説明

放射線検出器及びその製造方法

【課題】優れた防湿性能を確保しつつ、実用画素領域に対して基板サイズや筐体の縦横寸法を最小限に抑えた放射線検出器を提供する。
【解決手段】光電変換素子が複数設けられた画素エリアと画素エリアから引出される内部配線層6とを備えるアレイ基板12と、アレイ基板12の画素エリア上に設けられるシンチレータ層13と、アレイ基板12の周囲で内部配線層6に接続されるとともに外部配線9と接続する接続部5と、シンチレータ層13を覆うべく鍔部15aを有するハット状に形成される防湿層15と、鍔部15a及びアレイ基板12を接着する接着層16とを備える放射線検出器において、接着層16は、接続部5の上方で鍔部15aの少なくとも一部とアレイ基板12とを接着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出する放射線検出器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新世代のX線診断用検出器として、アクティブマトリクスを用いた平面形の放射線検出器が開発されている。この放射線検出器に照射されたX線を検出することにより、X線撮影像、あるいはリアルタイムのX線画像がデジタル信号として出力される。
【0003】
放射線検出器は、一般に、X線を可視光すなわち蛍光に変換するシンチレータ層と、この蛍光をアモルファスシリコン(a−Si)フォトダイオード、あるいはCCD(Charge Coupled Device)などの光電変換素子で信号電荷に変換する光電変換部と、シンチレータ層などを外部雰囲気から保護して湿度などによる特性の劣化を抑える防湿構造とを備えている。
【0004】
上記防湿構造として、ポリパラキシリレン(以下、「パリレン」と記す)のCVD膜を用いる方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、パリレンCVD膜を用いる方法の場合、少なくとも実用的な膜厚範囲(例えば20μm)では透湿バリア性が不十分な場合が多い。
【0006】
これに対して、AL箔等のハット状の防湿層を周辺部で基板と接着封止して防湿性能を保つ方法(例えば、特許文献2参照)がある。
【0007】
この方法は、シンチレータを覆う形にAL合金などの防湿層を形成してその周辺部に鍔(つば)部を設け、鍔部を基板と接着シールするものである。この方法に拠れば、アルミ合金箔や有機/無機積層膜などの防湿層材料の選定とハット状の形状により、実質的に透湿を無視できるレベルの防湿層でシンチレータの大部分を覆う構造が可能となる。加えて、ハット状防湿層の鍔の部分を接着部として用いることで、接着層と基板との間は薄い接着層(透湿断面積を小さく抑えられる)として、かつ接着層の幅を鍔の部分の幅程度まで広く確保することができる。しかもハット状防湿層自体は必要以上に厚くする必要がないため、X線や放射線の吸収によるロスも極めて小さく抑えられる。例えば、アルミ合金や無機膜/有機膜積層防湿層ではではピンホールを生じない程度の厚み(概ね30μm程度以上)があれば防湿性は十分である。従って、接着層からの透湿率を最小限に抑えてなおかつX線ロスも小さい、高い検出能力の放射線検出器が実現可能である。
【0008】
上記透湿率に関して近似式を使って説明すると、防湿構造全体の透湿率は概略以下の(1)式で表せる。
【0009】
Q(Total)=Q(防湿層)+Q(接着層)・・・(1)
また、Q(接着層)は、さらに以下の(2)式で表せる。
【0010】
Q(接着層)=P(接着層)・S(接着層)/W(接着層)
=P(接着層)・L(接着層)・T(接着層)/W(接着層)
・・・(2)
(Q:透湿率、P:透湿係数、S:透湿断面積、W:幅、L:周長、T:接着層厚み)
接着層材質の透湿係数Pを低減する手法としては、接着層に用いる接着剤にAlやタルクなどの無機フィラー材を添加する方法が有効である。フィラーは、接着層の中で透湿パスを制限して実効的な透湿断面積を低下し、透湿距離を延長する。
【0011】
また、(2)式から分かる通り、接着層からの透湿率を抑えるために、接着層の幅W(接着層)の値を大きく取ることが望ましい。具体的には、例えば5mm程度の接着層幅W(接着層)を確保できるように、基板内のシンチレータ層エリア(実用アクティブエリア)と周辺回路への配線及びその接続部との間隔を取る必要がある。実用上では、防湿層の鍔部と基板との位置ズレマージンや接着材の食み出しも考慮した接着層エリアを確保する必要が有り、鍔部が5mmの設計の場合でも、その両端に夫々3mm(2〜4mm)程度は最低限の余裕代を持たせる必要がある。さらに、この接着層領域は、制御線側と信号線側との両方に必要であり、また設計により夫々基板の両側に配線及びその接続部を有する場合も多い。その場合には、接着層に対して確保するエリアも基板の夫々両側に設ける必要がある。
【0012】
これらの点を合わせると、例えば基板の上下左右に夫々11mm程度、接着層およびそのマージン代に供するエリアが必要となる。このため、実用画素領域に対して基板のサイズがその分大きくなり、筐体の寸法も接着層の領域に相当するサイズ分だけ縦横寸法を大きく確保する必要がある。
【0013】
図13に、AL箔等のハット状の防湿層を設けた放射線検出器の具体的な寸法例を示す。
【0014】
この放射線検出器50では、表面に信号線や制御線などの内部配線層6が形成されたアレイ基板12の表面に、シンチレータ層13、反射膜14が順に積層され、さらにこれらを覆うように形成されたALハットの防湿層15が鍔部15aで接着層16によりアレイ基板12と接着されている。また、アレイ基板12の表面に設けられた内部配線層6の先端部にはTABパッド7が形成されており、異方性導電フィルム(ACF)層8を介してFPC配線層9と接続されている。
【0015】
ここで、本放射線検出器50では、アレイ基板12のX線画像を取得することができる画素エリア(アクティブエリア)を、X方向Y方向ともに夫々約440mmとし、シンチレータ層13を形成するCsI蒸着エリアも、蒸着時の位置ズレマージンや回り込みを考慮して446mm□としている。
【0016】
また、シンチレータ層13を蒸着するエリアの外側に、ALハットの鍔部15aを接着する為の接着層16のエリアとして、鍔部の幅5mmと、これに加えて鍔部とアレイ基板との製造時の位置ズレマージン及び接着材の食み出しマージンを見込んで、内側に2mm、外側に4mmの余裕代を確保している。
【0017】
これらの余裕代は、ALハット鍔部15aとアレイ基板12との製造時の位置ズレマージン、接着材の食み出しに対するマージン分である。内側の余裕代の方が小さい理由は2点ある。1点目は、ALハット鍔部15a外側の接着材の食み出しがTABパッド7のエリアには絶対許されないのに対して、内側のシンチレータ層13側に少し染み出しても許容できる点、2点目は、防湿層15のALハット自体がシンチレータ層13(例えばCsI:Tl蒸着膜の裾野)に多少かかっても許容できるためである。
【0018】
これら必要寸法を考慮して、TABパッド7内側端までの防湿エリア外寸は468mm□となり、そのエリアに接する外側の領域から2mmのTABパッド7を配している。
【0019】
この放射線検出器50では、TABパッド7領域より外側は約3mmの間を取ってアレイ基板12の端面が来るようにカットされている。これらの結果、パネルサイズは478mm□となっている。
【0020】
このような構造を有する放射線検出器50は、図14に示す手順で製造される。
【0021】
先ず、図14(a)に示すように、防湿層15として、周囲に5mmの鍔部15aを有するALハットを用い、ALハットを専用のトレイ31に重し32を載せた状態で逆さまにセットする。
【0022】
次に、鍔部15aをアセトンで清浄化した後に、図示しないディスペンサー装置を用いて図14(b)に示すように加熱硬化型の接着シール材33を1mg/mm程度の量で鍔部15a一周にわたって塗布する。ここで、接着シール材33は、その粘度は約300Pa・secの高粘度タイプを用いることができる。
【0023】
また、上記防湿層15が形成されるアレイ基板12は以下のようにして準備する。
【0024】
先ず、表面に所定の内部配線層6及びTABパッド7を形成したアレイ基板12上に、シンチレータ層13としてCsI:Tl膜を約600μmの膜厚で蒸着する。この際、蒸着時のマスク冶具とアレイ基板12との位置ずれを見込んでも上記の画素エリア(アクティブエリア)を完全に覆うように、蒸着マスクの開口寸法は約444mm□とされる。実際には蒸着マスク寸法に対して上下左右で夫々1mm程度の回り込みがあるので、先に述べたように概ね446mm□程度のCsI:Tl膜蒸着エリアを見込む設計とされる。
【0025】
次に、シンチレータ層13上に、TiOの細粒を樹脂バインダと混合したタイプの反射膜14を約100μmの膜厚で形成する。反射膜14の特性(蛍光反射率や反射膜内部での蛍光の広がりなど)は、輝度優先や解像度優先などの用途により選択できる。また、用途によっては反射膜14を省く場合や、反射膜14の代わりに蛍光吸収膜を形成して、輝度を犠牲にしても解像度の良い特性を求める場合もある。
【0026】
次に、図14(c)に示すように、減圧チャンバ34内で、シンチレータ層13を形成したアレイ基板12(反射膜14は図示されていない)を治具35を用いて逆さまにした状態で防湿層15と対向させてセットする。
【0027】
さらに、図14(d)に示すように、加圧板37を用いて図示しないエアシリンダによる加圧により貼り合せ、密着させる鍔部への圧力が概ね2kgf/cmになる荷重を加えて密着させる。
【0028】
その後、ある程度の加重を加えた状態で60℃の加熱オーブン内にて約3時間加熱する。
【0029】
このようにして、ALハットの鍔部15aは、図13に示すように、アレイ基板12の接着層16エリアに接着された状態で収まるものとなる。
【0030】
以上の防湿構造形成後に、実装工程によりTABパッド7にFPC配線層9の接続電極部を異方性導電フィルム(ACF)層8を介して熱圧着し、さらに筐体に組み込んで回路基板と接続して動作する状態としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】米国特許第6262422号明細書
【特許文献2】特開2009−128023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
しかしながら、上記の構造を有する放射線検出器50では、例えばアレイ基板12の上下左右に夫々11mm程度、接着層16およびそのマージン代に供するエリアが必要となる。このため、実用画素領域に対して基板のサイズがその分大きくなり、筐体の寸法も接着層16の領域に相当するサイズ分だけ縦横寸法を大きく確保しなければならない。
【0033】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、優れた防湿性能を確保しつつ、実用画素領域に対して基板サイズや筐体の縦横寸法を最小限に抑えた放射線検出器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上述の目的を達成するため、本発明の放射線検出器は、蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が複数設けられた画素エリアと前記画素エリアから引出される内部配線層とを備える基板と、前記基板の前記画素エリア上に設けられ入射する放射線を蛍光に変換するシンチレータ層と、前記基板の周囲で前記内部配線層に接続されるとともに外部配線と接続する接続部と、前記シンチレータ層を覆うべく鍔部を有するハット状に形成され前記シンチレータ層を外部の湿気から保護する防湿層と、前記防湿層の前記鍔部及び前記基板を接着する接着層とを備える放射線検出器において、前記接着層は、前記接続部の上方で前記鍔部の少なくとも一部と前記基板とを接着していることを特徴とする。
【0035】
また、上述の目的を達成するため、本発明の放射線検出器の製造方法は、鍔部を有するハット状に防湿層を形成する工程と、前記鍔部の少なくとも一部に接着材を塗布する工程と、光電変換素子が複数設けられた画素エリアと前記画素エリアから引出される内部配線層とを備える基板を用意し、シンチレータ層を前記基板の前記画素エリア上に設けるとともに、前記基板の周囲で前記内部配線層に接続された接続部において外部配線を接続する工程と、前記接続部の上方で前記鍔部の少なくとも一部と前記基板とを減圧雰囲気下で前記接着材を介して貼り合わせる工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、防湿性能に優れ、かつ実効画素エリアに対して基板のサイズを小さく抑えて筐体の縦横寸法を最小化することにより、防湿信頼性と軽量コンパクト性を兼ね備えた放射線検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る放射線検出器の一実施の形態を示す斜視図。
【図2】同放射線検出器の断面図。
【図3】同放射線検出器の模式断面図。
【図4】同放射線検出器の製造方法を示す断面図であり、(a)はハット状に形成した防湿層を逆さまに準備した状態、(b)は防湿層の鍔部にシール材を塗布した状態、(c)は減圧チャンバ内に所定の層を形成したアレイ基板と防湿層とをセットした状態、(d)はアレイ基板と防湿層とをエアシリンダで加圧した状態。
【図5】本発明に係る放射線検出器の他の実施の形態を示す模式断面図。
【図6】実施例1において60℃−90%RH加温加湿試験を行った場合の防湿性能の変化を示すグラフ。
【図7】実施例2においてフィラー材(タルク)の添加率を変えて60℃−90%RH×500hの加温加湿試験を行った場合の防湿性能の変化を示すグラフ。
【図8】実施例3においてスペーサ材の有無による60℃−90%RH×500hの加温加湿試験後の防湿性能を比較した棒グラフ。
【図9】実施例4においてフィラー材(タルク)の体積充填率を変えた場合の透湿係数の変化を示すグラフ。
【図10】実施例5において接着層のT/Wを変えた場合の防湿性能の変化を示すグラフ。
【図11】実施例6において反射層の材質を変えた場合の防湿性能を比較した棒グラフ。
【図12】実施例7において製造方法の相違がマイクロフォニックに及ぼす影響を調べたオシロスコープ画像及び検出器全面の暗画像であり、(a)は大気圧での貼り合わせの場合、(b)は減圧下での貼り合わせの場合。
【図13】従来の放射線検出器の模式断面図。
【図14】従来の放射線検出器の製造方法を示す断面図であり、(a)はハット状に形成した防湿層を逆さまに準備した状態、(b)は防湿層の鍔部にシール材を塗布した状態、(c)は減圧チャンバ内に所定の層を形成したアレイ基板と防湿層とをセットした状態、(d)はアレイ基板と防湿層とをエアシリンダで加圧した状態。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施の形態に係る放射線検出器について、図面を参照して説明する。
【0039】
(放射線検出器の全体構造)
図1は本実施の形態に係る放射線検出器の斜視図、図2はその放射線検出器の断面図を示すものである。
【0040】
放射線検出器10は、放射線像であるX線像を検出するX線平面センサであり、例えば、一般医療用途などに用いられている。
【0041】
この放射線検出器10は、図1及び図2に示すように、蛍光を電気信号に変換する光電変換基板としてのアレイ基板12、このアレイ基板12の一主面である表面上に設けられ入射するX線を蛍光に変換するX線変換部であるシンチレータ層13、このシンチレータ層13上に設けられシンチレータ層13からの蛍光をアレイ基板12側へ反射させる反射膜14、シンチレータ層13および反射膜14上に設けられ外気や湿度から保護する防湿層15、及び防湿層15とアレイ基板12とを接着する接着層16を備えている。
【0042】
(アレイ基板12)
アレイ基板12は、シンチレータ層13によりX線から可視光に変換された蛍光を電気信号に変換するもので、ガラス基板10、このガラス基板10上にマトリクス状に形成された画素17、行方向に沿って配設された複数の制御線(又はゲートライン)18、列方向に沿って配設された複数の信号線(又はシグナルライン)19、各制御線18が電気的に接続された図示しない制御回路と、各信号線19が電気的に接続された図示しない増幅/変換部を備えている。
【0043】
また、各画素17内には、それぞれ光電変換素子としてのフォトダイオード21が配設されている。これらフォトダイオード21はシンチレータ層13の下部に配設されている。
【0044】
更に、各画素17は、フォトダイオード21に電気的に接続されたスイッチング素子としての薄膜トランジスタ(TFT)22、フォトダイオード21にて変換した信号電荷を蓄積する電荷蓄積部としての図示しない蓄積キャパシタを具備している。但し、蓄積キャパシタは、フォトダイオード21の容量が兼ねる場合もあり、必ずしも必要ではない。
【0045】
各薄膜トランジスタ22は、フォトダイオード21への蛍光の入射にて発生した電荷を蓄積および放出させるスイッチング機能を担う。薄膜トランジスタ22は、非晶質半導体としてのアモルファスシリコン(a−Si)、あるいは多結晶半導体であるポリシリコン(P−Si)などの半導体材料にて少なくとも一部が構成されている。
【0046】
また、薄膜トランジスタ22は、図2に示すように、ゲート電極23、ソース電極24およびドレイン電極25のそれぞれを有している。このドレイン電極25は、光電変換素子(フォトダイオード)21および蓄積キャパシタに電気的に接続されている。
【0047】
蓄積キャパシタは、矩形平板状に形成され、各フォトダイオード21の下部に対向して設けられている。
【0048】
図1に示す制御線18は、各画素17間に行方向に沿って配設され、図2に示すように、同じ行の各画素の薄膜トランジスタ22のゲート電極23に電気的に接続されている。
【0049】
図1に示す信号線(シグナルライン)19は、各画素17間に列方向に沿って配設され、図2に示すように、同じ列の各画素の薄膜トランジスタ22のソース電極24に電気的に接続されている。
【0050】
制御回路は、各薄膜トランジスタ22の動作状態、即ちオンおよびオフを制御するもので、ガラス基板10の表面における行方向に沿った側縁に実装されている。
【0051】
増幅/変換部は、例えば各信号線19に対応してそれぞれ配設された複数の電荷増幅器、これら電荷増幅器が電気的に接続された並列/直列変換器、この並列/直列変換器が電気的に接続されたアナログ−デジタル変換器を有している。
【0052】
アレイ基板12の最上部には、光電変換素子(フォトダイオード)21及び薄膜トランジスタ22等を保護するため、図2に示すように、保護膜26が形成される。この保護膜26は、一般に無機膜と有機膜から形成される。
【0053】
(シンチレータ層13)
シンチレータ層13は、入射するX線を可視光すなわち蛍光に変換するもので、例えばヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)等により真空蒸着法で柱状構造に形成したもの、あるいは酸硫化ガドリニウム(Gd22S)蛍光体粒子をバインダ材と混合し、アレイ基板12上に塗布して焼成および硬化し、ダイサによりダイシングするなどで溝部を形成して四角状に形成したものなどがある。
【0054】
これら柱間には、大気、あるいは酸化防止用の窒素(N2)などの不活性ガスを封入し、あるいは真空状態とすることも可能である。
【0055】
例えば、シンチレータ層13にCsI:Tlの蒸着膜を用い、膜厚は約600μm、CsI:Tlの柱状構造結晶の柱(ピラー)の太さが最表面で8〜12μm程度のものを用いることができる。
【0056】
(反射膜14)
シンチレータ層13上に形成される反射膜14は、フォトダイオードと反対側に発せられた蛍光を反射して、フォトダイオードに到達する蛍光光量を増大させるものである。
【0057】
反射膜14としては、銀合金やアルミニウムなど蛍光反射率の高い金属をシンチレータ層13上に成膜したもの、アルミなどの金属表面を持つ反射板をシンチレータ層13に密着させたもの、TiOなどの光散乱性物質とバインダ樹脂とから成る拡散反射性の反射層を塗布形成したものなどがある。
【0058】
反射膜14は、放射線検出器11に求められる解像度、輝度などの特性により、必ずしも必要ではない。
【0059】
(防湿層15)
防湿層15は、シンチレータ層13や反射膜14を外部雰囲気から保護して、湿度などによる特性劣化を抑えるためのものである。
【0060】
防湿層15は、例えば、厚み0.1mmtのAL合金箔(A1N30−O材)を、周辺部に5mm幅の鍔部15aを持つ構造にプレス成型してハット状に形成される。
【0061】
(接着層16)
接着層16は、添加剤を含有した接着剤を鍔部15aに塗布することによって形成される。接着剤としては後述するように、エポキシ系でカチオン重合型の紫外線(UV)硬化接着剤を用いることが好ましい。
【0062】
また、添加剤として、接着層の透湿を抑制するため、後述するように無機材質のフィラーを用いることが好ましい。
【0063】
(放射線検出器の細部の寸法例)
図3に、本実施の形態に係る放射線検出器の細部の具体的な寸法例を示す。
【0064】
この放射線検出器10では、アレイ基板12の表面に図1の画素17、制御線18や信号線19などの内部配線層6が形成され、さらにその上方に、シンチレータ層13、反射膜14が順に積層され、さらにこれらを覆うように形成されたALハットの防湿層15が鍔部15aで接着層16によりアレイ基板12と接着されている。また、アレイ基板12の表面に設けられた内部配線層6の先端部にはTABパッド7が形成されており、異方性導電フィルム(ACF)層8と共に接続部5を構成し、FPC配線層9と接続されている。
【0065】
また、本実施の形態では、接着層16が接続部5の上方で鍔部15aの全面と接着されている。
【0066】
ここで、本放射線検出器10では、従来の放射線検出器50と同様に、アレイ基板12のX線画像を取得することができる画素エリア(アクティブエリア)を、X方向Y方向ともに夫々約440mmとし、シンチレータ層13を形成するCsI蒸着エリアも、蒸着時の位置ズレマージンや回り込みを考慮して446mm□としている。
【0067】
また、本放射線検出器10では、シンチレータ層13の蒸着エリアに対してX軸方向、Y軸方向の両側に夫々1mm程度のマージンを見て、448mm□エリアに接する外側の領域からTABパッド7を配している。このTABパッド7は、フレキシブルプリント回路(FPC)配線層9とアレイ基板12との電気信号の受け渡しの為に接続するために、アレイ基板12の周辺部に配置された電極部である。
【0068】
これら必要寸法を考慮して、TABパッド7内側端までの防湿エリア外寸は448mm□となり、そのエリアに接する外側の領域から2mmのTABパッド部を配している。
【0069】
本放射線検出器10では、従来の放射線検出器50と同様に、TABパッド7領域より外側は約3mmの間をとって基板の端面が来るようにカットされている。これらの結果、本実施の形態のパネル基板のサイズは458mm□となり、478mm□のパネルサイズとなる従来例の放射線検出器50と比較して、縦横のパネル寸法が夫々20mm縮小されている。
【0070】
(接着層16における平均厚みTと平均幅W)
上記した(2)式からも明らかなように、接着層16の厚みと幅の比であるT/Wの値が透湿率に直接影響する。後述する実施例の結果からも明らかな通り、医療用で実用的なX線検出器のサイズ(9インチ〜17インチ□程度)では、T <<Wの関係を満たす場合、特にT/Wが0.1以下の場合に、接着層16からの透湿影響を十分に抑えられるものとなる。
【0071】
実用的なX線検出器のサイズでは、防湿層からの透湿は無視できるレベルであり、接着層からの透湿が支配的となる。即ち、T/Wが同じ場合に、接着層16からの透湿量は検出器の辺のサイズにほぼ比例して増えるのに対して、シンチレータ層13の面積は辺のサイズのほぼ2乗に比例して増えるため、シンチレータ層13の単位面積当りの湿度負荷は大面積になるほど小さくなるためである。
【0072】
また、本放射線検出器10では、一定量の接着シール材を塗布した場合に、FPC配線層9とACF層8の無い部分では接着シール材の潰れが少なく、その結果T/Wの値が大きくなって透湿率を増大させてしまう。
【0073】
例えば、同一塗布量(本実施の形態では1mg/mm)で、FPC配線層9とACF層8が有る領域では接着層の潰れ幅が5mmで、FPC配線層9とACF層8が無い領域では潰れ幅が3mmであるとして簡単に比較してみる。
【0074】
接着材の単位長さ当りの塗布量は同じなので、FPC配線層9とACF層8が無い部分での接着層の厚みは、それらが有る部分の接着層の厚みの概ね5/3倍になっている。FPC配線層9とACF層8が無い部分は、FPC配線層9とACF層8が有る部分に比較して、単位長さ当りの透湿断面積が5/3倍大きく、かつ透湿長さは3/5と短いことになる。従って、合わせて(5/3)≒2.8倍だけ透湿率が大きくなることになる。
【0075】
これを回避するために、接着層16にフィラー材を添加することが考えられる。フィラー材添加により接着層16の材料自体の透湿係数を抑えると、接着層16のディメンジョンに起因する透湿率の悪化を抑えられるので、防湿構造全体にとっての寄与が大きく、従来例の放射線検出器にも増してその効果が重要となる。
【0076】
また、FPC配線層9とACF層8の無い部分には接着材を多めに塗布してWの値を大きくする方法や、この部分にFPC配線層9とACF層8の厚み相当のスペーサ材を挟んで接着シール材の押し潰しを大きくし、実効的にT/Wの値を抑える方法、或いは防湿層のALハットをFPC配線層9とACF層8の無い部分のみ追加で部分的に加圧する方法などが考えられる。
【0077】
スペーサ材質としてはTiOとかSiOなどの無機材質やフィラー添加樹脂フィルムなどの透湿係数が小さい材質を選ぶ必要がある。また、スペーサ材の両面が接着されるように、スペーサの部分は予めアレイ基板12側と接着しておいてからALハット防湿層15と貼り合せるなどのプロセスが必要である。
【0078】
(反射膜14の影響)
本実施の形態の放射線検出器10では、シンチレータ層13としてCsI:Tl膜を蒸着した後から防湿構造形成までの間に、アレイ基板12のTABパッド7にACF層8を介してFPC配線層9を熱圧着する実装工程が先に入る。このため、従来例の放射線検出器50と比較して、シンチレータ層13としてのCsI:Tl膜が工程環境下にさらされる時間が長くなり、防湿構造前にある程度の湿度劣化を生じ易い。
【0079】
この対策として、CsI:Tl膜蒸着の後に反射膜14を形成する工程を入れ、反射膜14としてTiOなど無機材料の微細な粒子を高含有率で含んだ材料を塗膜することで、短期間の湿度劣化を抑える程度の防湿性能を確保することが可能となる。現象としては、ピラー間にサブミクロン径のTiOなど微細な粒子が入り込み、これらフィラーによってCsI:Tl膜ピラー間の融合反応による解像度劣化が抑制される。またフィラーの添加により反射膜14自体の透湿係数を抑えることができるので、CsI:Tl膜に到達する湿気自体も抑制可能となる。
【0080】
更に、フィラーの添加率が大きくフィラー間に隙間を有する反射膜14の場合には、ピラー間の蛍光の拡散を抑えられるので、初期解像度自体も高く、より高性能が確保できる。
【0081】
(放射線検出器の製造方法)
上記の構造を有する放射線検出器10は、図4に示すような手順で製造される。
【0082】
先ず、図4(a)に示すように、防湿層15として、周囲に5mmの鍔部15aを有するALハットを用い、ALハットを専用のトレイ31に重し32を載せた状態で逆さまにセットする。
【0083】
防湿層15の材質はALやAL合金に限らず、Si,Alなど軽元素の酸化膜、窒化膜、若しくは酸窒化膜などの無機膜、又はアルミやアルミ合金など軽金属の薄膜と樹脂材料との積層膜からなる防湿性能の優れたフィルム材などを形状加工しても同様に用いることができる。
【0084】
次に、鍔部15aをアセトンで清浄化した後に、図示しないディスペンサー装置を用いて図4(b)に示すように加熱硬化型の接着シール材33を1mg/mm程度の量で鍔部15a一周にわたって塗布する。ここで、接着シール材33は、その粘度は約300Pa・secの高粘度タイプを用いた。
【0085】
上記防湿層15が形成されるアレイ基板12は以下のようにして準備する。
【0086】
先ず、表面に所定の内部配線層6及びTABパッド7を形成したアレイ基板12上に、シンチレータ層13としてCsI:Tl膜を約600μmの膜厚で蒸着する。この際、蒸着時のマスク冶具とアレイ基板12との位置ずれを見込んでも上記の画素エリア(アクティブエリア)を完全に覆うように、蒸着マスクの開口寸法は約444mm□とされる。実際には蒸着マスク寸法に対して上下左右で夫々1mm程度の回り込みがあるので、先に述べたように概ね446mm□程度のCsI:Tl膜蒸着エリアを見込む設計になっている。
【0087】
次に、シンチレータ層13上に、TiOの細粒を樹脂バインダと混合したタイプの反射膜14を約100μmの膜厚で形成する。反射膜14の特性(蛍光反射率や反射膜内部での蛍光の広がりなど)は、輝度優先や解像度優先などの用途により選択できる。また、用途によっては反射膜14を省く場合や、反射膜14の代わりに蛍光吸収膜を形成して、輝度を犠牲にしても解像度の良い特性を求める場合もある。さらに、上述のように、フィラー材の添加によってある程度の防湿性能を持たせることも可能である。
【0088】
この後、防湿構造を形成する前に、反射膜14を形成後のアレイ基板12のTABパッド7にFPC配線層9の接続電極部がACF(異方性導電フィルム)層8を介して熱圧着される。ACF層8を挟んでFPC配線層9とパネル基板のTABパッド7とを熱圧着することで電気的な接続が取られる。熱圧着後のFPC配線層9とACF層8を含めた厚みは、概ね60乃至100μm程度である。
【0089】
この実装工程後、図4(c)に示すように、減圧チャンバ34内で、シンチレータ層13を形成したアレイ基板12(反射膜14は図示されていない)を治具35を用いて逆さまにした状態で防湿層15と対向させてセットする。
【0090】
さらに、図4(d)に示すように、加圧板37を用いて図示しないエアシリンダによる加圧により貼り合せ、密着させる鍔部への圧力が概ね2kgf/cmになる荷重を加えて密着させる。
【0091】
その後、ある程度の加重を加えた状態で60℃の加熱オーブン内にて約3時間程度加熱する。
【0092】
このように減圧チャンバ34内で接着材を塗布した防湿層15とアレイ基板12を例えば0.1気圧程度まで減圧した状態で合体して密着部を加圧し、更に加熱するなどして貼り合せをすることができる。この場合、防湿構造の内部が減圧状態で封止されることから、ALハットなどの防湿層15が下層の反射膜14/シンチレータ層13に密着した状態で出来上がる。
【0093】
接着シール材33は、FPC配線層9とACF層8の有る部分と無い部分とで押し潰しの程度が異なる。FPC配線層9とACF層8の有る部分では押し潰れによる接着シール材の広がりが大きく、概ね5mmのALハットの鍔部全体に接着シール材が広がった。
【0094】
一方、FPC配線層9とACF層8の無い部分は、有る部分との段差の影響で押し潰しが小さい為、接着シール材33の潰れの幅は小さく、凡そ3mm程度であった。
【0095】
このようにして、ALハットの鍔部15aは、図3に示すように、アレイ基板12の接着層16エリアに接着された状態で収まるものとなる。
【0096】
以上の防湿構造形成後に、筐体に組み込んで回路基板と接続して動作する状態とした。
【0097】
筐体に組み込んだ後、振動状態でX線像を撮影すると、減圧状態で作成した検出器は、後述する実施例の結果からも明らかな通り、マイクロフォニック(製品に一定の衝撃を加えた際の暗画像の揺らぎ)と呼ばれる基板の各画素や配線と防湿層との間の静電容量の揺らぎに起因する画像の乱れを抑制することができる。
【0098】
また、パネル寸法の違いが筐体設計にそのまま反映させられ、従来例の放射線検出器50の筐体が約520mm□のサイズであったのに対して、本実施の形態の放射線検出器10では筐体寸法の縦横が約500mm□程度に収まった。
【0099】
よって、本実施の形態の放射線検出器10では、従来例の放射線検出器50と比較して縦横夫々約20mmコンパクトにすることができる。
【0100】
(放射線検出器10の効果)
以上説明した本実施の形態の放射線検出器10は、医療用途のX線検出器としては大きなサイズであるが、撮像面積が小さい場合にも従来例のパネル寸法及び筐体寸法に比較して約20mm程度小さくすることができる。また、筐体の面積が約10%低減されたことから、放射線検出器全体の重量も従来の約20kg対して約18kgと軽量化できる。更に、有効エリアの縦横寸法が小さい製品では、寸法比や重量比において一層改善率が大きくなる。
【0101】
また、本実施の形態の放射線検出器10では、面積的に防湿構造の大部分を占める防湿層からの透湿率を示す(1)式の1項目を実質的にゼロレベルに抑えることが可能であり、2項目も極めて低い値に抑えられる。即ち、(1)式の2項目を書き下した(2)式の中で、先に説明した通り鍔の部分を有効に用いることでWの値を大きく取れ、また防湿層15の平坦な鍔部15aとアレイ基板12との間に接着層16を形成することから接着層16の厚みTを小さく抑えることができる。よって、T(接着層)/W(接着層)の値を極めて低い値に押さえ込むことが可能となる。
【0102】
(他の実施の形態)
図5に、他の実施の形態に係る放射線検出器の細部の具体的な寸法例を示す。
【0103】
この放射線検出器30では、アレイ基板12上のTABパッド7及びACF層8の配置を放射線検出器10の配置よりも外方にして防湿層15の鍔部15aの一部のみを接着層16で固定した以外は、放射線検出器10と同様に形成されている。
【0104】
この実施の形態の放射線検出器30においても、放射線検出器10と同様の効果を奏することができる。
【0105】
なお、上記の実施の形態において記載したシンチレータ層13、反射膜14、防湿層15や接着層16の材質や寸法はあくまでも例示であってこれらの材質や寸法には限定されない。また、反射膜14が無い場合や、反射膜14の代わりに蛍光吸収層や緩衝層などを挿入した場合であっても、従来例の放射線検出器と比較して外形寸法や重量低減に関する効果は同様に得られることが明らかである。
【実施例】
【0106】
[実施例1]
(防湿性能の比較)
図3に示す本発明の一実施の形態に係る放射線検出器10と図13に示す従来の放射線検出器50の防湿性能を比較した。なお、接着層16に用いる加熱硬化型接着材としては、防湿性能を上げる(水蒸気透過率を下げる)目的で、タルクなどの無機材質のフィラー材を共に添加している。
【0107】
防湿性能の指標としては、シンチレータ層13として形成したCsI:Tl膜の湿度劣化により解像度が顕著に低下することから、加温加湿試験前後の解像度の変化(低下率)とした。
【0108】
また、比較例として、ガラス基板上にシンチレータ膜としてCsI:Tl膜を膜厚600μmとなるように形成し、防湿膜としてパリレンCVD膜を20μm形成したサンプルも同様に測定した。
【0109】
測定はX線チャート画像を撮像し、2Lp/mmの解像度チャートのCTF (Contrast Transfer Function)の値を用いた。
【0110】
加温加湿の条件は、60℃−90%RH×500Hとした。この加温加湿試験後のCTF(2Lp/mm)維持率が80%以上であれば、実用レベル高温高湿耐性を有すると考えられる。また、途中時間のステップでも適宜測定して、経時劣化の様子をグラフ化した。
【0111】
図6に得られた結果を示す。この結果より、パリレンCVD膜を形成した放射線検出器では24時間の加温加湿で既に解像度劣化が顕在化し、さらに100時間経過後に大幅に解像度が劣化していることが分かる。
【0112】
これに対して、本実施の形態の放射線検出器10と、図13に示す従来例の放射線検出器50では、500h後もCTF(2Lp/mm)の維持率は95%以上であって、十分に実用レベルの防湿性能を有すると考えられる。
【0113】
[実施例2]
(フィラー材の添加率と防湿性能との関係)
接着層16に用いる接着シール材について検討した。
【0114】
図3に示す構造の放射線検出器10において、エポキシ系接着材をベースとしてフィラー材(タルク)の添加率を何通りか振った試作を実施し、実施例1と同様な60℃−90%RH×500hの加温加湿試験後のCTF(2Lp/mm)維持率を比較した。なお、FPC配線層9とACF層8を含む部分での接着層16の平均的な厚みは約100μmで、接着層16の幅は3〜5mmである。
【0115】
図7に得られた結果を示す。この結果より、フィラー材の添加率を増やすに従い防湿性能が顕著に改善されることが分かった。
【0116】
[実施例3]
(スペーサ材の有無と防湿性能との関係)
図3に示す構造の放射線検出器10において、スペーサ材としてSiOフィラー添加のエポキシフィルムを用いたものを試作し、スペーサ材を用いないものとの特性を比較した。特性は、実施例1と同様に、60℃−90%RH×500hの加温加湿試験後のCTF(2Lp/mm)維持率で比較した。
【0117】
なお、透湿による特性劣化に対する影響を分かり易くするため、ALハット防湿層15を貼り合せる接着材として、フィラー添加無しのエポキシ系接着材を用いた。
【0118】
図8に得られた結果を示す。この結果より、60℃−90%RH×500h後のCTF(2Lp/mm)維持率は、スペーサ材としてSiOフィラーを添加することにより顕著に向上し、防湿性能の明らかな改善が見られた。
【0119】
[実施例4]
(フィラー材の体積充填率と防湿性能との関係)
図3に示す構造の放射線検出器10において、エポキシ系接着材をベースとしてフィラー材(タルク)の添加率を何通りか振った試作を実施し、透湿係数を比較した。
【0120】
図9に得られた結果を示す。この結果より、フィラー材の添加率を増やすに従い防湿係数の値が顕著に低下することが分かった。
【0121】
[実施例5]
(接着層16のT/Wの値と防湿性能との関係)
図3に示す構造の放射線検出器10において、接着層16のT/Wの値を変化させた試作を実施し、実施例1と同様な60℃−90%RH×500hの加温加湿試験後のCTF(2Lp/mm)維持率を比較した。
【0122】
図10に得られた結果を示す。この結果より、T <<Wの関係を満たすこと、特にT/Wが0.1以下の場合に、接着層16からの透湿影響を十分に抑えられることが判明した。
【0123】
[実施例6]
(反射膜14の材質の影響)
図3に示す構造の放射線検出器10の反射膜14として、サブミクロンのTiOフィラー添加の塗布方式反射膜としたサンプルと、APC(Au−Pt−Cu)合金やALのスパッタ膜などメタル反射膜としたサンプルを試作し、24℃−50%RH×12hの一般的環境下での加温加湿試験後のCTF(2Lp/mm)維持率を比較した。
【0124】
図11に得られた結果を示す。この結果より、メタル反射膜に比べて、サブミクロンTiOフィラーを添加して反射膜を塗膜形成した場合には、CTFの劣化が顕著に抑えられていることが分かった。
【0125】
[実施例7]
(製造方法の相違がマイクロフォニックに及ぼす影響)
図4に示した手順で放射線検出器10を製造する際に、減圧チャンバ34内の圧力を0.1気圧下として防湿層15及びアレイ基板12を貼り合せた場合と、大気圧下で貼り合せた場合とで検出器を作成し、その後筐体に組み込んでそれぞれ振動状態でX線像を撮影した。結果を図12に示す。
【0126】
図12(a)は大気圧で貼り合わせを行った場合、(b)は減圧下で貼り合わせを行った場合であり、右側の画像は、振動与えたある時点での検出器全面の暗画像である。また、横長線で囲われた領域の暗出力の値が左側のオシロスコープ画像である。
【0127】
この結果より、大気圧で貼り合せを行った場合に対して、減圧(0.1気圧)で貼り合わせを行った場合のマイクロフォニック(製品に一定の衝撃を加えた際の暗画像の揺らぎ)は1/5程度以下に改善されており、またマイクロフォニックが収束するのも早い(マイクロフォニックが生じている時間が短い)ことが判明した。
【符号の説明】
【0128】
5:接続部、6:内部配線層、7:TABパッド、8:異方性導電フィルム層、9:FPC配線層(外部配線)、10,30,50:放射線検出器、12:アレイ基板、13:シンチレータ層、14:反射膜、15:防湿層、15a:鍔部、16:接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光を電気信号に変換する光電変換素子が複数設けられた画素エリアと前記画素エリアから引出される内部配線層とを備える基板と、前記基板の前記画素エリア上に設けられ入射する放射線を蛍光に変換するシンチレータ層と、前記基板の周囲で前記内部配線層に接続されるとともに外部配線と接続する接続部と、前記シンチレータ層を覆うべく鍔部を有するハット状に形成され前記シンチレータ層を外部の湿気から保護する防湿層と、前記防湿層の前記鍔部及び前記基板を接着する接着層とを備える放射線検出器において、
前記接着層は、前記接続部の上方で前記鍔部の少なくとも一部と前記基板とを接着していることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記接着層は、前記接続部の上方で前記鍔部の全面と前記基板とを接着していることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記接着層は、樹脂材料中に無機フィラー材を含有して形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記接着層は、その厚みTと幅Wとの比であるT/Wが0.1以下となる条件を満たすように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記接続部に、TABパッドが形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の放射線検出器。
【請求項6】
鍔部を有するハット状に防湿層を形成する工程と、
前記鍔部の少なくとも一部に接着材を塗布する工程と、
光電変換素子が複数設けられた画素エリアと前記画素エリアから引出される内部配線層とを備える基板を用意し、シンチレータ層を前記基板の前記画素エリア上に設けるとともに、前記基板の周囲で前記内部配線層に接続された接続部において外部配線を接続する工程と、
前記接続部の上方で前記鍔部の少なくとも一部と前記基板とを減圧雰囲気下で前記接着材を介して貼り合わせる工程と、
を備えることを特徴とする放射線検出器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−52965(P2012−52965A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197044(P2010−197044)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】