説明

改善された安定性を有する酸性インスリン調製物

【課題】 安定性に優れた酸性インスリン調製物を提供する。
【解決手段】 インスリン、インスリン代謝産物、インスリン類似体、インスリン誘導体又はその組み合わせからなる群から選択されるポリペプチドを含み、そしてまた界面活性剤または数種の界面活性剤の組み合わせ、場合により保存剤または数種の保存剤の組み合わせ、および場合により等張化剤、緩衝剤または他の助剤またはその組み合わせを含む医薬製剤を提供する。本発明によれば、該医薬製剤は酸性pH値を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン、インスリン代謝産物、インスリン類似体、インスリン誘導体又はその組み合わせからなる群から選択されるポリペプチド;界面活性剤または2種またはそれ以上の界面活性剤の組み合わせ;場合により保存剤または2種またはそれ以上の保存剤の組み合わせ;および場合により等張化剤、緩衝剤または他の添加剤またはその組み合わせを含み、医薬製剤が酸性範囲のpHを有する、医薬製剤に関する。これらの製剤は、糖尿病の処置に使用することができ、そして熱的および/または物理機械的ストレスに対して高い安定性が要求される調製物のために特に適している。同様に本発明は、このような製剤を含み、糖尿病に使用することができる非経口用調製物、ならびにこの調製物の製造のための、およびインスリン調製物の安定性を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で約12,000万の人々が糖尿病を患っている。そのうち約1,200万人がI型糖尿病であり、彼らに対しては欠乏したホルモン性インスリン分泌の置換が現在可能な唯一の治療法である。罹患した人々の寿命は、原則として毎日数回のインスリン注射に依存する。I型糖尿病に対して、II型糖尿病では基本的にインスリン欠乏はないが、多くの場合、特に進行した状態では、場合により経口抗糖尿病剤と組み合わせたインスリンによる処置が最も好ましい治療形態と考えられる。
【0003】
健康人では、膵臓によるインスリンの放出は、血糖濃度と厳密に結びついている。食後に起きるような高まった血糖レベルは、インスリン分泌の相当する増加により迅速に代償される。絶食状態では、血漿インスリンレベルは、インスリン感受性器官および組織がグルコースを連続的に供給するのを保証し、かつ肝グルコース生成を夜間に低く保つために十分である基底値に低下する。内因性インスリン分泌を、外因性インスリン、大部分はインスリンの皮下投与で置き換えても、原則として上記の血糖の生理的調節の質は概して達成されない。血糖の上下の偏りがしばしば起こり、これは、その最も重篤な形態では生命を脅かすことがある。しかしながら、加えて、初期症状なしに数年間上昇した血糖レベルは、かなりの健康リスクである。アメリカにおける大規模なDCCT研究(The Diabetes Control and Complications Trial Research Group(1993)N.Engl.J.Med.329,977−986)は、慢性的に高まった血糖レベルが、糖尿病性後発損傷の発展が原因であることを明確に実証した。糖尿病性後発損傷は、一定の状況下で網膜症、腎障害または神経障害として示される微小血管および巨大血管の損傷であり、視覚の喪失、腎不全および四肢の喪失をもたらし、さらに心臓血管病の増大したリスクを伴う。これから導かれるべきことは、糖尿病の改善された治療法が血糖を可能な限り生理的範囲付近に保つことを主として目指すことである。強化インスリン療法の概念によれば、これは、急速および緩徐作用性インスリン調製物を毎日反復注射することによって達成されるべきである。急速作用性製剤は、血糖の食後上昇をなくすために食事のときに与えられる。緩徐作用性基礎インスリンは、低血糖に導くことなく、特に夜間のインスリンの基本的供給を保証すべきである。
【0004】
インスリンは、51のアミノ酸のポリペプチドであり、これらは2つのアミノ酸鎖:21のアミノ酸を有するA鎖および30のアミノ酸を有するB鎖に分けられる。これらの鎖は、2つのジスルフィド橋により互いに結合されている。インスリン調製物は糖尿病治療のために長年採用されている。この場合に天然インスリンが用いられるだけでなく、最近はインスリンの誘導体および類似体も用いられる。
【0005】
インスリン類似体は、天然インスリン、すなわちヒトインスリンまたは動物インスリン
の類似体であり、これらは、少なくとも1個の天然アミノ酸残基が他のアミノ酸で置換されていること、そして/またはその他の点では同一の相当する天然インスリンに、またはそれから、少なくとも1個のアミノ酸残基が付加または除去されていることによって異なる。また、この場合のアミノ酸は天然に存在しないものであってもよい。
【0006】
インスリン誘導体は、化学改変により得られる天然インスリンまたはインスリン類似体の誘導体である。化学改変は、例えば、1個またはそれ以上のアミノ酸への1個またはそれ以上の特定の化学基の付加からなることができる。原則として、インスリン誘導体およびインスリン類似体は、ヒトインスリンと比べて幾分改変された作用を有する。
【0007】
促進された作用の発生を有するインスリン類似体は、EP 0 214 826、EP
0 375 437およびEP 0 678 522に記載されている。EP 0 124 826は、特にB27およびB28の置換に関する。EP 0 678 522は、B29位に種々のアミノ酸、好ましくはプロリンを有するが、グルタミン酸を有さないインスリン類似体を記載している。
【0008】
EP 0 375 437は、B28にリジンまたはアルギニンを有するインスリン類似体を包含し、これらは場合によりB3および/またはA21がさらに改変されていてもよい。
【0009】
EP 0 419 504には、化学改変に対して保護されたインスリン類似体が開示されており、この場合、B3のアスパラギンおよびA5、A15、A18またはA21位の少なくとも1個の他のアミノ酸が改変されている。
【0010】
原則として、インスリン誘導体およびインスリン類似体は、ヒトインスリンと比べて幾分改変された作用を有する。
【0011】
WO 92/00321には、B1〜B6位の少なくとも1個のアミノ酸がリジンまたはアルギニンで置換されたインスリン類似体が記載されている。WO 92/00321によれば、この種のインスリンは延長した作用を有する。EP−A 0 368 187に記載されたインスリン類似体も遅延作用を有する。
【0012】
インスリン置換のために市販されている天然インスリンのインスリン調製物は、インスリンの起源(例えばウシ、ブタ、ヒトインスリン)、そしてまた組成が異なり、これにより作用のプロフィール(作用の開始および作用の持続時間)に影響を与えることができる。種々のインスリン調製物を組み合わせることにより、極めて異なる作用プロフィールを得ることができ、そして可能な限り生理的である血糖値を得ることができる。今日、組換えDNA技術は、このような改変インスリンの製造を可能にしている。これらは、延長した作用持続時間を有するインスリングラルギン(glargine)(Gly(A21)−Arg(B31)−Arg(B32)−ヒトインスリン)を包含する。インスリングラルギンは酸性透明溶液として注射され、皮下組織の生理的pH範囲でのその溶液性質のために安定な6量体会合物として沈殿する。インスリングラルギンは1日1回注射され、長期作用性インスリンと比較して、その平坦な血清プロフィールおよびそれに関連する夜間低血糖の危険を減少することが異なる(Schubert−Zsilaveczら,2;125−130(2001))。
【0013】
延長した作用持続時間をもたらすインスリングラルギンの特定の調製物は、上記の調製物に対して、酸性pHを有する透明溶液であることを特徴とする。しかしながら、特に酸性pHで、インスリンは熱的および物理機械的ストレスにおいて低下した安定性および増大した凝集傾向を示し、これは濁りおよび沈殿の形に感じさせることがある(粒子の形成
)(Brangeら,J.Ph.Sci 86:517−525(1997))。
【0014】
凝集傾向は、溶液と接触する疎水性表面によってさらに促進されることがある(Sluzkyら,Proc.Natl.Acad.Sci.88:9377−9381(1991))。疎水性と考えることのできる表面は、調製物のガラス容器、密閉キャップの栓材料または溶液と空気上清との境界面である。加えて、極めて微小なシリコーン油滴は、普通のシリコーン処理インスリンシリンジにより毎日のインスリン投与を行う際に、追加の疎水性凝集核として機能することがあり、その経過を促進することがある。
【0015】
WO 01/43762は、ポリペプチドおよびグリセロールを含む水性非経口医薬調製物を記載しており、この場合、調製物の安定化はグリセロールの脱安定化成分の精製除去によって達成しようとしている。WO 00/23098は、肺投与のためにポリソルベート20またはポロクサマー(poloxamer)188を用いて安定化したインスリン調製物を記載しているが、酸性溶液中での凝集核に対する安定化を記載していない。
【0016】
国際特許出願PCT/EP02/02625(未公開)は、界面活性剤の添加により室温および体温ならびに機械的ストレスに対して改善された安定性を有する亜鉛不含および低亜鉛インスリン調製物を記載しているが、酸性溶液中での疎水性凝集核に対する安定化を記載していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の課題は、熱的または物理機械的応力負荷のためのストレスに対して高い長期安定性によって優れており、かつ疎水性凝集核による高いストレスに耐える、界面活性剤を含む酸可溶性インスリンの調製物を見出すことに基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚くべきことに、界面活性剤の添加が酸性インスリン調製物の安定性を大きく高めることができ、従って疎水性凝集核に対して熱的ストレス下で数ヵ月間の優れた安定性を保証する調製物をも製造できることを見出した。
【0019】
本医薬調製物は、60〜6000nmol/ml、好ましくは240〜3000nmol/mlのインスリン、インスリン代謝産物、インスリン類似体またはインスリン誘導体を含む。
【0020】
使用できる界面活性剤は、特に非イオン界面活性剤である。特に、例えば:多価アルコール、例えばグリセロール、ソルビトールなどの部分および脂肪酸エステルおよびエーテル(Span(登録商標)、Tween(登録商標)、特にTween(登録商標)20およびTween(登録商標)80、Myrj(登録商標)、Brij(登録商標))、Cremophor(登録商標)またはポリオキサマーのような製薬上慣用の界面活性剤が好ましい。界面活性剤は、医薬組成物中に5〜200μg/ml、好ましくは5〜120μg/ml、特に好ましくは20〜75μg/mlの濃度で存在する。
【0021】
本調製物は、保存剤(例えばフェノール、クレゾール、パラベン)、等張化剤(例えばマンニトール、ソルビトール、ラクトース、デキストロース、トレハロース、塩化ナトリウム、グリセロール)、緩衝物質、塩、酸およびアルカリ、そしてまた他の添加剤をさらに含むことができる。これらの物質は、それぞれの場合に単独でまたは混合物として存在することができる。
【0022】
グリセロール、デキストロース、ラクトース、ソルビトールおよびマンニトールは、通
常は医薬組成物中に100〜250mMの濃度で、NaClは150mMまでの濃度で存在する。例えばリン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、アルギニン、グリシルグリシンまたはTRIS(すなわち、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)緩衝剤および相当する塩のような緩衝物質は、5〜250mM、好ましくは10〜100mMの濃度で存在する。他の添加剤、特に塩またはアルギニンが存在していてもよい。
【0023】
従って、本発明は、インスリン、インスリン類似体、インスリン誘導体、活性インスリン代謝産物又はその組み合わせからなる群から選択されるポリペプチド;界面活性剤または2種またはそれ以上の界面活性剤の組み合わせ;場合により保存剤または2種またはそれ以上の保存剤の組み合わせ;および場合により等張化剤、緩衝剤および/または他の添加剤またはその組み合わせを含み、医薬製剤が酸性範囲のpH(pH1〜6.8)、好ま
しくはpH3.5〜6.8、実に特に好ましくはpH3.5〜4.5を有する透明溶液である、医薬製剤に関する。
【0024】
このような医薬製剤は、次の場合が好ましい。すなわち、界面活性剤が、多価アルコール、例えばグリセロールおよびソルビトールの部分および脂肪酸エステルおよびエーテル、ポリオールからなる群から選択される;グリセロールおよびソルビトールの部分および脂肪酸エステルおよびエーテルが、Span(登録商標)、Tween(登録商標)、Myrj(登録商標)、Brij(登録商標)、Cremophor(登録商標)からなる群から選択される;ポリオールが、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポロクサマー、プルロニクス(Pluronics)、テトロニクス(Tetronics)からなる群から選択される;保存剤が、フェノール、クレゾール、パラベンからなる群から選択される;等張化剤が、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセロールからなる群から選択される;添加剤が、緩衝物質、酸、アルカリからなる群から選択される;
インスリン類似体が、Gly(A21)−Arg(B31)−Arg(B32)−ヒトインスリン;Lys(B3)−Glu(B29)−ヒトインスリン;LysB28ProB29ヒトインスリン、B28Asp−ヒトインスリン、B28位のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaで置換されており、かつB29位のLysがProで置換されていてもよいヒトインスリン;AlaB26−ヒトインスリン;des(B28−B30)−ヒトインスリン;des(B27)−ヒトインスリンまたはdes(B30)−ヒトインスリンからなる群から選択される;
インスリン誘導体が、B29−N−ミリストイル−des(B30)ヒトインスリン、B29−N−パルミトイル−des(B30)ヒトインスリン、B29−N−ミリストイルヒトインスリン、B29−N−パルミトイルヒトインスリン、B28−N−ミリストイル−LysB28ProB29ヒトインスリン、B28−N−パルミトイル−LysB28ProB29ヒトインスリン、B30−N−ミリストイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン、B30−N−パルミトイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン、B29−N−(N−パルミトイル−γ−グルタミル)−des(B39)ヒトインスリン、B29−N−(N−リトコリル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン、B29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)−des(B30)ヒトインスリンおよびB29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンからなる群から選択される。
【0025】
本発明のもう一つの課題は、インスリン、インスリン類似体、活性インスリン代謝産物および/またはインスリン誘導体が、60〜6000nmol/mlの濃度、好ましくは240〜3000nmol/mlの濃度(これは1.4〜35mg/mlまたは40〜5
00単位/mlの濃度にほぼ相当する)で存在し;
界面活性剤が、5〜200μg/ml、好ましくは5〜120μg/ml、特に好ましくは20〜75μg/mlの濃度で存在する、上記のような医薬製剤である。
【0026】
本発明のもう一つの課題は、グリセロールおよび/またはマンニトールが、100〜250mMの濃度で存在し、そして/またはNaClが、好ましくは150mMまでの濃度で存在する、上記のような医薬製剤である。
【0027】
本発明のもう一つの課題は、緩衝物質が5〜250mMの濃度で存在する、上記のような医薬組成物である。
【0028】
本発明のもう一つの課題は、例えば、インスリンの放出を遅延させる塩のような他の添加物を含む、医薬インスリン製剤である。このような遅延放出インスリンと上記の製剤との混合物も包含される。
【0029】
本発明のもう一つの課題は、このような医薬製剤の製造方法である。同様に、本発明のもう一つの課題は、糖尿病の処置のための、このような製剤の使用である。
【0030】
本発明のもう一つの課題は、インスリン、インスリン類似体またはインスリン誘導体、またはそれらの調製物の製造工程中における、安定剤としての界面活性剤の使用または添加である。
【0031】
本発明を若干の実施例により以下に記載するが、それらが限定的に機能することを決して意図するものではない。
【実施例】
【0032】
下記の実施例は、限定的に機能することなしに本発明の概念をより詳細に説明することを意図している。
【0033】
比較研究: インスリン類似体であるインスリングラルギン(Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)−ヒトインスリン)を含む種々の調製物を製造する。この目的で、インスリングラルギン1部の注射用水に懸濁させ、pH3〜4で溶解し、他の成分を添加し、塩酸/NaClを用いてpHを4.0+/−0.2に調節し、この混合物を最終体積にする。以下に記載する実験のそれぞれにおけるインスリングラルギンの濃度は、3.6378mg/mlである(100単位/mlに相当する)。第二の調製物を同様
に製造するが、特定量の界面活性剤をさらに添加する。これらの溶液を100mlガラス容器(バイアル)に充填し、クリンプキャップで栓をする。これらの容器を、模倣した使用中または物理機械的ストレス条件に曝露する:
1. 使用中の試験: 容器を折り返し蓋付き箱に入れ、28日の調査期間中+25℃および制御した室内湿度で遮光して貯蔵する。患者による投薬を模倣するために、普通のインスリンシリンジを用いて毎日1回、5IUの溶液を抜き取って捨てる。週末の投薬を模倣するために、この操作を実験週間の初めと終わりに2回行う。それぞれ抜き取る前に、容器中の溶液の肉眼評価を濁りおよび/または粒子形成について行う。
2. 振盪試験: インキュベーターおよびサーモスタットを有する実験室用振盪装置に載せた折り返し蓋付き箱に容器を入れ、25℃で水平運動に対して平行に90運動/分で10日の期間振盪する。所定の時間の後、サンプルの濁度を実験室用濁り光度計(比濁計)によりホルマールダジン比濁計単位(formaldazine nephelometric unit=FNU)で測定する。濁度は、サンプル中の懸濁粒子への入射光の散乱輻射の強度に相当する。
【0034】
実施例1: ポリソルベート20(Tween(登録商標)20)を用いるインスリングラルギンの使用期間中の安定化
a)溶液を、0.2μmおよび0.1μmフィルターの組み合わせに通して滅菌濾過する。次いで、それを10ml注射バイアルに注ぎ、差込み密閉ディスクを有するクリンプキ
ャップを用いて密封する。
b)比較溶液を同様に製造するが、最初に適量の界面活性剤(10〜30ppmのポリソルベート20)を注射用水に懸濁させる。
サンプルを+5℃、25℃および37℃で所定の時間貯蔵する。次いで、それぞれの場合に10個のサンプルを、使用中の試験に供する。結果を下記の表に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
【表7】

【0042】
ポリソルベート20を添加しないと、使用中の7日後でも粒子形成が溶液中で生じることがある。ポリソルベート20の添加により、粒子形成を使用期間中に著しく抑制することができる。
【0043】
ポリソルベート20の安定化作用は、高められた温度で3ヶ月間の貯蔵においても保持される。
【0044】
溶液の酸性媒質中でのポリソルベートの加水分解の可能性による安定化作用の低下は、1ヵ月の貯蔵後のデータと比較して、測定することができない。
【0045】
実施例2: 物理機械的ストレス負荷においてポリソルベート20を用いるインスリングラルギンの安定化
a)溶液を、0.2μmおよび0.1μmフィルターの組み合わせに通して滅菌濾過する。次いで、それを10ml注射バイアルに注ぎ、差込み密閉ディスクを有するクリンプキャップを用いて密封する。
b)比較溶液を同様に製造するが、最初に適量の界面活性剤(0.010〜0.030mg/mlのポリソルベート20)を注射用水に懸濁させる。
サンプルを+5℃、25℃および37℃で所定の時間貯蔵する。次いで、それぞれの場合に5個のサンプルを振盪試験に供する。結果を下記の表に示す。限界15FNUは、日光で認識できる濁りに相当する。
【0046】
【表8】

【0047】
【表9】

【0048】
【表10】

【0049】
ポリソルベート20を添加しないと、過酷な物理機械的ストレスの2日後でも、目に見える粒子形成が溶液中で生じることがある。ポリソルベート20の添加により、物理機械的ストレス負荷中の濁り生成を著しく遅らせることができる。
【0050】
ポリソルベート20の安定化作用は、高められた温度での貯蔵においても保持される。
【0051】
溶液の酸性媒質中でのポリソルベートの加水分解の可能性による安定化作用の低下は、検出することができない。
【0052】
実施例3: ポリソルベート20(Tween(登録商標)20)およびポリソルベート80(Tween(登録商標)80)を用いるインスリングラルギンの使用期間中の安定化の比較
それぞれの場合に10本のバイアルを開封して、5mlのインスリングラルギンの注射溶液とし、
a)0.001mg/mlのポリソルベート20を添加し、
b)0.01mg/mlのポリソルベート20を添加し、
c)0.001mg/mlのポリソルベート80を添加し、
d)0.01mg/mlのポリソルベート80を添加する。
次いで、サンプルを使用中の試験に供する。
結果を下記の表に示す
【表11】

【0053】
0.01mg/mlの濃度でのポリソルベート20またはポリソルベート80の添加は、試用期間中の粒子形成に対して溶液を同様に安定化することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン(ウシ、ブタまたはヒト)、インスリン類似体、インスリン誘導体、活性インスリン代謝産物又はその組み合わせからなる群から選択されるポリペプチド;
界面活性剤または2種またはそれ以上の界面活性剤の組み合わせ;
場合により保存剤または2種またはそれ以上の保存剤の組み合わせ;および
場合により等張化剤、緩衝剤または他の添加剤またはその組み合わせ、
を含む、医薬製剤であって、酸性範囲(pH1〜6.8)のpHを有する透明溶液である
医薬製剤。
【請求項2】
pH3.5〜6.8のpH範囲を有する、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
pH3.5〜4.5のpH範囲を有する、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項4】
界面活性剤が、多価アルコール、グリセロール、ソルビトールおよびショ糖、ポリオールの部分および脂肪酸エステルならびにエーテルからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
多価アルコール、グリセロールおよびソルビトールの部分および脂肪酸エステルならびにエーテルが、Span(登録商標)、Tween(登録商標)(ポリソルベート)、Myrj(登録商標)、Brij(登録商標)、Triton(登録商標)、Cremophor(登録商標)からなる群から選択される、請求項4に記載の医薬製剤。
【請求項6】
多価アルコール、グリセロールおよびソルビトールの部分および脂肪酸エステルならびにエーテルが、Tween(登録商標)20およびTween(登録商標)80からなる群から選択される、請求項5に記載の医薬製剤。
【請求項7】
ポリオールが、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポロクサマー、プルロニクス、テトロニクスからなる群から選択される、請求項4に記載の医薬製剤。
【請求項8】
保存剤が、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール、パラベンからなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
等張化剤が、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、デキストロース、トレハロース、塩化ナトリウム、グリセロールからなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
添加剤が、例えばTRIS、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、グリシルグリシンのような緩衝物質、または酸、アルカリ、塩のような他の物質からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
インスリン類似体が、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)−ヒトインスリン、Lys(B3),Glu(B29)−ヒトインスリン、Asp(B28)−ヒトインスリン、Lys(B28)Pro(B29)−ヒトインスリン、des(B30)−ヒトインスリンからなる群から選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
インスリン誘導体が、B29−N−ミリストイル−des(B30)ヒトインスリン、B29−N−パルミトイル−des(B30)ヒトインスリン、B29−N−ミリストイルヒトインスリン、B29−N−パルミトイルヒトインスリン、B28−N−ミリストイ
ル−LysB28ProB29ヒトインスリン、B28−N−パルミトイル−LysB28ProB29ヒトインスリン、B30−N−ミリストイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン、B30−N−パルミトイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン、B29−N−(N−パルミトイル−γ−グルタミル)−des(B39)ヒトインスリン、B29−N−(N−リトコリル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン、B29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)−des(B30)ヒトインスリンおよびB29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンからなる群から選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
インスリン、インスリン類似体および/またはインスリン誘導体が、60〜6000nmol/mlの濃度で存在する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項14】
インスリン、インスリン類似体および/またはインスリン誘導体が、240〜3000nmol/mlの濃度で存在する、請求項13に記載の医薬製剤。
【請求項15】
界面活性剤が、5〜200μg/mlの濃度で存在する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項16】
界面活性剤が、5〜120μg/mlの濃度で存在する、請求項15に記載の医薬製剤。
【請求項17】
界面活性剤が、20〜75μg/mlの濃度で存在する、請求項16に記載の医薬製剤。
【請求項18】
グリセロールおよび/またはマンニトールが、100〜250mMの濃度で存在する、請求項10〜17のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項19】
NaClが、150mMまでの濃度で存在する、請求項18に記載の医薬製剤。
【請求項20】
緩衝物質が、5〜250mMの濃度で存在する、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬製剤。

【公開番号】特開2011−6492(P2011−6492A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232142(P2010−232142)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【分割の表示】特願2004−512789(P2004−512789)の分割
【原出願日】平成15年6月5日(2003.6.5)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】