説明

放射ノイズ源の特定方法

【課題】送配電系統の接触不良箇所乃至故障箇所等に対応する真の放射ノイズ源を特定する放射ノイズ源の特定方法を提供する。
【解決手段】送配電系統の電磁的に不連続なポイントP2から放射されるパルス性電磁ノイズのレベルであるレベルL2と、ポイントP2に隣接する電磁的に不連続なポイントP3から放射されるパルス性電磁ノイズのレベルであるレベルL3とを測定する一方、ポイントP2とポイントP3との間の径間長Sに送配電線における電流減衰係数を乗じて得るレベル差の基準値と、レベル2及びレベル3のレベル差とを比較し、その差が所定値以上である場合には、レベルL2,L3のうち大きい方に対応するポイントP2又はポイントP3を真のノイズ源と判定する一方、前記差が所定値Thαs未満である場合には、ポイントP2,P3は何れも偽のノイズ源と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射ノイズ源の特定方法に関し、特に送配電系統から放射される電磁ノイズの発生源を特定する際に用いて有用なものである。
【背景技術】
【0002】
送配電系統においてその故障箇所や金具の接触不良箇所等からパルス性電磁ノイズが放射されることがある。かかるパルス性電磁ノイズは、高度情報化社会を支える無線通信や放送に悪影響を与える虞がある。そこで、パルス性ノイズの発生源を、UHF放送波帯における電波到来方向推定技術により探査し(例えば非特許文献1参照)、放射ノイズ源を速やかに除去する試みがなされている。しかし、かかる探査だけでは、電磁的に不連続な部分からの再放射によるノイズ源との区別が付かない場合がある。ここで、電磁的に不連続な部分とは、例えば送電系統において送電線を鉄塔に対して支持する部分等、電磁的な特性が変化する部分である(以下同じ)。すなわち、送電線の支持金具等が存在する部分では送電線を伝搬してきたノイズ電流に起因するパルス性電磁ノイズが再放射される。これもパルス性ノイズの発生源ではあるが、故障や金具の接触不良等に起因してパルス性電磁ノイズを放射している真のノイズ源に対する偽のノイズ源となる。したがって、故障や金具の接触不良箇所等を特定する場合には、真のノイズ源と、偽のノイズ源とを区別することが肝要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】電中研報告、No.H08003,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術に鑑み、送配電系統の接触不良箇所乃至故障箇所等から放射されるパルス性電磁ノイズと電磁的に不連続な部分から再放射されるパルス性電磁ノイズとを区別することにより真の放射ノイズ源を特定する放射ノイズ源の特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明は、次の知見を基礎とするものである。すなわち、図1に示すように、送電系統の鉄塔01における真のノイズ源であるポイントP01から電流が伝搬したことにより、鉄塔02,03に属する電磁的に不連続なポイントP02,P03では前記電流に起因するパルス性電磁ノイズの再放射が生起される。すなわち、ポイントP02,P03は偽のノイズ源となる。
【0006】
ここで、ポイントP02,P03からの再放射に着目すると、それぞれのポイントP02,P03には、鉄塔01,02乃至鉄塔02,03間の径間長S[km]に電流減衰定数α[dB/km]を乗じた分だけ減衰したノイズ電流が到達するので、その受信レベルの差はαSを超えない。逆に、隣接する鉄塔01,02乃至鉄塔02,03間でαS以上の受信レベルの差があれば、受信レベルの高い鉄塔に真のノイズ源がある可能性が高い。
【0007】
そこで、電流減衰定数αを所定の試験線を用いた実測とこれを模擬したモーメント法による解析から検討し、次の結果を得た。
(1)電線(ACSR330mm×1)上を伝搬するノイズ電流に起因する直下の実測電界は、図2に示すように、電線の架線形状及び不連続部(鉄塔,把持部,終端)の影響を大きく受けるが、これらと波源からの直接波の影響を除けば,減衰率は20〜30dB/km程度である。
(2)モーメント法による解析結果から、ノイズ電流は電線の架線形状、把持部、すなわち不連続部の影響を受けるが、図3に示すように、これらと電磁波の伝搬形態を考慮した電流減衰定数αは20[dB/km]程度である。したがって、本結果を用いれば、図1のポイントP02,P03におけるレベル差は20Sである。
【0008】
以上により、各ポイントP01,P02,P03でのノイズレベル及び前記レベル差に基づけば、真のノイズ源から放射されるパルス性電磁ノイズと偽のノイズ源から再放射されるパルス性電磁ノイズとを区別して真の放射ノイズ源を特定することができる。
【0009】
かかる知見に基づく本発明の第1の態様は、
送配電系統の電磁的に不連続な第1のポイントから放射されるパルス性電磁ノイズのレベルである第1のレベルと、前記送配電系統において送配電線を介して接続されるとともに前記第1のポイントに隣接する電磁的に不連続な第2のポイントから放射されるパルス性電磁ノイズのレベルである第2のレベルとを測定する一方、
前記第1のポイントと前記第2のポイントとの間の距離に前記送配電線における電流減衰係数を乗じて得るレベル差の基準値と、前記第1及び第2のレベルのレベル差とを比較し、その差が所定値以上である場合には、前記第1及び第2のレベルのうち大きい方に対応する第1又は第2のポイントを真のノイズ源と判定する一方、
前記差が所定値未満である場合には、第1及び第2のポイントは何れも偽のノイズ源と判定し、さらに第1のレベルが第2のレベルよりも大きい場合には、前記第1のポイントから第2のポイントの反対方向へ、逆に第2のレベルが第1のレベルよりも大きい場合には、前記第2のポイントから第1のポイントの反対方向へ電磁的に不連続なポイントを移動させて該ポイントから放射されるパルス性電磁ノイズのレベルを測定することにより真のノイズ源が特定されるまで前記判定を繰り返すことを特徴とする放射ノイズ源の特定方法にある。
【0010】
本態様によれば、隣接するポイント間でノイズレベルが大きいポイント側へノイズレベルの測定ポイントを辿っていけば真のノイズ源を特定することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、
送配電系統から放射されるパルス性電磁ノイズのレベルを前記送配電系統に沿って測定することにより前記パルス性電磁ノイズのレベルが、他の所定値以上の領域を予め特定しておき、当該特定領域において第1の態様に記載する放射ノイズ源の特定方法を実施することを特徴とする放射ノイズ源の特定方法にある。
【0012】
本態様によれば、真のノイズ源が存在する領域を予め絞り込むことができるので、第1の態様に記載する方法をその分合理的に実施することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パルス性電磁ノイズの発生源の内、再放射によるノイズ源であるか否かを判定することができるので、真のノイズ源と偽のノイズ源とを区別して、真のノイズ源を特定することができる。
【0014】
この結果、送配電系統の接触不良箇所乃至故障箇所等を特定でき、その部分の故障等を修理する場合の有用な情報を提供でき、その分所定の保守作業を容易且つ迅速に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の基礎となる知見を得るための試験用の送電系統を概念的に示す説明図である。
【図2】図1に示す送電系統の電線(ACSR330mm×1)上を伝搬するノイズ電流に起因する直下の実測電界特性を示す特性図である。
【図3】図2に示す特性のモーメント法による解析結果から、電磁波の伝搬形態を考慮した電流減衰定数αを示した特性図である。
【図4】本発明の実施の形態である放射ノイズ源の特定方法を適用する送電系統の一部を抽出して概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0017】
図4は送電系統の一部を抽出して概念的に示す説明図である。同図に示す送電系統は広い領域に亘って構築されており、当然鉄塔1の図中左側の領域及び鉄塔4の図中右側の領域にも構築されている。そこで、先ず当該送電系統に沿って移動しつつパルス性電磁ノイズのレベルを測定することにより前記パルス性電磁ノイズのレベルが、レベルを表す所定の閾値以上の領域を予め特定しておく。すなわち、パルス性電磁ノイズの発生源を絞り込んでおく。かかる絞り込みは必須ではないが、これを行っておくことにより、その後の作業を合理的に遂行することができる。
【0018】
ここで、鉄塔1乃至鉄塔4を含む領域はパルス性電磁ノイズの発生源を含む可能性を有するものとする。
【0019】
上述の如き絞り込みの後、鉄塔2に対応する電磁的に不連続なポイントP2から放射されるパルス性電磁ノイズのレベルL2を測定する。続いて、前記送配電系統において送電線を介して接続されるとともにポイントP2に隣接する電磁的に不連続なポイントP3から放射されるパルス性電磁ノイズのレベルL3を測定する。かかるレベルL2,L3の測定は、例えば通常のダイポールアンテナ等のアンテナとスペクトラムアナライザ等のノイズ強度測定器とを組み合わせることにより好適に実施し得る。このときのレベル測定はポイントP2,P3で条件が同じになるように留意する(以下の全てのポイントに関しても同じ)。すなわち、鉄塔2,3からの距離lが同じで且つ鉄塔2,3に対する角度が同じになるような位置で測定する。
【0020】
次に、レベルL2とレベルL3とのレベル差Ldを求めてレベル差の基準値Lrefと比較する。ここで、レベル差の基準値Lrefとは、ポイントP2とポイントP3との間の距離である鉄塔2,3間の径間長Sに当該送電系統の送配電線における電流減衰係数αを乗じて得る値であり、ノイズ電流が径間長Sを伝搬する間に減衰するレベルを表している。レベル差の基準値Lrefは送電系統毎に固有の値であるので、実測あるいはモーメント法により別途予め求めておく。
【0021】
その後、レベル差の基準値Lrefと、レベルL2及びレベルL3のレベル差との差がレベル差を表す所定の閾値Thαs以上であるか否かを判定する。
【0022】
前述の如きレベル差の基準値Lrefと、レベルL2及びレベルL3のレベル差が閾値Thαs以上である場合には、レベルL2及びレベルL3のうち大きい方に対応するポイントP2又はポイントP3を真のノイズ源と判定する。ポイントP2とポイントP3との間でノイズ電流が径間長Sを伝搬する間に減衰するレベルを超えているからである。すなわち、レベル差の基準値Lrefを差し引いても余りあるノイズレベルが残存しているからである。
【0023】
一方、レベル差の基準値Lrefと、レベルL2及びレベルL3のレベル差との差が閾値Thαs未満である場合には、ポイントP2及びポイントP3は何れも偽のノイズ源と判定する。ポイントP2とポイントP3との間ではノイズ電流が径間長Sを伝搬する間の減衰分であるレベル差の基準値Lref相当分のみが減少しているからである。
【0024】
ここで、レベルL2がレベルL3よりも大きい場合には、ポイントP2からポイントP3の反対方向(図中の左方向)へ電磁的に不連続なポイントを移動させる。この結果、例えば鉄塔1に対応するポイントP1が新たな対象となる。そこで、ポイントP1のノイズレベルL1を同様に測定し、ノイズレベルL2,L3及びレベル差の基準値Lrefを用いて行った処理と同様の処理をノイズレベルL1とノイズレベルL2とを用いて行う。
【0025】
かかる処理をノイズレベルが小さいポイントから大きいポイントに向けて辿りつつ真のノイズ源が特定されるまで順次繰り返す。
【0026】
一方、前述の如く、ポイントP2及びポイントP3が何れも偽のノイズ源と判定された場合であって、レベルL3がレベルL2よりも大きい場合には、ポイントP3からポイントP2の反対方向(図中の右方向)へ電磁的に不連続なポイントを移動させる。この結果、例えば鉄塔4に対応するポイントP4が新たな対象となる。そこで、ポイントP4のノイズレベルL4を同様に測定し、ノイズレベルL2,L3及びレベル差の基準値Lrefを用いて行った処理と同様の処理をノイズレベルL3とノイズレベルL4とを用いて行う。
【0027】
かかる処理をノイズレベルが小さいポイントから大きいポイントに向けて辿りつつ真のノイズ源が特定されるまで順次繰り返す。
【0028】
このように、本形態によればノイズレベルが小さいポイントから大きいポイントに向けて、隣接するポイント間でのノイズレベルの差と電流減衰定数に基づくレベル差の基準値との差が、閾値Thαs以上になるまで辿ることにより真のノイズ源を特定することができる。
【0029】
なお、上記実施の形態においては所定の領域の隣接する2つのポイントが何れも偽のノイズ源であった場合、偽のノイズ源とされたポイントに対し連続的に隣接するポイントのノイズレベルを利用して次の同様の判定を行っているが、これに限定するものではない。
必ずしも連続している必要はない。ノイズレベルが小さいポイントから大きいポイントに向けて辿りつつ所定の演算乃至比較処理を行うことで、真のノイズ源に辿り着くことができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、送配電系統の保守管理乃至運用を行う産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1,2,3,4 鉄塔
P1〜P4 ポイント
L1〜L4 ノイズレベル
S 径間長
l 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送配電系統の電磁的に不連続な第1のポイントから放射されるパルス性電磁ノイズのレベルである第1のレベルと、前記送配電系統において送配電線を介して接続されるとともに前記第1のポイントに隣接する電磁的に不連続な第2のポイントから放射されるパルス性電磁ノイズのレベルである第2のレベルとを測定する一方、
前記第1のポイントと前記第2のポイントとの間の距離に前記送配電線における電流減衰係数を乗じて得るレベル差の基準値と、前記第1及び第2のレベルのレベル差とを比較し、その差が所定値以上である場合には、前記第1及び第2のレベルのうち大きい方に対応する第1又は第2のポイントを真のノイズ源と判定する一方、
前記差が所定値未満である場合には、第1及び第2のポイントは何れも偽のノイズ源と判定し、さらに第1のレベルが第2のレベルよりも大きい場合には、前記第1のポイントから第2のポイントの反対方向へ、逆に第2のレベルが第1のレベルよりも大きい場合には、前記第2のポイントから第1のポイントの反対方向へ電磁的に不連続なポイントを移動させて該ポイントから放射されるパルス性電磁ノイズのレベルを測定することにより真のノイズ源が特定されるまで前記判定を繰り返すことを特徴とする放射ノイズ源の特定方法。
【請求項2】
送配電系統から放射されるパルス性電磁ノイズのレベルを前記送配電系統に沿って測定することにより前記パルス性電磁ノイズのレベルが、他の所定値以上の領域を予め特定しておき、当該特定領域において請求項1に記載する放射ノイズ源の特定方法を実施することを特徴とする放射ノイズ源の特定方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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