説明

新規有機化合物および有機発光素子

【課題】 緑色発光に適した新規有機化合物とそれを有する有機発光素子を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示されることを特徴とする有機化合物を提供する。
【化1】


式(1)において、R乃至R18はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規有機化合物およびそれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、一対の電極とこの一対の電極の間に配置される有機化合物層を有する素子である。各電極から電子およびホール(正孔)を注入することにより、有機化合物の励起子を生成し、この励起子が基底状態にもどる際に発光する。
【0003】
有機発光素子は有機エレクトロルミネッセンス素子、あるいは有機EL素子と呼ばれたりもする。
そして、新規化合物の開発が盛んに行われている。
【0004】
例えば、発光層に用いる化合物として特許文献1に下記構造式で示されるIK−17が記載されている。このIK−17はベンゾ[k]フルオランテンを基本骨格として有し、その7位と12位とにフェニル基を有する構造である。基本骨格とは縮環構造のみで構成された構造を指す。
【0005】
【化1】

【0006】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−241629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のIK−17は青色発光する。またこの基本骨格は青色より短波長の紫外光を発光する。この基本骨格に置換基を設けることで長波長の発光が可能であると考えられる。設ける置換基の種類によっては緑色の発光が可能である。しかし置換基を設けることによって、化合物の安定性を損なう場合がある。
そこで、本発明は基本骨格自体で緑領域の発光ができる新規な有機化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって本発明は、
下記一般式(1)で示されることを特徴とする有機化合物を提供する。
【0010】
【化3】

【0011】
式(1)において、
乃至R18は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基本骨格自体のバンドギャップが広いので基本骨格自体で緑領域の発光が可能である有機化合物を提供できる。そして、これら新規有機化合物を有する有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】有機発光素子とこの有機発光素子と接続するスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る新規有機化合物は、以下の一般式(1)で示される有機化合物である。
【0015】
【化4】

【0016】
式(1)において、
乃至R18は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。
【0017】
ここで式(1)において、アルキル基として、例えばメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリブチル基、セカンダリブチル基、オクチル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0018】
ここで式(1)において、アルコキシ基として、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、2−エチル−オクチルオキシ基、フェノキシ基、4−ターシャルブチルフェノキシ基、ベンジルオキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0019】
ここで式(1)において、アミノ基として、例えばN−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−メチル−N−エチルアミノ基、N−ベンジルアミノ基、N−メチル−N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基、アニリノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジナフチルアミノ基、N,N−ジフルオレニルアミノ基、N−フェニル−N−トリルアミノ基、N,N−ジトリルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジアニソリルアミノ基、N−メシチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジメシチルアミノ基、N−フェニル−N−(4−ターシャリブチルフェニル)アミノ基、N−フェニル−N−(4−トリフルオロメチルフェニル)アミノ基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0020】
ここで式(1)において、アリール基として、例えばフェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0021】
ここで式(1)において、複素環基として、例えばピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0022】
式(1)において上記置換基、即ちアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基が有する置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、ベンジル基などのアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基などのアリール基、ピリジル基、ピロリル基などの複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基などのアミノ基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、フェノキシル基などのアルコキシル基、シアノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明者は基本骨格それ自体に注目した。具体的には基本骨格のみの分子が持つ発光波長が所望の発光波長領域に収まるものを提供することを試みた。
【0024】
所望の発光波長を得るために、基本骨格に置換基を設けることが知られているものの、その場合は化合物の安定性を損なう場合がある。
【0025】
本発明において所望の発光波長領域とは緑色領域のことであり、具体的には480nm以上530nm以下である。
有機発光素子の発光効率を高めるためには、発光材料そのものの量子収率が大きいことが望ましい。
【0026】
そのためには
1.振動子強度が高いこと
2.発光にかかわる骨格の振動部分が少ないこと
があげられる。
【0027】
また、有機発光素子として緑色発光に適した材料に求められる発光波長は発光材料の溶液における発光ピークが480nm以上530nm以下であることが重要である。
【0028】
1に関しては、発光材料の発光にかかわる骨格の対称性を高くすることが重要である。なぜならば、対称性の高い分子は、各原子の遷移双極子モーメントの向きが揃いやすいため、遷移双極子モーメントが大きくなるからである。遷移双極子モーメントが大きいことは振動子強度が大きいことに繋がり、そのことは量子収率が高いことに繋がる。
【0029】
また、1つの方向に共役を伸ばすことによって分子の遷移双極子モーメントが大きくなって振動子強度が向上する。
【0030】
この点で本発明に係る有機化合物はベンゾ[k]フルオランテンの8位から10位の位置に共役を伸ばす形で縮環構造を有する構造となっている。この構造はベンゾ[k]フルオランテン比べて遷移双極子モーメントがさらに大きくなることにつながり、本発明に係る有機化合物は振動子強度の高い構造となっている。
【0031】
2に関しては発光にかかわる骨格に回転構造を有さないことで、有機化合物が得たエネルギーが回転または振動といった運動エネルギーへ変わることを抑制し、光子として放出されるエネルギーの割合を増加させることができる。すなわち量子収率の低下を抑制することができる。
【0032】
(他の有機化合物との比較)
本発明の有機化合物と類似化合物のベンゾ[k]フルオランテンとの比較を行う。
【0033】
ベンゾ[k]フルオランテンの7位および12位にフェニル基が置換された7、12―ジフェニルベンゾ[k]フルオランテンと、本発明に係る有機化合物として以下の化合物1とをあげて、それぞれの最大発光波長を比較した。前者は428nmであり、緑領域の発光ではない。それに対して化合物1は488nmであり、緑領域の発光をする。
【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
本発明に係る有機化合物は基本骨格のみで緑領域の発光が可能であり、尚且つ高い量子収率を得ている。
【0037】
また、本発明に係る有機化合物は、基本骨格内に2つの5員環構造を有するため、5員環構造を1つ有する化合物に比べてHOMOおよびLUMOのエネルギーレベルが低くなる(真空準位に対して深くなる)。酸化電位が低くなるということは、酸化されるのにより大きなエネルギーが必要になることを意味するため、酸化に対して安定になるということである。また、本発明に係る有機化合物は発光材料として用いる際は電子トラップ型発光材料に適している。電子トラップ型発光材料とは、主たる発光をする発光材料のLUMOレベルが発光層のホスト材料のLUMOレベルよりも低い発光材料である。この場合、主たる発光をする発光材料での電子の欠乏を抑制することができる。
【0038】
また本発明に係る有機化合物は基本骨格に窒素原子等のヘテロ原子を有していない。このことも酸化に対して安定であることに寄与する。有機化合物が有する置換基にもヘテロ原子が含まれていないことが好ましい。
【0039】
本発明に係る有機化合物の基本骨格はHOMOエネルギーレベルが低い。すなわちLUMOエネルギーレベルも低い。LUMOのエネルギーレベルが低い場合は陰極からの電子の注入障壁が小さいので、電子輸送層から直接電子が注入されやすい。
【0040】
本発明に係る有機化合物は、発光層のゲスト材料またはホスト材料として用いられる。
本発明に係る有機化合物は発光層以外の各層、即ちホール注入層、ホール輸送層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、あるいは電子注入層のいずれの層に用いても良い。
【0041】
本発明に係る有機化合物は、有機発光素子の発光層のゲスト材料として好ましく用いることができる。特に緑色発光素子のゲスト材料として用いられることが好ましい。
【0042】
本発明に係る有機化合物の基本骨格に、発光波長を長波長化する置換基を設けることで赤色発光材料とすることもできる。これら長波長化する置換基を基本骨格に有した材料は、基本骨格が本発明に係る基本骨格を有するので、酸化に対して安定である。
発光波長を長波長化する置換基としてはアリール基や複素環基やアミノ基などが挙げられる。
【0043】
本発明に係る有機化合物は基本骨格自体でバンドギャップが2.4eVと広いため、黄色や赤色発光層のホスト材料としても用いることができる。
【0044】
発光層は1種類の化合物のみで構成されてもよく、ホスト材料およびゲスト材料などの複数の種類から構成されてもよい。
【0045】
本実施形態において、ホスト材料とは、発光層を構成する化合物の中で、重量比が最も大きい材料であり、ゲスト材料とは発光層を構成する化合物の中でホスト材料よりも重量比が小さく、主たる発光をする材料であり、アシスト材料とは発光層を構成する化合物の中でホスト材料よりも重量比が小さく、ゲスト材料の発光を助ける材料である。
【0046】
(本発明に係る有機化合物の例示)
上記一般式(1)における化合物の具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
(例示した化合物群のそれぞれの性質)
例示した化合物のうちA群に示すものは分子全体が炭化水素のみで構成されている。炭化水素のみで構成される化合物は、HOMOエネルギーレベルが低い。従って酸化電位が低くなり、すなわち有機化合物が酸化に対して安定であることを意味する。
【0050】
従って本発明に係る有機化合物のうち、炭化水素のみで構成されているA群に示す化合物は、分子の安定性が高いので好ましい。
A群の一部は下記一般式(2)で示される化合物である。
本発明に係る有機化合物は下記一般式(2)で示される有機化合物がさらに好ましい。
【0051】
【化9】

【0052】
一般式(2)においてR19乃至R29はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基から選ばれる。
【0053】
このアルキル基は、炭素数が1以上4以下のアルキル基である。すなわち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基であり、好ましくはtert−ブチル基である。なぜならば、立体障害により分子会合を抑制する効果があるからである。
【0054】
このアリール基は、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基である。なぜならば波長を制御する際に数nmから20nm程度長波長化するのに適した置換基であるからである。
アリール基は置換基をさらに有してよく、その置換基とは炭素数1以上4以下のアルキル基またはフェニル基である。
【0055】
一般式(2)中の基本骨格に結合している二つのフェニル基は、濃度消光を抑制する置換基である。これらが、置換基を有することで濃度消光を抑制する効果がさらに高まる。
【0056】
一方、B群のような置換基が窒素原子を含む場合、分子は大きく酸化電位が変化する。あるいは分子間相互作用が変化する。置換基が窒素原子を含む場合、最大発光波長を長波長化させることができる。分子間相互作用が変化するため、置換基が窒素原子を含む場合、電子輸送層やホール輸送層、発光層として100%の濃度で使用することができる。
【0057】
また、C群のような置換基が窒素以外のヘテロ原子を含む場合も分子は大きく酸化電位が変化する。あるいは分子間相互作用が変化する。これは場合によっては窒素原子よりも大きな変化を期待することができる。分子間相互作用が変化するため、置換基がヘテロ原子を含む場合、電子輸送層やホール輸送層、発光層として100%の濃度で使用することができる。
【0058】
以上のように例示化合物をA乃至C群として挙げた。これら化合物は基本骨格自体で緑色発光するものである。また本発明に係る有機化合物の基本骨格は置換基を設けることにより緑から更に長波長化、具体的には赤色に発光しうる。また本発明に係る有機化合物は有機発光素子の発光層のゲスト材料に限らず有機発光素子の発光層のホスト材料や電子輸送層や電子注入層やホール輸送層やホール注入層やホールブロッキング層等に用いても良い。その場合、有機発光素子が発する発光色は何色でもよい。また赤色を発光する有機発光素子の発光層のアシスト材料やホスト材料に用いることもできる。
【0059】
(合成ルートの説明)
本発明に係る有機化合物の合成ルートの一例を説明する。以下に反応式を示す。
このうち下記式において置換基を導入する場合には、導入する位置の水素原子を他の置換基に置き換えて合成することができる。置き換える置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、フェニル基などが挙げられる。
【0060】
合成ルート1
【0061】
【化10】

【0062】
(その他有機化合物と原料)
上記反応式のうちD1乃至D3をそれぞれ変えることで種々の有機化合物を合成することができる。その具体例を表1に合成化合物として示す。下記表1は、合成化合物を得るための原料であるD1乃至D3も示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0065】
本実施形態に係る有機発光素子は一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置される有機化合物層とを有し、この有機化合物層が本発明に係る有機化合物を有する素子である。
【0066】
本実施形態に係る有機発光素子は、有機化合物層が複数層で構成されてもよい。この複数層としてはホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホールブロッキング層、エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。これらの層を適宜組み合わせて用いることができる。
【0067】
なお、本実施形態に係る有機化合物を発光層においてゲスト材料として用いる場合、ホスト材料に対するゲスト材料の濃度は0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。
【0068】
本発明者らは種々の検討を行い、本発明に係る有機化合物を発光層のホスト材料またはゲスト材料、特にゲスト材料として用いた素子が高効率で高輝度な光出力を有し、耐久性が高いことを見出した。
【0069】
本実施形態に係る有機発光素子は本発明に係る有機化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール注入性材料あるいは輸送性材料あるいはホスト材料あるいはゲスト材料あるいは電子注入性材料あるいは電子輸送性材料等を一緒に使用することができる。
【0070】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0071】
ホール注入層あるいはホール輸送層に用いる材料としては、ホール移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0072】
ホスト材料としては、具体的な構造式を表2に示す。ホスト材料は表2に示す構造式で示される化合物の誘導体であってもよい。またそれ以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0073】
【表2】

【0074】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、ホール注入性材料あるいはホール輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0075】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0076】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0077】
本実施形態に係る有機発光素子において、本発明に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0078】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0079】
(有機発光素子を有する装置)
以下本実施形態に係る有機発光素子を有する装置について説明する。
【0080】
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどがある。
【0081】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部とは複数の画素を有しており、この画素は本実施形態に係る有機発光素子とスイッチング素子の一例であるTFT素子とを有し、この有機発光素子の陽極または陰極とTFT素子のドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。表示装置は画像入力部をさらに有する画像入力装置でもよい。
【0082】
画像入力装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部と、入力された情報を表示する表示部とを有する。これに撮像光学系をさらに有すればデジタルカメラ等の撮像装置となる。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0083】
次に、本実施形態に係る有機発光素子を使用した表示装置について説明する。
【0084】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子と有機発光素子の発光非発光をスイッチングするスイッチング素子の1例であるTFT素子とを有する表示装置の断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。不図示ではあるが発光輝度を制御するトランジスタをさらに有してもよい。表示装置は、情報に応じてスイッチング素子を駆動することで、有機発光素子を点灯あるいは消灯することによって表示を行い、情報を伝える。構造の詳細を以下に説明する。
【0085】
図1の表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極3である。符号4はゲート絶縁膜であり、符号5は半導体層である。
【0086】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子のソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0087】
有機化合物層12は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如き図示をしている。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【実施例】
【0088】
(実施例1)
[例示化合物A2の合成]
【0089】
【化11】

【0090】
フルオランテン−3−アミン(E1) 10.5g(48mmol)をジメチルフォルムアミド300ml中に0℃下で混合し、N−ブロモスクシイミド8.2g(48mmol)を加えて、室温にもどし、8時間攪拌を行った。水中にあけて析出物のろ過を行い、エタノールで再結晶を行った。結晶をろ過後、ヘプタンで洗浄を行い乾燥後、褐色の固体E2を29g(収率:60%)で得た。続けてE2を10g(34mmol)を500mlナスフラスコに入れ、系内をアルゴン置換した。次に、アルゴン雰囲気下、メトキシシクロペンタン150mlを入れ、−75℃に冷却を行った。これにn−ブチルリチウム 1.6M溶液、64mlを滴下し、滴下終了後に室温に戻し、1時間攪拌を行った。その後、再び−75℃に冷却し、ドライアイス15gを細かく砕いて加え、徐々に室温に戻した。室温に戻した後に8時間攪拌後、1M塩酸を加えて反応を停止した後、酢酸エチルで抽出を行い、有機層の濃縮を行い、茶褐色液体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン=1:3)にて精製後、クロロホルム/メタノールで再結晶を行い茶色粉末のE3を2.5g(収率:28%)得た。
【0091】
【化12】

【0092】
E4 12.8g(50mmol)、E5 10.5g(50mmol)をエタノール200ml中に入れ、60℃まで加熱した後、5M水酸化ナトリウム水溶液20mlを滴下した。滴下終了後80℃に加熱して2時間攪拌した後冷却後、析出物のろ過を行い、水、エタノールで洗浄した後、80℃で減圧加熱乾燥を行い濃緑色の固体E6を18g(収率:85%)得た。
【0093】
【化13】

【0094】
次にE6 2.1g(5mmol)、E3 1.57g(6mmol)をトルエン50ml中に入れ、80℃まで加熱した後、亜硝酸イソアミル0.82g(7mmol)をゆっくり滴下した後、110℃で3時間攪拌を行った。冷却後、水100ml×2回で洗浄した。この有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、この溶液を濾過後、濾液を濃縮して茶褐色液体を得た。これをカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/ヘプタン=1:3)にて精製後、クロロホルム/メタノールで再結晶を行い黄結晶のA2を2.3g(収率:76%)得た。
【0095】
例示化合物A2の、1×10−5mol/lにおけるトルエン溶液の発光スペクトルは、日立製F−4500を用いて、350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果、487nmに最大強度を有するスペクトルであった。
【0096】
(実施例2)
[例示化合物A3の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E5をE7に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A3を得た
【0097】
【化14】

【0098】
例示化合物A3の1×10−5mol/Lにおけるトルエン溶液の発光スペクトルは、日立製F−4500を用いて、350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果、488nmに最大強度を有するスペクトルを得た。
【0099】
(実施例3)
[例示化合物A4の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E5をE8に変更する以外は実施例1と同様の反
応、精製で例示化合物A4を得た。
【0100】
【化15】

【0101】
例示化合物A4の1×10−5mol/Lにおけるトルエン溶液の発光スペクトルは、日立製F−4500を用いて、350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果、488nmに最大強度を有するスペクトルを得た。
【0102】
(実施例4)
[例示化合物A14の合成]
実施例1で用いられる有機化合物E4をE9、E5をE7に変更する以外は実施例1と同様の反応、精製で例示化合物A14を得た
【0103】
【化16】

【0104】
例示化合物A14の1×10−5mol/Lにおけるトルエン溶液の発光スペクトルは、日立製F−4500を用いて、350nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果、490nmに最大強度を有するスペクトルを得た。
【0105】
(実施例5乃至12)
[有機発光素子作製]
本実施例では、順次陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極の構成の有機発光素子を作製した。ガラス基板上に100nmのITOをパターニングした。そのITO基板上に、以下の有機層と電極層を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜し、対向する電極面積が3mmになるようにした。
ホール輸送層(40nm) G−1
発光層(30nm) ホストG−2、ゲスト:例示化合物 (重量比 5%)
ホール・エキシトンブロッキング層(10nm) G−3
電子輸送層(30nm) G−4
金属電極層1(1nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0106】
【化17】

【0107】
有機発光素子の特性は、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。
実施例5乃至実施例12の発光効率と電圧を表3に示す。
【0108】
【表3】

【0109】
(実施例13乃至16)
本実施例では、順次陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極の構成の有機発光素子を作製した。
【0110】
共振構造を有する有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
支持体としてのガラス基板上に反射性陽極としてのアルミニウム合金(AlNd)を100nmの膜厚でスパッタリング法にて成膜する。さらに、透明性陽極としてITOをスパッタリング法にて80nmの膜厚で形成する。次に、この陽極周辺部にポリイミド製の素子分離膜を厚さ1.5μmで形成し、半径3mmの開口部を設けた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄した後、IPAで煮沸洗浄して乾燥する。さらに、この基板表面に対してUV洗浄を行う。
【0111】
更に、以下の有機化合物を10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜した後に、陰極としてIZOをスパッタリング法にて成膜して膜厚30nmの透明性電極を形成する。形成した後に、窒素雰囲気中において、封止する。
【0112】
以上により、有機発光素子を形成する。
ホール注入層(135nm) G−11
ホール輸送層(10nm) G−12
発光層(35nm) ホストG−13、ゲスト:例示化合物(重量比 2%)
電子輸送層(10nm) G−14
電子注入層(70nm) G−15(重量比 80%)、Li(重量比 20%)
【0113】
【化18】

【0114】
有機発光素子の特性は、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。
実施例13乃至実施例16の発光効率と電圧を表4に示す
【0115】
【表4】

【0116】
(結果と考察)
本発明に係わる有機化合物は高い量子収率と緑に適した発光を有する新規化合物であり、有機発光素子に用いた場合、良好な発光特性を有する発光素子を作ることができる。
【符号の説明】
【0117】
8 TFT素子
11 陽極
12 有機化合物層
13 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする有機化合物。
【化1】


式(1)において、
乃至R18はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基から選ばれる。
【請求項2】
前記R乃至R18はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から4のアルキル基、アリール基から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物。
【請求項3】
下記一般式(2)で示されることを特徴とする請求項2に記載の有機化合物。
【化2】


19乃至R29はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から4のアルキル基、フェニル基から選ばれる。
【請求項4】
一対の電極と前記一対の電極の間に配置される有機化合物層とを有する有機発光素子において、
前記有機化合物層は請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物層は発光層であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
緑色発光することを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
複数の画素を有し、前記複数の画素は請求項4乃至6のいずれかに記載の有機発光素子と前記有機発光素子と接続するスイッチング素子とを有することを特徴とする表示装置。
【請求項8】
画像を表示するための表示部と画像を入力するための画像入力部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記複数の画素は請求項4乃至6のいずれかに記載の有機発光素子と前記有機発光素子と接続するスイッチング素子とを有することを特徴とする画像入力装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−207829(P2011−207829A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78291(P2010−78291)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【特許番号】特許第4750893号(P4750893)
【特許公報発行日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】