説明

放射線硬化性組成物

【課題】 硬化物が高温条件下で使用されても弾性シール材としての機能を損なわず、かつ、このシール材層を光硬化性の組成物により形成することを目的とする。
【解決手段】
(A)下記一般式(a)で示される分子量500〜50,000のポリイソブチレン系化合物100重量部と、(B)(メタ)アクリレート基を有する水添ポリブタジエン系化合物20〜60重量部と、(C)光ラジカル重合開始剤の、上記(A)〜(C)を主成分とする放射線硬化性組成物とした。
【化6】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物が弾性のあるシール材を形成する硬化性組成物に関するもので、さらに詳しくはその硬化物の物性がJIS K6262試験における150℃での圧縮永久歪みが20%以下である弾性シール材層を形成可能な放射線硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来自動車部品、電機部品、各種機械部品を組み立てラインで接合し、シールする方法としてはゴム、コルクや紙製の成形ガスケットをシール面間に介在させて圧接する方法や液状シール剤をシール面間に介在させてシールする方法が採られていた。このうち成形ガスケットを用いる方法は、打ち抜きによる材料ロスやガスケットの成形加工費が高いという問題や、ガスケットを長時間使うとへたりが生じてボルトの締付トルクダウンや接面から漏れが発生するなどの問題がある。またフランジ面に大気中の水分と反応して硬化する室温硬化形シリコーン材料(シリコーンRTV)やウレタン(メタ)アクリレートを主成分とした嫌気性液状シール剤を自動塗布機などで塗布しながらそのまま組み付けてシールを行う手法が用いられている。
【0003】
しかしながら、これらは組み付け後のシール剤硬化時間が十分に取れるとは限らず、未硬化の液状シール剤が内圧によって押し流されて漏れが生じるという、いわゆる初期耐圧性の低さが問題となっている。上記問題を解決するため、光により速やかに硬化し、シール剤組成物を形成する手法が考案されている。
【0004】
従来知られている光硬化性樹脂組成物としては、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸エステルモノマーなどに代表されるアクリレート系樹脂などにラジカル重合開始剤を添加したものや、エポキシ樹脂にカチオン重合開始剤を添加したものが用いられている。これらを用いたシール剤組成物としては、特開平6−158024:(メタ)アクリル基、加水分解性シリル基及び/又はイソシアネート基をもつプレポリマーを、光及び/又は湿気により硬化させる液状ガスケット用組成物、特公開平9−53281:可視光及び/又は近赤外光によりモノマー及び/又はオリゴマー、顔料及び/又は充填剤によりなる組成物を、光により硬化させる目地シール材、特開平2001−163931:ウレタン(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、光重合開始剤、充填剤を主成分とする光硬化性シール剤組成物、特開2001−166469:高いガラス転移点を持つ熱又は光硬化可能樹脂に、ウレタン等の軟質フィラーを配合する樹脂組成物、特開2003−12880:反応性ケイ素基を有するポリイソブチレンに、光硬化化合物、空気酸化性化合物、第3級ヒンダードアミン系光安定剤を配合した貯蔵安定性に優れるシール剤組成物、特開2003−192745:(メタ)アクリロイル基を含有するポリエステルアクリレートに、(メタ)アクリロイル基を含有する共役ジエンポリマー、(メタ)アクリルモノマー、光重合開始剤を配合してなる体積収縮率が小さいことを特徴とする紫外線硬化組成物、特開2004−124072:反応性ケイ素基含有オキシプロピレン重合体に、光重合開始剤を配合してなる耐薬品性を有する建築用シール材、WO99/51653:有機亜鉛又はアミン化合物を触媒として製造されたウレタンアクリレートを主成分とするハードディスク用シール剤などが報告されている。しかしながら上記組成物は耐熱性についての言及が無く、とりわけ100℃を超す環境下での使用は想定されていない。よって100℃以上の高温条件下で使用される自動車エンジン部のシール材の様な過酷な条件下で使用すると、組成物が熱により変性し、シール材としての機能を損ねやすいという欠点を有していた。
【特許文献1】特開平6−158024号公報
【特許文献2】特開平9−53281号公報
【特許文献3】特開平2001−163931号公報
【特許文献4】特開2001−166469号公報
【特許文献5】特開2003−12880号公報
【特許文献6】特開2003−192745号公報
【特許文献7】特開2004−124072号公報
【特許文献8】WO99/51653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、硬化物が高温条件下で使用されても弾性シール材としての機能を損なわず、かつ、このシール材層を光硬化性の組成物により形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するため鋭意検討した結果、
(A)下記一般式(a)で示される分子量500〜50,000のポリイソブチレン系化合物100重量部と、(B)(メタ)アクリレート基を有する水添ポリブタジエン系化合物20〜60重量部と、(C)光ラジカル重合開始剤の上記(A)〜(C)を主成分とする放射線硬化性組成物により前記課題を解決した。
【0007】
【化3】

【0008】
また、より具体的には、その硬化物がJIS K6262試験における150℃での圧縮永久歪みが20%以下であることを特徴とする。
【0009】
以下本発明について詳細に説明する。
(A)ポリイソブチレン系化合物
本発明に使用される(A)ポリイソブチレン系化合物は、高純度イソブチレンの重合により製造される炭化水素ポリマーであって、下記一般式(a)で示される分子量500〜50,000のポリイソブチレンである。
【0010】
【化4】

【0011】
具体例としては、EP600A、EP400A、EP200A:以上鐘淵化学工業社製末端アリル化ポリイソブチレン、G3000:BASF社製ポリイソブチレンなどが挙げられる。
【0012】
(B)(メタ)アクリレート基を有する水添ポリブタジエン系化合物
本発明に使用される(B)(メタ)アクリレート基を有する水添ポリブタジエン系化合物は、ブタジエンをナトリウム触媒によるアニオン重合法、又はフリーデルクラフト触媒によるカチオン重合法などで重合させた液状ポリブタジエンを、遷移金属などの水添触媒で水素化して製造され、成分(A)ポリイソブチレンに相溶し、組成物の硬化性、硬化物の物性等に問題を生じないもので、常温にてゴム弾性を示すものであれば使用可能である。特に好ましいものは下記一般式で示される。
【0013】
【化5】

【0014】
上記一般式で示される範囲内であると(B)(メタ)アクリレート基を有する水添ポリブタジエン系化合物は、常温で液状であり使い勝手が良く、成分(A)ポリイソブチレン系化合物との相溶性も良好である。具体例としては、SPBDA:大阪有機社製末端アクリル化水添ポリブタジエン、L−1253:クレイトンポリマージャパン社製片末端メタアクリル化水添ポリブタジエンなどが挙げられる。
【0015】
上記(メタ)アクリレート基を有する水添ポリブタジエン系化合物の添加量は、成分(A)100重量部に対して20〜60重量部の範囲で添加することが好ましい。20重量部未満であると組成物の光硬化性が十分でなく硬化しなかったり、シール剤組成物としての形状を保持することが困難となる。また60重量部を超えると硬化物の高温での圧縮永久歪み性が悪くなり、更には硬化物が硬く脆くなって壊れて(崩壊して)しまう。
【0016】
(C)光ラジカル重合開始剤
本発明で用いられる光ラジカル重合開始剤は、化学構造(分子結合エネルギー)の差により、分子内開裂型(P1型)と水素引き抜き型(P2型)に分類される。P1型の具体例としては、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン類、アシルフォシフィンオキサイド類、チタノセン化合物等が挙げられる。
【0017】
P2型の具体例としては、ベンゾフェノン、ベンゾイルベンゾイックアシッド、ベンゾイルベンゾイックアシッドメチルエーテル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−メチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類が挙げられる。光ラジカル重合開始剤は1種又は2種以上を用いることができ、P1型同士、P2型同士あるいはP1型とP2型を併用しても良い。
【0018】
光ラジカル重合開始剤の添加量は、(A)成分と(B)成分の総和100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部である。添加量が多すぎても添加量に見合うだけの光硬化性向上効果はなく、添加量が少なすぎると組成物を十分に硬化させることができなくなる場合がある。
【0019】
本発明の放射線硬化可能なシール剤組成物には、本発明樹脂組成物の特性を損なわない範囲において他の添加剤を適量配合しても良い。他の添加剤としては、増感剤、顔料や染料などの着色剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、シラン系又はチタネート系カップリング剤等の密着性付与剤、老化防止剤、ベンゾトリアゾール系やアミン系等の光安定化剤、有機又は無機系充填剤、可塑剤等が例示される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の放射線硬化性組成物は、その硬化物がJIS K6262試験における150℃での圧縮永久歪みが20%以下である弾性シール剤組成物を提供でき、特に自動車エンジン部等耐熱性を求められる部材のシール材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制約されるものではない。なお本実施例に使用した材料は下記の通りである。
【実施例】
【0022】
EP600A:鐘淵化学工業社製末端アリル化ポリイソブチレン(分子量20,000)、EP400A:鐘淵化学工業社製末端アリル化ポリイソブチレン(分子量10,000)、EP200A:鐘淵化学工業社製末端アリル化ポリイソブチレン(分子量5,000)、G3000:BASF社製ポリイソブチレン(分子量2,200)、EP100S:鐘淵化学工業社製末端アルコキシシリル化ポリイソブチレン、SPBDA:大阪有機社製末端アクリル化水添ポリブタジエン(分子量6,000)、L−1253:クレイトンポリマージャパン社製片末端メタアクリル化水添ポリブタジエン、BAC−45:大阪有機社製末端アクリル化未水添ポリブタジエン、UC−102:クラレ社製末端アクリル化水添ポリイソプレン、L−207:クレイトンポリマージャパン社製末端エポキシ化水添ポリブタジエン、ダロキュア(Darocure)1173:日本チバガイギー社製光ラジカル重合開始剤(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、Rhodorsil2074:Rhodia社製光カチオン重合開始剤((トリクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート)
【0023】
[実施例1〜6および比較例1〜7]
下表1に示す実施例1〜6及び比較例1〜7の通り材料を混合攪拌しそれぞれの試料を調整した。得られた各試料について下記の項目に示す評価試験を行い、その結果を表2に示した。
【0024】
[相溶性試験]
相溶性の確認は、実施例および比較例に基づいた各組成物を50mLガラス瓶に約20g入れ、25℃にて24時間放置後の液の状態を目視で観察した。
【0025】
[光硬化性試験]
光硬化性は、実施例および比較例に基づいた各組成物約3gを25φのポリキャップに入れ、3,000mJ/cmにて硬化させ、硬化状態を目視にて観察した。
【0026】
[硬さ試験]
樹脂硬さは光硬化性確認試験に用いた硬化物を2枚重ね、硬度計(デュロメーター タイプA又はC)にて任意5点の測定値の平均とした。
【0027】
[圧縮永久歪み試験後硬化物の状態、圧縮永久歪みに試験]
圧縮永久歪み試験は下記操作(JIS K6262試験)によって行った。すなわち、直径29.0±0.5mm、厚さ12.5±0.3mmの円盤状に硬化させた各組成物を、表面を平滑に仕上げたステンレス鋼板の間にはさみ、ボルト/ナットにより厚さ9.38±0.01mmの軟鋼製スペーサーの厚さにまで圧縮する。この試験片を150℃の恒温槽に72時間放置後、圧縮装置から素早く取り出し、23±5℃で約30分間放置する。所定時間経過後、硬化物の外観観察と厚さ測定を行う。なお圧縮永久歪みは下記式により計算した。
【0028】
【数1】

【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
実施例1〜5の結果から、末端アリル化ポリイソブチレン100重量部に対し、末端アクリル化水添ポリブタジエンを20〜60重量部の範囲で配合すると、相溶性が良好で光硬化性も良く、且つ圧縮永久歪み試験結果も良好な硬化物が得られることが分かる。
【0032】
実施例6の結果から、末端アリル化ポリイソブチレンの代わりにポリイソブチレンを用いた以外実施例2と同様の配合では、相溶性が良好で光硬化性も良く、且つ圧縮永久歪み試験結果も良好な硬化物が得られることが分かる。
【0033】
実施例7の結果から、末端アクリル化水添ポリブタジエンの代わりに片末端メタアクリル化水添ポリブタジエンを用いた以外実施例2と同様の配合では、末端アリル化ポリイソブチレンと相溶性が良く、光硬化性も良好であく、また圧縮永久歪み試験結果も良好であることが分かる。
【0034】
比較例1,2の結果から、末端アリル化ポリイソブチレン100重量部に対し末端アクリル化水添ポリブタジエンを20重量部未満で配合すると、相溶性は良好であったが、光硬化性が十分でなく、圧縮永久歪み試験後硬化物が溶出してしまうシール材としての使用に耐えられない硬化物となり、また末端アクリル化水添ポリブタジエンが60重量部を超えて配合されると、相溶性、光硬化性は良好であったが、圧縮永久歪み試験後硬化物が崩壊するシール材としての使用に耐えられない硬化物となることが分かる。
【0035】
比較例3の結果から、末端アルコキシシリル化ポリイソブチレン100重量部に対し、末端アクリル化水添ポリブタジエンを20〜60重量部の範囲内で配合しても、相溶性、光硬化性は良好であったが、圧縮永久歪み試験後硬化物が崩壊するシール材としての使用に耐えられない硬化物となることが分かる。
【0036】
比較例4,5の結果から、末端アクリル化未水添ポリブタジエン、末端アクリル化水添ポリイソプレンでは、末端アリル化ポリイソブチレンと相溶性が悪く、光硬化性も不良であることがわかり、また、比較例6,7の結果からは、末端アリル化ポリイソブチレン100重量部に対し、末端エポキシ化水添ポリブタジエンを配合すると、相溶性が悪く、また硬化性も不良であった。硬化できた硬化物の圧縮永久歪み試験結果はシール材として使用するには不適なものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明では、硬化物が高温条件下で使用されても弾性シール材としての機能を損なわず、かつ、このシール材層を光硬化性の組成物により形成することが可能である。それゆえ、耐熱性を要求されるシール材用途に広く適用でき、特に自動車エンジン部等高熱のかかりやすい部材のシール材として利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(a)で示される分子量500〜50,000のポリイソブチレン系化合物100重量部
(B)(メタ)アクリレート基を有する水添ポリブタジエン系化合物20〜60重量部
(C)光ラジカル重合開始剤
【化1】

上記(A)〜(C)を主成分とする放射線硬化性組成物。
【請求項2】
前記放射線硬化性組成物の硬化物が、JIS K6262試験における150℃での圧縮永久歪みが20%以下である請求項1に記載の放射線硬化性組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリレート基を有する水添ポリブタジエン系化合物(B)が、下記一般式で示される化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の放射線硬化性組成物。
【化2】


【公開番号】特開2006−36947(P2006−36947A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219612(P2004−219612)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】