説明

新規光感受性化合物およびその利用

【課題】 低酸素状態の細胞に対して選択的に毒性を発現させかつ逆電子移動の欠点を克服した薬剤を製造する。
【解決手段】 光酸化剤と電子受容体とが連結されている化合物であって、該光酸化剤は、光照射によって活性化され、該電子受容体は、該光酸化剤によって酸化された物質から放出される電子を不可逆的に受容する、化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低酸素状態の細胞に対して選択的に毒性を発現させることができる薬剤に関するものであり、より詳細には、本発明は、光線力学的療法に用いるための新規光感受性薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に癌(腫瘍)の治療として、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法などが行われている。化学療法とは、抗癌剤を用いる治療法であり、化学療法によって完治する可能性を有する癌もあるが化学療法が有効ではない癌もあり、薬剤の種類によっては、強い副作用を伴うこともある。
【0003】
腫瘍部位に限局して化学療法を行う腫瘍標的化化学療法も開発されているが、この方法もまた、例えば、新規抗癌分子標的の同定、腫瘍特異性を有する有効な治療剤のスクリーニング、腫瘍標的化薬物送達系の開発といった多くの目標を有している。通常、抗癌剤の多くは、一部の患者または一部の癌に対してのみ作用する。癌のテーラーメイド治療を進めるためには、腫瘍を分子的に特徴付けるためおよび治療効果を予想するために適切な方法の開発がなお必要とされている。
【0004】
近年、新たな癌治療法として、レーザー光線を用いた光線力学的療法(Photo Dynamic Therapy:PDT)が開発された。この方法は、癌に対する親和性を有する光感受性薬剤(すなわち、癌組織に容易に取り込まれかつ強い光感受性を有する薬剤)を静脈注射した後にレーザー光線を癌細胞に照射するものであり、該照射によって癌細胞の中に取り込まれた薬剤が光励起エネルギーを基底状態の三重項酸素に移動して活性な励起一重項酸素(活性酸素)を発生させ、その結果、癌細胞を破壊するものである。PDTで使用するレーザー光線は、レーザーメスの約1/100と低出力なうえ、上記薬剤は癌組織に多く集積するので、該方法を用いれば、正常組織への障害を最小限に抑え、癌病巣のみを選択的に治療することができると考えられている。
【0005】
光線力学的療法は、全ての型の癌に対して作用し得、頭頸部癌、脳腫瘍、乳癌、肺癌、胃腸癌、膵癌、膀胱癌、前立腺癌または皮膚癌の処置において、周囲の健康な組織を損傷させることなく選択的に腫瘍組織を破壊し得る有望な処置として考えられている。光線力学的療法はまた、複数の薬剤耐性(癌化学療法の主要な欠点)を克服し得る。
【0006】
しかし、臨床応用されている従来の光線力学的療法は、用いる光感受性薬剤が限定されている。さらに、低酸素腫瘍に対する有効性の観点からもなお光線力学的療法の開発が必要である。なぜなら、この療法は、主に、酸素存在下で光感受性薬剤に光照射する間に生成する一重項酸素()またはスーパーオキシドラジカルアニオン(O・−)に依存しているからである。癌細胞が増殖すると固形組織化が進んで低酸素状態の細胞が顕著に増加するので、酸素濃度の低い低酸素状態の細胞を多く含む癌組織の治療に上記方法を適用した場合は、その効果が非常に低いかまたは全く効果を示さない。
【0007】
低酸素腫瘍の光線力学的療法のために、光活性化プロドラッグ、すなわち、細胞性成分(例えば、DNA、タンパク質、細胞膜)から光感受性薬剤への電子移動(ET)を介する直接的な光誘起酸化のような機構によって作用する高効率な光感受性薬剤の開発が必要とされ、DNA切断/損傷に対する光感受性薬剤の開発に多くの注目が集まっている。
【0008】
しかし、慣用的な光感受性薬剤を用いる光誘起一電子酸化的DNA損傷は、還元された光感受性薬剤から酸化されたDNA塩基へ電子が迅速に戻ることによって阻害される。このような光増感系に関連するこの逆電子移動の欠点を克服することを試みた報告はわずかである。
【0009】
1つの方法は、共増感機構(例えば、光増感剤(光感受性薬剤)と共増感剤としての有機電子受容体(例えば、メチルビオロゲンまたは金属銅イオン)との組み合わせ、光増感剤と有機共増感剤ユニット(例えば、ビオロゲン、アミノキノリン)との複合体化)に基づいている(例えば、非特許文献1などを参照のこと)。
【0010】
別の試みは、2色2レーザーを使用する方法である:第1のレーザー励起はDNAから増感剤(S)へ電子を移動して増感剤アニオン(S)を形成し、第2のレーザーは、溶媒である水へSの電子を排出して水和した電子(eaq−)を生成する。
【0011】
これらの方法はいずれも、光誘起DNA損傷をある程度は増強する。
【非特許文献1】Fromberz P.およびRieger B.J. Am.Chem.Soc.,108,5361−5362(1986)
【非特許文献2】Kawai K.ら、Angew.Chem.Int.Ed.,43,2406−2409(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記方法における還元された共増感剤または水和された電子(eaq−)は、特に酸素非存在下では、酸化されたDNA(DNA・+)に電子を戻す方向に進み、その結果、DNA損傷の効率は低下する。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低酸素状態の細胞に対して選択的に毒性を発現させかつ逆電子移動の欠点を克服した薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る化合物は、光酸化剤と電子受容体とが連結されている化合物であって、該光酸化剤は、光照射によって活性化され、該電子受容体は、該光酸化剤によって酸化された物質から放出される電子を不可逆的に受容することを特徴としている。
【0015】
本発明に係る化合物は、上記光照射によって制癌作用を発現することが好ましい。
【0016】
本発明に係る化合物において、上記光酸化剤および/または電子受容体は制癌作用を有することが好ましい。
【0017】
本発明に係る化合物において、上記光照射によって細胞性成分が酸化されることが好ましい。細胞性成分は、いわゆる生体分子(例えば、DNA、RNA、タンパク質など)であってもよい。
【0018】
本発明に係る化合物において、上記電子受容体は還元活性化型のアルキル化剤であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る化合物において、上記光照射によって細胞性成分がアルキル化されることが好ましい。
【0020】
本発明に係る化合物において、上記細胞性成分は、DNA、RNA、タンパク質、細胞膜または核膜であることが好ましい。
【0021】
本発明に係る化合物において、上記光酸化剤および電子受容体はリンカー部分を介して連結されていることが好ましい。
【0022】
本発明に係る化合物において、上記光照射は320〜910nmの範囲の波長によって行われることが好ましい。ここで、単光子励起を使用する場合は、320〜450nmが好ましく、二光子/多光子励起を使用する場合は、450〜910nmが好ましい。
【0023】
本発明に係る化合物において、上記光照射はレーザー光によって行われることが好ましい。
【0024】
本発明に係る化合物において、上記光照射によって上記光酸化剤と電子受容体とが解離することが好ましい。
【0025】
本発明に係る化合物において、上記光酸化剤は、カンプトセシン誘導体、キノン化合物、酸化性金属錯体、ビオロゲン化合物、またはチアジン系色素であることが好ましい。
【0026】
本発明に係る化合物において、上記光酸化剤は、以下の構造式:
【0027】
【化4】

【0028】
または以下の構造式:
【0029】
【化5】

【0030】
(ここで、XはCR15またはNであり、Mは、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、マンガン(Mn)または鉄(Fe)であり、R1〜14は、炭化水素または他の置換基である)を有することが好ましい。
【0031】
本発明に係る化合物において、上記電子受容体は、キノン化合物、ニトロ芳香族化合物または芳香族シアノ化合物であることが好ましい。
【0032】
本発明に係る化合物において、上記電子受容体は、以下の構造式:
【0033】
【化6】

【0034】
を有することが好ましい。
【0035】
本発明に係る光線力学的療法用組成物は、上記化合物を含むことを特徴としていることが好ましい。
【0036】
本発明に係る光線力学的療法用キットは、上記化合物を備えることを特徴としていることが好ましい。
【0037】
本発明に係る光線力学的療法は、上記化合物を被験体に投与する工程を包含することを特徴としていることが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る化合物は、光照射を行うことによって作用する光活性化プロドラッグとして用いることができる。また、本発明に係る化合物の作用機序は酸素を必要としないため、低酸素状態の癌細胞に対しても治療効果を示すことができる。
【0039】
さらに、本発明に係る化合物は、長波長の励起光を利用する二光子/多光子励起を化合物の光活性化に適用することができる。本発明により、低酸素状態の細胞を含む癌組織に対する新しい光線力学的療法の開発をさらに促進することができる。
【0040】
本発明に係る化合物は、低酸素状態の細胞を標的とする癌疾患治療薬として利用され得る。本発明に係る化合物は、特に光線力学的療法に適用可能な光活性化抗腫瘍性プロドラッグとして使用することができる。なお、低酸素状態の細胞に毒性を発現させることができる光線力学的療法用の薬剤はこれまでに存在しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
〔1〕光感受性化合物
本発明は、光線力学的療法に適応可能な化合物を提供する。好ましくは、本発明に係る化合物は、光酸化剤と電子受容体とが連結されており、ここで、光酸化剤は、光照射によって活性化され、電子受容体は、光酸化剤によって酸化された物質から放出される電子を不可逆的に受容する。光酸化剤を用いる従来の光感受性薬剤では、還元された薬剤から酸化された生体分子へ電子が迅速に戻ることによって薬剤効果が阻害されてしまう。しかし、本発明に係る化合物は、上記構成を採ることによって、光照射に基づいて生体分子(例えば、細胞内DNA)に対して酸化損傷を効果的に与えることができる。また、本発明に係る化合物は、光照射を行うまで2物質(光酸化剤および電子受容体)を所望の部位に同時に送達させかつ局在させることができる。
【0042】
好ましくは、本発明に係る化合物は、光照射によって制癌作用を発生し、ここで、光酸化剤および/または電子受容体は、元々制癌作用を有している。これにより、本発明に係る化合物は、それぞれが制癌作用を有する2物質を連結したものであるにもかかわらず、光照射によって初めて該制癌作用を発生することができ、光照射によって、生体分子(例えば、細胞内DNA)に対して酸化損傷を与えるとともに、制癌作用により癌細胞、特に低酸素状態の細胞に対して殺細胞効果を示すことができる。
【0043】
一実施形態において、本発明に係る化合物は、電子受容体が還元活性化型のアルキル化剤であることが好ましい。本発明に係る化合物は、光照射によって、生体分子(例えば、細胞内DNA)に対して酸化損傷およびアルキル化損傷を与えるとともに、光酸化能を有する抗癌剤自体の有する抗腫瘍作用により殺細胞効果を示すことができる。また、本発明に係る化合物において、電子受容体としてのアルキル化剤は、受容した電子をアルキル化反応にて消費するので、逆電子移動が生じることなくさらなる電子を受容し得、光酸化剤による酸化反応を促進することができる。
【0044】
「アルキル化」は、一般に、化合物の水素原子を炭化水素などの有機基で置換する反応が意図されるが、本明細書中において使用される場合、細胞内のDNAやタンパク質、特にDNA塩基成分のアルキル化が意図される。DNA塩基のうち、特に、グアニンおよび/またはアデニンがアルキル化されやすく、DNA塩基のアルキル化によって、突然変異の誘発、細胞の癌化、細胞死などが生じる。
【0045】
アルキル化剤(alkylating agents)の薬理作用に細胞周期依存性はほとんどないが、G2/M期およびG1/S期にDNA(特にグアニンの7位窒素と6位酸素)をアルキル化して増殖中の細胞を傷害することが多い。アルキル化剤分子中に存在するアルキル基が癌細胞のDNA塩基に付加することにより、DNAの複製を阻止し、癌細胞を破壊する。アルキル化剤は濃度依存性の殺細胞効果を有しているので、化学療法剤として大量投与も行われている。
【0046】
しかし、正常細胞のDNAまたはタンパク質をアルキル化することもあるので、異常増殖していない正常細胞に対しても傷害をおよぼし、その結果、発癌性を呈することもある。例えば、シスプラチン(cisplatin)は、固形癌に有効であるが、重篤な腎障害作用を有する。
【0047】
本明細書中において光酸化剤としてカンプトテシンを用いて本発明を説明するが、好ましい光酸化剤としてはカンプトテシンに限定されない。本発明に係る化合物において、好ましい光酸化剤としては、カンプトセシン誘導体、キノン化合物、酸化性金属錯体、ビオロゲン化合物、およびチアジン系色素が挙げられ、以下の構造式:
【0048】
【化7】

【0049】
または以下の構造式:
【0050】
【化8】

【0051】
(ここで、XはCR15またはNであり、Mは、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、マンガン(Mn)または鉄(Fe)であり、R1〜14は、炭化水素または他の置換基である)を有することがより好ましい。
【0052】
本明細書中において電子受容体としてアルキル化剤を用いて本発明を説明するが、好ましい電子受容体としてはアルキル化剤に限定されない。本発明に係る化合物において、好ましい電子受容体としては、キノン化合物、ニトロ芳香族化合物、および芳香族シアノ化合物が挙げられ、以下の構造式:
【0053】
【化9】

【0054】
を有することがより好ましい。また、本明細書中においてアルキル化剤としてインドールキノン(IQ)またはマイトマイシンC(MMC)を用いて本発明を説明するが、好ましいアルキル化剤としてはこれらに限定されず、好ましいアルキル化剤としては、キノン化合物が挙げられる。
【0055】
本発明に係る化合物において、光酸化剤と電子受容体との連結は特に限定されず、直接連結されてもリンカーを介して連結されてもよい。本発明に係る化合物に新たな特性(例えば、水溶性または薬物動態特性)を付与する場合は、リンカーが使用されることが好ましい。水溶性を高めると薬剤の有する効力(毒性)が低下することが多いが、薬剤としての効力は血中濃度および/または吸収性能に依存するので薬剤が水溶性であることが好ましいことを当業者は容易に理解する。
【0056】
また、水溶性を付与するために必要な構造は、当該分野において公知のものを利用すればよいが、必要に応じて切断可能なリンカーが好ましく、特に、本発明に係る化合物においては、以下の化学式:
【0057】
【化10】

【0058】
(ここで、nは1〜30の整数であり、Xは、O、S、NHまたはNR2n+1であり、Yは、O、NHまたはNR2n+2であり、Zは、O、NHまたはNR2n+3であり、R、R、R、・・・R、・・・R2n、R2n+1、R2n+2またはR2n+3は、水素、炭化水素、アミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アルコール、有機酸、核酸(DNAまたはRNA)、PNA、PEG、デキストラン、シクロデキストリン、または他のポリマー構造、あるいは1つ以上の光感受性薬剤および還元活性化アルキル化剤を組み合わせて含む構造である。)によって示される化合物をリンカーとして用いることが好ましいが、以下の化学式:
【0059】
【化11】

【0060】
(ここで、X=O、SまたはRであり、Y=O、NHまたはNR10であり、Z=O、NHまたはNR11であり、E=O、SまたはNR12であり、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11またはR12は、H、炭化水素、アミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アルコール、有機酸、核酸(DNAまたはRNA)、PNA、PEG、デキストラン、シクロデキストランまたは他のポリマー構造、あるいは1つ以上の光感受性薬剤および還元活性化アルキル化剤を組み合わせて含む構造である。)によって示される化合物をリンカーとして用いることもまた好ましい。このようなリンカーを使用すれば、本発明に係る化合物が還元雰囲気下に到達した場合には、該リンカーと結合する光酸化剤および電子受容体がそれぞれリンカーから解離し得る。
【0061】
本発明に係る化合物を光線力学的療法に用いる場合、光照射によって光酸化剤と電子受容体とが分離されてもよい。分離される場合は、用いる光酸化剤および電子受容体が互いに干渉することなく標的細胞に直接作用することができ、分離されない場合は、上述したように、逆電子移動を抑えて光酸化剤の酸化反応をよりよく促進し得る。
【0062】
好ましい実施形態において、本発明は、低酸素状態の細胞の光線力学的療法(PDT)に対応可能な光酸化剤−還元活性化型DNAアルキル化剤複合体として、化学修飾を加えた抗腫瘍剤カンプトテシン誘導体を提供する。抗癌剤カンプトテシンは、DNAに挿入し得かつ365nmの光照射下においてグアニンで選択的にDNAの酸化的損傷を誘導する効果的な光増感剤として同定された薬剤である。このため、本発明者らは、カンプトテシン(CPT)を、代表的な光酸化剤ユニットとして選択した。また、本発明者らは、生体還元活性化型抗癌剤であるインドールキノン(IQ)およびマイトマイシンC(MMC)(Palom Y.,2000,Chem Res.Toxicol.13,479−488;Kumar G.S.,1996,JACS,118:9209−9217)を、還元活性化型アルキル化剤ユニットとして使用し、レーザーフラッシュ光分解(LFP)によって電子移動に及ぼす効果を確認した(図1)。
【0063】
このような物質を用いて、本発明者らは、インドールキノン(IQ)およびマイトマイシンC(MMC)のいずれもが、カンプトテシンの光反応における電子受容体であること、およびこれらがカンプトテシンでの2’−デオキシグアニジン(dG)の光誘起酸化に対する効果的な共増感剤であることを、レーザーフラッシュ光分解(LFP)によって確認し、本実施形態に係る化合物において、光照射に基づいて光酸化剤がDNA(グアニン)を酸化し得ると同時にインドールキノン(IQ)またはマイトマイシンC(MMC)がDNAアルキル化を誘導するラジカルを生成し得ることを実証した。
【0064】
本発明に係る化合物は、光線力学的療法に適用され得る。従来の光感受性薬剤は、生体内、特に患部周辺の酸素濃度に依存し、さらに一電子酸化を受けたDNA(DNA.+)と放出された電子との再結合によってその効力が減弱されるが、本発明に係る化合物は、低酸素およびDNA.+−電子再結合の両方に対する解決策を提供し、光線力学的療法において光誘起DNA/RNAの損傷効果を増強させることができる。
【0065】
つまり、本発明の目的は、光酸化剤−還元活性化型薬剤ハイブリッド分子(P−A)の戦略に基づく、新規な種類の光感受性薬剤を開発することにある。この戦略において生じる正味の反応としてのDNAからP−Aへの光誘起電子移動(ET)は不可逆である。光照射下において、ハイブリッド分子P−Aの光酸化剤ユニットPがDNAのグアニン塩基を一電子酸化した後、PがDNAから得た電子は還元活性化型薬剤ユニットAにリレーされ、Aを活性化してDNAのアルキル化に誘導し、その結果、一電子酸化的損傷だけでなくアルキル化作用も併発し、光誘起DNA損傷がさらに増強され得る(スキーム1)。
(スキーム1:光酸化剤−還元活性型アルキル化剤ハイブリッド分子(P−A)を用いた低酸素条件下での光誘起DNA損傷)
【0066】
【化12】

【0067】
このようなP−Aハイブリッド分子は、酸化された生体分子と還元性[P−A]との間での逆電子移動が生じないという効果を奏する。また、P−Aハイブリッド分子は、光照射によって光感受性薬剤と電子受容体(または還元活性型アルキル化剤)との間の化学結合が切断され得、その結果、光感受性薬剤および電子受容体(または還元活性型アルキル化剤)がそれぞれ遊離して作用し得る。この場合、光感受性薬剤および還元活性型アルキル化剤は共増感剤として作用し得る。
【0068】
なお、治療目的を癌として本発明を説明したが、光酸化剤−還元活性化型薬剤ハイブリッド分子戦略は必ずしも癌治療目的にのみ適用可能なのではなく、光線力学的療法が適用可能な疾患であれば限定されることなく該ハイブリッド分子戦略が適用可能であることを、当業者は容易に理解する。
【0069】
〔2〕光感受性化合物の利用
(1)光線力学的療法用組成物
本発明は、光線力学的療法用の組成物を提供する。本発明に係る組成物は、液体溶液もしくは懸濁液、または注射のための液体ビヒクル中の溶液もしくは懸濁液のために適切な固体形態として調製され得る。
【0070】
好ましくは、本発明に係る組成物は、一般に、注射(皮下、皮内、腹腔内、管腔内、胃内、腸内、静脈内または筋肉内)により達成される。
【0071】
一実施形態において、本発明は、上述した本発明に係る光感受性化合物を含有する、癌を処置するための医療組成物を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「処置」は、症状の軽減または排除が意図され、予防的(発症前)または治療的(発症後)に行われ得るもののいずれもが包含される。
【0072】
本発明に係る医療組成物は、薬学的に受容可能なキャリアをさらに含み得る。本明細書中において使用される場合、「薬学的に受容可能なキャリア」は、組成物を受容した個体において有害な抗体の産生をそれ自体は誘導しない任意のキャリアが意図される。適切なキャリアとしては、代表的には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマーおよび不活性ウイルス粒子のような、大きな、穏やかに代謝される高分子である。このようなキャリアは当業者に周知である。また、薬学的に受容可能な賦形剤については、当該分野において公知であり、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Merck Pub.Co., N.J.1991)に十分に記載されている。薬学的に受容可能なキャリアは、塩(例えば、無機酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など);および有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など))を含み得る。
【0073】
本発明に係る医療組成物中に使用される薬学的に受容可能なキャリアは、医療組成物の投与形態および剤型に応じて選択することができる。非経口剤の場合、当該分野において公知の方法に従って、本発明の有効成分を希釈剤としての注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどに溶解または懸濁させ、所望により殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤などを加えることにより調製することができる。
【0074】
さらに、本発明に係る組成物は、水、生理食塩水、グリセロール、またはエタノールのような1つ以上の成分をさらに含み得る。さらに、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝化物質、安定化剤、抗酸化剤などのような補助物質が、本発明に係る組成物中に存在し得る。
【0075】
本発明に係る医療組成物は、製薬分野における公知の方法により製造することができる。本発明に係る医療組成物における本発明に係る光感受性化合物の含有量は、投与形態、投与方法などを考慮し、当該医療組成物を用いて後述の投与量範囲で本発明に係る光感受性化合物を投与できるような量であれば特に限定されない。
【0076】
なお、組成物は一般に、物質A単独を含有する組成物、物質Aと物質Bとを含有する単一の組成物、または物質A単独を含有する組成物と物質B単独を含有する組成物のいずれかであり得る。これらの組成物は、物質Aおよび物質B以外に他の成分(例えば、薬学的に受容可能なキャリア)を含有してもよい。本発明に係る組成物は、物質Aとして上述した本発明に係る光感受性化合物を含有することを特徴としているので、本発明に係る光感受性化合物を含有する組成物を他の成分(物質B)を含有する組成物と併用する場合は、これらを全体として一組成物として認識し得ないが、この場合は、後述する「キット」の範疇に入り得、組成物としてではなくキットとして提供され得ることを当業者は容易に理解する。
【0077】
(2)光線力学的療法用キット
本発明はまた、上述した本発明に係る光感受性化合物を備える、光線力学的療法用のキットを提供する。本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは該材料を使用するための指示書を備える。本明細書中においてキットの局面において使用される場合、「備える」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。また、本発明に係るキットは、複数の異なる組成物を1つに梱包した包装であり得、ここで、組成物の形態は上述したような形態であり得、溶液形態の場合は容器中に内包されていてもよい。本発明に係るキットは、物質Aおよび物質Bを同一の容器に混合して備えても別々の容器に備えてもよい。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD−ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。本発明に係るキットはまた、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。さらに、本発明に係るキットは、光線力学的療法に適用するために必要な器具をあわせて備えてもよい。
【0078】
本発明に係るキットにおける本発明に係る光感受性化合物およびその他の物質の使用方法は、上述した組成物の使用形態に準じればよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0079】
(3)光線力学的療法
本発明はさらに、光線力学的療法を提供する。本発明に係る方法は、上述した本発明に係る化合物を被験体に投与する工程を包含する;および、異常組織(例えば、癌組織)と正常組織との間での薬品濃度差が最大となる時点で光酸化剤を活性化し得る波長のレーザーを患部に照射する工程、を包含することを特徴としている。異常組織と正常組織との間での薬品濃度差が最大となるために必要な時間は、通常6〜108時間、好ましくは12〜96時間、より好ましくは48〜72時間である。
【0080】
本発明に係る方法における本発明に係る光感受性化合物およびその他の物質の適用は、上述した組成物の使用形態に準じればよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0081】
また、本明細書において、光感受性薬剤および還元活性型アルキル化剤が連結されている形態を例に挙げて本発明を説明してきたが、本明細書を読んだ当業者は、光感受性薬剤および電子受容体(または還元活性型アルキル化剤)が結合していなくても同時に用いることによって、本明細書中に記載した組成物、キットまたは光線力学的療法に適用可能であることを、容易に理解する。
【0082】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0083】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0084】
〔1.試薬および細胞〕
20(S)−カンプトテシン(CPT)を、Tokyo Kasei(Tokyo,Japan)より得た。4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、アセトニトリル、トリフルオロ酢酸(TFA)、2−プロパノール、トリエチルアミン(TEA)、β−ニコチンアミンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩(NADH)、培養培地PRMI−1640、およびEagle’s minimal essential medium(MEM)を、Nacalai Tesque(Kyoto,Japan)より購入した。インドールキノンを、Mr.Arimichi Okazakiより供与戴いた。N−α−Boc−L−リジンを、Watanabe Chemical Ind.(Hiroshima,Japan)より購入した。ウシ胎仔血清(FBS)を、Thermo Trace(Melbourne,Australia)より得た。チアゾリルブルーテトラゾリウムブロミド(MTT)、1−アミノ−1−デオキシ−β−D−ガラクトース、4−ニトロフェニルクロロホルメートおよびE.coli DT−ジアホレース(DTD)を、Sigma(Steinheim,Germany)より得た。ジメチルスルホキシド(DMSO)、4−ニトロフリルアルコール、4−ニトロベンジルアルコールおよび他の薬品を、Wako(Osaka,Japan)より購入した。
【0085】
HT−1080ヒト線維芽細胞腫細胞株を、the Cell Resource Center for Biomedical Research,Tohoku University(Sendai,Japan)より得た。EMT6/KUマウス乳腺腫瘍細胞株を、Kyoto Universityにおいて継代培養した。HT−29ヒト結腸直腸腺癌細胞株を、American Type Culture Collection(www.attc.org)より得た。
【0086】
〔2.クロマトグラフィーおよび質量分析〕
薄層クロマトグラフィーを、シリカゲル被覆ガラスシート(Silica Gel 60 F254 TLC plates,Merck&Co.,Germany)上にて行った。予備的薄層クロマトグラフィー(PLC)もまた同じシートを用いて行った。Hitachi D−7000 HPLC systemによってHPLCを行った。HPLCにはInterstil ODS−3 column(φ4.6mm×250mm,GL Science Inc.,Japan)を使用した。0.1M酢酸トリエチルアミン(TEEA)(pH7)の混合溶媒(60分間にわたる10〜60%アセトニトリル直線勾配、流速0.6mL/分)を用いてサンプルを溶出し、そして260nmおよび350nmでのUV吸収を検出した。HNMRスペクトルおよび13CNMRスペクトルを、JEOL JNM−EX270J分光計(270MHz)またはJNM−AL300分光計(300MHz)で記録した。3−ニトロベンジルアルコール(NBA)マトリクスを用いて、JEOL JMS−SX102A質量分析機にてFAB MS(the fast atom bombardment mass spectrometry)を行った。UV可視吸収スペクトルを、UV/VIS分光計V530(Jasco,Japan)にて記録した。
【0087】
〔3.CPTからIQまたはMMCへの光誘起電子移動〕
図2(a)は、50μM CPT、150μM IQおよび5mMリン酸緩衝液(pH7)を含むAr飽和アセトニトリル−HO(v/v=1:1)溶液の355nmレーザーフラッシュ光分解(LFP)後に観察した一過性の吸収を示す。IQなしのCPT溶液におけるLFPでの同様の観察に従えば、LFPの光励起終了後での370nm付近のネガティブな吸収帯は基底状態での枯渇に起因し、430nm付近のポジティブな吸収帯は、CPTの励起三重項状態に起因すると判断される。CPT励起三重項状態の減衰後に、350nm付近にIQセミキノンラジカルアニオン(IQ・−)に特徴的な吸収として認識され得る新たな過渡吸収の増大が観察された(図2(b))。200μs以降の時間領域において残存する430nm付近の吸収部分は、以前の研究を参照すれば、より安定な別のCPTラジカルカチオン(CPT・+)に起因すると判断される。これらの中間体の安定性は、pHに依存する。350nmでの過渡吸収(IQ・−)は、pH9でより安定であるが、pH5では安定ではない。これに対して、430nmでの過渡吸収(IQ・+)は、酸性条件下(pH5)でもより安定である。これらの観察結果は、IQがCPTの光反応における電子受容体であることを示す。350nmでの増強にしたがって、CPT励起状態からIQへの光誘起電子移動の速度定数は、kCPT*/IQ=1.3×10−1−1と算出された。
【0088】
図3に示すように、330nm付近でのMMCセミキノンラジカルアニオン(MMC・−)および430nm付近でのCPTラジカルカチオン(MMC・+)に特徴的な過渡の吸収を、10μM CPT、50μM MMCおよび5mMリン酸緩衝液(pH7)を含むAr飽和アセトニトリル−HO(v/v=1:1)溶液のLFP後に観察した。330nmでのMMC・−の増強を考慮すると、CPT励起状態からMMCへの光誘起電子移動の速度定数は、kCPT*/MMC=3.6×10−1−1と算出された。
【0089】
〔4.IQまたはMMCの存在下でのCPT光誘起dG酸化の共増感〕
図4(a)は、50μM CPT、3.3mM dGおよび5mMリン酸緩衝液(pH7)を含むAr飽和アセトニトリル−HO(v/v=1:1)溶液の355nmレーザーフラッシュ光分解(LFP)後に観察した過渡吸収スペクトルを示す。LFP後、λmax=430nm付近でのCPT励起三重項状態の減衰は、20μs内での320nmでの増強と一致した(図4(b))。この増強は、CPT励起状態による光誘起dG酸化において生成するdGカチオンラジカル(dG・+)に起因し得る。同様の観察が、CPTとグアノシン一リン酸(GMP)とのLFPにおいて以前に報告されている。λmax=420nmおよびλmax=510nmを有する広範な吸収は、一電子酸化されたGMPのグアニン塩基部位のカチオンラジカル(dG・+)および還元されたCPTアニオンラジカル(CPT・−)の混合吸収に起因する。
【0090】
CPTおよびdGの混合溶液にIQを添加した場合、350nm付近での新たな過渡吸収の増大が、25μsのLFP後に観察され、IQの非存在下でのCPTおよびdGのLFPにおける観察を参照してλmax=510nmでの減衰と一致することを確認した(図4および5)。これらの結果は、CPT、dGおよびIQの混合系の光照射において生成したCPT・−が、IQにさらに電子を移動してセミキノンラジカルアニオンIQ・−を生成し得ることを示す(スキーム2)。
(スキーム2:CPTの光誘起一電子酸化におけるIQの共同的増感機構)
【0091】
【化13】

【0092】
換言すれば、IQは、この光反応系における共増感剤であるといえる。350nmでのIQ・−の増強にしたがって、CPT態からIQへの光誘起電子移動の速度定数は、kCPT・−/IQ=6.9×10−1−1と算出された。
【0093】
IQと同様に、MMCもまた、CPT、dGおよびMMCを含むAr飽和緩衝化系(pH7)において産生されるCPT・−から電子を受容する共増感剤(kCPT・−/MMC=6.6×10−1−1を有する)であることがわかった。
【0094】
〔5.CPT−MMCの合成〕
【0095】
【化14】

【0096】
以上のレーザーフラッシュ光分解測定の結果から、インドールキノン(IQ)およびマイトマイシンC(MMC)はいずれも、カンプトテシンの光誘起一電子酸化作用を増強する電子受容体であり、カンプトテシンによる2’−デオキシグアニジン(dG)の光誘起酸化における効果的な共増感剤であることがわかった。よって、CPT−IQおよびCPT−MMCを、光酸化剤−還元活性化型アルキル化剤ハイブリッド分子の戦略に基づいて、新規な種類の光感受性薬剤を設計した。
【0097】
〔5−A.化合物1の合成〕
【0098】
【化15】

【0099】
9−フルオロメチロキシカルボニル−L−5−アミノ吉草酸(Fmoc−Var,100mg,0.29mmol)およびペンタクロロフェニル(79mg,0.3mmol)を、THF(4mL)中に溶解した。氷中にて冷却した後、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC,61mg,0.3mmol)を添加し、氷中にて2時間、次いで、室温で8時間攪拌し続けた。得られた反応混合物をさらなるTHF(3mL)に添加した。濾過によって沈殿を回収した後、濾過物を減圧乾燥して化合物1を白色粉末として得た(150mg,88%)。
HNMR(270MHz,CDCl):δ=1.54−1.78(m,4H);2.63(t,J=7.0Hz,2H);3.19(m,2H);4.14(t,J=6.7Hz,1H);4.35(d,J=6.7Hz,2H);7.19−7.71(m,8H).13CNMR(68MHz,CDCl):δ=21.8,29.2,32.9,40.4,47.3,66.6,119.9,124.9,126.9,127.6,139.6,141.2,142.9,143.8,156.3,169.1.FAB−MS(positive mode,NBA as matrix):m/z=585[M+H],HRMS C2621ClNOについて(計算値)585.9913、(実測値)585.9910。
【0100】
〔5−B.化合物2の合成〕
【0101】
【化16】

【0102】
化合物1(140mg,0.24mmol)およびMMC(80mg,0.24mmol)を、DMF(5mL)中に溶解し、ピリジン(0.1mL)を添加した。この反応混合物を、暗環境下にて室温で48時間攪拌し続けた。溶媒を吸引除去した後、残渣からPLC(DMC/MeOH,9:1)によって精製してMMC誘導体である化合物2を得た(146mg,80%)。
HNMR(300MHz,CDCl):δ=1.47−1.57(m,4H);1.73(s,3H);2.4(m,2H);2.86(s,1H);2.94(s,1H);3.12−3.18(m,5H);3.47(m,3H);4.10(m,1H);4.37(m,2H);4.81(m,2H);7.28(t,J=7.0Hz,2H);7.37(t,J=7.0Hz,2H);7.56(d,J=7.0Hz,2H);7.73(d,J=7.0Hz,2H).13CNMR(75MHz,CDCl):δ=7.8,21.3,29.1,35.5,39.6,40.3,42.4,47.3,48.5,49.8,61.9,66.5,77.8,105.1,110.2,119.9,125.0,127.0,127.7,141.3,143.9,147.1,153.9,156.3,156.5,175.6,178.4,183.5.FAB−MS(positive mode,NBA as matrix):m/z=656[M+H],HRMS C3538について(計算値)656.2720、(実測値)656.2720。
【0103】
〔5−C.化合物3の合成〕
【0104】
【化17】

【0105】
化合物2(140mg,0.21mmol)を、DMF中20%のピペリジン(0.5mL)で10分間処理した。減圧濃縮後、PLCによって残渣を精製してMMC誘導体である化合物3を黒色粉末として得た(70mg,76%)。
HNMR(270MHz,CDCN):δ=1.68(m,4H);1.91−2.24(2m,7H);2.76(s,1H);2.85(s,1H);3.15(s,3H);3.19(m,2H);3.40(m,1H);4.02−4.22(2m,2H).FAB−MS(positive mode,NBA as matrix):m/z=434[M+H],HRMS C2028について(計算値)434.2040,(実測値)434.2036。
【0106】
〔5−D.ハイブリッド分子CPT−MMCの合成〕
【0107】
【化18】

【0108】
化合物3(43mg,0.1mmol)を、DMF(2mL)とDMC(2mL)との混合溶媒中にて、p−ニトロフェニルカンプトテシンカーボネート(51mg,0.1mmol)(後述する化合物4)と混合した。この反応混合物を、暗環境下にて4時間攪拌し続けた。減圧濃縮後、PLC(酢酸エチル)によって残渣を精製して黒色粉末としてハイブリッド分子CPT−MMCを得た(41mg,50%)。
HNMR(300MHz,CDCN):δ=1.07(m,3H);1.59(m,4H);1.74(s,3H);1.76−1.83(m,2H);2.36(t,J=6.3Hz,2H);2.92(s,1H);2.99(s,1H);3.12(m,2H);3.19(s,3H);3.30(m,2H);3.47(m,1H);4.22(d,J=3.9Hz,2H);5.20(s,2H);5.30−5.38(2m,2H);6.89(m,1H);7.58−8.17(m,5H).FAB−MS(positive mode,NBA as matrix):m/z=808[M+H],HRMS C414211について(計算値)808.2942、(実測値)808.2935。
【0109】
〔5−E.化合物4の合成〕
【0110】
【化19】

【0111】
カンプトテシン(CPT)誘導体である化合物4、5および6を、Pessahらによって最近報告された方法を改変した方法に従って調製した。
【0112】
CPT(338mg,0.97mmol)および4−ニトロフェニルクロロホルメート(408mg,2.0mmol)をジクロロメタン(30mL)中にて0℃で混合し、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP,400mg,3.28mmol)を添加した。この混合溶液を室温で2時間攪拌し、0.1M HClで洗浄した(4×10mL)。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、10mLまで減圧濃縮し、ヘキサンで沈殿させた。沈殿物を、ジクロロメタン−ヘキサンで再結晶化して化合物4を淡い黄色粉末として得た(403mg,81%)。
HNMR(270MHz,CDCl):δ=1.05(t,J=7.4Hz,3H);2.15−2.39(m,2H);5.31(s,2H);5.40(d,J=17.5Hz,1H);5.70(d,J=16.5Hz,1H);6.92(d,J=8.9Hz,1H);7.39−7.45(m,2H);7.76−8.26(m,6H);8.43(s,1H).
13CNMR(68MHz,CDCl):δ=7.8,31.9,50.2,67.1,96.0,115.6,120.4,121.6,125.2,126.1,128.2,128.3,129.2,131.1,131.6,144.9,145.4,146.3,151.1,154.9,157.1,166.6.
FAB−HRMS(positive mode,NBA as matrix):m/z 514.1257[MH],C2720 requires 514.1250。
【0113】
〔5−F.化合物5の合成〕
【0114】
【化20】

【0115】
ジクロロメタン(3mL)中のモノ−Boc−N,N’−ジメチルエチレン−ジアミン(80mg,0.425mmol)を、ジクロロメタン(10mL)中の化合物4(100mg,0.195mmol)に滴下した。室温で4時間攪拌した後、この反応混合物を、減圧下で濃縮し、PLC(酢酸エチル)で精製して化合物5を黄色粉末として得た(98mg,89%)。
HNMR(270MHz,CDCl):δ=0.93(m,3H);1.37(m,9H);2.02−2.27(m,2H);2.27−3.50(m,10H);5.21(s,2H);5.32(d,J=17.0Hz,1H);5.61(d,J=17.2Hz,1H);7.19(m,2H);7.51−8.32(m,4H).
13CNMR(68MHz,CDCl):δ=7.8,28.5,29.7,35.5,35.7,47.3,49.9,67.1,75.9,97.7,120.0,125.2,127.9,128.1,128.2,128.5,129.3,130.7,131.3,145.7,146.7,148.5,152.3,152.7,154.3,155.7,157.3,167.9.
FAB−HRMS(positive mode,NBA as matrix):m/z563.2499[MH],C3035 requires 563.2506。
【0116】
〔5−G.化合物6の合成〕
【0117】
【化21】

【0118】
化合物5(40mg,0.07mmol)をトリフルオロ酢酸(1mL)を用いて室温で15分間処理した。溶媒を減圧で除去した後、残渣をPLC(酢酸エチル/メタノール=2:1)で精製して化合物6を緑色〜黄色の油として得た(30mg,93%)。
HNMR(300MHz,CDCl):δ=0.92(m,3H);2.02(m,2H);2.59−3.64(m,10H);5.30−5.66(2m,4H);7.19(m,2H);7.44−8.30(m,4H).
FAB−HRMS(positive mode,glycerol as matrix):m/z 463.1980[MH],C2527 requires 463.1981。
【0119】
〔5−H.ハイブリッド分子CPT−IQの合成〕
【0120】
【化22】

【0121】
インドールキノン(58mg,0.25mmol)、4−ニトロフェニルクロロホルメート(50mg,0.25mmol)およびトリエチルアミン(0.04mL,0.5mmol)を、ジクロロメタン(5mL)中に0℃で溶解した。この混合溶液を、窒素雰囲気下にて室温で2時間攪拌し、p−ニトロフェニルインドールキノンカーボネート(IQ1)を生成した。化合物5(50mg,0.089mmol)を、トリフルオロ酢酸を用いて室温で15分間処理した。トリフルオロ酢酸を除去した後、残渣の化合物6を、IQ1含有溶液に添加し、さらに0.5mL トリエチルアミンを添加した。この反応混合物を、さらに15分間攪拌し続けた後、減圧濃縮した。残渣をPLC(酢酸エチル)によって精製して、ハイブリッド分子CPT−IQを赤色粉末として得た(60mg,93%)。
HNMR(300Hz,CDCl):δ=0.92(m,3H);2.06−2.24(m,5H);2.71−3.79(3m,16H);5.08−5.60(m,7H);7.16(m,2H);7.56−8.29(m,4H).
13CNMR(75MHz,CDCl):δ=7.7,8.4,29.6,31.9,32.3,35.4,36.0,45.6,47.4,47.7,49.9,57.5,66.9,75.9,96.3,106.6,116.4,127.9,128.1,128.2,128.5,129.5,130.5,131.1,138.0,145.9,148.7,152.5,157.4,159.6,168.1,178.8.
FAB−HRMS(positive mode,NBA as matrix):m/z 724.2631[MH],C383810 requires 724.2619。
【0122】
〔6.レーザーフラッシュ光分解(laser flash photolysis)〕
355nmでの第3の調波を生成するContinuum Surelite−I Nd−YAG (Q−switched)laserを使用して、nanosecond Unisoku TSP−601 flash spectrometerでレーザーフラッシュ光分解(photolysis)を行った。Hamamatsu 150 W xenon shortからのプローブビームを、励起レーザービームに対して垂直方向に配行された光ファイバースコープを用いてガイドした。Unisoku MD200 photomultiplier tubeを用いてHamamatsu image intensifier controller DG535 (1024 photodiodes)を介して、プローブビームをモニタリングした。励起パルスレーザー、プローブビームおよび検出系のタイミングを、IBM Windows XP computerに連結したTektronix model TDS 3012 digital phosphor oscilloscopeを介して達成した。Unisoku Spectroscopy and Kinetics Ver2.22を用いて、LFPデータを記録および分析した。サンプルすべてをArまたはNOのバブリングによって通気した後、レーザーフラッシュ光分解を行った。pH依存性実験において、酸反応条件としてサンプルのpHを5に、塩基性反応条件としてサンプルのpHを9に調整した。サンプル全てを5mMリン酸緩衝液によって緩衝化した。3.3mM dGおよび5mMリン酸緩衝液(pH7)を含むAr飽和アセトニトリル−HO(v/v=1:1)溶液のLFPの後、最終産物をFAB−HRMS(positive mode, NBA)によって以下のように決定した:
Gについて、m/z 152.0574 [M+H],CO requires 152.0572;
IQ−Gについて、m/z 369.1311 [M+H],C1717 requires 369.1294;
化合物6について、m/z 463.1980 [M+H],C2526 requires 463.1981。HPLC分析(Rt=36.6分)によって、化合物6をさらに確認した。
【0123】
〔7.CPT−IQハイブリッド分子のLFP〕
図6は、50μM CPT−IQおよび5mMリン酸緩衝液(pH7)を含むAr飽和アセトニトリル−HO(v/v=1:1)溶液の355nmレーザーフラッシュ光分解(LFP)後に観察した過渡吸収スペクトルを示す。CPT・+構造(λmax=430nm)およびセミキノンラジカルアニオンIQ・−構造(λmax=350nm)は、CPTおよびIQの混合溶液のLFPにおいて生成するものより迅速に形成された(図6(b)および図2(b))。この観察は、ハイブリッド分子CPT−IQにおけるCPT・+およびIQ・−の生成機構が、この励起状態での電荷分離(分子間電子移動)を介するということを示唆する。
【0124】
〔8.CPT−IQのdGとの光誘起反応〕
この新規な種類の光誘起DNA損傷剤を同定するために、代表例としてのCPT−IQを使用して、DNAのグアニン塩基構造のモデル化合物として2’−デオキシグアニジン(dG)を用いた光誘起反応を調べた。
【0125】
図7は、50μM CPT−IQ、3.3mM dGおよび5mMリン酸緩衝液(pH7)を含むAr飽和アセトニトリル−HO(v/v=1:1)溶液の355nmレーザーフラッシュ光分解(LFP)後に観察した過渡吸収スペクトルを示す。430nm付近でのCPT−IQ励起状態の減衰に続いて、320nm(dG・+)および360nm(CPT−[IQ・−])の2つの吸収帯が同時に観察された。320nmでの吸収が最初に最大に達した(図7(b))。これらの観察は、dG・+およびCPT−[IQ・−])が2つの経路によって生成することを強く示唆する(スキーム4)。
(スキーム4:dGからCPT−IQへの光誘起電子移動経路)
【0126】
【化23】

【0127】
CPT−IQおよびdGのLFPにおいて生成するこれらの過渡的な中間体は、さらに反応して、出発物質と比較して異なるUV吸収特性を有する新たな最終生成物に変化する(図8)。dG・+は、FAB−HRMSによって確認されるように、グアニンに分解し得る。CPT−[IQ・−]は、酸性の中間体[IQH・+]および[CPT3]を生成し得る。活性なラジカル[IQH・+]は、FAB−HRMSによって確認されたように、空気雰囲気下でdGをアタックして、アルキル化されたグアニン(IQ−G)を生成し得る。同様の反応が、MMCとdGとの生体還元活性化型反応に関する以前の研究において観察された。プロトンを受容した後、中間体[CPT3]は、HPLC分析およびFAB−HRMSによって決定されたように、CPT3に変化し得る(スキーム5)。
(スキーム5:dGとCPT−IQとの光誘起反応機構)
【0128】
【化24】

【0129】
この種の光増感ハイブリッド分子は、アルキル化剤ユニットを活性化するためにDNAから受容した電子を消費することによってDNAの酸化的損傷を増強するように、従来の光酸化剤における逆電子移動の欠点を克服し得、DNAのアルキル化による損傷をさらに誘導し得る。そのため、この種の光増感ハイブリッドは、効果的な光誘起DNA損傷剤である。これらによる光誘起DNA損傷の機構は、酸素の存在に依存しないので、低酸素腫瘍の光線力学的療法に適用可能である。
【0130】
〔9.CPTおよびその誘導体の細胞毒性〕
抗癌剤としての能力を評価するために、種々の型の腫瘍細胞株に対するCPT誘導体の細胞毒性(IC50;50%阻害濃度)をMTT法によって測定した。用いた細胞は、HT−1080細胞、EMT6/KU細胞およびHT−29細胞である。
【0131】
表1に示すように、ハイブリッド分子CPT−IQの細胞毒性(すなわち、抗癌剤としての能力)は、CPT単独と比較して有意に減少しており、何ら処理を施さない状態でのハイブリッド分子CPT−IQが、低毒性であることを示す。
【0132】
【表1】

【0133】
以上の実施例に示したように、新規な種類の光感受性薬剤である光増感ハイブリッド分子が、光未照射時においては無毒であること、および、光照射下においては個々の部分が互いにその機能を阻害することなく作用することもまた確認した。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明に係る化合物であるハイブリッド分子は、低酸素腫瘍に対する光線力学的療法に適用可能な光感受性薬剤であるので、本発明により、細胞内の酸素に依存しない光線力学的療法用薬剤が提供できる。従って、光線力学的療法ではこれまで治療できなかった低酸素状態の腫瘍細胞を治療することができ、本発明に従うハイブリッド分子戦略は光線力学的療法のための新規光感受性薬剤の開発を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1は、本発明に係る化合物である光感受性薬剤ハイブリッド分子の例を示す。
【図2】図2は、本発明に係る化合物に対するレーザーフラッシュ光分解後に観察した過渡吸収の動的挙動を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明に係る化合物に対するレーザーフラッシュ光分解後に観察した過渡吸収の動的挙動を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明に係る化合物に対するレーザーフラッシュ光分解後に観察した過渡吸収の動的挙動を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明に係る化合物に対するレーザーフラッシュ光分解後に観察した過渡吸収の動的挙動を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明に係る化合物に対するレーザーフラッシュ光分解後に観察した過渡吸収の動的挙動を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明に係る化合物に対するレーザーフラッシュ光分解後に観察した過渡吸収の動的挙動を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明に係る化合物に対するレーザーフラッシュ光分解後に観察した過渡吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光酸化剤と電子受容体とが連結されている化合物であって、該光酸化剤は、光照射によって活性化され、該電子受容体は、該光酸化剤によって酸化された物質から放出される電子を不可逆的に受容する、化合物。
【請求項2】
前記光照射によって制癌作用を発現する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記光酸化剤および/または電子受容体が制癌作用を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記光照射によって細胞性成分が酸化される、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記電子受容体が還元活性化型のアルキル化剤である、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記光照射によって細胞性成分がアルキル化される、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記細胞性成分が、DNA、RNA、タンパク質、細胞膜または核膜である、請求項4または6に記載の化合物。
【請求項8】
前記光酸化剤および電子受容体がリンカー部分を介して連結されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
前記光照射によって前記光酸化剤と電子受容体とが解離する、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
前記光酸化剤が、カンプトセシン誘導体、キノン化合物、酸化性金属錯体、ビオロゲン化合物、またはチアジン系色素である、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
前記光酸化剤が、以下の構造式:
【化1】

または以下の構造式:
【化2】

(ここで、XはCR15またはNであり、Mは、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、マンガン(Mn)または鉄(Fe)であり、R1〜14は、炭化水素または他の置換基である)を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
前記電子受容体が、キノン化合物、ニトロ芳香族化合物または芳香族シアノ化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
前記電子受容体が、以下の構造式:
【化3】

を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項14】
請求項1に記載の化合物を含む、光線力学的療法用組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の化合物を備える、光線力学的療法用キット。
【請求項16】
請求項1に記載の化合物を被験体に投与する工程を包含する、光線力学的療法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−248980(P2006−248980A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67710(P2005−67710)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】