説明

新規ピロール誘導体とこれを利用した光感応性フィルム

【課題】化学的及び電気化学的に重合可能なピロール単位と、光を吸収できるペリレンジイミド単位とを含む新規ピロール誘導体、及びこれを用いた光感応性フィルムを提供すること。
【解決手段】ペリレンジイミド単位のC−1、C−6、C−7及びC−12位置にフェノキシ基が置換され、その末端部分にピロール単位が含まれている特定の構造を有するピロール誘導体及び光を照射し、該ピロール誘導体を光架橋結合して製造された不溶性フィルムであることを特徴とする光感応性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ピロール誘導体とこれを用いた光感応性フィルムに関するものであって、さらに詳細には、化学的及び電気化学的に重合可能なピロール(Pyrrole)単位と、光を吸収できるペリレンジイミド(perylene diimide)単位とを含む化合物を合成することにより、波長が500nm以上である可視光線によりピロール架橋が形成されて、不溶性のペリレンジイミドフィルムを得ることができるため、太陽電池、液晶、発光ダイオードなどの電気・電子及び光学素子に広く活用できるように改善された、新規ピロール誘導体とこれを用いた光感応性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜を用いた電気及び光学素子の場合、多様なパターニング(patterning)技術を使用する場合が多い。特に、半導体工程でよく使われる技術は、光照射によるパターニング方法であって、物質自体がその光を吸収し、架橋されるか、分解される方式である。このような方式は、物質の吸収波長が光の照射波長と重なる時になされるものであったが、吸収波長と光の照射波長とがお互い異なる場合は、架橋が成されないため、限界があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者は、このような従来の問題点を解決するために鋭意研究した結果、化学的及び電気化学的に重合可能なピロール単位と、光を吸収できるペリレンジイミド単位とを同時に含む化合物を合成すると、500nm以上の可視光線によりパターンされた不溶性ペリレンジイミドフィルムが得られるということを見出し、本発明を完成した。
【0004】
したがって、本発明は、ピロール単位及びペリレンジイミド単位を同時に含む新規ピロール誘導体を提供することにその目的がある。
【0005】
また、本発明は、前記した新規ピロール誘導体をコーティングして製造された光感応性フィルムを提供することに他の目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次の化学式1で表されるピロール誘導体を提供するものである。
















[化学式1]

上記式中、nは、2〜20の整数であり、mは、0〜20の整数である。
【発明の効果】
【0007】
上述のように、本発明の新規ピロール誘導体とこれを用いた光感応性フィルムは、化学的及び電気化学的に重合可能なピロール(Pyrrole)単位と、光を吸収できるペリレンジイミド(perylene diimide)単位とを含む化合物を合成することにより、波長が500nm以上である可視光線によりピロール架橋が形成され、不溶性のペリレンジイミドフィルムを得ることができるため、太陽電池、液晶、発光ダイオードなどの電気・電子及び光学素子に広く活用することができる。
【0008】
本発明の新規ピロール誘導体は、可視光線を照射する時、重合が可能であり、有機溶媒に対して溶解度が優れている。しかしながら、これに可視光線を照射すると、全ての溶媒に不溶なフィルムを形成することができ、必要に応じて、選択的に可視光線を照射しパターンを形成することができるため、情報通信及び電子素子用材料などに幅広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明は、化学的及び電気化学的に重合可能なピロール(Pyrrole)単位と、光を吸収できるペリレンジイミド(perylene diimide)単位とを含む新規ピロール誘導体と、前記した新規ピロール誘導体を基板にコーティングして製造された光感応性フィルムに関するものである。本発明による光感応性フィルムは、波長が500nm以上である可視光線によりピロールが架橋され、不溶性のペリレンジイミド樹脂フィルムを形成して、このフィルムは、太陽電池、液晶、発光ダイオードなどの電気・電子及び光学素子に広く活用できる。
【0011】
本発明の前記化学式1で表されるピロール誘導体は、新規化合物であって、この化合物に可視光線を照射すると、ペリレン(perylene)のホモ(HOMO)の電子が励起し(excited)、空いているペリレンのホモ(HOMO)にピロールの電子が転移(transfer)され、ピロールは陽イオンラジカルになる。ピロールのラジカルは、周辺の他のピロール単位と反応し、ポリピロール(polypyrrole)または架橋されたポリピロールが生成される。このように生成されたポリピロール骨格、特に架橋されたポリピロール骨格は、有機溶媒に不溶なフィルムを形成する。
【0012】
本発明による前記化学式1で表されるピロール誘導体は、有機溶媒に対する溶解性に優れているだけではなく、この化合物に光照射すると、不溶性樹脂に変わる特性があるため、各種素子の上層薄膜の製造工程において、自由な溶媒の選択を可能にするという点から特長を有する。
【0013】
本発明による前記化学式1で表されるピロール誘導体は、ペリレンジイミド単位を含む化学構造的な特徴を有しており、ペリレンジイミドは、光学的及び電気化学的特性を有しているため、太陽電池物質、電気変色物質、集光物質、発光ダイオード物質、液晶物質など、多様な電気電子素子及び光学素子に幅広く使用できる。
【0014】
本発明による前記化学式1で表されるピロール誘導体は、ペリレンジイミド単位のC−1、C−6、C−7及びC−12位置にフェノキシ(phenoxy)基が置換されることにより、溶媒に対する溶解度が増加し、また、これらのフェノキシ置換基の導入により、ペリレンとペリレンの間の立体障害が増加し、溶媒に対する溶解度がさらに増加するようになる。したがって、フェノキシ基で置換されたペリレンジイミドは、溶媒に対する溶解性に優れており、スピンコーティング法などにより容易に薄膜を形成することができる。
【0015】
また、本発明による前記化学式1で表されるピロール誘導体は、末端部分にピロール単位が含まれている化学構造的な特徴を有しており、ピロール単位は、可視光線の照射により容易に重合し、有機溶媒に不溶なフィルムを形成することができる。
【0016】
次の反応式1及び2には、本発明による前記化学式1で表されるピロール誘導体を代表する化合物として、m=n=3である化合物の製造方法を簡略に示した。
【0017】
[反応式1]

前記反応式1による製造方法によると、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、3−ブロモプロピルアミンヒドロブロマイド及び酢酸ナトリウムを入れて、これを120℃程度で10分間攪拌した後、温度を常温に下げる。常温で塩化ナトリウム水溶液とジクロロメタンとを利用し抽出して、有機溶媒を回転式蒸発器で除去した後、速成カラムクロマトグラフィーなどを利用して分離し、3−ブロモプロピルピロールを製造する。











【0018】
[反応式2]

【0019】
前記反応式2による製造方法によると、まず、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシジアンヒドリド(3,4,9,10-perylenetetracarboxylic dianhydride)とブチルアミン(butylamine)とを反応させて、前記化学式3で表されるN,N’−ビス−n−ブチル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシジイミドを合成する、そして、前記化学式3で表される化合物を塩化スルホニル(SO2Cl2)による塩素化反応により、化学式4で表されるN,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラクロロペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミドを合成する。また、前記化学式4で表される化合物と4−ブトキシフェノール(4-butoxyphenol)を反応させて前記化学式5で表されるN,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキス(4−n−ブチルオキシフェノキシ)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミドを合成する。前記化学式5で表される化合物と三臭化ホウ素を反応させて、前記化学式6で表されるN,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキス(4−ヒドロキシフェノキシ)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミドを合成する。前記化学式6で表される化合物と3−ブロモプロピルピロール(3-bromopropylpyrrole)を反応させて、本発明の目的とする前記化学式1で表される化合物を合成することができる。
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1:3−ブロモプロピルピロールの製造
アセト酸(酢酸)(16.5mL)の入っている底の丸いフラスコに2,5−ジメチルテトラヒドロフラン(15.1g、114mmol)、3−ブロモプロピルアミンヒドロブロマイド(25.0g、114mmol)及び酢酸ナトリウム(13.24g、161.4mmol)を入れて、これを攪拌しながら熱を加えた。前記溶液を120℃で10分間攪拌した後、温度を常温に下げた。常温で塩化ナトリウム水溶液とジクロロメタンとを利用して抽出し、有機溶媒を回転式蒸発器で除去した後、無色の液体を速成カラムクロマトグラフィー(シリカゲル, ジクロロメタン:ヘキサン=3:1)を利用して分離した。
収率 33.5%(7.19 g, 38.23 mmol); 1H NMR(500MHz, CDCl3) δ 6.67(t, J = 2.0 Hz, 2H), 6.15(t, J = 2.0 Hz, 2H), 4.07(t, J = 6.5 Hz, 2H), 3.31(t, J = 6.5 Hz, 2H), 2.25(m, J = 6.0 Hz, 2H); 13C NMR(125MHz, CDCl3) δ 120.84, 108.59, 47.21, 34.35, 30.46.
【0022】
実施例2:N,N’−ビス−n−ブチル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシジイミド(化学式3)の製造
3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシジアンヒドリド(2)(3.92g、10mmol)を水(100mL)とプロパノール(100mL)との混合物に入れた後、攪拌しながらブチルアミン(2.93g、40mmol)を一滴ずつ滴下した後、80℃で12時間攪拌した。常温でフィルタリングしながらH2Oとメタノールで洗滌して乾燥し、得られた化合物を次の合成過程にすぐ使用した。 収率 76%(3.82g、7.6mmol)。
【0023】
実施例3:N,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラクロロペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド(化学式4)の製造
真空で丸いフラスコの水分を除去し、アルゴンガスを注入した。丸いフラスコにN,N’−ビス−n−ブチル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシジイミド(3)(3.82g、7.60mmol)、ニトロベンゼン(29.2g、237mmol)、ヨード(0.29g、2.28mmol)及びヨードベンゼン(0.29g、1.42mmol)を入れた後、攪拌しながら塩化スルホニル(SO2Cl2)(6.14g、45.5mmol)を80℃で2時間、一滴ずつ滴下した。約8時間反応後、メタノール(180mL)を添加し、6時間攪拌した後、フィルタリングした。
収率 89% (4.3 g, 6.7 mmol); 1H NMR (500 MHz, CDCl3, r.t.) δ 8.68 (s, 4H), 4.22 (t, 4H), 1.73 (m, 4H), 1.48 (m, 4H), 1.00 (t, 6H); 13C NMR (125 MHz, CDCl3, r.t.) δ 162.45, 135.55, 133.12, 131.62, 128.77, 123.44, 40.92, 30.36, 20.51, 14.00.
【0024】
実施例4:N,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキス(4−n−ブチルオキシフェノキシ)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド(化学式5)の製造
アルゴンガスの満たされた底の丸いフラスコに、N,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラクロロペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド(4)(6.00g、9.37mmol)、4−ブチルオキシフェノール(9.34g、56.2mmol)、炭酸ナトリウム(7.77g、56.2mmol)及びN−メチルピロリジノン(N-methylpyrrolidinone)(200mL)を入れて、160℃で6時間攪拌した。温度を常温に下げた後、塩酸(2M、200mL)を一滴ずつ滴下しながら攪拌したら、黒色の粒が生成された。塩酸を全部滴下した後、水とメタノールとを利用し洗滌して、フィルタリングした後、真空乾燥した。生成物を速成カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン)で分離した。
収率 62.7% (6.81 g, 5.88 mmol); 1H NMR (500MHz, CDCl3) δ 8.10 (s, 4H), 6.89 (d, J = 8.5 Hz, 8H), 6.82 (d, J = 8.5 Hz, 8H), 4.10 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 3.94 (t, J = 6.5 Hz, 8H), 1.77 (m, J = 7.5 Hz, 8H), 1.64 (m, J = 7.5 Hz, 4H), 1.52 (m, J = 8.0 Hz, 8H), 1.39 (m, J = 8.0 Hz, 4H), 1.00 (t, J = 7.0 Hz, 12H), 0.93 (t, J = 7.5 Hz, 6H); 13C NMR (125MHz, CDCl3) δ 163.63, 156.85, 156.41, 148.54, 132.99, 122.57, 121.62, 120.00, 119.25, 119.09, 115.95, 68.37, 40.52, 31.52, 30.32, 20.50, 19.44, 14.05, 13.95.
【0025】
実施例5:N,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキス(4−ヒドロキシフェノキシ)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド(化学式6)の製造
常温で丸いフラスコにジクロロメタン(250mL)とN,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキス(4−n−ブチルオキシフェノキシ)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド(5)(6.80g、5.86mmol)とを攪拌しながら、ジクロロメタン(20mL)に混ぜた三臭化ホウ素(BBr3)(21.8g、87.1mmol)を一滴ずつ滴下した。約2時間攪拌した後、回転式蒸発器を利用して有機溶媒を除去し、0℃状態で氷水(200mL)を徐々に注ぎながら攪拌した。混合物にメタノール(100mL)をさらに添加した後、1分間煮沸してフィルタリングした。このように得られた固体を80℃で乾燥した。
収率 94.9 % (5.20 g, 5.56 mmol); 1H NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ 9.50 (s, 4H), 7.79 (s, 4H), 6.83 (d, J = 8.5 Hz, 8H), 6.76 (d, J = 8.5 Hz, 8H), 3.93 (t, J = 6.5 Hz, 4H), 1.53 (m, J = 7.0 Hz, 4H), 1.29 (m, J = 7.5 Hz, 4H), 0.87 (t, J = 7.5 Hz, 6H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 162.54, 156.19, 154.51, 145.56, 132.21, 122.14, 118.48, 118.18, 117.26, 116.36, 114.44, 29.48, 19.68, 13.65. (40 ppm付近の一つのピークは、溶媒DMSOの吸収ピークと重なる)
【0026】
実施例6:ピロール誘導体(化学式1a)の製造
DMF(250mL)に溶かした実施例5のN,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキス(4−ヒドロキシフェノキシ)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド(6)(5.02g、5.37mmol)に、実施例1で製造した3−ブロモプロピルピロール(6.06g、32.22mmol)、水酸化セシウム(CsOH)(5.41g、32.33mmol)及びヨウ化テトラブチルアンモニウム(TABI、tetrabutylammonium iodide)(0.37g、1.0mmol)を入れて、常温で10時間攪拌した。ジクロロメタンと塩化ナトリウム水溶液とを利用して抽出した後、回転式蒸発器を利用して有機溶媒を除去した。速成カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、MC/メタノール、50/1)とジクロロメタン/ヘキサンとを利用した再沈澱を行い、N,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキスペリレン[4−(3−ピロール−1−プロピルオキシ)−フェノキシ]−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミドを得た。
収率 50% (3.65 g, 2.68 mmol); 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.11 (s, 4H), 6.83 (d, J = 9.0 Hz, 8H), 6.81 (d, J = 9.0 Hz, 8H), 6.68 (t, J = 2.0 Hz, 8H), 6.17 (t, J = 2.0 Hz, 8H), 4.13 (t, J = 6.5 Hz, 12H), 3.87 (t, J = 6.0 Hz, 8H), 2.12 (m, J = 6.5 Hz, 8H), 1.65 (m, J = 7.5 Hz, 4H), 1.38 (m, J = 7.0 Hz, 4H), 0.93 (t, J = 7.5 Hz, 6H); 13C NMR (125 MHz, DMSO-d6) δ 163.59, 156.76, 155.94, 148.91, 132.99, 122.65, 121.67, 120.94, 120.07, 119.35, 115.97, 108.44, 64.95, 45.15, 40.55, 31.94, 30.34, 20.50, 13.96.
【0027】
実験例1:可視光線照射による不溶性架橋高分子の形成
前記実施例6で製造した化合物N,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキスペリレン[4−(3−ピロール−1−プロピルオキシ)−フェノキシ]−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミドをクロロホルム溶媒に15mg/mLの濃度で溶解した後、0.45μmメンブレインフィルターを利用しフィルタリングして、溶液内に存在する微細な塵と異物を除去した。
【0028】
ITOのコーティングされているガラス板を所望の形にパターンした後、異物をきれいに洗滌した。きれいにパターンされているITOガラス板に、合成した物質の入っている溶液を1500rpmでスピンコーティングして、薄膜を製造した。
【0029】
このように製造したフィルムに光を照射すると、光架橋結合(photo-crosslinking)により不溶性フィルムに変わるということを確認するために、まず、光を照射する前と後のフィルムのUV−可視光線領域の吸収スペクトルを測定し、その結果を図2aに示した。光を照射しなかったフィルムのUV−可視光線領域の吸収スペクトルを測定した後、500nmの光を照射した。光源としては、キセノンランプ(Xe-lamp)を使用して、フィルターを使用し500nmより長い波長の光のみを通過させることにより、ピロールの電子には触れず、ペリレンジイミドの電子のみを励起した。照射時間は、1分から60分まで変化させた。光を照射した後、クロロホルム溶媒で洗滌し、架橋されなかった可溶性成分を洗い落とした後、UV−可視領域の吸収スペクトルを測定した。
【0030】
図2bにおいて、Abs照射前は、フィルムに可視光線を照射(irradiation)する前に、UV−可視領域の最大吸収波長で測定したフィルムの吸光度(absorbance)値である。また、Abs照射後は、フィルムに可視光線を照射後、クロロホルム(chloroform)溶媒で可溶成分を溶かし出した後、UV−可視領域の最大吸収波長で測定した吸光度値を示す。Abs照射後 /Abs照射前値が、約4分以前までは、ほぼ0に留まっているが、約6分以後には、約0.95、即ち95%に達した。これは、光架橋反応により形成されたポリピロールは、溶媒にほとんど溶けないということを意味する。
【0031】
実験例2:FT−IRスペクトルによる架橋結合の確認
本実験では、上記のように、微細塵と異物の除去された溶液を臭化カリウム(KBr)基板上にスピンコーティングさせて薄膜を形成した後、可視光線の照射時間によるIRスペクトルの変化を測定し、図3に示した。
【0032】
大部分の領域では、継続的な可視光線の照射にもIR−スペクトルの変化をほとんど示さなかったが、725cm-1領域では、可視光線の照射前に現れていたピークが、可視光線の照射の時間が増加するにつれて徐々に消えることが確認できた。725cm-1領域の吸収ピークは、ピロールの特徴的なC−H曲げ振動モード(bending vibration)に起因するものである。即ち、可視光線の照射後、この領域の吸収ピークの大きさが減ることは、ピロール単位が相互に連結されC−H構造が消えることに起因する。これは、光を照射することにより、ピロールが重合したことを示す証拠である。
【0033】
実験例3:SEMを利用した薄膜表面の均一性検査
UV−可視光線領域の光を照射する前と後のフィルム表面のSEM写真を図4a及び図4bに示した。図4aは、前記実験例1で説明したように微細塵と異物の除去されたN,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキスペリレン[4−(3−ピロール−1−プロピルオキシ)−フェノキシ]−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド溶液をITOガラス基板上に1500rpmでスピンコーティングして形成したフィルムの表面SEM写真であり、図4bは、前記図4aのフィルムに500nm以上の光を1時間照射した後、クロロホルム溶媒で洗滌した場合のフィルム表面SEM写真である。
【0034】
フィルムに光を照射する前と後の両方とも、全く欠陥のない、非常に均一な高品質の表面を有していることが確認できる。
【0035】
実験例4:光架橋結合によるパターンの形成
微細塵と異物の除去されたN,N’−ビス−n−ブチル−1,6,7,12−テトラキスペリレン[4−(3−ピロール−1−プロピルオキシ)−フェノキシ]−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド溶液を1500rpmでスピンコーティングして製造したフィルムに可視光線を照射してパターン化した写真を図5に示した。図5の左側は、パターン用ネガ型(negative)マスクであり、右側は、パターンされたペリレンジイミドフィルムである。形成されたパターンが非常に鮮明で、且つ品質に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例6で合成された化学式1aで表されるピロール誘導体の1H−NMRスペクトルである。
【図2a】化学式1aで表されるピロール誘導体をコーティングして製造したフィルムに光を照射する前と後のUV−可視光線領域の吸収スペクトルである。
【図2b】化学式1aで表されるピロール誘導体をコーティングして製造したフィルムに可視光線を照射すると、光架橋(photo-crosslinked)による不溶性フィルムが形成されることを確認するグラフである。
【図3】化学式1aで表されるピロール誘導体に可視光線を照射した際の、照射時間による赤外線(IR)吸収スペクトルの変化を示すグラフである。
【図4a】化学式1aで表されるピロール誘導体をITO基板上にスピンコーティングして製造したフィルムの、可視光線の照射前のSEM写真である。
【図4b】化学式1aで表されるピロール誘導体をITO基板上にスピンコーティングして製造したフィルムのSEM写真であって、可視光線の照射後、1時間が経過した時、クロロホルム溶媒で可溶成分を溶かし出した後、測定したSEM写真である。
【図5】OHPフィルムに可視光線を照射し、化学式1aで表されるピロール誘導体をパターンした写真であって、写真の左側は、パターンのためのマスクであり、写真の右側は、パターンされたペリレンジイミドフィルムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学式1で表されるピロール誘導体:
[化学式1]

上記式中、nは、2〜20の整数であり、mは、0〜20の整数である。
【請求項2】
次の化学式1で表されるピロール誘導体をコーティングして製造されることを特徴とする、光感応性フィルム:
[化学式1]

上記式中、nは、2〜20の整数であり、mは、0〜20の整数である。
【請求項3】
光を照射し、前記化学式1で表されるピロール誘導体を光架橋結合して製造された不溶性フィルムであることを特徴とする、請求項2に記載の光感応性フィルム。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−290869(P2006−290869A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379000(P2005−379000)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(506003875)インダストリー ユニヴァーシティー コオペレイション  ファウンデイション ソーガン ユニヴァーシティー (4)
【Fターム(参考)】