説明

新規なメタセシスルテニウム触媒

本発明は、新規な(前)触媒である下記式1のルテニウム錯体:
【化1】


(式中、L1、X1、X2、R1、R2、R3、Z及びnは、請求項1の定義どおりである)に関する。式1の新規なルテニウム錯体は、メタセシス反応のための便利な(前)触媒であり、すなわち、閉環メタセシス反応、交差メタセシス反応又はエン-イン(ene-ine)メタセシス反応に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
この発明は、下記式1のルテニウムカルベン錯体、その合成及び種々のタイプのメタセシス反応の触媒としてのその実際的使用に関する。
【化1】

【0002】
〔背景情報〕
最近数年間で有機合成におけるオレフィンメタセシスの応用において大いなる進歩が生じている。(前)触媒として作用するいくつかのルテニウムカルベン錯体が開発されており、これらは種々のメタセシス反応で高い活性を有するのみならず、多くの官能基に対して広範な耐性を有する。この特性の組合せが有機合成におけるこのような(前)触媒の有用性の基本である。
また、特に工業規模の実際的用途では、これらルテニウム錯体が熱負荷の状態で長時間安定であり、かつ保護気体なしでこれらルテニウム錯体を貯蔵、精製及び適用できることが非常に望ましい。
上記特性を有するルテニウム錯体は文献公知である。J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 8168-8179 or Tetrahedron Lett. 2000, 41, 9973-9976を参照されたい。しかし、安定性が良いほど触媒活性が低いという関係があることが分かっている。このような限界は、例えば下記式Aの(前)触媒について見出された(Angew. Chemie Int. Ed. 2002, 114, 832参照)。
【化2】

【0003】
次に、上式B及びCの(前)触媒は式Aの(前)触媒に比べて高い触媒活性を示すことが記載された。触媒A、B及びCは、金属原子をキレート化するイソ-プロポキシ基を含む。系B及びCの高い活性の理由は、このイソ-プロポキシ基に対してオルト位にフェニル又は(置換)ナフチル基が存在することに起因する立体障害である(Angew. Chemie Int. Ed. 2002, 114, 832; Angew. Chemie Int. Ed. 2002, 114, 2509)。
驚くべきことに、上記一般式1のルテニウム錯体(前)触媒は、既知の高活性ルテニウム錯体に比べてずっと高い触媒活性を示し、かつこれら錯体は熱安定性であると同時に空気安定性であるこをが分かった。
【0004】
〔発明の概要〕
本発明は、下記式1の新規なルテニウム錯体、その合成、すべての中間体の合成及び式1の錯体の触媒又は前触媒としての使用に関する。
【化3】

【0005】
式中:
1及びX2は陰性リガンドであり;
1は中性リガンドであり;
1は-C1-20-アルキル、-C1-20-ハロアルキル、-C3-8-シクロアルキル又は-C7-13-アラルキルであり;
2はH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル、-C2-20-アルキニル又はアリールであり;
3は-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、アリール、F又はClであり;
nは0、1、2又は3であり;
Zは-CO-R4、-SO2-R5又は-PO(R6)2であり;
4は-C1-20-アルキル若しくは-C3-8-シクロアルキル(両方とも任意に、F、Cl、Br、I若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)、又はアリール若しくはヘテロアリール(両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;
5は-C1-8-フルオロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルケニル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、-C1-6-アルコキシカルボニル、-SO2-C1-6-アルキル又は-SO2-アリールからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;かつ
6は、それぞれ独立的に-C1-20-アルキル、-C3-8-シクロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、又は-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;或いは
4、R5及びR6は下記式1'の基:
【化4】

(式中:
1'及びX2'は陰性リガンドであり;
1'は中性リガンドであり;
1'は-C1-20-アルキル、-C1-20-ハロアルキル、-C3-8-シクロアルキル又は-C7-13-アラルキルであり;
2'はH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル、-C2-20-アルキニル又はアリールであり;
3'は-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、アリール、F又はClであり;かつ
n'は0、1、2又は3である)
である。
【0006】
本発明の式1の化合物を用いてオレフィンメタセシス反応を触媒することができる。このメタセシス反応として、限定するものではないが、開環メタセシス重合(ROMP)、開環メタセシス(RCM)、不飽和ポリマーの解重合、テレケリックポリマーの合成、エン-イン(ene-ine)メタセシス及びオレフィン合成が挙げられる。
本発明の別の実施態様は、錯体1の調製用中間体である下記式2の新規な2-アルコキシ-5-スチレン誘導体に関する。
【化5】

(式中:
1、R2、R3、n及びZは上記定義どおりであり、かつ
12は-C1-4-アルキルであり;
mは0、1又は2である。)
【0007】
上式の部分式:
【化6】

は、該メチレン基の一方又は両方の水素原子が基R12で置換されていてもよいアルキレン基を表す。従って、この式は以下のアルキレン基を包含する。
【化7】

【0008】
本発明のさらなる局面は、上式2の新規な2-アルコキシ-5-スチレン誘導体の製法であり、以下の工程を含む。
・置換2-ヒドロキシ-5-ベンズアルデヒド3をR1Vでアルキル化する。ここで、R1は式1について与えた意味を有し、かつVは、ハロゲン原子、C1-6-アルキル-S(O)-O-、C1-6-フルオロアルキル-S(O)-O-、アリール-S(O)-O-又はアリール-S(O)2-O-から選択される脱離基である。
【化8】

【0009】
・次に、式4の置換2-アルコキシ-5-ベンズアルデヒドを下記式のオレフィン化試薬:
【化9】

(式中、R4及びmは式2について与えた意味を有し、かつWは、オレフィン化反応に適した脱離基である)で処理して式2の化合物を得る。
【化10】

【0010】
・次いで、化合物2を下記式5のルテニウム錯体と反応させて式1(式中、L1及びL2は中性リガンドであり;R13はH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル、-C2-20-アルキニル又はアリールであり;R14はアリール、ビニル又はアレニルであり、かつX1及びX2は陰性リガンドである)のルテニウム錯体とすることができる。
【化11】

任意に、得られた式1の化合物を異なる中性リガンドL1と反応させ、式1の化合物中に存在する中性リガンドL1と置き換えることによって、式1の別の化合物を得ることができる。
【0011】
本明細書で記載する化合物は不斉中心を有しうる。非対称的に置換された原子を含有する本発明の化合物は、光学的に活性な形態又はラセミ形態で単離されうる。光学的に活性な形態を調製する方法は技術的に周知であり、例えばラセミ形態の分割又は光学的に活性な出発原料からの合成によって調製しうる。本明細書で述べる化合物にはオレフィンの多くの幾何異性体も存在することがあり、本発明ではこのようなすべての安定な異性体が考慮される。本発明の化合物のシス及びトランス幾何異性体が示され、それらは異性体の混合物として或いは別個の異性形態として単離されうる。特有の立体化学又は異性形態を具体的に示さない限り、すべてのキラル、ジアステレオマー、ラセミ形態及びすべての幾何異性形態の構造を意図している。
【0012】
〔発明の詳細な説明〕
本明細書で特に定義しない用語は、本技術の当業者が本開示と文脈に照らして与えるであろう意味を与えられるものとする。しかし、本明細書で用いる場合、逆の意味に指定しない限り、以下の用語は以下に示す意味を有し、かつ以下の慣例を固守する。
以下に定義する基(groups)、基(radicals)、又は成分(moiteties)中、多くの場合、炭素原子の数は該基の前に指定し、例えば、-C1-6-アルキルは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。以下に特に指定しない限り、すべての式及び基において、用語の通常の定義が支配し、かつ通常の安定な原子価が仮定され、達成される。
本明細書では、用語“任意に置換されていてもよい”とは、指定原子上のいずれかの1個以上の水素が、示した基から選択される基で置換されていることを意味し、この場合、その指定原子の普通の原子価を超えず、かつその置換が安定な化合物をもたらすことを条件とする。
本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“アリール”は、芳香族の単炭素環系又は芳香族の多炭素環系のどちらかを意味する。例えば、アリールとしてフェニル又はナフチル環系が挙げられる。
本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“ヘテロアリール”は、炭素原子と、窒素、酸素及びイオウから選択される1〜4個の環ヘテロ原子とを含有する5員、6員、又は7員飽和若しくは不飽和(芳香族を含む)ヘテロ環から水素を除去して導かれる一価の置換基を意味し、特に環付加関係が言及されている場合は2個の水素を除去して導かれる二価の置換基を意味する。好適なヘテロ環の例として、テトラヒドロフラン、チオフェン、ジアゼピン、イソオキサゾール、ピペリジン、ジオキサン、モルフォリン、ピリミジン又は下記式のものが挙げられる。
【化12】

【0013】
用語“ヘテロアリール”は、1個以上の他の環(ヘテロ環でも他のいずれの環でもよい)に縮合した上記定義どおりのヘテロ環をも含む。このような環の一例としてインドール又はチアゾロ[4,5-b]-ピリジンが挙げられる。一般的に用語“ヘテロ芳香族環”に包含されるが、本明細書では、用語“ヘテロアリール”は、正確に、二重結合が芳香族系を形成する不飽和ヘテロ環を定義する。ヘテロ芳香族系の好適な例として、キノリン、インドール、ピリジン、下記に示すものが挙げられる。
【化13】

【0014】
本明細書では、用語“ハロゲン”はフルオロ、クロロ、ブロモ又はヨードから選択されるハロゲン置換基を意味する。
本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“-C1-20-アルキル”は1〜20個の炭素原子を含有する非環式の直鎖若しくは分岐鎖アルキル置換基を意味する。本明細書では、用語“-C1-6-アルキル”は上記用語と同じ意味を有するが、より少ない炭素原子、正確には最大6個の炭素原子を含有するので好ましい。すなわち、用語-C1-20-アルキル又は-C1-6-アルキルとして、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、1-メチルエチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、又は1,1-ジメチルエチルが挙げられる。
本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“-C2-20-アケニル”は2〜20個の炭素原子と少なくとも1つの二重結合を含有する非環式の直鎖若しくは分岐鎖アルケニル置換基を意味する。本明細書では、用語“-C2-6-アルケニル”は上記用語と同じ意味を有するが、より少ない炭素原子、正確には最大6個の炭素原子を含有するので好ましい。すなわち、用語-C2-20-アルケニル又は-C2-6-アルケニルとして、ビニル又はアレニルが挙げられる。
本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“-C2-20-アキニル”は2〜20個の炭素原子と少なくとも1つの三重結合を含有する非環式の直鎖若しくは分岐鎖アルキニル置換基を意味する。本明細書では、用語“-C2-6-アルキニル”は上記用語と同じ意味を有するが、より少ない炭素原子、正確には最大6個の炭素原子を含有するので好ましい。
本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“-C3-8-シクロアルキル”は5又は6個の炭素原子を含有するシクロアルキル置換基を意味し、すなわち、シクロペンチル又はシクロヘキシルが挙げられる。
本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“-C1-6-アルコキシ”は置換基-C1-6-アルキル-O-を意味する(ここで、アルキルは上記定義どおりであり、6個までの炭素原子を含有する)。アルコキシとして、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、1-メチル-エトキシ、ブトキシ又は1,1-ジメチルエトキシが挙げられる。
本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“-C7-13-アラルキル”は、置換基-アリール-C1-6-アルキル-を意味する(ここで、アルキルは上記定義どおりであり、6個までの炭素原子を含有する)。アラルキルとして、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、1-フェニル-1-メチルエチル又はフェニルブチルが挙げられる。
本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“-C1-20-ハロアルキル”は、1個以上の水素がブロモ、クロロ、フルオロ又はヨードで置換されている20個までの炭素原子を含有する非環式の直鎖若しくは分岐鎖アルキル置換基を意味する。好ましくは、用語-C1-20-ハロアルキルは-C1-8-フルオロアルキルを表す。本明細書では、単独又は別の置換基と組み合わせた用語“-C1-8-フルオロアルキル”は、1個以上の水素原子がフッ素原子で置換されている6個までの炭素原子を含有する非環式の直鎖若しくは分岐鎖アルキル置換基を意味し、例えば、2-フルオロエチル又は2,2,2-トリフルオロエチルである。好ましくは、用語-C1-20-ハロアルキル及び-C1-8-フルオロアルキルは-C1-6-ペルフルオロアルキル、例えばトリフルオロメチル又はペンタフルオロエチルを表す。
【0015】
〔追加の実施態様〕
好ましくは、式中、
4が、-C1-20-アルキル若しくは-C3-8-シクロアルキル(両方とも任意に、F、Cl、Br、I若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)、又はアリール若しくはヘテロアリール(両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり、
5が、-C1-8-フルオロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルケニル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、-C1-6-アルコキシカルボニル、-SO2-C1-6-アルキル、-SO2-アリール又は式1'の基からそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;かつ
6が、それぞれ独立的に-C1-20-アルキル、-C3-8-シクロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、又は-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)である、一般式1の化合物である。
式中、
Zが-CO-R4又は-PO(R6)2であり;かつ
4とR6が式1'の基である、
一般式1の化合物も好ましい。
【0016】
下記式1aの化合物(式中、L1、X1、X2、R1、R2、R3、Z及びnは上記定義どおりである)が好ましい。
【化14】

【0017】
さらに好ましくは、式中、
1がP(R11)3であり、R11がそれぞれ独立的に-C1-6-アルキル、-C3-8-シクロアルキル又はアリールであり;或いは
1が下記式6a、6b、6c又は6dのリガンド:
【化15】

(式中、
7及びR8は、それぞれ独立的にH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル又はフェニル(該フェニルは、任意に、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ又はハロゲンから独立的に選択される3個までの基で置換されていてもよい)であり;特に
9及びR10は、それぞれ独立的にH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル又はフェニル(該フェニルは、任意に、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ又はハロゲンから独立的に選択される3個までの基で置換されていてもよい)であり、或いは
9とR10が、それらが結合している炭素原子と一緒に結合して炭素環式の3〜8員環を形成しており;
Y及びY'がハロゲンである)
である、上記一般式1又は1aの化合物である。
【0018】
特に好ましくは、式中、
7及びR8が、それぞれ独立的にH、-C1-6-アルキル、-C2-6-アルケニル又はフェニル(該フェニルは、任意に、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ又はハロゲンから独立的に選択される3個までの基で置換されていてもよい)であり;
9及びR10が、それぞれ独立的にH、-C1-6-アルキル、-C2-6-アルケニル又はフェニル(該フェニルは、任意に、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ又はハロゲンから独立的に選択される3個までの基で置換されていてもよい)であり、或いは
9とR10が、それらが結合している炭素原子と一緒に結合して炭素環式の5〜7員環を形成している、上記一般式1又は1aの化合物である。
最も好ましくは、式中、
・R1がイソ-プロピルであり;
・R2がH、-C1-6-アルキル又はアリール、特にHであり;
・X1及びX2がハロゲン、特に塩素であり;
・L1がP(シクロヘキシル)3であり、或いはL1が式6a、6b、6c又は6dの基、さらに好ましくは下記式6aの基であり;
【化16】

・式中、R7及びR8がそれぞれ2,4,6-トリメチルフェニルであり;かつR9及びR10がそれぞれHであり;
・R7及びR8が2-メチルベンゼン、2,6-ジメチルベンゼン又は2,4,6-トリメチルベンゼンであり;
・nが0である、
上記一般式1又は1aの化合物である。
【0019】
特に最も好ましくは、式中、
・R1がイソ-プロピルであり;
・R2がHであり;
・X1及びX2が塩素であり;
・L1が下記式6aの基であり;
【化17】

・式中、R7及びR8がそれぞれ2,4,6-トリメチルフェニルであり、かつR9及びR10がそれぞれHであり;
・R7及びR8が2-メチルベンゼン、2,6-ジメチルベンゼン又は2,4,6-トリメチルベンゼンである)であり;
・nが0である、
上記一般式1又は1aの化合物である。
【0020】
式2の好ましい化合物は、下記式2aの化合物(式中、R1、R2、R3、R12、Z、m及びnは上記定義どおりである)である。
【化18】

【0021】
さらに好ましくは、式中、
・R1がイソ-プロピル基であり;及び/又は
・R2がH、-C1-6-アルキル又はアリールであり、特にR2が水素原子を意味し;及び/又は
・R12が-C1-6-アルキル、特にメチル又はエチルであり;及び/又は
・nが0であり;及び/又は
・mが0である、
一般式2又は2aの化合物である。
さらなる実施態様は、式中、
・R1がイソ-プロピルであり;
・R2がHであり;
・mが0であり;かつ
・nが0である、
一般式2又は2aの化合物である。
【0022】
さらに好ましくは、式1又は1aの錯体の製造方法であって、一般式2又は2aの化合物を下記式5のルテニウム錯体:
【化19】

(式中、
1及びL2は中性リガンドであり;
13はH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル、-C2-20-アルキニル又はアリールであり;かつ
14はアリール、ビニル又はアレニルであり;かつ
1及びX2は陰性リガンドである)
と反応させる方法(任意に別の中性リガンドL1の存在下でもよい)である。
【0023】
さらに好ましくは、式1のルテニウム錯体の上記合成を以下の条件で行う:
・銅塩、特にCuClの存在下;及び/又は
・ハロゲン化溶媒又は芳香族溶媒、特に塩化メチレン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン又はこれらの混合物から選択される溶媒中;及び/又は
・0〜100℃の温度、特に10〜80℃の温度、さらに詳しくは20〜60℃の温度で;及び/又は
・1〜24時間、特に1〜10時間、さらに詳しくは1〜4時間という時間。
最も好ましくは、式6a、6b、6c又は6dのリガンドを式5(式中、両リガンドL1及びL2は式P(R11)3のホスフィンであり、R11は上述した意味を有する)の固形錯体と混合した後、式2又は2aのリガンドを添加することによって、反応を1つの容器内で行う、ルテニウム錯体の上記合成である。
【0024】
ルテニウム錯体の上記合成の1つの好ましい変形は、下記式7a、7b、7c又は7dの安定な塩からの一般式6a、6b、6c又は6dのリガンドのインサイツ生成である。
【化20】

この場合、陰イオンは、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン又は他の酸基、ハロゲン又は[BF4]-から選択される。従って、塩は、好ましくは、脂肪族又は芳香族炭化水素、好ましくはヘキサンのような溶媒中の懸濁液の状態で、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド又はアルコラート、特にカリウムtert-ペンタノラート、カリウムtert-アミラート又はカリウムtert-ブタノラートから選択される強塩基と反応する。その後、式5(式中、両リガンドのL1及びL2は式P(R11)3のホスフィンである)の固形錯体を添加後、式2又は2aのリガンドを添加して反応を続け、一般式1又は1aの化合物を得る。
【0025】
さらに好ましくは、中間体の製造方法であって、以下の工程、a)下記一般式3の化合物を式R1V(9)の試薬でアルキル化して下記式4の中間体を形成する工程、及びb)中間体4を下記式10のオレフィン化試薬と反応させて一般式2の化合物を得る工程を含む方法である。
【化21】

ここで、式2、3、4、9及び10のR1、R2、R3、R12、Z、m及びnは上記定義どおりであり、かつ
Wは、オレフィン化反応に適した脱離基であり;かつ
Vは、ハロゲン、-C1-6-アルキル-S(O)-O-、-C1-6-フルオロアルキル-S(O)-O-、アリール-S(O)-O-又はアリール-S(O)2-O-である。
【0026】
さらに好ましくは、上記工程a)を以下の条件で行う。
・非プロトン性溶媒、特にDMF、DMSO、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、グリコールエーテル、メタノール、エタノール又はこれらの混合物から選択される溶媒中、さらに詳しくはDMF中;又は
・相転移触媒で整えた二相性溶媒系中;又は
・触媒、特にCs2CO3、CsF、四級アンモニウム塩、クラウンエーテル又はクリプタンドから選択される触媒、さらに詳しくはCs2CO3の存在下;又は
・アルカリ金属の炭酸塩又は水酸化物、特にNa2CO3、K2CO3、Li2CO3、Cs2CO3、NaOH、KOH、LiOH、CsOHから選択される炭酸塩又は水酸化物の存在下;又は
・1〜24時間、特に8〜24時間、さらに詳しくは16〜24時間という時間;
・0〜150℃の温度、特に10〜100℃の温度、さらに詳しくは20〜80℃の温度で。
【0027】
化合物4から出発する場合、化合物2をテッベ(Tebbe)、ウィッティッヒ(Wittig)、ウィッティッヒ-ホルナー(Wittig-Horner)、ウィッティッヒ-ホルナー-エモンズ(Wittig-Horner-Emmons)又はピーターソン(Peterson)条件下で利用可能であるが、好ましくは、上記工程b)は以下の条件で行う。
・アルコール、グリコールエーテル又は環状エーテルから選択される溶媒、好ましくは、THF中;又は
・Wは、テッベのチタン試薬によるテッベのオレフィン化反応又はウィッティッヒのホスホニウムイリド試薬によるウィッティッヒのオレフィン化反応に適した脱離基、さらに詳しくはPPh3又はTiCp2(ここで、Phは置換又は無置換フェニルであり、Cpは置換又は無置換シクロペンタジエニル-陰イオンであり、反応後はその酸化形態で見られうる)から選択される脱離基である。
本発明の別の好ましい実施態様は、オレフィンを一般式1の触媒と接触させる工程を含む全タイプのメタセシス反応の方法であり、特に該メタセシス反応は閉環反応又は交差メタセシス反応である。
以下の実施例は本発明の種々の実施態様を説明するものであり、いかなる場合にも本発明を限定するものと解釈すべきでない。
【0028】
〔実施例1〕
a)4-メトキシ-ベンゼン-ホスホン酸-ジエチルエステルを文献Chem. Ber. (1970) 103, 2428-2436と同様に調製する。
b)4-メトキシ-ベンゼン-ホスホン酸-ジエチルエステル(1.3g,12.3mmole)、SOCl2(14.6g,123mmole)、及びDMF(0.9ml)をアルゴン下で4時間加熱還流させる。真空下で残存SOCl2を除去後、2.4gの粗製4-メトキシ-ベンゼン-ホスホン酸-ジクロライドを得る。
c)10.8gの4-ブロモ-クロロベンゼンを100mlのTHF中1.38gのマグネシウムと反応させてグリニャール試薬とする。結果混合物をアルゴン下で40分間かけて4-メトキシ-ベンゼンホスホン酸-ジクロライド(2.42g)とTHF(60ml)の冷却溶液(-78℃)に添加する。NH4Cl飽和溶液を加え、真空下で溶媒を除去する。残留物を100mlのCH2Cl2で処理し、シリカゲルでろ過して再び乾燥させる。生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル,4:2)で精製する。2.15gの純粋な4-メトキシフェニル-ビス(4-クロロフェニル)-ホスフィノキシドが得られる。
p:106-107℃。
d)4-メトキシフェニル-ビス(4-クロロフェニル)-ホスフィノキシド(1.84g,4.88mmole)及びCH2Cl2(30ml)を-78℃に冷却する。BBr3(1.84g,7,32mmole)を加え、結果混合物を室温で26時間撹拌する。H2O(30ml)を加え、80℃で撹拌しながらCH2Cl2を除去する。6時間後、混合物を冷却すると生成物が沈殿する。固形残留物をカラムクロマトグラフィー(メタノール/酢酸エチル/H2O,5:50:0.5)で精製する。1.26gの純粋な4-ヒドロキシフェニル-ビス(4-クロロフェニル)-ホスフィノキシドが得られる。
p:116-119℃。
【0029】
〔実施例2〕
a)K2CO3(298mg,2.2mmole)、Cs2CO3(104mg,0.32mmole)及び下記式8(R6'=p-Cl-フェニル,400mg,1.1mmole)をフラスコに入れる。DMF(5.5ml)を加え、混合物を約5分間撹拌する。その後、臭化アリル(190μl,2.2mmole)を加え、混合物をさらに24時間35℃で撹拌する。真空下DMFを蒸発させ、水(10ml)を加え、混合物を酢酸エチル(3×25ml)で抽出する。混ぜ合わせた抽出液を乾燥かつ蒸発乾固させる。440mg(99%)の粗製9(R6'=p-Cl-フェニル)が得られる。
【化22】

【0030】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 4.59 (dt, J = 5.4, J =1.5 Hz, 2H), 5.30-5.34 (m, 1H), 5.39-5.45 (m, 1H); 6.00-6.09 (m, 1H), 6.98-7.01 (m, 2H), 7.43-7.47 (m, 4H), 7.50-7.62 (m, 6H)。
b)1,2,4-トリクロロベンゼン(5ml)中の9(R6'=p-Cl-フェニル,400mg,1.0mmole)の溶液をアルゴン下200〜210℃で8時間加熱する。冷却後、n-ペンタン(約40ml)を加えて生じた明褐色固体をろ過して乾燥させる。337mgの下記式の粗製10(R6'=p-Cl-フェニル)が得られる。
【化23】

【0031】
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ = 3.30-3.32 (m, 2H) , 4.96-4.98 (m, 1H), 4.99-5.02 (m, 1H), 5.87-5.97 (m, 1H) 6.90-6.93 (m, 1H), 7.23-7.29 (m, 1H), 7.31-7.36 (m, 1H), 7.54-7.62 (m, 8H)
c)10(R6'=p-Cl-フェニル,300mg;0.75mmole)、RhCl3・3H2O(19mg,0.075mmole,10%mol)及びp-トルエンスルホン酸(14mg,0.075mmole,10% mol)をフラスコに入れる。EtOH(5ml)とH20(0.5ml)を加え、混合物をアルゴン下で5時間還流させる。暗赤色溶液が生じる。H2O(10ml)を加え、エタノールを蒸発させる。混合物をCH2Cl2(5×15ml)で抽出し、混ぜ合わせた抽出液を水洗し、乾燥させてろ過する。ろ液をエバポレートする。294mg(99%)の下記式11(R6'=p-Cl-フェニル)が得られる。
【化24】

【0032】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): 1.80 (dd, J = 6.6, J =1.6 Hz, 3H), 6.01-6.11 (m, 1H), 6.57 (d, J =16.0 Hz, 1H), 6.92-6.96 (m, 1H), 7.14-7.20 (m, 1H), 7.36-7.46 (m, 4H), 7.53-7.59 (m, 5H)
d)K2CO3(182mg,1.3mmole)、Cs2CO3(83mg,0.26mmole)、及び11(R6'=p-Cl-フェニル,270mg,0.67mmole)をフラスコに入れる。DMF(3.0ml)を加え、混合物を約5分間撹拌する。その後、ヨウ化イソプロピル(150μl,1.5mmole)を加え、混合物を22時間35℃で撹拌する。H2O(6ml)を加え、混合物を酢酸エチル(3×15ml)で抽出する。混ぜ合わせた抽出液を乾燥かつ蒸発乾固させせる。生成物をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/シクロヘキサン,1:1)で精製する。155mg(52%)の純粋な下記式12(R6'=p-Cl-フェニル)が得られる。
【化25】

【0033】
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 19.0, 21.9, 70.6, 112.8 (d, J = 13 Hz), 121.2, 122.3, 124.8, 128.0, 128.8 (d, J = 13 Hz), 130.3, 130.7, 131.7, 133.3 (d, J = 11 Hz), 138.6, 157.7
【0034】
〔実施例3〕
5mlのEt2O中のt-ブチルリチウム(0.8mmole)を-78℃の2mlのTHF中の下記式11'(0.4mmole,96.5mg)の溶液にゆっくり滴下する。15分後、10mlのTHF中のPO(R6')2(R6'=フェニル,0.8mmole,189.3mg)をゆっくり添加する。反応混合物を30分間-78℃で撹拌してから撹拌しながら3時間以内で室温に戻す。NH4Cl飽和水溶液(6ml)を加え、THFを除去し、残留物をCH2Cl2(3×10ml)で抽出する。混ぜ合わせた有機層を水洗し、無水MgSO4で乾燥させ、ろ過かつ濃縮する。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン中50%のEtOAc)で精製する。
【化26】

【0035】
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ= 22.0, 70.7, 112.8 (d, J = 13.4Hz), 115.6, 127.5 (d,. J = l1.8 Hz). 127.7 (d, J = 18.9Hz), 128.4 (d, J =19 Hz), 131.1。
【0036】
〔実施例4〕
a)5mlのEt2O中のt-ブチルリチウム(0.8mmole)を-78℃の2mlのTHF中の11'(0.4mmole,96.5mg)の溶液にゆっくり滴下する。15分後、10mlのTHF中の下記式13(0.8mmole,84.9mg)をゆっくり加える。反応混合物を30分間-78℃で撹拌してから撹拌しながら一晩で室温に戻す。NH4Cl飽和水溶液(6ml)を加え、THFを除去し、残留物をCH2Cl2(3×10ml)で抽出する。混ぜ合わせた有機層を水洗し、無水MgSO4で乾燥させ、ろ過かつ濃縮する。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン中5%のEtOAc)で精製する。
【化27】

13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ = 22.2, 71.0, 76.0, 114.1, 114.3, 125.0, 126.5, 127.0, 127.4, 127.8, 128.4, 131.9, 135.9, 143.9, 154.7。
b) 14(0.4mmole,0,1g)を15mlのCH2Cl2に溶かし、クロム酸ピリジニウム(0.48mmole,103.4mg)をゆっくり加え、結果混合物を室温で1時間撹拌した。溶媒を除去し、残留物をフラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン中5%のEtOAc)で精製した。
【化28】

【0037】
13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ = 22.1, 70.8, 112.2, 115.4, 127.3. 128.2. 129.3. 129.6, 129.7, 131.2, 131.6, 131.8. 138.3, 158.7, 195.6。
【0038】
〔実施例5〕
下記式の第二世代グラブ(Grubb)触媒16(Mes=メシチル,153mg,0.18mmole)とCuCl(31mg,0.31mmole)をシュロック(Schlock)のフラスコに入れる。アルゴン下でCH2Cl2(3ml)を加え、CH2Cl2(6ml)中の12(R6'=p-Cl-フェニル,86mg,0.19mmole;)を加える。溶液を40℃で40分間アルゴン下で撹拌する。CuCl(10mg)を加え、混合物を1時間撹拌する。その後、溶媒を蒸発させ、酢酸エチル(約20ml)を加え、固形残留物をろ過してろ液を真空下で濃縮する。生成物をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/シクロヘキサン,1:1)で精製する。下記式1bの生成物(R6'=p-Cl-フェニル,131mg,81%)が緑色固体として得られる。
【化29】

【0039】
LRMS (ESI,MeOH及びCH2Cl2):896.1(M+). HRMS (ESI,MeOH及びCH2Cl2):C43H45O2N2 35Cl3 102Ru (M+-Cl)の計算値:859.1322;実測値 859.1358。
【0040】
〔実施例6〕
a)1,2,4-トリクロロベンゼン(8ml)中の下記式17(500mg)の溶液を210℃で6時間加熱する。冷却後、ヘキサン(約80ml)を加え、12時間後に生じた固形生成物をろ過して乾燥させる。クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル,3:2)後、383mgの生成物18が得られる。
【化30】

【0041】
b)18(165mg;0.5mmole)、RhCl3・3H2O(13.1mg,0.05mmole,10%mol)及びp-トルエンスルホン酸(6.8mg,0.05mmole,10%mol)をフラスコに入れる。EtOH(4.5ml)とH2O(0.5ml)を加え、混合物を3時間還流させる。混合物を蒸発乾固させ、酢酸エチルを添加してから5gのシリカゲルを通じてろ過する。ろ液をエバポレートする。157mgの生成物19が得られる。
【化31】

【0042】
c)1,2,4-トリクロロベンゼン(7ml)中の19(440mg)の溶液を210℃で6時間加熱する。冷却後、ヘキサン(約80ml)を加え、12時間後に生じた固形生成物をろ過して乾燥させる。クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル,3:2)、258gの生成物20が得られる。mp:147-148℃
【化32】

【0043】
d)20(258mg;0.75mmole)、RhCl3・3H2O(19mg,0.075mmole,10%mol)及びp-トルエンスルホン酸(0.014g,0.075mmole,10%mol)をフラスコに入れる。EtOH(4.5ml)とH20(0.5ml)を加え、混合物を3時間還流させる。混合物を蒸発乾固させ、酢酸エチルを添加してから5gのシリカゲルを通じてろ過する。ろ液をエバポレートする。235mgの生成物21が得られる。
【化33】

【0044】
〔実施例7〕
下記式の第二世代グラブ触媒16(Mes=メシチル,140mg,0.166mmole)とCuCl(20mg,0.20mmole)をシュロックのフラスコに入れる。アルゴン下でCH2Cl2(4ml)を添加してからCH2Cl2(5ml)中の21(56mg,0.165mmole)の溶液を加える。溶液を40℃で50分間アルゴン下撹拌する。その後、溶媒を蒸発させ、酢酸エチル(約10ml)を加え、白色固体をろ過し、ろ液を真空下濃縮する。生成物をカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン中15%〜30%の酢酸エチル)で精製する。生成物1f(80mg,60%)が緑色固体として得られる。
【化34】

【0045】
〔実施例8〕
実施例1〜7で述べた方法と同様に、以下の式1c、1d、1e、1g及び1hの化合物が得られる。例えば、実施例5によれば、化合物12'は錯体1cのリガンドであり、化合物15は錯体1dのリガンドである。或いは実施例4及び5によって、ヘプタンを11'と反応させ、酸化して16と反応させて錯体1eが得られる。
【化35】

【0046】
〔実施例9〕
窒素で泡立てることによってトルエンを脱気し、下記式22を10mlの脱気トルエンに溶かして反応フラスコに加える。溶液を80℃まで加熱し、新たに調製した触媒1c〜1hを窒素下で加える(1回目)。同温度で60分間撹拌後、転化率をHPLCでチェックする。第2量の触媒1c〜1h(2回目)を窒素下で加え、60分後に2回目の転化率をHPLCでチェックする。図1は、22の環化速度を比較するグラフである。表1は、触媒1c〜1hを既知の下記式1iの触媒と比較したHPLC分析の結果を示す(Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 4038)。
【化36】

【0047】
【化37】





















【0048】
【表1】

【0049】
〔実施例10〕
23.5gのテトラキスヒドロキシメチルホスホニウムクロライド(80%,98.7mmole)を窒素雰囲気下でイソプロパノール(35ml)に溶かす。溶液を冷却しながら(温度20〜25℃)、12.1g(98.7mmole)の45% KOH溶液を5分以内で添加する。この懸濁液をさらに30分間窒素下で撹拌後、混合物をろ過し、無機残留物を20mlの脱気イソプロパノールで洗浄する。混ぜ合わせたイソプロパノール溶液は、使用するまで窒素雰囲気下で保管する。
60℃に冷却後、実施例13の反応混合物に2.3g(2.8mmole)のトリヒドロキシメチルホスフィン(THP)溶液を加える。5時間60℃で撹拌後、混合物を室温に冷まし、40mlの脱気水、40mlの0.5M HCl、40mlの0.5M NaHCO3溶液、及び40mlの水で2回抽出する。真空中(150mbar)50℃で約695mlのトルエンを蒸留し、残留物を50℃にて1.4gの木炭で処理する。210mlの予冷メチルシクロヘキサン(5℃)に残存液を加える。さらに60分間5℃で撹拌後、沈殿をろ過し、100mlのメチルシクロヘキサン(2回)で洗浄する。白色固体を30℃で真空乾燥させて23をほぼ白色の粉末として得る。
【0050】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のルテニウム触媒を用いた場合と、既知のルテニウム触媒1iを用いた場合の22の環化速度を比較するグラフである(実施例9参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式の化合物。
【化1】

(式中:
1及びX2は陰性リガンドであり;
1は中性リガンドであり;
1は-C1-20-アルキル、-C1-20-ハロアルキル、-C3-8-シクロアルキル又は-C7-13-アラルキルであり;
2はH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル、-C2-20-アルキニル又はアリールであり;
3は-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、アリール、F又はClであり;
nは0、1、2又は3であり;
Zは-CO-R4、-SO2-R5又は-PO(R6)2であり;
4は-C1-20-アルキル若しくは-C3-8-シクロアルキル(両方とも任意に、F、Cl、Br、I若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)、又はアリール若しくはヘテロアリール(両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;
5は-C1-8-フルオロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルケニル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、-C1-6-アルコキシカルボニル、-SO2-C1-6-アルキル又は-SO2-アリールからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;かつ
6は、それぞれ独立的に-C1-20-アルキル、-C3-8-シクロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、又は-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;或いは
4、R5及びR6は下記式1'の基:
【化2】

(式中:
1'及びX2'は陰性リガンドであり;
1'は中性リガンドであり;
1'は-C1-20-アルキル、-C1-20-ハロアルキル、-C3-8-シクロアルキル又は-C7-13-アラルキルであり;
2'はH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル、-C2-20-アルキニル又はアリールであり;
3'は-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、アリール、F又はClであり;かつ
n'は0、1、2又は3である)
である。)
【請求項2】
式中、
4が、-C1-20-アルキル若しくは-C3-8-シクロアルキル(両方とも任意に、F、Cl、Br、I若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)、又はアリール若しくはヘテロアリール(両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;
5が、-C1-8-フルオロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルケニル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、-C1-6-アルコキシカルボニル、-SO2-C1-6-アルキル、-SO2-アリール又は式1'の基からそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;かつ
6が、それぞれ独立的に-C1-20-アルキル、-C3-8-シクロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、又は-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)である、請求項1記載の式1の化合物。
【請求項3】
式中、
Zが-CO-R4又は-PO(R6)2であり;かつ
4とR6が式1'の基である、
請求項1記載の式1の化合物。
【請求項4】
式中、
1が-C1-6-アルキル、-C1-6-ハロアルキル、-C3-8-シクロアルキル又は-C7-13-アラルキルであり;
2がH、-C1-6-アルキル、-C2-6-アルケニル、-C2-6-アルキニル又はアリールであり;
3が-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、アリール、F又はClであり;
Zが-CO-R4、-SO2-R5又は-PO(R6)2であり;
4が、-C1-6-アルキル若しくは-C3-8-シクロアルキル(両方とも任意に、F、Cl、Br、I若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)、又はアリール若しくはヘテロアリール(両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3若しくは-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;
5が、-C1-8-フルオロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルケニル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、-C1-6-アルコキシカルボニル、-SO2-C1-6-アルキル又は-SO2-アリールからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;かつ
6が、それぞれ独立的に-C1-6-アルキル、-C3-8-シクロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、又は-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;或いは
4、R5及びR6が、それぞれ独立的に下記式1'の基:
【化3】

(式中:
1'及びX2'は陰性リガンドであり;
1'は中性リガンドであり;
1'は-C1-6-アルキル、-C1-6-ハロアルキル、-C3-8-シクロアルキル又は-C7-13-アラルキルであり;
2'はH、-C1-6-アルキル、-C2-6-アルケニル、-C2-6-アルキニル又はアリールであり;
3'は-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、アリール、F又はClであり;かつ
n'は0、1、2又は3である)
である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の式1の化合物。
【請求項5】
下記式1aの化合物。
【化4】

(式中、X1、X2、L1、R1、R2、R3、n及びZは、請求項1の定義どおりである。)
【請求項6】
式中、X1及びX2がそれぞれ独立的にF、Cl、Br又はIである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
式中、X1及びX2がClである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
式中、
Zが、-CO-R4、-SO2-R5又は-PO(R6)2であり;
4が、アリール又はヘテロアリール(両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3又は-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;
5が、アリール又はヘテロアリール(両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルケニル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、-C1-6-アルコキシカルボニル、-SO2-C1-6-アルキル、-SO2-アリール又は式1'の基からそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;かつ
6が、それぞれ独立的に-C1-6-アルキル、-C3-8-シクロアルキル、アリール又はヘテロアリール(アリール又はヘテロアリールは両方とも任意に、F、Cl、Br、I、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CN、-CF3、-OCF3、又は-C1-6-アルコキシカルボニルからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
式中、
Zが、-CO-R4、-SO2-R5又は-PO(R6)2であり;
4が、アリール(任意に、F、-C1-6-アルコキシ、-NO2又は-CFからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;
5が、アリール(任意に、F、-C1-6-アルコキシ、-NO2、-CF3、-SO2-C1-6-アルキル又は-SO2-アリールからそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)であり;かつ
6が、アリール(両方とも任意に、F、-C1-6-アルコキシ、-NO2又は-CF3からそれぞれ独立的に選択される1個以上の基で置換されていてもよい)である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
式中、nが0である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
式中、R1がイソ-プロピルである、請求項1記載の化合物。
【請求項12】
式中、R2がH又は-CH3である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項13】
式中、
1が、P(R11)3又は下記式6a、6b、6c若しくは6dのリガンドである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物。
【化5】

(式中、
11は、-C1-6-アルキル、-C3-8-シクロアルキル又はアリールであり;
7及びR8は、それぞれ独立的にH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル又はフェニル(該フェニルは、任意に、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ又はハロゲンから独立的に選択される3個までの基で置換されていてもよい)であり;
9及びR10は、それぞれ独立的にH、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル又はフェニル(該フェニルは、任意に、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ又はハロゲンから独立的に選択される3個までの基で置換されていてもよい)であり;或いは
9とR10が、それらが結合している炭素原子と一緒に結合して炭素環式の3〜8員環を形成しており;
Y及びY'がハロゲンである。)
【請求項14】
式中、
1が、P(R11)3又は下記式6a、6b、6c若しくは6dのリガンドである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の化合物。
【化6】

(式中、
11は、-C1-6-アルキル、-C3-8-シクロアルキル又はアリールであり;
7及びR8は、それぞれ独立的にH、-C1-6-アルキル、-C2-6-アルケニル又はフェニル(該フェニルは、任意に、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ又はハロゲンから独立的に選択される3個までの基で置換されていてもよい)であり;
9及びR10は、それぞれ独立的にH、-C1-6-アルキル、-C2-6-アルケニル又はフェニル(該フェニルは、任意に、-C1-6-アルキル、-C1-6-アルコキシ又はハロゲンから独立的に選択される3個までの基で置換されていてもよい)であり;或いは
9とR10が、それらが結合している炭素原子と一緒に結合して炭素環式の3〜8員環を形成しており;
Y及びY'がハロゲンである。)
【請求項15】
式中、
1が、式6a、6b、6c又は6dのリガンドであり;
7及びR8が、それぞれ独立的にトリル、m-キシリル又はメシチルであり;かつ
9及びR10が、それぞれ独立的にH又は-C1-6-アルキルである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項16】
式中、
1が、P(R11)3であり;かつ
11が、フェニル又はシクロヘキシルである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項17】
下記式1b〜1hから選択される化合物。
【化7】

【化8】

(式中、Mesはメシチル、Phはフェニル及びp-Cl-Phはパラ-クロロフェニルである。)
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の式1の化合物の製造方法であって、
下記式2の化合物:
【化9】

(式中、R1、R2、R3、n及びZは、請求項1の定義どおりであり;
12は-C1-4-アルキルであり;かつ
mは0、1又は2である)
を、下記式5のルテニウム錯体と反応させる工程を含む方法。
【化10】

(式中、
1、X2及びL1は、請求項1の定義どおりであり;
2は、中性リガンドであり(ここで、L2は、同時にL1と同じ基であってはならない);
13は、H、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル、-C2-20-アルキニル又はアリールであり;かつ
14は、アリール、ビニル又はアレニルである。)
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の式1aの化合物の製造方法であって、
下記式2aの化合物:
【化11】

(式中、
1、R2、R3、n及びZは、請求項5の定義どおりであり;
12は-C1-4-アルキルであり;かつ
mは0、1又は2である)
を、下記式5のルテニウム錯体と反応させる工程を含む方法。
【化12】

(式中、
1、X2及びL1は、請求項5の定義どおりであり;
2は、中性リガンドであり(ここで、L2は、同時にL1と同じ基であってはならない);
13は、H、-C1-20-アルキル、-C2-20-アルケニル、-C2-20-アルキニル又はアリールであり;かつ
14は、アリール、ビニル又はアレニルである。)
【請求項20】
メタセシス反応を行う方法であって、それぞれC=C二重結合を有するか又は一方の化合物が少なくとも2つのC=C二重結合を有する2種の化合物を、請求項1〜17のいずれか1項に記載の化合物である触媒と接触させる工程を含む方法。
【請求項21】
閉環メタセシス反応又は交差メタセシス反応を行う方法であって、ジアルケニル化合物を請求項1記載の化合物と接触させる工程を含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−534640(P2007−534640A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541877(P2006−541877)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013621
【国際公開番号】WO2005/053843
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】