説明

放電状態検知装置および放電状態検知方法

【課題】異常放電の発生回数の検出のみならず、異常放電の状態を把握することが可能な放電状態検知装置および放電状態検知方法を得る。
【解決手段】高周波電力で被処理体の表面に薄膜を形成する基板処理装置60より発生した放電を検出し、放電の状態を検出する放電状態検知装置2であって、放電によって発生する基板処理装置60からの反射波電力を検出し電圧として出力する反射波検波器12と、反射波検波器12からの電圧を積分する反射波積分器14と、瞬間的な放電が発生したか否かを判定する第1の設定値21と反射波検波器12からの電圧とを比較した結果と、継続的な放電が発生したか否かを判定する第2の設定値22と積分器で積分された電圧とを比較した結果と、に応じて、継続的な放電の数と瞬間的な放電の数とをカウントする放電状態検知部70と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放電を利用して基板に所定の処理を施す基板処理装置で発生する異常放電を検出する放電状態検知装置および放電状態検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放電を利用した基板処理装置は、真空排気装置を用いて真空容器内を真空排気し、ガスを少量導入して電極間に電圧を印加することで電極間に放電場を生成させ、電極におかれた基板に処理を施すものである。例えば、基板に薄膜を形成したい場合では、薄膜の材料となるターゲット材料に電圧を印加する。
【0003】
ここで、ターゲット材料の直下に磁石を配置することで放電場を高密度に閉じ込めることができ、一般にこの技術はマグネトロン放電と呼ばれる。マグネトロン放電を用いた場合、ターゲット材料が絶縁性や半導電性材料などの金属以外の材料であるときには、ターゲット材料に数MHz以上の高周波電力を印加する必要がある。この理由は、直流電圧を印加するとターゲット材料表面が帯電し放電が停止してしまう為である。抵抗率の高い材料を成膜する場合、放電処理中にターゲット材料表面に絶縁性の物質が付着すると、局所的に電界集中が発生し、局所的なアーク放電が発生する場合がある。このアーク放電は、基板を処理する上で好ましくないので、アーク放電を速やかに検知し、対策をおこなうことが必要となる。
【0004】
このような問題を解決する手段として、下記特許文献1には、放電状態について、電極への高周波電力の進行波と電極からの反射波との電力について比を算出し、閾値と比較することで、放電の立ち上がりと立ち下がりと異常放電とを区別して、異常放電の検知をおこなう手法が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、放電立ち上がり、放電安定時、放電立下りに対して、1msecや2msec程度の細かいサンプリング時間で、反射波の電力やプラズマインピーダンス値を測定し、予め設定した閾値を超えているか否かで異常放電を検知する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−220923号公報
【特許文献2】特開2007−115860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献に示される放電状態検知方法を用いた場合、放電の立ち上がりと異常放電との区別をつけることが可能だが、ターゲット材料やガスの種類によっては、放電が継続している間において異常放電が検知される頻度が非常に高くなる場合があり、異常放電と判定された時に作動させる異常放電の抑制装置を高い頻度で作動し、当該抑制装置の応答性によっては、常時抑制装置が作動するときがある。すなわち、上記特許文献による手法では、異常放電の発生回数を検出することは可能であるが、異常放電の具体的な状態を把握することができないため、意図した条件から外れた放電処理を余儀なくされる場合があるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、異常放電の発生回数の検出のみならず、異常放電の状態を把握することが可能な放電状態検知装置および放電状態検知方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、高周波電源および整合器を介して被処理体に高周波電力を印加する処理装置に適用され、前記高周波電源と前記整合器との間に具備され前記処理装置内で発生した放電の状態を検出する放電状態検知装置において、前記放電によって発生する前記処理装置からの反射波電力を検出し電圧として出力する反射波検波器と、前記反射波検波器からの電圧を積分する積分器と、瞬間的な放電が発生したか否かを判定する第1の設定値と前記反射波検波器からの電圧とを比較した結果と、継続的な放電が発生したか否かを判定する第2の設定値と前記積分器で積分された電圧とを比較した結果と、に応じて、前記継続的な放電と前記瞬間的な放電とをカウントする放電状態検知部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、瞬時に消滅する異常放電と持続する異常放電とを区別して検出するようにしたので、異常放電の発生回数の検出のみならず、異常放電の状態を把握することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1にかかる放電状態検知装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1による反射波検波器を用いて測定した反射波電力の時間的変化を示す図である。
【図3】図3は、オペアンプで構成される積分器を示す図である。
【図4】図4は、抵抗および容量で構成される積分器を示す図である。
【図5】図5は、論理回路の出力を説明するための図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2にかかる放電状態検知装置の構成を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態3にかかる放電状態検知装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる放電状態検知装置および放電状態検知方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる放電状態検知装置の構成を示す図である。高周波電源1は、放電状態検知装置(以下単に「検知装置」と称する)2および整合器3を介して、基板処理装置(「放電処理装置」と称してもよい)60の高周波電極4に接続される。整合器3においては、高周波電源1の出力インピーダンスと、基板処理装置60における放電場5および高周波電極4でのインピーダンスとの整合をおこない、高周波電源4の電力を効率よく放電場5に投入する役割を有している。
【0014】
たとえば、基板処理装置60を用いて薄膜材料形成をおこなう場合、まず、高周波電極4部に、薄膜材料の元となるターゲット材料6を設置する。一方、ターゲット材料6に略対向する位置に、接地電極7および基板8を設置する。次に、基板処理装置60を真空排気装置9により真空容器50を真空状態にした後、アルゴンガスを流入させ、ガス圧が5Pa程度になるように、真空排気装置9のバルブ10およびアルゴンガス流量を調節する。この状態で高周波電極4に高周波電力を印加すると、放電場5でのアルゴンイオンがターゲット材料6に衝突し、ターゲット材料6から原子やクラスターが飛び出す。この原子やクラスターが基板8に付着することで薄膜が形成される。
【0015】
なお、ガスの種類としては、アルゴンガスのみならず、形成したい膜の種類により窒素や酸素を合わせて導入してもよい。酸素や窒素を導入することで、例えば窒化物や酸化物の形成が可能となる。また、ターゲット材料6の背面に永久磁石を配置した場合には、高周波電力により発生する電界に対して略垂直方向の磁場を形成することで、低いガス圧力で放電場5を維持することが可能となる。ターゲット材料6として、金属以外の絶縁性材料、例えば、酸化珪素、窒化珪素、また別の酸化物などを用いた場合や、金属材料を用いて窒素や酸素を導入して酸化物や窒化物の薄膜を形成する場合には、ターゲット材料6の表面に、抵抗率の高い粒子(すなわち、絶縁性の物質)が付着するときがあり、局所的に放電状態が変化し、異常放電に至る場合がある。
【0016】
ここでの異常放電とは、局所的に放電場の発光が強くなり、放電電流が局所的に集中してしまうことを指す。異常放電が発生すると放電場5の抵抗が極端に低下するので、整合器3でインピーダンスを調整できる範囲を超えてしまうことが通常であるので、異常放電が発生すると高周波電極4からの反射波電力が大きくなる。
【0017】
反射波電力(「反射電力」と称してもよい)の測定には、高周波電源1と整合器3との間に単方向性結合器11を設ける。単方向性結合器11は、反射波電力13の一部を取り出すことができる部品であり、取り出す電力の比率を一定に保つことができる。
【0018】
単方向性結合器11から取り出した反射波電力の一部は、反射波検波器12に入力する。反射波検波器12は、例えばダイオードなどの素子を用いて電力に比例した電圧を出力する役割を有している。すなわち、反射波検波器12から出力される電圧は反射波電力13に比例するので、反射波電力の値を把握することが可能となる。
【0019】
図2は、本発明の実施の形態1による反射波検波器12を用いて測定した反射波電力13の時間的変化を示す図である。図2に示すように、反射波電力13が瞬間的に大きくなる場合と、反射波電力13が持続的に大きい場合とがあり、このように、放電状態は多岐にわたっていることが判明した。発明者は、このような多岐にわたる放電状態を把握する手段として、図1に示す検知装置2を考案した。
【0020】
先述したように、単方向性結合器11および反射波検波器12によって、電極からの反射波電力13に比例した電圧が出力される。反射波検波器12から出力された電圧の一方は、第1の比較器15に入力され、他方は、反射波積分器14に入力される。
【0021】
以下、反射波積分器14に関して説明する。図3は、オペアンプ17で構成される積分器を示す図である。反射波積分器14は、定められた時間間隔で、入力された電圧値の時間積分をおこない積分した値を出力する。例えば、図3に示される積分器は、抵抗16、オペアンプ17、容量18、およびスイッチ19を有して構成されている。ここで、スイッチ19をON、OFFすることで、積分器に入力された電圧の積分時間を定めることができる。積分時間としては、例えば、0.00001秒から0.01秒程度の積分時間が適している。抵抗16をスイッチト・キャパシタで置き換えてもよい。また、積分器の周波数特性を安定化させるために、容量18に対して並列に抵抗を設置してもよい。
【0022】
図4は、抵抗16および容量18で構成される積分器を示す図である。図4に示すように、抵抗16および容量18で構成された積分器を、反射波積分器14として用いてもよい。図4に示される積分器の場合、高周波カットフィルタとして動作する。カットオフ周波数として0.1kHzから100KHzの範囲を設定するのが望ましい。反射波積分器14の出力は、第2の比較器20に入力される。
【0023】
以下、放電状態検知部70の構成を詳細に説明する。放電状態検知部70は、主たる構成として、第1の比較器15、第2の比較器20、論理回路24、第1のカウンタ23、および第2のカウンタ25を有して構成されている。
【0024】
第1の比較器15は、反射波検波器12からの電圧値と、予め設定された第1の設定値21とを比較することによって、デジタル出力値を決定する。第1の比較器15の出力は、論理回路24に入力される。
【0025】
第2の比較器20は、反射波積分器14からの電圧値と、予め設定された第2の設定値22とを比較することによって、デジタル出力値を決定する。第2の比較器20の出力は、第1のカウンタ23に入力される。第1のカウンタ23は、第2の比較器20からのデジタル値変動回数をカウントする。
【0026】
一方、論理回路24は、第1の比較器15から出力されたデジタル値と第2の比較器20から出力されたデジタル値との論理演算を行い、その結果を第2のカウンタ25に出力する。第2のカウンタ25は、論理回路24からの出力であるデジタル値変動回数をカウントする。
【0027】
論理回路24と、各比較器15、20と、各カウンタ23、25との関係を、より詳細に説明すると以下の通りである。
【0028】
図5は、論理回路24の出力を説明するための図である。図5には、第1の比較器15および第2の比較器20から出力されるデジタル値の組み合わせの一例が示されている。例えば、第1の比較器15は、反射波検波器12からの出力が第1の設定値21より大きい場合、デジタル出力として1を出力し、第2の比較器20は、反射波積分器14からの出力が第2の設定値22より大きい場合、デジタル出力として1を出力する。なお、第1の比較器15の出力が0、かつ、第2の比較器20からの出力が1となる確率が極めて小さくなるように、設定値21、22を設定する。
【0029】
図5に示される放電状態1は、第1の比較器15の出力と第2の比較器20の出力が共に1であり、異常放電が継続している状態を表している。放電状態2は、第2の比較器20の出力が0、第1の比較器15の出力が1であり、異常放電が瞬間的に増大および減少している状態、すなわち、異常放電が瞬間的に発生して消滅する場合をあらわしている。放電状態3は、第1の比較器15の出力と第2の比較器20の出力が共に0であり、異常放電が発生していない状態を表している。
【0030】
上述した第1の比較器15からの出力と第2の比較器20からの出力とに対して排他的論理和の論理演算を行った場合、論理回路24の出力は、図5に示す値となる。すなわち、放電状態2のみが1となる。従って、第1のカウンタ23には、異常放電が継続する場合(放電状態1)の放電回数がカウントされ、第2のカウンタ25には、異常放電が瞬間的に発生して消滅する場合(放電状態2)の放電回数がカウントされる。すなわち、本実施の形態にかかる検知装置2は、異常放電が継続する場合と異常放電が瞬間的に発生して消滅する場合とを、区別してカウントすることができる。
【0031】
以上の構成により、本実施の形態にかかる検知装置2は、異常放電の状態に分けて、その発生回数をカウントすることができるため、異常放電の状態に合わせた制御方法を実現するための異常放電状態把握装置として機能しうる。
【0032】
また、放電を開始する場合に、放電着火時の電力立ち上がりや反射波の変動を、異常放電と認識させない方法として、進行波電力がある設定値以上になるまで、もしくは、放電開始から一定時間は、第1のカウンタ23および第2のカウンタ25を無効とするのも有効な手段である。
【0033】
以上に説明したように、本実施の形態にかかる検知装置2は、反射波電力13を入力として電圧値の積分値を出力する反射波積分器14と、反射波電力13の値が第1の設定値21より大きい場合にデジタル値1を出力する第1の比較器15と、反射波積分器14からの出力が第2の設定値22より大きい場合にデジタル値1を出力する第2の比較器20と、第1の比較器15および第2の比較器20からの出力を論理演算する論理回路24とを備えるようにしたので、継続的な異常放電の放電回数と瞬間的な異常放電の放電回数とをそれぞれカウントすることが可能である。従来技術では、異常放電の発生回数を検出することは可能であるが、異常放電の具体的な状態を把握することができないため、意図した条件から外れた放電処理を余儀なくされる場合があった。一方、本実施の形態にかかる検知装置2では、上述した構成により、異常放電の発生回数の検出のみならず、異常放電の状態を把握することが可能である。
【0034】
実施の形態2.
本実施の形態にかかる放電状態検知装置26は、進行波電力の値を可変しても、第1の設定値および第2の設定値を固定したままで、異常放電の状態を把握することができるように構成されている。以下、本実施の形態にかかる放電状態検知装置26の構成を説明する。なお、実施の形態1と同様の部分については、同じ符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。
【0035】
図6は、本発明の実施の形態2にかかる放電状態検知装置26の構成を示す図である。高周波電源1は、検知装置26と整合器3を介して、放電場を含む負荷27に接続される。整合器3は、高周波電源1の電力が効率よく負荷27に投入されるようにするため、高周波電源1の出力インピーダンスと負荷27のインピーダンスとの整合をおこなう。なお、上述した負荷27は、実施の形態1に示した基板処理装置60を示すものである。
【0036】
本実施の形態にかかる検知装置26の動作を説明すると以下の通りである。高周波電源1と整合器3との間に双方向性結合器28を設置する。双方向性結合器28は、負荷27への進行波電力の一部と、負荷27からの反射波電力の一部とを取り出すことができる。
【0037】
双方向性結合器28から取り出された進行波電力は、進行波検波器29に入力され、反射波電力は、反射波検波器30に入力される。進行波検波器29は、進行波電力を、当該電力に比例した電圧(第1の電圧)に変換する。反射波検波器30は、反射波電力を、当該電力に比例した第2の電圧に変換する。以上の構成により、負荷27への進行波電力および負荷27からの反射波電力に比例した電圧が、進行波検波器29および反射波検波器30から出力される。
【0038】
進行波検波器29からの電圧値は、進行波積分器31および第1の除算器32に入力され、反射波検波器30からの電圧値は、反射波積分器33および第1の除算器32に入力される。
【0039】
なお、各積分器31、33の入力インピーダンスと、第1の除算器32の入力インピーダンスとを、各検波器29、30の出力インピーダンスより極力大きくすることによって、各積分器31、33と第1の除算器32とを並列に配置した場合であっても、各検波器29、30からの出力電圧変動を小さくすることができる。
【0040】
進行波積分器31は、定められた時間間隔で進行波検波器29からの電圧値を積分し、積分した値(第3の電圧)として出力する。反射波積分器33は、定められた時間間隔で反射波検波器30からの電圧値を積分し、積分した値(第4の電圧)として出力する。なお、各積分器31、33の構成としては、実施の形態1で示した回路を用いるとよい。進行波積分器31から出力された電圧と反射波積分器33から出力された電圧は、共に第2の除算器34に入力される。
【0041】
以下、放電状態検知部71の構成を詳細に説明する。放電状態検知部71は、主たる構成として、第1の除算器32、第2の除算器34、第1の比較器35、第2の比較器37、論理回路40、第1のカウンタ39、および第2のカウンタ41を有して構成されている。
【0042】
第1の除算器32は、進行波検波器29からの電圧と、反射波検波器30からの電圧とを用いて、進行波電力に対する反射波電力の比を算出して出力する。第2の除算器34は、進行波積分器31からの電圧と反射波積分器33からの電圧とを用いて、進行波電力の積分値に対する反射波電力の積分値の比を算出して出力する。
【0043】
第1の除算器32から出力された値は、第1の比較器35に入力される。第1の比較器35は、第1の除算器32から出力された値と、予め設定された第1の設定値36と比較することによって、デジタル出力値を決定する。
【0044】
第2の除算器34から出力された値は、第2の比較器37に入力される。第2の比較器37は、第2の除算器34から出力された値と、予め設定された第2の設定値38と比較することよって、デジタル出力値を決定する。第2の比較器37から出力された値は、第1のカウンタ39に入力される。第1のカウンタ39は、第2の比較器37からのデジタル値変動回数をカウントする。
【0045】
論理回路40は、第1の比較器35から出力されたデジタル値と、第2の比較器37から出力されたデジタル値との論理演算を行い、その結果を第2のカウンタ41に出力する。第2のカウンタ41は、論理回路40からの出力であるジタル値変動回数をカウントする。
【0046】
論理回路40と、各比較器35、37と、各カウンタ39、41との関係を、より詳細に説明すると以下の通りである。第1の比較器35は、第1の除算器32からの出力が第1の設定値36より大きい場合に、デジタル出力として1を出力し、第2の比較器37は、第2の除算器34からの出力が第2の設定値38より大きい場合に、デジタル出力として1を出力する。各比較器35、37から出力されるデジタル値の組み合わせは、実施の形態1で示した図5と同様である。なお、第1の比較器35の出力が0であり、かつ、第2の比較器37からの出力が1となる確率が極めて小さくなるように、各設定値36、38を設定する。
【0047】
以下、図5の各値を、本実施の形態にかかる各構成要素の出力に読み替えて説明する。放電状態1は、第1の比較器35の出力と第2の比較器37の出力が共に1であり、異常放電が継続している状態を表している。放電状態2は、第2の比較器37の出力が0であり、第1の比較器35の出力が1である。すなわち、進行波電力に対する反射波電力の比が瞬間的に増大したことを表しており、換言すれば、瞬間的に異常放電が生成され消滅する場合をあらわしている。放電状態3は、第1の比較器35の出力と第2の比較器37の出力が共に0であり、異常放電が発生していない状態を表している。
【0048】
論理回路40の出力は、各比較器35、37の出力に対して排他的論理和の論理演算を行った場合、図5と同様の値となる。すなわち、放電状態2のみが1となる。従って、第1のカウンタ39には、異常放電が継続する場合(放電状態1)の放電回数がカウントされ、第2のカウンタ41には、異常放電が瞬間的に発生して消滅する場合(放電状態2)の放電回数がカウントされる。すなわち、本実施の形態にかかる検知装置26は、実施の形態1と同様に、異常放電が継続する場合と異常放電が瞬間的に発生して消滅する場合とを、区別してカウントすることが可能である。
【0049】
このように、検知装置26には、進行波電力と反射波電力との比を算出する工程が付加されている。検知装置26は、進行波電力と反射波電力との比を算出することによって、進行波電力の値を可変した場合には、正常な反射波電力のレベルが変動するため、各比較器35、37の各設定値36、38を固定したままでも、異常放電の状態を区別することが可能である。一方、反射波電力のみで比較する場合には、各比較器35、37の各設定値36、38を変更する必要ある。本実施の形態にかかる検知装置26は、進行波電力と反射波電力との比を算出することで、進行波電力の値を可変しても、各設定値36、38を固定したまま異常放電の状態を区別できるというメリットがある。
【0050】
以上に説明したように、本実施の形態にかかる検知装置26は、進行波電力の積分値を出力する進行波積分器31と、反射波電力の積分値を出力する反射波積分器33と、進行波電力に対する反射波電力の比を出力する第1の除算器32と、進行波電力の積分値に対する反射波電力の積分値の比を出力する第2の除算器34と、第1の除算器32からの出力が第1の設定値36より大きい場合にデジタル値1を出力する第1の比較器35と、第2の除算器34からの出力が第2の設定値38より大きい場合にデジタル値1を出力する第2の比較器37と、第1の比較器35および第2の比較器37からの出力を論理演算する論理回路40と、を備えるようにしたので、例えば、進行波電力の値が変動した場合には、進行波電力に応じて反射波電力も増減するため、第1の設定値36および第2の設定値38を固定したままで、異常放電の状態を把握することが可能である。
【0051】
実施の形態3.
本実施の形態にかかる放電状態検知装置42は、異常放電の状態を定量的に表示することができるように構成されている。以下、本実施の形態にかかる放電状態検知装置42の構成を説明する。なお、実施の形態1および2と同様の部分については、同じ符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。
【0052】
図7は、本発明の実施の形態3にかかる放電状態検知装置の構成を示す図である。高周波電源1、双方向性結合器28、整合器3、負荷27、進行波検波器29、および反射波検波器30の構成は、実施の形態2と同様と同様である。以下、実施の形態1および2と同様の部分については、同じ符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。
【0053】
進行波検波器29からの電圧値および反射波検波器30からの電圧値は、複数の積分器の組で構成された積分器群43に入力される。積分器群43を構成する各積分器は、例えば、実施の形態1の図4に示される抵抗16および容量18で構成される回路である。各積分器は、抵抗値および容量値を個々に設定することによって、カットオフ周波数を独立して設定可能である。
【0054】
積分器群43からの出力は、複数の除算器の組で構成された除算器群44に入力される。除算器群44は、進行波電力を積分した値に対する反射波電力を積分した値の比を算出して出力する。なお、反射波検波器30および進行波検波器29からの出力を、直接、除算器群44に入力する経路を設けてもよい。
【0055】
除算器群44からの出力は、複数の比較器の組で構成された比較器群45に入力される。比較器群45は、予め設定された値(設定値)と、比較器群45からの出力との比較を行い、その結果を全加算器46に出力する。全加算器46は、比較器群45からの出力に応じたビット信号を計算する。なお、図7に示される全加算器46は、比較器群45からの出力数に応じて個数を増やしてもよい。
【0056】
進数変換部47は、全加算器46からの出力値(2進数)を10進数に変換し、10進数の値として出力する。
【0057】
以下、具体例で説明すると、たとえば、比較器において、除算器から入力される値が予め設定された設定値より大きい場合に1を出力するとする。異常放電が常時継続する場合には、全ての比較器からの出力は1となる。従って、進数変換部47から出力される値は、異常放電が無い場合に比べ大きい値となる。異常放電が瞬間的に消滅する場合には、積分器群43からの出力は、カットオフ周波数が小さくなるに従い小さくなるので、1が出力される比較器の個数は、異常放電が継続する場合に比べて少なくなる。従って、進数変換部47から出力される値は、異常放電が継続する場合に比べて小さくなる。
【0058】
進数変換部47からの出力値は、進行波電力および反射波電力の変動について周波数成分を表したものであり、全加算器46の設定の方法により、異常放電の状況に応じた数字を出力できるので、ユーザーに対して視覚的に放電状態を知らせることが可能となる。
【0059】
以上に説明したように、本実施の形態にかかる検知装置42は、カットオフ周波数が個々に設定された複数の積分器と、複数の除算器と、複数の比較器と、各比較器からの出力値を加算する全加算器46と、進数変換を行い異常放電の状況に応じた数字を出力する進数変換部47とを備えるようにしたので、異常放電の状態を定量的に表示することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明は、放電を利用して基板に所定の処理を施す基板処理装置で発生する異常放電を検出する放電状態検知装置および放電状態検知方法に適用可能であり、特に、異常放電の状態を把握することが可能な発明として有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 高周波電源
2,26,42 放電状態検知装置
3 整合器
4 高周波電極
5 放電場
6 ターゲット材料
7 接地電極
8 基板
9 真空排気装置
10 バルブ
11 単方向性結合器
12,30 反射波検波器
13 反射波電力
14,33 反射波積分器
15,35 第1の比較器
16 抵抗
17 オペアンプ
18 容量
19 スイッチ
20,37 第2の比較器
21,36 第1の設定値
22,38 第2の設定値
23,39 第1のカウンタ
24,40 論理回路
25,41 第2のカウンタ
27 負荷
28 双方向性結合器
29 進行波検波器
31 進行波積分器
32 第1の除算器
34 第2の除算器
43 積分器群
44 除算器群
45 比較器群
46 全加算器
47 進数変換部
50 真空容器
60 基板処理装置
70,71 放電状態検知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電源および整合器を介して被処理体に高周波電力を印加する処理装置に適用され、前記高周波電源と前記整合器との間に具備され前記処理装置内で発生した放電の状態を検出する放電状態検知装置において、
前記放電によって発生する前記処理装置からの反射波電力を検出し電圧として出力する反射波検波器と、
前記反射波検波器からの電圧を積分する積分器と、
瞬間的な放電が発生したか否かを判定する第1の設定値と前記反射波検波器からの電圧とを比較した結果と、継続的な放電が発生したか否かを判定する第2の設定値と前記積分器で積分された電圧とを比較した結果と、に応じて、前記継続的な放電と前記瞬間的な放電とをカウントする放電状態検知部と、
を備えたことを特徴とする放電状態検知装置。
【請求項2】
前記放電状態検知部は、
前記反射波検波器からの電圧の値と前記第1の設定値とを比較し、前記反射波検波器からの電圧の値が前記第1の設定値を上回ったことを示す信号を出力する第1の比較器と、
前記積分された電圧の値と前記第2の設定値とを比較し、前記積分された電圧の値が前記第2の設定値を上回ったことを示す信号を出力する第2の比較器と、
前記第2の比較器から出力された信号に応じて前記継続的な放電をカウントする第1のカウントと、
前記第1の比較器および前記第2の比較器から出力された信号の値に基づいて、前記瞬間的な放電が発生したことを示す出力を演算する演算部と、
前記演算部から出力された信号に応じて前記瞬間的な放電をカウントする第2のカウントと、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の放電状態検知装置。
【請求項3】
高周波電源および整合器を介して被処理体に高周波電力を印加する処理装置に適用され、前記処理装置内で発生した放電の状態を検出する放電状態検知方法において、
前記放電によって発生する前記処理装置からの反射波電力を検出する反射波検波ステップと、
前記反射波検波ステップにて検出された反射波電力を電圧に変換する変換ステップと、
前記変換ステップにて変換された電圧を積分する積分ステップと、
前記変換ステップにて変換された電圧と瞬間的な放電が発生したか否かを判定する第1の設定値とを比較する第1の比較ステップと、
前記積分ステップにて積分された電圧と継続的な放電が発生したか否かを判定する第2の設定値とを比較する第2の比較ステップと、
前記第1の比較ステップおよび前記第2の比較ステップから出力された信号の値に基づいて、前記瞬間的な放電が発生したことを示す出力を演算する演算ステップと、
前記継続的な放電の数と前記瞬間的な放電の数とをカウントするステップと、
を含むことを特徴とする放電状態検知方法。
【請求項4】
高周波電源および整合器を介して被処理体に高周波電力を印加する処理装置に適用され、前記高周波電源と前記整合器との間に具備され前記処理装置内で発生した放電の状態を検出する放電状態検知装置において、
前記高周波電源から前記処理装置への進行波電力を検出し第1の電圧として出力する進行波検波器と、
前記放電によって発生する前記処理装置からの反射波電力を検出し第2の電圧として出力する反射波検波器と、
前記進行波検波器からの電圧を積分し第3の電圧として出力する進行波積分器と、
前記反射波検波器からの電圧を積分し第4の電圧として出力する反射波積分器と、
前記第1の電圧に対する前記第2の電圧の比を示す値と瞬間的な放電が発生したか否かを判定する第1の設定値とを比較した結果と、前記第3の電圧に対する前記第4の電圧の比を示す値と継続的な放電が発生したか否かを判定する第2の設定値とを比較した結果と、に応じて、前記継続的な放電と前記瞬間的な放電とをカウントする放電状態検知部と、
を備えたことを特徴とする放電状態検知装置。
【請求項5】
前記放電状態検知部は、
前記第1の電圧に対する前記第2の電圧の比を示す値を算出する第1の除算器と、
前記第3の電圧に対する前記第4の電圧の比を示す値を算出する第2の除算器と、
前記第1の除算器からの値と前記第1の設定値とを比較し、前記第1の除算器からの電圧の値が前記第1の設定値を上回ったことを示す信号を出力する第1の比較器と、
前記第2の除算器からの値と前記第2の設定値とを比較し、前記第2の除算器からの電圧の値が前記第2の設定値を上回ったことを示す信号を出力する第2の比較器と、
前記第2の比較器から出力された信号に応じて前記継続的な放電をカウントする第1のカウントと、
前記第1の比較器および前記第2の比較器から出力された信号の値に基づいて、前記瞬間的な放電が発生したことを示す出力を演算する演算部と、
前記演算部から出力された信号に応じて前記瞬間的な放電をカウントする第2のカウントと、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載の放電状態検知装置。
【請求項6】
高周波電源および整合器を介して被処理体に高周波電力を印加する処理装置に適用され、前記処理装置内で発生した放電の状態を検出する放電状態検知方法において、
前記高周波電源から前記処理装置への進行波電力を検出し第1の電圧として出力する進行波検波ステップと、
前記放電によって発生する前記処理装置からの反射波電力を検出し第2の電圧として出力する反射波検波ステップと、
前記進行波検波ステップからの前記第1の電圧を積分し第3の電圧として出力する進行波積分ステップと、
前記反射波検波ステップからの前記第2の電圧を積分し第4の電圧として出力する反射波積分ステップと、
前記第1の電圧に対する前記第2の電圧の比を示す値と瞬間的な放電が発生したか否かを判定する第1の設定値とを比較する第1の比較ステップと、
前記第3の電圧に対する前記第4の電圧の比を示す値と継続的な放電が発生したか否かを判定する第2の設定値とを比較する第2の比較ステップと、
前記第1の比較ステップおよび前記第2の比較ステップから出力された信号の値に基づいて、前記瞬間的な放電が発生したことを示す出力を演算する演算ステップと、
前記継続的な放電と前記瞬間的な放電とをカウントするステップと、
を含むことを特徴とする放電状態検知方法。
【請求項7】
高周波電源および整合器を介して被処理体に高周波電力を印加する処理装置に適用され、前記高周波電源と前記整合器との間に具備され前記処理装置内で発生した放電の状態を検出する放電状態検知装置において、
前記高周波電源から前記処理装置への進行波電力を検出する進行波検波器と、
前記放電によって発生する前記処理装置からの反射波電力を検出する反射波検波器と、
前記進行波検波器で検出された電圧を所定時間積分する複数の進行波積分器と、
前記反射波検波器で検出された電圧を所定時間積分する複数の反射波積分器と、
前記進行波積分器からの出力と前記反射波積分器からの出力の比を算出する複数の除算器と、
前記各除算器からの電圧の値と所定の設定値とを比較し、前記各除算器からの電圧の値が前記所定の設定値を上回ったことを示す信号を出力する複数の比較器と、
前記各比較器からの出力値を加算する全加算器と、
前記全加算器の進数変換をおこなう進数変換機と、
を備えたことを特徴とする放電状態検知装置。
【請求項8】
高周波電源および整合器を介して被処理体に高周波電力を印加する処理装置に適用され、前記処理装置内で発生した放電の状態を検出する放電状態検知方法において、
前記高周波電源から前記処理装置への進行波電力を検出する進行波検波ステップと、
前記放電によって発生する前記処理装置からの反射波電力を検出する反射波検波ステップと、
前記進行波検波ステップからの電圧を積分する進行波積分ステップと、
前記反射波検波ステップから電圧を積分する反射波積分ステップと、
前記進行波積分ステップにて積分された電圧と前記反射波積分ステップにて積分された電圧との比を示す値と、所定の設定値と、を比較する比較ステップと、
前記比較ステップにて前記所定の設定値を上回った値を加算する加算ステップと、
前記加算ステップにて加算された値の進数変換をおこなう変換機ステップと、
を含むことを特徴とする放電状態検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−52279(P2011−52279A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202425(P2009−202425)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】