散水設備
【課題】屋外火災の延焼を確実に防止できる散水設備を提供すること。
【解決手段】散水システム20は、建物1に設けられて建物1のルーバー10に散水する散水設備である。この散水システム20は、建物1に設けられた配管21と、この配管21に水を供給する送水ポンプ23と、配管21に設けられて建物1の外部に露出する複数の散水ヘッド30と、を備える。送水ポンプ23を駆動して散水ヘッド30からルーバー10に散水し、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30から外部に向かって散水する。
【解決手段】散水システム20は、建物1に設けられて建物1のルーバー10に散水する散水設備である。この散水システム20は、建物1に設けられた配管21と、この配管21に水を供給する送水ポンプ23と、配管21に設けられて建物1の外部に露出する複数の散水ヘッド30と、を備える。送水ポンプ23を駆動して散水ヘッド30からルーバー10に散水し、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30から外部に向かって散水する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散水設備に関する。詳しくは、構造物に設けられてこの構造物の外装部材に散水する散水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造物の外装部材に散水する散水設備が知られている(特許文献1参照)。散水設備は、例えば、建物の外壁面に沿って配置された配管と、この配管に所定間隔おきに設けられた散水ヘッドと、を備える。このような散水設備によれば、例えば夏季に、各散水ヘッドから構造物の外装部材に散水することで、この散水した水の気化熱により外装部材を冷却できる。よって、構造物周囲の気温を下げたり、構造物の内部に入る風の温度を下げたりして、ヒートアイランド現象を軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−42013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の散水設備では、屋外で火災が発生した場合、散水により外装部材が湿潤状態となるものの、散水量が少ないため、火災の延焼を確実に防止するのは困難であった。
【0005】
本発明は、火災の延焼を確実に防止できる散水設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の散水設備は、構造物に設けられて当該構造物の外装部材に散水する散水設備であって、前記構造物に設けられた配管と、当該配管に水を供給する加圧送水装置と、前記配管に設けられて前記構造物の外部に露出する複数の散水ヘッドと、を備え、前記加圧送水装置を駆動して前記散水ヘッドから前記構造物の外装部材に散水し、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドから外部に向かって散水することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、例えば夏季には、各散水ヘッドから構造物の外装部材に散水することで、この散水した水の気化熱により外装部材を冷却できる。これにより、構造物周囲の気温を下げたり、構造物の内部に入る風の温度を下げたりして、ヒートアイランド現象を軽減できる。
【0008】
一方、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドから外部に向かって膜状に散水して、火の粉や放射熱などを防いだり、外装部材を湿らせて燃えにくくしたりして、火災の延焼を防止する。
このとき、常時散水用の散水ヘッドで火災用の散水ヘッドを兼用するので、火災用の散水ヘッドを個別に取り付ける場合に比べて、安価になる。
また、火災発生時に常時使用している散水ヘッドを使用するので、配管内に水を常時流通させているため、火災発生時に初めて故障や誤作動が発覚するということが少なくなる。よって、火災の延焼を確実に防止できる。
【0009】
また、水を常時散水するために、配管に大きな貯水タンクを連結しておくことになる。よって、地震時に構造物の周囲で屋外火災が同時に多発して、多数の散水ヘッドで同時に散水することになっても、貯水タンクに大量の水を貯めているため、長時間に亘って散水できる。
【0010】
請求項2に記載の散水設備は、前記散水ヘッドは、前記配管に設けられて外周面に噴射孔が形成された筒状のヘッド部と、当該ヘッド部の内部に移動可能に設けられた移動弁と、前記ヘッド部の先端を塞いでかつ熱により溶融可能な蓋部と、当該蓋部に反力をとって前記移動弁を前記ヘッド部の基端側に向かって付勢する付勢部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、付勢部により移動弁がヘッド部の基端側に向かって付勢されて、この移動弁により分岐配管の先端が塞がれる。この状態で、加圧送水装置を駆動して所定の水圧で配管内に水を供給すると、水圧により移動弁が付勢部の付勢力に抵抗してヘッド部の先端側に向かって移動し、ヘッド部内に水が流入して、噴射孔から水が噴射される。
【0012】
火災が発生すると、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドでは、火災の熱で蓋部が溶けて脱落し、移動弁に作用する付勢力が解除されるとともに、ヘッド部の先端が外部に開放される。よって、噴射孔に加えてヘッド部の先端から水が噴射される。
これにより、配管内の水圧が低下するため、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッドでは、付勢部により移動弁が押されてヘッド部の基端側に向かって移動し、この移動弁により分岐配管の先端が塞がれる。よって、ヘッド部内への水の流入が停止し、噴射孔からの水の噴射が停止する。
【0013】
以上より、ヘッド部、移動弁、蓋部、および付勢部を含んで散水ヘッドを構成することで、簡易な構造で、散水ヘッドから常時散水しつつ、火災発生時には、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッドの散水を停止しつつ、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドのみ外部に向かって散水して延焼を防止することが可能となる。
また、火災発生箇所の近傍に位置していない配管で弁が閉じていない場合でも、蓋部によりヘッド部内への水の流入が止まるため、火災発生箇所のみにより確実に散水できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、例えば夏季には、各散水ヘッドから構造物の外装部材に散水することで、この散水した水の気化熱により外装部材を冷却できる。これにより、構造物周囲の気温を下げたり、構造物の内部に入る風の温度を下げたりして、ヒートアイランド現象を軽減できる。一方、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドから外部に向かって膜状に散水して、火の粉や放射熱などを防いだり、外装部材を湿らせたりして、火災の延焼を防止する。このとき、外装部材に散水することで配管内に水を常時流通させているため、火災発生時に初めて故障や誤作動が発覚するということが少なくなる。また、水を常時散水するために、配管に大きな貯水タンクを連結しておくことになる。よって、地震時に構造物の周囲で屋外火災が同時に多発して、多数の散水ヘッドで同時に散水することになっても、貯水タンクに大量の水を貯めているため、長時間に亘って散水できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る散水設備が適用された構造物の構造を示す模式図である。
【図2】前記実施形態に係る構造物の外装部材の横断面図である。
【図3】前記実施形態に係る外装部材の正面図である。
【図4】前記実施形態に係る外装部材の縦断面図である。
【図5】前記実施形態に係る散水設備の散水ヘッドの断面図である。
【図6】前記実施形態に係る散水設備の動作を示す模式図である。
【図7】前記実施形態に係る構造物の屋外火災時の状態を示す模式図である。
【図8】前記実施形態に係る外装部材の屋外火災時における横断面図である。
【図9】前記実施形態に係る外装部材の屋外火災時における正面図である。
【図10】前記実施形態に係る外装部材の屋外火災時における縦断面図である。
【図11】前記実施形態に係る火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドの屋外火災時の動作を示す断面図である。
【図12】前記実施形態に係る火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッドの屋外火災時の動作を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る散水設備が適用された構造物としての建物1の構造を示す模式図である。
建物1には、外壁面2に沿って外装部材としての木製のルーバー10が設けられている。
この建物1には、散水設備としての散水システム20が設けられている。この散水システム20は、建物1の内部を通り外壁面2に沿って各階毎に略水平に延びる配管21と、この配管21に連結された大型の貯水タンク22と、建物1の内部に設けられて貯水タンク22内の水を配管21に供給する加圧送水装置としての送水ポンプ23と、配管21に設けられた複数の散水ヘッド30と、を備える。
【0017】
図2〜図4は、ルーバー10の横断面図、正面図、および縦断面図である。
ルーバー10は、所定間隔おきに設けられた複数の木製の羽板11で構成される。散水ヘッド30は、これら羽板11同士の間に設けられて、建物1の外部に露出している。
【0018】
図5は、散水ヘッド30の断面図である。
羽板11同士の間では、配管21から分岐して分岐配管211が延びている。散水ヘッド30は、各分岐配管211の先端に取り付けられている。
散水ヘッド30は、分岐配管211の先端に設けられて外周面に噴射孔311が形成された筒状のヘッド部31と、このヘッド部31の内部に移動可能に設けられた移動弁32と、ヘッド部31の先端を塞いでかつ熱により溶融可能な蓋部33と、この蓋部33に反力をとって移動弁32をヘッド部31の基端側に向かって付勢する付勢部としてのばね部材34と、を備える。
【0019】
ヘッド部31の基端側は、分岐配管211に連結されている。また、ヘッド部31の先端面には、貫通孔312が形成されており、蓋部33はこの貫通孔312に係止している。
移動弁32は、分岐配管211の内径よりも大きい外径を有しており、ヘッド部31の軸方向に沿って移動可能となっている。この移動弁32は、ばね部材34によりヘッド部31の基端側に向かって付勢されて、分岐配管211の先端を塞いでいる。
【0020】
以上の散水システム20は、以下のように動作する。
例えば夏季には、図1〜図4に示すように、送水ポンプ23を駆動して、貯水タンク22に貯めた水を散水ヘッド30からルーバー10の羽板11に散水する。この噴射された水は、羽板11の表面を伝って下方に流れ、この水の気化熱によりルーバー10を冷却する。
【0021】
具体的には、平常時で散水しない場合においても、送水ポンプ23を駆動して、貯水タンク22に貯めた水を水圧P0で配管21内に供給しておく。この水圧P0は、移動弁32が移動しない程度の水圧である。
そして、夏季などに散水したい場合には、送水ポンプ23を駆動して、P0よりも大きい水圧P1で配管21内に水を供給する。すると、図6に示すように、水圧により移動弁32がばね部材34の付勢力に抵抗してヘッド部31の先端側に向かって移動し、ヘッド部31の内部に水が流入して、噴射孔311から水が噴射される。
【0022】
一方、屋外火災が発生した場合には、図7〜図10に示すように、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30から外部に向かって膜状に散水するとともに、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッド30の散水を停止する。
【0023】
具体的には、屋外で火災が発生すると、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30では、図11に示すように、火災の熱で蓋部33が溶けて脱落し、移動弁32に作用する付勢力が解除されるとともに、ヘッド部31の先端が外部に開放される。よって、噴射孔311に加えてヘッド部31の先端の貫通孔312から水が大量に噴射される。貫通孔312から噴射された水は、建物1の外部に向かって大きく飛散する。
【0024】
これにより、配管21内の水圧がP0以下に低下するため、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッド30では、図12に示すように、ばね部材34により移動弁32が押されてヘッド部31の基端側に向かって移動し、この移動弁32により分岐配管211の先端が塞がれる。よって、ヘッド部31の内部への水の流入が停止して、噴射孔311からの水の噴射が停止する。
【0025】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)例えば夏季には、各散水ヘッド30から建物1のルーバー10に散水することで、この散水した水の気化熱によりルーバー10を冷却できる。これにより、建物1の周囲の気温を下げたり、建物1の内部に入る風の温度を下げたりして、ヒートアイランド現象を軽減できる。
【0026】
一方、屋外で火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30から外部に向かって膜状に散水して、火の粉や放射熱などを防いだり、ルーバー10を湿らせて燃えにくくしたりして、火災の延焼を防止する。
このとき、常時散水用の散水ヘッド30で火災用の散水ヘッドを兼用するので、火災用の散水ヘッドを個別に取り付ける場合に比べて、安価になる。
また、火災発生時に常時使用している散水ヘッド30を使用するので、配管21内に水を常時流通させているため、火災発生時に初めて故障や誤作動が発覚するということが少なくなる。よって、火災の延焼を確実に防止できる。
【0027】
また、水を常時散水するために、配管21に大きな貯水タンク22を連結しておくことになる。よって、地震時に建物1の周囲で屋外火災が同時に多発して、多数の散水ヘッド30で同時に散水することになっても、貯水タンク22に大量の水を貯めているため、長時間に亘って散水できる。
【0028】
(2)ヘッド部31、移動弁32、蓋部33、およびばね部材34を含んで散水ヘッドを構成することで、簡易な構造で、散水ヘッドから常時散水しつつ、屋外火災発生時には、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッド30の散水を停止しつつ、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30のみ外部に向かって散水して延焼を防止することが可能となる。
また、火災発生箇所の近傍に位置していない配管で弁が閉じていない場合でも、蓋部33によりヘッド部31の内部への水の流入が止まるため、火災発生箇所のみにより確実に散水できるようになる。
【0029】
(3)ルーバー10を木製とした。木製のルーバーは延焼しやすいが、建物1の周囲に屋外火災が発生しても、散水ヘッド30から水を噴射して水幕を形成することで、ルーバー10が延焼するのを確実に防止できる。さらに、ルーバー10の材料として国産木材を使用すれば、地球環境保護に貢献できる。
【0030】
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の実施形態では、ヘッド部31の先端に熱により溶融可能な蓋部33を設けたが、これに限らない。例えば、蓋部を熱感知器に連動して開放する構成としてもよいし、蓋部を手動で開放する構成としもよい。
また、上述の実施形態では、散水ヘッド30の水源として大型の貯水タンク22のみを利用したが、これに加えて、雨水を貯めた別の貯水タンクを利用してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…建物(構造物)
2…外壁面
10…ルーバー(外装部材)
11…羽板
20…散水システム(散水設備)
21…配管
22…貯水タンク
23…送水ポンプ(加圧送水装置)
30…散水ヘッド
31…ヘッド部
32…移動弁
33…蓋部
34…ばね部材(付勢部)
211…分岐配管
311…噴射孔
312…貫通孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、散水設備に関する。詳しくは、構造物に設けられてこの構造物の外装部材に散水する散水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造物の外装部材に散水する散水設備が知られている(特許文献1参照)。散水設備は、例えば、建物の外壁面に沿って配置された配管と、この配管に所定間隔おきに設けられた散水ヘッドと、を備える。このような散水設備によれば、例えば夏季に、各散水ヘッドから構造物の外装部材に散水することで、この散水した水の気化熱により外装部材を冷却できる。よって、構造物周囲の気温を下げたり、構造物の内部に入る風の温度を下げたりして、ヒートアイランド現象を軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−42013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の散水設備では、屋外で火災が発生した場合、散水により外装部材が湿潤状態となるものの、散水量が少ないため、火災の延焼を確実に防止するのは困難であった。
【0005】
本発明は、火災の延焼を確実に防止できる散水設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の散水設備は、構造物に設けられて当該構造物の外装部材に散水する散水設備であって、前記構造物に設けられた配管と、当該配管に水を供給する加圧送水装置と、前記配管に設けられて前記構造物の外部に露出する複数の散水ヘッドと、を備え、前記加圧送水装置を駆動して前記散水ヘッドから前記構造物の外装部材に散水し、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドから外部に向かって散水することを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、例えば夏季には、各散水ヘッドから構造物の外装部材に散水することで、この散水した水の気化熱により外装部材を冷却できる。これにより、構造物周囲の気温を下げたり、構造物の内部に入る風の温度を下げたりして、ヒートアイランド現象を軽減できる。
【0008】
一方、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドから外部に向かって膜状に散水して、火の粉や放射熱などを防いだり、外装部材を湿らせて燃えにくくしたりして、火災の延焼を防止する。
このとき、常時散水用の散水ヘッドで火災用の散水ヘッドを兼用するので、火災用の散水ヘッドを個別に取り付ける場合に比べて、安価になる。
また、火災発生時に常時使用している散水ヘッドを使用するので、配管内に水を常時流通させているため、火災発生時に初めて故障や誤作動が発覚するということが少なくなる。よって、火災の延焼を確実に防止できる。
【0009】
また、水を常時散水するために、配管に大きな貯水タンクを連結しておくことになる。よって、地震時に構造物の周囲で屋外火災が同時に多発して、多数の散水ヘッドで同時に散水することになっても、貯水タンクに大量の水を貯めているため、長時間に亘って散水できる。
【0010】
請求項2に記載の散水設備は、前記散水ヘッドは、前記配管に設けられて外周面に噴射孔が形成された筒状のヘッド部と、当該ヘッド部の内部に移動可能に設けられた移動弁と、前記ヘッド部の先端を塞いでかつ熱により溶融可能な蓋部と、当該蓋部に反力をとって前記移動弁を前記ヘッド部の基端側に向かって付勢する付勢部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、付勢部により移動弁がヘッド部の基端側に向かって付勢されて、この移動弁により分岐配管の先端が塞がれる。この状態で、加圧送水装置を駆動して所定の水圧で配管内に水を供給すると、水圧により移動弁が付勢部の付勢力に抵抗してヘッド部の先端側に向かって移動し、ヘッド部内に水が流入して、噴射孔から水が噴射される。
【0012】
火災が発生すると、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドでは、火災の熱で蓋部が溶けて脱落し、移動弁に作用する付勢力が解除されるとともに、ヘッド部の先端が外部に開放される。よって、噴射孔に加えてヘッド部の先端から水が噴射される。
これにより、配管内の水圧が低下するため、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッドでは、付勢部により移動弁が押されてヘッド部の基端側に向かって移動し、この移動弁により分岐配管の先端が塞がれる。よって、ヘッド部内への水の流入が停止し、噴射孔からの水の噴射が停止する。
【0013】
以上より、ヘッド部、移動弁、蓋部、および付勢部を含んで散水ヘッドを構成することで、簡易な構造で、散水ヘッドから常時散水しつつ、火災発生時には、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッドの散水を停止しつつ、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドのみ外部に向かって散水して延焼を防止することが可能となる。
また、火災発生箇所の近傍に位置していない配管で弁が閉じていない場合でも、蓋部によりヘッド部内への水の流入が止まるため、火災発生箇所のみにより確実に散水できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、例えば夏季には、各散水ヘッドから構造物の外装部材に散水することで、この散水した水の気化熱により外装部材を冷却できる。これにより、構造物周囲の気温を下げたり、構造物の内部に入る風の温度を下げたりして、ヒートアイランド現象を軽減できる。一方、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドから外部に向かって膜状に散水して、火の粉や放射熱などを防いだり、外装部材を湿らせたりして、火災の延焼を防止する。このとき、外装部材に散水することで配管内に水を常時流通させているため、火災発生時に初めて故障や誤作動が発覚するということが少なくなる。また、水を常時散水するために、配管に大きな貯水タンクを連結しておくことになる。よって、地震時に構造物の周囲で屋外火災が同時に多発して、多数の散水ヘッドで同時に散水することになっても、貯水タンクに大量の水を貯めているため、長時間に亘って散水できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る散水設備が適用された構造物の構造を示す模式図である。
【図2】前記実施形態に係る構造物の外装部材の横断面図である。
【図3】前記実施形態に係る外装部材の正面図である。
【図4】前記実施形態に係る外装部材の縦断面図である。
【図5】前記実施形態に係る散水設備の散水ヘッドの断面図である。
【図6】前記実施形態に係る散水設備の動作を示す模式図である。
【図7】前記実施形態に係る構造物の屋外火災時の状態を示す模式図である。
【図8】前記実施形態に係る外装部材の屋外火災時における横断面図である。
【図9】前記実施形態に係る外装部材の屋外火災時における正面図である。
【図10】前記実施形態に係る外装部材の屋外火災時における縦断面図である。
【図11】前記実施形態に係る火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドの屋外火災時の動作を示す断面図である。
【図12】前記実施形態に係る火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッドの屋外火災時の動作を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る散水設備が適用された構造物としての建物1の構造を示す模式図である。
建物1には、外壁面2に沿って外装部材としての木製のルーバー10が設けられている。
この建物1には、散水設備としての散水システム20が設けられている。この散水システム20は、建物1の内部を通り外壁面2に沿って各階毎に略水平に延びる配管21と、この配管21に連結された大型の貯水タンク22と、建物1の内部に設けられて貯水タンク22内の水を配管21に供給する加圧送水装置としての送水ポンプ23と、配管21に設けられた複数の散水ヘッド30と、を備える。
【0017】
図2〜図4は、ルーバー10の横断面図、正面図、および縦断面図である。
ルーバー10は、所定間隔おきに設けられた複数の木製の羽板11で構成される。散水ヘッド30は、これら羽板11同士の間に設けられて、建物1の外部に露出している。
【0018】
図5は、散水ヘッド30の断面図である。
羽板11同士の間では、配管21から分岐して分岐配管211が延びている。散水ヘッド30は、各分岐配管211の先端に取り付けられている。
散水ヘッド30は、分岐配管211の先端に設けられて外周面に噴射孔311が形成された筒状のヘッド部31と、このヘッド部31の内部に移動可能に設けられた移動弁32と、ヘッド部31の先端を塞いでかつ熱により溶融可能な蓋部33と、この蓋部33に反力をとって移動弁32をヘッド部31の基端側に向かって付勢する付勢部としてのばね部材34と、を備える。
【0019】
ヘッド部31の基端側は、分岐配管211に連結されている。また、ヘッド部31の先端面には、貫通孔312が形成されており、蓋部33はこの貫通孔312に係止している。
移動弁32は、分岐配管211の内径よりも大きい外径を有しており、ヘッド部31の軸方向に沿って移動可能となっている。この移動弁32は、ばね部材34によりヘッド部31の基端側に向かって付勢されて、分岐配管211の先端を塞いでいる。
【0020】
以上の散水システム20は、以下のように動作する。
例えば夏季には、図1〜図4に示すように、送水ポンプ23を駆動して、貯水タンク22に貯めた水を散水ヘッド30からルーバー10の羽板11に散水する。この噴射された水は、羽板11の表面を伝って下方に流れ、この水の気化熱によりルーバー10を冷却する。
【0021】
具体的には、平常時で散水しない場合においても、送水ポンプ23を駆動して、貯水タンク22に貯めた水を水圧P0で配管21内に供給しておく。この水圧P0は、移動弁32が移動しない程度の水圧である。
そして、夏季などに散水したい場合には、送水ポンプ23を駆動して、P0よりも大きい水圧P1で配管21内に水を供給する。すると、図6に示すように、水圧により移動弁32がばね部材34の付勢力に抵抗してヘッド部31の先端側に向かって移動し、ヘッド部31の内部に水が流入して、噴射孔311から水が噴射される。
【0022】
一方、屋外火災が発生した場合には、図7〜図10に示すように、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30から外部に向かって膜状に散水するとともに、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッド30の散水を停止する。
【0023】
具体的には、屋外で火災が発生すると、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30では、図11に示すように、火災の熱で蓋部33が溶けて脱落し、移動弁32に作用する付勢力が解除されるとともに、ヘッド部31の先端が外部に開放される。よって、噴射孔311に加えてヘッド部31の先端の貫通孔312から水が大量に噴射される。貫通孔312から噴射された水は、建物1の外部に向かって大きく飛散する。
【0024】
これにより、配管21内の水圧がP0以下に低下するため、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッド30では、図12に示すように、ばね部材34により移動弁32が押されてヘッド部31の基端側に向かって移動し、この移動弁32により分岐配管211の先端が塞がれる。よって、ヘッド部31の内部への水の流入が停止して、噴射孔311からの水の噴射が停止する。
【0025】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)例えば夏季には、各散水ヘッド30から建物1のルーバー10に散水することで、この散水した水の気化熱によりルーバー10を冷却できる。これにより、建物1の周囲の気温を下げたり、建物1の内部に入る風の温度を下げたりして、ヒートアイランド現象を軽減できる。
【0026】
一方、屋外で火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30から外部に向かって膜状に散水して、火の粉や放射熱などを防いだり、ルーバー10を湿らせて燃えにくくしたりして、火災の延焼を防止する。
このとき、常時散水用の散水ヘッド30で火災用の散水ヘッドを兼用するので、火災用の散水ヘッドを個別に取り付ける場合に比べて、安価になる。
また、火災発生時に常時使用している散水ヘッド30を使用するので、配管21内に水を常時流通させているため、火災発生時に初めて故障や誤作動が発覚するということが少なくなる。よって、火災の延焼を確実に防止できる。
【0027】
また、水を常時散水するために、配管21に大きな貯水タンク22を連結しておくことになる。よって、地震時に建物1の周囲で屋外火災が同時に多発して、多数の散水ヘッド30で同時に散水することになっても、貯水タンク22に大量の水を貯めているため、長時間に亘って散水できる。
【0028】
(2)ヘッド部31、移動弁32、蓋部33、およびばね部材34を含んで散水ヘッドを構成することで、簡易な構造で、散水ヘッドから常時散水しつつ、屋外火災発生時には、火災発生箇所の近傍に位置していない散水ヘッド30の散水を停止しつつ、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッド30のみ外部に向かって散水して延焼を防止することが可能となる。
また、火災発生箇所の近傍に位置していない配管で弁が閉じていない場合でも、蓋部33によりヘッド部31の内部への水の流入が止まるため、火災発生箇所のみにより確実に散水できるようになる。
【0029】
(3)ルーバー10を木製とした。木製のルーバーは延焼しやすいが、建物1の周囲に屋外火災が発生しても、散水ヘッド30から水を噴射して水幕を形成することで、ルーバー10が延焼するのを確実に防止できる。さらに、ルーバー10の材料として国産木材を使用すれば、地球環境保護に貢献できる。
【0030】
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の実施形態では、ヘッド部31の先端に熱により溶融可能な蓋部33を設けたが、これに限らない。例えば、蓋部を熱感知器に連動して開放する構成としてもよいし、蓋部を手動で開放する構成としもよい。
また、上述の実施形態では、散水ヘッド30の水源として大型の貯水タンク22のみを利用したが、これに加えて、雨水を貯めた別の貯水タンクを利用してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…建物(構造物)
2…外壁面
10…ルーバー(外装部材)
11…羽板
20…散水システム(散水設備)
21…配管
22…貯水タンク
23…送水ポンプ(加圧送水装置)
30…散水ヘッド
31…ヘッド部
32…移動弁
33…蓋部
34…ばね部材(付勢部)
211…分岐配管
311…噴射孔
312…貫通孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設けられて当該構造物の外装部材に散水する散水設備であって、
前記構造物に設けられた配管と、当該配管に水を供給する加圧送水装置と、前記配管に設けられて前記構造物の外部に露出する複数の散水ヘッドと、を備え、
前記加圧送水装置を駆動して前記散水ヘッドから前記構造物の外装部材に散水し、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドから外部に向かって散水することを特徴とする散水設備。
【請求項2】
前記散水ヘッドは、前記配管に設けられて外周面に噴射孔が形成された筒状のヘッド部と、当該ヘッド部の内部に移動可能に設けられた移動弁と、前記ヘッド部の先端を塞いでかつ熱により溶融可能な蓋部と、当該蓋部に反力をとって前記移動弁を前記ヘッド部の基端側に向かって付勢する付勢部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の散水設備。
【請求項1】
構造物に設けられて当該構造物の外装部材に散水する散水設備であって、
前記構造物に設けられた配管と、当該配管に水を供給する加圧送水装置と、前記配管に設けられて前記構造物の外部に露出する複数の散水ヘッドと、を備え、
前記加圧送水装置を駆動して前記散水ヘッドから前記構造物の外装部材に散水し、火災が発生した場合には、火災発生箇所の近傍に位置する散水ヘッドから外部に向かって散水することを特徴とする散水設備。
【請求項2】
前記散水ヘッドは、前記配管に設けられて外周面に噴射孔が形成された筒状のヘッド部と、当該ヘッド部の内部に移動可能に設けられた移動弁と、前記ヘッド部の先端を塞いでかつ熱により溶融可能な蓋部と、当該蓋部に反力をとって前記移動弁を前記ヘッド部の基端側に向かって付勢する付勢部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の散水設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−239505(P2012−239505A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109551(P2011−109551)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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