説明

放射線検出装置

【課題】放射線のエネルギーを精度良く検出することができる放射線検出装置を提供する。
【解決手段】実施の形態に係る放射線検出装置1は、放射線4の入射を検出して放射線検出信号を出力するCdTe素子20と、取得したパラメータに基づいて、放射線4の入射によりCdTe素子20に生じたキャリアが再結合することによって低下した放射線検出信号の波高を補正する補正処理に用いる補正パラメータを生成する補正パラメータ生成部311と、生成された補正パラメータに基づいて補正処理を行う補正処理部312と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、化合物半導体を検出素子に用いた放射線検出手段と、微分手段と積分手段との組み合わせからなる準ガウス形フィルタを含む波形整形増幅手段と、上記微分手段の出力に関する信号波高と上記波形整形増幅手段の出力信号波高を比較することにより事象ごとの電荷収集時間情報を得る手段と、上記電荷収集時間情報に応じて事象ごとに上記波形整形増幅手段の出力信号波高を補正することにより電荷収集の不完全性に起因するエネルギー分解能の劣化を改善する補正手段と、を備える半導体放射線検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の半導体放射線検出装置によれば、電荷収集の不完全性及び波形整形増幅手段の入力信号の立ち上がりに起因するエネルギー分解能の劣化を、検出効率を低下させずに改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−14590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の半導体放射線検出装置は、出力信号波高の補正に用いるパラメータが固定値であり、検出素子の温度及び分極(ポラリゼーション)等に起因するエネルギー分解能の劣化により、安定して放射線のエネルギーを検出することができない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、放射線のエネルギーを精度良く検出することができる放射線検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、放射線の入射を検出して放射線検出信号を出力する半導体素子と、取得したパラメータに基づいて、放射線の入射により半導体素子に生じたキャリアが再結合することによって低下した放射線検出信号の波高を補正する補正処理に用いる補正パラメータを生成する補正パラメータ生成部と、生成された補正パラメータに基づいて補正処理を行う補正処理部と、を備えた放射線検出装置が提供される。
【0008】
また、放射線検出装置は、半導体素子の温度を測定して温度情報を生成する温度測定部、半導体素子のリフレッシュ処理からの経過時間を示すリフレッシュ経過時間情報を生成する経過時間情報生成部、及び半導体素子に入射した放射線の計数率を示すカウント情報を生成するカウント情報生成部、の少なくとも1つを有し、パラメータが、温度情報、リフレッシュ経過時間情報、及びカウント情報の少なくとも1つであることが好ましい。
【0009】
また、放射線検出装置は、放射線検出信号が、半導体素子の陽電極から出力される第1の放射線検出信号、及び陰電極から出力される第2の放射線検出信号、とからなり、補正処理部が、第1の放射線検出信号と、前記第1の放射線検出信号よりも早い時点における信号、又は第1の放射線検出信号よりも時間が経過した時点における信号である第2の放射線検出信号と、に基づいて補正処理を行うことが好ましい。
【0010】
また、放射線検出装置は、放射線検出信号が、半導体素子の陽電極又は陰電極から出力され、補正処理部が、放射線検出信号を分けた一方の信号である第1の放射線検出信号と、放射線検出信号を分けた他方の信号の第1の放射線検出信号よりも時間が経過した時点における信号である第2の放射線検出信号と、に基づいて補正処理を行うことが好ましい。
【0011】
また、放射線検出装置は、放射線検出信号が、半導体素子の陽電極又は陰電極から出力され、補正処理部が、放射線検出信号が第1のしきい値を超えた時間と、第1のしきい値よりも大きい第2のしきい値を超えた時間と、の時間間隔、及び放射線検出信号に基づいて補正処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る放射線検出装置によれば、放射線のエネルギーを精度良く検出することができる
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、第1の実施の形態に係る放射線検出装置の斜視図である。
【図2】図2は、第1の実施の形態に係る放射線検出器の斜視図である。
【図3】図3は、第1の実施の形態に係る放射線検出回路のブロック図である。
【図4】図4(a)は、第1の実施の形態に係る半導体素子における放射線の入射による電子と正孔の対生成を説明するための概略図であり、(b)は、半導体素子に入射した放射線の入射位置を示す概略図であり、(c)は、半導体素子から読み出される電荷収集効率と時間の関係を示す図である。
【図5】図5(a)は、第1の実施の形態に係る補正パラメータの温度依存性に関するグラフであり、(b)は、補正パラメータのリフレッシュ後の経過時間依存性に関するグラフである。
【図6】図6は、第1の実施の形態に係る補正パラメータの温度依存性を示すグラフである。
【図7】図7は、第2の実施の形態に係る放射線検出回路のブロック図である。
【図8】図8は、第3の実施の形態に係る放射線検出回路のブロック図である。
【図9】図9は、第3の実施の形態に係る補正処理に用いるライズタイムとしきい値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態の要約]
実施の形態に係る放射線検出装置は、放射線の入射を検出して放射線検出信号を出力する半導体素子と、取得したパラメータに基づいて、放射線の入射により半導体素子に生じたキャリアが再結合することによって低下した放射線検出信号の波高を補正する補正処理に用いる補正パラメータを生成する補正パラメータ生成部と、生成された補正パラメータに基づいて補正処理を行う補正処理部と、を備える。
【0015】
[第1の実施の形態]
(放射線検出装置1の構成の概要)
図1は、第1の実施の形態に係る放射線検出装置の斜視図である。図2は、第1の実施の形態に係る放射線検出器の斜視図である。放射線検出装置1は、例えば、放射線検出器立て1aと、複数の放射線検出器2と、を有して概略構成されている。
【0016】
本実施の形態に係る放射線検出装置1は、図1に示すように、複数の放射線検出器2を放射線検出器立て1aによって保持することにより構成される。具体的には、複数の放射線検出器2が並べられる間隔に応じて予め定められた距離をおいて並び、複数の放射線検出器2が挿入される複数の溝111が形成された複数の支持体11と、支持体11を搭載する支持板10と、複数の支持体11の間に設けられ、複数の放射線検出器2の後述するカードエッジ部のそれぞれが接続され、外部の電子回路と複数の放射線検出器2のそれぞれとを接続する複数のコネクタ12とを備える放射線検出器立て1aに複数の放射線検出器2が保持される。支持体11の複数の溝111のそれぞれに本実施の形態に係る複数の放射線検出器2が挿入され、固定されることにより図1に示すような放射線検出装置1が構成される。
【0017】
複数の支持体11は、支持板10上に放射線検出器2の幅に対応する間隔を有して設けられる。そして、複数の支持体11はそれぞれ、複数の壁部110を有しており、各壁部110の間に溝111が形成される。壁部110は、一方の表面にくぼみ部112が設けられ、他方の表面は平坦面113である。図2に示す放射線検出器2の弾性部材実装部250には、例えば、板金を用いて形成される弾性部材251が組み込まれ、支持体11の溝111に放射線検出器2が挿入された場合に、この弾性部材251により放射線検出器2が壁部110の平坦面113に押さえ付けられることにより支持体11に放射線検出器2が固定される。なお、複数の支持体11はそれぞれ金属材料から切削等により形成できる。
【0018】
なお、図1に図示していないが、複数の放射線検出器2の上方、すなわち、放射線検出器2の支持板10の反対側には、複数の開口を有するコリメータが備え付けられる。コリメータを用いることにより、特定の方向からの放射線のみをCdTe素子20において検出することができる。一例として、コリメータの複数の開口は略四角形状に形成される。
【0019】
(放射線検出器2の構成)
本実施の形態に係る放射線検出器2は、γ線、X線等の放射線を検出する放射線検出器である。図2において放射線4は、紙面の上方から下方に沿って入射してくる。すなわち、放射線4は、放射線検出器2の半導体素子としてのCdTe素子20からカードホルダ23に向かう方向に沿って伝搬して放射線検出器2に入射する。
【0020】
そして、放射線検出器2は、CdTe素子20のそれぞれの側面(つまり、図2の上方に面している面)に放射線4が入射する。したがって、CdTe素子20のそれぞれの側面が放射線4の入射面となっている。このように、半導体素子の側面を放射線4の入射面とする放射線検出器を、エッジオン型の放射線検出器と称する。
【0021】
なお、放射線検出器2は、特定の方向(例えば、被検体から放射線検出器2に向かう方向)に沿って入射してくる放射線4が通過する複数の開口を有するコリメータを介して放射線4を検出する複数の放射線検出器2が並べられて構成されるエッジオン型の放射線検出装置用の放射線検出器2として構成することができる。なお、コリメータを用いる場合、多孔平行コリメータ、ピンホールコリメータ等を用いることができる。また、本実施の形態は、エッジオン型でない放射線検出器にも適用することができる。また、本実施の形態に係る放射線検出器2は、カード型の形状を呈する。
【0022】
また、放射線検出器2の基板21はカードホルダ23とカードホルダ24とに挟み込まれて支持される。カードホルダ23とカードホルダ24とはそれぞれ同一形状を有して形成され、カードホルダ23が有する溝付穴230にカードホルダ24が有する突起部240が嵌め合わされると共に、カードホルダ24が有する溝付穴(図示しない)にカードホルダ23が有する突起部231が嵌め合わされることにより基板21を支持する。
【0023】
また、弾性部材実装部250は、複数の放射線検出器2を支持する放射線検出器立て1aに放射線検出器2が挿入された場合に、放射線検出器2を放射線検出器立て1aに押し付けて固定する弾性部材251が設けられる部分である。なお、放射線検出器2は、カードエッジ部224がコネクタ12に挿入され、カードエッジ部224に形成されたパターン225とコネクタ12とが電気的に接続することにより外部の制御回路、外部からの電源線、グランド線等に電気的に接続される。
【0024】
放射線検出器2は、例えば、基板21の片側に4つのCdTe素子20が一定の間隔で配置され、他方側に4つのCdTe素子20が一定の間隔で配置されている。
【0025】
フレキシブル基板22は、例えば、フィルム状の樹脂(例えば、ポリイミド)を用いて形成された基板である。
【0026】
フレキシブル基板22は、図2の紙面に対して下部に、略半円形状の接続部220〜接続部223を有する。接続部220〜接続部223は、導電性材料を用いて形成されたパターンであり、例えば、Cu等を用いて形成される。接続部220は、図2に示すように、基板端子210と電気的に接続するように構成されている。同様に、接続部221は基板端子211と、接続部222は基板端子212と、接続部223は基板端子213と、電気的に接続するように構成されている。なお、図2では、フレキシブル基板22の反対側のフレキシブル基板と電気的に接続する基板端子及び反対側のフレキシブル基板の図示を省略している。
【0027】
また、CdTe素子20に設けられた複数の溝部(図示せず)は、素子表面に略等間隔で設けられる。さらに、CdTe素子20は、一例として、7つの溝部を有する。
【0028】
この溝部で分けられるCdTe素子の部分のそれぞれが、放射線4を検出する1つの画素(ピクセル)に対応する。これにより、1つのCdTe素子は、複数の画素を有することになる。そして、1つの放射線検出器2が8つのCdTe素子20を備え、1つのCdTe素子20が8つのピクセルを有する場合、1つの放射線検出器2は、64ピクセルの解像度を有することになる。溝部の数を増減させることにより、1つのCdTe素子20のピクセル数を増減させることができる。
【0029】
また、基板21は、複数のCdTe素子20のそれぞれが搭載される第1の端部側の幅が、複数のCdTe素子20が搭載される第1の端部側の反対側の第2の端部側よりも広く形成される。なお、第2の端部側において基板21はカードホルダ23及びカードホルダ24によって支持される。また、第2の端部側には、放射線検出器2と外部の制御回路とを電気的に接続可能である複数のパターン225が設けられたカードエッジ部224が設けられる。また、CdTe素子20と電気的に接続する基板21に形成された素子接続部(図示せず)とカードエッジ部224との間には、複数のCdTe素子20のそれぞれと、素子接続部を介して電気的に接続する抵抗、コンデンサ等の電子部品を搭載する複数の電子部品搭載部3が設けられる。なお、電子部品搭載部3に、Application Specific Integrated Circuit(ASIC)、Field Programmable Gate Array(FPGA)等を搭載することもできる。
【0030】
なお、基板21は、一例として、幅広の方向、すなわち長手方向は40mm程度の長さを有して形成される。そして、基板21は、幅広の部分の端部から幅が狭くなっている部分の端部まで、すなわち、素子接続部が設けられている部分の端からカードエッジ部224の端までの短手方向において、20mm程度の長さを有して形成される。
【0031】
本実施の形態において、半導体素子を構成する化合物半導体としては、例えば、CdTeを用いたがこれに限定されず、γ線等の放射線を検出するCdZnTe(CZT)素子、HgI素子等の化合物半導体素子を用いることもできる。
【0032】
(放射線検出回路30の構成)
図3は、第1の実施の形態に係る放射線検出回路のブロック図である。本実施の形態に係る放射線検出回路30は、電子部品搭載部3に搭載される、又は、放射線検出回路30の一部が、放射線検出器立て1aに搭載される。
【0033】
放射線検出回路30は、例えば、放射線の入射により半導体素子に生じたキャリアが再結合することによって低下した放射線検出信号の波高を補正する回路である。つまり、放射線検出回路30は、例えば、入射した放射線のエネルギーを正確に求めるために補正処理を行う。
【0034】
放射線検出回路30は、図3に示すように、CdTe素子20と、コンデンサ300a及びコンデンサ300bと、プリアンプ301a及びプリアンプ301bと、シェーピングアンプ302a及びシェーピングアンプ302bと、ピークホールド303a及びピークホールド303bと、A/D変換部304a及びA/D変換部304bと、リフレッシュ回路305と、リフレッシュ制御回路306と、コンパレータ307と、補正パラメータ生成部311と、補正処理部312と、を備えて概略構成されている。
【0035】
また、放射線検出回路30は、カウンタ308、タイマー309及び温度測定部31の少なくとも1つを備えている。つまり、放射線検出回路30は、後述する補正式に用いる補正パラメータの依存性に基づいてカウンタ308、タイマー309及び温度測定部310の少なくとも1つを備えるように構成される。また、一例として、リフレッシュ回路305、リフレッシュ制御回路306、カウンタ308、タイマー309及び温度測定部310は、放射線検出器2以外の機器に搭載されても良い。放射線検出器2以外に搭載される場合、後述するカウンタ情報、リフレッシュ経過時間情報及び温度情報等のパラメータが、外部から放射線検出回路30の補正パラメータ生成部311に入力される構成となる。
【0036】
図3に示すCdTe素子20は、1つのCdTe素子20が有する8つのピクセルのうちの1つのピクセルを示している。CdTe素子20は、陽電極20aと陰電極20bとに挟まれている。なお、放射線検出器2は、例えば、ピクセルの数と同じ数の放射線検出回路30の一部の構成又は全ての構成を備える。
【0037】
コンデンサ300aは、陽電極20a側に接続され、コンデンサ300bは、陰電極20b側に接続されている。このコンデンサ300a及びコンデンサ300bは、カップリングコンデンサであり、直流電圧成分を遮断し、CdTe素子20に生じた電荷の変化分のみがこのコンデンサ300a及びコンデンサ300bを介してプリアンプ301a及びプリアンプ301bにそれぞれ伝達する。
【0038】
プリアンプ301aは、コンデンサ300aの陽電極20a側の端子と反対の端子に接続されている。このプリアンプ301aは、コンデンサ300aを介して陽電極20aから出力された第1の放射線検出信号を増幅する。
【0039】
プリアンプ301bは、コンデンサ300bの陰電極20b側の端子と反対の端子に接続されている。このプリアンプ301bは、コンデンサ300bを介して陰電極20bから出力された第2の放射線検出信号を増幅する。
【0040】
シェーピングアンプ302aは、プリアンプ301aから出力された増幅信号の波形整形及び増幅を行う。
【0041】
シェーピングアンプ302bは、プリアンプ301bから出力された増幅信号の波形整形及び増幅を行う。
【0042】
ピークホールド303aは、シェーピングアンプ302aから出力された波形整形後の信号の波高の最大値を一定に保持する信号を出力するように構成されている。
【0043】
ピークホールド303bは、シェーピングアンプ302bから出力された波形整形後の信号の波高の最大値を一定に保持する信号を出力するように構成されている。この陰電極20b側のピークホールド303bから出力された信号は、A/D変換部304bとコンパレータ307に入力する。
【0044】
ここで、コンパレータ307は、+端子にピークホールド303bから出力された信号が入力し、−端子にしきい値が入力する。コンパレータ307は、ピークホールド303bから出力された信号が、しきい値よりも大きいとき、パルス形状のトリガ信号を生成し、A/D変換部304a、A/D変換部304b及びカウンタ308に出力する。
【0045】
A/D変換部304aは、コンパレータ307から出力されたトリガ信号が入力すると、ピークホールド303aから出力された信号をデジタル信号に変換して出力するように構成されている。このデジタル信号は、補正処理部312に入力する。
【0046】
A/D変換部304bは、コンパレータ307から出力されたトリガ信号が入力すると、ピークホールド303bから出力された信号をデジタル信号に変換して出力するように構成されている。このデジタル信号は、補正処理部312に入力する。
【0047】
ここで、電源313の負電極とCdTe素子20の陰電極20bとの間には、リフレッシュ回路305が設けられている。このリフレッシュ回路305は、リフレッシュ回路305とタイマー309との間に接続されたリフレッシュ制御回路306により制御される。このリフレッシュ回路305は、例えば、CdTe素子20のポラリゼーション解消のための回路である。
【0048】
ポラリゼーションとは、電荷収集効率が時間と共に減少する現象である。半導体素子には、その結晶中に格子欠陥や残留不純物等が内在する。これらの欠陥により、半導体素子には、深い準位が形成され、結晶中のキャリアが捕獲されたり、放出されたりする。つまり、半導体素子に放射線が入射すると、発生したキャリアが結晶内のトラップに捕獲されたり、放出されたりする。従って、半導体素子は、例えば、キャリアとしての電子が結晶内に留まり、結晶内での散乱中心となったり、空間電荷を発生させたりすることで、キャリアの移動を妨げるので、電荷収集効率が時間と共に減少し、エネルギー分解能が劣化する。また、ポラリゼーションは、半導体素子の温度が高くなるほど、進行が早くなる。また、ポラリゼーションは、印加されるバイアス電圧にも依存し、バイアス電圧が低いほど進行が早くなる。しかし、ポラリゼーションは、半導体素子に印加するバイアス電圧を一時的に停止することにより、解消できる。
【0049】
そこで、リフレッシュ制御回路306は、最後にリフレッシュ処理を行った時間からの経過時間を計測し、予め定められた時間が経過すると、リフレッシュ情報を生成し、リフレッシュ回路305に出力する。つまり、リフレッシュ制御回路306は、クロックを有し、予め定められた時間間隔でリフレッシュ情報を出力するように構成されている。リフレッシュ回路305は、入力したリフレッシュ情報に基づいてリフレッシュ処理を行う。このリフレッシュ処理とは、半導体素子に印加するバイアス電圧を一時的に停止する処理である。
【0050】
また、リフレッシュ制御回路306は、リフレッシュ情報をリフレッシュ回路305に出力すると共に、タイマー309にも出力する。タイマー309は、入力したリフレッシュ情報に基づいて最後の行われたリフレッシュ処理からの経過時間を計測してリフレッシュ経過時間情報を生成し、生成したリフレッシュ経過時間情報を補正パラメータ生成部311に出力する。
【0051】
カウンタ308は、例えば、コンパレータ307から出力されるトリガ信号に基づいて放射線の計数率(1分間当たりの放射線の入射回数)を算出し、算出した結果をカウンタ情報として補正パラメータ生成部311に出力する。ポラリゼーションは、計数率の増加に応じて進行が早くなる。
【0052】
温度測定部310は、CdTe素子20の温度を測定し、測定した結果を温度情報として補正パラメータ生成部311に出力する。半導体素子の温度が高くなると、電子及び正孔の移動度が低下する。その結果、特に、正孔の再結合が増加し、波高が低下する。また、半導体素子の温度が高くなることで、ポラリゼーションの進行が早くなる。
【0053】
補正パラメータ生成部311は、カウンタ情報、リフレッシュ経過情報及び温度情報の少なくとも1つのパラメータを用いて補正パラメータを生成し、補正処理部312に出力する。
【0054】
補正処理部312は、補正パラメータ生成部311から出力された補正パラメータに基づいてA/D変換部304a及びA/D変換部304bから出力された信号の波高を補正する。以下に、補正処理部312による補正処理の一例について説明する。
【0055】
(補正処理について)
図4(a)は、第1の実施の形態に係る半導体素子における放射線の入射による電子と正孔の対生成を説明するための概略図であり、(b)は、半導体素子に入射した放射線の入射位置を示す概略図であり、(c)は、半導体素子から読み出される電荷収集効率と時間の関係を示す図である。図4(a)における+を丸で囲った記号は正孔を示し、−を丸で囲った記号は電子を示す。また、図4(b)に示すd1〜d5は、放射線が入射した位置を示すものである。図4(c)における縦軸は電荷収集効率(Charge Collection Efficiency)であり、横軸は時間(μsec)である。また、図4(c)に示すeは電子、hは正孔を示す。また、図4(c)に示すe:h=100:0は、放射線検出により出力される放射線検出信号の生成に、電子が100%、正孔が0%、寄与していることを示している。以下では、補正処理の一例であるBP(バイパラメトリック)補正について説明する。
【0056】
図4(a)に示すように、放射線4がCdTe素子20に入射して相互作用(光電効果、コンプトン散乱、電子対生成のいずれか)を行うことにより、CdTe素子20内の原子が電離し、電子と正孔のペアが発生する。このペアの数は、入射する放射線4のエネルギーに比例するため、これを正確に読み出すことが優れたエネルギー決定精度(エネルギー分解能)に繋がる。
【0057】
CdTe素子20に発生した電子と正孔は、ただCdTe素子20に入射しただけの場合、再結合して消滅する。そこで、CdTe素子20の陽電極20a及び陰電極20b間に高電圧(例えば、600V)のバイアス電圧を印加して電極間に電場を発生させることで、図4(a)に示すように、電子は陽電極20aに向けて移動し、正孔は陰電極20bに向けて移動する。放射線検出器2は、この移動を信号として読み出すものである。
【0058】
放射線4が、図4(b)に示すように、陽電極20aに最も近い入射位置d1に入射したとき、入射位置d1で電子と正孔が対生成し、電子は陽電極20aに向けて移動し、正孔は陰電極20bに向けて移動する。電子は、すぐに陽電極20aに到達するため、誘起電荷は、主に、正孔の移動により生じる。つまり、放射線検出信号は、正孔hがほぼ100%寄与する信号となる。しかし、正孔は、電子に比べて移動度が低いため、波高が最大となるまでの放射線検出信号の立ち上がり時間は長くなり、また、移動中の再結合により正孔の一部が消滅する。従って、図4(c)に二点鎖線で示すように、図4(a)に示す放射線検出信号の中で、信号の立ち上がり時間が最も長く、波高が最小となる。
【0059】
放射線4が、図4(b)に示すように、陰電極20bに最も近い入射位置d5に入射したとき、入射位置d5で電子と正孔が対生成する。正孔は、すぐに陰電極20bに到達するため、誘起電荷は、主に、電子の移動により生じる。つまり、放射線検出信号は、電子eがほぼ100%寄与する信号となる。電子は、正孔に比べて移動度が高いため、放射線検出信号の立ち上がり時間は早くなり、また、移動中の再結合はほとんど生じない。従って、図4(c)に実線で示すように、図4(a)に示す放射線検出信号の中で、信号の立ち上がりが早く、波高が最大となる。
【0060】
放射線4が、図4(b)に示すように、陽電極20aと陰電極20bの中間の入射位置d3に入射したとき、電極までの距離が同じであることから、放射線検出信号は、電子eがほぼ50%、正孔hがほぼ50%寄与する信号となる。よって、図4(c)に間隔の長い点線で示すように、放射線検出信号の立ち上がり時間は、入射位置d1と入射位置d5のおよそ中間となる。従って、入射位置d3の波高は、入射位置d5の波高よりも少し低くなる。これは、正孔の一部が再結合により消滅するからである。
【0061】
また、放射線4が、図4(b)に示すように、入射位置d1と入射位置d3との中間の入射位置d2に入射したとき、入射位置が陽電極20aに近いことから、放射線検出信号は、電子eがほぼ25%、正孔hがほぼ75%寄与する信号となる。よって、図4(c)に一点鎖線で示すように、信号の立ち上がりが、入射位置d1と入射位置d3のおよそ中間となる。従って、入射位置d2の波高は、入射位置d3の波高よりも低くなる。これは、正孔の寄与率が高く、正孔の一部が再結合により消滅するからである。
【0062】
さらに、放射線4が、図4(b)に示すように、入射位置d3と入射位置d5との中間の入射位置d4に入射したとき、入射位置が陰電極20bに近いことから、放射線検出信号は、電子eがほぼ75%、正孔hがほぼ25%寄与する信号となる。よって、図4(c)に間隔の短い点線で示すように、信号の立ち上がりが、入射位置d3と入射位置d5のおよそ中間となる。従って、入射位置d4の波高は、入射位置d5の波高よりも少し低くなる。これは、正孔の寄与率が高いからである。
【0063】
ここで、図4(c)に示すように、電子eがほぼ100%寄与する放射線検出信号においては、時間fastにおける波高と時間slowにおける波高は、ほぼ等しくなる。一方、正孔hがほぼ100%寄与する放射線検出信号においては、時間fastにおける波高は、時間slowにおける波高よりも著しく小さい。
【0064】
従って、時間slowと時間fastとの波高に強い相関があるので、放射線の入射位置は、時間fastにおける波高と時間slowにおける波高とを比較することによって推定することができる。つまり、この比較により、正孔の再結合の量を推定することができるので、再結合により失ったエネルギーを見積もることが可能となり、この失ったエネルギーを補正処理によって加算し、入射した放射線のエネルギーを精度良く求めることができる。
【0065】
なお、陽電極20a側に接続されたシェーピングアンプ302aは、時間slowにおける波高の信号を出力するように時定数が設定されている。以下では、この時定数を時定数slowと記すものとする。また、陰電極20b側に接続されたシェーピングアンプ302bは、時間fastにおける波高の信号を出力するように時定数が設定されている。つまり、シェーピングアンプ302aから出力される信号は、シェーピングアンプ302bから出力された信号よりも時間が経過した時点における信号である。また、言い換えるならば、シェーピングアンプ302bから出力される信号は、シェーピングアンプ302aから出力された信号よりも早い時点における信号である。以下では、この時定数を時定数fastと記すものとする。なお、上記の時定数は、陽電極20a側のシェーピングアンプ302aがfast、陰電極20b側のシェーピングアンプ302bがslowであっても良い。
【0066】
上記に示したBP補正に用いる補正式の一例を以下に示す。
【数1】

ここで、Eは、BP補正後の波高であり、A及びBは、補正パラメータである。この式(1)は、時間fastにおける波高(fast)が、時間slowにおける波高(slow)よりも著しく低い、つまり、正孔の寄与率が高い場合に、時間slowにおける波高(slow)と時間fastにおける波高(fast)の差に比例して波高を嵩上げする補正式である。
【0067】
図5(a)は、第1の実施の形態に係る補正パラメータの温度依存性に関するグラフであり、(b)は、補正パラメータのリフレッシュ後の経過時間依存性に関するグラフである。図5(a)は、横軸がCdTe素子の温度(℃)であり、左側の縦軸が補正パラメータAのパラメータ値であり、右側の縦軸が補正パラメータBのパラメータ値である。また、図5(b)は、横軸がリフレッシュ後の経過時間(秒)であり、左側の縦軸が補正パラメータAのパラメータ値であり、右側の縦軸が補正パラメータBのパラメータ値である。なお、図5(a)に示す補正パラメータの温度依存性は、同一のエネルギーを有する放射線を、それぞれの温度においてCdTe素子に向けて射出し、BP補正処理後の波高が、放射線のエネルギーから推定される波高と等しくなるように補正パラメータを算出し、図示したものである。また、図5(b)に示す補正パラメータのリフレッシュ処理後の経過時間依存性は、同一のエネルギーを有する放射線を、リフレッシュ処理終了からの経過時間を変えてCdTe素子に向けて射出し、BP補正処理後の波高が、放射線のエネルギーから推定される波高と等しくなるように補正パラメータを算出し、図示したものである。
【0068】
図5(a)及び(b)に示すように、特に、補正パラメータBが温度依存性及び経過時間依存性が高いことが分かる。従って、CdTe素子の温度、及びリフレッシュ処理終了後からの経過時間によって、補正処理に用いる補正パラメータを変更することにより、より正確に波高を補正することができる。
【0069】
BP補正に用いる補正式の他の一例を以下に示す。
【数2】

【0070】
図6は、第1の実施の形態に係る補正パラメータの温度依存性を示すグラフである。図6は、横軸がCdTe素子の温度(℃)であり、縦軸がパラメータ値である。この図6に示す補正パラメータの温度依存性は、同一のエネルギーを有する放射線を、それぞれの温度においてCdTe素子に向けて射出し、BP補正処理後の波高が、放射線のエネルギーから推定される波高と等しくなるように補正パラメータを算出し、図示したものである。
【0071】
図6に示すように、補正式が、式(1)と異なる式(2)であっても、各パラメータ値が温度によって変化することが分かる。従って、CdTe素子の温度によって、補正処理に用いる補正パラメータA〜補正パラメータCを変更することにより、より正確に波高を補正することができる。なお、補正処理に用いる補正式は、上記に例示した補正式以外にも様々な式が考えられる。従って、カウンタ308、タイマー309及び温度測定部310は、例えば、補正処理に採用する補正式の補正パラメータの依存性に基づいて放射線検出回路30に組み込まれるか否かが選択される。
【0072】
以下に、本実施の形態に係る放射線検出器2の動作について説明する。
【0073】
(第1の実施の形態の動作)
放射線4が、放射線検出器2のCdTe素子20に入射すると、入射位置に応じた放射線検出信号が出力される。
【0074】
陽電極20a側から出力された第1の放射線検出信号は、コンデンサ300a、プリアンプ301a、シェーピングアンプ302a及びピークホールド303aを介してA/D変換部304aに入力し、A/D変換部304aは、時定数slowで出力された波高をデジタル信号に変換して補正処理部312に出力する。
【0075】
一方、陰電極20b側から出力された第2の放射線検出信号は、コンデンサ300b、プリアンプ301b、シェーピングアンプ302b及びピークホールド303bを介してA/D変換部304bに入力し、A/D変換部304bは、時定数fastで出力された波高をデジタル信号に変換して補正処理部312に出力する。また、ピークホールド303bは、A/D変換部304bに波高が一定となる信号を出力すると共に、コンパレータ307の+端子に当該信号を出力する。コンパレータ307は、−端子に入力するしきい値と+端子に入力する信号を比較し、しきい値よりも信号の波高が大きいとき、トリガ信号を生成し、A/D変換部304a、A/D変換部304b及びカウンタ308に出力する。A/D変換部304a及びA/D変換部304bは、このトリガ信号に基づいて波高をデジタル信号に変換する。
【0076】
カウンタ308は、トリガ信号をカウントし、カウンタ情報を生成し、補正パラメータ生成部311に出力する。
【0077】
補正パラメータ生成部311は、カウンタ情報、タイマー309から取得したリフレッシュ経過時間情報、及び温度測定部310から取得したCdTe素子20の温度情報に基づいて補正パラメータを生成する。補正パラメータ生成部311は、生成した補正パラメータを補正処理部312に出力する。
【0078】
補正処理部312は、時定数fastの波高、時定数slowの波高、及び補正パラメータに基づいて、放射線4のエネルギーに応じた波高が得られるように、補正処理を行う。補正処理部312は、補正処理によって得られた補正後の波高を、補正波高情報として出力する。この補正波高情報は、例えば、放射線4が入射するピクセルごとに出力され、外部装置により画像情報に変換され視覚化される。
【0079】
(第1の実施の形態の効果)
第1の実施の形態に係る放射線検出器2によれば、カウンタ情報、リフレッシュ経過情報及び温度情報のうち、少なくとも1つを用いて補正パラメータを生成するので、補正パラメータが固定値である場合と比べて、入射した放射線のエネルギーから推定される波高に近づくように、正確に波高を補正することができる。よって、本実施の形態に係る放射線検出器2は、正確に波高を補正することができるので、放射線のエネルギーを精度良く検出することができる。
【0080】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、陽電極側から出力される放射線検出信号から時定数fast及び時定数slowにおける波高を生成する点で第1の実施の形態と異なっている。なお、以下に示す各実施の形態において、第1の実施の形態と同じ機能及び構成を有する部分については、第1の実施の形態と同じ符号を付し、その説明は、省略するものとする。
【0081】
(放射線検出回路30の構成)
図7は、第2の実施の形態に係る放射線検出回路のブロック図である。以下では、第1の実施の形態と異なっている部分を主に説明する。
【0082】
本実施の形態に係る放射線検出回路30は、図7に示すように、コンデンサ300a及びプリアンプ301aを介して陽電極20aから出力された放射線検出信号を2つに分け、一方を第1の放射線検出信号としてシェーピングアンプ302aに出力し、他方を第2の放射線検出信号としてシェーピングアンプ302bに出力するように構成されている。
【0083】
本実施の形態に係る放射線検出回路30の他の構成は、第1の実施の形態と同じであり、シェーピングアンプ302a及びシェーピングアンプ302b以降の動作は、第1の実施の形態と同一である。なお、本実施の形態では、陽電極20aから出力される放射線検出信号を用いたが、これに限定されず、陰電極20bから出力される放射線検出信号を用いても良い。
【0084】
(第2の実施の形態の効果)
第2の実施の形態に係る放射線検出器2は、陽電極20a又は陰電極20bから出力される放射線検出信号に基づいて補正処理を行うので、陽電極20a及び陰電極20bから出力される放射線検出信号を用いる場合と比べて、部品点数が削減され、放射線検出器2の製造コストを削減することができる。
【0085】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態は、放射線検出信号の立ち上がりの早さ(ライズタイム)を用いてBP補正を行う点で上記の各実施の形態と異なっている。
【0086】
(放射線検出回路30の構成)
図8は、第3の実施の形態に係る放射線検出回路のブロック図である。図9は、第3の実施の形態に係る補正処理に用いるライズタイムとしきい値の関係を示すグラフである。図9は、縦軸がしきい値であり、横軸が時間(μsec)である。
【0087】
本実施の形態に係る放射線検出回路30は、主に、コンデンサ300a及びプリアンプ301aを介して陽電極20aから出力された放射線検出信号を2つに分け、一方を第1の放射線検出信号としてシェーピングアンプ302aに出力し、他方を第2の放射線検出信号としてシェーピングアンプ302bに出力するように構成されている。また、シェーピングアンプ302bから出力された信号は、コンパレータ307aの+端子及びコンパレータ307bの+端子に出力するように構成されている。なお、本実施の形態では、陽電極20aから出力される放射線検出信号を用いたが、これに限定されず、陰電極20bから出力される放射線検出信号を用いても良い。
【0088】
シェーピングアンプ302aは、例えば、時定数がfast又はslowでも良く、本実施の形態における時定数は、fastであるものとする。
【0089】
コンパレータ307aは、+端子に入力するピークホールド303aから出力された信号と、−端子に入力するしきい値と、を比較し、ピークホールド303aから出力された信号の波高がしきい値よりも大きいときトリガ信号を生成し、A/D変換部304a及びカウンタ308に出力する。
【0090】
コンパレータ307bは、+端子に入力するシェーピングアンプ302bから出力された信号と、−端子に入力する第1のしきい値(低)と、を比較し、シェーピングアンプ302bから出力された信号の波高が第1のしきい値よりも大きいときスタート信号を生成し、時間測定部314にスタート信号を出力する。
【0091】
コンパレータ307cは、+端子に入力するシェーピングアンプ302bから出力された信号と、−端子に入力する第2のしきい値(高)と、を比較し、シェーピングアンプ302bから出力された信号の波高が第2のしきい値よりも大きいときストップ信号を生成し、時間測定部314にストップ信号を出力する。なお、第1のしきい値(低)は、第2のしきい値(高)よりも小さい。
【0092】
時間測定部314は、コンパレータ307bから出力されたスタート信号と、コンパレータ307cから出力されたストップ信号に基づいて図9に示すライズタイムを算出し、ライズタイム情報を生成する。このライズタイムは、スタート信号が入力してからストップ信号が入力するまでの時間間隔である。
【0093】
時間測定部314は、生成したライズタイム情報を補正処理部312に出力する。このライズタイムが最も短いとき、電子がほぼ100%寄与した放射線検出信号であることが分かり、最も長いとき、正孔がほぼ100%寄与した放射線検出信号であることが分かる。補正処理部312は、このライズタイムと、時定数fast又は時定数slowにおける波高、及び補正パラメータからBP補正後の波高を算出する。
【0094】
本実施のカウンタ308は、コンパレータ307aから出力されたトリガ信号に基づいて放射線の入射をカウントする。
【0095】
(第3の実施の形態の動作)
放射線4が、放射線検出器2のCdTe素子20に入射すると、入射位置に応じた放射線検出信号が陽電極20a側から出力される。
【0096】
陽電極20aから出力された放射線検出信号は、コンデンサ300aを介してプリアンプ301aに入力し、プリアンプ301aによって増幅された信号がシェーピングアンプ302a及びシェーピングアンプ302bに入力する。
【0097】
シェーピングアンプ302aに入力した信号は、波形整形された後、ピークホールド303aによって波高の最大値に固定された信号としてA/D変換部304a、及びコンパレータ307aの+端子に出力される。
【0098】
コンパレータ307aは、+端子に入力した信号と、−端子に入力したしきい値と、を比較し、入力した信号がしきい値よりも大きいとき、トリガ信号を生成してA/D変換部304a及びカウンタ308に出力する。A/D変換部304aは、トリガ信号に基づいてピークホールド303aから出力された信号をデジタル信号に変換して補正処理部312に出力する。カウンタ308は、トリガ信号に基づいて放射線の計数率を算出し、算出した結果をカウンタ情報として補正パラメータ生成部311に出力する。
【0099】
一方、シェーピングアンプ302bに入力した信号は、波形整形され、コンパレータ307bの+端子、及びコンパレータ307cの+端子に入力する。
【0100】
コンパレータ307bは、+端子に入力した信号と、−端子に入力した第1のしきい値を比較し、入力した信号が第1のしきい値よりも大きいとき、スタート信号を生成して時間測定部314に出力する。
【0101】
また、コンパレータ307cは、+端子に入力した信号と、−端子に入力した第2のしきい値を比較し、入力した信号が第2のしきい値よりも大きいとき、ストップ信号を生成して時間測定部314に出力する。
【0102】
時間測定部314は、スタート信号が入力した時刻と、ストップ信号が入力した時刻と、の時間間隔を測定し、ライズタイム情報を生成して補正処理部312に出力する。
【0103】
補正パラメータ生成部311は、カウンタ情報、タイマー309から取得したリフレッシュ経過時間情報、及び温度測定部310から取得したCdTe素子20の温度情報に基づいて補正パラメータを生成する。補正パラメータ生成部311は、生成した補正パラメータを補正処理部312に出力する。
【0104】
補正処理部312は、時定数fastの波高又は時定数slowの波高、ライズタイム情報及び補正パラメータに基づいて、放射線4のエネルギーに応じた波高が得られるように、補正処理を行う。補正処理部312は、補正処理によって得られた補正後の波高を、補正波高情報として出力する。この補正波高情報は、例えば、放射線4が入射するピクセルごとに出力され、外部装置により画像情報に変換され視覚化される。
【0105】
(第3の実施の形態の効果)
第3の実施の形態に係る放射線検出器2によれば、放射線検出信号の立ち上がりの早さを示すライズタイム情報を時定数fast又は時定数slowの代わりに用いるので、時定数fast及び時定数slowの両方の信号を用いる場合と比べて、簡単な構成となり、部品コストを抑制することができる。
【0106】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態及び変形例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0107】
1…放射線検出装置
1a…放射線検出器立て
2…放射線検出器
3…電子部品搭載部
4…放射線
10…支持板
11…支持体
12…コネクタ
20…CdTe素子
20a…陽電極
20b…陰電極
21…基板
22…フレキシブル基板
23…カードホルダ
24…カードホルダ
30…放射線検出回路
31…温度測定部
110…壁部
111…溝
112…くぼみ部
113…平坦面
210〜213…基板端子
220〜223…接続部
224…カードエッジ部
225…パターン
230…溝付穴
231…突起部
240…突起部
250…弾性部材実装部
251…弾性部材
300a…コンデンサ
300b…コンデンサ
301a…プリアンプ
301b…プリアンプ
302a…シェーピングアンプ
302b…シェーピングアンプ
303a…ピークホールド
303b…ピークホールド
304a…A/D変換部
304b…A/D変換部
305…リフレッシュ回路
306…リフレッシュ制御回路
307…コンパレータ
307a…コンパレータ
307b…コンパレータ
307c…コンパレータ
308…カウンタ
309…タイマー
310…温度測定部
311…補正パラメータ生成部
312…補正処理部
313…電源
314…時間測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射を検出して放射線検出信号を出力する半導体素子と、
取得したパラメータに基づいて、前記放射線の入射により前記半導体素子に生じたキャリアが再結合することによって低下した前記放射線検出信号の波高を補正する補正処理に用いる補正パラメータを生成する補正パラメータ生成部と、
生成された前記補正パラメータに基づいて前記補正処理を行う補正処理部と、
を備えた放射線検出装置。
【請求項2】
前記半導体素子の温度を測定して温度情報を生成する温度測定部、前記半導体素子のリフレッシュ処理からの経過時間を示すリフレッシュ経過時間情報を生成する経過時間情報生成部、及び前記半導体素子に入射した前記放射線の計数率を示すカウント情報を生成するカウント情報生成部、の少なくとも1つを有し、
前記パラメータが、前記温度情報、前記リフレッシュ経過時間情報、及び前記カウント情報の少なくとも1つである請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記放射線検出信号が、前記半導体素子の陽電極から出力される第1の放射線検出信号、及び陰電極から出力される第2の放射線検出信号、とからなり、
前記補正処理部が、前記第1の放射線検出信号と、前記第1の放射線検出信号よりも早い時点における信号、又は前記第1の放射線検出信号よりも時間が経過した時点における信号である前記第2の放射線検出信号と、に基づいて前記補正処理を行う請求項2に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記放射線検出信号が、前記半導体素子の陽電極又は陰電極から出力され、
前記補正処理部が、前記放射線検出信号を分けた一方の信号である第1の放射線検出信号と、前記放射線検出信号を分けた他方の信号の前記第1の放射線検出信号よりも時間が経過した時点における信号である前記第2の放射線検出信号と、に基づいて前記補正処理を行う請求項2に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
前記放射線検出信号が、前記半導体素子の陽電極又は陰電極から出力され、
前記補正処理部が、前記放射線検出信号が第1のしきい値を超えた時間と、前記第1のしきい値よりも大きい第2のしきい値を超えた時間と、の時間間隔、及び前記放射線検出信号に基づいて前記補正処理を行う請求項2に記載の放射線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−78092(P2012−78092A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220514(P2010−220514)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】