説明

放射線検出素子

【課題】針状結晶の蒸着初期は多結晶膜の様相を呈していたため、光は横方向にも広がり、理想形から推定される光検出部の受光量、及び空間分解能は低くなっていた。数百μm以上成膜した蒸着終盤では理想的な針状結晶が得られているので、受光量や空間分解能等を改善するために、成長初期の理想形からの逸脱領域を理想的な状態にすることを課題とする。
【解決手段】本発明の放射線検出素子は、針状結晶シンチレータ及び多数の凸部を有する凸パターンからなっており、針状結晶シンチレータの一端が凸部上面に接して配置しており、各針状結晶シンチレータの凸部上面に接した部分にも各凸部間の間隙に対応した間隙が設けられており、及び凸部上面に接する針状結晶シンチレータの粒子数は5個以下の構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線により発光を呈する材料であるシンチレータを用いたイメージング検出素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療現場等でX線撮影に用いられているフラットパネルディテクタ(FPD)などでは、被写体を通過したX線をシンチレータで受け、そのシンチレータが発した光を受光素子で検出している。シンチレータ結晶部分には、発光した光を受光素子に効率よく伝達させるために、蒸着法にて作製されたヨウ化セシウムの針状結晶が用いられている。針状結晶は受光素子に垂直に立っているため、各々の結晶間には空気からなる間隙が自然に形成される。ヨウ化セシウムの屈折率(約1.8)と空気の屈折率(1.0)の比により高屈折率なヨウ化セシウム針状結晶中で光が全反射し、効果的に受光素子に導波するとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、針状結晶96は蒸着初期からあたかも均一で、その間に間隙を配したものが一様に成長するかのように表現されてきた(図8(A)参照)。しかし、我々の検討したところによると蒸着初期では結晶粒も小さく、その領域では間隙もほとんど見受けられず、図8(A)のような理想形からは程遠いことが明らかとなった。つまり、蒸着初期に成長した部分は多結晶膜97の様相を呈していた(図8(B)参照)。この状況では光は横方向にも広がるため、実際の光検出部の単位面積当たりの受光量、及び空間分解能は理想形から推定される値よりも低下する。一方で数百μm以上成膜した蒸着終盤においては、理想的な針状結晶が得られているので、受光量や空間分解能等を改善するためには、成長初期の理想形からの逸脱領域を理想的な状態にすることが望まれることになる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために本発明の放射線検出素子は、針状結晶シンチレータ及び多数の凸部を有する凸パターンを含む放射線検出素子であって、針状結晶シンチレータの一端が凸部上面に接して配置しており、凸部上面に接した各針状結晶シンチレータ間にも間隙が設けられており、及び凸部上面を占める凸部上面に接する針状結晶シンチレータの粒子数は5個以下である構成を有している。
【0005】
なお、凸部上面を占める凸部上面に接する針状結晶シンチレータの粒子数は、凸部上面の走査電子顕微鏡像と同一領域の凸部上面に接する針状結晶シンチレータの走査イオン顕微鏡像を比較することにより求めることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の特定の形状で配列された凸パターン層を有すれば、凸部のそれぞれに対応した針状結晶シンチレータの粒子数を極めて少数にすることができるので、シンチレータ成長初期においても針状結晶が有効に分離させられ、シンチレータの発光を広がり少なく光検出部に導くことが可能になる。これにより、光検出部に到達する受光量があがり、結果として素子の感度が向上する。また、シンチレータの発光の分散が抑制されるので、素子の分解能が向上させられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(A)本発明の実施形態に係る放射線検出素子の断面図。(B)本発明の別の実施形態に係る放射線検出素子の断面図。
【図2】(A)本発明の実施形態に係る下地層の構成の断面図。(B)本発明の別の実施形態に係る下地層の構成の断面図。
【図3】(A)本発明の実施形態に係る凸部のハニカム配列の説明図。(B)本発明の別の実施形態に係る凸部の正方配列の説明図。
【図4】(A)本発明の実施例に係る凸部を形成するプロセスの説明図。(B)本発明の実施例に係る凸部を形成するプロセスの説明図。(C)本発明の実施例に係る凸パターンの上面図。
【図5】(A)本発明の実施例に係るシンチレータ層を形成するプロセスの説明図。(B)本発明の実施例で形成されたシンチレータ層の説明図。
【図6】本発明の実施例に係る走査電子顕微鏡像。
【図7】本発明の実施例に係る走査イオン顕微鏡像。
【図8】(A)従来の放射線検出素子における理想的な針状結晶の部分拡大図。(B)従来の放射線検出素子における実際の針状結晶の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について記す。本発明の代表的な構成を図1に示す。
本実施形態の放射線検出器は、基板10上に複数の画素があり、画素11aと隣接する画素11bとは画素境界12で分かれており、各々の画素には光検出器として機能する受光部13があり、それぞれの画素は放射線検出素子として機能する。また、図1(A)に示すように、基板10より順に光検出層14、保護層15、下地層16、凸パターン層17、針状シンチレータ層18、反射層19と構成される場合と、図1(B)に示すように、基板10より順に光検出層14、保護層15、下地層16、針状シンチレータ層18、凸パターン層17、反射層19と構成される場合とがある。いずれの場合も、針状結晶シンチレータの一端は凸パターン層を構成する凸部の上面に接して配置されている。前者の素子は、光検出層14上に順次プロセスを施していくことによって製造可能であり、後者の素子は、反射層19側に凸パターン層17を設けて蒸着により針状シンチレータ層18を構成した後、光検出層14と張り合わせることで製造することができる。ここで、保護層15は光検出層14を機械的・電気的に保護する目的で配置するものであり、単層・複数層のいずれの構成でもよい。また、針状シンチレータ層18がアルカリハライド系材料で構成される場合、ハロゲンの拡散等による光検出層14の劣化を保護層15により防ぐような構成としてもよい。
【0009】
また、針状シンチレータ層18からの光を受光部13に向かわせるために、針状シンチレータ層18を挟んで光検出層14の反対側に反射層19を設けることが好ましい。特に、図1(B)の構成の場合には、凸パターン層17はシンチレーション光に対して透過率が高く、凸パターン17の屈折率は針状シンチレータ層18より小さい、あるいは凸パターン層17が反射層19の機能を有することが好ましい。つまり、図1(A)の構成では凸パターン層17は針状シンチレータ層18が発するシンチレーション光に対して透過率が高いことが好ましいが、図1(B)の構成では凸パターン層17はシンチレーション光に対して透過率が高くて屈折率が針状シンチレータ層18より小さいSU8等のレジスト材料で構成されるか、凸パターン層17は反射率の高い金属材料等で構成されることが好ましい。これにより、受光部13とは反対側に来たシンチレータ光を有効に反射させることが可能になる。以上の構成において、針状シンチレータ層18から発せられた光が受光部13に向かうことを阻害せず、十分な検出感度が確保される限りにおいて、図1に記載以外の層を追加して挿入しても構わない。なお、実際の放射線検出素子においては光検出層14の受光部13の他に、画素毎に配置されたTFT(Thin Film Transistor)など、図示していない構成要素も数多く含まれるが、本発明を簡潔に説明する為、本質的な部分以外については割愛している。
【0010】
本発明の凸パターン層17の構成を図2に示す。凸パターン層17には凸部20が配置されている。このとき、最も近い距離にある凸部同士の中心間隔を凸部周期21とし、最も近い距離にある凸部同士の間隙を凸部間隙24とする。また凸部頂上と下地(凸部以外の部分)との間隔を凸部高さ23とし、上面から見た場合の凸部の幅を凸部サイズ22とする。上面から見た凸部が円形であれば凸部サイズ22は直径に対応し、多角形や楕円形、あるいは曲線で囲まれた形状であれば凸部サイズ22は外接円の直径に対応する。
【0011】
本発明の凸パターン層17に配列された凸部20の先端からシンチレータ針状結晶が成長を始める。本発明者らの研究により、成長初期から針状結晶としての機能を十分果たすには、凸パターン層は以下のような構成である必要があることが分かった。すなわち、凸部周期21は10μm以下であることが必要である。それ以上大きいと1つの凸部20から多数の針状結晶が成長して初期層を乱す結果となり、本発明の効果が得られない。この凸部20の上面内で多数の針状結晶が成長する状態は、シンチレータの発光の広がりの観点から見れば、従来の蒸着膜と同じとみなすことができる。また、入射した放射線が生成する高エネルギーの電子やホールの拡散長は2μm程度であるため、上面から見た場合の針状結晶のサイズが2μm未満であるとシンチレータの発光量が低下することが予測される。そのため、上面から見た場合の針状結晶のサイズが2μm以上となることができるよう、凸部周期21も2μm以上となることが好ましい。以上から、凸部周期21は2μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、5μm以上10μm以下であることが望ましい。なお、上記針状結晶のサイズは、凸部サイズ22と同様に、上面から見た場合のシンチレータ針状結晶の粒子の幅を意味する。
【0012】
また、本発明の効果を得るには凸部サイズ22は凸部周期21の0.4倍以上0.8倍以下の大きさであることが好ましい。より好ましくは、0.4倍以上0.7倍以下であることが望ましい。
【0013】
また、本発明の効果を得るには、凸部高さ23は凸部間隙24の幅の少なくとも0.4倍以上であることが好ましい。これより低い場合、即ち凸部間隙24が凸部高さ23に比べて相対的に広い構造では、凸部以外の領域からのシンチレータ成長も凸部20上面からのものと差異がなくなり、凸部を設けた効果が得られにくくなり好ましくない。また、凸部高さ23が凸部間隙24の幅の2.5倍より高い場合、作製時に凸部上面の平坦性が失われるなどして凸部を設けた効果が得られにくくなり好ましくない。
【0014】
表1に、本発明の実施例において作成した凸部周期5μm、凸部サイズ3μm、凸部間隙の幅2μmの凸パターンにおける、凸部高さと凸部上部の平坦性及び蒸着初期の結晶の分離度との関係を示す。凸部上面の平坦性は、凸部高さの異なる凸パターン形成後の断面を走査電子顕微鏡で観察することで判別できる。また、蒸着初期の分離度は、凸部高さの異なる凸パターン上に、例えばCsI蒸着膜を厚さ10μm程度形成したものを走査電子顕微鏡で観察することで判別できる。表1より、凸部高さは、凸部間隙の幅の0.4倍から2.5倍であることが好ましいことがわかる。
【0015】
【表1】

【0016】
ここで、上面から見た凸部20の配列(凸パターン)の例を図3に示す。凸パターンは、周期が平面内で等方的で間隙が均一となるハニカム配列が好ましいが、それに限定されるものではなく、他にも正方配列などでも構わない。また、本発明の凸パターン層上に形成する針状結晶シンチレータについては、凸部の配列が針状結晶シンチレータ部分まで完全な形で維持されている必要はない。シンチレータ成長初期の針状結晶が有効に分離されていれば、シンチレータの発光を広がり少なく光検出部に導くことができ、結果として光検出部に到達する受光量を向上することができる。
【0017】
以上の様な凸部20を作製する方法としては、一般的なフォトリソグラフィ法が利用可能である。このときポリイミドレジストを用いてレジスト自体を凸部構造に作製し、それを本発明の凸部として利用可能である。もしくはSiやガラス、カーボン系の基板上にレジストを塗布し、レジストを加工してから基板をエッチングして凸部を形成することも可能である。また、コストの面からインプリント法を利用することも可能である。これらのような凸部を形成する材質は、いずれの場合も軽元素主体の材料を用いることが好ましい。
【0018】
凸パターン層17上に針状結晶を成長させる方法に制限はないが、真空蒸着法は成膜速度が速く、実用的である。例えば、CsIとTlIの粉末を別々の蒸着ボートに投入し、CsIのボートを700℃、TlIのボートを300℃に加熱することで共蒸着を行うことで針状結晶を成長させることが可能である。さらに詳細なパラメータとしては、たとえば、基板温度を200℃、成膜時のArガス圧を0.8Pa、発光中心のTl含有量を1〜2mol%程度、膜厚を200μmとすることができる。凸部のサイズや周期によっては、従来の針状結晶膜時の基板温度200℃、Arガス圧0.8Paに限定せずパラメータを設定することが好ましい。特に、凸部サイズ22が従来の針状結晶のサイズの平均である約5μmより大きい場合は、基板温度がより高いか、またはArガス圧がより低いことが好ましい。また、針状結晶のサイズの平均よりも凸サイズが小さい場合は、基板温度がより低いか、またはArガス圧がより高いことが好ましい。これらは蒸着材料の拡散長の制御により有効である。このように、本発明の凸パターン形状の範囲内であれば、最適な蒸着条件を選択することで、本発明の効果を最大に得ることができる。
【0019】
針状結晶を形成する材料としては限定されることはないが、特にCsIを用いることが好ましく、アルカリハライドとして(Cs,Rb)・(I,Br)という4元系のあらゆる組成やNaIなどを用いることも好ましい。
【0020】
(凸部上の粒子個数解析)
凸部上面に接する針状結晶シンチレータの粒子数の求め方を以下に述べる。凸部を有する基板上に形成した針状結晶シンチレータを基板から剥離し、その剥離面を走査電子顕微鏡で観察して走査電子顕微鏡像(図6)を得る。次にその剥離面を集束イオンビームで深さ方向に、例えば20μm程度掘って加工する。その加工面を走査イオン顕微鏡で観察して、走査イオン顕微鏡像を得る(図7)。走査イオン顕微鏡像の明暗(チャンネリングコントラスト)は、例えば集束イオンビーム加工で一般的に使われるGa+イオンを試料に照射した時の2次電子の発生量の違いで得られるため、試料を構成する結晶粒子の結晶方位を明瞭に観察することができる。前記走査電子顕微鏡像(図6)により判別される凸部に対応する領域内100a、101a、102aにおける、前記走査イオン顕微鏡像(図7)により判別される凸部上面に接する針状結晶シンチレータ粒子100b、101b、102bの平均個数を求める。例えば、一種類の凸パターンについて、5から10箇所程度の凸部について針状結晶シンチレータ粒子の個数を求め、それらの平均値を求めればよい。
【0021】
(受光量の改善について)
放射線検出素子のイメージセンサーには複数の画素、例えば4000×4000個の画素があるが、従来の画素サイズに区切られたパターン上に形成される針状結晶シンチレータに関しては、画素パターン間には間隙が見られていた。しかしながら、一つの画素パターン内では、蒸着初期の針状結晶シンチレータ間に間隙が見られないという本発明の解決しようとする課題があった。
【0022】
また、上記の画素サイズより小さな凸パターンに対して針状結晶シンチレータを成長させた場合、凸パターン間で間隙が見られることは従来より知られていた。しかし、我々の検討では、凸パターンを用いたとしても光検出部の受光量の増加が達成される場合と達成されない場合とがあった。
【0023】
以上について検討を重ねることで、本発明者らは次の理解に到達した。すなわち、凸パターンを有する下地層上に形成される針状結晶シンチレータの凸部上面に接する部分に間隙を設けるだけでは、受光量の増加には不十分である。すなわち、間隙があり、かつ凸部上面に接する針状結晶シンチレータの粒子数が5個以下であることが必要である。また、前記粒子数を観察より求めるには通常の走査電子顕微鏡像では困難であり、走査イオン顕微鏡像を得ることで初めて可能となる。
【0024】
以上から分かるように、従来、単一結晶で形成されていると思われていた針状結晶について、複数の粒子で形成されている場合などもあるが、本発明はこれらについても含んでいる。
【0025】
表2は、本発明の実施例において、凸部高さ3μmの場合の凸パターンと凸部上の針状結晶シンチレータ粒子数、光検出部に到達する受光量の改善率についてまとめたものである。表2より、凸部あたりの平均粒子数が5個以下であれば、受光量の改善が見られて好ましい。また、凸部の間隙は1.5μm以上であることが好ましい。また、受光率改善率の観点から2個以下がより好ましく、さらには凸部上面に一対一に対応した針状結晶シンチレータが形成される、粒子数が1個である状態が理想的であり最も好ましい。
【0026】
【表2】

【実施例】
【0027】
以下、本発明の放射線検出素子の実施例について詳細を説明する。
【0028】
[比較例1]
凸パターン層を形成していないポリイミド製の保護層が設けられたガラス基板の上面に、上述の真空蒸着法によって、CsIを蒸着した。CsIとTlIの粉末を別々の蒸着ボートに投入し、CsIのボートを700℃、TlIのボートを300℃に加熱することで共蒸着を行った。その他パラメータは、基板温度を200℃、成膜時のArガスを0.8Paとした。走査電子顕微鏡像から、膜厚200μmの本比較例1では、従来の針状結晶蒸着膜と同様、CsI蒸着膜の初期の分離度は悪くなっていることがわかった。また、観察した走査電子顕微鏡像から、CsI蒸着初期の針状結晶のサイズは2.0μmと見積もられるのに対し、膜厚20μm付近では4.0μm、膜厚200μm付近では8.2μmとなっていることが確認できた。
【0029】
以下の実施例1及び2では、本比較例1のシンチレータ層を備えた放射線検出素子の光検出部で得られる受光量に対して、下記の各実施例の構成によって得られる受光量の変化、すなわち本発明による効果について説明する。
【0030】
[実施例1]
まず、凸パターンを形成するプロセスを説明する。
図4(A)及び(B)は、本実施例1の凸パターンを形成するプロセスの概念を示した断面図である。図4(A)に示すようなポリイミド製の保護層15が設けられたガラス基板40の上面に、レジスト43を塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いることにより、図4(B)に示すような凸パターン層45を形成した。ここで、レジスト43としてエポキシ樹脂系のネガ型フォトレジスト、例えばSU8を使用した場合には、露光量と露光後のベーク時間を調節することによって、膜厚及びサイズを制御することができる。Crパターンを配したマスク基板44を通して露光されたレジスト部分は、65℃で1分間、さらに90℃で2分間の露光後ベークを施すことによって、レジスト部分の架橋及び定着をが進行させた。その後、現像液SU8 developerで非露光部分のレジストを除去して、SU8による凸パターン層45を形成した。このとき、凸パターン層の上面図は、図4(C)のように凸パターン46のハニカム配列となっていた。
凸パターンの断面図は前記の図2(A)に示すような円柱形状、あるいは図2(B)に示すような上面が丸みを帯びた形状をなしていた。このとき、凸部周期が5μm、凸部サイズが3μm、凸部隙間が2μmである凸パターンP1が形成されていた。また、凸部の高さは3μmだった。
【0031】
次に、凸パターン層上にシンチレータ層を形成するプロセスを説明する。図5(A)及び(B)は上記の実施例に対応する断面図であり、凸パターン層45の上面にシンチレータの針状結晶を結晶成長させた。CsIとTlIの粉末を別々の蒸着ボートに投入し、CsIのボートを700℃、TlIのボートを300℃に加熱することで共蒸着を行った。その他パラメータは、Arのガス圧が0.8Pa、基板温度が200℃の条件とした。シンチレータ層の形状を走査型電子顕微鏡(日立製 S−5500)によって観察したところ、図5(B)に示すように、凸パターンに接している蒸着初期から針状結晶シンチレータ18が分離している様子が確認できた。また、一つの凸部に一つの針状結晶シンチレータが形成されている部分に注目すると、CsI蒸着初期の針状結晶のサイズは4.1μmと見積もられるのに対し、膜厚20μm付近では4.1μm、膜厚200μm付近では6.1μmとなっており、比較例1に比べて針状結晶のサイズの変化が少なくなっていることが確認できた。
【0032】
次に、針状結晶シンチレータ18を凸パターン層45から剥離し、その剥離面を走査電子顕微鏡で観察して走査電子顕微鏡像(図6、P1)を得た。次にその剥離面を集束イオンビーム加工観察装置(日立製 FB−2000A)で深さ方向に、20μm掘って加工し、その加工面を観察して、走査イオン顕微鏡像を得た(図7、P1)。前記走査電子顕微鏡像より判別される凸部に対応する領域内100aにおける、前記走査イオン顕微鏡像より判別される凸部上面に接する針状結晶シンチレータ粒子100bの個数を求めた。さらに他の凸部についても同様の作業を繰り返し、計12箇所の凸部についての針状結晶シンチレータ粒子の平均個数を求めたところ、平均個数は1.83個となった(表2)。
【0033】
以上より、針状結晶シンチレータ18が凸パターンに接している蒸着初期から分離しており、かつ凸部のそれぞれに対応する針状結晶シンチレータの粒子数が極めて少数であることが確認できた。また、光検出部14への単位面積当たりの受光量を比較例1と比較すると、受光量の改善率は18%となった(表2)。
【0034】
[実施例2]
上記の実施例1と同様の凸パターンを形成するプロセスにおいて、それぞれ異なるマスク基板44を用いて、表2に示すP2からP7の各種凸パターンを作製した。その上に、実施例1と同様にしてシンチレータ層18を形成し、さらに同様の評価を行った。以下、P2およびP6の凸パターンを例に挙げて述べる。針状結晶シンチレータ18を凸パターン層45から剥離し、その剥離面を走査電子顕微鏡で観察して走査電子顕微鏡像(図6、P2およびP6)を得た。次にその剥離面を集束イオンビーム加工観察装置(日立製 FB−2000A)で深さ方向に、20μm掘って加工し、その加工面を観察して、走査イオン顕微鏡像を得た(図7、P2およびP6)。前記走査電子顕微鏡像より判別される凸部に対応する領域内101aおよび102aにおける、前記走査イオン顕微鏡像より判別される凸部上面に接する針状結晶シンチレータ粒子101bおよび102bの個数を求めた。さらに他の凸部についても同様の作業を繰り返し、計12箇所の凸部についての針状結晶シンチレータ粒子の平均個数を求めたところ、平均個数は4.30および9.38個となった。(表2)他の凸パターンP3、P4、P5、P7についても同様の評価を行ったところ、針状結晶シンチレータ粒子の平均個数と受光量改善率は表2のようになった。さらに、蒸着初期から針状結晶シンチレータを調べるため、実施例1と同様にシンチレータ層の形状を顕微鏡で観察した。
【0035】
以上より、針状結晶シンチレータ18が凸パターンに接している蒸着初期から分離しており、かつ凸部のそれぞれに対応した針状結晶シンチレータの粒子数が5個以下であることが確認できた。また、光検出部14への単位面積当たりの受光量を比較例1と比較すると、光検出部14への受光量の改善率は4から9%となっていた(表2)。
【0036】
[実施例3]
上記の実施例1と同様の凸パターンを形成するプロセスにおいて、使用するレジスト43の粘度を調整し、さらにガラス基板40への塗布時の条件を調整することで、表1に示す凸部の高さの異なる凸パターンP1を形成した。その上に実施例1と同様にして、シンチレータ層18を形成した。ただし本実施例3においては、膜厚が10μmとなるように蒸着時間を調整した。シンチレータ層の形状を走査型電子顕微鏡(日立製 S−5500)によって観察すると、凸部高さに対する蒸着初期の分離度は表1のようになり、凸部高さが0.8μm以上、すなわち近接凸部間の間隙の0.4倍以上の範囲で蒸着初期から分離していることがわかった。
【0037】
[実施例4]
上記の実施例3において、それぞれの凸部高さにおける凸部上面の平坦性を調べ、凸部上面の凹凸が凸部直径の3割以内であれば○、それより大きければ×としたところ、結果は表1のようになった。凸部上面の凹凸が凸部直径の3割以内であれば、凸部上部に形成する針状結晶シンチレータの針状結晶のサイズの変化を少なくすることができる。表1より、凸部高さが5.0μmより大きい場合に凸部上面の平坦性が維持されていなかった。これは、凸パターンを形成するプロセスの加工精度によるものと思われる。実施例3及び実施例4より、蒸着初期の分離度と凸部上面の平坦性を両立するための凸部高さの範囲は、近接凸部間の間隙の0.4倍以上2.5倍以下の範囲であることがわかった。
【0038】
[比較例2]
凸パターン層を形成していないポリイミド製の保護層が設けられたガラス基板の上面にAlの反射膜を膜厚50nmまで成膜し、さらにその上に比較例1と同様にしてシンチレータ層を膜厚200μmまで形成した。走査電子顕微鏡像から、本比較例2では、従来の針状結晶蒸着膜と同様、CsI蒸着膜の初期の分離度は悪くなっていた。
【0039】
[実施例5]
上記の実施例1で形成した凸パターン層上にAlの反射膜を設けた。凸パターン層P1は、凸部周期が5μm、凸部サイズが3μm、凸部隙間が2μmであり、高さが3μmである。この凸パターンが形成されたガラス基板に膜厚50nmのAlを成膜した。その上に実施例1と同様にしてシンチレータ層18を形成し、さらに同様の評価を行った。本実施例5においても針状結晶シンチレータ18が凸パターンに接している蒸着初期から分離しており、かつ凸部のそれぞれに対応した針状結晶シンチレータの粒子数は平均して5個以下であることが確認できた。また、光検出部14への単位面積当たりの受光量は比較例2と比較すると、受光量は増加していた。
【0040】
以上説明してきたように、本発明の実施の放射線検出素子によれば、凸部周期が2μm以上で10μm以下、凸部サイズが凸部周期の0.4倍以上0.8倍以下であり、凸部高さが凸部間隙の幅の0.4倍以上である構成を有している場合(実施例1から4)には、凸部のそれぞれに対応した針状結晶シンチレータの平均粒子数を5個以下と極めて少数にすることができるので、シンチレータ成長初期層においても針状結晶が有効に分離させられ、シンチレータの発光を広がり少なく光検出部に導くことが可能になる。これにより、光検出部に到達する受光量が増加し、結果として素子の感度が向上する。また、シンチレータの発光の分散が抑制されるので、素子の分解能を向上することができる。この効果は、実施例1から4及び凸パターン上にAlの反射膜を設けた実施例5のように配列がハニカム配列であり、配列の周期や間隔等が特定なサイズに限定されているとより高くなる。
【符号の説明】
【0041】
10,60,70 基板
11a,11b 画素
12 画素境界
13 受光部
14,61,71 光検出層
15,62,72 保護層
16 下地層
19 反射層
17,45,65,75 凸パターン層
18,66,76,96 シンチレータ層(針状結晶部分)
20 凸部
21 凸部周期
22 凸部サイズ
23 凸部高さ
24 凸部間隙
40 ガラス基板
43 レジスト
44 マスク基板
46 凸パターン
97 非針状結晶部分
100a,101a,102a 凸部に対応する領域
100b,101b,102b 凸部上面に接する針状結晶シンチレータ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状結晶シンチレータ及び多数の凸部を有する凸パターンを含む放射線検出素子であって、針状結晶シンチレータの一端が凸部上面に接して配置しており、各針状結晶シンチレータの凸部上面に接した部分にも各凸部間の間隙に対応した間隙が設けられており、及び凸部上面に接する針状結晶シンチレータの粒子数は5個以下であることを特徴とする放射線検出素子。
【請求項2】
凸部の周期は2μm以上10μm以下であり、凸部間隙の幅は1.5μm以上であり、及び凸部サイズは凸部周期の0.4倍以上0.8倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出素子。
【請求項3】
凸部は、凸部間隙の幅の少なくとも0.4倍以上の高さを有することを特徴とする請求項2に記載の放射線検出素子。
【請求項4】
凸部の周期は5μm以上10μm以下であり、凸部間隙の幅は2μm以上であり、凸部サイズは凸部周期の0.4倍以上0.7倍以下であり、及び凸部は凸部間隙の幅の少なくとも0.4倍以上2.5倍以下の高さを有することを特徴とする請求項1に記載の放射線検出素子。
【請求項5】
前記凸部はシンチレーション光に対して透過率が高く、前記凸部の屈折率はシンチレータより小さいことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の放射線検出素子。
【請求項6】
前記凸部はシンチレーション光に対して反射率が高いことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の放射線検出素子。
【請求項7】
前記シンチレータはCsIを含んでいることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の放射線検出素子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の前記放射線検出素子が発するシンチレーション光に対する光検出器を有する画素を含むことを特徴とする放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−251974(P2012−251974A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127078(P2011−127078)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】