説明

放電型レーザー装置

【課題】 ギャップスイッチを使用した放電型レーザー発振装置は短寿命であり放射電磁波雑音も大きくコストが高いという課題があった。
【解決手段】 本発明は、パルス電源出力を昇圧するためのトランスと固体スイッチ(半導体素子)とコンデンサ、など電子部品で構成された回路によって励起発振する放電型レーザー装置を提供する。本発明の作用は、パルス電源出力を昇圧トランスで高電圧の減衰波形に変換し、負の高電圧減衰波形発生時にダイオードを介してコンデンサを充電し、正の高電圧減衰波形発生時には前記コンデンサ電圧を重畳した高電圧パルスをレーザー管に印加し、放電励起によってレーザー発振するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造が簡単でコストが安い放電型レーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光は、通常の光にはない性質を有するため様々な分野で応用されている。その中でもガスレーザーは構造が簡単で装置コストが安く、とくに窒素レーザーは構成が簡単で幅広い用途への応用が期待できる。
【0003】
例えば、図1(文献1,文献2)は従来の窒素レーザーの構成図である。この装置はレーザー管1a,抵抗2a,ギャップスイッチ3a,コンデンサ4a,整流器5a、6a,抵抗7a,トランス1次コイル8a,コンデンサ9a,電源部10a,トランス2次コイル11a,コンデンサ12a,キャピラリー13a, 14aから構成される部分によってレーザー発振を行う。この装置の作動を次に説明する。
【0004】
図1に示すようにレーザー管1aには窒素ガスを供給するためキャピラリ13a,14aが配管されており、配管途中にはガスを供給あるいは停止させるための弁も設けられている。電源部10aの出力にはコンデンサ9aとトランスの1次コイル8aが接続されており、周期的に電源部10aの出力パルスでコンデンサ9aを充電する。コンデンサ9aに蓄えられたエネルギーは電源部10a内の出力部に設置されたサイリスタ(図示せず)が導通することによってトランスの1次コイル8aに流れ込みLC共振する。トランスの1次側コイル8aの共振電圧は、2次側へ誘導され図3に示す波形のような高電圧を発生する。トランスの2次側コイル11aの出力波形の負の半サイクルで電流はコンデンサ4aダイオード5aを流れコンデンサ4aを充電する。さらに抵抗2a,7aを介してコンデンサ12aも充電する。次に2次側コイル11a出力の正側半サイクルでは、2次側コイル出力とコンデンサ12aに蓄積された電圧の和がレーザー管1aに印加されレーザー管1aは放電開始する。レーザー管1aが放電することにより管のインピーダンスは急激に降下し、コンデンサ4aに蓄積されたエネルギーがギャップスイッチ3aを介してレーザー管1aに投入され、レーザー発振する。
【0005】
上記に記述したように従来回路においてはギャップスイッチ3aが重要な働きをしているが、このスイッチは金属電極を対向させた構造となっており電極間放電の度に電極表面が酸化、あるいは形状劣化しスイッチ性能は不安定で寿命も短くコスト的に不利であり,放射電磁波雑音も多いという欠点を有していた。
【0006】
【非特許文献1】新型簡易励起回路を用いる軸方向放電励起N2レーザ (レーザー学会学術講演会第25回年次大会:平成17年1月20日〜21日)
【非特許文献2】軸方向励起短パルスCO2レーザーの開発(II) (レーザー学会学術講演会第25回年次大会:平成17年1月20日〜21日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、従来のレーザー装置に使用されたギャップスイッチ3aの種々欠点(電極表面が酸化、あるいは形状劣化しスイッチ性能は不安定で寿命も短くコスト的に不利である。また放射電磁波雑音が多い)を解決することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では従来の欠点を解決するため、ギャップスイッチを使用せず、パルス電源出力を昇圧するためのトランスと半導体素子とコンデンサ、など電子部品で構成された回路によって励起発振するレーザー装置を実現する。
【0009】
上記構成によればパルス電源の出力パルスを昇圧トランスで高電圧の減衰波形に変換し、高電圧の負パルス発生時にダイオードを介してコンデンサを充電し、正パルス発生時には前記コンデンサ電圧を重畳したパルス電圧をレーザー管に印加し放電励起によってレーザー発振できる。
【0010】
また本発明のパルス発生部の周期を可変することで数秒から1ミリ秒の間隔でレーザー発振させることが可能である。
【0011】
本発明による放電型レーザー装置は、回路部から放射電磁波を発生しないので放射雑音レベルは極めて少ない。
【0012】
本発明の放電型レーザー装置は、通常の一般的電子部品で構成されているためコストが安く、寿命も長いので工業的応用装置への展開が有利である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パルス電源出力を昇圧するためのトランスと半導体素子とコンデンサなど電子部品とレーザー管で構成することで、長寿命で放射電磁波の少ない安価なレーザー装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図2は本発明による窒素レーザーの構成図である。この装置はレーザー管1b、コンデンサ2b、ダイオード3b、昇圧トランス4b、コンデンサ5b、整流器6b、半導体素子7b、発振回路8b、半導体素子9b、半導体素子10b、コンデンサ11b、整流器12b、トランス13b、キャピラリ−14b、15b、スイッチ16b、パルス発生部17bから構成される。この装置の動作を次に説明する。
【0015】
本発明レーザー装置は、初期段階ではコンデンサ5bは充電されていない。スイッチ16bがオンされると半導体素子9bを介して前記コンデンサ5bが充電される。コンデンサ5bの充電電圧が整流ブリッジ12bの出力電圧値(400V)と等価に到ると半導体素子10bのコレクタ―ヱミッタ間が導通し半導体素子9bのコレクタ−ヱミッタ間が非導通になりコンデンサ5bの充電電圧は前記の値に保持されている。この状態でタイマーICを中心とするパルス発生部17bからある周期のパルスが半導体素子7bのゲートに印加されると半導体素子7bのコレクタ−ヱミッタ間は導通しコンデンサ5bに蓄積されたエネルギーが昇圧トランス4bの1次コイルを通じて放電される。このときコンデンサ5bと昇圧トランス4bの1次側コイルによって共振動作が発生し昇圧トランス4bの2次コイルの端子電圧は図3のように高電圧の共振電圧を発生する。昇圧トランス4bの2次側電圧の極性が(I)の時、整流器3bを通してコンデンサ2bが充電される。このときレーザー管1bには電位が印加されないがコンデンサ2bには電極iが電極iiに対してプラス電位を持つように充電される。2次側電圧の極性が矢印(II)のように反転すると整流器3bのゲートーアノード間には2次側電圧とコンデンサ2bの電圧が重畳された電圧が印加される。整流器3bが逆回復時間(リカバリー時間)の間、それまで順電流によって整流器を構成しているP型半導体およびN型半導体に蓄積されたキャリアによる逆電流が流れゲートーアノード間電圧は低電圧であるが、逆回復時間を経過すると整流器の接合部近傍にキャリア濃度の低い空乏層が形成され整流器は通電しない状態になるためゲートーアノード間電圧が急峻に立ち上がり、この電圧がレーザー管に印加される。レーザー管は減圧され、窒素ガスが流れているのでレーザー管の電極に前記の急峻な高電圧が印加されると放電励起されレーザー発振を開始する。
図2a〜図2dは、前記レーザー管の形状が変化した場合にも発振を容易にするための回路調整方法を示している。
図2aは、整流器3bの逆耐圧を高めるため複数個の整流素子を直列接続した回路を示している。
図2bは、整流器3bの等価容量を調節しレーザー発振を容易にするため複数個の整流素子をレーザー管の電極間に並列接続した回路を示している。
図2cは、ダイオード3bの逆回復時間を調整しレーザー発振を容易にするため、容量を並列接続した回路を示している。
図2dは、放電励起を容易にするため、レーザー管の管面に補助電極を設けた回路を示しており、補助電極とレーザー管の一方の電極間で事前放電させる事で円滑に主放電させる事が可能である。
【0016】
図4はレーザー発振の状態を示している。レーザー管の電極間電圧は50μSで約30KVまで上昇し瞬間的に約4.7A程度の電流が流れレーザー発振している様子が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、分光光源や計測装置などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のレーザー装置
【図2】本発明レーザー装置
【図2a】直列接続した整流器の並列接続図
【図2b】直並列接続した整流器の並列接続図
【図2c】コンデンサのレーザー管への並列接続図
【図2d】レーザー管への補助電極設置図
【図3】昇圧トランス二次側電圧波形
【図4】本発明レーザー装置によるレーザー発振特性
【符号の説明】
【0019】
1aレーザー管
2a抵抗
3aギャップスイッチ
4aコンデンサ
5a整流器
6a整流器
7a抵抗
8aトランス1次コイル
9aコンデンサ
10a電源部
11aトランス2次コイル
12aコンデンサ
13 aキャピラリ
14aキャピラリ
1bレーザー管
2bコンデンサ
3b整流器
4b昇圧トランス
5bコンデンサ
6b整流器
7b半導体素子
8bタイマーIC
9b半導体素子
10b半導体素子
11bコンデンサ
12bブリッジダイオード
13bトランス
14b弁
15b弁
16bスイッチ
17bパルス発生部
18bパルス電源部
19bレーザー発振回路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー管の一端にキャピラリーを介して真空装置を配管接続し、前記レーザー管の他端に放電気体を導入するキャピラリーを備えたレーザー管において、電圧昇圧装置の出力端をコンデンサを介して該レーザー管の一方の電極に接続し、前記電極と前記レーザー管の他方の電極との間に整流器を接続していることを特徴とする放電型レーザー装置。
【請求項2】
前記整流器は、逆電圧を高めるため複数個の整流素子を直列接続した事を特徴とする請求項1に記載の放電型レーザー装置。
【請求項3】
前記整流器は、等価容量を調節するため複数個の整流素子を並列接続した事を特徴とする請求項1に記載の放電型レーザー装置。
【請求項4】
前記整流器の逆回復時間を調節するため容量を並列接続した事を特徴とする請求項1に記載の放電型レーザー装置。
【請求項5】
前記レーザー管において、放電励起を容易に発生させるため、ガラス管の管面に補助電極を設け、前記レーザー管の片方の電極と前記補助電極とを接続した事を特徴とする請求項1〜4に記載の放電型レーザー装置。

【図1】
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【図2】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−16009(P2010−16009A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28214(P2008−28214)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】