説明

新規化合物、メナキノンの新規生合成経路を利用した新規化合物の製造方法、メナキノンの新規生合成経路の中間体を利用したメナキノンの生産量を増加させる製造方法、及びメナキノンの新規生合成経路の中間体を利用したメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法

【課題】メナキノンの新規生合成経路を構成する新規化合物、この経路を利用した該新規化合物の製造方法、該化合物を利用したメナキノンの生産量を増加させる製造方法、及び該経路に特異的な阻害剤の探索方法の提供。
【解決手段】特定の化合物、フタロシンに、フタロシン脱ヒポキサンチン酵素またはフタロシンを脱ヒポキサンチン化する活性を持つ組換え酵素と還元剤とを、水または緩衝液存在下で反応させる、該化合物の製造方法。メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物のオーソログ遺伝子の破壊株を作成し、該破壊株をメナキノン存在下で培養する、新規化合物の製造方法。上記化合物の構造類似物質を合成し、該物質をメナキノンの新規生合成経路を持つ微生物に添加し、当該微生物への増殖阻害活性、フタロシン脱ヒポキサンチン酵素への阻害活性などから、これらの構造類似化合物をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定する阻害剤の探索方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、メナキノンの新規生合成経路を利用した新規化合物の製造方法、メナキノンの新規生合成経路の中間体を利用したメナキノンの生産量を増加させる製造方法、及び、メナキノンの新規生合成経路の中間体を利用したメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メナキノン(構造式を下記に示す)は、ビタミンK2とも呼ばれ、プレニル側鎖の長さおよび二重結合の飽和度の違いによりくつかの同族体が知られている。例えば納豆にはビタミンK2が豊富に含まれることが知られているが、これはメナキノン7(下記構造式中n=6)である。メナキノンは、微生物の細胞内(おそらく細胞膜) に存在し、ユビキノンと同様にエネルギー産生の最終段階である電子伝達系に関与していると考えられる。メナキノンの生理作用としては、血液の凝固促進作用が知られ、抗出血性ビタミンとして医薬品等で実用化している。さらに、哺乳類の骨の形成には、カルシウムを骨に接着させるタンパク質(オステオカルシン)の合成にメナキノン7が必須であることが明らかとなっている。
【0003】
【化1】

【0004】
電子伝達系で微生物が利用している物質は、メナキノンのみ、ユビキノンのみ、ユビキノンとメナキノンの両方の三種類に分類されるが、遺伝子欠損等の特殊な微生物でない限りメナキノンまたはユビキノンのいずれかまたは両方を利用していると考えられ、これらは一次代謝の維持に必須の重要な生体物質である。なお、大腸菌等の微生物が、両方のキノンを生産することが知られており(非特許文献1参照)、好気的な場合は、ユビキノン、嫌気的な場合はメナキノンの生産性が高くなると考えられる。
【0005】
メナキノンの生合成は、大腸菌や枯草菌では芳香族アミノ酸であるフェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの生合成経路(シキミ酸経路) の中間体であるコリスミ酸(構造式を下記に示す)を出発物質としてo-succinylbenzoateを経由する7段階の反応により生成することが知られている(〔図1〕参照)。これらの反応は、〔図1〕に示すように men遺伝子群 (MenF、MenD、MenC、MenE、MenB、MenA、MenG) の産物である酵素タンパク質(それぞれコリスミ酸異性化酵素、2−サクシニル−6−ヒドロキシ−2,4−シクロヘキサジエン−1−カルボキシレート合成酵素、オルトサクシニル安息香酸合成酵素、オルトサクシニル安息香酸CoA合成酵素、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエート合成酵素、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエートプレニル転移酵素、2−デメチルメナキノンメチル基転移酵素)の触媒作用により生成すると考えられている(以下、既知経路と称することもある)。
【0006】
【化2】

【0007】
これまでメナキノンを利用することが知られている微生物としては、大腸菌(Escherichia coli)、Bacillus属、Salmonella属、Mycobacterium属、Staphylococcus属、Flavobacterium属、Vibrio属、Anabaena属、Chlorobium属、Haemophilus属、Halobacterium属、Pasteurella属、Streptomyces属、Helicobacter属、Wolinella属、Campylobacter属、Geobacter属、Desulfovibrio属等があげられる。一方ユビキノンを利用することが知られている微生物としては、Pseudomonas属、Mesorhizobium 属、Neisseria属、Xanthomonas属、Sinorhizobium属、Agrobacterium属、Brucella属等があげられる。
【0008】
メナキノン発酵については、バクテリアや放線菌による菌体内生産が知られ、特にFlavobacterium属の細菌で生産性が高いことが報告されている(非特許文献2参照)。Flavobacterium属の生産するメナキノンは、メナキノン6(前記構造式中n=5)であるが、界面活性剤を添加して培養することでメナキノン4(前記構造式中n=3)を菌体外生産させることも可能であり、その場合の全メナキノンの生産性は280mg/Lと報告されており(非特許文献3参照)、安価に供給するためには大幅な生産性改良が必須である。
【0009】
ヒトにおいては、メナキノンはBacillus属も生産することから、Bacillus属に属する納豆菌による発酵食品である納豆中に含まれ、納豆を常時摂取していればメナキノン即ちビタミンK欠乏症にはならないとされている。しかし、食の多様化が進んでおり、納豆は特徴的な風味・食感やネバがあることから、嗜好として容認できない場合や、食文化として積極的に摂取したくないケースも考えられる。また、欧米では納豆そのものやメナキノン生産菌を利用した発酵食品が存在しないと考えられ、経口以外の供給源である腸内細菌による生産だけでは不足するケースも知られており、積極的に摂取するためにはメナキノンそのものの安価な提供が望まれている。
【0010】
【非特許文献1】Microbiol. Rev., 45, 316-354, 1981
【非特許文献2】Y. Tani et al, J. Ferment. Technol., 62, 321 (1984)
【非特許文献3】H. Taguchi et al, Agric. Biol. Chem., 53, 3017 (1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明の目的は、メナキノンの新規生合成経路を構成する新規化合物、メナキノンの新規生合成経路を利用した該新規化合物の製造方法、該新規化合物を利用したメナキノンの生産量を増加させる製造方法、及び該新規化合物を利用したメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
なお、本発明者らは、以下に具体的に説明するようにメナキノンの生合成経路としては上記の既知経路以外に全く新しい別の生合成経路が存在することを見いだし、さらにこの新規経路にかかわる遺伝子群及びそれらがコードするタンパク質を見いだし特許出願している(特願2006-156658及びその優先権出願である特願2007-147510参照)。
【0013】
具体的には、配列番号1の塩基配列(オープン・リーディング・フレームSCO 4506)、配列番号2の塩基配列 (オープン・リーディング・フレームSCO 4327)、配列番号3の塩基配列 (オープン・リーディング・フレームSCO 4550)、配列番号4の塩基配列 (オープン・リーディング・フレームSCO 4326)、配列番号5の塩基配列 (オープン・リーディング・フレームSCO 4490)、配列番号6の塩基配列 (オープン・リーディング・フレームSCO 4492)、配列番号7の塩基配列 (オープン・リーディング・フレームSCO 4494)及び配列番号8〜14のアミノ酸配列が該当する。
【0014】
上記発明の遺伝子群を用いて、遺伝情報データベースに対してこれらのORF配列を持っている生物を検索したところ、下記〔表1〕のような生物中に分布していることを確認し、ヘリコバクター、カンピロバクター、クラミジア等一部の病原性や食中毒原因菌を含むことを明らかとしている。
【0015】
【表1】

【0016】
上記の病原菌や食中毒菌に対して抗菌作用を示す薬剤はマクロライド系のクラリスロマイシンやセファム系のアモキシシリン等いくつか知られているが、抗菌スペクトルが広くほとんどの微生物に対して作用を示し有用な腸内細菌まで死滅させてしまうことから、選択性の高い薬剤が望まれる。
【0017】
そこで、本発明者等は、メナキノンの新規生合成経路の中間体がメナキノンを大量生産するために有効との考えに基づき検討を続けた結果、下記式[1]に示す新規化合物(以下、デヒポキサンチニルフタロシン(dehypoxanthinyl futalosine)又はDHFLと称することもある)、下記式[2]に示すに新規化合物(DHFLが環化した構造であることから、以下、cyclic DHFLと称することもある)、既知物質であるがそれぞれ制癌性抗生物質として知られるフタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の4種の化合物が、メナキノンの新規生合成経路の中間体であることを見いだし本発明に至った。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
なお、フタロシンは下記の構造を持つ制癌性抗生物質で、ヒト癌細胞に対して制癌活性を有し、特にその遺伝子の発現が認められる子宮頸部癌細胞(HPV+)の増殖を選択的に阻害する制癌活性を有する抗生物質である(特開平10-175993参照)。
【0021】
【化5】

【0022】
また、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸は酸化還元電位を有するナフトキノンに属する下記の構造を持つ化合物で、特開昭58-153792等で開示されている化合物である。
【0023】
【化6】

【0024】
すなわち、本発明は、上記式[1]で表される新規化合物を提供するものである。
また、本発明は、上記式[2]で表される新規化合物を提供するものである。
【0025】
また、本発明は、フタロシンに、フタロシン脱ヒポキサンチン酵素またはフタロシンを脱ヒポキサンチン化する活性を持つ組換え酵素と還元剤とを添加し、水または緩衝液存在下で反応させることを特徴とする、上記式[1]で表される新規化合物の製造方法を提供するものである。
【0026】
また、本発明は、メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の、放線菌Streptomyces coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子である配列番号4の塩基配列(オープン・リーディング・フレームSCO4326)に相当するオーソログ遺伝子の破壊株を作成し、該破壊株がメナキノン非存在下で成育しないことを確認した後に、該破壊株をメナキノン存在下で培養することを特徴とする、上記式[2]で表される新規化合物の製造方法を提供するものである。
【0027】
なお、本発明において「オーソログ遺伝子」とは、異なる生物種に存在する最終共通祖先がもっていた同一の遺伝子に由来する遺伝子を意味する。これら遺伝子がコードする蛋白質はそれぞれの生物において、同じ機能、またはよく似た機能を持っていることが知られている。さらに、これら蛋白質による相互作用も生物種間で保存されている可能性が高いと考えられる。なお、このようなオーソログ遺伝子による蛋白質間の相互作用はインターログと呼ばれている。
【0028】
また、メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の、放線菌Streptomyces coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子である配列番号2の塩基配列(オープン・リーディング・フレームSCO4327)に相当するオーソログ遺伝子の破壊株を作成し、該破壊株がメナキノン非存在下で成育しないことを確認した後に、該破壊株をメナキノン存在下で培養することを特徴とする、フタロシンの製造方法を提供するものである。
【0029】
また、本発明は、上記式[2]で表される新規化合物に、該上記式[2]で表される新規化合物から1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を生成する活性を持つ酵素または組換え酵素を添加し、水または緩衝液存在下で反応させることを特徴とする、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の製造方法を提供するものである
【0030】
また、本発明は、メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物を含む培地中に、上記式[1]で表される新規化合物、上記式[2]で表される新規化合物、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種又は2種以上を添加することにより、メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物のメナキノンの生産量を増加させることを特徴とする、メナキノンの製造方法を提供するものである。
【0031】
また、本発明は、メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法であって、上記式[1]で表される新規化合物、上記式[2]で表される新規化合物、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種の構造類似物質を合成し、合成した構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路を持つ微生物に添加し、該構造類似物質が該微生物の増殖阻害活性を示すことを確認し、該構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定することを特徴とする、メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法を提供するものである。
【0032】
また、本発明は、メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法であって、上記式[1]で表される新規化合物、上記式[2]で表される新規化合物、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種の構造類似物質を合成し、合成した構造類似物質がフタロシン脱ヒポキサンチン酵素の阻害活性を示すことを確認し、該構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定することを特徴とする、メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法を提供するものである。
【0033】
また、本発明は、メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法であって、上記式[1]で表される新規化合物、上記式[2]で表される新規化合物、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種の構造類似物質を合成し、合成した構造類似物質が上記式[2]で表される新規化合物から1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を生成する活性を持つ酵素の阻害活性を示すことを確認し、該構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定することを特徴とする、メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の化合物は新規化合物である。本発明の新規化合物、フタロシン又は1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸メナキノンを用いた本発明の製造方法によれば、メナキノンを安価に大量生産可能である。さらに、本発明の探索方法によれば、メナキノンの新規生合成経路を持つ生物に特異的な抗菌剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明について好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0036】
本発明において「メナキノンの新規生合成経路」とは、上述の通り、本発明者がメナキノンを生産しているにも関わらず従来知られているメナキノン生合成遺伝子を持っていない微生物群が存在することを見いだし検討を進めた結果、発見された従来知られている生合成経路(上記既知経路)とは全く異なる新規な生合成経路を意味する。
以下、「メナキノンの新規生合成経路」についてより具体的に説明する(特願2006-156658及びその優先権出願である特願2007-147510参照)。
【0037】
(1)目的の候補DNAの抽出
メナキノンを生合成しているにも関わらず既存のメナキノン生合成遺伝子群(Men遺伝子群) を持たない微生物に共通して存在する遺伝子の検索を、遺伝情報データベースを活用して進める(in silico) 。使用可能な遺伝情報データベースはどのようなものでも構わないが、含まれる遺伝情報が多く、出来るだけ最新の結果が反映されているものが好ましい。また、検索速度が速くなるような処理がなされている方が好ましい。このようなデータベースとしてKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (http://www.genome.ad.jp/kegg/)、The Institute for Genomic Research (TIGR、http://www.tigr.org/) 、The Joint Genome Institute(JGI 、http://genome.jgi-psf.org/mic _home.html)、The Sanger Institute(http://www.sanger.ac.uk/)、Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC 、http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/XBR/db/exbase/exbase.html) 、The Institut Pasteur(http://www.pasteur.fr/english.html)、The Kitasato Institute for Life Sciences(http://genome.ls.kitasato-u.ac.jp/index _j.html)、Real Environmental Genomix (Max Planck Institute、http://www.regx.de/m_home.php) 、Gottingen Genomics Laboratory, Institute of Microbiology and Genetics, Georg August University(http://www.g2l.bio.uni-goettingen.de/index.html)、National Institute of Technology and Evaluation (NITE 、http://www.bio.nite.go.jp/dogan/Top)、等があげられる。検索は遺伝子同士の相同性を数値化できるものであればどのようなものでも良いが、例えばダイナミックプログラミングアルゴリズム、FASTA アルゴリズム、BLAST アルゴリズム等を利用した汎用のソフトウエアを使用してもよい。このようなソフトウエアとしてはSSearch 3.4 、FASTA 3.4 、NCBI-BLAST 2.2. 等があげられる。また、検索は通常データベースを保有ないし直接アクセス可能なホストコンピュータ上で行うが、ホストコンピュータとのコミュニケーションおよび、目的の配列が限定した条件下(例えば菌株の限定等)での詳細な相同性の検索はパーソナルコンピュータを使用する。パーソナルコンピュータのハードウエアやプラットホームは使用するソフトウエアが実行可能であればどのようなものでも構わないが、実行速度が速い方が好ましい。
【0038】
以上の方法を用いて、ゲノム解析が終了しており、かつメナキノンを生合成することが確認されている微生物の中から、既知メナキノン生合成経路遺伝子群、すなわちmenF、menD、menC、menE、menBを持っている微生物と持っていない微生物をNational Center for Biotechnology Information のデータベースPubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=PubMed )から、Search for Nucleotide for menFとして検索を実行する。その結果、Escherichia coli、Salmonella typhimurium、Haemophilus influenzae、Bacillus subtilis 、Corynebacterium glutamicum、 Mycobacterium tuberculosis などの微生物が当該遺伝子を持つ菌株として検索される(以下、これらの菌株を旧経路菌株と呼ぶ)。同様に、順次、menD、menC、menE、menB遺伝子をキーワードに用いることによっても、旧経路菌株の微生物が当該遺伝子を持つ菌株として検索される。さらに、詳細な解析が行われている大腸菌のmenF、menD、menC、menE、menB産物のアミノ酸配列を問い合わせ配列として、DNA Data Bank of Japan(日本DNA データバンク、http://www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html)の検索・解析サービスを用いてSSearch 、FASTA 、Blast 検索を行うと、旧経路菌株に個々の遺伝子のオーソログが探索できる。したがって、これら微生物では既知経路(旧経路)が作動していることが確認できる。他方、Streptomyces coelicolor 、Streptomyces avermitilis、Geobacter metallireducens 、Helicobacter pylori 、Campylobacter jejuni、Archaeoglobus fulgidus、Aquifex aeolicusなどの微生物では(以下、これらの菌株を新経路菌株と呼ぶ)、メナキノンを生合成することが確認されているにもかかわらず、上記、National Center for Biotechnology Information のデータベースPubMedを用いた探索においても、日本DNA データバンクを利用したSSearch 、FASTA 、Blast 検索においても、menF、menD、menC、menE、menBのオーソログの存在を検出することはできない。
【0039】
以上の結果は、新経路菌株では既知経路とは全く異なる経路でメナキノンが生合成されるか、あるいは経路は同じであるが、アミノ酸配列の全く異なる酵素群により生合成される可能性の何れかであると考えられた。そこで今回見出したメナキノンの新規生合成経路に関して、[13C-U6]グルコースを使用した標識実験を行った結果、〔化7〕に示すように太線部分に13C-13C スピン結合が認められ、既知経路とは異なる標識パターンを示したことから(*を付した炭素には[6-13C] グルコースが取り込まれた。また、既知経路では、上下対称な中間体を経由するため、〔化7〕に示すように2種類の標識パタ−ンが得られる)、新経路菌株では、全く新規な経路が作動していることを証明できた。
【0040】
【化7】

【0041】
そこで、新経路菌株としてStreptomyces coelicolor 、Streptomyces avermitilis、Geobacter metallireducens 、Helicobacter pylori の4株を選択し、これら4株が共通に持つオーソログを全遺伝子産物(ORF)の総当りBLAST 検索することにより抽出する。また、旧経路菌株としてEscherichia coli、Bacillus subtilis 、Mycobacterium tuberculosis、Corynebacterium glutamicumの4株を選択し、同様にこれら4株が共通に持つオーソログも全遺伝子産物(ORF)の総当りBLAST 検索することにより抽出できる。最終的に、新経路菌株特異的オーソログの中から、旧経路菌株特異的オーソログを除いて遺伝子群を絞り込むことにより、例えばStreptomyces coelicolor を例に取ると、配列番号1〜7に記載したDNA、および配列番号8〜14に記載したタンパク質を選択できる。
【0042】
(2)候補遺伝子の破壊実験による証明
(1)で絞り込んだ遺伝子が実際にメナキノン新規生合成経路に関与することを遺伝子破壊により実証できる。以下、SCO 4506遺伝子の破壊株の取得を例示しながら説明するが、他の遺伝子破壊株でも同様に実施可能である。
Streptomyces coelicolor A3(2) 株用に用いられるプラスミドベクターpIJ702をBclI切断し、チオストレプトン耐性遺伝子を含むDNA断片を得る。本断片を大腸菌用のプラスミドベクターpUC19 のBamHI サイトにクローン化し、pUC19-tsr を得る。Streptomyces coelicolor A3(2) 株をYEME液体培地に植菌し、適当な条件で培養した後、常法に従い染色体DNAを単離・精製する。次いで、このDNAを鋳型に用い、in silico で絞り込んだSCO 4506の翻訳開始コドン上流3Kb のDNA領域を一対のプライマーを用いてPCR で増幅する。また、SCO 4506翻訳終止コドン下流域のDNAも一対のプライマーを用いてPCR で増幅する。PCR には、TaKaRa LA-PCR TM Kit Ver.2 (宝酒造社製) またはExpandTM High-Fidelity PCR System(ベーリンガー・マンハイム社製) 等を用い、DNA Thermal Cycler(パーキンエルマージャパン社製) を用いる。なお、後のクローニング操作を容易にするために、プライマーには適当な制限酵素部位を付加させておくことが好ましい。
【0043】
増幅したSCO 4506翻訳領域の上流と下流を含む2つのDNA断片を定法によりサブクローン化した後、PCR による複製エラーが無いことを塩基配列解析により確認する。SCO 4506翻訳領域の上流を含むDNA断片をpUC19-tsr のチオストレプトン耐性遺伝子の上流に、またSCO 4506翻訳領域の下流を含むDNA断片をpUC19-tsr のチオストレプトン耐性遺伝子下流に位置するように挿入し、SCO 4506遺伝子がチオストレプトン耐性遺伝子と入れ替わっていることを除き、SCO 4506遺伝子周辺の染色体領域がクローンニングされた、SCO 4506破壊用プラスミドpUC-4506-Disruptを得る。
【0044】
次いで、本プラスミドからSCO 4506の翻訳開始コドン上流域のDNA、チオストレプトン耐性遺伝子、SCO 4506翻訳終止コドン下流域のDNAを含むDNA断片を調製し、定法に従いポリエチレングリコールを用いてStreptomyces coelicolor A3(2) 株のプロトプラストに導入し、市販されているメナキノン4含有R5再生培地に塗布する。16時間後に、チオストレプトンを含む軟寒天培地を重層して培養することでチオストレプトン耐性株を得る。目的遺伝子が破壊されていることは、チオストレプトン耐性遺伝子特異的DNA断片を用いたサザンハイブリダイゼーション、あるいは、チオストレプトン耐性遺伝子特異的DNA塩基配列に基づいて設計されたプライマーを用いるPCR により確認できる。これら破壊株は、メナキノン4を含むR5寒天培地やYEME液体培地で生育できるが、メナキノン4を含まない培地では生育できないことから、SCO 4506はメナキノンの新規生合成経路に関与することは明らかである。さらに、本破壊株をメナキノン4含有YEME液体培地で生育させ、菌体から全メナキノンを抽出し、HPLCでメナキノンの種類を同定すると、本来Streptomyces coelicolor A3(2) 株が持つイソプレン側鎖が8であるメナキノン8ではなく、培地に添加したイソプレン側鎖が4のメナキノン4のみを検出できることから、SCO 4506破壊株は、メナキノンの新規合成ができず、培地に添加したメナキノン4に依存して生育することが確認できる。
【0045】
(3)変異剤を用いたメナキノン新規経路遺伝子欠損株の取得
上記in silico による新規経路に関与する遺伝子群の探索と遺伝子破壊実験による実証では、検索条件(検索に用いる母集団の数、オーソログ判定のための期待値の設定など)により、新規経路遺伝子(産物)を見逃す可能性がある。そこで、確実に全経路遺伝子の取得が可能な変異剤を用いたメナキノン要求性変異株の取得も行うことができる。放線菌Streptomyces coelicolor A3(2) 株を通常の変異処理を行い、メナキノン要求性変異株を取得する。この時に使用する変異処理は特に限定しないが、効率的に変異株が得られる方法が好ましい。このような方法としては、紫外線や放射線を照射する方法、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(ニトロソグアニジン;NTG)等のDNAのメチル化剤、等の変異源を有する薬剤と接触処理する方法、遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発方法等があげられる。変異処理により得られた菌株は、培地中にメナキノンを添加した場合のみに増殖する菌株を選抜することで目的の変異株を得ることができる。変異株を培養するために使用する培地としては菌が増殖可能であればどのようなものでも構わないが、メナキノンの添加効果が現れやすい培地が好ましい。このような培地としては、合成培地のM9などがあげられる。培養条件は特に限定しないが、適当な温度(例えば30℃)で数日間培養する。また、培地に添加するメナキノンはプレニル側鎖の長さの違いによりいくつか存在するが、前記構造中n=1〜7のものが好ましく、放線菌S. coelicolor A3(2) 株が細胞内で生産する長さ(n=7)がもっとも添加効果が得られやすい。ただし、経済性を配慮して安価に入手可能なメナキノン4{長さ(n=3)}がもっとも好ましい。メナキノンの添加濃度は、0.1〜1000μg/ml、好ましくは1〜100μg/ml、もっとも好ましくは、2〜50μg/mlが良い。
【0046】
好適な例としては、次のような手順を実施可能である。即ち、変異処理したStreptomyces coelicolor A3(2) の胞子(1×1010個)をメナキノン4(100μg/ml)含有ATCC5 培地(スターチ0.2 %、Difco yeast extract 0.1 %、Difco Bacto beef extract0.1%、 FeSO4・7H2O 0.01 %、寒天 2%、pH 7.5)に塗布する。30℃で4日間培養した後、個々のコロニーを爪楊枝を用いて、メナキノン4(100μg/ml)含有ATCC5 培地とメナキノン4を含まないATCC5 培地の2つのプレートにレプリカする。30℃で4日間培養した後、メナキノン4(100μg/ml)含有ATCC5 培地でのみ生育した株を選択することにより新規メナキノン経路欠損株を得る。
【0047】
(4)メナキノン新規経路遺伝子DNAの取得
前記(1)および(2)で実証できるメナキノン新規生合成経路に関与する遺伝子は下記方法により取得できる。以下、SCO 4506遺伝子の取得を例示しながら具体的に説明するが、他の遺伝子の取得に関しても同様に実施可能である。
PCR 法により配列番号1の塩基配列を有するDNAを取得するためには、Streptomyces coelicolor A3(2) 株の染色体DNAを鋳型として使用し、ゲノム情報に基づき設計した1対のプライマーDNAを使用して、TaKaRa LA-PCR TM Kit Ver.2 (宝酒造社製) またはExpandTM High-Fidelity PCR System(ベーリンガー・マンハイム社製) 等を用い、DNAThermal Cycler (パーキンエルマージャパン社製) でPCRを行う。なお、後のクローニング操作を容易にするために、プライマーには適当な制限酵素部位を付加させておくことが好ましい。
【0048】
PCRの条件の実施可能な一例として、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長) からなる反応工程を1サイクルとして、例えば、30サイクル行った後、72℃で10分間反応させる条件をあげることができる。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。クローニングは、常法、例えば、モレキュラー・クローニング第二版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995) 等に記載された方法、あるいは市販のキット、例えばSuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(ライフ・テクノロジーズ社製)やZAP-cDNA Synthesis Kit〔ストラタジーン(Staratagene)社製〕を用いて行うことができる。
【0049】
クローニングベクターとしては、大腸菌K12株中で自律複製できるものであれば、ファージベクター、プラスミドベクター等いずれでも使用できる、大腸菌の発現用ベクターをクローニングベクターとして用いてもよい。具体的には、ZAP Express 〔ストラタジーン社製、Strategies, 5, 58 (1992)〕、pBluescript II SK(+)〔Nucleic Acids Research,17, 9494 (1989)〕、Lambda ZAP II (ストラタジーン社製)、λgt10、λgt11〔DNA Cloning, A Practical Approach, 1, 49 (1985) 〕、λTriplEx (クローンテック社製)、λExCell(ファルマシア社製)、pT7T318U(ファルマシア社製)、pcD2〔H. Okayama and P. Berg;Mol. Cell. Biol., 3, 280 (1983) 〕、pMW218(和光純薬社製)、pUC118(宝酒造社製)、pEG400〔J. Bac.,172, 2392 (1990)〕、pQE-30(QIAGEN社製)等をあげることができる。
【0050】
得られた形質転換株より、目的とするDNAを含有したプラスミドを常法、例えば、モレキュラー・クローニング第二版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997) 、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995)等に記載された方法により取得することができる。上記方法により、配列番号1を有するDNAを取得することができる。
【0051】
また、配列番号1は、1〜数個の塩基が欠失、置換、付加および/または挿入されている塩基配列であって、SCO4506産物をコードする塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる塩基配列であって、SCO 4506産物が持つ酵素活性を有する酵素蛋白質をコードする塩基配列も含む。
例えば、配列番号1の塩基配列を有する放線菌由来のDNA断片の塩基配列を利用し、他の微生物等より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。あるいは、上記したように変異DNAは化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者が既知の任意の方法で作製することもできる。具体的には配列番号1の塩基配列を有するDNAを利用し、これらDNAに変異を導入することにより変異DNAを取得することができる。
例えば、配列番号1の塩基配列を有するDNAに対し、変異源となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発方法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Nucleic Acids Research,12,9441(1984)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Nucleic Acids Research,13,8749(1985)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,79,6409(1982)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA,82,488(1985) 、Gene,102,67(1991) 等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0052】
(5)変異処理で得たメナキノン新規経路欠損株を相補するDNAの取得
前記(3)の方法で得ることができるメナキノン新規経路欠損株を相補する遺伝子を取得することにより、メナキノン新規経路遺伝子DNAを取得できる。放線菌S. coelicolor A3(2) 株の染色体DNAのプラスミドライブラリを調製し、このライブラリィから挿入配列の中に前記(3)で得たメナキノン新規経路欠損株を相補する遺伝子を取得することができる。染色体DNAの調製は、放線菌S. coelicolor A3(2) 株を適当な培地、例えばDifco yeast extract 3g, Difco Bacto-peptone 5g, oxoid malt extract 3g, glucose 10g, sucrose 340g, 5 mM MgCl2・6H2Oより成るYEME培地で適当な温度(例えば30℃) で数日間培養する。培養後、得られた培養液より遠心分離により菌体を取得し、菌体より公知の方法(Practical Streptomyces Genetics, T. Kieser et al., The John Innes Foundation, Norwich) に従い染色体DNAを単離精製する。得られた染色体DNAは公知の方法、例えば適当な制限酵素による切断と適当なプラスミド、例えばpIJ702とのリガ−ゼを用いた連結により、メナキノン要求性変異株に導入する。プラスミドDNAのメナキノン要求性変異株への導入は公知の方法、例えば、Practical Streptomyces Genetics, T. Kieser et al., The John Innes Foundation, Norwich に記載されているプロトプラスト・ポリエチレングリコール法で行うことができる。このようにして得られる形質転換株の中から、培地中にメナキノン類を添加することなく生育可能となった株を選抜できる。これらの株が持つプラスミドに挿入されているDNAを回収し、挿入されている配列の両端について塩基配列を決定することで挿入配列が染色体のどの部分のオペロンかを正確に知ることができる。なお、挿入配列の塩基配列の決定は公知の方法により決定できる。このように、オペロンによる相補性およびメナキノン要求性を確認することで、メナキノンの新規生合成経路を構成するタンパク質をコードするDNAを得ることができる。
【0053】
以上の手順により配列番号1〜7の塩基配列を有するDNAを取得できる。また、明らかになった塩基配列を基に、PCR により目的の塩基配列を取得することも可能である。
【0054】
以下、本発明の1)新規化合物でかつメナキノンの新規生合成経路の中間体であるDHFL及びcyclic DHFL、フタロシン及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の単離及び構造決定等について述べ、次に2)ナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の、メナキノンの生産量を増加させることを特徴とする製造方法、最後に3)メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法について説明する。
【0055】
まず、1)4種化合物の単離及び構造決定等について詳述する。なお、1)は、A)新規化合物でかつメナキノンの新規生合成経路の中間体であるDHFLの単離及び構造決定、B)新規化合物でかつメナキノンの新規生合成経路の中間体であるcyclic DHFLの単離及び構造決定、C)メナキノンの新規生合成経路の中間体であるフタロシン、D)1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸に分けて説明する。
【0056】
1) メナキノンの新規生合成経路の中間体の単離及び構造決定等
A) DHFLの単離及び構造決定
まず、新規化合物でかつメナキノンの新規生合成経路の中間体であるDHFLの代表的な単離方法について述べる。
DHFLの代表的な単離方法としては、フタロシンに、フタロシン脱ヒポキサンチン酵素またはフタロシンを脱ヒポキサンチン化する活性を持つ組換え酵素と還元剤とを添加し、水または緩衝液存在下で反応させる方法が挙げられる。
以下、この方法においてフタロシンを脱ヒポキサンチン化する活性を持つ組換え酵素を用いた場合について具体的に説明する。
【0057】
上記の(4)メナキノン新規経路遺伝子DNAの取得において説明した方法により取得した、メナキノンの新規な生合成経路に関わる遺伝子である放線菌S. coelicolor A3(2)株由来の、SCO4327やそのオーソログ遺伝子であるThermus thermophilus HB8株由来のTTHA0556を取得し、大腸菌で発現させて組換え蛋白質を調製する。組換え蛋白質(酵素)の調製は市販のキットであるpMAL system等を利用し発現及び精製を行う。次にフタロシン(以下の3通りの方法で調製可能である、すなわち1)化学合成、2)特開平10-175993に記載の発酵法、3)本明細書に記載のフタロシンの単離精製法)、上記の組換え酵素、適当な還元剤(例えばメルカプトエタノール、ジチオスレイトール、システイン等)及び水または緩衝液(例えば、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等、pH4〜6)を含む反応溶液を調製し、20〜45℃、4〜48時間反応させる。
【0058】
得られた反応液は、逆相HPLC等を用いて分取することにより精製できる。また、精製度をあげるためにHPLCの再クロマトを数回行ってもよい。以上の手順により、精製されたメナキノンの新規生合成経路の中間体が得られる。この中間体を、重水素置換溶媒に溶解し各種NMR(1H、13C、1H-1H COSY、1H -13C HSQC等)を測定することで、構造決定を行い、シグナルを帰属し、上記式[1]で表される新規化合物DHFLであることを確認した。なお、DHFLは、1位の不斉炭素の水酸基の向きが二通りあるため2種類のエピマー(1R-DHFL及び1S-DHFL)の混合物となる。そこで、下記[表2]に、上記2種のエピマー混合物について、ジオキサンを含むD2Oを測定溶媒として使用して測定した13C NMR スペクトル、及び、1H NMR スペクトルの解析結果を示す。また、〔化8〕にDHFLのNMRスペクトルの帰属のための番号を付したDHFLの構造式を示す。以上より、メナキノンの新規な生合成経路に関わる遺伝子 SCO4327やそのオーソログ遺伝子であるT. thermophilus HB8株由来のTTHA0556はフタロシン脱ヒポキンサンチン酵素をコードすることが明らかである。
【0059】
【表2】

【0060】
【化8】

【0061】
なお、得られたDHFLの物理化学的性質は以下のとおりである。
性状:白色粉末
分子式:C14H16O7
分子量:296.28
溶解性:水に可溶、クロロホルム、ヘキサンに難溶である。
【0062】
B) cyclic DHFLの単離及び構造決定
次に、新規化合物でかつメナキノンの新規生合成経路の中間体であるcyclic DHFLの代表的な単離方法について述べる。
cyclic DHFLの代表的な単離方法としては、メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の、放線菌Streptomyces coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子SCO4326に相当するオーソログ遺伝子の破壊株を作成し、該破壊株がメナキノン非存在下で成育しないことを確認した後に、該破壊株をメナキノン存在下で培養する方法が挙げられる。以下、この方法について具体的に説明する。
【0063】
放線菌S. coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子SCO4326の破壊株を上記の(2)候補遺伝子の破壊実験による証明において説明した方法により作成し、該破壊株がメナキノン非存在下で成育しないことを確認した後に、メナキノン4 (構造式3、n=3) およびチオストレプトンを含む適当な培地(完全培地であるSK No.IIや合成培地であるM9培地)で適当な条件(温度20〜35 ℃、培養日数2〜7日、回転数100〜300 rpm)で前培養を行う。この培養液の一部をメナキノン4 (構造式3、n=3) およびチオストレプトンを含む適当な培地(M9等)に接種しさらに本培養を行う(温度・回転数は前培養と同じ条件、培養日数7〜30日)。得られた培養液を遠心分離により菌体を除去後、培養ろ液中に含まれるメナキノン4を除くために適当な溶媒、例えば酢酸エチルで抽出を行う。水層を回収し、水層中に含まれる溶媒を減圧下で除いた後、脱溶媒した水層を適当なポーラスポリマー樹脂、例えばHP20(三菱化学製)に吸着後、水洗し適当な濃度のメタノールで溶出させ、減圧濃縮し試料液を得る。次に試料液をアニオン交換樹脂、例えばDowex 1x4に吸着させ、アニオン交換樹脂を水で洗浄する。洗浄した樹脂を適当な溶出溶媒、例えば塩酸(0.1〜2.0 M)で溶出する。溶出液を適当なアルカリ(例えば0.2 M NaOH)でpH4〜5とした後、減圧下で濃縮する。
【0064】
得られた濃縮液は逆相HPLC、例えばカラムとしてODS、移動層として水/アセトニトリル系等を用いて分取することにより精製する。また、精製度をあげるために複数のカラムを用いてHPLCによる再クロマトを数回繰返してもよい。以上の手順により、精製されたメナキノンの新規生合成経路の中間体が得られる。この中間体を、重水素置換溶媒に溶解し各種NMR (1H、13C、1H -1H COSY、1H -13C HSQC等) を測定することで下記のように構造決定を行い、シグナルを帰属し、上記式〔2〕で表される新規化合物cyclic DHFLであることを確認した。なお、cyclic DHFLは、1位の不斉炭素の水酸基の向きが二通りあるため2種類のエピマー(1R-cyclic DHFL及び1S-cyclic DHFL)の混合物となる。そこで、下記〔表3〕に、上記2種のエピマー混合物について、ジオキサンを含むD2Oを測定溶媒として使用して測定した13C NMR スペクトル、及び1H NMR スペクトルの解析結果を示す。また、〔化9〕にcyclicDHFLのNMRスペクトルの帰属のための番号を付したcyclicDHFLの構造式を示す。
【0065】
【表3】

【0066】
【化9】

【0067】
なお、得られたcyclic DHFLの物理化学的性質は以下のとおりである。
性状:白色粉末
分子式:C14H16O7
分子量:296.28
溶解性:水に可溶、クロロホルム、ヘキサンに難溶である。
【0068】
C) フタロシンの単離及び構造決定
メナキノンの新規生合成経路の中間体であるフタロシンの代表的な単離方法を述べる。
フタロシンの代表的な単離方法としては、メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の、放線菌Streptomyces coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子SCO4327に相当するオーソログ遺伝子の破壊株を作成し、該破壊株がメナキノン非存在下で成育しないことを確認した後に、該破壊株をメナキノン存在下で培養する方法が挙げられる。なおフタロシンは以下に具体的に説明する、破壊株から単離する方法以外にも、特開平10-175993に記載の発酵法で調製しても良い。また、適当な材料から化学合成してもよい。
【0069】
まず、放線菌S. coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子SCO4327の破壊株を上記の(2)候補遺伝子の破壊実験による証明において説明した方法により調製し、該破壊株がメナキノン非存在下で成育しないことを確認した後に、メナキノン4(構造式3、n=3) およびチオストレプトンを含む適当な培地(SK No.II等)を用い、適当な条件(温度20〜35 ℃、培養日数2〜7日、回転数100〜300 rpm)で前培養を行う。この培養液の一部をメナキノン4(構造式3、n=3) およびチオストレプトンを含む適当な培地(完全培地であるSK No.IIや合成培地であるM9培地)に接種しさらに本培養を行う (温度・回転数は前培養と同じ条件、培養日数7〜30日)。得られた培養液を遠心分離により菌体を除去後、培養ろ液中に含まれるメナキノン4(構造式3、n=3)を除くために適当な溶媒、例えば酢酸エチルで抽出を行う。水層を回収し、水層中に含まれる溶媒を減圧下で除いた後、脱溶媒した水層を適当なアニオン交換樹脂、例えばDowex 1x4に吸着させ、アニオン交換樹脂を水で洗浄する。洗浄した樹脂を適当な溶出溶媒、例えば塩酸(0.1〜2.0 M)で溶出する。溶出液を適当なアルカリ(例えば0.2 M NaOH)で中和後、中和液を減圧下で濃縮する。得られた濃縮液は、適当なポーラスポリマー樹脂、例えばHP20(三菱化学製)に吸着後、水洗し適当な濃度のメタノールで溶出させ、減圧濃縮し試料液を得る。
【0070】
本試料液を逆相HPLC、例えばカラムとしてODS、移動層として水/アセトニトリル系等を用いて分取することにより精製する。また、精製度をあげるためにHPLCによる再クロマトを数回行ってもよい。以上の手順により、精製されたメナキノンの新規生合成経路の中間体が単離できる。この物質を、重水素置換溶媒に溶解し各種NMR(1H、13C、1H -1H COSY、1H -13C HSQC等)を測定することで、構造決定を行ったところ、公知の化合物フタロシンであることを確認した。
【0071】
D) 1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の単離及び同定
メナキノンの新規生合成経路の中間体である1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の代表的な単離方法を述べる。
1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の代表的な単離方法としては、cyclic DHFLに、cyclic DHFLから1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を生成する活性を持つ酵素または組換え酵素を添加し、水または緩衝液存在下で反応させる方法が挙げられる。以下、この方法について具体的に説明する。
【0072】
Cyclic DHFL、組換え酵素蛋白質、水または適当な緩衝液(例えば、上記のDHFLの単離方法で用いたものが挙げられる)よりなる反応混液を作成する。なお、cyclic DHFLは既に上記C)で説明した方法により調製する。また、組換え蛋白質は、上記の(4)メナキノン新規経路遺伝子DNAの取得において説明した方法により取得した、メナキノンの新規な生合成経路に関わる遺伝子である放線菌S. coelicolor A3(2)株由来のSCO4326やそのオーソログ遺伝子であるThermus thermophilus HB8株由来のTTHA1568を、大腸菌で発現させて組換え蛋白質を調製する。組換え蛋白質(酵素)の調製は活性のある形で発現できればいかなる方法でもよいが、市販のキットであるマルトース結合蛋白質との融合等(Catalog番号 N8076S、pMAL-c2X Vector、New England Biolabs)を利用するのが好ましい。発現した融合蛋白質をキットに従いカラムに吸着させマルトース存在下で溶出することで容易に精製できる。
【0073】
反応混液は適当な温度、例えば37 ℃で一定時間、例えば12時間反応を行い、反応液をHPLC等により分析を行う。分析に使用するカラム及び移動層は水系の逆相カラムであればどのようなものでも構わないがMightysil RP-18GP Aqua 250-4.6等があげられる。移動層も基質であるcyclic DHFL及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を検出可能であればどのような条件でも構わないが、例えば、20 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 2.5)とメタノールの混合溶媒等があげられる。検出器もcyclic DHFL及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を検出可能であればどのような装置を利用しても構わないが、例えばUV検出器を使用できる。以上により、基質であるcyclic DHFLが減少し新たなピークの出現を確認した。新たに出現したピークをLC-MSにより分析することで、分子イオンピーク(M+1)である203を確認し、得られた化合物は1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸であると推定した。
【0074】
次に適当な方法、例えば公知の方法(特開昭58-153792)で化学合成することで、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を調製し、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の添加によるメナキノンの新規経路の破壊株の生育を確認した。なお、1,4-ナフトキノン-2-カルボン酸(既知メナキノン生合成経路の中間体)及び1,4-ナフトキノンを添加しても破壊株は生育しなかった。これらの結果より、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸無添加では破壊株の増殖は認められないが1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を添加することで破壊株が増殖することを確認した。また、LC-MS分析での溶出位置及びHPLCでのフォトダイオードアレイを用いたUV測定でも、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸は酵素反応で生成した新規ピークと、分子イオンピーク、フラグメントパターン、UVスペクトルが全て一致した。以上により、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸がメナキノンの新規生合成経路の中間体であることを証明した。
以上より、メナキノンの新規な生合成経路に関わる放線菌S. coelicolor A3(2)株由来の遺伝子 SCO4326やそのオーソログ遺伝子であるT. thermophilus HB8株由来のTTHA1568は、cyclicDHFLから1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を生成する反応を触媒する酵素をコードすることが明らかである。
【0075】
2)メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の、メナキノンの生産量を増加させることを特徴とするメナキノンの製造方法
次に、本発明の2)メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の、メナキノンの生産量を増加させることを特徴とするメナキノンの製造方法について説明する。
【0076】
本発明のメナキノン生産方法の概要としては、新規生合成経路を持つメナキノン生産菌を培養し、培養開始時または培養の途中で、上記DHFL、cyclic DHFL、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれた1種又は2種以上を添加し、さらに培養を継続することで、培養物中にメナキノンを高濃度で蓄積させ、該培養物からメナキノンを採取することにより、通常細胞内に存在するよりも大量にメナキノンを生産させるものである。培養終了後、培養物に適当な有機溶媒を加えてメナキノンを抽出し、遠心分離や濾過等で沈殿物を除去した後、各種クロマトグラフィーを行うことによりメナキノンを単離・精製することができる。
【0077】
本発明のメナキノンの製造方法で使用する、DHFL、cyclic DHFL、フタロシン、及び/又は1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸は、上記で説明した方法により、これらを生産する菌から単離してもよく化学合成や酵素反応を利用して得てもよい。添加濃度としては、メナキノン生産菌の持つメナキノンの生産能を活性化できる濃度であればどのような濃度でも良いが、0.001〜30 g/Lが良く、好ましくは0.003〜10 g/L、さらに好ましくは0.01〜3 g/L、最も好ましくは0.03〜1 g/Lが良い。なお、添加方法は、上記4種化合物が全て水溶性であるため水に溶解して添加することが好ましく、必要であればpHを調整後、ろ過除菌や殺菌処理後に添加してもよい。また、添加時期は好ましくは、培養開始直後から168時間目の間がよいが、さらに好ましくは、培養開始後4〜120時間目の間、最も好ましくは培養開始後8〜72時間目が好ましい。また、添加回数は1回でもよいが、基質阻害を押さえる観点から、2〜10回、好ましくは2〜5回に分けて添加してもよい。
【0078】
本発明のメナキノンの製造方法で使用するメナキノン生産菌は、新規経路によりメナキノンを生産可能な菌であればいかなるものでもよく、Geobacter属、Desulfovibrio属、Anaeromyxobacter属、Desulfuromonas属、Pelobacter属、Syntrophobacter属、Bacillus属、Carboxydothermus属、Moorella属、Desulfotomaculum属、Syntrophomonas属、Streptomyces属、Frankia属、Symbiobacterium属、Rhodopirellula属、Blastopirellula属、Deinococcus属、Thermus属、Aquifex属、Solibacter属、Archaeoglobus属、Thermoplasma属、Aeropyrum属、Pyrobaculum属、Helicobacter属、Wolinella属、Thiomicrospira属、Campylobacter属、Chlamydia属、Chlamydophila属等があげられる。
【0079】
しかし、病原菌や食中毒菌は物質生産という観点から鑑みると、安全性の面から好ましくない。また、生産性の観点から、メナキノンの生産性が高い菌株が好ましい。さらに、人為的にメナキノンの新規生合成経路の遺伝子群を強化して生産性を向上させた菌株、あるいは紫外線処理・メチル化剤等の薬剤処理・熱処理等の変異処理を行ってメナキノンの生産性を向上させた変異株を使用することも可能である。このような新規経路を持つメナキノン生産菌としてはStreptomyces属および、Thermus属があげられ、これらの微生物の使用が好ましい。これらの内、工業利用の実績の多いStreptomyces属が最も好ましい。
【0080】
本発明のメナキノンの製造方法では、メナキノン生産菌の培養条件は、上記4種化合物を添加しない場合の通常の発酵生産方法と同一条件でよく、公知の培養方法により生産できる。本発明に使用する培地は、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、できるだけ高濃度で菌体を増殖させ得る培地であれば天然培地、合成培地のいずれでもよい。
【0081】
上記炭素源としては、それぞれの微生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノールなどのアルコール類が用いられる。
【0082】
上記窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機酸や有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素化合物、並びに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等が用いられる。
【0083】
上記無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0084】
培養は、振盪培養または深部攪拌培養などの条件下で行う。培養条件は好気的でも嫌気的でも構わないが、菌体濃度を上げたい場合は好気的な条件が好ましい。一方、メナキノンは嫌気的な条件で生産性が上がることが知られており、嫌気的な条件も発明の範疇である。培養温度は15〜40 ℃がよく、培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン、チオストレプトン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0085】
このようにして得た培養物から、メナキノンを単離精製するためには、公知のメナキノンの単離・精製法を用いればよい。一例を挙げると、メナキノンは通常は菌体内に存在することから、培養終了後、菌体を遠心分離や濾過により回収し緩衝液に懸濁させる。必要に応じて懸濁液は、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕する。細胞懸濁液または細胞破砕液は、通常の酸性有機物の抽出方法に従って抽出または適当な吸着剤に吸着させることが出来る。すなわち、抽出する場合は、例えば、細胞懸濁液または細胞破砕液をpH無調整または中和、あるいは有機酸又は無機酸を用いて酸性、あるいは有機塩基や無機塩基を用いてアルカリ性とした後、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、アセトン等の有機溶媒を用いてメナキノンを抽出する。さらに、抽出液(有機溶媒相)中に含有する水分を減らす必要があれば、無水硫酸ナトリウム等で脱水してもよい。また、必要に応じて、反応液に塩化ナトリウム等の電解質を溶解させてもよい。また、吸着剤に吸着させる場合の吸着剤としては、イオン交換樹脂、ポーラスポリマー樹脂、活性炭、シリカゲル等が使用可能でこれらの組み合わせで実施してもよい。続いて、吸着剤から適当な溶出液を用いてメナキノンを含む溶出液を得ることが出来、さらに、得られた溶出液は減圧下で抽出溶媒を留去することでメナキノンを得ることが出来る。
なお、さらに高度に精製する場合は、上記メナキノンを、HPLCによる分取や、適当な溶媒を用いることにより結晶化することも可能である。
【0086】
3)メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法
最後に、本発明の3)メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法について詳述する。
【0087】
メナキノンの新規な生合成経路は上述のとおり、上記〔表1〕のような微生物に分布しており、〔表1〕の微生物には、胃潰瘍の原因菌とされる、ヘリコバクター属の微生物や、食中毒の原因菌のひとつであるカンピロバクター属、性器クラミジア感染症の原因菌であるクラミジア属、等の病原菌が多く含まれる。このため、メナキノンの新規な生合成経路に特異的な阻害剤は、有用性および選択性の高い抗菌剤であることが期待できる。また、メナキノンの新規な生合成経路はヒトを含む哺乳類には全く存在しないことから、安全性が高いことも期待できる。
【0088】
本発明のメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法としては、下記(1)(2)(3)の三通りの方法が考えられる。
(1)DHFL、cyclic DHFL、フタロシン、及び、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種の構造類似物質を合成し、合成した構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路を持つ微生物に添加し、該構造類似物質が該微生物の増殖阻害活性を示すことを確認し、該構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定する方法
(2)DHFL、cyclic DHFL、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種の構造類似物質を合成し、合成した構造類似物質がフタロシン脱ヒポキサンチン酵素の阻害活性を示すことを確認し、該構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定する方法。
(3)DHFL、cyclic DHFL、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種の構造類似物質を合成し、合成した構造類似物質がcyclic DHFLから1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を生成する活性を持つ酵素の阻害活性を示すことを確認し、該構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定する方法。
【0089】
(1)の方法の場合、メナキノンの新規合成経路を利用している微生物を用いるためこのような微生物に対する増殖阻害活性があることを明確に評価可能である一方で、目的以外の代謝経路で阻害剤が分解されてしまい抗菌活性が得られにくいケースも考えられる。逆に(2)・(3)の方法の場合、酵素単体の阻害活性を調べることから酵素と阻害剤との相互作用や阻害のメカニズムを理解しやすい一方で微生物に対する抗菌活性が得られないケースも考えられ、上記の(1)と(2)・(3)の方法は相補的な面を持っているといえる。よって、本発明のメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法としては、上記(1)の方法と、(2)または(3)の方法を組み合わせて行うことが好ましい。
【0090】
評価に供するDHFL、cyclic DHFL、フタロシンまたは1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の構造類似物質の設計は、DHFL、cyclic DHFL、フタロシンまたは1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を構成する元素を置き換えた化合物、例えば炭素を酸素への置き換え(-CH2-を-O-等)、窒素を炭素への置き換え(-NH-を-CH2-等)、窒素を酸素への置き換え(-NH-を-O-等)、これらの逆の置換等、実施可能な全ての元素置換を含む。また、官能基の置換や導入、例えば、メチレン基((-CH2-)の水酸化(-CHOH-)、アミノ化(-CHNH2-)、カルボニル化(-CO-)、水素のメチル基への置換等を行ってもよい。このような構造類似化合物を適当な方法、例えば化学合成や微生物変換等、任意の方法で調製し阻害剤としてのスクリーニングに供する。
【0091】
阻害活性は、抗菌剤として利用可能な濃度で阻害活性が得られればよいが、このような濃度範囲としては0.01〜10000 μg/ml、好ましくは0.02〜1000 μg/ml、さらに好ましくは0.05〜100 μg/mlで明確なメナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の増殖阻害活性(抗菌活性)やフタロシン脱ヒポキサンチン酵素の阻害活性を示す物質が良い。
評価に用いるメナキノンの新規生合成経路を持つ微生物としては上記〔表1〕の微生物等があげられ、特にヘリコバクター、カンピロバクター、クラミジア等一部の病原菌や食中毒の原因菌を用いることで直接評価できることから、これらの原因菌を直接用いることもできるが、一方、これらの菌は汚染対策等を万全にする必要がある。このため、メカニズムが明確であることから同じメナキノンの新規な生合成経路を持っている放線菌、とくに、病原性の知られていないStreptomyces属の放線菌を使用することが、扱いやすさや安全な研究環境という点から好ましい。Streptomyces属菌はストレプトマイシン等多くの有用物質生産で工業的に使用されており、また全遺伝情報が明らかとなったS. coelicolor A3(2)株等が含まれ、実験室での使用実績も多く、病原性も認められていないことから好ましい。このようにして見いだした薬剤は作用機作が当初より明確であるため、抗菌剤や抗生物質としての開発が容易に開始可能であり、メカニズムを明らかにするためのコストを低減化することもできる。さらに、上記(2)(3)の方法で得られた薬剤は、特定の段階の酵素タンパク質の阻害活性を示すものであるため、研究用試薬としての利用もできる。また、上記(1)の方法で得られた薬剤についても、各段階の酵素タンパク質の阻害活性を調べることにより、どの段階を阻害するかを明確にすることにより、研究用試薬としての利用もできる。本発明はメナキノンの生合成の既存の経路とは全く異なる新規な生合成経路に関するものであり、既存の経路の情報だけでは実施不可能でかつ有用性の高い薬剤の探索ができる。
【実施例】
【0092】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例で示した遺伝子組換え実験は、特に言及しない限りモレキュラー・クローニング第2版に記載の方法、およびPractical Streptomyces Genetics, T. Kieser et al., The John Innes Foundation, Norwichに記載の方法(以下、常法と呼ぶ)を用いて行った。
【0093】
実施例1:新規化合物でかつメナキノンの新規生合成経路の中間体であるDHFLの検出及び製造
【0094】
(1)メナキノンの新規生合成経路遺伝子であるS. coelicolor A3(2)株の SCO4327の、オーソログ遺伝子であるThermus thermophilus HB8株のTTHA0556産物の、大腸菌での発現・調製
T. thermophilus HB8株は好熱性細菌であり、本株由来の酵素は熱安定性に優れていることが知られている。翻訳した蛋白質の一次配列から、本株が持つTTHA0556とSCO4327はオーソログ遺伝子と考えられ、SCO4327産物よりも熱安定性に優れていると考えられるTTHA0556産物の大腸菌での発現を行った。
【0095】
まず、T. thermophilus HB8株のゲノム情報に基づき、TTHA0556の5ダッシュ側のプライマー(下記の配列aのプライマー)および3ダッシュ側のプライマー(下記の配列bのプライマー)を作成した。市販のT. thermophilus HB8株染色体DNA(宝酒造社製、Code 3071)を鋳型として、これらプライマーと、TaKaRa LA-PCRTM Kit Ver.2(宝酒造社製)、ExpandTM High-Fidelity PCR System(ロシュ社製)またはTaq DNA polymerase(Promega社製)を用い、DNA増幅装置 (MJ Research社製)でPCRを行った。PCRは、95 ℃で30秒間、60 ℃で1分間、72 ℃で2分間からなる反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72 ℃で10分間反応させる条件で行った。PCR終了後、該反応液をアガロースゲル電気泳動し、約680bpのDNA断片を取得した。上記で取得したDNA断片をpGEM-T Easyベクター(Promega社製)と混合した後、エタノール沈殿を行い、得られたDNA沈殿物を5 μlの蒸留水に溶解し、ライゲーション反応を行うことにより組換え体DNAを取得した。該組換え体DNAを用い、E. coli(東洋紡より購入)DH5α株を常法に従って形質転換後、該形質転換体をアンピシリン50 μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37 ℃で一晩培養した。生育してきたアンピシリン耐性の形質転換体のコロニー数個について、アンピシリン50 μg/mlを含むLB液体培地5 mlで37 ℃16時間振盪培養した。得られた培養液を遠心分離することにより菌体を取得した。該菌体より常法に従ってプラスミドを単離した。該方法により単離したプラスミドに挿入された塩基配列を決定することにより、目的のDNA断片が挿入されているプラスミドであることを確認した。
【0096】
TTHA0556遺伝子の5’側のプライマー
配列a; 5’-GGGGGATCCTGGCTCCTCCTTTCCCCCACCCGCCT-3’
TTHA0556遺伝子の3’側のプライマー
配列b; 5’-ACCAAGCTTTCAGCCGGGGGGCCTACGGGCCCCCC-3’
【0097】
得られたプラスミドベクターに挿入された目的の遺伝子断片を、pMAL system (New England Biolabs、カタログNo. N8076S)を用いて大腸菌に発現させ得られた融合蛋白質を、さらにpMAL systemに従い融合部分を切断することで、TTHA0556遺伝子の産物である酵素蛋白質の精製品を得た。
【0098】
(2) TTHA0556遺伝子産物による反応生成物の検出
上記(1)で調製したT. thermophilus HB8株のTTHA0556の酵素蛋白質(精製酵素)及び公知の特開平10-175993の方法で調製した精製フタロシンを下記の反応系に供し、37 ℃、12時間酵素反応を行った。
【0099】
<反応系>
精製フタロシン(1 mg/ml) 20 μL
精製酵素(1 mg/ml) 40 μL
100 mM 酢酸カリウム緩衝液(pH 5.0) 100 μL
2−メルカプトエタノール 0.5 μL
蒸溜水 39.5 μL
合計200 μL
【0100】
上記反応系により調製した反応液を逆相HPLC、すなわちカラムとしてODS(Mightysil RP-18GP Aqua 250-4.6、関東化学製)、移動層として20 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 2.5)/メタノール(60:40)を用いて流速0.4 ml毎分、温度30 ℃で分離し、250 nmの吸光度を測定することで酵素反応により生成した新たなピーク(物質)を確認した。
【0101】
(3) DHFLの単離
上記(1)で調製したT. thermophilus HB8株のTTHA0556の酵素蛋白質及び公知の特開平10-175993の方法で調製した粗フタロシンを下記の反応系に供し、37 ℃、12時間酵素反応を行った。
【0102】
<反応系>
粗フタロシン(約67 %) 15 g
精製酵素(1.7 mg/ml) 0.75 ml
100 mM 酢酸カリウム緩衝液(pH 5.0) 25 ml
2−メルカプトエタノール 0.125 ml
蒸溜水残部合計 50 ml
【0103】
次に新たに生成した物質の大量調製を次の条件により行った。すなわち、カラムとしてODS(Mightysil RP-18GP Aqua 250-10、ガードカラム付き、関東化学製)、移動層として20 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 2.5)/アセトニトリル混合系を用いて流速1.8 ml毎分、温度30 ℃で分離し、250 nmの吸収を検出し、生成したピークを分取することにより精製した。分取により得た画分を、再度カラムとしてODS(Mightysil RP-18GP Aqua 250-10、ガードカラム付き、関東化学製)、移動層として水/アセトニトリル混合系を用いて流速15 ml毎分、温度30 ℃で分離し、250 nmの吸光度を検出し分取することにより精製した。以上の操作を繰り返すことによりDHFLを 20 mg得た。なお、得られたDHFLは、1位の不斉炭素の水酸基の向きが二通りあるため2種類のエピマー(1R-DHFL及び1S-DHFL)の混合物となる。以上より、メナキノンの新規な生合成経路に関わる遺伝子であるT. thermophilus HB8株の遺伝子TTHA0556はフタロシン脱ヒポキンサンチン酵素をコードすることが明らかとなった。
【0104】
実施例2: DHFLの製造
実施例1を10回繰り返すことでDHFLを203 mg 製造した。
【0105】
実施例3: cyclic DHFLの製造
(1)放線菌S. coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子SCO4326の破壊株の調製
S. coelicolor A3(2) 株を1白金耳、100 mlのYEME液体培地(Difco yeast extract 3 g, Difco Bacto-peptone 5 g, oxoid malt extract 3 g, glucose 10 g, sucrose 340 g, 5 mM MgCl2・6H2O)に植菌し、30 ℃で3日間培養した後、常法に従い染色体DNAを単離・精製した。次いで、in silicoで絞り込んだ候補遺伝子の翻訳開始コドン上流3 Kb のDNA領域と翻訳終止コドン下流3 Kb のDNA領域をPCR により増幅した。具体的には、SCO4326の翻訳開始コドン上流3 Kb のDNA領域の増幅には、下記の配列cおよび配列dの2つのプライマーを用いた。なお、各々のプライマーには、サブクローニングしやすいようにSacI 部位とBamHI部位を導入した。また、翻訳終止コドン下流3 Kb のDNA領域の増幅には、下記の配列eおよび配列fの2つのプライマーを用いた。これらプライマーにも各々制限酵素部位(PstIとHindIII )を導入した。染色体DNAを鋳型として、これらプライマーと、TaKaRa LA-PCR TM Kit Ver.2( 宝酒造社製)、ExpandTM High-Fidelity PCR System(ロシュ社製) またはTaq DNA polymerase(Promega 社製)を用い、DNA増幅装置 (MJ Research 社製) でPCRを行った。PCRは、95 ℃で30秒間、55 ℃で1分間、72 ℃で2分間からなる反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72 ℃で10分間反応させる条件で行った。PCR終了後、各々の反応液をアガロースゲル電気泳動し、約3 KbのDNA断片を取得した。次いで、上記と同じ方法で、各々の断片をpUC19にサブクローン化した。得られたプラスミドの塩基配列を決定することにより、目的のSCO4326の翻訳領域上流3 Kb、および翻訳領域下流3 Kb の領域を含むDNA断片が挿入されているプラスミドであることを確認し、本プラスミドをp4326-UPとp4326-DOWN と命名した。
【0106】
次いで、S. coelicolor A3(2) 株用に用いられるプラスミドベクターpIJ702をBclI切断後、アガロースゲル電気泳動し、チオストレプトン耐性遺伝子を含む約800 bp のDNA断片を取得した。上記で取得したDNA断片をBamHI切断したp4326-UPと混合した後、エタノール沈殿を行い、得られたDNA沈殿物を5 μlの蒸留水に溶解し、ライゲーション反応を行うことにより組換え体DNAを取得した。該組換え体DNAを用い、E. coli (東洋紡より購入)DH5α株を常法に従って形質転換後、該形質転換体をアンピシリン50 μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37 ℃で一晩培養した。生育してきたアンピシリン耐性の形質転換体のコロニー数個について、アンピシリン50 μg/mlを含むLB液体培地5ml 37 ℃で16時間振盪培養した。得られた培養液を遠心分離することにより菌体を取得した。該菌体より常法に従ってプラスミドを単離した。該方法により単離したプラスミド中に目的のチオストレプトン耐性遺伝子を含むDNA断片が挿入されていることを確認し、本プラスミドをp4326-UP-tsr と命名した。
【0107】
次いで、p4326-DOWNからSCO4326の翻訳領域下流3Kb 領域を含むPstIとHindIII断片を調製し、上記と同様の方法で、p4326-UP-tsrの対応する各々の制限酵素部位に導入し、SCO4326破壊用プラスミドpUC-4326-Disrpt を得た。次いで、本プラスミドをSacI-HindIIIで切断し、SCO4326の翻訳領域のみがチオストレプトン耐性遺伝子で置き換えられているDNA断片を得た。
このDNA断片をPractical Streptomyces Genetics (ISBN 0-70840623-8)に記載の方法を用いてS. coelicolor A3(2) 株のプロトプラストに導入し、市販されているメナキノン4(100 μg/ml)含有R5再生培地に塗布した。16時間後に、チオストレプトン(最終濃度25 μg/ml)を含む軟寒天培地を重層した後、30 ℃で3日間培養し、チオストレプトン耐性株を得た。
目的遺伝子が破壊されていることは、チオストレプトン耐性遺伝子特異的DNA断片を用いたサザンハイブリダイゼーションで確認した。これら破壊株は、メナキノン4を含むR5寒天培地やYEME液体培地で生育できたが、メナキノン4を含まない培地では生育できなかったことから、SCO4326はメナキノンの新規生合成経路に関与することを実証した。
【0108】
翻訳開始コドン上流3Kb のDNA領域用プライマー
配列c ; 5'-GGCGAGCTCCATACGCCGTCTCACGAGTGC-3'
配列d ; 5'-GGGGGATCCTCAGCGCTCATGCGGTTTCCA-3'
翻訳終止コドン下流3Kb のDNA領域用プライマー
配列e ; 5'-AAACTGCAGGACGGCCGGGGCGAGGAGATC-3'
配列f ; 5'-CCCAAGCTTAGGTCGTCTTCGAGTATCTGA-3'
【0109】
(2)破壊株からのcyclic DHFLの単離
上記で調製した破壊株を、メナキノン4(前記構造式中n=3) 200 μg/mlおよびチオストレプトン20 μg/mlを含むSK No.II培地{Starch 20 g、Glucose 5 g、Yeast extract(Difco)5 g、Bacto peptone(Difco) 3 g、Meet extract(Difco)3 g、KH2PO4 0.2g、MgSO4・7H2O 0.6 g、蒸留水で1000 mlにフィルアップ、pH 7.6}100 mlを 5本作成し一白金耳接種し、温度30 ℃、4日間、200 rpmで前培養を行った。次にメナキノン4(前記構造式中n=3) 200 μg/mlおよびチオストレプトン20 μg/mlを含むM9培地(モレキュラー・クローニング第二版) 500 ml を10本作成し、これに前培養液50 mlを植菌しさらに30 ℃で14日間本培養を行った。得られた培養液を遠心分離により菌体を除去後、培養ろ液中に含まれるメナキノン4を除くために等量の酢酸エチルで抽出を行った。水層を回収し、水層中に含まれる溶媒を減圧下で除いた後、脱溶媒した水層をHP20 (200 ml、三菱化学製) で処理し樹脂の水洗液1 Lと合わせて試料液6 Lを得た。次に試料液をアニオン交換樹脂 Dowex 1x4 (mesh 50-100) (30 ml) に吸着させ、このアニオン交換樹脂を水1 Lで洗浄した。洗浄したアニオン交換樹脂に0.2 M 塩酸1 Lを流し活性画分を溶出した。溶出液を0.2 M NaOHでpH 4.5とした後、減圧下で濃縮した。得られた濃縮液は逆相HPLC(カラム:Mightysil RP-18GP Aqua 250-10、ガードカラム付き、関東化学製、移動層:20 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 2.5)/メタノール系、検出:250 nm、流速:1.7 ml/分、温度:30 ℃)を用いて分取することにより精製した。得られた活性フラクションをさらに逆相HPLCにより脱塩、精製した{(カラム:Deverosil CU30-UG-5 10/250、ガードカラム付き、野村化学製、移動層:20 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 2.5)/メタノール系(8:2)、検出:250 nm、流速:1.7 ml/分、温度:30 ℃)}。次に、再度HPLC(カラム:Mightysil RP-18GP Aqua 250-10、ガードカラム付き、関東化学製、移動層:水/アセトニトリル系、検出:250 nm、流速:10 ml/分、温度:30 ℃)による分取を行った。以上の手順により、精製されたメナキノンの新規生合成経路の中間体としてcyclic DHFLを 5 mg得た。
【0110】
実施例4: メナキノンの新規生合成経路を利用したフタロシンの製造
(1)放線菌S. coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子SCO4327の破壊株の調製
SCO4326の破壊(実施例3-(1))と同様の方法でメナキノンの新規生合成経路に関与する遺伝子であるSCO 4327の破壊を行った。SCO4327の翻訳開始コドン上流3 Kb のDNA領域をプライマー(下記の配列g および配列h のプライマー)を用いてPCR で増幅した。PCR による複製エラーが無いことを塩基配列解析により確認した後、pUC19のEcoRI-KpnI部位に挿入した。次いで、本プラスミドのBamHI 部位にpIJ702から調製したチオストレプトン耐性遺伝子を含むBclI断片を挿入した。さらに、本プラスミドにプライマー(下記の配列i および配列j のプライマー)で増幅、塩基配列を確認したSCO4327の翻訳終止コドン下流3 Kb のDNA領域を含むXbaI-HindIII断片を挿入した。本プラスミドを用いて、SCO4326で行った方法と同様の手法でSCO4327の破壊株を取得し、SCO4327もメナキノンの新規生合成経路に関与することを実証した。
【0111】
翻訳開始コドン上流3Kb のDNA領域用プライマー
配列g ; 5'-GCGGAATTCGGGCCGTAGCCCTCCTCCCAG-3'
配列h ; 5'-GCGGGTACCCTCCGTGCCCGGCGCGGGGAA-3'
翻訳終止コドン下流3Kb のDNA領域用プライマー
配列i ; 5'-GAGTCTAGACACCCTGCAGATCGCGTACTC-3'
配列j ; 5'-GTGAAGCTTCACCGAGGGCCGCTGGGGCGA-3'
【0112】
(2)破壊株からのフタロシンの単離
上記により調製した放線菌S. coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子SCO4327の破壊株を、実施例3-(2)と同様の方法で前培養及び本培養を行い、培養液を得た。得られた培養液を遠心分離により菌体を除去後、培養ろ液中に含まれるメナキノン4を除くために等量の酢酸エチルで抽出を行った。水層を回収し、水層中に含まれる溶媒を減圧下で除去後、脱溶媒した水層1.7 Lをアニオン交換樹脂 Dowex 1x4 (mesh 50-100) (10 ml) に吸着させ、このアニオン交換樹脂を水100 mlで洗浄した。洗浄したアニオン交換樹脂は0.2 M 塩酸100 ml、0.5 M塩酸 100 mlにより順次溶出させた。得られた溶出液は0.2 M NaOHで中和した後、減圧下で濃縮した。得られた濃縮液をHP20 (200 ml、三菱化学製)に吸着させた後、2 Lのイオン交換水で洗浄後、0.3 Lのメタノールで溶出した。溶出液を減圧濃縮後、逆相HPLC(カラム:Mightysil RP-18GP Aqua 250-10、ガードカラム付き、関東化学製、移動層:水/アセトニトリル系、検出:250 nm、流速:10 ml/分、温度:30 ℃)を用いて分取することにより精製した。得られた活性フラクションは再度逆相HPLCにより精製した(カラム:Mightysil RP-18GP Aqua 250-10、ガードカラム付き、関東化学製、移動層:水/アセトニトリル系、検出:250 nm、流速:10 ml/分、温度:30 ℃)。以上の手順により、精製されたメナキノンの新規生合成経路の中間体としてフタロシンを 10 mg得た。
【0113】
実施例5:メナキノンの新規生合成経路の中間体である1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の単離
5a) マルトース結合蛋白質(MBP)と融合した、メナキノン生合成遺伝子TTHA1568の産物の調製
上記の(4)メナキノン新規経路遺伝子DNAの取得において説明した方法に従い、メナキノン新規生合成路に関与する各遺伝子群をPCR により増幅した。T. thermophilus HB8株のゲノム情報に基づき、TTHA1568の5ダッシュ側のプライマー(下記の配列aのプライマー)および3ダッシュ側のプライマー(下記の配列bのプライマー)を作成した。市販のT. thermophilus HB8株染色体DNA(宝酒造社製、Code 3071)を鋳型として、これらプライマーと、TaKaRa LA-PCR TM Kit Ver.2(宝酒造社製) 、ExpandTM High-Fidelity PCR System(ロシュ社製) またはTaq DNA polymerase(Promega 社製)を用い、DNA増幅装置 (MJ Research 社製) でPCRを行った。PCRは、95 ℃で30秒間、60 ℃で1分間、72 ℃で2分間からなる反応工程を1サイクルとして、30サイクル行った後、72 ℃で10分間反応させる条件で行った。PCR終了後、該反応液をアガロースゲル電気泳動し、約820 bpのDNA断片を取得した。上記で取得したDNA断片をpGEM-T Easy ベクター(Promega 社製)と混合した後、エタノール沈殿を行い、得られたDNA沈殿物を5 μlの蒸留水に溶解し、ライゲーション反応を行うことにより組換え体DNAを取得した。該組換え体DNAを用い、E. coli (東洋紡より購入)DH5α株を常法に従って形質転換後、該形質転換体をアンピシリン50 μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37 ℃で一晩培養した。生育してきたアンピシリン耐性の形質転換体のコロニー数個について、アンピシリン50 μg/mlを含むLB液体培地5mlで37 ℃で16時間振盪培養した。得られた培養液を遠心分離することにより菌体を取得した。該菌体より常法に従ってプラスミドを単離した。該方法により単離したプラスミドを各種制限酵素で切断して構造を調べ、さらに塩基配列を決定することにより、目的のDNA断片が挿入されているプラスミドであることを確認した。得られたプラスミドから制限酵素BamHI-HindIIIサイトを切り出すことで目的のDNA断片を調製した。
【0114】
TTHA1568遺伝子の5側のプライマー
5ダッシュ側5-a ; 5'-GGGGGATCCGAGGCGCTCAGGCTCGGCTTCTCCCC-3'
3ダッシュ側5-b ; 5'-ACCAAGCTTTTACACGAAAAGGGGCCGGGGGCTGG-3'
【0115】
次にpMAL-c2Xキット(New England Biolabs)に従い、得られたメナキノン生合成遺伝子TTHA1568断片を発現プラスミドpMAL-c2Xに挿入しこのプラスミドを大腸菌K12 TB1株に導入し形質転換体を調製した。得られた形質転換体を、4 mlのグルコース、アンピシリン添加Rich medium (10 g tryptone、5 g yeast extract、5 g NaCl、2 g glucose、autoclave後、滅菌ろ過したampicillin を 100 μg/mlになるように添加)を用いて12時間、37 ℃で振とう培養した培養液0.8 mlを80 mlの同培地に移植し、37 ℃で2.5時間培養した。次いで0.1 mMのIPTGを添加し、さらに37℃で4時間培養を行い、マルトース融合蛋白質の発現を行った。次に菌体を遠心分離により集菌し、組換え蛋白質を含む菌体を調製した。この菌体に20 mM Tris-HCl、200 mM NaClからなる緩衝液(pH 7.4)を添加後、超音波破砕機を用いて大腸菌の細胞を破壊した。この破壊液(C画分)を遠心分離により可溶画分(S画分)と細胞膜画分に分離後、S画分をマルトースカラム(pMAL-c2Xキットに同胞)により吸着させた。マルトースカラムを緩衝液で洗浄後、10 mM マルトースを含む上記緩衝液により溶出し、メナキノン生合成遺伝子TTHA1568の精製融合蛋白質を得た。
以上により調製したメナキノン生合成遺伝子TTHA1568の精製融合蛋白質(精製TTHA1568と略称)及び、実施例3-(2)で調製したcyclic DHFLを含む下記の反応混液を作成し、37 ℃で12時間インキュベートした。
【0116】
<反応系>
100 mM Tris-HCl (pH 7.0) 50μL
cyclic DHFL(10 mg/ml) 5μL
精製TTHA1568 (6.7 mg/ml) 6μL
蒸留水 39μL
計100μL
【0117】
反応終了後、反応系(100 μL)に65 μLのメタノールを添加し蛋白質を変性させた後遠心分離により清澄化し得られた上清の70μLを以下の条件によりHPLC分析を行った。
【0118】
<HPLC条件>
カラム; Mightysil RP-18GP Aqua 250-4.6
移動層; 20 mM リン酸カリウム緩衝液(pH2.5):メタノール(6:4)
検出; UV検出器 (250nm)
流速; 0.45 ml/min、温度; 30℃
【0119】
以上により、基質(溶出位置; 約9分)であるcyclic DHFLが減少し新たなピーク(溶出位置; 約34分)の出現を確認した。新たに出現したピークをLC-MSにより分析することで、分子イオンピーク(M+1)である203を確認し、得られた化合物は1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸であると推定した。
【0120】
5b) 1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の化学合成
ナス型フラスコに2-ナフトエ酸61.92 gを入れてo-xylene 150 gに溶かし、6 Lの水と693 gのH2SO4、693 gのCe2SO4を加えて60 ℃、10時間撹拌した。反応液は水で希釈し酢酸エチルにて抽出した。有機層を乾燥、減圧乾固し、クロロホルム-メタノール 10:1を移動溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて粗精製を行い、アセトニトリル-水(TFA 0.5 %) 60:40のHPLCにて黄褐色の粉末を得た。
収率31%。1H -NMR (400 MHz, CDCl3):δ 7.07 and 7.04 (doublet, J = 10.2 Hz, 2H, H-2, H-3), 8.19 (doublet, J = 8.1 Hz, 1H, H-8), 8.44 (dd, J = 1.7, 8.0 Hz, 1H, H-7), 8.79 (d, J = 15 Hz, 1H, H-5). 13C -NMR (100 MHz, CDCl3): δ 184.3, 183.9 (C-1とC-4キノンカルボニル), 168.6(カルボン酸), 139.0 (=CH-), 138.8 (=CH-), 134.9(=C-),134.9 (=CH-) 134.1(=C-), 132.0(=C-), 128.5 (=CH-), 126.9 (=CH-).
【0121】
化学合成した1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸をHPLC分析したところ1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の溶出位置は酵素反応で生成した新規ピークと一致した。また、フォトダイオードアレイ検出器を用いてUVスペクトルを比較したところ新規ピークと1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸は完全に一致した。さらにLC-MS分析を行ったところ、分子イオンピークとして203が検出され、フラグメントパターンも新規ピークのフラグメントパターンと一致した。
【0122】
5c) 新規生合成経路破壊株での1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の増殖効果
まず、実施例4-(1)で用いたプライマー(配列g〜j)に変えて、下記のプライマー(配列k〜n)を用いる以外は同様にして、メナキノン生合成遺伝子(SCO4506)破壊株を取得した。次にメナキノン生合成遺伝子(SCO4506)破壊株を用いて、合成した1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の増殖効果を確認した。すなわちATCC5 寒天培地 (スターチ0.2 %、Difco yeast extract 0.1 %、Difco Bacto beef extract 0.1%、 FeSO4・7H2O 0.01 %、寒天 2 %、pH 7.5)に1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を添加してメナキノン生合成遺伝子(SCO4506)破壊株の増殖を比較した。その結果、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸無添加では破壊株の増殖は認められないが1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を添加(100 μg/ml)することで破壊株が増殖することを確認した。なお、メナキノンの既知経路(〔化2〕参照)の中間体である1,4-ナフトキノン-2-カルボン酸(100 μg/ml)や対称構造を持つ1,4-ナフトキノン(100 μg/ml)を培地に添加しても新規経路の破壊株の増殖は認められなかった。
以上より、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸がメナキノンの新規生合成経路の中間体であり、メナキノン生合成遺伝子TTHA1568の反応産物であること、及びメナキノンの新規な生合成経路に関わる放線菌S. coelicolor A3(2)株由来の遺伝子 SCO4326やT. thermophilus HB8株由来のオーソログ遺伝子TTHA1568はcyclicDHFLから1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を生成する反応を触媒する酵素をコードすることを証明した。
【0123】
翻訳開始コドン上流3Kb のDNA領域用プライマー
配列k ; 5'-CCGGAATTCGCCGGAGGGCGACTGGTCCGA-3'
配列l ; 5'-GGCGAGCTCATCGCGAGGCTAGCCCTCCCC-3'
翻訳終止コドン下流3Kb のDNA領域用プライマー
配列m ; 5'-TGCTCTAGACACGGCCGGGGCGTCGCCGCG-3'
配列n ; 5'-CCCAAGCTTGACCGCTGGGAGGGGTGGGTG-3'
【0124】
実施例6〜7及び比較例1: DHFLの添加によるメナキノンの発酵生産の効果
放線菌S. coelicolor A3(2)株をSK No.II培地{Starch 20 g、Glucose 5 g、Yeast extract (Difco)5 g、Bacto peptone(Difco) 3 g、Meat extract(Difco)3 g、KH2PO4 0.2 g、MgSO4・7H2O 0.6 g、蒸留水で1000 mlにフィルアップ、pH 7.6}5 mlを含む試験管 6本に一白金耳接種し、30 ℃、4日間、200 rpmで前培養を行った。次にSK No.II培地30mlに、最終濃度0(比較例1)、100 μg/ml(実施例6)、200μg/ml (実施例7)と成るようにDHFLを添加した後(各々の濃度につき2つ、合計6つ)、前培養液3 mlを植菌しさらに30 ℃で4日間本培養を行った。得られた培養液は遠心分離で菌体を回収し、滅菌水で懸濁した後再度遠心分離で菌体を回収後、凍結乾燥を行い、乾燥菌体重量を測定した。得られた乾燥菌体は、下記の方法によりメナキノン8(MK8と略記、構造式3、n=7)の抽出を行い、さらに、下記の方法によりHPLCによりメナキノン量の分析を行った。その結果、〔図2〕に示すように、DHFLの添加量の増加に伴い菌体量が増加し、かつ乾燥菌体重量当りのMK8の相対量(HPLCチャートのピーク面積値)が増えることが明らかである。
【0125】
(MK8の抽出)
15 mlファルコンチューブ内でミクロスパーテルを用いて十分に破砕する。乾燥重量0.1 gにつき2 ml程度のchloroform-methanol (2:1) を加え30℃で終夜振盪した。濾過により菌体を除き、エバポレーターにより溶媒を除去してオイル状の抽出物を得る。次に前操作で加えたchloroform-methanol (2:1) と等量のacetone を加えVortexにより激しく攪拌し、前操作と同様に濾過により沈殿を除き、溶媒の除去を行う。菌体抽出物にacetone 200μlを加え再溶解させ、Cosmonice Filter S(溶媒系)(Millipore )を通し、油状物質を得る。
【0126】
(HPLCによるメナキノン分析)
下記の条件によりMK8の分析を行った。
カラム :Mightysil RP-18GP 250-4.6 (5 μm) (関東化学株式会社製)
溶媒 :2-propanol : methanol = 2:1
流速 :1ml/min
温度 :30 ℃
検出波長 :210 nm,270 nm
Inject volume :20 μl
【0127】
実施例8〜9: cyclic DHFLの添加によるメナキノンの発酵生産の効果
実施例6〜7で使用したDHFLに変えてcyclic DHFLを使用する以外は実施例6〜7と同様に行った。その結果、〔図3〕に示すように、cyclic DHFLの添加に伴い菌体量が増加し、かつ乾燥菌体重量当りのMK8量も増えることが明らかとなった。
【0128】
実施例10:放線菌S. coelicolor A3(2)株を用いたメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法
フタロシンの構造類似体として候補化合物を合成する。この候補化合物をそれぞれ、0、25、50、100 μg/ml含むATCC5寒天培地を作成し、放線菌S. coelicolor A3(2)株を塗布後30 ℃ 3日間平板培養を行った。候補化合物0μg/mlのATCC5寒天培地では生育可能であるが、25〜100μg/ml含むATCC5寒天培地では生育できないことを、得られた平板に生育しているS. coelicolorのコロニーの大きさ等の増殖状態を確認することにより、候補化合物を評価することで、メナキノンの新規な生合成経路に特異的な阻害剤のスクリーニングを実施した。
【0129】
実施例11:T. thermophilus HB8株のTTHA0556産物の阻害活性を指標としたメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索
実施例1-(1)と同様に実施し、TTHA0556産物(精製品)を調製する。調製した酵素蛋白質及び実施例4で示した方法により調製したフタロシン、およびフタロシンの構造類似体である候補化合物を各々0、5、10、20 μg下記の反応系に供し、37 ℃、12時間酵素反応を行なった。
【0130】
<反応系>
精製フタロシン(1 mg/ml) 20 μL
精製酵素(1 mg/ml) 40 μL
100 mM 酢酸カリウム緩衝液(pH 5.0) 100 μL
2−メルカプトエタノール 0.5 μL
候補化合物 0〜20 μg
蒸溜水 残量
合計200μL
【0131】
反応液のフタロシン生成量を、実施例4に従いHPLCにより分析(定量)し、候補化合物0μg/mlでのフタロシン生成量と、25〜100μg/mlでのフタロシン生成量を比較し、TTHA0556産物であるフタロシン脱ヒポキサンチン酵素の阻害活性を示すことを確認し、候補化合物を評価することで、メナキノンの新規な生合成経路に特異的な阻害剤のスクリーニングを実施した。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1はメナキノンの生合成経路(既知経路)を示した図である。
【図2】図2は実施例6、7、比較例1における、DHFLの添加によるメナキノンの発酵生産の効果を示した図である。
【図3】図3は実施例8、9における、 cyclic DHFLの添加によるメナキノンの発酵生産の効果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で表される新規化合物。
【化1】

【請求項2】
下記式[2]で表される新規化合物。
【化2】

【請求項3】
フタロシンに、フタロシン脱ヒポキサンチン酵素またはフタロシンを脱ヒポキサンチン化する活性を持つ組換え酵素と還元剤とを添加し、水または緩衝液存在下で反応させることを特徴とする、上記式[1]で表される新規化合物の製造方法。
【請求項4】
メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の、放線菌Streptomyces coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子である配列番号4の塩基配列(オープン・リーディング・フレームSCO4326)に相当するオーソログ遺伝子の破壊株を作成し、該破壊株がメナキノン非存在下で成育しないことを確認した後に、該破壊株をメナキノン存在下で培養することを特徴とする、上記式[2]で表される新規化合物の製造方法。
【請求項5】
上記メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物が、放線菌またはThermus属の菌である請求項4記載の新規化合物の製造方法。
【請求項6】
メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物の、放線菌Streptomyces coelicolor A3(2)株のメナキノン生合成遺伝子である配列番号2の塩基配列(オープン・リーディング・フレームSCO4327)に相当するオーソログ遺伝子の破壊株を作成し、該破壊株がメナキノン非存在下で成育しないことを確認した後に、該破壊株をメナキノン存在下で培養することを特徴とする、フタロシンの製造方法。
【請求項7】
上記式[2]で表される新規化合物に、該上記式[2]で表される新規化合物から1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を生成する活性を持つ酵素または組換え酵素を添加し、水または緩衝液存在下で反応させることを特徴とする、1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸の製造方法。
【請求項8】
メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物を含む培地中に、上記式[1]で表される新規化合物、上記式[2]で表される新規化合物、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種又は2種以上を添加することにより、メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物のメナキノンの生産量を増加させることを特徴とする、メナキノンの製造方法。
【請求項9】
上記メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物が、放線菌またはThermus属の菌である請求項8項記載のメナキノンの製造方法。
【請求項10】
メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法であって、上記式[1]で表される新規化合物、上記式[2]で表される新規化合物、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種の構造類似物質を合成し、合成した構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路を持つ微生物に添加し、該構造類似物質が該微生物の増殖阻害活性を示すことを確認し、該構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定することを特徴とする、メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法。
【請求項11】
上記メナキノンの新規生合成経路を持つ微生物が、放線菌またはThermus属の菌である請求項10項記載のメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法。
【請求項12】
メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法であって、上記式[1]で表される新規化合物、上記式[2]で表される新規化合物、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種の構造類似物質を合成し、合成した構造類似物質がフタロシン脱ヒポキサンチン酵素の阻害活性を示すことを確認し、該構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定することを特徴とする、メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法。
【請求項13】
メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法であって、上記式[1]で表される新規化合物、上記式[2]で表される新規化合物、フタロシン、及び1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸から選ばれる1種の構造類似物質を合成し、合成した構造類似物質が上記式[2]で表される新規化合物から1,4-ナフトキノン-6-カルボン酸を生成する活性を持つ酵素の阻害活性を示すことを確認し、該構造類似物質をメナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤と同定することを特徴とする、メナキノンの新規生合成経路に特異的な阻害剤の探索方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−114124(P2009−114124A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289063(P2007−289063)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】