説明

新規な抗IGF−IR抗体及びその使用

【課題】ヒトインスリン様成長因子I受容体IGF−IRと特異的に結合することができ、且つ/又はそのIGF−IRのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することができる新規な抗体の提供。
【解決手段】ヒトインスリン様成長因子I受容体IGF−IR特異的結合性マウスのモノクローナル抗体、並びにこれらの抗体をコードするアミノ酸配列及び核酸配列に関する。また、IGF−IRを過剰発現する癌又はその受容体の過剰発現に関連した病状の予防的処置及び/又は治療的処置を目的とした薬剤としての、並びにIGF−IRの過剰発現に関連した疾患の診断のための方法又はキットにおけるこれら抗体の使用を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトインスリン様成長因子I受容体IGF−IRと特異的に結合することができ、且つ/又はそのIGF−IRのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することができる新規な抗体、特にキメラマウス及びヒト化マウスのモノクローナル抗体、並びにこれらの抗体をコードするアミノ酸配列及び核酸配列に関する。本発明はまた、IGF−IRを過剰発現する癌又は当該受容体の過剰発現に関連した病状の予防的処置及び/又は治療的処置を目的とした薬剤としての、並びにIGF−IRの過剰発現に関連した疾患の診断のための方法又はキットにおける、これら抗体の使用を含む。最後に、本発明は、このような抗体と、抗EGFR抗体、及び/又は抗VEGF抗体、及び/又は腫瘍進行もしくは転移に関与する他の成長因子に対する抗体、及び/又は化合物、及び/又は抗癌剤、又は毒素と共役した物質とを組み合わせて含む、製品及び/又は組成物、並びに特定の癌の予防及び/又は治療のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
IGF−IRと呼ばれるインスリン様成長因子I受容体は、チロシンキナーゼ活性を有し、インスリン受容体IRと70%の相同性を有する、よく記載される受容体である。IGF−IRは、分子量が約350,000の糖タンパク質である。
【0003】
これは、ヘテロ四量体の受容体であり、その半分はそれぞれジスルフィド架橋によって結合しており、細胞外のα―サブユニット及び膜貫通型のβ−サブユニットからなっている。IGF−IRは、極めて高い親和性(Kd≒1nM)でIGF1及びIGF2と結合するが、インスリンとも同様に100〜1000分の1の親和性で結合することができる。逆に、IGFは100分の1の低い親和性でしかインスリン受容体と結合しないが、IRは極めて高い親和性によってインスリンと結合する。α−サブユニットに存在するシステインに富む領域とβ−サブユニットのC末端部分にそれぞれ相同性の低い区域があるが、IGF−IRのチロシンキナーゼドメインとIRのチロシンキナーゼドメインとは極めて高い配列相同性を有している。α−サブユニットに見られる配列の差異はリガンドの結合区域に存在するため、それはIGFとインスリンの各々に対するIGF−IRとIRの相対的親和性の基となっている。β−サブユニットのC末端部分における差異は、二つの受容体のシグナル伝達経路における相違をもたらす。IGF−IRは細胞分裂促進作用、分化作用及び抗アポトーシス作用に介在するが、一方、IRの活性化は主として代謝経路のレベルでの作用と関係している(Baserga et al., Biochim. Biophys. Acta, 1332: F105−126, 1997、 Baserga R., Exp. Cell. Res., 253: 1−6, 1999)。
【0004】
細胞質チロシンキナーゼタンパク質は、リガンドが受容体の細胞外ドメインに結合することによって活性化される。キナーゼの活性化によって、IRS−1、IRS−2、Shc及びGrb10をはじめとする、様々な細胞内基質の刺激が生じる(Peruzzi F. et al., J. Cancer Res. Clin. Oncol., 125: 166−173, 1999)。IGF−IRの二つの主要な基質はIRS及びShcであり、これらは数多くの下流のエフェクターの活性化によって、IGFのこの受容体への付着に関連した成長作用の大部分と分化作用とを仲介する。従って、基質の利用可能性がIGF−IRの活性化に関連した最終的な生物学的作用を決定することがある。IRS−1が多い場合には、細胞は増殖し、形質転換する傾向にある。Shcが多い場合には、細胞は分化する傾向にある(Valentinis B. et al., J. Biol. Chem. 274: 12423−12430, 1999)。アポトーシスに対する防御作用に主として関わる経路は、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−キナーゼ)経路であると考えられている(Prisco M. et al., Horm. Metab. Res., 31: 80−89, 1999、 Peruzzi F. et al., J. Cancer Res. Clin. Oncol., 125: 166−173, 1999)。
【0005】
発癌におけるIGF系の役割は、ここ10年で集中的な調査の対象となってきている。この関心は、IGF−IRが、その細胞分裂促進性及び抗アポトーシス性に加えて、形質転換された表現型の確立及び維持に必要であると考えられるという事実の発見を受けてのものである。実際に、IGF−IRの過剰発現又は構成的活性化が、幅広い種類の細胞において、ウシ胎児血清を含まない培地における補助に依存することなく細胞を成長させ、ヌードマウスにおいて腫瘍を形成させるということが十分に確立されている。成長因子の多数の受容体を含む、幅広い種類の過剰発現した遺伝子の産物が、細胞を形質転換し得るため、このこと自体は固有の特徴ではない。しかしながら、IGF−IRが形質転換において果たす主要な役割を明らかに立証した重要な発見は、IGF−IRをコードする遺伝子が不活性化されたR細胞が、ウシパピローマウイルスのE5タンパク質等の、通常は細胞を形質転換することができる様々な物質、EGFR又はPDGFRの過剰発現、SV40のT抗原、活性化したras、又はこれら最後の二つの因子の組合せによっては全く形質転換しないということを立証してきている(Sell C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 90: 11217−11221, 1993、 Sell C. et al., Mol. Cell. Biol., 14: 3604−3612, 1994、 Morrione A.J., Virol., 69: 5300−5303, 1995、 Coppola D. et al., Mol. Cell. Biol., 14: 4588−4595, 1994、 DeAngelis T. et al., J. Cell. Physiol., 164: 214−221,1995)。
【0006】
IGF−IRは、幅広い種類の腫瘍及び腫瘍株において発現し、IGFは、IGF−IRへの付着を介して腫瘍の成長を増幅する。IGF−IRの発癌における役割を支持するその他の論拠は、受容体に対するマウスモノクローナル抗体を用いた又はIGF−IRのドミナントネガティブを用いた研究から得られる。実際には、IGF−IRに対するマウスモノクローナル抗体は、数多くの細胞株の培養増殖及び腫瘍細胞のin vivoでの成長を阻害する(Arteaga C. et al., Cancer Res., 49: 6237−6241, 1989、 Li et al., Biochem. Biophys. Res. Com., 196: 92−98, 1993、 Zia F. et al., J. Cell. Biol., 24: 269−275, 1996、 Scotlandi K. et al., Cancer Res., 58: 4127−4131, 1998)。また、Jiangらの研究(Oncogene,18:6071−6077,1999)においても、IGF−IRのドミナントネガティブが腫瘍の増殖を阻害することができるということが示されている。
【0007】
癌の病理は、細胞の成長が制御されていないことを特徴とする。幾つかの癌においては、成長因子は、それらの受容体と特異的に結合した後、成長シグナル、形質転換シグナル及び/又は生存シグナルを腫瘍細胞に伝達する。腫瘍細胞表面での成長因子受容体の過剰発現は、広く記載されている(Salomon D. S. et al., Crit. Rev. Oncol. Hematol., 1995, 19: 183、 Burrow S. et al., J. Surg. Oncol., 1998, 69: 21、 Hakam A. et al., Hum. Pathol., 1999, 30: 1128、 Railo M. J. et al., Eur. J. Cancer, 1994, 30: 307、 Happerfield L. C. et al., J. Pathol., 1997, 183: 412)。この過剰発現、つまり異常な活性化は、細胞成長の調節機構を直接乱すものであり、古典的な化学療法や放射線治療によって誘導されるアポトーシスに対する細胞の感受性にも影響を与えることがある。
【0008】
この数年間、腫瘍細胞表面に過剰発現したEGFRやHer2/neu等の成長因子受容体を、それぞれヒト化(herceptin(登録商標))又はキメラ化した抗体(C225)によってターゲティングすると、患者における腫瘍成長が有意に阻害され、古典的な化学療法治療の有効性が有意に増大するということが示されている(Carter P., Nature Rev. Cancer, 2001, 1(2): 118、 Hortobagyi G. N., Semin. Oncol., 2001, 28: 43、 Herbst R. S. et al., Semin. Oncol., 2002, 29: 27)。IGF−IR又はVEGF−R等の他の受容体(血管内皮成長因子受容体)は、幾つかの前臨床試験において、標的の候補であると同定されている。
【0009】
より詳細には、IGF−IRは、チロシンキナーゼ受容体の一部である。これは、二つのアイソフォームA及びBの形で存在するインスリン受容体(IR)と高い相同性を示す。
【0010】
IRの配列、つまりアイソフォームA及びBの配列は、NCBI Genbankにそれぞれ寄託番号X02160及びM10051として登録されている。IRに関連する他のデータは、参照により本明細書に援用されるが、これらに限定されるものではない(Vinten et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 249−252、 Belfiore et al., 2002, The Journal of Biological Chemistry, 277: 39684−39695、 Dumesic et al., 2004, The Journal of Endocrinology & Metabolism, 89(7): 3561−3566)。
【0011】
IGF−IR及びIRは、ジスルフィド結合によって結合した二つの細胞外α−サブユニットと二つの膜貫通型β−サブユニットから成っている四量体の糖タンパク質である。リガンド結合部位を含む各α−サブユニットは約130〜135kDaであり、一方、チロシンキナーゼドメインを含む各β−サブユニットは約90〜95kDaである。これらの受容体は、アミノ酸配列全体では50%を超える類似性があり、チロシンキナーゼドメインでは84%の類似性がある。リガンドが結合すると、リン酸化された受容体は、インスリン受容体基質1タンパク質ファミリー(IRS1)、Gab1及びShcをはじめとするドッキングタンパク質を動員し、それらをリン酸化し(Avruch, 1998, Mol. Cell. Biochem., 182, 31−48、 Roth et al.,1988, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 53, 537−543、 White, 1998, Mol. Cell. Biochem., 182, 3−11、 Laviola et al., 1997, J.Clin. Invest. 99, 830−837、 Cheatham et al., 1995, Endocr. Rev. 16, 117−142)、様々な細胞内メディエーターを活性化する。IRとIGF−IRはいずれも同様に主要なシグナル伝達経路を活性化するが、双方の受容体の間では、特定のドッキングタンパク質の動員及び細胞内メディエーターに差異が存在する(Sasaoka et al., 1996, Endocrinology 137, 4427−4434、 Nakae et al., 2001, Endocr. Rev. 22, 818−835、 Dupont and Le Roith 2001, Horm. Res. 55, Suppl. 2, 22−26、 Koval et al., 1998, Biochem. J. 330, 923−932)。これらの差異は、IRの活性化により代謝作用が主に誘発されること、そしてIGF−IRの活性化により細胞分裂促進作用、形質転換作用及び抗アポトーシス作用が主に誘発されることの基となっている(De Meyts et al., 1995, Ann. N. Y. Acad. Sci., 766, 388−401、 Singh et al., 2000, Prisco et al., 1999, Horm. Metab. Res. 31, 80−89、 Kido et al., 2001, J. Clin. Endocrinol. Metab., 86, 972−979)。インスリンが高い親和性でIRと結合する(IGF−IRよりも100倍高い)一方で、インスリン様成長因子(IGF1及びIGF2)は、IRよりも100倍高い親和性でIGF−IRと結合する。
【0012】
ヒトIRは、二つのアイソフォームIR−A及びIR−Bの形で存在し、これらは、IRのα−サブユニットのカルボキシ末端の小さいエクソン(エクソン11)にコードされる12個のアミノ酸残基を除外するか又は含ませる、IR遺伝子の選択的スプライシングによって生じる。IRアイソフォームの相対存在量は、組織特異的な未知の因子により調節される(Moller et al., 1989, Mol. Endocrinol., 3, 1263−1269、 Mosthaf et al., 1990, EMBO J., 9, 2409−2413)。IR−Bは、インスリンの代謝作用の主要な標的組織である正常な成人組織(脂肪組織、肝臓及び筋肉)における主なIRアイソフォームである(Moller et al., 1989、 Mosthaf et al., 1990)。IR−Aは、胎児組織における主なアイソフォームであり、IGF2に応じて胎児の成長を仲介し(Frasca et al., 1999, Mol. Cell. Biol., 19, 3278−3288)、このことはトランスジェニックマウスにおいて実施された遺伝的研究によっても示唆された(DeChiara et al., 1990, Nature 345, 78−80、 Louvi et al., 1997, Dev. Biol. 189, 33−48)。さらに、細胞が形質転換して悪性になる場合、脱分化はIR−Aの相対存在量の増加と関連することが多い(Pandini et al., 2002, The Journal of Biological Chemistry, Vol. 277, No.42, pp39684−39695)。
【0013】
相同性が高いことを考慮すると、インスリン及び半IGF−I受容体(一つのα−サブユニットと一つのβ−サブユニットから成る)はヘテロ二量体化し、インスリン/IGF−Iハイブリッド受容体(ハイブリッド−R)を形成することができる(Soos et al., 1990, Biochem J., 270, 383−390、 Kasuya et al., 1993, Biochemistry 32, 13531−13536、 Seely et al., 1995, Endocrinology 136, 1635−1641、 Bailyes et al., 1997, Biochem J. 327, 209−215)。
【0014】
IRアイソフォームの双方は、同様にIGF−IRとハイブリッドを形成することができる。しかしながら、ハイブリッド−Rは、異なる機能的特徴を有する。ハイブリッド−RsBは、IGF1と、特にIGF2に対する親和性が低い。一方、ハイブリッド−RsAは、IGF1に対する親和性が高く、生理的濃度の範囲でIGF2及びインスリンと結合する。ハイブリッド−RsAの発現は、二つの異なる機構、つまり、i)IGF1とIGF2の両方による(高い親和性での)結合及び活性化(これらはハイブリッド−RsBでは起こらない)、並びに、ii)インスリンの結合によるIGF−IR経路の活性化によって、IGF系をアップレギュレートする。インスリンがハイブリッド−RsAに結合すると、IGF−IRのβ−サブユニットがリン酸化されIGF−IRに特異的な基質(CrkII)が活性化し、それによりハイブリッド−RsAがインスリンをIGF−IRシグナル伝達に移行させる(Pandini et al., 2002)。
【0015】
肝臓、脾臓又は胎盤等の幾つかの組織において、ハイブリッド−RはIGF−IRよりも多く見られる(Bailyes et al., 1997)。腫瘍細胞が過剰発現するか、又は異常な活性化を示すと、IGF−IR及びIR−Aの双方(Frasca et al., 1999、 Sciacca et al., 1999, Oncogene 18, 2471−2479、 Vella et al., 2001, Mol. Pathol., 54, 121−124)、そしてハイブリッド−RsAは、甲状腺癌や乳癌をはじめとする様々なヒト悪性腫瘍において過剰発現し、IGF1及び/又はIGF2による刺激だけでなく生理的濃度のインスリンによる刺激にも従うIGF−IR型のシグナル伝達によって応答することが可能な悪性細胞に、選択的増殖優位性を付与する可能性がある。(Bailyes et al., 1997、 Pandini et al., 1999, Clin. Cancer Res., 5, 1935−1944、 Belfiore et al., 1999, Biochimie (Paris) 81, 403−407、 Frasca et al., 1999, Sciacca et al., 1999、 Vella et al., 2001)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】MCF−7モデルにおける抗IGF−1R抗体のin vitroでの評価を示す図である。
【図2】DU145での抗IGF−1R抗体のin vivoでの評価を示す図である。
【図3】DU145での抗IGF−1R抗体のin vivoでの評価を示す図である。
【図4】IGF−IRを発現する無傷細胞での[125I]−IGF−1の排除を示す図である。
【図5】イムノキャプチャーしたHR−Aでの[125I]−IGF−1の排除を示す図である。
【図6】イムノキャプチャーしたHR−Bでの[125I]−IGF−1の排除を示す図である。
【図7】IR−Aを発現する無傷細胞での[125I]−INSの排除を示す図である。
【図8】IR−Bを発現する無傷細胞での[125I]−INSの排除を示す図である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
二つの受容体を同時にブロックすることができるこのような「治療手段」の実現は、同一の腫瘍におけるIGF−IR及びハイブリッド−Rの発現又は異常な活性化が介在するエスケープ現象を回避させることができるので、特に関心が持たれている。
【0018】
IGF−IR、そしてより詳細には、IGF−IRに結合できる、つまりIGF−IRのチロシンキナーゼ活性を阻害することができるモノクローナル抗体に対して深まる興味に関して、出願人らは、7C10又はh7C10(コード番号:F50035)と呼ばれるヒト化モノクローナル抗体を既に開発し、特性を明らかにしている。この抗体とその使用に関する国際特許出願PCT/FR03/00178号が出願され、国際公開第03/059951号パンフレットとして2003年7月24日に公開されている。この特許出願の内容は、参照により本明細書に援用される。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、IGF−IRを高い親和性で特異的に認識することができる、利用可能な他のマウスモノクローナル抗体、好ましくはキメラ化抗体又はヒト化抗体を得ることを可能にすることである。これらの抗体は、IRとほとんど又は全く相互作用しない。これらが付着すると、IGF1/IGF−IR相互作用及びIGF2/IGF−IR相互作用により活性化されたシグナル伝達経路と主に相互作用することによって、IGF−IRを発現する腫瘍の成長をin vitroで阻害することができる。これらの抗体は、胸部のエストロゲン依存性腫瘍及び前立腺の腫瘍をはじめとするIGF−IRを発現する全てのタイプの腫瘍に対してin vivoで活性であることが可能である。
【0020】
本発明はまた、ハイブリッド−R及びIGF−IRと結合することができ、またIGF1、IGF2又はインスリンによるそれらの活性化をブロックすることもできる、高親和性の化合物、より詳細には抗体を作製することによって、ハイブリッド−R及びIGF−IR活性を共にブロックすることを可能にする。
【0021】
また、本発明は、本発明による単離された抗体又はその断片の使用に関し、当該抗体又は断片は、i)ヒトIGF−IRと結合すること、並びに/又はその天然リガンド、好ましくはIGF1及び/もしくはIGF2の結合を阻害すること、並びに/又は上記IGF−IRのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することが可能であり、且つ/又は、ii)ハイブリッド−Rと結合すること、並びに/又はその天然リガンド、好ましくはIGF1、IGF2及び/もしくはインスリンの結合を阻害すること、並びに/又は上記ハイブリッド−Rのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することが可能である。
【0022】
別の好ましい実施形態によると、上記抗体は、癌の治療、より詳細には乳癌の治療のために使用される。
【0023】
実際に、乳房腫瘍細胞の表面には、IGF−IRだけでなく、多数のインスリン受容体が、そして結果として多数のハイブリッド−Rが特異的に見られることが知られている(Frasca et al., 1999、 Sciacca et al.,1999、 Vella et al., 2001)。
【0024】
より詳細には、本発明は4つの異なる抗IGF−IRモノクローナル抗体に関する。
【0025】
第一の態様において、本発明の主題は、ヒトインスリン様成長因子I受容体に特異的に結合することができ、必要に応じて、好ましくはさらに、IGF−IRのリガンドであるIGF1及び/もしくはIGF2による本来の付着を阻害することができ、且つ/又は前記IGF−IRのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することができる、単離された抗体又はその機能的断片の一つであり、これは、配列番号1、2及び3のアミノ酸配列である相補性決定領域CDRから選択される少なくとも一つのCDR、又は最適なアラインメントの後に配列番号1、2及び3の配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%及び98%の相同性を有する配列である少なくとも一つのCDRを含む軽鎖を含むか、或いは、配列番号4、5及び6のアミノ酸配列であるCDRから選択される少なくとも一つのCDR、又は最適なアラインメントの後に配列番号4、5及び6の配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%及び98%の相同性を有する配列である少なくとも一つのCDRを含む重鎖を含むことを特徴とする。
【0026】
本明細書及び対応する実施例において、この抗体を13F5と称する。
【0027】
本明細書において、「結合すること」と「付着すること」とは同じ意味を有し、互換的に用いられる。
【0028】
本明細書において、抗体化合物又はそれらの配列に付着するポリペプチド、ポリペプチド配列、ペプチド、及びタンパク質という用語は、互換的に用いられる。
【0029】
ここで、本発明が本来の形態の抗体に関するものではないこと、すなわち、それらの本来の環境にはないが、天然の材料からの精製によって単離すること又は得ることができ、或いは遺伝子組換え又は化学合成によって得ることができ、その結果、以下に記載される非天然アミノ酸を含み得るということを理解されたい。
【0030】
CDR領域又はCDRとは、Kabatらによって定義された免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の超可変領域を意味するものである(Kabat et al., Sequences of proteins of immunological interest, 5th Ed., U.S. Department of Health and Human Services, NIH, 1991、及び以降の版)。3つの重鎖CDR及び3つの軽鎖CDRが存在する。CDRという用語は、本明細書において、場合によって、抗体とそれが認識する抗原又はエピトープとの親和性による結合を担うアミノ酸残基の大部分を含むこれらの領域の一つ又はいくつか、或いはこれらの領域の全てを示すために用いられる。
【0031】
本発明に関して、二つの核酸配列間又はアミノ酸配列間の「同一性の割合」とは、比較される二つの配列間の、最良のアラインメント(最適なアラインメント)の後に得られる、同一ヌクレオチドの割合又は同一アミノ酸残基の割合を示すものであり、この割合は純粋に統計的であり、二つの配列間の差異はランダムに、且つそれらの全長にわたって分布している。二つの核酸配列間又はアミノ酸配列間の配列の比較は、従来どおりに、それらを最適な方法でアラインした後にこれらの配列を比較することによって実施され、この比較は、セグメント又は「比較ウィンドウ」ごとに実施することができる。比較のための配列の最適なアラインメントは、手動に加え、Smith及びWaterman(1981)の局所的相同性アルゴリズム[Ad.App.Math.2:482]によって、Neddleman及びWunsch(1970)の局所的相同性アルゴリズム[J.Mol.Biol.48:443]によって、Pearson及びLipman(1988)の類似性検索方法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444]によって、これらのアルゴリズムを用いるコンピュータソフトウェア(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、FASTA(Genetics Computer Group、575 Science Dr., Madison, WI)、及びTFASTA、又はBLASTNもしくはBLASTP比較ソフトウェア)によって、実施することができる。
【0032】
二つの核酸配列間又はアミノ酸配列間の同一性の割合は、最適な方法でアラインしたこれらの二つの配列を比較することにより決定されるが、ここで、これら二つの配列間の最適なアラインメントのための参照配列に対して、比較される核酸配列又はアミノ酸配列は付加又は欠失を有する場合がある。同一性の割合は、二つの配列間でヌクレオチド又はアミノ酸残基が同一である同一位置の数を求め、この同一位置の数を比較ウィンドウの全位置数で除し、得られた結果に100を乗じて、これらの二つの配列間の同一性の割合を得る。
【0033】
例えば、サイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/gorf/bl2.htmlで入手可能なBLASTプログラムである「BLAST 2 sequences」(Tatusova et al., “Blast 2 sequences − a new tool for comparing protein and nucleotide sequences”, FEMS Microbiol Lett. 174: 247−250)を使用することが可能であり、使用するパラメーターはデフォルトで与えられるものであり(特に「ギャップ開始ペナルティー」パラメーターについては5、そして「ギャップ伸長ペナルティー」パラメーターについては2、選択されるマトリックスは、例えば、プログラムによって提示されるマトリックス「BLOSUM62」である)、比較する二つの配列間の同一性の割合はプログラムによって直接算出される。
【0034】
参照アミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%及び98%の同一性を有するアミノ酸配列は、参照配列に対してある種の改変、特に、少なくとも一つのアミノ酸の欠失、付加、又は置換、トランケーションもしくは延長を有するものが好ましい。一つ又は複数の連続した又は不連続なアミノ酸の置換の場合、置換されるアミノ酸が「等価な」アミノ酸に置き換えられる置換が好ましい。「等価なアミノ酸」という表現は、本明細書において、基本構造のアミノ酸の一つと置換することができるが対応する抗体の生物活性を本質的には変化させない、後に特に実施例にて規定するようなアミノ酸を示すものである。これらの等価なアミノ酸は、それらが置き換わるアミノ酸との構造類似性、又は実施可能な異なる抗体間での生物活性の比較試験の結果のいずれかに応じて決定することができる。
【0035】
一例として、改変された対応する抗体の生物活性に著しい改変をもたらすことなく実施することができる置換の候補を挙げる。例えば、ロイシンをバリン又はイソロイシンに、アスパラギン酸をグルタミン酸に、グルタミンをアスパラギンに、アルギニンをリジンに置き換えることができ、当然ながら、逆の置換も同じ条件下で考えられる。
【0036】
第二の態様において、本発明の主題は、ヒトインスリン様成長因子I受容体に特異的に結合することができ、必要に応じて、好ましくはさらに、IGF−IRのリガンドであるIGF1及び/又はIGF2による本来の付着を阻害することができ、且つ/又は上記IGF−IRのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することができる、単離された抗体又はその機能的断片の一つであり、これは、配列番号7、8及び9のアミノ酸配列である相補性決定領域CDRから選択される少なくとも一つのCDR、又は、最適なアラインメントの後に配列番号7、8及び9の配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%及び98%の相同性を有する配列である少なくとも一つのCDRを含む軽鎖を含むか、或いは、配列番号10、11及び12のアミノ酸配列であるCDRから選択される少なくとも一つのCDR、又は、最適なアラインメントの後に配列番号10、11及び12の配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%及び98%の相同性を有する配列である少なくとも一つのCDRを含む重鎖を含むことを特徴とする。
【0037】
以下、明細書において、この抗体を12D5と称する。
【0038】
第三の態様において、本発明の主題は、ヒトインスリン様成長因子I受容体に特異的に結合することができ、必要に応じて、好ましくはさらに、IGF−IRのリガンドであるIGF1及び/又はIGF2による本来の付着を阻害することができ、且つ/又は上記IGF−IRのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することができる、単離された抗体又はその機能的断片の一つであり、これは、配列番号13、14及び15のアミノ酸配列である相補性決定領域CDRから選択される少なくとも一つのCDR、又は、最適なアラインメントの後に配列番号13、14及び15の配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%及び98%の相同性を有する配列である少なくとも一つのCDRを含む軽鎖を含むか、或いは、配列番号16、17及び18のアミノ酸配列であるCDRから選択される少なくとも一つのCDR、又は、最適なアラインメントの後に配列番号16、17及び18の配列と少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%及び98%の相同性を有する配列である少なくとも一つのCDRを含む重鎖を含むことを特徴とする。
【0039】
以下、明細書において、この抗体を2D10と称する。
【0040】
最後に、さらに別の態様において、本発明の主題は、ヒトインスリン様成長因子I受容体に特異的に結合することができ、必要に応じて、好ましくはさらに、IGF−IRのリガンドであるIGF1及び/又はIGF2による本来の付着を阻害することができ、且つ/又は上記IGF−IRのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することができる、単離された抗体又はその機能的断片の一つであり、これは、21E3と呼ばれる抗体を構成し、後述されるようにCNCMに登録されていることを特徴とする。
【0041】
本発明による抗体、すなわち13F5、12D5、2D10及び21E3は、好ましくは特異的モノクローナル抗体、特に、マウス由来のモノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体又はヒト化モノクローナル抗体であり、これらは当業者に既知の標準的方法によって得ることができる。
【0042】
一般に、モノクローナル抗体又はその機能的断片、特にマウス由来のものの調製については、特にマニュアル“Antibodies”(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor NY, pp. 726, 1988)に記載されている技術、又はKohler及びMilstein(Nature,256:495−497,1975)によって記載されたハイブリドーマからの調製技術を参照することができる。
【0043】
本発明によるモノクローナル抗体は、例えば、本発明による上記モノクローナル抗体が特異的に認識するエピトープを含むIGF−IR又はその断片の一つに対して免疫された動物細胞から得ることができる。上記IGF−IR又はその断片の一つは、特に、IGF−IRをコードするcDNA配列に含まれる核酸配列で開始される遺伝子組換えによる、又はIGF−IRのペプチド配列に含まれるアミノ酸配列から開始されるペプチド合成による、一般的な操作方法に従って産生することができる。
【0044】
本発明によるモノクローナル抗体は、例えば、前記本発明によるモノクローナル抗体が特異的に認識するエピトープを含むIGF−IR又はその断片の一つが予め固定化されているアフィニティーカラムで精製することができる。より詳細には、前記モノクローナル抗体の精製においては、プロテインA及び/又はプロテインGでのクロマトグラフィーを行い、その後、残ったタンパク質夾雑物並びにDNA及びLPSを除去することを目的としたイオン交換クロマトグラフィーを行っても行わなくても良く、さらにその後、二量体又はその他の多量体の存在に起因する可能性のある会合体を除去するためのセファロースゲルでの排除クロマトグラフィーを行っても行わなくても良い。さらに好ましい方法では、これらの技術全てを同時に又は連続的に用いることができる。
【0045】
キメラ抗体又はヒト化抗体もまた、本発明の抗体に含まれる。
【0046】
キメラ抗体とは、所与の種の抗体に由来する天然の可変(軽鎖及び重鎖)領域と、 前記所与の種とは異なる種の抗体の軽鎖及び重鎖の定常領域とを組み合わせて含む抗体を示すものである。
【0047】
本発明によるキメラタイプの抗体又はその断片は、遺伝子組換え技術を用いて調製することができる。例えば、キメラ抗体は、プロモーター、及び本発明によるヒト以外の、特にマウスのモノクローナル抗体の可変領域をコードする配列、及びヒト抗体の定常領域をコードする配列を含む組換えDNAをクローニングすることによって作製することができる。このような組換え遺伝子によってコードされる本発明によるキメラ抗体は、例えば、マウス−ヒトキメラであり、この抗体の特異性はマウスDNA由来の可変領域によって決定され、そのアイソタイプは、ヒトDNA由来の定常領域によって決定される。キメラ抗体の調製方法については、例えば、Verhoeynらの文献(BioEssays,8:74,1988)を参照することができる。
【0048】
ヒト化抗体とは、ヒト以外の抗体に由来するCDR領域を含み、抗体分子の他の部分が一つの(又はいくつかの)ヒト抗体に由来する抗体を示すものである。さらに、骨格(FRと呼ばれる)のセグメントの残基のいくつかは、結合親和性を維持するよう改変されていてもよい(Jones et al., Nature, 321: 522−525, 1986、 Verhoeyen et al., Science, 239: 1534−1536, 1988、 Riechmann et al., Nature, 332: 323−327, 1988)。
【0049】
本発明によるヒト化抗体又はその断片は、当業者に既知の技術(例えば、文献、Singer et al., J. Immun. 150: 2844−2857, 1992、 Mountain et al., Biotechnol. Genet. Eng. Rev., 10: 1−142, 1992、 又はBebbington et al., Bio/Technology, 10: 169−175, 1992に記載されている技術)によって調製することができる。このような本発明によるヒト化抗体は、in vitroでの診断方法又はin vivoでの予防的処置及び/又は治療的処置での使用に好適である。
【0050】
本発明による抗体の機能的断片とは、特に抗体断片、例えば、Fv、scFv(scは一本鎖の意味)、Fab、F(ab’)、Fab’、scFv−Fc断片もしくは最小の二重特異性抗体、又はポリ(エチレン)グリコール等のポリ(アルキレン)グリコールの付加(「ペグ化」)等の化学修飾によって半減期が伸びたあらゆる断片(Fv−PEG、scFv−PEG、Fab−PEG、F(ab’)−PEG、又はFab’−PEGと呼ばれる、ペグ化した断片)(「PEG」はポリ(エチレン)グリコールを意味する)もしくはリポソームへの組み込みによって半減期が伸びたあらゆる断片を示すものであり、前記断片は、本発明による配列番号1〜6、7〜12又は13〜18の配列である特徴的なCDRの少なくとも一つを有し、特に、それが由来する抗体の部分活性、例えば、特に、IGF−IRを認識し、それに結合し、必要に応じてIGF−IRの活性を阻害する能力さえも通常に発揮し得る。
【0051】
好ましくは、上記機能的断片は、それらが由来する抗体の重鎖又は軽鎖の可変領域の部分配列から構成されるか、又はそれを含んでおり、前記部分配列は、それが由来する抗体と同じ結合特異性、そして十分な親和性、好ましくは、IGF−IRに対する、それが由来する抗体の親和性の少なくとも1/100と同等、より好ましくは少なくとも1/10の親和性を保持するのに十分なものである。このような機能的断片は、それが由来する抗体の配列のアミノ酸を最低でも5個含み、好ましくは、10、15、25、50及び100個の連続したアミノ酸を含む。
【0052】
好ましくは、これらの機能的断片は、それらが由来する抗体と同じ結合特異性を一般に有する、Fv、scFv、Fab、F(ab’)、F(ab’)、scFv−Fcタイプの断片又は最小の二重特異性抗体である。本発明によれば、本発明の抗体断片は、上記のような抗体から、ペプシンもしくはパパイン等の酵素による消化等の方法によって、及び/又は化学的還元によるジスルフィド架橋の切断によって得ることができる。別の手法では、本発明に包含される抗体断片を、同様に当業者に既知である遺伝子組換え技術によって、或いは、例えば、Applied Biosystems等の会社から提供されるもののような自動ペプチド合成装置を用いたペプチド合成によって得ることができる。
【0053】
より詳細には、本発明は、遺伝子組換え又は化学合成によって得られる本発明による抗体又はその機能的断片、特にキメラ抗体又はヒト化抗体を包含する。
【0054】
第一のアプローチにより、抗体をその重鎖の配列によって定義する。
【0055】
第一の好ましい方法では、本発明は、本発明による抗体又はその機能的断片の一つに関し、これは、配列番号4〜6の配列である三つのCDRのうちの少なくとも二つ、もしくは三つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号4〜6の配列と少なくとも80%の同一性をそれぞれ有する配列である三つのCDRのうちの少なくとも二つ、もしくは三つのCDRを含む重鎖を含むことを特徴とする。
【0056】
第二の好ましい方法では、本発明は、本発明による抗体又はその機能的断片の一つに関し、これは、配列番号10〜12の配列である三つのCDRのうちの少なくとも二つ、もしくは三つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号10〜12の配列と少なくとも80%の同一性をそれぞれ有する配列である三つのCDRのうちの少なくとも二つ、もしくは三つのCDRを含む重鎖を含むことを特徴とする。
【0057】
第三の好ましい方法では、本発明は、本発明による抗体又はその機能的断片の一つに関し、これは、配列番号16〜18の配列である三つのCDRのうちの少なくとも二つ、もしくは三つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号16〜18の配列と少なくとも80%の同一性をそれぞれ有する配列である三つのCDRのうちの少なくとも二つ、もしくは3つのCDRを含む重鎖を含むことを特徴とする。
【0058】
第二のアプローチにより、抗体をその軽鎖の配列によって定義する。
【0059】
同様に好ましい第一の実施形態において、本発明による抗体又はその機能的断片の一つは、配列番号1〜3の配列であるCDRから選択される少なくとも一つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号1〜3の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であるCDRを含む軽鎖を含むことを特徴とする。
【0060】
第二の実施形態において、本発明による抗体又はその機能的断片の一つは、配列番号7〜9の配列であるCDRから選択される少なくとも一つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号7〜9の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であるCDRを含む軽鎖を含むことを特徴とする。
【0061】
第三の実施形態において、本発明による抗体又はその機能的断片の一つは、配列番号13〜15の配列であるCDRから選択される少なくとも一つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号13〜15の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列であるCDRを含む軽鎖を含むことを特徴とする。
【0062】
第三のアプローチにより、抗体をその軽鎖の配列及び重鎖の配列の双方によって定義する。
【0063】
第一の好ましい方法においては、本発明による抗体又はその機能的断片の一つは、配列番号4〜6の配列である三つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号4〜6の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である三つのCDRを含む重鎖を含むこと、そして、配列番号1〜3の配列である三つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号1〜3の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である三つのCDRを含む軽鎖をさらに含むことを特徴とする。
【0064】
第二の好ましい方法においては、本発明による抗体又はその機能的断片の一つは、配列番号10〜12の配列である三つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号10〜12の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である三つのCDRを含む重鎖を含むこと、そして、配列番号7〜9の配列である三つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号7〜9の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である三つのCDRを含む軽鎖をさらに含むことを特徴とする。
【0065】
第三の好ましい方法においては、本発明による抗体又はその機能的断片の一つは、配列番号16〜18の配列である三つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号16〜18の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である三つのCDRを含む重鎖を含むこと、そして、配列番号13〜15の配列である三つのCDR、又は最適なアライメントの後に配列番号13〜15の配列と少なくとも80%の同一性を有する配列である三つのCDRを含む軽鎖をさらに含むことを特徴とする。
【0066】
さらに別の好ましい実施形態においては、本発明による13F5と呼ばれる抗体又はその機能的断片の一つは、配列番号20のアミノ酸配列を含む配列である重鎖を含むこと、そして配列番号19のアミノ酸配列を含む配列である軽鎖をさらに含むことを特徴とする。
【0067】
さらに別の好ましい実施形態においては、本発明による12D5と呼ばれる抗体又はその機能的断片の一つは、配列番号22又は23のアミノ酸配列を含む配列である重鎖を含むこと、そして配列番号21のアミノ酸配列を含む配列である軽鎖をさらに含むことを特徴とする。
【0068】
さらに別の好ましい実施形態においては、本発明による2D10と呼ばれる抗体又はその機能的断片の一つは、配列番号25のアミノ酸配列を含む配列である重鎖を含むこと、そして配列番号24のアミノ酸配列を含む配列である軽鎖をさらに含むことを特徴とする。
【0069】
別の可能性、すなわち本発明の一部は、重鎖の三つのCDRがそれぞれ13F5、12D5及び2D10のCDRから成る群において無作為に選択され、軽鎖の三つのCDRがそれぞれ13F5、12D5及び2D10のCDRから成る群において無作為に選択される抗体である。
【0070】
別の態様によれば、本発明の主題は、ヒトインスリン受容体IRに付着しないか、又はヒトインスリン受容体IRに有効に付着しないことを特徴とする、本発明による抗体又はその機能的断片の一つである。
【0071】
好ましい方法においては、本発明による上記機能的断片は、Fv、scFv、Fab、(Fab’)、Fab’、scFv−Fc断片、もしくは最小の二重特異性抗体、又は、化学修飾、特にペグ化あるいはリポソームへの組み込みによって半減期が伸びたあらゆる機能的断片から選択される。
【0072】
別の態様によれば、本発明は、本発明によるモノクローナル抗体を分泌することができるマウスハイブリドーマ、特に、国立微生物培養物センター(CNCM、National Center of Microorganism Culture)(フランス、パリ、パスツール研究所)に寄託されたもののようなマウス由来のハイブリドーマに関する。
【0073】
本明細書において13F5と呼ばれる、CNCMに番号CNCM I−3193で2004年3月25日に寄託されたハイブリドーマによって分泌されることを特徴とするモノクローナル抗体、又はその機能的断片の一つは、当然ながら本発明の一部である。このハイブリドーマは、免疫されたマウス脾細胞と骨髄腫細胞株(Sp20 A
g14)との細胞融合を生じさせるマウスハイブリドーマである。
【0074】
本明細書において12D5と呼ばれる、CNCMに番号CNCM I−3195で2004年4月8日に寄託されたハイブリドーマによって分泌されることを特徴とするモノクローナル抗体、又はその機能的断片の一つは、当然ながら本発明の一部である。このハイブリドーマは、免疫されたマウス脾細胞と骨髄腫細胞株(Sp20 Ag14)との細胞融合を生じさせるマウスハイブリドーマである。
【0075】
本明細書において2D10と呼ばれる、CNCMに番号I−3214で2004年5月13日に寄託されたハイブリドーマによって分泌されることを特徴とするモノクローナル抗体、又はその機能的断片の一つは、当然ながら本発明の一部である。このハイブリドーマも、免疫されたマウス脾細胞と骨髄腫細胞株(Sp20 Ag14)との細胞融合を生じさせるマウスハイブリドーマである。
【0076】
本明細書において21E3と呼ばれる、CNCMに番号I−3249で2004年7月1日に寄託されたハイブリドーマによって分泌されることを特徴とするモノクローナル抗体、又はその機能的断片の一つは、当然ながら本発明の一部である。このハイブリドーマも、免疫されたマウス脾細胞と骨髄腫細胞株(Sp20 Ag14)との細胞融合を生じさせるマウスハイブリドーマである。
【0077】
同様に特定の態様によれば、本発明は、本発明によるキメラ抗体又はその機能的断片の一つに関し、これは、上記抗体がさらにマウスとは異なる種、特にヒトの抗体に由来する軽鎖及び重鎖の定常領域を含むことを特徴とし、好ましくは、ヒト抗体由来の軽鎖及び重鎖の定常領域がそれぞれカッパ領域及びガンマ−1領域、ガンマ−2領域又はガンマ−4領域であることを特徴とする。
【0078】
新たな態様によれば、本発明は、以下の核酸、
a)本発明による抗体又はその機能的断片の一つをコードする核酸、DNA又はRNA、及び
b)a)で定義されたような核酸に相補的な核酸
から選択されることを特徴とする、単離された核酸に関する。
【0079】
核酸、核配列又は核酸配列、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド配列、ヌクレオチド配列という用語は、本発明においては区別せずに使用され、修飾された又はされていないヌクレオチドの正確な連鎖を示すものであり、核酸の断片又は領域を規定することを可能にし、非天然ヌクレオチドを含んでも含まなくても良く、二本鎖DNA、一本鎖DNAはもちろんのこと、当該DNAの転写産物に相当することもある。
【0080】
ここで、本発明が、それらの本来の染色体環境における、すなわち天然の状態でのヌクレオチド配列に関するものではないことも理解されたい。本発明は、単離及び/又は精製されている配列に関し、すなわち、それらは直接的又は間接的に、例えばコピーによって選択されたものであり、それらの環境は少なくとも部分的に改変されている。よって、本明細書において、それは、例えば宿主細胞を用いた遺伝子組換えによって得られる、又は化学合成によって得られる、単離された核酸をも示すものである。
【0081】
高ストリンジェンシー条件下でのハイブリダイゼーションでは、温度条件及びイオン強度条件は、相補的DNAの二つの断片間でのハイブリダイゼーションの維持を可能にするように選択される。例として、上記のポリヌクレオチド断片を規定することを目的としたハイブリダイゼーション工程の高ストリンジェンシー条件は、有利には以下のものである。
【0082】
DNA−DNA又はDNA−RNAのハイブリダイゼーションは、二つの工程で実施される。(1)5×SSC(1×SSCは、0.15MのNaCl+0.015Mのクエン酸ナトリウム溶液に相当する)、50%のホルムアミド、7%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、10×デンハルト液、5%の硫酸デキストラン、及び1%のサケ精子DNAを含有するリン酸緩衝液(20mM、pH7.5)中において、42℃にて3時間のプレハイブリダイゼーションを行う、(2)プローブのサイズに応じた温度(すなわち、プローブのサイズ>100ヌクレオチドの場合には42℃)において20時間の実際のハイブリダイゼーションを行い、その後、2×SSC+2%SDSで、20℃における20分の洗浄を2回行い、0.1×SSC+0.1%SDSで、20℃における20分の洗浄を1回行う。最後の洗浄を、プローブのサイズ>100ヌクレオチドの場合、0.1×SSC+0.1%SDSで、60℃にて30分間実施する。より大きなサイズ又はより小さなサイズのオリゴヌクレオチドの場合には、当業者ならば、所定のサイズのポリヌクレオチドのための上記の高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を、Sambrookらの教示(1989, Molecular cloning: a laboratory manual. 2nd Ed. Cold Spring Harbor)に従って適合させることができる。
【0083】
本発明はまた、本発明による核酸を含むベクターに関する。
【0084】
本発明は特に、本発明によるヌクレオチド配列を含むクローニングベクター及び/又は発現ベクターに関する。
【0085】
本発明によるベクターは、好ましくは、所定の宿主細胞におけるヌクレオチド配列の発現及び/又は分泌を可能にするエレメントを含む。そのため、ベクターは、プロモーター、翻訳開始シグナル及び翻訳終結シグナル、並びに転写調節のための適切な領域を含む必要がある。ベクターは安定した形で宿主細胞中に維持することが可能でなければならず、所望により、翻訳されたタンパク質の分泌を指示する特定のシグナルを有していてもよい。これらの様々なエレメントは、用いる宿主細胞に応じて当業者により選択され、最適化される。この目的のために、本発明によるヌクレオチド配列は、選択された宿主の自己複製ベクターに挿入してもよいし、又は選択された宿主の組込みベクターとしてもよい。
【0086】
このようなベクターは、当業者によって現在使用されている方法によって調製され、得られたクローンは、リポフェクション、エレクトロポレーション、熱ショック、又は化学的方法等の標準的な方法によって、適切な宿主に導入することができる。
【0087】
本発明によるベクターは、例えば、プラスミド由来又はウイルス由来のベクターである。それらは、宿主細胞を形質転換して本発明によるヌクレオチド配列をクローニングする又は発現させるのに有用である。
【0088】
本発明はまた、本発明によるベクターによって形質転換された、又は本発明によるベクターを含む宿主細胞を包含する。
【0089】
宿主細胞は、原核生物系又は真核生物系、例えば、細菌細胞や、同様に酵母細胞又は動物細胞、特に哺乳類細胞から選択することもできる。また、昆虫細胞又は植物細胞を使用することもできる。
【0090】
本発明はまた、本発明に従って形質転換された少なくとも一つの細胞を含む、ヒト以外の動物に関する。
【0091】
別の態様によれば、本発明の主題は、以下の工程を含むことを特徴とする、本発明による抗体又はその機能的断片の一つの作製方法である。
a)本発明による宿主細胞を培地内で適切な培養条件で培養する工程、及び
b)このようにして生成された上記抗体又はその機能的断片の一つを、培養培地又は上記培養した細胞から回収する段階。
【0092】
本発明による形質転換細胞は、本発明による組換えポリペプチドの調製方法に使用することができる。本発明によるベクター及び/又は本発明によるベクターによって形質転換された細胞を使用することを特徴とする、組換え型の本発明によるポリペプチドの調製方法は、それ自体が本発明に包含される。好ましくは、本発明によるベクターによって形質転換された細胞を、前記ポリペプチドの発現を可能にする条件下で培養し、前記組換えペプチドを回収する。
【0093】
上述のように、宿主細胞は、原核生物系又は真核生物系から選択することができる。特に、このような原核生物系又は真核生物系における分泌を促進する本発明によるヌクレオチド配列を同定することができる。このため、このような配列を有する本発明によるベクターは、分泌させたい組換えタンパク質の作製に有利に用いることができる。実際には、目的のこれらの組換えタンパク質の精製は、それらが宿主細胞の内部にあるよりもむしろ細胞培養物の上清に存在することによって容易になる。
【0094】
また、化学合成によっても本発明によるポリペプチドを調製することができる。このような調製方法もまた、本発明の対象である。当業者ならば、化学合成の方法、例えば、断片の縮合又は溶液中での古典的な合成による、固相を使用する技術(特に、Steward et al., 1984, Solid phase peptide synthesis, Pierce Chem.Company, Rockford, 111, 2nd ed.を参照)又は部分固相を用いる技術を知っている。化学合成によって得られた、対応する非天然アミノ酸を含み得るポリペプチドもまた、本発明に包含される。
【0095】
本発明による方法によって得ることができる抗体又はその機能的断片の一つもまた、本発明に包含される。
【0096】
第二の実施形態によれば、本発明は、さらに、ヒト上皮細胞成長因子受容体EGFRと特異的に結合することができ、且つ/又は当該EGFRのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することができることを特徴とする、上述の本発明による抗体に関する。
【0097】
本発明はまた、好ましくは添加剤及び/又は薬学的に許容可能な賦形剤と混合した、本発明による抗体又はその機能的断片の一つから成る化合物を有効成分として含む医薬組成物に関する。
【0098】
本発明の別の相補的な実施形態では、同時の使用、別個の使用又は連続した使用を目的とした組合せ製品として、細胞傷害性/細胞増殖抑制性物質、並びに/又はIGF−I及び/もしくはEGFに対する受容体のそれぞれのチロシンキナーゼ活性の阻害剤をさらに含む、上記のような組成物が提供される。
【0099】
「同時の使用」とは、本発明による組成物の二つの化合物を単一及び同一の医薬形態で投与することと解釈される。
【0100】
「別個の使用」とは、本発明による組成物の二つの化合物を異なる医薬形態で同時に投与することと解釈される。
【0101】
「連続した使用」とは、各々が異なる医薬形態の本発明による組成物の二つの化合物を連続的に投与することと解釈される。
【0102】
全般的に、本発明による組成物は癌の治療効果を大幅に高める。言い換えれば、本発明による抗IGF−IR抗体の治療効果は、意外にも細胞傷害性物質の投与によって増強される。それに続き本発明による組成物によってもたらされるもう一つの重要な利点は、副作用、特に細胞傷害性物質の副作用が現れる危険性を回避する又は減少させることを可能にする、より低い有効用量の有効成分の使用の可能性に関する。
【0103】
さらに、本発明によるこの組成物は、期待される治療効果をより迅速に実現することを可能にするであろう。
【0104】
特に好ましい実施形態では、本発明による組合せ製品としての上記組成物は、上記細胞傷害性/細胞増殖抑制性物質が、DNAと相互作用する物質、代謝拮抗物質、トポイソメラーゼI阻害剤もしくはII阻害剤、又は紡錘体形成阻害剤もしくは紡錘体安定化物質、又は化学療法に用いることができる任意の物質から選択されることを特徴とする。このような細胞傷害性/細胞増殖抑制性物質は、前記細胞傷害性物質のクラスの各々に関して、例えば、VIDALの2001年版の、癌腫学及び血液学の欄「細胞傷害性物質(Cytotoxics)」に添付されたこの化合物のための頁に引用されており、当該文献に関して引用されたこれらの細胞傷害性化合物は好ましい細胞傷害性物質として本明細書に引用される。
【0105】
特に好ましい実施形態では、本発明による組合せ製品としての上記組成物は、上記細胞傷害性物質が、同時の使用のために上記抗体と化学的に結合していることを特徴とする。
【0106】
特に好ましい実施形態では、本発明による上記組成物は、上記細胞傷害性/細胞増殖抑制性物質が、紡錘体形成阻害剤又は紡錘体安定化物質、好ましくはビノレルビン及び/又はビンフルニン及び/又はビンクリスチンから選択されることを特徴とする。
【0107】
上記細胞傷害性物質と本発明による上記抗体との結合を容易にするために、特に、結合する二つの化合物の間にポリエチレングリコールのようなポリ(アルキレン)グリコール又はアミノ酸等のスペーサー分子を導入することができ、又は、別の実施形態では、前記本発明による抗体と反応することができる官能基を導入した前記細胞傷害性物質の有効な誘導体を用いることができる。これらの結合技術は当業者に既知であり、本明細書では詳述しない。
【0108】
別の好ましい実施形態では、IGF−Iに対する受容体のチロシンキナーゼ活性の上記阻害剤は、誘導された天然物質であるジアニリノフタルイミド、ピラゾロピリミジンもしくはピロロピリドピリミジン又はキナジリンから成る群から選択される。このような阻害剤は当業者に既知であり、文献(Ciardiello F., Drugs 2000, Suppl. 1, 25−32)に記載されている。
【0109】
本発明のさらに別の実施形態によれば、上記のような組成物はまた、癌の、特に乳癌のような、特にHER2/neu受容体及び受容体IGF−IRを過剰発現する癌の予防及び治療を目的とした同時の使用、別個の使用又は連続の使用のための組合せ製品として、HER2/neu受容体の細胞外ドメインに対する他の抗体化合物を含んでもよい。
【0110】
抗HER2/neu抗体を本発明による抗IGF−IR抗体と組み合わせることにおける予想外の効果については、特に、その妥当性を示すAlbanellらの文献(J.of the National Cancer Institute, 93(24): 1830−1831, 2001)及びLuらの文献(J. of the National Cancer Institute, 93(24): 1852−1857, 2001)を参照することができる。
【0111】
特に、本発明による組成物の上記抗HER2/neu抗体は、トラスツズマブと呼ばれる(ハーセプチンとも呼ばれる)抗体である。
【0112】
本発明は、別の態様において、少なくとも一つの上記抗体又はその機能的断片の一つが細胞毒素及び/又は放射性元素と共役していることを特徴とする組成物に関する。
【0113】
好ましくは、上記毒素又は上記放射性元素は、IGF−IRを発現する細胞の少なくとも一つの細胞活性を阻害することができ、より好ましくは、前記細胞の成長又は増殖を抑制し、特に、前記細胞を完全に不活性化することができる。
【0114】
また、好ましくは、上記毒素は腸内細菌の毒素、特にシュードモナス属の外毒素Aである。
【0115】
治療に使用する抗体と好ましく共役する放射性元素(又は放射性同位元素)は、ガンマ線を放つ放射性同位元素であり、好ましくは、ヨウ素131、イットリウム90、金199、パラジウム100、銅67、ビスマス217及びアンチモン211である。ベータ線及びアルファ線を放つ放射性同位元素もまた治療に用いることができる。
【0116】
本発明による少なくとも一つの抗体又はその機能的断片の一つと共役した毒素又は放射性元素とは、特に、結合分子の導入があってもなくても良い、二つの化合物間の共有結合によって、前記毒素又は前記放射性元素を前記少なくとも一つの抗体に結合させることが可能な任意の手段を意味するものである。
【0117】
共役体の構成要素の全て又は一部の化学的(共有的)、静電的又は非共有的な結合を可能にする物質のうち、特に、ベンゾキノン、カルボジイミド、より詳細には、EDC(1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]−カルボジイミド塩酸塩)、ジマレイミド、ジチオビス−ニトロ安息香酸(DTNB)、N−スクシンイミジル−S−アセチルチオ−アセテート(SATA)、紫外線(U.V.)と反応する一つ又は複数のフェニルアジド基を有する架橋剤、好ましくは、N−[4−(アジドサリチルアミノ)ブチル]−3’−(2’−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド(APDP)、N−スクシンイミド−イル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸塩(SPDP)、6−ヒドラジノ−ニコチンアミド(HYNIC)を挙げることができる。
【0118】
特に放射性元素のもう一つの結合形式が、二価のイオンキレート剤の使用であり得る。
【0119】
これらのキレートのうち、金属、特に放射性金属、及び免疫グロブリンを結合するために開発された、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)由来のキレート又はDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)由来のキレートを挙げることができる。このように、リガンド−金属複合体の安定性及び剛性を高めるために、DTPA及びその誘導体は炭素鎖上で異なる基に置換することができる(Krejcarek et al., 1977、 Brechbiel et al., 1991、 Gansow, 1991、米国特許第4,831,175号)。
【0120】
例えば、長い間、医学及び生物学において遊離した形態又は金属イオンとの複合体の形態のいずれかで広く用いられてきたジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)及びその誘導体は、金属イオンと安定したキレートを形成し、治療又は診断のためのタンパク質、例えば、癌治療における放射性免疫複合体の開発のための抗体に結合するという、注目すべき特徴を備えている(Meases et al., 1984、 Gansow et al., 1990)。
【0121】
また、好ましくは、本発明による上記共役体を形成する少なくとも一つの抗体は、その機能的断片、特に、そのFc領域が切断された断片、例えばscFv断片から選択される。
【0122】
本発明はさらに、薬剤の調製のための、本発明による組成物の使用を包含する。
【0123】
より詳細には、別の実施形態によれば、本発明は、IGF−I受容体の過剰発現及び/もしくは異常な活性化によって引き起こされる疾患、並びに/又はIGF1もしくはIGF2のIGF−IRとの相互作用が介在するシグナル伝達経路の過剰な活性化に関連した疾患の予防又は治療を目的とした薬剤の調製のための、抗体もしくはその機能的断片の一つ及び/又は組成物の使用に関する。
【0124】
好ましくは、本発明による上記使用は、上記薬剤の投与が、インスリン受容体IRの阻害に関連した副作用、すなわち、前記薬剤が存在することによる、特に前記薬剤のIRへの付着に関連した拮抗的阻害による、IR受容体のその天然リガンドとの相互作用の阻害に関連した副作用を引き起こさない、又はわずかしか引き起こさないことを特徴とする。
【0125】
本発明はさらに、腫瘍特性を有する細胞、好ましくはIGF依存性細胞、特にIGF1依存性及び/又はIGF2依存性細胞への正常細胞の形質転換を阻害することを目的とした薬剤の調製のための、本発明による、好ましくはヒト化された抗体もしくはその機能的断片の一つ及び/又は組成物の使用を包含する。
【0126】
本発明はまた、腫瘍細胞、好ましくはIGF依存性細胞、特にIGF1依存性及び/又はIGF2依存性細胞の成長及び/又は増殖を阻害することを目的とした薬剤の調製のための、本発明による、好ましくはヒト化された抗体もしくはその機能的断片の一つ及び/又は組成物の使用に関する。
【0127】
全般的に、本発明の主題は、好ましくはIGF−IRを発現する癌、及び/又は、好ましくは、IGF1もしくはIGF2のIGF−IRとの相互作用が介在するシグナル伝達経路の過剰な活性化、例えばIRS1の過剰発現等を示す癌の予防又は治療を目的とした薬剤の調製のための、本発明による、好ましくはヒト化された抗体又はその機能的断片の一つ及び/又は組成物の使用である。
【0128】
本発明の主題はまた、乾癬、つまり上皮細胞の過剰な増殖がIGF−IRの発現もしくは過剰発現及び/又はIGF−IRのその天然リガンドとの相互作用が介在するシグナル伝達経路の過剰な活性化と関連している可能性がある乾癬(Wraight C.J. et al., Nat. Biotechnol., 2000, 18(5): 521−526. Reversal of epidermal hyperproliferation in psoriasis by insulin−like growth factor I receptor antisense oligonucleotides.)の予防又は治療を目的とした薬剤の調製のための、本発明による、好ましくはヒト化した抗体もしくはその機能的断片の一つ及び/又は組成物の使用である。別の実施形態においては、本発明の目的は、アテローム性動脈硬化症の予防又は治療を目的とした薬剤の調製のための、本発明による、好ましくはヒト化した抗体もしくはその機能的断片の一つ及び/又は組成物の使用である。
【0129】
予防及び/又は治療することができる癌としては、前立腺癌、骨肉腫、肺癌、乳癌、子宮内膜癌もしくは結腸癌、又はIGF−IRを過剰発現するその他の癌が好ましい。
【0130】
さらに別の態様によれば、本発明の主題は、IGF−I受容体の異常な存在が疑われる生体試料から、IGF−I受容体の過剰発現又は低発現、好ましくは過剰発現に関連した疾患を、好ましくはin vitroにて診断する方法であり、これは、前記生体試料を本発明による抗体又はその機能的断片の一つと接触させることを特徴とし、前記抗体は必要に応じて標識することが可能である。
【0131】
好ましくは、上記診断方法において、IGF−I受容体の過剰発現に関連した上記疾患は癌である。
【0132】
別の特定の実施形態においては、本発明による抗体は、IGF−IRの過剰発現だけでなくハイブリッド−Rの過剰発現にも関連する疾患の治療、予防及び/又は診断のために用いることも可能である。
【0133】
より詳細には、本発明による抗体は、ハイブリッド−RのアイソフォームA及び/もしくはアイソフォームBと結合することができ、そしてその天然リガンド、好ましくは本明細書においてIGF1及び/もしくはIGF2及び/もしくはインスリンと表されるものの結合を阻害することができ、且つ/又は前記ハイブリッド−Rのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することができることを特徴とする。
【0134】
上記抗体又はその機能的断片の一つは、検出可能及び/又は定量可能なシグナルを得ることができるように、免疫複合体又は標識された抗体の形で存在してもよい。
【0135】
本発明による標識された抗体又はその機能的断片としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、α−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコースアミラーゼ、炭酸脱水酵素、アセチルコリンエステラーゼ、リゾチーム、リンゴ酸デヒドロゲナーゼもしくはグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ等の酵素と共役することができるか、又はビオチン、ジゴキシゲニンもしくは5−ブロモデオキシウリジン等の分子が共役することができる、免疫複合体と呼ばれる抗体等が挙げられる。また、蛍光標識を本発明による抗体又はその機能的断片に共役させてもよく、それらとしては、特に、フルオレセイン及びその誘導体、蛍光色素、ローダミン及びその誘導体、GFP(GFPは「グリーン蛍光タンパク質」を意味する)、ダンシル、ウンベリフェロン等が挙げられる。このような共役体では、本発明の抗体又はその機能的断片を当業者に既知の方法によって調製することができる。それらは、直接、又はスペーサー基もしくはグルタルアルデヒドのようなポリアルデヒド、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DPTA)等の結合基を介して、又は治療用共役体に関して上述したような結合剤の存在下で、酵素又は蛍光標識と結合させることができる。フルオレセインタイプの標識を有する共役体は、イソチオシアネートとの反応によって調製することができる。
【0136】
また、その他の共役体には、ルミノール及びジオキセタン等の化学発光標識、ルシフェラーゼ及びルシフェリン等の生物発光標識、又はヨウ素123、ヨウ素125、ヨウ素126、ヨウ素133、臭素77、テクネチウム99m、インジウム111、インジウム113m、ガリウム67、ガリウム68、ルテニウム95、ルテニウム97、ルテニウム103、ルテニウム105、水銀107、水銀203、レニウム99m、レニウム101、レニウム105、スカンジウム47、テルリウム121m、テルリウム122m、テルリウム125m、ツリウム165、ツリウム167、ツリウム168、フッ素18、イットリウム199、ヨウ素131等の放射性標識が含まれる。治療用の放射性同位元素を直接又は上記のEDTAやDTPA等のキレート剤を介して抗体に結合させるための、当業者に既知の方法を、診断で用いることができる放射性元素に用いることができる。また、クロラミンT法[Hunter W.M. and Greenwood F. C., 1962, Nature 194: 495]によるNa[I125]での標識、又はCrockfordらの技術(米国特許第4,424,200号)によるテクネチウム99mもしくはHnatowich(米国特許第4,479,930号)によって記載されているようなDTPAを介して結合したテクネチウム99mでの標識もまた挙げることができる。
【0137】
このように、本発明による抗体又はその機能的断片は、生体試料のIGF−I受容体の過剰発現又は低発現、好ましくは過剰発現の、検出方法及び/又は定量方法に使用することができ、その方法は、
a)生体試料を、本発明による抗体又はその機能的断片の一つと接触させる工程、及び
b)形成された可能性のあるIGF−IR/抗体複合体を明らかにする工程
を含むことを特徴とする。
【0138】
特定の実施形態では、本発明による抗体又はその機能的断片を、IGF依存性の癌又は乾癬又はアテローム性動脈硬化症の予防的処置及び/又は治療的処置の効果をモニタリングするための、生体試料のIGF−I受容体の検出方法及び/又は定量方法に使用することができる。
【0139】
より一般的には、本発明による抗体又はその機能的断片は、IGF−I受容体の発現を定性的及び/又は定量的に観察する必要のある任意の状況で有利に使用することができる。
【0140】
好ましくは、生体試料は、血清等の体液、全血、細胞、組織試料又はヒト由来の生体組織から成る。
【0141】
このような検出及び/又は定量を実施するためには、任意の手順又は従来の試験を用いることができる。前記試験は、競合試験もしくはサンドウィッチ試験、又は抗体−抗原タイプの免疫複合体の形成に依存した当業者に既知の任意の試験であってよい。本発明に従った適用後に、抗体又はその機能的断片の一つを固定してもよいし、又は標識してもよい。この固定は、当業者に既知の数多くの担体上で行うことができる。これらの担体としては、特に、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、又は自然細胞もしくは改変細胞が挙げられる。これらの担体は、可溶性でも不溶性でもよい。
【0142】
例として、好ましい方法は、免疫蛍光による、ELISA技術に従った免疫酵素法、又はラジオイムノアッセイ(RIA)技術、又はそれと同等のものである。
【0143】
よって、本発明はまた、IGF−I受容体の過剰発現もしくは低発現によって引き起こされる疾患の診断方法を実施するため、又は生体試料のIGF−I受容体の過剰発現もしくは低発現、好ましくは当該受容体の過剰発現の検出方法及び/又は定量方法を実施するために必要なキット又はセットを含み、前記キット又はセットは、以下の要素、
(a)本発明による抗体又はその機能的断片の一つ、
(b)所望により、免疫学的反応に適した培地を形成するための試薬、
(c)所望により、免疫学的反応によって生成したIGF−IR/抗体複合体を明らかにすることが可能な試薬
を含むことを特徴とする。
【0144】
本発明はさらに、癌、特に上記細胞障害性物質又は上記抗HER2/neu抗体が一般に処方される癌、特に腫瘍細胞がIGF−I受容体を発現又は過剰発現する癌の予防又は治療を目的とした薬剤の調製のための、本発明による組合せ製品としての組成物の使用に関する。
【0145】
本発明の主題はまた、IGF−I受容体を発現又は過剰発現する細胞への生物活性のある化合物の特異的ターゲッティングを目的とした薬剤の調製のための、本発明による抗体の使用である。
【0146】
本明細書において、生物活性のある化合物とは、細胞の活性、特にその成長、その増殖、転写又は遺伝子翻訳を、調節、特に阻害することができる、あらゆる化合物を示すものである。
【0147】
本発明の主題はまた、好ましくは標識した、特に放射性標識した、本発明による抗体又はその機能的断片の一つを含む、in vivoでの診断試薬、及び、特に細胞によるIGF−I受容体の発現又は過剰発現に関連した癌の検出を目的とした、医用画像におけるその使用である。
【0148】
本発明はまた、薬剤としての、本発明による組合せ製品としての組成物、又は抗IGF−IR/毒素共役体もしくは放射性元素に関する。
【0149】
好ましくは、本発明による組合せ製品としての上記組成物又は上記共役体は、添加剤及び/又は薬学的に許容可能な賦形剤と混合される。
【0150】
本明細書において、薬学的に許容可能な賦形剤とは、医薬組成物の一部を構成する化合物又は化合物の組合せであり、二次反応を誘発せず、そして、例えば、活性化合物の投与を容易にし、体内でのその寿命及び/又はその効果を増大し、溶液へのその溶解度を高め、或いはまたその保存の改善を可能にするものである。これらの薬学的に許容可能な賦形剤は既知であり、選択された活性化合物の性質及び投与の様式に応じて当業者が適合させるであろう。
【0151】
好ましくは、これらの化合物は、全身投与、特に、静脈内投与、筋肉内、皮内、腹腔内もしくは皮下投与、又は経口投与される。より好ましくは、本発明の抗体を含む組成物を連続的に数回投与する。
【0152】
その投与の様式、用量及び最適な医薬形態は、患者に適合させた治療を確立させるにあたり一般に考慮する基準、例えば、患者の年齢又は体重、患者の全身状態の重篤度、治療に対する抵抗性及び確認されている副作用に従って決定することができる。
【0153】
続いて、本発明の他の特徴及び利点を、実施例及び以下の図面と共に明細書に示す。
−図1は、MCF−7モデルにおける抗IGF−1R抗体のin vitroでの評価を示す図である。
−図2及び3は、DU145での抗IGF−1R抗体のin vivoでの評価を示す図である。
−図4は、IGF−IRを発現する無傷細胞での[125I]−IGF−1の排除を示す図である。
−図5は、イムノキャプチャーしたHR−Aでの[125I]−IGF−1の排除を示す図である。
−図6は、イムノキャプチャーしたHR−Bでの[125I]−IGF−1の排除を示す図である。
−図7は、IR−Aを発現する無傷細胞での[125I]−INSの排除を示す図である。
−図8は、IR−Bを発現する無傷細胞での[125I]−INSの排除を示す図である。
【実施例1】
【0154】
IGF−1Rに対するモノクローナル抗体の作製
可溶性のα2−β2ヘテロ四量体組換えヒトIGF−1R(R&Dシステム、米国ミネアポリス)で免疫されたBALB/cマウス由来の脾細胞とSP2/0−Ag14骨髄腫細胞株との融合によってハイブリドーマを作製した。得られたマウス抗体は、まずMCF−7細胞でのELISA及びFACS分析によってスクリーニングした。その後、Sf9−IGF−1R細胞とSf9−IR細胞で最後のスクリーニングを行い、IGF−1及びIRの両方を認識する抗体を除外した。選択されたMAb(ELISAで陽性であり、MCF−7細胞の野生型受容体を認識する)を、腹水として産生し、プロテインAクロマトグラフィで精製した後、in vitro及び/又はin vivoで試験し、結果を表1にまとめた。
【0155】
【表1】

【実施例2】
【0156】
抗IGF−1R抗体のin vitro活性
方法
ATCCから入手したMCF−7細胞を、フェノールレッドフリーRPMI培地(インビトロジェン社、英国、スコットランド)、10%FCS(インビトロジェン社)、1%L−グルタミン(インビトロジェン社)中で常法により培養した。MCF−7細胞を、96ウェル組織培養プレートの無血清培地中に5×10細胞/ウェルの密度で播種した。24時間後、最終濃度が5μg/mlの各試験抗体の非存在下又は存在下で、IGF1を1〜50ng/mlの範囲の投与量で培地に添加した。3日後、0.5μCiの[H]チミジン(アマシャムバイオサイエンス AB、スウェーデン国、ウプサラ)を細胞に16時間パルスした。トリクロロ酢酸に不溶性のDNAに組み込まれた[H]チミジンの量を、液体シンチレーション計数によって定量した。結果を増殖指数(細胞+IGF1+抗体のcpm/細胞+抗体のみのcpm)として表す。
【0157】
結果
in vitroでの評価は、細胞分裂促進活性に関するMabの第一のスクリーニングであった。これらの分析は、腹水として産生された、作製された抗体を、IGF1と同時にMCF−7細胞に添加し、市販のαIR3Mabと比較して、その抗体と少なくとも同等に有効である抗体を選択することによって行った。先の結果の表2中で(+)と記載されている陽性のMab(5つのMab)は、最も高い投与量のIGF1(50ng/ml)で細胞を刺激したときに増殖指数<5を示すものである。図1は、6つの強いin vitro阻害剤のうちの4つ(2D10、12D5、12B1、13F5)のin vitro活性を示す。2F2及び21E3のMabは、(±)Mab(最も高いIGF1濃度の場合に5<増殖指数<15)であると考えられ、7G3及び2B10は、非中和抗体(増殖指数>15)であると考えられた。21E3がIgG2アイソタイプのMabにすぎないことは興味深い。
【実施例3】
【0158】
抗IGF−1R抗体のin vivo活性
方法
ATCCから入手したDU145細胞を、DMEM培地(インビトロジェン社、英国、スコットランド)、10%FCS(インビトロジェン社)、1%L−グルタミン(インビトロジェン社)中で常法により培養した。細胞を移植の二日前に分割して、対数増殖期となるようにした。PBS中の200万個のDU145細胞をSwissヌードマウスに移植した。移植の一日後、マウスを6頭の群に分割した。1週間に3回、200μgの各試験抗体で、腫瘍と反対の位置においてマウスを皮下注射処理した。コントロール群は、最初のスクリーニングにおいてマウスのアイソタイプのコントロール(EC2)で処理するか、又は続くスクリーニングにおいてPBSで処理するとしたが、これは、最初の実験においてマウスのこれら2つの群の間で腫瘍成長の差異が観察されなかったことが示されたためである。腫瘍の体積を一週間に一度測定し、次の式によって算出した:π/6×長さ×幅×高さ。
【0159】
結果
三つのin vivoでの実験を、Mabパネルを試験するために行った。図2及び図3は、13F5、2D10及び6E5が、DU145細胞のin vivoでの成長を有意に阻害することを示す。統計分析(マンホイットニー検定)の結果を表2に示す。
【0160】
【表2】

【実施例4】
【0161】
2D10、12D5、13F5の、IGF−IR及びハイブリッド−Rへの結合能力の評価
この研究に用いた細胞を以下に列挙する。
・R+:IGF−I受容体(IGF−IR)のcDNAを安定的にトランスフェクトしたR−繊維芽細胞、
・R−/IR−A:インスリン受容体アイソフォームA(IR−A)のcDNAを安定的にトランスフェクトしたR−繊維芽細胞、
・R−/IR−B:インスリン受容体アイソフォームB(IR−B)のcDNAを安定的にトランスフェクトしたR−繊維芽細胞、
・R+/IR−A:IGF−I及びインスリン受容体アイソフォームAのcDNAを安定的にコトランスフェクトし、それによりハイブリッド受容体A(ハイブリッド−RsA)を発現するR−繊維芽細胞、
・R+/IR−B:IGF−I及びインスリン受容体アイソフォームBのcDNAを安定的にコトランスフェクトし、それによりハイブリッド受容体A(ハイブリッド−RsB)を発現するR−繊維芽細胞。
【0162】
実施例4−1:IGF−IRでの、2D10、12D5、13F5及びαIR−3による[125I]IGF1の排除の分析
【0163】
漸増濃度の非標識リガンド(IGF1、IGF2もしくはインスリン)又は抗体(2D10、12D5、13F5)の存在下又は非存在下で、[125I]IGF1(20,000cpm)を、R+無傷細胞に4℃で16時間結合させた。結果を最大特異的結合の割合としてプロットし、図4に示す。
【0164】
2D10及び13F5のいずれも、ナノモルに満たない親和性でIGF1を有効かつ十分に排除し、本実施例では、対照抗体αIR3(IC50:0.05nM)と比較して、それぞれ0.15及び0.20nMのIC50を示した。これらの親和性は、天然のIGF−IRのリガンドであるIGF1(本実施例では2.2nM)及びIGF2(本実施例では15nM)の親和性よりも高い。
【0165】
実施例4−2:ハイブリッド−RsAでの、2D10、12D5、13F5及び47−9による[125I]IGF1の排除の分析
【0166】
R+/IR−A細胞溶解物由来のハイブリッド−RsAを、抗IR抗体83−7で被覆したMaxisorbプレートにおいてイムノキャプチャーした。
【0167】
その後、漸増濃度の非標識リガンド(IGF1、IGF2もしくはインスリン)又は抗体(2D10、12D5、13F5、47−9、9G4)の存在下又は非存在下で、[125I]IGF1(図5)を、イムノキャプチャーした受容体と結合させた。結果を最大特異的結合の割合としてプロットし、図5に示す。
【0168】
2D10及び13F5は、非常に類似した、ナノモルに満たない親和性で、標識したIGF1を有効かつ十分に排除し、本実施例ではIC50がそれぞれ0.2及び0.35nMである。比較すると、47−9では0.18nMのIC50値が得られた(図5)。
【0169】
これらの親和性は、天然のハイブリッド−RsAのリガンドであるIGF1(本実施例では2.0nM)及びIGF2(本実施例では12nM)の親和性よりも高い。
【0170】
実施例4−3:ハイブリッド−RsBでの、2D10、12D5、13F5及び47−9による[125I]IGF1の排除の分析
【0171】
R+/IR−B細胞溶解物由来のハイブリッド−RsBを、83−7抗体で被覆したMaxisorbプレートにおいてイムノキャプチャーした。
【0172】
その後、漸増濃度のIGF1、IGF2、インスリン又は抗体(2D10、12D5、13F5、47−9、9G4)の存在下又は非存在下で、[125I]IGF1(図6)を、イムノキャプチャーした受容体と結合させた。結果を最大結合の割合としてプロットする。
【0173】
2D10及び13F5は、非常に類似した、ナノモルに満たない親和性で、標識されたIGF1を有効かつ十分に排除し、本実施例ではそれぞれ0.04及び0.15のIC50を示した。比較すると、47−9はIC50値が0.40nMであり、あまり有効でなかった(図6)。
【0174】
実施例4−4:インスリン受容体A(IR−A)及びインスリン受容体B(IR−B)での、2D10、12D5、13F5及びMA−10による[125I]インスリンの排除の分析
【0175】
漸増濃度の非標識リガンド(IGF1、IGF2もしくはインスリン)又は抗体(2D10、12D5、13F5)の存在下又は非存在下で、[125I]インスリン(40,000cpm)をR/IR−A又はR/IR−B無傷細胞と4℃で16時間結合させた。結果を最大特異的結合の割合としてプロットし、IR−A及びIR−Bについてそれぞれ図7及び8に示す。
【0176】
対照抗体MA−10(IC50:IR−A(図7)及びIR−B(図8)の場合、それぞれ0.90nM及び1.5nM)と対照的に、2D10も12D5も13F5のいずれもインスリンを排除しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0177】
【特許文献1】国際公開第03/059951号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトインスリン様成長因子I受容体IGF−IRに結合することができる、単離された抗体又はその機能的断片の一つであって、配列番号1、2及び3の配列を有する3つの相補性決定領域CDRを含む軽鎖を含み、かつ、配列番号4、5及び6の配列を有する3つのCDRを含む重鎖を含み、さらにインスリン/IGF−Iハイブリッド受容体(ハイブリッド−R)に結合し得ることを特徴とする、単離された抗体又はその機能的断片の一つ。
【請求項2】
配列番号20のアミノ酸配列を含む配列の重鎖を含むこと、及び配列番号19のアミノ酸配列を含む配列の軽鎖をさらに含むことを特徴とする、13F5と呼ばれる請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗体を分泌することができるマウスハイブリドーマ。
【請求項4】
2004年3月25日にCNCM(パリ、パスツール研究所)に番号I−3193で寄託された、請求項3に記載のマウスハイブリドーマ。
【請求項5】
ヒトインスリン様成長因子I受容体IGF−IRに結合することができる、単離された抗体又はその機能的断片の一つであって、配列番号7、8及び9の配列を有する3つの相補性決定領域CDRを含む軽鎖を含み、かつ、配列番号10、11及び12の配列を有する3つのCDRを含む重鎖を含み、さらにインスリン/IGF−Iハイブリッド受容体(ハイブリッド−R)に結合し得ることを特徴とする、単離された抗体又はその機能的断片の一つ。
【請求項6】
配列番号22又は23のアミノ酸配列を含む配列の重鎖を含むこと、及び配列番号21のアミノ酸配列を含む配列の軽鎖をさらに含むことを特徴とする、12D5と呼ばれる請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の抗体を分泌することができるマウスハイブリドーマ。
【請求項8】
2004年4月8日にCNCM(パリ、パスツール研究所)に番号I−3195で寄託された、請求項7に記載のマウスハイブリドーマ。
【請求項9】
ヒトインスリン様成長因子I受容体IGF−IRに結合することができる、単離された抗体又はその機能的断片の一つであって、配列番号13、14及び15の配列を有する3つの相補性決定領域CDRを含む軽鎖を含み、かつ、配列番号16、17及び18の配列を有する3つのCDRを含む重鎖を含み、さらにインスリン/IGF−Iハイブリッド受容体(ハイブリッド−R)に結合し得ることを特徴とする、単離された抗体又はその機能的断片の一つ。
【請求項10】
配列番号25のアミノ酸配列を含む配列の重鎖を含むこと、及び配列番号24のアミノ酸配列を含む配列の軽鎖をさらに含むことを特徴とする、2D10と呼ばれる請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の抗体を分泌することができるマウスハイブリドーマ。
【請求項12】
2004年5月13日にCNCM(パリ、パスツール研究所)に番号I−3214で寄託された、請求項11に記載のマウスハイブリドーマ。
【請求項13】
請求項4、8又は12に記載のハイブリドーマによって分泌されることを特徴とする抗体、又はその機能的断片の一つ。
【請求項14】
前記抗体がキメラ抗体であり、マウスとは異なる種の抗体に由来する軽鎖及び重鎖の定常領域をさらに含むことを特徴とする、請求項13に記載の抗体又はその機能的断片の一つ。
【請求項15】
前記異なる種がヒトであることを特徴とする、請求項14に記載のキメラ抗体又はその機能的断片の一つ。
【請求項16】
2004年7月1日にCNCM(パリ、パスツール研究所)に番号I−3249で寄託されたマウスハイブリドーマであって、ヒトインスリン様成長因子I受容体IGF−IRおよびインスリン/IGF−Iハイブリッド受容体(ハイブリッド−R)に結合し得る抗体を生産するマウスハイブリドーマ。
【請求項17】
請求項1、2、5、6、9、10、13〜15のいずれか一つに記載の抗体もしくはその機能的断片の一つ、又は請求項3、4、7、8、11、12もしくは16に記載のハイブリドーマによって産生される抗体もしくはその機能的断片の一つから成る化合物を有効成分として含む組成物。
【請求項18】
同時の使用、別個の使用又は連続した使用を目的とした組合せ製品として、抗体、細胞傷害性/細胞増殖抑制性物質、並びに/又はIGF−I及び/もしくはEGFに対する受容体のそれぞれのチロシンキナーゼ活性の阻害剤をさらに含むことを特徴とする、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
薬剤としての請求項17又は18に記載の組成物。
【請求項20】
IGF−I受容体の過剰発現及び/もしくは異常な活性化に関連する疾患、並びに/又はIGF1もしくはIGF2とIGF−IRとの相互作用が介在するシグナル伝達経路の過剰な活性化に関連する疾患の予防又は治療を目的とする薬剤の調製のための、請求項1、2、5、6、9、10、13〜15のいずれか一つに記載の抗体もしくはその機能的断片の一つ、又は請求項3、4、7、8、11、12もしくは16に記載のハイブリドーマにより産生される抗体もしくはその機能的断片の一つ、及び/又は請求項17〜19のいずれか一つに記載の組成物の使用方法。
【請求項21】
腫瘍特性を有する細胞への正常細胞の形質転換を阻害することを目的とする薬剤の調製のための、請求項20に記載の使用方法。
【請求項22】
腫瘍細胞の成長及び/又は増殖を阻害することを目的とする薬剤の調製のための、請求項20に記載の使用方法。
【請求項23】
癌の予防又は治療を目的とする薬剤の調製のための、請求項20〜22のいずれか一つに記載の使用方法。
【請求項24】
前記癌が、前立腺癌、骨肉腫、肺癌、乳癌、子宮内膜癌又は結腸癌から選択される癌であることを特徴とする、請求項23に記載の使用方法。
【請求項25】
乾癬又はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療を目的とする薬剤の調製のための、請求項20〜22のいずれか一つに記載の使用方法。
【請求項26】
IGF−I受容体の異常な存在が疑われる生体試料から、IGF−I受容体の過剰発現又は低発現をin vitroで分析する方法であって、前記生体試料を、請求項1、2、5、6、9、10、13〜15のいずれか一つに記載の抗体又は請求項3、4、7、8、11、12もしくは16に記載のハイブリドーマにより産生される抗体と接触させることを特徴とする方法。
【請求項27】
ハイブリッド−RのアイソフォームA及び/もしくはアイソフォームBと結合することができ、且つ/又はその天然リガンドの結合を阻害することができることを特徴とする、請求項1、2、5、6、9、10、13〜15のいずれか一つに記載の抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−153692(P2012−153692A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−38645(P2012−38645)
【出願日】平成24年2月24日(2012.2.24)
【分割の表示】特願2007−523178(P2007−523178)の分割
【原出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(506331240)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE MEDICAMENT
【Fターム(参考)】