説明

放電灯点灯装置

【課題】インダクタの出力に接続するインダクタの磁気飽和を抑えることができる放電灯点灯装置を提供する。
【解決手段】インバータ12は、その出力電圧を正極性にする第1組のスイッチング素子32,33と、負極性にする第2組のスイッチング素子31,34とを備える。ランプ20の始動時に、第1組のスイッチング素子32,33を複数回オン・オフさせた後、第2組のスイッチング素子31,34を複数回オン・オフさせるパターンで、各スイッチング素子31〜34をスイッチング動作させることで、一時的なオフ期間中にインダクタ37に蓄えられたエネルギーが放出され、インダクタ37は磁気飽和を起こさない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電灯の始動時において必要な始動波形を放電灯に提供し、且つ装置にとって損失の少ない手法を提供する放電灯点灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放電灯としてのランプ技術の進歩により、始動時にランプを点灯に至らしめる始動電圧が小さくなっている。これに伴い、放電灯点灯装置において必要とされる始動時の波形も変化してきている。
【0003】
旧来の放電灯は、始動時に15kV前後の高電圧を必要とし、放電灯点灯装置もこれに合せて設計する必要があったが、放電灯内部にクリプトンなどを封入することにより、始動に必要な電圧が3kV〜5kV前後に下がってきている。また、新たなニーズとして、1kV〜2kV前後のパルス電圧を連続的に発生する放電灯点灯装置も要求されている。
【0004】
こうした放電灯の始動電圧低下に伴い、点灯装置の側は従来の高周波始動方式を応用,発展させる形でその要求を実現している。これは具体的には、例えば特許文献1のように、従来の回路方式は変えずに、始動時におけるインバータの周波数を逐次変化させて、共振周波数を部品ばらつきに合せ込んで一時的に所望のパルス電圧を得るものや、他に新たな回路を付加してその実現を図るものなどである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−513539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1などに提案する技術は、何れの場合も放電灯に対応した所望のパルス電圧を得ることができるものの、70kHz〜200kHz程度の高い周波数でインバータを動作させるため、放電灯点灯装置として内部損失が大きくなったり、予期しない高電圧および/または高電流が内部で発生したりする懸念を生じていた。
【0007】
また、インバータの出力には始動時に高圧パルスを放電灯に印加するインダクタが接続されるが、インバータを構成するスイッチング素子の動作タイミングによっては、この高圧パルス印加用のインダクタが磁気飽和を起こす虞れがあった。
【0008】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、インバータを構成するスイッチング素子の動作タイミングを最適化することで、インダクタの出力に接続するインダクタの磁気飽和を抑え、さらには部品を追加することなく内部損失を最小限に抑えることができる放電灯点灯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の放電灯点灯装置は、上記目的を達成するために、放電灯の管電圧にあわせて入力電圧を調整する直流電源回路と、前記直流電源回路からの直流出力を交流電力に変換し、前記放電灯に電流を供給するインバータと、前記直流電源回路および前記インバータを制御する制御回路と、前記インバータの出力に接続され、前記放電灯の始動時に当該放電灯の電極間に高圧パルスを印加するインダクタとを備え、前記放電灯の始動時に、前記第1組のスイッチング素子を複数回オン・オフさせた後、前記第2組のスイッチング素子を複数回オン・オフさせるパターンで、前記各スイッチング素子をスイッチング動作させる構成を有している。
【0010】
また、直前にオンした組の前記スイッチング素子とは異なる組の前記スイッチング素子をオンするタイミングは、直前に全ての前記スイッチング素子がオフし始めたタイミングを0°として、前記インバータの出力に接続されるインダクタの成分と、前記各スイッチング素子に含まれるダイオードとその周辺回路の容量により決まる成分と、前記インバータの入力電圧で決まる共振周波数の周期の0°〜180°の範囲に設定し、直前にオンした組の前記スイッチング素子と同じ組の前記スイッチング素子を再びオンするタイミングは、直前に全ての前記スイッチング素子がオフし始めたタイミングを0°として、前記共振周波数の周期の180°〜360°の範囲に設定するように構成している。
【0011】
この場合の前記制御回路は、前記第1組のスイッチング素子をオンにし、全ての前記スイッチング素子をオフにし、前記第1組のスイッチング素子を再度オンにし、全ての前記スイッチング素子をオフにし、前記第2組のスイッチング素子をオンにし、全ての前記スイッチング素子をオフにし、前記第2組のスイッチング素子をオンにし、全ての前記スイッチング素子をオフにするパターンを繰り返すように、前記各スイッチング素子を動作させる構成とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、第1組または第2組のスイッチング素子がオンすると、インバータの出力に接続したインダクタにエネルギーが蓄えられるが、同じ組のスイッチング素子はその後一時的にオフし、再びオンする動作が行なわれるので、その一時的なオフ期間中にインダクタに蓄えられたエネルギーが放出され、インダクタは磁気飽和を起こさない。よって、インバータを構成するスイッチング素子の動作タイミングを最適化することで、インダクタの出力に接続するインダクタの磁気飽和を抑えることができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、インバータの出力に接続されるインダクタの成分と、スイッチング素子に含まれるダイオードとその周辺回路の容量により決まる成分と、インバータの入力電圧で決まる共振周波数を考慮したタイミングで、各スイッチング素子をオン動作させることで、それらのスイッチング素子に含まれる容量成分を充放電するための大きな電流を流さないようにすることができる。そのため、インバータを構成するスイッチング素子の動作タイミングを最適化することで、わざわざ部品を追加することなく内部損失を最小限に抑えることができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、従来と比べて同じスイッチング回数であっても、インバータの出力電圧の極性を異なるようにするスイッチング回数は半分となるので、放電灯点灯装置としての内部損失を半減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例における放電灯点灯装置の構成を示すブロック図である。
【図2】上記実施例におけるインバータおよびイグナイタの一部構成を示す等価回路図である。
【図3】上記実施例における各スイッチング素子の動作状態を示すタイミングチャートである。
【図4】上記実施例の動作状態を説明する各部の波形図である。
【図5】上記実施例において、全てのスイッチング素子をオフしたときのインバータの動作状態を示す等価回路図である。
【図6】上記実施例において、全てのスイッチング素子をオフしたときのインダクタ電流とインダクタ電圧の波形図である。
【図7】比較例として、各スイッチング素子の別な動作状態を示すタイミングチャートである。
【図8】上記比較例の動作状態を説明する各部の波形図である。
【図9】上記比較例の動作状態を説明する各部の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について説明する。
【0017】
図1において、本実施例の放電灯点灯装置は、ダウンチョッパー11,インバータ12,イグナイタ13および制御回路15から構成され、イグナイタ13に接続する出力端子17,18には放電灯であるランプ20が接続される。ダウンチョッパー11は本発明の直流電源回路に相当するもので、ランプ20の管電圧にあわせて所定の定電力を供給するために、入力端子22,23間に印加される直流入力電圧Vinを調整するものであり、この例では入力電圧Vinをチョッパー処理により降下させ、ランプ20に一定の電力を供給するための電流制御を行なう。このダウンチョッパー11の出力電流は、インバータ12に出力される。
【0018】
ダウンチョッパー11の出力端間には抵抗25,26の直列回路が接続され、抵抗25,26の接続点に発生する電位が、ダウンチョッパー11の出力電圧として制御回路15に供給される。また、ダウンチョッパー11の負電位側ラインには、電流検出器たる抵抗27が挿入接続され、抵抗27に流れる電流がランプ電流として検出されて制御回路15に供給される。インバータ12は、複数のスイッチング素子から構成され、これらのスイッチング素子をスイッチングすることにより、ダウンチョッパー11からの直流電圧を交流電圧に変換してイグナイタ13に出力する。また、パルス発生回路に相当するイグナイタ13は、例えばトリガトランスおよびその駆動回路などから構成され、ランプ20の点灯を開始させる始動時に高圧パルスを発生して、これをトリガトランスからランプ20の電極間に印加する。
【0019】
上記ダウンチョッパー11,インバータ12およびイグナイタ13を制御する制御回路15は、例えばマイクロプロセッサを含む回路で構成される。ここでの制御回路15は、例えばダウンチョッパー11の出力電圧およびランプ電流をそれぞれ取り込んで、ランプ20に供給される電力が一定になるように、ダウンチョッパー11の出力電流を制御する。また制御回路15は、インバータ12の出力周波数を適宜制御するとともに、イグナイタ13を始動時に制御して高電圧を発生させる。
【0020】
図2は、前記インバータ12の等価回路を示したもので、ここではイグナイタ13の一部構成も図示している。同図において、インバータ12はフルブリッジ接続された4つのスイッチング素子31〜34により構成され、ダウンチョッパー11の出力端間には、入力コンデンサ30の他に、第1スイッチング素子31および第2スイッチング素子32からなる第1直列回路と、第3スイッチング素子33および第4スイッチング素子34からなる第2直列回路がそれぞれ接続される。また、イグナイタ13の高電圧発生回路部として、前記トリガトランスのインダクタンス成分に相当するインダクタ37と、トリガ高電圧発生時におけるノイズキャンセル用のコンデンサを含むキャパシタ38とからなる逆L型回路が、インバータ12の出力端と放電灯点灯装置の出力端子17,18との間に接続される。これにより、スイッチング素子33,34の接続点にインダクタ37の一端とキャパシタ38の一端が接続され、インダクタ37の他端に出力端子17を介してランプ20の一方の電極が接続され、スイッチング素子31,32の接続点にキャパシタ38の他端と、ランプ20の他方の電極が接続される構成となっている。
【0021】
前記インバータを構成するスイッチング素子31〜34は、何れも同特性を有するNチャネルのMOS型FETであり、ドレインとソースの間にはスイッチング素子31〜34に内包するダイオード31a〜34aが逆並列接続される。これらのダイオード31a〜34aは、順方向に電流が流れてオンしているときに、逆方向に電流を流さないとオフしない特性があり、各ダイオード31a〜34aがターンオフするまで逆方向の電流を流す容量成分として、逆回復電荷量が各々存在する。なお、ダイオード31a〜34aの逆回復電荷量は、スイッチング素子31〜34のドレイン−ソース間の寄生容量よりも十分に大きい。また、ここでいう逆回復電荷量とは、スイッチング素子31〜34に内蔵するダイオード31a〜34aに限らず、ダイオード31a〜34aの周辺回路として、例えばドレインとソースとの間に接続する外付けのコンデンサによるものなど、ダイオード31a〜34aの周辺に接続するあらゆる素子の容量により決まる成分も含む。
【0022】
制御回路15は、始動時にスイッチング素子32,33のゲートに共通して与える第1駆動信号のオンパルスと、スイッチング素子31,34のゲートに共通して与える第2駆動信号のオンパルスとを、双方のオンパルスが重ならないようなデッドタイムを有しつつ、周期的に繰り返し生成する。それにより、インバータ12からイグナイタ13を介してランプ20の両端間に正負の出力電圧Voutが印加される。なお、図2はランプ20の始動時における等価回路を示しており、ここでは点灯直後のランプ20を想定して、出力端子17,18間に等価的な例えば30Vの定電圧負荷40が接続される。
【0023】
次に、上記構成の放電灯点灯装置に関し、その動作を説明する。
【0024】
ランプ20の始動時において、ダウンチョッパー11は入力した直流電圧Vinをチョッパー処理により降下させ、その出力電流をインバータ12に出力する。インバータ12は、制御回路15からの駆動信号によってスイッチング素子31〜34がスイッチング動作されることにより、ダウンチョッパー11からの直流電流を所定の周波数の交流電流に変換してイグナイタ13に出力する。イグナイタ13を構成するトリガトランスを等価的に示したインダクタ37には、始動時に高圧パルスが誘起され、イグナイタ13はこの高圧パルスをインバータ12から供給される交流電圧に重畳して、ランプ20に供給する。
【0025】
こうして、ランプ20に高電圧パルスが印加されると、ランプ20はその電極間に絶縁破壊が発生して放電を開始する。放電が開始されると、ランプ20には電流が流れ、インバータ12からイグナイタ13を介して適切な電力が供給されることによりランプ20は点灯を開始する。その後、制御回路15はダウンチョッパー11の出力電圧およびランプ電流を取り込んで、ランプ20に一定電力が供給されるようにダウンチョッパー11を制御する。
【0026】
図3は、始動時における各スイッチング素子31〜34の動作状態を示すタイミングチャートである。同図おいて、上段は第1組のスイッチング素子32,33の動作タイミングを示し、下段は第2組のスイッチング素子31,34の動作タイミングを示している。
【0027】
先ず時間(1)において、制御回路15からスイッチング素子32,33のゲートにオンパルスの駆動信号を与え、これらのスイッチング素子32,33をオンにする。このときインバータ12は、ダウンチョッパー11の出力端に発生する電圧をイグナイタ13にそのまま出力するので、キャパシタ38が充電すると共に、インダクタ37の一端から他端に電流が流れてエネルギーが蓄えられ、インバータ12の出力電流はインダクタ37のインダクタンス値で決定される傾きで増加する。また、出力端子18に接続する負荷40の他端を基準として、出力端子17に接続する負荷40の一端には、正極性の出力電圧Voutが印加される。
【0028】
やがて時間(2)になり、制御回路15からスイッチング素子32,33へのオンパルスの駆動信号が停止すると、全てのスイッチング素子31〜34はオフする。時間(2)から次にスイッチング素子32,33を再びオンにする時間(3)までの期間は、インダクタ37の磁気飽和を防ぐために設けられたものである。
【0029】
スイッチング素子31〜34がオフすると、インダクタ37を流れる電流の連続性によってダイオード31a,34aがオンし、スイッチング素子31,34にダイオード31a,34aのアノードからカソードを通して電流が流れる。このときのインバータ12の出力電流は、インダクタ37のインダクタンス値で決定される傾きで減少する。また、負荷40の一端には負極性の出力電圧Voutが印加される。
【0030】
その後、インダクタ37に蓄えられたエネルギーが全て放出し、インダクタ37の一端から他端への電流の流れがゼロになると、インダクタ37を流れる電流の極性が反転する。この逆向きの電流は時間の経過と共にゼロから次第に増加し、インダクタ37はエネルギーを再び蓄えるが、負荷40の一端には引き続き負極性の出力電圧Voutが印加され、電圧極性は反転しない。また、ダイオード31a,34aはすぐにはオフせず、ダイオード31a,34aはカソードからアノードに向けての逆向きの電流が流れる。
【0031】
こうして、ダイオード31a,34aの前記逆回復電荷量で決まる一定期間が経過して、これらのダイオード31a,34aがターンオフすると、今度はダイオード32a,33aがオンして、スイッチング素子32,33にダイオード32a,33aのアノードからカソードを通して電流が流れる。それによりインダクタ37に蓄えられたエネルギーが放出し、インダクタ37を流れる逆向きの電流は増加から減少に転じると共に、負荷40の一端に印加される出力電圧Voutも負極性から正極性に反転する。
【0032】
この後に時間(3)になり、制御回路15からスイッチング素子32,33のゲートにオンパルスの駆動信号を与え、これらのスイッチング素子32,33を再びオンにする。このときのスイッチング素子32,33は、ダイオード32a,33aを通して電流が流れており、ドレイン−ソース間の電圧がほぼゼロの状態でスイッチングされる。したがって、スイッチング素子32,33のオン時における損失を減らすことができる。
【0033】
スイッチング素子32,33が再びオンすると、インバータ12はダウンチョッパー11の出力端に発生する電圧をイグナイタ13にそのまま出力するので、キャパシタ38が充電すると共に、インダクタ37に蓄えられたエネルギーが全て放出すると、インダクタ37を流れる電流の向きは逆転して一端から他端に向けて電流が流れるようになり、インダクタ37は再びエネルギーを蓄えて、その電流はインダクタ37のインダクタンス値で決定される傾きで増加する。また、負荷40の一端には正極性の出力電圧Voutが印加される。
【0034】
やがて時間(4)になり、制御回路15からスイッチング素子32,33へのオンパルスの駆動信号が停止すると、全てのスイッチング素子31〜34はオフする。この後の動作は、上記時間(2)の説明と同様である。
【0035】
時間(5)になると、制御回路15からスイッチング素子31,34のゲートにオンパルスの駆動信号が与えられ、これらのスイッチング素子31,34がオンする。スイッチング素子31,34がオンするタイミングは、これらのスイッチング素子31,34にダイオード31a,34aを通して電流が流れている間、すなわちインダクタ37の一端から他端に流れる電流がゼロになるまでの間とする。それにより、スイッチング素子31,34のドレイン−ソース間の電圧がほぼゼロの状態で、これらのスイッチング素子31,34をオンすることができ、損失を減らすことができる。
【0036】
スイッチング素子31,34がオンすると、インバータ12はダウンチョッパー11の出力端に発生する電圧をイグナイタ13に反転して出力するので、インダクタ37に蓄えられたエネルギーが全て放出すると、インダクタ37を流れる電流の向きは逆転して他端から一端に向けて電流が流れるようになり、インダクタ37は再びエネルギーを蓄えて、その電流はインダクタ37のインダクタンス値で決定される傾きで増加する。また、キャパシタ38は逆極性で充電されると共に、負荷40の一端には負極性の出力電圧Voutが印加される。
【0037】
やがて時間(6)になり、制御回路15からスイッチング素子31,34へのオンパルスの駆動信号が停止すると、全てのスイッチング素子31〜34はオフする。時間(6)から次にスイッチング素子32,33を再びオンにする時間(7)までの期間は、インダクタ37の磁気飽和を防ぐために設けられたものである。
【0038】
スイッチング素子31〜34がオフすると、インダクタ37を流れる電流の連続性によってダイオード32a,33aがオンし、スイッチング素子32,33にダイオード32a,33aのアノードからカソードを通して電流が流れる。このときのインバータ12の出力電流は、インダクタ37のインダクタンス値で決定される傾きで減少する。また、負荷40の一端には正極性の出力電圧Voutが印加される。
【0039】
その後、インダクタ37に蓄えられたエネルギーが全て放出し、インダクタ37の他端から一端への電流の流れがゼロになると、インダクタ37を流れる電流の極性が反転する。このインダクタ37の一端から他端に向けての電流は、時間の経過と共にゼロから次第に増加し、インダクタ37はエネルギーを再び蓄えるが、負荷40の一端には引き続き正極性の出力電圧Voutが印加され、電圧極性は反転しない。また、ダイオード32a,33aはすぐにはオフせず、ダイオード32a,33aはカソードからアノードに向けての逆向きの電流が流れる。
【0040】
こうして、ダイオード32a,33aの前記逆回復電荷量で決まる一定期間が経過して、これらのダイオード32a,33aがターンオフすると、今度はダイオード31a,34aがオンして、スイッチング素子31,34にダイオード31a,34aのアノードからカソードを通して電流が流れる。それによりインダクタ37に蓄えられたエネルギーが放出し、インダクタ37を流れる電流は増加から減少に転じると共に、負荷40の一端に印加される出力電圧Voutも正極性から負極性に反転する。
【0041】
この後に時間(7)になり、制御回路15からスイッチング素子31,34のゲートにオンパルスの駆動信号を与え、これらのスイッチング素子31,34を再びオンにする。このときのスイッチング素子31,34は、ダイオード31a,34aを通して電流が流れており、ドレイン−ソース間の電圧がほぼゼロの状態でスイッチングされる。したがって、スイッチング素子31,34のオン時における損失を減らすことができる。
【0042】
スイッチング素子31,34が再びオンすると、インバータ12はダウンチョッパー11の出力端に発生する電圧をイグナイタ13に反転して出力するので、インダクタ37に蓄えられたエネルギーが全て放出すると、インダクタ37を流れる電流の向きは逆転して他端から一端に向けて電流が流れるようになり、インダクタ37は再びエネルギーを蓄えて、その電流はインダクタ37のインダクタンス値で決定される傾きで増加する。また、キャパシタ38は逆極性で充電されると共に、負荷40の一端には負極性の出力電圧Voutが印加される。
【0043】
やがて時間(8)になり、制御回路15からスイッチング素子31,34へのオンパルスの駆動信号が停止すると、全てのスイッチング素子31〜34はオフする。この後の動作は、上記時間(6)の説明と同様である。
【0044】
次に、再び時間(1)になると、制御回路15からスイッチング素子32,33のゲートにオンパルスの駆動信号が与えられ、これらのスイッチング素子32,33がオンする。スイッチング素子32,33がオンするタイミングは、これらのスイッチング素子32,33にダイオード32a,33aを通して電流が流れている間、すなわちインダクタ37の他端から一端に流れる電流がゼロになるまでの間とする。それにより、スイッチング素子32,33のドレイン−ソース間の電圧がほぼゼロの状態で、これらのスイッチング素子32,33をオンすることができ、損失を減らすことができる。その後は、上述した時間(1)〜時間(8)の動作が繰り返され、ランプ40に正負交互の出力電圧Voutが印加される。
【0045】
図4は、上記一連の動作に基づく各部の波形図を示している。同図において、最上段の波形はスイッチング素子34のゲート電圧であり、以下、スイッチング素子32のゲート電圧と、インバータ12の出力電圧と、インバータ12の出力電流とをそれぞれ示している。但し、インバータ12の出力電圧と出力電流は、上記図3に基づく動作説明と極性が反転している。
【0046】
先ず時間(5)では、制御回路15がスイッチング素子31,34をオンにするが、このときのスイッチング素子31,34は、内蔵するダイオード31a,34aに電流が流れており、スイッチング素子31,34のドレイン−ソース間の電圧はほぼゼロの状態となっている。
【0047】
時間(6)になると、制御回路15はスイッチング素子31,34をオフにする。それと同時に、エネルギーを蓄えたインダクタ37がインバータ12に電流を流し続ける電源となり、スイッチング素子32,33のダイオード32a,33aがオンする。また、インバータ12の出力極性は負(−)から正(+)に反転する。
【0048】
その後、時間(6)−aになると、インダクタ37により供給する電流の向きが反転し、ダイオード32a,33aに逆電流が流れる。これにより、インバータ12の出力電圧の極性は変化しないが、出力電流の極性は負から正に反転する。
【0049】
やがて時間(6)−bになり、ダイオード32a,33aがオフすると、インダクタ37の電流供給によって、ダイオード31a,34aがオンする。それにより、インバータ12の出力電流は減少に転じ、インバータ12の出力極性は正から負に反転する。
【0050】
時間(7)では、制御回路15がスイッチング素子31,34を再びオンにする。このときのスイッチング素子31,34は、内蔵するダイオード31a,34aに電流が流れており、スイッチング素子31,34のドレイン−ソース間の電圧はほぼゼロの状態となっている。
【0051】
次に時間(8)になると、制御回路15はスイッチング素子31,34をオフにする。それと同時に、エネルギーを蓄えたインダクタ37がインバータ12に電流を流し続ける電源となり、ダイオード32a,33aがオンする。また、インバータ12の出力極性は負から正に反転する。
【0052】
その後の時間(1)において、制御回路15はスイッチング素子32,33をオンにする。このときのスイッチング素子32,33は、内蔵するダイオード32a,33aに電流が流れており、スイッチング素子32,33のドレイン−ソース間の電圧はほぼゼロの状態となっている。
【0053】
これ以降の時間(1)〜時間(5)の動作は、インバータ12の出力電圧と出力電流が何れも逆極性で、上記時間(5)〜時間(8)と同じ動作となる。
【0054】
上記一連の動作では、時間(7)の動作を時間(6)−bの後にすることで、スイッチング素子31,34のターンオン損失を減らすことができる。但し、上記時間(6)−aから時間(6)−bに至る動作は、インダクタ37と、ダイオード32a,33aの逆回復電荷量と、インバータ12の入力電圧とに基づくもので、その動作期間に基づき時間(7)を設定することが必要である。
【0055】
上述のように、ランプ20を点灯に至らしめる始動時には、制御回路15が一定のパターンで4つのスイッチング素子31〜34をスイッチング動作させる。このときのスイッチング周波数は比較的高く(30kHz〜100kHzが好適な範囲)、図3に示すスイッチング周期Tは20μSec=50kHzである。特に本実施例では、インバータ12の出力電圧を一方の極性にする第1組のスイッチング素子32,33と、他方の極性にする第2組のスイッチング素子31,34とを有し、第1組のスイッチング素子32,33をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第1組のスイッチング素子32,33をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第2組のスイッチング素子31,34をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第2組のスイッチング素子31,34をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにするパターンを繰り返すように、制御回路15がインバータ12の動作を制御する。
【0056】
図3において、時間(1)から時間(2)に至る期間T1は、時間(5)から時間(6)に至る期間T5と同じ長さで、実施例では2.3μSecに設定される。期間T1はスイッチング素子32,33が1回目にオンする時間幅に相当し、また期間T5はスイッチング素子31,34が1回目にオンする時間幅に相当するが、これらの期間T1,T5が長くなる程、インバータ12の出力電流は多くなる。
【0057】
時間(2)から時間(3)に至る期間T2は、時間(6)から時間(7)に至る期間T6と同じ長さで、実施例では4μSecに設定される。期間T2または期間T6は、同じ組のスイッチング素子32,33またはスイッチング素子31,34が再度オンするまでの間に、全てのスイッチング素子31〜34をオフにする極性非反転のデッドタイムに相当するが、これらの期間T2,T6が長くなる程、次にスイッチング素子32,33またはスイッチング素子31,34をオンしたときの損失を確実に低減できる。
【0058】
時間(3)から時間(4)に至る期間T3は、時間(7)から時間(8)に至る期間T7と同じ長さで、実施例では1.9μSecに設定される。期間T3はスイッチング素子32,33が2回目にオンする時間幅に相当し、また期間T7はスイッチング素子31,34が2回目にオンする時間幅に相当するが、これらの期間T3,T7が長くなる程、インバータ12の出力電流は多くなる。
【0059】
時間(4)から時間(5)に至る期間T4は、時間(8)から時間(1)に至る期間T8と同じ長さで、実施例では1.8μSecに設定される。期間T4は、直前にオン動作したスイッチング素子32,33とは異なる組のスイッチング素子31,34がオンするまでの間に、全てのスイッチング素子31〜34をオフにする極性反転のデッドタイムに相当し、また期間T8は、直前にオン動作したスイッチング素子31,34とは異なる組のスイッチング素子32,33がオンするまでの間に、全てのスイッチング素子31〜34をオフにする極性反転のデッドタイムに相当するが、これらの期間T4,T8が短くなる程、次にスイッチング素子32,33またはスイッチング素子31,34をオンしたときの損失を確実に低減できる。
【0060】
上記期間T1〜T8は、制御回路15のソフトウェア構成を変えることで容易に変更でき、設定した時間幅は上記実施例のものに限定されない。また、期間T1〜T4のそれぞれを、期間T5〜T8と同一に設定する必要もなく、図3や図4に示すようなパターン以外で各スイッチング素子31〜34をスイッチング動作させてもよい。
【0061】
次に、上記全てのスイッチング素子31〜34をオフしたときの、インバータ12の動作を、図5および図6に基づき説明する。図5はインバータ12の動作状態を示す等価回路図であり、図6はインダクタ37を流れる電流(インダクタ電流)ILと、インダクタンス37に印加する電圧(インダクタ電圧)VLと、をそれぞれ示している。
【0062】
期間(A)では、ダイオード32a,33aがオフすることにより、インダクタ37がエネルギーを放出し、その一端から他端に向けてインダクタ電流ILが流れる。このとき、ダイオード31a,34aはオンして順方向に電流が流れ、インダクタ電流ILは直線的に減少する。インダクタ37のエネルギーが全て放出すると、期間(B)に遷移する。
【0063】
期間(B)では、インダクタ37がエネルギーを蓄えて、その他端から一端に向けてインダクタ電流ILが流れる。このとき、ダイオード31a,34aはオンし続けて逆方向に電流が流れ、インダクタ電流ILは直線的に増加する。期間(B)の長さとインダクタ電流ILの積が、ダイオード31a,34aの逆回復電荷量に達すると、次の期間(C)に遷移する。
【0064】
期間(C)は、ダイオード31a,34aがオフすることにより、インダクタ37がエネルギーを放出して、その他端から一端に向けてインダクタ電流ILが流れる。このとき、ダイオード32a,33aはオンして順方向に電流が流れ、インダクタ電流ILは直線的に減少する。インダクタ37のエネルギーが全て放出すると、期間(D)に遷移する。
【0065】
期間(D)は、インダクタ37がエネルギーを蓄えて、その一端から他端に向けてインダクタ電流ILが流れる。このとき、ダイオード32a,33aはオンし続けて逆方向に電流が流れ、インダクタ電流ILは直線的に増加する。期間(D)の長さとインダクタ電流ILの積が、ダイオード32a,33aの逆回復電荷量に達すると、次の期間(A)に遷移する。
【0066】
こうして、期間(A)〜期間(D)の動作が繰り返されることになるが、このときのインダクタ37と各ダイオード31a〜34aの逆回復電荷量とによる共振周波数fは、次の数式であらわせる。
【0067】
【数1】

【0068】
上記式において、Lはインダクタ37のインダクタンス値、Qrrはダイオード31a〜34aの逆回復電荷量、Vはインバータ12の入力電圧である。したがって、上述したスイッチング素子32,33をオンにする時間(1),(3)や、スイッチング素子31,34をオンにする時間(5),(7)は、何れもインダクタ37のインダクタンス値Lと、スイッチング素子31〜34に内蔵するダイオード31a〜34aの逆回復電荷量Qrrと、インバータ12の入力電圧Vで一義的に決まる共振周波数fに基づいて設定すればよい。
【0069】
本実施例の放電灯点灯装置は、ランプ20の管電圧にあわせて入力電圧Vinを調整する直流電源回路としてのダウンチョッパー11と、ダウンチョッパー11からの直流出力を交流電力に変換し、ランプ20に出力電流を供給するインバータ12と、これらのダウンチョッパー11やインバータ12を制御する制御回路15と、インバータ12の出力に接続され、ランプ20の始動時に、このランプ20の電極間に高圧パルスを印加するインダクタ37を備え、インバータ12はインバータ12の出力電圧を一方の正極性にする第1組のスイッチング素子32,33と、他方の負極性にする第2組のスイッチング素子31,34からなる好ましくは4つのスイッチング素子31〜34を備え、制御回路15は、ランプ20の始動時に一定のパターンで各スイッチング素子31〜34をスイッチング動作させる構成を有する。
【0070】
そして特に重要なことは、ここではランプ20の始動時に、第1組のスイッチング素子32,33を複数回オン・オフさせた後、第2組のスイッチング素子31,34を複数回オン・オフさせるパターンで、各スイッチング素子31〜34をスイッチング動作させている、ということである。
【0071】
この場合、スイッチング素子32,33またはスイッチング素子31,34がオンすると、インバータ12の出力に接続したインダクタ37にエネルギーが蓄えられるが、同じ組のスイッチング素子32,33またはスイッチング素子31,34は、その後一時的にオフし、再びオンする動作が行なわれるので、その一時的なオフ期間T2または期間T6中に、インダクタ37に蓄えられたエネルギーが放出され、インダクタ37は磁気飽和を起こさない。よって、インバータ12を構成するスイッチング素子31〜34の動作タイミングを最適化することで、インダクタ12の出力に接続するインダクタ37の磁気飽和を抑えることができる。
【0072】
しかも本実施例では、直前にオンした組のスイッチング素子32,33またはスイッチング素子31,34とは異なる組のスイッチング素子31,34またはスイッチング素子32,33をオンする時間(5)や時間(1)は、直前に全てのスイッチング素子31〜34がオフし始めた時間(4)や時間(8)を0°と起算して、インバータ12の出力に接続されるインダクタ37の成分と、スイッチング素子31〜34に含まれるダイオード31a〜34aとその周辺回路の容量により決まる成分と、インバータ12の入力電圧で一義的に決まる共振周波数の周期の0°〜180°の範囲に設定する一方で、直前にオンした組のスイッチング素子32,33またはスイッチング素子31,34と同じ組のスイッチング素子32,33またはスイッチング素子31,34を再度オンする時間(3)や時間(7)は、直前に全てのスイッチング素子31〜34がオフし始めた時間(2)や時間(6)を0°と起算して、前記共振周波数の周期の180°〜360°の範囲に設定している。
【0073】
ここでいう180°とは、共振周波数の半周期に相当する時間を意味し、図4の時間(2)−bや時間(6)−bがこれに対応する。また360°とは、共振周波数の一周期に相当する時間を意味する。
【0074】
このように、インバータ12の出力に接続されるインダクタ37の成分と、スイッチング素子31〜34に含まれるダイオード31a〜34aとその周辺回路の容量により決まる成分と、インバータ12の入力電圧で決まる共振周波数を考慮したタイミングで、各スイッチング素子31〜34をオン動作させると、それらのスイッチング素子31〜34に含まれる容量成分を充放電するための大きな電流は流れない。そのため、インバータ12を構成するスイッチング素子31〜34の動作タイミングを最適化することで、わざわざ部品を追加することなく内部損失を最小限に抑えることができる。
【0075】
また、特に上記時間(5)や時間(1)は、時間(4)や時間(8)を0°と起算して、共振周波数の周期の90°±20°(70°以上110°以下)の範囲に設定するのが好ましく、上記時間(3)や時間(7)は、時間(2)や時間(6)を0°と起算して、共振周波数の周期の270°±20°(250°以上290°以下)の範囲に設定するのが好ましい。そうすることで、より確実にインバータ12を構成するスイッチング素子31〜34の動作タイミングを最適化することが可能になる。
【0076】
また本実施例の制御回路15は、第1組のスイッチング素子32,33をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第1組のスイッチング素子32,33をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第2組のスイッチング素子31,34をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第2組のスイッチング素子31,34をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにするパターンを繰り返すように、制御回路15がインバータ12の動作を制御する。
【0077】
また、従来の始動時におけるインバータ12の駆動手順は、第1組のスイッチング素子32,33をオンし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第2組のスイッチング素子31,34をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにする動作を繰り返していた。ここで、全てのスイッチング素子31〜34をオフにする期間は、一般的にデッドタイムと呼ばれるが、このときランプ20が点灯していない状態でインバータ12に流れる電流は、インバータ12の出力に等価的に接続される容量成分(キャパシタ38)の充放電電流となり、これが放電灯点灯装置の内部損失となる。
【0078】
この点、本実施例の放電灯点灯装置は、第1組のスイッチング素子32,33をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第1組のスイッチング素子32,33をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第2組のスイッチング素子31,34をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにし、第2組のスイッチング素子31,34をオンにし、全てのスイッチング素子31〜34をオフにするパターンを繰り返すように、従来とは異なるパターンで制御回路15が各スイッチング素子31〜34をスイッチング動作させる。そのため、同じスイッチング回数であっても、インバータ12の出力電圧の極性を異なるようにするスイッチング回数は半分となるので、放電灯点灯装置としての内部損失を半減することができる。
【0079】
比較のために、実施例と同じパターンでスイッチング素子31〜34をスイッチング動作させたときの、起動時における別な動作タイミングの例を図9に示す。ここでのスイッチング周期Tは、上記実施例と同じく20μSec=50kHzである。同図において、期間T1と期間T5、およびは期間T3と期間T7は同じ長さで、いずれも2μSecに設定される。また、期間T2と期間T6、およびは期間T4と期間T8は同じ長さで、いずれも3μSecに設定される。
【0080】
図8および図9は、図7に示すタイミングで各スイッチング素子31〜34を動作させたときの、各部の波形図を示している。なお、ここでの比較例は、各スイッチング素子31〜34の動作タイミング以外は、実施例で示したものと共通している。
【0081】
図8はインバータ12の出力電流が1.8Aの波形を示し、図9はインバータ12の出力電流が2.8Aの波形を示している。これらの各図では、スイッチング素子34のゲート電圧と、スイッチング素子32のゲート電圧と、インバータ12の出力電圧と、インバータ12の出力電流が順に示されている。
【0082】
図8では、時間(4)−aにおいて、インバータ12の出力電圧の極性が負から正に反転した後、すなわち共振周波数の180°以降に、時間(5)の動作が行なわれる。このときのスイッチング素子31,34は、内蔵するダイオード31a,34aに電流が流れておらず、ドレイン−ソース間の寄生容量が充電されている。そのためスイッチング素子31,34をオンすると、スイッチング素子32,33に内蔵するダイオード32a,33aが急速に電圧変化し、リカバリ電流が流れて内部損失が発生する。こうした損失は、時間(8)−aにおいて、インバータ12の出力電圧の極性が正から負に反転した後、時間(1)の動作が行なわれる際にも発生する。
【0083】
また、時間(7)において、スイッチング素子31,34を再度オンにする動作は、実施例における時間(6)−bの前、すなわち共振周波数の180°よりも前に行なわれる。このとき、スイッチング素子32,33のダイオード32a,33aには電流が流れているので、スイッチング素子31,34をオンするとリカバリ電流が流れてやはり内部損失が発生する。こうした損失は、時間(3)において、スイッチング素子32,33を再度オンにする動作が、実施例における時間(2)−bの前に行なわれる際にも発生する。
【0084】
一方、図9においても、時間(7)において、スイッチング素子31,34を再度オンにする動作は、実施例における時間(6)−bの前、すなわち共振周波数の180°よりも前に行なわれ、内部損失が発生する。こうした損失は、時間(3)において、スイッチング素子32,33を再度オンにする動作が、実施例における時間(2)−bの前に行なわれる際にも発生する。
【0085】
図8と図9における波形の違いは、インバータ12の出力電圧の極性を反転させるスイッチング素子31〜34のオンタイミングに依存する。ダウンチョッパー11による定電力制御によって、インバータ12の出力電流が小さく、負荷40への出力電圧が大きくなると、インバータ12の出力電流が減少する際の傾きが大きくなり、スイッチング素子31〜34のオンタイミングは相対的に遅くなる。そのため、図8に示すモードでは、変極点が多くなってインバータ12の出力電流が小さくなる。インバータ12の出力電流を多くするには、スイッチング素子31〜34のオン時間である時間T1,T3,T5,T7を大きくすればよいが、電流の傾きはインダクタ37のインダクタンス値で一義的に決まるため、限界がある。
【0086】
なお本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。インバータ12の出力端に接続するインダクタ37は、トリガトランスのインダクタンス成分に限定されず、またキャパシタ38もトリガ高電圧発生時におけるノイズキャンセル用のコンデンサに限定されない。さらに、実施例で示した各期間T1〜T8の設定は、あくまでも一例に過ぎない。
【符号の説明】
【0087】
11 ダウンチョッパー(直流電源回路)
12 インバータ
15 制御回路
20 ランプ(放電灯)
31 スイッチング素子(第2組のスイッチング素子)
32 スイッチング素子(第1組のスイッチング素子)
33 スイッチング素子(第1組のスイッチング素子)
34 スイッチング素子(第2組のスイッチング素子)
31a,32a,33a,34a ダイオード
37 インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電灯の管電圧にあわせて入力電圧を調整する直流電源回路と、
前記直流電源回路からの直流出力を交流電力に変換し、前記放電灯に電流を供給するインバータと、
前記直流電源回路および前記インバータを制御する制御回路と、
前記インバータの出力に接続され、前記放電灯の始動時に当該放電灯の電極間に高圧パルスを印加するインダクタとを備え、
前記インバータは、当該インバータの出力電圧を一方の極性にする第1組のスイッチング素子と、他方の極性にする第2組のスイッチング素子とを備え、
前記放電灯の始動時に、前記第1組のスイッチング素子を複数回オン・オフさせた後、前記第2組のスイッチング素子を複数回オン・オフさせるパターンで、前記各スイッチング素子をスイッチング動作させる構成としたことを特徴とする放電灯点灯装置。
【請求項2】
直前にオンした組の前記スイッチング素子とは異なる組の前記スイッチング素子をオンするタイミングは、直前に全ての前記スイッチング素子がオフし始めたタイミングを0°として、前記インバータの出力に接続されるインダクタの成分と、前記各スイッチング素子に含まれるダイオードとその周辺回路の容量により決まる成分と、前記インバータの入力電圧で決まる共振周波数の周期の0°〜180°の範囲に設定し、
直前にオンした組の前記スイッチング素子と同じ組の前記スイッチング素子を再びオンするタイミングは、直前に全ての前記スイッチング素子がオフし始めたタイミングを0°として、前記共振周波数の周期の180°〜360°の範囲に設定するように構成したことを特徴とする請求項1記載の放電灯点灯装置。
【請求項3】
前記制御回路は、前記第1組のスイッチング素子をオンにし、全ての前記スイッチング素子をオフにし、前記第1組のスイッチング素子を再度オンにし、全ての前記スイッチング素子をオフにし、前記第2組のスイッチング素子をオンにし、全ての前記スイッチング素子をオフにし、前記第2組のスイッチング素子をオンにし、全ての前記スイッチング素子をオフにするパターンを繰り返すように、前記各スイッチング素子を動作させるものであることを特徴とする請求項2記載の放電灯点灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−159479(P2011−159479A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19715(P2010−19715)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(390013723)TDKラムダ株式会社 (272)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】