説明

放電励起ガスレーザ装置

【課題】 格段に長いパルス幅を持ちながら、高繰り返し動作時でも安定したパルス幅を出力しかつ安定なレーザ発振可能な放電励起ガスレーザ装置。
【解決手段】 一対の長尺の放電電極2、3と放電用コンデンサーCPと高電圧パルス発生装置4とを備え、放電電極2、3が高電圧パルス発生装置4に接続されてなる放電励起ガスレーザ装置であり、少なくとも給電側の放電電極2が長手方向に複数の分割電極21 〜25 に分割され、複数の分割電極個々が、あるいは、隣接する複数の分割電極がグループ化されてなる電極群個々が、それぞれ単数又は複数の分割コンデンサーCP1〜CP5の給電側端子に接続され、分割コンデンサーCP1〜CP5は1個以上の分岐点P1、P2、P3を介して高電圧パルス発生装置4に相互に並列に接続されており、並列に接続された分割コンデンサーCP1〜CP5が放電用コンデンサーCPを構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電励起ガスレーザ装置に関し、例えば、KrFエキシマレーザ装置、ArFエキシマレーザ装置、フッ素分子(F2 )レーザ装置等の半導体露光装置用の放電励起ガスレーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、その製造用の露光装置においては解像力の向上が要請されている。このため、露光用光源から放出される露光光の短波長化が進められており、半導体露光用光源として、従来の水銀ランプが放出する光より短い波長の光を放出するガスレーザ装置が用いられる。この露光用ガスレーザ装置として、現在、放電波長248nmの紫外線を放出するKrFエキシマレーザ装置が用いられている。また、次世代を担う半導体露光用光源としては、波長193nmの紫外線を放出するArFエキシマレーザ装置、波長157nmの紫外線を放出するフッ素分子(F2 )レーザ装置が有力である。
【0003】
KrFエキシマレーザ装置においては、レーザ媒質であるレーザガスとして、フッ素(F2 )ガスとクリプトン(Kr)ガス、及び、バッファーガスとしてネオン等の希ガスからなる混合ガスを、ArFエキシマレーザ装置においては、レーザ媒質として、フッ素(F2 )ガスとアルゴン(Ar)ガス、及び、バッファーガスとしてネオン等の希ガスネオン等の希ガスからなる混合ガスを、フッ素分子レーザ装置においては、フッ素(F2 )ガスとバッファーガスとしてヘリウム(He)やネオン(Ne)等の希ガスからなる混合ガスを用いる。通常、これらレーザガスをレーザチャンバ内に数百kPaで封入して使用する。
【0004】
このような露光用ガスレーザ装置の構成例を図1に示す。レーザチャンバ1内には所定のレーザガスが満たされており、そのレーザガスを励起するための一対の放電電極2、3がレーザ発振方向と垂直な向きに所定の距離だけ離間して対向配置される。この一対の放電電極2、3には、電源(高電圧パルス発生装置)4により高電圧パルスが印加され、放電電極2、3間にかかる電圧がある値(ブレークダウン電圧)に到達すると、放電電極2、3間のレーザガスが絶縁破壊されて放電が開始する。この放電により、レーザガスが励起され、レーザ発振の元となる蛍光が発生する。すなわち、露光用ガスレーザ装置は、放電の繰り返しによるパルス発振を行い、放出するレーザ光はパルス光となる。
【0005】
ここで、放電電極2、3間で安定な放電を実現するために、放電の前に放電電極間のレーザガスは、不図示の予備電離手段により予備電離される。予備電離の実現は、予備電離手段から紫外光を予備電離光として放電電極2、3間のレーザガスに向けて放出することによりなされる。なお、高繰り返し発振の際、放電により生じた電離物質等を次の放電前に放電空間から除去することを目的として、CFF(クロスフローファン)5の回転によりレーザガスはレーザチャンバ1内を循環している。また、放電により生じた熱をレーザチャンバ1内から除去することを目的として、レーザチャンバ1内に冷却用熱交換器6が設置される。この冷却用熱交換器6の内部は、冷却剤が流されている。放電によって加熱されたレーザガスは、循環の際に冷却用熱交換器6を通ることにより冷却される。
【0006】
放電により生じた蛍光は、狭帯域化モジュール(LNM)7により所定の波長に選定されながら狭帯域化され、出力鏡8との間を往復することにより発振し、レーザ光として出力鏡8から取り出される。レーザ光の一部はビームサンプラー9により分けられ、レーザパルスのエネルギ、安定度、及び、パルス幅等がビームモニタ10により測定される。
【0007】
なお、狭帯域化モジュール7は、例えば、図1に示すように、1個以上の拡大プリズム11とグレーティング(回折格子)12により構成される。
【0008】
コントローラ13は、ビームモニタ10からの情報に基づき、レーザパルスのエネルギや波長制御を行う。
【0009】
例えば、波長制御は、ビームモニタ10からの波長情報に基づき、グレーティング12の姿勢を調節してレーザビームのグレーティング12への入射角を制御して行われる。また、エネルギ制御は、ビームモニタ10からのエネルギ情報に基づいて、電源4から放電電極への印加電圧を制御したり、レーザチャンバ1内のレーザガスの混合比や圧力を制御することによりなされる。
【0010】
ここで、レーザガス制御は、例えば、レーザチャンバ1に接続されたガス供給ライン(gas in)14、レーザチャンバ1及び真空ポンプ16に接続されたガス排気ライン(gas out)15のバルブ17、18の開閉を行うことによりなされる。
【0011】
ところで、近年、露光用エキシマレーザ装置において、ますます高出力化・狭帯域化が求められている。 この傾向は、ArFエキシマレーザ装置においてさらに顕著になると考えられる。 その大きな理由として、ArFエキシマレーザでの露光で用いられるレジストはKrFエキシマレーザ用のものより感度が悪いことや、高スループット・高分解能等からの要請等があげられる。
【0012】
この高出力化により、露光用レーザ装置では光学素子の損傷が問題となっている。これは、レーザ装置の高出力化に伴い、露光機内部や、レーザ装置内部の光学素子に大きな負荷がかかり、光学素子が損傷して寿命が短くなるという問題が発生しているからである。そこで、高出力でも光学素子の寿命を延ばすために、光学素子に損傷を与えない方法が必要になる。
【0013】
光学素子の損傷低減には、パルスストレッチ技術が有効である。それは、以下の理由による。光学素子の損傷は、レーザ光のピーク値に強く依存する。したがって、エネルギのピーク値を下げるために、同じエネルギでも、レーザのパルス幅を長くすることで、光学素子の損傷を低減することができる。このレーザパルス幅を長くする技術は、パルスストレッチ技術と呼ばれる。
【0014】
パルスストレッチ技術には、放電式と光学式がある。放電式では、レーザ励起源である放電時間を延ばすことでパルス幅を延伸する。レーザ励起源でパルスを延伸させるため、レーザ装置内部の光学素子の負荷も軽減できる長所がある。光学式では、レーザ発振器から出た光に光路遅延をかけて重畳する。したがって、レーザ装置内部への負荷は軽減されず、また、効率を落とす欠点がある。
【0015】
そこで、後記する本発明では、レーザ装置内部の光学素子の長寿命化も可能な放電式パルスストレッチ技術の手段を提供することとする。
【0016】
放電式パルスストレッチ技術では、放電中のレーザ利得を均一に長時間持続することが重要になる。それは、放電時間を延ばすことによるパルスストレッチ技術では、放電の不安定性発生によるレーザ利得均一性の破壊、それによるレーザ発振の停止が問題となっているからである。レーザ利得の不均一は、放電部での集中放電の発生により生じる。特にエキシマレーザでは、電極長手方向に放電の空間不安定性が発生しやすい。それは、エキシマレーザ励起には、長い放電空間が必要であり、長い放電空間では、放電均一性が保ち難いからである。
【0017】
従来技術は、このレーザ利得を空間的に均一に、長時間持続させることを目的に研究されてきた。放電時間を延ばしてパルスストレッチする技術としては、分割電極に安定化インダクタンスを付加したものや、スパイカーサステイナ回路、電流振動方式等がある。
【0018】
上記の分割電極に安定化インダクタンスを付加したパルスストレッチ技術(特許文献1)を適用した際の電流波形(a)とパルスストレッチ波形(b)の模式図を図13に示す。一般に、長い電極と短い電極を比べれば、長い電極で放電不均一性が発生しやすい。そこで、電極を分割することで、一つ一つの電極を短いものとし、長さに起因する放電不安定性を抑制する。これにより、電極長手方向の放電空間不均一性を抑制する。さらに、1つの分割電極に過剰な電流が集中し、放電部で集中放電を発生させないために、電流制限素子(安定化素子)として、インダクタンスや電気抵抗を付加している。この技術では、後述のスパイカーサステイナ回路と比べて、小型化が可能となる。また、分割電極技術でKrFエキシマレーザ装置で半値全幅60nsec、XeClエキシマレーザ装置で半値全幅で100nsec以上の長パルスを実現できる。
【0019】
しかしながら、分割電極に安定化素子を付加したパルスストレッチ回路では、レーザの高繰り返し動作時に、パルス幅が短くなる問題がある。比較的低い繰り返し周波数(1000Hz以上)で、図13(a)に矢印で示したような放電不安定性が発生してしまう。この方式では、1000Hz以上では、図13(a)に破線で示したように、パルスストレッチがかからなくなり、短いパルスになってしまう。
【0020】
また、分割電極にインダクタンスを付加したパルスストレッチ回路では、高繰り返し動作時に安定化素子の動作に問題がある。安定化素子として用いられるインダクタンスや電気抵抗は、本質的に電流を消費する素子である。そのため、レーザ高繰り返し動作時には、発熱や、電気絶縁の不良、コロナ放電によるオゾンの発生等の問題が生じる。そのため、高繰り返し動作時でも安定に回路を動作させようとすると、冷却回路等が必要になる。また、そのような素子が存在することで、システムとしての信頼性を損なう恐れがある。
【0021】
また、スパイカーサステイナ回路を用いたパルスストレッチ技術(非特許文献1)を適用した際の図13と同様の電流波形(a)とパルスストレッチ波形(b)の模式図を図14に示す。スパイカーサステイナ回路では、放電を開始させる高電圧短パルスの電圧を印加し、その後、放電を維持させるための低電圧電流を重畳させる。これにより、放電中のレーザ利得を長時間維持することが可能になり、パルスストレッチが可能となる。この技術では、KrFエキシマレーザ装置やArFエキシマレーザ装置で100nsec以上の長パルスを実現できる。
【0022】
しかしながら、スパイカーサステイナ回路でも、低い繰り返し周波数でしか安定してパルスストレッチができないという欠点がある。それは、電極長手方向に均一放電を発生させることが難しいことによる。パルスストレッチのための低電圧で長い時間の電圧は、低繰り返し(2000Hz以下)では均一な放電を維持できる。しかし、それ以上の繰り返し周波数では、放電長手方向に集中放電が発生する等して、レーザ利得の不均一性を招く。したがって、繰り返し周波数を増加させると、パルスストレッチがかからなくなるという欠点を持つ。
【0023】
また、スパイカーサステイナ技術では、装置が大型化するという欠点も持つ。パルス整形回路(Pulse Forming Network,PFN、又は、Pulse Forming Line, PFL)と呼ばれるインダクタンス、コンデンサーを組み合わせた回路が必要となる。そのために、電源と放電チャンバの接続部が大型化する。また、高繰り返し動作時には、各素子の冷却、電気絶縁の問題も発生するため、装置を小型化するのが難しい。
【0024】
上記2方式の欠点として、2000Hz以上の高繰り返し動作時に、放電不安定性が発生し、パルスが短くなってしまうことがある。そこで、この欠点をを補う方式として、電流振動発振方式がある(特許文献2、特許文献3)。この方式では、レーザチャンバの充放電部のインダクタンスを可能な限り小さくすることで、電極間にかかる電圧を振動させ、振動電流の最初の1/2周期とそれに続く少なくとも1つの1/2周期においてもレーザガスの励起を行わせてレーザ発振動作を持続させることで、長いパルスのレーザ光を発振させる方式である。図15に図13と同様の電流波形(a)とパルスストレッチ波形(b)の模式図を示す。このように電極間にかかる電流を振動させることで、レーザ利得を比較的長時間維持できる。この技術では、KrFエキシマレーザ装置やArFエキシマレーザ装置でTisが40nsec以上のパルス幅を4000Hzで実現できる。
【0025】
電流振動発振方式で、高繰り返し動作時(2000Hz以上)でも安定した長いパルスを実現できるのは、放電の時間的不安定性を抑制しているからである。電流振動方式では、電圧を正負又は0付近まで変動させる。これにより、電極は短時間に極性が変るか、電位が短時間で大幅に変動する。このように、時間的に速い変化をする電圧を印加すると、放電で起きた揺らぎがレーザ利得を乱すまでに成長する前に放電の状態をリセットすることができる。これにより、放電の不安定性も成長することなく、長時間にわたって均一なレーザ利得を持つ放電を維持できる。この技術は、時間的放電不安定性に対して強い回路であるため、高繰り返し時にもパルスストレッチが有効に働き、特に2000Hz以上の高繰り返しでも長いパルスを生成することができる。
【0026】
さらに、電流振動発振方式では、上記2方式のように電気回路に素子等を付加することなく実現できるため、装置がコンパクトになるという利点も持つ。
【0027】
しかしながら、電流振動発振方式では、時間的な放電不安定性のみを抑制しているため、従来例に比べてパルス幅が短いという欠点がある。よって、さらに長いパルス(パルス幅FWHM、若しくは、Tisで50nsec以上)を、高繰り返し動作(4000Hz以上)をさせるためには、新たな技術が必要である。
【特許文献1】米国特許第4,601,039号明細書
【特許文献2】特開2001−156367号公報
【特許文献3】特許第3,427,889号公報
【非特許文献1】IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTORONICS,VOL.5,NO.6,NOVEMBER/DECEMBER(1999),PP.1515-1521
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
従来のパルス幅が短いレーザ装置における電極間を流れる電流(a)とレーザパルス幅(b)の関係を図16に示す。電極間を流れる電流は、正負反転しながら流れる。普通に考えると、電流が流れている間は、放電が維持されているので、レーザ発振は持続するはずである。しかしながら、電極間に電流が流れ続けていても、実際のレーザ発振は停止してしまう。これは、いくら放電が持続していても、レーザ利得が得られていないという現象が生じていることを示している。以上のようなレーザ発振の停止は、図16に矢印で示したような放電不安定性に起因している。すなわち、放電が持続し、電流が流れていても、放電領域のどこかで放電不安定性が発生し、その位置に放電集中が起きると、レーザ発振も停止してしまい、長いパルスが得られないということである。
【0029】
この点を電流振動発振方式を例にあげて説明する。図17に従来の短いパルスを持った電流振動発振方式のレーザ装置の模式的な回路図を示す。コンデンサーC2と磁気スイッチSL2を含む高電圧パルス発生装置の出力端にピーキングコンデンサーCPを構成する多数の分割コンデンサーCP1〜CP5が並列に接続されており、ピーキングコンデンサーCPの各分割コンデンサーCP1〜CP5から流れ出た電荷は回路を通して放電電極2、3間で放電を起こす。このとき、放電電極2、3間の放電の一部で放電不均一性が発生すると、そこに各分割コンデンサーCP1〜CP5からの電荷の流れが集中する。その理由は、放電不均一性が存在する場所は抵抗が低いからである。このとき、図17に示すように、給電側の放電電極2は長手方向に電気的に絶縁されておらず、また、各分割コンデンサーCP1〜CP5から給電側の放電電極2への回路も実質的に分割されていないため、放電不安定性が起きた部分に全ての分割コンデンサーCP1〜CP5からの全電荷が集中してしまう。これにより、放電集中が増幅され、レーザ利得均一性の破壊を起こし、レーザ発振が停止する。このような状況で、短いパルスのレーザ光しか発振できなくなる。そのため、長いパルスを高繰り返し動作時に得ることができなかったと言える。
【0030】
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、放電不安定性に基づく放電集中を防止して、格段に長いパルス幅を持ちながら、高繰り返し動作時でも安定したパルス幅を出力しかつ安定なレーザ発振可能な放電励起ガスレーザ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記目的を達成する本発明の放電励起ガスレーザ装置は、レーザガスが封入されたレーザチャンバと、このレーザチャンバ内に配置され相互に平行で対向配置された一対の長尺の放電電極と、その一対の放電電極と並列に接続された放電用コンデンサーと、前記レーザチャンバ内で高電圧パルス放電を発生させて前記レーザガスを励起してレーザ光を放出させるための高電圧パルス発生装置とを備え、前記一対の放電電極が前記高電圧パルス発生装置の出力端に接続されてなる放電励起ガスレーザ装置において、
前記一対の放電電極の中の少なくとも給電側の放電電極が長手方向に複数の分割電極に分割され、前記複数の分割電極個々が、あるいは、隣接する複数の分割電極がグループ化されてなる電極群個々が、それぞれ単数又は複数の分割コンデンサーの給電側端子に接続され、かつ、前記分割コンデンサーは1個以上の分岐点を介して前記高電圧パルス発生装置の出力端に相互に並列に接続されており、前記並列に接続された分割コンデンサーが前記放電用コンデンサーを構成していることを特徴とするものである。
【0032】
この場合に、一対の放電電極の中の給電側と反対側の放電電極も長手方向に、給電側の放電電極の分割に対応して複数の分割電極に分割されていることが望ましい。
【0033】
その場合に、給電側の分割電極と対応する接地側の分割電極とが各々、単数又は複数の分割コンデンサーを介して、異なる接続線路によって接続されていることが望ましい。
【0034】
また、複数の分割電極個々あるいは隣接する複数の分割電極がグループ化されてなる電極群個々に接続された単数又は複数の分割コンデンサーの給電側端子間にインダクタンスのコイルが接続されているようにしてもよい。
【0035】
本発明のもう1つの放電励起ガスレーザ装置は、レーザガスが封入されたレーザチャンバと、このレーザチャンバ内に配置され相互に平行で対向配置された一対の長尺の放電電極と、その一対の放電電極と並列に接続された放電用コンデンサーと、前記レーザチャンバ内で高電圧パルス放電を発生させて前記レーザガスを励起してレーザ光を放出させるための高電圧パルス発生装置とを備え、前記一対の放電電極が前記高電圧パルス発生装置の出力端に接続されてなる放電励起ガスレーザ装置において、
前記一対の放電電極の中の少なくとも給電側の放電電極が長手方向に複数の分割電極に分割され、前記複数の分割電極個々が、あるいは、隣接する複数の分割電極がグループ化されてなる電極群個々が、それぞれ単数又は複数の分割コンデンサーの給電側端子に接続されており、かつ、前記単数又は複数の分割コンデンサー各々が、相互に連携して動作する複数の高電圧パルス発生装置各々の出力端に接続されており、前記単数又は複数の分割コンデンサーがそれぞれの分割電極あるいは隣接する複数の分割電極がグループ化されてなる電極群に対する放電用コンデンサーを構成していることを特徴とするものである。
【0036】
以上において、一対の放電電極間の放電によって流れる電流が極性が反転する放電振動電流からなり、その極性が反転する1パルスの放電振動電流波形の始めの半周期と、それに続く少なくとも1つの半周期によってレーザ発振動作をするように構成されていることが好ましい。
【0037】
また、レーザガスがフッ素ガスとアルゴンガスを含む混合ガスからなり、ArFエキシマレーザ装置として構成することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明においては、一対の放電電極の中の少なくとも給電側の放電電極とそれに接続される放電用コンデンサーとを分割し、その分割された分割コンデンサーを1個以上の分岐点を介して高電圧パルス発生装置の出力端に相互に並列に接続するか、高電圧パルス発生装置を分割数に対応する複数のものから構成することにより、放電不安定性が放電領域のどこかで発生しても、レーザ利得の乱れはその領域に止まり放電領域全体としてのレーザ利得の均一性は余り乱れず、レーザ光を安定して長時間発振させることが可能となる。そのため、従来例に比較してより長いパルス幅を持ったレーザ光を発振させることができるようになる。これによって、従来は両立できなかった、長いパルス幅(Tis若しくは半値全幅で〜100nsec)と高繰り返し動作(4000Hz以上)のArFエキシマレーザ装置等の放電励起ガスレーザ装置を実現することができる。さらに、本発明によると、放電安定性が格段に改善されるため、レーザエネルギの安定性が改善される。例えば、レーザガスの循環速度が低い場合でも、安定したレーザ発振が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に、本発明の放電励起ガスレーザ装置をその原理と実施例に基づいて説明する。
【0040】
本発明の放電励起ガスレーザ装置の原理は、電源の高電圧パルス発生装置の出力端に並列に接続されるピーキングコンデンサーと放電電極をそれぞれ複数に分割し、各分割コンデンサーを対応する分割電極に接続すると共に、各分割コンデンサーを1個以上の分岐点を介して高電圧パルス発生装置の出力端に相互に並列に接続することにより、放電領域のどこかで放電不安定性が発生しても放電集中が起き難くして、従来は両立できなかった、長いパルス幅(Tis若しくは半値全幅で50nsec以上)と高繰り返し動作(4000Hz以上)を実現するようにしたものである。
【0041】
本発明は、電流振動発振方式の放電励起ガスレーザ装置に限定されず、種々の放電励起パルスレーザ装置に適用できるが、特許文献2で開示された電流振動発振方式のエキシマレーザ装置に本発明を適用した例に基づいて、本発明を以下に説明する。
【0042】
この例の放電励起ガスレーザ装置は図1のように構成され、図2に示すような放電励起回路が採用される。図1の構成の説明は前記の通りである。図2の励起回路は、可飽和リアクトルからなる3個の磁気スイッチSL0、SL1、SL2を用いた2段の磁気パルス圧縮回路からなる。磁気スイッチSL0は固体スイッチSW保護用のものであり、第1の磁気スイッチSL1と第2の磁気スイッチSL2により2段の磁気パルス圧縮回路を構成している。
【0043】
図2に従って回路の構成と動作を以下に説明する。まず、高電圧電源HVの電圧が所定の値に調整され、磁気スイッチSL0、インダクタンスL1を介して主コンデンサーC0が充電される。このとき、固体スイッチSWはオフになっている。主コンデンサーC0の充電が完了し、固体スイッチSWがオンとなったとき、固体スイッチSW両端にかかる電圧は磁気スイッチSL0の両端にかかるよう移り、固体スイッチSWを保護する。磁気スイッチSL0の両端にかかる主コンデンサーC0の充電電圧V0の時間積分値が磁気スイッチSL0の特性で決まる限界値に達すると、磁気スイッチSL0が飽和して磁気スイッチが入り、主コンデンサーC0、磁気スイッチSL0、固体スイッチSW、コンデンサーC1のループに電流が流れ、主コンデンサーC0に蓄えられた電荷が移行してコンデンサーC1に充電される。
【0044】
この後、コンデンサーC1における電圧V1の時間積分値が磁気スイッチSL1の特性で決まる限界値に達すると、磁気スイッチSL1が飽和して磁気スイッチが入り、コンデンサーC1、コンデンサーC2、磁気スイッチSL2のループに電流が流れ、コンデンサーC1に蓄えられた電荷が移行してコンデンサーC2に充電される。
【0045】
さらにこの後、コンデンサーC2における電圧V2の時間積分値が磁気スイッチSL2の特性で決まる限界値に達すると、磁気スイッチSL2が飽和して磁気スイッチが入り、コンデンサーC2、ピーキングコンデンサーCP、磁気スイッチSL2のループに電流が流れ、コンデンサーC2に蓄えられた電荷が移行してピーキングコンデンサーCPが充電される。
【0046】
ピーキングコンデンサーCPの充電が進むにつれてコロナ予備電離部19に印加される電圧が上昇し、その電圧が所定の電圧になるとのコロナ予備電離部19にコロナ放電が発生する。このコロナ放電によってコロナ予備電離部19から紫外線が発生し、放電電極2、3間のレーザ媒質であるレーザガスが予備電離される。
【0047】
ピーキングコンデンサーCPの充電がさらに進むにつれて、ピーキングコンデンサーCPの電圧が上昇し、この電圧がある値(ブレークダウン電圧)に達すると、放電電極2、3間のレーザガスが絶縁破壊されて放電が開始し、この放電によりレーザ媒質が励起され、レーザ光が発生する。
【0048】
この後、放電によりピーキングコンデンサーCPの電圧が急速に低下し、やがて充電開始前の状態に戻る。
【0049】
このような放電動作が固体スイッチSWのスイッチング動作によって繰り返し行なわれることにより、所定の繰り返し周波数でのパルスレーザ発振が行われる。
【0050】
ここで、磁気スイッチSL1、SL2及びコンデンサーC1、C2で構成される各段の容量移行型回路のインダクタンスを後段に行くにつれて小さくなるように設定することにより、各段を流れる電流パルスのパルス幅が順次狭くなるようなパルス圧縮動作が行われ、放電電極2、3間に短パルスの強い放電が実現される。
【0051】
なお、高電圧電源HVから第2の磁気スイッチSL2までが図1の電源(高電圧パルス発生装置)4を構成している。
【0052】
ここで、電流振動発振方式を実現するために、特許文献2に示されているような回路定数、レーザガスの組成、放電電流回路の浮遊インダクタンス等が選択される。
【0053】
このような放電励起回路において、本発明に基づいて、ピーキングコンデンサーCPと給電側の放電電極2がそれぞれ複数(図では5個)に分割されており、ピーキングコンデンサーCPは並列接続された分割コンデンサーCP1〜CP5からなり、給電側の放電電極2は一列に整列され相互に間隔をおいて分離された分割電極21 〜25 からなる。そして、高電圧パルス発生装置4の給電側の出力端は、分岐点P1、P2、P3を介して分割コンデンサーCP1〜CP5それぞれの給電側端子に接続され、かつ、分割コンデンサーCP1〜CP5それぞれの給電側端子は給電側の放電電極2の分割電極21 〜25 それぞれに接続されている。
【0054】
このような構成であるので、高電圧電源HVから第2の磁気スイッチSL2までからなる電源(高電圧パルス発生装置)4より印加されるパルス状の電圧は、高電圧パルス発生装置4の給電側の出力端から分岐点P1、P2、P3を介して分割コンデンサーCP1〜CP5それぞれに印加される。このとき、電流は給電側の出力端、分岐点P1、P2、P3を通り、分割コンデンサーCP1〜CP5に充電される。給電側の放電電極2(分割電極21 〜25 )と接地側の放電電極3の間に十分な電圧がかかると、給電側の放電電極2(分割電極21 〜25 )と接地側の放電電極3の間で絶縁破壊が起こり、ピーキングコンデンサーCP(分割コンデンサーCP1〜CP5)から電流が流れる。電流は各分割コンデンサーCP1〜CP5から接続線路に沿って対応するそれぞれの分割電極21 〜25 へ流れる。このとき、各分割コンデンサーCP1〜CP5からの電流は、それぞれに対応する分割電極21 〜25 以外のループに流れることはない。その理由は、各分割コンデンサーCP1〜CP5から対応する分割電極21 〜25 へは分岐点を介することはなく最短ルートで接続されており、一方、対応しない分割電極21 〜25 へは1個以上の分岐点P1、P2、P3を介して最短ルートより長いルートで接続されている。分割コンデンサーCP1〜CP5から分割電極21 〜25 への接続ルートには、電気抵抗や浮遊(寄生)インダクタンスが存在し、複数の接続ルートがある場合に、インダクタンスを含む抵抗の最も小さいルートに沿って流れようとするから、各分割コンデンサーCP1〜CP5からは、分岐点を介することはなく最短ルートで対応する分割電極21 〜25 へ電流が流れ、他の対応しない分割電極21 〜25 へは実質的に電流は流れない。
【0055】
一度給電側の放電電極2(分割電極21 〜25 )と接地側の放電電極3の間で放電が起こった後、放電で消費され切れずに残った電荷は、再度分割コンデンサーCP1〜CP5に充電される。その後、再充電した電流が流れるが、この電流も他の対応しない分割電極21 〜25 へは流れることなく、分割コンデンサーCP1〜CP5個々とそれぞれに対応した分割電極21 〜25 各々とで形成される各分割ブロックに限定されて流れることになる。
【0056】
このようにして、電流は個々の分割ブロック(例えば、分割コンデンサーCP1と分割電極21 と放電電極3とを結ぶ閉ループからなる)を独立に流れるため、相互に干渉することなく、レーザ励起放電を作り出す。そして、ピーキングコンデンサーCPを分割コンデンサーCP1〜CP5で構成しているために、何れかの分割ブロックの分割電極21 〜25 に放電不安定性が起きても、レーザ利得の乱れはそのブロックだけに止まり、放電領域全体としてのレーザ利得の均一性は余り乱れず、レーザ光を安定して長時間発振させることが可能となる。そのため、長いパルス幅を持ったレーザ光を発振させることができるようになる。
【0057】
特許文献1に開示された従来の分割電極に安定化素子を付加したパルスストレッチ回路方式と本発明の方式が本質的に異なるのは、電流を制限する安定化素子を放電回路中に用いないことである。実際には、電気回路には浮遊インダクタンス成分が含まれるが、この浮遊インダクタンス成分は放電回路中に直列には含まれず、また、従来技術と比べると格段に小さい。従来の安定化素子に使われるコイルのインダクタンス容量は、1個当たり数百nHであるが、本発明の方式の場合、浮遊インダクタンスとしては、数nH程度になる。
【0058】
また、本発明の方式においては、従来のパルスストレッチ回路に比べて、格段に小型化可能である。これは、従来の分割電極に安定化素子を付加した方式とは異なり、放電安定化素子を用いることなく、電気回路構造による分布定数を利用し、パルスストレッチ回路を実現するためである。さらには、そのような放電安定化素子を用いないため、高繰り返し時の発熱、電気絶縁の破壊等も起きない。そのため、従来のパルスストレッチ方式に比べて、高繰り返し動作時に高い信頼性を持つという特長を持つ。
【0059】
このように、本発明の放電励起ガスレーザ装置は、従来の比して格段に長いパルス幅を持ちながら、高繰り返し動作時でも安定したパルス幅を出力し、かつ、安定なパルスレーザが発振が可能となる。
【0060】
本発明の方式を適用するに当たり、放電電極を分割するのは、電源給電側の放電電極を分割するのが最も効果的であり、なおかつ、欠かすことができない。なぜならば、放電の不安定性が最も高い点は電流給電側であるためである。以下に、具体的な放電電極、ピーキングコンデンサー等の分割方法について説明する。
【0061】
ArFエキシマレーザ装置を例にとると、実際の放電電極は200mmから1000mm程度の長さであるが、分割数は5分割以上が好ましい。すなわち、分割された放電電極のそれぞれ(分割電極)の長さは5mmから200mm程度がよい。好ましくは、分割された電極の1つの長さは30mmから100mm程度で安定的にパルスストレッチが可能となる。また、分割電極間の間隔は、電気絶縁の確保の観点より0.5mm〜5mm程度が好ましい。しかしながら、その間隔を大きくとって電気絶縁を確保しようとすると、レーザ全体の利得を損なう。したがって、好ましい電極間間隔としては1mm程度が望ましい。
【0062】
また、このときの放電励起回路の条件としては、ピーキングコンデンサ容量は4〜10nF、放電回路のインダクタンスは4〜8nH、電圧の立ち上がり時間は60〜80nsec程度、放電電極間にかかる電圧は20〜30kVである。
【0063】
次に、図1に示したような放電励起ガスレーザ装置における放電電極とピーキングコンデンサーの分割に関する実施例を説明する。図3はその1実施例の放電部の光軸に沿った断面図であり、図4は図3の直線A−A’に沿う光軸に垂直でその矢印方向に見た断面図であり、図5は図3の直線B−B’に沿う光軸に垂直でその矢印方向に見た断面図である。この実施例においては、給電側の放電電極2は簡単のため4分割されているが、実際には、上記のように5分割以上にすることが好ましい。
【0064】
この放電励起ガスレーザ装置において、給電側の放電電極(この例では、カソード)2は分割電極21 〜24 に4分割されている。そして、レーザチャンバー1を構成する金属性の筐体21の上部の開口に放電空間の長手に沿うように気密に長尺の絶縁板22が嵌め込まれており、その絶縁板22の下側(レーザチャンバー1内側)に、同様に分割された導電性の電極ホルダー23を介して、相互に間隔24をおいて1列に整列するようにこの分割電極21 〜24 が取り付けられている。
【0065】
また、接地側の放電電極(この例では、アノード)3は長尺の連続した電極からなる。そして、絶縁板22の両側の筐体21の下面に放電電極2の両側に沿うように複数(この例では片側3本)の棒状の支持兼通電部材25が取り付けられており、支持兼通電部材25の先端間に導電性で長尺の電極ホルダー26が放電電極2と平行に張り渡されており、電極ホルダー26の上の給電側の放電電極2に対向する位置にこの接地側の放電電極3が取り付けられている。放電電極3に沿った両側の放電空間を見込む位置には、コロナ予備電離部19が取り付けられている。
【0066】
絶縁板22の両側の筐体21の上面に放電電極2の両側に沿うように取り付けられた一対の導電性のピーキングコンデンサー接地板27により、筐体21の上側に電源(高電圧パルス発生装置)4が取り付けられており、電源4から下方に突き出た出力端子28は、導電性のピーキングコンデンサー取り付け板29の上辺に接続されいる。
【0067】
ピーキングコンデンサー取り付け板29は、絶縁板22の上面であって一対のピーキングコンデンサー接地板27の間に、放電電極2と平行に取り付けられており、一対のピーキングコンデンサー接地板27の間の空間を2分している。
【0068】
このピーキングコンデンサー取り付け板29は、図3から明らかなように、長尺で矩形形状をしており、分割電極21 〜24 間の間隔24に対応する数(この例では3個)のスリット30が絶縁板22側の辺から長尺の矩形形状を略等分するように反対側(出力端子28側)の辺近傍まで設けられており、その反対側の辺と各スリット30の間に連結部31を残している。スリット30で分けられた部分を分割電極21 〜24 と同じ順序で取り付け板部分291 〜294 とする。
【0069】
取り付け板部分291 〜294 と分割電極21 〜24 が対応する電極ホルダー23との間の絶縁板22中には貫通するように電極給電線32が埋め込まれており、ピーキングコンデンサー取り付け板29の取り付け板部分291 〜294 と分割電極21 〜24 の電極ホルダー23との間を電気的に接続している。
【0070】
また、ピーキングコンデンサー取り付け板29の取り付け板部分291 〜294 と両側のピーキングコンデンサー接地板27との間には、それぞれ同様な分割コンデンサーCP1a、CP1b、CP2a、CP2b、CP3a、CP3b、CP4a、CP4bの8個の分割コンデンサーが配置されており、分割コンデンサーCP1a、CP1bの一方の端子は取り付け板部分291 に、他方の端子はピーキングコンデンサー接地板27に接続され、分割コンデンサーCP2a、CP2bの一方の端子は取り付け板部分292 に、他方の端子はピーキングコンデンサー接地板27に接続され、分割コンデンサーCP3a、CP3bの一方の端子は取り付け板部分293 に、他方の端子はピーキングコンデンサー接地板27に接続され、分割コンデンサーCP4a、CP4bの一方の端子は取り付け板部分294 に、他方の端子はピーキングコンデンサー接地板27に接続されている。
【0071】
このような構成であるので、電源4よりパルス状の電圧が印加されると、出力端子28からピーキングコンデンサー取り付け板29の上辺の取り付け板部分292 と293 の間近傍からピーキングコンデンサー取り付け板29に電流が流れ込み、取り付け板部分292 と293 の間の連結部31で両側に分かれる。したがって、この連結部31は図2の分岐点P1に対応する。その電流は、分岐点P1の両側の取り付け板部分292 と293 に流れ込むと同時に取り付け板部分291 と292 の間及び取り付け板部分293 と294 の間の連結部31でさらに分かれて取り付け板部分291 と294 に流れ込む。したがって、これらの連結部31は図2の分岐点P2、P3に対応する。
【0072】
ピーキングコンデンサー取り付け板29の取り付け板部分291 〜294 に流れ込んだ電流は、それらに接続されている分割コンデンサーCP1a、CP1b;CP2a、CP2b;CP3a、CP3b;CP4a、CP4bに流入してこれらの分割コンデンサーを充電する。その充電によって給電側の放電電極2(分割電極21 〜24 )と接地側の放電電極3の間に十分な電圧がかかると、給電側の放電電極2(分割電極21 〜24 )と接地側の放電電極3の間で絶縁破壊が起こり、ピーキングコンデンサーCP(分割コンデンサーCP1a、CP1b;CP2a、CP2b;CP3a、CP3b;CP4a、CP4b)から電流が流れる。電流は各分割コンデンサーCP1a、CP1b;CP2a、CP2b;CP3a、CP3b;CP4a、CP4bからピーキングコンデンサー取り付け板29の取り付け板部分291 〜294 と電極給電線32及び電極ホルダー23に沿って対応するそれぞれの分割電極21 〜24 へ流れる。このとき、各分割コンデンサーCP1a、CP1b;CP2a、CP2b;CP3a、CP3b;CP4a、CP4bからの電流は、それぞれに対応する分割電極21 〜24 以外のループに流れることはない。
【0073】
一度給電側の放電電極2(分割電極21 〜24 )と接地側の放電電極3の間で放電が起こった後、放電で消費され切れずに残った電荷は、再度分割コンデンサーCP1a、CP1b;CP2a、CP2b;CP3a、CP3b;CP4a、CP4bに充電される。その後、再充電した電流が流れるが、この電流も他の対応しない分割電極21 〜24 へは流れることなく、分割コンデンサーCP1a、CP1b;CP2a、CP2b;CP3a、CP3b;CP4a、CP4b個々とそれぞれに対応した分割電極21 〜24 各々とで形成される各分割ブロックに限定されて流れることになる。
【0074】
このようにして、電流は個々の分割ブロックを独立に流れるため、相互に干渉することなく、レーザ励起放電を作り出す。そして、ピーキングコンデンサーCPを分割コンデンサーCP1a、CP1b;CP2a、CP2b;CP3a、CP3b;CP4a、CP4bで構成しているために、何れかの分割ブロックの分割電極21 〜24 に放電不安定性が起きても、レーザ利得の乱れはそのブロックだけに止まり、放電領域全体としてのレーザ利得の均一性は余り乱れず、レーザ光を安定して長時間発振させることが可能となる。そのため、長いパルス幅を持ったレーザ光を発振させることができるようになる。
【0075】
ところで、図3〜図5の実施例では、ピーキングコンデンサー取り付け板29の両側に分割コンデンサーCP1a、CP2a、CP3a、CP4aと分割コンデンサーCP1b、CP2b、CP3b、CP4bを配置し、1個の分割電極に2個の分割コンデンサーを対応させているが、ピーキングコンデンサー取り付け板29の片側にのみ配置し、1個の分割電極に1個の分割コンデンサーを対応させる(図2)ようにしてもよい。あるいは、2個より多い数の分割コンデンサーを1個の分割電極に対応させるようにしてももちろんよい。
【0076】
この実施例とは逆に、1個の分割コンデンサーに2個以上の分割電極を対応させるようにしてもよい。その場合の図3と同様の断面図を図6に示す。ただし、この場合は、ピーキングコンデンサー取り付け板29の片側にのみ分割コンデンサーCP1、CP2、CP3、CP4、CP1を配置してあるものとする。この例では、給電側の放電電極2は分割電極21 〜28 に8分割しており、それに対して、ピーキングコンデンサーCPは分割コンデンサーCP1〜CP4に4分割しており、取り付け板部分291 〜294 それぞれに電極給電線32と電極ホルダー23を介して2つの分割電極21 〜22 、23 〜24 、25 〜26 、27 〜28 を接続するようにしている。このような構成でも、図3〜図5の実施例と同様に、放電不安定性が起きても、レーザ利得の乱れはその分割電極と隣の分割電極からなるブロックだけに止まり、放電領域全体としてのレーザ利得の均一性は余り乱れず、レーザ光を安定して長時間発振させることが可能となる。そのため、長いパルス幅を持ったレーザ光を発振させることができるようになる。
【0077】
図7は、図3〜図5の実施例の変形例を示す図3と同様の図であり、この実施例では、接地側の放電電極3も、給電側の放電電極2に対応して同様に、間隔33をおいて相互に1列に整列するように分割電極31 〜34 に4分割されており、電極ホルダー26も分割電極31 〜34 に対応して分割されている。そして、各分割電極31 〜34 と分割コンデンサーCP1a、CP1b;CP2a、CP2b;CP3a、CP3b;CP4a、CP4bの他方の端子との間を電気的に接続するピーキングコンデンサー接地板27も、同様の分割数のピーキングコンデンサー接地板部分271 〜274 に分割され、また、その機能の一部を担う支持兼通電部材25も、各分割電極31 〜34 の両側にそれぞれ対応して片側4本の支持兼通電部材251 〜254 が配置される。そして、この例では、これら分割されたピーキングコンデンサー接地板部分271 〜274 とそれらそれぞれ対応する支持兼通電部材251 〜254 はそれぞれ一対一に絶縁板22を通して接続されるようになっている(図示省く)。
【0078】
このように、給電側だけでなく接地側の放電回路の電流経路を分割する理由は次の通りである。放電不安定性は放電内部の現象なので外部の回路の影響は小さい。しかし、ピーキングコンデンサーCP(CP1a、CP1b、CP2a、CP2b、CP3a、CP3b、CP4a、CP4b)の接地側は回路の電流経路であるため、長手方向の放電不安定性に影響を与える。この影響を最小限に抑制するためには、ピーキングコンデンサー接地板27を分割することが望ましい。また、放電不安定性は主に給電側で発生するが、電流振動発振方式では、電極の極性は反転する。そのため、電源給電側でない放電電極3でも放電不安定性が発生する。そこで、接地側の放電電極3も分割することが望ましい。分割数は給電側の放電電極2と同じが好ましい。しかし、給電側の放電電極2より多くても少なくても効果はある。さらに、接地側の放電電極3の放電不安定性をさらに抑制するため、支持兼通電部材25も接地側の放電電極3の分割数と同じにする。また、放電電極2、3間の組み立て精度を向上させるため等の目的で、接地側の放電電極3の電極ホルダー26の長手方向が筐体21に接触される場合もある。この経路は電気抵抗が小さく、放電の余計な経路になり得る。電極ホルダー26を同時に分割することはこの影響を低減する効果も持つ。
【0079】
次に、図8、図9に、図7の接地側の放電回路の電流経路を分割する構成に加えて、電源4側も同様に分割してさらに放電不安定性の影響を少なくする実施例を示す。図8の場合は、電源(高電圧パルス発生装置)4として、予め放電電極2、3の分割数(図の場合は4分割)に応じた出力端子281 〜284 を持たせておき、一方、ピーキングコンデンサー取り付け板も、その分割数に応じて取り付け板部分291 ’〜294 ’に完全に分割しておき、電源4を除き、放電回路を全て並列な分割ブロックに分割するようにしたものであり、いわば放電励起回路における分岐点P1、P2、P3(図2)を電源4側に追いやって分割コンデンサーCP1a、CP1b、CP2a、CP2b、CP3a、CP3b、CP4a、CP4bからより遠くに離すことで、各分割ブロックの分離度を高めて放電不安定性の影響をより少なくする構成である。
【0080】
図9の場合は、図8の構成をさらに進め、電源(高電圧パルス発生装置)も放電電極2、3の分割数(図の場合は4分割)に応じて別々で連携して動作する複数の電源41 〜44 とし、各電源41 〜44 の出力端子281 ’〜284 ’を別々に完全に分かれている取り付け板部分291 ’〜294 ’に接続するようにしたものであり、この場合は、放電励起回路が完全に分かれた分割ブロックとなり、各分割ブロックは略独立になり、放電不安定性の影響は最も少なくなる構成である。この構成は、1つのレーザ装置に対して、2分割から5分割がよく、分割電極21 〜24 、31 〜34 の長さは50mmから200mm程度が望ましい
図10は別の実施例を示す図2と同様の図である。この実施例においては、分割ブロック(分割コンデンサーCP1と分割電極21 と放電電極3とを結ぶ閉ループ等)間の分離度を高めるために、図2のような電気抵抗や浮遊(寄生)インダクタンスに加えて、分割コンデンサーCP1〜CP5の給電端子間に微小なインダクタンスのコイルLO1〜LO4を接続することで、最短ルート以外のルートの電気抵抗やインダクタンスをより大きくして、各分割コンデンサーCP1〜CP5から対応しない分割電極21 〜25 へ電流がより流れないようにし、放電不安定性の影響をより少なくするようにした例である。この場合のコイルLO1〜LO4それぞれのインダクタンスは、数nHから50nH程度に選ばれる。
【0081】
次に、本発明に基づく放電励起ガスレーザ装置の具体例と比較例を示す。この放電励起ガスレーザ装置はArFエキシマレーザ装置として構成されており、構成に関する詳細は次の通りである。
【0082】
具体例 比較例
○放電電極の分割の有無 あり なし
○放電電極総長さ 600mm 同左
○放電電極間間隔 16mm 同左
○分割した放電電極 給電側(カソード) −
接地側分割なし
○電極分割数 18 0
○分割電極1個の長さ 端部59.5mm(端部2個) −
その他29mm(その他部分16個)
○分割電極間の隙間 1mm −
○その他 1個のピーキングコンデンサー −
(18個)を1個の分割電極に接続
○動作条件
ArFエキシマレーザガス アルゴン3.5%、フッ素0.1%、 同左
キセノン10pp、残りネオン
印加電圧 23kV 同左
ガス圧力 3000hPa 同左
繰り返し周波数 4000Hz 同左
ピーキングコンデンサ容量 8nF 同左
放電回路のインダクタンス 5nH 同左
電圧の立ち上がり時間 70nsec 同左 。
【0083】
上記の本発明の具体例と比較例とのArFエキシマレーザ装置のレーザ発振波形は図11に示す通りであり、放電電極の分割を行っていない比較例においては、パルスの長さを表すパラメータTis(特許文献2)が43.98nsecであり、放電電極の分割の有無を除いて同じ条件の本発明の具体例においては、パラメータTisが54.27nsecとなり、本発明に基づくパルスストレッチ技術が有効であることが分かる。なお、図11の波形図から、本発明の具体例においては、ピークが3つあることから振動電流の最初の1/2周期とそれに続く4つの1/2周期においてもレーザ発振動作が持続しており、これに対して比較例では、ピークが2つしかないことから振動電流の最初の1/2周期とそれに続く2つの1/2周期においてしかレーザ発振が持続していないことが分かる。
【0084】
以上、本発明の放電励起ガスレーザ装置をその原理と実施例に基づいて説明したが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形をすることが可能である。
【0085】
なお、最後に、パルスストレッチに関して、本発明と従来例を模式的に比較して示すと、図12のようになる。図12(a)は電流振動発振方式における1パルスの放電電極間を正負反転しながら流れる電流を示しており、従来例においては、その1パルスの振動電流が流れている間に、図12(b)に矢印で示したような放電不安定性が放電領域のどこかで発生し、その位置に放電集中が起きてレーザ発振も停止してしまい、長いパルスが得られない。これに対して、本発明の方式によると、このような放電不安定性が起きても、レーザ利得の乱れはその領域に止まり放電領域全体としてのレーザ利得の均一性は余り乱れず、図12(c)に示すように、レーザ光を安定して長時間発振させることが可能となる。そのため、本発明の方式に基づけば、従来例に比較してより長いパルス幅を持ったレーザ光を発振させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明を適用する放電励起ガスレーザ装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明に基づく放電励起回路の基本構成を示す図である。
【図3】図1に示したような放電励起ガスレーザ装置における放電電極とピーキングコンデンサーの分割に関する1実施例の放電部の光軸に沿った断面図である。
【図4】図3の直線A−A’に沿う光軸に垂直でその矢印方向に見た断面図である。
【図5】図3の直線B−B’に沿う光軸に垂直でその矢印方向に見た断面図である。
【図6】別の実施例の図3と同様の断面図である。
【図7】図3〜図5の実施例の変形例を示す図3と同様の断面図である。
【図8】図7の構成に加えて電源側も同様に分割する実施例の構成を示す図3と同様の断面図である。
【図9】図7の構成に加えて電源側も同様に分割する別の実施例の構成を示す図3と同様の断面図である。
【図10】さらに別の実施例を示す図2と同様の図である。
【図11】本発明の具体例と比較例とのArFエキシマレーザ装置のレーザ発振波形を示す図である。
【図12】本発明と従来例を模式的に比較して示す図である。
【図13】従来の分割電極に安定化インダクタンスを付加したパルスストレッチ技術を適用した際の電流波形(a)とパルスストレッチ波形(b)の模式図である。
【図14】従来のスパイカーサステイナ回路を用いたパルスストレッチ技術を適用した際の図13と同様の電流波形(a)とパルスストレッチ波形(b)の模式図である。
【図15】従来の電流振動発振方式を用いたパルスストレッチ技術を適用した際の図13と同様の電流波形(a)とパルスストレッチ波形(b)の模式図である。
【図16】従来のパルス幅が短いレーザ装置における電極間を流れる電流(a)とレーザパルス幅(b)の関係を示す図である。
【図17】従来の短いパルスを持った電流振動発振方式のレーザ装置の模式的な回路図である。
【符号の説明】
【0087】
1…レーザチャンバ
2…給電側放電電極
1 〜28 …給電側放電電極の分割電極
3…接地側放電電極
1 〜34 …接地側放電電極の分割電極
4、41 〜44 …電源(高電圧パルス発生装置)
5…CFF(クロスフローファン)
6…冷却用熱交換器
7…狭帯域化モジュール(LNM)
8…出力鏡
9…ビームサンプラー
10…ビームモニタ
11…拡大プリズム
12…グレーティング(回折格子)
13…コントローラ
14…ガス供給ライン(gas in)
15…ガス排気ライン(gas out)
16…真空ポンプ
17、18…バルブ
19…コロナ予備電離部
21…筐体
22…絶縁板
23…電極ホルダー
24…間隔
25、251 〜254 …支持兼通電部材
26…電極ホルダー
27…ピーキングコンデンサー接地板
271 〜274 …ピーキングコンデンサー接地板部分
28、281 〜284 、281 ’〜284 ’…電源の出力端子
29…ピーキングコンデンサー取り付け板
291 〜294 …取り付け板部分
291 ’〜294 ’…取り付け板部分
30…スリット
31…連結部
32…電極給電線
SL0…固体スイッチ保護用磁気スイッチ
SL1…第1の磁気スイッチ
SL2…第2の磁気スイッチ
HV…高電圧電源
L1…インダクタンス
SW…固体スイッチ
C0…主コンデンサー
C1…第1のコンデンサー
C2…第2のコンデンサー
CP…ピーキングコンデンサー
CP1〜CP5、CP1a、CP1b、CP2a、CP2b、CP3a、CP3b、CP4a、CP4b…分割コンデンサー
P1、P2、P3…分岐点
LO1〜LO4…微小なインダクタンスのコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザガスが封入されたレーザチャンバと、このレーザチャンバ内に配置され相互に平行で対向配置された一対の長尺の放電電極と、その一対の放電電極と並列に接続された放電用コンデンサーと、前記レーザチャンバ内で高電圧パルス放電を発生させて前記レーザガスを励起してレーザ光を放出させるための高電圧パルス発生装置とを備え、前記一対の放電電極が前記高電圧パルス発生装置の出力端に接続されてなる放電励起ガスレーザ装置において、
前記一対の放電電極の中の少なくとも給電側の放電電極が長手方向に複数の分割電極に分割され、前記複数の分割電極個々が、あるいは、隣接する複数の分割電極がグループ化されてなる電極群個々が、それぞれ単数又は複数の分割コンデンサーの給電側端子に接続され、かつ、前記分割コンデンサーは1個以上の分岐点を介して前記高電圧パルス発生装置の出力端に相互に並列に接続されており、前記並列に接続された分割コンデンサーが前記放電用コンデンサーを構成していることを特徴とする放電励起ガスレーザ装置。
【請求項2】
前記一対の放電電極の中の給電側と反対側の放電電極も長手方向に、前記給電側の放電電極の分割に対応して複数の分割電極に分割されていることを特徴とする請求項1記載の放電励起ガスレーザ装置。
【請求項3】
給電側の前記分割電極と対応する接地側の前記分割電極とが各々、前記単数又は複数の分割コンデンサーを介して、異なる接続線路によって接続されていることを特徴とする請求項2記載の放電励起ガスレーザ装置。
【請求項4】
前記複数の分割電極個々にあるいは隣接する複数の分割電極がグループ化されてなる電極群個々に接続された単数又は複数の分割コンデンサーの給電側端子間にインダクタンスのコイルが接続されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の放電励起ガスレーザ装置。
【請求項5】
レーザガスが封入されたレーザチャンバと、このレーザチャンバ内に配置され相互に平行で対向配置された一対の長尺の放電電極と、その一対の放電電極と並列に接続された放電用コンデンサーと、前記レーザチャンバ内で高電圧パルス放電を発生させて前記レーザガスを励起してレーザ光を放出させるための高電圧パルス発生装置とを備え、前記一対の放電電極が前記高電圧パルス発生装置の出力端に接続されてなる放電励起ガスレーザ装置において、
前記一対の放電電極の中の少なくとも給電側の放電電極が長手方向に複数の分割電極に分割され、前記複数の分割電極個々が、あるいは、隣接する複数の分割電極がグループ化されてなる電極群個々が、それぞれ単数又は複数の分割コンデンサーの給電側端子に接続されており、かつ、前記単数又は複数の分割コンデンサー各々が、相互に連携して動作する複数の高電圧パルス発生装置各々の出力端に接続されており、前記単数又は複数の分割コンデンサーがそれぞれの分割電極あるいは隣接する複数の分割電極がグループ化されてなる電極群に対する放電用コンデンサーを構成していることを特徴とする放電励起ガスレーザ装置。
【請求項6】
前記一対の放電電極間の放電によって流れる電流が極性が反転する放電振動電流からなり、その極性が反転する1パルスの放電振動電流波形の始めの半周期と、それに続く少なくとも1つの半周期によってレーザ発振動作をするように構成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の放電励起ガスレーザ装置。
【請求項7】
前記レーザガスがフッ素ガスとアルゴンガスを含む混合ガスからなり、ArFエキシマレーザ装置として構成されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項記載の放電励起ガスレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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