説明

改質灰の製造装置及び製造方法

【課題】セメント添加材用の未燃カーボンを取り除いた改質灰であって、建設材料として利用した場合にホウ素が溶出することのない改質灰を得る。
【解決手段】フライアッシュFLをスラリー化するスラリータンク2と、スラリータンク2から排出され、表面改質機4を経たスラリーS2を親油性成分と親水性成分とに分離する浮選機12と、浮選機12から排出される親水性成分を固液分離する固液分離機14と、固液分離機14から排出されるろ液L1からホウ素を除去するホウ素除去装置19と、該ホウ素除去装置19からホウ素を除去した排水L3をスラリータンク2に戻す循環ルート18とを備える改質灰の製造装置等。改質灰の製造装置内のホウ素が徐々に増加して固液分離機14のケークC1へホウ素が混入することを防止し、建設材料として利用した場合に、ホウ素が溶出することのない改質灰を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭焚き火力発電所等で発生したフライアッシュから、セメント添加材等に用いられる改質灰を製造する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石炭焚き火力発電所等で発生したフライアッシュは、セメント用混合材、コンクリート用混和材、人工軽量骨材の原料等に用いられているが、フライアッシュ中に未燃カーボンが多いと種々の問題が発生するため、未燃カーボンを除去する必要がある。また、低品位のフライアッシュを用いると、環境基準値を超えるホウ素、クロム等の有害物質を周囲の環境中に拡散する虞があるため、セメント用混合材等に用いる前にこれらの有害物質を予め除去する必要がある。
【0003】
そこで、特許文献1には、未処理のフライアッシュの選別作業及び処理作業を効率化することによって、フライアッシュをセメント含有組成物の原料として使用した場合に、該セメント含有組成物の流動性、空気連行性及び強度発現性が良好になるとともに、有害物質(ホウ素、六価クロム)の溶出量を一定の値以下に抑える改質灰の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−245007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の改質灰の製造方法は、フライアッシュについてBET比表面積、pH、電気伝導度等の各種物性を測定し、その結果に基づいてホウ素等の溶出を抑制するための処理の要否等を判断するものであり、フライアッシュからホウ素を除去する方法そのものを開示するものではない。また、特許文献1以外にも、フライアッシュからのホウ素除去方法について開示するものは存在しない。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたものであって、セメント添加材用の未燃カーボンを取り除いた改質灰であって、建設材料として利用した場合に、ホウ素が溶出することのない改質灰を製造する装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、湿式浮選法を用いたファライアッシュの未燃カーボン除去工程において、脱水工程で発生するろ液にホウ素が溶出していることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、改質灰の製造装置であって、フライアッシュをスラリー化するスラリータンクと、該スラリータンクから排出されるスラリーを親油性成分と親水性成分とに分離する浮選機と、該浮選機から排出される親水性成分を固液分離する固液分離機と、該固液分離機から排出されるろ液からホウ素を除去するホウ素除去装置と、該ホウ素除去装置からホウ素を除去した排水を前記スラリータンクに戻す循環ルートを備えることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明によれば、浮選機から排出される親水性成分を固液分離した固液分離機から排出されるろ液からホウ素を除去するため、ホウ素を含む循環液がスラリータンクに戻ることがなく、改質灰の製造装置内のホウ素が徐々に増加して固液分離機のケークへホウ素が混入することを防止することができる。これにより、建設材料として利用した場合にホウ素が溶出することのない改質灰を得ることができる。
【0010】
上記改質灰の製造装置において、前記浮選機の前段において、前記スラリーに疎水剤を添加しながら剪断力を付与する表面改質機を備えることができる。これによれば、スラリー及び疎水剤に剪断力を付与して未燃カーボンの表面を改質したり、スラリーに含まれる未燃カーボン、真フライアッシュ等の粒子を超微細に砕くことで、未燃カーボンの除去効率を高めることができる。
【0011】
また、本発明は、改質灰の製造方法であって、フライアッシュに水を加えてスラリーとし、該スラリーを撹拌しながら該スラリーのpHを5以上10以下に調整し、該pH調整後のスラリーに疎水剤及び起泡剤を添加し、撹拌して気泡を発生させ、浮遊選鉱により、該気泡に前記フライアッシュ中の未燃カーボンを付着させて浮上させ、フライアッシュ中の未燃カーボンを除去し、前記浮遊選鉱により得られたテールを固液分離し、分離したろ液からホウ素を除去し、ホウ素を除去した後のろ液を、前記スラリーの生成に用いるとともに、前記テールを固液分離したケークから改質灰を得ることを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、循環使用するろ液からホウ素を除去するため、建設材料として利用した場合に、ホウ素が溶出することのない改質灰を得ることができる。
【0012】
また、上記改質灰の製造方法において、前記スラリーの固体濃度を1質量%以上50質量%以下、前記スラリーの温度を1℃以上50℃以下、前記スラリーの撹拌時間を1分以上180分以下、より好ましくは、前記固体濃度を10質量%以上20質量%以下、前記温度を20℃以上40℃以下、前記撹拌時間を10分以上60分以下とすることができる。
【0013】
さらに、上記改質灰の製造方法において、前記pH調整に、硫酸又は炭酸ガスを用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、セメント添加材用の未燃カーボンを取り除いた改質灰であって、建設材料として利用した場合にホウ素が溶出することのない改質灰を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかる改質灰の製造装置の一実施の形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明にかかる改質灰の製造方法の効果を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明にかかる改質灰の製造装置の一実施の形態を示し、この処理装置は、大別して、フライアッシュタンク1と、スラリータンク2と、表面改質機4と、貯留槽7と、調整槽8と、浮選機12と、固液分離機14と、フィルタープレス15と、ホウ素吸着塔19等で構成される。
【0018】
フライアッシュタンク1は、石炭焚き火力発電所等から廃棄物として運び込まれたフライアッシュFLを貯留し、スラリータンク2に供給するために設けられる。
【0019】
スラリータンク2は、フライアッシュFLに水を添加し、スラリーS1を生成するために備えられ、スラリーS1を撹拌するための撹拌羽根を内部に備える。また、スラリータンクには、図示を省略するが、硫酸又は炭酸ガスをスラリータンク2に供給するためのポンプ等が配置される。スラリータンク2の後段には、スラリータンク2で生成されたスラリーS1を表面改質機4に送るためのポンプ3が配置される。
【0020】
表面改質機4は、スラリータンク2からのスラリーS1に疎水剤を添加しながら剪断力を付与することにより、スラリーS1中の未燃カーボンの表面を改質したり、スラリーS1に含まれる粒子を超微細に砕くために設けられる。この表面改質機4には、疎水剤としての灯油を貯蔵する疎水剤タンク5と、灯油を表面改質機4に供給するポンプ6とが付設されている。尚、疎水剤としては、灯油以外にも、軽油及び重油等の一般的な疎水剤を用いることができる。
【0021】
貯留槽7は、表面改質機4からのスラリーS2を撹拌しながら貯留するために設けられ、貯留したスラリーS2は、調整槽8に搬送される。
【0022】
調整槽8は、貯留槽7からのスラリーS2に、起泡剤タンク9からポンプ10を介して供給された起泡剤を添加し、これらを混合するために備えられる。この調整槽8の内部には、スラリーS2と起泡剤とを撹拌混合するための撹拌羽根が設けられ、また、調整槽8の後段には、調整槽8で生成されたスラリーS3を浮選機12に送るためのポンプ11が配置される。
【0023】
浮選機12は、調整槽8から供給されたスラリーS3に含まれる未燃カーボンを気泡に付着させて浮上させ、スラリーS3から未燃カーボンを分離するために設けられる。浮選機12の上方には、気泡を発生させるための空気を供給する空気供給装置(不図示)が設けられ、浮選機12の後段には、テールTを固液分離機14に送るためのポンプ13が配置される。
【0024】
固液分離機14は、浮選機12から排出されたフライアッシュを含むテールTを固液分離するために備えられ、テールTをケークC1とろ液L1とに分離する。分離されたケークC1が未燃カーボンを除去したフライアッシュ、すなわち改質灰である。分離されたろ液L1は、ホウ素吸着塔19に供給される。
【0025】
フィルタープレス15は、浮選機12からの未燃カーボンを含むフロスFを固液分離するために備えられ、分離されたケークC2に含まれる未燃カーボンは、補助燃料等として利用することができる。また、フィルタープレス15から排出されたろ液L2は、ポンプ16を介してスラリータンク2等で再利用する。
【0026】
ホウ素吸着塔19は、固液分離機14のろ液L1中のホウ素を除去するため、固液分離機14のろ液L1をスラリータンク2に戻す循環ルート18上に配置され、ホウ素吸着性を有する樹脂が用いられる。この樹脂には、スチレン−ジビニルベンゼンからなる架橋型共重合体にN−メチル−D−グルカミノ基を導入したグルカミン型樹脂、グリシジルメタクリレートとジビニルベンゼンからなる架橋型共重合体に2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1、3−プロパンジオールを反応させて得られる樹脂、マトリックスが親水性架橋剤により形成された高分子多孔体等を用いることができる。ホウ素吸着塔19でホウ素が除去された排水L3は、スラリータンク2に循環水として戻される。
【0027】
次に、上記構成を有する改質灰の製造装置の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0028】
石炭焚き火力発電所等から廃棄物として運び込まれたフライアッシュFLをフライアッシュタンク1に貯留した後、スラリータンク2に供給して水と混合し、スラリーS1を生成する。また、スラリータンク2に、硫酸又は炭酸ガスを添加して、スラリーS1を撹拌しながらスラリーS1のpHを5以上10以下に調整し、スラリー中のカルシウムを析出させ、スケールの成長を抑制する。
【0029】
ここで、後段の浮選機12での未燃カーボンの除去効率の観点から、スラリータンク2におけるスラリーS1の固体濃度は、1質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上20質量%以下とする。また、石膏の溶解度の観点から、スラリーS1の温度は、1℃以上50℃以下、より好ましくは20℃以上40℃以下とする。さらに、析出した石膏の種結晶への付着、成長の観点からスラリーS1の貯留時間は、1分以上180分以下、より好ましくは10分以上60分以下とする。
【0030】
次に、スラリータンク2内のスラリーS1を、ポンプ3を介して表面改質機4に供給する。また、表面改質機4には、疎水剤タンク5からポンプ6を介して疎水剤としての軽油を供給する。表面改質機4において、疎水剤が添加されたスラリーS1に剪断力を付与したり、スラリーS1に含まれる粒子を超微細に砕く。剪断力の付与等が行われたスラリーS2を、表面改質機4から貯留槽7へ搬送し、貯留槽7で撹拌しながら貯留する。
【0031】
次いで、貯留槽7から調整槽8へスラリーS2を移送するとともに、調整槽8に、起泡剤タンク9からポンプ10を介して起泡剤を供給し、調整槽8において、スラリーS2と起泡剤とを混合してスラリーS3を生成する。
【0032】
次に、スラリーS3をポンプ11を介して浮選機12に供給するとともに、空気を浮選機12に供給し、浮選機12において気泡を発生させ、その気泡に疎水剤に吸着された未燃カーボンを付着させるとともに、未燃カーボンが付着して浮上した気泡を除去する。これにより、フライアッシュFLに含まれていた未燃カーボンを除去することができる。
【0033】
次いで、浮選機12からのフライアッシュを含むテールTを、固液分離機14で固液分離し、ケークC1を改質灰として回収する。尚、この改質灰の未燃カーボン含有率は0.5質量%以下である。また、固液分離機14で固液分離されたろ液L1をポンプ17を介してホウ素吸着塔19に導入し、ホウ素吸着性を有する樹脂を用いてホウ素を除去した後、除去後の排水L3をスラリータンク2に循環し、ろ液L2に残留する起泡剤を再利用する。
【0034】
一方、浮選機12から排出された未燃カーボンを含むフロスFをフィルタープレス15によって固液分離し、未燃カーボンを回収する。回収した未燃カーボンは、セメントキルン等で補助燃料として利用することができる。一方、フィルタープレス15で発生したろ液L2は、ポンプ16を介してスラリータンク2に戻す。ろ液L2を貯留槽7に添加したり、浮選機12において、気泡に未燃カーボンを付着させる際の消泡に再使用することもできる。
【0035】
以上のように、本実施の形態によれば、固液分離機14のろ液L1を循環使用する際に、ホウ素吸着塔19を用いてホウ素を除去するため、改質灰の製造装置内のホウ素が徐々に増加して固液分離機14のケークC1へホウ素が混入するのを防止することができ、建設材料として利用した場合に、ホウ素が溶出することのない改質灰を製造することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例について、図2を参照しながら説明する。図2は、図1においてホウ素吸着塔19を設置せずに、スラリータンク2内のスラリーS1のpHを8〜9に維持した状態で改質灰の製造装置を運転し、循環ルート18で採取した固液分離機14のろ液L1のホウ素含有率の推移を示すグラフである。
【0037】
このグラフより、改質灰の製造装置の運転時間が80時間を超えると、急激にホウ素含有率が増加し、時間経過とともに漸増することが判る。本発明によれば、循環ルート18上にホウ素吸着塔19を設置し、ろ液(循環水)L1からホウ素を除去しているため、同グラフに示すようなホウ素含有率の増加を招くことがない。そのため、上述のように、固液分離機14のケークC1へのホウ素の混入を防止することができ、建設材料として利用した場合に、ホウ素が溶出することのない改質灰を得ることができる
【符号の説明】
【0038】
1 フライアッシュタンク
2 スラリータンク
3 ポンプ
4 表面改質機
5 疎水剤タンク
6 ポンプ
7 貯留槽
8 調整槽
9 起泡剤タンク
10 ポンプ
11 ポンプ
12 浮選機
13 ポンプ
14 固液分離機
15 フィルタープレス
16 ポンプ
17 ポンプ
18 循環ルート
19 ホウ素吸着塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュをスラリー化するスラリータンクと、
該スラリータンクから排出されるスラリーを親油性成分と親水性成分とに分離する浮選機と、
該浮選機から排出される親水性成分を固液分離する固液分離機と、
該固液分離機から排出されるろ液からホウ素を除去するホウ素除去装置と、該ホウ素除去装置からホウ素を除去した排水を前記スラリータンクに戻す循環ルートとを備えることを特徴とする改質灰の製造装置。
【請求項2】
前記浮選機の前段において、前記スラリーに疎水剤を添加しながら剪断力を付与する表面改質機を備えることを特徴とする請求項1に記載の改質灰の製造装置。
【請求項3】
フライアッシュに水を加えてスラリーとし、
該スラリーを撹拌しながら該スラリーのpHを5以上10以下に調整し、
該pH調整後のスラリーに疎水剤及び起泡剤を添加し、撹拌して気泡を発生させ、浮遊選鉱により、該気泡に前記フライアッシュ中の未燃カーボンを付着させて浮上させ、フライアッシュ中の未燃カーボンを除去し、
前記浮遊選鉱により得られたテールを固液分離し、分離したろ液からホウ素を除去し、ホウ素を除去した後のろ液を、前記スラリーの生成に用いるとともに、前記テールを固液分離したケークから改質灰を得ることを特徴とする改質灰の製造方法。
【請求項4】
前記スラリーの固体濃度を1質量%以上50質量%以下、前記スラリーの温度を1℃以上50℃以下、前記スラリーの撹拌時間を1分以上180分以下、より好ましくは、前記固体濃度を10質量%以上20質量%以下、前記温度を20℃以上40℃以下、前記撹拌時間を10分以上60分以下とすることを特徴とする請求項3に記載の改質灰の製造方法。
【請求項5】
前記pH調整に、硫酸又は炭酸ガスを用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の改質灰の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−227769(P2010−227769A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76178(P2009−76178)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】