説明

放熱シート

【課題】強度や耐折り曲げ性に優れ、炭素微粉末やアウトガスの発生がない熱伝導性が高い放熱シートを実現すること。
【解決手段】グラファイト材料よりなるシートと、このシートの表面にポリパラキシリレン膜を蒸着したことを特徴とする放熱シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は例えば電子機器の発熱部品の放熱に使用される放熱部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】コンピュータ等に代表される各種電子・電気機器に搭載されている半導体素子等の冷却の問題は近年重要課題として注目されている。特に近年はデジタル電子機器の高集積化により機器内部の体積あたりの発熱密度は極めて大きくなっている。
【0003】例えば、コンピューターのMPUは非常に高密度の半導体素子であり、動作周波数が高くなるにつれ発生する熱は非常に多くなっている。また、ハードディスクなどの電子記録装置もアクセス速度を早くするため記録媒体の回転速度を高速で回転させるようになった。これによりモーターの発する熱もかなりの量になっている。また、高出力半導体レーザーのように極めて小さな領域に大きな電流を流すことが必要な素子においては局所的に大きな発熱がある。
【0004】一方、前述のハードディスク装置は近年記憶量の向上によりヘッドの高密度化が計られており部材より生じるアウトガスの付着が大きな問題となっている。また、それらアウトガスを嫌うものとして宇宙衛星機器類などが挙げられる。
【0005】これらは発生した熱を効率よく放熱しないと本来の性能が発揮されないだけでなく、誤作動を起こすおそれがあり、最悪の場合には熱により部品自体が破損して再起不可能な事態になる可能性もある。
【0006】このような問題を回避するため部分的に発熱する部品には放熱フィンを取り付け、さらにファンモーターにより強制的に空冷をして放熱するということが挙げられる。
【0007】放熱フィンはアルミニウムや銅など熱伝導性の良い金属を表面積が大きくなるような形状に加工し発熱源である部品に密着させる。この時、放熱フィンと発熱部品は表面にこまかい凹凸があるため充分密着しないため、アルミナ粉入り熱伝導性シリコーンゴムシートや放熱グリースを間に挟み込む。しかし、これらのものは熱伝導性が不十分であるものや、部材が増加するため機器全体の重量も増加してしまうものや、アウトガスが発生してしまうものなどがある。
【0008】熱伝導性が良好でアウトガスの発生がないものとしてセラミック形の放熱シートがあるが、重量が重く、部材間へのなじみ性が悪く、割れやすいなどの欠点がある。
【0009】一方、グラファイトシートは軽量であり、熱伝導性が極めて高いため放熱フィンと部品との間に挟み込む放熱シートに利用すると有利である。グラファイトは炭素原子が六角形の網の目状に結合したものであり、炭素の原子配列を広範囲にわたり規則正しく、単結晶に近い規則性を持たすことにより、異方性はあるものの純銅以上の優れた熱伝導性を示すものであり、また、圧縮率や復元率にも優れた特性を示すことが知られている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】グラファイトシートは高分子フィルムの熱分解により作製された配向度が高く、単結晶に近い特性を持つ高性能の熱分解性グラファイトシートや天然グラファイトシート粉末の処理品をシート状に加圧成形して作られているため、グラファイトシートは破れやすく、特に引き裂き強度が低く、裂けるように破れてしまう。そのため扱いにくいものであり、発熱部品や放熱フィンに貼り付けるのが困難であった。
【0011】特に部材間に挟み込み、強い力で締め付けたときにシートが崩れやすく、特に締め付けた状態で部材同士が横方向にずれた時はシートの崩れは顕著におこる。
【0012】グラファイトシートは破れるとその炭素原子の結晶がその近辺から剥がれ落ちフレーク状の微粉末となって浮遊する可能性もある。これが精密な電子機器に付着すると不都合を来す。このためグラファイトシートは破れたり裂けたりしてはならなかった。
【0013】そのため、グラファイトシートの引き裂き強度を上げるため、グラファイトシートの表面をポリエステルなどのプラスチックシートでラミネートするという手法が取られた。しかし、プラスチックシートと粘着層を合わせるとできるだけ薄くしたとしても、100μm以上になってしまい、熱伝導性が大幅に低下してしまう。
【0014】そればかりでなく、ラミネートに用いた粘着層は半硬化性の有機樹脂を用いるため接着剤層からアウトガスが発生する恐れもある。よって、ハードディスク部品などアウトガスを絶対に避けなければならない電子部品には使用することができなかった。
【0015】
【課題を解決するための手段】そこで本発明は熱伝導性が良く、強度が強く、アウトガスや炭素微粉末の発生がないグラファイト放熱シートを提供することを目的とするものであり、すなわち本発明は、グラファイト材料よりなるシートと、このシートの表面にポリパラキシリレン膜を蒸着したことを特徴とする放熱シートである。
【0016】本発明のグラファイトシートは公知のグラファイトシートを使用することができる。例えば特公平1−49642号公報に記載されているように、高分子フィルムを不活性ガスまたは真空中400〜700℃の温度で自己収縮を防止するように熱処理し、しかる後に1800℃以上の温度で熱処理することによりグラファイトシートを得ることができる。また、天然黒鉛を酸処理し、発泡行程により発泡黒鉛とし、ローラーで圧縮することによりシート化する。
【0017】本発明は前述したグラファイトシートにポリパラキシリレン膜を蒸着する。ポリパラキシリレン膜の蒸着は原料であるジパラキシリレン(DPX)固形ダイマーを加熱により気化させることによりジラジカルパラキシリレンモノマーを発生させ、グラファイトシート表面に付着させることにより前記モノマーはグラファイトシート表面上でラジカル重合しポリパラキシリレン膜となる。これらは加熱真空の必要があるため気化室、熱分解室、蒸着室を備えた化学蒸着装置によって行われる。
【0018】本発明に使用されるポリパラキシリレンの基本的な構造、製造法、重合法等は米国特許第3379803号公報、特公昭44−21353号公報、特公昭45−31787号公報、特公昭52−37479号公報に開示されており、具体的にはポリパラキシリレン、ポリモノクロロパラキシリレン、ポリジクロロパラキシリレン、ポリテトラクロロパラキシリレン、ポリモノメチルパラキシリレン、ポリモノエチルパラキシリレン、ポリ−α,α,α’,α’−四弗化パラキシリレン、ポリ−α,α−二弗化パラキシリレンなどジパラキシリレン誘導体による蒸着重合膜が挙げられる。また、重合度は5000量体以上である。これらは単独で用いても組み合わせて用いても良い。
【0019】ポリパラキシリレンは気相蒸着重合法によって形成されるが、その蒸着行程は3つの行程よりなる。すなわち原料である固体二量体のジパラキシリレンの気化(昇華)が起こる第一行程、二量体の熱分解によるジラジカルパラキシリレンの発生が起こる第二行程、被着体へのジラジカルパラキシリレンの吸着と重合が同時に成され、高分子量のポリパラキシリレンの被膜形成が起こる第三行程である。
【0020】この行程中において、一般に真空度は0.001〜1Torrであり第一行程は100〜200℃、第二行程は450〜700℃、第三行程は室温で行われる。
【0021】これら、気相蒸着重合法によって得られたポリパラキシリレン被膜は被着体に対してコンフォーマル(同形)コーティングが可能である他、コーティングは室温で行われるので被着体に対する熱履歴を与えない等の加工面における特徴も併せ持つ。
【0022】ポリパラキシリレンの蒸着膜の膜厚は蒸着装置にいれてダイマーを蒸着する時間に比例する。蒸着可能な膜厚は0.2μm〜75μmである。蒸着時間は被コーティング物質の大きさや形状によって異なるが0.01〜0.2μm/分である。
【0023】
【発明の実施の形態】
【実施例】以下、実施例で本発明の作用効果が優れていることを詳細に説明する。
【0024】厚さ、254μmのグラファイトシート(ユカーカーボン社製GRAFOIL:プレーンシートGTB)にポリパラキシリレンをコーティングした。
【0025】実施例1イソプロピルアルコールで洗浄したグラファイトシートを真空度2.6〜6.5Pa(0.02〜0.05Torr)、第一行程温度150℃、第二行程温度690℃、第三行程温度は室温で原料はモノクロロポリパラキシリレン二量体を20g使用してポリパラキシリレンを蒸着した。これによりポリパラキシリレン被膜が平均2μmコーティングされたシールリングを得た。
【0026】実施例2、3、4前述と同様の条件でモノクロロパラキシリレン2量体をそれぞれ100g、200gおよび400g使用することによりポリパラキシリレンの蒸着平均膜厚を10μm、20μm、40μmとした。
【0027】上述により得られたポリパラキシリレン膜を蒸着したグラファイトシートと被蒸着のシートの強度、熱伝導率を測定した。
【0028】強度の測定は引っ張り強度試験と折り曲げ試験を行った。引っ張り強度試験は2cm幅のシートを両端から毎分10mmの一定速度で引っ張り破綻するまでの強度(kgf)を測定した。測定器はテンシロンを使用した。
【0029】折り曲げ試験は2cm幅のシートを半分に折り曲げ、さらに、反対方向にもう一度折り曲げる。それを広げて折り曲げ面を軽くこすり炭素粉がめくれ上がったら×、無いものは○とした。
【0030】熱伝導率の測定は株式会社理学電機製レーザーフラッシュ法熱定数測定装置LF/TCM−FA8510Bを使用して測定温度20℃にて測定した。
【0031】その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】


【発明の効果】本発明の放熱シートは熱伝導性が良く電子機器の放熱に適するものであり、グラファイトシートの脆く裂けやすいという欠点でを克服するものであり、強度や耐折り曲げ性に優れる。よって、炭素微粉末の発生がなく、さらに、有機粘着剤などを使用しないためアウトガスの発生がない。よって、ファインな電子機器に使用することができる。特に、ハードディスク内部の放熱や宇宙衛星機器類の内部放熱に最適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】グラファイト材料よりなるシートと、このシートの表面にポリパラキシリレン膜を蒸着したことを特徴とする放熱シート
【請求項2】ポリパラキシリレンの蒸着膜厚さが0.5〜50μmである請求項1に記載の放熱シート

【公開番号】特開2002−50725(P2002−50725A)
【公開日】平成14年2月15日(2002.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−235078(P2000−235078)
【出願日】平成12年8月3日(2000.8.3)
【出願人】(593084524)日本パリレン株式会社 (1)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】