説明

断熱材及びその製造方法、並びに不燃ボード

【課題】石炭灰以外に石膏も有効に利用して、熱伝導率の低い無機質の断熱材を簡易に製造することができる方法、及びその方法により得られた無機質の断熱材、並びにその無機質の断熱材を利用した不燃ボードを提供すること。
【解決手段】水及び発泡剤を撹拌しながら、乾式で調合した、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物を混練した後、混練した混合物を型枠に流し込んで成型し、蒸気養生して固化することにより、石炭灰及び石膏を有効に利用して、熱伝導率の低い無機質の断熱材を簡易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材及びその製造方法、並びに断熱材を利用した不燃ボードに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅、ビル等の構造物の壁には、熱伝導を抑えるためにグラスウールをフェノール系樹脂で固着した断熱材や、発泡スチレン、発泡ウレタン、発泡ポリエチレンなどの発泡樹脂系の断熱材が用いられている。しかしながら、これらの断熱材は、有機系断熱材であるため燃えやすく、不完全燃焼すると有毒ガスや一酸化炭素を発生することが知られている。そのため、無機系の断熱材の開発が望まれている。
【0003】
近年においては、発電所等から産業廃棄物として排出されるフライアッシュなどの石炭灰を有効に利用した無機質の断熱材が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−92208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、発電所等においては、石炭灰以外にも石膏が産業廃棄物として排出されるため、その石膏の有効利用も求められている。
【0005】
そこで、本発明は、石炭灰以外に石膏も有効に利用して、熱伝導率の低い無機質の固化体、すなわち断熱材を簡易に製造することができる方法、及びその方法により得られた断熱材、並びにその断熱材を利用した不燃ボードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、水及び発泡剤を撹拌しながら、乾式で調合した、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物を混練した後、混練した混合物を型枠に流し込んで成型し、蒸気養生して固化することにより、簡易に石膏及び石炭灰を有効に利用した断熱材を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る断熱材の製造方法は、水及び発泡剤を撹拌しながら、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物を加えて混練した後、混練した混合物を鋳込成型して養生し固化することを含んでなる。前記発泡剤としては、例えば、撹拌することにより泡を形成する界面活性剤を用いることが好ましい。
【0008】
また、本発明に係る断熱材の製造方法は、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物と水とともに、前記粉体組成物と水とのスラリーにおいてガスを発生させるための物質を混練した後、混練した混合物を鋳込成型して養生し固化することを含んでなる。前記ガスを発生させるための物質としては、例えば、金属アルミニウムを用いることができる。
【0009】
なお、前記養生には蒸気養生を適用することが好ましく、蒸気養生は、常圧、10〜100℃の温度範囲内、及び50〜100%の相対湿度の範囲内の条件下で行うことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る断熱材の製造方法において、さらに、消石灰及び二酸化炭素を混合することとしてもよい。
【0011】
本発明に係る断熱材は、水及び発泡剤を撹拌しながら、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物を加えて混練した後、混練した混合物を鋳込成型して養生し固化することにより得ることもできるし、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物と水とともに、前記粉体組成物と水とのスラリーにおいてガスを発生させるための物質を混練した後、混練した混合物を鋳込成型して養生し固化することにより得ることもできる。
【0012】
なお、前記セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメントや高炉セメントを用いることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明に係る不燃ボードは、断熱材と石膏ボードとを含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、石炭灰以外に石膏も有効に利用した断熱材を簡易に製造することができる方法、及びその方法により得られた断熱材、並びにその断熱材を利用した不燃ボードを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記知見に基づき完成した本発明を実施するための形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る断熱材は、水及び発泡剤を撹拌しながら、乾式で調合した、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物を混練した後、混練した混合物を鋳込成型して養生し固化することにより製造することができる。このようにして製造された断熱材は、セメント及び石炭灰以外に石膏を材料として使用しても優れた低熱伝導性を有する。この性質は、発泡剤を予め撹拌することにより泡が形成され、この泡によって断熱材中に多数の空隙が形成されたことによるものであると考えられる。従って、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物と水とともに、前記粉体組成物と水とのスラリーにおいてガスを発生させるための物質を混練してガスを発生させ、固化体に多数の空隙を形成させれば、低熱伝導性を有する断熱材を製造することも可能であると考えられる。
【0017】
本発明に係る断熱材の製造方法において用いられる発泡剤としては、断熱材中に泡を形成することができる物質であればどのようなものでもよく、例えば、非イオン性の界面活性剤を挙げることができる。
【0018】
また、前記セメントとしては、一般に使用されているセメントであればどのようなものでもよく、例えば、ポルトランドセメント(例えば、普通ポルトランドセメントなど)、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、及びアルミナセメントからなる群から選ばれる1又は2以上のセメントを用いることができるが、断熱材を製造する際に六価クロムの溶出が少ないとされている高炉セメントを用いることが好ましい。
【0019】
前記石炭灰としては、火力発電所等から排出されるフライアッシュや、PFBC灰(加圧流動床石炭灰)などを用いることができるが、自硬性の高い性質を有するPFBC灰を用いることが好ましい。
【0020】
前記石膏としては、廃棄石膏ボードから再生された石膏であればどのようなものでもよいが、水和反応の速度が速く、速硬性が高いとされているβ型半水石膏を用いることが好ましい。
【0021】
前記ガスを発生させるための物質としては、例えば、金属アルミニウム、金属亜鉛、金属錫、金属鉛などの両性金属を用いることができるが、環境面から金属アルミニウムを用いることが好ましい。
【0022】
なお、本発明に係る断熱材の製造方法においては、発泡剤、セメント、石炭灰、石膏、金属アルミニウムなどを材料として用いることとしているが、その他に、断熱材の強度を向上させるために補強繊維や、二酸化炭素及び消石灰などを用いることとしてもよい。前記補強繊維としては、例えば、ガラス繊維、ポリプロピレン繊維などを用いることができる。
【0023】
本発明に係る断熱材の製造方法において、鋳込成型した混合物の固化(硬化)は、単に養生することにより行うことができるが、短期間で固化させるために蒸気養生することとしてもよい。養生における温度は、鋳込成型した混合物を固化することができる温度であれば特に制限されるものではなく、常温(15℃〜25℃の範囲内)であっても構わない。なお、鋳込成型した混合物を蒸気養生する場合にも、鋳込成型した混合物を固化することができる条件下であればどのような条件下で行うこととしてもよいが、短期間で養生が可能であり、オートクレーブなどの機材を必要としない点で、常圧、50〜100℃の温度範囲内、及び80〜100%の相対湿度の範囲内の条件下で行うことが好ましい。
【0024】
以上のように、本発明に係る断熱材の製造方法は、石炭灰だけでなく石膏を有効に利用することができるので、産業廃棄物の発生を防止することが可能になる。
【0025】
また、本発明の断熱材は、ナイフ等で極めて容易にかつ綺麗に切断することができるので、製造加工がし易く、住宅、ビル等の構造物の壁以外にも、配線や配管などの断熱材として使用することも可能である。
【0026】
なお、本発明に係る断熱材を利用した外断熱材(不燃ボード)として使用する場合には、セメント系材料(例えば、石膏など)で作製されたケースに混練した混合物を流し込み、その後、養生してセメント系材料(例えば、石膏など)で蓋をして固化させたものを用いることが好ましい。これにより、強度及び耐候性に優れた外断熱材を得ることができ、現場における打ち込みも可能となる。
【0027】
一方、本発明に係る断熱材を内断熱材として使用する場合には、難燃性ダンボール箱に混練した混合物を流し込んだ後、養生して固化し、難燃性ダンボール箱ごと用いることもできる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
[実施例1]
表1に示す割合で、ポルトランドセメント、フライアッシュ(微粉炭フライアッシュ)、及び石膏(β型半水石膏)の分量100gを乾式で調合することにより各粉末組成物を調製した。その後、発泡剤(EMAL D-3-D;花王石鹸社)0.3〜0.42g及び表2に示す量の水をあらかじめミキサーで混合撹拌した溶液に、表2に示すW/S比で各粉末組成物をそれぞれ加えて1〜2分間混練し、混練した混合物を型枠(8.8×7.8×2.0mm)に流し込み、常圧下で80℃−90%RHに設定した恒温恒湿器(タバイLHL-112)を使用して23時間蒸気養生して各混合物を固化し、各試料体(GC-1〜GC-9)を作製した。その後、各試料体の重量及び寸法を計測して嵩密度を算出し、熱線法熱伝導率測定装置(京都電子工業社製;TCR-01)を用いて、同一の2個の試料体をサンドイッチにして熱線を挟み、通常10kgであるが今回は5kgの荷重下で各試料体の室温における熱伝導率を測定した。その結果を表2に示す。
【0030】
なお、表2に示す熱伝導率の値は、荷重の軽減による誤差(0.004 kcal/m.h.℃以内)を考慮して求めた。また、表2の試料体GC-7に対する熱伝導率値は、試料体が荷重に耐えることができず崩壊してしまったので、嵩密度と熱伝導率との関係を示したグラフから推定して求めた。
【表1】

【表2】

【0031】
表2に示すように、セメントと石膏量を増加させることにより、優れた熱伝導率の試料体(GC-4〜GC-9)を製造することができることがわかった。なお、本実施例においては、蒸気養生時間を23時間としているが一晩(15時間)でも同様の結果を得ることが期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び発泡剤を撹拌しながら、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物を加えて混練した後、混練した混合物を鋳込成型して養生し固化することを特徴とする断熱材の製造方法。
【請求項2】
前記発泡剤が、撹拌することにより泡を形成する界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の断熱材の製造方法。
【請求項3】
セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物と水とともに、前記粉体組成物と水とのスラリーにおいてガスを発生させるための物質を混練した後、混練した混合物を鋳込成型して養生し固化することを特徴とする断熱材の製造方法。
【請求項4】
前記ガスを発生させるための物質が、金属アルミニウムであることを特徴とする請求項3に記載の断熱材の製造方法。
【請求項5】
前記養生が、蒸気養生であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項6】
前記蒸気養生は、常圧、10〜100℃の温度範囲内、及び50〜100%の相対湿度の範囲内の条件下で行うことを特徴とする請求項5に記載の断熱材の製造方法。
【請求項7】
さらに、消石灰及び二酸化炭素を混合することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項8】
前記セメントが、普通ポルトランドセメント又は高炉セメントであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の断熱材の製造方法。
【請求項9】
水及び発泡剤を撹拌しながら、セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物を加えて混練した後、混練した混合物を鋳込成型して養生し固化することにより得られる断熱材。
【請求項10】
セメント、石炭灰、及び石膏を含む粉体組成物と水とともに、前記粉体組成物と水とのスラリーにおいてガスを発生させるための物質を混練した後、混練した混合物を鋳込成型して養生し固化することにより得られる断熱材。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の断熱材と石膏ボードとを含んでなる不燃ボード。


【公開番号】特開2006−256890(P2006−256890A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74848(P2005−74848)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】