説明

改良された重合方法

【課題】メチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、又はジメチルスルホキシド等のスルホキシドの存在下での制御ラジカル重合において、重合終期に至るまで重合速度の低下を防ぐ。
【解決手段】下記(a)〜(e)を用いて重合体を得る制御ラジカル重合方法であって、重合開始時に下記(a)〜(e)を混合して用い、(a)の重合転化率が5〜95%の時点で、更に(c)を添加することで重合末端の活性を向上させる:
(a)ラジカル重合性単量体;
(b)カルボン酸アミド、スルホキシド又はこれらの混合物;
(c)遷移金属化合物;
(d)(c)と錯体を形成し得るポリアミン化合物;
(e)重合開始剤である有機ハロゲン化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御ラジカル重合において重合中の重合末端の活性を向上させることを特徴とする重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、制御ラジカル重合法が開発され、様々なグループで積極的に研究がなされている。制御ラジカル重合法は、ラジカル重合性単量体と重合開始剤の仕込み比によって分子量を自由にコントロールできる。制御ラジカル重合法の中でも有機ハロゲン化物等を重合開始剤とし、遷移金属錯体を重合触媒としてラジカル重合性単量体を重合する方法は、上記の制御ラジカル重合法の特徴に加えて、得られる重合体が官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、重合開始剤や重合触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有する重合体の製造方法としては好ましい。
【0003】
この遷移金属錯体を重合触媒とする重合としては、例えば特許文献1〜2に記載の手法が挙げられる。
遷移金属錯体を重合触媒とする制御ラジカル重合はトルエン等の炭化水素系溶媒やアセトニトリル等のニトリル系溶媒をはじめとする各種溶媒中で行なうことができる。これら溶媒の中でもジメチルスルホキシドを用いた場合には、重合速度が向上することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、一般に遷移金属錯体を重合触媒とする制御ラジカル重合では重合が進むにつれ停止反応が起こり、重合転化率が上がりにくくなる傾向にある。また近年、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシド存在下では、時間が経つにつれ重合触媒である遷移金属錯体が不均化反応により失活することが指摘されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第96/30421号パンフレット
【特許文献2】国際公開第97/47661号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Macromolecules、2007年、40巻、7795頁〜7806頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、又はジメチルスルホキシド等のスルホキシドの存在下での制御ラジカル重合において、重合終期に至るまで重合速度の低下を防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に対して鋭意検討を行なった結果、制御ラジカル重合において重合中に遷移金属化合物を添加することにより重合末端の活性が向上することを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記(a)〜(e)を用いて重合体を得る制御ラジカル重合方法であって、重合開始時に下記(a)〜(e)を混合して用い、(a)の重合転化率が5〜95%の時点で、更に(c)を添加する制御ラジカル重合方法である:
(a)ラジカル重合性単量体;
(b)カルボン酸アミド、スルホキシド又はこれらの混合物;
(c)遷移金属化合物;
(d)(c)と錯体を形成し得るポリアミン化合物;
(e)重合開始剤である有機ハロゲン化物。
また、本発明は、上記の制御ラジカル重合方法により、前記(a)を重合して得られる重合体である。
また、本発明は、上記の制御ラジカル重合方法により、前記(a)を重合する重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カルボン酸アミド又はスルホキシド存在下での制御ラジカル重合において、重合終期に至るまで重合速度の低下を防ぎ、重合時間の短縮化を図ることができる。また、添加する遷移金属化合物の量やタイミング等から、重合終了時間の予測が可能となるため、逐一重合転化率や単量体残存量を調べる手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ジメチルホルムアミド存在下の重合時間と単量体の消費量[=ln((重合開始時の単量体濃度)/(単量体濃度))]との関係を示す。尚、図中の矢印(実線)は実施例1での、矢印(破線)は実施例2での臭化第一銅の添加を示す。
【図2】ジメチルホルムアミド存在下の重合時間と単量体の消費量[=ln((重合開始時の単量体濃度)/(単量体濃度))]との関係を示す。尚、図中の矢印(実線)は実施例3での臭化第一銅の添加を示す。
【図3】ジメチルホルムアミド存在下の重合時間と単量体の消費量[=ln((重合開始時の単量体濃度)/(単量体濃度))]との関係を示す。尚、図中の矢印(実線)は実施例4での臭化第一銅の添加を示す。
【図4】ジメチルアセトアミド存在下の重合時間と単量体の消費量[=ln((重合開始時の単量体濃度)/(単量体濃度))]との関係を示す。尚、図中の矢印(実線)は実施例5での臭化第一銅の添加を示す。
【図5】ジメチルスルホキシド存在下の重合時間と単量体の消費量[=ln((重合開始時の単量体濃度)/(単量体濃度))]との関係を示す。尚、図中の矢印(実線)は実施例6での臭化第一銅の添加を示す。
【図6】アセトニトリル存在下の重合時間と単量体の消費量[=ln((重合開始時の単量体濃度)/(単量体濃度))]との関係を示す。尚、図中の矢印(実線)は比較例5での臭化第一銅の添加を示す。
【図7】ジメチルホルムアミド存在下の重合時間と単量体の消費量[=ln((重合開始時の単量体濃度)/(単量体濃度))]との関係を示す。尚、図中の矢印(細い実線)は実施例7での、矢印(細い破線)は実施例8での、矢印(太い実線)は実施例9での、矢印(太い破線)は実施例10での臭化第一銅の添加を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いるラジカル重合性単量体(a)としては、例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−sec−ブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸(トリフルオロメチル)メチル、(メタ)アクリル酸(2−トリフルオロメチル)エチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロエチル)エチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロエチル)(2−パーフルオロブチル)エチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸(ジパーフルオロメチル)メチル、(メタ)アクリル酸(パーフルオロメチル)(パーフルオロエチル)メチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロヘキシル)エチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロデシル)エチル、(メタ)アクリル酸(2−パーフルオロヘキサデシル)エチル等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等の芳香族ビニル単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有単量体;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化アリル、アリルアルコール等のアリル系単量体が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、得られる重合体の物性等から、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
尚、本発明において「(メタ)アクリル」は、「メタクリル」又は「アクリル」を表す。
本発明において、ラジカル重合性単量体(a)の重合開始時における含有率は、重合系全体(100質量%)に対して3〜90質量%であることが好ましく、15〜75質量%であることがより好ましい。尚、ここでいう重合系全体とは上述の(a)〜(e)に後述の溶媒を加えたものである。
重合系全体に対する(a)の含有率が3質量%以上であれば、重合初期の重合速度が向上し、90質量%以下であれば、重合終期における重合系の粘度上昇が抑えられる。
尚、図1〜7の「単量体濃度」は、重合系全体に対する(a)の含有率をモル濃度に変換したものである。
【0013】
本発明に用いる、カルボン酸アミド、スルホキシド又はこれらの混合物(b)としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又はこれらの混合物が挙げられる。
本発明において、カルボン酸アミド、スルホキシド又はこれらの混合物(b)の重合開始時における含有率は、重合系全体(100質量%)に対して5〜95質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。
重合系全体に対する(b)の含有率が5質量%以上であれば、遷移金属錯体の溶解性が低下しないため、重合速度が低下せず、95質量%以下であれば、単量体及び遷移金属錯体の含有率が適切であり、重合速度が低下しない。
【0014】
本発明に用いる遷移金属化合物(c)としては、例えば、
MXn
(MはCu、Fe、Ru、Cr、Mo、W、Rh、Re、Co、V、Zn、Au、Agからなる群から選ばれる遷移金属であり、Xはハロゲン原子であり、nは遷移金属の形式電荷(0≦n≦7)である)
が挙げられる。尚、nが0の場合は「遷移金属」である。即ち、本発明における「遷移金属化合物(c)」は、遷移金属原子とハロゲン原子からなる「遷移金属化合物」だけでなく、「遷移金属」を含む概念である。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、制御ラジカル重合触媒としての制御能の観点から、MがCuのものが好ましく、Xが塩素、臭素、沃素のものが好ましく、nが0〜2のものが好ましく、銅、塩化第一銅、臭化第一銅がより好ましい。
遷移金属化合物(c)は、そのまま添加しても、適当な溶媒の溶液又は分散液にして添加してもよい。
本発明において、遷移金属化合物(c)の重合開始時における含有率は、重合系全体(100質量%)に対して0.05〜5質量%であることが好ましい。重合系全体に対する(c)の含有率が0.05質量%以上であれば、重合初期の重合速度が向上し、5質量%以下であれば、重合初期の分子量分布を狭く抑えることができる。
【0015】
本発明では、ラジカル重合性単量体(a)の重合転化率が5〜95%の時点で、更に遷移金属化合物(c)を添加する。こうすることで、重合末端の活性が向上し、カルボン酸アミド又はスルホキシド存在下での制御ラジカル重合であっても重合終期に至るまで重合速度の低下を防ぐことができる。遷移金属化合物(c)は1回添加してもよく、2回以上に分けて添加してもよいが、2回以上に分けて添加した方が重合速度の向上効果が大きい。
ラジカル重合性単量体(a)の重合転化率が5〜95%の時点で添加する遷移金属化合物(c)の量は、重合系全体(100質量%)に対して0.05〜5質量%であることが好ましい。(a)の重合転化率が5〜95%の時点で添加する遷移金属化合物(c)の量が0.05質量%以上であれば遷移金属化合物(c)の添加による重合速度の向上効果が発現しやすく、5質量%以下であれば得られる重合体の精製が容易である。
遷移金属化合物(c)を更に添加するタイミングは、(a)の重合転化率が5〜95%の時点であり、20〜95%の時点であることが好ましい。(a)の重合転化率が5%以上であれば遷移金属化合物(c)の添加による重合速度の向上効果が発現しやすく、重合転化率が95%以下であれば得られる重合体の分子量分布を狭く抑えることができる。
制御ラジカル重合においては、アゾ系重合開始剤等を用いた通常のラジカル重合と異なり、単量体の重合速度と制御能との兼ね合いが重要である。即ち、遷移金属錯体を重合触媒とした制御ラジカル重合において重合触媒を後添加した場合、条件によってはラジカル発生量が増加(ハロゲンの引き抜き反応)し重合速度が向上することもあるが、逆にラジカル発生が抑制(遷移金属錯体からのハロゲンの供給反応)され、見かけ上、重合速度が変わらないことも多い。また、重合触媒を後添加した場合、多くの場合において、重合制御はされにくくなり、重合体の分子量分布は広がる傾向にある。
そこで、本発明では、重合触媒そのものではなく、重合触媒を構成する一つである、遷移金属化合物(c)を後添加している。即ち、(b)存在下での制御ラジカル重合において、時間の経過と共に失活する重合触媒(遷移金属錯体)を補充するため、遷移金属化合物(c)を後添加し、重合速度の低下を防いでいる。こうすることで、単量体の重合速度を向上させつつ、重合体の分子量分布を狭く抑えることができる。
【0016】
本発明に用いる、遷移金属化合物(c)と錯体を形成し得るポリアミン化合物(d)としては、アミン系配位子が好ましい。
アミン系配位子としては、例えば、2,2’−ビピリジル又はその誘導体等のビピリジル化合物;1,10−フェナントロリン又はその誘導体;ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン、ビスピコリルアミン、トリアルキルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中では、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミンが好ましい。
また、遷移金属化合物(c)として銅化合物を用いる場合には、アミン系配位子は、アミノ基を3つ以上有する化合物であることが好ましい。
【0017】
尚、本発明におけるアミノ基とは、窒素原子−炭素原子結合を有する基を表すが、この中でも、窒素原子が炭素原子及び/又は水素原子とのみ結合する基であることが好ましい。
【0018】
重合開始時における遷移金属化合物(c)とポリアミン化合物(d)のモル比((c)/(d))は、0.1〜2であることが好ましく、0.5〜1であることがより好ましい。(c)/(d)のモル比が0.1以上であれば、重合初期の重合速度が向上し、2以下であれば、重合に関与しない遷移金属化合物が(c)が過剰にならないため、得られる重合体の精製が容易である。
【0019】
本発明で用いる、重合開始剤である有機ハロゲン化物(e)としては、1官能性、2官能性、又は多官能性の化合物が使用できる。これらは目的に応じて使い分けることができるが、A−Bジブロック共重合体を製造する場合には、重合開始剤の入手が容易であることから1官能性化合物が好ましい。A−B−A型のトリブロック共重合体、B−A−B型のトリブロック共重合体を製造する場合は、重合工程数、重合時間の短縮の点から2官能性化合物を使用することが好ましい。分岐状ブロック共重合体を製造する場合は、重合工程数、重合時間の短縮の点から多官能性化合物を使用することが好ましい。
【0020】
1官能性化合物としては、例えば、
1−C(H)(X)−COOR2
1−C(CH3)(X)−COOR2
1−C(H)(X)−CO−R2
1−C(CH3)(X)−CO−R2
1−C(H)(X)−CN、
1−C(CH3)(X)−CN、
で示される化合物が挙げられる。尚、式中、R1は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は、炭素数7〜20のアラルキル基を表す。Xは、塩素、臭素又は沃素を表す。R2は炭素数1〜20の1価の有機基を表す。
1として、炭素数1〜20のアルキル基(脂環式炭化水素基を含む)の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−へプチル基、ドデシル基、イソボルニル基が挙げられる。
炭素数6〜20のアリール基の具体例としては、フェニル基、トリイル基、ナフチル基が挙げられる。
炭素数7〜20のアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基が挙げられる。
1官能性化合物の具体例としては、2−臭化プロピオン酸メチル、2−臭化プロピオン酸エチル、2−臭化プロピオン酸ブチル、2−臭化イソ酪酸メチル、2−臭化イソ酪酸エチル、2−臭化イソ酪酸ブチル、2−臭化プロピオノニトリル、2−臭化イソブチロニトリルが挙げられる。これらの中では、2−臭化プロピオン酸エチル、2−臭化プロピオン酸ブチル、2−臭化プロピオノニトリル、2−臭化イソブチロニトリルが、ハロゲン基の脱離速度が速い点から好ましい。
【0021】
2官能性化合物としては、例えば、
XCH(COOR3)−(CH2n−CH(COOR3)−X、
XC(CH3)(COOR3)−(CH2n−C(CH3)(COOR3)−X、
XCH2−COO−(CH2n−OCO−CH2−X、
XCH(CH3)−COO−(CH2n−OCO−CH(CH3)−X、
XC(CH32−COO−(CH2n−OCO−C(CH32−X、
XCH2−COO−C64−OCO−CH2−X、
XCH(CH3)−COO−C64−OCO−CH(CH3)−X、
XC(CH32−COO−C64−OCO−C(CH32−X、
で示される化合物が挙げられる。尚、式中、R3は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20アリール基、又は、炭素数7〜20アラルキル基を表す。nは0〜20の整数を表す。C64は2価のフェニル基を表す。Xは、塩素、臭素又は沃素を表す。
3の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基の具体例は、前述のR1の具体例と同じである。
2官能性化合物の具体例としては、2,3−ジブロモコハク酸ジメチル、2,3−ジブロモコハク酸ジエチル、2,4−ジブロモグルタル酸ジメチル、2,4−ジブロモグルタル酸ジエチル、2,4−ジブロモグルタル酸ジブチル、2,5−ジブロモアジピン酸ジメチル、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、2,6−ジブロモピメリン酸ジメチル(ジメチル−2,6−ジブロモヘプタンジオエート)、2,6−ジブロモピメリン酸ジエチル、2,7−ジブロモスベリン酸ジメチル、2,7−ジブロモスベリン酸ジエチルが挙げられる。これらの中では、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、2,6−ジブロモピメリン酸ジメチル、2,6−ジブロモピメリン酸ジエチルが、原料の入手が容易であることから好ましい。
【0022】
多官能性化合物としては、例えば、
63−(CH2−X)3
63−(CH(CH3)−X)3
63−(C(CH32−X)3
で示される化合物が挙げられる。尚、式中、C63は3価のフェニル基(3つの結合手の位置は1位〜6位のいずれの組合せでもよい)、Xは、塩素、臭素又は沃素を表す。
多官能性化合物の具体例としては、トリス(1−ブロモエチル)ベンゼン、トリス(1−ブロモイソプロピル)ベンゼン、トリス(ブロモメチル)ベンゼンが挙げられる。これらの中では、トリス(ブロモメチル)ベンゼンが、原料の入手が容易であることから好ましい。
【0023】
尚、重合を開始する基以外にも官能基を有する有機ハロゲン化物を用いると、容易に末端又は分子内に重合を開始する基以外の官能基が導入された重合体が得られる。このような重合を開始する基以外の官能基としては、アルケニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、シリル基等が挙げられる。
前記重合開始剤として用いることができる有機ハロゲン化物は、ハロゲン基(ハロゲン原子)が結合している炭素がカルボニル基又はフェニル基等と結合しており、炭素−ハロゲン結合が活性化されて重合が開始する。
本発明において、重合開始剤である有機ハロゲン化物(e)の重合開始時における含有率は、重合系全体(100質量%)に対して0.05〜5質量%であることが好ましい。
重合系全体に対する(e)の含有率が0.05質量%以上であれば、重合初期の重合速度が向上し、5質量%以下であれば、停止反応等の副反応を抑制できる。
尚、使用する(e)の量は、製造目的とする重合体の分子量に合わせて、単量体との比から決定すればよい。即ち、重合開始剤である有機ハロゲン化物(e)1分子あたり、何分子のラジカル重合性単量体を使用するかによって、重合体の分子量を制御することができる。
【0024】
重合の雰囲気は、酸素不存在雰囲気が好ましい。酸素はラジカルと容易に反応し、重合を阻害するし、また、酸素存在下では、重合触媒が酸化され活性を失う可能性がある。
重合温度は、0〜200℃の範囲で行なうことができ、好ましくは、室温〜150℃の範囲である。
重合混合物はよく攪拌されることが好ましい。特に、遷移金属化合物を添加する際には、速やかに均一に拡散させるためにも、十分な攪拌が好ましい。
重合の方法としては、バッチ重合、単量体を追加していくセミバッチ重合、連続重合等に適用できる。
【0025】
本発明では、必要に応じて、溶媒を用いることができる。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、エマルション系もしくは超臨界流体CO2を媒体とする系においても重合を行なうことができる。
本発明の制御ラジカル重合方法により得られた重合体は、各種用途に使用することができる。得られた重合体の用途としては、例えば、分子量分布が狭いことを利用した塗料用組成物、ブロック重合体であることを利用した熱可塑性組成物、熱又は光による硬化性組成物、粘着剤用組成物、接着剤用組成物、更には、フィルムやシート等の成形材料が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
単量体の重合転化率、並びに重合体の組成及び数平均分子量及び分子量分布は、以下の方法で測定した。
(1)重合転化率
測定には、1H−NMR(日本電子(株)製、「JNM−EX270」(商品名))を用いた。
重合中又は重合後に採取した反応溶液を重水素化クロロホルムに溶解させ、単量体の二重結合に由来するピークと、重合体のエステル基に結合した炭化水素基の水素に由来するピークの積分強度比から、単量体の重合転化率を測定した。測定温度は25℃、積算回数は16回である。
【0027】
(2)数平均分子量(Mn)及び分子量分布(PDI)
GPC(東ソー(株)製、「HLC−8220」(商品名)、カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER HZ−L(4.6×35mm)、TSK−GEL SUPER HZM−N(6.0×150mm)×2直列接続、溶離液:クロロホルム、測定温度:40℃、流速:0.6mL/分)を用い、ポリメタクリル酸メチルをスタンダードとして測定した。
【0028】
<実施例1>
200mLシュレンクに、アクリル酸ブチル(24g、0.187mol)、臭化第一銅(269mg、1.87mmol)、及びジメチルホルムアミド(24g)を仕込み、窒素バブリングにより窒素置換した。よく撹拌し、ペンタメチルジエチレントリアミン(以下、「PMDETA」という。)(0.4mL、1.87mmol)を加えた後、内温が70℃になるまで昇温させ、同温度で10分間攪拌し、臭化第一銅とPMDETAの錯体を溶解させた。
10分後、重合開始剤としてジメチル−2,6−ジブロモヘプタンジオエート(0.2mL、0.937mmol)を添加し、重合を開始した。重合開始から1時間経過後(重合転化率85%)に、臭化第一銅(269mg、1.87mmol)を添加し、更に2時間重合を行なった。途中、一定時間ごとに、シリンジを用いて重合溶液をサンプリングした。
重合開始から3時間後の重合転化率は97%で、GPCによるMnは32100、PDIは1.35であった。
【0029】
<実施例2>
仕込み時の臭化第一銅の量を538mg(3.75mmol)としたこと以外は、実施例1と同様に重合操作を行なった。臭化第一銅添加時の重合転化率は92%であった。
重合開始から3時間後の重合転化率は98%で、GPCによるMnは29200、PDIは1.48であった。
【0030】
<実施例3>
仕込み時の臭化第一銅の量を53mg(0.369mmol)とし、重合開始から30分経過後(重合転化率34%)、及び1時間経過後(重合転化率76%)にそれぞれ臭化第一銅を108mg(0.753mmol)添加したこと以外は、実施例1と同様に重合操作を行なった。
重合開始から3時間後の重合転化率は92%で、GPCによるMnは23700、PDIは1.19であった。
【0031】
<実施例4>
仕込み時の臭化第一銅の量を135mg(0.937mmol)とし、重合開始から30分経過後(重合転化率49%)、1時間経過後(重合転化率81%)、及び1時間30分経過後(重合転化率90%)にそれぞれ臭化第一銅を135mg(0.937mmol)添加したこと以外は、実施例1と同様に重合操作を行なった。
重合開始から3時間後の重合転化率は98%で、GPCによるMnは29000、PDIは1.27であった。
【0032】
<実施例5>
ジメチルホルムアミド24gの代りにジメチルアセトアミド24gを用いたこと以外は、実施例1と同様に重合操作を行なった。臭化第一銅添加時の重合転化率は50%であった。
重合開始から6時間後の重合転化率は89%で、GPCによるMnは23900、PDIは1.19であった。
【0033】
<実施例6>
仕込み時の臭化第一銅の量を67.5mg(0.469mmol)、PMDETAの量を0.1mL(0.469mmol)、ジメチル−2,6−ジブロモヘプタンジオエートの量を0.1mL(0.469mmol)とし、アクリル酸ブチル24gの代りにアクリル酸メチル(32g、0.371mol)を、ジメチルホルムアミド24gの代りにジメチルスルホキシド32gを用い、重合開始から1時間経過後(重合転化率66%)に添加した臭化第一銅の量を67.5mg(0.469mmol)としたこと以外は、実施例1と同様に重合操作を行なった。
重合開始から4時間後の重合転化率は92%で、GPCによるMnは67900、PDIは1.31であった。
【0034】
<実施例7>
反応容器に300mL三ツ口丸底フラスコを用い、仕込み時のアクリル酸ブチルの量を48g(0.374mol)、臭化第一銅の量を135mg(0.937mmol)、ジメチルホルムアミドの量を48g、PMDETAの量を0.2mL(0.938mmol)、ジメチル−2,6−ジブロモヘプタンジオエートの量を0.1mL(0.469mmol)とし、重合開始から30分間経過後(重合転化率38%)に、臭化第一銅を135mg(0.937mmol)添加したこと以外は、実施例1と同様に重合操作を行なった。
重合開始から6時間後の重合転化率は89%で、GPCによるMnは92700、PDIは1.22であった。
【0035】
<実施例8>
重合開始から1時間経過後(重合転化率47%)に、臭化第一銅を添加したこと以外は、実施例7と同様に重合操作を行なった。
重合開始から6時間後の重合転化率は89%で、GPCによるMnは87800、PDIは1.23であった。
【0036】
<実施例9>
重合開始から2時間経過後(重合転化率67%)に、臭化第一銅を添加したこと以外は、実施例7と同様に重合操作を行なった。
重合開始から6時間後の重合転化率は91%で、GPCによるMnは93600、PDIは1.26であった。
【0037】
<実施例10>
重合開始から4時間経過後(重合転化率75%)に、臭化第一銅を添加したこと以外は、実施例7と同様に重合操作を行なった。
重合開始から6時間後の重合転化率は88%で、GPCによるMnは87100、PDIは1.27であった。
【0038】
<比較例1>
重合開始後に臭化第一銅を添加しないこと以外は、実施例1と同様に重合操作を行なった。
重合開始から3時間後の重合転化率は89%で、GPCによるMnは24900、PDIは1.25であった。
【0039】
<比較例2>
重合開始後に臭化第一銅を添加しないこと以外は、実施例2と同様に重合操作を行なった。
重合開始から3時間後の重合転化率は96%で、GPCによるMnは37400、PDIは1.38であった。
【0040】
<比較例3>
重合開始後に臭化第一銅を添加しないこと以外は、実施例5と同様に重合操作を行なった。
重合開始から6時間後の重合転化率は80%で、GPCによるMnは20900、PDIは1.15であった。
【0041】
<比較例4>
重合開始後に臭化第一銅を添加しないこと以外は、実施例6と同様に重合操作を行なった。
重合開始から4時間後の重合転化率は76%で、GPCによるMnは57200、PDIは1.25であった。
【0042】
<比較例5>
ジメチルホルムアミド24gの代りにアセトニトリル24gを用い、重合開始から4時間経過後(重合転化率71%)に臭化第一銅(269mg、1.87mmol)を添加したこと以外は、実施例1と同様に重合操作を行なった。
重合開始から6時間後の重合転化率は80%で、GPCによるMn20800は、PDIは1.08であった。
【0043】
<比較例6>
重合開始後に臭化第一銅を添加しないこと以外は、比較例5と同様に重合操作を行なった。
重合開始から6時間後の重合転化率は77%で、GPCによるMnは20300、PDIは1.08であった。
【0044】
<比較例7>
重合開始後に臭化第一銅を添加しないこと以外は、実施例7と同様に重合操作を行なった。
重合開始から6時間後の重合転化率は79%で、GPCによるMnは73700、PDIは1.15であった。
【0045】
<比較例8>
仕込み時の臭化第一銅の量を269mg(1.87mmol)とし、重合開始後に臭化第一銅を添加しないこと以外は、実施例7と同様に重合操作を行なった。
重合開始から6時間後の重合転化率は87%で、GPCによるMnは88300、PDIは1.26であった。
【0046】
<評価>
実施例1、2及び比較例1、2の結果を図1に、実施例3及び比較例1の結果を図2に、実施例4及び比較例2の結果を図3に、実施例5及び比較例3の結果を図4に、実施例6及び比較例4の結果を図5に、比較例5及び6の結果を図6に、実施例7〜10及び比較例7、8の結果を図7に示す。
【0047】
図1に示すように、ジメチルホルムアミド存在下の制御ラジカル重合において、(a)の重合転化率が5〜95%の時点で臭化第一銅を添加した場合(実施例1及び2)では、添加しなかった場合(比較例1及び2)と比べて重合速度は向上し、重合中の重合末端の活性が向上していることが分かった。また、同量の臭化第一銅を重合開始時に一度に仕込んだ場合(比較例2)と、重合開始時と(a)の重合転化率が5〜95%の時点に分割して添加した場合(実施例1)とでは、後者の方が重合速度は向上した。
【0048】
図2及び3に示すように、臭化第一銅を重合開始時に一度に仕込んだ場合と比べて、重合開始時と(a)の重合転化率が5〜95%の時点に分割して添加することで重合速度が向上する効果は、重合開始時の臭化第一銅を減らした場合((c)/(d)モル比が1以下)でも同様に見られた。
【0049】
図4及び5に示すように、ジメチルスルホキシド及びジメチルスルホキシド存在下の制御ラジカル重合においてもジメチルホルムアミド存在下と同様に、(a)の重合転化率が5〜95%の時点での臭化第一銅添加の有無による重合速度の差異が見られた。
【0050】
図7に示すように、ジメチルホルムアミド存在下の制御ラジカル重合において、(a)の重合転化率が5〜95%の範囲内の異なる時点で臭化第一銅を添加した場合(実施例7〜10)では、添加しなかった場合(比較例7)や同量の臭化第一銅を重合開始時に一度に仕込んだ場合(比較例8)と比べて重合速度は向上した。
【0051】
このように、カルボン酸アミドやスルホキシドの存在下で行なう制御ラジカル重合において、(a)の重合転化率が5〜95%の時点で遷移金属化合物を添加することにより重合中の重合末端の活性が向上し、重合終期に至るまで重合速度の低下を防ぐことができることが分かった。
【0052】
尚、図6に示すようにアセトニトリル存在下の制御ラジカル重合においては、(a)の重合転化率が5〜95%の時点で臭化第一銅を添加する場合(比較例5)と添加しない場合(比較例6)とで重合速度に大きな差異は見られず、遷移金属化合物の添加による重合中の重合末端の活性向上は認められなかった。この理由としては、比較例5のような場合では重合触媒は失活せず、遷移金属化合物(臭化第一銅)を後添加しても、活性な重合触媒量は変化しないためと考えられる。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(e)を用いて重合体を得る制御ラジカル重合方法であって、
重合開始時に下記(a)〜(e)を混合して用い、(a)の重合転化率が5〜95%の時点で、更に(c)を添加する制御ラジカル重合方法:
(a)ラジカル重合性単量体;
(b)カルボン酸アミド、スルホキシド又はこれらの混合物;
(c)遷移金属化合物;
(d)(c)と錯体を形成し得るポリアミン化合物;
(e)重合開始剤である有機ハロゲン化物。
【請求項2】
重合開始時における前記(c)と前記(d)のモル比((c)/(d))が、0.1〜2である請求項1に記載の制御ラジカル重合方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の制御ラジカル重合方法により、前記(a)を重合して得られる重合体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の制御ラジカル重合方法により、前記(a)を重合する重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−159397(P2010−159397A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270136(P2009−270136)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】