説明

改変型βサイモシンペプチド

酸化、もしくは超酸化メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォーム、そのフラグメント、ラセミ体のサイモシンβ4スルホキシド以外のその単離されたR鏡像異性体もしくはその単離されたS鏡像異性体、または正常メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームもしくはフラグメントのアミノ酸配列の少なくとも1つのメチオニンと置換されるアミノ酸置換基を有する、改変型βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントを含む、組成物およびその組成物を形成するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
関連出願の相互参照
本出願は、2005年1月14日に出願された、米国仮出願第60/643,684号、米国仮出願第60/643,686号、米国仮出願第60/643,687号および米国仮出願第60/643,688号の利益を主張する。
【0002】
1.技術分野
本開示は、βサイモシンペプチド、それらのアイソフォームおよびフラグメントの分野に関する。
【背景技術】
【0003】
2.背景技術の説明
サイモシンβ4は、当初、インビトロにおける内皮細胞の遊走および分化の間にアップレギュレートされるタンパク質として同定された。サイモシンβ4は、胸腺から最初に単離され、種々の組織で同定される、43アミノ酸、4.9kDaの遍在性ポリペプチドである。内皮細胞の分化および遊走、T細胞の分化、アクチンの隔離および血管新生における役割を含むいくつかの役割がこのタンパク質の役割とされている。
【0004】
Tβ4のアミノ酸配列は、本明細書中に参考として援用される米国特許第4,297,276号に開示されている。Tβ4は、進化を通じて高度に保存されている。実際に、マウス、ラットおよびヒトのTβ4の間で全体的な相同性がある。
【0005】
Tβ4は、哺乳動物の多くの組織タイプに存在することが見出されており、広く様々な細胞プロセスおよび生理学的プロセスに関連する。そのプロセスは、骨髄細胞のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ活性を誘導する工程、視床下部の黄体形成ホルモン放出ホルモンおよび黄体形成ホルモンの分泌を刺激する工程、マクロファージの遊走を阻害する工程およびマクロファージの抗原提示を促進する工程ならびにインビトロにおいてT細胞株の表現型の変更を誘導する工程を含む。
【0006】
サイモシンβ4スルホキシドは、PCT国際公開番号WO99/49883に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当該分野において改良型βサイモシンペプチドが必要とされている。
概要
【課題を解決するための手段】
【0008】
1実施形態によれば、組成物は、酸化、もしくは超酸化改変型正常メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォーム、そのフラグメント、ラセミ体のサイモシンβ4スルホキシド以外のその単離されたR鏡像異性体もしくはその単離されたS鏡像異性体を含むか、あるいはその組成物は、正常メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームもしくはフラグメントのアミノ酸配列の少なくとも1つのメチオニンと置換されている非メチオニンアミノ酸置換基を有する、改変型βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントを含む。本発明に記載の組成物を形成するための方法もまた開示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
詳細な説明
多くのβサイモシンペプチドは、アミノ酸配列内に、インビボおよびインビトロで酸化に供するアミノ酸のメチオニンを含む。このようなβサイモシンペプチドは、本明細書中で「正常メチオニン含有βサイモシンペプチド」と呼ぶこともある。既知のβサイモシンの多くは、メチオニンが6位に存在する。
【0010】
正常メチオニン含有βサイモシンにおける、アミノ酸であるメチオニン(C11NOS)からメチオニンスルホキシド(C11NOS)への酸化により、βサイモシンスルホキシドである組成物が生じる。酸化は、任意の好適な方法を利用して達成することができる。例えば、メチオニン含有βサイモシンのスルホキシドへの酸化は、メチオニン含有βサイモシンを過酸化水素に曝露することによって達成することができる。50体積の過酸化水素を用いたサイモシンβ4の酸化は、本明細書中に参考として援用されるWO99/4988に開示されている。従って、サイモシンβ4を、希過酸化水素によって酸化することができ、WO99/49883に開示されるようなサイモシンβ4スルホキシドを形成する。
【0011】
アミノ酸であるメチオニン(C11NOS)のメチオニンスルホキシド(C11NOS)への酸化または他の方法によって、インビボおよびインビトロの両方でTβ4などのメチオニン含有βサイモシンの主な分解経路が説明され得る。
【0012】
多くのβサイモシンおよびアイソフォームが同定されており、それらは、Tβ4の公知のアミノ酸配列に対して約70%または約75%または約80%以上の相同性を有する。そのようなβサイモシンおよびアイソフォームとしては、例えば、Tβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15が挙げられる。
【0013】
6位にメチオニンを含む代表的なβサイモシンとしては、Tβ4、Tβ4ala、Tβ4xen、Tβ9met、Tβ10およびTβ13が挙げられる。
【0014】
本発明は、既知のβサイモシン、上で列挙されたようなそれらのアイソフォームおよびフラグメントならびに未だ同定されていない、正常メチオニン含有βサイモシンおよびTβ4アイソフォームならびにそのフラグメントに適用することができる。
【0015】
さらに、本開示は、ペプチドの6位以外の位置に1つ以上のメチオニンを正常に有する、既知、または未だ同定されていない、βサイモシン、それらのアイソフォームおよびフラグメントに適用することができる。
【0016】
特定の実施形態において、メチオニンと置換されるアミノ酸は、中性、非極性、疎水性および/または非酸化型である。このような組成物は、メチオニン含有βサイモシンよりも溶解度が大きいという利点を有する一方で、対応するβサイモシンと実質的に同じか、または異なる活性を有する。
【0017】
特定の実施形態において、メチオニンと置換されたアミノ酸は、βサイモシンの酸化を阻害し、最も好ましいことには、置換されたβサイモシンの生物学的活性が、対応するメチオニン含有βサイモシンと実質的に同じである。
【0018】
メチオニン含有βサイモシンペプチド中のメチオニンの置換は、そのペプチドの安定なプロファイルに変化を起こすと見られる。さらに、そのような置換は、ペプチドの予側不可能な新しい特性ならびに予側不可能に変化しない特性を生じると見られる。
【0019】
非限定的な例として、メチオニン含有βサイモシン中のメチオニンと置換されるアミノ酸は、バリン、イソロイシン、アラニン、フェニルアラニン、プロリンまたはロイシンである。
【0020】
1つの実施形態において、ロイシンは、Tβ4中のメチオニンと置換される。
1つの実施形態によれば、ロイシンがメチオニンと置換されるとき、このβサイモシンペプチドは、Tβ4以外である。
【0021】
1つの態様によれば、メチオニン含有βサイモシン中のメチオニンと置換されるアミノ酸は、ロイシン以外である。この態様のいくつかの実施形態において、メチオニン含有βサイモシン中のメチオニンと置換されるアミノ酸は、バリン、イソロイシン、アラニン、フェニルアラニンまたはプロリンである。
【0022】
1つの実施形態によれば、メチオニンと置換される好ましいアミノ酸は、バリンまたはイソロイシンである。
【0023】
別の実施形態によれば、メチオニンと置換される好ましいアミノ酸は、アラニンである。
【0024】
さらなる実施形態によれば、メチオニンと置換される好ましいアミノ酸は、バリンである。
【0025】
本発明に記載のアミノ酸置換改変型βサイモシンペプチド、それらのアイソフォームおよびフラグメントは、米国特許第5,512,656号に開示されている1つの実施例である固相ペプチド合成法などの任意の適切な方法によって提供され得る。
【0026】
本開示はまた、アミノ酸置換改変型βサイモシンペプチドを形成するための方法に適用することができ、メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントのアミノ酸配列が、βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメント中の少なくとも1つのメチオニンと非メチオニンアミノ酸を置換することによって改変される。その方法は、改変型βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントを形成するために、メチオニン含有βサイモシンペプチド配列、そのアイソフォームまたはフラグメント中の少なくとも1つのメチオニンと非メチオニンアミノ酸を置換する工程を含む。
【0027】
上で説明したように、Tβ4leuを含むために、サイモシンβ4が6位のメチオニンと置換されている置換基ロイシンを有してもよい。
【0028】
メチオニンと置換されるアミノ酸であるロイシンは、Tβ4の酸化を阻害する。Tβ4leuは、Tβ4よりも安定性が高いという利点を有する一方で、驚くべきことに、実質的なアクチン結合活性を有する。
【0029】
Tβ4におけるメチオニンのロイシンによる置換はまた、ペプチドの新しい特性を予想外に生じ得る。
【0030】
Tβ4leuを形成するための方法が開示され、ここで、Tβ4のアミノ酸配列は、Tβ4の6位のメチオニンとロイシンアミノ酸を置換することによって改変される。この方法は、Tβ4leuを形成するために、Tβ4配列の6位のメチオニンとロイシンを置換する工程を含む。
【0031】
本発明に記載のペプチドは、実質的なアクチン結合活性を有し得る。
他のもののうち、抗炎症剤として組成物が利用されてもよい。
【0032】
1つの実施形態によれば、サイモシンβ4スルホキシド以外の酸化メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントが、提供される。
【0033】
βサイモシンスルホキシドペプチドを形成するために、正常メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントと希過酸化水素などの酸化剤とを接触させる工程を含む改変型βサイモシンスルホキシドを形成するための方法もまた適用することができる。
【0034】
別の実施形態は、対応するβサイモシンスルホキシドペプチドを形成するために、サイモシンβ4以外の正常メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントと過酸化水素などの酸化剤とを接触させる工程を含むβサイモシンスルホキシドペプチドを形成する方法である。
【0035】
本明細書中に含まれる組成物は、非酸化メチオニン含有βサイモシンよりも安定性が高いという利点を有し、対応するβサイモシンと実質的に同じが、または異なる活性を有する。
【0036】
メチオニン含有βサイモシンペプチドのスルホキシドへの酸化によって、ペプチドの安定プロファイルが変化する。さらに、このような置換によって、ペプチドの特定の新しい特性ならびに特定の変化しない特性が生じ得る。
【0037】
正常メチオニン含有βサイモシンペプチド中のメチオニンの超酸化によって、ペプチドの安定プロファイルの変化が生じる。さらに、このような置換によって、ペプチドの一定の新しい特性ならびに一定の変化しない特性が生じ得る。
【0038】
1つの実施形態によれば、超酸化されるβサイモシンペプチドは、Tβ4以外である。
βサイモシンスルホキシドを含むメチオニン含有βサイモシンペプチドは、対応するβサイモシンスルホンペプチドを形成するために、過ギ酸または過酢酸によって超酸化され、ここで影響を受けるメチオニンの硫黄原子は、2つの酸素によって完全に酸化される(超酸化される)。
【0039】
1つの実施形態によれば、Tβ4スルホン以外の改変型メチオニン含有βサイモシンスルホンを含む組成物が、提供される。
【0040】
対応するβサイモシンスルホンペプチドを形成するためにメチオニン含有βサイモシンペプチド、そのスルホキシド、アイソフォームまたはフラグメントと過ギ酸および/または過酢酸などの酸とを接触させる工程を含むβサイモシンスルホンを形成するための方法が含まれる。
【0041】
別の実施形態によれば、対応するβサイモシンスルホンペプチドを形成するために、サイモシンβ4またはサイモシンβ4スルホキシド以外のメチオニン含有βサイモシンペプチド、そのスルホキシド、アイソフォームまたはフラグメントと過ギ酸および/または過酢酸などの酸とを接触させる工程を含むβサイモシンスルホンペプチドを形成する方法が含まれる。
【0042】
別の実施形態において、サイモシンβ4および/またはサイモシンβ4スルホキシドは
、サイモシンβ4スルホンを形成するために、過ギ酸または過酢酸によって酸化され、サイモシンβ4の6位のメチオニンの硫黄原子は、2つの酸素によって完全に酸化される(超酸化される)。
【0043】
他のもののうちサイモシンβ4スルホンが抗炎症剤として利用されてもよい。
Tβ4のメチオニル残基におけるチオエーテルがプロキラルであるので、キラル剤によらない酸化(または超酸化)によってスルホキシド(またはスルホン)、すなわちS型およびR型(「鏡像異性体」)の2つの型が生成される。酸化サイモシンβ4のパートナとなり得るすべての生体分子がキラルであるので、スルホキシド(またはスルホン)のS型またはR型と形成される複合体は異なる(ジアステレオ異性体)。サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)の型は、異なる薬力学的かつ薬物動態学的な挙動ならびに生物学的活性を示し得る。従って、サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)のS型およびR型は、異なる生物学的作用を有し得る。
【0044】
アミノ酸解析システムは、酸化サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)の加水分解(hyrolysis)後に、L−メチオニン(S)−スルホキシド(またはスルホン)とL−メチオニン(R)−スルホキシド(またはスルホン)とを識別するために使用され得る。例えば、2つの手順が、サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)の2つの型を単離するために酸化または超酸化後に使用され得る。メチオニンスルホキシド(またはスルホン)の異なる型は、鏡および鏡像として挙動するが、ペプチドの他のアミノ酸残基が不斉の環境を作り出すので、生成されたサイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)は、像と鏡像との対を構成しない。従って、そのそれぞれの型を、HPLC技術によって分離することができる。その型を分離するための代替手順は、サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)の一方の型を還元するが、他方は還元しない特異的なメチオニンスルホキシド(またはスルホン)レダクターゼの使用であり得る。酵素的な還元型からのサイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)の非還元可能型の分離は、HPLCによって実施してもよい。
【0045】
R−サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)を、R−サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)およびS−サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)を含む混合物から分離することによって、分離されたR−サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)を含む組成物を形成する方法が本明細書中に開示される。
【0046】
S−サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)を、S−サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)およびR−サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)を含む混合物から分離することによって、分離されたS−サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)を含む組成物を形成する方法が本明細書中に開示される。
【0047】
上で説明したように、多くのβサイモシンおよびそれらのアイソフォームが同定されており、それらは、Tβ4の既知のアミノ酸配列に対して約70%または約75%または約80%以上の相同性を有する。このようなβサイモシンおよびアイソフォームとしては、例えば、Tβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15が挙げられる。
【0048】
上で説明したように、6位にメチオニンを含む代表的なβサイモシンとしては、Tβ4、Tβ4ala、Tβ4xen、Tβ9met、Tβ10およびTβ13が挙げられる。
【0049】
上で説明したように、上で列挙したような既知のβサイモシンおよびアイソフォームならびに未同定の、メチオニン含有βサイモシン、それらのアイソフォームおよびフラグメントが本明細書中に含まれる。
【0050】
上で説明したように、既知かまたは未同定の、ペプチド中の6位以外の位置に1つ以上のメチオニンを有するβサイモシン、それらのアイソフォームおよびフラグメントがさらに本明細書中に含まれる。
【0051】
Tβ4と同様に、メチオニン含有βサイモシンのメチオニル残基におけるチオエーテルがプロキラルであるので、キラル剤によらない酸化(または超酸化)によって、S型およびR型(「鏡像異性体」)を含むスルホキシド(またはスルホン)の少なくとも2つの型が生成される。酸化メチオニン含有βサイモシンのパートナとなり得るすべての生体分子がキラルであるので、スルホキシド(またはスルホン)のS型またはR型と形成される複合体は異なる(ジアステレオ異性体)。βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)の異なる型は、異なる薬力学的かつ薬物動態学的な挙動ならびに生物学的活性を示す。従って、βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)のS型およびR型は、異なる生物学的作用を有し得る。
【0052】
Tβ4と同様に、アミノ酸解析システムは、酸化βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)の加水分解(hyrolysis)後に、L−メチオニン(S)−スルホキシド(またはスルホン)とL−メチオニン(R)−スルホキシド(またはスルホン)とを識別するために使用され得る。例えば、少なくとも2つの手順が、βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)の異なる型を単離するために酸化(または超酸化)後に使用され得る。メチオニンスルホキシド(またはスルホン)の異なる型は、鏡および鏡像として挙動するが、ペプチドの他のアミノ酸残基が不斉の環境を作り出すので、生成されたβサイモシンスルホキシド(またはスルホン)は、像と鏡像との対を構成しない。従って、その異なる型は、公知のHPLC技術によって分離することができる。その異なる型を分離するための代替手順は、サイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)の一方の型を還元するが、他方は還元しない特異的なメチオニンスルホキシド(またはスルホン)レダクターゼの使用であり得る。酵素的な還元型からのβサイモシンスルホキシド(またはスルホン)の非還元可能型の分離は、HPLCによって実施することができる。
【0053】
R−βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)を、R−βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)およびS−βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)を含む混合物から分離することによって、分離されたR−βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)を含む組成物を形成する方法が本明細書中に開示される。
【0054】
S−βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)を、S−βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)およびR−βサイモシンβ4スルホキシド(またはスルホン)を含む混合物から分離することによって、分離されたS−βサイモシンスルホキシド(またはスルホン)を含む組成物を形成する方法がさらに開示される。
【0055】
1つの実施形態において、本開示は、本明細書中に説明されるようなペプチドを含む組成物の有効量を投与することによって、被験体の疾患、損傷、傷害および/もしくは創傷または被験体の組織を治療、予防、阻害または低減するための治療方法を提供する。投与工程は、直接的であってもよく、全身性であってもよい。直接投与の例としては、例えば、本明細書中に説明されるようなペプチドを含む、溶液、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、ペースト、噴霧液、懸濁液、分散液、ヒドロゲル、軟膏剤または油剤を含む担体と組織とを直接適用または吸入によって接触させる工程を含む。全身性投与としては、例えば、注射用水などの医薬的に許容可能な担体中に本明細書中に説明されるようなペプチドを含む組成物の静脈内、腹腔内、筋肉内注射が挙げられる。被験体は、好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0056】
本明細書中に説明されるような組成物は、任意の適当な有効量で投与され得る。例えば、本明細書中に説明されるような組成物は、約0.0001〜1,000,000マイクログラムの範囲内の用量、より好ましくは約0.1〜5,000マイクログラムの範囲内の量、最も好ましくは約1〜30マイクログラムの範囲内で投与され得る。
【0057】
本明細書中に説明されるような組成物は、毎日、1日おき、1週間おき、1ヶ月おきなどで、投与の1日あたり単回適用または複数回適用(例えば、投与の1日あたり2回、3回、4回または4回以上の適用)で投与され得る。
【0058】
本開示はまた、医薬的または化粧品的に許容可能な担体中に本明細書中に説明されるような組成物の治療有効量を含む医薬組成物または化粧品組成物を含む。このような担体としては、本明細書中で列挙されたものを含む任意の適当な担体が挙げられる。
【0059】
本明細書中に説明されたアプローチは、任意の従来の投与技術(これらに限定されないが、例えば、直接投与、局所注射、吸入または全身性投与)を含む、本明細書中に説明されるような組成物の被験体への様々な投与経路または送達を含む。本明細書中に説明されるような組成物を使用するか、またはそれらを含む方法および組成物は、医薬的に許容可能か、または化粧品的に非毒性な賦形剤、添加剤または担体と混合することによって医薬組成物または化粧品組成物に処方され得る。
【実施例1】
【0060】
Tβ4valは、例えば、米国特許第5,512,656号に開示される方法に従う従来の固相ペプチド合成法によって、6位のメチオニンと置換されるバリンとともに生成され、予想外かつ予測不可能な特性を有するペプチドが生じる。
【実施例2】
【0061】
Tβ4isoは、従来の固相ペプチド合成法によって、6位のメチオニンと置換されるイソロイシンとともに生成され、予想外かつ予測不可能な特性を有するペプチドが生じる。
【実施例3】
【0062】
Tβ4M6Aは、例えば、米国特許第5,512,656号に開示される方法に従う従来の固相ペプチド合成法によって、6位のメチオニンと置換されるアラニンとともに生成され、予想外かつ予測不可能な特性を有するペプチドが生じる。
【実施例4】
【0063】
Tβ4pheは、例えば、米国特許第5,512,656号に開示される方法に従う従来の固相ペプチド合成法によって、6位のメチオニンと置換されるフェニルアラニン(phenyalonine)とともに生成され、予想外かつ予測不可能な特性を有するペプチドが生じる。
【実施例5】
【0064】
Tβ4proは、例えば、米国特許第5,512,656号に開示される方法に従う従来の固相ペプチド合成法によって、6位のメチオニンと置換されるプロリンとともに生成され、予想外かつ予測不可能な特性を有するペプチドが生じる。
【実施例6】
【0065】
Tβ4leuは、例えば、米国特許第5,512,656号に開示される方法に従う従来の固相ペプチド合成法によって、6位のメチオニンと置換されるロイシンとともに生成され、予想外かつ予測不可能な特性を有するペプチドが生じる。
【実施例7】
【0066】
Tβ4leuを、本明細書中に説明されるような固相ペプチド合成法によって生成した。
【0067】
Tβ4leuのG−アクチン結合親和性を測定するために試験を実施し、天然Tβ4と比較した。この実験を3つ組で2回繰り返したところ、以下に示される結果であった(3回の実験の平均):
第1測定:Tβ4Kd=1.28μM;Tβ4leuKd=1.36μM
第2測定:Tβ4Kd=0.54μM;Tβ4leuKd=0.99μM
Tβ4のほうが低い値であったのは、そのスルホキシドが原因である。Tβ4にTβ4−スルホキシドを加えたものをアミノ酸解析により測定した。その調製物の約10%が、G−アクチンにだけ弱く結合するスルホキシドであった。従って、本試験におけるTβ4の真の濃度は、もっと低く、遊離Tβ4の減少は、非酸化Tβ4と比べて大きい。遊離βサイモシンの減少を測定した。G−アクチンに結合したTβ4および遊離Tβ4を、限外濾過によって分離し、限外濾液中のTβ4の濃度をHPLCによって測定した。使用した手順は、Huff et al.,FEPS Letters,414:39−44(1997)に記載されている。
【0068】
上記のデータは驚くべきことに、βサイモシンペプチドにおけるメチオニンのアミノ酸置換が、βサイモシンペプチドのGアクチン結合能力に実質的に悪影響を及ぼさないことを示唆する。
【実施例8】
【0069】
Tβ4スルホンを、濃H(30%)でのTβ4の処理によってTβ4のMet残基を完全に酸化することによって生成した。
【0070】
Tβ4スルホンの化学的性質を明らかにした。HPLC、MALDI−TOF MSおよびアミノ酸解析の技術を使用した。MALDI−TOF解析により、そのペプチドへのOの組み込みに対応するペプチドの分子量が32Da増加したことが示された。
【0071】
Tβ4スルホンは、G−アクチンの結合によって特徴付けられる。Tβ4スルホンは、Gアクチンと複合体を形成し、その複合体のKd値は、約10μMである。従って、その複合体は、Tβ4との複合体と比較して安定ではない(1μM)が、驚くべきことに、Tβ4スルホキシドとの複合体より安定である(20μM)。
【実施例9】
【0072】
Tβ4ala、Tβ4xen、Tβ9met、Tβ10およびTβ13を含むβサイモシンは、本明細書中に説明されるような希過酸化水素と接触させることによってスルホキシドに変換され、対応するβサイモシンスルホキシドを形成する。
【実施例10】
【0073】
Tβ4ala、Tβ4xen、Tβ9met、Tβ10およびTβ13を含むβサイモシンは、対応するβサイモシンスルホンペプチドを形成するために、本明細書中に説明されるような、過ギ酸および/または過酢酸とそれらとを接触させることによってβサイモシンスルホンペプチドに変換される。
【実施例11】
【0074】
S型とR型の1対1の混合物であるTβ4スルホキシドは、特異的なメチオニンスルホキシドレダクターゼ(MSR−AおよびMSR−B)によって還元される。この手順によ
って、S型またはR型のいずれかが還元されるが、他方の型は、スルホキシドとして残存する。この手順によって2つのサンプルが得られた:一方のサンプルは、Tβ4およびR−Tβ4スルホキシドの混合物を含み、他方のサンプルは、Tβ4およびS−Tβ4スルホキシドの混合物を含む。2つのサンプルをHPLCによって分離し、純粋なS−Tβ4スルホキシドおよびR−Tβ4スルホキシドを単離した。G−アクチンとのそれらの複合体の解離定数を決定した。驚くべきことに、それらの複合体の解離定数は、同一であった。(R/S)−Tβ4スルホキシドまたはR−Tβ4スルホキシドまたはS−Tβ4スルホキシドのいずれかとのG−アクチンの複合体の安定性は、同一である(Kd〜20μM)。アクチン−Tβ4スルホキシドのKdは、約1μMである。R−Tβ4スルホキシドが、G−アクチンに結合することによってS−Tβ4スルホキシド(およびS−Tβ4スルホキシドからR−Tβ4スルホキシド)に変換されることは可能である。このラセミ化によって、Kd値の相違がなくなるだろう。
【実施例12】
【0075】
実施例8に従って生成されるTβ4−スルホンならびに実施例9に従って生成されるβサイモシンスルホキシドおよび実施例10に従って生成されるβサイモシンスルホンは、それらの各々の単離されたS鏡像異性体およびR鏡像異性体を形成するために分離される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化、もしくは超酸化(superoxidized)改変型正常メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォーム、そのフラグメント、またはラセミ体のサイモシンβ4スルホキシド以外のその単離されたR鏡像異性体もしくはその単離されたS鏡像異性体を含むか、あるいは正常メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームもしくはフラグメントのアミノ酸配列の少なくとも1つのメチオニンと置換される非メチオニンアミノ酸置換基を有する、改変型βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントを含む、組成物。
【請求項2】
前記正常メチオニン含有βサイモシンペプチドが、Tβ4、Tβ4ala、Tβ4xen、Tβ9met、Tβ10またはTβ13である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸置換基が、ロイシン、バリン、イソロイシン、アラニン、フェニルアラニンまたはプロリンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記メチオニン含有βサイモシンペプチドが、Tβ4である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記アミノ酸置換基が、ロイシン、バリン、イソロイシン、アラニン、フェニルアラニンまたはプロリンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記アミノ酸置換基が、中性、無極性、疎水性または非酸化型の少なくとも1つである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記アミノ酸置換基が、前記ペプチドの酸化を阻害する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
Tβ4または正常メチオニン含有βサイモシンペプチドのアイソフォームもしくはフラグメント以外のメチオニン含有βサイモシンペプチドのアミノ酸配列の少なくとも1つのメチオニンと置換される、ロイシン以外の非メチオニンアミノ酸置換基を有する、改変型βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
改変型Tβ4アミノ酸配列の6位のメチオニンと置換されるロイシンを有する改変型Tβ4アミノ酸配列を含む、ペプチドTβ4leuを含む組成物。
【請求項10】
改変型メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントが、スルホキシドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記改変型メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントが、スルホンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
サイモシンβ4スルホンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
Tβ4alaスルホン、Tβ4xenスルホン、Tβ4metスルホン、Tβ10スルホンまたはTβ13スルホンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
単離されたR鏡像異性体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
単離されたS鏡像異性体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
サイモシンβ4スルホキシドの単離されたR鏡像異性体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
サイモシンβ4スルホキシドの単離されたS鏡像異性体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
βサイモシンスルホンペプチドを形成するために正常メチオニン含有βサイモシンペプチドと酸とを接触させる工程を含む、請求項1に記載のβサイモシンスルホンペプチドを形成するための方法。
【請求項19】
前記酸が、過ギ酸または過酢酸の少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
単離されたR−βサイモシンスルホキシドまたはR−βサイモシンスルホンを含む、請求項1に記載の組成物を形成する方法であって、対応するR−βサイモシンスルホキシドまたはR−βサイモシンスルホンとS−βサイモシンスルホキシドまたはS−βサイモシンスルホンとの混合物からR−βサイモシンスルホキシドまたはR−βサイモシンスルホンを分離する工程を含む、方法。
【請求項21】
単離されたS−βサイモシンスルホキシドまたはS−βサイモシンスルホンを含む、請求項1に記載の組成物を形成する方法であって、対応するS−βサイモシンスルホキシドまたはS−βサイモシンスルホンおよびR−βサイモシンスルホキシドまたはR−βサイモシンスルホンを含む混合物からS−βサイモシンスルホキシドまたはS−βサイモシンスルホンを分離する工程を含む、方法。
【請求項22】
請求項1に定義されたような、改変型βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントを形成する方法であって、改変型βサイモシンペプチド、それのアイソフォームまたはフラグメントを形成するために、正常メチオニン含有βサイモシンペプチド、そのアイソフォームまたはフラグメントのアミノ酸配列の少なくとも1つのメチオニンと非メチオニンアミノ酸置換基を置換する工程を含む、方法。
【請求項23】
前記アミノ酸置換基が、ロイシン、バリン、イソロイシン、アラニン、フェニルアラニンまたはプロリンである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ペプチドTβ4leuを形成するために、Tβ4の6位のメチオニンをアミノ酸のロイシンに置換する工程を含む、請求項9に定義されたペプチドTβ4leuを形成する方法。

【公表番号】特表2008−526978(P2008−526978A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551381(P2007−551381)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/001141
【国際公開番号】WO2006/076523
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(503334769)リジェナークス・バイオファーマスーティカルズ・インコーポレイテッド (16)
【出願人】(507239592)フリードリヒ−アレクサンダー−ウニベルジテート・エアランゲン−ニュルンベルク (7)
【Fターム(参考)】