説明

放射性同位元素製造装置

【課題】 PET検査において、被検診者の体内に投与する放射性薬剤に含まれる核種を高収量で得ることができる放射性同位元素製造装置を提供する。
【解決手段】 この放射性同位元素製造装置(10)は、加速したイオンビーム(R)が照射するターゲット(20)において、真空領域(U)及び原料(23)の境界を形成する透過膜(22)と、この透過膜(22)を支持するとともに、イオンビーム(R)が通過する複数の通過口(27)が設けられている第1止め具(21)と、を備え、この第1止め具(21)の材質は、アルミナ分散強化銅であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性同位元素により構成される核種を製造する放射性同位元素製造装置に係り、特に、放射性同位元素を生成させるためにイオンビーム(陽子線)が照射されるターゲットに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、がん検診や脳疾患、心臓疾患の検査方法として、PET(陽電子放出型CT)検査が注目を集めている。PET検査は、ポジトロン(陽電子)を放出する核種を標識として用いた放射性薬剤を被検診者の体内に投与し、がんの患部に集積した放射性薬剤から体外に放出されるγ線を検出して患部の位置を特定する検査である。
【0003】
このようにしてPET検査に用いられる放射性薬剤に含まれる核種は、その核種を構成する放射性同位元素の半減期が非常に短いものである。そこで、PET検査を実施する際は、放射性薬剤の輸送等にかかる時間と半減期とを考慮して、製造後の核種は速やかに検査に供される必要がある(例えば、非特許文献1参照)。
このため核種は、保存がきかないので、PET検査を実施する直前に、充分な分量を確保するために、短期間のうちに大量に製造する必要がある。
【0004】
ところで、このような核種を製造する方法は、核種の元になる物質(原料)をターゲットに収容し、このターゲットに、加速器を用いて加速された数MeVから数十MeVの高エネルギーのイオンビームを照射させるものである。このため、照射により原料の温度が上昇するため、その内部に気泡等のボイドが生成して核反応回数が減少し、核種の収量が低下してしまう事態が発生する。
このような事態を回避するために、気泡等のボイドが生成しないように、イオンビームの照射により昇温した原料を加圧するとともに冷却を行うことが行われている。
【非特許文献1】「PET通信1998WINTER No.25」,第15頁〜第17頁,先端医療技術研究所
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記したイオンビームが通過する(加速される)加速器の内部は真空領域となっており、このイオンビームが照射される核種の原料は液体であるために、この真空領域と原料との境界を仕切る部材の存在が不可欠である。この部材としては、例えば厚みが数十ミクロンのチタン製の薄膜が用いられ、さらに、加圧された原料に接する薄膜を支持するための止め具が用いられている。
【0006】
これまで、止め具には、熱伝導性の高いアルミニウムや銅、チタン(Ti)が用いられていた。しかし、これらの金属は、高温で機械的強度が劣化し、繰返し使用すると、変形が大きくなり、使用できなくなる問題があった。これを克服するために、強度の強い鉄系の金属を用いると、熱伝導性が悪くなり、原料の温度が上昇し、原料の内部に気泡等のボイドが形成し、生成しようとする核種の収量が下がる問題があった。
【0007】
また、熱伝導性のよい材料と、高温で機械的強度が大きい材料とを組み合わせ(張り合わせ、合板、等)たり、また、薄膜を二重にしてその間に冷却材を流して冷却したりする方法も考えられたが、構造が複雑になり、薄膜におけるイオンビームのエネルギーロスが大きくなる問題があった。
【0008】
本発明は、係る問題を解決することを課題とし、冷却性能に優れ、かつ機械的強度が高い性能を持つ止め具を有するターゲットを採用することにより、核種を高収量で得ることができる放射性同位元素製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために本発明は、放射性同位元素製造装置において、イオンビームを出射するイオン源と、前記イオン源から出射された前記イオンビームを加速する真空領域を有する加速器と、加速した前記イオンビームが照射されると放射性同位元素を生成する原料が収容されるターゲットと、前記ターゲットにおいて、前記真空領域及び前記原料の境界を形成すとともに前記イオンビームが透過する透過膜と、前記透過膜を支持するとともに、前記イオンビームが通過する複数の通過口が設けられている第1止め具と、を備え、前記第1止め具は、アルミナ分散強化銅で形成されていることを特徴とする。
【0010】
係る構成により、この止め具は、熱伝導特性及び機械的特性がともに優れるアルミナ分散強化銅により形成されることになる。このため、イオンビームの照射を受けて原料の温度が上昇しても、止め具の熱伝導性が高いことにより熱が外部に拡散しやすい。よって、隣接する原料の温度上昇が抑えられ、照射するイオンビームの強度を高めても原料の一部が気化しにくくなり、気泡等のボイドが発生しないので核種の収率を高めることができる。
また、原料に高い圧力をかけても、この止め具は、高温における機械的強度(ヤング率,降伏応力)が高いので変形することが少ない。このため、ターゲットに収容する原料に付加する圧力を高めることが可能となり、原料が高温となっても内部で気泡等のボイドが発生するのを抑制することができ、核種の収率を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、止め具の材質として、高い熱伝導性と高温における優れた機械的強度とを有するアルミナ分散強化銅を採用することにより、イオンビームを照射しても原料に気泡が発生しにくくなるため、核種を高収量で得ることができる放射性同位元素製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態に係る放射性同位元素製造装置について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の放射性同位元素製造装置10は、イオン源11、高周波四重極型線形加速器(Radio Frequency Quadrupole、以下、RFQと称す)12a、ドリフトチューブ型線形加速器(Drift Tube Linac、以下、DTLと称す)12bおよびターゲット20を有する。なお、このRFQ12aとDTL12bとの組み合わせにより本発明における加速器12が形成されている。
【0013】
イオン源11は、イオンとなる源物質(ここでは水素)をイオン化して陽イオンのイオンビームRとして引き出す役割をなし、その周囲には、質量により所望のイオンのみを選択的に取り出す図示しないマグネットやイオンビームRを整形する図示しない静電レンズ、さらにはイオンビーム発生部等が設けられている。
なお、イオン源11には、熱陰極方式のデュオプラズマトロン型イオン源またはPIG型イオン源を使用することができる。また、長寿命で大電流を発生することのできるマイクロ波放電型イオン源を使用することもできる。
【0014】
RFQ12aは、このイオン源11の後段に設けられ、イオン源11から出射されたイオンビームRを所定のエネルギーまで加速させるものである。RFQ12aの内部には、波形状の四重極電極を有する真空チャンバが備えられている。この四重極電極によりイオンビームRの進行方向と直角な方向に四重極電界が形成され、イオンビームRが集束されながら加速される。
なお、ここで使用されるRFQ12aに替えて、六極以上の偶数の磁極を持つ多重電極型の高周波加速器を用いてもよく、これら以外の高周波加速器を用いることもできる。
【0015】
DTL12bは、RFQ12aで加速されたイオンビームRを入射して、さらに加速するものである。DTL12bの内部の中心には、複数個のドリフトチューブ17が軸方向に並んで配置されている。このドリフトチューブ17の内部には、図示しない四極電磁石が組み込まれていて、イオンビームRは、このドリフトチューブ17内を通過する際に、収束を受ける。そして、このドリフトチューブ17,17の間で、イオンビームRの加速が行われる。
このようなRFQ12aおよびDTL12bは、組み合わされて、最終的に10MeV程度の高エネルギーのイオンビームRを生成する線形加速器(加速器)12として機能する。なお、本発明で用いられる加速器は、このような線形加速器に限定されるものではなく、サイクロトロンが用いられる場合もある。
【0016】
ターゲット20は、床に固定されているターゲット遮へい体13内に存在する。
図2(a)に示すようにターゲット20は、第1止め具21a(21)と、薄膜状の透過膜22と、基盤24と、この基盤24に穿設して設けられた冷却路25と、核種の原料23を保持する容器26と、第1止め具を保持する保持器28と、この保持器28及び第1止め具21aを冷却する冷却路29とから構成される。なお容器26と基盤24とは、一体化して形成することもある。図2(b)に示すように、第1止め具21aには、複数の通過口27a,27a…が設けられている。
【0017】
原料23は、18O(酸素18)が濃縮して含まれる水溶液(濃縮水)であり、ターゲット20の、透過膜22と容器26と基盤24とに囲まれた空間に収容されている。そして、ターゲット20がイオンビームRの照射を受けると、このイオンビームRは、止め具21aの通過口27a,27a…、透過膜22を透過して、この原料23に衝突して、18O(酸素18)が核反応を起こし、放射性同位元素である18F(フッ素18)が核種として生成する。また、ターゲット20に収容されている原料23は、温度上昇により沸騰して気泡を発生しないように、導入口26aから導入されるアルゴンガス(Ar)で加圧されるとともに、冷却路25,29を冷媒が循環してターゲット20の全体を冷却する。そして、生成した18Fを含む水は、アルゴンガスの加圧により、図示しない配管を通じて、ターゲット20の外部へと排出される。
【0018】
ここで第1止め具21a(21)に用いるのに最適な材質について検討を行う。この止め具(後記する第2止め具21dも含む)の材質としては、熱伝導性に優れ、かつ高温における機械的特性が優れることを選定基準とする。
まず、図3(a)を参照して、従来においてターゲット20の材質として用いられてきた銅(Cu)、及びステンレススティール(SUS)の物性値を対比してみる。すると、Cuは、降伏応力、及びヤング率で示される機械的特性が、SUSに劣るが、熱伝導率は優れていることを示している。従って、Cu及びSUSは、いずれも熱伝達特性と機械的特性のうちいずれか一方については優れるが他方が大きく劣るので、前記選定基準を充分に満足させるものでないので、止め具の材質として適切とはいえない。
【0019】
次に、熱伝導率について示す図3(b)、降伏応力について示す図4(a)、ヤング率について示す図4(b)を参照する。[参照文献:ITER BLANKET,SHIELD AND MATERIAL DATA BASE,IAEA/ITER/DS/1991,IAEA,VIENNA,1991.]。
これらに示されるデータベースによれば、DS Copper(アルミナ分散強化銅)は、熱伝導率が約350W/mK、降伏応力が260−320MPa(200−300℃)、ヤング率が110−120GPa(200−300℃)である。
TZM (チタン(Titanium)・ジルコニウム(Zirconium)添加モリブデン(Molybdenum)合金)は、熱伝導率が約100W/mK、降伏応力が680−700MPa(200−300℃)、ヤング率が280−295GPa(200−300℃)である。
Mo−5%Re(レニウム(Rhenium)添加モリブデン合金)は、熱伝導率が約110W/mK、降伏応力が450−500MPa(200−300℃)、である。
【0020】
次に、止め具の剛性について検討してみる。ここで剛性は、ヤング率Eと断面2次モーメントMの積に比例するものである。なお断面2次モーメントMは材料の厚さの3乗(M=bh3/2、bは材料の幅、hは材料の厚さ)に比例するものである。
ここで、従来用いられているCuとSUSを張り合わせた複合材の剛性は、CuとSUSの厚さを1とすれば、次式(1)のように示される。
一方、前記した材質のうちDS Copper(アルミナ分散強化銅)を用いる場合について代表して検討すると、CuとSUSの厚さを合計して、その厚さは2となり、次式(2)のように示される。式(1),(2)よりDS Copper(アルミナ分散強化銅)の方が、剛性が、Cu/SUSより、約3倍大きくなることが示される。
【0021】
ESUS × MSUS + ECu × MCu = 210 × 13 + 80 × 13 = 290 (1)
EDSCu × MDSCu = 110 × 23 = 880 (2)
【0022】
従来、ターゲットの材質として用いられてきた、CuやSUSと対比して、DS Copper、チタン・ジルコニウム添加モリブデン合金、レニウム添加モリブデン合金、ランタン添加モリブデン合金は、放射性薬剤に用いる核種を生成するターゲット20の止め具21の材質としての要件を満たす。なおTEM(ランタン(Lanthanum)添加モリブデン合金)も好ましく用いることができる。
なかでも熱伝導、降伏応力及びヤング率がバランスよく高い値を示すDS Copper(アルミナ分散強化銅)が放射性薬剤に用いる放射性核種を生成するターゲット20の第1止め具21の材質として優れているといえる。
【0023】
このように、第1止め具21(後記する第2止め具21dも含む)に、アルミナ分散強化銅を用いれば、機械的強度が強く、冷却性能の高い止め具を提供できるので、過熱した原料23の温度を有効に冷やすことができ、それにより、原料23内に成長した気泡等のボイド体積を小さくすることができるので、生成しようとする核種の高収量が達成される。
【0024】
次に、図1,図2を参照して、以上のように構成された放射性同位元素製造装置10の動作を説明する。放射性同位元素製造装置10を作動させるにあたって、事前に、ターゲット20をターゲット遮へい体13内に収容しておく。
図示しない作動スイッチを操作すると、RFQ12a、DTL12bに対して、所定の高周波電力がそれぞれ供給され、各RFQ12a、DTL12bに電界が形成される。その後、イオン源11に所定の電力を供給する。これにより、イオン源11のイオンビーム発生部(図示せず)から出射されたイオンビームRがRFQ12aによって所定のエネルギーまで加速される。加速されたイオンビームRは、RFQ12aから出射されて後段のDTL12bに入射され、DTL12bでさらに加速される。
このようにして加速されて高エネルギーとなったイオンビームRは、ターゲット20内の原料23、すなわち18O濃縮水に照射される。そして、イオンビームRが18Oに照射すると、核反応により18Fが生成される。
【0025】
このとき、原料23は、イオンビームRの照射により加熱されるが、この原料23に広範に接している第1止め具21が高い熱伝導特性を有していることにより、温度上昇が抑えられる。このため、原料23の一部が気化しにくくなり気泡等のボイドが発生しない。
また、仮に、このような気泡等のボイドの発生が懸念されても、導入口26aから導入されるアルゴンガス(Ar)の圧力を高めて、原料23をさらに加圧することで発生を抑制できる。このように、原料23に付加する圧力を高めても、第1止め具21が高い機械的特性を有していることにより、繰り返し使用しても変形することが少ない。
【0026】
このようにして、18Fの放射性同位元素からなる核種が生成したところで、ターゲット20に接続される配管(図示せず)から18Fを含む濃縮水が放射性薬剤合成装置(図示せず)に送られ18Fを含む濃縮水から18Fが抽出される。なお、18Fへ核反応しなかった残りの18O濃縮水は、非常に高価であるため、回収してターゲット20内で再利用される。
【0027】
(第2実施形態)
次に図5を用いて、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態において、第1止め具21b(21)以外についての構成は、すべて第1実施形態におけるものと同一であるので説明を省略する。この第1止め具21bは、図5(b)に示すように、イオンビームRが照射する面に設けられている複数の通過口27bのうち、ビーム強度の最大の部分に通過口27bを設けていないものである。
ここで、ビーム強度の最大の部分とは、通常、イオンビームRの電流分布は図5(c)のようにガウス分布を示すことから、止め具21の中心部において強度が最大になっている。このため、止め具21の中心部に近い程、原料23に注入されるパワーが大きくなるので、原料23の温度も上昇し、中心部が最大温度となるものである。
【0028】
図5に示す、第1止め具21bでは、ビーム強度の大きい部分に通過口27bが存在していないために、原料23の中心部分に到達するイオンビームRはその強度が大きく減衰するので、原料23の温度が局所的に上昇することがなくなる。従って、原料23は全体として温度分布が平坦化して最大温度が低下するので気泡体積も減少する。なお図5では、第1止め具21bの中心部の通過口27bの穴が塞がれた例が示されているが、これに限定されることなく、本実施形態の止め具21bはイオンビームRの最大強度の位置に応じて、対応する位置の通過口27bの穴が塞がれている構成を有するものである。
【0029】
(第3実施形態)
次に図6を用いて、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態において、第1止め具21c以外についての構成は、すべて第1実施形態におけるものと同一であるので説明を省略する。第1止め具21c(21)は、図6に示すように、イオンビームRが照射する面に設けられている複数の通過口27cは数密度は一様であるが、ビーム強度の大きさに応じて、穴径を変化させている。このようにして、イオンビームRの強度が大きい部位に位置する通過口27cの開口面積は、その強度が小さい部位に位置する通過口27cに対して相対的に小さく形成されている。
【0030】
このように、通過口27cが第1止め具21cに配置された場合でも、図6(c)に示すように中心部に強度が強く分布しているイオンビームRは、原料23への到達が制限されるので原料23の温度の上昇が抑制される。そして、第1止め具21cの周辺部にいくにつれて、通過口27cの穴径が大きくなり、イオンビームRの原料23への到達量が増加するが、ビーム強度が小さくなるぶん、原料23の温度の上昇は抑えられる。そして全体として、原料23の温度分布は平坦化されることになる。これにより、原料23の最大温度は低下し、気泡体積も減少することになる。
なお図6では、第1止め具21cの中心部の通過口27cの穴径が最小である例が示されているが、これに限定されることなく、本実施形態の止め具21cはイオンビームRの最大強度の位置に応じて、対応する位置の通過口27bの穴径が最小となる構成を有するものである。
【0031】
従って、第3実施形態に用いられる第1止め具21cにおいては、アルミナ分散強化銅(DSCopper)が用いられ、また、ビーム強度の大きさに応じて、穴径が変化して分布していることで、気泡体積が減少させて、生成しようとする核種の収量が上がる効果が得られる。なお、第3実施形態に用いられる第1止め具21cでは、第2実施形態に用いられる第1止め具21bに比べて、ビーム強度の最大の部位にも通過口27cが存在するので、イオンビームRのエネルギーを有効に利用できる特徴を有する。
【0032】
(第4実施形態)
次に図7を用いて、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態において、ターゲット20´以外についての構成は、すべて第1実施形態におけるものと同一であるので説明を省略する。
第4実施形態に用いられるターゲット20´は、第1実施形態のターゲット20と対比して、イオンビームRの照射に伴う発熱を吸収する冷媒が循環する冷却路35と、透過膜22に対峙して、原料23に接して設けられる放熱膜31と、この放熱膜31を支持するとともに循環する冷媒が放熱膜31に接するように設けられさらに複数の冷却口37を有する第2止め具21d(21)と、を備える点において相違する。
【0033】
このように、循環する冷媒が、この冷却口37,37…を通って原料23を薄膜で隔てている放熱膜31に接することにより、原料23の熱を効果的に奪う。このような構成をとることにより、ターゲット20´の冷却性能のさらなるが向上が達成される。
【0034】
なお、第1から第4実施形態においては、止め具21のみがアルミナ分散強化銅の材質で構成されている例を示したが、この止め具21以外の他の部材(透過膜22、基盤24、容器26、保持器28等)にも、アルミナ分散強化銅を適用して、ターゲット20,20´を作成することも可能である。
以上のように発明が構成されることにより、ターゲット20,20´において熱伝導性の向上と、高温における機械的特性の向上とを両立させることが可能となり、気泡体積を減少させて、生成しようとする核種の収量が上がる効果が得られる。また、適用する材質をアルミナ分散強化銅に替え、チタン・ジルコニウム添加モリブデン合金、レニウム添加モリブデン合金、ランタン添加モリブデン合金の群から選択された少なくとも一つの物質を適用させても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態に係る放射性同位元素製造装置の側面断面を示す断面図である。
【図2】(a)は本発明の第1実施形態で用いられるターゲットの側面断面図で、(b)はイオンビームが照射するターゲットの正面を示す正面図である。
【図3】(a)は、CuとSUSの熱伝達特性、及び機械的特性を示す表である。(b)は各種材質の各温度に対する熱伝導率を導く演算式である。
【図4】(a)は本発明に使用する材質の温度に対する降伏効力を示すグラフであり、(b)は同、ヤング率を示すグラフである。
【図5】(a)は本発明の第2実施形態で用いられるターゲット側面断面図で、(b)はイオンビームが照射するターゲットの正面を示す正面図であり、(c)はX−X断面におけるイオンビームの電流分布を示す図である。
【図6】(a)は本発明の第3実施形態で用いられるターゲット側面断面図で、(b)はイオンビームが照射するターゲットの正面を示す正面図であり、(c)はX−X断面におけるイオンビームの電流分布を示す図である。
【図7】本発明の第4実施形態で用いられるターゲット側面断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 放射性同位元素製造装置
11 イオン源
12 加速器
20,20´ ターゲット
21(21a,21b,21c) 第1止め具
21(21d) 第2止め具
22 透過膜
23 原料
25,35 冷却路
27(27a,27b,27c) 通過口
31 放熱膜
R イオンビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを出射するイオン源と、
前記イオン源から出射された前記イオンビームが加速される真空領域を有する加速器と、
加速した前記イオンビームが照射されると放射性同位元素を生成する原料が収容されるターゲットと、
前記ターゲットにおいて、前記真空領域及び前記原料の境界を形成するとともに前記イオンビームが透過する透過膜と、
前記透過膜を支持するとともに、前記イオンビームが通過する複数の通過口が設けられている第1止め具と、を備え、
前記第1止め具の材質は、アルミナ分散強化銅であることを特徴とする放射性同位元素製造装置。
【請求項2】
前記第1止め具に照射する前記イオンビームの強度が最大の部分には前記通過口が設けられていないことを特徴とする請求項1に記載の放射性同位元素製造装置。
【請求項3】
前記第1止め具に設けられる前記通過口の数密度は一様であるとともに、
前記イオンビームの強度が大きい部位に位置する前記通過口の開口面積は、その強度が小さい部位に位置する通過口に対して相対的に小さく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の放射性同位元素製造装置。
【請求項4】
前記イオンビームの照射に伴う発熱を吸収する冷媒が循環する冷却路と、
前記透過膜に対峙して、前記原料に接して設けられる放熱膜と、
前記放熱膜を支持するとともに、循環する前記冷媒が前記放熱膜に接するように設けられる複数の冷却口を有する第2止め具と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の放射性同位元素製造装置。
【請求項5】
前記ターゲットを構成する部材は、アルミナ分散強化銅の材質からなることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の放射性同位元素製造装置。
【請求項6】
イオンビームを出射するイオン源と、
前記イオン源から出射された前記イオンビームが加速される真空領域を有する加速器と、
加速した前記イオンビームが照射されると放射性同位元素を生成する原料が収容されるターゲットと、
前記ターゲットにおいて、前記真空領域及び前記原料の境界を形成するとともに前記イオンビームが透過する透過膜と、
前記透過膜を支持するとともに、前記イオンビームが通過する複数の通過口が設けられている第1止め具と、を備え、
前記第1止め具の材質は、チタン・ジルコニウム添加モリブデン合金、レニウム添加モリブデン合金、ランタン添加モリブデン合金の群から選択された少なくとも一つの物質によりなることを特徴とする放射性同位元素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−284337(P2006−284337A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103936(P2005−103936)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】