説明

散乱型偏光子

【課題】2種類のポリマーで構成される相分離構造を有する散乱型偏光子において、輝度向上に負の影響をもたらす要因を究明し、輝度向上率を高める。
【解決手段】ポリエステル系樹脂(A)からなる連続相と、ポリスチレン系樹脂(B)からなる分散相とを有する散乱型偏光子であって、ポリスチレン系樹脂(B)の重量平均分子量が27万以上であることを特徴とする散乱型偏光子を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輝度向上フィルム等として利用することができる散乱型偏光子、詳しくは、特定の偏光方向の光のみ透過させ、他の偏光方向の光を反射させる散乱異方性を備えた散乱型偏光子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)の構成例として、図1に示すように、液晶セルの背面側(裏面側)に、ガラス基板、偏光フィルム、輝度向上フィルム、拡散フィルム、冷陰極管(バックライトユニット)、反射シートなどを順次積層してなる構成を例示することができる。
【0003】
かかる構成において、偏光フィルムは、特定の偏光方向の光(直線偏光)のみを透過させて液晶セルに供給し、その他の偏光方向の光を吸収する役割を果たすため、偏光フィルムのみでは液晶セルに供給する光量が減少し、画像が暗くなってしまう。そこで、上記構成のように、偏光フィルムの光源側に輝度向上フィルムを配設することにより、偏光フィルムが透過する偏光方向の光量を増加させて液晶セルに供給し得る光量を増やし、画像を明るくすることが行なわれている。
【0004】
この種の輝度向上フィルムとして、散乱型偏光子を利用したものが知られている。散乱型偏光子を輝度向上フィルムとして利用すると、輝度向上フィルムを通過する光の偏光方向と偏光フィルムを通過する光の偏光方向とを合致させれば、偏光フィルムに吸収される偏光方向の光が手前側の輝度向上フィルムで光源側に反射され、輝度向上フィルムと反射シートとの間で反射及び散乱が繰り返されるうちに光の偏光方向が変化して偏光フィルムを通過するようになり、偏光フィルムを通過する光の光量が増大して画像の輝度を向上させることができる。
【0005】
このような散乱型偏光子としては、例えば特許文献1に開示されているように、ポリエステル系樹脂などで構成されたフィルムを多層積層した偏光子が知られている。
また、複屈折性が異なる2種類のポリマーからなる相分離構造を有するポリマーブレンドを一軸延伸してなる散乱型偏光子が知られている。このような散乱型偏光子は、延伸方向と垂直方向で偏光の散乱度合いが異なる散乱異方性を備えているため、特定の偏光方向の光を選択的に透過し、他の偏光方向の光を選択的に反射又は散乱させることができる。例えば特許文献2には、2,6−ポリエチレンナフタレートなどからなる第1の高分子中に、ポリメチルメタクリレートやシンジオタクチックポリスチレンなどの第2の高分子が分散したシートを延伸してなるものが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特表平9−506985号公報
【特許文献2】特表2000−506990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、2種類のポリマーで構成される相分離構造を有する散乱型偏光子において、輝度向上に負の影響をもたらす要因を究明し、かかる要因を低減することにより、輝度をさらに向上させ得る散乱型偏光子を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリエステル系樹脂(A)からなる連続相と、ポリスチレン系樹脂(B)からなる分散相とを有する散乱型偏光子であって、ポリスチレン系樹脂(B)の重量平均分子量が27万以上であるか、或いは、ポリスチレン系樹脂(B)のメルトインデックス(MI)が10g/10min以下であることを特徴とする散乱型偏光子を提案する。
【0009】
ポリエステル系樹脂(A)からなる連続相と、ポリスチレン系樹脂(B)からなる分散相とを有する散乱型偏光子において、ポリスチレン系樹脂(B)の重量平均分子量が27万以上であるか、或いは、ポリスチレン系樹脂(B)のメルトインデックス(MI)が10g/10min以下であれば、ポリエステル系樹脂(A)に対するポリスチレン系樹脂(B)の分散性が高くなり、輝度向上フィルムとして液晶ディスプレイ等に組み込んだ場合、画像の精彩性をより一層良好にすることができ、輝度をより一層高めることができる。
なお、本発明におけるメルトインデックス(MI)は、JISK−7210に準拠し、温度300℃、荷重1.2kgの条件で行った測定値である。
【0010】
本発明において、散乱型偏光子の形態は特に限定するものではなく、板状、シート状、フィルム状、ペレット状その他の形態を包含する。
また、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、通常はその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品を称し、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものを称するが(日本工業規格JISK6900)、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について詳細に述べるが、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」を意図し、同時に「Xより大きくYよりも小さいことが好ましい」旨の意図も包含する。
【0012】
本実施形態に係る散乱型偏光子(以下「本偏光子」という。)は、連続相を構成するポリエステル系樹脂(A)と、分散相を構成するポリスチレン系樹脂(B)とを含有する散乱型偏光子である。
【0013】
連続相を構成し得るポリエステル系樹脂(A)としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、またはそのエステルと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1.4シクロヘキサンジメタノール、などのグリコールとを重縮合して得られる芳香族ポリエステル樹脂、ポリε−カプロラクタム等、ラクトンを開環重合して得られる脂肪族ポリエステル樹脂、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンアゼレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリテトラメチレンサクシネート、シクロヘキサンジカルボン酸/シクロヘキサンジメタノール縮合体等、二塩基酸とジオールとを重合して得られる脂肪族ポリエステル樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール等ヒドロキシカルボン酸を重合して得られる脂肪族ポリエステル樹脂、前記脂肪族ポリエステルのエステル結合の一部、例えば全エステル結合の50%以下がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合等に置き換えられた脂肪族ポリエステル樹脂などを挙げることができる。
【0014】
中でも好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)など、芳香族分子を含む結晶性ポリエステルを挙げることができる。これらのうち2種類以上の組合せからなるポリマーブレンド或いはコポリマー(共重合体)も好ましい。
これらの中でも特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、或いは、これらのコポリマーは好ましいものである。
【0015】
上記のポリエチレンナフタレート(PEN)としては、市販品を用いることもできる。例えばテオネックスTN8065S(ポリエチレンナフタレートのホモポリマー、帝人化成(株)製、固有粘度0.71dl/g)、テオネックスTN8065SC(ポリエチレンナフタレートのホモポリマー、帝人化成(株)製、固有粘度0.55dl/g)、テオネックスTN8756C(ポリエチレンナフタレートとポリエチレンテレフタレートのコポリマー、帝人化成(株)製、固有粘度0.65dl/g)などを好ましい例として挙げることができる。
【0016】
また、連続相を構成し得るポリエステル系樹脂(A)の重量平均分子量としては3万以上が好ましく、固有粘度としては0.5dl/g以上が好ましく、ガラス転移温度としては70℃〜120℃の範囲が好ましく、融点としては240℃〜270℃の範囲が好ましい。
【0017】
他方、分散相を構成し得るポリスチレン系樹脂(B)は、スチレンを有するポリマーであって、スチレン単量体のホモポリマー或いはコポリマー或いはこれらのポリマーブレンドであればよく、例えばポリスチレン、スチレン−アクロニトリル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体などを挙げることができる。さらに、ポリスチレンとして、立体化学構造がアタクチック構造のポリスチレン、アイソタクチック構造のポリスチレン、シンジオタクチック構造のポリスチレンなどを挙げることができ、これらの中でも、アタクチック構造のポリスチレン(単に「ポリスチレン」或いは「PS」ともいう)、シンジオタクチック構造のポリスチレン(以下、「sPS」ともいう)が好ましく、特にsPSが好ましい。
【0018】
上記sPSは共重合であっても良く、例えば、スチレンとパラメチルスチレンとが共重合してなるシンジオタクチックポリスチレンが挙げられる。
【0019】
ポリスチレン系樹脂(B)は、重量平均分子量が27万以上であるものが好ましく、特に27万〜35万であるものが好ましく、中でも27万〜30万であるものがさらに好ましい。
また、ポリスチレン系樹脂(B)のメルトインデックス(MI)は、10g/10min以下であるのが好ましく、特に2〜10g/10minであるのが好ましく、中でも4〜10g/10minであるのがさらに好ましい。
【0020】
ポリスチレン系樹脂(B)は、その融点が280℃以下であるのが好ましく、特に240〜275℃、中でも特に250〜275℃であるものを選択して用いるのが好ましい。
【0021】
また、ポリスチレン系樹脂(B)のガラス転移温度は、90〜100℃、特に90〜95℃であるのが好ましい。
【0022】
ポリエステル系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)との好ましい組合せとしては、上記の樹脂の中から、延伸後にある1方向Xにおける屈折率がほぼ同じ、より具体的には屈折率差が0.05以内、好ましくは0.01以内であり、且つ、前記方向Xと垂直な方向Yにおける屈折率差が大きい、例えば屈折率差が0.1以上、好ましくは0.3以上である組合せを選択して用いるのが好ましい。かかる観点から、ポリエチレンナフタレート(PEN)とシンジオタクチックポリスチレン(sPS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)とポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)とシンジオタクチックポリスチレン(sPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリスチレン(PS)の組合せを好ましい例として挙げることができる。
これらの中でも特に、ポリエチレンナフタレート(PEN)/ポリエチレンテレフタレート(PET)のブレンド物と、シンジオタクチックポリスチレン(sPS)との組合せが好ましい。PENは正の複屈折が大きく(Δn=0.32)、sPSは負の複屈折が大きく(Δn=−0.10)、屈折率の大小はPEN(1.64)>PET(1.59)≒sPS(1.59)となるため、PENとsPSをブレンドすると、海島構造を形成し延伸したとき、方向XにはPENとsPSの屈折率差が大きくなり、光のX方向成分は大きく反射させることができる一方で、方向YにはPENとsPSの屈折率差がより0に近くなり光のY方向成分をほぼ透過させることができる。さらに、PENにPETを適量ブレンドすることにより、方向Yにおける屈折率を下げ、sPSとの屈折率差をより0に近づけることができる。
【0023】
ポリエステル系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)との配合割合は、質量割合で(A):(B)=95:5〜50:50、特に75:25〜50:50の範囲で調整するのが好ましい。配合比が、50:50に近いほど界面数を多くすることが可能になり、ポリスチレン系樹脂(B)の割合が5質量部未満、又は50質量部を越えると2成分間の屈折率の差が不十分となりやすい。
【0024】
また、分散相の分散性を向上させる目的で、必要に応じて相溶化剤(C)などの添加物を添加してもよい。
相溶化剤(C)としては、連続相および分散相の種類に応じて慣用の相溶化剤から選択することができ、例えばポリカーボネート、エステル系樹脂、エポキシ基を持つ樹脂、オキサゾリン環を持つ樹脂、アズラクトン基を持つ樹脂から選ばれた少なくとも1つの樹脂と、スチレン系樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリアミドから選ばれた少なくとも1つの樹脂とからなるブロックコポリマー、あるいはグラフトコポリマーを挙げることができる。中でも、分散性向上の点で、エポキシ基やオキサゾリン基を持つ樹脂などが特に好ましく、特にエポキシ変性のものが好ましい。
市販されている相溶化剤、例えば「レゼダ」(東亞合成社製)、「エポクロス」(日本触媒社製)、及び、「モディパー」(日本油脂社製)等を用いることもできる。中でもエポキシ変性ポリスチレンである「レゼダ」や、オキサゾリン基含有ポリマーである「エポクロス」は好ましく、特に「レゼダ」が優位に使用できる。
【0025】
相溶化剤の配合割合は、例えば、ポリエステル系樹脂(A)及びポリスチレン系樹脂(B)の合計100質量部に対して0.2〜10質量部、特に1〜10質量部とするのが好ましい。
【0026】
(製膜方法)
本散乱型偏光子の形態は特に限定するものではないが、ここでは、シート状の散乱型偏光子の製造方法について説明する。
【0027】
ポリエステル系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)とを含有する組成物は、溶融してシート状に製膜すればよい。例えば、該組成物を乾燥させ、押出機に供給し、樹脂の融点以上の温度に加熱して溶融する。そして、溶融した組成物をTダイのスリット状の吐出口から押し出し、冷却ロールに密着固化させてキャストシート(未延伸状態)を形成すればよい。但し、このような製膜法に限定するものではない。
【0028】
(延伸方法)
製膜したキャストシートは、実質的に一軸延伸するのが好ましい。ここで、「実質的に一軸延伸」とは、積極的に一方向のみに行う延伸を意味する。例えば製膜、熱処理或いは巻き取りなどの過程で、前記一方向とは異なる方向に自然に延伸されるような場合も包含する意である。より客観的に言えば、一方向の延伸倍率が、これと直交する方向の延伸倍率の4倍以上である場合を意味する。
このように実質的に一軸延伸することにより、連続相中に分散相をほぼ一定方向に配列させて固定させることができ、異方性散乱機能を発揮させることができる。すなわち、連続相を構成するポリエステル系樹脂(A)の延伸方向での屈折率は著しく増大し、非延伸方向の屈折率は低下する。分散相を構成するポリスチレン系樹脂(B)は延伸方向の屈折率は著しく減少し、非延伸方向の屈折率は増加する。一軸延伸によって、連続相と分散相との屈折率は延伸方向に大きく相異し、延伸方向に対して垂直な方向はほぼ一致するようになり、屈折率がほぼ同じ方向の偏光はほぼ透過し、屈折率が異なる方向の偏光は散乱する特性を備えた散乱型偏光素子を作製することができる。
【0029】
延伸方法は、自由幅一軸延伸、一定幅一軸延伸のいずれでもよく、また、引っ張り延伸法、ロール間延伸法、ロール圧延法、その他の方法のいずれを採用してもよい。
延伸温度は、樹脂のガラス転移温度(Tg)程度から(Tg+50℃)の範囲内の温度とするのが好ましく、特に128℃以下とするのが好ましい。延伸温度がこの範囲であれば、延伸時に破断することなく安定して延伸を行うことができる。
延伸倍率は、特に限定するものではないが、例えば、TD又はMDに4倍以上、好ましくはTD又はMDに4〜5倍、特にTD又はMDに4〜4.5倍とするのが好ましい。
【0030】
延伸したシートは、耐熱性及び寸法安定性を付与するべく、熱処理するのが好ましい。 この際、熱処理温度は180〜230℃とするのが好ましく、180〜200℃とするのがさらに好ましい。熱処理に要する処理時間は、好ましくは1秒〜5分である。
なお、このように延伸後に熱処理を行う場合には、延伸装置には延伸後に熱処理ができるテンター延伸装置を使用するのが好ましい。
【0031】
本偏光子の厚みは、特に限定するものではない。例えば輝度向上フィルムに用いる場合には、100μm〜250μm、特に100μm〜200μmとするのが好ましい。
【0032】
(本偏光子)
本偏光子は、例えばバックライトユニットに積層して測定すると、本偏光子を積層しない場合に比べて、輝度を1.2倍以上、特に好ましくは1.4倍以上に向上させることができる。
よって、本偏光子を輝度向上フィルムとして利用し、輝度向上フィルムを通過する光の偏光方向と偏光フィルムを通過する光の偏光方向とを合致させるように調整した上で、例えば図1に示すように、液晶セルの背面側(裏面側)に、ガラス基板、偏光フィルム、輝度向上フィルム、拡散フィルム、冷陰極管(バックライトユニット)、反射シートなどを順次積層して液晶表示装置(LCD)を構成すれば、前記輝度向上フィルムを積層しない場合に比べて、画像の輝度を1.2倍以上、特に好ましくは1.4倍以上に向上させることができる。
この際、光源である冷陰極管(バックライト)から発せられた光が、一方の偏光方向の光とこれと直交する偏光方向の光とで表されるとすると、輝度向上フィルムに入射した光は、散乱しない方向の偏光はそのまま通過するが、これに直角なもう一方の偏光方向の光は光源側に反射され、輝度向上フィルム、反射シート間で散乱及び反射が繰り返されて輝度向上フィルムに再入射し、散乱しない偏光方向の光に変化していれば通過し、そうでなければ再び光源側に反射され、これが繰り返される。このように光源から発せられた光の殆どをやがて液晶セルに供給させることができるから、液晶セルに供給する光量を高めることができ、画像の輝度を向上させることができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
ここで、シート乃至フィルムを製造する際のシート乃至フィルムの引取り(流れ)方向をMD、その直交方向をTDと表示する。
【0034】
(1)重量平均分子量
重量平均分子量は、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶媒とし、130℃でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を行うことで求めた。
【0035】
(2)メルトインデックス(MI)
メルトインデックス(MI)の測定は、特に言及しない限り、JISK−7210に準拠し、温度300℃、荷重1.2kgの条件で行った。
【0036】
(3)偏光透過率の評価方法
偏光透過率は、分光光度計((株)日立製作所製:U−4000)に積分球を取り付け、測定を行った。380nm〜800nmの波長の光源の入射光側に偏光フィルムを取り付け、その光源側に吸収型偏光フィルムを挿入し、光源を鉛直方向に偏光する直線偏光のみにして実施例及び比較例の散乱型偏光子を挿入して、散乱型偏光の偏光透過率をMD、TDについてそれぞれ測定した。
MDについての評価基準は、400nm〜700nmの偏光透過率の平均が80%以上の偏光透過率を「○」、70%以上80%未満の偏光透過率を「△」、70%未満の偏光透過率を「×」と評価した。
TDについての評価基準は、20%以下の偏光透過率を「○」、20%より大きく25%以下の偏光透過率を「△」、25%より大きい偏光透過率を「×」と評価した。
【0037】
(4)輝度評価
バックライトユニット(シャープ製「アクオス」13インチ、型番:LC−13S4−S)に、サンプル(輝度向上フィルム)及び偏光フィルムを順次積層して固定し、50cm離れたその画面の中央輝度を輝度計(ミノルタ社製、型式:LS−100)によって測定した。試料シートを組み込まないときの輝度を測定し、この輝度に対する割合を輝度向上率として算出した(下記式(1)参照)。この値が大きいほど、高輝度である。
評価基準としては、1.2以上の輝度向上率を「○」、1.1以上1.2未満の輝度向上率を「△」、1.1未満の輝度向上率を「×」と評価した。
【0038】
式(1):輝度向上率=(試料シート組み込済時の輝度/試料シート組み込前の輝度)
【0039】
(5)分散粒子径の評価
分散粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて散乱型偏光子を観察して測定し、分散粒子径の評価を行った。
評価基準としては、平均粒子径が5μm以下のものを「○」、5μmを超えるものを「×」と評価した。
【0040】
<実施例1>
ポリエチレンナフタレート(PEN、屈折率:1.64、固有粘度:0.71dl/g、Tg:120℃、重量平均分子量:5万、融点:265℃)と、ポリエチレンテレフタレート(PET、屈折率:1.58、Tg:80℃、重量平均分子量:110000、融点:255℃、固有粘度1.2dl/g)と、シンジオタクチックポリスチレン(sPS)と、相溶化剤としての、ポリスチレンをグラフト重合したエポキシ変性ポリスチレン(エポキシ変性PS-graft-PS、 屈折率:1.58、融点:100〜110℃)とを、PEN:PET:sPS:相溶化剤=50:10:40:2の質量比で配合し、十分混合した後、定質量フィーダーにて供給しながら、二軸押出機にて樹脂温度290℃で押出混練し、冷却固化して厚さ450μmのキャストシートを形成した。
得られたキャストシートを、小型テンター装置(京都機械株式会社製)を使用して120℃でTDに4.5倍一軸延伸し、180℃で1分間熱処理し、厚み130μmのシート状の散乱型偏光子を得た。
【0041】
なお、本実施例で使用したシンジオタクチックポリスチレン(sPS)は、ホモポリマーからなるシンジオタクチックポリスチレンであり、屈折率:1.59、Tg:93℃、融点271℃、重量平均分子量30万、MI:3g/10minのものである。
【0042】
実施例1で得られた散乱型偏光子の輝度向上率は1.25(輝度:3963cd/m)であり、また、走査型電子顕微鏡(3000倍)により散乱型偏光子の断面を観察した結果を、図2に示す。
【0043】
<実施例2>
PEN、PET、sPS及び相溶化剤の配合比を60:0:40:2に変更し、さらに相溶化剤として、ポリスチレンをグラフト重合したポリカーボネート(屈折率:1.59、MI:15g/10min)を用いた以外は、実施例1と同様にして散乱型偏光子を得た。ここでのメルトインデックス(MI)は、JISK−7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で行った測定値である(g/10min)。
実施例2で得られた散乱型偏光子の輝度向上率は1.21(輝度:3808cd/m)であり、また、走査型電子顕微鏡(3000倍)により散乱型偏光子の断面を観察した結果を、図3に示す。
【0044】
<実施例3>
PEN、PET、sPS及び相溶化剤の配合比を75:0:25:2に変更し、sPSとして、シンジオタクチックポリスチレン(屈折率:1.59、Tg:93℃、融点:272℃、重量平均分子量:27万、MI:9g/10min)用い、相溶化剤として、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体とポリスチレンのグラフト共重合体(EGMA−g−PS、屈折率:1.58、Tg:−20℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして散乱型偏光子を得た。
実施例2で得られた散乱型偏光子の輝度向上率は1.20(輝度:3791cd/m)であった。
【0045】
<比較例1>
PEN、PET、sPS及び相溶化剤の配合比を50:10:40:2に変更し、sPSとして、シンジオタクチックポリスチレン(屈折率:1.59、Tg:93℃、融点:272℃、重量平均分子量:20〜25万、MI:13g/10min)用い、相溶化剤として、ポリスチレンをグラフト重合したポリカーボネート(屈折率:1.58、MI:15g/10min)を用いた以外は、実施例1と同様にして散乱型偏光子を得た。ここでのメルトインデックス(MI)は、JISK−7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で行った測定値である。
比較例1で得られた散乱型偏光子の輝度向上率は1.11(輝度:3530cd/m)であった。
【0046】
<比較例2>
PEN、PET、sPS及び相溶化剤の配合比を60:0:40:2に変更し、sPSとして、シンジオタクチックポリスチレン(屈折率:1.59、Tg:93℃、融点:272℃、重量平均分子量:20万〜25万、MI:13g/10min)用い、相溶化剤として、ポリスチレンをグラフト重合したポリカーボネート(屈折率:1.58、MI:15g/10min)を用いた以外は、実施例1と同様にして散乱型偏光子を得た。ここでのメルトインデックス(MI)は、JISK−7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で行った測定値である(g/10min)。
比較例2で得られた散乱型偏光子の輝度向上率は1.07(輝度:3380cd/m)であり、また、走査型電子顕微鏡(3000倍)により散乱型偏光子の断面を観察した結果を、図4に示す。
【0047】
<比較例3>
PEN、PET、sPS及び相溶化剤の配合比を75:0:25:2に変更し、sPSとして、シンジオタクチックポリスチレン(屈折率:1.59、Tg:93℃、融点:272℃、分子量:20万〜25万、MI:13g/10min)用い、相溶化剤として、ポリスチレンをグラフト重合したポリカーボネート(屈折率:1.58、MI:15g/10min)を用いた以外は、実施例1と同様にして散乱型偏光子を得ようとしたが、キャストシートを延伸したところ破断した。ここでのメルトインデックス(MI)は、JISK−7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で行った測定値である(g/10min)。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】液晶ディスプレイ(LCD)の一般的な構成の一例を示した断面図である。
【図2】実施例1で得た散乱型偏光子の断面の走査型電子顕微鏡(3000倍)による顕微鏡写真である。
【図3】実施例2で得た散乱型偏光子の断面の走査型電子顕微鏡(3000倍)による顕微鏡写真である。
【図4】比較例2で得た散乱型偏光子の断面の走査型電子顕微鏡(3000倍)による顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂(A)からなる連続相と、ポリスチレン系樹脂(B)からなる分散相とを有する散乱型偏光子であって、
ポリスチレン系樹脂(B)の重量平均分子量が27万以上であることを特徴とする散乱型偏光子。
【請求項2】
ポリエステル系樹脂(A)からなる連続相と、ポリスチレン系樹脂(B)からなる分散相とを有する散乱型偏光子であって、
ポリスチレン系樹脂(B)のメルトインデックス(MI)が10g/10min以下であることを特徴とする散乱型偏光子。
【請求項3】
連続相を構成するポリエステル系樹脂(A)と、分散相を構成するポリスチレン系樹脂(B)とを含有する組成物を製膜し、得られたシートを延伸してなる散乱型偏光子であって、前記の組成物は、ポリエステル系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)とを95:5〜50:50の質量割合で含み、かつポリエステル系樹脂(A)及びポリスチレン系樹脂(B)の合計100質量部に対して0.2〜10質量部の相溶化剤(C)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の散乱型偏光子。
【請求項4】
輝度向上率が1.2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の散乱型偏光子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の散乱型偏光子を備えてなる液晶表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−164929(P2008−164929A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354324(P2006−354324)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】