説明

故障診断システム、画像形成装置及び故障診断方法

【課題】 診断対象装置に組み込まれた回路基板や回路基板上の部品の使用状態まで考慮した故障診断システムを提供することを目的とする。
【解決手段】 故障診断システムは、診断対象装置(1)に組み込まれた回路基板及び/又は回路基板に実装された部品の動作時間をそれぞれ管理する動作時間管理部(114)、診断対象装置(1)の故障原因と、当該故障原因と因果関係を有する入力情報とを結線して表現される故障診断モデルに基づく推論処理を行う故障診断部(CPU:110)とを備えている。故障診断部(110)は入力情報に回路基板毎の動作時間及び/又は回路基板に実装された部品毎の動作時間を含めて推論処理に基づく故障診断を行う。これにより精度の高い故障診断を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板を組み込んだ装置の故障診断診断システム、画像形成装置及び故障診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータ、複写機等の電子機器には、近年、性能、機能の向上に伴い、益々、それらを実現するための様々な用途のアナログ、及びデジタルの電子回路がプリント基板(回路基板)の形で格納、組み付けられている。また、自動車や航空、ロボットや半導体設計装置等、他の産業機器においても動作制御等の手段として、信頼性が高く、高速・高精度での動作が可能な電子回路基板が数多く搭載されている。これらの電子回路基板は一連の機能を実現するために、様々な形でケーブルを介して接続されることにより、所望のスペックが実現されている。このような基板が搭載される機器が使用される環境は、通常はオフィス内であったり、家屋内であったりするが、それ以外の過酷な環境下で使用される場合もあり、非常に多岐にわたっている。特に使用環境が劣悪である場合には、通常の方法で使用していたとしても、状態の検出、状態の把握が困難な様々な異常、故障が発生し、その修復には多大な労力を要することになる。また、通常の使用環境下で使用している場合でも、電子回路の異常、故障は発生し、その頻度は必ずしも低いとは言えず、検出箇所を特定できないこともしばしば生じていた。さらに、電子回路基板に異常が発生した場合には、安全性やコストなどの面から早急な対応が必要でもあった。
【0003】
このような異常が複写機等に発生した際の対応の一例として、複写機やプリンタ等の異常、故障情報の連絡がサービスセンターに入ると、修理担当者であるカスタマーエンジニアが現地に駆けつけて、機器に表示されたフェイルコードから、または記録された故障個所情報や故障履歴の情報等をもとに故障部位の特定を行い、部品の交換をする、あるいは修復作業を行う、などの措置手段を講ずることがある。
【0004】
また、これらの機器がネットワークに接続されており、自動的にこれらの情報を管理する部署へ、状態の管理や故障情報等を伝送することも行われており、このような場合には、これらの情報を予め解析した上で、カスタマーエンジニアにより、同様の措置が採られる。
【0005】
このような故障診断を行う方法として、例えば、特許文献1が開示されている。この特許文献1によれば、システムの故障を引き起こすシステムコンポーネントを、ベイジアンネットワークと称される規則に基づくシステム(ルール型システム)を用いてモデル化し、該ベイジアンネットワークは、当該システムコンポーネントが故障を引き起こしているか否かを示す状態を持つ標識ノードと、標識ノードに結合され、故障を生成するシステムコンポーネントの原因をそれぞれが表す複数の原因ノードと、複数の原因ノードのうち少なくとも1つの原因ノードにそれぞれが結合され、該結合された原因ノードの何れかによって表される原因を修復するアクションを提案するトラブルシューティング・ステップをそれぞれが表す第1の複数のトラブルシューティングノードとを備えることにより、システムのトラブルシューティングに際して、問題を解決できる確率が最も高く、必要とされる期待コストの最も少ないアクションがユーザに提供されるとしている。
【0006】
また、特許文献1に開示されたこのような故障診断システムを改良すれば、ユーザにストレスを与えることなく、故障を引き起こすシステムコンポーネントを特定することのできるシステムを構築することも可能である。
【0007】
このような改良した故障診断システムの一例として、例えば、各コンポーネントの観測データを表すノードとして電流センサや振動センサや用紙搬送センサを用いて取得されるコンポーネントの稼働状態を示す観測データ情報、履歴情報を表すノードとして画像形成装置の使用状況(使用年数、単位期間内の用紙フィード数で求められる使用頻度、故障交換頻度情報、パーツ交換履歴等)を表す履歴情報、環境情報を表すノードとして温度センサや湿度センサを用いて取得される動作環境を表す環境情報、消耗財情報を表すノードとして消耗材検知部にて取得される印刷用紙の厚さ(紙厚情報)や用紙種別や色剤の色種や染料/顔料などのタイプやその残量などを表す消耗材情報等からなるベイジアンネットワークを構成し、このようなベイジアンネットワークを利用して構築されるシステムがある。このような改良した故障診断システムでは、故障が発生すると、故障診断モードに入り、各種情報を種々のセンサから自動的に取得し、そのデータを装置の履歴や環境情報等とともにベイジアンネットワークにより故障確率を算出し、この算出した故障確率に基づいて故障箇所の候補を抽出する。さらに、各種センサによる各種情報を自動的に取得して確率を算出して、ベイジアンネットワークに組み込んで計算すれば、故障診断に関する予備知識がいらず、簡単な操作で正確な故障診断が可能になる。このため、故障診断に関する予備知識がない、あるいは経験の少ないサービスマン、顧客であっても、簡単な操作で正確な故障診断が可能となる。
【0008】
【特許文献1】特開2001−75808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の診断システムでは、観察する顧客、またはカスタマーエンジニアが画像形成装置の状態をモニタするのに慣れていない場合、情報に大きなバラツキが生じる。そのため、観察する顧客が慣れていない場合、情報に大きなバラツキが生じて、重大な誤診断を招く恐れがあり、正確な故障箇所の特定には不十分である。特に、故障箇所が回路基板であった場合には正確な故障箇所の特定は困難なものとなる。
【0010】
また、前記のような改良した故障診断システムによる故障診断においても、観測データ情報、履歴情報、環境情報、消耗財情報だけでは、回路基板上の部品の動作状態が十分に反映されているとは言えず、回路基板上のどの部品が故障したかを特定するには情報として不十分であった。
【0011】
本発明は以上のような点を考慮して行なわれたものであり、従来の診断手法に比べて精度よく回路基板上の故障箇所を特定することが可能となる故障診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するための、本発明の故障診断システムは、診断対象装置に組み込まれた回路基板及び/又は回路基板に実装された部品の動作時間をそれぞれ管理する動作時間管理部と、診断対象装置の故障原因と、当該故障原因と因果関係を有する入力情報とを結線して表現される故障診断モデルに基づく推論処理を行う故障診断部と、を備え、当該故障診断部は前記入力情報に前記回路基板毎の動作時間及び/又は回路基板に実装された部品毎の動作時間を含めて推論処理に基づく故障診断を行うことを特徴とする(請求項1)。回路基板や、これに実装される部品の故障確率は実際に回路基板、部品に通電された時間、パルスを発していた時間(動作時間)によって変化することに着目し、これらの情報を故障診断モデルに入力する入力情報として故障診断を行おうとするものである。
【0013】
診断対象装置は、種々の動作モードを組み合わせて所望の動作を実現している。例えば、診断対象装置が画像形成装置である場合(請求項4、請求項5)、それぞれ所定の動作を行う複数の動作モードを組み合わせて画像読み取り、画像形成を行っている。例えば、両面印刷における用紙の搬送、反転、画像形成等を複数の動作モードを組み合わせて実行することができる。ここで、回路基板や回路基板上の部品(素子)の通電時間、動作時間は、動作モード毎に一定値を示すものである。すなわち、所定の動作モードが何回実行されたかを管理すれば、通算の通電時間、動作時間を把握することができる。そこで、前記のような故障診断システムでは、前記動作時間管理部は、診断対象装置の動作モード別に回路基板及び/又は回路基板に実装された部品の動作時間を管理する構成とすることができる(請求項2)。
【0014】
また、このような故障診断システムでは、前記故障診断部は前記入力情報に予め割り振られた回路基板及び/又は回路基板に実装された部品の故障確率を含めて推論処理に基づく故障診断を行う構成とすることができる(請求項3)。回路基板や回路基板に実装された部品の故障確率は、例えば、それまでに蓄積された故障発生の頻度のデータに基づいて予め算出し、回路基板や回路基板に実装された部品の故障し易さを予め割り振っておくことができる。このような故障確率を故障診断モデルの入力情報として取り込んで故障診断を行えば故障診断精度をさらに向上させることができる。
【0015】
次に、本発明の故障診断方法は、診断対象装置の故障原因と、当該故障原因と因果関係を有する入力情報とを結線して表現される故障診断モデルを用いる故障診断方法であって、診断対象装置に組み込まれた回路基板及び/又は回路基板に実装された部品の動作時間を算出し、前記入力情報として前記回路基板毎の動作時間及び/又は回路基板に実装された部品毎の動作時間を含めて推論処理に基づく故障診断を行うことを特徴とする(請求項6)。このような故障診断方法は、例えば、本発明の故障診断システムを稼働させることによって実施することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、故障診断システムの入力情報として回路基板や回路基板に実装された部品毎に実際に動作した時間を加算した通算の動作時間を取り込んで故障診断を行えるようにしたので、故障診断の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、故障診断システムを搭載した本発明おける診断対象装置となる画像形成装置1の構成について図1を用いて説明する。画像形成装置1は、CCDセンサにより画像をスキャンして読み取る画像読み取り部101と読み取った画像データを画像形成装置の他の部分に送信するためのインターフェイス部となるスキャナIF部(スキャナーインターフェイス部)102、画像形成装置1の動作モードや動作状態を表示する表示部103と表示部を制御する表示制御部104、読み取った画像データやネットワークIF部(インターネットインターフェイス部)から送られてきた画像データをプリントアウトするための画像形成部105、画像形成部105と他の部分とのインターフェイスとなるプリンタIF部(プリンターインターフェイス部)106、画像形成装置1の動作指示を実行する指示入力部107と、画像データの記録・読み取り制御を行う記録・読み取り制御部108と、ネットワークを通して画像形成装置の状態やPCと画像データの送受信を行う通信IF部(通信インターフェイス部)109と、画像形成装置全体を制御するCPU(Central Processing Unit)110と、画像形成装置を動作させるためのプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)111と、画像形成装置の動作時のメモリRAM(Random Access Memory)112と、画像形成装置の各種状態を記憶するNVRAM(Non Volatite RAM:不揮発性メモリ)113を含んでいる。さらに、回路基板及び回路基板に実装された部品の動作時間をそれぞれ管理する動作時間管理部104を備えている。このような画像形成装置(1)におけるCPU(110)は、本発明における故障診断部の機能を果たす。
【0019】
図2は、画像形成装置1の回路基板構成について示したものである。図2に示す通り、画像形成装置1内の基板構成は基板1、基板2、基板3、基板4と周辺機器から構成されている。基板1は、CPU1、ASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け集積回路)11、ASIC12、RAM11、RAM12、ROM1と、基板2と接続するコネクタ11、基板3と接続するコネクタ12、基板4と接続するコネクタ13、周辺機器と接続するコネクタ14といった部品から構成される。また、基板2はASIC2、RAM21、RAM22と、基板1と接続するコネクタ2といった部品から構成される。また、基板3はCPU3、ROM3と、基板1と接続するコネクタ3といった部品から構成される。また、基板4はCPU4、ASIC4、ROM4と、基板1と接続するコネクタ4といった部品から構成される。周辺機器はハードディスクドライブ等の外部記憶装置等で構成される。
【0020】
以上のように構成される画像形成装置1は、動作モード1、動作モード2等の動作を組み合わせて種々の動作を実現する。例えば、プリントアウトを1枚実行する場合は、動作モード1と動作モード2が関係しており、動作モード1が合計100回、動作モード2が合計100回動作することでプリントアウトを実現している。また、コピーを1枚実行する場合は、動作モード1と動作モード3が関係しており、動作モード1が合計100回、動作モード3が合計200回動作することでコピーを実現している。
【0021】
次に、このような構成の画像形成装置1において回路基板上のどの部品が故障したかを特定する方法について説明する。図3は、画像形成装置1が保持する動作モードと、各動作モードにおいて動作する回路基板と、回路基板の部品のうち実際に動作する部品と、動作時間が格納された表である。この表は、動作時間管理部114に予め記憶されている。動作モード1の場合、基板1上のRAM11が10ms、RAM12が10ms、CPU1が35ms、ASIC11が25ms、コネクタ11が30ms(ASIC12、ROM11は未動作)、基板2上のRAM22が10ms、ASIC2が10ms、コネクタ21が10ms、そして周辺機器が35ms動作する。動作モード2と動作モード3については、図3に示した通りの部品が所定時間動作する。図4は、動作モード1における動作部品を示すハッチングを施して示している。
【0022】
図5は、画像形成装置が所定の動作を行ったときの動作情報更新処理のフローチャートについて示している。画像形成装置が所定の動作を開始する(S501)。次に、その動作モードが動作モード1かどうかを判定する(S502)。判定の結果、動作モード1の場合(S502−Yes)、図3に示した表に従って、動作モード1の動作部品に対して動作時間を加算する(S504)。動作モード1でない場合(S502−No)、動作モード2かどうかを判定する(S503)。判定の結果、動作モード2の場合(S503−Yes)、動作モード2の動作部品に対して動作時間を加算する(S505)。動作モード2でもない場合(S503−No)、動作モード3だと判定し、動作モード3の動作部品に対して動作時間を加算する(S506)。加算された通算の動作時間は動作時間管理部114に記憶されたデータが更新される。
【0023】
次に、プリントアウトを100枚実行した際の動作時間情報の更新について説明する。動作時間情報として、通電時間と動作時間について示している。通電時間は画像形成装置の電源が通電している時間は継続して加算される。プリントアウトを100枚に要した時間が0.15時間の場合、全ての基板上が通電されているため、基板上の全ての部品について通電時間を0.15時間加算する。また、動作時間については、動作モード別に動作した部品だけが所定時間加算される。動作時間の算出は、図3を用いる。プリントアウト1枚につき動作モード1が合計100回、動作モード2が合計100回動作するため、プリントアウト100枚の場合、基板1上に搭載されているRAM11の合計動作時間は10ms×100回×100枚=100s(=0.028h)、RAM12は動作モード1と動作モード2の両方で動作しており(10ms×100回+10ms×100回)×100枚=300s(=0.083h)、CPU1は動作モード1と動作モード2の両方で動作しており(35ms×100回+10ms×100回)×100枚=450s(=0.125h)、ASIC11は動作モード1で動作しており25ms×100回×100枚=250s(=0.069h)、コネクタ11は動作モード1で動作しており(30ms×100回+20ms×100回)×100枚=500s(=0.139h)となる。基板2上に搭載されている部品についても同様に算出し、RAM12は動作モード1で動作しており合計動作時間は100s(=0.028h)、ASIC2は動作モード1で動作しており100s(=0.028h)、コネクタ21はは動作モード1で動作しており100s(=0.028h)、周辺機器はは動作モード1で動作しており合計動作時間は350s(=0.097h)となる。基板3上に搭載されている部品についても同様に算出し、CPU3は動作モード2で動作しており合計動作時間は300s(=0.083h)、ROM3は動作モード2で動作しており250s(=0.069h)、コネクタ31は動作モード2で動作しており250s(=0.069h)となる。以上で算出した各部品の動作時間を加算する。動作時間の加算結果を図6に示す。
【0024】
次に、故障診断処理について、図7に示す故障診断処理のフローチャートにより説明する。画像形成装置1が故障した場合、図8に示すように表示部にエラーコードが発生する。エラーコードが発生した後に、画像形成装置を再起動する(S701)。再起動後にエラーコードが再発生するかどうかを判定する(S702)。エラーコードが再発生する場合(S702−Yes)、その後、故障診断に必要な各部品の動作時間情報を取得する(S703)。次に、取得した各部品の動作時間情報を部品の故障診断モデルに入力して、各部品の故障診断処理を行い(S704)、各部品の故障確率算出し、故障部品を特定する。これらの動作は、CPU110、ROM110、RAM112等が協働して行う。なお、故障診断モデルはNVRAM113内のフォルダ内に格納されており、故障診断時に呼び出される。
【0025】
ここで、故障確率の算出を行う推論エンジンとして故障診断モデルはベイジアン(BaYesian)ネットワークで構成される。ベイジアンネットワークを利用する故障診断は、母集団内の良好な個体の統計的な情報を用いて探索点を生成する確率モデル遺伝的アルゴリズムを利用するものであり、ノード(変数)間の依存関係を確率的に捉え、グラフ構造(ベイジアンネットワークあるいは因果ネットワークと呼ばれる)を用いて、分布の推定を行う最適化アプローチである。ベイジアンネットワークを利用して画像形成装置の回路基板の故障診断を行う際には、ベイジアンネットワークの構成要素として、たとえば、コンポーネントが故障を引き起こしているか否かを示す状態を有するコンポーネント状態ノードと、コンポーネント状態ノードに接続され、コンポーネントの状態と因果関係にある複数の情報ノードとを有するネットワーク構成とする。一例としては、コンポーネントの状態を表すノード、動作時間情報を表すノード、ノードからなるベイジアンネットワークを構成する。
【0026】
本実施例における故障診断モデルを図9に示す。コンポーネントの状態を表すノードは回路基板上の各部品、また、動作時間情報を表すノードは回路基板上の各部品の動作時間の因果関係をベイジアンネットワークで構成することにより故障診断モデルを構築する。そして、異常を検出してエラーコードを発生すると、故障診断モードに入り、各コンポーネントの動作データを収集し、ベイジアンネットワークにより故障確率を算出し、この算出した故障確率に基づいて故障箇所の候補を抽出する。このため、部品の故障確率を決定するための情報(変数;ノード)として、各部品の動作時間情報を、データ収集アプリケーションソフトを用いるなどして直接に取得する。各ノード内には、因果関係の強さを表す確率表を予め入れておく。各ノードに入れておく確率表の例としては、図10、図11に示すような各部品についての動作時間情報に対する正常確率と故障確率の表が挙げられる。図10は、図5に示した動作部品に対する動作時間テーブル更新処理により加算された回路基板1上のCPU1の動作時間に対するCPU1の正常確率と故障確率である。動作時間が0〜500時間の場合、CPU1の正常確率は90%で故障確率は10%に設定し、動作時間が501〜2000時間の場合、CPU1の正常確率は85%で故障確率は15%に設定し、動作時間が2001〜5000時間の場合、CPU1の正常確率は83%で故障確率は17%に設定し、動作時間が5001〜10000時間の場合、CPU1の正常確率は80%で故障確率は20%に設定し、動作時間が10001〜15000時間の場合、CPU1の正常確率は78%で故障確率は22%に設定し、動作時間が15001〜25000時間の場合、CPU1の正常確率は76%で故障確率は24%に設定する。他の回路基板である回路基板2の部品RAM21に対しても図11に示すようにRAM21の動作時間に対するRAM21の正常確率と故障確率の表を設定する。また、他の部品についても、同様に確率表を設定する。
【0027】
本実施例では図9に示したように、回路基板上の故障部品を特定するために、回路基板上の部品ノードと動作時間情報ノードを用いて故障診断モデルを構成していたが、更に故障診断の精度を向上させるために、エラーコード情報ノードや、各部品の製造番号情報ノード(各部品のID情報ノード)を付加した故障診断モデルにしてもよい。図12に各部品の動作時間情報に加えて、エラーコード情報ノードと製造番号情報ノードを付加した故障診断モデルを示す。
【0028】
図15は、エラーコードの状態を示すものであり、図16はRAM21のノードに入れておく正常確率と故障確率の確率表を示している。エラーコードが111−011の場合、故障箇所候補は図13に示すように、回路基板1と回路基板2と回路基板3になるので、回路基板2上に実装されたRAM21はノードが動作時間情報のみに比べて、全般的に故障確率が高くなる。エラーコードが111−011において、動作時間が0〜1000時間の場合、RAM21の正常確率は40%で故障確率60%に設定し、動作時間が1001〜3000時間の場合、RAM21の正常確率は37%で故障確率63%に設定し、動作時間が3001〜5000時間の場合、RAM21の正常確率は30%で故障確率70%に設定し、動作時間が5001〜8000時間の場合、RAM21の正常確率は25%で故障確率75%に設定し、動作時間が8001〜23000時間の場合、RAM21の正常確率は22%で故障確率78%に設定し、動作時間が23001〜30000時間の場合、RAM21の正常確率は21%で故障確率79%に設定する。また、エラーコードが211-055の場合、故障箇所候補は図14に示すように、回路基板1と回路基板4と周辺機器になるので、RAM21はノードが動作時間情報に比べて、全般的に故障確率が低くなる。エラーコードが211−055において、動作時間が0〜1000時間の場合、RAM21の正常確率は98%で故障確率2%に設定し、動作時間が1001〜3000時間の場合、RAM21の正常確率は97%で故障確率3%に設定し、動作時間が3001〜5000時間の場合、RAM21の正常確率は95%で故障確率5%に設定し、動作時間が5001〜8000時間の場合、RAM21の正常確率は94%で故障確率6%に設定し、動作時間が8001〜23000時間の場合、RAM21の正常確率は93%で故障確率7%に設定し、動作時間が23001〜30000時間の場合、RAM21の正常確率は92%で故障確率8%に設定する。このように、動作時間情報に加えて、エラーコード情報と製造番号情報を加えた診断モデルを構築することでより精度の高い故障診断を行うことが可能となる。
【0029】
実施例1では、動作モード別において回路基板上の各部品の所定動作時間を加算し、それをベイジアンネットワークにより構成された診断モデルに動作時間情報を入力することで、精度よく故障箇所の特定行うことができる。
【実施例2】
【0030】
実施例2では、故障した回路基板を特定するために、実施例1の故障診断モデルで算出した回路基板上の各部品の故障確率情報をノードとして加え、故障した回路基板を特定する方法について説明する。
【0031】
実施例2の故障診断処理について、図17に示す故障診断処理のフローチャートにより説明する。S1701〜S1705までは実施例1と同様の処理のため説明を省略する。次に、回路基板の故障診断モデルを呼び出し(S1706)、S1705で算出した各部品の故障確率情報を取得する(S1707)。そして、取得した各部品の故障確率情報を、回路基板の故障診断モデルに入力して、回路基板の故障診断処理を行い(S1708)、故障確率を算出する。
【0032】
実施例2における回路基板の故障診断モデルを図18に示す。コンポーネント(本実施例では回路基板)の状態を表すノードと、実施例1から算出した各部品の故障確率を表すノードの因果関係をベイジアンネットワークで構成することにより故障診断モデルを構築する。また、各ノードに入れておく確率表の例としては、図19〜図21に示すような確率表が挙げられる。図19は、各部品についての故障確率情報についての確率表であり、ASIC11の故障確率が20%未満の場合(図19上ではAで表現)が30%、故障確率が20%以上の場合(図19上ではBで表現)が70%に設定している。図20は、RAM11の故障確率が30%未満の場合(図20ではCで表現)が20%、故障確率が30%以上の場合(図20上ではDで表現)が80%に設定している。また、図21は各部品の故障確率情報に対する回路基板の故障確率表であり、ASIC11の故障確率情報が20%未満で、RAM11の故障確率情報が30%以上、・・・の場合、回路基板1の正常確率は70%、故障確率は30%に設定している。
【0033】
本実施例では図18に示したように、故障した回路基板を特定するために、回路基板ノードと、各部品の故障確率情報ノードとを用いて故障診断モデルを構成していたが、実施例1の場合と同様に、更に故障診断の精度を向上させるために、環境情報、画像形成装置の動作情報、エラーコード情報を故障診断モデルのノードとして付加することができる。以下、このような故障診断モデルを用いて故障した回路基板を特定する方法について説明する。ここで、環境情報とは、画像形成装置が設置場所における温度や湿度等の情報である。また、画像形成装置の動作情報とは、プリント枚数、スキャン枚数、ドラム使用量、トナー使用量等の情報である。このときの故障診断モデルを図22に示す。また、各ノードに入れておく確率表の例としては、図23〜図25に示すような確率表が挙げられる。図23は環境情報の1つである温度情報の確率表、図24はプリント情報の1つであるプリント枚数情報の確率表、図25はエラーコード情報、各部品の故障確率情報、温度情報、・・・に対する回路基板の故障確率表を示す。故障した回路基板を特定する方法は故障診断モデルに入力する情報ノードが増加するのみで、基本的な故障診断処理のプロセスは前記の場合と同様であるその詳細な説明は省略する。
【0034】
実施例2では、動作モード別において回路基板上の各部品の所定動作時間を加算し、それをベイジアンネットワークにより構成された部品の故障診断モデルに動作時間情報を入力することで、部品の故障確率を算出し、更に、回路基板の故障診断モデルに各部品の故障確率情報を入力することで、精度よく故障した回路基板の特定を行うことができる。
【0035】
以上、説明したように、本発明の特徴は、ベイジアンネットワーク等を用いた故障診断モデルにおいて、故障診断を行うための入力情報に回路基板、回路基板上の部品の動作時間に関する情報を加えた点にある。このため、故障診断システムのハード的な構成は、従来のシステムを用いることができる。
【0036】
なお、上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】画像形成装置のハードウエア構成を説明する図である。
【図2】画像形成装置の回路基板群を説明する図である。
【図3】各動作モードにおける動作部品と動作時間を説明する図である。
【図4】動作モード1における動作部品を説明するフローチャートである。
【図5】動作部品に対する動作時間テーブル更新処理を説明するフローチャートである。
【図6】動作モード1で動作した際の動作時間情報の更新を説明するフローチャートである。
【図7】実施例1における故障診断処理を説明するフローチャートである。
【図8】故障時の表示部の例を説明する図である。
【図9】各部品の動作時間情報をノードとした故障診断モデルを説明するグ図である。
【図10】CPU1の動作時間によるCPUの故障確率を説明する表である。
【図11】RAM21の動作時間によるRAM21の故障確率を説明する表である。
【図12】各部品の動作時間に加えて各部品のIDとエラーコート情報をノードとした診断モデルを説明する図である。
【図13】エラーコード111-011の故障箇所候補を説明する図である。
【図14】エラーコード211-055の故障箇所候補を説明する図である。
【図15】エラーコードの状態を説明する表である。
【図16】エラーコードとRAM21の動作時間情報の組み合わせによる部品の故障確率を説明する表である。
【図17】実施例2における故障診断処理のフローチャートである。
【図18】実施例2における回路基板の故障診断モデルを説明する図である。
【図19】ASIC11故障確率の状態を説明する図である。
【図20】RAM11故障確率の状態を説明する図である。
【図21】各部品の故障確率情報に対する回路基板1の故障確率を説明する図である。
【図22】実施例2における回路基板の故障診断モデルを説明する図である。
【図23】温度の状態を説明する図である。
【図24】プリント枚数の状態を説明する図である。
【図25】エラーコード、回路基板上の各部品の故障確率、環境情報(温度、湿度等)の組み合わせによる回路基板の故障確率を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
1 画像形成装置
101 画像読み取り部
102 スキャナIF部
103 表示部
104 表示制御部
105 画像形成部
106 プリンタIF部
107 指示入力部
108 記録・読み取り制御部
109 通信IF部
110 CPU
111 ROM
112 RAM
113 NVRAM
114 動作時間管理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象装置に組み込まれた回路基板及び/又は回路基板に実装された部品の動作時間をそれぞれ管理する動作時間管理部と、
診断対象装置の故障原因と、当該故障原因と因果関係を有する入力情報とを結線して表現される故障診断モデルに基づく推論処理を行う故障診断部と、
を備え、当該故障診断部は前記入力情報に前記回路基板毎の動作時間及び/又は回路基板に実装された部品毎の動作時間を含めて推論処理に基づく故障診断を行うことを特徴とした故障診断システム。
【請求項2】
請求項1記載の故障診断システムにおいて、
前記動作時間管理部は、診断対象装置の動作モード別に回路基板及び/又は回路基板に実装された部品の動作時間を管理することを特徴とした故障診断システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の故障診断システムにおいて、
前記故障診断部は前記入力情報に予め割り振られた回路基板及び/又は回路基板に実装された部品の故障確率を含めて推論処理に基づく故障診断を行うことを特徴とした故障診断システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載の故障診断システムにおいて、
前記診断対象装置を画像形成装置としたことを特徴とした故障診断システム。
【請求項5】
請求項4記載の故障診断システムを搭載したことを特徴とした画像形成装置。
【請求項6】
診断対象装置の故障原因と、当該故障原因と因果関係を有する入力情報とを結線して表現される故障診断モデルを用いる故障診断方法であって、
診断対象装置に組み込まれた回路基板及び/又は回路基板に実装された部品の動作時間を算出し、
前記入力情報として前記回路基板毎の動作時間及び/又は回路基板に実装された部品毎の動作時間を含めて推論処理に基づく故障診断を行うことを特徴とする故障診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2007−88648(P2007−88648A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272977(P2005−272977)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】