説明

改良ナイロン樹脂および方法

本明細書に示す開示は、分子量の増大が好ましくない溶融押出し加工および射出成形に有用な低い黄色度と優れた白色保持を示す重合体、例えばナイロン66などに関する。そのような重合体の調製を燐化合物の含有量、例えば次亜燐酸ナトリウム(SHP)などの含有量が重量で表して150から300ppmの量になるように実施する。“エンドキャップ”用添加剤、例えば酢酸、プロピオン酸、安息香酸またはこはく酸から選択した添加剤などを重合開始時に添加して存在させることで好ましくない分子量上昇を有効に軽減する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願との相互参照】
【0001】
本出願は、2009年8月10日付けで出願した米国仮出願番号61/232,631による優先権の利点を請求するものである。本出願では米国仮出願番号61/232,631を引用することによってそれの全体が本明細書に組み入れられる。
【技術分野】
【0002】
本明細書に示す開示は、成形用改良ナイロン重合体樹脂の製造およびそのような樹脂を溶融射出成形装置で用いることに関する。より詳細には、本開示は、溶融前に存在する樹脂の水分含有量が多様でありかつ溶融状態の持続時間も多様である成形方法で用いるナイロン樹脂に関する。
【背景技術】
【0003】
燐化合物を用いてポリアミド組成物が示す初期の黄色度を低くしかつ色安定性を向上させると同時に前記燐化合物が示す触媒効果を失活させることで後の加工中に前記ポリアミドが起こす有意な分子量上昇を防止する方法は特許文献1から公知である。この特許文献1の開示は、アミノ酸またはジアミンと二酸からポリアミド組成物を調製することに関し、これは、少なくとも1種のポリアミド形成用反応体をポリアミド溶融物の存在下で重合させるか或はポリアミド溶融物の中に(a)直接炭素−燐結合を持たない燐化合物[(1)亜燐酸、(2)IAおよびIIA族、マンガン、亜鉛、アルミニウム、アンモニア、およびアルキルおよびシクロアルキルアミンおよびジアミンの亜燐酸塩から成る群より選択される亜燐酸塩および(3)水の存在下で加水分解を起こして無機亜燐酸もしくは塩を生じる亜燐酸有機エステルから成る群より選択]および(b)水酸化物、酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、アルコキサイドおよび水素化物から選択されるIA族の塩基を導入することを含んで成る。
【0004】
同様に、ナイロン6、11、12、66、69、610、612またはこれらの共重合体を生じる少なくとも1種のポリアミド形成用反応体をポリアミド溶融物の存在下で重合させるか或はポリアミド溶融物に(1)亜燐酸、(2)IAおよびIIA族の金属、マンガン、アルミニウム、アンモニア、およびアルキルおよびシクロアルキルアミンおよびジアミンの亜燐酸塩から成る群より選択される亜燐酸塩および(3)水の存在下で加水分解を起こして無機亜燐酸もしくは塩を生じる亜燐酸有機エステルから成る群より選択される燐化合物および(b)IIA族の金属、亜鉛またはアルミニウムのカルボン酸塩および水溶性化合物から成る群より選択される多価金属化合物を導入することを含んで成るポリアミド組成物製造方法も特許文献2から公知である。
【0005】
成形および押出し加工用途に有用なポリアミド樹脂は貯蔵時に好ましくない色増加(即ち黄色度の増大)を示しかつその後の溶融加工中に有意な分子量上昇を示すことが知られている。同様に、ポリアミド樹脂の製造を通常通り顔料(例えば白色顔料である二酸化チタン)の添加無しで行うとそのような樹脂は初期の色に関して多様な度合の黄色度を示しかつ経時的に黄色度が高くなることも知られている。後の溶融加工操作中に高温にさらされることが黄色度増大の一因になっている。樹脂は成形および押出し加工適用中に再粉砕の形態の溶融を繰り返し受ける可能性があり、その結果として成形もしくは押出し加工された樹脂が示す黄色度は一般に高くなってしまう。従って、そのような樹脂の貯蔵期間が長い可能性があることと成形および押出し加工中に溶融を繰り返し受ける可能性があることを考慮すると、初期の黄色外観の度合が公知樹脂のそれよりも低くかつ経時的にそれが低い度合で維持される改良されたポリアミド樹脂の必要性が存在する。
【0006】
ポリアミドが示す黄色度を低くしようとする公知の手段は、特定の燐化合物添加剤を用いる手段である。そのような燐化合物はポリアミド用色安定剤であり、酸化劣化および熱劣化の度合を低くすると信じられている。しかしながら、また、そのような燐化合物は重合(ポリアミド化)用触媒としても働く。重合用触媒として働くそのような燐化合物を含有させたポリアミドが押出し加工機または成形機内で溶融温度にさらされると急速に重合を起こす。そのような重合の結果として相対粘度(RV)が高くなることで測定されるように分子量の上昇が起こってしまう。特に、低水分(HO)含有量の状態になるように乾燥させたポリアミド樹脂を再び溶融させた時にRVの上昇が急速に起こる。その結果として、その重合体の分子量が高くなりかつポリアミドが示すメルトフロー値が低くなることが観察される。成形および押出し加工用途の場合、そのようにポリアミドが示すメルトフロー値が低くなることは好ましくない。
【0007】
ポリアミドが示す黄色度を低くするための公知の燐化合物添加剤には、亜燐酸、それらの塩およびそれらの有機エステルが含まれる。そのような燐酸の例には、次亜燐酸、オルト燐酸、ピロ燐酸および二燐酸が含まれる。
【0008】
その上、特定の燐化合物がポリアミド重合工程に対して示すそのような触媒作用は低下するか或は完全に停止する可能性があることも公知である。そのような特定の燐化合物が当該重合体で示す触媒作用の失活もしくは低下は特定の塩基、例えば重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムなどを用いることで制御可能であることが知られている。
【0009】
また、多価金属化合物を当該ポリアミドで用いることで特定の燐化合物がポリアミド重合工程に対して示すそのような触媒作用を低下または完全に停止させることができることも公知である。亜燐酸の多価金属塩、酢酸塩、ステアリン酸塩および水に可溶なハロゲン化物を用いるとそのような触媒失活作用が得られ、それには下記の金属:カルシウム、亜鉛、バリウム、マンガンおよびアルミニウムが含まれる。
【0010】
また、例えばヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の重合などで生じさせたポリアミド材料が示す分子量の制御を連鎖停止剤として機能する物質を添加することで行うことができることも公知である。ナイロン−66重合中に分子量を制御する通常の手段は単官能アミンもしくは酸を添加することによる手段である(触媒は全く述べられていない)ことが例えば非特許文献1などに開示されている。そのような物質は生じるポリアミドの平均分子量を低くする連鎖停止剤として働くと述べられている。酢酸が通常用いられる連鎖停止剤であると述べられている。
【0011】
そのような公知実施を要約すると、ポリアミド重合では少なくとも燐化合物を存在させない場合、連鎖停止剤の使用は生じる重合体の分子量上昇を制御する作用を示す可能性がある。燐が基になった抗黄色剤を存在させた場合、後の溶融加工中に当該重合体が起こす分子量上昇が防止されるのはナイロン樹脂に存在する燐化合物が示す触媒作用を失活させた時のみであることが示されている。その結果として、ナイロン樹脂に供給する燐化合物の量は要求される触媒失活度合で制限される。このように、公知技術における要求は失活用材料を当該重合体の中に含有させると言った要求である。そのように触媒を失活させようとする方策は最終的に燐化合物が初期黄色度の低下および色安定性の向上をもたらす有益な効果と競合する。
【0012】
成形工程で用いられるナイロン樹脂が熱安定性を示しかつ耐黄色性を示すようにしようとする目的は充分に認識されてはいるが、また、燐化合物を用いてそのような目的を達成しようとする手段も当該樹脂が示す水分含有量履歴と反目するものである。全ての樹脂の水分含有量を均一かつ一定に維持することができるならば、貯蔵条件に関係なく、溶融状
態における経時的分子量上昇は問題にならないであろう。しかしながら、成形および押出し加工用途で用いられる樹脂では水分含有量が変化しないと言った条件は実際上決して存在しない。一般に、溶融前に存在する樹脂の水分濃度は多様でありかつまた溶融状態の持続時間も多様である。成形および押出し加工でナイロン樹脂を用いる使用者はしばしばそれらの“過度に乾燥した”重合体を用いる。そのような過度に乾燥した重合体の水分含有量は低く、それに加えて高い安定性および白色度を維持しようとして用いる亜燐酸化合物が示す触媒作用によって、当該重合体の分子量が不当に高くなってしまう。その結果として、溶融粘度が所望度合よりも高くなるか或は容易には予測できない溶融粘度状態が存在することさえ起こり、結果として、メルトフロー問題が原因で成形に欠陥が生じてしまう。
【0013】
当該技術分野では、先行する溶融履歴および水分含有量に関係なく予測可能かつ再現可能な様式で加工可能な成形用ナイロン樹脂に対して満たされていない要求が存在したままである。亜燐酸化合物の添加の結果として低い黄色度および優れた白色安定性を示しかつ溶融(または流体)状態における分子量上昇の度合が予測可能である成形用ナイロン樹脂は価値がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,191,251号(R.U.Pagilagan、Du Pontに譲渡)
【特許文献2】米国特許第5,929,200号(R.U.Pagilagan、Du Pontに譲渡)
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Charles Schildknect編集のPolymerization Processes((John Wiley & Sons、(1977))の443−444頁のJacobsおよびZimmermanによる“12章:Preparation of 6,6−Nylon and Related Polyamide”
【発明の概要】
【0016】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示は改良ナイロン重合体に関し、これは、1番目の添加剤および2番目の添加剤を含有して成り、かつ
前記1番目の添加剤は前記重合体に重量で表して150から300ppm(parts per million)を包含する量で添加されており、かつ
前記2番目の添加剤は前記重合体に重合体百万グラム当たり10から50、好適には10から17モルを包含する量で添加されており、かつ
この改良ナイロン重合体は、
前記1番目の添加剤が次亜燐酸ナトリウムであることを特徴とし、かつ更に、
前記2番目の添加剤が酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびこはく酸から成る群より選択されることも特徴とする。
【0017】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示は、重量で表して600から3000、好適には600から1000ppmの量の酢酸から成る2番目の添加剤を含有して成る前記改良ナイロン重合体に関する。
【0018】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示は、ポリヘキサメチレンアジパミドを含有して成る前記改良ナイロン重合体に関する。
【0019】
いくつかの態様において、本明細書に示す開示は、流体状態の射出成形用樹脂(これは好適にはナイロン重合体である)を射出成形機に供給するための装置に関し、この装置は、
a. 少なくとも1種の好適には燐が基になった重合用触媒の少なくとも一部および少なくとも1種のエンドキャッピング用の好適には低級のカルボン酸添加剤の少なくとも一部を含有することを特徴とする好適には成形用ナイロン重合体樹脂を供給し、
b. 固体から流体への状態遷移を起こさせるに充分な熱を加えることで前記樹脂を溶融させ、そして
c. 流体状態の前記樹脂を射出成形機の鋳型空洞部に移送する、
ことを含んで成る。
【0020】
前記装置の別の態様では、前記成形用樹脂をナイロン樹脂、好適にはナイロン−6,6から選択しかつ前記少なくとも1種の重合用触媒をポリアミド化用触媒から選択しかつ前記少なくとも1種のエンドキャッピング用添加剤を好適には低級のモノおよびジカルボン酸から選択する。
【0021】
前記装置の更に別の態様において、前記少なくとも1種の重合用触媒は次亜燐酸ナトリウムでありかつ前記少なくとも1種のエンドキャッピング用添加剤を酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびこはく酸から成る群より選択する。
【0022】
更に、いくつかの態様において、本明細書に示す開示は、流体状態の射出成形用ナイロン樹脂を射出成形機に供給する方法に関し、この方法は、
a. 1番目の相対粘度(RV)測定値を有しかつ重量で表して0.15%未満、好適には0.1%未満の水含有量を示すことを特徴としかつ更に少なくとも1種の好適には燐が基になったポリアミド化用触媒の少なくとも一部および少なくとも1種のエンドキャッピング用の好適には低級のカルボン酸添加剤の少なくとも一部を含有することも特徴とするナイロン樹脂を供給し、
b. 固体から流体への状態遷移を起こさせるに充分な熱を加えることで前記ナイロン樹脂を溶融させかつその流体状態のナイロン樹脂が示す2番目の相対粘度(RV)の方が前記1番目の相対粘度(RV)測定値より高い度合が16RV単位未満、好適には13RV単位未満、より好適には10RV単位未満であることを特徴とし、そして
c. 流体状態の前記ナイロン樹脂を射出成形機の鋳型空洞部に移送する、
段階を含んで成る。
【0023】
前記方法の別の態様では、前記少なくとも1種の重合用触媒をポリアミド化用触媒から選択しかつ前記少なくとも1種のエンドキャッピング用添加剤を好適には低級のモノカルボン酸から選択する。
【0024】
前記方法の更に別の態様において、前記少なくとも1種の重合用触媒は次亜燐酸ナトリウムでありかつ前記少なくとも1種のエンドキャッピング用添加剤を酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびこはく酸から成る群より選択する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
以下に行う詳細な説明に数多くの詳述を例示の目的で含めるが、通常の当業者は、以下に示す詳細の数多くの変形および代替は本明細書に開示する態様の範囲内であることを理解するであろう。
【0026】
従って、以下の態様は請求する如何なる発明の普遍性も失うことなくかつ請求する如何なる発明にも制限を課すことなく示すものである。本開示をより詳細に説明する前に、本
開示を説明する個々の態様に限定するものでなく、それ自体は多様であり得ると理解されるべきである。また、本明細書で用いる用語は単に個々の態様を説明する目的でありかつ限定することを意図するものではないことも理解されるべきである、と言うのは、本開示の範囲を添付請求項によってのみ限定するからである。
【0027】
燐が基になった抗黄色剤、例えば次亜燐酸ナトリウム(SHP)などを重量で表して150から300ppmの量で重合前または重合中に添加することで低い黄色度と優れた白色保持を示すポリアミド重合体、特にナイロン66を製造することができることを見いだした。そのようなナイロン重合体が示す分子量上昇はSHPが添加されていないか或はSHPの量が実質的により少ない匹敵するナイロン重合体が示すそれよりもずっと急速である。そのような分子量上昇はナイロン重合(ポリアミド化)工程中にSHPから生じたホスフェート種が示す触媒作用によるものであると理解している。溶融押出し加工および射出成形の産業的適用では、そのような相対的に急速な分子量上昇は好ましくない。
【0028】
また、“低級”、即ちC−Cのモノまたはジカルボン酸、例えば酢酸、プロピオン酸、安息香酸またはこはく酸などの“エンドキャップ(end cap)”用添加剤を重合開始時に添加するとSHPを有効な量で用いて生じさせたナイロン66に観察される分子量上昇が有効に軽減され得ることも見いだした。SHPによる改良を受けさせたナイロン66に添加する“エンドキャップ”用添加剤の特に有効な量は重量で表して最終的重合体百万グラム当たり10から50、好適には10から17モルであることを見いだした。酢酸の場合のその量は最終的重合体質量に対して600から3000ppm、好適には600から1000ppmに相当する。
【0029】
本明細書に示す態様のナイロン重合体は実質的に脂肪族のポリアミドを含んで成っていてもよい。即ち、繰り返すアミド基は実質的に脂肪基で連結している。本明細書では、用語“アミド形成部分”を二酸、ジアミンまたはラクタムの基を言及する時に用いる。例えば、ナイロン66のアミド形成部分は下記の単量体:ヘキサメチレンジアミン(HMD)およびジカルボン酸単量体であるアジピン酸に由来し、その重合体をポリヘキサメチレンアジパミドと呼ぶ。
【0030】
溶融押出し加工および射出成形の産業的用途では、ナイロン66のメルトフローによる特徴付けが非常に良好である。ナイロン66が示す結晶融点は265℃の時に極めて明確になることが知られておりかつ270℃から300℃の時に良好な流動性が観察される。また、溶融状態のナイロン66がそのような加工温度で示す挙動はニュートン挙動から逸脱していることも良く知られている。そのような挙動は、射出圧力(せん断応力)または射出速度(せん断速度)が高くなるにつれて溶融粘度が有意に低下することを意味する。その結果として、その溶融物はそのような射出成形変数が高くなるにつれて高い流動性を示すようになることが観察される。ナイロン66が示すメルトフローが温度に依存することで粘度が低くなることも知られており、このように、それは、温度が高くなるにつれて流れが向上する働きをする。そのような複雑な流体流れ関係が射出成形工程におけるメルトフロー挙動に影響を与える点になる。従って、ナイロン66が示す流体流れを分子量の関数として予測かつ調整可能なように制御することができることが望ましく、それの代用測定値は相対粘度RVである。
【0031】
本明細書に開示する方法で用いるに有用な他のナイロン重合体は当該技術分野で良く知られており、それには、二酸とジアミンもしくはこれらの塩の縮合で得られるポリアミド、ラクタムまたはアミノ酸の縮合生成物であるポリアミド、およびオメガ−アミノニトリルまたはジアミンとジニトリルの混合物を水の存在下で反応させることで生じさせたポリアミドが含まれる。
【0032】
単一のジアミンと単一の二酸の縮合で得られたホモポリアミドおよび2種以上のジアミンと1種以上の二酸の混合物または2種以上の二酸と1種以上のジアミンの混合物の縮合で得られたインターポリアミドを用いることができる。また、2種以上のポリアミドの混合物を用いることも可能である。アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸、アゼライン酸、テレフタル酸およびイソフタル酸を包含する二酸がより有用である。ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミンおよび2−メチルペンタメチレンジアミンを包含するジアミンが本開示の範囲内で用いるに有用である。
【0033】
また、アミノカルボン酸または相当するラクタムの反応で生じさせたホモポリアミドもしくはインターポリアミドまたはそれらとジアミンおよび二酸とのインターポリアミドを用いることも可能である。炭素数が6−12のアミノカルボン酸もしくは相当するラクタムが本開示の範囲内で用いるに有用であり、それにはカプロラクタム、ラウロラクタム、エナントラクタム、オメガ−アミノウンデカン酸およびアミノドデカン酸が含まれる。
【0034】
本開示の範囲内で用いるに有用なナイロン重合体に追加的に場合により添加剤、例えば難燃剤、滑剤、顔料および染料、光学的光沢剤、有機抗酸化剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線安定剤、核形成剤、強化剤および補強剤などを含有させてもよい。
【0035】
本開示の範囲内で用いるに有用なナイロン重合体の調製を当業者に一般に公知の重合方法で実施する。例えば、そのような方法にはバッチ式オートクレーブもしくは不連続方法および連続もしくはCP方法が含まれる。
【0036】
通常のバッチ式オートクレーブ方法に従う場合、二酸とジアミンを等モル量で用いて生じさせた水中40−60%のポリアミド塩溶液を予備蒸発槽に仕込んで、それを240から690kPa絶対の圧力下130−160℃の温度で操作することで、前記ポリアミド塩溶液を濃縮して70−80%にする。その濃溶液をオートクレーブに移し、その槽内の圧力を1100から4000kPa絶対にまで上昇させながら加熱を継続する。水蒸気をバッチ温度が220−260℃に到達するまで排出させる。次に、圧力をゆっくりと(20−60分かけて)低下させて約110kPa絶対未満にする。その段階の保持時間および圧力を用いて重合体の分子量を調節する。塩濃度、圧力および温度は処理すべき特定のポリアミドに応じて多様であり得る。次に、所望の保持時間が経過した後のポリアミドを押出し加工してストランドにし、冷却した後、切断してペレット(また顆粒としても知られる)にする。
【0037】
そのようなバッチ式方法では、当該燐化合物またはカルボン酸添加剤を重合前に導入(即ち、少なくとも1種のポリアミド形成用反応体の溶液の中に)してもよいか或は重合中のいずれかの時点で導入してもよいか或は後重合時に導入することさえ可能である(即ち、当該燐化合物およびカルボン酸をポリアミド溶融物の中に通常の混合装置、例えば押出し加工機などを用いて取り込ませることによって)。そのような燐化合物およびカルボン酸添加剤を個別または全部を一度に導入してもよい。酸化劣化および熱劣化に対する防護を行う手段として、そのように燐化合物およびカルボン酸添加剤を重合工程の早期、例えば重合工程開始時などに供給する。固体形態であり得る添加剤を供給する場合、それらを固体としてか或は水溶液の形態で供給してもよい。
【0038】
連続重合(CP)は少なくともW.H.Liの米国特許第3,113,843号の開示によって当業者に公知である。そのような連続方法では、ポリアミド塩の溶液を予備蒸発槽/反応槽に移して前記塩溶液の濃縮を1350から2000kPa絶対下200−260℃で85−90%になるまで実施する結果として低い分子量の重合体を生じさせる。次に、その低い分子量の重合体を二次気水分離器の中に排出させ、それの圧力をゆっくり下げて100kPa絶対未満にした後、大気圧以下の圧力に維持しておいた槽の中に270
−300℃の温度で排出させることで、水の除去とさらなる分子量上昇を助長する。次に、そのポリアミド溶融物を押出し加工してストランドにし、冷却した後、切断してペレットにする。
【0039】
バッチ式方法の場合と同様に、当該燐化合物およびカルボン酸を工程中の如何なる時点で組み込んでもよく、そのような時点には重合後(即ち、それらをコンパウンド化してポリアミド溶融物を生じさせることなどで)が含まれる。しかしながら、抗酸化剤による保護および熱保護を最大限にしようとする場合には、当該燐化合物およびカルボン酸添加剤の添加を重合前にか或はできるだけ早く行う方が好ましいことが当業者に公知である。
【0040】
特に明記しない限り、本明細書で用いる技術的および科学的用語は全部本開示が属する技術分野の通常の技術者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。また、本明細書に記述する方法および材料と同様または相当する如何なる方法および材料も本開示の実施または試験で用いることは可能ではあるが、ここに、好適な方法および材料を記述する。
【0041】
本明細書に引用する公開および特許は全部その引用する公開に関連した方法および/または材料を開示しかつ記述することを意味する。如何なる公開の引用もそれの開示は本出願日以前であり、先行する開示によって本開示にそのような公開に先行する日付が与えられる権利がないことを認めると解釈されるべきではない。その上、示されている公開日付は、実際の公開日付とは異なる可能性があり、それを個別に立証する必要もあり得る。
【0042】
本開示を読んだ後の当業者に明らかになるであろうように、本明細書に記述および例示する個々の態様は各々が本開示の範囲からも精神からも逸脱することのない他のいくつかの態様のいずれかが有する特徴から容易に区別可能であるか或はそれと組み合わせることができる個別の構成要素および特徴を有する。示す如何なる方法も示す出来事の順でか或は論理的に可能な他のいずれかの順で実施可能である。
【0043】
本開示の態様では、特に明記しない限り、当該技術分野の技術の範囲内である化学などの技術を用いる。そのような技術は文献の中に詳細に説明されている。
【0044】
以下に示す実施例は、本明細書に開示および請求する方法をどのように実施しかつ本明細書に開示および請求する組成物、化合物および装置をどのように用いるかに関する完全な開示および説明を通常の当業者に示す目的で提示するものである。数値(例えば量、温度など)に関して正確さを確保するように努力したが、いくらかの誤差および偏差を考慮すべきである。
【0045】
特に明記しない限り、部は重量部であり、温度を℃で表しそして圧力をkPa絶対で表す。標準的温度および圧力は25℃および101kPa(1気圧)であると定義する。
【0046】
本開示の態様を本実施例で詳細に記述する前に、特に明記しない限り、本開示を個々の材料、反応体、反応材料、製造方法などに限定するものでなく、それら自体は多様であり得ると理解されるべきである。また、本明細書で用いる用語は単に個々の態様を説明する目的であり、限定を意図するものでないことも理解されるべきである。また、本開示に示す段階は論理的に可能な様々な順で実施可能である。
【0047】
明細書および添付請求項の両方に関して本明細書で用いる如き単数形“a”、“an”および“the”は、特に明瞭に示さない限り、複数指示対象も包含する。このように、例えば“ある添加剤”を言及する場合、それは複数の添加剤を包含する。本明細書および以下の請求項では、反対の意図が明らかでない限り、以下の意味を有すると定義する数多
くの用語を言及する。
【0048】
試験方法
本明細書で用いる如き下記の用語および試験手順は下記の通りであると定義する:
融点(MP):小サンプルを示差走査熱量計(DSC)(ASTM D3417)で加熱している時に起こる発熱ピーク。
相対粘度(RV):相対粘度では重合体を蟻酸に入れることで生じさせた溶液の粘度と蟻酸自身の粘度を比較する(ASTM D−789)。本明細書に報告する試験結果はナイロン66を蟻酸に8.4重量%になるように溶解させた溶液を用いて25℃で得た結果である。
溶融粘度(MV):Kayeness Capillary Rheometerを用いて樹脂を一定流量条件下280℃で測定した時のメルトフロー特徴の指標(パスカル秒(Pa.sec)として測定)。
ガラス転移温度(T):材料を動的機械的分析装置(DMA)(ASTM 4065)で加熱している時に硬質ガラス相とゴム相の間に起こる減衰ピーク。
分子量:特に明記しない限り、あらゆる分子量を数平均分子量として示す。
【0049】
黄色度指数(YI)の測定を便利にHunter Labの分光計(例えば粗いサンプルの場合に用いられるModel D25LT)を用いてASTM D1925に従って実施する。YIは、ある樹脂が示す黄色度の尺度である。YIの値が正である度合が大きければ大きいほど当該ナイロン樹脂の外観がより黄色であることを示している。
【実施例】
【0050】
以下の実施例は本発明を例示する目的で示すものである。本実施例で本発明の範囲を限定することを意図するものでなくかつそのように解釈されるべきでない。本明細書では比率、濃度、量および他の数値データを範囲形式で表すことがあり得ることを注目すべきである。そのような範囲形式は便利さおよび簡潔さの目的で用いるものであり、従って、範囲の限界として明確に示した数値を包含するばかりでなくまたその範囲内に含まれる個々の数値も部分的範囲も全部あたかも各数値および部分的範囲を明確に示すかのように包含すると言った柔軟な様式で解釈されるべきであると理解されるべきである。例示として、“約0.1%から約5%”の濃度範囲には明確に示した約0.1重量%から約5重量%%の濃度ばかりでなくまたその示した範囲内の個々の濃度(例えば1%、2%、3%および4%)および部分的範囲(例えば0.5%、1.1%、2.2%、3.3%および4.4%)も含まれると解釈されるべきである。用語“約”には修飾を受けさせる数値1種または2種以上の±1%、±2%、±3%、±4%、±5%、±8%または±10%が含まれ得る。加うるに、語句“約‘x’から‘y’”には“約‘x’から約‘y’”が含まれる。
【0051】
本明細書に開示する態様の例示として、以下の実験に着手する。最初に、エンドキャッピングされたナイロン66重合体の調製を公知重合方法に従ってバッチ式オートクレーブ内で実施する。添加剤である次亜燐酸ナトリウム(SHP)を重合中に含め、それを重量で表して完成重合体中180ppmになる量で供給する。本明細書に示すエンドキャッピングは、ナイロン重合体が有する遊離アミン末端部を一定の割合でカルボン酸官能化合物、例えば酢酸などと重合中に前記バッチ式オートクレーブ内で接触させることを意味する。エンドキャッピング含有量は重量で表して完成重合体中600ppmの酢酸に相当する。そのエンドキャッピングされた重合体を前記オートクレーブから排出させ、公知様式でストランドに加工した後、顆粒状にすることで均一なペレットまたは顆粒を生じさせる。その重合体顆粒物を乾燥させることで水分含有量が0.12重量%になるようにする。その乾燥させた顆粒物にRV測定を受けさせる。その測定を受けさせた顆粒物のサンプルを毛細管粘度計に入れて280℃で溶融させそしてその温度に5分間維持する。その後、前
記重合体が前記粘度計から押出され、それに再びRV測定を受けさせる。溶融前と後のRV測定値の差を記録する。その差は(55.0-47.0)=8RV単位である。
【0052】
エンドキャッピングされていない同じナイロン重合体の調製をバッチ式オートクレーブ内で同じ様式で実施する。添加剤である次亜燐酸ナトリウム(SHP)を重合中に含め、それを重量で表して完成重合体中180ppmになる量で供給する。アミンエンドキャッピング用カルボン酸は供給しない。その重合体に顆粒を同じ様式で受けさせることで均一な顆粒物を生じさせた後に乾燥を受けさせることで水分含有量が0.12重量%になるようにする。その乾燥を受けさせた顆粒物にRV測定を受けさせる。その測定を受けさせた顆粒物のサンプルを毛細管粘度計に入れて280℃で溶融させそしてその温度に5分間維持する。その後、前記重合体が前記粘度計から押出され、それに再びRV測定を受けさせる。溶融前と後のRV測定値の差を記録する。その差は(72.5-49.1)=23RV単位である。
【0053】
エンドキャッピング用カルボン酸の有り無しで亜燐酸化合物である安定剤を含有させたナイロン重合体に関して溶融温度に維持しながら観察したRV上昇のそのような差は分子量上昇の差に相当する。ナイロン重合体にアミンエンドキャッピングを受けさせると溶融物が示す分子量の上昇をもたらすSHPが示す触媒作用を失活させることなく達成可能な最終的な平衡状態の分子量がシフトすると考えている。
【0054】
酢酸に加えて、他のモノカルボン酸、例えばプロピオン酸および安息香酸なども有効なエンドキャッパー(end−cappers)である。また、ジカルボン酸であるこはく酸も適切である、と言うのは、それは安定な環式イミド構造を形成することで2番目のカルボン酸官能が有効に除去されるからである。
【0055】
様々な面および態様を本明細書に開示してきたが、他の面および態様が当業者に明らかになるであろう。本明細書に開示した様々な面および態様は例示の目的であり、限定を意図するものでなく、真の範囲および精神を以下の請求項で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1番目の添加剤および2番目の添加剤を含有して成っていて前記1番目の添加剤が重合体に重量で表して150から300ppmを包含する量で添加されておりかつ前記2番目の添加剤が重合体に重合体百万グラム当たり10から50、好適には10から17モルを包含する量で添加されている改良ナイロン重合体であって、前記1番目の添加剤が次亜燐酸ナトリウムであることを特徴としかつ更に前記2番目の添加剤が酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびこはく酸から成る群より選択されることも特徴とする改良ナイロン重合体。
【請求項2】
前記2番目の添加剤が重量で表して600から3000、好適には600から1000ppmの量の酢酸から成る請求項1記載の改良ナイロン重合体。
【請求項3】
ポリヘキサメチレンアジパミドを含有して成る請求項1または請求項2記載の改良ナイロン重合体。
【請求項4】
流体状態の射出成形用ナイロン重合体樹脂を射出成形機の鋳型空洞部に供給するための装置であって、
a. 燐が基になった少なくとも1種の重合用触媒の少なくとも一部および少なくとも1種のエンドキャッピング用低級カルボン酸添加剤の少なくとも一部を含有することを特徴とする成形用ナイロン重合体樹脂を供給し、
b. 固体から流体への状態遷移を起こさせるに充分な熱を加えることで前記樹脂を溶融させ、そして
c. 流体状態の前記樹脂を射出成形機の鋳型空洞部に移送する、
ことを含んで成る装置。
【請求項5】
前記成形用樹脂がナイロン−6,6樹脂から選択されかつ前記少なくとも1種の重合用触媒がポリアミド化用触媒から選択されかつ前記少なくとも1種のエンドキャッピング用添加剤が低級モノおよびジカルボン酸から選択される請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1種の重合用触媒が次亜燐酸ナトリウムでありそして前記少なくとも1種のエンドキャッピング用添加剤が酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびこはく酸から成る群より選択される請求項4または請求項5記載の装置。
【請求項7】
流体状態の射出成形用ナイロン樹脂を射出成形機の鋳型空洞部に供給する方法であって、
a. 1番目の相対粘度(RV)測定値を有しかつ重量で表して0.15%未満、好適には0.1%未満の水含有量を示すことを特徴としかつ更に燐が基になった少なくとも1種のポリアミド化用触媒の少なくとも一部および少なくとも1種のエンドキャッピング用低級カルボン酸添加剤の少なくとも一部を含有することも特徴とするナイロン樹脂を供給し、
b. 固体から流体への状態遷移を起こさせるに充分な熱を加えることで前記ナイロン樹脂を溶融させかつその流体状態のナイロン樹脂が示す2番目の相対粘度(RV)の方が前記1番目の相対粘度(RV)測定値より高い度合が16RV単位未満、好適には13RV単位未満、より好適には10RV単位未満であることを特徴とし、そして
c. 流体状態の前記ナイロン樹脂を射出成形機の鋳型空洞部に移送する、
段階を含んで成る方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種の重合用触媒をポリアミド化用触媒から選択しそして前記少なくとも1種のエンドキャッピング用添加剤をモノカルボン酸から選択する請求項7記載の方法

【請求項9】
前記少なくとも1種の重合用触媒が次亜燐酸ナトリウムでありそして前記少なくとも1種のエンドキャッピング用添加剤を酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびこはく酸から成る群より選択する請求項7または請求項8記載の方法。

【公表番号】特表2013−501848(P2013−501848A)
【公表日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−524759(P2012−524759)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/044711
【国際公開番号】WO2011/019604
【国際公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(309028329)インビスタ テクノロジーズ エス エイ アール エル (80)
【Fターム(参考)】