説明

改良土及び改良土の製造方法

【課題】高含水比泥土を、廃石膏ボードから製造した材料で改質処理し、硫化水素ガス発生のない安全な改良土及び製造方法を提供する。
【解決手段】この改良土は、高含水比泥土と、廃石膏ボードの石膏を粉砕・乾燥して得た半水石膏パウダーと、繊維質物質と、固化材と、鉄材等の硫化水素吸着物質を含む。固化材は、全体の性質をSRB菌が生育しにくいpH11以上にするとともに石膏の溶解による硫酸根の流出を抑え、硬化反応による透水性の低下によりSRB菌の移動を抑え、硫化水素の発生を抑制する。仮に硫化水素が発生した場合であっても、硫化水素吸着物質がこれを吸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄された石膏ボード(「廃石膏ボード」と呼ぶ)を粉砕・乾燥し、これを改良材として高含水比泥土に加えて製造した改良土に係り、特に硫化水素ガスが発生するおそれのない安全な改良土に関するものである。本発明によれば、従来は多大な費用をかけて産業廃棄物として処理しなければならなかった廃石膏ボードを有効利用することにより、同様に大部分を産業廃棄物として処理しなければならなかった建設汚泥等の高含水比泥土(例えば含水比100%以上の泥土)を有用かつ安全な改良土に改質することができる。
【背景技術】
【0002】
建築資材として大量に使用されている石膏ボードは、廃棄された後はほとんどがリサイクルされずに廃棄物として処分されているのが現状であったが、近年、廃棄物処理法に基づき石膏ボードも管理型最終処分場で処分することとされ、最終処分場の逼迫と相俟って石膏ボードのリサイクルの必要性が増大しており、その研究が進められている。
【0003】
石膏ボードは、石膏からなる板状の芯材の両面をボード用原紙で被覆した構造であり、石膏ボードをリサイクルする場合には、このボード用原紙を芯材と分離して芯材のみをリサイクルし、不要とされたボード用原紙は別途分別して焼却処分する必要があったため、製品品質上及び生産効率上、そのリサイクル量は生産量の10%程度が限界であった。
【0004】
下記特許文献1には、高含水比泥土を改質処理して用途の広い改良土を製造するために有効な廃石膏ボードの再利用方法についての発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−161895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが近年、廃石膏ボードを上述のように最終処分場で埋立て処分した場合に、何らかの理由により廃石膏ボードが原因と見られる硫化水素ガスが発生する事例が報告されており、効果的な対策が求められている。
【0007】
ところで、本願発明者等は、建設汚泥や浚渫底泥等の高含水比泥土を改質処理し、流動性を消失させることにより、改良土として再利用する技術について研究を進めており、廃石膏ボードを活用した土改良技術について鋭意研究を続けている。ところが、このような廃石膏ボードにおける硫化水素ガス発生の問題は、廃石膏ボードを用いて汚泥を安全な改良土に改質して有効利用しようとする場合の障害と考えられる。
【0008】
本発明は、有効かつ安全な廃石膏ボードの処分方法乃至再利用方法を提案するものであって、具体的には建設汚泥や浚渫底泥のような高含水比泥土を、廃石膏ボードから製造した材料で改質処理して硫化水素ガス発生のない安全な改良土を得ることと、かかる改良土の製造方法を提供することを目的としている。
【0009】
なお、前記高含水比泥土とは、土の種類によっても異なるが、土が塑性状態から液性状態に移行する時の含水比である液性限界が、概ね100%以上であって、液性状態を示す高含水比泥土を意味する。高含水比泥土は、土粒子が自由水の中で自由に動き回れる状態であるため、若干の降伏応力を持っているが、流体としての挙動を示す。従って、高含水比泥土の運搬にはパイプラインかバキューム車等が必要になる。本発明がリサイクルの対象とする高含水比泥土とは上述したような泥土である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された改良土は、高含水比泥土を改良した改良土において、
前記高含水比泥土と、廃石膏ボードの石膏を粉砕・乾燥して得た半水石膏パウダーと、繊維質物質と、前記改良土のpHを11以上のアルカリ性とする固化材と、前記半水石膏パウダーに対する重量比で2%以上の硫化水素吸着物質を含むことを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載された改良土は、請求項1記載の改良土において、前記半水石膏パウダーの添加量が、前記高含水比泥土1m3 に対して少なくとも80kgであり、
前記繊維質物質の添加量が、前記高含水比泥土1m3 に対して55kg以上であり、
前記固化材の添加量が、前記改良土を盛土材として利用する場合の目標強度を満足する添加量であることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載された改良土は、請求項2記載の改良土において、
前記硫化水素吸着物質が、転炉スラグ、グラインダーダスト、関東ローム、リモナイト、鹿沼土を含む鉄材の群から選択された1以上の鉄材であることを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載された改良土は、請求項2記載の改良土において、
前記固化材が、セメント系固化材、高炉セメント、普通ポルトランドセメント、石灰、石灰系固化材を含む固化材の群から選択された1以上の固化材であることを特徴としている。
【0014】
請求項5に記載された改良土は、請求項2記載の改良土において、
前記繊維質物質が、新聞古紙破砕物、石膏ボードのボード紙破砕物、段ボール紙破砕物、天然または合成の古紙の破砕物を含む繊維質物質の群から選択された1以上の繊維質物質であることを特徴としている。
【0015】
請求項6に記載された改良土の製造方法は、高含水比泥土を改良して改良土を製造する改良土の製造方法において、
廃石膏ボードの石膏を粉砕・乾燥して半水石膏パウダーを製造し、
前記半水石膏パウダーと、繊維質物質と、固化材と、前記半水石膏パウダーに対する重量比で2%以上の硫化水素吸着物質を前記高含水比泥土に添加し、前記固化材によって前記改良土のpHを11以上の環境にして硫酸塩還元菌の増殖を抑えて硫化水素の発生を抑制し、硫酸塩還元菌によって硫化水素ガスが発生した場合には、これを前記硫化水素吸着物質で吸着しうる状態で前記高含水比泥土を固化することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の改良土乃至本発明の改良土の製造方法で製造した改良土によれば、アルカリ化剤として機能する固化材によって全体の性質がpH11以上のアルカリ性となるため硫酸塩還元菌の増殖が抑制され、硫化水素ガスは発生しない。仮に発生したとしても、これを硫化水素吸着物質又は硫化水素吸着物質としての鉄材で吸着することができるので、改良土として安全な状態で各種用途に供することができる。このように、廃棄される全量中のごくわずかしかリサイクルできないために問題が生じていた廃石膏ボードを、高含水比泥土を固化改良するための改良材の主材として使用するという新たな用途にリサイクルし、廃石膏ボードの安全な処理と共に高含水比泥土を改質し、硫化水素ガス発生のおそれがない有用な改良土を製造するという一石二鳥の効果を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態において、本願発明者が検討した硫化水素の抑制方法の分類表を示す図であって、特に本願で採用した項目とその内容について注記したものである。
【図2】本発明の実施形態において、本発明の構成と効果を確認するための基準試験及び各確認試験の内容等を表形式で示した図である。
【図3】本発明の実施形態において、本発明の構成と効果を確認する基準試験及び各確認試験を行なうための試験装置を示す図である。
【図4】本発明の実施形態において、本発明の構成と効果を確認するための基準試験及び各確認試験における使用材料等を表形式で示した図である。
【図5】本発明の実施形態において、本発明の構成と効果を確認するための基準試験及び各確認試験で各試料に添加した栄養素の配合を表形式で示した図である。
【図6】本発明の実施形態における基準試験の結果を示す図である。
【図7】本発明の実施形態におけるアルカリ効果確認試験の結果を示す図である。
【図8】本発明の実施形態におけるガス吸着効果確認試験の結果を示す図である。
【図9】本発明の実施形態における総合効果確認試験の結果を示す図である。
【図10】本発明の実施形態において、基準試験及びアルカリ効果確認試験での残留液の分析結果を表形式で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.本発明の基本的構成
前述した通り、近年、廃石膏ボードが埋立て処分された最終処分場で硫化水素ガスが検出される事例が報告されており、最終処分場で廃石膏ボードの埋立て処分を継続する上での安全性を確保するためにも、この問題は解決しなければならない。また、廃石膏ボードは、石膏部分とボードを完全に分離することの困難さと、その作業の煩雑さ等のために、製品品質と生産効率の面で問題が多く、リサイクルが進まず、その結果として廃棄される石膏ボードの大部分が埋立て処分されている状況にある。従って、高含水比泥土を安全に固化処理するための改良剤として廃石膏ボードを使用するという新たな用途へリサイクルするためにも、硫化水素ガスの問題は解決する意義があり、何らかの形で廃石膏ボードに由来する硫化水素ガスの発生を抑制できれば、廃石膏ボードの安全な処理と共に高含水比泥土を改質して硫化水素ガス発生のおそれがない有用な改良土を製造するという一石二鳥の効果を得ることができる。
【0019】
そこで、本願発明者は、廃石膏ボードが埋立て処分された最終処分場で硫化水素が検出される理由について鋭意研究した。その結果、本願発明者が知得した硫化水素の発生機構によれば、以下の全ての条件(1) 〜(5) が満たされた時に、高濃度硫化水素が発生するものと考えられる。特に硫化水素ガス発生の抑止手段をとらず、この条件が満たされている限り、廃石膏ボードから製造された半水石膏や二水石膏を改質剤として汚泥に加えて製造した改良土からも、上記処分場と同様に硫化水素が発生し、検出されるものと考えられる。
【0020】
(1) 硫酸塩(Sイオン)の存在
(2) 硫酸塩還元菌(SRB)の存在
(3) 硫酸塩還元菌が増殖するに足る有機物の存在
(4) 硫酸塩還元菌が増殖するに適当な環境の保持(嫌気性環境、pH中性域)
(5) 発生した硫化水素ガスを捕捉する物質の不存在
【0021】
条件(1) は、廃石膏ボード自体から供給されるものである。(2)(3)は自然界の土壌にほとんど含まれているため、避ける事はできない。そこで条件(1)(4)(5) に着目し、この条件(1)(4)(5) を満足させないための手法(硫化水素の抑制方法)について検討することとした。
【0022】
図1に、本願発明者が本実施形態で検討した硫化水素の抑制方法を要素ごとに表形式で列記し、その中において本願で採用した4つの項目については表中○印を付し(「今次対応」の欄)、その内容(「開発手法」の欄)を具体的に示した。
【0023】
本実施形態では、図1の表中、表中○印を付したように、4つの硫化水素の抑制手法を採用した。これらの抑制手法は、固化材の添加によって石膏の溶解を抑えることによりSRBに還元されて硫化水素発生の原因となる硫酸根の溶出を防止する手法と、アルカリ材としてセメント等の固化材を添加することでpH11以上の環境にし、硫酸塩還元菌(SRB)が生育困難な状態にする手法と、石膏・固化材の硬化反応により透水性を低下させ硫酸塩還元菌(SRB)の移動を抑制する手法と、硫化水素吸着物質である鉄材の添加によって発生した硫化水素ガスを吸着するという各抑制手法である。
【0024】
従って、本発明の改良土は、リサイクル対象である前述した高含水比泥土と、リサイクル対象乃至処分対象である廃石膏ボードの石膏を粉砕・乾燥して得た半水石膏パウダーと、改良土に一定の粘り強さを与えるための繊維質物質と、改良土の性質をアルカリ性にするとともに石膏の溶解による硫酸根の流出を抑え、硬化反応による透水性の低下によりの硫酸塩還元菌(SRB)の移動を抑制する固化材と、仮に硫化水素が発生した場合であっても、これを吸着できる硫化水素吸着物質とを含むことを基本的構成としている。
【0025】
本実施形態では、以下に説明するように、本発明を構成する上記各抑制手法に関して実験を行い、硫化水素ガスが事実上発生しない安全な改良土を製造するための具体的な条件を検討した。
【0026】
2.抑制条件の実験による確認について
本発明の改良土における上記各抑制手法の具体的な構成(各物質の添加量や条件等)や効果を実験的に検討するために、図2に示すように、本実施形態では、3つの抑制条件確認試験を実施し、基準試験との比較をすることとした。
【0027】
基準試験(実験番号1−1)は、模擬汚泥に自作半水石膏パウダーと、繊維質物質としての古紙破砕物と、硫酸塩還元菌(SRB)と、栄養剤を添加し、硫化水素の発生状況を確認するものである。抑制に関わる要因は含まれていない。
【0028】
アルカリ効果確認試験(実験番号1−2)は、基準試験と同様の配合に石灰を添加してpH9、10、11に調整し、アルカリ環境下においてどの程度硫化水素の発生を抑制できるのかを確認するものである。なお、実験ではセメント等の固化材を用いず、石灰を使用したのは、固化材による固化効果が硫化水素発生の抑制に働く可能性があり、これを排除してアルカリ性の環境による効果のみを確認するためである。
【0029】
ガス吸着効果確認試験(実験番号1−3)は、基準試験と同様の配合に硫化水素吸着物質としての鉄材(転炉スラグ)を添加し、発生した硫化水素が鉄材にどの程度吸着されるのかを確認するものである。
【0030】
総合効果確認試験(実験番号2−1〜2−8)は、基準試験と同様の配合に固化材としてのセメント系固化材又は高炉セメントB種と、硫化水素吸着物質としての鉄材(転炉スラグ)を添加し、固化材によるアルカリ効果、鉄剤によるガス吸収効果、石膏・固化材の硬化反応による硫酸塩還元菌(SRB)の移動防止効果、固化材の硬化反応による石膏の溶出抑制効果、以上4つの効果を総合的に確認するためのものである。
【0031】
実際の試験は、図3に示す実験装置を用い、図4に示すような使用材料等の条件下で行なった。
【0032】
なお、この実験では、模擬汚泥は丸中白土株式会社製「♯250」と住友大阪セメント株式会社製「スミクレー」を3:2で混合し、含水比105%に調整したものを使用した。この模擬汚泥が、本発明の実施形態の高含水比泥土に相当する。
【0033】
硫酸塩還元菌(SRB)は山形県新庄市内で採取した汚泥を培養したものを使用した。
【0034】
半水石膏は、株式会社BWM製「粉砕二水石膏」を425μmふるいに掛け、乾燥炉にて180℃で1時間加熱処理したものを使用した。これは半水石膏パウダーであり、一般的な石膏ボードの芯材である石膏を粉砕して同様に加熱して得たものと実質的に同一の材料である。
【0035】
固化材としてのセメント系固化材は、太平洋セメント株式会社製「ジオセット10」を使用した。
【0036】
他の固化材としてのセメント系固化材である高炉セメントB種は、太平洋セメント株式会社製を使用した。
【0037】
上記すべての試料は、前記模擬汚泥、繊維質物質としての古紙55kg/m3 、栄養剤溶液1%、硫酸塩還元菌(SRB)5%を含む。
【0038】
セメント添加量は、攪拌ムラを考慮した場合の実用的な固化材添加量の下限として50kg/m3 とした。
【0039】
なお、実験番号1−2−1〜1−3−3のアルカリ効果確認試験とガス吸着効果確認試験は、試料にセメントを加えず、試料を固化乃至突き固めずに泥水の状態で行なった。これは、試料を固化乃至突き固めた場合には、固化乃至突き固めたことによる効果と、それぞれの試験が確認しようとしているアルカリによる効果乃至ガス吸着による効果とを区別できないおそれがあるからである。従って、総合的な効果を確認する実験番号2−1〜2−8では試料にはセメントを加え、固化乃至突き固めた状態で試験を行なっている。
【0040】
なお、実験番号1−2、1−3、2−1〜2−8では、再現性を確認するため、同じ処理条件のものを各2つ(A、B)準備し、試験に供した。
【0041】
3.抑制条件確認試験の実施
以下に、本実験における硫化水素ガス測定手順を図3を参照して説明する。なお、実験では、広口ビンに設けたA管とB管にそれぞれ異なる機器等を付け替えて使用するので、図3においては、A管とB管に接続された機器等の図は模式的な図形乃至単に装置の存在を示す表現とし、各工程における使用機器等については図中に付した共通の符号を用いて以下に説明するものとする。
【0042】
(1) 1000mlの広口ビン1(ガラス製)に試料10を入れ、ゴム栓2をセットし、ビニールテープで抑える。
【0043】
(2) ガスの漏洩を防止するため石鹸液を使用し、漏洩試験を実施する。加圧は水柱圧1mとする。
【0044】
(3) B管に接続した手動真空ポンプ3で30〜50kPaまで脱気する。連続気泡の有無により漏洩がないかを確認し、そのまま10分間減圧を維持する。
【0045】
(4) B管に真空ポンプ3を接続したままA管に窒素ガス供給手段4としての窒素ガスライン等を接続し、ガスを封入する。レギュレータを開放してガス圧を上げていくと真空ポンプ3付属の真空圧計の値が低下し、やがてゼロを示す。一旦、レギュレータを閉止してガスを止め、B管から真空ポンプ3に接続しているゴム管を抜き取る。それから再びレギュレータを開放し、1分間窒素ガスを送り続ける(B管から排気音を出してガスが大気中に出るのを確認する)。
【0046】
(5) 35℃に設定した恒温槽内で広口ビン1を40日間養生する(測定は10日毎、計4回)。
【0047】
(6) 恒温槽から広口ビン1を取り出し、すばやくガス検知管及びポンプ3をB管にセットする。
【0048】
(7) A管に窒素ガスを充填したアルミバッグ4をセットする。
【0049】
(8) ポンプのレバーを引き、ガスを吸引すると同時にA管のコックを開く。吸引が終了したら硫化水素ガス濃度を読み取る(再び(6) の恒温槽に戻し養生を継続、(8) までを繰り返す。実験40日目で養生を打ち切り、(9) 以下に進む)。
【0050】
(9) 広口ビン1を振ってから、残留液をサンプル瓶に各100mlずつ2個採取する(瓶から残留液を溢れさせ、空気が混入しないようにする)。
【0051】
(10)B管からガス検知管3をはずし、苛性ソーダ液を充填したガス吸収ビンを取り付ける。A管より窒素ガスを送り、残った硫化水素ガスを追い出す(危険防止操作)。
【0052】
(11)採取した残留液はpH、ORP、硫酸塩還元菌数測定用に供する。
なお、上記測定手順(8) で試験用の広口ビン1内の硫化水素濃度を測定する際、測定を繰り返す毎にアルミニウムバック4から広口ビン1に窒素ガスを送るため、実際に発生した濃度よりも低い結果が出ることがわかった。そこで、濃度低下を補正するため補正式を作成し、測定結果を算出した。
【0053】
4.抑制条件確認試験の結果
(1) 基準試験
基準試験の実験の結果、すべての試料から高濃度(平均約45,000ppm)の硫化水素が発生した。図6に、各実験において、それぞれ10日後、20日後、30日後及び40日後の硫化水素濃度測定結果を示す。
【0054】
(2) アルカリ効果確認試験
実験1-2 のアルカリ効果確認試験では、実験1-1 の基準試験と同様の配合の試料に消石灰を添加し、それぞれpH9、pH10、pH11に設定した3種類の試料を作成した。図7に、各実験における硫化水素濃度測定結果を示す。pH11に調整した試料1−2−3では硫化水素が検出されず、高い抑制効果を確認した。
【0055】
(3) ガス吸着効果確認試験
実験1-3 のガス吸着効果確認試験では、実験1-1 の基準試験と同様の配合の試料に鉄材を添加した。添加量は、石膏添加量に対する重量%で0.5%、1.0%、2.0%と変化させてそれぞれ実験を行った。図8に、各実験における硫化水素濃度測定結果を示す。鉄材を2.0%添加した試料1−3−3では、硫酸塩還元菌(SRB)の硫酸呼吸により発生した硫化水素が鉄材に吸着されたため硫化水素は検出されず、高い抑制効果を確認した。
【0056】
(4) 総合効果確認試験
実験2-1 〜2-8 の総合効果確認試験では、実験 1-1の基準試験と同様の配合(補給水を除く)の試料に所定量のセメント系固化材又は高炉セメントB種、鉄材を加え、混練、養生後、突き固めて高さ5cmの固化体を作成し、それをガラス瓶に収納し、水で完全に水没させて実験を行った。図9に、各実験における硫化水素濃度測定結果を示す。
【0057】
具体的には、含水比105%である高含水比泥土としての模擬汚泥に、繊維質物質である古紙55kg、栄養剤1%、SRB種菌5%、石膏200kg、固化材であるセメント系固化材50kg、硫化水素吸着物質としての鉄材2%(前記石膏に対する重量比)を添加したものを突固め、所定期間養生した固化体を使用した。
【0058】
固化体が水没した状況を再現するため、作成した供試体を半分に切断し、補充水300mlを添加した状態で硫化水素ガスの測定を行った。これは固化体が水没環境下にある方が嫌気性になり、より硫化水素が発生しやすい状態になるためである。本実施形態では、供試体が完全に水没した状態で測定を行っているため、どのような含水比の汚泥を処理しても、生成された固化体を水没させればその時点で全く同じ水没環境下になるため、本方法は汚泥の初期含水比の影響を受けない。つまり、汚泥の含水比に関わらず、硫化水素ガスの発生を抑制することできる。
【0059】
このように、本実施形態によれば、実験では高含水比泥土である含水比105%の模擬汚泥1m3 に対する半水石膏パウダーの添加量を80〜200kgとしたが、上述したように汚泥の含水比に関わらず硫化水素ガスの発生を抑制することできる。
【0060】
また、本試験では、硫酸塩還元菌(SRB)が生育できないpH11以上の環境にするため固化材(例えばセメント系固化材、高炉セメント)を添加しており、万が一硫化水素が発生した場合にガスを吸着させる硫化水素吸着物質として鉄材(転炉スラグ)を添加している。また、石膏・固化材の硬化反応により硫酸塩還元菌(SRB)の移動を抑制し、固化材の硬化反応による石膏の溶出抑制効果も伴い、より確実に硫化水素ガスの発生を抑制することができる。
【0061】
このように、アルカリ効果、ガス吸着効果、石膏とセメントの固化による菌の移動阻止 効果、石膏の溶出抑制効果という4つの効果の相乗効果により硫化水素が全く検出されず、極めて高い硫化水素抑制効果を確認した。
【0062】
(5) 各試料の残留液分析結果
基準試験、アルカリ効果確認試験の実験が終了した試験ビンの残留液を採取し、残留液のpH、ORP(酸化還元電位)、S2-イオン濃度を分析し、また硫酸塩還元菌(SRB)の菌数分析を行なった。図10に、各実験ごとに、初期pH、40日後のpH及びその他の測定項目の測定結果を示す。
【0063】
分析の結果、硫化水素抑制に関わる要因を排除して実験を行った基準試験では、多くの硫酸塩還元菌(SRB)が生息し、活発な硫酸呼吸が行われ、高濃度硫化水素を発生していたことが確認された。
【0064】
一方、基準試験と同様の配合の試料に消石灰を添加してpH9、pH10、pH11にそれぞれ値を変えて条件を設定した各アルカリ効果確認試験では、pH11に調整した試料1−2−3の硫酸塩還元菌(SRB)はほとんど生息していなかったため硫化水素が検出されず、高い抑制効果を確認した。これは、硫酸塩還元菌(SRB)の生育範囲がpH3.4〜9.5であるからであると考えられる。
【0065】
5.本実施形態による改良土の強度・耐久性について
また、本実施形態の総合効果確認試験で説明したような条件で前記汚泥を改質して製造した改良土によれば、次のような効果が確認された。別途行った乾湿繰返し試験の結果、本実施形態で改質して製造した改良土は、地盤改良等の施工現場で広く採用されている高含水比泥土にセメントや石灰を添加・混合する固化処理土と比べ、極めて高い耐久性を示すことが確認された。さらに、本実施形態で改質して製造した改良土は、固化処理土と比べ変形係数が通常土に近く、かつ破壊ひずみが大きく、粘り強い特徴を有していること
が確認された。
【0066】
固化処理土内部の中性化は、大気中のCO2 が改良土の空隙内に拡散・侵入し、その拡散速度は改良土の空隙量及び空隙構造に依存する。したがって、ひび割れやクラックなどの欠陥部の存在が改良土の中性化を早め、pH11以下の環境に変化し、硫化水素の発生が懸念される。一方、本実施形態で改質して製造した改良土は、乾湿繰返し耐久性に優れ、pH11以上の環境を維持し、硫化水素発生の恐れはない。
【0067】
なお、前述した盛土材として利用する場合の目標強度(一軸圧縮強さ)とは、
(1) 建設機械の走行に必要なトラフィカビリティーを満足する強度であること(qu=50 〜100kN/m2
(2) 有害物質を原位置に封じ込めて、流出防止を目的とするときの必要強度であること(qu=200kN/m2 以上)
(3) 路床、路体盛土、構造物の裏込等に再利用するために必要な強度であること(qu=100〜300kN/m2
上記3点を満足する強度であり、本実施形態ではqu=200kN/mkN/m2 程度以上の値が達成されていることが実験上確認された。
【0068】
6.本実施形態におけるその他の実験結果について
以上説明した実施形態における実験では、繊維質物質としては天然または合成の古紙破砕物を用いたが、繊維質物質の少なくとも一部に、石膏ボードの一部を構成する両面のボード用原紙を用いても良い。すなわち、石膏ボードは前述したように石膏からなる板状の芯材の両面をボード用原紙で被覆した構造であるが、そのボード用原紙を添加する繊維質物質の少なくとも一部として利用する場合には、このボード用原紙を芯材と分離する必要がなく、そのまま全体として破砕して使用に供すればよく、取扱いが便利になる。従来の廃石膏ボードのリサイクルの考え方では、芯材である石膏のみをリサイクルし、不要とされたボード用原紙は別途分別して焼却処分する必要があったため、取り扱いが面倒であり、リサイクルの障害となっていたが、本発明によれば、そのような不都合はない。
【0069】
また、繊維質物質としては、上記の物質以外に、新聞古紙破砕物や段ボール紙破砕物を用いることができる。
【0070】
また、本試験では、硫酸塩還元菌(SRB)が生育できないpH11以上の環境にするための固化材として、セメント系固化材、高炉セメント、石灰が使用できることを確認した。なお、水和反応により水酸化カルシウムを生成する固化材(普通ポルトランドセメント、石灰系固化材等)であれば、改良土内部をpH11以上のアルカリ環境下にすることができるため、同等の効果が得られる。
【0071】
また、本試験では、万が一硫化水素が発生した場合にガスを吸着させる硫化水素吸着物質として、転炉スラグが使用できることを確認した。なお、鉄を含有する物質(グラインダーダスト、関東ローム、リモナイト、鹿沼土等)であれば、発生した硫化水素と鉄が結合し、硫化鉄として捕集できるため、同等の効果が得られる。
【0072】
また、添加すべき繊維質物質と、固化材と、硫化水素吸着物質の種類は、それぞれ1種類でも複数種類でもよく、各物質を任意に組み合わせた場合においても、上述した実施形態における実験と略同等の効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高含水比泥土を改良した改良土において、
前記高含水比泥土と、廃石膏ボードの石膏を粉砕・乾燥して得た半水石膏パウダーと、繊維質物質と、前記改良土のpHを11以上のアルカリ性とする固化材と、前記半水石膏パウダーに対する重量比で2%以上の硫化水素吸着物質を含むことを特徴とする改良土。
【請求項2】
前記半水石膏パウダーの添加量は、前記高含水比泥土1m3 に対して少なくとも80kgであり、
前記繊維質物質の添加量は、前記高含水比泥土1m3 に対して55kg以上であり、
前記固化材の添加量は、前記改良土を盛土材として利用する場合の目標強度を満足する添加量であることを特徴とする請求項1記載の改良土。
【請求項3】
前記硫化水素吸着物質が、転炉スラグ、グラインダーダスト、関東ローム、リモナイト、鹿沼土を含む鉄材の群から選択された1以上の鉄材であることを特徴とする請求項2記載の改良土。
【請求項4】
前記固化材が、セメント系固化材、高炉セメント、普通ポルトランドセメント、石灰、石灰系固化材を含む固化材の群から選択された1以上の固化材であることを特徴とする請求項2記載の改良土。
【請求項5】
前記繊維質物質が、新聞古紙破砕物、石膏ボードのボード紙破砕物、段ボール紙破砕物、天然または合成の古紙の破砕物を含む繊維質物質の群から選択された1以上の繊維質物質であることを特徴とする請求項2記載の改良土。
【請求項6】
高含水比泥土を改良して改良土を製造する改良土の製造方法において、
廃石膏ボードの石膏を粉砕・乾燥して半水石膏パウダーを製造し、
前記半水石膏パウダーと、繊維質物質と、固化材と、前記半水石膏パウダーに対する重量比で2%以上の硫化水素吸着物質を前記高含水比泥土に添加し、前記固化材によって前記改良土のpHを11以上の環境にして硫酸塩還元菌の増殖を抑えて硫化水素の発生を抑制し、硫酸塩還元菌によって硫化水素ガスが発生した場合には、これを前記硫化水素吸着物質で吸着しうる状態で前記高含水比泥土を固化することを特徴とする改良土の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−241979(P2010−241979A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93057(P2009−93057)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(500074707)
【Fターム(参考)】