説明

放射線画像撮影装置

【課題】放射線検出器の隣接するサブエリアの境界で画像濃度が大きく変わる画像の場合であっても、その画像濃度の段差を正確に補正することができる放射線画像撮影装置を提供する。
【解決手段】放射線画像撮影装置は、放射線検出器を用いて被写体の放射線画像を撮影する。この像撮影装置は、隣接するサブエリアの境界における、放射線画像のデータの信号強度と、放射線画像の信号強度の段差量との関係を表すLUTを含むLUT供給部と、LUT供給部から供給されたLUTを用いて、放射線検出器から読み出された放射線画像の、隣接するサブエリアの各画素のデータの信号強度から、隣接するサブエリアの各画素の段差量を算出する段差量算出部と、段差量算出部から供給された段差量に基づいて、境界で発生する放射線画像の段差を補正する段差補正部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を被写体に照射し、被写体を透過した放射線を検出して電気信号に変換し、変換した電気信号に基づいて放射線画像を生成する放射線画像撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線画像撮影装置は、例えば、医療用の診断画像や工業用の非破壊検査などを含む各種の分野で利用されている。放射線画像撮影装置において、被写体を透過した放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)を検出する放射線検出器として、現在では、放射線を電気信号に変換するフラットパネル型検出器(FPD(Flat Panel Detector))を用いるものがある。
【0003】
FPDを用いた放射線画像撮影装置では、放射線源から放射線を被写体に照射し、被写体を透過した放射線をFPDで電気信号に変換し、FPDから被写体の画像データに相当する電気信号を読み出して放射線画像を生成する。
【0004】
通常、FPDは、図2に示すように、読み出し単位又は検出素子単位の少なくとも一方で分割された複数のサブエリア42a〜42eを連結して構成されており、各々のサブエリア42a〜42e毎に画像データの読出回路44a〜44eが設けられている。しかし、各々のサブエリア42a〜42eの感度や読出回路44a〜44eの増幅特性に個体差があるため、隣接するサブエリアの境界48a〜48dでオフセットが発生して放射線画像の信号(輝度)に段差(アーティファクト)が生じるという問題があった。
【0005】
これに対し、例えば、特許文献1には、複数のサブエリアからなる画像を形成する装置であって、画像データを生成するための複数のセンサ要素を含む検出器、画像のサブエリアに関連する読み取りユニット、隣接サブエリアの連接画像エリアからの画像データを評価して、補正データを生成するように配される分析ユニット、及び、補正データによって不正な画像データを補正するように配される補正ユニットを含むものが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−197313号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の装置では、読み取りユニット毎の増幅特性を分析するために、サブエリア毎にヒストグラムを求めて補正量を算出する。従って、この装置では、サブエリア内で均一な変動に起因する画像信号の段差は補正できるが、サブエリア内で不均一な変動に起因する画像信号の段差はサブエリアの境界位置で異なるというローカリティを有しているので、サブエリア内で不均一な変動に起因する画像信号の段差を解消することはできない。
【0008】
そのため、本出願人は、特願2007−86653号において、隣接するサブエリアにおける特定のライン(例えば、境界に最も近いライン)から得られる検出信号(画像データ)に基づいて、複数のサブエリアの境界で発生する画像信号の段差を補正することを提案している。この手法であれば、サブエリア内で不均一な変動に起因する画像の信号強度の段差(サブエリアの境界での画像の信号強度の段差)を解消することができる。
【0009】
上記手法は、サブエリア境界の読出ラインの画像データに基づいて、画像の信号強度の段差を補正するための補正量を算出する。そのため、境界で画像の信号強度が大きく変わる画像の場合、補正量が大きく変わることによってアーティファクトが発生することがあった。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解消し、放射線検出器の隣接するサブエリアの境界で画像の信号強度が大きく変わる画像の場合であっても、その画像信号の段差を正確に補正することができる放射線画像撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、放射線検出器を用いて被写体の放射線画像を撮影する放射線画像撮影装置であって、
隣接するサブエリアにおける、前記放射線画像のデータの信号強度と、前記放射線画像の信号強度と段差量の関係を表すルックアップテーブルを含むLUT供給部と、
前記LUT供給部から供給されたルックアップテーブルを用いて、前記放射線検出器から読み出された放射線画像の、前記隣接するサブエリアの各画素のデータの信号強度から、隣接するサブエリアの各画素の段差量を算出する段差量算出部と、
前記段差量算出部から供給された段差量に基づいて、前記境界で発生する放射線画像の信号の段差を補正する段差補正部とを備えていることを特徴とする放射線画像撮影装置を提供するものである。
【0012】
ここで、前記LUT供給部は、所定温度範囲内で一定の温度毎に作成された複数のルックアップテーブルを含み、
前記段差量算出部は、前記LUT供給部から供給された撮影時の温度に対応するルックアップテーブルを用いて、前記段差量を算出するものであることが好ましい。
【0013】
また、前記段差量算出部は、撮影された放射線画像がテストパターンの画像であるか否かを検出し、前記テストパターンの画像であることが検出された場合に、前記LUT供給部から供給されたルックアップテーブルから、前記テストパターン画像のデータの信号強度による影響がない範囲内の段差量を出力するものであることが好ましい。
【0014】
また、さらに、前記段差量算出部によって、前記撮影された放射線画像がテストパターンの画像ではないことが検出された場合に、前記撮影された放射線画像のデータを使用して前記LUT供給部のルックアップテーブルを更新する変換データ更新部を備えていることが好ましい。
【0015】
また、前記段差量算出部は、前記段差の補正の対象となる画像が撮影されている領域の範囲外の領域では段差量を求めないものであり、
前記段差補正部は、前記段差量算出部において段差量が求められない場合、前記段差の補正を行わないものであることが好ましい。
【0016】
また、前記段差補正部は、前記段差量算出部から供給された段差量を1/2倍して補正値を算出し、前記隣接するサブエリアのうち、前記放射線画像の信号強度が高い方のサブエリアのデータから前記補正値を減算し、前記放射線画像の信号強度が低い方のサブエリアのデータに前記補正値を加算することによって、前記段差を補正するものであることが好ましい。
【0017】
また、前記段差補正部は、前記隣接するサブエリアの放射線画像のデータを、前記境界から前記サブエリアの配列方向に離れるに従って前記補正値が少なくなるように変化させて前記段差を補正するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、放射線画像のデータの信号強度と、放射線画像の信号強度の段差量との関係を表すルックアップテーブルを用いて、放射線検出器から読み出された放射線画像の、サブエリアの各画素のデータの信号強度から、境界における放射線画像の信号強度の段差量を算出し、算出された段差量に基づいて、境界で発生する放射線画像の信号強度の段差を補正する。これにより、サブエリアの境界で画像信号強度が大きく変わる画像の場合であっても、その画像信号強度の段差を正確に補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の放射線画像撮影装置を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の放射線画像撮影装置の構成を表す一実施形態のブロック図である。同図に示す放射線画像撮影装置10は、放射線を被写体(被検者)Hに照射し、被写体Hを透過した放射線を検出して画像データに相当する電気信号に変換し、この変換した電気信号に基づいて、被写体Hが撮影された放射線画像を生成する。撮影装置10は、撮影部12と、撮影データ処理部14と、画像処理部16と、出力部18と、撮影指示部20と、制御部22とによって構成されている。
【0021】
撮影部12は、放射線を被写体Hに照射し、被写体Hを透過した放射線を検出することで被写体Hの撮影を行う部位である。撮影部12からは、被写体Hが撮影された放射線画像のデータ(アナログデータ)が出力される。撮影部12の詳細は後述する。
【0022】
続いて、撮影データ処理部14は、撮影部12から供給された放射線画像データに対して、A/D(アナログ/デジタル)変換等のデータ処理を行う部位である。撮影データ処理部14からは、データ処理後の放射線画像のデータ(デジタルデータ)が出力される。
【0023】
画像処理部16は、撮影データ処理部14から供給されたデータ処理後の放射線画像データに対して、オフセット補正、残像補正、段差補正等を含む各種の画像処理を行う部位である。画像処理部16は、コンピュータ上で動作するプログラム(ソフトウェア)、専用のハードウェア、ないしは、両者を組み合わせて構成される。画像処理部16からは、画像処理後の放射線画像データが出力される。
【0024】
出力部18は、画像処理部16から供給された画像処理後の放射線画像データを出力する部位である。出力部18は、例えば、放射線画像を画面上に表示するモニタ、放射線画像をプリント出力するプリンタ、放射線画像データを記憶する記憶装置等である。
【0025】
ここで、撮影装置10には、撮影モードとして、放射線の強度および照射時間(照射量)等の撮影条件を手動で設定する手動撮影モードの他に、あらかじめ所定の撮影条件が設定されている、複数の撮影モードが設けられている。
【0026】
撮影指示部20は、撮影条件や撮影モードを設定し、被写体Hの撮影を指示する部位である。撮影指示部20として、撮影条件や撮影モードを設定するための入力キー、撮影の指示には、2段押し型の撮影ボタンが用いられている。撮影ボタンは、1段目まで押されると撮影の準備状態となり、2段目まで押されると撮影が開始される。撮影指示部20からは、撮影条件や撮影モード、撮影ボタンの状態を表す撮影指示信号が出力される。
【0027】
制御部22は、撮影指示部20から供給された撮影指示信号に応じて、撮影装置10の動作を制御する部位である。制御部22は、例えば、撮影部12における撮影の制御、画像処理部16における画像処理の制御、出力部18における出力の制御、を行う。
【0028】
続いて、撮影部12について説明する。
【0029】
撮影部12は、照射制御部24と、放射線源26と、撮影台28と、放射線検出部30とによって構成されている。
【0030】
照射制御部24は、放射線源26を駆動して、撮影モードに応じて設定された強度の放射線が設定された時間だけ照射されるように照射量を制御する。放射線源26から照射された放射線は、撮影台28上の被写体Hを透過して放射線検出部30に入射される。
【0031】
放射線検出部30は、被写体Hを透過した放射線をFPD32で検出して電気信号(放射線画像データ)に変換する。放射線検出部30からは、被写体Hが撮影された放射線画像のデータ(アナログデータ)が出力される。
【0032】
図示を省略しているが、放射線源26と放射線検出部30は、例えば、長尺撮影などの場合のために、撮影台28の長手方向(図1中、左右方向)に沿って往復移動が可能なように構成されている。これに対し、撮影台28を移動可能に構成してもよい。
【0033】
FPD32は、既に図2を用いて説明したように、5つのサブエリア42a〜42eを連結して構成されており、各々のサブエリア42a〜42e毎に画像データの読出回路44a〜44eが設けられている。ここで、5つのサブエリア42a〜42eの連結方向を主方向(図2中、左右方向)とし、主方向に直行する方向を副方向(同上下方向)とする。1本だけを代表的に表示しているが、各々のサブエリア42a〜42eにおいて、主方向に複数本配列され、副方向に延びる画像データの読出ライン46a〜46eが、対応する読出回路44a〜44eに接続されている。
【0034】
各々のサブエリア42a〜42eには、主方向および副方向のそれぞれに、放射線の読取画素がアレイ状に配列されている。FPD32から画像データの読み出しが行われる場合には、全ての読出回路44a〜44eによって、全てのサブエリア42a〜42eの全ての読出ライン46a〜46eを介して主方向の1行分の画像データが同時に読み出される。また、副方向に位置を変えながら副方向の全画素にわたって1行分の画像データの読み出しを行数に相当する回数繰り返すことで1画面分の画像データの読み出しが行われる。
【0035】
なお、FPD32を構成するサブエリアの数は2以上であり、その上限は特に制限されない。
【0036】
FPD32は、放射線を電荷に直接変換する直接方式のFPD、もしくは、放射線を一旦光に変換し、変換された光をさらに電気信号に変換する間接方式のFPDのどちらでも利用可能である。また、本出願人は、特願2007−218816号において、公知の直接方式および間接方式とは異なる方式で放射線を検出する光読取方式のFPDを提案している。FPD32は、この光読取方式のFPDも利用可能である。
【0037】
直接方式のFPDは、アモルファスセレン等の光導電膜、キャパシタ、スイッチ素子としてのTFT(Thin Film Transistor)等によって構成される。例えば、X線等の放射線が入射されると、光導電膜から電子−正孔対(e−hペア)が発せられる。その電子−正孔対はキャパシタに蓄積され、キャパシタに蓄積された電荷が、TFTを介して電気信号として読み出される。
【0038】
一方、間接方式のFPDは、蛍光体で形成されたシンチレータ層、フォトダイオード、キャパシタ、TFT等によって構成される。例えば、「CsI:Tl」等の放射線が入射されると、シンチレータ層が発光(蛍光)する。シンチレータ層による発光はフォトダイオードで光電変換されてキャパシタに蓄積され、キャパシタに蓄積された電荷が、TFTを介して電気信号として読み出される。
【0039】
光読取方式のFPDは、概略すると、放射線(記録光)が照射されると電荷対を発生して導電性を呈する記録用光導電層、読取光が照射されると電荷対を発生して導電性を呈する読取用光導電層、読取光に対して透過性を有する基板等がこの順に設けられて構成される。また、光読取方式のFPDには、蓄積された電荷を読み出す時に、1ライン分の読取光を基板側に順次照射するライン光源が設けられている。
【0040】
光読取方式のFPDでは、ライン光源からライン状の読取光が照射されると、蓄電部に蓄積された潜像極性電荷として記録されている画像情報のうち、読取光が照射された部分に記録されている1ライン分の画像情報が、透明線状電極を介し、各画素毎に潜像極性電荷の量に応じたレベルの電気信号として読み出される。この処理を全てのラインについて行うことで1画面分の画像情報が画像データとして読み出される。
【0041】
続いて、画像処理部16について説明する。
【0042】
画像処理部16は、図3に示すように、LUT供給部34と、段差量算出部36と、段差補正部38とによって構成されている。同図には、撮影時の温度を検出して温度情報データを出力する温度センサ40も示されている。
【0043】
LUT供給部34は、隣接するサブエリアの境界48a〜48dにおける、放射線画像データの信号強度(画素値)と、放射線画像の信号強度と段差量の関係を表すLUT(ルックアップテーブル)を備えている。LUT供給部34には、撮影装置10が動作可能な所定温度範囲内で一定の温度毎(例えば、0.5℃、1℃毎など)に作成された複数のLUTが保持されている。LUT供給部34からは、温度センサ40から供給された温度情報データに基づいて、撮影時の温度に対応するLUTが出力される。
【0044】
ここで、LUTは、図4に示すように、副方向に沿って画像濃度が段階的に変化するステップウェッジを用いて測定される。図4では簡略化しているが、実際には、撮影装置10が撮影可能な階調数に対応した階調パターンのステップウェッジが用いられる。ステップウェッジの画像信号強度の変化は既知である。従って、FPD32から読み出された読出ラインの副方向の各画素(各画素位置)の画像データに基づいてLUTを作成することができる。各々の温度に対応するLUTはあらかじめ測定しておく。
【0045】
段差量算出部36は、LUT供給部34から供給された撮影時の温度に対応するLUTを用いて、FPD32から読み出され、撮影データ処理部14から供給された放射線画像データから、隣接したサブエリアの各境界に対応したLUTを使って、48a〜48dの各隣接エリアの各画素に対応した段差量を求める。求めた段差量は段差量算出部36から出力される。
【0046】
ここで、隣接する2つのサブエリアの各境界におけるローカリティを吸収するため各々の境界で画像信号強度と段差量の関係を表すLUTを求める必要がある。
【0047】
画像信号強度によって段差量が変わることが、隣接するサブエリアの境界においてアーティファクトが発生する原因である。そのため、画像データの信号強度と、画像信号強度と段差量の関係を表すLUTを用いて、画像データの信号強度に対応する画像濃度の段差量を求める。また、温度によってサブエリア42a〜42eの感度や読出回路44a〜44eの増幅特性が変わると、これに応じて段差量が変わるため、放射線画像の撮影時の温度に応じて、使用するLUTを切り替えることが望ましい。
【0048】
段差量算出部36は、関心線量(段差補正を含む画像処理の対象となる画像が撮影されている有効領域)の範囲外の領域では段差量を求めない、すなわち、段差補正を行わないことが望ましい。この場合、あらかじめ、段差量を求めない範囲を決定しておく。例えば、乳房の撮影を行うマンモグラフィでは、常に画像が撮影されない領域があるので、この領域をあらかじめ決定しておく。もしくは、ヒストグラム解析などの画像解析によって、段差補正が行われる有効領域を決定してもよい。
【0049】
また、例えば、クオリティコントロール(QC)と呼ばれるテストチャートがあるが、QCのパターンの間にサブエリアの境界がくると、画像信号の段差が大きすぎて段差量を誤認識する虞がある。従って、段差量算出部36は、撮影された放射線画像がテストパターンの画像であるか否かを検出し、テストパターンの画像であることが検出された場合に、LUT供給部34から供給されたLUTから、テストパターンの画像のデータの信号強度による影響がない範囲内の段差量を出力することが望ましい。
【0050】
段差補正部38は、隣接するサブエリアの一方(画像信号強度の高い方)の読出ラインの各画素の画像データから対応する画素の段差量の1/2を減算し、他方(画像信号強度の低い方)のラインの各画素の画像データに対応する画素の段差量の1/2を加算することにより、境界で発生する画像信号の段差を補正する。また、段差補正部38は、隣接するサブエリアの放射線画像のデータを、境界から主方向に離れるに従って補正値が少なくなるように変化させて段差を補正する。
【0051】
次に、撮影装置10の動作を説明する。
【0052】
撮影指示部20において、ユーザにより撮影条件ないし撮影モードが設定され、撮影ボタンが1段目まで押されると、撮影装置10は、制御部22の制御の下で撮影の準備状態となる。
【0053】
続いて、撮影ボタンが2段目まで押されると撮影が開始される。撮影が開始されると、撮影部12において、放射線源26から、撮影条件ないし撮影モードに応じて設定された強度の放射線が設定された時間だけ照射される。照射された放射線は、撮影台28上の被写体Hを透過して放射線検出部30のFPD32に入射され、被写体Hを透過した放射線が電気信号(放射線画像データ)に変換される。
【0054】
続いて、FPD32から、撮影された放射線画像のデータが読み出され、撮影データ処理部14によってA/D変換等のデータ処理が行われる。画像処理部16では、データ処理後の放射線画像データに対して、オフセット補正、残像補正、段差補正などの画像処理が行われる。画像処理後の放射線画像データは出力部18に供給され、例えば、モニタ上に表示されたり、プリント出力されたりする。
【0055】
次に、画像処理部16における段差補正について説明する。
【0056】
段差量算出部36では、撮影データ処理部14から供給されたデータ処理後の放射線画像データについて、LUT供給部34から供給された撮影時の温度に対応するLUTを用いて、各画素における画像データの信号強度から、各画素における段差量が算出される。
【0057】
段差補正部38では、読出ラインの副方向の各画素における段差量を1/2倍して補正値が算出される。そして、隣接するサブエリアのうち、画像の信号強度が高い方のサブエリアの境界に最も近い読出ラインの副方向の各画素にける画像データから対応する各画素の補正値が減算され、画像の信号強度が低い方のサブエリアの境界に最も近い読出ラインの副方向の各画素における画像データに対応する各画素の補正値が加算される。
【0058】
続いて、段差補正部38では、境界から主方向に離れる(左側のサブエリアでは、境界から左側に離れ、右側のサブエリアでは、境界から右側に離れる)に従って画像データの信号強度が弱くなるように設定された強度補正テーブルの強度補正係数を乗算することによって、主方向および副方向の各画素の画像データの信号強度に応じて、隣接する左右のサブエリア内の全ての位置の画像データが補正される。
【0059】
すなわち、段差補正部38によって、隣接する左右のサブエリア内の全ての位置の画像データは、境界から主方向に離れるに従って補正値が少なくなるように変化されて補正される。これにより、図5に示すように、境界における画像信号の段差を滑らかに補正できる。
【0060】
画像処理部16では、上記手順に従って、隣接するサブエリアの境界の全てに対して同様の処理が行われる。これにより、隣接するサブエリアの境界で画像の信号強度が大きく変わる画像の場合であっても、その画像信号の段差を正確に補正することができる。
【0061】
その後、画像処理部16において、さらに、境界に対して平行なムラを除去する処理を行うことが望ましい。これにより、上記の段差補正によっても補正しきれない段差があったとしても、これを軽減することができる。
【0062】
さらに、撮影された放射線画像のデータを使用してLUTの段差量を更新することが望ましい。これにより、経時変化などにより段差量が変化する場合であっても柔軟に対応することができる。ただし、テストパターンの画像のように急峻な段差があった場合には正確な段差量を求めることは難しい。従って、段差量算出部36によって、テストパターンの画像か否かを判別して、テストパターンの画像ではないことが検出された場合に段差量を更新する変換データ更新部を備えることが望ましい。
【0063】
次に、段差補正について別の例を挙げて説明する。以下の例は、信号強度と段差量との関係を表すLUTに基づいて、画像データの強度信号から段差量を求めるのではなく、隣接する両側のサブエリアの画像データから段差量を算出する手法である。
【0064】
(ステップ1)
処理量を低減するために、境界の両側のサブエリアにおいて、後述するメディアンフィルタ処理の時に使用する本数分の読出ラインの画像データを、副方向に所定数ずつ纏めて縮小する。例えば、境界の両側のサブエリアにおいて、複数ライン分の画像データを、各々の読出ラインについて、副方向にN画素分の画像データずつ、例えば、単純加算、加算平均などして纏め、副方向に1/Nの画素数に縮小する。
【0065】
(ステップ2)
主方向のノイズ成分を低減するために、副方向の各画素に、サブエリアの主方向の端部の読出ラインの画素を中心として、サブエリアの区別をすることなくメディアンフィルタ処理を行うラインの範囲をNm1として求め、これとは別に、サブエリア別にメディアンフィルタ処理を行うラインの範囲をNm2として求める。Nm1とNm2の平均値を求め、境界の両側のサブエリアにおいて段差量の算出に用いる読出ラインのデータ値をD0,D1とする。
【0066】
(ステップ3)
続いて、以下に示すステップ3−1〜3−6で境界における段差量を求める。
3−1.副方向の前の画素の段差量Dprev=0に初期化する。
3−2.主方向の大側(図2中、右側)のデータ値をD1とし、データ値D1と閾値Dthとを比べて、D1>Dthであれば現在の画素の段差量=前の画素の段差量Dprevとし、副方向の次の画素の段差量の計算を行う。
3−3.主方向の小側(同左側)のデータ値をD0とし、データ値D0とD1との差分Dd=D0−D1を求める。
3−4.ステップ3−3で求めた差分Ddの絶対値|Dd|と閾値Tdiffとを比べて、|Dd|<Tdifであれば、現在の画素の段差量=差分Dd、前の画素の段差量Dprev=差分Ddとし、副方向の次の画素の段差量の計算を行う。
3−5.データ値D1=0の時、現在の画素の段差量=前の画素の段差量Dprevとし、副方向の次の画素の段差量の計算を行う。
3−6.データ値D0とD1との比R=D0/D1を求め、この比Rが1±閾値Tratio以下であれば、現在の画素の段差量=差分Dd、前の画素の段差量Dprev=差分Ddとし、比Rが1±閾値Tratioを超えていれば、現在の画素の段差量=前の画素の段差量Dprevとする。
【0067】
(ステップ4)
高周波成分(ノイズ成分)を除去し、低周波成分を抽出するために、ステップ3で算出した段差量にNs画素のメディアンフィルタ処理を行う。
【0068】
(ステップ5)
ステップ4でメディアンフィルタ処理を行った段差量を1/2倍する。
【0069】
(ステップ6)
ステップ5で1/2倍した段差量とデータ値D0およびD1をNb倍に直線拡大(線形補間)して元の大きさに戻す。例えば、ステップ1で副方向に1/2の画素数に縮小した場合、副方向に2倍の画素数に拡大する。
【0070】
(ステップ7)
ステップ6で直線拡大した段差量、左側のサブエリアの画像データを補正するための強度補正テーブルの強度補正係数、および、補正前の放射線画像のデータを用いて、左側のサブエリアの補正量データを作成する。但し、サブエリア端部の画素の場合は、補正量データを変更しない。ここで、補正する画素のデータ値がD1以上の時は段差量を加算し、D1未満の時は(段差量×補正量データ/D1)を加算して段差を補正する。
【0071】
(ステップ8)
同様に、ステップ6で直線拡大した段差量、右側のサブエリアの画像データを補正するための強度補正テーブルの強度補正係数、および、補正前の放射線画像のデータを用いて、右側のサブエリアの補正量データを作成する。但し、サブエリア端部の画素の場合は、補正量データを変更しない。ここで、補正する画素のデータ値がD0以上の時は段差量を加算し、D0未満の時は(段差量×補正量データ/D0)を加算して段差を補正する。
【0072】
本発明は、基本的に以上のようなものである。
以上、本発明の放射線画像撮影装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の放射線画像撮影装置の構成を表す一実施形態のブロック図である。
【図2】図1に示すFPDの構成を表す回路図である。
【図3】図1に示す画像処理部の構成を表すブロック図である。
【図4】LUTを作成する時の画像の信号強度と段差量との関係を表す概念図である。
【図5】段差補正の時の主方向の補正量を表す概念図である。
【符号の説明】
【0074】
10 放射線画像撮影装置
12 撮影部
14 撮影データ処理部
16 画像処理部
18 出力部
20 撮影指示部
22 制御部
24 照射制御部
26 放射線源
28 撮影台
30 放射線検出部
32 FPD
34 LUT供給部
36 段差量算出部
38 段差補正部
40 温度センサ
42a〜42e サブエリア
44a〜44e 読出回路
46a〜46e 読出ライン
48a〜48d 境界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線検出器を用いて被写体の放射線画像を撮影する放射線画像撮影装置であって、
隣接するサブエリアの境界における、前記放射線画像のデータの信号強度と、前記放射線画像の信号強度と段差量の関係を表すルックアップテーブルを含むLUT供給部と、
前記LUT供給部から供給されたルックアップテーブルを用いて、前記放射線検出器から読み出された放射線画像の、隣接するサブエリアの各画素のデータの信号強度から、隣接するサブエリアの各画素の段差量を算出する段差量算出部と、
前記段差量算出部から供給された段差量に基づいて、前記境界で発生する放射線画像の段差を補正する段差補正部とを備えていることを特徴とする放射線画像撮影装置。
【請求項2】
前記LUT供給部は、所定温度範囲内で一定の温度毎に作成された複数のルックアップテーブルを含み、
前記段差量算出部は、前記LUT供給部から供給された撮影時の温度に対応するルックアップテーブルを用いて、前記段差量を算出するものであることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像撮影装置。
【請求項3】
前記段差量算出部は、撮影された放射線画像がテストパターンの画像であるか否かを検出し、前記テストパターンの画像であることが検出された場合に、前記LUT供給部から供給されたルックアップテーブルから、前記テストパターンの画像のデータの信号強度による影響がない範囲内の段差量を出力するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線画像撮影装置。
【請求項4】
さらに、前記段差量算出部によって、前記撮影された放射線画像がテストパターンの画像ではないことが検出された場合に、前記撮影された放射線画像のデータを使用して前記LUT供給部のルックアップテーブルを更新する変換データ更新部を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の放射線画像撮影装置。
【請求項5】
前記段差量算出部は、前記段差の補正の対象となる画像が撮影されている領域の範囲外の領域では段差量を求めないものであり、
前記段差補正部は、前記段差量算出部において段差量が求められない場合、前記段差の補正を行わないものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の放射線画像撮影装置。
【請求項6】
前記段差補正部は、前記段差量算出部から供給された段差量を1/2倍して補正値を算出し、前記隣接するサブエリアのうち、前記放射線画像の信号強度が高い方のサブエリアのデータから前記補正値を減算し、前記放射線画像の信号強度が低い方のサブエリアのデータに前記補正値を加算することによって、前記段差を補正するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の放射線画像撮影装置。
【請求項7】
前記段差補正部は、前記隣接するサブエリアの放射線画像のデータを、前記境界から前記サブエリアの配列方向に離れるに従って前記補正値が少なくなるように変化させて前記段差を補正するものであることを特徴とする請求項6に記載の放射線画像撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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