準液を使用し、製造業者が記載した方法に従って検量線を構築した。ヒアルロン酸の1600ng/mlでの吸光度を定量するために、製造業者が示唆し提供した標準量を基に、800ng/mlのヒアルロン酸を含む量の2倍を使用した。いずれの場合にも、3個の独立した測定系列を実施し、その対応する平均を定量した。これにより以下の検量線が得られた。
【0241】
【表2】


表1:植物組織中のヒアルロン酸含有量を定量するための検量線を構築する値。ソフトウェア(Microsoft Office Excel 2002, SP2)を用いて、得られた測定値を図に書き入れ、傾向線の関数の方程式を決定した(参照、図1)。E450nmは、波長450nmでの吸光度を示し、s.d.は個々の値の算出した平均値の標準偏差である。
【0242】
b)ジャガイモ塊茎系統365ESの分析
温室で、6cmポットに土を入れ系統365ESの個々の植物を栽培した。いずれの場合にも、一般的方法の第2項に記載する方法に従って、個々の植物のジャガイモ塊茎材料約0.3gを加工した。一般的方法の第4項に記載の方法を使用し、実施例10a)および図1に示す検量線を用いて、それぞれの植物抽出液中に存在するヒアルロン酸量を定量した。ここで、ヒアルロン酸含有量を定量するために、遠心分離後に得られた上清を1:10希釈して使用した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0243】
【表3】


表2:独立した選択した系統365ES遺伝子導入植物によって産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目は、塊茎材料を収穫した植物をさす(ここで、「野生型」は、形質転換されていない植物をさすが、形質転換の出発物質として使用される遺伝子型を有する植物をさす)。2欄目は、ヒアルロン酸含有量の定量に使用される問題の植物の塊茎材料の量を示す。3欄目は、それぞれの植物抽出液の1:10希釈で測定した吸光度を含む。4欄目は、以下のように、希釈係数((3行目の値−0.149)/0.00185)×10を考慮し、回帰直線方程式(参照、図1)を用いて算出した。5欄目は、使用した新鮮重に基づき、(4行目の値/2行目の値)/1000に従って算出したヒアルロン酸量を示す。「n.d.」は未検出を意味する。
【0244】
12.GFAT活性を有するタンパク質、およびUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のコーディング核酸配列を含む植物発現ベクターによるヒアルロン酸合成植物の形質転換
一般的方法の第1項に示した方法を使用し、いずれの場合にも、植物発現ベクターIC370−256、IC376−256、IC372−256、およびIC375271で、ジャガイモ植物系統365ES13および365ES74を形質転換した。
【0245】
プラスミドIC370−256で形質転換し、得られた系統365ES13遺伝子導入ジャガイモ植物を393ESと名付けた。
プラスミドIC370−256で形質転換し、得られた系統365ES74遺伝子導入ジャガイモ植物を394ESと名付けた。
プラスミドIC372−256で形質転換し、得られた系統365ES13遺伝子導入ジャガイモ植物whichを395ESと名付けた。
プラスミドIC372−256で形質転換し、得られた系統365ES74遺伝子導入ジャガイモ植物を396ESと名付けた。
プラスミドIC375−271で形質転換し、得られた系統365ES13遺伝子導入ジャガイモ植物を403ESと名付けた。
プラスミドIC375−271で形質転換し、得られた系統365ES74遺伝子導入ジャガイモ植物を404ESと名付けた。
プラスミドIC376−256で形質転換し、得られた系統365ES13遺伝子導入ジャガイモ植物を408ESと名付けた。
プラスミドIC376−256で形質転換し、得られた系統365ES74遺伝子導入ジャガイモ植物を409ESと名付けた。
【0246】
13.さらに、GFAT活性を有するタンパク質およびUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のコーディング核酸配列を含む植物発現ベクターで形質転換した遺伝子導入ヒアルロン酸合成ジャガイモ植物の分析
温室で、6cmポットに土を入れ、系統393ES、394ES、395ES、396ES、403ES、404ES、および409ESの個々の植物を栽培した。いずれの場合にも、一般的方法の第2項に記載する方法に従って、個々の植物のジャガイモ塊茎または葉材料約0.3gを加工した。一般的方法の第4項に記載の方法を使用し、実施例10a)により得られた検量線であって、各個体の測定系列について新たに得た検量線を用いて、それぞれの植物抽出液中に含まれているヒアルロン酸量を定量した。ここで、ヒアルロン酸含有量を定量するために、個々の試料の測定した吸光値が検量線の直線範囲であるように、いずれの場合にも、遠心分離後に得られた上清を水(脱塩、導電率=18MΩ)で希釈した。様々なプラスミドにより元の形質転換から発生させた植物についての結果を以下に示す。
【0247】
a)系統393ES塊茎の分析
393ESと称する系統の個々の遺伝子導入植物のそれぞれの塊茎について、2個の独立した試料を採取し、いずれの場合にも、別々にヒアルロン酸含有量を定量した。次いで、一般的方法の第5項に示す式を使用し、それぞれの塊茎の個々の測定について得られた値の平均および標準偏差を計算した。野生型と称する植物および365ES13と称する植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES13の植物の子孫の、それぞれ異なる10個の植物の塊茎中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0248】
【表4】


表3:独立して選択した系統393ES遺伝子導入植物の塊茎中に産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、塊茎材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES13は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統393ESを得るために、植物発現ベクターIC370−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。
【0249】
b)系統394ES塊茎の分析
394ESと称する系統の個々の遺伝子導入植物のそれぞれの塊茎について、2個の独立した試料を採取し、いずれの場合にも、別々にヒアルロン酸含有量を定量した。次いで、一般的方法の第5項に示す式を使用し、それぞれの塊茎の個々の測定について得られた値の平均および標準偏差を計算した。野生型と称する植物および365ESと称する植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES74の植物の子孫である、それぞれ、18個の異なる野生植物および26個の異なる系統365ES74植物の塊茎中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0250】
【表5】


表4:独立して選択した系統394ES遺伝子導入植物の塊茎で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、塊茎材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES74は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統394ESを得るために、植物発現ベクターIC370−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。
【0251】
c) 系統395ESの塊茎の分析
395ESと称する系統の個々の遺伝子導入植物のそれぞれの塊茎について、可能であれば、2個の独立した試料を採取し、いずれの場合にも、別々にヒアルロン酸含有量を定量した。次いで、一般的方法の第5項に示す式を使用し、それぞれの塊茎の個々の測定について得られた値の平均および標準偏差を計算した。野生型と称する植物および365ESと称する植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES13の植物の子孫である、それぞれ、10個の異なる野生植物および18個の異なる系統365ES13植物の塊茎中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0252】
【表6】


表5:独立して選択した系統395ES遺伝子導入植物の塊茎で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、塊茎材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES13は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統395ESを得るために、植物発現ベクターIC372−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。標準偏差が示されていない植物の場合には、ただ一個の塊茎試料のヒアルロン酸含有量が定量された。
【0253】
d) 系統395ESの葉の分析
395ESという名で示す系統の植物の各葉のヒアルロン酸含有量を定量した。野生型という名で示す植物および365ESという名で示す植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES13の植物の子孫である、それぞれ、4個の異なる野生植物および9個の異なる系統365ES13植物の葉中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0254】
【表7】


表6:独立して選択した395ES系統遺伝子導入植物の葉で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、塊茎材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES13は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統395ESを得るために、植物発現ベクターIC372−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。標準偏差が示されていない植物の場合には、ただ一枚の葉試料のヒアルロン酸含有量が定量された。
【0255】
e) 系統396ESの塊茎の分析
396と称する系統の個々の遺伝子導入植物のそれぞれの塊茎について、2個の独立した試料を採取し、いずれの場合にも、別々にヒアルロン酸含有量を定量した。次いで、一般的方法の第5項に示す式を使用し、それぞれの塊茎の個々の測定について得られた値の平均および標準偏差を計算した。野生型と称する植物および365ESと称する植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES74の植物の子孫である、それぞれ、12個の異なる野生植物および14個の異なる系統365ES74植物の塊茎中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0256】
【表8】


表7:独立して選択した系統396ES遺伝子導入植物の塊茎で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄行目には、塊茎材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES74は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統396ESを得るために、植物発現ベクターIC372−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。
【0257】
f) 系統396ESの葉の分析
396ESという名で示す系統の植物の各葉のヒアルロン酸含有量を定量した。野生型という名で示す植物および365ESという名で示す植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES13の植物の子孫である、それぞれ、4個の異なる野生植物および6個の異なる系統365ES13植物の葉中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0258】
【表9】


表8:独立して選択した396ES系統遺伝子導入植物の葉で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、葉材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES74は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統396ESを得るために、植物発現ベクターIC372−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。標準偏差が示されていない植物の場合には、ただ一枚の葉試料のヒアルロン酸含有量が定量された。
【0259】
g) 系統403ESの塊茎の分析
403ESと称する系統の個々の遺伝子導入植物のそれぞれの塊茎について、2個の独立した試料を採取し、可能ならば、いずれの場合にも、別々にヒアルロン酸含有量を定量した。次いで、一般的方法の第5項に示す式を使用し、それぞれの塊茎の個々の測定について得られた値の平均および標準偏差を計算した。野生型と称する植物および365ESと称する植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES13の植物の子孫である、それぞれ、10個の異なる野生植物および10個の異なる系統365ES13植物の塊茎中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0260】
【表10】


表9:独立して選択した系統403ES遺伝子導入植物の塊茎で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、塊茎材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES13は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統403ESを得るために、植物発現ベクターIC375−271による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。「n.d.」は、塊茎中でヒアルロン酸を検出できなかったことを意味する。標準偏差が示されていない植物の場合には、ただ一個の塊茎試料のヒアルロン酸含有量が定量された。
【0261】
h) 系統403ESの葉の分析
403ESという名で示す系統の植物の各葉のヒアルロン酸含有量を定量した。野生型という名で示す植物および365ESという名で示す植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES13の植物の子孫である、それぞれ、5個の異なる野生植物および5個の異なる系統365ES13植物の葉中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0262】
【表11】


表10:独立して選択した403ES系統遺伝子導入植物の葉で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、葉材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES13は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統403ESを得るために、植物発現ベクターIC375−271による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。標準偏差が示されていない植物の場合には、ただ一枚の葉試料のヒアルロン酸含有量が定量された。
【0263】
i) 系統404ESの塊茎の分析
404ESと称する系統の個々の遺伝子導入植物のそれぞれの塊茎について、2個の独立した試料を採取し、可能ならば、いずれの場合にも、別々にヒアルロン酸含有量を定量した。次いで、一般的方法の第5項に示す式を使用し、それぞれの塊茎の個々の測定について得られた値の平均および標準偏差を計算した。野生型と称する植物および365ESと称する植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES74の植物の子孫である、それぞれ、10個の異なる野生植物および12個の異なる系統365ES74植物の塊茎中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0264】
【表12】


表11:独立して選択した系統404ES遺伝子導入植物の塊茎で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、塊茎材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES74は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統404ESを得るために、植物発現ベクターIC375−271による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。「n.d.」は、塊茎中にヒアルロン酸を検出できなかったことを意味する。標準偏差が示されていない植物の場合には、ただ一個の塊茎試料のヒアルロン酸含有量が定量された。
【0265】
j) 系統404ESの葉の分析
404ESという名で示す系統の植物の各葉のヒアルロン酸含有量を定量した。野生型という名で示す植物および365ESという名で示す植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES74の植物の子孫である、それぞれ、7個の異なる野生植物および9個の異なる系統365ES74植物の葉中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0266】
【表13】


表12:独立して選択した404ES系統遺伝子導入植物の葉で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、葉材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES74は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統404ESを得るために、植物発現ベクターIC375−271による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の葉ついて定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。標準偏差が示されていない植物の場合には、ただ一枚の葉試料のヒアルロン酸含有量が定量された。
【0267】
k) 系統409ESの塊茎の分析
409ESと称する系統の個々の遺伝子導入植物のそれぞれの塊茎について、試料を採取し、いずれの場合にも、ヒアルロン酸含有量を定量した。野生型と称する植物および365ESと称する植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES74の植物の子孫である、それぞれ、4個の異なる野生植物および6個の異なる系統365ES74植物の塊茎中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。一般的方法の第5項に示す式を使用し、それぞれの塊茎の個々の測定について得られた値の平均および標準偏差を算出した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0268】
【表14】


表13:独立して選択した系統409ES遺伝子導入植物の塊茎で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、塊茎材料を収穫した植物名が含まれる(ここで、「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES74は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統409ESを得るために、植物発現ベクターIC375−271による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の塊茎について定量したヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。「n.d.」は、塊茎中にヒアルロン酸を検出できなかったことを意味する。標準偏差が示されていない植物の場合には、ただ一個の塊茎試料のヒアルロン酸含有量が定量された。
【0269】
I) 系統409ESの葉の分析
409ESという名で示す系統の植物の各葉のヒアルロン酸含有量を定量した。野生型という名で示す植物および365ESという名で示す植物について、いずれの場合にも、野生型(ジャガイモcv. Desiree)および系統365ES74の植物の子孫である、それぞれ、4個の異なる野生植物および6個の異なる系統365ES74植物の葉中のヒアルロン酸量を算出することによって、記載した平均および標準偏差を計算した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0270】
【表15】


表14:独立して選択した409ES系統遺伝子導入植物の葉で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目には、葉材料を収穫した植物名が含まれる(「野生型」は形質転換されていない植物をさし、365ES74は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統409ESを得るために、植物発現ベクターIC376−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす)。2欄目は、問題の葉について定量したヒアルロン酸量を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。「n.d.」は、塊茎中でヒアルロン酸が検出できなかったことを意味する。標準偏差が示されていない植物の場合には、ただ一枚の葉試料のヒアルロン酸含有量が定量された。
【0271】
m)新鮮重に関して、そして乾物重に関してヒアルロン酸含有量を定量
問題の植物の塊茎を収穫する前に、395ESおよび396ES系統の植物の個々の葉を植物から外し、中央で分割した。それぞれ個々の葉の半分をいずれの場合にも、液体窒素で凍結し、対応する他方の半分を終夜凍結乾燥した。
【0272】
凍結葉試料の葉材料約0.3gまたは凍結乾燥葉試料の葉材料約0.02gを研究室用振動ボールミル(MM200、ドイツ、Retsch社製)(30HZで30秒)で細分した。次いで、水(脱塩、導電率=18MΩ)300μlをそれぞれ個々の細分した試料に加え、次いでボルテックスミキサーを使用して、十分に混合し、次いで遠心分離(16000×gで5分)によって、細胞残屑および不溶性成分と、上清とを分離した。上清を除去し、各試料を水(脱塩、導電率=18MΩ)により500μlにした。一般的方法の第4項に記載の方法を使用し、この方式で調製した試料のアリコートを使用してヒアルロン酸含有量を定量した。一般的方法の第5項に示す式を使用し、平均および標準偏差を算出した。選択した植物について以下の結果が得られた。
【0273】
【表16】


表15:独立して選択した395ESおよび396ES系統遺伝子導入植物の葉で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目は、葉材料を収穫した植物名である。365ES13は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統395ESを得るために、植物発現ベクターIC372−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす。365ES74は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統396ESを得るために、植物発現ベクターIC372−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす。2欄目は、問題の植物の異なる葉について定量したヒアルロン酸量を示す。3欄目は、植物の異なる葉で測定したヒアルロン酸量の平均を示す。4欄目は、定量した平均の標準偏差を示す。
【0274】
【表17】


表16:独立して選択した395ESおよび396ES系統遺伝子導入植物の葉で産生されたヒアルロン酸量(乾物重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目は、葉材料を収穫した植物名である。365−ES13は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統395ESを得るために、植物発現ベクターIC372−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす。365ES74は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、系統396ESを得るために、植物発現ベクターIC372−256による形質転換の出発物質として使用した植物をさす。2欄目は、問題の植物の異なる葉について定量したヒアルロン酸量を示す。3欄目は、植物の異なる葉で測定したヒアルロン酸量の平均を示す。4欄目は、定量した平均の標準偏差を示す。
【0275】
14.ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子を含む植物発現ベクターによるトマト植物の形質転換
一般的方法の第8項に示した方法を使用し、ジャガイモから得たパタチン遺伝子B33のプロモーターの制御下(Rocha-Sosaら,1989, EMBO J. 8, 23-29)、ミドリゾウリムシのクロレラウイルス1から得たHASタンパク質のコーディング核酸配列を含む植物発現ベクターIC341−222を使用し、トマト植物をまず形質転換した。プラスミドIC341−222で形質転換し、得られた遺伝子導入トマト植物を367ESと名付けた。
【0276】
次いで、一般的方法の第8項に示した方法を使用し、367ES25および367ES42系統のトマト植物を植物発現ベクターIC341−222で形質転換した。プラスミドIC341−222で形質転換し、得られた系統367ES25の遺伝子導入トマト植物を399ESと名付けた。プラスミドIC341−222で形質転換し、得られた系統367ES42の遺伝子導入トマト植物を400ESと名付けた。
【0277】
次いで、一般的方法の第8項に示した方法を使用し、367ES25系統のトマト植物を植物発現ベクターIC375−271で形質転換した。プラスミドIC375−271で形質転換し、得られた系統367ES25の遺伝子導入トマト植物を405ESと名付けた。
【0278】
15.さらに、GFAT活性を有するタンパク質、およびUDP−Glc−DH活性を有するタンパク質のコーディング核酸配列を含む植物発現ベクターで形質転換した遺伝子導入ヒアルロン酸合成トマト植物の分析
a) 399ESおよび400ES系統トマト植物の葉
温室で土壌培養した、選択した異なる399ESおよび400ES系統トマト植物から、いずれの場合にも、一葉を収穫し液体窒素により凍結した。ジャガイモ植物の葉について実施例11b)に記載したように、ヒアルロン酸含有量をさらに検査し定量した。以下の結果が得られた。
【0279】
【表18】


表17:独立して選択した399ESおよび400ES系統遺伝子導入植物の葉で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目は、葉材料を収穫した植物をさす。367ES25および367ES42は、ヒアルロン酸合成酵素を発現し、それぞれ、系統399ESおよび400ESを得るために、植物発現ベクターIC372−256による形質転換の出発物質として使用した異なる植物を表す。2欄目は、問題の植物の葉で定量されたヒアルロン酸量の値を示す。野生型は、形質転換されていない植物をさす。
【0280】
b)399ESおよび400ES系統のトマト植物果
温室で土壌培養した、選択した異なる399ESおよび400ES系統トマト植物のうち、いずれの場合にも、熟した果実を収穫し、細分し、遠心分離し、遠心分離後上清をろ過した。ろ液を更に検査しジャガイモ植物の葉について実施例11b)に記載したように、ヒアルロン酸含有量の定量を実施した。以下の結果が得られた。
【0281】
【表19】


表18:独立して選択した399ESおよび400ES系統遺伝子導入植物の熟した果実で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目は、葉材料を収穫した植物をさす。367ES25−1および267ES−2は植物367ES25の異なるクローン子孫をさし、367ES42−1および267ES42−2は植物367ES42の異なるクローン子孫をさす。2欄目は、問題の植物果で定量されたヒアルロン酸量の平均を示す。この目的のために、いずれの場合にも、問題の系統の異なる果実3個(系統399ES−1、400ES3)、5個(系統367ES−25−1、325ES−2、367ES42−1、367ES42−2)または6個(系統399ES−11)中のヒアルロン酸含有量を定量した。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。
【0282】
c) 405ES系統のトマト植物果
温室で土壌培養した、選択した異なる405ES系統トマト植物のうち、いずれの場合にも、熟した果実を収穫し、細分し、遠心分離し、遠心分離後上清をろ過した。ジャガイモ植物の葉について実施例11b)に記載したように、ろ液を更に検査しヒアルロン酸含有量の定量を実施した。以下の結果が得られた。
【0283】
【表20】


表19:独立して選択した405ES系統遺伝子導入植物の熟した果実で産生されたヒアルロン酸量(新鮮重1g当たりのヒアルロン酸μg)。1欄目は、葉材料を収穫した植物をさす。367ES25−8および367ES25−9は、異なる植物367ES25のクローン子孫をさす。後尾に足したラテン数字は、それぞれの植物での異なる果実をさす。(「wt」は、形質転換されていない植物をさす)2欄目は、問題の植物の異なる果で測定されたヒアルロン酸量の平均を示す。3欄目は、決定した平均値の標準偏差を示す。
【0284】
16) 結論
植物の異なる葉のヒアルロン酸含有量を定量したとき、一般的に、同じ植物の幼葉よりも同じ植物の古葉に多くのヒアルロン酸が含まれていることが判明した。従って、葉のヒアルロン酸含有量は、葉の時齢と共に増加するように思われ、従ってヒアルロン酸は経時的に蓄積すると想定できる。この現象から、同じ系統の子孫を独立に測定する毎にヒアルロン酸量が異なることが説明できる。
【図面の簡単な説明】
【0285】
【図1】植物組織中のヒアルロン酸含有量を算出するために使用する回帰直線の検量線および対応する方程式を示す図である。市販の試験キット(米国コロラド州Corgenix社製ヒアルロン酸(HA)試験キット、製品番号029−001)およびそれと共に提供された標準液を用いて検量線を確立した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸合成酵素をコードする核酸分子がそのゲノム中に安定して組み込まれた遺伝子改変型植物細胞であって、該植物細胞においてさらに、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質の活性およびUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(UDP−Glc−DH)活性を有するタンパク質の活性が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大している、遺伝子改変型植物細胞。
【請求項2】
一つの外来核酸分子がそのゲノム中に安定して組み込まれ、または複数の外来核酸分子がゲノム中に安定して組み込まれた請求項1に記載の遺伝子改変型植物細胞であって、一個の該外来核酸分子または複数の該外来核酸分子によって、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質の活性ならびにUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(UDP−Glc−DH)活性を有するタンパク質の活性が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大する、遺伝子改変型植物細胞。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子改変型植物細胞であって、第1の外来核酸分子が、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質をコードし、かつ第2の外来核酸分子が、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(UDP−Gluc−DH)活性を有するタンパク質をコードしている、遺伝子改変型植物細胞。
【請求項4】
請求項1、2、または3のいずれか一項に記載の遺伝子改変型植物細胞であって、該細胞が合成するヒアルロン酸の量が、ヒアルロン酸合成酵素活性を有するが、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性が増大されておらず、かつUDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性が増大されていない植物細胞に比較して増大している、遺伝子改変型植物細胞。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の遺伝子改変型植物細胞を含む植物。
【請求項6】
請求項5に記載の植物の増殖材料であって、請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子改変植物細胞を含む、材料。
【請求項7】
請求項5に記載の植物の収穫可能な植物部分であって、請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子改変型植物細胞を含む、植物部分。
【請求項8】
ヒアルロン酸を合成する植物を調製する方法であって、
a)植物細胞を遺伝的に改変すること、ここで、その遺伝子改変は以下の工程i〜iiiを含む:
i)植物細胞にヒアルロン酸合成酵素をコードする外来核酸分子を導入する工程、
ii)前記植物細胞に遺伝子改変を導入し、その遺伝子改変によって、グルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質の活性が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大する工程、
iii)前記植物細胞に遺伝子改変を導入し、その遺伝子改変によって、グルタミン:フルクトース6−リン酸UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質の活性が、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大する工程、
ここで、工程i〜iiiは任意の順序で独立して行うことができ、あるいは工程i〜iiiの任意の組合せを同時に行うことができ、
b)工程a)の植物細胞から植物を再生すること、
c)適切であれば、工程b)による前記植物を使用してさらに植物を作成すること
を含み、
ここで、適切であれば、ヒアルロン酸合成酵素をコードする外来核酸分子を有し、対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大したグルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)活性を有するタンパク質の活性を有し、かつ対応する遺伝子非改変型野生植物細胞に比較して増大したグルタミン:フルクトース6−リン酸UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質の活性を有する植物が作成されるまで工程b)またはc)による植物から植物細胞を単離して工程a)〜c)を繰り返す方法。
【請求項9】
ヒアルロン酸を調製する方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子改変植物細胞から、請求項5に記載の植物から、請求項6に記載の増殖材料から、請求項7に記載の収穫可能な植物部分から、または請求項8に記載の方法によって得られる植物からヒアルロン酸を抽出する工程を含む方法。
【請求項10】
ヒアルロン酸を調製するために、請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子改変植物細胞、請求項5に記載の植物、請求項6に記載の増殖材料、請求項7に記載の収穫可能な植物部分、または請求項8に記載の方法によって得られる植物の使用。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子改変型植物細胞を含む組成物。
【請求項12】
ヒアルロン酸を含む組成物を調製する方法であって、該方法において請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子改変植物細胞、請求項5に記載の植物、請求項6に記載の増殖材料、請求項7に記載の収穫可能な植物部分、または請求項8に記載の方法によって得られる植物が使用される方法。
【請求項13】
請求項11に記載の組成物を調製するための、請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子改変植物細胞、請求項5に記載の植物、請求項6に記載の増殖材料、請求項7に記載の収穫可能な植物部分、または請求項8に記載の方法によって得られる植物の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−509557(P2009−509557A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533953(P2008−533953)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009775
【国際公開番号】WO2007/039316
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(507203353)バイエル・クロップサイエンス・アーゲー (172)
【氏名又は名称原語表記】BAYER CROPSCIENCE AG
【Fターム(参考)】