説明

放射温度計およびその放射率補正方法

【課題】 汎用性が高く、自動的に放射率補正ができ、測定対象物に対応した高い測定精度を有する放射温度計を提供することを目的とする。
【解決手段】 被測定部Taからの放射赤外線を検出する赤外線検出器3と、被測定部Taの色彩を測定するカラーセンサ2と、少なくとも放射率記録モード時の被測定部Taの実測温度データ、赤外線検出器3出力データ、カラーセンサ2出力データおよびこれらを基に演算された放射率と色彩パターンを記憶するメモリと、少なくとも前記演算処理、温度測定モード時のメモリに記憶された情報を基に被測定部Taの放射率を特定する処理と該放射率を用いて被測定部Taの温度を演算する処理を行う演算処理部5を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射温度計およびその放射率補正方法に関するもので、特に、生産ライン等において放射率の異なる対象物の温度を測定する場合の放射温度計およびその放射率補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種製造プロセスにおいては、管理対象物質および各種の妨害物質の温度管理が不可欠となり、多様な部品や製品に対応できる精度の良い温度計が求められている。近年、測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する放射温度計が、基本的に測定対象物に非接触であることから各種プロセスのインラインモニターとしても有用であり、その特性を活かし多く用いられている。こうした放射温度計においては、測定対象物の放射率によって放射される赤外線エネルギーが異なることから、測定対象物となる各部品や製品ごとに予め求めた放射率を用いて補正した上で、温度を測定している。
【0003】
具体的には、測温の際の放射率の設定作業の効率化を目的とし、図6に例示するような放射温度計が提案され、以下の構成が開示されている。放射温度計100に放射率メモリ回路105が設けられる。放射率メモリ回路105の複数のチャンネルに物体の放射率が予め記憶される。ユーザは、測温時に、操作回路108により、測定対象物の放射率が記憶されたチャンネルを選択する。CPU106は、赤外線検出素子102により検出された検出温度、温度センサ103により測定された内部温度および放射率メモリ回路105から読み出された放射率に基づいて測定対象物の実際の温度を算出する(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平07−324981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の放射温度計では、以下のような課題が生じることがある。
【0006】
(i)放射率補正に用いる放射率を、生産プロセスに導入される部品や製品ごとに設定あるいは選択する必要があり、従前、一般には、マニュアル操作あるいは部品コードや製品コードから読み取る等の操作を必要としていた。このため、生産ラインでの自動操作は難しく、あるいは逆に現物の確認が不十分となることがあった。
【0007】
(ii)大きな部品、あるいは複雑な構造の部品や製品にあっては、1つの測定対象物の複数の箇所あるいは方向によって放射率が異なることがあり、代表とされる放射率によって補正すると、精度のよい測定がえられない場合があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記のような問題点を解決し、汎用性が高く、自動的に放射率補正ができ、測定対象物に対応した高い測定精度を有する放射温度計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す放射温度計により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は、対象物の被測定部の放射赤外線から該被測定部の温度を測定する放射温度計であって、前記被測定部からの放射赤外線を検出する赤外線検出器と、被測定部の色彩を測定するカラーセンサと、少なくとも放射率記録モード時の被測定部の実測温度データ、前記赤外線検出器出力データ、カラーセンサ出力データおよびこれらを基に演算された放射率と色彩パターンを記憶するメモリと、少なくとも前記演算処理、温度測定モード時の前記メモリに記憶された情報を基に被測定部の放射率を特定する処理と該放射率を用いて被測定部の温度を演算する処理を行う演算処理部を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、放射温度計の放射率補正方法であって、赤外線検出器およびカラーセンサを内蔵し、対象物の被測定部の放射赤外線から該被測定部の温度を測定する放射温度計において、放射率記録モードと温度測定モードとの切換が可能で、以下のステップに基づき、放射率補正を行い、被測定部の温度を演算することを特徴とする。
(1)放射率記録モード
(1−1)既知の対象物を複数準備し、そのうちの1つの被測定部を加熱するとともに、基準となる温度計によって該被測定部の温度を測定する。
(1−2)放射温度計を放射率記録モードにして前記被測定部の放射率測定を開始するとともに、前記カラーセンサによって該被測定部の色彩を測定する。
(1−3)測定された温度と放射赤外線から前記被測定部の放射率を算出するとともに、測定された色彩から色彩パターンを算出する。
(1−4)既知の対象物の情報として、算出された放射率と色彩パターンをセットで記憶する。
(1−5)材質の異なる他の被測定部あるいは他の既知の対象物についても同様の測定を行い、放射率測定結果と前記出力パターンを記憶しておく。
(2)温度測定モード
(2−1)未知の対象物を測定し、被測定部の色彩および放射赤外線を測定する。
(2−2)測定された色彩から、上記(1−4)において記憶された色彩パターンとの類似度を算出し、記憶された既知の対象物の情報から対象物を特定する。
(2−3)特定された対象物の情報から、記憶している放射率を読み出す。
(2−4)特定された対象物に対応する放射率値を使い、測定された放射赤外線の温度を計算し表示、出力する。
【0012】
上記のように、放射温度計による測定対象物の温度測定においては、放射率補正が必ず必要となる一方、これを自動化することは困難であった。本発明は、予め特定の対象物あるいは被測定部についての特定の温度での基準となる放射率を算出し、実測時における対象物あるいは被測定部を特定した後に、実測時の放射赤外線の測定値を当該基準となる放射率を用いて補正するものである。このとき、被測定物の色彩情報が被測定物の固有の情報となりうること、特に、複数の色彩要素のパターンとの間には強い相関関係があることから、こうした色彩情報を基に被測定部を特定することができ、その結果、正確な放射率補正が可能となった。これによって、汎用性が高く、自動的に放射率補正ができ、測定対象物に対応した高い測定精度を有する放射温度計あるいはその放射率補正方法を提供することが可能となった。
【0013】
また、本発明は、放射温度計の放射率補正方法であって、赤外線検出器およびカラーセンサを内蔵し、対象物の被測定部の放射赤外線から該被測定部の温度を測定する、放射率記録モードと温度測定モードとの切換が可能な放射温度計において、前記放射率記録モードにおいて記憶した既知の対象物の2点a,bの被測定部を測定した色彩パターンと放射率を用い、前記温度測定モードにおける対象物の色彩パターンとの類似度から、下式1〜3により、該対象物の放射率εxを算出し、対象物の温度を計算することを特徴とする。
Da=√((Ra−Rx)+(Ga−Gx)+(Ba−Bx)) ・・式1
Db=√((Rb−Rx)+(Gb−Gx)+(Bb−Bx)) ・・式2
εx=(εa*Da+εb*Db)/(Da+Db) ・・式3
ここで、Da:被測定部a点の色彩パターンの類似度
Db:被測定部b点の色彩パターンの類似度
εa:a点の放射率、[Ra,Ga,Ba]:a点の色彩パターン
εb:b点の放射率、[Rb,Gb,Bb]:b点の色彩パターン
[Rx,Gx,Bx]:温度測定時の色彩パターン
【0014】
上記の放射温度計の放射率補正方法においては、予め測定し記憶された色彩情報から、対象物の放射率を特定し、この放射率を用いて補正を行った。しかしながら、連続的に表面状態が変化する場合のように、対象物によってはこうした記憶された色彩情報との関係をそのまま使用することが適正でない場合がある。本発明は、こうした対象物に対する放射温度計の放射率補正方法を検証した結果、予め測定し記憶された既知の対象物の被測定部a点,b点の色彩情報のうちの色彩パターンと、対象物の被測定部の色彩パターンとの類似度から、対象物の放射率を算出することによって、適正な補正が可能であることを見出したもので、これによって、測定対象物に対応したさらに高い測定精度を有する放射温度計の放射率補正方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明に係る放射温度計は、被測定部からの放射赤外線を検出する赤外線検出器と、被測定部の色彩を測定するカラーセンサと、少なくとも放射率記録モード時の被測定部の実測温度データ、赤外線検出器出力データ、カラーセンサ出力データおよびこれらを基に演算された放射率と色彩パターンを記憶するメモリと、少なくとも前記演算処理、温度測定モード時の前記メモリに記憶された情報を基に被測定部の放射率を特定する処理と該放射率を用いて被測定部の温度を演算する処理を行う演算処理部を有することを特徴とする。
【0016】
<本発明に係る放射温度計の基本的な使用態様およびその構成例>
図1および図2は、本発明に係る放射温度計の基本的な使用態様およびその構成例を示す。図1には、対象物Tと、その一部の被測定部Taからの「色彩情報」と「放射赤外線情報」を検出する放射温度計10が示されている。放射温度計10は、センサ部10aと操作表示部10bとからなり、「色彩情報」から対象物Tを特定し、当該被測定部Taの放射率を算出し、その放射率を基に「放射赤外線情報」から被測定部Taの温度を算出することができる。
【0017】
図2は、放射温度計10の詳細な構成を示す。センサ部10aには、対象物Tの被測定部Taに可視光を含む光を照射する白色光源1と、その反射光を含む被測定部Taからの光を受光するカラーセンサ2と、被測定部Taからの赤外線を受光する赤外線検出器3と、温度測定の基準となる補償用温度センサ4とが備えられている。また、操作表示部10bには、白色光源1を駆動する駆動回路1aと、カラーセンサ2を駆動しその出力を受信する対象物識別回路2aと、赤外線検出器3および補償用温度センサ4を駆動しその出力を受信する温度検出回路3aと、温度測定モードと放射率記録モードの切換および、これらの回路からの出力をA/D変換等処理後に記憶するとともに、これらの出力を基に演算された放射率と色彩パターンを記憶し、これらの演算処理、温度測定モード時に記憶された情報を基に被測定部の放射率を特定する処理と該放射率を用いて被測定部の温度を演算する処理を行う演算処理部5が備えられている。また、後述するように、演算処理部5には放射率記録モード時の被測定部の実測温度データが入力され、基準となる放射率が演算されて記憶される。
【0018】
なお、ここでは、演算処理部5内に、温度測定モードと放射率記録モードの切換機能や各回路からの出力等を記憶する機能を有する場合を示したが、これらを別途の切換機構やメモリとして操作表示部10bに備えることも可能である。
【0019】
白色光源1は、「色彩情報」を得るための投光部に相当し、広く可視光を含む光を発光する光源をいい、例えば、白色蛍光ランプや発光ダイオード(LED)などを使用することができる。被測定部Taに集光して照射スポットを形成するために、発光部に集光レンズを設けた光源を用いることが効率的で好ましい。連続点灯式のタイプ以外に特定の周波数でON−OFFさせる変調式のタイプがある。なお、被測定部Taに十分な照度で安定した照明光が当っている場合は、白色光源1が不要となる場合がある。
【0020】
また、カラーセンサ2は、「色彩情報」を得るための受光部に相当し、白色光源1から照射された光を受光する。被測定部Taの特定に必要な複数の色彩を検出することが必要となり、例えば、半導体センサ、フォトセル、フォトダイオードなどの光センサに光学フィルタを装着した検出器などを挙げることができる。本構成例においては、後述するように測定精度の面において、光の三原色である赤色、青色、緑色に分解して検出可能な検出器が好ましい。ただし、こうした検出器に限定されるものではなく、2つあるいは4以上の異なる波長域の光を区別して検出可能でなれば、同様の基本的な機能を実現可能である。また、可視光のみに限られず、近赤外域の光などとの組合せも可能である。
【0021】
なお、上記の構成例では、白色光源1とカラーセンサ2を組合せた場合を例示したが、彩色の異なる複数のLEDと光センサとの組合せでも、同様の機能を実現することができる。このとき、それぞれのLEDを異なる周波数(例えば赤色1Hz,青色2Hz,緑色4Hz等)で変調すれば、1つの光センサを用い、その出力を各周波数のバンドパスフィルタで信号処理(あるいは同期整流処理)することによって、同時に複数色の測定が可能になる。光源の波長域の選択性は、白色蛍光ランプやLEDの特性によって選定可能な場合には、例えば赤色LEDや青色LEDまたは白色LEDなどの素子を利用することによって確保することができる。また、こうした素子での選択性の確保ができない場合には、光源に所望の波長域を透過する光学フィルタを用いることによって選択性を確保することができる。
【0022】
赤外線検出器3は、被測定部Taから放射される赤外線を受光可能な検出器をいい、例えば、焦電型検出器(パイロセンサ)やサーモパイルセンサあるいはフォトダイオードなどを挙げることができる。受光部に集光レンズを設けることによって効率的で検出感度の高い検出器を構成することができる。
【0023】
また、補償用温度センサ4は、赤外線検出器3の使用温度におけるバックグランドを補償するための検出器であり、例えば、サーミスタや白金測温体等を挙げることができる。
【0024】
以上の構成からなる放射温度計を用いることによって、生産ライン等において放射率の異なる対象物の温度を測定する場合において、自動的に放射率補正ができ、測定対象物に対応した高い測定精度を有する温度測定が可能となった。具体的には、以下のような適用対象を挙げることができる。
(i)工場の生産ラインで、放射率の異なる複数種の部品の温度測定を行う場合
(ii)工場の生産ラインで、コンベアに流れる部材の温度測定で放射率が対象物の部位によって異なる場合
(iii)設備メンテナンスで定期的に特定の監視ポイント(トランス、配電盤)などの温度を放射温度計で測定する場合
【0025】
<本発明に係る放射温度計の放射率補正方法>
次に、本発明に係る放射温度計の放射率補正方法について述べる。予め特定の対象物あるいは被測定部についての特定の温度での基準となる放射率を算出し、実測時における対象物あるいは被測定部を特定した後に、実測時の放射赤外線の測定値を当該基準となる放射率を用いて補正するものである。具体的には、図3に示すように、放射率記録モードと温度測定モードの2つのモードを有する方法であって、後述する各工程から構成される。
【0026】
〔放射率記録モード〕
放射率記録モードは、温度測定時の対象物Tの特定およびその補正に係る放射率の特定において必要とされる「色彩情報」を確保するための重要なプロセスとなる。はじめに、放射率εの算出方法の基本的な考え方を例示する。
(i)対象物T(被測定部Ta)の温度をTx、背景温度をTb、放射温度計の特性関数をf(T)とする。
(ii)このとき、温度Txは、熱電対などの温度センサで測定することによって定まり、対象物3の放射率εは、次式4で求められる。
ε=(f(Td)−f(Tb))/(f(Tx)−f(Tb)) ・・式4
正確にはTbは、何らかの手段で測定するのが望ましいが、赤外線検出器3の温度Ts≒Tbとみなせる場合は、Tsで代用できる。
【0027】
具体的には、以下の各工程から構成される。操作の概要は、図4に例示する。
(1−1)既知の対象物を複数準備し、そのうちの1つの被測定部S1を加熱するとともに、基準となる温度計によって該被測定部の温度を測定する。
例えば、特定の生産ライン等における部品や製品のうちの1つ(対象物T)を用意し、図4に示すように、対象物T全体あるいはその一部を被測定部Taとして、被測定部Taを例えば50〜100℃程度に加熱するとともに、熱電対6を被測定部Taに取付けて温度測定をする。被測定部Taの加熱は、プレート等に対象物Tを配置し、安定した状態で測定することが好ましい。
【0028】
(1−2)放射温度計を放射率記録モードにして前記被測定部の放射率測定を開始するとともに、前記カラーセンサによって該被測定部の色彩を測定する。
図4に示すように、放射温度計10のセンサ部10aをセットし、被測定部Taに白色光源(図示せず)からの光を所定のスポット径を有するように照射した状態で、操作表示部10bによって放射温度計10を放射率記録モードにして被測定部Taの放射率測定を開始するとともに、カラーセンサ(図示せず)によって被測定部Taの色彩を測定する。なお、測定箇所に安定した照明光が当っている場合は、光源はなくても構わない。
【0029】
(1−3)測定された温度と放射赤外線から前記被測定部の放射率を算出するとともに、測定された色彩から色彩パターンを算出する。
操作表示部10bにおいて、上記(1−2)によって測定された温度と放射赤外線を基に、被測定部Taの放射率εを演算するとともに、色彩パターンを算出する。色彩パターンは、既述のように複数の波長域のセンサ出力を用いるが、ここでは、三原色の各センサ出力によって表現する。具体的には、色彩パターンの比較においては、(i)各センサ出力をそのまま三次元データ(ベクトル)として表現する方法(つまり、x点における色彩パターン[Rx,Gx,Bx]とする)や、(ii)各センサ出力を正規化したベクトルとして表現する方法(つまり、x点における色彩パターン[Rx’,Gx’,Bx’]=[Rx/X,Gx/X,Bx/X」とする。ここで、X=√(Rx+Gx+Bx))などがあり、任意に設定することができる。なお、このとき、色彩パターン測定を、3色ではなく、2色あるいは4色以上のセンサ出力を用いて行うことが可能である。
【0030】
(1−4)既知の対象物の情報として、算出された放射率と色彩パターンをセットで記憶する。
得られた被測定部Taの放射率εと色彩パターンは、「被測定部Ta」の「放射率情報」と「色彩情報」として、「被測定部Ta」、「放射率情報」および「色彩情報」のいずれかの情報入力に対しても、関連して読み出し可能な状態で記憶する。具体的には、例えば被測定部の2点a,bを測定した結果として、その色彩パターンを、それぞれ[Ra,Ga,Ba]、[Rb,Gb,Bb]とし、放射率を、それぞれεa,εbとする。
【0031】
(1−5)材質の異なる他の被測定部あるいは他の既知の対象物についても同様の測定を行い、放射率測定結果と色彩パターンを記憶しておく。
上記(1−1)〜(1−4)は、特定の生産ライン等における部品や製品のうちの1つの被測定部Taにおける「放射率情報」および「色彩情報」を確保する工程を示したが、材質の異なる他の被測定部あるいは他の既知の部品や製品についても同様の測定を行い、放射率測定結果と前記出力パターンを記憶しておくことによって、後述する未知の対象物の特定が可能となる。
【0032】
〔温度測定モード〕
温度測定モードは、未知の対象物の温度測定時の「色彩情報」から対象物Tの特定し、特定された放射率を基に「放射赤外線情報」から被測定部Taの温度を算出するプロセスとなる。被測定部Taの温度は、検出器温度Ts≒背景温度Tbとみなせることから、対象物温度Txは次式5で算出することができる。
Tx=f−1(G・Vx/ε+f(Ts)) ・・式5
G:基準黒体炉を使った校正で求める係数
【0033】
具体的には、以下の各工程から構成される。操作の概要は、図5に例示する。
(2−1)未知の対象物を測定し、被測定部の色彩および放射赤外線を測定する。
特定の生産ラインのコンベアに配置された未知の対象物T1,T2,T3,T4・・(図5の例では、部品AとBが混在し、対象物T2は部品Bに該当するものとする)に対して、本発明に係る放射温度計10のセンサ部10a配設し、例えば、図5に示すように、対象物T2を測定し、被測定部T2aの色彩および放射赤外線を測定する。
【0034】
(2−2)測定された色彩から色彩パターンを算出し、記憶されている既知の対象物の情報から対象物を特定する。
操作表示部10bにおいて、カラーセンサ(図示せず)からの出力パターンから色彩パターンを算出し、上記(1−4)において記憶された既知の対象物の「色彩情報」から対象物T2を特定する。つまり、予め登録された対象物ごとの色彩パターンとの類似度を判断し、対象物T2は、最も類似する色彩パターンに対応する部品Bと特定される。
【0035】
(2−3)特定された対象物の情報から、記憶している放射率を読み出す。
次に、特定された部品Bの被測定部T2aに関連して操作表示部10bにおいて記憶されている「放射率情報」から、該当する放射率εを読み出す。
【0036】
(2−4)特定された対象物に対応する放射率値を用い、測定された放射赤外線の温度を計算し表示、出力する。
このときの赤外線検出器3の出力つまり測定された放射赤外線、特定された部品Bに関連する放射率ε、および赤外線検出器3の温度Ts(および背景温度Tb)から、上式5を用いて、操作表示部10bにおいて、対象物温度Txを演算し、表示、出力する。
【0037】
〔上記放射率補正方法の展開〕
さらに、上記放射率補正方法の応用として、「放射率記録モード」において記憶した既知の対象物の被測定部を測定した色彩パターンと放射率を用い、「温度測定モード」における対象物の色彩パターンとの類似度から、該対象物の放射率を算出し、対象物の温度を計算することができる。つまり、連続的に表面状態が変化する場合のように、上記放射率補正方法の適用が適正でない場合、予め測定し記憶された既知の対象物の被測定部a点,b点の色彩情報のうちの色彩パターンと、被測定部を測定したセンサ出力から得られる色彩パターンとの類似度から、対象物の放射率を算出することによって、測定対象物に対応した精度の高い放射率を算出し、さらに高い測定精度を確保することが可能となる。
【0038】
具体的には、「放射率記録モード」において記憶された2点aおよびbの被測定物における色彩パターンを、各々[Ra,Ga,Ba]および[Rb,Gb,Bb]とし、放射率を、各々εaおよびεbとすると、「温度測定モード」における対象物の被測定部Taの色彩パターン[Rx,Gx,Bx]から、下式1〜3によって、上記2点aおよびbの色彩パターンとの類似度DaおよびDbを算出し、さらに該対象物の被測定部Taの放射率εxを算出することができる。
Da=√((Ra−Rx)+(Ga−Gx)+(Ba−Bx)) ・・式1
Db=√((Rb−Rx)+(Gb−Gx)+(Bb−Bx)) ・・式2
εx=(εa*Da+εb*Db)/(Da+Db) ・・式3
従って、この放射率εxを基に、上式5を用いて被測定部Taの温度を算出することができる。
【0039】
以上の放射温度計の放射率補正方法によって、赤外線検出器とは別に、対象物の種類を特定し、温度演算に必要な放射率の値を自動的に選択することができ、実測している被測定部の温度を演算することができる。従って、生産ライン等において放射率の異なる対象物の温度を測定する場合において、自動的に放射率補正ができ、測定対象物に対応した高い測定精度を有する温度測定が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る放射温度計の構成例を示す説明図
【図2】本発明に係る放射温度計の構成例の詳細を例示する説明図
【図3】本発明に係る放射温度計の放射率補正方法における工程を例示する説明図
【図4】本発明に係る放射温度計の放射率記録モードを例示する説明図
【図5】本発明に係る放射温度計の温度測定モードを例示する説明図
【図6】従来技術に係る放射温度計の構成例を示す説明図
【符号の説明】
【0041】
1 白色光源
1a 駆動回路
2 カラーセンサ
2a 対象物識別回路
3 赤外線検出器
3a 温度検出回路
4 補償用温度センサ
5 演算処理部
10 放射温度計
10a センサ部
10b 操作表示部
S 対象物
Sa 被測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の被測定部の放射赤外線から該被測定部の温度を測定する放射温度計であって、前記被測定部からの放射赤外線を検出する赤外線検出器と、被測定部の色彩を測定するカラーセンサと、少なくとも放射率記録モード時の被測定部の実測温度データ、前記赤外線検出器出力データ、カラーセンサ出力データおよびこれらを基に演算された放射率と色彩パターンを記憶するメモリと、少なくとも前記演算処理、温度測定モード時の前記メモリに記憶された情報を基に被測定部の放射率を特定する処理と該放射率を用いて被測定部の温度を演算する処理を行う演算処理部を有することを特徴とする放射温度計。
【請求項2】
赤外線検出器およびカラーセンサを内蔵し、対象物の被測定部の放射赤外線から該被測定部の温度を測定する放射温度計において、放射率記録モードと温度測定モードとの切換が可能で、以下のステップに基づき、放射率補正を行い、被測定部の温度を演算することを特徴とする放射温度計の放射率補正方法。
(1)放射率記録モード
(1−1)既知の対象物を複数準備し、そのうちの1つの被測定部を加熱するとともに、基準となる温度計によって該被測定部の温度を測定する。
(1−2)放射温度計を放射率記録モードにして前記被測定部の放射率測定を開始するとともに、前記カラーセンサによって該被測定部の色彩を測定する。
(1−3)測定された温度と放射赤外線から前記被測定部の放射率を算出するとともに、測定された色彩から色彩パターンを算出する。
(1−4)既知の対象物の情報として、算出された放射率と色彩パターンをセットで記憶する。
(1−5)材質の異なる他の被測定部あるいは他の既知の対象物についても同様の測定を行い、放射率測定結果と前記色彩パターンを記憶しておく。
(2)温度測定モード
(2−1)未知の対象物を測定し、被測定部の色彩および放射赤外線を測定する。
(2−2)測定された色彩から、上記(1−4)において記憶された色彩パターンとの類似度を算出し、記憶された既知の対象物の情報から対象物を特定する。
(2−3)特定された対象物の情報から、記憶している放射率を読み出す。
(2−4)特定された対象物に対応する放射率値を使い、測定された放射赤外線の温度を計算し表示、出力する。
【請求項3】
赤外線検出器およびカラーセンサを内蔵し、対象物の被測定部の放射赤外線から該被測定部の温度を測定する、放射率記録モードと温度測定モードとの切換が可能な放射温度計において、
前記放射率記録モードにおいて記憶した既知の対象物の2点a,bの被測定部を測定した色彩パターンと放射率を用い、前記温度測定モードにおける対象物の色彩パターンとの類似度から、下式1〜3により、該対象物の放射率εxを算出し、対象物の温度を計算することを特徴とする放射温度計の放射率補正方法。
Da=√((Ra−Rx)+(Ga−Gx)+(Ba−Bx)) ・・式1
Db=√((Rb−Rx)+(Gb−Gx)+(Bb−Bx)) ・・式2
εx=(εa*Da+εb*Db)/(Da+Db) ・・式3
ここで、Da:被測定部a点の色彩パターンの類似度
Db:被測定部b点の色彩パターンの類似度
εa:a点の放射率、[Ra,Ga,Ba]:a点の色彩パターン
εb:b点の放射率、[Rb,Gb,Bb]:b点の色彩パターン
[Rx,Gx,Bx]:温度測定時の色彩パターン

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−32385(P2010−32385A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195237(P2008−195237)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】