説明

放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物およびその製造方法、塩化ビニル系樹脂、磁気記録媒体、ならびに放射線硬化性塩化ビニル系樹脂用保存安定剤

【課題】優れた保存安定性と硬化性を兼ね備えた、磁気記録媒体用途に好適な放射線硬化性塩化ビニル系樹脂を提供すること。
【解決手段】放射線硬化性官能基を含む塩化ビニル系樹脂および/またはその原料化合物とベンゾキノン化合物とを含む放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、優れた保存安定性と硬化性とを兼ね備えた放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記組成物から形成される塩化ビニル系樹脂、上記組成物から形成される放射線硬化層を有する磁気記録媒体、および放射線硬化性塩化ビニル系樹脂用保存安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体では、磁性粒子の分散性、塗膜耐久性、電磁変換特性、走行耐久性等に結合剤が重要な役割を果たしている。そこで磁気記録媒体用結合剤に関する様々な検討が行われている。
【0003】
従来、磁気記録媒体用結合剤としては、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が広く使用されていた。これに対し近年、高い生産性とより強靭な塗膜を得るために、放射線硬化性官能基を導入した放射線硬化性樹脂を磁気記録媒体用結合剤として使用することが提案されている。例えば特許文献1〜3には、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂を、磁気記録媒体用結合剤として使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−352804号公報
【特許文献2】特開2005−8866号公報
【特許文献3】特許第3125947号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射線硬化性樹脂は、一般に放射線硬化性官能基を有するモノマーを使用して重合反応を行うか、または放射線硬化性官能基を有する化合物とポリマーを反応させポリマーの側鎖に放射線硬化性官能基を導入することによって合成される。上記反応は、通常、放射線硬化性官能基を保護するための重合禁止剤の存在下で行われる。例えば特許文献1〜3には、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の合成反応を、2,6−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)またはハイドロキノンの存在下で行うことが記載されている。
一方、塗布型磁気記録媒体を量産する際には、塗布液を例えば半年以上もの長期にわたり保存することが行われるが、塩化ビニル系の結合剤は一般に安定性が低く、特に放射線硬化性塩化ビニル系樹脂を使用すると塗布液の安定性が著しく低下するという問題があった。これは、保存中に放射線硬化性官能基が反応することにより分子量が変化することが原因と考えられる。他方、保存中に放射線硬化性官能基が反応することを抑制するため、上記重合禁止剤を増量すると放射線照射時の硬化性が低下し強靭な塗膜を得ることが困難となる。
このように、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の長期保存安定性と放射線照射時の硬化性を両立する手段は、これまで見出されていなかった。
【0006】
そこで本発明の目的は、優れた保存安定性と硬化性を兼ね備えた、磁気記録媒体用途に好適な放射線硬化性塩化ビニル系樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂に対してベンゾキノン化合物を使用することにより、硬化性を損なうことなく、長期間保存安定性を良好に維持することができることを新たに見出した。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]放射線硬化性官能基を含む塩化ビニル系樹脂および/またはその原料化合物とベンゾキノン化合物とを含む放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
[2]前記放射線硬化性官能基は、(メタ)アクリロイルオキシ基である[1]に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
[3]前記塩化ビニル系樹脂は、スルホン酸(塩)基を含む[1]または[2]に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
[4]ピペリジン−1−オキシル化合物および/またはニトロ化合物を更に含む[1]〜[3]のいずれかに記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
[5]前記塩化ビニル系樹脂に対して、100ppm以上100000ppm以下のベンゾキノン化合物を含有する[1]〜[4]のいずれかに記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
[6]磁気記録媒体形成用塗布液として、またはその調製のために使用される[1]〜[5]のいずれかに記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
[7]塩化ビニル系樹脂に放射線硬化性官能基を導入する反応をベンゾキノン化合物の存在下で行うことにより、放射線硬化性官能基を含む塩化ビニル系樹脂を得ることを含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法。
[8][1]〜[6]のいずれかに記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を放射線硬化することによって得られた塩化ビニル系樹脂。
[9]非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
[1]〜[6]のいずれかに記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を含む塗布層を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層を少なくとも一層有する磁気記録媒体。
[10]前記放射線硬化層は、前記磁性層である[9]に記載の磁気記録媒体。
[11]非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有し、かつ該非磁性層が前記放射線硬化層である[9]または[10]に記載の磁気記録媒体。
[12]ベンゾキノン化合物を含む放射線硬化性塩化ビニル系樹脂用保存安定剤。
[13]ピペリジン−1−オキシル化合物および/またはニトロ化合物を更に含む[12]に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂用保存安定剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期保存安定性と放射線照射による硬化性(架橋性)に優れた、磁気記録媒体用途に好適な放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を提供することができる。
本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物は、長期保存後に磁性層、非磁性層等の塗布層形成のために使用した場合にも、放射線照射により良好な硬化性を示し高い塗膜強度を有する塗布層を形成することができる。また、磁気記録媒体用結合剤として熱硬化性樹脂を使用すると塗膜硬化のために長時間の熱処理を要するのに対し、放射線硬化性樹脂であれば短時間の放射線照射により塗膜を硬化させることができるため生産性の点でもきわめて有利である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物]
本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」または「組成物」ともいう)は、放射線硬化性官能基を含む塩化ビニル系樹脂(以下、「放射線硬化性塩化ビニル系樹脂」ともいう)および/またはその原料化合物とベンゾキノン化合物とを含むものである。
先に説明したように、放射線硬化性結合剤の長期保存安定性と放射線照射時の硬化性は相反する性質であり両立することは従来困難であったのに対し、本発明によれば、ベンゾキノン化合物を用いることにより、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の硬化性を損なうことなく、その保存安定性を長期間良好に維持することができる。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも上記成分を含むものであればよく、上記成分以外に任意に溶剤、重合開始剤、触媒、等のポリマー合成に通常使用される各種成分を含むことができる。
また、本発明の樹脂組成物は、全成分を1液として含有する1液型でもよく、使用時に1液と2液とが順次混合される2液型、または3液型以上の多液型であってもよい。例えば塩化ビニル系樹脂およびベンゾキノン化合物を含む第1液と、放射線硬化性官能基を含有する化合物を含む第2液を、別溶液として保存した後、塩化ビニル系樹脂へ放射線硬化性官能基を導入する反応を行うため第1液と第2液を混合することができる。
以下、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物に含まれる各成分について、更に詳細に説明する。
【0012】
(i)放射線硬化性塩化ビニル系樹脂、その原料化合物
放射線硬化性塩化ビニル系樹脂が有する放射線硬化性官能基は、放射線照射により硬化反応(架橋反応)を起こし得るものであればよく特に限定されるものではないが、反応性の点から、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合基が好ましく、アクリル系二重結合基が更に好ましい。ここでアクリル系二重結合基とは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド等の残基をいう。これらの中でも、反応性の点からは(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、メタクリロイルオキシ基とアクリロイルオキシ基とを含むものとし、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートとを含むものとする。
【0013】
塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルモノマーの重合体または共重合体である。本発明の樹脂組成物は、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂そのものを含むこともでき、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の原料化合物を含むこともできる。放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の原料化合物としては、放射線硬化性官能基を含まない塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂の原料モノマーとなる塩化ビニルモノマー、共重合モノマー、放射線硬化性官能基含有化合物を挙げることができる。前記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂は、下記(A−1)〜(A−3)のいずれの態様であってもよい。
(A−1)塩化ビニル系樹脂の原料モノマーである塩化ビニルモノマーおよび共重合モノマーの少なくとも1つとして、放射線硬化性官能基を有するモノマーを使用することにより得られたもの。
(A−2)塩化ビニル系樹脂の原料モノマーを放射線硬化性官能基含有化合物の存在下で重合または共重合させることにより得られたもの。
(A−3)塩化ビニル系樹脂に、放射線硬化性官能基を高分子反応により側鎖として導入したもの。
【0014】
上記(A−1)、(A−2)の態様において使用可能な共重合モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどのアクリレート、メタクリレート類、アリルメチルエーテル、アリルエチルエーテル、アリルプロピルエーテル、アリルブチルエーテルなどのアルキルアリルエーテル類、その他スチレン、α−メチルスチレン、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、エチレン、ブタジエン、アクリルアミド、さらに官能基をもつ共重合モノマーとしてビニルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、3−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、p−ビニルフェノール、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、ホスホエチル(メタ)アクリレート、スルホエチル(メタ)アクリレート、p−スチレンスルホン酸、およびこれらのNa塩、K塩など、ならびに上記共重合モノマーに放射線硬化性官能基を導入したものを挙げることができる。塩化ビニル系樹脂中の塩化ビニルモノマーの組成は60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、良好な力学強度が得られると共に、溶剤溶解性が良好で、好適な溶液粘度のために良好な分散性が得られるので好ましい。
【0015】
上記(A−2)、(A−3)の態様において放射線硬化性官能基の導入に使用する放射線硬化性官能基含有化合物としては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等の炭素−炭素二重結合基を含有する化合物を挙げることができる。
【0016】
合成の簡便さ、コスト、原料入手性を考慮すると、上記(A−3)の態様が好ましい。上記(A−3)の態様において使用される塩化ビニル系樹脂としては特に制限されないが、分子内に水酸基、1級または2級アミンのような活性水素基を持つ塩化ビニル系樹脂であれば、放射線硬化性官能基を含有するイソシアネート化合物と反応させることにより側鎖に放射線硬化性官能基を容易に導入できるため好ましい。そのような塩化ビニル系樹脂は公知の方法で合成可能であり、また市販品としても入手可能である。市販品としては、例えば日本ゼオン(株)製MR110、MR104、MR112、MR113、日信化学工業(株)製ソルバインA、ソルバインTAO、ソルバインMK6等を挙げることができる。
【0017】
磁気記録媒体用結合剤には、磁性粉末、非磁性粉末等の分散性を高めるために極性基を導入することが広く行われている。前記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂にも、分散性向上のために極性基を導入することが好ましい。極性基としては、極性基としては、例えば、ヒドロキシアルキル基、カルボン酸(塩)基、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、燐酸(塩)基等を挙げることができる。後述の実施例に示すように、スルホン酸(塩)基を含有する放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物は、ベンゾキノン化合物存在下で保存することにより長期間安定な状態で保存することができるとともに、放射線照射により良好な硬化性を示すことができる。
【0018】
本発明において「スルホン酸(塩)基」とは、下記一般式(1)により表される置換基であり、スルホン酸基(−SO3H)と−SO3Na、−SO3Li、−SO3K等のスルホン酸塩基とを含むものとする。カルボン酸(塩)基、硫酸(塩)基、燐酸(塩)基等についても同様である。
【0019】
【化1】

【0020】
上記一般式(1)中、Mは、水素原子または陽イオンを表し、*は結合位置を表す。
前記陽イオンは、無機陽イオンであっても、有機陽イオンであってもよい。前記陽イオンは、一般式(1)中の−SO3-を電気的に中和するものであり、1価の陽イオンに限定されず、2価以上の陽イオンとすることもできる。Mで表される陽イオンとしては1価の陽イオンが好ましい。なお、n価の陽イオンを使用する場合には、前記一般式(1)で表される置換基に対して、(1/n)モルの陽イオンを意味する。
【0021】
無機陽イオンとしては、特に制限はないが、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンが好ましく、アルカリ金属イオンがより好ましく、Li+、Na+またはK+がさらに好ましい。
有機陽イオンとしては、アンモニウムイオン、第四級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等を例示できる。
【0022】
前記Mは、水素原子またはアルカリ金属イオンであることが好ましく、水素原子、Li+、Na+またはK+であることがより好ましく、K+であることが特に好ましい。
【0023】
なお、前記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂は、一般式(1)で表される置換基をはじめとする置換基を一種類のみ含んでいてもよく二種類以上を含んでいてもよい。複数種の置換基を含むことにより、置換基を一種のみ含む場合に比べて、磁気記録媒体分野で利用されるシクロヘキサン等の溶媒に対する塩化ビニル系樹脂の溶解性が向上することがあるので好ましい場合がある。上記極性基は、公知の方法による共重合または付加反応により塩化ビニル系樹脂に導入することができる。また、極性基が導入された塩化ビニル系樹脂は、市販品としても入手可能である。スルホン酸(塩)基含有塩化ビニル系樹脂の市販されている商品名としては、日本ゼオン(株)製MR104、MR110、MR120等を挙げることができる。また、スルホン酸(塩)基含有塩化ビニル系樹脂は、公知の方法により塩交換を行い、他のスルホン酸塩基含有塩化ビニル系樹脂としてもよく、公知の方法により塩を除去しスルホン酸含有塩化ビニル系樹脂としてもよい。
【0024】
塩化ビニル系樹脂の合成反応および放射線硬化性官能基または極性基導入反応は、原料化合物を溶剤(反応溶媒)に溶解し、必要に応じて加熱、加圧、窒素置換等を行うことによって進行させることができる。上記反応のための反応温度、反応時間等の反応条件としては、一般的な反応条件を採用することができる。
【0025】
上記反応に使用可能な反応触媒としては、公知の反応触媒を使用することができ、例えばアミン触媒や有機スズ触媒、有機ビスマス触媒を例示できる。アミン触媒としては、ジエチレントリアミン、N−メチルモルホリン、及び、テトラメチルヘキサメチレンジアミン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンを例示でき、有機スズ触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジデカネート、ジオクチルスズジデカネートを例示できる。有機ビスマス触媒としてはビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)を例示できる。本発明において触媒としては、有機スズ触媒または有機ビスマス触媒を使用することが好ましい。
触媒の添加量は、反応に使用する原料化合物の全質量に対して例えば0.00001〜5質量部、好ましくは0.00001〜1質量部、さらに好ましくは0.00001〜0.1質量部である。
【0026】
反応溶媒としては、上記反応に通常使用される公知の溶剤から選択することができ、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、シクロヘキサンが挙げられる。本発明の樹脂組成物は、溶媒として、上記反応溶媒として使用される溶剤を含むことができる。特に、磁気記録媒体形成用塗布液に広く使用されているメチルエチルケトン、シクロヘキサンノンまたはこれらの混合溶媒を含むことが好ましい。これら溶媒を含む組成物は、そのまままたは任意に添加剤を添加することにより磁気記録媒体形成用塗布液として使用することができる。
【0027】
次に、本発明の樹脂組成物に含まれる放射線硬化性塩化ビニル系樹脂または前記原料化合物の反応により得られる放射線硬化性塩化ビニル系樹脂について説明する。
【0028】
(a)平均分子量、分子量分布
前記放射線硬化性基含有塩化ビニル系樹脂は、質量平均分子量が1万以上50万以下(本発明において、「1万以上50万以下」を、「1万〜50万」とも記載することとする。以下、同様。)であることが好ましく、1万〜40万であることがより好ましく、1万〜30万であることがさらに好ましい。質量平均分子量が1万以上であれば、上記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂を結合剤として形成された塗布層の保存性が良好であり好ましい。また、質量平均分子量が50万以下であれば、良好な分散性が得られるので好ましい。
【0029】
前記放射線硬化性基含有塩化ビニル系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は1.00〜5.50であることが好ましい。より好ましくは1.01〜5.40である。分子量分布が5.5以下であれば、組成分布が少なく、良好な分散性が得られるので好ましい。なお塩化ビニル系樹脂に放射線硬化性官能基および/または極性基を導入する反応の前後で、質量平均分子量および分子量分布(Mw/Mn)は、通常ほとんど変化しない。
【0030】
(b)ガラス転移温度
前記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、10℃〜180℃であることが好ましく、10℃〜170℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が10℃以上であれば、放射線硬化により高強度の塗膜を形成することができ、耐久性、保存性に優れた塗膜を得ることができるため好ましい。また、本発明の樹脂組成物を磁気記録媒体用塗布液として使用する際、含有される放射線硬化性塩化ビニル系樹脂のガラス転移温度が180℃以下であれば、放射線硬化後にカレンダー処理をする場合でもカレンダー成形性が良好であり、電磁変換特性が良好な磁気記録媒体が得られるため好ましい。上記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂を放射線硬化することにより形成される塗膜のガラス転移温度(Tg)は、30℃〜200℃であることが好ましく、40℃〜160℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であれば、良好な塗膜強度が得られ、耐久性、保存性が向上するので好ましい。また、磁気記録媒体において塗膜のガラス転移温度が200℃以下であれば、カレンダー成形性が良好であり、電磁変換特性が良好であるので好ましい。
【0031】
(c)極性基含有量
前記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂は、前述のように極性基を含有することが好ましい。
前記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂中の極性基の含有量は、1.0mmol/kg〜3500mmol/kgであることが好ましく、1.0mmol/kg〜3000mmol/kgであることがより好ましく、1.0mmol/kg〜2500mmol/kgであることが更に好ましい。
極性基の含有量が1.0mmol/kg以上であれば、磁性体への十分な吸着力を得ることができ、分散性が良好であるので好ましい。また、3500mmol/kg以下であれば、良好な溶剤への溶解性が得られるので好ましい。前述のように極性基としては、一般式(1)で表されるスルホン酸(塩)基が好ましい。また、他の極性基としては、ヒドロキシアルキル基、カルボン酸(塩)基、硫酸(塩)基、燐酸(塩)基等を挙げることができ、−OSO3M’、−PO3M’2、−COOM’、−OHが好ましい。この中でも、−OSO3M’がさらに好ましい。M’は、水素原子または1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、アルカリ金属またはアンモニウムを例示できる。
【0032】
(d)水酸基含有量
前記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂には、水酸基(OH基)が含まれていてもよい。含まれるOH基の個数は1分子あたり1〜100000個が好ましく、1〜10000個がより好ましい。OH基の個数が上記範囲内であれば、溶剤への溶解性が向上するので分散性が良好となる。
【0033】
(e)放射線硬化性官能基含有量
前記放射線硬化性塩化ビニル系樹脂が有する放射線官能基の詳細は、先に説明した通りである。その含有量は、1.0mmol/kg〜4000mmol/kgであることが好ましく、1.0mmol/kg〜3000mmol/kgであることがより好ましく、1.0mmol/kg〜2000mmol/kgであることがさらに好ましい。放射線硬化性官能基の含有量が1.0mmol/kg以上であれば、放射線硬化により高い強度を有する塗膜を形成できるので好ましい。また、放射線硬化性官能基の含有量が4000mmol/kg以下であれば、放射線硬化後にカレンダー処理をする場合でもカレンダー成形性が良好であり、本発明の樹脂組成物を磁気記録媒体形成用塗布液として使用することにより電磁変換特性が良好な磁気記録媒体が得られるので好ましい。本発明によれば、例えば上記好適な含有量で放射線硬化性官能基を含む放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の硬化性を損なうことなく、長期保存安定性を高めることができる。
【0034】
(ii)ベンゾキノン化合物
ベンゾキノン化合物とは、ベンゾキノン骨格を含む化合物であり、含まれるベンゾキノン骨格は、以下に示すo−ベンゾキノン骨格であってもp−ベンゾキノン骨格であってもよい。
【0035】
【化2】

【0036】
ベンゾキノン化合物としては、入手性の観点から、p−ベンゾキノン骨格を有する化合物が好ましい。ベンゾキノン化合物に含まれるベンゾキノン骨格は、無置換であっても置換基を有していてもよい。置換基としては、(置換基を有していてもよい)アルキル基、アルコキシル基、水酸基、ハロゲン原子、アリール基、シアノ基、ニトロ基、等の下記例示化合物に含まれる置換基等が挙げられる。また、ベンゾキノン化合物としてはベンゾキノン骨格を1つ有するものを使用してもよく2つ以上有するものを使用してもよい。好ましいベンゾキノン化合物としては、下記例示化合物を挙げることができる。
【0037】
【化3】


【0038】
上記例示化合物の中では、例示化合物(1)〜(22)、(25)〜(33)が好ましく、(1)〜(22)、(25)〜(28)、(30)、(32)、(33)がより好ましく、(1)〜(22)、(25)〜(28)、(30)、(32)の化合物が特に好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、ベンゾキノン化合物を1種含むこともでき2種以上を組み合わせて含むこともできる。
本発明の樹脂組成物におけるベンゾキノン化合物の含有量(複数種のベンゾキノン化合物を使用する場合にはそれらの合計量)は、長期保存安定性と硬化性を両立する観点から、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の固形分(原料化合物を含む樹脂組成物においては反応が100%進行した際に得られる放射線硬化性塩化ビニル系樹脂固形分換算。以下同様。)に対し、1ppm以上500000ppm以下が好ましく、1ppm以上400000ppm以下がより好ましく、100ppm以100000ppm以下が更に好ましい。
【0040】
(iii)併用可能な化合物
本発明の樹脂組成物は、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の長期保存安定性と硬化性を両立するためにベンゾキノン化合物を必須成分として含有するが、任意成分として、例えばフェノール化合物、ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことも可能である。後述の比較例に示すように、上記化合物は単独では放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の長期保存安定性と硬化性を両立することは困難であるが、ベンゾキノン化合物と併用することにより放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の長期保存安定性と硬化性を両立に寄与することができる。
以下、上記併用可能な化合物について説明する。
【0041】
フェノール化合物
フェノール化合物としては、ヒドロキシフェニル基を有する化合物であれば特に限定されるものではない。ヒドロキシフェニル基は置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基等が挙げられる。また、前記フェノール化合物は、置換または無置換のヒドロキシベンゼン骨格を複数個有する(ポリフェノール系化合物)であることもできる。ポリフェノール系化合物としては、特に限定されないが、入手性、効果の観点からビスフェノールA、商品名イルガキュア1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals Corporation)製)等が好ましい。併用するフェノール化合物の好ましい例としては、p−メトキシフェノール、ハイドロキノン、ポリフェノール系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール等が挙げられる。フェノール化合物は一種単独で使用してもよく、二種以上のフェノール化合物を併用してもよい。
【0042】
ピペリジン−1−オキシル化合物
本発明においてピペリジン−1−オキシル化合物とは、以下のピペリジン−1−オキシル骨格を有する化合物を意味する。
【0043】
【化4】

【0044】
ピペリジン−1−オキシル化合物としては、置換基を有するピペリジン−1−オキシル骨格を含むものでもよく、無置換のピペリジン−1−オキシル化合物でもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、イソチオシアネート基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルオキシ基、ピペリジン環炭素を含むカルボニル基等の下記例示化合物に含まれる置換基等が挙げられる。また、ピペリジン−1−オキシル化合物としてはピペリジン−1−オキシル骨格を1つ有するものを使用してもよく2つ以上有するものと使用してもよい。好ましいピペリジン−1−オキシル化合物としては、以下の例示化合物(1-a)〜(1-l)を挙げることができる。中でも例示化合物(1-f)、(1-j)、(1-l)、(1-b)、(1-k)が好ましく、(1-f)、(1-j)、(1-l)、(1-b)がより好ましく、(1-f)、(1-j)、(1-l)が更に好ましい。
【0045】
【化5】

【0046】
ニトロ化合物
ニトロ化合物としては、R−NO2で表されるニトロ基を有する化合物であれば特に限定されるものではない。上記においてR部は、例えばアリール基(好ましくは炭素数6〜10のアリール基、例えばフェニル基)、アルキル基(好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、直鎖または分岐のブチル基、直鎖または分岐のアミル基、直鎖または分岐のヘキシル基、直鎖または分岐のヘプチル基、直鎖または分岐のオクチル基、直鎖または分岐のノニル基、直鎖または分岐のデシル基、直鎖または分岐のウンデシル基、直鎖または分岐のドデシル基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよい)である。ニトロ化合物としては、入手性の観点から、ニトロベンゼン、ニトロメタン等が好ましい。
【0047】
フェノチアジン化合物
フェノチアジン化合物とは、以下に示すフェノチアジン骨格を有する化合物を意味する。
【0048】
【化6】

【0049】
フェノチアジン化合物に含まれるフェノチアジン骨格は、無置換であっても置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アシル基、アリールカルボニル基、トリハロメチル基等の下記例示化合物に含まれる置換基が挙げられる。
【0050】
フェノチアジン化合物としてはフェノチアジン骨格を1つ有するものを使用してもよく2つ以上有するものと使用してもよい。好ましいフェノチアジン化合物としては、下記例示化合物(4-a)〜(4-g)を挙げることができる。なかでも例示化合物(4-b)、(4-c)、(4-d)、(4-e)、(4-f)、(4-g)が好ましく、(4-b)、(4-c)、(4-d)、(4-e)、(4-f)がより好ましく、(4-c)、(4-d)、(4-e)、(4-f)がさらに好ましい。
【0051】
【化7】

【0052】
本発明の樹脂組成物における上記併用する化合物の含有量(複数種の化合物を使用する場合にはそれらの合計量)は、長期保存安定性と硬化性を両立する観点から、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の固形分に対し1ppm以上500000ppm以下が好ましく、1ppm以上400000ppm以下がより好ましく、1ppm以上300000ppm以下が更に好ましい。
また、本発明の樹脂組成物における固形分濃度は特に限定されるものではないが、10質量%以上であることが好ましく固形分100%であってもよいが、保存安定性と取り扱いの容易性の点から固形分濃度は10〜80質量%程度がより好ましく、20〜60質量%程度が更に好ましい。
【0053】
ベンゾキノン化合物、および任意に添加される上記併用可能な化合物は、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂またはその原料化合物を含む組成物に同時に添加してもよく順次添加してもよい。放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の合成反応、塩化ビニル系樹脂へ放射線硬化性官能基を導入する反応等の放射線硬化性官能基含有成分が存在する反応系においてベンゾキノン化合物、および任意に添加される上記併用可能な化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物が存在することが好ましい。反応中に添加される化合物は、放射線照射時の硬化性を損なわずに反応中に放射線硬化性官能基が反応することを抑制する役割を果たし、反応後に添加される化合物は反応中に添加された化合物とともに、放射線照射時の硬化性を損なわずに保存安定性を高める役割を果たすと考えられる。反応中に添加する化合物としては、ベンゾキノン化合物が好ましく、反応後に添加される化合物としては上記併用可能な化合物が好ましい。また、反応中、反応後にそれぞれベンゾキノン化合物を添加することも可能である。
【0054】
以上説明した本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物に含まれる各種成分は、公知の方法または前述の方法により合成することができる。また市販品として入手可能なものもある。
【0055】
[放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法]
更に本発明は、塩化ビニル系樹脂に放射線硬化性官能基を導入する反応をベンゾキノン化合物の存在下で行うことにより、放射線硬化性官能基を含む塩化ビニル系樹脂を得ることを含む、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法に関する。
塩化ビニル系樹脂へ放射線硬化性官能基を導入する反応をベンゾキノン化合物の存在下で行うことにより、上記反応時に放射線硬化性官能基が反応することを抑制したうえで、放射線照射による硬化性を損なうことなく放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の長期保存安定性を高めることができる。
本発明の製造方法の詳細は、先に説明した通りである。また具体的態様については後述の実施例も参照できる。本発明の製造方法は、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を製造する方法として好適であるが、前述のように、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物は、上記製造方法によって得られるものに限定されるものではない。
【0056】
[塩化ビニル系樹脂]
更に本発明は、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を放射線硬化することによって得られた塩化ビニル系樹脂に関する。硬化反応のために照射する放射線として、例えば、電子線や紫外線を用いることができる。電子線を使用する場合は、重合開始剤が不要である点で好ましい。放射線照射は公知の方法で行うことができ、その詳細については、例えば特開2009−134838号公報段落[0021]〜[0023]等を参照できる。また、放射線硬化装置や放射線照射硬化の方法などについては、「UV・EB硬化技術」((株)総合技術センター発行)や「低エネルギー電子線照射の応用技術」(2000、(株)シーエムシー発行)などに記載されているような公知技術を用いることができる。
【0057】
[磁気記録媒体]
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を含む塗布層を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層を少なくとも一層有するものである。
上記放射線硬化層は、例えば磁性層であることができる。または本発明の磁気記録媒体が、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有する場合には、磁性層および/または非磁性層が上記放射線硬化層であることができる。
本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物は、長期保存中の塩化ビニル系樹脂の分子量変化等による経時変化が少なく安定な状態であり、かつ長期保存後も硬化性が良好に維持され得る。したがって、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を長期保存した後に上記塗布層を形成したとしても、放射線照射によって硬化反応を良好に進行させ高強度な放射線硬化層を形成することができる。
以下、本発明の磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0058】
結合剤
磁性層、非磁性層に含まれる結合剤としては、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を放射線硬化することによって得られた、本発明の塩化ビニル系樹脂を挙げることができる。更に、磁性層、非磁性層に含まれる結合剤としては、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂とともに他の結合剤を併用することもできる。併用する結合剤としては、本発明の塩化ビニル系樹脂を除く塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などを挙げることができる。また、特開2009−96798号公報段落[0015]〜[0045]に記載のスルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物を原料化合物として得られたポリウレタン樹脂を使用することも好ましい。上記ポリウレタン樹脂の詳細は、同公報段落[0046]〜[0079]に記載されている。合成方法の詳細については、同公報の実施例も参照できる。
また、本発明の磁気記録媒体が、本発明の塩化ビニル系樹脂を含まない層を有する場合、該層において使用される結合剤としても、上記結合剤を挙げることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。本発明の磁気記録媒体において使用可能な結合剤樹脂の詳細については、特開2009−96798号公報段落[0081]〜[0094]を参照できる。
【0059】
結合剤の含有量は磁性層の場合、強磁性粉末の充填度と磁性層の強度を両立する観点から、強磁性粉末100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下であることが好ましく、10質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。また、結合剤として本発明の塩化ビニル系樹脂を含む層においては、本発明の塩化ビニル系樹脂が結合剤全体の50重量%以上を占めることが好ましく、60〜100重量%を占めることがより好ましく、70〜100重量%を占めることが更に好ましい。非磁性層における結合剤使用量についても上記と同様である。
【0060】
磁性層
(i)強磁性粉末
本発明の磁気記録媒体は、磁性層に結合剤とともに強磁性粉末を含む。強磁性粉末としては、針状強磁性体、平板状磁性体、または球状もしくは楕円状磁性体を使用することができる。高密度記録化の観点から針状強磁性体の平均長軸長は、20nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上45nm以下であることがより好ましい。平板状磁性体の平均板径は、六角板径で10nm以上50nm以下であることが好ましい。磁気抵抗ヘッドで再生する場合は、低ノイズにする必要があり、板径は40nm以下であることが好ましい。板径が上記範囲であれば、熱揺らぎがなく安定な磁化が望める。また、ノイズも低くなるため高密度磁気記録に適する。球状もしくは楕円状磁性体は、高密度記録化の観点から、平均直径が10nm以上50nm以下であることが好ましい。
上記のような微粒子状の強磁性体の分散性を高めるためには、前述のように極性基を含有する結合剤を使用することが好ましい。この点から、例えば前記一般式(1)で表されるスルホン酸(塩)基を有する放射線硬化性塩化ビニル系樹脂を結合剤として使用することが好ましい。
【0061】
上記強磁性粉末の平均粒子サイズは、以下の方法により測定することができる。
強磁性粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を強磁性粉末の平均粒子サイズとする。
【0062】
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0063】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
【0064】
以上説明した各磁性体については、特開2009−96798号公報段落[0097]〜[0110]に詳細に記載されている。
【0065】
(ii)添加剤
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤などを挙げることができる。上記添加剤の具体例等の詳細については、例えば特開2009−96798号公報段落[0111]〜[0115]を参照できる。
【0066】
また、磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。カーボンブラックの比表面積は好ましくは100〜500m2/g、より好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、より好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0067】
本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0068】
非磁性層
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有していてもよい。走行耐久性を高めるためには、前記放射線硬化層として非磁性層を形成することが好ましい。
【0069】
上記非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0070】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用される。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0071】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。
非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜1μmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜1μmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。
これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜2μmが好ましい。5nm〜2μmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。ただし必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。本発明の磁気記録媒体に使用可能な非磁性粉末の詳細については、特開2009−96798号公報段落[0123]〜[0132]を参照できる。
【0072】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のμビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のμビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2であり、薄膜硬度計(日本電気(株)製 HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0073】
本発明において、非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は好ましくは100〜500m2/g、更に好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、更に好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、更に好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。非磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0074】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0075】
非磁性層の結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0076】
非磁性支持体
本発明に用いることのできる非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmであることが好ましい。
【0077】
平滑化層
本発明の磁気記録媒体には、平滑化層を設けてもよい。平滑化層とは、非磁性支持体表面の突起を埋めるための層であり、非磁性支持体上に磁性層を設けた磁気記録媒体の場合は非磁性支持体と磁性層の間、非磁性支持体上に非磁性層および磁性層をこの順に設けた磁気記録媒体の場合には非磁性支持体と非磁性層の間に設けることができる。
平滑化層は、放射線硬化性化合物を放射線照射により硬化させて形成することができる。
放射線硬化性化合物とは、紫外線または電子線などの放射線を照射すると重合または架橋を開始し、高分子化して硬化する性質を有する化合物をいう。上記平滑化層を形成するために、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を使用することもできる。
【0078】
バックコート層
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して繰り返し走行性が強く要求される。このような高い保存安定性を維持させるために、非磁性支持体の磁性層が設けられた面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層用塗布液は、研磨剤、帯電防止剤などの粒子成分と結合剤とを有機溶媒に分散させることにより形成することができる。粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができる。また、結合剤としては、例えば、ニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。上記バックコート層を形成するために、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を使用することも可能である。
【0079】
層構成
本発明の磁気記録媒体において、非磁性支持体の好ましい厚さは3〜80μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に上記平滑化層を設ける場合、平滑化層の厚さは例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。また、上記バックコート層の厚さは、例えば0.1〜1.0μm、好ましくは0.2〜0.8μmである。
【0080】
磁性層の厚さは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.10μm以下であり、好ましくは0.02μm以上0.08μm以下であり、さらに好ましくは0.03〜0.08μmである。また、磁性層の厚さ変動率は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±40%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0081】
非磁性層の厚さは、0.2〜3.0μmであることが好ましく、0.3〜2.5μmであることがより好ましく、0.4〜2.0μmであることがさらに好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT(100G)以下または抗磁力が7.96kA/m(100 Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0082】
製造方法
磁性層、非磁性層等の各層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなることが好ましい。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。また、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物に、上記原料を同時または逐次添加することにより、塗布液を製造することもできる。例えば強磁性粉末、非磁性粉末等の粉末成分をニーダにより解砕した後、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物(更に任意に併用される他の結合剤成分)を添加して混練工程を行い、この混練物に各種添加剤を添加し分散工程を行うことにより塗布液を調製することができる。
【0083】
各層形成用塗布液を調製するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合は、強磁性粉末または非磁性粉末100質量部に対して15〜500質量部の結合剤(但し、全結合剤の30質量%以上が好ましい)を使用して混練処理することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗布液および非磁性層用塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。ガラスビーズ以外には、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0084】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布して非磁性層を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。下層の非磁性層用塗布液と上層の磁性層用塗布液とを逐次で重層塗布する場合には、磁性層塗布液に含まれる溶剤に非磁性層が一部溶解する場合がある。ここで非磁性層を放射線硬化層とすれば、放射線照射により非磁性層中で放射線硬化性成分が重合・架橋し高分子量化が生じるため、磁性層塗布液に含まれる溶剤への溶解を抑制ないしは低減することができる。したがって、下層の非磁性層用塗布液と上層の磁性層用塗布液とを逐次で重層塗布する場合には、上層の磁性層用塗布液を塗布する前に放射線照射を行い、硬化した非磁性層上に磁性層を形成することが好ましい。この場合に使用される非磁性層塗布液は、本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を用いて調製することが好ましい。
【0085】
上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。放射線硬化層を形成する際には、塗布液を塗布して形成した塗布層を放射線照射によって放射線硬化させる。放射線照射処理の詳細は、前述の通りである。また、塗布工程後の媒体には、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダー処理)、熱収縮低減のための熱処理等の各種の後処理を施すことができる。それらの処理の詳細については、例えば特開2009−96798号公報段落[0146]〜[0148]を参照できる。得られた磁気記録媒体は、裁断機、打抜機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。
【0086】
物理特性
本発明の磁気記録媒体の磁性層の飽和磁束密度は、100〜300T・m(1,000〜3,000G)であることが好ましい。また磁性層の抗磁力(Hr)は、143.3〜318.4kA/m(1,800〜4,000Oe)であることが好ましく、より好ましくは159.2〜278.6kA/m(2,000〜3,500Oe)である。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは0.6以下であることが好ましく、0.2以下であることが更に好ましい。
【0087】
本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下である。また、帯電位は−500〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2,000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1,500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0088】
磁性層および非磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は、前述の塗膜のガラス転移温度の好ましい範囲として記載した範囲内にあることが好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方がよい場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が保存安定性は好ましいことが多い。
【0089】
放射線硬化性樹脂は、放射線照射により重合乃至架橋して高分子化して硬化する性質を有する。前記硬化反応は、放射線照射により進行するため、放射線硬化性樹脂を含む塗布液は比較的低粘度であり放射線を照射しない限り粘度が安定している。そのため、塗布層を硬化処理するまでの間に、レベリング効果により支持体表面の粗大突起を遮蔽(マスキング)することができる。したがって、放射線硬化層を形成することにより表面平滑性が高く高密度記録再生特性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。また前述のように結合剤成分として極性基を含有する結合剤を使用することにより、強磁性粉末等の粉末成分の分散性を高めることも磁性層の表面平滑性向上に寄与し得る。ただし長期保存中に放射線硬化性樹脂の分子量変化が顕著に発生すると、上記レベリング効果を良好に得ることが困難となり磁性層の表面平滑性低下の原因となる。これに対し本発明の樹脂組成物は、長期保存安定性に優れるため、長期保存後に使用した場合であっても表面平滑性の高い磁性層を形成することが可能である。他方、長期保存安定性と硬化性が両立されていないと、優れた表面平滑性が得られたとしても媒体の耐久性は低下する。これに対し本発明の樹脂組成物は、上記の通り長期間安定に保存可能であるとともに、長期保存後も良好な硬化性を示すことができる。
また、前述の様に、下層の非磁性層用塗布液と上層の磁性層用塗布液とを逐次で重層塗布する場合には、磁性層塗布液に含まれる溶剤に非磁性層が一部溶解する場合がある。ここで非磁性層を放射線硬化層とすれば、磁性層塗布液による非磁性層の溶解を抑制ないしは低減することができる。この結果、非磁性層の溶解に起因する磁性層表面の平滑性低下を抑制することができる。
このように本発明の樹脂組成物を磁気記録媒体形成用塗布液に使用することは、表面平滑性および耐久性に優れた磁気記録媒体が得られる点で有利であり、かつ樹脂組成物(塗布液)を一度に大量に調製し長期保存することが可能となるため生産性向上にも寄与し得る。
【0090】
本発明の磁気記録媒体において、デジタルオプチカルプロフィメーター(WYKO社製TOPO−3D)を用いて測定した磁性層の中心面表面粗さRaは4.0nm以下であることが好ましく、より好ましくは3.0nm以下であり、さらに好ましくは2.0nm以下である。磁性層の最大高さSRmaxは、0.5μm以下、十点平均粗さSRzは0.3μm以下、中心面山高さSRpは0.3μm以下、中心面谷深さSRvは0.3μm以下、中心面面積率SSrは20〜80%、平均波長Sλaは5〜300μmであることがそれぞれ好ましい。磁性層の表面突起は0.01〜1μmの大きさのものを0〜2,000個の範囲で任意に設定することが可能であり、これにより電磁変換特性、摩擦係数を最適化することが好ましい。これらは支持体のフィラーによる表面性のコントロールや磁性層に添加する粉末の粒径と量、カレンダー処理のロール表面形状などで容易にコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0091】
本発明の磁気記録媒体における非磁性層と磁性層と間では、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、磁性層の弾性率を高くし保存安定性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りをよくすることができる。
【0092】
本発明の磁気記録媒体に磁気記録された信号を再生するヘッドについては特に制限はないが、高密度記録された信号を高感度再生するためには再生ヘッドとしてMRヘッドを使用することが好ましい。再生ヘッドとして使用されるMRヘッドには特に制限はなく、例えばAMRヘッド、GMRヘッドやTMRヘッドを用いることもできる。また、磁気記録に用いるヘッドは特に制限されないが、記録ヘッドの飽和磁化量は、高密度記録のために1.0T以上であることが好ましく、1.5T以上であることがより好ましい。
【0093】
[放射線硬化性塩化ビニル系樹脂用保存安定剤]
本発明の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂用保存安定剤は、ベンゾキノン化合物を含む。ベンゾキノン化合物により、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の硬化性を損なうことなく、その保存安定性を高めることができる。例えば、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物にベンゾキノン化合物を添加することにより、樹脂成分の分子量変化が低減ないしは抑制されることによって保存安定性が向上したことを確認することができる。
【0094】
本発明の保存安定剤は、ベンゾキノン化合物に加えて併用可能な成分として前記したフェノール化合物、ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含むこともできる。併用する化合物としては、ピペリジン−1−オキシル化合物およびニトロ化合物から選択される化合物が好ましい。この場合、本発明の保存安定剤は、ベンゾキノン化合物および上記併用可能な化合物を含む全成分を1剤として含有する1剤式であってもよく、使用時に1剤と2剤とを同時または順次混合する2剤式または3剤以上の多剤式であってもよい。例えば、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の原料化合物に対し、第1剤としてベンゾキノン化合物を添加し、次いで反応後に上記併用可能な化合物を添加することができる。本発明の保存安定剤は、ベンゾキノン化合物を1種のみ含んでもよく、2種以上のベンゾキノン化合物を含むこともできる。上記併用可能な化合物についても同様である。放射線硬化性塩化ビニル系樹脂に対するベンゾキノン化合物および上記併用可能な化合物の使用量については前述の通りである。
【実施例】
【0095】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に示す「部」、「%」は、特に示さない限り質量部、質量%を示す。また、以下における1H NMRの測定は、重DMSOを溶媒と400MHzのNMR(BRUKER社製AVANCEII−400)により行った。
【0096】
1.放射線硬化性樹脂組成物(樹脂溶液)の実施例、比較例
【0097】
(実施例1)
2Lフラスコに、スルホン酸塩基含有塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社MR−104)の30%シクロヘキサノン溶液416g(固形分124.8g)を添加して攪拌速度210rpmで撹拌した。次いで、1,4−ベンゾキノン0.5g(4.464mmol)を添加し撹拌溶解した。
次に、反応触媒としてジラウリン酸ジブチル錫0.125gを添加し、40〜50℃に昇温して撹拌した。次いで、放射線硬化性官能基導入成分として2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製MOI)13.75g(0.09mol)を30分かけて滴下し、滴下終了後、40℃で2時間攪拌した後、室温まで冷却して、放射線硬化性官能基(メタクリロイルオキシ基)含有塩化ビニル共重合体を含有する樹脂溶液を得た。上記放射線硬化性官能基(メタクリロイルオキシ基)含有塩化ビニル共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A):1H-NMR(DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0(C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6(C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br., m), 4.1-4.0(m), 3.9-3.2(m), 3.1(br.,s), 2.7(br.,s), 2.6-2.0(m), 2.0-0.8(br.,m).
【0098】
以上の工程で得られた樹脂溶液の固形分は31.3%であった。上記樹脂溶液調製後1日以内に、この溶液に含まれる放射線硬化性基含有塩化ビニル共重合体の質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を後述の方法で求めたところ、Mw=5.1万、Mn=2.9万であった。上記放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体のガラス転移温度(Tg)、スルホン酸塩基濃度およびメタクリロイルオキシ基濃度を後述の方法で測定したところ、Tg=75℃、スルホン酸塩基濃度=70mmol/kg、メタクリロイルオキシ基濃度=340mmol/kgであった。
【0099】
(実施例2)
放射線硬化性官能基導入成分として昭和電工社製MOIに代えて2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製AOI)を使用し、放射線硬化性官能基導入反応後に4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを、放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体に対し50ppm添加した点以外は、実施例1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体の樹脂溶液(固形分31.3%)を得た。実施例1と同様にNMR分析、平均分子量測定、Tg測定、スルホン酸塩基濃度、放射線硬化性官能基(アクリロイルオキシ基)濃度の測定を行ったところ、実施例1と同じ結果が得られた。
【0100】
(実施例3)
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル 50ppmに代えてニトロベンゼン 30ppmを使用した点以外、実施例2と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体の樹脂溶液(固形分30%)を得た。得られた樹脂溶液中の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体の質量平均分子量を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0101】
(実施例4)
スルホン酸塩基含有塩化ビニル共重合体として、日本ゼオン社MR−104に代えて日本ゼオン社MR−110を使用し、ベンゾキノンに代えてテトラクロロ−p−ベンゾキノン(放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体に対して500ppm)を使用した点以外、実施例1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体の樹脂溶液(固形分30%)を得た。得られた樹脂溶液中の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体の質量平均分子量を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0102】
(比較例1〜8)
放射線硬化性官能基導入のための反応時に添加する化合物を表1に示す化合物に変更した点以外、実施例1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体の樹脂溶液(固形分30%)を得た。得られた樹脂溶液中の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体の質量平均分子量を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。
【0103】
上記実施例3、4、比較例1〜8で得られた樹脂溶液に含まれる放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体について、スルホン酸塩基濃度、放射線硬化性官能基((メタ)アクリロイルオキシ基)濃度の測定を行ったところ、実施例1と同じ結果が得られた。
【0104】
(比較例9)
I.スルホン酸塩基含有ジオール化合物の合成
フラスコに、蒸留水100ml、タウリン50g(0.400mol)、和光純薬製KOH 22.46g(純度87%)を添加し、内温を50℃に昇温して内容物を完全に溶解した。
次いで、内温を40℃に冷却し、ブチルグリシジルエーテル 140.4g(1.080mol)を30分かけて滴下した後、50℃に昇温して2時間攪拌した。溶液を室温まで冷却し、トルエン100ml添加して、分液し、トルエン層を廃棄した。次いで、シクロヘキサノン400ml添加し、110℃に昇温してディーンスタークで水を除去してスルホン酸塩基含有ジオール化合物の50%シクロヘキサノン溶液を得た。生成物の1H NMRデータを以下に示す。NMR分析結果から、生成物は特開2009−96798号公報記載の例示化合物(S−31)に加えて、同公報記載の例示化合物(S−64)等、その他の化合物も含む混合物であることが確認された。
1H NMR(CDCl3):δ(ppm)=4.5(br.), 3.95-3.80(m), 3.50-3.30(m), 3.25-2.85(m), 2.65-2.5(m), 2.45-2.35(m), 1.6-1.50(5重線), 1.40-1.30(6重線),1.00-0.90(3重線).
【0105】
II.放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂溶液の調製
フラスコに、4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ジフェノールのメチルオキシラン付加物(ADEKA社製BPX−1000、質量平均分子量1000)57.50g、グリセロールメタクリレート(日本油脂社製ブレンマーGLM)6.50g、ジメチロールトリシクロデカン(OXEA社製TCDM)10.50g、上記I.で合成したスルホン酸塩基含有ジオール化合物3.40g、シクロヘキサノン107.66g、ベンゾキノン0.24gを添加した。次いで、メチレンビス(4,1−フェニレン)=ジイソシアネート(MDI)(日本ポリウレタン社製ミリオネートMT)42.21gとシクロヘキサノン51.47gの溶液を15分かけて滴下した。次いで、ジ−n−ブチルチンラウレート0.361gを添加し、80℃に昇温して3時間撹拌した。反応終了後シクロヘキサノン121.28gを添加し、ポリウレタン樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂の質量平均分子量を実施例1と同様の方法で測定した結果を表1に示す。得られた樹脂溶液に含まれる放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂について、スルホン酸塩基濃度、放射線硬化性官能基(メタクリロイルオキシ基)濃度の測定を行ったところ、スルホン酸塩基濃度=70mmol/kg、メタクリロイルオキシ基濃度=360mmol/kgであった。
【0106】
評価方法
(1)平均分子量の測定
実施例、比較例の各樹脂溶液中に含まれる放射線硬化性官能基含有樹脂の平均分子量(Mw、Mn)は、0.3%の臭化リチウムを含有するDMF溶媒を用いてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を使用し、標準ポリスチレン換算で求めた。
(2)スルホン酸(塩)基濃度
蛍光X線分析により硫黄(S)元素のピーク面積から硫黄元素量を定量し、放射線硬化性官能基含有樹脂1kgあたりの硫黄元素量に換算し、放射線硬化性官能基含有樹脂中のスルホン酸(塩)基濃度を求めた。
(3)ガラス転移温度(Tg)の測定
TOYO BALDWIN製 RHEOVIBRONを使用し粘弾性法にて測定した。
(4)樹脂中の放射線硬化性官能基含有量
NMRの積分比より算出した。
(5)保存安定性の評価
実施例、比較例で得られた樹脂溶液を23℃、密閉の条件で保存して、GPCにより得られる分子量に変化が現れるまでの日数を調べた。
(6)放射線硬化性評価
実施例、比較例で得られた各樹脂溶液を、固形分濃度約20%に希釈し試料溶液とした。この試料溶液をアラミドベース上にブレード(300μm)を用いて塗布し、室温で二週間乾燥し、塗布厚み30〜50μmの塗布膜を得た。
次いでこの塗布膜に電子線照射器を用いて、10kGの強度で3回、計30kGの電子線を照射した。
次いで、電子線を照射した膜を、テトラヒドロフラン100ml中に浸漬し、60℃2時間抽出した。抽出終了後、THF100mLで膜を洗浄し、真空乾燥で140℃3時間乾燥させた。次いで、抽出終了後の(乾燥させた膜の)残分の質量をゲル分の質量とし、(ゲル分/抽出前の塗布膜の質量)×100で算出される値をゲル分率として表1に示す。ゲル分率が高いほど塗膜強度が高く放射線硬化が良好に進行したことを示す。
【0107】
【表1】

【0108】
評価結果
表1に示すように、ベンゾキノン化合物以外の化合物を使用した比較例1〜8では、硬化性が良好であったものは経時安定性が低下し(比較例1〜3)、経時安定性が良好であったものは硬化性が低下した(比較例4〜8)。この結果から、ベンゾキノン化合物以外の化合物では、保存安定性と硬化性を両立することが困難であることがわかる。
これに対しベンゾキノン化合物を使用した実施例1〜4では、塩化ビニル共重合体の樹脂溶液は優れた経時安定性を示した。また、比較例4〜8に示すように、通常長期保存安定性を高めることが可能な成分を添加すると硬化性が低下するのに対し、実施例1〜4では放射線照射して得られた硬化膜のゲル分率が高く硬化性も良好であった。なお実施例2、3は、比較例5、7で単独使用した化合物をベンゾキノン化合物と併用した例である。実施例2、3の結果から、単独使用では経時安定性と硬化性の両立が困難である化合物であってもベンゾキノン化合物と併用することにより、経時安定性と硬化性の両立に寄与することがわかる。
また、比較例9はベンゾキノン化合物を使用し放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂溶液の経時安定性と硬化性の両立を試みた例であるが、表1に示すように経時安定性は良好であったが硬化性が著しく劣化した。
以上の結果から、ベンゾキノン化合物は放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物に対して特異的効果を発揮し、その硬化性を損なうことなく、保存安定性を高めることができることが示された。
【0109】
参考実験
通常、放射線硬化性樹脂の合成時には多官能(メタ)アクリレートモノマーが副生することが知られており、実施例1では放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)の合成時に、以下の2官能メタクリレートモノマー(以下、「メタクリレートモノマーA」と記載する。)が副生することが予想された。
【0110】
【化8】

【0111】
そこで以下の方法により、メタクリレートモノマーAの副生を確認した。
【0112】
(1)メタクリレートモノマーAの合成
2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製MOI)10gをアセトン100mlに溶解した。内温30〜50℃の範囲で、水100gを滴下し2時間攪拌した。酢酸エチル200gを添加し、10分攪拌を行い静置した後に水相を廃棄した。水100gを添加し、10分攪拌を行い静置後に水相を廃棄した。得られた有機相を外温40℃でエバポレーターを使い濃縮乾固させた。生成物のNMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR(400MHz, DMSO, 25℃): 6.12(2H, t), 6.05(2H,s), 5.68(2H, t), 4.05(4H, t), 3.82(4H, q), 1.88(6H, s) ppm
【0113】
【化9】

【0114】
(2)メタクリレートモノマーA副生の確認
2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートのNMRデータにおいて、代表的なプロトンの帰属は以下の通りとなる。放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)、メタクリレートモノマーA、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートのNMRデータから明らかなように、6.12ppmのプロトンのピークはメタクリレートモノマーAのみが有するため、このピークが存在することによりメタクリレートモノマーAが副生していることを確認することができる。そこで実施例1で得た樹脂溶液の1H NMR測定を行ったところ、6.12ppmにプロトンのピークが確認された。この結果から、実施例1でメタクリレートモノマーAが副生したことが確認できる。
なお、以下に記載する方法により、実施例1で得た樹脂溶液の放射性硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)とメタクリレートモノマーAの含有量を計算することができる。NMRデータにおいて、放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(A)とメタクリレートモノマーAの積分値を比較することにより、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(A)に導入された量とメタクリレートモノマーAに導入された量の比率を求めたところ、前者:後者=47.8:52.2であり、未反応の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートは検出されなかった。以上の結果と仕込み量から、放射性硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)とメタクリレートモノマーAの含有量を求めたところそれぞれ、131.4gと7.18gであった。
【0115】
【化10】

【0116】
上記の通り、実施例1においてメタクリレートモノマーAの副生が確認されたが、メタクリレートモノマーAの存在は、放射線硬化性組成物の放射線硬化性やガラス転移温度に大きな影響を及ぼすものではない。この点を示すため、実施例1−1として、メタクリレートモノマーAを含まない樹脂溶液を以下の方法で調製した。
【0117】
(実施例1−1)
実施例1と同様の方法で樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液200gに内温50℃でアセトン200gを添加した。その後、内温45〜55℃の範囲でメタノール500gを滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、アセトン300gを添加し50℃で攪拌し完溶させた。内温45〜55℃の範囲でメタノール500gを滴下すると固形物が析出した。析出した固形物を濾過し、真空下30℃で24時間乾燥させた。
上記操作により得られた生成物の1H NMR測定を行ったところ、6.12ppmにはプロトンのピークが確認されなかった。この結果から、反応物から副生物であるメタクリレートモノマーAが上記操作により除去されたと判断することができる。
次いで、上記操作により得られた生成物の放射線硬化性およびガラス転移温度を、前述の方法により測定したところ、ゲル分率は84%、ガラス転移温度は75℃であり実施例1で得られた結果と同等であった。
以上の結果から、合成時に副生する多官能(メタ)アクリレートモノマーは放射線硬化性組成物の放射線硬化性やガラス転移温度に大きな影響を及ぼすものではないことが確認できる。
【0118】
次に、実施例1で得た放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)とメタアクリロイルオキシ基濃度が異なる放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)’、(A)”の合成例を示す。
【0119】
(実施例1−2)
放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)’の合成
2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート滴下量を6.88g(0.04mol)に変更した点以外は実施例1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)’を含有する樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液について、上記方法によりメタクリレートモノマーAの副生が確認された。
前述の参考実験と同様に、以下の方法により樹脂溶液中の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)’と副生したメタクリレートモノマーAの含有量を計算することができる。NMRデータにおいて、放射線硬化性塩化ビニル系共重合体(A)’とメタクリレートモノマーAの積分値を比較することにより、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの放射線硬化性塩化ビニル系共重合体(A)’に導入された量とメタクリレートモノマーAに導入された量の比率を求めたところ、前者:後者=63.5:36.5であり、未反応の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートは検出されなかった。以上の結果と仕込み量から、放射性硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)’とメタクリレートモノマーAの含有量を求めたところ、それぞれ、129.2gと2.51gであった。
前述の方法で、放射線硬化性塩化ビニル系共重合体(A)’中のメタクリロイルオキシ基濃度およびガラス転移温度を求めたところ、メタクリロイルオキシ基濃度は230mmol/kg、ガラス転移温度は73℃であった。
【0120】
(実施例1−3)
放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)”の合成
2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート滴下量を3.43g(0.02mol)に変更した点以外は実施例1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)”を含有する樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液について、上記方法によりメタクリレートモノマーAの副生が確認された。
前述の参考実験と同様に、以下の方法により樹脂溶液中の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)”と副生したメタクリレートモノマーAの含有量を計算することができる。NMRデータにおいて、放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(A)”とメタクリレートモノマーAの積分値を比較することにより、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(A)”に導入された量とメタクリレートモノマーAに導入された量の比率を求めたところ、前者:後者=77.4:22.6であり、未反応の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートは検出されなかった。以上の結果と仕込み量から、放射性硬化性官能基含有塩化ビニル共重合体(A)”とメタクリレートモノマーAの含有量を求めたところ、それぞれ127.5gと9.78gであった。
前述の方法で、放射線硬化性塩化ビニル系共重合体(A)”中のメタクリロイルオキシ基濃度およびガラス転移温度を求めたところ、メタクリロイルオキシ基濃度は140mmol/kg、ガラス転移温度は75℃であった。
【0121】
2.磁気記録媒体の実施例、比較例
【0122】
(実施例5)
<磁性層塗布液の調液>
針状強磁性微粉末(平均長軸長35nm)100部をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いで実施例1の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系樹脂溶液を固形分換算で15部添加した後60分間混練した。この混練物に、研磨剤(Al23、粒子サイズ 0.3μm)2部、カーボンブラック(粒子サイズ 40μm)2部、メチルエチルケトン/トルエン=1/1混合溶媒 200部を加えてサンドミルで360分間分散した。
得られた分散液に、ブチルステアレート 2部、ステアリン酸 1部、シクロヘキサノン 50部を加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
【0123】
<非磁性層塗布液の調液>
α−Fe23(平均粒径 0.15μm、SBET 52m2/g、表面処理Al23、SiO2、pH6.5〜8.0)85部をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いで実施例1の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系樹脂溶液を固形分換算で7.5部、下記参考調製例1で調製した放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂溶液を固形分換算で10部、およびシクロヘキサノン60部を添加し60分間混練した。この混練物に、メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=6/4混合溶媒 200部を加えてサンドミルで120分間分散した。
得られた分散液に、ブチルステアレート 2部、ステアリン酸 1部、メチルエチルケトン 50部を加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層塗布液を調製した。
【0124】
(参考調製例1)
放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂溶液の調製において、ポリウレタン合成時に添加する化合物としてベンゾキノンに代えてp−メトキシフェノール0.240gを使用し、合成後に4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルをポリウレタン固形分に対して50ppm添加した点以外、比較例9と同様の方法で放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂溶液(固形分30%)を得た。
得られた樹脂溶液に含まれる放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂について、上記方法により平均分子量、スルホン酸塩基濃度、放射線硬化性官能基(メタクリロイルオキシ基)濃度の測定を行ったところ、質量平均分子量=3.8万、数平均分子量2.4万、スルホン酸塩基濃度=69.66mmol/kg、メタクリロイルオキシ基濃度=355.44mmol/kgであった。
【0125】
<磁気記録媒体の作製>
厚さ7μmのポリエチレンテレフタレート支持体の表面に、接着層としてスルホン酸含有ポリエステル樹脂を乾燥後の厚さが0.1μmになるようにコイルバーを用いて塗布した。
次いで、上記接着層上に得られた非磁性層塗布液を厚さ1.5μmに塗布して塗布層を形成した後、該塗布層に30kGの電子線を照射して非磁性層(放射線硬化層)を形成した。さらにその直後に、形成した非磁性層上に乾燥後の厚さが0.1μmになるように上記磁性層塗布液を塗布した。磁性層塗布液が塗布された非磁性支持体に対し、磁性層塗布液が未乾燥の状態で0.5テスラ(5,000ガウス)のCo磁石と0.4テスラ(4,000ガウス)のソレノイド磁石で磁場配向を行った後、磁性層塗布液の塗布層に30kGの電子線を照射して磁性層(放射線硬化層)を形成した。次いで、金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロールの組合せによるカレンダー処理を速度100m/min、線圧300kg/cm、温度90℃で行なった後1/2インチ(17.7mm)幅にスリットし磁気テープを得た。
【0126】
(実施例6)
非磁性層塗布液の調製時、実施例1の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系樹脂溶液に代えて実施例2の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系樹脂溶液を用いた点以外は、実施例5と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0127】
(実施例7)
磁性層塗布液の調製時、針状強磁性微粉末(平均長軸長35nm)の代わりに六角平板状フェライト微粉末(平均板径10nm)を用いた点以外は、実施例5と同様にして磁気テープを作製した。
【0128】
(比較例10)
磁性層塗布液の調製時に実施例1の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系樹脂溶液に代えて比較例1の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系樹脂溶液を用いた点および非磁性層塗布液の調製時、実施例1の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系樹脂溶液に代えて比較例1の放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系樹脂溶液を用いた点以外は、実施例5と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0129】
評価方法
実施例5〜7および比較例10で作製した磁気テープについて、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
(1)磁性層の表面平滑性
Digital Instrument社製Nanoscope IIを用い、トンネル電流10nA、バイアス電流400mVで30μm×30μmの範囲を走査して高さ10nm〜20nmの突起数を求め、比較例10を100としたときの相対値で示した。
(2)電磁変換特性(S/N比)
各磁気テープのS/N比を、ヘッドを固定した1/2インチ リニアシステムで測定した。ヘ−ド/テ−プの相対速度は10m/secとした。記録は飽和磁化1.4TのMIGヘッド(トラック幅18μm)を使い、記録電流は各テープの最適電流に設定した。再生ヘッドには素子厚み25nm、シールド間隔0.2μmの異方性型MRヘッド(A−MR)を用いた。
記録波長0.2μmの信号を記録し、再生信号をシバソク製スペクトラムアナライザーで周波数分析し、キャリア信号(波長0.2μm)の出力とスペクトル全域の積分ノイズとの比をS/N比とし、比較例10を0dBとした相対値で示した。
(3)繰り返し摺動耐久性
40℃10%RH環境下で磁性層面をAlTiC製の円柱棒に接触させて荷重100g(T1)をかけ、2m/secの摺動速度で繰り返し10,000パスまで摺動を行ったあとのテープダメージを目視および光学顕微鏡観察(倍率:100〜500倍)により、以下のランクで評価した。
優秀:ややキズが見られるが、キズのない部分の方が多い。
良好:キズがない部分よりもキズがある部分の方が多い。
不良:磁性層が完全に剥離している。
(4)保存性
LTO−G3カートリッジ用のリールにテ−プを600m巻いた状態で60℃90%RHで2週間保存した。保存後のテ−プの摺動耐久性を上記(3)と同じ方法で測定した。
【0130】
【表2】

【0131】
評価結果
表2に示すように、実施例5〜7の磁気テープは、比較例10の磁気テープと比べてすべての評価項目において優れた結果を示した。本願発明者らは、この結果について以下のように推察している。
実施例5〜7の磁気テープが優れた平滑性を示した理由は、非磁性層を放射線硬化した後に磁性層塗布液を塗布したため、磁性層塗布液への非磁性層の溶解による層間混合を抑制できたことに起因する。非磁性層結合剤として使用した放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の硬化性が良好であったため、放射線照射により強固な塗膜を形成できたことも上記層間混合抑制に寄与している。また、非磁性層、磁性層とも結合剤に含まれるスルホン酸(塩)基による分散性向上が達成されたことも、平滑性向上の一因と考えられる。実施例5〜7の磁気テープが優れた電磁変換特性を示した理由は、上記の通り磁性層表面性が良好であったことに起因するものである。
実施例5〜7の磁気テープが優れた繰り返し摺動耐久性を示した理由は、磁性層に使用した放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の硬化性が良好であったため強固な塗膜を形成できたことにある。
また、非磁性層の硬化が不十分であると非磁性層成分の磁性層側への移動量が多くなり、磁性層の硬化が不十分な場合には磁性層表面からの各種成分の染み出し量が多くなる。このような現象が生じると保存中にテープの張り付きが生じる、テープ表面に析出物が発生する、等の理由から保存性が低下する。実施例5〜7の磁気テープは、磁性層、非磁性層とも放射線硬化性が良好であっため優れた保存性を示した。また、実施例5〜7の中で、実施例6の平滑性が最も良好であった理由は、非磁性層の形成に、ベンゾキノンとともにピペリジン−1−オキシル化合物を併用した放射線硬化性塩化ビニル系樹脂溶液(実施例2)を使用したことにあると、本願発明者らは推察している。非磁性層塗布液の調製時、分散中にせん断応力により熱が発生することにより放射線硬化性官能基が多少反応することが予想されるが、ベンゾキノンとともにピペリジン−1−オキシル化合物を併用したことによりこの反応がより効果的に抑制されたことが、上記層間混合抑制に寄与し平滑性の一層の向上につながったと考えられる。
【0132】
以上説明した表1および表2の結果から、本発明によれば、放射線照射による硬化性を損なうことなく、放射線硬化性塩化ビニル系樹脂の保存安定性を長期間良好に維持できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の磁気記録媒体は、優れた耐久性および保存性を発揮することができるので繰り返し走行耐久性および保存性が求められるバックアップテープとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線硬化性官能基を含む塩化ビニル系樹脂および/またはその原料化合物とベンゾキノン化合物とを含む放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記放射線硬化性官能基は、(メタ)アクリロイルオキシ基である請求項1に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩化ビニル系樹脂は、スルホン酸(塩)基を含む請求項1または2に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
ピペリジン−1−オキシル化合物および/またはニトロ化合物を更に含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記塩化ビニル系樹脂に対して、100ppm以上100000ppm以下のベンゾキノン化合物を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
磁気記録媒体形成用塗布液として、またはその調製のために使用される請求項1〜5のいずれか1項に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項7】
塩化ビニル系樹脂に放射線硬化性官能基を導入する反応をベンゾキノン化合物の存在下で行うことにより、放射線硬化性官能基を含む塩化ビニル系樹脂を得ることを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を放射線硬化することによって得られた塩化ビニル系樹脂。
【請求項9】
非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂組成物を含む塗布層を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層を少なくとも一層有する磁気記録媒体。
【請求項10】
前記放射線硬化層は、前記磁性層である請求項9に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有し、かつ該非磁性層が前記放射線硬化層である請求項9または10に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
ベンゾキノン化合物を含む放射線硬化性塩化ビニル系樹脂用保存安定剤。
【請求項13】
ピペリジン−1−オキシル化合物および/またはニトロ化合物を更に含む請求項12に記載の放射線硬化性塩化ビニル系樹脂用保存安定剤。

【公開番号】特開2011−46930(P2011−46930A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165911(P2010−165911)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】