説明

断面観察方法

【課題】 基板102の表面に位置する被観察体105の観察面107をSEMで観察すると、SEMでの観測に用いる電子線が蓄積され、観察面107がチャージアップしてしまい、観察面107に蓄積された電荷の影響により、観察面107上に入射された電子が反射されることにより、観察像が白く光り、SEMによる観察が困難であった。
【解決手段】 集束イオンビームを用いて、被観察体105の深さよりも深く、かつ被観察体105を囲うような溝状の接地された導電体103で被観察体105の外周の少なくとも一部を囲むようにした。被観察体105の観察面107をSEM観察する際の電子線の照射により蓄積された電荷を効率的に導電体103に逃がすことができるため、チャージアップによる断面像の乱れを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被観察体が表面に形成された基板を用い、前記被観察体の断面を包含する観察面に荷電粒子を照射し観察する方法で、3次元像が必要な場合には、前記観察面の観察後、前記観察面をスライスするようエッチングし新しい断面を形成し、再び断面観察を行うことを繰り返して3次元像を得る断面観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した断面観察方法の一つでは、特許文献1に記載されているように、集束イオンビーム(以下「FIB」と略記)と、走査形電子顕微鏡(以下「SEMと略記」)または走査形イオン顕微鏡(以下「SIM」と略記)を用い、チップ表面の3次元構造を観察している。ここでは観察手段として、SEMを代表例として説明する。
【0003】
この方法は、絶縁体中に導電体が形成されている試料について、まずFIBを用いて絶縁体に狭い孔を開け、導電体を露出させる。次に、露出した導電体にFIBを照射する。すると、孔径が小さいため、FIBによるエッチング速度の方がエッチングされた物質の排出速度を上回るようになり、再付着物質が孔側面に付着する。この再付着物質は、FIBに用いられる金属イオンや、導電体の成分が含まれているため、導電性を有している。そのため、前記導体膜を用いて外部と電気的に導通を取ることができ、チャージアップが防止される。
【0004】
また、特許文献2に記載されているように、観察領域の外部で絶縁体の一部に孔を開け導電体を露出させた後、タングステンを孔の部分に充填することで、外部と電気的に導通をとり、チャージアップを防止する技術も公知のものとして知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−274255号公報(第4〜6頁、図2)
【0006】
【特許文献2】特開平9−274878号公報(第1〜4頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されている観察方法は、絶縁体中に存在している導電体に接地電位を与えることで絶縁体中でのチャージアップを防ぐものであるため、スライスするようエッチングを行う際に配線が切り離されてしまい、配線が電気的に浮くことでチャージアップが観察途中で発生してしまい、3次元構造が途中で観察できなくなる場合があった。
【0008】
そこで本発明は、エッチングが行われ構造が変化した場合でも、チャージアップを有効に防ぎ、3次元構造の観察を可能とする断面観察方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の断面観察方法は、表面側に被観察体が形成された基板の前記表面から、前記基板の裏面に垂直に向かう方向を正とした深さを基準として前記基板の加工形状が特定される基板を加工して、前記被観察体を観察するための、前記被観察体の断面を包含する観察面を形成し、前記観察面に荷電粒子を照射することで前記観察面の観察を行う断面観察方法であって、前記被観察体の領域と、前記被観察体を観察するために加工される領域との両領域を含まず、かつ前記荷電粒子の照射により、前記観察面に蓄積される電荷が流出可能な領域の少なくとも一部に対して、前記基板を、集束イオンビームを用い、前記被観察体の最大深さ以上の深さまで前記基板を溝状に除去する処置を行う工程と、荷電粒子を用いる観察手段を使用する際に、前記被観察体に注入され、流出してきた電荷の放出路として、前記基板を溝状に除去した位置に導電体を形成する工程と、前記導電体の前記電荷を接地電位に放出するために、前記導電体を電気的に接地する工程と、前記荷電粒子が前記観察面へ到達することを妨げる前記基板表面側の領域を、前記集束イオンビームを前記基板の前記表面に照射することで除去する工程と、前記基板の表面と垂直な方向に、前記被観察体を包含するように前記観察面を露出させる工程と、前記観察面に前記荷電粒子を照射し、前記荷電粒子の照射による応答を観察し、前記観察面の前記応答のデータを蓄積することと、前記観察面を、前記集束イオンビームを用いて前記観察面と平行に除去し、新しい観察面を形成することとを、前記被観察体を全て観察するまで繰り返し行う、または前記被観察体の状況を解釈するために必要となる情報が観察途中で得られた場合、前記繰り返しを打ち切る工程と、複数枚の前記観察面の像がある場合には3次元像を形成できるようデータを保管する工程とを有することを特徴とする。
【0010】
この観察方法によれば、集束イオンビームを用いて、前記被観察体の深さ以上の深さで前記基板を溝状に除去する処置を、断面観察を行う観察面部分を除いて前記被観察体の外周の少なくとも一部を囲むように行う工程と、荷電粒子を用いる観察手段を用いる際の電荷の放出路として、前記基板を溝状に除去した場所に導電体を形成する工程と、前記導電体の前記電荷を接地電位に放出するために、前記導電体を電気的に接地する工程とが行われるため、観察領域に侵入してきた荷電粒子起因の電荷を前記導電体を経由して接地部に逃がすことができ、チャージアップによる断面像の乱れが防げる。
【0011】
また、観察領域の外周に電荷を逃がすため、配線領域にコンタクトを取り電荷を逃がす方法と比べ、蓄積された電荷の逃げ方が安定しているため、コントラストの均一性が高く、視認性に優れた3次元像を得ることが可能となる。
【0012】
また、上記した本発明の断面観察方法は、前記基板を溝状に除去した場所に前記導電体層を形成する工程の後に、前記被観察体の上部にも前記荷電粒子を用いた観察を行う際に蓄積される電荷を逃がすための導電体層を形成する工程をさらに有することを特徴とする。
【0013】
この観察方法によれば、被観察体の上部にも、蓄積された電荷を逃がすための導電体が形成されるため、より確実にチャージアップを防ぐことができる。
【0014】
また、上記した本発明の断面観察方法は、表面側に被観察体が形成された基板の前記表面から、前記基板の裏面に垂直に向かう方向を正とした深さを基準として前記基板の加工形状が特定される基板を加工して、前記被観察体を観察するための、前記被観察体の断面を包含する観察面を形成し、前記観察面に荷電粒子を照射することで前記観察面の観察を行う断面観察方法であって、前記基板の前記表面側に、集束イオンビームを用い前記被観察体の深さ以上の深さまで前記基板を溝状に除去する処置であって、前記溝状に除去する処置を支持部を残して、前記被観察体領域と前記被観察体を観察するために加工される領域の両領域を全て含み、かつ前記観察面を観察する際に行われる、前記荷電粒子を前記観察面に照射する際に前記観察面に蓄積される電荷を流出させうる領域にある、前記基板を溝状に除去する処置を行う工程と、前記荷電粒子を前記観察面に照射することで断面像を観察する際に、前記観察面に蓄積される電荷を流出させうる領域で、かつ前記被観察体の外側にある領域の底部に前記集束イオンビームを、前記基板を溝状に除去した場所から、前記領域の底部を切断するよう斜め方向から入射させる工程と、前記集束イオンビームの照射部分に堆積反応が起こるよう、前記集束イオンビームを照射させている雰囲気に堆積反応を起こすガスを添加した状態で、プローブと前記被観察体を包含する領域の一部とを接触させて、前記接触部分に前記集束イオンビームを照射し、前記プローブと前記被観察体を包含する領域とを接着する工程と、前記堆積反応を起こすガスを排気して、前記支持部に前記集束イオンビームを照射し、前記被観察体を包含した領域からなる前記チップを前記基板から切り離す工程と、再び、雰囲気に堆積反応を起こすガスを添加した状態で、前記プローブを用いて電気的に接地された金属の台上に前記チップを配置し、前記集束イオンビームを照射して前記チップを前記金属の台上に固定する工程と、前記堆積反応を起こすガスを排気して、前記プローブと前記チップとの接点に前記集束イオンビームを照射し、前記プローブから前記チップを切り離す工程と、前記チップの雰囲気を大気にする事無なく、雰囲気に堆積反応を起こすガスを添加した状態で、前記チップの、前記金属の台上に固定された面を除いた少なくとも一部の面に、前記集束イオンビームを用いて少なくとも一部が電気的に接地されている導電体を形成する工程と、前記チップの、前記金属の台上に固定された面以外の面に観察面を形成する工程であって、前記被観察体を包含する、前記観察面を形成する工程で、前記荷電粒子が前記観察面へ到達することを妨げる前記チップ上の領域を、前記収束性イオンビームを前記チップに照射して除去することで、前記観察面を形成する工程と、前記荷電粒子を照射することで前記観察面を観察し、断面像のデータを蓄積することと、前記観察面を、前記集束イオンビームを用いて前記観察面と平行にエッチングし、新しい観察面を形成することとを、前記被観察体を全て観察するまで繰り返し行う、または前記被観察体を解釈するために必要となる情報が観察途中で得られた場合、前記繰り返しを打ち切る工程と、複数枚の前記観察面の像がある場合には3次元像を形成できるようデータを保管する工程とを有することを特徴とする。
【0015】
この観察方法によれば、前記基板の前記表面側に、集束イオンビームを用い前記被観察体の深さ以上の深さまで前記基板を溝状に除去する処置であって、前記処置を、支持部を残して前記被観察体外周の全周を囲み、かつ荷電粒子を前記観察面に照射することで断面像を観察する際に前記観察面に蓄積される電荷を流出させうる領域に対して行う工程と、荷電粒子を前記観察面に照射することで断面像を観察する際に、前記観察面に蓄積される電荷を流出させうる領域で、かつ前記被観察体を外包する領域の底部に前記集束イオンビームを、前記基板を溝状に除去した場所から、前記領域の底部を切断するよう斜め方向から入射させる工程と、電気的に接地された金属の台上に前記チップを配置し、前記集束イオンビームを照射して前記チップを前記金属の台上に固定する工程を行うため、荷電粒子を前記観察面に照射することで観察面を観察する際に前記観察面に蓄積される電荷を、前記金属の台から流出させることができ、チャージアップを防ぐことができる。
【0016】
また、被観察体の外側に直接電荷を逃がすため、配線領域にコンタクトを取り電荷を逃がす方法と比べ、蓄積された電荷の逃げ方が安定し、各観察面を観察した場合にコントラストの均一性が高くなり、コントラストの乱れが少ない、観察しやすい3次元像を得ることが可能となる。
【0017】
さらに、チップの雰囲気を大気にする事無なく、雰囲気に堆積反応を起こすガスを添加した状態で、前記チップの、前記金属の台上に固定された面を除いた少なくとも一部の面に、集束イオンビームを用いて少なくとも一部が電気的に接地されている導電体を形成することが可能となるため、チップ周囲の雰囲気を真空から大気圧に変更する際に起こる風でチップが吹き飛んでしまう現象を防ぐことができる。
【0018】
また、上記した本発明の断面観察方法は、前記荷電粒子を照射することで前記観察面を観察する方法は走査形電子顕微鏡または走査形イオン顕微鏡を用いたことを特徴とする。
【0019】
この観察方法によれば、走査形電子顕微鏡は1nm程度の高い分解能を有しているため、鮮明な断面観察を行うことができる。また、走査形イオン顕微鏡は分解能が20nm程度と、走査形電子顕微鏡に比べて劣るが、結晶の面方位に対し敏感であるため、多結晶構造の結晶粒界を観察する場合には、優れた分解能を有し、鮮明な像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る断面観察方法について、図面を参照して説明する。本実施形態の説明に用いた各図では、各膜や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各膜や各部材毎に縮尺を異ならせてある。
【0021】
<実施形態1−1>観察面周囲に溝状の導電体を配置した場合の構成
図1は、集束イオンビーム(以下「FIB」と略記)と走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と略記)を用いて、チップを観察する構成を示す平面図である。
【0022】
ステージ101に置かれた基板102上には、被観察体105が存在している。そして被観察体105の3方を囲うように、溝状の導電体103が配置されている。導電体103は基板102の端で導電体104によりグラウンドに接続されており、導電体103に流入された電荷はグラウンドに逃がされる。
【0023】
さらに、被観察体105の上面には、白金からなる導電膜108が形成されている。導電膜108はスパッタ法を用いて形成され、その一部は導電体104により電気的に接地されているため、より確実にチャージアップを抑制できている。
【0024】
図2は、図1をA−A’で切断した断面図である。
【0025】
図2に示されるように、導電体103は被観察体105の深さよりも深く形成されており、被観察体105の観察面107をSEM観察する際の電子線の照射により蓄積された電荷を効率的に導電体103に逃がすことができる。また、導電膜108からも観察面107に入射された電荷を逃がすことができる。
【0026】
斜面106は、FIBを用いて加工することで得られた観察面107をSEMを用いて観察できるよう、SEM観察を行うための電子線が観察面107に到達する際、影とならぬよう形成されている。観察面107をSEMにより観察し終えた後、FIBを照射して、観察面107に平行に、スライスするよう除去して、新しい観察面を露出して再びSEM観察することで、3次元方向のデータを収集することができる。
【0027】
次に、上記した本実施形態の効果について記述する。
【0028】
(1)集束イオンビームを用いて、被観察体105の深さよりも深く、かつ被観察体105を囲うような溝状の接地された導電体103で被観察体105の外周の少なくとも一部を囲むようにしたため、被観察体105の観察面107をSEM観察する際の電子線の照射により蓄積された電荷を効率的に導電体103に逃がすことができるため、チャージアップによる断面像の乱れを抑制することができる。
【0029】
(2)被観察体105の外周に電荷を逃がすため、観察面107をスライス状に除去する際に配線領域が電気的に切れ、電荷の排出が不可能となり3次元解析が困難となる場合がある、配線領域にコンタクトを取り電荷を逃がす方法と比べ、蓄積された電荷の逃げ方が安定しており、コントラストの均一性が高く、視認性に優れた3次元像を得ることが可能となる。
【0030】
(3)観察手段としてSEMを用いているため、1nm程度の分解能を得ることができ、鮮明な3次元像を得ることができる。
【0031】
<実施形態1−2>観察面周囲に溝状の導電体を配置した場合の観察工程
図3、図4及び図5を用いて観察手順を説明する。図3、図4及び図5は、FIBと、SEMとを用いて、チップを観察する手順を示した上面図と断面図である。
【0032】
(1)図3(A)に示すように、被観察体105と、後述する観察面107を観察するための、後述する斜面106を含めた領域の外周にあって、かつ被観察体105に形成される観察面107に、電子線を照射し観察する場合に、蓄積される電荷を逃がすことができる領域にある基板102を、被観察体105以上の深さを有する溝状に加工する。図3(a)は図3(A)のA−A’での断面図である。
【0033】
(2)図3(B)に示すように、導電性ペースト301を塗布し、綿棒等を用いて導電性ペースト301をふき取る。この工程を行うことで、溝状に加工された部分以外では導電性ペースト301がふき取られてしまうが、溝状に加工された部分には、導電性ペースト301が残るため、選択的に導電性ペースト301を残すことができる。図3(b)は図3(B)のB−B’での断面図である。
【0034】
(3)図3(C)に示すように、導電性ペースト302を用いて、導電性ペースト301を電気的に接地させる。図3(c)は図3(C)のC−C’での断面図である。
【0035】
(4)図4(A)に示すように、熱処理により導電性ペースト301、導電性ペースト302の溶媒を除去して、導電性ペースト301が硬化した導電体103、導電性ペースト302が硬化した導電体104を形成する。図4(a)は、図4(A)のA−A’での断面図である。
【0036】
(5)図4(B)に示すように、基板102の上面にスパッタ法により白金からなる導電膜108を全面に形成する。図4(b)は図4(B)のB−B’での断面図である。
【0037】
(6)図4(C)に示すように、FIBを用いて斜面106を形成し、観察面107を露出させる。図4(c)は、図4(C)のC−C’での断面図である。
【0038】
(7)図5(A)に示すように、SEMを用いて、露出した観察面107を観察する。図5(a)は、図5(A)のA−A’での断面図である。
【0039】
(8)図5(B)に示すように、FIBを用いて、新たな観察面を露出させる。図5(b)は、図5(B)のB−B’での断面図である。
【0040】
(9)図5(A)に示す観察工程と、図5(B)に示す露出工程とを繰り返し、被観察体105を全て観察するまで繰り返し行う、または被観察体105を解釈するために必要となる情報が観察途中で得られた場合、繰り返しを打ち切る。
【0041】
次に、上記した本実施形態の効果について記述する。
【0042】
(1)観察面107に電子線を照射して観察する際に蓄積される電荷を逃がすための構造を、基板102を被観察体105よりも深い溝状に加工し、導電性ペースト301を充填した後、綿棒等(図示せず)を用いて余分の導電性ペースト301をふき取ることで形成することができるため、特殊な装置を用いる必要なく、FIB加工後には、導電性ペースト301と綿棒だけで導電体104を、被観察体105よりも深い溝状に形成することができる。
【0043】
<変形例1>
上記した被観察体の3方を囲う例に代えて、2方や、1方を導電体103で囲うようにしても良い。また、工程の簡略化のために、主として接地された導体からなる基板を観察する場合には、導電膜108を形成する工程を省略しても良い。
【0044】
また、より確実にチャージアップを防ぐために、4方を囲うように導電体103で囲うようにしても良い。
【0045】
また、上記した溝状の導電体103を導電性ペースト301を塗布して、綿棒でふき取ることで形成することに代えて、基板102をエッチングした後で、ヘキサカルボニルタングステンガスを導入して、基板102をエッチングした場所にFIBを照射することで得られるタングステン膜を用いても良い。
【0046】
また上記したように溝状の導電体103を別工程で形成せずに、スパッタ法により白金からなる導電膜108を全面に形成する際に、溝状の導電体103を同時に形成しても良い。
【0047】
また、上記した、SEMを用いて断面観察に代えて、走査型イオン顕微鏡を用いても良い。特に、多結晶構造を主として観察する場合、粒界のコントラストが高く取れるため有効な観察手段となりうる。
【0048】
<実施形態2>被観察体を含むチップとして基板から切り離して行う観察手順
次に、被観察体を含む領域をチップとして基板から切り離して観察を行う観察手順について説明する。図6〜図8は、基板102からチップ601を取り出して観察するための概略図である。
【0049】
(1)図6(A)に示すように、基板102上に形成されている被観察体105(図示せず)と、被観察体105上に形成される観察面107(図示せず)に対向する領域で、SEMで観察する際に影となる領域を除去するため、基板102を斜面106(図示せず)に加工するための領域とを含み、かつ観察面107を観察する際に行われる、荷電粒子を観察面107に照射する際に観察面107に蓄積される電荷を流出させうる領域からなるチップ601として切り離せるよう、FIBを用いて加工を行う。
【0050】
ここで、被観察体105及び斜面106に加工するための領域を含むチップ601が落下しないように、支持部602を残した状態でFIBを用いて周辺の加工を行う。
【0051】
なお、FIBによる加工深さは、被観察体105、及び基板102を加工した斜面106の両方のうち最も深い位置にあるものが含まれ、かつ観察面107を観察する際注入される荷電粒子の電荷が排出できる位置にあるよう選択する。
【0052】
(2)図6(B)に示すように、被観察体105を含み、かつ被観察体105の外側である範囲の近傍にある領域の底部にFIBを、基板102を溝状に除去した場所から、斜めに、前記領域の底部を切断するよう入射し、支持部602のみを残して、チップ601を基板102から切り離す。
【0053】
(3)図6(C)に示すように、堆積反応を起こすヘキサカルボニルタングステンガスを導入して、FIBをプローブ603とチップ601を接触させた位置に照射し、堆積したタングステン膜605によりプローブ603とチップ601とを接着する工程を行う。
【0054】
(4)図7(A)に示すように堆積反応を起こすガスを排気して、支持部602にFIBを照射し、被観察体105を包含した領域からなるチップ601を前記基板から切り離す工程を行う。
【0055】
(5)図7(B)に示すように、プローブ603を動かして、電気的に接地された金属の台604上にチップ601を配置し、堆積反応を起こすヘキサカルボニルタングステンガスを導入したFIBを用いて金属の台604とチップ601との継ぎ目にタングステン膜605を生成させ、チップ601を金属の台604に接着する工程を行う。
【0056】
(6)図7(C)堆積反応を起こすガスを排気して、プローブ603とチップ601との接点にFIBを照射し、前記プローブから前記チップを切り離す工程とを行う。
【0057】
(7)図8に示すように、堆積反応を起こすヘキサカルボニルタングステンガスを導入して、チップ601の側面3方に、一部が接地されるようタングステン膜605を形成した後、堆積反応を起こすガスを排気する工程を行う。
【0058】
以下の工程については<実施形態1−2>の(6)から(9)とほぼ同一の工程となる。
【0059】
次に、上記した本実施形態の効果について記述する。
【0060】
(1)チップ601の周囲にタングステン膜605を形成する工程をFIBを用いて行っているため、基板102からチップ601を切り出し、タングステン膜605をチップ601の周り形成する工程を、大気にさらすこと無く行うことができる。そのため、典型的な寸法として10μm角程度の大きさを有している、チップ601の周辺の雰囲気を、真空から大気圧に戻す際に発生する風の流れによりチップ601が吹き飛ばされてしまう現象を防ぐことができる。
【0061】
(2)基板102の上部のみを取り出してチップ601が形成されているため、特に基板に、半導体や絶縁性のものが用いられている場合には、被観察体105を内包したチップ601が高い電気伝導度を持つ金属の台604に接着されるため、被観察体105に形成される観察面107を、荷電粒子を用いて観察する際に蓄積される電荷を、金属の台604からも逃がすことができるため、さらにチャージアップを抑制することができる。
【0062】
<変形例2>
上記した被観察体の3方を囲う例に代えて、工程の簡略化のために2方や、1方を導電体103で囲うようにしても良い。また、被観察体の4方、さらには金属の台604に接着されたチップ601の面に対向する面をもタングステン膜605で囲うようにしても良く、チャージアップをより確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】FIBとSEMを用いて被観察体を観察する構成を示す平面図。
【図2】図1をA−A’で切断した断面図。
【図3】FIBと、SEMとを用いて、被観察体を観察する手順を示した上面図と断面図。
【図4】FIBと、SEMとを用いて、被観察体を観察する手順を示した上面図と断面図。
【図5】FIBと、SEMとを用いて、被観察体を観察する手順を示した上面図と断面図。
【図6】FIBと、SEMとを用いて、チップを観察する手順を示した概略図。
【図7】FIBと、SEMとを用いて、チップを観察する手順を示した概略図。
【図8】FIBと、SEMとを用いて、チップを観察する手順を示した概略図。
【符号の説明】
【0064】
101…ステージ、102…基板、103…導電体、104…導電体、105…被観察体、106…斜面、107…観察面、108…導電膜、301…導電性ペースト、302…導電性ペースト、601…チップ、602…支持部、603…プローブ、604…台、605…タングステン膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に被観察体が形成された基板の前記表面から、前記基板の裏面に垂直に向かう方向を正とした深さを基準として前記基板の加工形状が特定される基板を加工して、前記被観察体を観察するための、前記被観察体の断面を包含する観察面を形成し、前記観察面に荷電粒子を照射することで前記観察面の観察を行う断面観察方法であって、
前記被観察体の領域と、前記被観察体を観察するために加工される領域との両領域を含まず、かつ前記荷電粒子の照射により、前記観察面に蓄積される電荷が流出可能な領域の少なくとも一部に対して、前記基板を、集束イオンビームを用い、前記被観察体の最大深さ以上の深さまで前記基板を溝状に除去する処置を行う工程と、
荷電粒子を用いる観察手段を使用する際に、前記被観察体に注入され、流出してきた電荷の放出路として、前記基板を溝状に除去した位置に導電体を形成する工程と、
前記導電体の前記電荷を接地電位に放出するために、前記導電体を電気的に接地する工程と、
前記荷電粒子が前記観察面へ到達することを妨げる前記基板表面側の領域を、前記集束イオンビームを前記基板の前記表面に照射することで除去する工程と、
前記基板の表面と垂直な方向に、前記被観察体を包含するように前記観察面を露出させる工程と、
前記観察面に前記荷電粒子を照射し、前記荷電粒子の照射による応答を観察し、前記観察面の前記応答のデータを蓄積することと、前記観察面を、前記集束イオンビームを用いて前記観察面と平行に除去し、新しい観察面を形成することとを、前記被観察体を全て観察するまで繰り返し行う、または前記被観察体の状況を解釈するために必要となる情報が観察途中で得られた場合、前記繰り返しを打ち切る工程と、
複数枚の前記観察面の像がある場合には3次元像を形成できるようデータを保管する工程とを有することを特徴とする断面観察方法。
【請求項2】
前記基板を溝状に除去した場所に前記導電体層を形成する工程の後に、前記被観察体の上部にも前記荷電粒子を用いた観察を行う際に蓄積される電荷を逃がすための導電体層を形成する工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の断面観察方法。
【請求項3】
表面側に被観察体が形成された基板の前記表面から、前記基板の裏面に垂直に向かう方向を正とした深さを基準として前記基板の加工形状が特定される基板を加工して、前記被観察体を観察するための、前記被観察体の断面を包含する観察面を形成し、前記観察面に荷電粒子を照射することで前記観察面の観察を行う断面観察方法であって、
前記基板の前記表面側に、集束イオンビームを用い前記被観察体の深さ以上の深さまで前記基板を溝状に除去する処置であって、前記溝状に除去する処置を支持部を残して、前記被観察体領域と前記被観察体を観察するために加工される領域の両領域を全て含み、かつ前記観察面を観察する際に行われる、前記荷電粒子を前記観察面に照射する際に前記観察面に蓄積される電荷を流出させうる領域にある、前記基板を溝状に除去する処置を行う工程と、
前記荷電粒子を前記観察面に照射することで断面像を観察する際に、前記観察面に蓄積される電荷を流出させうる領域で、かつ前記被観察体の外側にある領域の底部に前記集束イオンビームを、前記基板を溝状に除去した場所から、前記領域の底部を切断するよう斜め方向から入射させる工程と、
前記集束イオンビームの照射部分に堆積反応が起こるよう、前記集束イオンビームを照射させている雰囲気に堆積反応を起こすガスを添加した状態で、プローブと前記被観察体を包含する領域の一部とを接触させて、前記接触部分に前記集束イオンビームを照射し、前記プローブと前記被観察体を包含する領域とを接着する工程と、
前記堆積反応を起こすガスを排気して、前記支持部に前記集束イオンビームを照射し、前記被観察体を包含した領域からなる前記チップを前記基板から切り離す工程と、
再び、雰囲気に堆積反応を起こすガスを添加した状態で、前記プローブを用いて電気的に接地された金属の台上に前記チップを配置し、前記集束イオンビームを照射して前記チップを前記金属の台上に固定する工程と、
前記堆積反応を起こすガスを排気して、前記プローブと前記チップとの接点に前記集束イオンビームを照射し、前記プローブから前記チップを切り離す工程と、
前記チップの雰囲気を大気にする事無なく、雰囲気に堆積反応を起こすガスを添加した状態で、前記チップの、前記金属の台上に固定された面を除いた少なくとも一部の面に、前記集束イオンビームを用いて少なくとも一部が電気的に接地されている導電体を形成する工程と、
前記チップの、前記金属の台上に固定された面以外の面に観察面を形成する工程であって、前記被観察体を包含する、前記観察面を形成する工程で、前記荷電粒子が前記観察面へ到達することを妨げる前記チップ上の領域を、前記収束性イオンビームを前記チップに照射して除去することで、前記観察面を形成する工程と、
前記荷電粒子を照射することで前記観察面を観察し、断面像のデータを蓄積することと、前記観察面を、前記集束イオンビームを用いて前記観察面と平行にエッチングし、新しい観察面を形成することとを、前記被観察体を全て観察するまで繰り返し行う、または前記被観察体を解釈するために必要となる情報が観察途中で得られた場合、繰り返しを打ち切る工程と、
複数枚の前記観察面の像がある場合には3次元像を形成できるようデータを保管する工程とを有することを特徴とする断面観察方法。
【請求項4】
前記荷電粒子を照射することで前記観察面を観察する方法は走査形電子顕微鏡または走査形イオン顕微鏡を用いたことを特徴とする請求項1または3に記載の断面観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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