説明

放射能換算係数決定方法および検出限界決定方法

【課題】 誤差の少ない放射能換算計数を得ることができる放射能換算係数決定方法を提供する。
【解決手段】クリアランス測定装置1での測定対象物は中央部が網で構成されたトレイ36で搬送される。測定対象物から放射される放射線を、検出器ユニット10,12で測定する前に、蛍光灯40と、これに対向する位置に設置される画像カメラとによって投影像を、高さセンサ44で高さ寸法を、ロードセル付き昇降装置38で重量値を得る。検出器ユニット10,12のシンチレータに対しては、基準放射線源での高さ位置、幅寸法に応じて応答が予め求められている。検出器ユニット10,12のシンチレータによって得られる計数率から放射能を換算する際の放射能換算係数は、測定対象物の密度、高さ位置、幅寸法に応じて、測定対象物の検出器ユニット10,12のシンチレータに対する投影面積に基づいて上記応答が整理され、決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能物質から放射される放射能の測定の際に用いられる放射能換算係数決定方法および検出限界決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等から搬出される各種物質は、放射能汚染のレベルに応じて所定の方法によって廃棄される。
一方、原子力発電所等から搬出される物質であっても、自然界の放射線レベルに比較して十分に小さいものであれば、放射性物質として扱う必要がないとするクリアランスレベルが設けられている。このクリアランスレベルを超えているか否かを判断するために、シンチレータ(放射線検出器)を備えた放射線検出装置が知られている。
シンチレータは、γ線等の放射線の計数率(cps;count per
second)を測定するものであるため、放射能(Bq)を評価するためには、放射能換算係数(Bq/cps)を用いる必要がある。
放射能換算係数は、シミュレーションや実験によって、既知の放射能を有する基準放射線源に対するシンチレータの応答として決定される。しかし、基準放射線源と同一の放射能を有していても、基準放射線源とは異なる形状や大きさの測定対象物に対しては、シンチレータに対する測定状態が異なるため、放射能換算係数に誤差が生じる。このような誤差を最小化する技術として、特許文献1に記載された放射能測定装置が挙げられる。
特許文献1に記載された放射能測定装置は、予め用意された形状情報および材料情報に基づいて、測定対象物に適した換算係数を決定するものである。
【0003】
【特許文献1】特開2005−140706号公報(図4−1,図4−2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、原子力発電所等から搬出される各種物質は、多種多様の形状を有しており、予め用意された形状情報の中に適切な情報がない場合がある。このような場合には、換算係数の誤差が大きくなってしまう。
【0005】
一方、放射線検出装置には、有意な放射能を検出できる最小限界となる放射能検出限界が設定される。この放射能検出限界は、種々の要因によって決定されるが、大きな要因の一つとして、周囲環境から放射される放射能であるバックグラウンドの相対誤差がある。バックグラウンド相対誤差は、統計的要因以外の原因で変動するバックグラウンド計数率によって影響されるものである。したがって、バックグラウンド計数率を正確に把握することができれば、バックグラウンド相対誤差を小さくすることができ、検出限界を小さくすることができる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、誤差の少ない放射能換算計数を得ることができる放射能換算係数決定方法、及び、バックグラウンド相対誤差を小さくすることによって検出限界を小さくできる検出限界決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の放射能換算係数決定方法および検出限界決定方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる放射能換算計数決定方法は、放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器によって得られる計数率から放射能を換算する放射能換算係数を決定する放射能換算係数決定方法において、前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記放射能換算係数を決定することを特徴とする。
【0008】
本発明者等が鋭意検討した結果、放射能換算係数は、放射線検出器に対する放射線物質の投影面積に基づいて整理すると、極めて高い精度で得ることができることを見出した。そこで、放射線検出器に対する放射能物質の投影面積に基づいて、放射能換算係数を決定することとした。
【0009】
さらに、本発明の放射能換算係数決定方法では、前記放射能物質の密度、前記放射線検出器に向かう方向における前記放射能物質の高さ寸法、及び、前記放射線検出器の延在方向における前記放射能物質の幅寸法に応じて、前記投影面積に基づいて整理された近似式またはデータベースを用いて、前記放射能換算係数を決定することを特徴とする。
【0010】
放射能物質の密度、放射能物質の高さ寸法、及び放射能物質の幅寸法を考慮することにより、より正確に放射能換算係数を決定することができる。
【0011】
また、本発明の検出限界決定方法は、バックグラウンド計数率を用いて、放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器の検出限界を決定する検出限界決定方法において、前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記バックグラウンド計数率を補正することを特徴とする。
【0012】
周囲環境から放射される放射線のバックグラウンド計数が統計的要因以外の原因で変動する誤差として、バックグラウンド相対誤差がある。
一方、本発明者等が鋭意検討した結果、バックグラウンド計数率は、放射線検出器に対する放射線物質の投影面積に依存することを見出した。そこで、放射線検出器に対する放射能物質の投影面積に基づいて、バックグラウンド計数率を補正することにより、バックグランド相対誤差を最小化することができる。
【0013】
また、本発明の放射能換算係数決定プログラムは、放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器によって得られる計数率から放射能を換算する放射能換算係数を決定する、コンピュータにて実行可能とされた放射能換算係数決定プログラムにおいて、前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記放射能換算係数を決定することを特徴とする。
【0014】
本発明者等が鋭意検討した結果、放射能換算係数は、放射線検出器に対する放射線物質の投影面積に基づいて整理すると、極めて高い精度で得ることができることを見出した。そこで、放射線検出器に対する放射能物質の投影面積に基づいて、放射能換算係数を決定することとした。
【0015】
また、本発明の検出限界決定プログラムは、バックグラウンド計数率を用いて、放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器の検出限界を決定する、コンピュータにて実行可能とされた検出限界決定プログラムにおいて、前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記バックグラウンド計数率を補正することを特徴とする。
【0016】
本発明者等が鋭意検討した結果、バックグラウンド計数率は、放射線検出器に対する放射線物質の投影面積に依存することを見出した。そこで、放射線検出器に対する放射能物質の投影面積に基づいて、バックグラウンド計数率を補正することにより、バックグランド相対誤差を最小化することができる。
【0017】
また、本発明の放射線測定装置は、放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器と、該放射線検出器によって得られる計数率から放射能を換算する放射線換算係数を決定し、放射能を演算する演算部と、を備えた放射線測定装置において、前記演算部は、前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記放射能換算係数を決定することを特徴とする。
【0018】
本発明者等が鋭意検討した結果、放射能換算係数は、放射線検出器に対する放射線物質の投影面積に基づいて整理すると、極めて高い精度で得ることができることを見出した。そこで、放射線検出器に対する放射能物質の投影面積に基づいて、放射能換算係数を決定することとした。
【0019】
また、本発明の放射線検出装置は、放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器と、該放射線検出器によって得られる計数率から放射能を演算する演算部と、を備え、前記演算部は、バックグラウンド計数率を用いて、前記放射線検出器の検出限界を演算する放射線測定装置において、前記演算部は、前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記バックグラウンド計数率を補正することを特徴とする。
【0020】
本発明者等が鋭意検討した結果、バックグラウンド計数率は、放射線検出器に対する放射線物質の投影面積に依存することを見出した。そこで、放射線検出器に対する放射能物質の投影面積に基づいて、バックグラウンド計数率を補正することにより、バックグランド相対誤差を最小化することができる。
なお、バックグラウンド計数率を補正する本発明の放射線検出装置は、放射能換算係数を決定する上述の放射線検出装置と組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0021】
放射線検出器に対する放射能物質の投影面積に基づいて、放射能換算係数を決定することとしたので、放射能換算係数を精度良く得ることができる。また、このように精度良く放射能濃度を得ることができるので、クリアランスレベルを超えたか否かを厳密に判断することができる。
放射線検出器に対する放射能物質の投影面積に基づいて、バックグラウンド計数率を補正することとしたので、バックグランド相対誤差を最小化することができる。また、バックグラウンド相対誤差を小さく設定することができるので、検出限界を小さくすることができ、検出可能な放射線レベルを低くすることができ、クリアランスレベルに対する精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1には、クリアランス測定装置(放射線検出装置)1が示されている。
クリアランス測定装置1は、自然界の放射線レベルに比較して十分に小さいものであれば放射性物質として扱う必要がないとするクリアランスレベルを、測定対象物(放射能物質)が超えているか否かを判断する装置である。
クリアランス測定装置1は、Feトンネル型遮蔽体(以下、単に「遮蔽体」という。)3と、この遮蔽体3内に測定対象物を搬送する搬送装置5と、各種機器の動作を制御する制御盤7と、測定データの演算等を行うコンピュータ9とを備えている。
【0023】
遮蔽体3内には、放射線を検出する上部検出器ユニット10と、下部検出器ユニット12とが設けられている。
上部検出器ユニット10は、搬送装置5の搬送コンベア14の上方に設けられており、昇降装置16によって上下動可能とされている。昇降装置16は、ボールネジ式とされており、送りネジ16aを回転させることによって、この送りネジ16aに螺合された上部検出器ユニット10が上下動するようになっている。昇降装置16の動作は、コンピュータ9及び制御盤7によって制御される。
下部検出器ユニット12は、上部検出器ユニット10に対向する位置に、搬送コンベア14の下方に固定されている。
各検出器ユニット10,12の出力は、コンピュータ9へと伝送されるようになっている。
【0024】
図2には、各検出器ユニット10,12内に設けられた放射線検出部18が示されている。放射線検出部18は、測定対象物に面する側に検出部を有するシンチレータ20が配置されている。シンチレータとしては、プラスチックシンチレータ又はNaI(Tl)シンチレータが用いられ、測定対象物から放射されるγ線を検出する。
シンチレータ20は、測定対象物の移動方向に直交する方向に3つ並べた状態で設けられている。したがって、図2において、紙面垂直方向が測定対象物の移動方向となる。すなわち、図3に示すように、トレイ36上に載置された測定対象物37が矢印A方向に搬送され、上部検出器ユニット10及び下部検出器ユニット12のシンチレータ20によって放射線が検出される。
図2に示すように、シンチレータ20の周囲には、鉛遮蔽カバー22が設けられており、シンチレータ20の検出面を露出させた状態で覆っている。各シンチレータ20には、光電子増倍管24が設けられており、各シンチレータ20から得られる光を増幅するようになっている。
【0025】
図1に示すように、搬送装置5は、遮蔽体3を一方向に貫通して延在する搬送コンベア14を備えている。搬送コンベア14は、複数のローラ30によって構成されている。ローラ30は、搬送方向の両側に複数設けられている。各ローラ30は、搬送モータユニット34によって、例えばチェーン駆動により回転駆動される。
搬送コンベア14の上面には、測定対象物を載置するトレイ36が設置される。トレイ36は、例えば1m角の略正方形の板状体とされている。トレイ36は、4辺を構成する枠体を備えており、この枠体によって囲まれた中央の網の上に測定対象物が載置される。トレイ36の枠体は、上述した搬送路の両側に設けられたローラ30上を走行するようになっている。ローラ30が搬送路の両側に設けられており、トレイ36の中央部が網で構成されているので、後述する蛍光灯40からの光がトレイ36の中央部を透過できる構成となっている。
【0026】
搬送コンベア14の上流側(図1において左方)には、ロードセル付き昇降装置38が設けられている。このロードセル付き昇降装置38は、測定対象物の重量を測定する際に上昇させられ、トレイ36及び測定対象物を持ち上げるようになっている。これにより、トレイ36上に載置された測定対象物の重量が測定される。ロードセル付き昇降装置38のロードセルの出力は、コンピュータ9へと伝送される。
【0027】
搬送コンベア14の下方であって、遮蔽体3の上流側(図1において左方)には、蛍光灯40が設置されている。この蛍光灯40に対向する上方位置には、画像カメラ42が設置されている。画像カメラ42としては、例えば24万画素のCCDカメラを使用することができる。画像カメラ42によって、下方から蛍光灯40によって照らされた測定対象物を撮影することにより、測定対象物の上方側への投影像が得られるようになっている。この投影像をコンピュータ9によって画像処理することにより、投影像の投影面積および測定対象物の幅寸法が得られる。
【0028】
蛍光灯40の下流側(図1において右方)には、高さセンサ44が設けられている。高さセンサ44は、光学式とされている。高さセンサ44の出力はコンピュータ9へと伝送され、コンピュータ9において測定対象物の高さ寸法が演算されるようになっている。
【0029】
制御盤7は、上部検出器ユニット10の昇降や、搬送装置5の動作等を制御する。制御盤7には電源46から電力が供給されるようになっている。
【0030】
コンピュータ9は、各検出器ユニット10,12、画像カメラ42、ロードセル付き昇降装置38のロードセル、高さセンサ44の出力を得て、各種演算をする。また、コンピュータ9は、制御盤7に対して、制御に必要な指令値を送る。
コンピュータ9は、ディスプレイ9aを備えており、測定情報等を表示するようになっている。コンピュータ9の本体部9bには、記憶部と演算部が設けられている。
記憶部は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリや、CD-ROM等の読出しのみ可能な記憶媒体、RAM(Random Access Memory)等の揮発性のメモリ、あるいはこれらの組合せにより実現することができる。
演算部は、後述するように、各検出器ユニット10,12等から得られたデータに基づいて放射能濃度(Bq/g)や検出限界を演算する。この演算の際に、放射能換算係数やバックグラウンド計数率の補正値が演算される。演算部は、メモリ及びCPU(中央演算装置)によって構成され、放射能濃度や検出限界を演算するプログラムをメモリにロードして実行するようになっている。
【0031】
コンピュータ9の記憶部には、以下に説明する方法によって得られた放射能換算係数の近似式が格納されている。コンピュータ9の演算部によって放射能濃度を得るプログラムが実行される際に、当該プログラムによって近似式が参照される。放射濃度を得るプログラムには、放射濃度換算係数を決定する放射濃度換算係数プログラムが例えばサブルーチンとして含まれている。
【0032】
放射能換算係数は、下式のように、放射能濃度を得る際に用いられる。
放射能濃度(Bq/g)
=[放射能換算係数(Bq/cps)×正味計数率(cps)]/重量(g) ・・・(1)
ここで、正味計数率とは、各検出器ユニット10,12で計測された全計数率からバックグラウンド計数率を減じたものである。また、重量は、測定対象物の重量を意味する。
【0033】
放射能換算係数は、モンテカルロ法による数値シミュレーションや実験によって、既知の放射能を有する基準放射線源に対するシンチレータ20の応答として得られる。この放射能換算係数は、測定対象物の密度、測定対象物の高さ寸法、及び、測定対象物の幅寸法に応じて、測定対象物のシンチレータ20に対する投影面積に基づいて整理される。
ここで、測定対象物の高さ寸法とは、シンチレータ20に向かう方向における最大寸法を意味する。また、測定対象物の幅寸法とは、シンチレータ20の延在方向すなわち3つに並べられたシンチレータ20の長手方向における最大寸法を意味する。
【0034】
図4及び図5には、モンテカルロ法による数値シミュレーションによって得られた放射能換算係数が示されている。図4及び図5において、横軸は測定対象物の投影面積(cm)、縦軸は放射能換算係数(Bq/cps)を示す。
図4(a)及び(b)は、測定対象物の密度が7.9g/ccのときのグラフである。図4(a)は測定対象物の幅寸法が10cmのとき、図4(b)は測定対象物の幅寸法が20cmのときのグラフである。図4(a)及び(b)には、3種のプロット点および近似曲線が示されており、黒丸印およびこの近似曲線が高さ寸法0.3cm、白丸印およびこの近似曲線が高さ寸法1cm、三角印およびこの近似曲線が高さ寸法2cmを意味する。
図5(a)及び(b)は、測定対象物の密度が4.5g/ccのときのグラフである。図5(a)は測定対象物の幅寸法が10cmのとき、図5(b)は測定対象物の幅寸法が20cmのときのグラフである。図5(a)及び(b)には、3種のプロット点および近似曲線が示されており、黒丸印およびこの近似曲線が高さ寸法0.3cm、白丸印およびこの近似曲線が高さ寸法1cm、三角印およびこの近似曲線が高さ寸法2cmを意味する。
【0035】
図4及び図5のように得られた近似式は、例えば多項式の形でコンピュータ9の記憶部に格納され、コンピュータ9の演算部によってプログラムが実行される際に参照される。
【0036】
次に、上記構成のクリアランス測定装置の動作について説明する。
先ず、図1に示すように、トレイ36上に、放射能汚染されたおそれのある測定対象物を載置する。そして、ロードセル付き昇降装置38によって、測定対象物の設置前後の重量を計測する。これらの計測出力がコンピュータ9へと送られ、各計測出力から測定対象物の重量を得る。
【0037】
次に、搬送装置5の搬送モータユニット34を駆動し、搬送コンベア14のローラ30を回転させる。これにより、トレイ36は遮蔽体3側へと移動させられる。
トレイ36が蛍光灯40上に位置したときに、蛍光灯40によって照射された測定対象物の投影像を画像カメラ42で取得し、この投影像をコンピュータ9に送る。コンピュータ9では、画像処理により、測定対象物の投影面積を演算する。また、コンピュータ9では、画像処理により、測定対象物の幅寸法を演算する。測定対象物の幅寸法としては、最大値を採用する。
【0038】
その後、トレイ36は、高さセンサ44の下方まで移動し、この位置で測定対象物の高さ寸法が計測される。高さセンサ44では、光線を測定対象物に照射し、測定対象物が存在しない位置の高さ出力と、測定対象物が存在する位置の高さ出力をコンピュータ9に送る。コンピュータ9では、測定対象物が存在しない位置の高さ出力と測定体操物が存在する位置の高さ出力との差から、測定対象物の高さを演算し、このときの最大寸法を測定対象物の高さ寸法とする。
【0039】
そして、トレイ36は遮蔽体3内へと導かれ、上部検出器ユニット10と下部検出器ユニット12との間に位置される。この際に、コンピュータ9及び制御盤7からの指令によって、上部検出器ユニット10を下降させ、トレイ36上の測定対象物に近づける。測定対象物と上部検出器ユニット10との間隔は狭いほど好ましく、例えば数mm程度に設定される。各検出器ユニット10,12間でトレイ36が停止し、シンチレータ20によって放射線を検出する。検出出力は、コンピュータ9へと送られる。シンチレータ20は、図2に示したように、トレイ36の搬送方向に直交する幅方向に一次元的に延在しているので、トレイ36を搬送方向に異なる3つの位置に停止させて、それぞれの位置で放射線を計測することにより、二次元での計測を可能としている。
【0040】
各検出ユニット10,12によって放射線の検出が終わると、トレイ36は遮蔽体3の外部へと搬送され、測定が終了する。
【0041】
コンピュータ9では、上部検出器ユニット10及び下部検出器ユニット12から得られた計数率からバックグラウンド計数率を減じて正味計数率を演算し、式(1)を用いて放射能濃度を演算する。そして、計測された放射能濃度がクリアランスレベルを超えているか否かの判断がなされ、その結果および放射能濃度等がディスプレイ9aに表示される。
【0042】
コンピュータ9の演算部では、式(1)に用いる放射能換算係数が、図4及び図5を用いて得られた近似式によって決定される。以下に、放射能換算係数の決定方法の一例について説明する。
ロードセル付き昇降装置38によって得られた重量が10kg、高さセンサ44によって得られた高さ寸法が1.8cm、画像カメラ42によって得られた投影面積が980cm及び幅寸法が15cmであったとき、次のように、近似曲線から放射能換算係数を内挿する。
【0043】
先ず、測定対象物の密度ρがコンピュータ9によって演算され、密度ρは、10kg/(980cm×1.8cm)=5.669g/ccとなる。
次に、図4及び図5から得られた近似曲線のうち、高さ寸法1.8cmを挟む寸法となる高さ寸法が1cmと2cmの場合の近似曲線を選択し、980cmのときの放射能換算係数CFを演算する。すなわち、放射能換算係数CFを、CF(ρ(密度),H(高さ寸法),S(投影面積),L(幅寸法))で表すと、以下の6つの放射能換算係数CFを演算する。
CF(4.5,1,980,10) CF(7.9,1,980,10)
CF(4.5,1,980,20) CF(7.9,1,980,20)
CF(4.5,2,980,10) CF(7.9,2,980,10)
CF(4.5,2,980,20) CF(7.9,2,980,20)
【0044】
そして、これら8つのCFを用いて、幅寸法15cmに内挿する。
CF(4.5,1,980,15)
=[CF(4.5,1,980,20)−CF(4.5,1,980,10)]/(20-10)×(15-10)
+CF(4.5,1,980,10)
CF(4.5,2,980,15),CF(7.9,1,980,15),及びCF(7.9,2,980,15)についても、同様に内挿により算出する。
【0045】
そして、上記の4つのCFを用いて、高さ寸法1.8cmに内挿する。
CF(4.5,1.8,980,15)
=[CF(4.5,2,980,15)−CF(4.5,1,980,15)]/(2-1)×(1.8-1)
+CF(4.5,1,980,15)
CF(7.9,1.8,980,15)についても、同様に内挿する。
【0046】
そして、上記の2つのCFを用いて、密度5.669g/ccに内挿する。
CF(5.669,1.8,980,15)
=[CF(7.9,1.8,980,15)−CF(4.5,1.8,980,15)]/(7.9-4.5)×(5.669-4.5)
+CF(4.5,1.8,980,15)
このようにして、最終的に、測定対象物の密度、高さ寸法、投影面積および幅寸法に対応した放射能換算係数CFを決定することができる。
【0047】
本実施形態によれば、画像カメラ42によって、測定対象物の投影面積を得ることとし、この投影面積に基づいて放射能換算係数を決定することとしたので、誤差のない放射能換算係数を得ることができ、正確な放射能濃度を測定することができる。正確な放射能濃度を得ることができるので、クリアランスレベルを超えたか否かを厳密に判断することができる。
また、測定対象物の密度、高さ寸法および幅寸法をパラメータとする近似曲線を用いて放射能換算係数を得ることとしたので、より誤差のない放射能換算係数を得ることができ、さらに正確な放射能濃度を測定することができる。
【0048】
図6には、本実施形態のように測定対象物の投影面積を用いた場合と、投影面積を用いない場合との比較が示されている。同図に示されたグラフには、左から、測定対象物の投影面積の計測を行わずに放射能濃度を得た場合と、本実施形態のように投影面積を用いて放射能濃度を得た場合と、実際の放射能濃度(真値)の場合とが示されている。なお、測定対象物の密度は7.9g/cc、高さ寸法は10cmとされている。また、測定対象物の投影面積を用いない場合は、測定対象物がトレイ36と同等の大きさであるとして、測定対象物を100cm角と仮定したときのものである。高さ寸法については、投影面積を用いた場合と同様に、10cmとした。
図6に示したグラフから分かるように、本実施形態のように投影面積を用いた場合は、真値に極めて近くなることが分かる。一方、投影面積を用いない場合は、放射能濃度が大きく評価されてしまい、本来ならばクリアランスレベルを超えない測定対象物であっても、クリアランスレベルを超えたものと判断されてしまうことになる。
【0049】
なお、本実施形態では、放射能換算係数を得る際に近似曲線を用いることとしたが、図4および図5に示したデータをデータベースとしてコンピュータ9の記憶部に格納し、このデータベースをプログラムによって参照することとしても良い。
【0050】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、有意な放射能を検出できる最小限界となる放射能検出限界(以下「検出限界」という。)を演算する際に特徴があり、クリアランス測定装置1の構成については第1実施形態と同様なので、その説明は省略する。
検出限界は、原子力学会標準の基本式が公表されており、以下のようになっている。
【数1】

ここで、
ALD:検出限界(Bq),κ:定数(=3),tT:放射能濃度確認対象物の測定時間(s),
:バックグラウンド(BG)計数率(s-1),t:BG測定時間(s),
CF:放射能換算係数(Bq/s-1),r:BG変動に起因する相対誤差(−),
:放射能換算係数の相対誤差(−),
である。
【0051】
本実施形態にかかる検出限界決定プログラムには、上式が記述されており、このプログラムはコンピュータ9の演算部によって実行されるようになっている。
上式の通り、rは、バックグラウンド変動に起因する相対誤差であり、統計的要因以外の原因で変動するバックグラウンド計数率nによって決まる。本実施形態では、図7に示すように、測定対象物の投影面積とバックグラウンド計数率の相対値との関係に基づいて、バックグラウンド計数率nを補正することにより、バックグラウンド変動に起因する相対誤差rを最小化する。
【0052】
図7の横軸は、横軸が上部検出器ユニット10(図1参照)に対する測定対象物の投影面積を示す。この投影面積は、22500(150×150)cmの鉄製のブロックを載置した場合の個数を示す。
図7の縦軸は、バックグラウンド計数率の相対値を示す。バックグラウンド計数率の相対値は、所定の投影面積を有する測定対象物をトレイ36上に設置したときのバックグラウンド計数率を、トレイ36上に測定対象物が存在しないとき(すなわち投影面積がゼロの場合)のバックグラウンド計数率で除した値である。
同図に示すように、測定対象物の投影面積が増加するにつれて、バックグラウンド計数率の相対値が減少する。これは、図3に示すように、遮蔽体3(図1参照)から放射されるバックグラウンドが測定対象物37によって遮られることが原因と考えられる。
図7に示された近似式またはデータベースはコンピュータ9の記憶部に格納され、演算部によって実行されるプログラムによって参照される。
【0053】
検出限界を計算する際にバックグラウンド計数率nを補正する方法は以下の通りである。
第1実施形態にて説明したように、画像カメラ42から測定対象物の投影面積を得る。コンピュータ9の演算部は、記憶部に格納された近似式またはデータベースから、得られた投影面積に対応するバックグラウンド計数率の相対値を取得する。そして、この相対値を、バックグラウンド計数率nに乗じることによって、バックグラウンド計数率nを補正する。
【0054】
このように、測定対象物の投影面積に応じてバックグラウンド計数率nを補正することとしたので、測定時における真のバックグラウンド計数率に近い値を採用することができる。これにより、バックグラウンド変動に起因する相対誤差rを小さく設定することができ、ひいては検出限界ALDを小さくすることができる。
本実施形態によれば、検出限界を小さくすることができるので、検出可能な放射線レベルを低くすることができ、クリアランスレベルに対する精度を向上させることができる。
【0055】
なお、第1実施形態および第2実施形態では画像カメラ42を用いて投影面積を得ることとしたが、本発明はこれに限定するものではなく、光電センサ、レーザ方式、X線(CT)によって投影面積を得ることとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態にかかるクリアランス測定装置を示した概略図である。
【図2】放射線検出部を示した断面図である。
【図3】測定対象物とシンチレータとの位置関係を示した斜視図である。
【図4】密度が7.9g/ccのときの放射能換算係数を投影面積に対して示したグラフである。
【図5】密度が4.5g/ccのときの放射能換算係数を投影面積に対して示したグラフである。
【図6】測定対象物の投影面積を用いて得た放射能濃度を、投影面積を用いないで得た放射能濃度と比較して示したグラフである。
【図7】バックグラウンド計数率の相対値を、測定対象物の投影面積に対して示したグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 クリアランス測定装置(放射線検出装置)
3 遮蔽体
5 搬送装置
7 制御盤
9 コンピュータ
10 上部検出器ユニット
12 下部検出器ユニット
14 搬送コンベア
16 昇降装置
18 放射線検出部
20 シンチレータ
36 トレイ
37 測定対象物(放射能物質)
38 ロードセル付き昇降装置
40 蛍光灯
42 画像カメラ
44 高さセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器によって得られる計数率から放射能を換算する放射能換算係数を決定する放射能換算係数決定方法において、
前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記放射能換算係数を決定することを特徴とする放射能換算係数決定方法。
【請求項2】
前記放射能物質の密度、前記放射線検出器に向かう方向における前記放射能物質の高さ寸法、及び、前記放射線検出器の延在方向における前記放射能物質の幅寸法に応じて、前記投影面積に基づいて整理された近似式またはデータベースを用いて、前記放射能換算係数を決定することを特徴とする請求項1記載の放射能換算係数決定方法。
【請求項3】
バックグラウンド計数率を用いて、放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器の検出限界を決定する検出限界決定方法において、
前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記バックグラウンド計数率を補正することを特徴とする検出限界決定方法。
【請求項4】
放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器によって得られる計数率から放射能を換算する放射能換算係数を決定する、コンピュータにて実行可能とされた放射能換算係数決定プログラムにおいて、
前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記放射能換算係数を決定することを特徴とする放射能換算係数決定プログラム。
【請求項5】
バックグラウンド計数率を用いて、放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器の検出限界を決定する、コンピュータにて実行可能とされた検出限界決定プログラムにおいて、
前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記バックグラウンド計数率を補正することを特徴とする検出限界決定プログラム。
【請求項6】
放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器と、
該放射線検出器によって得られる計数率から放射能を換算する放射線換算係数を決定し、放射能を演算する演算部と、
を備えた放射線測定装置において、
前記演算部は、前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記放射能換算係数を決定することを特徴とする放射線測定装置。
【請求項7】
放射能物質から放射される放射線を測定する放射線検出器と、
該放射線検出器によって得られる計数率から放射能を演算する演算部と、を備え、
前記演算部は、バックグラウンド計数率を用いて、前記放射線検出器の検出限界を演算する放射線測定装置において、
前記演算部は、前記放射線検出器に対する前記放射能物質の投影面積に基づいて、前記バックグラウンド計数率を補正することを特徴とする放射線検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−111793(P2008−111793A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296336(P2006−296336)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】