説明

改善された貯蔵特性を有する親水化された硬化性シリコーン印象材

本発明は、オルガノポリシロキサン類、親水化剤類、および少なくとも1つの安定化リン化合物を含有する、親水化された硬化性シリコーン組成物類に関する。前記組成物類は、とりわけ、歯科用途における硬化性印象材類として、特に最終精密印象材類として適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサン類、親水化剤類、および少なくとも1つの安定化リン化合物を含有する、親水化された硬化性シリコーン組成物類に関する。この組成物は、特に、歯科用途における硬化性印象材として、とりわけ最終精密印象材類(wash impression materials)として適している。
【背景技術】
【0002】
歯科用印象材類(例えば、VPS印象材類)は、歯科医が患者の歯群の非常に精密な印象を形成するために利用する汎用製品である。幾つかの印象材の不利益の一つは、その疎水性であって、それは、患者の口内での湿潤条件下で印象の細部の達成可能な正確さに悪影響を及ぼす場合がある。この問題を克服するために、界面活性剤類をVPS印象材に添加して、印象材をより親水性にしている。多くの、いわゆる「親水性」VPS印象材が、この技術に基づく市場で入手可能である。
【0003】
印象材の親水性は、標準的なゴニオメーターを用いて、未硬化の状態または硬化した状態のいずれかの印象材試料の表面上での水滴の接触角を測定することによって求めることができる。一般に、VPS印象材の親水性が高くなるほど、接触角は小さくなる。界面活性剤の添加は親水性に影響を及ぼす可能性があるので、界面活性剤の量は、親水性の程度と、VPS印象材類などの歯科用材料の接触角とに影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
一般に、印象材の親水性はできる限り高くすべきであると考えられることから、できる限り小さな接触角を達成するために界面活性剤の量を増量したVPS歯科用印象材を開発する傾向があった。しかしながら、VPS印象材中の界面活性剤の量を単に増量すると、例えば、結果として得られる歯科用材料の劣化性に関して他の問題が生じる可能性がある。
【0005】
典型的に、VPS印象材は、二成分−ベースペーストと触媒ペースト−から成り、後者は反応性の高い白金触媒を包含する。これらのペーストは、多くの場合、カートリッジまたは金属箔の袋に入れて保存される。触媒ペースト中に界面活性剤が存在するとき、界面活性剤と白金触媒との間の相互作用が観察される場合があり、それによって、硬化反応が抑制されて、触媒ペーストの貯蔵寿命が低下すると考えられる。加えて、硬化した材料の特性がこのような相互作用に悪影響を及ぼす場合もある。従って、ほんの少量の界面活性剤を、少しでもあれば触媒ペースト中に包含し、そしてほとんどまたは全ての界面活性剤をベースペースト中に包含することが通常必要である。
【0006】
VPS印象材のベースペーストはまた、Si−H基を有するビニルポリシロキサン類、ポリシロキサン類、またはオリゴシロキサン類、および顔料類、界面活性剤類、可塑剤類、抑制剤類などのような添加剤類を含有することも可能である。白金触媒が存在しない場合、白金触媒が硬化性構成成分のヒドロシリル化硬化反応を誘発することから、ベースペーストは硬化しないはずである。
【0007】
架橋可能な混合物類における硬化抑制については、米国特許第6,346,562B1号および米国特許第6,300,455B1号に記載されている。いずれの特許にも、特定の付加架橋可能なシリコーンゴム系が記載されている。このような系に一般に降りかかる問題は、米国特許第6,346,562B1号および米国特許第6,300,455B1号によれば、反応混合物が、調製された途端、室温でさえ硬化することである。このことは、ベースペーストと触媒ペーストを製造するための製造装置が比較的長期間運転していないときに、機器の不調または他の原因の結果として特に問題となり得る。このような場合、機械内に存在する反応性シリコーンゴム混合物は、室温で架橋して、機械の動きを悪くして、機械を再始動できるまでに極めて費用の嵩む洗浄作業を必要とする可能性がある。この理由から、米国特許第6,346,562B1号には、反応混合物の室温での硬化を抑制するために、少なくとも1つのリン化合物を反応混合物に添加することが示唆されている。前記文書は、親水化された歯科用材料についても、室温で架橋するように設計された材料についても記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、親水化された歯科用材料は、当該歯科用材料が硬化前後に材料特性に関してその特徴的な特性を失うことなくその歯科用材料を大量に貯蔵できるように、できる限り長い貯蔵寿命を有するべきである。
【0009】
従って、高度に親水化できるが同時に良好な貯蔵寿命を有し得る、硬化性歯科用組成物類が必要である。高度に親水化でき、良好な貯蔵寿命を有し、そして親水性の低い従来技術の不安定な材料に比べて硬化特性を有する、硬化性組成物が必要でもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、本発明は、50℃未満の温度で硬化可能な材料であって、
(A)構成成分Aとして、分子当たり少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサン(A1)を含む、オルガノポリシロキサン組成物、
(B)構成成分Bとして、分子当たり少なくとも3つのSiH基を有する少なくとも1つのオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)任意に、構成成分Cとして、反応性置換基を有しないオルガノポリシロキサン類、
(D)構成成分Dとして、少なくとも1つの親水化剤、
(E)構成成分Eとして、少なくとも1つのリン原子を含有する少なくとも1つの安定化剤、
(F)構成成分Fとして、構成成分AとBとの反応を促進するための触媒、
(G)任意に、構成成分Gとして、歯科用添加剤類、助剤類、および着色剤類、並びに
(H)任意に、構成成分Hとして、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有するシラン化合物類を含む前記材料に関する。
【0011】
本発明の一つの利点は、本発明の組成物類が比較的高い親水性を有することと、前記組成物類の長期貯蔵中に粘度上昇が見られないかまたは比較的低レベルの粘度上昇が見られることである。従って、印象材と同様に、ベースペーストと触媒ペーストを有し、これらペーストのうち少なくとも一方が比較的大量の界面活性剤を含有する、多成分の歯科用材料の形態で提供されると、高濃度の界面活性剤を有する構成成分は、長期貯蔵中に早期に硬化しない。改善された貯蔵安定性に加えて、本発明の幾つかの実施形態では、硬化後に良好な引き裂き強さも示す。例えば、オルガノポリシロキサンを含有する前記硬化性組成物のいくつかは、硬化中に良好な引き裂き強さを有しかつ良好な貯蔵安定性を有するのみならず、印象を形成する、特に口腔内部で印象を形成するための低粘稠度の(light body)または超低粘稠度の精密材料として使用できる十分な親水性をも有するエラストマー類を提供する。
【0012】
好ましい実施形態では、本発明による材料は、次の構成成分を含む:
−構成成分類A+B+Hを約5〜約70重量%、
−構成成分Cを約0〜約40重量%、
−構成成分Dを約0.5〜約10重量%、
−構成成分Eを約0.0001〜約0.1重量%、
−構成成分Fを、元素白金として計算され、かつ構成成分A〜Hと共に存在する材料の全重量に対して約0.00005〜約0.05重量%、
−構成成分Gを約0〜約70重量%、および
−構成成分Hを約0.1〜約50重量%。
【0013】
驚くことに、リン原子を含有する安定化剤を硬化性材料に添加することにより、材料の改善された貯蔵安定性はもたらされるが、一方で、硬化特性と材料特性は基本的に変化しないことが分かった。
【0014】
本発明は、更に、本発明による材料を使用する、歯科用印象材の製造方法に関する。
【0015】
本発明によれば、構成成分Aは、オルガノポリシロキサンを1つ、または2つ以上のポリシロキサン類の混合物を含有する。後者の場合、構成成分A中に存在するn個のポリシロキサン類をそれぞれ、A1、A2、…Anと命名する。
【0016】
本発明によれば、構成成分Bは、分子当たり少なくとも3つのSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを1つ、またはかかるオルガノハイドロジェンポリシロキサン類の2つ以上の混合物を含有する。後者の場合、構成成分B中に存在するn個のオルガノハイドロジェンポリシロキサン類をそれぞれ、B1、B2、…Bnと命名することができる。
【0017】
本発明によれば、構成成分Cは、反応性置換基を有しないオルガノポリシロキサン類を1つ、またはかかるオルガノポリシロキサン類の2つ以上の混合物を含有することが可能である。後者の場合、構成成分C中に存在するn個のオルガノポリシロキサン類をそれぞれ、C1、C2、…Cnと命名することができる。
【0018】
本発明によれば、構成成分Dは、反応性置換基を有しない親水化剤を1つ、またはかかる親水化剤類の2つ以上の混合物を含有する。後者の場合、構成成分D中に存在するn個の親水化剤類をそれぞれ、D1、D2、…Dnと命名することができる。
【0019】
本発明によれば、構成成分Eは、少なくとも1つのリン原子を含有する安定化剤を1つ、またはかかる安定化剤類の2つ以上の混合物を含有する。後者の場合、構成成分E中に存在するn個の安定化剤類をそれぞれ、E1、E2、…Enと命名することができる。
【0020】
本発明によれば、構成成分Fは、構成成分AとBの反応を促進するための触媒を1つ、またはかかる触媒の2つ以上の混合物を含有する。後者の場合、構成成分F中に存在するn個の触媒類をそれぞれ、F1、F2、…Fnと命名することができる。
【0021】
本発明によれば、構成成分Gは、歯科用添加剤類、助剤類、もしくは着色剤類を1つ以上、またはかかる化合物類の2つ以上の混合物を含有する。後者の場合、構成成分G中に存在するn個の触媒類をそれぞれ、G1、G2、…Gnと命名することができる。
【0022】
本発明によれば、構成成分Hは、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有するシラン化合物を1つ、またはかかる化合物類の2つ以上の混合物を含有する。後者の場合、構成成分H中に存在する、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有するn個のシラン化合物類をそれぞれ、H1、H2、…Hnと命名することができる。
【0023】
本発明はまた、本発明による材料の製造方法であって、成分A、B、D、E、およびFと、任意に構成成分C、E、並びにGおよびHのうちの1つ以上とを混合する方法にも関する。
【0024】
本発明はまた、材料を2成分製剤に調製する方法であって、構成成分Bと、構成成分類A、DおよびEと、構成成分類GおよびHのうち1つ以上とを混合してベースペーストを形成し、また構成成分Fと、構成成分類A、C、並びにGおよびHのうち1つ以上とを混合して触媒ペーストを形成する方法にも関する。
【0025】
本発明による調製は、手作業でまたは自動的に行うことができ、とりわけ、適当な分配カートリッジによって補助することができる。従って、本発明は、多成分分配カートリッジを用いた本発明による材料の調製方法であって、前記カートリッジが複数の区分を備え、そして少なくとも1つの区分が、構成成分Bと、構成成分類A、DおよびEと、構成成分類GとHのうち1つ以上とをベースペーストとして含有し、また少なくとも1つのその他の区分が、構成成分Fと、構成成分類A、C、並びにGおよびHのうち1つ以上とを触媒ペーストとして含有し、ここで、前記区分内の材料が、これら区分への手作業または自動的な操作によって混合されて本発明による材料が形成される、方法にも関する。
【0026】
本発明は更に、少なくとも2つの容器を備える部品類のキットであって、1つの容器が:構成成分Bと、構成成分類A、DおよびEと、任意に構成成分類C、GおよびHのうち1つ以上とをベースペーストとして含み、そして少なくとも1つの他の容器が、構成成分Fと、構成成分類A、C、並びにGおよびHのうち1つ以上とを触媒ペーストとして含むキットにも関する。
【0027】
本発明は更に、
(A)構成成分Aとして、分子当たり少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1、
(B)構成成分Bとして、分子当たり少なくとも3つのSiH基を有する少なくとも1つのオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)任意に、構成成分Cとして、反応性置換基類を有しないオルガノポリシロキサン類、
(D)構成成分Dとして、少なくとも1つの親水化剤、
(E)構成成分Eとして、少なくとも1つのリン原子を含有する少なくとも1つの安定化剤、
(F)構成成分Fとして、AとBとの反応を促進するための触媒、並びに
(G)任意に、構成成分Gとして、歯科用添加剤類、助剤類、および着色剤、並びに
(H)任意に、構成成分Hとして、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有するシラン化合物類
を歯科用途における印象材の調製のために含む、硬化性歯科用印象材の使用にも関する。硬化性材料は、例えば、構成成分CとGとの混合物、または構成成分GとHとの混合物、または構成成分類CとGとHとの混合物を含むことができる。
【0028】
本発明は更に、歯科印象を得るための方法であって、
(A)構成成分Aとして、分子当たり少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1、
(B)構成成分Bとして、分子当たり少なくとも3つのSiH基を有する少なくとも1つのオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)任意に、構成成分Cとして、反応性置換基類を有しないオルガノポリシロキサン類、
(D)構成成分Dとして、少なくとも1つの親水化剤、
(E)構成成分Eとして、少なくとも1つのリン原子を含有する少なくとも1つの安定化剤、
(F)構成成分Fとして、AとBの反応を促進するための触媒、並びに
(G)任意に、構成成分Gとして、歯科用添加剤類、助剤類、および着色剤類、並びに
(H)任意に、構成成分Hとして、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有するシラン化合物類
を含む硬化性歯科用印象材を、印象を再形成しようとしている硬質または軟質の歯の組織などのヒトの口腔内のある領域と接触させる、前記方法にも関する。硬化性材料は、例えば、構成成分CとGとの混合物、または構成成分GとHとの混合物、または構成成分類CとGとHとの混合物を含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明による構成成分Aは、少なくとも2つのペンダントしたまたは末端のトリオルガノシロキシ基を有する少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1を含み、前記の3つの有機基のうち少なくとも1つはエチレン性不飽和二重結合を有する基である。一般に、エチレン性不飽和二重結合を有する基は、オルガノポリシロキサンの任意のモノマー単位に位置することが可能である。ただし、エチレン性不飽和二重結合を有する基は、オルガノポリシロキサンのポリマー鎖の末端のモノマー単位に、または少なくともその近くに位置していることが好ましい。別の好ましい実施形態では、エチレン性不飽和二重結合を有する基のうち少なくとも2つは、前記ポリマー鎖の末端のモノマー単位に位置している。
【0030】
本明細書を通して使用される「モノマー単位」という用語は、別段の明示的な指定がない限り、ポリマー骨格を形成する、ポリマー中の反復構造要素に関する。
【0031】
この一般構造の好ましいオルガノポリシロキサン類は、次の式で表される:
【0032】
【化1】

【0033】
前記式中、ラジカルRは、互いに独立して、好ましくは脂肪族多重結合を含有しない、1〜6個のC原子を有する非置換のまたは置換された一価の炭化水素基を表し、またnは、一般に、オルガノポリシロキサン類の粘度が約4〜約500,000mPa・sまで、または約6〜約100,000mPa・sとなるように選択することができる。パラメータnは、例えば、約10〜約3000までの範囲であることが可能である。
【0034】
一般に、前記式中のラジカルRは、1〜6個のC原子を有するあらゆる非置換のまたは置換された一価の炭化水素基をあらわすことができる。1〜6個のC原子を有する非置換のまたは置換された一価の炭化水素基は、直鎖であるか、あるいは炭素原子数が2を超える場合は、分枝状または環状であり得る。一般に、ラジカルRは、それらが組成物のいずれかの他の構成要素または置換基を妨げず、また硬化反応を妨げないのであれば、あらゆる種類の置換基(単数または複数)を有することができる。本明細書に関して使用するとき、「妨げる」という用語は、前記組成物の他の置換基もしくは構成要素のうち少なくとも1つまたは硬化反応、あるいはこれら両方に対するこのような置換基の、硬化した製品の特性にとって有害な、あらゆる影響のことをいう。本明細書に関して使用するとき、「有害な」という用語は、それらの意図される用途における前駆体または硬化した製品の実用性に悪影響を及ぼす、前駆体または硬化した製品の特性の変化のことをいう。
【0035】
本発明の別の好ましい実施形態では、ラジカルRの少なくとも約50%がメチル基である。前記の式によるオルガノポリシロキサン類に存在し得る他のラジカルの例は、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第3級ブチル、ペンチル異性体類、ヘキシル異性体類、ビニル、プロペニル、イソプロペニル、2−および3−n−ブテニル、ペンテニル異性体類、ヘキセニル異性体類、3,3,3−トリフルオロプロピル基などのフッ素置換脂肪族ラジカル類、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基、シクロペンテニル基またはシクロヘキセニル基、あるいはフェニル基または置換フェニル基などの芳香族基またはヘテロ芳香族基である。このような分子の例は、米国特許第4,035,453号に記載されており、その開示内容、特に前記分子、それらの化学構造、およびそれらの調製に関する後者の文書の開示内容は、明示的に、本明細書の開示内容の一部であるとみなされ、そして参照として本明細書に包含される。
【0036】
前記の式による分子の調製は、当業者には一般に、同様の分子に関する従来技術の教示に基づいて理解されよう。
【0037】
限定された粘度範囲を持つ粘度を有し、また末端基がジメチルビニルシロキシ単位とラジカルRとしてのメチル基とを含む、上記の式にしたがう直鎖ポリジメチルシロキサン類が特に好ましい。
【0038】
本発明により用いることが可能な構成成分Aは、オルガノポリシロキサンの一種であるA1から成ることが可能である。オルガノポリシロキサンは、約5〜約500,000mPa・s、または約10〜約50,000mPa・s、または約30〜約40,000mPa・sの範囲に始まる粘度、例えば、約50〜約20,000mPa・s、または約100〜約15,000mPa・s、または約200〜約10,000mPa・sまでの粘度を有し得る。
【0039】
ただし、構成成分Aは、2つ以上の構成要素、A1、A2などを含むことも可能であり、それら構成要素は、例えばそれらの骨格の化学組成が異なるか、あるいはそれらの分子量が異なるか、あるいはそれらの置換基もしくはそれらの粘度が異なるか、あるいは任意の他の区別のつく特徴または上述の特徴のうちの2つ以上が異なり得る。
【0040】
本発明の一実施形態では、構成成分Aの種々の構成要素の粘度の差は、2倍を超える可能性があり、例えば約5倍を超え、約10倍を超え、約20倍を超え、約30倍を超え、約40倍を超え、約50倍を超え、約60倍を超え、約70倍を超え、約80倍を超え、約90倍を超え、または約100倍を超える可能性がある。粘度の差は、更に高く、例えば、約200倍を超え、約300倍を超え、約500倍を超え、約800倍を超え、約1,000倍を超え、または約5,000倍を超える可能性があるが、それは好ましくは、約10,000倍より高い値を超えてはならない。前述の値は、粘度の差についての係数に関するものであって、粘度値自体に関するものではないことに留意すべきである。
【0041】
Aに係る全ての構成要素のうち最も低い粘度を有するAの構成要素は、約10〜約1000mPa・s、または約50〜約500mPa・s、または約100〜約300mPa・sの範囲の粘度を有し得る。Aに係る全ての構成要素のうち最も高い粘度を有するAの構成要素は、約500〜約500,000mPa・sまでの粘度、例えば、約1,000〜約50,000mPa・s、または約3,000mPa・s〜約20,000mPa・sを有し得る。良好な結果は、例えばAに係る全ての構成要素のうち最も高い粘度を有するAの構成要素の粘度が約4,000〜約15,000mPa・s、例えば約5,000〜約13,000mPa・s、または約6,000〜約12,000mPa・sである場合に達成され得る。
【0042】
本発明の別の実施形態では、構成成分Aは、3つの構成要素A1、A2およびA3を含むことができる。この場合、これらの構成要素が、例えば粘度に差がある場合、最も高い粘度を有する構成要素と最も低い粘度を有する構成要素、A3とA1の関係に対して前述の定義を適用することもできる。残りの構成要素A2は、一般に、A1とA3の粘度値の間のいかなる粘度値でもあり得る。
【0043】
粘度の好ましい測定方法は、ハーケ・ロトビスコRV20(Haake Rotovisco RV20)(スピンドルMV、測定カップNV)を用いて行う。粘度は23℃で測定する。システムを稼動して調整した後、スピンドルMVを取り付ける。次に、測定しようとする材料を、測定カップNVに入れる。遅滞なく、スピンドルを測定カップNVまで下げる。スピンドルは、最大厚さ1mmの材料の層で覆われていなければならない。測定しようとする材料の温度を20分で23℃に調整する。スピンドルを回転させ始めることによって測定を開始して、測定開始20秒後から粘度値(mPa・s)を記録する。測定カップNVがどんなときでも回転したり移動したりしないことを確実にするように注意を払わなければならない。粘度値はmPa・sで得られる。上記測定法はDIN 53018−1に対応する。
【0044】
構成成分Aが異なる粘度の構成要素を含有する場合、最も低い粘度を有する構成要素の量と最も高い粘度を有する構成要素の量との比は、前駆体および硬化した樹脂の所望の特性に依存して、比較的自由に選択することができる。しかしながら、最も低い粘度を有する構成要素の量と最も高い粘度を有する構成要素の量との比が約1:20〜約20:1の範囲内、特に約1:10〜約10:1、または約1:5〜約5:1であれば、有利であることが分かった。良好な結果は、例えば、約1:3〜約3:1、または約1:2〜約2:1までの比の場合に得ることができる。更には、最も高い粘度を有する構成要素の量が、最も低い粘度を有する構成要素の量とほぼ同じかそれよりも多い場合に適当であることも分かっており、その結果、最も高い粘度を有する構成要素の量と最も低い粘度を有する構成要素の量との比が約0.9:1〜約3:1の値となる。前記比はいずれも、前記構成要素の重量に基づいている。
【0045】
構成成分Bは、好ましくは、分子当たり少なくとも3つのSi−結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む。定義により、本明細書によるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、本発明に関して記載するようなオルガノポリシロキサン類の群に属さない。
【0046】
本発明によるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、好ましくは、約0.01〜約1.7重量%のケイ素結合した水素を含有する。水素原子または酸素原子で飽和されていないケイ素原子価は、エチレン性不飽和結合を有しない一価の炭化水素ラジカルRで飽和される。
【0047】
炭化水素ラジカルRは、互いに独立して選択されてよく、1〜12個のC原子を有する、エチレン性不飽和結合を有しない、直鎖、または分枝状、または環状の、非置換のまたは置換された、脂肪族または芳香族の一価の炭化水素基を表す。本発明の好ましい実施形態では、ケイ素原子と結合している炭化水素ラジカルRのうち少なくとも約50%、好ましくは約100%がメチルラジカルである。
【0048】
構成成分Bとしてまたは構成成分Bの一構成要素(a constituents)として好適であり得るオルガノハイドロジェンポリシロキサン類の粘度は、約10〜約1000mPa・s、または約15〜約550mPa・s、または約20〜約150mPa・sであり得る。
【0049】
構成成分Cで使用するのに好適な化合物は、反応性置換基を有しないオルガノポリシロキサン類である。これらは、好ましくは、直鎖、分枝状、または環状のオルガノポリシロキサン類であって、全てのケイ素原子は、酸素原子で包囲されているか、または炭素原子数1〜18の、置換されているかもしくは非置換であり得る一価の炭化水素ラジカルで包囲されている。炭化水素ラジカルは、メチル、エチル、C2〜C10脂肪族化合物、トリフルオロプロピル基、ならびに芳香族C6〜C12ラジカルであり得る。
【0050】
トリメチルシロキシ末端基を有するポリジメチルシロキサン類は、構成成分Cの一構成要素として特に好ましい。構成成分Cは、本発明による材料に、好ましくは約0〜約40重量%、好ましくは約0〜約20重量%、または約0〜約10重量%の量で利用される。
【0051】
構成成分Dの構成要素として用いることが可能な親水化剤類は、一般に、ヒドロシリル化反応によって硬化可能なシリコーン材料の親水性を改善するが、それと同時に、材料特性または材料の硬化特性に悪影響を及ぼさないか、あるいは少なくともせいぜいその悪影響を回避できるかまたはそれに耐え得る、あらゆる種類の界面活性剤から自由に選択できる。本発明によるシリコーン材料の親水性を改善する有用な界面活性剤類は、一般に、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、または非イオン性界面活性剤、あるいはこのような種類の界面活性剤類のうち2つ以上の混合物から選択することができる。
【0052】
本発明による材料は、親水化剤として1つの非イオン性界面活性剤または2つ以上の非イオン性界面活性剤類の混合物を含むことが好ましい。
【0053】
構成成分Dは可能な剤または複数の剤を含み、それらは一般に組成物に対して親水特性を高めることができ、例えば、材料(その硬化したまたは未硬化の状態で)の上での水または水溶液または分散液(例えば、石膏懸濁液など)の液滴の濡れ角の増加で示され、その濡れ角は構成成分Dを含まない同様のケイ素組成物上で達成される濡れ角を上回る。
【0054】
印象材の親水性を決定する濡れ角の測定は、ドイツ国特許第4306997A号の5頁に記載されており、この測定方法に関するこの文書の開示内容は参照により明示的に記述され、また本明細書の開示内容の一部とみなされる。
【0055】
好ましくは、構成成分Dの親水化剤類は反応性基を含有しないことから、ポリシロキサン網状組織に組み込まれない。
【0056】
例えば、欧州特許第0480238B1号に記載されているエトキシル化脂肪族アルコール類が、構成成分Dとして利用できる。更に、PCT国際公開特許WO87/03001に記載の非イオン性ペルフルオロアルキル化界面活性物質類も使用できる。また、欧州特許第0268347B1号に記載されている非イオン性界面活性物質類、すなわち、前記公報に列挙されているノニルフェノールエトキシレート類、ポリエチレングリコール−モノエステルおよびジエステル、ソルビタンエステル類、並びにポリエチレングリコール−モノエーテルおよびジエーテルも好ましい。親水化剤類およびその調製に関する後者の文書の内容は、参照として明示的に記述され、そして本発明の開示内容の一部とみなされる。
【0057】
本発明の更なる実施形態では、親水化剤、または構成成分Dが2つ以上の親水化剤類を含む場合、それら親水化剤類のうち少なくとも1つは、シリコーン部分を含有する。
【0058】
好適な親水化剤類は、硬化した高分子網状組織に共有的に組み込むことができない親水性シリコーン油の部類に由来する湿潤剤類であり得る。好適な親水化剤類は、PCT国際公開特許WO87/03001および欧州特許第0231420B1号に記載されており、親水化剤類に関するそれらの内容は、参照として明示的に記述され、そして本発明の開示内容の一部とみなされる。
【0059】
構成成分Dにおける親水化剤類として有用なのは、一般式:Q−P−(OCn2nx−OTのポリエーテルカルボシラン類であり、前記式中、QはR3−Si−、または
3−Si−(R’−SiR2a−R’−SiR”2
を表し、ここで、分子中のRは全て、同一または異なってよく、かつ脂肪族C1〜C18、脂環式C6〜C12、または芳香族C6〜C12炭化水素ラジカルを表し、これらは任意にハロゲン原子で置換されていてよく、R’は、C1〜C14アルキレン基であり、R”は、a≠0の場合はRであり、あるいはa=0の場合はRまたはR3SiR’であり、そしてa=0〜2であり;PはC2〜C18アルキレン基、好ましくはC2〜C14アルキレン基、またはA−R’’’を表し、ここで、Aは、C2〜C18アルキレン基、および次のリストからのR’’’官能基を表し:−NHC(O)−、−NHC(O)−(CH2)n-1−、−NHC(O)C(O)−、−NHC(O)(CH2)vC(O)−、−OC(O)−、−OC(O)−(CH2)n-1−、−OC(O)C(O)−、−OC(O)(CH2vC(O)−、−OCH2CH(OH)CH2OC(O)(CH2)n-1−、−OCH2CH(OH)CH2OC(O)(CH2)vC(O)−(ただし、v=1〜12である);TはHであるか、またはC1〜C4アルキルラジカルもしくはC1〜C4アシルラジカルを表し;xは1〜200までの数を表し、そしてnは、1〜6までの平均数、好ましくは1〜4を表す。≠
ポリエーテル部分は、ホモポリマーであり得るが、統計共重合体であっても、交互共重合体であっても、またはブロック共重合体でもあり得る。
【0060】
構成成分Dの一部としてまたは構成成分Dとして、単独でまたはそれら2つ以上の混合物として有利に利用できる親水化剤類は、米国特許第5,750,589号(ゼック(Zech)ら)、第2列第47行〜第3列第27行、および第3列第49行〜第4列第4行、および第5列第7行から第14列第20行に見出すことができる。
【0061】
構成成分Dの一部としてまたは構成成分Dとして、単独でまたはそれら2つ以上の混合物として有利に利用できる他の親水化剤類は、米国特許第4,657,959号(ブライアン(Bryan)ら)、第4列第46行〜第6列第52行、並びに欧州特許第0231420B1号(グライビ(Gribi)ら)、4頁第1行〜5頁第16行および実施例に見出すことができる。
【0062】
米国特許第5,750,589号、米国特許第4,657,959号、および欧州特許第0231420B1号には明示的に記載されており、また本発明による構成成分Dとして利用できる化合物についての開示内容の出典として本明細書に引用される。前述の引例における親水化剤類に関する前記文書および特にそれらの開示内容を参照として組み込み、また本明細書の開示内容の一部とみなす。
【0063】
更に好ましい界面活性剤類は、米国特許第4,657,959号に記載されているようなシロキサン可溶性基を含有するエトキシル化界面活性剤類であって、前記特許の開示内容を本明細書に参照として組み込む。
【0064】
好適な界面活性剤類は、次の式を有し得る:
【0065】
【化2】

【0066】
前記式中、Rは、それぞれ独立して、1〜22個のC原子を有する一価のヒドロカルビルラジカルであり、R1は、1〜26個のC原子を有する二価のヒドロカルビレンラジカルであり、R2は、それぞれ独立して、水素または低級ヒドロキシアルキルラジカルであり、R3は、水素、または1〜22個のC原子を有する一価のヒドロカルビルラジカルであり、nおよびbは、独立して、0以上であり、そしてmおよびaは、独立して、0以上であるが、これは、本発明の硬化した組成物が所望の水接触角を有するほどaが十分な値でありかつbが十分に小さいことを前提とする。
【0067】
好ましくは、RおよびR3は−CH3であり、R1は−C36−であり、R2は水素であり、nは約0または約1であり、mは約1〜約5であり、aは約5〜約20であり、そしてbは約0である。
【0068】
このようなエトキシル化界面活性剤類のうち幾つかは、ユニオン・カーバイド社(Union Carbide Corp.)から「シルウェット(SILWET)」界面活性コポリマー類として市販されている。好ましい界面活性コポリマー類としては、シルウェット(SILWET)35、シルウェットL−77、L−7600およびL−7602が挙げられる。シルウェット(SILWET)L−77は、前記式に相当すると考えられる、特に好ましいエトキシル化界面活性剤であって、ただし、RおよびR3は−CH3であり、R1は−C36−であり、R2は水素であり、nは約0または約1であり、mは約1または約2であり、aは約7であり、そしてbは約0である。米国スパータンバーグ(Spartanburg)のルビゾル・パーフォーマンス・プロダクツ(Lubrizol performance products)から入手可能なマシル(MASIL)(登録商標)SF19の使用も可能である。
【0069】
次のものから成る群より選択されるポリエーテルカルボシラン類の使用も可能である:
Et3Si−(CH23−O−(C24O)y−CH3、Et=エチル
Et3Si−CH2−CH2−O−(C24O)y−CH3、Et=エチル
(Me3Si−CH23Si−(CH23−O−(C24O)y−CH3、Me=メチル
Me3Si−CH2−SiMe2−(CH23−O−(C24O)y−CH3、Me=メチル
(Me3Si−CH22SiMe−(CH23−O−(C24O)y−CH3、Me=メチル
Me3Si−(CH23−O−(C24O)y−CH3、Me=メチル
Me3Si−CH2−CH2−O−(C24O)y−CH3、Me=メチル
Ph3Si−(CH23−O−(C24O)y−CH3、Ph=フェニル
Ph3Si−CH2−CH2−O−(C24O)y−CH3、Ph=フェニル
Cy3Si−(CH23−O−(C24O)y−CH3、Cy=シクロヘキシル
Cy3Si−CH2−CH2−O−(C24O)y−CH3、Cy=シクロヘキシル
(C6133Si−(CH23−O−(C24O)y−CH3
(C6133Si−CH2−CH2−O−(C44O)y−CH3(ただし、yは5≦y≦20の関係に準拠する)。
【0070】
親水化剤類は、好ましくは、本発明による材料中に、当該材料全重量に対して約0.1重量%超の量で存在する。構成成分Dの量が約0.1〜約15重量%、または約0.3〜約12重量%、または約0.5〜約8重量%、または約0.8〜約7重量%、または約1〜約6重量%、または約1.2〜約5重量%、または約1.5〜約4重量%の場合、好ましいことがある。
【0071】
本発明による硬化した材料の表面上での、約10秒後に測定された水滴の濡れ角は、好ましくは約40°未満、特に好ましくは<約20°、特に<約10°である。
【0072】
濡れ接触角は、次のようにして測定することができる:約2.5gのベースペーストと、2.5gの触媒ペーストを合わせて均一になるまで(約30秒)混合する。混合したペースト5gを、2枚のポリエチレンシートの間の金属鋳型(40mm×30mm×2mm)に入れて、ガラス板を用いて平坦になるように押さえる。硬化するまで試験片をそのまま放置する(約15分)。試験片の表面を触れないように注意してポリエチレンシートを取り除き、その試験片を、接触角を測定するための周知の装置であるガイノメータDSA10(gynometer DSA 10)(クルス(Kruss))の台の上に配置する。水5μLを試験片の表面上に置いて、ガイノメータの標準ソフトウェアを用いて自動接触角測定を開始する。測定時間は少なくとも10秒〜200秒までである。
【0073】
構成成分Eは、一般に、硬化した組成物の特性もしくはその硬化速度、または本発明による材料のいずれかの他の重要な特性に重大な悪影響を及ぼさないのであれば、少なくとも1つのリン原子を含有するあらゆる種類の安定化剤を含むことができる。構成成分Eは、少なくとも1つのリン原子を含有する物質を1つ、または少なくとも1つのリン原子を含有する2つ以上の物質の混合物を含有することができる。安定化剤は、有機であっても無機であってもよく、または有機安定化剤と無機安定化剤の混合物を構成成分Eとして使用することもできる。安定化剤はまた、2つ以上のリン原子を含有してもよい。
【0074】
構成成分Eは、少なくとも1つのリン原子を含有する有機安定化剤を含むことが特に好ましく、またオルガノホスフィン類、オルガノホスファイト類、オルガノホスホナイト類、ジ(オルガノホスファイト類)、ジ(オルガノホスホナイト類)、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される有機安定化剤を含むことが更に好ましい。
【0075】
式R1nP(OR)3-nの有機リン化合物類も構成成分Eとして有用であり得、前記式中、n=0、1、2または3であり、R=C1〜C18−アルキル、C6〜C30−アリール、またはC7〜C31−アルキルアリールであり、およびR1=R、または(CR’2m、または(C6R’4m)である(ただし、H=RまたはORであり、そしてm=10である)。
【0076】
例えば、一般式P(R)3による化合物類が特に有用であり得、前記式中、Rは、同一または異なってよく、そしてR=C1〜C18−アルキル、C6〜C30−アリール、C7〜C31−アルキルアリール、またはOR1であり、ただし、R1=C1〜C18−アルキル、C6〜C30−アリール、C7〜C31−アルキルアリールである。ラジカルRまたはR1は同一または異なってよい。
【0077】
更に、代表的な安定化剤類は、次の一般式を有し得る:
【0078】
【化3】

【0079】
前記式中、R1、R2、R3、R4およびR5は、同一または異なってよく、またH、飽和もしくは不飽和の、直鎖もしくは分枝状のC1〜C18−アルキル、C6〜C30−アリール、またはC7〜C31−アルキルアリールであり得、そしてR1、R2、R3、R4およびR5は、任意に、アミノ、モノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノ、カルボキシル、フッ素、塩素、臭素、シアノ、ベンジル、フェニル、またはトルイルなどの基で置換することが可能である。本発明に関して構成成分Eとして利用できる化合物類は、米国特許第6,300,455B1号(ヘーゼルホースト(Haselhorst)ら)に開示されている。リン含有化合物類およびそれらの調製に関するこの文書の開示内容を、参照として本明細書に組み込み、そしてその開示内容を、本明細書の開示内容の一部とみなす。
【0080】
構成成分Eが式R1nP(OR)3-nによる化合物類から選択される場合、nは0、1、2または3であり、RおよびR1は、互いに独立して
【0081】
【化4】

【0082】
であり、ここで、R”は、互いに独立して、H、C1〜C18−アルキル、C6〜C30−アリール、またはC7〜C31−アルキルアリール、ハロゲン(Hal)、SiR3、ORなど、特に米国特許第6,346,562号に記載されているようなものであり、リン含有化合物類およびそれらの調製に関する前記文書の開示内容は参照として本明細書に組み込まれ、そしてその開示内容は本明細書の開示内容の一部とみなされる。
【0083】
ジイソデシルフェニルホスファイト(アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)からランクロマーク(Lankromark)(登録商標)LE76として市販されているもの)、ジフェニル−2−エチルヘキシルホスファイト(アクゾ・ノーベルからランクロマーク(登録商標)LE98として市販されているもの)、ジフェニルイソデシルホスファイト(アクゾ・ノーベルからランクロマーク(登録商標)LE131として市販されているもの)、トリスノニルフェニルホスファイト(アクゾ・ノーベルからランクロマーク(登録商標)LE109として市販されているもの)、トリス(イソデシル)ホスファイト(アクゾ・ノーベルからランクロマーク(登録商標)LE164として市販されているもの)、またはトリス(トリデシル)ホスファイト(アクゾ・ノーベルからランクロマーク(登録商標)LE406として市販されているもの)、あるいはこれらの化合物類の2つ以上の混合物もまた構成成分Eの構成要素として有用である。
【0084】
次の式による化合物:
【0085】
【化5】

【0086】
(ただし、z=2である)、トリフェニルホスファイト、またはジイソデシルフェニルホスファイト(アクゾ・ノーベル(Akzo Nobel)からランクロマーク(Lankromark)(登録商標)LE76として市販されているもの)が、構成成分Eの構成要素として特に好ましい。
【0087】
本発明による材料中に使用される構成成分Eの量は、貯蔵安定性に対して所望の効果が達成され、そして硬化した材料の材料特性、または本発明による材料の他の特性に関する副作用が軽微であれば、広い範囲であり得る。構成成分Eが本発明による材料中に、材料自体の重量に対して約0.0001〜約0.1重量%の量で存在する場合、有利であり得る。ただし、構成成分Eが本発明による材料中に、材料自体の重量に対して約0.0005〜約0.05重量%、または約0.001(0,001)〜約0.03重量%の量で存在する場合、好ましいことがある。
【0088】
本発明による材料が多成分材料である場合、特に材料がベースペーストと触媒ペーストからなる場合、構成成分Eはベースペースト中に存在する。構成成分Eがベースペースト中に、材料自体の重量に対して約0.0001〜約0.1重量%の量で存在すれば、上手くいくことが分かった。ただし、構成成分Eがベースペースト中に、材料自体の重量に対して約0.0005〜約0.05重量%、または約0.001〜約0.02重量%の量で存在すれば好ましいことがある。
【0089】
構成成分Dと構成成分Eの比は、約10:1〜約5000:1、特に約30:1〜約1000:1、または約50:1〜約600:1の範囲内であり得る。
【0090】
構成成分Fは、好ましくは、テトラメチルジビニルジシロキサンを用いた還元によってヘキサクロロ白金酸から調製することが可能な白金錯体を含む。このような化合物類は、当業者に既知である。エチレン性不飽和二重結合を有するシラン類の更なる架橋を触媒作用または促進する任意の他の白金化合物類も適している。例えば、米国特許第3,715,334号、米国特許第3,775,352号、および米国特許第3,814,730号などに記載されているような白金−シロキサン錯体類が適している。白金錯体類およびこれらの調製に関するこれら特許の開示内容は、明白に記載されており、また本明細書の開示内容の一部と明示的にみなされる。
【0091】
白金触媒は、好ましくは、それぞれ白金元素として計算され、また構成成分A〜Gと共に存在する材料の全重量に対して、0.00005〜0.05重量%、特に0.0002〜0.04重量%の量で使用される。
【0092】
付加反応の反応性を制御するためと、早期の硬化を防止するために、特定の期間、付加反応を防止するかまたは付加反応の速度を落とす阻害物質を添加することが有利である場合がある。このような阻害物質類は既知であり、例えば、米国特許第3,933,880号に記載されており、このような阻害物質類およびそれらの調製に関する前記特許の開示内容を本発明の開示内容の一部と明示的にみなす。このような阻害物質類の例は、3−メチル−l−ブチン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサン−l−オール、3,5−ジメチル−l−ヘキシン−3−オール、および3−メチル−l−ペンチン−3−オールなどのアセチレン性不飽和アルコール類である。ビニルシロキサン系の阻害物質類の例は、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルシロキサン、1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、並びにビニル基を含有するポリ−、オリゴ−およびジシロキサン類である。阻害物質は、構成成分Fの一部とみなされる。
【0093】
更に、本発明による歯科用材料は、任意に、充填剤類、可塑剤類、顔料類、酸化防止剤類、離型剤類などのような添加剤類を含有する構成成分Gを含むことができる。
【0094】
例えば、化学物質系は、ビニル重合の結果として典型的に発生され得る水素ガス放出の存在またはその程度を軽減するために用いてもよい。従って、組成物は、このような水素を補足して処理する超微粒子状の金属白金を含んでよい。金属Ptは、約0.1〜約40m2/gまでの表面積を有する実質的に不溶性の塩に付着する場合がある。好適な塩類は、好適な粒径の硫酸バリウム、炭酸バリウム、および炭酸カルシウムである。その他の基質類としては、珪藻土、活性アルミナ、活性炭などが挙げられる。無機塩類は、それらを組み込んで得られた材料に改善された安定性を与えるために特に好ましい。前記塩類には、触媒構成成分の重量に基づいて約0.2〜約2ppmの金属白金が分散されている。無機塩粒子に分散された金属白金を使用することにより、歯科用シリコーン類の硬化中に生じる水素ガス放出が実質的になくなるかまたは軽減されることが分かった。例えば、ドイツ国特許第2926405C3号に記載されているような金属Pd、またはPCT国際公開特許WO97/37632に開示されているようなPd化合物類も使用できる。
【0095】
本発明の組成物類はまた、構成成分Gまたは構成成分Gの一部として充填剤(例えば、充填剤類の混合物)を包含することも可能である。シリカ類、アルミナ類、マグネシア類、チタニア類、無機塩類、金属酸化物類、およびガラス類のような多種多様な無機充填剤、親水性充填剤、または疎水性充填剤を使用してよい。粉砕石英(4〜6μm)などの結晶性二酸化ケイ素;珪藻土(4〜7μm)などの非晶質二酸化ケイ素類;およびキャボット・コーポレーション(Cabot Corporation)製のカボシルTS−530(Cab-o-Sil TS-530)(160〜b240m2/g)などのシラン化ヒュームドシリカに由来するものを包含する、二酸化ケイ素類の混合物を使用できることが分かった。
【0096】
前記材料の寸法および表面積は、結果として得られる組成物の粘度およびチキソトロピー性(thixotropicity)を制御するように操作される。前記疎水性充填剤類のうち幾つかまたはそれら全ては、当該技術分野における通常の知識を有する者に既知の通り、1つ以上のシラン化剤類で表面的に処理されてよい。このようなシラン化は、既知のハロゲン化シラン類またはアルコキシシラン類またはシラザン類を用いて達成されてよい。このような充填剤類は、当該材料の約0〜約65重量%、特に約5〜約55重量%、または約20〜約50重量%の量で存在することが可能である。
【0097】
前記充填剤の中でも、構成成分Gに従って使用することができるのは、例えば、石英、クリストバライト、ケイ酸カルシウム、珪藻土、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸アルミニウムナトリウムなどの分子ふるいを包含するベントナイトやゼオライトなどのモンモリロナイト、酸化アルミニウムもしくは酸化亜鉛またはそれらの混成酸化物類などの金属酸化物粉末、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、ガラスおよびプラスチック粉末のような充填剤類である。
【0098】
好適な充填剤類は、また、発熱性ケイ酸または沈降ケイ酸、およびシリカ−アルミニウム混成酸化物類でもある。上記充填剤類は、例えば、オルガノシラン類またはシロキサン類で処理することにより、またはヒドロキシル基をアルコキシ基にエーテル化することにより、疎水化することができる。1種の充填剤または少なくとも2つの充填剤の混合物を使用することができる。粒子分布は、好ましくは、約50μm超の粒径を有する充填剤がないように選択される。
【0099】
充填剤類の総含有量は、構成成分A〜Hまでに関して、約0〜約90%、好ましくは約30〜約80%までの範囲内である。
【0100】
補強充填剤と非補強充填剤の組み合わせが特に好ましい。この点において、補強充填剤類の量は、約1〜約10重量%まで、特に約2〜約5重量%までの範囲である。
【0101】
指定した範囲全体における差、すなわち、約9〜約70重量%、特に約28〜約55重量%を非補強充填剤が占める。
【0102】
好ましくは表面処理によって疎水化された、高温で調製された高分散性ケイ酸類が、補強充填剤類として好ましい。表面処理は、例えばジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、またはポリメチルシロキサンを用いて行うことができる。
【0103】
特に好ましい非補強充填剤類は、表面処理することが可能な、石英類、クリストバライト類、およびケイ酸アルミニウムナトリウムである。表面処理は、一般に、補強充填剤類(strengthening fillers)の場合の記載と同様の方法で行うことができる。
【0104】
本発明による材料は、任意に、構成成分Hとして、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有するシラン化合物類を含有することも可能である。好ましいシラン化合物類は、次の一般式の通りである:
Si(R1n(R24-n
前記式中、R1は、SiH基によって付加反応を生じることが可能な、炭素原子数2〜12の直鎖、分枝状、または環状の、一価のエチレン性不飽和置換基であり、R2は、SiH基によって付加反応を生じることが可能な基またはかかる反応に悪影響を及ぼす基を有しない、炭素原子数1〜12の一価のラジカルであり、そしてnは2、3または4である。特に好ましいラジカルR1は、ビニル、アリル、およびプロパルギルであり、特に好ましいラジカルR2は、直鎖または分枝状のC1〜C12アルキル基である。本発明に従って使用できるシラン化合物についての一例は、テトラアリルシランであって、これは、R1がアリルラジカルに相当し、かつnが4に等しい場合の前記式に対応する。
【0105】
更に好ましいシラン化合物類は、次の式の通りである:
(R1m(R23-mSi−A−Si−(R1n(R23-n
前記式中、R1は、SiH基によって付加反応を生じることが可能な、炭素原子数2〜12の直鎖、分枝状、または環状の、一価のエチレン性不飽和置換基であり、R2は、SiH基によって付加反応を生じることが可能な基またはかかる反応に悪影響を及ぼす基を有しない、炭素原子数1〜12の一価のラジカルであり、aは、炭素原子数1〜約10000で窒素原子または酸素原子を含有し得る二価の、直鎖もしくは分枝状の基、または脂環式基、複素環式基、芳香族基、もしくはヘテロ芳香族基であり、そしてmは2または3、好ましくは3である。二価のラジカル類Aについての例は、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペニレン(penylene)、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、−H2C−Ar−CH2−、−C24−Ar−C24−であり、前記式中、Arは芳香族の二価のラジカル、好ましくはフェニル、または一般形−CH2CH2CH2−O−[Ca2aO]b−CH2CH2CH2−の二価のポリエーテルラジカルであり、ただし、1≦a≦5および0≦b≦2000である。
【0106】
シランデンドリマー類もまた構成成分Hとして適している。一般に、3次元の非常に規則正しいオリゴマ−およびポリマー化合物類がデンドリマー類とされており、これは、小さなコア分子から出発して、定常的に繰り返す一連の反応によって合成される。少なくとも1つの反応性部分を有するモノマーまたはポリマー分子類が、コア分子として適している。これは、コア分子の反応性部分にたまる反応物質であって、その部分に2つの新しい反応性部分を有する反応物質との一段階または多段階の反応で変換される。コア分子と反応物質との変換により、コア・セルが得られる(ゼロ世代)。反応を繰り返すことによって、第1反応物層内の反応性部分が更なる反応物質によって変換されて、更に、少なくとも2つの新しい枝分かれ部分が分子に毎回組み込まれる(第1世代(lst generation))。
【0107】
進行性の枝分かれは、各世代において原子の数の幾何級数的成長をもたらす。全体の寸法は、反応物質によって特定される可能性のある共有結合の数のために線形に成長することしかできないが、分子は、何世代にもわたってより密に充填されることとなり、そしてそれらの形をヒトデ型から球形まで変化させる。ゼロ世代とそれぞれの更なる世代のデンドリマー類は、本発明による構成成分Hとして利用されるデンドリマー類であり得る。第1世代のものが好ましいが、更に高次世代のものを利用することも可能である。
【0108】
第1世代またはより高次世代のデンドリマー類は、トリアルケニルシランまたはテトラアルケニルシランのハイドロジェンクロロ−シラン類による一工程での変換によってコア分子として生成される。これらの生成物類は、アルケニル−グリニャール化合物類を用いる更なる工程で変換される。
【0109】
この場合、次の式の第1世代のデンドリマー類が特に好ましい:
SiR2x((CH2n−Si−((CH2m−CH=CH234-x
前記式中、R2は上述と同じように定義され、n=2、3、4または5、m=0、1、2または3、そしてx=0または1である。
【0110】
この一般式による特に好ましいデンドリマー類は次のものである:
Me−Si((CH2−CH2−Si(ビニル)33
Si((CH2−CHZ−Si(ビニル)34
Me−Si((CH2−CH2−CH2−Si(アリル)33
Si((CH2−CH2−CH2−Si(アリル)34
Me−Si((CH2−CH2−Si(アリル)33
Si((CH2−CH2−Si(アリル)34
Me−Si((CH2−CH2−CH2−Si(ビニル)33
Si((CH2−CH2−CH2−Si(ビニル)34
A.W.ファン・デル・メード(A. W. van der Made)およびP.W.N.M.ファン・ルーウィン(P. W. N. M. van Leeuwen)は、これらシランデンドリマー類の主要な合成をJ.Chem.Soc.Commen.(J. Chem. Soc. Commen.)(1992年)、1400頁、および先進材料(Adv. Mater.)(1993年)、5、第6号、366頁以降に記載している。前記合成は、例えば、ジエチルエーテル中、10%過剰の臭化アリルマグネシウムを用いてテトラクロロシランをテトラアリルシランへ完全アリル化することによって開始する。加えて、アリル基は、白金触媒の存在下でトリクロロシランによってヒドロシリル化される。
【0111】
最終的に、前記変換は、ジエチルエーテル中の臭化アリルマグネシウムによって生じる。結果として、12個のアリル末端基を有するデンドリマーが得られる。この第1世代は第2世代へ変換することもでき、36個のアリル基が得られる。同じ主題が、D.セイファース(D. Seyferth)およびD.Y サン(D. Y Son)によって有機金属化合物(Organometallics)(1994年)、13、2682〜2690で論じられている。
【0112】
トリ−、またはテトラ−、またはペンタ−、またはヘキサ−、またはヘプタ−、またはオクタアルケニル(シクロ)シロキサン類とハイドロジェンクロロ−シラン類との変換生成物は更に、コア分子としても適している。これらは、アルケニル−グリニャール化合物類によって更なる工程で変換されて、周期的なまたは線状のシロキサンコア類を有するデンドリマー類をもたらす。
【0113】
精製トリ−、テトラ−、ペンタ−、ヘキサ−、ヘプタ−、もしくはオクタシロキサンデンドリマー類、ならびにこれらデンドリマーの任意の混合物はいずれも本発明に従って利用することができる。
【0114】
シランデンドリマー類、その調製、およびそのワニスとしての使用は、ドイツ国特許第19603242A1号およびドイツ国特許第19517838A1号、並びに欧州特許第0743313A1号から既知である。これら特許に列挙されたデンドリマー類はまた、本発明による目的にも適している。多官能アルケニル化合物類は、更に、コアとしても適している。.
トリメチロールプロパントリアリルエーテル、テトラアリルペンタエリトリト、サントリンクXI−100(Santolink XI-100)(モンサント(Monsanto))、テトラアリルオキシエタン、1,3,5−ベンゾールトリカルボン酸トリアリルエステル、1,2,4−ベンゾールトリカルボン酸トリアリルエステル、1,2,4,5−ベンゾールテトラカルボン酸テトラアリルエステル、リン酸トリアリル、クエン酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、トリアリルオキシトリアジン、ヘキサアリルイノシト、ならびに任意に置換可能な少なくとも2つのエチレン性不飽和基、例えばO−アリル、N−アリル、O−ビニル、N−ビニル、またはp−ビニルフェノールエーテル基を有する一般的な化合物類が特に適している。
【0115】
可能性のあるポリエン類も、米国特許第3,661,744号および欧州特許第0188880A1号に記載されている。ポリエンは、例えば、次の構造:(Y)−(X)mを有することが可能であり、ただし、mは、2以上の整数、好ましくは2、3、または4であり、そしてXは、−[RCR]f、−CR=CRR、−O−CR=CR−R、−S−CR=CR−R、−NR−CR=CR−R基から選択される(ここで、fは1〜9までの整数であり、またRラジカルは、H、F、Cl、フリル、チエニル、ピリジル、フェニルおよび置換フェニル、ベンジルおよび置換ベンジル、アルキルおよび置換アルキル、アルコキシおよび置換アルコキシ、並びにシクロアルキルおよび置換シクロアルキルの意味を表し、またそれぞれは、同一であっても異なっていてもよい)。(Y)は、C、O、N、Cl、Br、F、P、Si、およびH基から選択される原子から構築される、少なくとも二官能性の有機ラジカルである。
【0116】
少なくとも二価のカルボン酸のアリル−および/またはビニルエステル類は、例えば、極めて好適なポリエン化合物類である。これに適したカルボン酸は、2〜20C原子の炭素鎖、好ましくは5〜15C原子の炭素鎖を有するものである。フタル酸またはトリメリット酸などの芳香族ジカルボン酸類のアリルまたはビニルエステル類もまた極めて好適である。多官能アルコール類(好ましくは、少なくとも三官能性のアルコール類)のアリルエーテル類もまた適している。トリメチルプロパンのアリルエーテル類、ペンタエリスリトトリアリルエーテル、または2,2−ビスオキシフェニルプロパン−ビス−(ジアリルホスフェート)を例として挙げることができる。シアヌル酸トリアリルエステル化合物類、トリアリルトリアジントリオン種、および同様のものも適している。
【0117】
上述の種類のデンドリマー類およびそれらの調製については、米国特許第6,335,413B1号に記載されている。かかるデンドリマー類およびそれらの調製に関するこの文書の開示内容は、明示的に、本発明の開示内容の一部とみなされる。
【0118】
歯科用材料の所望の特性によれば、構成成分(H)は、約0.01〜約10重量%、好ましくは約0.05〜約5重量%、または約0.1〜約1重量%の量で存在する。非常に少量の添加でも、印象材の引き裂き強さをかなり向上させる。好ましい実施形態では、構成成分Hは、歯科用材料中に、約0.1〜約2重量%、例えば、約0.15〜約1重量%未満の量で存在する。
【0119】
構成成分AとBとHとの量比は、好ましくは、構成成分AおよびHの不飽和二重結合のモル当たり、構成成分BのSiH単位が約0.5〜約10モル存在するように選択される。歯科用材料中の構成成分AとHとBの量は、全ての構成成分の総重量に対して約5〜約70重量%までの範囲内である。好ましくは、その量は、約10〜約60重量%までの範囲内、特に約15〜約55重量%までの範囲内である。
【0120】
本発明による材料は、構成成分A〜Hを混合し、続いてそれらを、白金触媒Dの影響下で、構成成分BのSiH基が構成成分AおよびHの不飽和基にそれぞれ付加される、ヒドロシリル化と呼ばれる付加反応で硬化することによって製造される。
【0121】
好ましい実施形態では、本発明による材料は次の構成成分を含む:
−構成成分A+B+Hを約5〜約70重量%、
−構成成分Cを約0〜約40重量%、
−構成成分Dを約0.5〜約10重量%、
−構成成分Eを約0.0001〜約0.1(0,1)重量%、
−白金元素として計算されかつ化合物類A〜Hと共に存在する材料の総重量に対して、構成成分Fを約0.00005〜約0.05重量%
−構成成分Gを約0〜約70重量%、および
−構成成分Hを約0.1〜約50重量%。
【0122】
貯蔵安定性の理由から、材料を2成分製剤で処方することが好ましいことがあり、その場合、構成成分Bは全て、いわゆるベースペースト中に存在する。構成成分Fは全て、いわゆる触媒ペースト中に、ベースペーストとは物理的に分離されて存在する。構成成分AもしくはHまたは両者はそれぞれ、触媒ペーストまたはベースペーストのいずれかの中に存在することができ、好ましくは各構成成分AおよびHの一部はそれぞれベースペースト中に存在し、そして構成成分AまたはHの一部は触媒ペースト中に存在することができる。構成成分CおよびDは、ベースペースト中に存在するが、その量が触媒の硬化性能に影響を及ぼさないほど十分に少量である限り、微量の構成成分Dが触媒ペースト中に存在することも可能である。
【0123】
従って、本発明は、その材料がベースペーストおよびそれとは物理的に分離された触媒ペーストの形態で存在する、材料にも関する。構成成分B全体は、ベースペースト中に存在すべきであり、また構成成分F全体は、触媒ペースト中に存在すべきである。好ましくは、少なくとも大部分の構成成分Dと少なくとも大部分の構成成分Eとは、ベースペースト中に存在すべきであり、好ましくは構成成分DとEの約90重量%超過またはそれより多く、例えば、約95重量%、約98重量%、約99重量%、あるいは約100重量%がベースペースト中に存在すべきである。残りの構成成分は、2つのペースト中に任意に分配することができる。
【0124】
触媒ペーストとベースペーストとの容積比は、約10:1〜約1:10であり得る。ベースペースト:触媒ペーストの特に好ましい容積比は、約1:1である。約1:1の容積比の場合、構成成分A〜Hは次のベースペーストと触媒ペーストのように分配することができる。
【0125】
【表1】

【0126】
次のような好ましい量比を使用することができる:
【0127】
【表2】

【0128】
ベースペーストと触媒ペーストはまた、5:1の比で使用することも可能である。容積比5:1の場合には、両方のペーストを管状フィルムバッグに充填し、その後、使用直前に、ペンタミックス(PENTAMIX)(登録商標)(3Mエスペ(3M ESPE))などの混合および計量装置を使用して混合することができる。ダブルチャンバー式カートリッジまたはカプセルの形態の調剤も可能である。好適な装置類は、例えば、欧州特許第0232733A1号、米国特許第5,924,600号、米国特許第6,135,631号および欧州特許第0863088A1号に記載されており、前述の文書は、明示的に、フィルムバッグや混合および計量装置類などの供給および取り扱い装置についての開示内容の出典とみなされる。前述の文書は、参照として本明細書に組み込まれ、また本発明による硬化性材料に有用な供給および取り扱い装置に関する前記文書の開示内容は、本明細書の開示内容の一部とみなされる。
【0129】
本発明による化合物類は、一般に、上記の量で各構成成分を混合することによって入手可能である。一般に、構成成分類の混合は、例えば、スパチュラもしくは手動操作型の多成分ディスペンサーによって手動で行うか、またはこのような自動化タスクに使用可能な様々な入手可能な装置類のうちの一つ、好ましくは欧州特許第0232733A1号、米国特許第5,924,600号、米国特許第6,135,631号、または欧州特許第0863088A1号に記載されている装置のうち一つを用いて自動的に行うことができる。
【0130】
本発明による材料は、特に歯科用材料、とりわけ、精密印象材、用途印象材、咬合採得用(bite)印象材などの歯科用印象材に適している。
【0131】
本発明の材料は、好ましくは、約2.1〜約8MPa、より好ましくは約2.4〜約5MPaの引き裂き強さを有する。しかしながら、引き裂き強さが約15MPa超の値を超えないのであれば、幾つかの用途では有利であることが分かった。一般に、約2.1〜約6MPa、特に約2.4〜約5MPaの引き裂き強さ値を有する組成物は、印象形成の細部を傷つけずに、硬化しかつ押し付けた材料を口から容易に取り外すことが可能である。
【0132】
本発明による材料は、好ましくは、ISO4823に準拠した低い加工粘度および垂れない稠度と合わせて、約40以上、好ましくは約45以上、そして特に好ましくは約50以上(≧約50)のショア硬度A値を有する。本発明による硬化した材料のショアA硬度の上限は、約70または約65の値であり得る。
【0133】
本発明による材料は、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約70%の伸びによって測定できる、改善された伸長を示す。好ましくは、本発明による材料の伸びは、約100%を超え、好ましくは約200%を超える。
【0134】
ISO4823に準拠した材料の稠度が、重い本体の材料について記載されているような約25〜約35までの範囲であるか、または軽い本体の材料について記載されているような約36mm超過、好ましくは約37mm超過、または約38mm超過、または約40mm超過の範囲内であることは、本発明による材料の好ましい特徴でもある。本発明による最も好ましい材料は、約41mm超過の稠度、例えば、約42〜約48mmを示す。ISO4823に準拠した稠度の上限は約55mmであり得る。
【0135】
本発明を、以下の実施例によってさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0136】
1. 材料
1.1 実施例A(本発明によるベースペースト)
【0137】
【表3】

【0138】
1.2 実施例B(触媒ペースト)
【0139】
【表4】

【0140】
1.3 実施例C(本発明に準拠しない、比較用ベースペースト)
【0141】
【表5】

【0142】
2. 測定
引裂き強さ:
DIN 53504に準拠してツウィック1435ユニバーサル試験機(Zwick 1435 Universal testing machine)において20mm×4mm×2mmの中央ユニットを有する6枚のl−型試験片を引き裂くことにより、引き裂き強さデータを求めた。試料の直径は6mmであり、その長さは50mmであった。ベースペーストと触媒ペーストを静的ミキサーによって混合して、真鍮製の鋳型に充填した。23℃において24時間後、試験片を取り出して、測定を6回行って、平均値を求めた(速度200mm/分)。
【0143】
硬化時間:
硬化時間データは室温に対して与えられ、シャウバリー・キュロメータ(Shawburry Curometer)を用いて求める。硬化時間の終了は、硬化曲線が10mmラインを下回った時間と定義した。
【0144】
DIN 53505に準拠したショア硬度。
【0145】
3. 特性:
以下の実施例は、比較例(ベースペースト実施例C)と比較した実施例A中の安定化剤トリフェニルホスファイトの、ベースペーストと触媒ペーストの混合物の硬化反応についての効果と硬化したゴムの特性についての効果とを示している。
【0146】
【表6】

【0147】
4. 老朽化調査
4.1 実施例の粘度
以下の実施例では、ベースペーストと触媒ペーストを、典型的な2−チャンバー式カートリッジに充填した。これらを高温で保存した。70℃および50℃で一定期間保存した後、カートリッジを再試験した。データは、カートリッジのベースペースト側の粘度を示す。
【0148】
【表7】

【0149】
【表8】

【0150】
これらの結果は、ベースペーストの粘度についての有機リン化合物の効果を示している。50℃において2年後でも、ベースペーストの早期重合は生じなかったが、比較例では、ほんの3ヵ月後にカートリッジ内でベースペーストの重合が現れた。
【0151】
4.2 安定化剤試験
次の構成成分から成る溶液を製造して、安定化試験を行った:
【0152】
【表9】

【0153】
この基本溶液に、安定化剤類を添加して、溶液を30分間攪拌した。次いで、試験溶液を、開口ガラスビーカー内で80℃で16時間保存した。
【0154】
【表10】

【0155】
これらモデル実験は、他の硬化抑制剤類または酸化防止剤類と比較した、界面活性剤を包含する反応系の安定性についての有機リン化合物類の効果を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃未満の温度で硬化可能な歯科用印象材であって、
(A)構成成分Aとして、分子当たり少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有する、少なくとも1つのオルガノポリシロキサン、
(B)構成成分Bとして、分子当たり少なくとも3つのSiH基を有する、少なくとも1つのオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(D)構成成分Dとして、少なくとも1つの親水化剤、
(E)構成成分Eとして、オルガノホスフィン類、オルガノホスファイト類、オルガノホスホナイト類、ジ(オルガノホスファイト類)、ジ(オルガノホスホナイト類)から成る群より選択される少なくとも1つの安定化剤、
(F)構成成分Fとして、AとBとの反応を促進するための触媒を含む、歯科用印象材。
【請求項2】
前記親水化剤が界面活性剤である、請求項1に記載の印象材。
【請求項3】
前記親水化剤が非イオン性界面活性剤である、請求項1または2に記載の印象材。
【請求項4】
前記親水化剤がシリコーン部分を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の印象材。
【請求項5】
前記安定化剤が、式R1nP(OR)3-nの化合物(nは0、1、2または3であり、RおよびR1は互いに独立して、
【化1】

であることができ、ただし、R”は互いに独立して、H、C1〜C18−アルキル、C6〜C30−アリール、またはC7〜C31−アルキルアリール、ハロゲン(Hal)、SiR3、ORである)であるか、あるいは
前記安定化剤が、次の式:
【化2】

に従う化合物(ただし、z=2、またはトリフェニルホスファイト、もしくはジイソデシルフェニルホスファイトである)であるか、あるいは
前記安定化剤がトリアリールホスファイトである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の印象材。
【請求項6】
前記印象材が、
(C)構成成分Cとして、反応性置換基を有しないオルガノポリシロキサン類、あるいは
(G)構成成分Gとして、歯科用添加剤類、助剤類、および/または着色剤類、あるいは
(H)構成成分Hとして、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有するシラン化合物類、あるいは
構成成分CとGとの混合物、または構成成分GとHもしくはCとHとの混合物、または構成成分CとGとHとの混合物を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の印象材。
【請求項7】
前記印象材が、次の式のシラン:
Si(R1n(R24-n
(前記式中、R1は、Si−H基との付加反応を起こすことが可能な、炭素原子数2〜12の直鎖、分枝状、または環状の一価のエチレン性不飽和置換基であり、R2は、Si−H基と付加反応を起こすことが可能な基または前記反応に悪影響を及ぼす可能性がある基を有しない、炭素原子数1〜12の一価のラジカルであり、そしてnは2、3、または4である)、あるいは
次の一般式のシラン化合物:
(R1m(R23-mSi−A−Si−(R1m(R23-m
(前記式中、R1およびR2は、互いに独立して、上記と同様に定義され、Aは、窒素原子または酸素原子を含有し得る、炭素原子数1〜10000までの二価の直鎖もしくは分枝状の基、または脂環式基、複素環式基、芳香族基、もしくはヘテロ芳香族基であり、そしてmは2または3、好ましくは3である)、あるいは
次の式のデンドリマー:
SiR2x((CH2n−Si−((CH2m−CH=CH234-x
(前記式中、R2は、前記と同様に定義され、n=2、3、4、または5であり、m=0、1、2、または3であり、そしてx=0または1である)を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の印象材。
【請求項8】
前記印象材が、ベースペーストおよびそれとは物理的に分離された触媒ペーストの形態で存在し、構成成分Eおよび構成成分Dが前記ベースペースト中に存在し、そして構成成分Fが前記触媒ペースト中に存在し、並びに残りの構成成分A、B、および存在する場合、C、GおよびHが、任意に前記の2つのペースト中に分配される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の印象材。
【請求項9】
ベースペーストと触媒ペーストとの前記容積比が10:1〜1:10である、請求項10に記載の印象材。
【請求項10】
構成成分A、B、D、E、およびFと、存在する場合、CもしくはGもしくはH、またはCとGとHのうち2つ以上の混合物とを混合する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の印象材の調製方法。
【請求項11】
構成成分Bと、成分A、B、C、Dのうち1つ以上と、任意に構成成分Fとを混合してベースペーストを形成し、そして構成成分Eと、構成成分A、C、DおよびFのうち1つ以上とを混合して触媒ペーストを形成する、請求項11または12に記載の印象材の調製方法。
【請求項12】
50℃未満の温度で硬化可能な材料の使用であって、
(A)構成成分Aとして、分子当たり少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有する、少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1、
(B)構成成分Bとして、分子当たり少なくとも3つのSiH基を有する、少なくとも1つのオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(D)構成成分Dとして、少なくとも1つの親水化剤、
(E)構成成分Eとして、少なくとも1つのリン原子を含有する少なくとも1つの安定化剤、および
(F)構成成分Fとして、AとBとの反応を促進するための触媒
を含む、歯科用途における印象材の調製のための前記材料の使用。
【請求項13】
前記材料が、
(C)構成成分Cとして、反応性置換基を有しないオルガノポリシロキサン類、または
(G)構成成分Gとして、歯科用添加剤類、助剤類、および/もしくは着色剤類、または
(H)任意に、構成成分Hとして、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有するシラン化合物類、または
CとGとの混合物、またはGとGとHとの混合物、またはCとGとHとの混合物を含む、請求項14に記載の使用。
【請求項14】
少なくとも2つの容器を備える部品類のキットであって、1つの容器が
(A)構成成分Aとして、分子当たり少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有する、少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1、
(B)構成成分Bとして、分子当たり少なくとも3つのSiH基を有する、少なくとも1つのオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(D)構成成分Dとして、少なくとも1つの親水化剤、
(E)構成成分Eとして、少なくとも1つのリン原子を含有する、少なくとも1つの安定化剤、
を含み、そして少なくとも1つの他の容器が、
(A)構成成分Aとして、分子当たり少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有する、少なくとも1つのオルガノポリシロキサンA1、および
(F)構成成分Fとして、AとBとの反応を促進するための触媒を含む、キット。

【公表番号】特表2009−539758(P2009−539758A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518245(P2008−518245)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/023236
【国際公開番号】WO2007/001869
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】