説明

放射性物質で汚染された土壌を保管するための盛土構造物及び汚染土壌の処理方法

【課題】放射性物質で汚染された汚染土壌や廃棄物を盛土中に隔離して安全に保管するための盛土構造物を提供する。
【解決手段】側壁と、側壁で周囲を囲まれた盛土構造を有し、該盛土構造は、下層からドレーン層、放射性物質の吸着層、汚染土壌層、非汚染土砂層、難透水性の透湿性シート層及び砂利層を有し、該汚染土壌層の少なくとも一部にはセシウム移動抑制剤及び硫化水素ガス発生抑制剤が混合されていること、側壁、及び汚染土壌層の上層に配置される層の厚みと材質は、放射線強度が1/10以下に減衰するものであること、及び該放射性物質は放射性セシウムを含むものである放射性物質汚染土壌を保管するための盛土構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉事故等により放射性物質で汚染された土壌を安全に保管するための盛土構造物、及び汚染土壌の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所での原子炉事故等により多量の放射性物質が放出されると、付近の広大な土地が汚染される。土地の汚染の程度は土壌の表面付近が高いので、土壌の表面を剥ぎ取って除染することが有効とされている。剥ぎ取られた土壌は、汚染度が高いので、安全に保管する必要がある。この汚染土壌が膨大であるときは、海への流出を防止した上で、生活区域から離れた海面の埋め立てに使用することが最も有効と考えられるが、利害の調整が困難という問題がある。そこで、最終処分が決まるまで、中間的に保管する必要が生じる。
【0003】
汚染土壌を中間的に保管するとしても、最終処分が決まるまで長期になることも予測され、放射性セシウムを含む場合は、放射能が十分に減衰する100年程度の保管にも耐えうることが望まれる。汚染土壌を中間的に保管する場合は、利害の調整が容易な地域ごとに保管することが現実的と言える。そのためには、小型の保管設備を多数設けることになるが、建屋内に保管する方法は建造物を多数建設することになり、費用が嵩む。
【0004】
汚染土壌を空き地に盛土する方法は、最も簡便であるが、汚染土壌が流出したり、飛散したりする危険性がある。強固な側壁を設けることにより、盛土の崩壊を防止することはできるが、表面からの飛散を防止する必要がある。また、雨水による下層からの流出水は放射性物質で汚染されないように工夫する必要がある。
【0005】
盛土するにしても、予想外の大雨や洪水によって、破壊、浸水等の被害がありうるので、これを最小にとどまるようにしておく必要がある。また、盛土の周囲は立ち入り禁止としても、長年の間には小児等が立ち入る恐れがあり、それに対しても安全を考慮する必要がある。一方、盛土は急勾配で高いものであれば、盛土用地は少なくてすみ、都市部の空き地利用の観点からは、有利であるが、崩壊の危険性が増す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−512759号公報
【特許文献2】特開2001−133594号公報
【特許文献3】特開2009−257074号公報
【特許文献4】特開2011−69132号公報
【0007】
放射能汚染液からセシウムを除去する方法には、沈殿法及びイオン交換法が知られている。中でも、フェロシアン酸塩のような鉄のシアノ錯体を使用して、不溶性のフェロシアン化物を吸着剤として使用してセシウムを除去する方法は、除去効率が優れる点で注目されている。特許文献1は、Axy[MFe(CN)6]・zH2O(ここで、Aはアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンであり、MはNi、Co等の2価の遷移元素である)で表わされる遷移元素のヘキサシアノ鉄酸塩を使用することを開示する。
【0008】
特許文献2は、原子炉冷却水の浄化ラインに設けられる脱塩用イオン交換樹脂塔の上流側において、この冷却水に含まれるセシウム等の陽イオンを選択的に吸着し得る吸着剤によって、放射性核種を吸着し除去することを開示し、この吸着剤として、チタン酸塩、含水酸化チタン又はフェロシアン化物を使用することを開示する。
【0009】
特許文献3は、鉛直又は鉛直に近い急勾配を持った法面を遮水するための盛土構造物を開示する。この構造物は、盛土補強材の敷設、盛土、転圧を繰り返して目的の完成高さに到達する以前に、盛土が遮水材の長さに対応する高さになった段階で、遮水材を法面に沿って敷設すると共に盛土内に固定し、その後、前記工程を繰り返して目的の完成高さを持った遮水性を持たせることにより構築される。
【0010】
特許文献4は、円筒状の補強材に充填材を充填した構造体を積層する法面構築工法を開示し、法面構築に使用される補強材として板状ジオグリッドの端部を結合させて得られたものを開示する。従来技術として、高分子材料からなるストリップ材を溶着したはちの巣構造を有するハニカム状ジオセルを用いた擁壁構造や、ハニカム状立体構造補強材からなる構造体を用いた擁壁構築方法や、構造体に排水性を持たせるために、ハニカム状補強材の一部を有孔構造としたり、構造体に排水性を持たせたりすることが知られているとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、放射性物質で汚染された土壌又は廃棄物を安全に保管するための盛土構造物、及び汚染土壌の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、放射性物質で汚染された汚染土壌又は廃棄物を盛土中に隔離して安全に保管するための盛土構造物であり、防水層を有する側壁と、側壁で周囲を囲まれた盛土構造を有し、該盛土構造は、下層からドレーン層、放射性物質の吸着層、汚染土壌層、非汚染土砂層、難透水性の透湿性シート層及び砂利層を有し、該汚染土壌層の少なくとも一部にはセシウム移動抑制剤及び硫化水素ガス発生抑制剤が混合されていること、側壁、及び汚染土壌層の上層に配置される層の厚みと材質は、放射線強度が1/10以下に減衰するものであること、及び該放射性物質は放射性セシウムを含むものであることを特徴とする放射性物質汚染土壌を保管するための盛土構造物である。
【0013】
上記盛土構造物は、次の要件の1以上を満足することが好ましい。
1)汚染土壌層内であって、その水平方向に盛土補強用のジオテキスタイルを1層以上配置すること。
2)放射性物質の吸着層は、フェロシアン化合物又はゼオライトを含む材料から構成されること。有利には、フェロシアン化合物と鉄、酸化鉄及び水酸化鉄から選ばれる鉄系材料を含む材料から構成されること。
3)セシウム移動抑制剤が、フェロシアン化合物又はゼオライトを含む材料から構成されること。有利には、フェロシアン化合物と鉄、酸化鉄及び水酸化鉄から選ばれる鉄系材料を含む材料から構成されること。
4)硫化水素ガス発生抑制剤が鉄、酸化鉄及び水酸化鉄から選ばれる鉄系材料であること。5)セシウム移動抑制剤が、汚染土壌層内の汚染土壌に対し、1〜5wt%混合されること。
6)ドレーン層が、粒径の大きい砂利又は砕石を含む材料から構成されること。
7)非汚染土砂層には、セシウム移動抑制剤が混合されていること。
8)側壁が、ハニカム状に配列された樹脂製セルに放射線遮蔽材料を充填した構造の表面層を有すること。
【0014】
また、本発明は、放射性物質で汚染された土壌の表面を汚染土壌として剥ぎ取ること、これを側壁で囲まれ、下層からドレーン層、及び放射性物質の吸着層を配した構造物中間体に、汚染土壌を投入して汚染土壌層を形成すること、汚染土壌層の高さに応じて側壁の高さを伸ばすこと、所定高さの汚染土壌層と側壁が形成された後、非汚染土砂層、難透水性の透湿性シート層及び砂利層を設けることの各工程を含み、放射性物質で汚染された土壌の表面を汚染土壌として剥ぎ取る際に、セシウム移動抑制剤及び硫化水素ガス発生抑制剤を事前に散布すること、側壁、及び汚染土壌層の上層に配置される層の厚みと材質は、放射線強度が1/10以下に減衰するものとすること、及び該放射性物質は放射性セシウムを含むものであることを特徴とする放射性物質汚染土壌の処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の盛土構造物は、長期間安定に構造を保持することができ、雨水浸透による放射性物質の地下への移動を最小とすることができる。また、簡単に施工できるので、現地付近に構築することができ、汚染土の長距離運搬が不要となる。安全が確認された将来には必要により道路や鉄道等の基礎としての利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の盛土構造物の断面図を示す。
【図2】本発明の盛土構造物の側壁に使用するジオウエッブの概念図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の盛土構造物は、側壁で囲まれた内部に汚染土壌層を有する。この汚染土壌は、放射性セシウムを含む土壌であり、6000〜60000Bq/kg程度の汚染度を示すものが適するが、部分的にはこれより大きく汚染されたものが混ざってもよい。この汚染土壌は、汚染された土地の表面層を削り取ったものが多くを占めることがよいが、少量の落ち葉や下水汚泥等が含まれてもよい。更に、ごみ焼却灰のような放射性セシウムが濃縮された廃棄物であってもよい。上記汚染度の範囲であれば、廃棄物単独であってもよいが、土壌と混合して全体の平均としての汚染度は上記範囲とすることがよい。
【0018】
盛土構造物は、断面が台形状であることが好ましく、底部から上部に向かって幅が小さくなっている。この傾斜が急であれば、盛土構造物の敷地面積を少なくすることができるが、崩壊しやすくなるので、40〜80度程度の角度であることがよい。
【0019】
側壁は、盛土構造物の法面を被覆するように設けられる。側壁は強度を与える表面層と防水性を与える防水層を有することがよい。側壁の表面層となる材料は、特許文献4に記載されたような、ハニカム状ジオセルを用いた構造が適するが、これに限定されない。土嚢を積み上げる構造等でもよいが、有利には、ハニカム構造を有する樹脂製セルに放射線遮蔽材料を充填したものを、多数用意して、これを所定の角度をもって積み上げて形成した構造が望ましい。ハニカム構造を有する樹脂製セルとしては、旭化成ジオテック株式会社のジオウエッブがあり、これを使用する工法としては立体ジオセル工法がある。ジオウエッブの姿図を図2に示す。ジオウエッブは、ハニカム状に配列した複数の容器となるセルを有する。右図はセルとなる部分の拡大図であり、開口部から非汚染土壌等を充填する。
【0020】
放射線遮蔽材料としては、鉛等の高密度材料が優れるが、非汚染土壌は入手が容易である点で優れる。放射線強度の低減効果は距離が重要であり、次に遮蔽材料の密度が重要である。ウラン鉱からの放射線は距離が15cm以上となるだけで、90%以上低減する。また、ガンマ線だけの場合、その強さの10分の1に弱めるためには、鉛であれば約4cm、コンクリートなら27cm、水なら40cmの厚みが必要とされているので、土壌であれば30cm程度でよいことになる。いずれにしても、側壁の強度を保持するにはその程度の厚みが必要となるので、特に高密度の遮蔽材料を使用しなくともよい。しかしながら、遮蔽効果の高い高密度の遮蔽材料を使用すれば、より安全になると言えるので、重質の砂、ブラウン管を破砕して得られる鉛含有ガラス粒、砂鉄等の鉄鉱石、製鋼スラグ等が入手容易であれば、それが好ましい。
【0021】
側壁は強度を与える表面層と防水性を与える防水層を有することがよい。防水層は樹脂製又はゴム製の遮水シートが使用できる。
【0022】
側壁で周囲を囲まれた内部に、盛土構造を有する。盛土構造は、下層からドレーン層、放射性物質の吸着層、汚染土壌層、非汚染土砂層、難透水性の透湿性シート層及び砂利層を有するが、必要により他の層を設けてもよい。
【0023】
下層に設けられるドレーン層は、洪水時等の際、地表面に湛水した水が盛土下面に浸透し土砂流出するのを防止する作用を有する。また、侵入した水も容易に排水される。加えて、通常時は空気が容易に侵入し、盛土内を好気的雰囲気にして、有機物分解を促進するとともにメタンガス、硫化水素ガスの発生を抑制する作用を有する。
【0024】
その上に設けられる放射性物質の吸着層は、晴天の蒸発時に水分が上昇する場合、放射性物質の移動を抑制するものであり、セシウムの吸着剤として知られているものが使用される。好ましくは、イオン交換樹脂、ゼオライト又はフェロシアン化合物であり、フェロシアン化合物の場合は、鉄、酸化鉄及び水酸化鉄から選ばれる鉄系材料と混合して使用することが好ましい。
【0025】
ここで、鉄系材料は鉄、酸化鉄又は水酸化鉄を含むものであれば差し支えないが、吸着性能の点では金属鉄の粉末が好ましいが、酸化鉄の粉末は安価に得られるという利点がある。鉄系粉末は平均径(Median径)が10〜1000μmであることがよい。金属鉄の粉末は、有機塩素系物質の浄化に用いられるアトマイズド鉄粉や還元鉄粉、鉄鋼製造工程から排出される鋳鉄粉であることもでき、鉄鋼を切断、穴開け、切削等をする加工工程から排出される金属鉄を含有する屑又はこれらの粉砕物等であることもできる。酸化鉄の粉末は、工業原料用に製造されたものでよいが、鉄鋼製造工程から排出されるミルスケールや製鋼スラグの粉末であることもできる。例えば、製鋼スラグには、転炉製鋼プロセスから発生するスラグと電気炉製鋼プロセスから発生するスラグとがあり、転炉プロセスでは、溶銑予備処理、転炉、二次製錬の各段階で発生するスラグに分けられる。転炉スラグには酸化鉄が多量に含まれているので有利である。また、転炉スラグはアルカリ(土類)金属酸化物が含まれるので、汚染土壌層及び吸着層の酸性化を抑制し、セシウムの溶出を防止する。そして、鉄系材料は比較的高密度であるので、放射線遮蔽効果も優れる。
【0026】
また、フェロシアン化合物は、水溶性のフェロシアン化ナトリウム、フェロシアン化カリウム等が有利に使用される。フェロシアン化合物と鉄系材料の配合割合は広範囲に変化し得るが、フェロシアン化合物:鉄系材料=1:1000〜1:1(重量比)の範囲が好ましい。この吸着層は、非汚染土壌にセシウムの吸着剤を5〜10wt%配合したものを、5mm以上の厚みとしたものであることが好ましい。
【0027】
その上には汚染土壌層が設けられる。汚染土壌は上記のように汚染地区から採取されたものや廃棄物を含み、多様な組成を有するが、放射性セシウムを含む放射性物質で汚染されていることが共通する。放射性セシウムは水分によって移動するので、この汚染土壌層には、セシウム移動抑制剤が配合される。セシウム移動抑制剤は、セシウムを吸着する機能を有するものが適し、このような材料としては上記放射性物質の吸着層で使用されると同様な吸着剤が適する。また、汚染土壌は落ち葉や汚泥等の有機物を含むため、保管中に硫化水素ガスを発生する可能性があるので、硫化水素ガス発生抑制剤が配合される。硫化水素ガス発生抑制剤としては、硫化物となってこれを固定する材料が使用できるが、上記放射性物質の吸着層で説明した鉄系材料が有利に使用される。セシウム移動抑制剤がフェロシアン化合物と鉄系材料の混合物である場合、ここで使用される鉄系材料は硫化水素ガス発生抑制剤としても作用するので、別に加える必要がなく、有利である。汚染土壌に配合されるセシウム移動抑制剤及び硫化水素ガス発生抑制剤の量は、それぞれ汚染土壌に対して1〜5wt%であることがよい。セシウム移動抑制剤と硫化水素ガス発生抑制剤の成分が共通する場合は、両方の成分として計算する。
【0028】
セシウム移動抑制剤と硫化水素ガス発生抑制剤を汚染土壌の混合は、均一に近いことが望ましいが、そのように混合するには、汚染された表土を剥ぎ取る前にセシウム移動抑制剤と硫化水素ガス発生抑制剤を散布して、それから剥ぎ取るようにすることが有利である。
【0029】
汚染土壌層は盛土構造厚み全体の50%以上、好ましくは80〜90%を占める。大地震等の際の汚染土壌層の安定性を高めるため、汚染土壌層内であって、その水平方向に盛土補強用のジオテキスタイルを1層以上、好ましくは2〜4層配置することがよい。このような盛土補強用のジオテキスタイルとしては、例えばジオグリッドが使用できる。
【0030】
汚染土壌層の上には、非汚染土砂層、難透水性の透湿性シート層及び砂利層を有する。非汚染土砂層は、盛土の上部から放射される放射線量を低減させるためと、セシウムが上部に移動することを防止するためのものであるので、非汚染土壌にセシウム移動抑制剤が配合されたものであることが好ましい。ここで、透湿性シート層は、砂利層の下層のみに設けてもよいが、砂利層の中間に設けることがよい。
【0031】
難透水性の透湿性シート層は、雨水の浸透を防止するものであり、雨水の90%以上を排水し、ガスは通過させるものである。盛土構造物は上部を除いて全体的に密閉構造又はそれに近いものとなっているが、汚染土壌層に含まれる有機物の分解ガスや空気が膨張した際に、それを逃がすことを可能とする。逃げるガス中には、セシウムは存在しない。
【0032】
その上にある砂利層は、盛土構造物の上部表面から、土砂等が飛散せず、非透水性の透湿性シート層を押さえるものであるので、5mm以上の豆砂利が適する。また、この砂利層は日照の影響を強く受け表面温度が高温(50〜60℃)となり、上部に植物が育つのを防止することができる。
【0033】
本発明の放射性物質汚染土壌の処理方法では、側壁で囲まれ、下層からドレーン層、及び放射性物質の吸着層を配した構造物中間体に、汚染土壌を投入して汚染土壌層を形成することと、汚染土壌層の高さに応じて側壁の高さを伸ばすことを繰り返して、所定高さの汚染土壌層と側壁が形成された後、非汚染土砂層、難透水性の透湿性シート層及び砂利層を設ける。
【0034】
本発明の盛土構造物及び放射性物質汚染土壌の処理方法では、側壁、シート、ネット材に樹脂製の材料を使用する場合が多いが、これは長期の寿命が要求される。このような樹脂又は樹脂製品としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン等の熱可塑性樹脂製から得られ1軸又は2軸に延伸された網状物や、樹脂製板状物を格子状に加工したものや、高強度繊維のマルチフィラメントを格子状に編んだものを挙げることができる。熱可塑性樹脂の他の好ましい例として、繊維素材としては、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、超高分子量ポリビニルアルコール繊維、ポリアセタール繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などを例示することができる。高強度繊維のマルチフィラメントを格子状に編んだものは、強度、耐久性などの改良のために、これら編物に樹脂コートしたものであってもよい。
【実施例】
【0035】
次に、図面により本発明をさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の盛土構造物の断面図であり、側壁4と盛土構造11とからなる。側壁4の外表面及び主材はジオウエッブのセルに放射線遮蔽材料を充填したものを、積み重ねて形成されており、その傾斜角度は約70度である。盛土構造物の底部は、方形であり、幅5〜20m、長さ10〜40mである。
【0036】
側壁4の内表面には樹脂製の遮水シート層が設けられている。放射線遮蔽材料としては、鉛含有ガラス粒又は非汚染土砂が使用され、側壁4の厚みは70〜120cmである。
【0037】
盛土構造11は、基盤9となる地面上に設けられ、下層からドレーン層8、放射性物質の吸着層7、汚染土壌層5、非汚染土砂層3、難透水性の透湿性シート層2及び砂利層1の順に積層された構造となっている。盛土構造2の高さは約3〜7mである。
【0038】
ドレーン層8は砕石層であり、ここから流出する水は、外部の側溝10を経て吸着処理設備に送られる。吸着層7は非汚染土壌に、フェロシアン化カリウムと二酸化鉄の1:10(重量比)混合物を、7wt%混合した材料から構成される。
【0039】
汚染土壌層5は、汚染土壌にフェロシアン化カリウムと二酸化鉄の1:10(重量比)混合物を、2wt%混合した上で、層を形成させる。汚染土壌層5の内部には2層の補強用ジオテキスタイル6が配置される。
【0040】
転圧して固められた汚染土壌層5の上には、非汚染土砂層3と難透水性の透湿性シート層2と砂利層1がある。この非汚染土砂層3は、吸着層7と同じ材料から形成される。難透水性の透湿性シート層2としてはゴアテックス、ADKシート等が使用される。砂利層1は5mmより大きい砂利が使用される。汚染土壌層5の上にある層の合計の厚みは50cmである。
【0041】
吸着層7で使用される吸着剤、及びセシウム移動抑制剤として機能する材料について、検討を行った例を次に示す。
【0042】
例1
モデル汚染液として、セシウム濃度が9mg/lとなるように市販の塩化セシウム試薬を用い、吸着競合物質としてナトリウム濃度が11000mg/lとなるように市販の塩化ナトリウム試薬を添加した水溶液を用意した。
この水溶液100ml中に、市販のフェロシアン化カリウム三水和物試薬1重量部と市販の水質浄化用の還元鉄粉(金属Fe:99.5%、粒度300メッシュ)1重量部をスーパーミキサーにて30秒混合して作成した吸着剤1gを添加し、25℃で6h攪拌し、接触させた。その後、水溶液を5Aのろ紙でろ過し、ろ液中のセシウム濃度を測定した。この時のセシウム吸着率及びセシウム吸着量を計算した結果を表1に示す。NDは非検出を意味する。
【0043】
例2
例1で使用したと同じモデル汚染液を使用し、この水溶液100ml中に、市販のフェロシアン化カリウム三水和物試薬1重量部と市販の水質浄化用の鋳鉄粉(T-Fe:94%、金属Fe:90%、C:3%、粒径:2mmアンダー品)1重量部をスーパーミキサーにて30秒混合して作成した吸着剤1gを添加し、25℃で6h攪拌し、接触させた。その後、水溶液を5Aのろ紙でろ過し、ろ液中のセシウム濃度を測定した。この時のセシウム吸着率及びセシウム吸着量を計算した結果を表1に示す。
【0044】
例3
例1で使用したと同じモデル汚染液を使用し、この水溶液100ml中に、市販のフェロシアン化カリウム三水和物試薬1重量部と市販の酸化鉄粉(T-Fe:70%、Fe2O3:34%、FeO:60%、金属Fe:0.4%、粒径:2mmアンダー品)1重量部をスーパーミキサーにて30秒混合して作成した吸着剤1gを添加し、25℃で6h攪拌し、接触させた。その後、水溶液を5Aのろ紙でろ過し、ろ液中のセシウム濃度を測定した。この時のセシウム吸着率及びセシウム吸着量を計算した結果を表1に示す。
【0045】
例4
例1で使用したと同じモデル汚染液を使用し、この水溶液100ml中に、市販のフェロシアン化カリウム三水和物試薬1重量部と、化学組成がT−Fe:20%、CaO:39%、SiO2:17%でSiO2/CaOが0.4である農業肥料用の製鋼スラグ粉末1重量部をスーパーミキサーにて30秒混合して作成した吸着剤1gを添加し、実施例1と同じ方法で、25℃で6h攪拌し、接触させた。その後、水溶液をろ過し、ろ液中のセシウム濃度を測定した。この時のセシウム吸着率及びセシウム吸着量を計算した結果を表1に示す。
【0046】
例5
放射線源としてウラン鉱石、放射線測定装置としてガイガーミュラー(GM)計数管式サーベイメータ、遮蔽材充填用容器として、外寸90mm×90mm×25mmの紙製容器を準備し、放射線源と放射線測定装置の間に遮蔽材充填用容器を設置した。放射線源と放射線測定装置間の距離は25mmとし、紙製容器の厚み25mmを通過させるように配置した。なお、紙製容器を配置しない場合の測定値は930カウント/分であり、空の紙製容器を配置した場合の測定値とほぼ同じである。
【0047】
例2で使用したと同じ吸着剤を紙製容器に充填して、放射線源と放射線測定装置の間に設置し、その時のガンマー線強度を測定した。その時の資材の充填密度、資材を充填せずに紙容器のみを設置して測定した場合の放射線強度を100とした時の放射線の測定強度比、ガンマー線遮蔽能力を表2に示す。
【0048】
例6
例5で使用したと同じ測定方法を用いて、市販の地学実習用オリビンサンド(岩本鉱産物商会(有)製、ハワイ産)のガンマー線強度を測定した。その時の、資材の充填密度、資材を充填せずに紙容器のみを設置して測定した場合の放射線強度を100とした時の放射線の測定強度比、ガンマー線遮蔽能力を表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1から上記吸着剤により、セシウムの除去が良好に行われることが分かる。また、表2から、上記吸着剤により、オリビンサンド等の重砂と同等以上の放射線の遮蔽が行われることが分かる。
【0052】
次に、ウラン鉱石を放射線源として用いた放射線の低減試験の例を示す。
【0053】
例7
ウラン鉱石からの放射線をGM計数管を用いて、線源からの距離を変化させて、放射線強度を測定した結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
例8
例7と同様な実験において、線源からの距離を25mm+紙容器厚みとし、その間に遮蔽剤を25mm厚みに充填した紙容器を配置して、放射線の減衰量を測定した結果を表4に示す
【0056】
【表4】

【0057】
表3及び4から、線源から25cm以上離せば、放射線量は約1/10に低減することが分かり、非汚染土壌等を間におけば更に低減することが分かる。したがって、非汚染土壌等を主体とする側壁等の厚みは25cm以上であれば、安全性が高いものとなる。
【符号の説明】
【0058】
1:砂利層、2:難透水性シート、3:非汚染土砂層、4:側壁、5:汚染土壌層、6:ジオテキスタイル、7:放射性物質の吸着層、8:ドレーン層、9:盛土の基盤層、10:側溝、11盛土構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質で汚染された汚染土壌又は廃棄物を盛土中に隔離して安全に保管するための盛土構造物であり、側壁と、側壁で周囲を囲まれた盛土構造を有し、該盛土構造は、下層からドレーン層、放射性物質の吸着層、汚染土壌層、非汚染土砂層、難透水性の透湿性シート層及び砂利層を有し、該汚染土壌層の少なくとも一部にはセシウム移動抑制剤及び硫化水素ガス発生抑制剤が混合されていること、側壁、及び汚染土壌層の上層に配置される層の厚みと材質は、放射線強度が1/10以下に減衰するものであること、及び該放射性物質は放射性セシウムを含むものであることを特徴とする放射性物質汚染土壌を保管するための盛土構造物。
【請求項2】
汚染土壌層内であって、その水平方向に盛土補強用のジオテキスタイルを1層以上配置する請求項1に記載の盛土構造物。
【請求項3】
放射性物質の吸着層は、フェロシアン化合物又はゼオライトを含む材料から構成される請求項1又は2に記載の盛土構造物。
【請求項4】
セシウム移動抑制剤が、フェロシアン化合物と、鉄、酸化鉄及び水酸化鉄から選ばれる鉄系材料との混合物、又はゼオライトであり、硫化水素ガス発生抑制剤が鉄、酸化鉄及び水酸化鉄から選ばれる鉄系材料である請求項1〜3のいずれかに記載の盛土構造物。
【請求項5】
セシウム移動抑制剤が、汚染土壌層内の汚染土壌に対し、1〜5wt%混合される請求項4に記載の盛土構造物。
【請求項6】
ドレーン層が、粒径の大きい砂利又は砕石を含む材料から構成される請求項1〜5のいずれかに記載の盛土構造物。
【請求項7】
非汚染土砂層には、セシウム移動抑制剤が混合されている請求項1〜6のいずれかに記載の盛土構造物。
【請求項8】
側壁が、ハニカム状に配列された樹脂製セルに放射線遮蔽材料を充填した構造の表面層を有する請求項1〜7のいずれかに記載の盛土構造物。
【請求項9】
ドレーン層からの流出水を処理する設備が不要の請求項1〜8のいずれかに記載の盛土構造物。
【請求項10】
放射性物質で汚染された土壌の表面を汚染土壌として剥ぎ取ること、これを側壁で囲まれ、下層からドレーン層、及び放射性物質の吸着層を配した構造物中間体に、汚染土壌を投入して汚染土壌層を形成すること、汚染土壌層の高さに応じて側壁の高さを伸ばすこと、所定高さの汚染土壌層と側壁が形成された後、非汚染土砂層、難透水性の透湿性シート層及び砂利層を設けることの各工程を含み、放射性物質で汚染された土壌の表面を汚染土壌として剥ぎ取る際に、セシウム移動抑制剤及び硫化水素ガス発生抑制剤を事前に散布すること、側壁、及び汚染土壌層の上層に配置される層の厚みと材質は、放射線強度が1/10以下に減衰するものとすること、及び該放射性物質は放射性セシウムを含むものであることを特徴とする放射性物質汚染土壌の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−79845(P2013−79845A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219266(P2011−219266)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000156581)日鉄住金環境株式会社 (67)
【出願人】(506060258)公立大学法人北九州市立大学 (3)
【出願人】(591041196)旭化成ジオテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】