説明

放射線選択性吸収体コーティング、及び放射線選択性吸収体コーティングを処理した吸収体管

【課題】個々の層の接着性が良好であり、本質的に安定で、生産過程において変動する外部の影響によって左右されない吸収体コーティング、及び該吸収体コーティングが施された吸収体管及び内部にそれら吸収体管を用いるパラボラトラフ集熱器の稼動方法を提供する。
【解決手段】吸収体コーティングを、赤外域反射層(21)、反射層(21)の下方に形成される少なくとも1層のバリヤ層(24)及び反射層(21)の上方に形成される少なくとも1層の吸収層(22)から作製し、さらに前記吸収層(22)の上方に反射防止層(23)を含せ、また前記バリヤ層(24)と前記反射層(21)の間に少なくとも1層の接着増強層(25)が形成されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1項の前文に従った放射線選択性吸収体コーティングに関する。本発明はさらに、前記放射線選択性吸収体コーティングが施された吸収体管、及び該吸収体管を用いるパラボラトラフ型集熱器の稼動方法にも関する。パラボラトラフ型集熱器は太陽エネルギープラントにおける発電に用いられる。
【背景技術】
【0002】
慣用の吸収体コーティング材は、赤外域において反射性を有し、かつ基板、とりわけ金属製チューブ上へ処理された層、太陽光スペクトル域内で高い吸収率をもつセルメット(cermet)層、及び、該セルメット層上へ処理される反射防止層とも称される被覆層から成り、該セルメット層が高屈折率であるために、セルメット層上における表面反射を減ずるために付与されるものである。
【0003】
可能な限り高いエネルギー効率を達成することが基本的な努力目標として掲げられている。エネルギー効率は特に吸収率α及び放射率εに依存しており、吸収体コーティングの高吸収率(α≧95%)及び低放射率(ε≦10%)が常に追求されている。
【0004】
さらに、太陽エネルギープラントの効率は集熱アレイの稼動温度によって決まる。この観点から、可能な限り高い稼動温度とすることが求められている。しかしながらこれに対してエージング及び/又は拡散プロセスのために稼動温度の拡大と共に、吸収コーティングの層システムの耐久性は減少するので、その結果として、例えばセルメット層の吸収性や赤外域反射層の拡散性の大幅な減少がひき起こされる可能性がある。
【0005】
赤外域反射層には通常モリブデンが用いられる。しかしながら、モリブデンの反射特性は最適なものではないため、さらに反射性のよい材料を用いることが望ましい。そのため、赤外域反射層に、例えば銅あるいは銀などの赤外線反射特性のよい材料も用いられている。
既知の吸収体管の作動温度は300〜400℃の範囲内である。上記理由から、基本的に努力対象とされるべきことは、例えばセルメット層の吸収特性や赤外域反射層の反射特性を損なうことなく、作動温度をさらに上昇させることである。
【0006】
上述した努力活動については、C.E.Kennedyによる「中温ないし高温対応型太陽エネルギー選択性吸収材料に関する検討」、国立再生エネルギー研究所技術報告、2002年7月版に要約されている。この論文には、ZrOxNy又はZrCxNyから成る吸収体層と、赤外域において反射性であるAg又はAl層から成る層構造が開示されており、該層構造は、Al拡散バリヤ層が組み入れられていることにより、空気中における熱安定性が改善されている。また、減圧下における赤外反射層の熱安定性を、該赤外反射層の下方への拡散バリヤ層の導入によって改善できることも確認されている。このようなバリヤ層の材料として、CrO、AlあるいはSiOが提案されている。また、銀反射層の500℃までの熱安定性も望まれている。
【0007】
しかしながら、このような目標が達成されたとしても、吸収性及び放射性のさらなる向上が望まれる中で、より耐久性な層の開発努力が終わることはない。
【0008】
これにより、DE102006056536A1には、バリヤ層を少なくとも2層含む放射線選択性吸収体コーティングについて記載されており、それらバリヤ層上には赤外域において反射性な層が設けられ、この反射層上には吸収体層が設けられ、さらにこの吸収体層上に太陽エネルギー吸収性が高く熱放射性の低い反射防止層が設けられている。
【0009】
好ましくは銀から成る赤外線反射層の接着が十分行われていても、猶改善が必要である。特に、生産工程における基板の前処理によって層接着に大きな影響が及ぶことが明らかとなっている。すなわち、例えばかなり長期の保管期間により、あるいは湿気又はコーティング前における粒子の進入等の外部からの影響により、層接着に悪影響が生ずる可能性がある。
【0010】
これに関し、DE203006009369U1は、層システム中にプラスチックから成る部分層を少なくとも1層含む分離層を備える太陽エネルギー収集素子用の複合材料について記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、個々の層の接着性が良好であり、本質的に安定で、生産過程において変動する外部の影響によって左右されない吸収体コーティングを提供することを目的とする。本発明はさらに、上記コーティングが施された吸収体管、及び内部にそれら吸収体管を用いるパラボラトラフ集熱器の稼動方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は本願独立請求項に記載の発明、すなわちバリヤ層と赤外域反射層との間に少なくとも1層の接着増強層が形成される構成とすることによって達成される。
【0013】
従って、本発明による、特にパラボラトラフ集熱器の吸収体管に用いられる放射線選択性吸収コーティングは、
少なくとも1層の赤外域反射層と、
前記反射層の下方に形成される少なくとも1層のバリヤ層と、
前記反射層の上方に形成される少なくとも1層の吸収体層と、
前記吸収体層の上方に形成される反射防止層と、
前記バリヤ層と前記反射層との間に形成される接着増強層から構成される。
【0014】
前記接着増強層の厚さは好ましくは5nm〜50nmの範囲内である。厚さがこれより小さいと、スパッタリング処理により生ずる層厚の変動によって、もはや面被覆効果が確保できなくなる。より均質なコーティングを行える別の方法を用いることが適する場合には、5nm未満であって、かつ十分な接着促進を齎す層厚に蒸着することも可能である。厚さが50nm以上である場合には接着性の向上は認められず、同時に厚さが大きくなる結果、接着増強層中の本来的な応力が増大して層システム全体に対して不利な影響が及ぶ。従って、特に好ましい厚さは10nm〜20nmの範囲内である。
好ましくは、前記接着増強層にはモリブデン、銅、シリコン又はチタン、又はチタニアが含まれるか、あるいは該接着増強層はモリブデン、銅、シリコン、チタン又はチタニアから作製される。前記接着増強層は特に好ましくはモリブデンから成る。
シリコンは接着増強層に用いる材料としてよく適するものであり、接着性能が十分である点において本発明の目的を果たすものである。しかしながら、シリコンはモリブデンの性能と同等程度まで優れた材料ではない。
銅もまた接着増強層に用いる材料としてよく適するものであり、本発明の目的を果たすものである。しかしながら、330℃以上の高温になると銅の熱安定性が低下することから、銅は好ましくは稼動温度の低い吸収体管の製造に用いられる。チタン及びチタニアは双方とも接着増強層に用いる材料として適するものであり、本発明の目的を果たす材料である。
【0015】
それゆえ、モリブデンは接着増強層に用いる材料として、銀を用いる赤外域反射層との組み合わせにおいて特に好ましく、また銀は熱安定性が特に優れることから、赤外線反射層として銀を用いる吸収体コーティングは操作温度の高い吸収体管に特に好ましく用いられる。
【0016】
モリブデンは、赤外線反射層下方の層スタック中に位置して何ら光学的機能は果たさない。この接着増強層は光学的に不活性である。
【0017】
好ましくは、赤外線反射層の下方、すなわち接着増強層の下方にも少なくとも2層のバリヤ層が形成される。
【0018】
このような構成とするのは、少なくとも2層のバリヤ層によって、赤外域反射性層及び基板に対する接着増強層をスクリーニングすることにより、特に鉄から成る基板材料を用いる場合のスチール吸収体管から赤外域反射性層中への拡散、特に熱支配的拡散が有効に防止され、ひいてはコーティングの長期に亘る熱安定性が増大されることを見出したからである。
【0019】
このような特徴は、特に少なくとも2層のバリヤ層の第一バリヤ層が熱生成された酸化物から成る場合に極めて好結果をもって示される。熱生成された酸化物の特に適する例としてクロム鉄酸化物が挙げられる。また、上記特徴は特に前記少なくとも2層のバリヤ層の第二バリヤ層がAlxOyで示される化合物から成る場合にも極めて好結果をもって示される。また、アルミニウム酸化物として好ましい例としては、AlO、AlO、Alが挙げられる。前記アルミニウム酸化物の中で特に好ましいものはAlである。また、前記少なくとも2層のバリヤ層の第二バリヤ層がSOxで表わされ、式中のxが1〜2の数値とされる化合物から成る場合にも好結果が得られる。xの特に好ましい数値は2であるが、1〜2の範囲内の数値であればよい。
【0020】
1層あるいは複数層のバリヤ層はプラスチックフリーである。特に、これらバリヤ層には部分的にもプラスチックから成る層はなく、また層中にプラスチック成分も含まれない。
【0021】
好ましくは、赤外域反射層と有利にはセルメットからなる吸収体層の間に第三バリヤ層が形成される。この第三バリヤ層は、好ましくはAlOyで表わされる化合物から成る。なお、式中のxは1又は2のいずれかの数値、yは1、2又は3のいずれの数値でもよい。また代替例として、第三バリヤ層は好ましくはSiOxで表わされる化合物で作製される。なお、式中のxは1又は2のいずれかでよいが、好ましくは2である。
【0022】
2層のアルミナ層及び又は酸化シリコン層の間への赤外域反射層及び接着増強層のはさみ込み、及びそれに付随するサンドイッチ型の形成によって、いかなる材料であっても赤外域反射層からその上に形成される吸収体層へ拡散して、吸収体層の吸収性が損なわれることを不可能とする利点がある。従って、前記層システム内において、特に赤外域反射層への、あるいは該赤外域反射層からの、及び吸収体層への拡散を実質的に抑制することが可能である。
【0023】
かかる方法により、1000時間を超える期間に亘って、減圧下において590℃の操作温度下で高吸収性(α≧95%)及び低放射率(ε≦10%)を得ることが可能である。太陽エネルギー高吸収性及び低熱放射性は、本発明に係るコーティングが施された吸収体管を備える集熱器の効率に同じく2つの観点からプラスの影響を与えるものである。改善された選択率α/εとしての0.95/0.1はより高い放射エネルギーを意味し、稼動温度が上昇すればより効率的な電気エネルギーへの変換が可能となり、かかるコーティングのライフタイムを延ばす手段のみで、上述した方法によりコーティングされた吸収体管を備える対応パラボラトラフ集熱器の経済的運転を確保できる。
【0024】
高熱安定性の吸収体コーティングの利用により、現在では450℃を超える稼動温度で吸収体管を取り扱うことが可能となっている。
【0025】
沸点が110℃未満の熱転移媒質、特に水を用いることが可能であり、また水の使用が有利である。高い稼動温度においては水蒸気が発生し、この水蒸気はスチームタービン中へ直接取り込まれる。従来用いられているオイルから水へ熱を転移するための付加的熱交換器はもはや必要とされないため、この観点において本発明に係る吸収体コーティングが施された吸収体管を用いるパラボラトラフ集熱器は従来装置に比べ大幅に低コスト作動が可能とされている。
さらなる利点として、吸収体管温度の上昇を招く電力プラントの稼動に支障が生じた場合でも、吸収体層が直接ダメージを受けることがないため、不具合に関して高い安全性を付与でき、稼動により適したものとなる。
【0026】
前記バリヤ層、特に酸化シリコン層及び又はアルミナ層の厚さは、好ましくは5nm〜100nmの範囲内、さらに好ましくは5nm〜70nmの範囲内、特に好ましくは50nm以下、なおさらに好ましくは15nm〜40nmの範囲内である。前記厚さが5nm未満の場合、隣接層の成分によって左右されるが、酸化シリコン層及び又はアルミナ層によるバリヤ効果が不十分となる。他方前記厚さが100nmを超えると、熱応力が発生し、一定条件下において層の剥離が起こる可能性が生ずる。
【0027】
前記2層のバリヤ層、特に酸化シリコン層及び又はアルミナ層の厚さは異なっていてもよく、特に酸化シリコン層の下側層の厚さは好ましくは上側の酸化物層の厚さよりも厚く形成される。好ましくは、基板と接着増強層の間に形成される1又は複数のバリヤ層の厚さは5nm〜100nm、好ましくは10nm〜70nm、特に好ましくは15nm〜70nm、さらに好ましくは30nm±10nmとされ、赤外域反射層と吸収体層の間に形成されるバリヤ層の層厚は0nm〜50nmとされ、また該層の組成によるが好ましくは30nm〜40nm、あるいは5nm〜15nmの範囲とされる。
【0028】
銀、銅、白金、あるいは金等の材料を前記赤外域反射層に用いることが可能である。好ましくは、前記赤外域反射層は金、銀、白金、又は銅を含んで、あるいは金、銀、白金、又は銅から作製される。これらの材料は赤外域において極めて良好な反射性を有し、10%未満の放射率も達成可能である。特に好ましい場合、前記赤外域反射層は銀から作製される。
【0029】
前記赤外域反射層の厚さはそれに用いる材料によって異なるが、50nm〜250nmの範囲内である。上記の厚さ範囲内において、特に材料として銅又は銀が用いられる場合の好ましい層厚は100nm〜150nmの範囲内である。特に銀が用いられる場合、好ましい層厚は60nm〜150nm、さらに好ましくは80nm〜150nmの範囲内である。特に好ましい層厚は110nm±10nmである。また、他の態様において、50nm〜100nmの層厚、特に50nm〜80nmの層厚が適当とされることもある。
【0030】
前記赤外域反射層の層厚をこのように小さくすることは、材料である金、銀、白金及び銅が極めて高い反射率を持つことと、また好ましい実施態様において、2層のバリヤ層の間に前記赤外域反射層及び接着増強層を挟み込むことにより、これら材料が他層へ拡散できないか、あるいは他の妨害元素が拡散しない結果、これら材料の有用な特性が損なわれないことから可能となっている。
【0031】
貴金属Au、Ag、及びPtは高コスト材料であるが、赤外域反射層に用いられる既知の層厚よりも明確に小さくすることによってコスト補償可能であり、また場合によっては従来コストを下回るまで補償可能である。
【0032】
前記吸収体層の厚さは好ましくは60nm〜180nm、さらに好ましくは80nm〜150nmの範囲内である。前記吸収体層は、好ましくはアルミナ及びモリブデンから成るか、あるいはジルコニア及びモリブデンから成るセルメット層である。均質な吸収体層に代えて、組成の異なる、特に金属比率が減じられた組成をもつ、あるいは組成が徐々に変化する複数の吸収体層を与えることも可能である。前記セルメット層は、好ましくは層中の金属比率が連続的に、また実用的には段階的に減少あるいは増加する勾配層として形成される。
【0033】
前記吸収体層上に配置される反射防止層の層厚は好ましくは60nm〜120nm、さらに好ましくは70nm〜110nmの範囲内である。この層は、好ましくは酸化シリコン又はアルミナから作製される。
【0034】
吸収体管、特にパラボナトラフ集熱器用の吸収体管は、少なくとも1層の赤外域反射層、特にセルメットから成る少なくとも1層の吸収体層、及び前記吸収体層の上に形成される反射防止層を含んで成る放射線選択性吸収体コーティングが外面に施されたスチール管から成るものである。このスチール管と反射層の間には少なくとも1層のバリヤ層が形成され、このバリヤ層と反射層の間に少なくとも1層の接着増強層が形成されることを特徴とする。吸収体管には、好ましくは吸収体コーティングの好ましい態様として概説した実施態様に従って放射線選択性吸収体コーティングが施される。特に好ましい態様として、吸収体管にはモリブデンから作製される接着増強層を含む吸収コーティングが施される。特に好ましくは、前記吸収体管には厚さが5nm〜30nmの接着増強層が含まれる吸収コーティングが施される。また特に好ましくは、前記吸収体管には銀を含んで成る赤外線反射層が含まれる吸収コーティングが施される。
【0035】
吸収体管中を熱転移媒質が通過し、赤外域反射層、特にセルメット材料から成り、かつ反射層上に形成される少なくとも1層の吸収体層、及び反射防止層と吸収体管と反射層の間に形成されるバリヤ層を有する放射線選択性吸収体コーティングが施された状態で用いられる吸収体管を備えるパラボラトラフ集熱器の操作方法は、少なくとも1層の接着増強層がバリヤ層と反射層の間に形成されること、及び沸点が110℃未満の熱キャリア液が前記吸収体管中を通過することを特徴とする。
特に水を前記熱キャリア液として用いることが可能である。
【0036】
さらに別の実施態様では、吸収体管の操作温度が450℃〜550℃、とりわけ480℃〜520℃に設定されるパラボラトラフ集熱器操作方法が提供される。
【0037】
パラボラトラフ集熱器稼動方法は、吸収体コーティングの好ましい態様として概説した実施態様に従って、好ましくは放射線選択性吸収体コーティングが施された吸収体管を用いて実施される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】パラボラトラフ集熱器を示した図である。
【図2】本発明の一実施態様による吸収体管の断面を示した図である。
【発明を実施するための手段】
【0039】
以下において、本発明の例示的実施態様について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、放物状断面形状を有する細長形パラボラ反射鏡11を備えるパラボラトラフ集熱器10を示した図である。このパラボラ反射鏡11は支持構造体12によって保持される。ボラボラ形反射鏡11の焦点ラインに沿って吸収体管13が延び、この吸収体管13はパラボラトラフ集熱器へ連結された支持体14へ固定されている。パラボラ形反射鏡11は支持体14及び吸収体管13と共にユニットを形成し、このユニットは吸収体管14を中心として旋回することにより、太陽Sの位置に向けて単軸上を追跡するように構成されている。太陽Sから入射される平行太陽光はパラボラ形反射鏡11によって吸収体管上へ集束される。熱キャリア媒体、特に水が吸収体管中を流れ、吸収体管は吸収された太陽光によって加熱される。吸収体管の外側端部において熱キャリア媒体を回収して、エネルギー消費機器あるいはエネルギー変換器へ供給することも可能である。
【0040】
図2は吸収体管13の断面を模式的に示した図である。吸収体管13にはスチール管1が設けられ、このスチール管を通して熱キャリア媒体2が流れ、又、このスチール管はスチール管1の外面上へ処理される吸収体コーティング20用の基材となる。吸収体コーティング20の個々の層の層厚は、図の簡潔化のため、拡大され、厚さもほぼ均等に示されている。
【0041】
吸収体コーティング20には、内側から外側へ向けて、クロム鉄酸化物から成る第一バリヤ層又は拡散バリヤ層が熱酸化法によりスチール管1上へ処理されている。この第一バリヤ層上において、SiOx、好ましくはSiOから成る第二バリヤ層24bと、好ましくは酸化シリコン又はアルミナから成る第三バリヤ層24cとの間にモリブデン25から成る接着増強層が埋め込まれ、またこの接着増強層上に銀から成る赤外域反射層21が埋め込まれる。前記第三バリヤ層24c上にはセルメット層22が処理され、この層系は外側へ向いた好ましくは酸化シリコンから成る反射防止層で終わっている。
【0042】
図2に示した実施態様における吸収体管は、以下において説明する方法を用いてコーティングされる。
【0043】
スチール管1、好ましくはステンレススチール管を磨き、次いで清浄処理する。上記の磨き処理によって、管表面は好ましくはRa<0.2μmの表面粗さとされる。前記ステンレススチール管は、次いで400℃を超える温度でおよそ30分〜2時間の期間、とりわけ500℃でおよそ1時間、熱酸化される。この処理中に、厚さ15nm〜50nm、好ましくは30nm±10nmの酸化物層が第一バリヤ層24aとして生成される。
【0044】
次いで、スチール管を真空コーティング装置中へ入れ、該装置を抜気する。装置中の圧力が5×10−4ミリバール、好ましくは1×10−4ミリバール未満となったら、物理蒸着(PVD)、特に陰極スパッタリングを用いて層形成処理を行う。この目的のため、スチール管は回転されながらスパッタリング源を通過するように、すなわち例えばAl、Si、Ag及びMo等のコーティング物質から成るターゲットを通過するように導かれる。
【0045】
第一蒸着段階において、第二バリヤ層24bは、蒸発され、スパッタされ、さらに酸素供給下における反応によって蒸着されるシリコンによってSiOx層の形態で処理される。この処理において、酸素圧は10−2〜10−3ミリバール、好ましくは4×10−3〜7×10−3ミリバールの範囲内に設定される。この第二バリヤ層の好ましい層厚は10〜70nm、特に好ましくは30nm±10nmである。
【0046】
続く第二蒸着段階では、好ましくはモリブデン、あるいはシリコン又は銅を用いて、接着増強層25が第二バリヤ層24b上に5nm〜50nm、好ましくは10nm〜20nmの厚さに処理される。
【0047】
続く第三蒸着段階においては、金、銀、白金又は銅、好ましくは銀を用いて、赤外域反射層21が、第二バリヤ層24b上へ60nm〜150nm、特に好ましくは110nm±10nmの厚さに蒸着される。
【0048】
さらに第四蒸着段階においては、第二バリヤ層の場合と同様に蒸発され、また酸素供給下での反応によって蒸着されたシリコンあるいはアルミニウムを用いて、第三バリヤ層がさらにSiOx−又はAlxOyの形態で処理される。この第三バリヤ層の好ましい層厚は50nm以下、特に好ましくは10nm±5nmである。しかしながら、反射層21上へ適切な組成の吸収体層22が処理されると、新しいバリヤ層によって拡散が必ずしも阻止される必要がないことが見出されたことから、このバリヤ層を全く用いないことも可能である。
【0049】
第五蒸着段階においては、吸収体層、あるいはこの場合ではより正確に言って1個の共通の坩堝からの、あるいは2つの別々のターゲットからの、アルミニウム及びモリブデンの同時蒸発/スパッタリングによるセルメット層22の処理が行われる。この場合、アルミニウムとモリブデンの他にアルミナの反応による蒸着も行うため、好ましくは蒸発/スパッタリング領域中へ酸素が同時に導入される。
【0050】
この場合、第五蒸着段階において、作業パラメータ(蒸発/スパッタリング比、酸素量)を適切に選択することにより、別の組成に設定し、さらに層形成の過程において組成を変化させることも可能である。特に別個のターゲットが使用される場合は、モリブデンの蒸着比率を吸収体層22中のアルミニウム及び又はアルミナの蒸着比率に相対させて種々設定することが可能である。すなわち、吸収体層22のモリブデン比率が勾配を成すように構成され、この場合においてモリブデン比率は好ましくは吸収体層22の処理において順次減じられる。内側における比率は好ましくは25容積%〜70容積%、特に好ましくは40±15%とされ、外側方向へ向かって10容積%〜30容積%、特に好ましくは20±10容積%まで減じられる。
【0051】
好ましくは、未酸化のアルミニウムが吸収体層22中に残っているため、蒸着されたアルミニウム比率との相関において酸素が半化学量論的に加えられる。この添加は、酸化モリブデンの生成が為されないように、酸化還元電位あるいは酸素ゲッターとして有効である。吸収体層22中における非酸化型アルミニウムの比率は、吸収体層の全組成に対して、好ましくは10容積%未満、特に好ましくは0〜5容積%の範囲内である。吸収体層中におけるこの非酸化型アルミニウムの比率は、蒸発率や酸素量等の作用パラメータを変更することにより同様に変更可能である。
【0052】
吸収体層22の厚さは、好ましくは全体として60nm〜180nm、特に好ましくは80nm〜150nm、さらに好ましくは120±30nmである。
【0053】
第六蒸着段階において、反射防止層23が酸素供給下におけるシリコンの物理蒸着によりSiO層の形態で処理される。このようにして蒸着される反射防止層23の厚さは好ましくは70nm〜110nm、特に好ましくは90±10nmである。
【0054】
このような方法で作製された吸収体管を真空加熱装置中590℃で1400時間加熱した。この加熱期間中、真空室内の圧力は1×10−4ミリバール未満に保持した。加熱を止め、サンプルを100℃以下まで冷ました後、真空室の換気を行い、サンプルを取り出した。次いで前記サンプルを分光分析し、この分析においてAM1.5直射太陽光スペクトル及び波長350〜2500nmに対する積分太陽光吸収率として95±0.5%を測定することができた。また、基板温度400℃(BB400)における熱放射率εとして10%±1%を測定した。下記表に加熱時間の関数としてのα及びεを概略して示す。
【0055】
【表1】

【0056】
真空コーティング処理では、DCマグネトロンスパッタリング及びMFマグネトロンスパッタリングを用いて、前記接着増強層と共に、あるいは接着増強層を用いずに、前記層システムを作製した。コーティング処理後、層接着試験を実施した。この試験では、強力な接着性をもつ接着テープをコーティング上へ処理し、応力測定装置を用いて引っ張った。この試験により、接着増強層のないコーティングについての引き剥がし値は15N未満であった。同時に、コーティングの部分的及び全体的層間剥離試験も行った。接着力の弱い接着テープを用いた場合の引き剥がし応力値は5N以下であり、層間剥離は僅か生ずる程度か、あるいは殆ど生じなかった。接着増強層を用いて作製したサンプルの場合、接着力の強力な接着テープを引き剥がした時の引き剥がし応力値は40N以下であり、この際層間剥離は生じなかった。なお、550℃で100時間老化させたサンプルに対する試験でも同様な結果が得られた。
【0057】
上記より、本発明に係る吸収コーティングは、例えば太陽光高吸収性や低熱放射率(基板温度400℃においてα≧95%、ε≦10%)等の他要求特性だけでなく、本質的な高い安定性と各層のとりわけ良好な接着性も満たすものである。特に赤外域反射層の接着性は先行技術によるものに比べて大幅に向上されている。接着増強層25の接着増強効果は赤外域反射層21と接触している時、それも特に銀から成る赤外域反射層21と接触している時と、バリヤ層24bと接触している時、それも特に酸化シリコンから成るバリヤ層24bと接触している時のいずれにおいても顕著である。
【符号の説明】
【0058】
1. スチール管
2. 熱キャリア液
10.パラボラトラフ集熱器
11.パラボラ反射鏡
12.支持構造体
13.吸収体管
14.支持体
20.放射線選択性吸収体コーティング
21.赤外域反射層
22.吸収体層
23.反射防止層
24a.第一バリヤ層
24b.第二バリヤ層
24c.第三バリヤ層
25.接着増強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にパラボラトラフ集熱器(10)の吸収体管(13)に用いられる放射線選択性吸収体コーティング(20)であって、1層の赤外域反射層(21)、前記反射層(21)の下方に形成される少なくとも1層のバリヤ層(24)、前記反射層(21)の上方に形成される少なくとも1層の吸収層(22)及び、前記吸収層の上方に形成される反射防止層(23)から成り、前記バリヤ層(24)と前記反射層(21)の間に少なくとも1層の接着増強層(25)が形成されることを特徴とする吸収体コーティング(20)。
【請求項2】
反射層(21)の下方に少なくとも2層のバリヤ層(24a、24b)が形成されることを特徴とする請求項1項記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項3】
前記少なくとも2層のバリヤ層のうちの第二バリヤ層(24b)がAlxOyで表わされる化合物から成り、xは1又は2であり、またyは1、2又は3であることを特徴とする請求項2項記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項4】
前記少なくとも2層のバリヤ層のうちの第二バリヤ層(24b)がSiOxで表わされる化合物から成り、xは1又は2であることを特徴とする請求項2項記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項5】
接着増強層(25)の厚さが5nm〜50nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項6】
接着増強層(25)にモリブデン、銅、チタン、チタニア、又はシリコンが含まれ、あるいは接着増強層がモリブデン、銅、チタン、チタニア又はシリコンから成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項7】
前記接着増強層(25)がモリブデンから成ることを特徴とする請求項6項記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項8】
前記赤外域反射層(21)に金、銀、白金又は銅が含まれ、あるいは該反射層が金、銀、白金又は銅から成ることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項9】
前記赤外域反射層(25)が銀から成ることを特徴とする請求項8項記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項10】
前記赤外域反射層(21)の厚さが50nm〜250nmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項11】
前記反射層(25)の厚さが80〜150nmの範囲内であることを特徴とする請求項10項記載の吸収体コーティング(20)。
【請求項12】
特にパラボラトラフ集熱器に用いられる吸収体管(13)であって、
赤外域反射層(21)を有する放射線選択性吸収体コーティング(20)が外側へ施されるスチール管(1)と、
前記反射層(21)の上方へ形成される少なくとも1層の吸収体層(22)と、
前記吸収体層(22)の上方へ形成される反射防止層(23)と、
前記スチール管(1)と前記反射層(21)の間に形成される少なくとも1層のバリヤ層(24)から成り、
前記バリヤ層(24)と前記反射層(21)の間に少なくとも1層の接着増強層(25)が形成されることを特徴とする吸収体管(13)。
【請求項13】
前記接着増強層(25)がモリブデンから成ることを特徴とする請求項12項記載の吸収体管(13)。
【請求項14】
前記接着増強層(25)の厚さが5nm〜30nmの範囲内であることを特徴とする請求項12項又は13項記載の吸収体管(13)。
【請求項15】
内部を熱キャリア媒体が通過する吸収管(13)を備えたパラボラトラフ集熱器の稼動方法であって、
前記吸収管(13)の内部を110℃未満の沸点を有する熱キャリア媒質液(2)が通過すること、
前記吸収管(13)は、1層の赤外域反射層(21)、前記反射層(21)の上方に形成される少なくとも1層の吸収層(22)、前記吸収層(22)の上方に形成された1層の反射防止層(23)、及び前記吸収管(13)と反射層(21)の間に形成された少なくとも1層のバリヤ層(24)からなること、
少なくとも1層の接着増強層(25)が前記バリヤ層(24)と前記反射層(21)の間に配置されること、
を特徴とする稼動方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−271033(P2010−271033A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−112924(P2010−112924)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(510135555)ショット ソーラー アーゲー (2)
【氏名又は名称原語表記】Schott Solar AG
【Fターム(参考)】