説明

整合変圧器

【課題】高周波加熱用整合変圧器の冷却系統を改善して構造を簡素化し、冷却効率を高めながら小型化を図る。
【解決手段】導電性の内管と外管からなる二重管の一端の前記内管と外管との間を導電性の底板で閉塞して2次巻線を形成し、前記二重管の他端に負荷側端子を設けるとともに、前記二重管の内外周間に1次巻線巻き付け、前記二重管の外管と内管の間の内部空間に磁性材からなる環状の鉄心を組み込むとともに前記内部空間に冷却水を通水して冷却を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電源と負荷の整合を取るための整合変圧器に関し、特に被加熱物を誘導加熱する加熱装置と高周波電源との間に挿入される整合変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電源から高周波加熱装置に電力を効率的に供給するためには負荷整合(インピーダンスマッチング)を行う必要があり、その目的で一般に図7に示すように、インバータ65を備えた高周波電源62から共振コンデンサ66、高周波ケーブル67および整合変圧器(マッチングトランス)68を介して高周波誘導加熱コイル61に高周波電力が供給される。このような整合変圧器68の使用についは、例えば特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平11−167980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、高周波加熱装置で用いられる整合変圧器は、水冷銅管により巻線を構成した変圧器が一般に用いられ、鉄心も同様の水冷銅管により冷却される。ところが、従来の整合変圧器は環状鉄心に1次巻線と2次巻線とを個別に巻き付けるものであるため、鉄心の冷却には別途冷却配管を必要とし、冷却系統が複雑になり外形も大形になるという問題があった。
【0004】
そこで、この発明の課題は、整合変圧器の冷却系統を改善して構造を簡素化し、冷却効率を高めながら小型化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、導電性の内管と外管からなる二重管の一端に導電性の底板を結合することにより前記内管と外管とを電気的に接続するとともに両管の間の開口を閉塞して2次巻線を形成し、前記二重管の他端の内管および外管からそれぞれ負荷接続端子を引き出すとともに、前記二重管の内外周間に1次巻線巻き付けたことを特徴とする。
この請求項1の発明は、二重管の一端を底板で閉塞して形成したU字断面の環状体を2次巻線とするもので、この2次巻線は1ターン(U字状)のコイルが環状に連続した構成となっている。従って、薄肉の二重管でも大きな通電路断面積を得ることができる。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記二重管の外管と内管の間の内部空間に磁性材からなる環状の鉄心を組み込んだものである。そして、請求項3の発明は、請求項1又は請求項2において、前記二重管の外管と内管の間の内部空間に冷却水を通水するようにしたものである。
【0007】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記内管の内周面に軸方向に沿わせて導電性の第1の管を接合し、この第1の管の前記底板側の端部をU字状に折り返して前記二重管の外管と内管の間の内部空間に通じさせるとともに反対側の端部に負荷接続端子の一方を形成し、また前記外管の外周面に軸方向に沿わせて導電性の第2の管を接合し、この第2の管の前記底板側の端部を冷却水配管の一方の接続端とするとともに反対側の端部にもう一方の負荷接続端子を形成し、更に前記二重管に前記内部空間に通じるもう一方の冷却水配管の接続端を取付け、前記のいずれか一方の冷却水配管の接続端から供給した冷却水を前記二重管の内部空間及び前記第1および第2の管を経由させて他方の冷却水配管の接続端から排出するようにしたことを特徴とするものである。
【0008】
そして請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記負荷接続端子に水冷式の加熱コイルを接続し、この加熱コイルに前記冷却水を同時に通水するようにしたことを特徴とするものである。
【0009】
さらに、請求項6の発明は、請求項1〜請求項5のいずれかの発明において、変圧器全体を絶縁ケースに収容し、この絶縁ケースに運搬用の持ち手を取り付けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、二重管の一端を底板で閉塞して形成したU字断面の環状体を2次巻線とするもので、この2次巻線は1ターン(U字状)のコイルが環状に連続した構成となっている。従って、薄肉の二重管でも大きな通電路断面積を得ることができるので、大電流の整合変圧器を小形にできる効果がある。
また、2次巻線を構成する2重管の外管と内管の間の内部空間に冷却水を通すことによって2次巻線およびその中に納められた鉄心を効果的に冷却することができるとともに、組み合わせを選択することにより、2次巻線だけでなく負荷である誘導加熱コイルおよび1次巻線の冷却水回路を共通にすることができるため、冷却水配管の構成が簡単となり、整合変圧器の小形軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を、図に示す実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1および図2は、この発明の実施例1を示す構成図である。
図1および図2において、1および2は、整合変圧器MTを構成する1次巻線および2次巻線である。
【0013】
先ず、図1に詳細を示す2次巻線2の構成を説明する。図1は2次巻線2の構成を示すもので、(a)は、その縦断面図、(b)はその側面図である。この図1において、21および22は導電性の2重管を構成する外管および内管である。この外管21と内管22は、一方端(左端)間がやはり導電性のリング状底板23により結合され、外管21と内管22とが電気的に接続されるとともに機械的に閉塞されることによって、断面U字形の環状体となった2次巻線2を形成する。そして、外管21の外周面および内管22の内周面にそれぞれ導電板28、29を接合し、その一方端(右端)側に2重管の外側まで引き出して2次側(負荷側)接続端子28a、29aを設ける。この2次巻線2は1ターン(U字状)のコイルが環状に連続した構成となっているので、薄肉の二重管でも大きな通電路断面積とすることができる。
【0014】
また、2重管の開口された他端(右端)側の外管21と内管22との間をリング状の絶縁性キャップ25で塞ぐため、外管21の端部にその厚さを補うためにリング状のカラー24をろう付けなどにより結合し、このカラー24と内管22との間に、絶縁性キャップ25を嵌入する。この絶縁性キャップ24の内、外周面に設けた環状溝にOリング26を装着することにより、キャップと2重管との間を封止する。そして、カラー24の内周に設けられた溝にCリング27を装着することにより絶縁性キャップ25を外管21に係止して、絶縁性キャップ25が2重管から抜け出さないようにする。これにより、2重管の外管21と内管22の間に内部空間30が形成される。
【0015】
この形成された内部空間30を冷却水通路として利用するために、この実施例1においては、外管21の外周に銅管により構成された通水管31と32を接合し、一方の通水管31は、2重管の右端側において外管21を貫通させて2重管の内部空間30に連通され、他方の通水管32は左端側において外管21を貫通して内部空間30に連通されている。通水管31および32のそれぞれのもう一方の端は冷却水配管に接続される接続端となる。
【0016】
例えば、通水管31側から冷却水を供給するようにすると、冷却水は2重管の右端側から内部空間30に入り、左端側へ流れ、通水管32から流出する。このように内部空間30を流れる冷却水により2次巻線を構成する外管21および内管22が直接冷却され、2次巻線2を効率よく冷却することができる。
【0017】
整合変圧器MTを構成するためには、この2次巻線2に1次巻線を電磁的に結合することが必要である。
【0018】
図2は、前記1次巻線2に1次巻線1を巻き込んだ構成を示すものである。(a)は縦断面図、(b)は側面図である。
【0019】
1次巻線1を構成する導体は、内部に冷却水を通水可能にするため銅管で形成され、予め2次巻線2を構成する2重管の外周から内周へ巻き込み可能に成形された分割導体11〜16を相互に銅管接続具17により接続し、例えば図2(b)に示すように連続して6ターンの巻線を構成する。各導体は2次巻線2と絶縁するために、絶縁チューブを被覆するなどして所定の絶縁が施されている。巻き始めの導体11と巻き終わりの導体16の端部から1次側(電源)接続端子18、19が設けられ、図示しない高周波電源からの給電線に接続される。
【0020】
このように構成すると、1次巻線1と2次巻線2が電磁的に結合され、両巻線の巻数比で電力の変成がおこなわれる。1次巻線1に供給される高周波電力が供給されると、2次巻線2を構成する外管21および内管22から引き出された2次側接続端子28aおよび29aからこれに接続された高周波加熱装置の加熱コイルに両巻線の巻数比例えば6:1に応じて変成された高周波電力を供給することができる。
【実施例2】
【0021】
図3および図4は、この発明の実施例2を示すものである。この実施例2の構成は、基本的には、前記した実施例1のものと変わらない。この実施例2の異なる点は、整合変圧器MTにおける磁束の漏洩を抑えて高効率の変成が行えるように、2次巻線を構成する2重管の内部空間30に磁性材からなる環状の鉄心4を所要数組み込んでいる点である。これらの鉄心4は絶縁シート42を介して内管22に嵌め合わされ、軸方向の両端を絶縁カラー43と絶縁性キャップ25によって固定され、2次巻線2に対して絶縁されている。また鉄心4の相互間には、絶縁リング44を間に介挿している。この絶縁リング44の外径は、図に示すとおり、鉄心4の外径よりも小さなものとしている。なお、絶縁リング44は省略することも可能であるが、実施例のように絶縁リング44を設けることにより、各鉄心4の相互間に隙間ができ、鉄心4と冷却水との接触面積が増えるので、絶縁リング44が無い場合と比べて冷却効率がよくなる。
【0022】
鉄心の絶縁構造は、前記した構造に限るものではなく、例えば、環状の鉄心の全体を予め絶縁樹脂等で被覆しておくようにすると、絶縁シート42および絶縁リング44を省くことができ、構成を簡単にすることができる。
この実施例2によれば、鉄心を設けることによって、1次巻線1と2次巻線2の電磁的結合が強くなるとともに磁束の漏洩が抑制されるため変成効率が高くなる。また鉄心の納められる2重管の内部空間30には、実施例1の場合と同様に、通水管31、32からは冷却水が供給され、水冷されるため鉄心の冷却も2次巻線2と同時に効率よく行うことができる。
【実施例3】
【0023】
図5に、この発明の実施例3を示す。この実施例の構成も、基本的には、前記2つの実施例と同じである。この実施例3において前記2つの実施例と異なるところは、整合変圧器MTの2次巻線2の2次側接続端子28a、29aに負荷として水冷式の加熱コイル5を接続した場合の冷却水回路の構成である。
【0024】
加熱コイル5を構成する導体も、内部に冷却水が通水可能なように銅管で構成されている。そして2次巻線2を構成する外管21および内管22に設けられた2次側(負荷)接続端子28a、29aを構成する導体28、29も銅管で構成する。外管21の外周面に軸方向に沿って接合された導体28は、2重管の両端の外側まで引き出される。内管22の内周面に軸方向に沿って接合された導体29は、一端が2重管の外側でU字状に折り返され、底板23を貫通して冷却水流路となる2重管の内部空間30に連通される。他端は2重管の外側まで引き出され、加熱コイル5に対する一方の接続端子29aとなる。通水管31は、前の2つの実施例と同様に2重管の内部空間30に連通される。導体28の一端は加熱コイル5と他方の接続端子28aを形成し、他端は冷却水配管の接続端となる。
図示するように加熱コイル5の両端を、それぞれ引き出し導体28、29の接続端子28a、29aに冷却水の流通が可能で、かつ電気的接続も行うことのできる結合具51および52により結合する。
【0025】
これにより、2次巻線2の冷却水回路と加熱コイル5の冷却水回路とが直列に接続され、共通の回路となる。このため、図示しない冷却水供給装置から通水管31の一端に冷却水が供給されると、冷却水は、矢印で示すように通水管31の他端から2重管の内部空間30に入り、内部空間30の底板23側から引き出し導体29のU字部分から内部へ入り、この導体29の他方端から加熱コイル5を介して外管21に接合された引き出し導体28の一端へ流れ、この導体28の他方端から冷却水供給装置へ戻る経路で流れる。
【0026】
このように整合変圧器MTの2次巻線とこれに接続される水冷式の加熱コイル等の加熱装置との冷却水回路を共通にできるため、冷却水配管の構成が簡単となる。
【実施例4】
【0027】
なお、図6はこの図5の実施例3を発展させたもので、変圧器の1次巻線1の冷却水回路まで共通の回路にした例である。
この図6は、構造を理解しやすくするために整合変圧器MTを一部を切り欠いて模式的な斜視図として示している。
【0028】
2重管で構成された2次巻線2の外周と内周に1次巻線1を所要のターン数巻き込んでいる。この1次巻線の両端の引き出し部11a、16aには1次側(電源)接続端子11e、16eと配水接続端11w、16wを設けられている。冷却水の通水可能な構成の2次側引き出し導体28、29に形成された2次側(負荷)接続端子28a、29aには前記実施例3の場合と同様に加熱コイル5が電気回路および冷却水回路の両方を接続する結合具51、52により結合されている。
【0029】
1次巻線1の方の配水接続端16wと2次巻線2に接合された通水管31とを絶縁チューブ35により接続し、もう一方の配水接続端11wを図示しない冷却水供給装置に接続され冷却水供給配管に接続する。冷却水供給装置の冷却水戻り絶縁チューブに2次側引き出し導体28の配水接続端28wを接続する。
【0030】
これにより、冷却水供給装置から供給される冷却水は、矢印で示すように、1次巻線1の配水接続端11w−1次巻線1−配水接続端子16w―絶縁チューブ35−通水管31−2次巻線を構成する2重管の内部空間30−2次側引き出し導体29−加熱コイル−2次側引き出し導体28の経路で流れ、1次巻線1、2次巻線2および加熱コイルの冷却水回路が直列接続され共通となる。
したがって、この実施例4によれば、整合変圧器MTの1次巻線、2次巻線および鉄心並び加熱装置の加熱コイルの冷却水回路を共通の1つの回路に構成できるので、冷却水配管の構成を簡単にすることができ装置の小形化が可能となる。
【0031】
前記各実施例として説明した整合変圧器MTは、全体を絶縁材製ケースに収納するのがよく、そしてこのケースに可搬用ハンドルと取付け、可搬可能な構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の実施例1による整合変圧器の2次巻線の構成図であり、(a)は縦断面図、(b)は側面図である。
【図2】この発明の実施例1による整合変圧器の構成図であり、(a)は縦断面図、(b)は側面図である。
【図3】この発明の実施例2による整合変圧器の2次巻線の構成図であり、(a)は縦断面図、(b)は側面図である。
【図4】この発明の実施例2による整合変圧器の構成図であり、(a)は縦断面図、(b)は側面図である。
【図5】この発明の実施例3による整合変圧器の構成を示す縦断面図である。
【図6】この発明の実施例4による整合変圧器の構成を示す一部断面を含む斜視図である。
【図7】高周波誘導加熱装置の一般的な構成を示すブロック回路図である。
【符号の説明】
【0033】
MT 整合変圧器
1 1次巻線
2 2次巻線
21 外管
22 内管
23 底板
25 絶縁キャップ
28、29 2次側引き出し導体
30 内部空間
31、32 通水管
4 鉄心
5 加熱コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の内管と外管からなる二重管の一端の前記内管と外管との間を導電性の底板で閉塞して2次巻線を形成し、前記二重管の他端に負荷側端子を設けるとともに、前記二重管の内外周間に1次巻線の巻き付けたことを特徴とする整合変圧器。
【請求項2】
前記二重管の外管と内管の間の内部空間に磁性材からなる環状の鉄心を組み込んだことを特徴とする請求項1記載の整合変圧器。
【請求項3】
前記二重管の外管と内管の間の内部空間に冷却水を通水するようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の整合変圧器。
【請求項4】
前記内管の内周面に軸方向に沿わせて導電性の第1の管を接合し、この第1の管の前記底板側の端部をU字状に折り返して前記二重管の外管と内管の間の内部空間に通じさせるとともに反対側の端部に負荷側端子の一方を形成し、また前記外管の外周面に軸方向に沿わせて導電性の第2の管を接合し、この第2の管の前記底板側の端部を冷却水配管の一方の接続端とするとともに反対側の端部にもう一方の前記負荷側端子を形成し、更に前記二重管にその内部空間に通じるもう一方の冷却水配管の接続端を取付け、前記のいずれか一方の冷却水配管の接続端から供給した冷却水を前記二重管の内部空間及び前記第1および第2の管を経由させて他方の冷却水配管の接続端から排出するようにしたことを特徴とする請求項3記載の整合変圧器。
【請求項5】
前記負荷側端子に水冷式の加熱コイルを接続し、この加熱コイルに前記冷却水を同時に通水するようにしたことを特徴とする請求項4記載の整合変圧器。
【請求項6】
変圧器全体を絶縁ケースに収容し、この絶縁ケースに運搬用の持ち手を取り付けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の整合変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−141981(P2007−141981A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330973(P2005−330973)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(501085142)名東産業株式会社 (6)
【出願人】(597167748)財団法人新産業創造研究機構 (20)
【出願人】(000208525)株式会社ダイア (15)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】