説明

放射線検出用のシンチレータ並びに関連プロセス及び物品

【課題】シンチレータ組成物の提供。
【解決手段】アルカリ土類金属及び鉛からなる群から選択される1種以上の元素と1種以上のハロゲン化ランタニドを含むマトリックス材料、及びセリウム、プラセオジウム又はこれらの混合物を含むマトリックス材料用賦活剤とからなるシンチレータ組成物。賦活剤は、賦活剤とマトリックス材料の総モル数を基準にして、約0.1〜20モル%の量で存在する。該シンチレータ組成物は、高エネルギー放射線を検出するための放射線検出器のシンチレータとして用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の概括的紹介として、本発明は、ルミネッセンス材料、例えば電離放射線の検出に用いられる材料に関する。ある特定の実施形態では、本発明は、ガンマ線及びX線の検出に特に有用なシンチレータ組成物(及び関連デバイス)に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー放射線の検出技術は種々知られている。その多くはシンチレータ材料を用いるものである。固体シンチレータはガンマ線、X線、宇宙線及びエネルギーレベルが約1keVを超える粒子線の放射線検出器の部品として広く用いられている。シンチレータ結晶は光検出手段つまり光検出器と結合している。放射性核種源からの光子が結晶に当たると、結晶は光を発する。光検出器は受け取った光パルスの数とその強度に比例して電気信号を発生する。
【0003】
シンチレータ結晶は、化学、物理、地質学及び医学用途に有用であることが判明している。用途の具体例として、陽電子放射断層撮影(PET)装置、石油ガス探査用の検層及び様々なデジタル画像用途が挙げられる。シンチレータは、セキュリティ機器用の検出器(例えば、貨物コンテナ内の放射性材料の存在を示すことができる放射線源の検出器)での用途についても検討されている。
【0004】
シンチレータの具体的組成は機器性能に決定的な重要性をもつ。シンチレータはX線及びガンマ線励起に応答性でなければならない。さらに、シンチレータは放射線検出能を高める幾つかの特性を有しているべきである。例えば、ほとんどのシンチレータ材料は高い光出力、短い減衰時間、低減した残光、高い「阻止能」及び妥当なエネルギー分解能の1以上の特性を有していなければならない。(後述の通り、シンチレータの使用態様によっては、他の特性も極めて重要となることがある。)。
【0005】
これらの特性の大半又はすべてを有する様々なシンチレータ材料が長年使用されている。例として、タリウム賦活ヨウ化ナトリウム(NaI(Tl))、ゲルマン酸ビスマス(BGO)、セリウムドープオルトケイ酸ガドリニウム(GSO)、セリウムドープオルトケイ酸ルテチウム(LSO)及びセリウム賦活ハロゲン化ランタニド化合物が挙げられる。これらの各材料は。ある種の用途に非常に適した特性を有している。しかし、これらの多くは幾つかの短所も有する。共通した問題は、光収率が低いこと、物理的に弱いこと、大型で高品質の単結晶を製造できないことである。その他の短所も存在する。例えば、タリウム賦活材料は吸湿性が高く、しかも強くて長い残光を生じるが、かかる残光はシンチレータ機能を妨害しかねない。さらに、BGO材料は減衰時間が遅いことが多い。一方、LSO材料は高価であり、放射性ルテチウム同位体を含んでいることもあるが、これもシンチレータ機能を妨害しかねない。
【0006】
一般に、放射線検出器に最適なシンチレータ組成物を得ようとする者は、上述の様々な特性を検討すれば特定の機器に最適な組成を選択することができる。(一例として、検層用途のシンチレータ組成物は高温で機能できるものでなければならないが、PET機器用のシンチレータは高い阻止能を示さなければならないことが多い。)。しかし、放射線検出器が益々精巧化及び多様化するのに伴って、大半のシンチレータに要求される全体的性能は高度化し続けている。
【特許文献1】国際公開第01/60944号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/60945号パンフレット
【特許文献3】米国特許第6437336号明細書
【特許文献4】米国特許第6585913号明細書
【特許文献5】米国特許第6624420号明細書
【特許文献6】米国特許第5869836号明細書
【特許文献7】米国特許第6624422号明細書
【特許文献8】米国特許第5213712号明細書
【特許文献9】米国特許第5882547号明細書
【特許文献10】米国特許第6302959号明細書
【特許文献11】米国特許第5437336号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2005/0104002号明細書
【非特許文献1】G.Blasse et al, “Luminescent Materials”, Springer−Verlag(1994)
【非特許文献2】J.C. Brice, “Crystal Growth Processes”, Blackie & Son Ltd(1986)
【非特許文献3】“Encyclopedia Americana”, vol.8, Grolier Incorporated(1981), pp.286−293
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらを考慮すれば、新規シンチレータ材料の発見に伴う利点は明らかである。かかる材料は優れた光出力を示すべきである。また、特にガンマ線の場合、比較的速い減衰時間と優れたエネルギー分解能のような1以上の特性を有するべきである。さらに、かかる材料は手頃なコスト及び妥当な結晶寸法で効率的に製造できるものであるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の実施形態は、以下の成分(a)、(b)及びそれらの反応生成物を含んでなるシンチレータ組成物に関する。
(a)(i)アルカリ土類金属及び鉛からなる群から選択される1種以上の元素と(ii)1種以上のハロゲン化ランタニドとを含むマトリックス材料、及び
(b)セリウム、プラセオジム又はセリウムとプラセオジムの混合物を含むマトリックス材料用賦活剤。
【0009】
別の実施形態は、高エネルギー放射線を検出するための放射線検出器に関する。この検出器は、本明細書に記載したシンチレータ結晶に光検出手段(例えば、光検出器)を動作可能に接続してなる。
【0010】
シンチレーション検出器での高エネルギー放射線の検出方法がもう一つの実施形態をなす。この方法は、
(A)本明細書に開示したシンチレータ結晶で放射線を受けて、放射線に特有の光子を発生させる段階と、
(B)シンチレータ結晶と結合した光子検出器で光子を検出する段階
とを含む。
【0011】
本発明のその他の特徴及び利点は、本明細書の以下の記載から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
マトリクス材料の一成分である成分a(i)は、アルカリ土類金属及び鉛からなる群から選択される1種以上の元素を含む。アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム又はバリウムである。(ある実施形態では、バリウムそのものが最も好ましいアルカリ土類金属である。)。さらに、2種以上のアルカリ土類金属の多種多様な組合せ(鉛と共に又は鉛なしで)も使用できる。ある実施形態では、バリウム、カルシウム又はバリウムとカルシウムの組合せが好ましい。他の実施形態では、3種類のアルカリ土類金属又は2種類のアルカリ土類金属と鉛との組合せ(例えばビスマスとストロンチウムと鉛)を使用できる。
【0013】
マトリクス材料の成分a(ii)は、1種以上のハロゲン化ランタニド化合物を含む。ハロゲンは臭素、塩素又はヨウ素のいずれかである。各ハロゲンは単独で所定の用途に有用となり得る。臭素又は塩素が幾つかの実施形態で好ましいことが多い。しかし、他の実施形態では、ヨウ素が好ましい。(例えば、場合によっては、ヨウ素は非常に高い高出力特性を示す。)。
【0014】
成分a(ii)のランタニドは、希土類元素、すなわちランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムのいずれであってもよい。2種以上のランタニドの混合物でもよい。(当業者には明らかな通り、イットリウム及びスカンジウムは希土類と密接な関係にある。そこで、本明細書では、これら2種類の元素もランタニド族に属すとみなす。)。好ましいランタニドは、ランタン、イットリウム、ガドリニウム、ルテチウム、スカンジウム、プラセオジム及びそれらの混合物からなる群から選択される。特に好ましい実施形態では、ランタニドはランタンそのものである。
【0015】
ハロゲン化ランタニドの非限定的な具体例を幾つか挙げると、塩化ルテチウム、臭化ルテチウム、ヨウ化ルテチウム、塩化イットリウム、臭化イットリウム、ヨウ化イットリウム、塩化ガドリニウム、臭化ガドリニウム、塩化プラセオジム、臭化プラセオジム及びこれらの混合物である。ある実施形態では、ハロゲン化ランタンが用いられ、例えば、ヨウ化ランタン(LaI)、臭化ランタン(LaBr)、塩化ランタン(LaCl)及びそれらの混合物(例えば2種以上のハロゲン化ランタンの固溶体)が用いられる。
【0016】
特定の実施形態でのある特定のシンチレータ群についても記載できる。例えば、シンチレータマトリクスは以下の式の化合物を含んでいてもよい。
【0017】
βLnX (I)
又は
βLnX (II)
式中、βはアルカリ土類金属及び鉛からなる群から選択される1種以上の元素であり、Lnは1種以上のランタニド元素であり、Xは臭素、塩素、ヨウ素及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0018】
式(I)の化合物の非限定的な具体例は、BaGdCl、BaLaCl、BaGdBr、BaLuCl、PbGdCl及びCaGdClである。
【0019】
式(II)の化合物の非限定的な具体例は、BaYCl、BaGdCl、BaLaCl、BaLuCl、BaYBr、BaYI、BaLaBr、BaLaI、SrYCl、BaSrYCl、BaSrLaCl、BaSrLuCl、BaSrYBr、BaSrLaBr、BaSrLuBr、CaYCl、CaYBr、CaLaCl、CaLuCl、PbYCl、PbYBr、PbLaCl及びPbLuClである。
【0020】
所定の用途に好ましいマトリクス材料を幾つか挙げると、BaYCl、BaGdCl及びBaLuClである。
【0021】
ある実施形態では、マトリクス材料はさらにビスマスを含んでいてもよい。ビスマスが存在すると、阻止能などの様々な特性を向上させることができる。ビスマスが存在する場合、その量はある範囲で変更できる。通常、ビスマスは、ビスマス自体を含めたマトリクス材料の全モル重量(すなわち成分(a))の約1モル%〜約40%の量で存在する。好ましい実施形態では、ビスマスの量は約5モル%〜約20モル%である。(以下、他の成分について述べる通り、ビスマスは、マトリクス自体の一成分としてではなく、シンチレータ組成物の一部として記載できる。)。
【0022】
本発明の他の実施形態では、マトリクス材料は、さらにアルカリ金属及びタリウムの群から選択される1種以上の元素を含む。アルカリ金属は、ナトリウム、カリウム、ルビジウム又はセシウムである。セシウムが時として最も好ましいアルカリ金属である。さらに、アルカリ金属の多種多様な組合せ(タリウムと共に又はタリウムなしで)も使用できる。非限定的な具体例は、セシウムとカリウムの組合せである。
【0023】
これら実施形態のある特定のシンチレータ群も例示できる。例えば、場合によっては、シンチレータマトリクスは次式の化合物を含んでいてもよい。
【0024】
AβLnX (III)
式中、Aは、アルカリ金属及びタリウムからなる群から選択される1種以上の元素であり、βは1種以上のアルカリ土類金属である。上記で説明した通り、Lnは1種以上のランタニド元素であり、Xは1種以上のハロゲン元素である。幾つかの好ましい実施形態では、「A」はナトリウム、セシウム又はナトリウムとセシウムの組合せである。セシウムが幾つかのシンチレータ組成物で特に有用である。
【0025】
この種のマトリクス材料の非限定的な具体例は、NaBaLaBr、NaBaGdCl、CsBaLaBr、CsBaGdCl、NaCaLaBr、NaCaGdCl、CsCaLaBr、CsCaGdCl、NaBaLuBr、NaBaLuCl、CsBaLuBr及びCsBaLuClである。(上記の実施形態と同様に、これらの実施形態のマトリクス材料はさらにビスマスを例えば上記の量で含んでいてもよい。)。
【0026】
式(III)のものと類似したシンチレータ材料の特定の実施形態では、マトリクスは以下の式の化合物を含んでいてもよい。
【0027】
(CsNa1−x)(BaCa1−x)Ln(BrCl1−x (IV)
又は
(CsRb1−x)(BaCa1−x)Ln(BrCl1−x (V)
式中、Lnは1種以上のランタニド化合物であり、各xは独立に0≦x≦1である。
【0028】
上述の通り、シンチレータ組成物は賦活剤も含んでいる。(賦活剤は「ドーパント」とも呼ばれる。)。好ましい賦活剤は、セリウム、プラセオジム及びセリウムとプラセオジムの混合物からなる群から選択される。発光効率及び減衰時間の点で、セリウムが最も好ましい賦活剤であることが多い。セリウムは通常はその3価のCe3+として用いられる。賦活剤は、例えば塩化セリウム又は臭化セリウムなどのハロゲン化物のような様々な形態で供給できる。
【0029】
賦活剤の適量は、マトリックスに存在するハロゲンその他の元素などの様々な因子によって左右される。その他の因子としては、所望の発光特性及び減衰時間、並びにシンチレータを組み込む検出器の種類が挙げられる。通常、賦活剤は、賦活剤とマトリクス材料の総モル数を基準にして、約0.1モル%〜約20モル%の量で用いられる。多くの好ましい実施形態では、賦活剤の量は約1モル%〜約10モル%である。
【0030】
本発明のシンチレータ組成物は、通常は、マトリクス材料成分及び賦活剤成分に関して記載される。ただし、これらの成分を組合せると、単一の均質混合組成物とみなすことができるが、依然として賦活剤及び成分の属性を保持している。そこで、例えば、アルカリ土類金属がバリウム、ランタニド化合物がイットリウム、ハロゲンが塩素、賦活剤がセリウムである例示的な組成物はBa(Y0.98Ce0.02)Clのように一つの化学式で表すことができる。
【0031】
本明細書に記載したシンチレータ組成物は様々な形態で製造し、使用できる。大抵は、組成物は単結晶(すなわち単一の結晶)の形態である。単結晶シンチレーション結晶は透明となる傾向が高い。これらは高エネルギー放射線検出器、例えばガンマ線用検出器に特に有用である。シンチレータ組成物は、その最終用途によっては、他の形態でも使用できる。例えば、粉体の形態であってもよい。なお、上述の国際公開第01/60944号及び同第01/60945号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)に記載されているように、シンチレータ組成物は少量の不純物を含んでいてもよい。こうした不純物は通常は原料に由来し、通例シンチレータ組成物の約0.1重量%未満をなす。大抵は、不純物は組成物の約0.01重量%未満をなす。組成物は寄生添加剤を含んでいてもよく、その体積百分率は通常約1%未満である。さらに、シンチレータ組成物には微量の他の材料を意図的に配合してもよい。
【0032】
シンチレータ組成物の製造には様々な技術を用いることができる。(なお、組成物はこれらの技術による各種の反応生成物も含んでいることがある。)。通常、所望の材料を正確な比率で含む適当な粉体を最初に調製し、次いで焼成、型成形、焼結及び/又は熱間等方圧加圧のような作業を行う。粉体は、様々な形態の反応体(例えば、塩、ハロゲン化物又はそれらの混合物)の混合によって調製できる。場合によっては、個々の成分は結合した形態で用いられる。(それらは例えばそうした形態で市販されていることもある。)。例として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の各種ハロゲン化物を使用できる。非限定的な具体例としては、ヨウ化バリウム、塩化セシウム、臭化カリウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化タリウム、臭化鉛、塩化ストロンチウムなどの化合物が挙げられる。
【0033】
反応体の混合は、十分な均質混合が担保される適当な手段で実施できる。例えば、混合は瑪瑙乳鉢及び乳棒で実施し得る。別法として、ボールミル、バウルミル、ハンマーミル又はジェットミルのようなブレンダ又は粉砕装置も使用できる。通常、混合中に空気又は水分が入り込むのを防ぐために慣用の予防処理を講じなくてはならない。混合物はフラックス及びバインダのような各種添加剤も含んでいてもよい。混和性及び/又は溶解性によっては、粉砕時のビヒクルとして各種の液体を使用できることもある。例えばシンチレータを汚染しない材料のような適当な粉砕媒体を使用すべきである。かかる汚染はシンチレータの発光性能を低下しかねないからである。
【0034】
ブレンドした後、混合物は固溶体に変換させるため十分な温度及び時間の条件下で焼成してもよい。これらの条件は、用いるマトリクス材料及び賦活剤の種類にある程度依存する。混合物は、焼成時に、成分が大気中に失われないように、通常は密閉容器(例えば石英又は銀製の管又はるつぼ)内に収容される。通常、焼成は温度約500℃〜約1500℃の炉で実施される。焼成時間は通例約15分〜約10時間である。焼成は通常は無酸素・無水雰囲気中(例えば真空中)或いは窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン及びキセノンのような不活性ガスを用いて実施される。焼成が完了した後、得られた材料を粉砕してシンチレータを粉体としてもよい。次いで慣用技術を用いて粉体を放射線検出素子へと加工すればよい。
【0035】
単結晶材料の場合、製造法も当技術分野で周知である。参考文献の一例としては、G.Blasse et al, “Luminescent Materials”, Springer−Verlag(1994)が挙げられる。通常、適当な反応体は一致溶融組成を形成するのに十分な温度で溶融される。溶融温度は反応体自体の種類によって左右されるが、通常は約650〜約1100℃である。
【0036】
溶融組成物からの単結晶シンチレータ材料の調製には、様々な技術を用いることができる。かかる技術は、米国特許第6437336号(Pauwels他)、J.C. Brice, “Crystal Growth Processes”, Blackie & Son Ltd (1986)、及び“Encyclopedia Americana”, Vol.8, pp.286−293, Grolier Incorporated(1981)などの多くの文献に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。結晶成長技術の非限定的な例は、ブリッジマン・ストックバーガー法、チョクラルスキー法、帯溶融法(「浮遊帯溶融法」ともいう。)及び温度勾配法である。これらの各方法の詳細は当業者に周知である。
【0037】
米国特許第6585913号(Lyons他、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)には、単結晶の形態のシンチレータの製造方法に関する有用な情報が記載されている。この方法では、(上述の)望ましい組成の種結晶を飽和溶液中に導入する。溶液は適当なるつぼに収容されており、シンチレータ材料の適当な前駆体を含んでいる。上述の成長技術のいずれかを用いて、新しい結晶材料を成長させ、単結晶に加える。結晶の大きさはその最終用途、例えば、結晶を組み込む放射線検出器の種類によってある程度左右される。
【0038】
本発明の他の実施形態は、シンチレーション検出器での高エネルギー放射線の検出法に関する。検出器は本明細書に記載のシンチレータ組成物からなる1以上の結晶を備える。シンチレーション検出器は当技術分野で周知であり、本明細書で詳細に説明するまでもない。かかる装置に関する文献としては、上述の米国特許第6585913号及び同第6437336号、さらに米国特許第6624420号(Chai他)が挙げられ、それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。一般に、これらの装置のシンチレータ結晶は調査中の線源からの放射線を受け、放射線に特徴的な光子を発生する。光子はある種の光検出器(「光子検出器」)で検出される。(光検出器は慣用の電子的及び機械的連結装置でシンチレータ結晶に接続される。)。
【0039】
光検出器には様々な装置があり、すべて当技術分野で周知である。非限定的な例としては、光電子増倍管、フォトダイオード、CCDセンサ及びイメージインテンシファイア(画像増強管)が挙げられる。光検出器の選択は、製造する放射線検出器の種類及び用途にある程度依存する。
【0040】
シンチレータと光検出器とを備える放射線検出器自体は、上述の通り、様々な機器及び装置に接続できる。非限定的な例として、検層工具及び核医学用装置(例えばPET)が挙げられる。放射線検出器はデジタル画像装置、例えば画素化フラットパネル装置などにも接続できる。さらに、シンチレータはスクリーンシンチレータの構成部品としても役立つ。例えば、粉体シンチレータ材料を平板に成形して、フィルム(例えば写真フィルム)に取り付けてもよい。ある線源からの高エネルギー放射線(X線など)がシンチレータに接すると光子に変換され、フィルム上で現像される。さらに、放射線検出器は、セキュリティ機器にも使用できる。例えば、貨物コンテナ内の放射性材料の存在の検出に用いることができる。
【0041】
特定の最終用途の幾つかについても本明細書で詳細に説明できるが、その大半は当業者に周知の事項である。検層装置については既に挙げたが、こうした放射線検出器の重要な用途の代表例である。放射線検出器を検層管に動作可能に接続する技術はよく知られている。一般的概念は米国特許第5869836号(Linden他)に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。シンチレータを収容した結晶パッケージは通常は収容ケースの一端に光学窓を備える。この窓を通して結晶パッケージから放射線誘起シンチレーション光が出ていき、パッケージと結合した感光素子(例えば、光電子増倍管)で測定できる。感光素子は結晶から放出された光子を電気パルスに変換し、付属電子回路で整形及びデジタル化される。この一般的プロセスによって、ガンマ線を検出でき、ひいてはボアホール周囲の岩盤層の分析を与える。ただし、検層デバイスについては数多くの変更が可能であることを強調しておく。
【0042】
上述のPET装置のような医用イメージング機器も、これらの放射線検出器の重要な用途の代表例である。(シンチレータを備えた)放射線検出器をPET装置に動作可能に接続する技術も当技術分野で周知である。一般的概念は、米国特許第6624422号(Williams他)のような多くの文献に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。簡潔に述べると、放射性医薬を患者に注射すると、問題とする器官に濃縮される。化合物の放射性核種が崩壊して陽電子を放出する。陽電子が電子と遭遇すると、それらは消滅して光子又はガンマ線に変換される。PETスキャナはこれらの「消滅」の位置を三次元で特定して、問題とする器官の形状を再構成して観察することができる。スキャナ内の検出器モジュールは通常は多数の「検出器ブロック」を付属回路と共に含んでいる。各検出器ブロックは所定の構成のシンチレータ結晶のアレイを光電子増倍管と共に含んでいることもある。検層デバイスの場合と同様に、PET機器についても様々な変更が可能である。
【0043】
検層及びPET技術のいずれに対しても、シンチレータの光出力が重要である。本発明は、これらの技術の要求条件の厳しい用途で望ましい光出力を与えるシンチレータ材料を提供することができる。さらに、本結晶は、上述の他の重要な特性(例えば短い減衰時間、高い「阻止能」及び妥当なエネルギー分解能など)の幾つかを同時に呈することができる。さらに、本シンチレータ材料は経済的に製造でき、放射線検出が必要とされる他の様々な装置にも使用できる。
【実施例】
【0044】
以下の実施例は例示にすぎず、請求項に係る発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0045】
実施例1
セリウム賦活シンチレータ組成物の2種類のサンプルを調製したが、これらの組成物のマトリックス部分は式BaYClであった。サンプルAの公称組成はBa0.98Ce0.02Clであった。サンプルBの公称組成はBa0.95Ce0.05Clであった。サンプルAを調製するため、1.3594gのBaCl、0.6246gのYCl及び0.0161gのCeClをグローブボックス内で秤量した。サンプルBについての量は、1.3560gのBaCl、0.6039gのYCl及び0.0401gのCeClであった。各サンプルについて、材料を十分にブレンドしてから銀管内に密閉した。焼成は不活性雰囲気中約700℃で5時間実施した。
【0046】
これらサンプルのX線励起下での発光スペクトルを分光計を用いて測定した。図1及び図2は各々強度(任意単位)の関数として波長(nm)のプロットを示す。サンプルAのピーク励起波長は約350nmであり、サンプルBのピーク励起波長は約355nmであった。これらのシンチレータ組成物がガンマ線によってセリウムイオンに特有の発光レベルに励起できることも確認した。これらの発光特性は、本明細書に記載した組成物が、ガンマ線検出用の様々なデバイスに非常に有用であることを明らかに示している。
【0047】
実施例2
セリウム賦活シンチレータ組成物の3種類のサンプルを調製したが、これらの組成物のマトリクス部分は式NaBaLaBrであった。サンプルCの公称組成はNaBaLa0.95Ce0.05Brであった。サンプルDの公称組成はNaBaLa0.80Ce0.20Brであった。サンプルEの公称組成はNaBaLa0.90Ce0.10Brであった。
【0048】
サンプルCを調製するため、0.2643gのNaBr、0.7632gのBaBr、0.9239gのLaBr及び0.0488gのCeBrをグローブボックス内で秤量した。サンプルDについての量は、0.2642gのNaBr、0.7630gのBaBr、0.7778gのLaBr及び0.1951gのCeBrであった。サンプルEについての量は、0.2643gのNaBr、0.7632gのBaBr、0.8752gのLaBr及び0.0976gのCeBrであった。いずれの場合も、材料を十分にブレンドしてから銀管内に密閉した。焼成は不活性雰囲気中約700℃で5時間実施した。
【0049】
これらサンプルのX線励起下での発光スペクトルを分光計を用いて測定した。図3、図4及び図5は各々強度(任意単位)の関数として波長(nm)のプロットを示す。サンプルCのピーク励起波長は約395nmであった。サンプルDのピーク励起波長は約390nmであり、サンプルEのピーク励起波長は約395nmであった。実施例1と同様に、本例でもシンチレータ組成物がガンマ線によってセリウムイオンに特有の発光レベルに励起できることが判明した。X線又は紫外線で励起すると、上記サンプルのすべてが効率的に発光することも判明した。
【0050】
実施例1と同様に、本例でもシンチレータ組成物がガンマ線によってセリウムイオンに特有の発光レベルに励起できることが判明した。X線又は紫外線で励起すると、上記サンプルのすべてが効率的に発光することも判明した。これらの発光特性は、本明細書に記載した組成物が、ガンマ線検出用の様々なデバイスに非常に有用であることを明らかに示している。
【0051】
以上、特定の実施形態及び実施例によって本発明を例示し、説明してきたが、本発明の要旨から逸脱せずに、本発明にその他様々な変更をなし得ることは当業者には明らかであろう。従って、当業者が想到し得る変更も本発明の技術的範囲に属する。本明細書で引用した特許文献その他の文献の開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係るシンチレータ組成物の発光スペクトル(X線励起下)のグラフ。
【図2】図1の組成物と類似しているが、成分比の異なる組成物の発光スペクトルのグラフ。
【図3】本発明の一実施形態に係る別のシンチレータ組成物の発光スペクトル(X線励起下)のグラフ。
【図4】図3の組成物と類似しているが、成分比の異なる組成物の発光スペクトルのグラフ。
【図5】図3の組成物と類似しているが、成分比の異なる別の組成物の発光スペクトルのグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(a)、(b)及びそれらの反応生成物を含んでなるシンチレータ組成物。
(a)(i)アルカリ土類金属及び鉛からなる群から選択される1種以上の元素と(ii)1種以上のハロゲン化ランタニドとを含むマトリックス材料、及び
(b)セリウム、プラセオジム又はセリウムとプラセオジムの混合物を含むマトリックス材料用賦活剤。
【請求項2】
成分a(i)が2種以上のアルカリ土類金属を含む、請求項1記載のシンチレータ組成物。
【請求項3】
成分a(i)が鉛と1種以上のアルカリ土類金属とを含む、請求項1記載のシンチレータ組成物。
【請求項4】
前記賦活剤が、賦活剤とマトリクス材料の総モル数を基準にして、約0.1モル%〜約20モル%の量で存在する、請求項1記載のシンチレータ組成物。
【請求項5】
前記マトリクス材料が式βLnX(式中、βはアルカリ土類金属及び鉛からなる群から選択される1種以上の元素であり、Lnは1種以上のランタニド元素であり、Xは臭素、塩素、ヨウ素及びそれらの組合せからなる群から選択される。)の化合物を含む、請求項1記載のシンチレータ組成物。
【請求項6】
前記マトリクス材料は、式βLnX(式中、βはアルカリ土類金属及び鉛からなる群から選択される1種以上の元素であり、Lnは1種以上のランタニド元素であり、Xは臭素、塩素、ヨウ素及びそれらの組合せからなる群から選択される。)の化合物を含む、請求項1記載のシンチレータ組成物。
【請求項7】
ビスマスをさらに含む、請求項1記載のシンチレータ組成物。
【請求項8】
前記マトリクス材料が、アルカリ金属及びタリウムの群から選択される1種以上の元素をさらに含む、請求項1記載のシンチレータ組成物。
【請求項9】
ビスマスをさらに含む、請求項8記載のシンチレータ組成物。
【請求項10】
高エネルギー放射線を検出するための放射線検出器であって、
(A)以下の成分(a)、(b)及びそれらの反応生成物を含んでなる結晶シンチレータ
(a)(i)アルカリ土類金属及び鉛からなる群から選択される1種以上の元素と(ii)1種以上のハロゲン化ランタニドとを含むマトリックス材料、及び
(b)セリウム、プラセオジム又はセリウムとプラセオジムの混合物を含むマトリックス材料用賦活剤、並びに
(B)シンチレータで発生した光パルスの放出に応答して電気信号を発生することができるようにシンチレータと光学的に結合した光検出器
を備える放射線検出器。
【請求項11】
前記光検出器が、光電子増倍管、光ダイオード、CCDセンサ及びイメージインテンシファイアからなる群から選択される1以上のデバイスである、請求項10記載の放射線検出器。
【請求項12】
検層工具と動作可能に接続された、請求項10記載の放射線検出器。
【請求項13】
核医学用機器と動作可能に接続された、請求項10記載の放射線検出器。
【請求項14】
前記核医学用機器が陽電子放射断層撮影(PET)装置を備える、請求項13記載の放射線検出器。
【請求項15】
貨物コンテナ内の放射性材料の存在を検出するためのデバイスと動作可能に接続された、請求項10記載の放射線検出器。
【請求項16】
シンチレーション検出器での高エネルギー放射線の検出方法であって、
(A)シンチレータ結晶で放射線を受けて、放射線に特有の光子を発生させる段階と、
(B)シンチレータ結晶と結合した光子検出器で光子を検出する段階と
を含み、上記シンチレータ結晶が以下の成分(a)、(b)及びそれらの反応生成物を含んでなる、方法。
(a)(i)アルカリ土類金属及び鉛からなる群から選択される1種以上の元素と(ii)1種以上のハロゲン化ランタニドとを含むマトリックス材料、及び
(b)セリウム、プラセオジム又はセリウムとプラセオジムの混合物を含むマトリックス材料用賦活剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−327055(P2007−327055A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146374(P2007−146374)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】