説明

新規クマリニルエチン金錯体及び当該金錯体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 電圧印加により青色の発光を示す有機エレクトロルミネッセンス素子及びその有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料等として有用な新規クマリニルエチン金錯体を提供する。
【解決手段】 例えば(4−トリフルオロメチル−7−クマリニルエチニル)(トリフェニルホスフィン)金などの新規クマリニルエチン金錯体及びそれを利用した有機エレクトロルミネッセンス素子の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)用発光材料等として有用な新規クマリニルエチン金錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エチニル基を有する化合物の金錯体としては、例えば、フェニルエチニル金錯体が開示されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。しかしながら、本願発明の新規クマリニルエチン金錯体及び当該金錯体を発光材料として用いた有機エレクトロルミネッセンス素子については全く知られていなかった。
【非特許文献1】Journal of Organometallic Chemistry.,484,209(1994)
【非特許文献2】Journal of Chemical Society, Dalton Trans.,411(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、即ち、電圧印加により青色の発光を示す有機エレクトロルミネッセンス素子及びその有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料等として有用な新規クマリニルエチン金錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、一般式(1)
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、Lは、単座配位子、Zは、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、シアノ基又はジアルキルアミノ基を示し、nは、0〜5の整数である。又、複数のZは、それぞれ同一又は異なっていても良く、Zが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はジアルキルアミノ基の場合、隣接している基同士が結合して環を形成していても良い。)
で示される新規クマリニルエチン金錯体によって解決される。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、電圧印加により青色の発光を示す有機エレクトロルミネッセンス素子及びその有機エレクトロルミネッセンス素子用発光材料等として有用な新規クマリニルエチン金錯体を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の新規クマリニルエチン金錯体は、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Lは、単座配位子、Zは、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲノアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、シアノ基又はジアルキルアミノ基を示し、nは、0〜5の整数である。又、複数のZは、それぞれ同一又は異なっていても良く、Zが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はジアルキルアミノ基の場合、隣接している基同士が結合して環を形成していても良い。
【0009】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0010】
前記アルキル基としては、炭素数1〜20、特に炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0011】
前記ハロゲノアルキル基としては、炭素数1〜20、特に炭素数1〜12のハロゲノアルキル基が好ましく、例えば、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロウンデシル基、パーフルオロドデシル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0012】
前記アルケニル基としては、炭素数2〜20、特に炭素数2〜12のアルケニル基が好ましく、例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0013】
前記アリール基としては、炭素数6〜20、特に6〜12のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ジメチルナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0014】
前記アラルキル基としては、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基、インデニルメチル基、ビフェニルメチル基などが挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0015】
前記アルコキシ基としては、特に炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンタノキシ基、ヘキサノキシ基、ヘプタノキシ基、オクタノキシ基、ノナノキシ基、デカノキシ基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0016】
前記アリールオキシ基としては、特に炭素数6〜14のアリールオキシ基が好ましく、例えば、フェノキシ基、トリロキシ基、キシリロキシ基、ナフトキシ基、ジメチルナフトキシ基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0017】
前記ジアルキルアミノ基としては、特に炭素数2〜10のジアルキルアミノ基が好ましく、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等が挙げられる。なお、これらの基は、その異性体を含む。
【0018】
又、Zが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はジアルキルアミノ基の場合、隣接している基同士が結合して環を形成しても良く、形成される環としては、例えば、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、ベンゼン環、ナフタレン環、テトラヒドロフラン環、ベンゾピラン環、N−メチルピロリジン環、N−メチルピペリジン環等が挙げられる。
【0019】
なお、Lは、単座配位子であり、金原子に配位出来得る単座配位子ならば特に限定はされないが、好ましくは、一般式(2)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、R、R及びR3は、それぞれ同一又は異なっていても良く、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を示し、隣接している基同士が結合して環を形成していても良い。)
で示されるリン化合物、又は一般式(3)
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、R4及びR5は、それぞれ同一又は異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、シアノ基又はジアルキルアミノ基を示し、隣接している基同士が結合して環を形成しても良い。)
で示されるピリジン化合物である。
【0024】
前記の一般式(2)において、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なっていても良く、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数5〜8のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ジメチルナフチル基等の炭素数6〜12のアリール基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含み、隣接している基同士が結合して環を形成していても良い。
【0025】
前記の一般式(3)において、R及びRは、それぞれ同一又は異なっていても良く、例えば、水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等の炭素数2〜20のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ジメチルナフチル基等の炭素数6〜12のアリール基;ベンジル基、ナフチルメチル基、インデニルメチル基、ビフェニルメチル基等の炭素数7〜20のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンタノキシ基、ヘキサノキシ基、ヘプタノキシ基、オクタノキシ基、ノナノキシ基、デカノキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;フェノキシ基、トリロキシ基、キシリロキシ基、ナフトキシ基、ジメチルナフトキシ基等の炭素数6〜14のアリールオキシ基;ニトロ基;シアノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等の炭素数2〜10のジアルキルアミノ基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。又、隣接している基同士が結合して環を形成していても良く(ニトロ基及びシアノ基の場合を除く)、形成される環としては、例えば、キノリン、イソキノリン、テトラヒドロキノリン、テトラヒドロイソキノリン、2,3−シクロペンテノピリジン、2,3−シクロヘプテノピリジン、2,3−シクロドデセノピリジン、7−アザインドール、ノルハルマン等が挙げられる。
【0026】
前記のR、R、R、R及びRは、その炭素原子に結合している水素原子が、更にハロゲン原子、アルキル基、ハロゲノアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、シアノ基又はジアルキルアミノ基等で置換されていても良い。なお、これらの置換基は、前記のR及びRで示される基と同義である。
【0027】
前記の一般式(2)で示されるリン化合物の具体例としては、例えば、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィン、(4−ブロモフェニル)ジフェニルホスフィン、ジアリルフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、4−(ジメチルアミノ)フェニルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジフェニル(2−メトキシフェニル)ホスフィン、ジフェニル(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン、ジフェニルプロピルホスフィン、ジフェニル−2−ピリジルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、ジフェニルビニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、イソプロピルジフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−2−フリルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−クロロフェニル)ホスフィン、トリス(3−クロロフェニル)ホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(3−フルオロフェニルホスフィン)、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6−トリメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2,4,6−トリメチルフェニル)ホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、ベンジルジフェニルホスフィン、ビス(2−メトキシフェニル)フェニルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、2−(ジ−t−ブチルホスフィノ)ビフェニル、2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル、ネオメンチルジフェニルホスフィン、p−トリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、2,4,4−トリメチルペンチルホスフィン、トリ(1−ナフチル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン等が挙げられる。
【0028】
前記の一般式(3)で示されるピリジン化合物の具体例としては、例えば、ピリジン、ピコリン、2−エチルピリジン、2−プロピルピリジン、4−プロピルピリジン、4−ブチルピリジン、4−イソブチルピリジン、ルチジン、コリジン、エチルメチルピリジン、ジエチルピリジン、2−メチル−5−ブチルピリジン、4−(5−ノニル)ピリジン、2,6−ジプロピルピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、4−ピペリジノピリジン、4−ピロリジノピリジン、2−クロロピリジン、2,6−ジクロロピリジン、キノリン、メチルキノリン、ジメチルキノリン等が挙げられる。なお、これらのピリジン化合物は、各種異性体を含む。
【0029】
前記の一般式(1)で示される新規クマリニルエチン金錯体の具体例としては、例えば、式(4)や式(5)
【0030】
【化4】

【0031】
で示される(7−クマリニルエチニル)(トリフェニルホスフィン)金(I)[Au(PPh)(7CmE)]や(4−トリフルオロメチル−7−クマリニルエチニル)(トリフェニルホスフィン)金(I)[Au(PPh)(4−CF−7CmE)]等が挙げられる。
【0032】
前記の一般式(1)で示される新規クマリニルエチン金錯体は、例えば、反応工程式(1)
【0033】
【化5】

【0034】
(式中、Z、n及びLは、前記と同義であり、Xは、ハロゲン原子を示す。)
で示されるように、塩基の存在下、エチニル基で置換されたクマリン化合物とモノハロゲノ金化合物を反応させることによって得られる。なお、モノハロゲノ金化合物は、ハロゲン化金酸をホスフィン又はスルフィドで還元した後、単座配位子(L)を反応させることによって得られる(例えば、非特許文献3参照)。
【非特許文献3】実験化学講座,第4版,丸善社,455頁,18巻(1991年)
【0035】
又、エチニル基で置換されたクマリン化合物は、例えば、反応工程式(2)
【0036】
【化6】

【0037】
(式中、式中、Z及びnは、前記と同義である。)
で示されるように、パラジウム触媒の存在下、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基で置換されたクマリン化合物と2−メチル−3−ブチン−2−オールとを反応させて1−ジメチルヒドロキシメチル−2−クマリニルアセチレン化合物とし、次いで、これに塩基を反応させることによって得られる(非特許文献4参照、又、後の参考例2及び4にも記載)。
【非特許文献4】Journal of the American Chemical Socirty,109,5478(1987)
【0038】
なお、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基で置換されたクマリン化合物は、例えば、反応工程式(3)
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、式中、Z及びnは、前記と同義である。)
で示されるように、塩基の存在下、ヒドロキシ基で置換されたクマリン化合物とトリフルオロメタンスルホン酢酸無水物とを反応させることによって得られる(非特許文献4参照、又、後の参考例1及び3に記載)。
【0041】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子について、その実施形態を以下に示す。
【0042】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記の新規クマリニルエチン金錯体を、有機化合物薄層のうちの少なくとも1層に含むものであり、有機エレクトロルミネッセンス素子としては、好ましくは一対の電極間に単層もしくは多層の有機化合物層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子である。なお、有機化合物層とは、発光層、電子注入層又は正孔輸送層である。
【0043】
単層型の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極との間に発光層を有する。発光層は、発光材料を含有し、更に、陽極から注入した正孔、又は陰極から注入した電子を発光材料まで輸送させるための正孔注入材料或いは電子注入材料を含有しても良い。
【0044】
多層型の有機エレクトロルミネッセンス素子としては、例えば、(陽極/正孔注入層/発光層/陰極)、(陽極/発光層/電子注入層/陰極)、(陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極)等の多層構成で積層したものが挙げられる。
【0045】
発光層には、前記の新規クマリニルエチン金錯体の他に、例えば、公知の発光材料、ドーピング材料、正孔注入材料(例えば、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、イミダゾールチオン、ピラゾリン、ピラゾロン、テトラヒドロイミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ヒドラゾン、アシルヒドラゾン、ポリアリールアルカン、スチルベン、ブタジエン、ベンジジン型トリフェニルアミン、スチリルアミン型トリフェニルアミン、ジアミン型トリフェニルアミン等及びそれらの誘導体、およびポリビニルカルバゾール、ポリシラン、導電性高分子等の高分子材料等)、電子注入材料(例えば、フルオレノン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、チオピランジオキシド、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ペリレンテトラカルボン酸、フレオレニリデンメタン、アントラキノジメタン、アントロン等及びそれらの誘導体等)からなる群より選ばれる少なくともひとつの材料を存在させても良い。
【0046】
新規クマリニルエチン金錯体の有機化合物層への添加量は、有機化合物層1gに対して、0.005〜1gである。
【0047】
この有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光材料、他のドーピング材料、正孔注入材料や電子注入材料を組み合わせて使用することも出来る。更に、正孔注入層、発光層、電子注入層は、それぞれ二層以上の層構成により形成されても良い。その際には、正孔注入層の場合、電極から正孔を注入する層を正孔注入層、正孔注入層から正孔を受け取り発光層まで正孔を輸送する層を正孔輸送層と呼ぶ。同様に、電子注入層の場合、電極から電子を注入する層を電子注入層、電子注入層から電子を受け取り発光層まで電子を輸送する層を電子輸送層と呼ぶ。これらの各層は、材料のエネルギー準位、耐熱性、有機化合物層もしくは金属電極との密着性等の各要因により選択されて使用される。
【0048】
新規クマリニルエチン金錯体と共に有機化合物層に使用出来る発光材料又はホスト材料としては、例えば、縮合多環芳香族(例えば、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、テトラセン、ペンタセン、コロネン、クリセン、フルオレセイン、ペリレン、ルブレン及びそれらの誘導体等)、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ペリノン、フタロペリノン、ナフタロペリノン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、アルダジン、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、ピラジン、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、イミン、ジフェニルエチレン、ビニルアントラセン、カルバゾール系誘導体、ピラン、チオピラン、ポリメチン、メロシアニン、イミダゾールキレート化オキシノイド化合物、キナクリドン、ルブレン、スチルベン系誘導体及びテトラフェニルシラン等の芳香族ケイ素化合物、テトラフェニルゲルマニウム等の芳香族ゲルマニウム化合物及び蛍光色素等が挙げられる。
【0049】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において使用出来る公知の正孔注入材料の中で、更に効果的な正孔注入材料は、芳香族三級アミン誘導体又はフタロシアニン誘導体であり、具体的には、例えば、トリフェニルアミン、トリトリルアミン、トリルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下、TPDと記載)、N,N,N’,N’−(4−メチルフェニル)−1,1’−フェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ−α−ナフチル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下α−NPDと記載)、N,N,N’,N’−(4−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−(メチルフェニル)−N,N’−(4−n−ブチルフェニル)−フェナントレン−9,10−ジアミン、N,N−ビス(4−ジ−4−トリルアミノフェニル)−4−フェニル−シクロヘキサン等、又はこれらの芳香族三級アミン骨格を有したオリゴマー或いはポリマー等の芳香族三級アミン誘導体;H2Pc、CuPc、CoPc、NiPc、ZnPc、PdPc、FePc、MnPc、ClAlPc、ClGaPc、ClInPc、ClSnPc、Cl2 SiPc、(HO)AlPc、(HO)GaPc、VOPc、TiOPc、MoOPc、GaPc−O−GaPc等のフタロシアニン誘導体やナフタロシアニン誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、更に効果的な公知の電子注入材料としては、金属錯体化合物又は含窒素五員環誘導体(好ましくは、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール又はトリアゾール誘導体)であり、具体的には、例えば、8−ヒドロキシキノリナートリチウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)亜鉛、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)銅、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)マンガン、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(以下、Alqと記載。)、トリス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリナート)クロロガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(o−クレゾラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリナート)(2−ナフトラート)ガリウム等の金属錯体化合物;2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサゾール、ジメチルPOPOP(ここでPOPOPは1,4−ビス(5−フェニルオキサゾール−2−イル)ベンゼンを示す。)、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル)]ベンゼン、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル)−4−tert−ブチルベンゼン]、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−チアジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)−1,3,4−トリアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−トリアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルトリアゾリル)]ベンゼン等の含窒素五員環誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、電荷注入性向上のために発光層と電極との間に無機化合物層を設けることも出来る。
【0052】
前記無機化合物層としては、例えば、LiF等のアルカリ金属フッ化物;BaF、SrF等のアルカリ土類金属フッ化物;LiO等のアルカリ金属酸化物;RaO、SrO等のアルカリ土類金属酸化物が使用される。
【0053】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極に使用される導電性材料としては、4eVより大きな仕事関数を持つものが適しており、例えば、炭素原子、アルミニウム、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、タングステン、銀、金、白金、パラジウム及びそれらの合金、ITO(酸化インジウムに酸化スズを5〜10%添加した物質)基板、NESA基板に使用される酸化スズ、酸化インジウム等の酸化金属、更にポリチオフェンやポリピロール等の有機導電性樹脂を用いることが出来る。
【0054】
陰極に使用される導電性物質としては、4eVより小さな仕事関数を持つものが適しており、例えば、マグネシウム、カルシウム、錫、鉛、チタニウム、イットリウム、リチウム、ルテニウム、マンガン、アルミニウム等及びそれらの合金が用いられる。ここで合金とは、マグネシウム/銀、マグネシウム/インジウム、リチウム/アルミニウム等が挙げられる。合金の比率は、蒸着源の温度、雰囲気、真空度等により制御され、特に限定されない。
【0055】
陽極及び陰極は、必要があれば二層以上の層構成により形成されていても良い。
【0056】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも一方の面は素子の発光波長領域において透明であることが望ましい。又、基板も透明であることが望ましい。
【0057】
透明電極は、前記の導電性材料を使用して、蒸着又はスパッタリング等の方法で所定の透光性が確保するように設定して得られる。
【0058】
発光面の電極は、光透過率を10%以上にすることが望ましい。
【0059】
基板は、機械的、熱的強度を有し、透明性を有するものであれば特に限定されるものではないが、好ましくはガラス基板又は透明性樹脂フィルムが使用される。
【0060】
透明性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0061】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、温度、湿度、雰囲気等に対する安定性の向上のために、素子の表面に保護層を設けるか、又はシリコンオイル、樹脂等により素子全体を保護しても良い。
【0062】
又、有機エレクトロルミネッセンス素子の各層の形成は、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ、イオンプレーティング等の乾式成膜法、又はスピンコーティング、ディッピング、フローコーティング等の湿式成膜法のいずれかを適用することが出来る。膜厚は特に制限されないが、好ましくは5nm〜10μm、更に好ましくは10nm〜0.2μmである。
【0063】
湿式成膜法の場合、各層上に本発明の新規クマリニルエチン金錯体を、例えば、エタノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の溶媒に溶解又は分散させて薄膜を調製することが出来る。
【0064】
乾式成膜法としては、真空蒸着が好ましく、真空蒸着装置を用い、真空度2×10−3Pa以下、基板温度を室温にして、蒸着セルに入れた本発明の新規クマリニルエチン金錯体を加熱し、該材料を蒸発させることにより薄膜を調製することが出来る。この時、蒸着源の温度をコントロールするためには、蒸着セルに接触させた熱電対や非接触の赤外線温度計等が好適に用いられる。又、蒸着量をコントロールするためには、蒸着膜厚計が好適に用いられる。
【0065】
蒸着膜厚計としては、蒸着源に対向して設置された水晶振動子を用い、前記水晶振動子表面に付着した蒸着膜の重量を該振動子の発振周波数の変化から計測し、この計測重量から膜厚をリアルタイムに求める形式のものが好適に用いられる。
【0066】
CBP等のホスト材料と新規クマリニルエチン金錯体の共蒸着は、それぞれに蒸着源を用い、且つ温度をそれぞれ独立に制御することによって行うことが出来る。
【0067】
ここで、いずれの有機薄膜層も、成膜性向上、膜のピンホール防止等のために、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース等の絶縁性樹脂及びそれらの共重合体、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等の光導電性樹脂、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂等の樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を使用しても良い。
【0068】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、例えば、壁掛けテレビや携帯電話のフラットパネルディスプレイ等の平面発光体、複写機、プリンター、液晶ディスプレイのバックライト、又は計器類等の光源、表示板、標識灯等に利用出来る。
【実施例】
【0069】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0070】
参考例1(7−トリフルオロメタンスルホニルオキシクマリンの合成)
7−ヒドロキシクマリン4.05g(25mmol)、塩化メチレン25ml及びトリエチルアミン4.5ml(32.5mmol)を混合して液温を氷浴で0℃にした後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物4.6ml(27.5mmol)をゆるやかに滴下した。滴下後、ほぼ黒色に変化した反応溶液を、攪拌しながら0℃にて3時間反応させた。反応終了後、反応溶液に水100ml及びジエチルエーテル150mlを加えて分液し、得られた有機層を濃度1mol/Lの塩酸60ml、水100mlの順で洗浄し、次いで硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、濾液からジエチルエーテルを減圧下で留去し、得られた残滓を70℃に加温したヘキサン300mlに溶解させた。その後、不溶物を濾過した後、濾液を冷却することにより、オレンジ針状結晶として目的化合物6.6gを得た(収率90%)。
7−トリフルオロメタンスルホニルオキシクマリンの物性値は以下の通りであった。
【0071】
H−NMR(300MHz,CDCl,δ(ppm))7.74−7.71(d、1H)、7.61−7.58(d、1H)、7.29−7.21(m、2H)、6.52−6.51(d、1H)
EI−MS(m/e):294(M
CI−MS(m/z):295(MH
【0072】
参考例2(7−クマリニルエチン[7CmE]の合成)
第1工程;ジメチルヒドロキシメチル−(7−クマニル)アセチレンの合成
アルゴンガス雰囲気下、25mlのシュレンク管に、7−トリフルオロメタンスルホニルオキシクマリン1.47g(5mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム57.8mg(0.05mmol)、1−メチルピペリジン5mL及び2−メチル−3−ブチン−2−オール530μL(5.5mmol)を加え、攪拌しながら80℃で7時間半反応させた。
反応終了後、反応液に、飽和塩化アンモニウム水溶液20mlを加えた後、水層をジエチルエーテル50mlで抽出した。有機層を水50mlで洗浄した後、減圧下で濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/3)で精製し、黄色固体として、ジメチルヒドロキシメチル−(7−クマニル)アセチレン0.94g得た(収率83%)。
ジメチルヒドロキシメチル−(7−クマニル)アセチレンの物性値は以下の通りであった。
【0073】
H−NMR(300MHz,CDCl,δ(ppm)):7.69−7.68(d,1H)、7.41−7.39(d,1H)、7.34−7.27(m,2H)、6.43−6.40(d,1H)、2.27(s,1H)、1.64(s,6H)
CI−MS(M/z):229(MH
【0074】
第2工程;7−クマリニルエチンの合成
アルゴンガス雰囲気下、還流冷却管を備えた50mLの2口フラスコ内に、ジメチルヒドロキシメチル−(7−クマニル)アセチレン0.93g(4.07mmol)、水酸化ナトリウム171mg(8.55mmol)及びトルエン20mlを加えた後、攪拌しながら120℃で5時間反応させた。反応終了後、反応液に、ジエチルエーテル30mlを加えた後、飽和塩化アンモニウム水溶液30mlで洗浄した。有機層を減圧下で濃縮した後、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/4〜1/3)で精製し、薄黄色粉末として、7−クマリニルエチン0.39g得た(収率57%)。
【0075】
H−NMR(300MHz,CDCl,δ(ppm))7.70−7.67(m,1H)、7.45−7.35(m,3H)、6.45−6.42(d,1H)、3.27(s,1H)
EI−MS(M/e):170(M
CI−MS(M/e):171(MH
【0076】
実施例1((7−クマリニルエチニル)(トリフェニルホスフィン)金(I)[Au(PPh)(7CmE)]の合成)
アルゴン雰囲気下、25mlのシュレンク管に、Au(PPh)Cl0.20g(0.40mmol)、7−クマリニルエチン(102mg,0.60mmol)及びエタノール(8ml)を加えた後、2.55mol/Lナトリウムエトキシドエタノール溶液165μl(0.42mmol)をゆるやかに滴下し、攪拌しながら室温で15時間反応させた。反応終了後、得られた固体を濾過し、濾物をエタノール5mlで3回、水5mlで4回、エタノール5mlで3回洗浄した後、減圧下で乾燥させ、薄黄色粉末として、目的化合物0.22g得た(収率88%)。
(7−クマリニルエチニル)(トリフェニルホスフィン)金は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0077】
H−NMR(400MHz,CDCl,δ(ppm))δ:7.66−7.32(m,19H)、6.36〜6.33(d,1H)
31P−NMR(160MHz,CDCl,δ(ppm)):42.6
FAB−MS(M/z):629(M+H)
発光分析(CHCl,77K,Ex250nm,λ(nm)):512、555
元素分析 観測値 C:55.36%、H:3.00%
理論値 C:55.43%、H:3.21%
【0078】
参考例3(4−トリフルオロメチル−7−トリフルオロメタンスルホニルオキシクマリンの合成)
4−トリフルオロメチル−7−ヒドロキシクマリン575mg(2.5mmol)、塩化メチレン2.5ml及びトリエチルアミン450μl(3.3mmol)を混合て液温を氷浴で0℃にした後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物460μl(2.8mmol)をゆるやかに滴下した。滴下後、ほぼ黒色に変化した反応溶液を、攪拌しながら0℃にて1時間反応させた。反応終了後、反応溶液に水10ml及びジエチルエーテル15mlを加えて分液し、得られた有機層を濃度1mol/Lの塩酸60ml、水10mlの順で洗浄し、次いで硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後、濾液からジエチルエーテルを減圧下で留去し、得られた残滓を70℃に加温したヘキサン10mlに溶解させた。その後、不溶物を濾過した後、濾液を冷却することにより、薄橙色結晶として、目的化合物0.84gを得た(収率93%)。
4−トリフルオロメチル−7−トリフルオロメタンスルホニルオキシクマリンの物性値は以下の通りであった。
【0079】
H−NMR(300MHz,CDCl,δ(ppm)):7.87−7.83(m、1H)、7.39−7.30(m、2H)、6.88−6.87(d、1H)
EI−MS(m/e):362(M
CI−MS(m/z):363(MH
【0080】
参考例4(4−トリフルオロメチル−7−クマリニルエチン[4−CF−7CmE]の合成)
第1工程;ジメチルヒドロキシメチル−(4−トリフルオロメチル−7−クマニル)アセチレンの合成
アルゴン雰囲気下、25mlのシュレンク管に、4−トリフルオロメチル−7−トリフルオロメタンスルホニルオキシクマリン840mg(2.3mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム26.6mg(0.023mmol)、1−メチルピペリジン2.5mL及び2−メチル−3−ブチン−2−オール250μL(2.55mmol)を加え、攪拌しながら80℃で2時間、100℃で1時間反応させた。
反応終了後、反応液に、飽和塩化アンモニウム水溶液15mlを加えた後、水層を塩化メチレン40mlで抽出した。有機層を減圧下で濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製し、黄色結晶として、ジメチルヒドロキシメチル−(4−トリフルオロメチル−7−クマニル)アセチレン0.51g得た(収率74%)。
ジメチルヒドロキシメチル−(4−トリフルオロメチル−7−クマニル)アセチレンの物性値は以下の通りであった。
【0081】
H−NMR(300MHz,CDCl,δ(ppm)):7.67−7.62(m,1H)、7.43−7.35(m,2H)、6.79−6.79(d,1H)、2.12(s,1H)、1.65(s,6H)
EI−MS(M/e):296(M
CI−MS(M/e):297(MH
【0082】
第2工程;4−トリフルオロメチル−7−クマニルエチンの合成
アルゴン雰囲気下、還流冷却管を備えた20mLの2口フラスコに、ジメチルヒドロキシメチル−(4−トリフルオロメチル−7−クマニル)アセチレン500mg(1.7mmol)、水酸化ナトリウム210mg(5.25mmol)及びトルエン9mlを加え、攪拌しながら120℃で3時間反応させた。反応終了後、反応液に、水30ml及びジエチルエーテル90mlを加えた。次いで、1mol/L塩酸でpH7とした後に分液し、有機層を減圧下で濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製し、輝黄色固体として、4−トリフルオロメチル−7−クマニルエチン0.14g得た(収率35%)。
4−トリフルオロメチル−7−クマニルエチンの物性値は以下の通りであった。
【0083】
H−NMR(300MHz,CDCl,δ(ppm)):7.71−7.66(m,1H)、7.51−7.30(m,2H)、6.81−6.77(d,1H)、3.33(s,1H)
EI−MS(M/e):238(M
CI−MS(M/e):239(MH
【0084】
実施例2((4−トリフルオロメチル−7−クマリニルエチニル)(トリフェニルホスフィン)金(I)[Au(PPh)(4−CF−7CmE)]の合成)
実施例1において、7−クマリニルエチンを4−トリフルオロメチル−7−クマリニルエチンに」変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。その結果、薄黄色粉末として、目的化合物を0.23g得た(収率98%)。
(4−トリフルオロメチル−7−クマリニルエチニル)(トリフェニルホスフィン)金(I)は、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0085】
H−NMR(400MHz,CDCl,δ(ppm)):7.61−7.26(m,18H)、6.71〜6.71(d,1H)
31P−NMR(160MHz,CDCl,δ(ppm)):42.6
FAB−MS(M/z):697(M+H)
発光分析(CHCl,77K,Ex250nm,λ(nm)):531,571
元素分析 観測値 C:51.71%、H:2.77%
理論値 C:51.74%、H:2.75%
【0086】
実施例3(Au(PPh)(7CmE)を有機発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の作製)
イーエッチシー製インジウム錫酸化物(以下、ITOと略す)被膜付きガラスを透明電極基板として用い、アルバック機工製真空蒸着装置を使用して、同基板上に2×10−3Pa以下の真空度で、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(以下α−NPDと略す)からなるホール輸送層3を膜厚40nm、4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(以下、CBPと略す)中に、Au(PPh)(7CmE)を10質量%含む発光層4を膜厚20nm、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−ターシャリブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(以下、TAZと略す)からなるホールブロック層5を30nm、電極6としてアルミニウム(Al)を100nm、順次真空蒸着させてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。
なお、真空蒸着は、基板に対向して置かれた坩堝に原料を仕込み、坩堝ごと原料を加熱することによって行った。
前記素子のITO電極2を正極、Al電極6を負極として通電し電極間電圧を上げていくと、+6V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の発光を開始し、+18Vにおいて115cd/mで発光した。
この素子の発光に係る電流の効率を以下の式で求めた。
【0087】
電流効率=(単位面積当りの発光輝度)/(単位面積当り電流密度)
【0088】
このようにして求めた電流効率は+11Vで0.16cd/Aであった。
【0089】
この素子の発光色を、プレサイスゲージ製有機EL評価装置を用いて評価した。電極間電圧+18Vにおいて得られたこの素子の発光スペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値は、x=0.16,y=0.11であった。
【0090】
実施例4(Au(PPh)(7CmE)を有機発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の作製(2))
ホールブロック層5とAl電極6の間にトリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(以下、Alqと略す)からなる電子輸送層7を膜厚30nmで挿入した以外は、実施例3と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。
前記素子のITO電極を正極、Al電極を負極として通電し電極間電圧を上げていくと、+8V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の発光を開始し、+22Vにおいて117cd/mで発光した。この素子の最大電流効率は+16Vにおける0.28cd/Aであった。
【0091】
電極間電圧+22Vにおいて得られたこの素子の発光スペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値は、=0.20,y=0.20であった。
【0092】
実施例5(Au(PPh)(7CmE)を有機発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の作製(3))
1,3−ビス−(N−カルバゾリル)ベンゼン(以下、mCPと略す)中にAu(PPh)(7CmE)を10質量%含む発光層4を膜厚20nm真空蒸着した以外は、実施例3と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。
前記素子のITO電極を正極、Al電極を負極として通電し電極間電圧を上げていくと、+11V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の青白色の発光を開始し、+22Vにおいて47cd/mで発光した。この素子の最大電流効率は+12Vにおける0.09cd/Aであった。
【0093】
実施例6(Au(PPh)(7CmE)を有機発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の作製(4))
mCP中にAu(PPh)(7ECm)を10質量%含む発光層4を膜厚20nm真空蒸着した以外は、実施例4と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。
前記素子のITO電極を正極、Al電極を負極として通電し電極間電圧を上げていくと、+11V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の青白色の発光を開始し、+24Vにおいて37cd/mで発光した。この素子の最大電流効率は+15Vにおける0.19cd/Aであった。
【0094】
実施例7.Au(PPh)(4−CF−7CmE)を有機発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
ITO被膜付きガラスを透明電極基板として用い、アルバック機工製真空蒸着装置を使用して、同基板上に2×10−3Pa以下の真空度で、α−NPDからなるホール輸送層3を膜厚40nm、CBP中にAu(PPh3)(4−CF−7CmE)を10質量%含む発光層4を膜厚20nm、TAZからなるホールブロック層5を30nm、電極6としてアルミニウム(Al)を100nm、順次真空蒸着させてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。
前記素子のITO電極を正極、Al電極を負極として通電し電極間電圧を上げていくと、+6V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の発光を開始し、+20Vにおいて85cd/mで発光した。この素子の最大電流効率は+13Vにおける0.11cd/Aであった。
【0095】
電極間電圧+20Vにおいて得られたこの素子の発光スペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値は、x=0.15,y=0.09であった。
【0096】
実施例8(Au(PPh)(4−CF−7CmE)を有機発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の作製(2))
ホールブロック層5とAl電極6の間にAlqからなる電子輸送層7を膜厚30nmで挿入した以外は実施例7と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。
前記素子のITO電極を正極、Al電極を負極として通電し電極間電圧を上げていくと、+7V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の発光を開始し、+22Vにおいて146cd/mで発光した。この素子の最大電流効率は+17Vにおける0.29cd/Aであった。
【0097】
電極間電圧+22Vにおいて得られたこの素子の発光スペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値は、x=0.16,y=0.14であった。
【0098】
実施例9(Au(PPh)(4−CF−7CmE)を有機発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の作製(3))
mCP中にAu(PPh)(4−CF−7CmE)を10質量%含む発光層4を膜厚20nm真空蒸着した以外は、実施例7と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。
前記素子のITO電極を正極、Al電極を負極として通電し電極間電圧を上げていくと、+7V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の発光を開始し、+20Vにおいて65cd/mで発光した。この素子の最大電流効率は+14Vにおける0.14cd/Aであった。
【0099】
電極間電圧+20Vにおいて得られたこの素子の発光スペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値は、x=0.15,y=0.11であった。
【0100】
実施例10(Au(PPh)(4−CF−7CmE)を有機発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の作製(4))
ホールブロック層5とAl電極6の間にAlqからなる電子輸送層7を膜厚30nmで挿入した以外は実施例9と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。
前記素子のITO電極を正極、Al電極を負極として通電し電極間電圧を上げていくと、+9V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の発光を開始し、+24Vにおいて63cd/mで発光した。この素子の最大電流効率は+19Vにおける0.15cd/Aであった。
【0101】
電極間電圧+24Vにおいて得られたこの素子の発光スペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値は、x=0.27,y=0.19であった。
【0102】
実施例11(Au(PPh)(4−CF−7CmE)を有機発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子の作製(5))
n-ブチルトリフェニルゲルマニウム中にAu(PPh)(4−CF−7CmE)を10質量%含む発光層4を膜厚30nm真空蒸着し、ホールブロック層5とAl電極6の間にAlqからなる電子輸送層7を膜厚30nmで挿入した以外は、実施例7と同様にしてエレクトロルミネッセンス素子を作製した。
前記素子のITO電極を正極、Al電極を負極として通電し電極間電圧を上げていくと、+7V付近から素子は肉眼ではっきりと分かる程度の発光を開始し、+21Vにおいて145cd/mで発光した。この素子の最大電流効率は+16Vにおける0.32cd/Aであった。
【0103】
電極間電圧+24Vにおいて得られたこの素子の発光スペクトルより、JIS Z8701によって求めた色度座標の値は、x=0.15,y=0.12であった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、電界発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)用発光材料等として有用な新規クマリニルエチン金錯体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施例3の有機エレクトロルミネッセンス素子の概略図である。
【図2】実施例4の有機エレクトロルミネッセンス素子の概略図である。
【符号の説明】
【0106】
1 ガラス基板
2 ITO被膜(正極)
3 ホール輸送層
4 発光層
5 ホールブロック層
6 Al電極(負極)
7 電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Lは、単座配位子、Zは、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲノアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、シアノ基又はジアルキルアミノ基を示し、nは、0〜5の整数である。又、複数のZは、それぞれ同一又は異なっていても良く、Zが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はジアルキルアミノ基の場合、隣接している基同士が結合して環を形成していても良い。)
で示される新規クマリニルエチン金錯体。
【請求項2】
Lが、一般式(2)
【化2】

(式中、R、R及びR3は、それぞれ同一又は異なっていても良く、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基を示し、隣接している基同士が結合して環を形成していても良い。)
で示されるリン化合物、又は一般式(3)
【化3】

(式中、R4及びR5は、それぞれ同一又は異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、シアノ基又はジアルキルアミノ基を示し、隣接している基同士が結合して環を形成していても良い。)
で示されるピリジン化合物である、請求項1記載の新規クマリニルエチン金錯体。
【請求項3】
請求項1記載の新規クマリニルエチン金錯体が、有機化合物薄層のうちの少なくとも1層に含まれる有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
有機エレクトロルミネッセンス素子が、一対の電極間に発光層又は発光層を含む複数の有機化合物薄層を形成した有機エレクトロルミネッセンス素子である、請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−290750(P2006−290750A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110198(P2005−110198)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】