改質硫黄固化体パネル及びその製造方法
【課題】溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板状に形成される改質硫黄固化体パネルにおいて、セメントコンクリートなどの他の材料との接合力を向上させる。
【解決手段】改質硫黄固化体パネル1は、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板状に形成される。改質硫黄固化体パネル1は、その一方のパネル面1aにシート状部材3が埋設されている。シート状部材3は、例えば、地組織部31と、該地組織部31から立ち上がった複数の立毛部33とを有する繊維シートであり、複数の立毛部33を露出させた状態でパネル面1aに埋設されている。
【解決手段】改質硫黄固化体パネル1は、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板状に形成される。改質硫黄固化体パネル1は、その一方のパネル面1aにシート状部材3が埋設されている。シート状部材3は、例えば、地組織部31と、該地組織部31から立ち上がった複数の立毛部33とを有する繊維シートであり、複数の立毛部33を露出させた状態でパネル面1aに埋設されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板状に形成された改質硫黄固化体パネル及びその製造方法に関し、特に、セメントコンクリートなどの他の材料との接合性(接着性)を向上させることのできる改質硫黄固化体パネル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、土木用、建築用の資材として、骨材などをセメントで結合させたコンクリート(以下「セメントコンクリート」という)が用いられている。その中で、埋設型枠や後貼りパネルとして使用される薄板状のパネルは、モルタルで製造されたものが多い。しかし、一般的にはモルタル製のパネルは、それほど強度及び耐久性が高くないことより、使用環境によっては強度及び耐久性が不足する場合がある。このため、モルタル製のパネルは、多くの場合、その強度及び耐久性を向上させるために鉄筋やその他の補強材を用いる必要があり、製品としての厚さや重量が大きくなるものであった。このような状況において、土木用、建築用の資材として、より強度及び耐久性の高いパネルが望まれている。
【0003】
これに対して、近年では、常温では固体でありおよそ119〜159℃に加熱されると溶融するという硫黄の性質に着目し、硫黄に所定の資材を配合して製造したものを土木用、建築用の資材の一つとして利用することが試みられている。例えば、特許文献1には、硫黄と硫黄改質剤とを溶融混合して溶融状態の改質硫黄(溶融改質硫黄)を製造し、製造された溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させることによって改質硫黄固化体を製造することが記載されている。ここで、溶融改質硫黄と骨材とを混合することによって溶融状態の改質硫黄資材が製造され、製造された改質硫黄資材を型枠に流し込み、該型枠内で冷却し固化させることによって、改質硫黄固化体からなる土木用、建築用の資材を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−82475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記改質硫黄固化体は、セメントコンクリートに比べて高強度で遮水性に優れ、かつ耐酸性の高い材料として知られている。しかし、その一方では、他の材料、特にセメントコンクリートなどの親水性材料との接合性が低い(接着力が小さい)という特性を有している。そのため、上記改質硫黄固化体からなる改質硫黄固化体パネルに、例えばセメントコンクリートなどの材料を流し込んで複合体を製造する場合に、両者の接合力が十分に得られず、複合体としての強度が不足するおそれがあるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであり、セメントコンクリートなどの他の材料との接合力を向上させることのできる改質硫黄固化体パネルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による改質硫黄固化体パネルは、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板状に形成された改質硫黄固化体パネルであって、一方のパネル面に、シート状部材がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設され又は複数の凹部が形成されている。
【0008】
ここで、一方のパネル面に複数の凹部が形成され、該複数の凹部の少なくとも1つの底面(凹部底面)に、シート状部材がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されるようにしてもよい。好ましくは、前記一方のパネル面に形成される複数の凹部は、(改質硫黄固化体パネルの)成形時に逆勾配となるアンダーカット凹部を含む。
【0009】
上記本発明による改質硫黄固化体パネルは、前記シート状部材が網目状に形成され、該シート状部材の厚さ方向のほぼ半分が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面に埋没している場合を含む。また、前記シート状部材が、地組織部と、該地組織部から立ち上がった複数の立毛部と、を有する繊維シートであり、少なくとも前記複数の立毛部の一部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面から露出している場合を含む。さらに、前記複数の立毛部が前記地組織部の両面側に形成され、前記地組織部の一方の面側に形成された複数の立毛部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面から露出する一方、前記地組織部の少なくとも一部及び前記地組織部の他方の面に形成された複数の立毛部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面に埋没している場合を含む。ここにおいて、前記複数の立毛部は、前記地組織部に起毛処理が施されて形成された起毛、前記地組織部に編み込まれ又は織り込まれて形成されたループパイル若しくはカットパイル、又は、これらを適宜組み合わせたものとすることができる。
【0010】
また、本発明による改質硫黄固化体パネルの製造方法は、上面が開口した箱型の型枠を加熱する加熱工程と、加熱された前記型枠内に、溶融改質硫黄に骨材が混ぜられた改質硫黄資材を打設する打設工程と、シート状部材を、その片面側の少なくとも一部が露出するように、前記型枠内に打設された改質硫黄資材に埋設する埋設工程と、前記型枠内の改質硫黄資材を冷却して固化させる冷却工程と、前記型枠内の改質硫黄資材が固化して形成されたパネル状の改質硫黄固化体を該型枠から取り出す脱型工程と、を含む。
【0011】
さらに、本発明による他の改質硫黄固化体パネルの製造方法は、上面が開口した箱型の型枠を加熱する加熱工程と、加熱された前記型枠に、溶融改質硫黄に骨材が混ぜられた改質硫黄資材を打設する打設工程と、複数の凸部が形成された押さえ型を前記改質硫黄資材の打設面に設置して前記複数の凸部を前記改質硫黄資材に埋没させる設置工程と、前記押さえ型を設置した後に、前記型枠内の改質硫黄資材を冷却して固化させる冷却工程と、前記押さえ型を取り外すとともに前記型枠内の改質硫黄資材が固化して形成されたパネル状の改質硫黄固化体を該型枠から取り出す脱型工程と、を含む。
【0012】
ここで、前記設置工程は、前記複数の凸部の少なくとも1つの頂部にシート状部材を取り付ける工程と、前記シート状部材が取り付けられた前記押さえ型を前記改質硫黄資材の打設面に設置する工程と、を含むようにしてもよい。この場合、前記押さえ型は、前記シート状部材の前記頂部側の面の少なくとも一部が前記改質硫黄資材から露出するように、前記シート状部材を保持する構成とする。
【0013】
上記本発明による改質硫黄固化体パネルの製造方法は、前記シート状部材が網目状に形成され、その厚さ方向のほぼ半分が前記改質硫黄資材に埋没する場合を含む。また、前記シート状部材が、地組織部と、該地組織部から立ち上がった立毛部と、を有する繊維シートであり、少なくとも前記複数の立毛部の一部が露出するように前記改質硫黄資材に埋設される場合を含む。
【0014】
また、前記押さえ型に形成された前記複数の凸部の少なくとも1つは、その頂部に向かって断面積が徐々に大きくなるように形成されていることが好ましい。この場合においては、例えば、前記押さえ型又は前記複数の凸部の少なくとも1つは、耐熱性の弾性材料で形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明による改質硫黄固化体パネルは、一方のパネル面にシート状部材がその片側面の少なくとも一部を露出させ状態で埋設され、又は、一方のパネル面に複数の凹部が形成されているので、上記シート状部材の露出部分又は上記複数の凹部によるアンカー効果によって、上記一方のパネル面側に打設されたセメントコンクリートなどの他の材料との接合力が向上する。従って、例えば、本発明による改質硫黄固化体パネルを用いて、上記一方のパネル面側にセメントコンクリートなどの他の材料を打設することで、両者が強固に接合された複合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの部分断面図である。
【図2】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルのパネル面に埋設されるシート状部材の部分拡大図である。
【図3】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造に用いる型枠の概略構成を示す図である。
【図4】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図5】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図6】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図7】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図8】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図9】本発明の第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの部分断面図である。
【図10】第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図11】第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造に用いる押さえ型に形成された凸部の拡大断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態による改質硫黄固化体パネルの部分断面図である。
【図13】第3実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図14】第3実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造に用いる押さえ型に形成された凸部の拡大断面図である。
【図15】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルとセメントコンクリートとの複合体の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1の部分断面図である。本実施形態による改質硫黄固化体パネル1は、改質硫黄固化体によって薄板状に形成され、図1に示すように、その一方のパネル面1a(例えばパネル裏面)には、シート状部材3がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている。なお、改質硫黄固化体パネル1は一般的には平板状に形成されるが、これに限るものではなく、薄板状の種々の形状に形成され得るものである。
【0018】
パネル面1aに埋設されているシート状部材3は、例えば編物または織物として構成された繊維シートである。シート状部材3は、任意の大きさに形成することができるが、ここではパネル面1aとほぼ同じ大きさ(面積)又はパネル面1aよりも僅かに小さく形成されているものとする。
【0019】
図2は、シート状部材3の部分拡大図を示している。
図2に示すように、シート状部材3は、地組織部31と、地組織部31から立ち上がった複数の立毛部33と、を有する。地組織部31は、網目(格子)状に形成されており、これにより、シート状部材3も全体として網目(格子)状に形成されている。各立毛部33は、地組織部31に編み込まれ又は織り込まれて地組織部31の片面側にループ状に突出させたループパイルによって構成されている。
【0020】
ここで、シート状部材3の地組織部31は、例えばポリエステルマルチフィラメントを用いて形成することができ、各立毛部33は、例えばポリプロピレンモノフィラメントを用いて形成することができる。但し、これに限るものではなく、地組織部31としてポリアミド系合成繊維、ポリプロピレン、ビニロン、ガラス繊維などのマルチフィラメントを用いることができ、各立毛部33としてポリアミド系合成繊維、ポリエチレン、ビニロンなどのモノフィラメントを用いることができる。
【0021】
そして、シート状部材3は、図1に示すように、複数の立毛部33を露出させた状態でパネル面1a(すなわち、改質硫黄固化体)に埋設されている。さらに言えば、シート状部材3は、地組織部31がパネル面1aに埋没しており、複数の立毛部33がパネル面1aから露出(突出)している。ここにおいて、複数の立毛部33の全てがパネル面1aから露出(突出)している必要はなく、少なくとも複数の立毛部33の一部、好ましくは、複数の立毛部33のほとんどがパネル面1aから露出(突出)していればよい。また、同様に、地組織部31の全てがパネル面1aに埋没している必要はなく、地組織部31の少なくとも一部(例えば、地組織部31の片面側のみ)がパネル面1aに埋没していればよい。
【0022】
ここで、改質硫黄固化体について説明する。改質硫黄固化体は、溶融状態にある改質硫黄(溶融改質硫黄)に骨材を混ぜて固化させたものであり、具体的には、以下のようにして製造することができる。
【0023】
まず、硫黄と硫黄改質剤とを溶融混合して溶融改質硫黄を製造する。硫黄は、例えば天然産又は石油や天然ガスの脱硫によって生成されたものであり、硫黄改質剤は、溶融硫黄を重合することによって改質する。硫黄改質材としては、例えば炭素数4〜20のオレフィン系炭化水素又はジオレフィン系炭化水素、具体的には、リモネン、ピネン等の環状オレフィン系炭化水素、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン等の芳香族炭化水素、ジシクロペンタジエン及びそのオリゴマー、シクロペンタジエン、テトラヒドロインデン、ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロオクタジエン等のジエン系炭化水素等の1種又は2種以上の混合物が挙げられる。なお、硫黄改質剤の使用割合は、硫黄と硫黄改質剤との合計量に対して、通常0.1〜30質量%、好ましくは、1.0〜20質量%である。
【0024】
製造された溶融改質硫黄は、溶融状態を保つことのできる温度に保持された状態で骨材と混合される。骨材は、溶融改質硫黄との混合に適した温度(例えば、130〜140℃程度)に加温しておくのが好ましい。骨材としては、一般にコンクリートで用いられる骨材、例えば、例えば、天然石、砂、れき、硅砂、鉄鋼スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ、金属の製造時に生成される副生物、石炭灰、燃料焼却灰、電気集塵灰、溶融スラグ類、貝殻及びこれらの混合物等からなる群より選択される1種又は2種以上が挙げられる。また、シリカヒューム、アルミナ、石英粉、石英質岩石、粘土鉱物、活性炭、ガラス粉末や他の無機系、有機系等の微粉末も使用可能である。
【0025】
そして、溶融改質硫黄と骨材とを、公知の溶融混合装置などを用いて混合することによって改質硫黄資材を製造することができ、この改質硫黄資材を所定の型枠に流し込み、冷却、固化させることで所望の形状の改質硫黄固化体を製造することができる。本実施形態においては、パネル成型用の型枠を用いて改質硫黄固化体パネルを製造する。
【0026】
次に、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明する。ここでは平板状の改質硫黄固化体パネルの製造方法について説明する。
図3は、本実施形態において用いる型枠5の概略構成を示している。型枠5は、例えば鉄等の金属製であり、図3に示すように、上面が開口するとともに浅い箱状に形成されている。具体的には、型枠5は、矩形状の底板51と、底板51の周囲を所定の高さで囲む枠部53と、底板51の裏面に設けられた一対の脚部55と、枠部53に形成された一対のエア注入孔57と、を備える。ここで、エア注入孔57は、加圧エアを型枠5内の底板51の表面に注入するために設けられ、主として後述する脱離工程において使用される。
【0027】
図4〜図8は、改質硫黄固化体パネルの製造方法を示している。
まず、型枠5は、図示省略した加熱器によって上記改質硫黄資材が溶融状態を保持できる程度の温度(例えば、120〜130℃)まで加熱される(加熱工程)。そして、図4に示すように、加熱された型枠5が作業台7上に設置される。なお、図には示されていないが、底板51の裏面には、型枠5が作業台7上に設置された際に、作業台7の上面に設けられた凸部等に係合する係合部が形成されている。これにより、作業台7上における型枠5の位置ズレが防止される。
【0028】
次に、図5に示すように、作業台7に設置された型枠5内に、溶融状態にある改質硫黄資材(MS)を打設する(第1打設工程)。ここでは、容器9内に収容された改質硫黄資材(MS)を型枠5内の全面に拡げるように流し込み、型枠5の深さのほぼ半分の厚さを有する一層目の改質硫黄資材(MS1)を打設する。型枠5は、上記加熱工程にてあらかじめ加熱されているため、打設された改質硫黄資材が急激に冷却されて内部の空洞が生じたり、表面にムラや気泡が発生したりすることが抑制される。
【0029】
ここで、型枠5の内側面には、あらかじめ離型剤を塗布しておくのが好ましい。後述する脱型工程にて、型枠5内でパネル状に形成された改質硫黄固化体を型枠5から容易に取り出せるようにするためである。また、作業台7を例えばテーブル振動機とし、改質硫黄資材の打設時に型枠5を振動させて締め固め処理を施すようにしてもよい。このようにすると、打設された改質硫黄資材の内部に空洞ができてしまったり、打設された改質硫黄資材と型枠5との間に隙間ができてしまったりすることを防止できる。
【0030】
次に、図6に示すように、一層目の改質硫黄資材(MS1)の上に補強用ネット41を設置する(補強用ネット設置工程)。この補強用ネット41は、薄板状に形成される改質硫黄固化体パネルの強度を補うものであり、必要に応じて設けられる。補強用ネット41は、例えば炭素繊維等からなる格子状の強化繊維ネットを用いることができる。
【0031】
次に、図7に示すように、設置された補強用ネット41の上にさらに溶融状態にある改質硫黄資材(MS)を流し込み、二層目の改質硫黄資材(MS2)を打設する(第2打設工程)。ここで流し込まれる改質硫黄資材(MS)によって型枠5が満たされる。この二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設時においても一層目の改質硫黄資材(MS1)と同様に型枠5を振動させて締め固め処理を施すようにしてもよい。
【0032】
ここで、例えば型枠5が補強用ネット41を所定位置(例えば、深さ方向のほぼ半分の位置)に保持できる構造を有している場合や補強用ネット41が不要な場合などにおいては、溶融状態にある改質硫黄資材の打設を二回に分けることなく、一回の打設で型枠5内に改質硫黄資材を充填するようにしてもよい。
【0033】
次に、図8に示すように、上述のシート状部材3を、その片面側の少なくとも一部が露出するように、具体的には、立毛部33が露出するように二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋設する(埋設工程)。例えば、二層目の改質硫黄資材(MS2)上に複数の立毛部33を上にしたシート状部材3を設置し、その後、シート状部材3の全体を上方から軽く押さえつける。これにより、シート状部材3の地組織部31を二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没させるとともに、複数の立毛部33を二層目の改質硫黄資材(MS2)から露出(又は突出)させることができる。ここで、地組織部31は、全体を二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没させるのではなく、その厚さ方向の半分程度(すなわち、下側面)を二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没させるのが好ましい。
【0034】
シート状部材3を埋設した後、図示省略するが、型枠5を作業台7から外し、そのまま空気中で自然冷却して型枠5内の改質硫黄資材を固化させる(冷却工程)。具体的には、30〜60分程度の時間をかけて改質硫黄資材を30〜50℃程度まで冷却する。なお、所定状態に加温された雰囲気中で型枠5内の改質硫黄資材を冷却して固化させるようにしてもよい。
【0035】
そして、型枠5内の改質硫黄資材が固化したら、型枠5を反転させるとともにエア注入孔57から型枠5内に加圧エアを注入しつつ、型枠5から該型枠5内でパネル状に形成された改質硫黄固化体を取り出し(脱型工程)、取り出した改質硫黄固化体のバリ取りなどを行い、所定時間(例えば12〜24時間)の養生を経て(後処理工程)、図1に示すような断面構造を有する改質硫黄個体パネル1が完成する。
【0036】
以上により、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板上に形成され、一方のパネル面1aに、シート状部材3がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている改質硫黄固化体パネル1が製造される。そして、シート状部材3は、地組織部31と、地組織部31から立ち上がった複数の立毛部33と、を有し、少なくとも複数の立毛部33の一部を露出している一方、地組織部31の少なくとも一部がパネル面1aに埋没している。
【0037】
本実施形態による改質硫黄固化体パネル1は、一方のパネル面1aに、シート状部材3が複数の立毛部33を露出させた状態で埋設されている。パネル面1aから露出(突出)した複数の立毛部33は、例えばパネル面1a側に打設されるセメントコンクリートなどの他の材料に対して強い接合力を発揮する(アンカー効果)。このため、本実施形態による改質硫黄固化体パネル1によれば、従来に比べて、セメントコンクリートなどの他の材料との接合力が向上する。また、本実施形態による改質硫黄固化体パネル1を用い、そのパネル面1a側にセメントコンクリートなどの他の材料を打設することで、両者が強固に接合された複合体を製造することができる。
【0038】
ところで、上記実施形態では、改質硫黄固化体パネル1の一方のパネル面1aに埋設されているシート状部材として、地組織部31と、地組織部32から立ち上がった複数の立毛部33と、を有する網目状の繊維シートを用いている。しかし、これに限られるものではなく、種々のシート状部材を用いることができる。例えば、シート状部材として起毛織布や金網等を用いることもできる。起毛織布を用いた場合には、地組織部(基布)に起毛処理が施されて形成された起毛の少なくとも一部がパネル面から露出していればよく、好ましくは、起毛を露出させつつ地組織部(基布)をその厚さ方向の半分程度までパネル面に埋没させる。また、金網を用いた場合には、該金網をその厚さ方向の半分程度までパネル面に埋没させるのが好ましい。
【0039】
ここで、改質硫黄固化体パネルの一方のパネル面に埋設されるシート状部材は、一枚である必要はなく、パネル面に対して小さく形成された複数のシート状部材がパネル面に埋設されてもよい。この場合、各シート状部材は、パネル面にほぼ均等に配置されるのが好ましい。
【0040】
また、上記実施形態におけるシート状部材は、複数の立毛部(ループパイル)が地組織部の片面側に設けられているが、複数の立毛部(ループパイル)を地組織部の両面側に設けるようにしてもよい。この場合、シート状部材は、地組織部の一方の面側に形成された複数の立毛部(ループパイル)及び地組織部の少なくとも一部がパネル面に埋没し、少なくとも地組織部の他方の面側に形成された複数の立毛部(ループパイル)がパネル面から露出しているのが好ましい。このようにすると、シート状部材と改質硫黄固化体との接合力も高まるため、改質硫黄固化体パネルとセメントコンクリート等の他の材料とがさらに強固に接合された複合体を製造することが可能となる。
【0041】
さらに、上記実施形態におけるシート状部材では、複数の立毛部をループパイルとしているが、ループパイルに代えてカットパイルとしてもよいし、ループパイルとカットパイルとの組み合わせとしてもよい(複数の立毛部を地組織部の両面側に形成した場合についても同様である)。また、地組織部(基布)に起毛処理を施して起毛を形成し、該起毛を複数の立毛部としてもよい。さらには、ループパイル、カットパイル及び起毛を適宜組み合わせたものを複数の立毛部としてもよい。但し、接合力の観点からは、ループパイルとするのが最も好ましい。
【0042】
このように本実施形態による改質硫黄固化体パネルは種々の変形が可能であり、これらの変形例も全て本発明の範囲に含まれるものである。すなわち、改質硫黄固化体パネルの一方パネル面に、改質硫黄固化体及びセメントコンクリートとの接着性が比較的高いシート状部材が埋設され、該シート状部材の一部が該パネル面から露出(突出)していればよく、このような構成を有する改質硫黄固化体パネルは全て本発明の範囲に含まれるものである。
【0043】
次に、本発明の第2実施形態による改質硫黄固化体パネルを説明する。なお、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1と共通する点についてはその説明を省略する。
図9は、本発明の第2実施形態による改質硫黄固化体パネル11の部分断面図である。本実施形態による改質硫黄固化体パネル11は、改質硫黄固化体によって薄板状に形成されており、図9に示すように、その一方のパネル面11a(例えばパネル裏面)には、複数の凹部13が形成されている。ここで、凹部13の形状、深さ、個数などは任意に設定することができる。また、各凹部13はパネル面11aにほぼ均等に配置されているのが好ましい。
【0044】
各凹部13は、深さ方向に向かって凹部の内側空間が徐々に拡がるように形成されている。換言すれば、各凹部13は、入口面積よりも底面積の方が大きく成形時に逆勾配となる、いわゆるアンダーカット凹部として形成されている。このように各凹部13をアンダーカット凹部として形成するのは、例えばパネル面11a側にセメントコンクリートなどの他の材料を打設して複合体を製造する場合に、接触面積を増加させるとともに凹部13内で固化したセメントコンクリートなどの他の材料が該凹部13から外れ難くすることで両者の接合性を高めるためである(アンカー効果を効果的に発揮するためである)。
【0045】
かかる第2実施形態による改質硫黄固化体パネル11の製造方法を説明する。
加熱工程、第1打設工程、補強用ネット設置工程及び第2打設工程については、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1の製造方法と同じであるので説明は省略する(図4〜7参照)。但し、本製造方法においては、埋設工程(図8)に代えて、押さえ型を設置する設置工程を設ける。すなわち、二層目の改質硫黄資材(MS2)を打設する第2打設工程(図7)の後、図10に示すように、押さえ型61を二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設面に設置する設置工程を設ける。
【0046】
図10に示すように、押さえ型61は、平板状の型本体63と、型本体63の一方の面に形成された複数の凸部65と、を有し、複数の凸部65を二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設面に向けて設置される。したがって、押さえ型61が設置されると、複数の凸部65は二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没し、該二層目の改質硫黄資材(MS2)が固化した際にその表面に凹部13が形成される。このため、本製造方法では、押さえ型61が設置される(すなわち、複数の凸部65が埋没すること)を考慮し、第2打設工程においては型枠5を完全に満たさない程度の改質硫黄資材(MS)が流し込まれるものとする。
【0047】
図11は、押さえ型61に形成された複数の凸部65の形状(拡大断面図)を示している。図11に示すように、各凸部65は、型本体63から離れるにしたがって、すなわち、その頂部65aに向かって断面積が徐々に大きくなるように形成されている。なお、押さえ型61は、型本体63と複数の凸部65とが一体に形成されたものであってもよいし、型本体63に複数の凸部65を取り付けて形成されたものであってもよい。一体に形成されている場合には押さえ型61の全体が耐熱性の弾性材料で形成され、型本体63に複数の凸部65が取り付けられて形成されている場合には少なくとも複数の凸部65が耐熱性の弾性材料で形成される。このように耐熱性の弾性材料を用いるのは、凸部65は溶融状態にある改質硫黄資材(MS)に埋没するために耐熱性を必要とし、また、凸部65によって形成される凹部はアンダーカット凹部となることから、固化した改質硫黄資材(改質硫黄固化体)から押さえ型61を取り外せるようにするためである。耐熱性の弾性材料としては、例えばポリウレタン、シリコン等が該当する。
【0048】
押さえ型61を設置した後、型枠5を作業台7から外してそのまま空気中で自然冷却して型枠5内の改質硫黄資材を固化させる(冷却工程)。そして、型枠5内の改質硫黄資材が固化したら、押さえ型61を取り外し、型枠5を反転させてエア注入孔57から型枠5内に加圧エアを注入しながら該型枠5内でパネル状に形成された改質硫黄固化体を型枠5から取り出す(脱型工程)。その後、取り出した改質硫黄固化体のバリ取りなどを行い、所定時間の養生を経て(後処理工程)、図9に示すような断面構造を有する改質硫黄個体パネル11が完成する。
【0049】
以上により、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板上に形成され、一方のパネル面11aに複数の凹部13が形成された改質硫黄固化体パネル11が製造される。ここで、複数の凹部13は、押さえ型61に形成された凸部65に対応した形状、すなわち、成形時に逆勾配となるアンダーカット凹部として形成される。
【0050】
本実施形態による改質硫黄固化体パネル11は、一方のパネル面11aに複数の凹部13が形成されており、この複数の凹部13によって、該パネル面11a側に打設されるセメントコンクリートなどの他の材料との接触面積が増加する。また、パネル面11aに形成された凹部13はアンダーカット凹部となっており、凹部13内で固化したセメントコンクリートなどの他の材料が該凹部13から外れ難くなる。このため、本実施形態による改質硫黄固化体パネル11によれば、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1と同様に、他の材料との接合力を向上することができるとともに、本実施形態による改質硫黄固化体パネル11を用い、そのパネル面11a側にセメントコンクリートなどの他の材料を打設することで、両者が強固に接合された複合体を製造することができる。
【0051】
ここで、上記実施形態では、パネル面11aに形成される全ての凹部13がアンダーカット凹部となっている。しかし、これに限られるものではなく、複数の凹部13を抜き勾配が考慮された凹部(すなわち、入口面積と底面積とがほぼ同じ大きさの凹部や入口面積よりも底面積の方が小さい凹部)としてもよいし、複数の凹部13のうち一部をアンダーカット凹部とするとともに残りを抜き勾配が考慮された凹部としてもよい。このようにすると、セメントコンクリートなどの他の材料との接合力と高めつつ、押さえ型61の取り外しを容易にして改質硫黄固化体パネルの製造性の低下を抑制できる。なお、パネル面11aに形成される複数の凹部13は、種々の形状とすることができるものである。すなわち、一方のパネル面に複数の凹部が形成されている改質硫黄固化体パネルであれば、凹部の形状にかかわらず、本発明の範囲に含まれるものである。
【0052】
次に、本発明の第3実施形態による改質硫黄固化体パネルを説明する。なお、第1,第2実施形態による改質硫黄固化体パネル1,11と共通する点について説明を省略する。
図12は、本発明の第3実施形態による改質硫黄固化体パネル21の部分断面図(拡大図)である。本実施形態よる改質硫黄固化体パネル21は、改質硫黄固化体によって薄板状に形成されており、図12に示すように、その一方のパネル面21a(例えばパネル裏面)には複数の凹部23が形成され、各凹部の底面23aに、シート状部材25がその片側面の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている。凹部23の形状、深さ)、個数などは任意に設定することができる。また、各凹部23はパネル面21aにほぼ均等に配置されているのが好ましい。
【0053】
各凹部23は、第2実施形態による改質硫黄固化体パネルにおける凹部13と同様、入口面積よりも底面積の方が大きいアンダーカット凹部として形成されている。また、本実施形態におけるシート状部材25は、網目状に形成された繊維シート又は金網であり、凹部23の入口面積の大きさに対応して形成される。そして、シート状部材25は、その厚さ方向のほぼ半分(すなわち、片面側)が凹部23の底面23aに埋没している。
【0054】
かかる第3実施形態による改質硫黄固化体パネル21の製造方法は、基本的には、上記第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法と同じである。但し、設置工程(図10)が以下のように変更される。
【0055】
図13は、第3実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法における設置工程を説明する図である。ここでは、まず、押さえ型71にシート状部材25を取り付け、シート状部材25が取り付けられた押さえ型71を二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設面に設置する。
【0056】
押さえ型71は、図13に示すように、上記第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法に用いる押さえ型61と同様、平板状の型本体73と、型本体73の一方の面に形成された複数の凸部75と、を有し、少なくとも複数の凸部が耐熱性の弾性材料で形成されている。
【0057】
図14は、押さえ型71に形成された複数の凸部75の形状(拡大図)を示している。
図14に示すように、各凸部75は、型本体73から離れるにしたがって、すなわち、その頂部75aに向かって断面積が徐々に大きくなるように形成されている。各凸部75の頂部75aには、シート状部材25を取り付ける取付部75bが形成されている。取付部75bは、例えばシート状部材25の網目に対応するように形成された複数の溝によって構成されている。各溝の幅は、例えばシート状部材25の網目を構成する各線状部分の幅よりも僅かに小さく設定され、各溝の深さは、例えば上記各線状部分の高さ(すなわち、シート状部材25の厚さ)のほぼ半分に設定されている。そして、シート状部材25を各凸部75の頂部75aに形成された取付部75bに取り付けることにより、シート状部材25は、その片側面を頂部75aから突出させた状態で押さえ型71に保持される。
【0058】
シート状部材25が取り付けられた押さえ型71は、複数の凸部75を二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設面に向けて設置される。これにより、複数の凸部75は、二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没し、該二層目の改質硫黄資材(MS2)が固化した際にその表面に凹部23が形成される。また、押さえ型71は、シート状部材25の頂部側の面が上記凹部23の底面23aから露出するように、シート状部材25を保持する。その後、冷却工程、脱型工程及び後処理工程を経て、図12に示すような断面構造を有する改質硫黄個体パネル21が完成する。
【0059】
以上により、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板上に形成され、一方のパネル面21aに複数の凹部23が形成されるとともに該複数の凹部23の底面23aに、シート状部材25がその片側面の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている改質硫黄固化体パネル21が製造される。ここで、複数の凹部23は、押さえ型71の凸部75に対応した形状、すなわち、逆勾配となるアンダーカット凹部として形成される
【0060】
本実施形態による改質硫黄固化体パネル21によれば、上記第2実施形態による改質硫黄固体パネル11と同様の効果を得ることができるとともに、凹部23の底面23aに埋設されたシート状部材25の露出部分によって、パネル面21a側に打設されるセメントコンクリートなどの他の材料との接合力をさらに高めることができる。
なお、上記第1,2実施形態による改質硫黄固化体パネルの各種変形例は、可能な限り本実施形態による改質硫黄固化体パネル21についても適用することができる。
【0061】
そして、上記第1〜3実施形態(各種変形例を含む)による改質硫黄固化体パネルは、コンクリートに比べて、耐酸性、機械的強度、遮水性等に優れており、土木用、建設用の資材として広く利用することができる。具体的には、水路設備用のコンクリート構造物(管渠、ボックスカルバート等)の耐腐食性資材として利用され得る。この場合には、例えば、上記第1〜3実施形態による改質硫黄固化体パネル(各種変形例を含む)を埋設型枠として用いたり、後張りパネルとして用いたりして、コンクリートの表面に設置することができる。
【0062】
さらに、上記第1〜3実施形態(各種変形例を含む)による改質硫黄固化体パネルとセメントコンクリートとの「複合体」を製造することも可能である。ここで、かかる複合体には、工場等において製造され現場では設置又は組立が行なわれる「二次製品」はもちろん、現場においてセメントコンクリートを打設し硬化させて製造される「現場打ち構造物」も含まれる。
【0063】
上記複合体は、少なくとも、上記第1〜3実施形態(各種変形例を含む)による改質硫黄固化体パネルのいずれかを設置する工程と、設置された改質硫黄固化体パネルの上記一方のパネル面側(すなわち、シート状部材が設けられ又は凹部が形成されたパネル面側)にセメントコンクリートを打設する工程と、打設されたセメントコンクリートを硬化させる工程と、を経ることによって製造することができる。
ここで、複合体を所望の形状に形成するための型枠をあらかじめ設置して該型枠内に上記改質硫黄固化体パネルを設置するようにしてもよいし、上記改質硫黄固化体パネルの設置後に上記型枠を設置してその後セメントコンクリートを打設するようにしてもよい。
【0064】
これにより、上記複合体は、使用用途等に応じて所望の形状に形成され、上記第1〜3実施形態(各種変形例を含む)による改質硫黄固化体パネルのいずれかと、その改質硫黄固化体パネルの上記一方のパネル面(すなわち、シート状部材が設けられ又は凹部が形成されたパネル面側)に打設されたセメントコンクリートと、を備えることになる。図15は、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1の上記一方のパネル面1a側に、セメントコンクリート81が打設されて形成された複合体83の部分断面図を示している。
【0065】
上記複合体を水路設備用の複合体とする場合には、上記改質硫黄固化体パネルが水路面などの水に接触する面を形成するようにする。これにより、耐腐食性に優れた水路設備用の複合体とすることができる。さらに、上記改質硫黄固化体パネルの一方のパネル面側に打設するセメントコンクリートを、耐酸性を有するセメントコンクリート(以下「耐酸コンクリート」という)とすれば、繰り返し負荷がかかること等によって改質硫黄固化体パネルに亀裂等が生じた場合であっても、該亀裂等からの漏水(酸や塩分)による複合体の浸食劣化を抑制することができ、水路設備用の複合体の寿命を長期化することができる。ここで、耐酸コンクリートとは、硫酸などによる化学的侵食を抑制できるよう処理されたセメントコンクリートのことをいい、例えば、水セメント比を小さくしたり、混和材にフライアッシュなどを使って水密性を高めたり、シリカ分の多い骨材を使ったりしたものが該当する。
【符号の説明】
【0066】
1…改質硫黄固化体パネル、1a…パネル面、3…シート状部材、5…型枠、7…作業台、11…改質硫黄固化体パネル、11a…パネル面、13…凹部、21…改質硫黄固化体パネル、21a…パネル面、23…凹部、23a…凹部底面、25…シート状部材、31…地組織部、33…立毛部、41…補強用ネット、57…エア注入孔、61…押さえ型、63…型本体、65…凸部、65a…凸部の頂部、71…押さえ型、73…型本体、75…凸部、75a…凸部の頂部、75b…取付部、MS…改質硫黄資材、81…セメントコンクリート、83…複合体
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板状に形成された改質硫黄固化体パネル及びその製造方法に関し、特に、セメントコンクリートなどの他の材料との接合性(接着性)を向上させることのできる改質硫黄固化体パネル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、土木用、建築用の資材として、骨材などをセメントで結合させたコンクリート(以下「セメントコンクリート」という)が用いられている。その中で、埋設型枠や後貼りパネルとして使用される薄板状のパネルは、モルタルで製造されたものが多い。しかし、一般的にはモルタル製のパネルは、それほど強度及び耐久性が高くないことより、使用環境によっては強度及び耐久性が不足する場合がある。このため、モルタル製のパネルは、多くの場合、その強度及び耐久性を向上させるために鉄筋やその他の補強材を用いる必要があり、製品としての厚さや重量が大きくなるものであった。このような状況において、土木用、建築用の資材として、より強度及び耐久性の高いパネルが望まれている。
【0003】
これに対して、近年では、常温では固体でありおよそ119〜159℃に加熱されると溶融するという硫黄の性質に着目し、硫黄に所定の資材を配合して製造したものを土木用、建築用の資材の一つとして利用することが試みられている。例えば、特許文献1には、硫黄と硫黄改質剤とを溶融混合して溶融状態の改質硫黄(溶融改質硫黄)を製造し、製造された溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させることによって改質硫黄固化体を製造することが記載されている。ここで、溶融改質硫黄と骨材とを混合することによって溶融状態の改質硫黄資材が製造され、製造された改質硫黄資材を型枠に流し込み、該型枠内で冷却し固化させることによって、改質硫黄固化体からなる土木用、建築用の資材を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−82475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記改質硫黄固化体は、セメントコンクリートに比べて高強度で遮水性に優れ、かつ耐酸性の高い材料として知られている。しかし、その一方では、他の材料、特にセメントコンクリートなどの親水性材料との接合性が低い(接着力が小さい)という特性を有している。そのため、上記改質硫黄固化体からなる改質硫黄固化体パネルに、例えばセメントコンクリートなどの材料を流し込んで複合体を製造する場合に、両者の接合力が十分に得られず、複合体としての強度が不足するおそれがあるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであり、セメントコンクリートなどの他の材料との接合力を向上させることのできる改質硫黄固化体パネルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による改質硫黄固化体パネルは、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板状に形成された改質硫黄固化体パネルであって、一方のパネル面に、シート状部材がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設され又は複数の凹部が形成されている。
【0008】
ここで、一方のパネル面に複数の凹部が形成され、該複数の凹部の少なくとも1つの底面(凹部底面)に、シート状部材がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されるようにしてもよい。好ましくは、前記一方のパネル面に形成される複数の凹部は、(改質硫黄固化体パネルの)成形時に逆勾配となるアンダーカット凹部を含む。
【0009】
上記本発明による改質硫黄固化体パネルは、前記シート状部材が網目状に形成され、該シート状部材の厚さ方向のほぼ半分が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面に埋没している場合を含む。また、前記シート状部材が、地組織部と、該地組織部から立ち上がった複数の立毛部と、を有する繊維シートであり、少なくとも前記複数の立毛部の一部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面から露出している場合を含む。さらに、前記複数の立毛部が前記地組織部の両面側に形成され、前記地組織部の一方の面側に形成された複数の立毛部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面から露出する一方、前記地組織部の少なくとも一部及び前記地組織部の他方の面に形成された複数の立毛部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面に埋没している場合を含む。ここにおいて、前記複数の立毛部は、前記地組織部に起毛処理が施されて形成された起毛、前記地組織部に編み込まれ又は織り込まれて形成されたループパイル若しくはカットパイル、又は、これらを適宜組み合わせたものとすることができる。
【0010】
また、本発明による改質硫黄固化体パネルの製造方法は、上面が開口した箱型の型枠を加熱する加熱工程と、加熱された前記型枠内に、溶融改質硫黄に骨材が混ぜられた改質硫黄資材を打設する打設工程と、シート状部材を、その片面側の少なくとも一部が露出するように、前記型枠内に打設された改質硫黄資材に埋設する埋設工程と、前記型枠内の改質硫黄資材を冷却して固化させる冷却工程と、前記型枠内の改質硫黄資材が固化して形成されたパネル状の改質硫黄固化体を該型枠から取り出す脱型工程と、を含む。
【0011】
さらに、本発明による他の改質硫黄固化体パネルの製造方法は、上面が開口した箱型の型枠を加熱する加熱工程と、加熱された前記型枠に、溶融改質硫黄に骨材が混ぜられた改質硫黄資材を打設する打設工程と、複数の凸部が形成された押さえ型を前記改質硫黄資材の打設面に設置して前記複数の凸部を前記改質硫黄資材に埋没させる設置工程と、前記押さえ型を設置した後に、前記型枠内の改質硫黄資材を冷却して固化させる冷却工程と、前記押さえ型を取り外すとともに前記型枠内の改質硫黄資材が固化して形成されたパネル状の改質硫黄固化体を該型枠から取り出す脱型工程と、を含む。
【0012】
ここで、前記設置工程は、前記複数の凸部の少なくとも1つの頂部にシート状部材を取り付ける工程と、前記シート状部材が取り付けられた前記押さえ型を前記改質硫黄資材の打設面に設置する工程と、を含むようにしてもよい。この場合、前記押さえ型は、前記シート状部材の前記頂部側の面の少なくとも一部が前記改質硫黄資材から露出するように、前記シート状部材を保持する構成とする。
【0013】
上記本発明による改質硫黄固化体パネルの製造方法は、前記シート状部材が網目状に形成され、その厚さ方向のほぼ半分が前記改質硫黄資材に埋没する場合を含む。また、前記シート状部材が、地組織部と、該地組織部から立ち上がった立毛部と、を有する繊維シートであり、少なくとも前記複数の立毛部の一部が露出するように前記改質硫黄資材に埋設される場合を含む。
【0014】
また、前記押さえ型に形成された前記複数の凸部の少なくとも1つは、その頂部に向かって断面積が徐々に大きくなるように形成されていることが好ましい。この場合においては、例えば、前記押さえ型又は前記複数の凸部の少なくとも1つは、耐熱性の弾性材料で形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明による改質硫黄固化体パネルは、一方のパネル面にシート状部材がその片側面の少なくとも一部を露出させ状態で埋設され、又は、一方のパネル面に複数の凹部が形成されているので、上記シート状部材の露出部分又は上記複数の凹部によるアンカー効果によって、上記一方のパネル面側に打設されたセメントコンクリートなどの他の材料との接合力が向上する。従って、例えば、本発明による改質硫黄固化体パネルを用いて、上記一方のパネル面側にセメントコンクリートなどの他の材料を打設することで、両者が強固に接合された複合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの部分断面図である。
【図2】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルのパネル面に埋設されるシート状部材の部分拡大図である。
【図3】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造に用いる型枠の概略構成を示す図である。
【図4】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図5】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図6】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図7】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図8】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図9】本発明の第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの部分断面図である。
【図10】第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図11】第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造に用いる押さえ型に形成された凸部の拡大断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態による改質硫黄固化体パネルの部分断面図である。
【図13】第3実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明するための図である。
【図14】第3実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造に用いる押さえ型に形成された凸部の拡大断面図である。
【図15】第1実施形態による改質硫黄固化体パネルとセメントコンクリートとの複合体の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1の部分断面図である。本実施形態による改質硫黄固化体パネル1は、改質硫黄固化体によって薄板状に形成され、図1に示すように、その一方のパネル面1a(例えばパネル裏面)には、シート状部材3がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている。なお、改質硫黄固化体パネル1は一般的には平板状に形成されるが、これに限るものではなく、薄板状の種々の形状に形成され得るものである。
【0018】
パネル面1aに埋設されているシート状部材3は、例えば編物または織物として構成された繊維シートである。シート状部材3は、任意の大きさに形成することができるが、ここではパネル面1aとほぼ同じ大きさ(面積)又はパネル面1aよりも僅かに小さく形成されているものとする。
【0019】
図2は、シート状部材3の部分拡大図を示している。
図2に示すように、シート状部材3は、地組織部31と、地組織部31から立ち上がった複数の立毛部33と、を有する。地組織部31は、網目(格子)状に形成されており、これにより、シート状部材3も全体として網目(格子)状に形成されている。各立毛部33は、地組織部31に編み込まれ又は織り込まれて地組織部31の片面側にループ状に突出させたループパイルによって構成されている。
【0020】
ここで、シート状部材3の地組織部31は、例えばポリエステルマルチフィラメントを用いて形成することができ、各立毛部33は、例えばポリプロピレンモノフィラメントを用いて形成することができる。但し、これに限るものではなく、地組織部31としてポリアミド系合成繊維、ポリプロピレン、ビニロン、ガラス繊維などのマルチフィラメントを用いることができ、各立毛部33としてポリアミド系合成繊維、ポリエチレン、ビニロンなどのモノフィラメントを用いることができる。
【0021】
そして、シート状部材3は、図1に示すように、複数の立毛部33を露出させた状態でパネル面1a(すなわち、改質硫黄固化体)に埋設されている。さらに言えば、シート状部材3は、地組織部31がパネル面1aに埋没しており、複数の立毛部33がパネル面1aから露出(突出)している。ここにおいて、複数の立毛部33の全てがパネル面1aから露出(突出)している必要はなく、少なくとも複数の立毛部33の一部、好ましくは、複数の立毛部33のほとんどがパネル面1aから露出(突出)していればよい。また、同様に、地組織部31の全てがパネル面1aに埋没している必要はなく、地組織部31の少なくとも一部(例えば、地組織部31の片面側のみ)がパネル面1aに埋没していればよい。
【0022】
ここで、改質硫黄固化体について説明する。改質硫黄固化体は、溶融状態にある改質硫黄(溶融改質硫黄)に骨材を混ぜて固化させたものであり、具体的には、以下のようにして製造することができる。
【0023】
まず、硫黄と硫黄改質剤とを溶融混合して溶融改質硫黄を製造する。硫黄は、例えば天然産又は石油や天然ガスの脱硫によって生成されたものであり、硫黄改質剤は、溶融硫黄を重合することによって改質する。硫黄改質材としては、例えば炭素数4〜20のオレフィン系炭化水素又はジオレフィン系炭化水素、具体的には、リモネン、ピネン等の環状オレフィン系炭化水素、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン等の芳香族炭化水素、ジシクロペンタジエン及びそのオリゴマー、シクロペンタジエン、テトラヒドロインデン、ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、シクロオクタジエン等のジエン系炭化水素等の1種又は2種以上の混合物が挙げられる。なお、硫黄改質剤の使用割合は、硫黄と硫黄改質剤との合計量に対して、通常0.1〜30質量%、好ましくは、1.0〜20質量%である。
【0024】
製造された溶融改質硫黄は、溶融状態を保つことのできる温度に保持された状態で骨材と混合される。骨材は、溶融改質硫黄との混合に適した温度(例えば、130〜140℃程度)に加温しておくのが好ましい。骨材としては、一般にコンクリートで用いられる骨材、例えば、例えば、天然石、砂、れき、硅砂、鉄鋼スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ、金属の製造時に生成される副生物、石炭灰、燃料焼却灰、電気集塵灰、溶融スラグ類、貝殻及びこれらの混合物等からなる群より選択される1種又は2種以上が挙げられる。また、シリカヒューム、アルミナ、石英粉、石英質岩石、粘土鉱物、活性炭、ガラス粉末や他の無機系、有機系等の微粉末も使用可能である。
【0025】
そして、溶融改質硫黄と骨材とを、公知の溶融混合装置などを用いて混合することによって改質硫黄資材を製造することができ、この改質硫黄資材を所定の型枠に流し込み、冷却、固化させることで所望の形状の改質硫黄固化体を製造することができる。本実施形態においては、パネル成型用の型枠を用いて改質硫黄固化体パネルを製造する。
【0026】
次に、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法を説明する。ここでは平板状の改質硫黄固化体パネルの製造方法について説明する。
図3は、本実施形態において用いる型枠5の概略構成を示している。型枠5は、例えば鉄等の金属製であり、図3に示すように、上面が開口するとともに浅い箱状に形成されている。具体的には、型枠5は、矩形状の底板51と、底板51の周囲を所定の高さで囲む枠部53と、底板51の裏面に設けられた一対の脚部55と、枠部53に形成された一対のエア注入孔57と、を備える。ここで、エア注入孔57は、加圧エアを型枠5内の底板51の表面に注入するために設けられ、主として後述する脱離工程において使用される。
【0027】
図4〜図8は、改質硫黄固化体パネルの製造方法を示している。
まず、型枠5は、図示省略した加熱器によって上記改質硫黄資材が溶融状態を保持できる程度の温度(例えば、120〜130℃)まで加熱される(加熱工程)。そして、図4に示すように、加熱された型枠5が作業台7上に設置される。なお、図には示されていないが、底板51の裏面には、型枠5が作業台7上に設置された際に、作業台7の上面に設けられた凸部等に係合する係合部が形成されている。これにより、作業台7上における型枠5の位置ズレが防止される。
【0028】
次に、図5に示すように、作業台7に設置された型枠5内に、溶融状態にある改質硫黄資材(MS)を打設する(第1打設工程)。ここでは、容器9内に収容された改質硫黄資材(MS)を型枠5内の全面に拡げるように流し込み、型枠5の深さのほぼ半分の厚さを有する一層目の改質硫黄資材(MS1)を打設する。型枠5は、上記加熱工程にてあらかじめ加熱されているため、打設された改質硫黄資材が急激に冷却されて内部の空洞が生じたり、表面にムラや気泡が発生したりすることが抑制される。
【0029】
ここで、型枠5の内側面には、あらかじめ離型剤を塗布しておくのが好ましい。後述する脱型工程にて、型枠5内でパネル状に形成された改質硫黄固化体を型枠5から容易に取り出せるようにするためである。また、作業台7を例えばテーブル振動機とし、改質硫黄資材の打設時に型枠5を振動させて締め固め処理を施すようにしてもよい。このようにすると、打設された改質硫黄資材の内部に空洞ができてしまったり、打設された改質硫黄資材と型枠5との間に隙間ができてしまったりすることを防止できる。
【0030】
次に、図6に示すように、一層目の改質硫黄資材(MS1)の上に補強用ネット41を設置する(補強用ネット設置工程)。この補強用ネット41は、薄板状に形成される改質硫黄固化体パネルの強度を補うものであり、必要に応じて設けられる。補強用ネット41は、例えば炭素繊維等からなる格子状の強化繊維ネットを用いることができる。
【0031】
次に、図7に示すように、設置された補強用ネット41の上にさらに溶融状態にある改質硫黄資材(MS)を流し込み、二層目の改質硫黄資材(MS2)を打設する(第2打設工程)。ここで流し込まれる改質硫黄資材(MS)によって型枠5が満たされる。この二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設時においても一層目の改質硫黄資材(MS1)と同様に型枠5を振動させて締め固め処理を施すようにしてもよい。
【0032】
ここで、例えば型枠5が補強用ネット41を所定位置(例えば、深さ方向のほぼ半分の位置)に保持できる構造を有している場合や補強用ネット41が不要な場合などにおいては、溶融状態にある改質硫黄資材の打設を二回に分けることなく、一回の打設で型枠5内に改質硫黄資材を充填するようにしてもよい。
【0033】
次に、図8に示すように、上述のシート状部材3を、その片面側の少なくとも一部が露出するように、具体的には、立毛部33が露出するように二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋設する(埋設工程)。例えば、二層目の改質硫黄資材(MS2)上に複数の立毛部33を上にしたシート状部材3を設置し、その後、シート状部材3の全体を上方から軽く押さえつける。これにより、シート状部材3の地組織部31を二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没させるとともに、複数の立毛部33を二層目の改質硫黄資材(MS2)から露出(又は突出)させることができる。ここで、地組織部31は、全体を二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没させるのではなく、その厚さ方向の半分程度(すなわち、下側面)を二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没させるのが好ましい。
【0034】
シート状部材3を埋設した後、図示省略するが、型枠5を作業台7から外し、そのまま空気中で自然冷却して型枠5内の改質硫黄資材を固化させる(冷却工程)。具体的には、30〜60分程度の時間をかけて改質硫黄資材を30〜50℃程度まで冷却する。なお、所定状態に加温された雰囲気中で型枠5内の改質硫黄資材を冷却して固化させるようにしてもよい。
【0035】
そして、型枠5内の改質硫黄資材が固化したら、型枠5を反転させるとともにエア注入孔57から型枠5内に加圧エアを注入しつつ、型枠5から該型枠5内でパネル状に形成された改質硫黄固化体を取り出し(脱型工程)、取り出した改質硫黄固化体のバリ取りなどを行い、所定時間(例えば12〜24時間)の養生を経て(後処理工程)、図1に示すような断面構造を有する改質硫黄個体パネル1が完成する。
【0036】
以上により、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板上に形成され、一方のパネル面1aに、シート状部材3がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている改質硫黄固化体パネル1が製造される。そして、シート状部材3は、地組織部31と、地組織部31から立ち上がった複数の立毛部33と、を有し、少なくとも複数の立毛部33の一部を露出している一方、地組織部31の少なくとも一部がパネル面1aに埋没している。
【0037】
本実施形態による改質硫黄固化体パネル1は、一方のパネル面1aに、シート状部材3が複数の立毛部33を露出させた状態で埋設されている。パネル面1aから露出(突出)した複数の立毛部33は、例えばパネル面1a側に打設されるセメントコンクリートなどの他の材料に対して強い接合力を発揮する(アンカー効果)。このため、本実施形態による改質硫黄固化体パネル1によれば、従来に比べて、セメントコンクリートなどの他の材料との接合力が向上する。また、本実施形態による改質硫黄固化体パネル1を用い、そのパネル面1a側にセメントコンクリートなどの他の材料を打設することで、両者が強固に接合された複合体を製造することができる。
【0038】
ところで、上記実施形態では、改質硫黄固化体パネル1の一方のパネル面1aに埋設されているシート状部材として、地組織部31と、地組織部32から立ち上がった複数の立毛部33と、を有する網目状の繊維シートを用いている。しかし、これに限られるものではなく、種々のシート状部材を用いることができる。例えば、シート状部材として起毛織布や金網等を用いることもできる。起毛織布を用いた場合には、地組織部(基布)に起毛処理が施されて形成された起毛の少なくとも一部がパネル面から露出していればよく、好ましくは、起毛を露出させつつ地組織部(基布)をその厚さ方向の半分程度までパネル面に埋没させる。また、金網を用いた場合には、該金網をその厚さ方向の半分程度までパネル面に埋没させるのが好ましい。
【0039】
ここで、改質硫黄固化体パネルの一方のパネル面に埋設されるシート状部材は、一枚である必要はなく、パネル面に対して小さく形成された複数のシート状部材がパネル面に埋設されてもよい。この場合、各シート状部材は、パネル面にほぼ均等に配置されるのが好ましい。
【0040】
また、上記実施形態におけるシート状部材は、複数の立毛部(ループパイル)が地組織部の片面側に設けられているが、複数の立毛部(ループパイル)を地組織部の両面側に設けるようにしてもよい。この場合、シート状部材は、地組織部の一方の面側に形成された複数の立毛部(ループパイル)及び地組織部の少なくとも一部がパネル面に埋没し、少なくとも地組織部の他方の面側に形成された複数の立毛部(ループパイル)がパネル面から露出しているのが好ましい。このようにすると、シート状部材と改質硫黄固化体との接合力も高まるため、改質硫黄固化体パネルとセメントコンクリート等の他の材料とがさらに強固に接合された複合体を製造することが可能となる。
【0041】
さらに、上記実施形態におけるシート状部材では、複数の立毛部をループパイルとしているが、ループパイルに代えてカットパイルとしてもよいし、ループパイルとカットパイルとの組み合わせとしてもよい(複数の立毛部を地組織部の両面側に形成した場合についても同様である)。また、地組織部(基布)に起毛処理を施して起毛を形成し、該起毛を複数の立毛部としてもよい。さらには、ループパイル、カットパイル及び起毛を適宜組み合わせたものを複数の立毛部としてもよい。但し、接合力の観点からは、ループパイルとするのが最も好ましい。
【0042】
このように本実施形態による改質硫黄固化体パネルは種々の変形が可能であり、これらの変形例も全て本発明の範囲に含まれるものである。すなわち、改質硫黄固化体パネルの一方パネル面に、改質硫黄固化体及びセメントコンクリートとの接着性が比較的高いシート状部材が埋設され、該シート状部材の一部が該パネル面から露出(突出)していればよく、このような構成を有する改質硫黄固化体パネルは全て本発明の範囲に含まれるものである。
【0043】
次に、本発明の第2実施形態による改質硫黄固化体パネルを説明する。なお、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1と共通する点についてはその説明を省略する。
図9は、本発明の第2実施形態による改質硫黄固化体パネル11の部分断面図である。本実施形態による改質硫黄固化体パネル11は、改質硫黄固化体によって薄板状に形成されており、図9に示すように、その一方のパネル面11a(例えばパネル裏面)には、複数の凹部13が形成されている。ここで、凹部13の形状、深さ、個数などは任意に設定することができる。また、各凹部13はパネル面11aにほぼ均等に配置されているのが好ましい。
【0044】
各凹部13は、深さ方向に向かって凹部の内側空間が徐々に拡がるように形成されている。換言すれば、各凹部13は、入口面積よりも底面積の方が大きく成形時に逆勾配となる、いわゆるアンダーカット凹部として形成されている。このように各凹部13をアンダーカット凹部として形成するのは、例えばパネル面11a側にセメントコンクリートなどの他の材料を打設して複合体を製造する場合に、接触面積を増加させるとともに凹部13内で固化したセメントコンクリートなどの他の材料が該凹部13から外れ難くすることで両者の接合性を高めるためである(アンカー効果を効果的に発揮するためである)。
【0045】
かかる第2実施形態による改質硫黄固化体パネル11の製造方法を説明する。
加熱工程、第1打設工程、補強用ネット設置工程及び第2打設工程については、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1の製造方法と同じであるので説明は省略する(図4〜7参照)。但し、本製造方法においては、埋設工程(図8)に代えて、押さえ型を設置する設置工程を設ける。すなわち、二層目の改質硫黄資材(MS2)を打設する第2打設工程(図7)の後、図10に示すように、押さえ型61を二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設面に設置する設置工程を設ける。
【0046】
図10に示すように、押さえ型61は、平板状の型本体63と、型本体63の一方の面に形成された複数の凸部65と、を有し、複数の凸部65を二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設面に向けて設置される。したがって、押さえ型61が設置されると、複数の凸部65は二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没し、該二層目の改質硫黄資材(MS2)が固化した際にその表面に凹部13が形成される。このため、本製造方法では、押さえ型61が設置される(すなわち、複数の凸部65が埋没すること)を考慮し、第2打設工程においては型枠5を完全に満たさない程度の改質硫黄資材(MS)が流し込まれるものとする。
【0047】
図11は、押さえ型61に形成された複数の凸部65の形状(拡大断面図)を示している。図11に示すように、各凸部65は、型本体63から離れるにしたがって、すなわち、その頂部65aに向かって断面積が徐々に大きくなるように形成されている。なお、押さえ型61は、型本体63と複数の凸部65とが一体に形成されたものであってもよいし、型本体63に複数の凸部65を取り付けて形成されたものであってもよい。一体に形成されている場合には押さえ型61の全体が耐熱性の弾性材料で形成され、型本体63に複数の凸部65が取り付けられて形成されている場合には少なくとも複数の凸部65が耐熱性の弾性材料で形成される。このように耐熱性の弾性材料を用いるのは、凸部65は溶融状態にある改質硫黄資材(MS)に埋没するために耐熱性を必要とし、また、凸部65によって形成される凹部はアンダーカット凹部となることから、固化した改質硫黄資材(改質硫黄固化体)から押さえ型61を取り外せるようにするためである。耐熱性の弾性材料としては、例えばポリウレタン、シリコン等が該当する。
【0048】
押さえ型61を設置した後、型枠5を作業台7から外してそのまま空気中で自然冷却して型枠5内の改質硫黄資材を固化させる(冷却工程)。そして、型枠5内の改質硫黄資材が固化したら、押さえ型61を取り外し、型枠5を反転させてエア注入孔57から型枠5内に加圧エアを注入しながら該型枠5内でパネル状に形成された改質硫黄固化体を型枠5から取り出す(脱型工程)。その後、取り出した改質硫黄固化体のバリ取りなどを行い、所定時間の養生を経て(後処理工程)、図9に示すような断面構造を有する改質硫黄個体パネル11が完成する。
【0049】
以上により、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板上に形成され、一方のパネル面11aに複数の凹部13が形成された改質硫黄固化体パネル11が製造される。ここで、複数の凹部13は、押さえ型61に形成された凸部65に対応した形状、すなわち、成形時に逆勾配となるアンダーカット凹部として形成される。
【0050】
本実施形態による改質硫黄固化体パネル11は、一方のパネル面11aに複数の凹部13が形成されており、この複数の凹部13によって、該パネル面11a側に打設されるセメントコンクリートなどの他の材料との接触面積が増加する。また、パネル面11aに形成された凹部13はアンダーカット凹部となっており、凹部13内で固化したセメントコンクリートなどの他の材料が該凹部13から外れ難くなる。このため、本実施形態による改質硫黄固化体パネル11によれば、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1と同様に、他の材料との接合力を向上することができるとともに、本実施形態による改質硫黄固化体パネル11を用い、そのパネル面11a側にセメントコンクリートなどの他の材料を打設することで、両者が強固に接合された複合体を製造することができる。
【0051】
ここで、上記実施形態では、パネル面11aに形成される全ての凹部13がアンダーカット凹部となっている。しかし、これに限られるものではなく、複数の凹部13を抜き勾配が考慮された凹部(すなわち、入口面積と底面積とがほぼ同じ大きさの凹部や入口面積よりも底面積の方が小さい凹部)としてもよいし、複数の凹部13のうち一部をアンダーカット凹部とするとともに残りを抜き勾配が考慮された凹部としてもよい。このようにすると、セメントコンクリートなどの他の材料との接合力と高めつつ、押さえ型61の取り外しを容易にして改質硫黄固化体パネルの製造性の低下を抑制できる。なお、パネル面11aに形成される複数の凹部13は、種々の形状とすることができるものである。すなわち、一方のパネル面に複数の凹部が形成されている改質硫黄固化体パネルであれば、凹部の形状にかかわらず、本発明の範囲に含まれるものである。
【0052】
次に、本発明の第3実施形態による改質硫黄固化体パネルを説明する。なお、第1,第2実施形態による改質硫黄固化体パネル1,11と共通する点について説明を省略する。
図12は、本発明の第3実施形態による改質硫黄固化体パネル21の部分断面図(拡大図)である。本実施形態よる改質硫黄固化体パネル21は、改質硫黄固化体によって薄板状に形成されており、図12に示すように、その一方のパネル面21a(例えばパネル裏面)には複数の凹部23が形成され、各凹部の底面23aに、シート状部材25がその片側面の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている。凹部23の形状、深さ)、個数などは任意に設定することができる。また、各凹部23はパネル面21aにほぼ均等に配置されているのが好ましい。
【0053】
各凹部23は、第2実施形態による改質硫黄固化体パネルにおける凹部13と同様、入口面積よりも底面積の方が大きいアンダーカット凹部として形成されている。また、本実施形態におけるシート状部材25は、網目状に形成された繊維シート又は金網であり、凹部23の入口面積の大きさに対応して形成される。そして、シート状部材25は、その厚さ方向のほぼ半分(すなわち、片面側)が凹部23の底面23aに埋没している。
【0054】
かかる第3実施形態による改質硫黄固化体パネル21の製造方法は、基本的には、上記第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法と同じである。但し、設置工程(図10)が以下のように変更される。
【0055】
図13は、第3実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法における設置工程を説明する図である。ここでは、まず、押さえ型71にシート状部材25を取り付け、シート状部材25が取り付けられた押さえ型71を二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設面に設置する。
【0056】
押さえ型71は、図13に示すように、上記第2実施形態による改質硫黄固化体パネルの製造方法に用いる押さえ型61と同様、平板状の型本体73と、型本体73の一方の面に形成された複数の凸部75と、を有し、少なくとも複数の凸部が耐熱性の弾性材料で形成されている。
【0057】
図14は、押さえ型71に形成された複数の凸部75の形状(拡大図)を示している。
図14に示すように、各凸部75は、型本体73から離れるにしたがって、すなわち、その頂部75aに向かって断面積が徐々に大きくなるように形成されている。各凸部75の頂部75aには、シート状部材25を取り付ける取付部75bが形成されている。取付部75bは、例えばシート状部材25の網目に対応するように形成された複数の溝によって構成されている。各溝の幅は、例えばシート状部材25の網目を構成する各線状部分の幅よりも僅かに小さく設定され、各溝の深さは、例えば上記各線状部分の高さ(すなわち、シート状部材25の厚さ)のほぼ半分に設定されている。そして、シート状部材25を各凸部75の頂部75aに形成された取付部75bに取り付けることにより、シート状部材25は、その片側面を頂部75aから突出させた状態で押さえ型71に保持される。
【0058】
シート状部材25が取り付けられた押さえ型71は、複数の凸部75を二層目の改質硫黄資材(MS2)の打設面に向けて設置される。これにより、複数の凸部75は、二層目の改質硫黄資材(MS2)に埋没し、該二層目の改質硫黄資材(MS2)が固化した際にその表面に凹部23が形成される。また、押さえ型71は、シート状部材25の頂部側の面が上記凹部23の底面23aから露出するように、シート状部材25を保持する。その後、冷却工程、脱型工程及び後処理工程を経て、図12に示すような断面構造を有する改質硫黄個体パネル21が完成する。
【0059】
以上により、溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板上に形成され、一方のパネル面21aに複数の凹部23が形成されるとともに該複数の凹部23の底面23aに、シート状部材25がその片側面の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている改質硫黄固化体パネル21が製造される。ここで、複数の凹部23は、押さえ型71の凸部75に対応した形状、すなわち、逆勾配となるアンダーカット凹部として形成される
【0060】
本実施形態による改質硫黄固化体パネル21によれば、上記第2実施形態による改質硫黄固体パネル11と同様の効果を得ることができるとともに、凹部23の底面23aに埋設されたシート状部材25の露出部分によって、パネル面21a側に打設されるセメントコンクリートなどの他の材料との接合力をさらに高めることができる。
なお、上記第1,2実施形態による改質硫黄固化体パネルの各種変形例は、可能な限り本実施形態による改質硫黄固化体パネル21についても適用することができる。
【0061】
そして、上記第1〜3実施形態(各種変形例を含む)による改質硫黄固化体パネルは、コンクリートに比べて、耐酸性、機械的強度、遮水性等に優れており、土木用、建設用の資材として広く利用することができる。具体的には、水路設備用のコンクリート構造物(管渠、ボックスカルバート等)の耐腐食性資材として利用され得る。この場合には、例えば、上記第1〜3実施形態による改質硫黄固化体パネル(各種変形例を含む)を埋設型枠として用いたり、後張りパネルとして用いたりして、コンクリートの表面に設置することができる。
【0062】
さらに、上記第1〜3実施形態(各種変形例を含む)による改質硫黄固化体パネルとセメントコンクリートとの「複合体」を製造することも可能である。ここで、かかる複合体には、工場等において製造され現場では設置又は組立が行なわれる「二次製品」はもちろん、現場においてセメントコンクリートを打設し硬化させて製造される「現場打ち構造物」も含まれる。
【0063】
上記複合体は、少なくとも、上記第1〜3実施形態(各種変形例を含む)による改質硫黄固化体パネルのいずれかを設置する工程と、設置された改質硫黄固化体パネルの上記一方のパネル面側(すなわち、シート状部材が設けられ又は凹部が形成されたパネル面側)にセメントコンクリートを打設する工程と、打設されたセメントコンクリートを硬化させる工程と、を経ることによって製造することができる。
ここで、複合体を所望の形状に形成するための型枠をあらかじめ設置して該型枠内に上記改質硫黄固化体パネルを設置するようにしてもよいし、上記改質硫黄固化体パネルの設置後に上記型枠を設置してその後セメントコンクリートを打設するようにしてもよい。
【0064】
これにより、上記複合体は、使用用途等に応じて所望の形状に形成され、上記第1〜3実施形態(各種変形例を含む)による改質硫黄固化体パネルのいずれかと、その改質硫黄固化体パネルの上記一方のパネル面(すなわち、シート状部材が設けられ又は凹部が形成されたパネル面側)に打設されたセメントコンクリートと、を備えることになる。図15は、上記第1実施形態による改質硫黄固化体パネル1の上記一方のパネル面1a側に、セメントコンクリート81が打設されて形成された複合体83の部分断面図を示している。
【0065】
上記複合体を水路設備用の複合体とする場合には、上記改質硫黄固化体パネルが水路面などの水に接触する面を形成するようにする。これにより、耐腐食性に優れた水路設備用の複合体とすることができる。さらに、上記改質硫黄固化体パネルの一方のパネル面側に打設するセメントコンクリートを、耐酸性を有するセメントコンクリート(以下「耐酸コンクリート」という)とすれば、繰り返し負荷がかかること等によって改質硫黄固化体パネルに亀裂等が生じた場合であっても、該亀裂等からの漏水(酸や塩分)による複合体の浸食劣化を抑制することができ、水路設備用の複合体の寿命を長期化することができる。ここで、耐酸コンクリートとは、硫酸などによる化学的侵食を抑制できるよう処理されたセメントコンクリートのことをいい、例えば、水セメント比を小さくしたり、混和材にフライアッシュなどを使って水密性を高めたり、シリカ分の多い骨材を使ったりしたものが該当する。
【符号の説明】
【0066】
1…改質硫黄固化体パネル、1a…パネル面、3…シート状部材、5…型枠、7…作業台、11…改質硫黄固化体パネル、11a…パネル面、13…凹部、21…改質硫黄固化体パネル、21a…パネル面、23…凹部、23a…凹部底面、25…シート状部材、31…地組織部、33…立毛部、41…補強用ネット、57…エア注入孔、61…押さえ型、63…型本体、65…凸部、65a…凸部の頂部、71…押さえ型、73…型本体、75…凸部、75a…凸部の頂部、75b…取付部、MS…改質硫黄資材、81…セメントコンクリート、83…複合体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板状に形成された改質硫黄固化体パネルであって、
一方のパネル面に、シート状部材がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設され又は複数の凹部が形成されている、改質硫黄固化体パネル。
【請求項2】
前記一方のパネル面に、複数の凹部が形成され、
該複数の凹部の少なくとも1つの底面に、シート状部材がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている、請求項1に記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項3】
前記複数の凹部は、成形時に逆勾配となるアンダーカット凹部を含む、請求項1又は2に記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項4】
前記シート状部材は、網目状に形成され、その厚さ方向のほぼ半分が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面に埋没している、請求項1〜3のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項5】
前記シート状部材は、地組織部と、該地組織部から立ち上がった複数の立毛部と、を有する繊維シートであり、少なくとも前記複数の立毛部の一部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面から露出している、請求項1〜4のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項6】
前記複数の立毛部は、前記地組織部の両面側に形成され、
前記地組織部の一方の面側に形成された複数の立毛部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面から露出する一方、前記地組織部の少なくとも一部及び前記地組織部の他方の面側に形成された複数の立毛部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面に埋没している、請求項5に記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項7】
前記複数の立毛部は、前記地組織部に起毛処理が施されて形成された起毛、前記地組織部に編み込まれ又は織り込まれて形成されたループパイル若しくはカットパイル、又は、これらの少なくとも2つが組み合わせたものである、請求項5又は6に記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項8】
上面が開口した箱状の型枠を加熱する加熱工程と、
加熱された前記型枠内に、溶融改質硫黄に骨材が混ぜられた改質硫黄資材を打設する打設工程と、
シート状部材を、その片面側の少なくとも一部が露出するように、前記型枠内に打設された改質硫黄資材に埋設する埋設工程と、
前記型枠内の改質硫黄資材を冷却して固化させる冷却工程と、
前記型枠内の改質硫黄資材が固化して形成されたパネル状の改質硫黄固化体を該型枠から取り出す脱型工程と、
を含む、改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項9】
上面が開口した箱形の型枠を加熱する加熱工程と、
加熱された前記型枠内に、溶融改質硫黄に骨材が混ぜられた改質硫黄資材を打設する打設工程と、
複数の凸部が形成された押さえ型を前記改質硫黄資材の打設面に設置して前記複数の凸部を前記改質硫黄資材に埋没させる設置工程と、
前記押さえ型を設置した後に、前記型枠内の改質硫黄資材を冷却して固化させる冷却工程と、
前記押さえ型を取り外すとともに前記型枠内の改質硫黄資材が固化して形成されたパネル状の改質硫黄固化体を該型枠から取り出す脱型工程と、
を含む、改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項10】
前記設置工程は、
前記複数の凸部の少なくとも1つの頂部にシート状部材を取り付ける工程と、
前記シート状部材が取り付けられた前記押さえ型を前記改質硫黄資材の打設面に設置する工程と、を含み、
前記押さえ型は、前記シート状部材の頂部側の面の少なくとも一部が前記改質硫黄資材から露出するように、該シート状部材を保持する、請求項9に記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項11】
前記シート状部材は、網目状に形成され、その厚さ方向のほぼ半分が前記改質硫黄資材に埋没する、請求項8又は10に記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項12】
前記シート状部材は、地組織部と、該地組織部から立ち上がった複数の立毛部と、を有する繊維シートであって、少なくとも前記複数の立毛部の一部が露出するように前記改質硫黄資材に埋設される、請求項8,10及び11のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項13】
前記複数の凸部の少なくとも1つは、その頂部に向かって断面積が徐々に大きくなるように形成されている、請求項9〜12のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項14】
前記押さえ型又は前記複数の凸部の少なくとも1つは、耐熱性の弾性材料で形成されている、請求項13に記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネルと、
前記改質硫黄固化体パネルの前記一方のパネル面側に打設されたセメントコンクリートと、
を備える、複合体。
【請求項16】
前記セメントコンクリートは、耐酸コンクリートである、請求項15に記載の複合体。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネルを設置する工程と、
設置された改質硫黄固化体パネルの前記一方のパネル面側にセメントコンクリートを打設する工程と、
打設されたセメントコンクリートを硬化させる工程と、
を含む、複合体の製造方法。
【請求項18】
前記セメントコンクリートは、耐酸コンクリートである、請求項17に記載の複合体の製造方法。
【請求項1】
溶融改質硫黄に骨材を混ぜて固化させた改質硫黄固化体によって薄板状に形成された改質硫黄固化体パネルであって、
一方のパネル面に、シート状部材がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設され又は複数の凹部が形成されている、改質硫黄固化体パネル。
【請求項2】
前記一方のパネル面に、複数の凹部が形成され、
該複数の凹部の少なくとも1つの底面に、シート状部材がその片面側の少なくとも一部を露出させた状態で埋設されている、請求項1に記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項3】
前記複数の凹部は、成形時に逆勾配となるアンダーカット凹部を含む、請求項1又は2に記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項4】
前記シート状部材は、網目状に形成され、その厚さ方向のほぼ半分が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面に埋没している、請求項1〜3のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項5】
前記シート状部材は、地組織部と、該地組織部から立ち上がった複数の立毛部と、を有する繊維シートであり、少なくとも前記複数の立毛部の一部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面から露出している、請求項1〜4のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項6】
前記複数の立毛部は、前記地組織部の両面側に形成され、
前記地組織部の一方の面側に形成された複数の立毛部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面から露出する一方、前記地組織部の少なくとも一部及び前記地組織部の他方の面側に形成された複数の立毛部が前記一方のパネル面又は前記凹部の底面に埋没している、請求項5に記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項7】
前記複数の立毛部は、前記地組織部に起毛処理が施されて形成された起毛、前記地組織部に編み込まれ又は織り込まれて形成されたループパイル若しくはカットパイル、又は、これらの少なくとも2つが組み合わせたものである、請求項5又は6に記載の改質硫黄固化体パネル。
【請求項8】
上面が開口した箱状の型枠を加熱する加熱工程と、
加熱された前記型枠内に、溶融改質硫黄に骨材が混ぜられた改質硫黄資材を打設する打設工程と、
シート状部材を、その片面側の少なくとも一部が露出するように、前記型枠内に打設された改質硫黄資材に埋設する埋設工程と、
前記型枠内の改質硫黄資材を冷却して固化させる冷却工程と、
前記型枠内の改質硫黄資材が固化して形成されたパネル状の改質硫黄固化体を該型枠から取り出す脱型工程と、
を含む、改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項9】
上面が開口した箱形の型枠を加熱する加熱工程と、
加熱された前記型枠内に、溶融改質硫黄に骨材が混ぜられた改質硫黄資材を打設する打設工程と、
複数の凸部が形成された押さえ型を前記改質硫黄資材の打設面に設置して前記複数の凸部を前記改質硫黄資材に埋没させる設置工程と、
前記押さえ型を設置した後に、前記型枠内の改質硫黄資材を冷却して固化させる冷却工程と、
前記押さえ型を取り外すとともに前記型枠内の改質硫黄資材が固化して形成されたパネル状の改質硫黄固化体を該型枠から取り出す脱型工程と、
を含む、改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項10】
前記設置工程は、
前記複数の凸部の少なくとも1つの頂部にシート状部材を取り付ける工程と、
前記シート状部材が取り付けられた前記押さえ型を前記改質硫黄資材の打設面に設置する工程と、を含み、
前記押さえ型は、前記シート状部材の頂部側の面の少なくとも一部が前記改質硫黄資材から露出するように、該シート状部材を保持する、請求項9に記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項11】
前記シート状部材は、網目状に形成され、その厚さ方向のほぼ半分が前記改質硫黄資材に埋没する、請求項8又は10に記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項12】
前記シート状部材は、地組織部と、該地組織部から立ち上がった複数の立毛部と、を有する繊維シートであって、少なくとも前記複数の立毛部の一部が露出するように前記改質硫黄資材に埋設される、請求項8,10及び11のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項13】
前記複数の凸部の少なくとも1つは、その頂部に向かって断面積が徐々に大きくなるように形成されている、請求項9〜12のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項14】
前記押さえ型又は前記複数の凸部の少なくとも1つは、耐熱性の弾性材料で形成されている、請求項13に記載の改質硫黄固化体パネルの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネルと、
前記改質硫黄固化体パネルの前記一方のパネル面側に打設されたセメントコンクリートと、
を備える、複合体。
【請求項16】
前記セメントコンクリートは、耐酸コンクリートである、請求項15に記載の複合体。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の改質硫黄固化体パネルを設置する工程と、
設置された改質硫黄固化体パネルの前記一方のパネル面側にセメントコンクリートを打設する工程と、
打設されたセメントコンクリートを硬化させる工程と、
を含む、複合体の製造方法。
【請求項18】
前記セメントコンクリートは、耐酸コンクリートである、請求項17に記載の複合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−46572(P2011−46572A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197454(P2009−197454)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(390015336)株式会社上田商会 (8)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(390015336)株式会社上田商会 (8)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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