説明

新規シクロデキストリン誘導体

本発明の誘導体は、糖鎖とスペーサーアームとからなる分岐を有するシクロデキストリン誘導体であって、a)糖鎖が、スペーサーアームの末端に位置し、ガラクトース、グルコース、マンノース及びシアル酸から選択される1個以上の糖を含み、b)スペーサーアームが、糖鎖及びシクロデキストリンの間に位置し、少なくとも2個の置換又は非置換のヘキサン酸単位を含む骨格を有し、c)分岐が、シクロデキストリンの環を構成するグルコース1分子あたり1個存在すること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規なシクロデキストリン誘導体に関する。さらに詳しくは、医薬品工業の分野で有用な新規な分岐シクロデキストリン誘導体、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
標的指向性薬物送達システム(ターゲッティングDDS)は、作用させるべき標的に薬剤を効率よく特異的に送達する、いわゆるミサイル療法に有用であり、これまでも研究がされてきている。ターゲッティングDDSのための薬物キャリアには、標的を特異的に認識する機能を有する部分と薬物を輸送する機能を有する部分とが必要である。
標的の認識機能を担う部分として、糖鎖を利用することが研究されている。糖鎖は、細胞認識に重要な役割を果たしており、いくつかの細胞には糖特異的なレセプターが存在することが知られている。たとえば、肝実質細胞はガラクトース残基、クッパー細胞はマンノース残基およびグルコース残基をそれぞれ認識するレセプターをその表面に有している。これらの糖残基を有する物質は、それぞれのレセプターに結合し、エンドサイトーシスによって肝実質細胞またはクッパー細胞内に特異的に取り込まれる。また、インフルエンザウイルスは、シアル酸を末端に有する糖鎖を認識するレセプター(ヘマグルチニン)を表面に有しており、そのような糖鎖(を有する細胞)に特異的に結合する。
糖鎖による認識は、ターゲッティングDDSにおいて実際に有用であることがわかっている。たとえば、未修飾のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)をマウスに投与すると肝臓中にはほとんど蓄積されないのに対し、SODをマンノースまたはガラクトースで修飾したものを投与すると、それぞれ肝非実質細胞および肝実質細胞に特異的に送達され、投与後10分の時点で投与量の約60〜80%近くが肝臓に検出される(参考文献1)。
一方、薬物の輸送を担う部分としては、薬物を取り込んで錯体化合物を形成する様々な化合物(包接化合物)が検討されている。
シクロデキストリン(以下、「CD」と略称することがある)は、そのような包接化合物の1つであり、D−グルコピラノースがα−1,4結合したドーナツ形状を有する非還元性の環状オリゴ糖であって、外側が親水性、内部空洞が疎水性を示す。グルコピラノース分子が6、7、8個からなるものをそれぞれα−、β−、γ−CDと呼ぶ。CDは、物質の化学的安定化、溶解性の改善、液状物質の粉体化等の用途に利用されており、医薬品工業においても種々の目的で利用されているが、特に、ターゲッティングDDSのための薬物キャリアとしては、その疎水性空洞に医薬化合物をゲスト分子として立体選択的に包接することができること、生体に対して毒性がなく、抗原性も低いこと、等の利点を有する。
したがって、糖鎖で修飾したCDを用いる、糖−タンパクの相互作用を利用したターゲッティングDDSが検討されてきた。
たとえば、

(式中、「Man」はマンノース、「GlcNAc」はN−アセチル−D−グルコサミンを表す。以下も同じ)
の糖鎖を有するCD(以下「M6CD」という)、および

の糖鎖を有するCD(以下「M7CD」という)を合成し、薬物の包接および固定化コンカナバリンA(ConA)による認識について調べたところ、共に非常に高い薬物包接能およびタンパク認識能を有していた。
しかし、これらの分岐糖鎖を有するCDは、鶏卵(卵白オブアルブミン)からの天然オリゴ糖鎖アスパラギンの調製を必要とするため、大量に製造することが困難であり、薬物キャリアとしての実用化は実際上不可能である。
そのため、天然物由来糖鎖を使用せずに合成によって作製された糖鎖を有するCDも検討されている(参考文献2、表2参照)。近年は複数の糖鎖を有する糖クラスター型CDが合成されており、ガラクトース鎖を7本有するβ−CD(ヘプタGal−β−CD)は、ガラクトース鎖を1本有するもの(モノGal−β−CD)と比べて、薬物包接能およびレクチンとの結合能の両方において向上した。また、アームの長さを変えた一連のガラクトース鎖2本を有するCDを合成して調べると、アームが長い方がレクチンとの結合能が良かった。
しかし、これらの合成CDは、いずれも、薬物包接能およびレクチンとの結合能の両方において天然糖鎖を有するCDには及ばなかった。
参考文献1:
橋田充、「ドラッグデリバリーシステム」、東京化学同人(1995)
参考文献2:
服部憲治郎および稲津敏行、「糖鎖クラスターシクロデキストリンの合成およびレクチンタンパクと医薬品に対する二重認識について」、有機合成化学協会誌、Vol.59,No.8(2001)pp.742−754
【発明の開示】
本発明は、天然物由来の糖鎖を有するM6CDおよびM7CDに匹敵する高い標的タンパク認識能および薬物結合能を兼ね備え、容易に大量に製造可能な、新規CD誘導体およびその製造方法、ならびにこれらの化合物の標的指向性薬物送達キャリアとしての用途を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の構造の新規シクロデキストリン誘導体を開発し、本発明を完成した。
本発明のシクロデキストリン誘導体は、糖鎖とスペーサーアームとからなる分岐を有するシクロデキストリン誘導体であって、
a) 糖鎖が、スペーサーアームの末端に位置し、ガラクトース、グルコース、マンノースおよびシアル酸から選択される1個以上の糖を含み、
b) スペーサーアームが、糖鎖およびシクロデキストリンの間に位置し、少なくとも2個の置換または非置換のヘキサン酸単位を含む骨格を有し、
c) 分岐が、シクロデキストリンの環を構成するグルコース1分子あたり1個存在すること
を特徴とする。
スペーサーアームは、好ましくは2〜5個のアミノヘキサン酸単位を含む骨格を有し、さらに好ましくはグルコノ−〔NH(CHCO〕−NH−または(CH−S−(CH−CO〔NH(CHCO〕−NH−(式中、nは2〜5の整数を表す)で示される基である。
糖鎖は、好ましくはガラクトシル基、グルコシル基、マンノシル基またはシアル酸基(シアリル基)である。
特に好ましくは、本発明の誘導体は、ヘキサキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン(ここで、nは2〜5の整数を表す。以下も同じ);
ヘキサキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン;
ヘキサキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン;
ヘキサキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、およびオクタキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリンである。
また、本発明は、上記のシクロデキストリン誘導体の製造方法を提供する。本発明の方法は、ガラクトース、グルコース、マンノースおよびシアル酸から選択される1個以上の糖を含む糖鎖またはこの糖鎖と官能基を有する側鎖とを含む糖鎖ユニットと、官能基を有する側鎖とシクロデキストリンとを含むシクロデキストリンユニットまたは官能基を有するシクロデキストリンとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させることを特徴とする。
具体的には、糖鎖ユニットと、シクロデキストリンユニットとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させる;糖鎖とシクロデキストリンユニットとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させる;または、糖鎖ユニットと官能基を有するシクロデキストリンとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させることができる。
また、本発明の方法において、官能基を有する側鎖は、本発明のCD誘導体のスペーサーアームを構成する。
本発明は、上記のような本発明のシクロデキストリン誘導体を含む標的指向性薬物キャリアをも提供する。
さらに、本発明は、本発明のシクロデキストリン誘導体と、薬物とを含む標的指向性薬物をも提供する。
本発明によれば、天然糖鎖を結合したM6CDに匹敵する非常に高い糖鎖認識相互作用および薬物との包接相互作用を示す新規なCD誘導体化合物およびその製造方法が提供される。また、本発明によれば、M6CDに匹敵する非常に高い標的指向性および薬物との包接相互作用を有する薬物キャリア、および効率よく薬物が包接された糖鎖認識による非常に高い標的指向性を有する薬物も提供される。
本発明のCD誘導体は、安全性が高く、標的指向性および薬物包接能の両方が極めて高いので、所定の薬物を効率的に包接し、途中で薬物を放出することなく確実に特異的に標的部位まで輸送し、そこで糖特異的レセプターを介して薬物を標的細胞内に特異的に取り込ませることができる。したがって、本発明のCD誘導体は、ターゲッティングDDSにおける利用性が非常に高い。
しかも、本発明の化合物は、有機合成反応によって合成することができ、多大な時間と労力を必要とする困難な天然糖鎖の調製を必要としない。したがって、本発明のCD誘導体は、容易に大量に供給することができ、実用性が高い。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1の本発明のシクロデキストリン誘導体ヘプタキス(6−Gal−cap2)−β−CDの合成手順の概略を示す図である。図1Aは糖鎖ユニットの合成、図1BはCDユニットの合成、図1Cは各ユニットの組立の概略を示す。
図2は、従来のシクロデキストリン誘導体および本発明の誘導体のタンパク認識能および薬物包接能を比較する図である。図2A〜Fは、各化合物を説明する図である。
図2A:実施例1の本発明のシクロデキストリン誘導体ヘプタキス(6−Gal−cap2)−β−CD(化合物「I」);
図2B:比較例のシクロデキストリン誘導体ヘプタキス(6−Gal−cap1)−β−CD(化合物「a」);
図2C:ヘプタキス(Gal)−β−CD(化合物「b」);
図2D:ビス(Gal−cap5)−β−CD(化合物「c」);
図2E:M6CD(化合物「d」);および
図2F:M7CD(化合物「e」)。
図2Gは、図2A〜Fの化合物およびβ−CD(化合物「f」)について、x軸を薬物との包接会合定数Kaの対数とし、y軸をレクチンとの糖鎖認識会合定数Kaの対数として、それぞれの値をプロットした二次元マップである。
発明を実施するための形態
シクロデキストリン誘導体
本発明のシクロデキストリン誘導体を構成する成分は、基本的には、糖鎖、スペーサーアーム、およびシクロデキストリンである。
シクロデキストリン
本発明のシクロデキストリン誘導体の合成に用いられるシクロデキストリンは、シクロデキストリンの基本骨格を有している限り、特に限定されない。一般的には、α−CD、β−CDおよびγ−CDが挙げられる。これらのCDは環を構成しているグルコピラノースの数が異なり(α:6個;β:7個;γ:8個)、したがってその空洞径も異なる(α:0.45nm;β:0.70nm;γ:0.85nm)。たとえば、α−CDは、ベンゼン環が充分に入る大きさであり、トリクレン、パークレン等を包接することができる。また、β−CDは、ナフタレン環が入る大きさであり、γ−CDはアントラセンやナフタレン環2個が入る大きさである。したがって、包接すべき薬物の分子サイズを考慮して最適の空洞径を有するCDを当業者が適宜選択することができる。
また、薬物の包接能の点からは、糖鎖分岐の数、すなわちCD構成グルコピラノース分子の数が多い方が好ましい。入手の容易性の点からは、α−CD、β−CDおよびγ−CDが好ましい。
糖鎖
本発明のCDを修飾するための糖鎖は、特定の標的によって特異的に認識されるものであれば、特に限定されない。糖は、少なくとも1個存在すればよく、2個以上であってもよい。本明細書においては、「糖鎖」という用語は、糖が2個以上連結している場合に加えて、1個の場合も含む。
糖鎖を構成する糖は、未修飾であっても修飾されていてもよい。好ましくは、ガラクトース、グルコース、マンノース、シアル酸;ガラクトサミン、グルコサミン、マンノサミンなどのアミノ糖から選択される。合成の容易さの点からは、ガラクトース、グルコース、マンノースおよびシアル酸が好ましい。糖鎖が2個以上の糖を含む場合、それらの糖は同じ種類であっても異なる種類であってもよい。
また、糖鎖は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。
入手の容易性および合成の容易性の点から、好ましくは糖1〜6個の糖鎖であり、さらに好ましくは糖1〜4個の糖鎖であり、より好ましくは糖1〜4個の直鎖状の糖鎖であり、最も好ましい糖鎖は単糖、すなわちガラクトシル基、グルコシル基、マンノシル基およびシアル酸基である。
スペーサーアーム
本発明のCD誘導体において使用されるスペーサーアームは、糖鎖およびCDの間に位置してこの両者を接続しており、一般的には糖鎖の還元末端の糖のC4の炭素原子とCDを構成するグルコース分子のC6位の炭素原子との間の部分を指す。スペーサーアームは、少なくとも2個の置換または非置換のヘキサン酸単位〔−(CH−CO−〕を含む骨格を有していればよい。
スペーサーアームは、好ましくは、2〜5個のヘキサン酸単位〔−(CH−CO−〕またはアミノヘキサン酸単位〔−NH−(CH−CO−〕(式中、nは2〜5の整数を表す)を含む骨格を有する。
スペーサーアームは、合成の容易さの点から、特に好ましくはグルコノ−〔NH(CHCO〕−NH−または(CH−S−(CH−CO〔NH(CHCO〕−NH−(式中、nは2〜5の整数を表す)で示される基である。
スペーサーアームの骨格は、置換または非置換の、たとえばヘキサン酸(カプロン酸と同義である)、アミノエタノール、アミノエタンチオール、ポリエチレングリコール(ポリオキシエチレンと同義である)、ポリプロピレングリコール、オクタエチレングリコール、ビスエポキシアルキレン、ジアミノアルキレン、ジカルボキシアルキレン、無水コハク酸等に由来する基またはそれらの組み合わせによって構成される。
スペーサーアームの長さは、薬物を送達する標的の細胞表面タンパク等の大きさと関連するが、CDに結合したスペーサーアームが溶液中で外側に開いた形態において向かい合う糖鎖(の末端)間の距離が標的タンパクの直径(標的タンパクが二量体の場合は2ヵ所の結合部位間の距離)に近いものが好ましい。したがって、長い糖鎖を選択する場合、スペーサーアームは相対的に短いものであることができる。
スペーサーアームは、骨格中に炭素以外の原子を含んでいてもよい。その場合、窒素、イオウ、酸素等が好ましい。
スペーサーアームの骨格上に存在していてもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、フェニレン基、アミド基、アミノ基、ケトン基、水酸基、チオール基、カルボキシル基等の基が挙げられるが、置換基の大きさ、種類、数は、スペーサーアーム部分の柔軟性を妨げない限り、特に限定されない。
分岐
分岐は、糖鎖とスペーサーアームとからなる。分岐は、CDの環を構成するグルコース分子の数と同じ数、すなわち、CDの環を構成するグルコース1分子あたり1個、存在する。
CD上の分岐の存在位置は、特に限定されず、一級側(すなわちグルコピラノース環のC6位)であっても二級側(グルコピラノース環のC3位)であってもよい。反応性の高さおよび合成の容易さの点からは、一般的には一級側が好ましい。
したがって、本発明の特に好ましいCD誘導体の具体例としては、
ヘキサキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン(ここで、nは2〜5の整数を表す。以下も同じ);
ヘキサキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン;
ヘキサキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン;
ヘキサキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、およびオクタキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン
が挙げられる。これらは以下の式を有する。

(式中、rは、6,7または8を表し;Xは、ガラクトシル−グルコノ−(NH(CHCO)NH−、グルコシル−グルコノ−(NH(CHCO)NH−、マンノシル−(CHS(CHCO(NH(CHCO)NH−またはシアル酸−(CHS(CHCO(NH(CHCO)NH−を表し;nは、2〜5の整数を表す。)
合成の容易さの点から最も好ましいのは、上記の式でn=2の化合物、すなわち、ヘキサキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン;
ヘキサキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン;
ヘキサキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン;
ヘキサキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリンである。
n=2〜5の化合物は、標的タンパク認識能の点から最も好ましい。
製造方法
本発明のCD誘導体の製造方法は、ガラクトース、グルコース、マンノースおよびシアル酸から選択される1個以上の糖を含む糖鎖またはこの糖鎖と官能基を有する側鎖とを含む糖鎖ユニットと、官能基を有する側鎖とCDとを含むCDユニットまたは官能基を有するCDとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させることを特徴とする。
具体的には、本発明の方法においては、(1)糖鎖ユニットと、シクロデキストリンユニットとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させる;(2)糖鎖と、CDユニットとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させる;または、(3)糖鎖ユニットと、官能基を有するCDとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させることができる。
糖鎖ユニットは、グルコース、ガラクトース、マンノースおよびシアル酸から選択される1個以上の糖からなる糖鎖と、官能基を有する側鎖とを有する。
糖鎖ユニットに含まれる糖鎖は、本発明のCD誘導体について説明したとおりである。糖鎖の非還元性末端をガラクトースにする場合はラクトース(乳糖)、グルコースにする場合はマルトース(麦芽糖)を糖鎖の材料として用い、その還元末端を酸化してラクトン環を形成させ、このラクトン環の反応性を利用して側鎖と結合させると合成が容易である。この場合、原料二糖の還元末端側のグルコースはグルコノ基となって糖鎖ユニットの側鎖の一部を形成し、最終的にはスペーサーアームの一部となる。
また、糖鎖の非還元性末端をマンノースまたはシアル酸にする場合は、それぞれの糖から公知の方法によって糖鎖ユニットを合成することができる。たとえばマンノースをアリルアルコールに溶解し、酸触媒を加えて窒素気流下97℃で還流してアリルマンノシドを製造し、これを糖鎖ユニットとして用いることができる。さらに側鎖を延長するには、たとえばアリルマンノシドにメルカプトプロピオン酸を付加することができる。
官能基を有する側鎖については後述する。
CDもまた、本発明のCD誘導体について説明したとおりである。上記(1)および(2)のタイプの反応においては、CD環を構成する各グルコピラノース分子に、官能基を有する側鎖を導入して製造したCDユニットを用いる。また、上記(3)のタイプの反応においては、CD環を構成する各グルコピラノース分子に、官能基を直接導入したものを用いる。CDへの官能基を有する側鎖または官能基の導入方法は、公知である。
糖鎖ユニットの官能基を有する側鎖および/またはCDユニットの官能基を有する側鎖は、上記(1)〜(3)の反応の結果として、本発明のCD誘導体のスペーサーアームを構築する。したがって、これらの側鎖は、糖鎖ユニットに含まれる側鎖であっても、また、CDに存在する側鎖であっても、既に記載した本発明のCD誘導体のスペーサーアームと基本的に同様の骨格を有する。
上記(1)のタイプの反応を行う場合、糖鎖ユニットに含まれる側鎖およびCD上に存在する側鎖が、それぞれスペーサーアームの一部を構成し、合成後にスペーサーアームの全体を構成する。また、上記(2)のタイプの反応を行う場合はCDユニットに含まれる側鎖が、また、上記(3)のタイプの反応を行う場合は糖鎖ユニットに含まれる側鎖が、それぞれスペーサーアームの全体を構成するのに充分な長さおよび構造を有する。
したがって、当業者は、官能基を有する側鎖が糖鎖ユニットに含まれる側鎖であっても、CDユニットに含まれる側鎖であっても、スペーサーアームについて既に記載した説明に基づいて、それぞれの場合に適切な側鎖の長さおよび構造ならびに側鎖の組み合わせを適宜選択することができる。
具体的には、これらの側鎖は、糖鎖ユニットに含まれるかCDユニットに含まれるかにかかわらず、スペーサーアームの全部または一部を構成する脂肪族炭化水素に基づく骨格を有する。側鎖は、好ましくは置換または非置換のヘキサン酸単位〔−(CH−CO−〕を含む骨格を有し、さらに好ましくはアミノヘキサン酸単位〔−NH−(CH−CO−〕(式中、nは2〜5の整数を表す)を含む骨格を有する。上記式中のnは、上記(1)のタイプの反応の場合は1〜5、上記(2)または(3)のタイプの反応の場合は2〜5である。また、これらの側鎖は、末端に反応のための官能基を有する。
側鎖に存在する官能基、および/または官能基を有するCDの官能基は、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、カルボキシル基、アジド基、p−トルエンスルホニル基、エポキシド基、不飽和基、チオール基、アセトキシ基、フェノキシ基、およびヨウ素、臭素および塩素のハロゲン基からそれぞれ選択される。
上記(1)〜(3)のタイプの反応において使用しうる縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(以下「DCC」という)や水溶性カルボジイミド(以下「WSC」という)等の当業界で公知の縮合剤が挙げられる。当業者は、選択した官能基や反応溶媒の種類に応じて適切な縮合剤を選択することができる。たとえば、上記(1)および上記(3)のタイプの反応において糖鎖ユニットの側鎖の末端の官能基がカルボキシル基であり、CDユニットの側鎖またはCD上の官能基がアミノ基である場合のように、カルボキシル基とアミノ基とを反応させる場合、Kunishimaら(Kunishima et al.,Tetrahedron(1999)55,pp.13159−13170)により開発された新規縮合剤4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(以下「DMT−MM」という)を用いることが効率の点で好ましい。DMT−MMは、カルボン酸と反応して活性エステルを生成し、その後アミンと反応してアミド結合を生成する。反応はエタノール、メタノール、−プロパノール、水等の様々な溶媒中で進行し、かつ定量的に反応が進行するという報告があり、注目されている。
上記(1)のタイプの反応は、縮合剤の非存在下で行うこともできる。たとえば、糖鎖の還元末端のグルコースを酸化していったんラクトビオン酸にし、その後環化してラクトン環にしたものを用いることができる。また、糖鎖ユニットとCDユニットとの間で、それぞれの側鎖上のチオール基とハロゲン基との間での反応、チオール基と二重結合基との反応なども可能である。
上記(2)のタイプの反応は、縮合剤の非存在下でも、糖鎖を、直接、CDユニットの側鎖に存在する官能基と反応させ、結合させることができる。たとえば、シアル酸のカルボン酸の反応性を利用して、縮合剤の存在下でCDユニットの側鎖上の官能基と反応させることができるが、縮合剤の非存在下ではカルボン酸を無水物または酸クロリドにしておけばよい。また、ガラクトサミン、グルコサミンまたはマンノサミンのようなアミノ糖を用いる場合は、これらを、側鎖上に導入したカルボン酸基と反応させることができる。
また、上記(3)のタイプの反応も、縮合剤の非存在下で行うことができる。たとえば、糖鎖ユニットに官能基としてチオール基を導入し、CDにヨウ素のようなハロゲン基を導入して、両者をアルカリ雰囲気中で反応させることができる。
本発明の誘導体の製造は、すべて室温で行うことができる。反応溶媒としては、化合物の溶解性に応じてジメチルホルムアミド(DMF)、水、メタノール、N−メチルピロリジノン(NMP)を使用することができる。側鎖の設計、縮合剤の選択および反応溶媒の選択は、すべて当業者が適宜行うことができる。
たとえば、上記(1)および(3)の場合、反応溶媒としてカルボン酸と等しいモル当量のトリエチルアミンを使用し、縮合剤として5倍モル当量のDMT−MMを使用することができる。
具体的には、たとえば以下のようにして合成することができる。まず、所望の糖鎖と6−アミノヘキサン酸とを縮合させ、糖鎖とヘキサン酸とがアミド結合した糖鎖ユニットを形成する。一方、CD(たとえばβ−CD)の1級水酸基をアミノ基で置換したものを6−アミノヘキサン酸で修飾し、CDを構成するグルコピラノース分子の数と同数の6−アミノヘキサンアミドの分岐を有するCD〔たとえばヘプタキス(6−アミノ)−β−CD〕を作製する。上記の糖鎖ユニットと分岐CDとを一緒にして縮合反応により結合させ、本発明のCD誘導体を作製する。
合成されたCDの構造確認および精製は、当業界で公知の通常の方法によって行うことができる。
標的指向性薬物キャリア
本発明の標的指向性薬物キャリアは、本発明のシクロデキストリン誘導体を含むことを特徴とする。本発明の標的指向性薬物キャリアは、シクロデキストリン誘導体に存在する糖鎖によって、その標的が異なる。標的は、たとえば肝細胞、クッパー細胞、インフルエンザウイルス等である。
標的指向性薬物キャリアは、水、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、リン酸塩、NaCl等の無機塩類等を含んでいてもよい。
標的指向性薬物
本発明の標的指向性薬物は、本発明のシクロデキストリン誘導体と薬物とを含む。本発明の標的指向性薬物において、薬物は、シクロデキストリン分子に包接されている。
本発明のシクロデキストリン誘導体に包接させるべき薬物としては、抗がん剤、肝疾患治療剤、免疫系に作用する薬剤、抗ウイルス剤等が挙げられるが、これらに限定されない。標的に作用させるべき薬物を適宜選択し、その選択した薬物に適合する空洞径を有するシクロデキストリン誘導体を製造し、使用することができる。
薬物等のゲスト分子を本発明のシクロデキストリン誘導体と包接させる方法は、当業界で公知のいかなる方法であってもよい。たとえば、水溶液中で本発明のシクロデキストリン誘導体(ホスト)とゲスト分子を接触させることによりゲスト分子を包接させ、この溶液を凍結乾燥、噴霧乾燥等の方法によって乾燥させて乾燥物を得ることができる。
このような糖修飾CDの薬物包接体は、使用時に生理食塩水等に溶解して静脈注射することができる。また、他の投与形態、たとえば腸溶性製剤の形態に製剤化することもできる。このような製剤化の方法は公知である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
以下の合成および生成物確認の実験においては、必要に応じて次の装置を使用した:
レーザーイオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI−TOF−MS):Voyager DE Pro−T(Applied Biosystems製)
超伝導FT−NMR装置:JNM−Lambda500(日本電子製)
二重収束質量分析装置:SX102A(日本電子製)
分析HPLC:L−6000(日立製)、UV−975(日本分光製)
分取HPLC:HLC−8070(東ソー製)
実施例1.ヘプタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−ヘキサン酸アミド−ヘキサン酸アミド−β−CD〔ヘプタキス(6−Gal−cap2)−β−CD〕の合成
以下の手順でヘプタキス(6−Gal−cap2)−β−CDを合成した。合成スキームの概略を図1に示す。
1) 糖鎖の合成
Kobayashiらの報告(Kobayashi et al.,Polym.J.(1998)30,pp.653−658)にしたがってラクトノラクトンを合成した。簡単に説明すると、ラクトースを、ヨウ素のメタノール溶液に加え、これに45℃で4%KOHメタノール溶液を滴下して、還元末端を酸化させたカルボン酸カリウム塩を生成させ、冷却して結晶化させた。イオン交換樹脂(アンバーライト Amberlite IR−120B、ローム・アンド・ハース社製、オルガノ(株)より入手可能)によってカリウムを除去し、エバポレーターを用いてエタノール/メタノールによって脱水、開環させ、ラクトノラクトンを得た。
2) 糖鎖ユニットの作製
このラクトノラクトンを、エバポレーターを用いてエタノール/メタノールによって共沸させたものと、2当量の6−アミノヘキサン酸とを、窒素気流下で60℃のジメチルホルムアミド(以下「DMF」という)中に溶解させ、一夜(約12時間)反応させた。これをイオン交換樹脂(CM−Sephadex、C25、ファルマシア製、SIGMA社より入手可能)に供して未反応の6−アミノヘキサン酸を除去し、ガラクトシルグルコノ−アミド−ヘキサン酸(以下「Gal−cap1−OH」ということがある)を得た。
Gal−cap1−OHはメタノールに溶解するが、一方、原料中のラクトビオン酸(ラクトノラクトンの開環生成物)は溶解しない。このことを利用して、メタノール抽出によって精製を行った。さらに、残存するラクトビオン酸をメタノール−酢酸エチル混合溶媒(1:1.5(v/v))で沈殿させ、溶解物としてGal−cap1−OHを得た。収率は68%であった。薄層クロマトグラフィ(TLC)によるRf値は0.47(展開溶媒ブタノール:エタノール:水=5:4:3)であり、ワンスポットであることが確認された。
3) 縮合剤の合成
アミド結合生成反応の縮合剤として使用するために、DMT−MMをKunishimaら(1999)の方法にしたがって合成した。簡単に説明すると、ビーカーに1.1当量の2−クロロ−2,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン(以下「CDMT」という)を入れ、THF60mlを加えて溶解した後、1当量のN−メチルモルホリン(以下「NMM」という)を加え、室温で30分撹拌した。生成した白色の沈殿物をろ過し、THFで洗浄して生成物を得た。収率は95%であった。
合成確認として、FAB−MSを測定したところ、Kunishimaら(1999)に記載された値と一致したので、目的の化合物が合成されたことがわかった。
4) ヘプタキス(6−アミノ−ヘキサン酸アミド)−β−CDの合
側鎖を有するCDとしてヘプタキス(6−アミノ−ヘキサン酸アミド)−β−CDを合成するため、まずヘプタキス(6−アミノ)−β−CDを合成し、これをヘプタキス(6−Boc−ヘキサン酸アミド)−β−CDとして、最後に脱Boc化して目的の化合物を得た。
最初に、ヘプタキス(6−アミノ)−β−CDを、Peter R.Ashtonらの報告(J.Org.Chem.(1996)61,pp.903−908)に従って合成した。具体的には、DMF中に2gのヘプタキス(6−アジト)−β−CDおよび6.36gのトリフェニルフォスフィン(以下「TPP」という)を入れ、室温にて1時間撹拌した後、25%のアンモニア水を8.4ml加え、さらに18時間撹拌した。
この溶液を、ロータリーエバポレーターによって濃縮し乾固させた。その後、この固形物にエタノールを適量加えて懸濁して洗浄し、洗液はろ過して除去した。ろ物を0.1Mの塩酸中に溶解させ、不溶物をろ過して取り除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、乾燥させた。収率は42%であった。
合成物は、13C−NMRおよびTOF−MSによって確認した。13C−NMRにおいては、C6位の炭素のシグナルがシフトしていることが確認できた。この塩酸塩を希NaOH溶液にて中和して、遊離のアミン生成物について分析した。TOF−MSにおいては、分子量1127に対し、m/z:1127[M]にピークを観測できたので、目的の化合物が合成されていることが確認された。
DMFに上記で作製した1当量のヘプタキス(6−アミノ)−β−CDおよび8当量のBocヘキサン酸をそれぞれ加え、溶解した後、40当量の縮合剤DMT−MMを加え、室温で24時間反応させた。反応後、エバポレーターにて濃縮し、水を加え、生成物を沈殿させた。ろ液を除去後、ろ物をメタノールに溶解させ乾固した。HPLCで精製し、ヘプタキス(6−Boc−ヘキサン酸アミド)−β−CDを得た。
次に、精製したヘプタキス(6−Boc−ヘキサン酸アミド)−β−CDにTFAを加え、氷冷下で2時間撹拌し、脱Boc化反応を行った。収率41%であった。
TOF−MSを測定したところ、生成物の分子量1919に対し、m/z:1920[M+H]、1942[M+Na]、1958[M+K]のみにピークを観測できたので、目的の化合物が合成されていることが確認された。
5) ヘプタキス(6−Gal−cap2)−β−CDの合成
NMP−HO混合溶媒に、上記のように調製した8当量のヘプタキス(6−アミノ−ヘキサン酸アミド)−β−CD、1当量のGal−cap1−OH、8当量のトリエチルアミン(以下「TEA」という)をそれぞれ加えて溶解した後、40当量の縮合剤DMT−MMを加え、室温で48時間反応させた。反応後、エバポレーターにて濃縮し、氷冷アセトン中へ滴下し、沈殿させた。その後、ろ過を行い、ろ液を除去後、ろ物を水に溶解させた。
精製は、まずCM−Sephadex(C25、ファルマシア製、SIGMA社より入手可能)にて未反応のアミノ基を有するCD誘導体を除去後、トヨパールHW−40Fカラム(4.2cm×46cm;東ソー製)を用いたゲルろ過(溶出液は水)を行った。最後に分析HPLCにて単離を確認した。収率は30%であった。
比較例1. ヘプタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−ヘキサン酸アミド)−β−CD〔ヘプタキス(6−Gal−cap1)−β−CD〕の合成
NMP−HO混合溶媒に、実施例1と同様に調製した1当量のヘプタキス(6−アミノ)−β−CD、実施例1と同様に調製した8当量のGal−cap1−OH、8当量のTEAをそれぞれ加えて溶解した後、40当量の縮合剤DMT−MMを加え、室温で48時間反応させた。反応後、エバポレーターにて濃縮し、氷冷アセトン中へ滴下し、沈殿させた。その後、ろ過を行い、ろ液を除去後、ろ物を水に溶解させた。
精製は、まずCM−Sephadex(C25、ファルマシア製、SIGMA社より入手可能)にて未反応のアミノ基を有するCD誘導体を除去後、トヨパールHW−40Fカラム(4.2cm×46cm;東ソー製)を用いたゲルろ過(溶出液は水)を行った。最後に分析HPLCにて単離を確認した。収率は31%であった。
試験例1.レクチン認識能の評価
標的タンパク認識能の評価は、標的タンパクとしてピーナツレクチン(PNA)を使用し、表面プラズモン共鳴(SPR)法で行った。SPR光学バイオセンサーとして、IAsys(Thermo製)を使用し、得られたデータは、付属のソフトウェアFASTfitにより解析した。
1) PNAの固定化
PNA(4量体)の固定化は、今多(東京工芸大学大学院、工学研究科、工業化学専攻博士論文(1997))および保田(東京工芸大学大学院、工学研究科、工業化学専攻修士論文(1999))の報告を参考に行った。
まず、SPR光学バイオセンサーキュベット表面上のアミノシラン基にレクチンタンパクのアミノ基と反応させるためのリンカー剤として、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS)(1mM−BS/10mM−リン酸緩衝溶液(PBS)、pH6.5)を予め反応させた。これを、レスポンスが変化しにくくなるまで複数回繰り返し、無水酢酸−酢酸溶液(混合容積比1:1)を加えることで未反応の活性アミノシラン基を不活性化させ、ブロッキングした。
ブロッキング後、pH5.3の10mM−酢酸緩衝溶液に置換し、その後、200μLのPNA溶液(1mg PNA/10mM−酢酸緩衝溶液、pH5.3)をキュベットに加え、反応させた。次に、1M−エタノールアミン水溶液、pH8.5を加え、コハク酸アミドエステル基のブロッキングを不活性化させた。レスポンス(R)=600arc secで1ng/mmで、1nmあたり1本のアミノシラン基が存在する。PNAのレスポンスの変化量は約1760sであったので、固定化率は約1.6%と算出された。
2) 測定
1mM−CaCl、1mM−MgCl、100mM−NaClを含有する10mM−酢酸緩衝溶液、pH5.3中に、(0.2〜1)×10−5Mの範囲で6点の濃度に変化させた試験対象の各CDを含む溶液100μLを、PNAを固定化したキュベットに入れて、既述の相互作用解析装置(SPR光学バイオセンサー)を用いて各CDと固定化PNAとの相互作用を測定した。測定温度は25.0℃であり、所要時間はレスポンスが飽和に達するまでの5〜30分であった。
3) 結果
上記のように測定したPNAに対する本発明のCD誘導体ヘプタキス(6−Gal−cap2)−β−CDおよび比較例のCD誘導体ヘプタキス(6−Gal−cap1)−β−CDの会合挙動の解析結果を表1に示す。参考のため、公知文献に記載された他のCD誘導体についての類似の測定値も併せて示す。

ヘキサン酸単位1個分のスペーサーアームを有する比較例のCD誘導体のKaを1とすると、ヘキサン酸単位2個分のスペーサーアームを有する本発明のCD誘導体のKaはその約54倍高い会合能を有しており、本発明の誘導体は、従来のCD誘導体の中で比較的認識能が高いものと比較しても、非常に認識能が高いことが判明した。
試験例2. 薬物の包接能力の測定
薬物として抗生物質であるドキソルビシン(Doxorubicin;「DXR」)を用い、試験例1と同様の方法で本発明の誘導体の包接能を調べた。
1) DXRの固定化
DXRの光学バイオセンサーキュベット表面への固定化は、薬物を溶解させる緩衝溶液としてpHの異なるものを用いたことを除き、上述したレクチンの固定化と同様の操作方法で行った。
キュベット表面のアミノシラン基にDXRのアミノ基と反応させるためのリンカー剤として、1mM−BS/10mM−PBS、pH6.5を反応させた。これを、光学バイオセンサーのレスポンスが変化しなくなるまで数回繰り返し、無水酢酸−酢酸溶液(混合容積比1:1)を加えることで未反応のアミノシラン基を不活性化させ、ブロッキングした。
ブロッキング後、pH5.3の10mM−酢酸緩衝溶液に置換し、DXR溶液(2mg DXR/10mM−酢酸緩衝溶液、pH5.3)を加え、反応させた。その後、キュベット上のバックグラウンドの影響を考慮し、1M−エタノールアミン水溶液、pH8.5でコハク酸アミドエステル基のブロッキングを行った。DXRのレスポンスの変化量は約55 arc secであったので、R=600 arc secのとき1ng/mmで1nmあたり1本のアミノシラン基が存在しているものとして、固定化率はアミノシラン基の約9.6%と算出された。
2) 測定
上記で作製したDXR固定化キュベットを用い、試験例1と同様にしてDXRと各CDとの相互作用を測定した。但し、試験対象のCDの濃度は、(0.2〜1)×10−4Mの範囲であった。
3) 結果
上記のように測定したDXRに対する本発明のCD誘導体ヘプタキス(6−Gal−cap2)−β−CDおよび比較例のCD誘導体ヘプタキス(6−Gal−cap1)−β−CDの会合挙動の解析結果を表2に示す。参考のため、公知文献に記載された他のCD誘導体についての類似の測定値も併せて示す。

比較例のCD誘導体のKaと比較して、本発明のCD誘導体の会合能は約16倍に増大していた。また、その他の公知のCD誘導体は、比較例のCD誘導体よりも劣っているため、本発明のCD誘導体は、従来の合成糖鎖を有するCD誘導体と比べ、非常に優れた薬物包接能を有することが判明した。
表2に掲載したM6CDおよびM7CDについてのデータは、薬物としてCDに包接され易いコール酸を用いて得られたものであり、また、M6CDおよびM7CDにはFmoc基が存在するために疎水場が形成され易いという点で、本発明のCD誘導体等とは測定条件が異なっている。これらの相違点を考慮すると、M6CDおよびM7CDの薬物(DXR)包接能は、これらのデータの10分の1程度と見積もられる。その結果、本発明のCD誘導体は、薬物包接能においても、これらの天然糖鎖を有するCDと同等と解釈される。
試験例3. 二次元マップによる各種糖鎖分岐CDの二重認識の評価
公知のシクロデキストリン誘導体および本発明の化合物の薬物包接能およびレクチン結合能を評価するために、表1および表2に示した値をもとにして、x軸を薬物との包接会合定数Kaの対数とし、y軸をレクチンとの糖鎖認識会合定数Kaの対数として、β−CD、公知のいくつかの糖鎖修飾β−CD、および本発明のCD誘導体をプロットした二次元マップを作成した(図2G)。
未修飾のβ−CD(「f」)は、薬物に対するlog Kaは3程度であるが、糖を有さないためレクチンに対しては0である。従来公知のガラクトース鎖を有するCD(「a」〜「c」;図2B〜D)は、薬物に対するlog Kaが3〜5程度、レクチンに対するlog Kaが4〜6程度の領域にプロットされている。マップ上の一番右上に存在するM6CD(「d」;図2E)およびM7CD(「e」;図2F)は、それぞれマンノース6残基および7残基とN−アセチル−D−グルコサミン2残基とからなる天然糖鎖を有しており、従来調べられた中では、レクチンおよび薬物に対し最高の会合能を有している。
実施例1で合成したヘプタキス(6−Gal−cap2)−β−CD(「I」;図2A)は、レクチンに対する会合能はM6CDおよびM7CDと同程度であり、薬物に対する会合能も同程度と解釈される。したがって、本発明によれば、合成によって天然糖鎖を有するCDに匹敵する非常に高いタンパク認識能および薬物包接能を有するCD誘導体が得られる。
この出願は、平成15年3月27日出願の日本特許出願、特願2003−87192に基づくものであり、特願2003−87192の明細書および特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。











【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖とスペーサーアームとからなる分岐を有するシクロデキストリン誘導体であって、
a) 糖鎖が、スペーサーアームの末端に位置し、ガラクトース、グルコース、マンノースおよびシアル酸から選択される1個以上の糖を含み、
b) スペーサーアームが、糖鎖およびシクロデキストリンの間に位置し、少なくとも2個の置換または非置換のヘキサン酸単位を含む骨格を有し、
c) 分岐が、シクロデキストリンの環を構成するグルコース1分子あたり1個存在すること
を特徴とするシクロデキストリン誘導体。
【請求項2】
スペーサーアームが、2〜5個のアミノヘキサン酸単位を含む骨格を有する、請求項1記載のシクロデキストリン誘導体。
【請求項3】
スペーサーアームが、グルコノ−〔NH(CHCO〕−NH−または(CH−S−(CH−CO〔NH(CHCO〕−NH−(式中、nは2〜5の整数を表す)で示される基である、請求項2記載のシクロデキストリン誘導体。
【請求項4】
糖鎖が、ガラクトシル基、グルコシル基、マンノシル基またはシアル酸基である、請求項1〜3のいずれか1項記載のシクロデキストリン誘導体。
【請求項5】
ヘキサキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−ガラクトシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン(ここで、nは2〜5の整数を表す。以下も同じ);
ヘキサキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−グルコシルグルコノ−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン;
ヘキサキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、オクタキス(6−マンノシルプロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン;
ヘキサキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−α−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−β−シクロデキストリン、およびオクタキス(6−シアル酸プロピルチオエチル−アミド−(ヘキサン酸アミド))−γ−シクロデキストリン
のいずれかである、請求項4記載のシクロデキストリン誘導体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のシクロデキストリンの製造方法であって、ガラクトース、グルコース、マンノースおよびシアル酸から選択される1個以上の糖を含む糖鎖またはこの糖鎖と官能基を有する側鎖とを含む糖鎖ユニットと、官能基を有する側鎖とシクロデキストリンとを含むシクロデキストリンユニットまたは官能基を有するシクロデキストリンとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させることを特徴とする方法。
【請求項7】
糖鎖ユニットと、シクロデキストリンユニットとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
糖鎖と、シクロデキストリンユニットとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させる、請求項6記載の方法。
【請求項9】
糖鎖ユニットと、官能基を有するシクロデキストリンとを、縮合剤の存在下または非存在下で反応させる、請求項6記載の方法。
【請求項10】
側鎖および/またはシクロデキストリンの前記官能基が、エーテル基、チオエーテル基、アミノ基、カルボキシル基、アジド基、p−トルエンスルホニル基、エポキシド基、不飽和基、チオール基、およびヨウ素、臭素および塩素のハロゲン基から選択される、請求項6〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
糖鎖ユニットの官能基を有する側鎖および/またはシクロデキストリンユニットの官能基を有する側鎖が、置換または非置換のヘキサン酸単位を含む骨格を有する、請求項6〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
糖鎖ユニットの官能基を有する側鎖および/またはシクロデキストリンユニットの官能基を有する側鎖が、1〜5個のアミノヘキサン酸単位を含む骨格を有する、請求項6〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項記載のシクロデキストリン誘導体を含む標的指向性薬物キャリア。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれか1項記載のシクロデキストリン誘導体と、薬物とを含む標的指向性薬物。

【国際公開番号】WO2004/085487
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504018(P2005−504018)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003670
【国際出願日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【出願人】(801000038)よこはまティーエルオー株式会社 (31)
【Fターム(参考)】