説明

数値制御装置

【課題】第2主軸台と振止台の同時トルクスキップを実現する。
【解決手段】数値制御装置は、第2主軸台の駆動指令を第2主軸台サーボ制御部に出力する第2主軸台補間処理部23と、入力された目標位置に基づいて振止台の駆動指令を振止台サーボ制御部に出力する振止台補間処理部24と、第2主軸台のサーボ駆動軸の駆動トルクτ2を検知する検出部11と、加工プログラムを介して同時トルクスキップ動作の実行が指示された場合に、前記駆動トルクτ2とトルク制限値τ1とを比較し、前記駆動トルクτ2が前記トルク制限値にτ1に達した場合には、前記第2主軸台補間処理部23に第2主軸台の駆動停止を指示するトルク判定部5と、を備え、前記振止台補間処理部24は、前記トルク判定部5により前記駆動トルクτ2が前記トルク制限値にτ1に達したと検知された場合に、前記振止台の移動目標位置として前記振止台の現在位置を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
主軸台と振止台にサーボ駆動軸を備え、被加工物を振止台で支えた状態のままサーボモータを駆動して主軸台間で被加工物の受渡しを行なう数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
数値制御装置は紙テープ等から指令された加工プログラムに基づいて数値制御処理を実行し、処理結果により工作機械を駆動して、指令どおりの加工をワークに施すものである。
【0003】
図2は従来の数値制御装置の要部を示すブロック図である。数値制御装置25は、プログラム指令解釈部2と、トルクスキップ制御部22と、補間処理部23と、から構成されている。また、数値制御装置25は、第2主軸台のサーボ制御部7と結合され、サーボモータ9を駆動させる。
【0004】
テープリーダ等から読み込まれた加工プログラム1を実行する際には、1ブロックずつプログラム指令解釈部2で解析される。1ブロック毎に解析されたコードの、トルク制限値τ1は、トルクスキップ制御部22に渡され、トルク制限値τ1記憶部4に記憶される。トルク判定部5は、トルク制限値τ1と移動指令を補間処理部23に渡す。補間処理部23は、解析されたコードに従い1ブロック毎の補間制御を行なう。サーボ制御部7は、サーボモータ9と結合され、ギア、ボールネジ等を介して位置検出器10からの位置フィードバックによる位置制御を行う。
【0005】
ここで、通常、第2主軸台は、目標位置に到達するまで移動するように制御される。しかし、時として、駆動トルクτ2がトルク制限値τ1に到達するまで第2主軸台を移動させるトルクスキップ動作が指示される場合がある。かかるトルクスキップ動作は、例えば、二つの主軸を備えた工作機械でワークをチャックに押し付けて位置を出す場合に用いられる。かかるトルクスキップ動作が指示された場合、補間処理部23は、移動指令ブロックに関わるサーボモータ9のサーボ制御部7で、トルク制限値τ1(電流制限)を有効とした状態でサーボモータ9を駆動する。また、駆動トルクτ2検出部11はトルク判定部5に駆動トルクτ2を渡し、トルク判定部5では、駆動トルクτ2検出部11で検出した駆動トルクτ2とトルク制限値τ1を比較判定する。そして、駆動トルクτ2がトルク制限値τ1に到達すると、トルク判定部5は、補間処理部23にスキップ信号を渡す。補間処理部23は、スキップ信号を受信すると、残り移動指令の出力を中止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−71235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、二つの主軸台を備えた工作機械において、ワークを各主軸台に設けられたチャックに押し付けて位置を出す場合には二通りのパターンがある。一つは、図3に示すように、位置固定の第1主軸台で保持したワークを、Z軸方向に移動可能な第2主軸台に受け渡す場合である。もう一つは、図4に示すように、第2主軸で保持したワークを第1主軸に受け渡す場合である。そして、いずれの場合であっても、ワークは、第2主軸台とは独立してサーボ駆動される振止台により支持される。こうしたワーク受け渡しの様子について図面を参照して説明する。
【0008】
図3に示すように、第1主軸台で保持したワークを第2主軸台に受け渡す場合、第2主軸台が単独でZ軸方向に移動する。この移動は、駆動トルクτ2が制限トルク値τ1に到達するまで行なうトルクスキップ動作で行なわれる(3−1)。かかるトルクスキップ動作では、第2主軸チャックがワークに当接すると(ワークをチャックに押し付けると)、駆動トルクτ2が上昇し、第2主軸台が停止することになる。そして、第2主軸チャックをワークに押し付けることにより、第2主軸チャックで被加工物が把持される(3−2)。第2主軸チャックで被加工物が把持されれば、振止台で被加工物を支えている状態のまま、第2主軸台と振止台を同時にZ軸方向に移動させる(3−3)。つまり、このパターンでは、第2主軸台が、トルクスキップ動作を実行している際、ワークを支持する振止台は静止している。そのため、このパターンでは、第1主軸台から第2主軸台へのワーク受渡しは、問題なく実現されている。
【0009】
次に、図4に示すように、第2主軸台で保持したワークを第1主軸台に受け渡す場合を説明する。この場合、ワークを把持した第2主軸台が、トルクスキップ動作により、第1主軸台の方向に移動させられる(4−1)。また、ワークを支持する振止台も、第1主軸台の方向に移動させられる。第1主軸チャックがワークに当接し(ワークをチャックに押し付け)、第2主軸台が停止すれば、第1主軸チャックで被加工物が把持される(4−2)。第1主軸チャックで被加工物が把持されれば、振止台で被加工物を支えている状態のまま、第2主軸台を第1主軸台から離れる方向に移動させる(4−3)。
【0010】
つまり、このパターンでは、第2主軸台が、トルクスキップ動作を実行している際、ワークを支持する振止台も移動することになる。ここで、振止台は、上記した通り、第2主軸台とは独立してサーボ駆動される。したがって、従来、この振止台の移動は、第2主軸台の移動とは独立した位置制御により実行されていた。具体的には、第2主軸台のサーボ制御部にトルクスキップ動作が指令されたとき、振止台のサーボ制御部には、移動目標位置GLzまで振止台を移動させる位置制御駆動が指令される。移動目標位置GLzは、トルクスキップ動作により第2主軸台が移動する距離Lrwを推定し、前記移動距離Lrwを振止台の現在演算位置CONzに加算することにより算出される。
【0011】
この場合、前記推定した第2主軸台の移動距離Lrwと第2主軸台がトルクスキップした位置までの移動距離に差異があると、当然ながら、第2主軸台と振止台の移動距離に差が生じる。その結果、移動距離の差分だけ、振止台がワークに対して相対移動することになり、被加工物に傷が付くといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の数値制御装置は、被加工物を保持したまま移動して当該被加工物を他部材に押し付ける主軸台と、前記主軸台に保持された被加工物を支持して振動を防止する振止台と、の駆動を制御する数値制御装置であって、前記主軸台の駆動指令を主軸台サーボ制御部に出力する主軸台補間処理手段と、入力された目標位置に基づいて前記振止台の駆動指令を振止台サーボ制御部に出力する振止台補間処理手段と、前記主軸台のサーボ駆動軸の駆動トルクτ2を検知する手段と、加工プログラムを介して同時トルクスキップ動作の実行が指示された場合に、前記駆動トルクτ2とトルク制限値τ1とを比較し、前記駆動トルクτ2が前記トルク制限値τ1に達した場合には、前記主軸台補間処理手段に前記主軸台の駆動停止を指示するトルク判定部と、を備え、前記振止台補間処理手段は、前記トルク判定部により前記駆動トルクτ2が前記トルク制限値τ1に達したと検知された場合に、前記振止台の移動目標位置として前記振止台の現在位置を設定する、ことを特徴とする。
【0013】
好適な態様では、前記同時トルクスキップ動作の実行が指示された場合、前記主軸台のサーボ駆動軸の送り単位量および加減速単位量と、前記振止台のサーボ駆動軸の送り単位量および加減速単位量と、は互いに同じ値が用いられる。他の好適な態様では、前記振止台は、前記移動目標位置に到達するべく位置制御される。
【0014】
他の好適な態様では、前記同時トルクスキップ動作の実行が指示された場合、前記振止台の移動目標位置の初期値は、前記振止台の現在位置および前記主軸台の予想移動距離に基づいて算出される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、主軸台サーボ駆動軸の駆動トルクτ2がトルク制限値τ1に達した時点で主軸台と振止台の移動を停止させることができる。そのため、上述の例における第2主軸台を、本願発明における主軸台とすれば、第2主軸台と振止台の移動距離の差異を排除し被加工物に傷が付くことなく、第1主軸チャックと被加工物の間に隙間が生じることなく、第1主軸側へ被加工物を受渡すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態である数値制御装置の要部を示すブロック図である。
【図2】従来の数値制御装置の要部を示すブロック図である。
【図3】第1主軸台から第2主軸台へワークを受け渡す様子を示す図である。
【図4】第2主軸台から第1主軸台へワークを受け渡す様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である数値制御装置の要部を示すブロック図である。なお、従来技術と同等な部分については詳細な説明を省略する。
【0018】
プログラム指令解釈部2は、加工プログラム1を1ブロックずつ解釈し、解釈結果を同時移動判定部3、振止台移動目標位置算出部13、振止台サーボデータ設定部14に送る。同時移動判定部3は、送られてきたコードに、第2主軸台と振止台の同時トルクスキップ指令が含まれているか否かを判定する。なお、同時トルクスキップ指令とは、第2主軸台および振止台の両方に、第2主軸台の駆動トルクτ2がトルク制限値τ1に到達するまで移動させるトルクスキップ動作を実行させる指令である。同時移動判定部3での判定結果は、トルクスキップ制御部22、振止台移動目標位置算出部13、振止台サーボデータ設定部14に送られる。
【0019】
同時トルクスキップ指令があった場合、振止台移動目標位置算出部13は、プログラム指令解釈部2で解釈した第2主軸台のトルクスキップ指令の仮想目標位置GLwまでの移動距離Lwから、振止台の目標位置GLzを算出する。また、振止台サーボデータ設定部14は、第2主軸台のトルクスキップ指令の移動速度から第2主軸台の送り単位量RPFwおよび加減速単位量RPVwを、振止台の送り単位量RPFzおよび加減速単位量RPVzとして設定する。これにより、第2主軸台および振止台は、同じ加減速プロフィールで駆動することになる。
【0020】
第2主軸台トルク制限値τ1記憶部4には、加工プログラム1から求まる第2主軸台のトルクスキップ指令のトルク制限値τ1が記憶される。第2主軸台トルク判定部5は、駆動トルクτ2検出部11で検出された第2主軸台サーボ駆動軸の駆動トルクτ2と、トルク制限値τ1と、を比較判定する。そして、駆動トルクτ2がトルク制限値τ1に達するまで、第2主軸台関数発生部6と振止台関数発生部16にて継続して第2主軸台の駆動を指示する関数発生をおこなう。
【0021】
第2主軸トルク判定部5にて第2主軸台サーボ駆動軸の駆動トルクτ2とトルク制限値τ1を比較判定して、第2主軸台サーボ駆動軸の駆動トルクτ2がトルク制限値τ1に到達している場合は、トルク判定伝達部15へ判定結果を送出するとともに、第2主軸台関数発生停止部12にて第2主軸台の駆動指令を停止させ、第2主軸台の移動を停止させる。つまり、第2主軸台補間処理部23は、第2主軸台補間処理手段として機能する。
【0022】
判定結果を受けて第2主軸台サーボ駆動軸の駆動トルクτ2がトルク制限値τ1に到達している旨の信号を受信したトルク判定伝達部15は、振止台補間処理部24に振止台の駆動停止を指示する。振止台補間処理部24は、設定された目標位置GLzに基づいて振止台の駆動指令を振止台サーボ制御部17に出力する振止台補間処理手段として機能する。トルク制限値τ1に到達するまでは、振止台関数発生部16が、振止台サーボ制御部17に振止台の駆動指令を出力する。トルク制限値τ1に到達した旨の信号をトルク判定伝達部15から受信すれば、振止台関数発生停止部21が、位置検出器20で検出された振止台の現在検出器位置APAzを読み込み、この現在検出器位置APAzを、振止台の目標位置GLzとして、再設定する。
【0023】
ここで、振止台は、目標位置に到達するべく位置フィードバック制御されているため、現在位置APAzを、目標位置GLzに設定することにより、振止台の駆動が停止される。そして、これにより、第2主軸台と振止台とを同時に停止させることができる。ここで、本実施形態では、振止台の駆動を停止させるために、現在位置APAzを目標位置GLzとして設定しており、振止台の駆動制御方法は、従来と同じ、位置フィードバック制御のままである。換言すれば、本実施形態によれば、振止台を第2主軸台とともにトルクスキップさせるために、振止台の駆動制御方法を大幅に変える必要がなく、既存の設備(サーボ制御部17など)をそのまま利用できる。つまり本実施形態によれば、従来からの設計変更を最小限に抑えつつ、第2主軸台と振止台の同時トルクスキップが可能となる。
【0024】
なお、上記説明では、振止台の仮の目標位置GLzとして、現在位置CONzに第2主軸台の(仮の)移動距離Lwを加算した値を設定している。しかし、第2主軸台の停止前(トルク制限値τ1に到達する前)に、振止台が停止しないようにできるのであれば、他の位置を、振止台の目標位置GLzとして設定してもよい。また、第1主軸台が移動可能で、第2主軸台が固定、または、第1主軸台と第2主軸台の双方が移動可能な構成の工作機械にあては、第1主軸台に本発明を適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0025】
1 加工プログラム、2 プログラム指令解釈部、3 同時移動判定部、4 第2主軸台トルク制限値τ1記憶部、5 第2主軸台トルク判定部、6 第2主軸台関数発生部、7,17 サーボ制御部、9 サーボモータ、10 位置検出器、11 駆動トルクτ2検出部、12 第2主軸台関数発生停止部、13 振止台移動目標位置算出部、14 振止台サーボデータ設定部、15 トルク判定伝達部、16 振止台関数発生部、21 振止台関数発生停止部、22 トルクスキップ制御部、23 第2主軸台補間処理部、24 振止台補間処理部、25 数値制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持したまま移動して当該被加工物を他部材に押し付ける主軸台と、前記主軸台に保持された被加工物を支持して振動を防止する振止台と、の駆動を制御する数値制御装置であって、
前記主軸台の駆動指令を主軸台サーボ制御部に出力する主軸台補間処理手段と、
入力された目標位置に基づいて前記振止台の駆動指令を振止台サーボ制御部に出力する振止台補間処理手段と、
前記主軸台のサーボ駆動軸の駆動トルクτ2を検知する手段と、
加工プログラムを介して同時トルクスキップ動作の実行が指示された場合に、前記駆動トルクτ2とトルク制限値τ1とを比較し、前記駆動トルクτ2が前記トルク制限値τ1に達した場合には、前記主軸台補間処理手段に前記主軸台の駆動停止を指示するトルク判定部と、
を備え、
前記振止台補間処理手段は、前記トルク判定部により前記駆動トルクτ2が前記トルク制限値τ1に達したと検知された場合に、前記振止台の移動目標位置として前記振止台の現在位置を設定する、
ことを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の数値制御装置であって、
前記同時トルクスキップ動作の実行が指示された場合、前記主軸台のサーボ駆動軸の送り単位量および加減速単位量と、前記振止台のサーボ駆動軸の送り単位量および加減速単位量と、は互いに同じ値が用いられる、ことを特徴とする数値制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の数値制御装置であって、
前記振止台は、前記移動目標位置に到達するべく位置制御される、ことを特徴とする数値制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の数値制御装置であって、
前記同時トルクスキップ動作の実行が指示された場合、前記振止台の移動目標位置の初期値は、前記振止台の現在位置および前記主軸台の予想移動距離に基づいて算出される、ことを特徴とする数値制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−71185(P2013−71185A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209514(P2011−209514)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】