説明

新規有機珪素化合物及びそれを含む組成物

【課題】高い接着性及び接着耐久性を与え、これにより複合材料に用いた際に高い機械的強度及び耐久性を与える新規な有機珪素化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、m個の重合性基を有する有機珪素化合物である。


(式中、R、R及びRは、水素原子又は炭化水素基、Aは−COO−基等を、mは2又は3を、Rは炭化水素基であって、Si原子と重合性基とを、炭素原子が5個以上直列した鎖により結合しており、Rは加水分解可能な基であり、Rは炭化水素基であり、nは1〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機珪素化合物、及び該化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機珪素化合物は、無機物に対して反応性を有するシラノール基に変換可能な基と、有機物に対し反応性を有する重合性基を含有し、かつ有機物に対して親和性に富むスペーサーとしての有機基を1分子内に併せ持つ化合物である。有機珪素化合物は無機物と有機物との界面の接着助剤として作用するため、多くの複合材料に広く使われている。
【0003】
近年、プラスチックの機械的強度や耐久性等の性質を改善するために、無機粒子を添加して複合材料とすることが一般的に知られており、このような複合材料は、導電材、記録材、摺動材、封止材、制振材、歯科・医科材料、断熱材等、様々な分野で応用されている。特に近年の歯科治療においては、コンポジットレジンやレジンセメントに代表されるような歯科修復材用の複合材料が多用されている。
【0004】
有機珪素化合物の使用によって無機粒子と有機物との接着性は向上し、複合材料の機械的強度は向上する。しかし、高温多湿な使用条件下では、時間と共に無機粒子と有機物間の有機珪素化合物は加水分解を受け、その結果、接着力が失われ、複合材料の強度が徐々に低下し、材料の耐久性が低いという課題がある。
【0005】
特に歯科分野においては、複合材料は口腔内で高温多湿な環境下にさらされるものであり、従来、有機珪素化合物には、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(以下、3MPSとする)が広く用いられている。該化合物で表面処理された粒子を用いた場合、時間の経過と共に吸水が進み、加水分解が進行しやすく、材料の耐久性が低いという課題がある。また、歯の代替として用いられるコンポジットレジンに該化合物で表面処理された粒子を用いた場合には、機械的強度は十分ではなく、さらなる強度の向上が求められている。
【0006】
材料の耐久性を向上させる方法としては、アルキル鎖長の長い有機珪素化合物を使用する方法(特許文献1)、フルオロアルキレン基を有する有機珪素化合物を使用する方法(特許文献2)が提案されている。また、材料の機械的強度を向上させる方法として、重合性単量体と重合可能な重合性基を複数有する有機珪素化合物を用いることにより、有機物と無機物の界面における接着性を強化する方法(特許文献3、非特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−134307号公報
【特許文献2】特開2007−238567号公報
【特許文献3】米国特許第5399738号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】DENTAL MATERIALS,2008,24,1631−1639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の方法を、歯科用修復材に適用した際には、機械的強度に改善の余地がある。特許文献3及び非特許文献1に記載の方法を歯科用修復材に適用した際には、耐水性が低く、材料の耐久性は不十分である。このように、従来技術では有機珪素化合物を使用した材料の耐久性及び機械的強度の両立は不十分であり、更なる改良の余地があった。
【0010】
そこで本発明は、高い接着性及び接着耐久性を与え、これにより複合材料に用いた際に高い機械的強度及び耐久性を与える新規な有機珪素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記一般式(1)で表される、m個の重合性基を有する有機珪素化合物である。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、(A)は存在しないか、又は−COO−、−OCO−、−CONH−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C64O−、−C64COO−、及び−C64OCO−からなる群から選択される1種であり、mは2又は3であり、R4は置換基を有してもよい炭素数6〜40の炭化水素基であって、Si原子と重合性基とを、炭素原子が5個以上直列した鎖により結合しており、R5は加水分解可能な基であり、R6は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、nは1〜3の整数である。)
【0014】
1及びR2は水素原子であり、R3は水素原子又はメチル基であることが好ましい。Aは、−COO−であることが好ましい。R4は、炭素数6〜40の炭化水素基であることが好ましい。
【0015】
本発明の有機珪素化合物は、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R7〜R9はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R10はアルコキシ基であり、kは3〜16の整数を示す。)
【0018】
本発明はまた、上記の有機珪素化合物で表面処理された無機粒子である。
【0019】
本発明はまた、上記の無機粒子、重合性単量体、及び重合開始剤を含む歯科用組成物である。
【0020】
本発明はまた、上記の有機珪素化合物を含む歯科用組成物である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の有機珪素化合物によれば、従来の有機珪素化合物よりも有機材料と無機充填剤又は無機基材などの無機材料との接着性、及び耐水性が向上し、複合材料の機械的特性、耐久性を改善することができる。よって、FRP、FRTP、エラストマー、塗料、接着剤、シーラント、レジンコンクリート、ファンドリー、封止剤、人造大理石、プラスチックマグネット、ゴムマグネット、磁気テープ、PCB、歯科修復材等の無機材料と有機材料を組み合わせた複合材料において有用であり、歯科修復材用の複合材料において特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、上述の課題を解決するべく鋭意研究した結果、複数の重合性基と、少なくとも炭素原子が5個直列した鎖を与える炭素数6〜40の炭化水素基を有する上記一般式(1)で示される有機珪素化合物(以下、有機珪素化合物(I)ともいう)によって、無機物と有機物との接着力と接着耐久性を高くすることができ、機械的強度及び耐久性を両立する複合材料を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
本発明の有機珪素化合物(I)は、下記式で表されるm個(mは2又は3)の重合性基を有する。この重合性基によって、他の重合性単量体とのラジカル共重合が可能となる。また、重合性基が複数あることによって、ラジカル重合による架橋反応が可能となり、無機物と有機物との間に高い接着強度を与えることができ、複合材料に高い機械的強度を与えることができる。
【0024】
【化3】

【0025】
1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。置換基を有してもよい炭化水素基としては、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有してもよいアリールアルケニル基、置換基を有してもよいアリールアルキニル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基等が挙げられる。
【0026】
ここで、本発明において、置換基を有してもよいアルキル基とは、直鎖又は分岐鎖のアルキル基が置換基を有していてもよいものであり、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0027】
本発明において、置換基を有してもよいアルケニル基とは、直鎖又は分岐鎖のアルケニル基が置換基を有していてもよいものであり、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
【0028】
本発明において、置換基を有してもよいアルキニル基とは、直鎖又は分岐鎖のアルキニル基が置換基を有していてもよいものであり、アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−エチル−2−プロピニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−3−ブチニル基、2−メチル−3−ブチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、1−エチル−2−ブチニル基、3−ヘキシニル基、1−メチル−2−ペンチニル基、1−メチル−3−ペンチニル基、4−メチル−1−ペンチニル基、3−メチル−1−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、1−エチル−3−ブチニル基等が挙げられる。
【0029】
本発明において、置換基を有してもよいアリール基とは、芳香族炭化水素基が置換基を有していてもよいものであり、アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0030】
本発明において、置換基を有してもよいアリールアルキル基とは、アリール基によって置換された直鎖又は分岐鎖のアルキル基が置換基を有していてもよいものであり、アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、トリチル基、1−ナフチルメチル基、2−(1−ナフチル)エチル基、2−(2−ナフチエチル基、3−(2−ナフチル)プロピル基等が挙げられる。
【0031】
本発明において、置換基を有してもよいアリールアルケニル基とは、アリール基によって置換された直鎖又は分岐鎖のアルケニル基が置換基を有していてもよいものであり、アリールアルケニル基としては、例えば、スチリル基等が挙げられる。
【0032】
本発明において、置換基を有してもよいアリールアルキニル基とは、アリール基によって置換された直鎖又は分岐鎖のアルキニル基が置換基を有していてもよいものであり、アリールアルキニル基としては、例えば、フェニルエチニル基等が挙げられる。
【0033】
本発明において、置換基を有してもよいシクロアルキル基とは、環状のアルキル基が置換基を有していてもよいものであり、シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプタニル基、シクロオクタニル基、シクロノナニル基、シクロデカニル基、シクロウンデカニル基、シクロドデカニル基等が挙げられる。
【0034】
1、R2及びR3で示される炭化水素基が有する置換基の数及び種類は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例として、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0035】
1及びR2は水素原子であることが好ましく、このことにより重合性に優れるという利点がある。また、R3が水素原子又はメチル基であることが好ましく、このことにより重合性に優れるという利点がある。特に、R1及びR2が水素原子であって、かつR3がメチル基である場合は、有機珪素化合物(I)が加水分解等の作用を受け重合性基が脱離した場合においても、生体に対する刺激性が小さいという利点を有する。
【0036】
(A)は任意の構成単位である。Aは、−COO−、−OCO−、−CONH−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C64O−、−C64COO−、及び−C64OCO−からなる群より選択される1種であるが、ラジカル重合が容易である観点から、Aは−COO−、又は−CONH−であることが好ましく、−COO−であることがより好ましい。また、有機珪素化合物(I)が、特に加水分解への耐性が要求される実施態様に用いられる場合は、Aは−CH2O−、又は−CONH−であることが好ましい。
【0037】
重合性基を具体的に見ると、重合性基の例としては、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル(チオ)エーテル基、アリル(チオ)エーテル基、ビニルエステル基、スチリル基含有基等が挙げられる。これらの中でも、ラジカル重合が容易である観点から、(メタ)アクリル基、又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。有機珪素化合物(I)の製造の容易さの観点からは、重合性基としては(メタ)アクリル基が好ましい。また、本発明の有機珪素化合物(I)は好ましくは歯科用組成物の成分として用いられるが、口腔内は湿潤な環境であるため、加水分解などにより重合性基が脱離するおそれがある。前記加水分解への耐性を考慮した場合は、重合性基として、(メタ)アクリルアミド基を用いることがより好ましい。さらに、脱離した重合性基の生体への刺激性を考慮した場合は、特に、メタクリル基又はメタクリルアミド基を用いることが好ましい。
【0038】
mは、2又は3であり、被着体と化学的に相互作用する作用点を増やしたい場合は、mは3であることが好ましい。有機珪素化合物(I)が有するm個の重合性基は、同一であっても、上記定義の範囲内で異なっていてもよい。
【0039】
4は置換基を有してもよい炭素数6〜40の炭化水素基であり、Si原子と重合性基とを、炭素原子が5個以上直列した鎖により結合する。このように炭素数が6〜40でありかつ、Si原子と重合性基との間に炭素原子が5個以上直列した鎖が挿入されることによって、有機珪素化合物(I)のスペーサー部位に、十分な疎水性を与えることができる。
【0040】
4は、3〜4価の炭化水素基である。炭化水素基は、芳香環、2重結合、3重結合、脂肪族環を含んでいてもよい。従って、炭化水素基としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、アレーンから、水素原子を3〜4個除いた基が挙げられる。炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、環構造を含んでいてもよい。
【0041】
本発明の有機珪素化合物(I)を有機物と無機材料の接着剤として用いる場合に、高接着を発現する機構については必ずしも明らかではない。高い接着力を得るためには、有機珪素化合物が、被着体と結合する際に規則正しく配列し、被着面に対して高密度に作用することが重要であると考えられている。前記化合物を規則正しく配列させるためには、スペーサーとして用いられる前記炭化水素基の選択が重要である。
【0042】
かかる観点からは、R4で示される炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。接着性を向上させる観点からは、Si原子及び前記重合性基は、分子内においてある程度離れた位置にある方が好ましく、R4の炭素数の下限は、6以上であり、好ましくは8以上である。さらに、本発明の有機珪素化合物(I)の好適な使用態様は歯科用組成物であり、かかる用途に用いる場合、口腔内は湿潤な環境であるため、R4の炭素数の下限は、好ましくは7以上であり、特に好ましくは8以上である。R4の炭素数をかかる範囲に設定することで、化合物全体の疎水性が向上し、口腔内のような湿潤環境においても加水分解を受けにくくなり、長期間の材料の耐久性を維持できるようになる。一方、炭素数が40を超えるとスペーサーの自由度が大きくなり、無機材料表面に規則的に配列することが困難となる可能性があることから、炭素数の上限は40とし、好ましくは、35以下である。
【0043】
また、上述のように有機珪素化合物(I)を歯科用組成物に用いる場合は、R4の炭素数を上述の範囲に設定することで、疎水性の重合性単量体との親和性が向上し、無機粒子の高密度充填が可能となる。その結果、コンポジットレジン等の歯科修復材の機械的強度及び耐久性を向上させることができる。
【0044】
4で示される炭化水素基が有する置換基の数及び種類は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例として、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。R4は、疎水性及び合成の容易さの観点から、置換基を有していないことが好ましい。
【0045】
5は加水分解可能な基であり、より具体的には加水分解によりOH基に変換可能な基である。R5の例としては、アルコキシ基、水素原子、ハロゲン原子等が挙げられ、これらのうちアルコキシ基が好ましい。アルコキシ基は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、炭素数1〜20のものが好ましく、炭素数1〜4のもの(例、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基)がより好ましい。
【0046】
6は、置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基としては、R1、R2及びR3について例示した炭化水素基と同様である。R6は、置換基を有してもよい炭素数1〜6の炭化水素基であることが好ましく、メチル基、エチル基、又はフェニル基であることがより好ましい。
【0047】
nは、1〜3の整数であり、従って、有機珪素化合物(I)は、少なくとも1つのR5を有する。このように必ずR5を有することによって、無機物との結合が可能となる。nは、好ましくは、3である。
【0048】
なお、R5又はR6は、複数個存在するが、複数個存在するものについて、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0049】
有機珪素化合物(I)は、最適には、下記式(2)で表される化合物である。
【0050】
【化4】

【0051】
式中、R7〜R9はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R10はアルコキシ基であり、kは3〜16の整数を示す。kは4以上であることが好ましい。R10としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。
【0052】
本発明の化合物(I)は公知方法を組み合わせることにより、製造することができる。一例としては、まず、重合性部位、スペーサー部位、有機珪素部位のもととなる化合物を用意する。重合性部位のもととなる化合物は、例えば、下記式(3)で表される重合性基(二重結合)と官能基Yを含む化合物(以下、重合性化合物(3)ともいう)である。
【0053】
【化5】

【0054】
(式中、R1〜R3は前記と同義であり、Yは後述の官能基Zと反応可能な官能基である。)
【0055】
スペーサー部位のもととなる化合物は、例えば、下記式(4)で表される二重結合及びm個の官能基Zを含む化合物(以下、スペーサー化合物(4)ともいう)である。
【0056】
【化6】

【0057】
(式中、R4’は、置換基を有していてもよい炭素数4〜38の炭化水素基であり、Zは、前記Yと反応可能な官能基である。)
【0058】
有機珪素部位のもととなる化合物は、例えば、下記式(5)で表される有機シラン化合物である(以下、有機シラン化合物(5)ともいう)。
【0059】
【化7】

【0060】
(式中、R5、R6、及びnは、前記と同義である。)
【0061】
ここで、官能基Y及び官能基Zは、これらの反応により−COO−、−OCO−、−CONH−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C64O−、−C64COO−、又は−C64OCO−のいずれかの結合が生成するように選択する。これらの結合を生成させる方法は、当業者に周知である。例えば、−COO−結合を形成させる場合には、Yとして、−COOH又は−COClを選択し、Zとして−OHを選択し、公知方法に従いエステル化反応させればよい。また、例えば、−CONH−結合を形成させる場合には、Yとして−COOHを選択し、Zとして−NH2を選択し、公知方法に従い脱水縮合反応させればよい。また、例えば、−O−結合を形成させる場合には、X及びYの一方を、ハロゲン原子とし、他方を−ONaとしてエーテル化反応(Williamson合成)を行えばよい。また、例えば、−S−結合を形成させる場合には、X及びYの一方をハロゲン原子とし、他方を−SHとしてアルカリ条件下でカップリング反応させればよい。
【0062】
スペーサー化合物(4)の二重結合は、有機シラン化合物(5)のSi−Hと反応して結合する。当該反応は公知であり、公知方法に従い行うことができる。
【0063】
上記の化合物(3)〜(5)は、その多くが市販品として入手可能であり、公知方法に従い容易に合成することができる。そして、公知方法に従い、m当量の重合性化合物(3)、スペーサー化合物(4)、及び有機シラン化合物(5)を反応させることにより、有機珪素化合物(I)を製造することができる。重合性化合物(3)とスペーサー化合物(4)、及びスペーサー化合物(4)と有機シラン化合物(5)はいずれを先に反応させても構わない。また、上述の例では、スペーサー化合物(4)は、末端に二重結合を有しているが、末端以外に二重結合を有するスペーサー化合物を用いて、同様にしてスペーサー部位を形成することもできる。
【0064】
また、式(1)のAが存在しないときには、例えば、ジエン化合物と、有機シラン化合物(5)を公知方法に従い反応させることによって、有機珪素化合物(I)を製造することができる。
【0065】
本発明の有機珪素化合物(I)が、式(2)で表される化合物であった場合には、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0066】
まず、下記式(6)で表されるアルケニルアルデヒド(以下、アルケニルアルデヒド(6)ともいう)を、アルカリ化合物の存在下、ホルムアルデヒドとアルドール縮合反応及びカニツアロ反応(すなわちメチロール化反応)させることによって下記式(7)で表されるトリメチロール化合物(以下、トリメチロール化合物(7)ともいう)を合成する。
【0067】
【化8】

【0068】
【化9】

【0069】
(式中、kは前記と同義である。)
【0070】
ホルムアルデヒドは通常、水溶液の形で用いられる。かかるホルムアルデヒド水溶液におけるホルムアルデヒドの濃度は特に制限されないが、入手容易な濃度5〜50重量%のホルムアルデヒド水溶液を用いることが有利である。ホルムアルデヒドの使用量はアルケニルアルデヒド(6)に対するモル比で5/1〜7/1の範囲内である。
【0071】
アルカリ化合物としては、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物〔以下、アルカリ(土類)金属水酸化物と称する〕が使用でき、具体例として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。これらのアルカリ(土類)金属水酸化物の使用量は、アルケニルアルデヒド(6)1モルに対して通常1.1〜2.5グラム当量の範囲内、好ましくは1.3〜1.8グラム当量の範囲内である。アルカリ(土類)金属水酸化物は、通常、濃度50重量%以下の水溶液の形で用いることが操作上有利である。
【0072】
アルケニルアルデヒド(6)のメチロール化反応は、水性媒体中で行われる。媒体は、水のみでもよく、また少なくとも部分的に水と混和しうる有機溶媒と水との混合物でもよい。当該有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコールなどの低級アルコールなどが例示される。有機溶剤を、メチロール化反応混合液中におけるその濃度が20〜80重量%の範囲内になる量で使用することが好ましく、40〜60重量%の範囲内になる量で使用することがさらに好ましい。水は通常、使用するホルムアルデヒドの重量の約4〜100倍の範囲内の重量で使用される。
【0073】
メチロール化反応において採用される反応温度は通常約20〜100℃の範囲内、好ましくは約30〜70℃の範囲内である。メチロール化反応においては通常、アルケニルアルデヒド(6)に対して過剰量のホルムアルデヒドの低濃度の水性媒体溶液中に、アルカリ(土類)金属水酸化物の水溶液及びアルケニルアルデヒド(6)を、反応混合液のpH値が急変しないような速度で徐々に添加する方式を採用することが好ましい。
【0074】
メチロール化反応は通常、アルケニルアルデヒド(6)及びアルカリ(土類)金属水酸化物に対して過剰量のホルムアルデヒドを使用して行われるので、かかるメチロール化反応によって得られる反応混合液は通常、トリメチロール化合物(7)、ジトリメチロール化合物(2分子のトリメチロール化合物がエーテル結合を介して結合している化合物)、ジメチロール化合物、ホルマール類などのアルケニルアルデヒド(6)に由来する反応生成物;アルカリ金属又はアルカリ土類金属のギ酸塩;未反応のホルムアルデヒド;水性媒体ならびに場合によって未反応のアルケニルアルデヒド(6)などを含んでいる。メチロール化によって得られる反応混合液中の未反応のホルムアルデヒドの大部分を除去するために、アルカリ(土類)金属水酸化物を反応混合液に添加し、反応混合液中のトリメチロール化合物(7)の結晶が析出しない温度(好ましくは60℃以上の温度)において処理することによってホルムアルデヒドの大部分をギ酸塩とメタノールに変換してもよい。この処理を実施した場合、さらに必要に応じてギ酸などの酸を反応混合液に添加することによって中和してもよい。
【0075】
水性媒体として水及び有機溶媒からなる混合物を使用した場合には、上記のアルカリ(土類)金属水酸化物による処理又はそれと酸による処理を実施し又は実施せずして反応混合液を蒸留に付すことにより、有機溶媒の大部分又は全量を留去する。反応混合液は、かかる有機溶媒を全く又はほとんど含まない状態においてトリメチロール化合物(7)の結晶が実質的に析出しないような温度下に静置することにより、トリメチロール化合物(7)などのアルケニルアルデヒド(6)に由来する反応生成物を含む有機層と、水層とに層分離させる。反応混合液を静置する温度としては60℃以上の温度が好ましい。有機層からはトリメチロール化合物(7)を、晶析操作により、高純度に単離することができる。より具体的には、上述の反応生成物を含有する有機層に芳香族炭化水素を混合する操作により単離することができる。芳香族炭化水素としては特定に限定されないが、トリメチロール化合物(7)に対して温度依存性の極めて高い溶解度特性を有することから、炭素数6〜9の芳香族炭化水素が好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、メシチレン等が例示される。芳香族炭化水素は、アルケニルアルデヒド(6)に由来する反応混合物に対する重量比で0.5/1〜50/1の範囲内、特に5/1〜20/1の範囲内の量で使用されることが好ましい。析出したトリメチロール化合物(7)の結晶は、ろ過などの常法に従って芳香族炭化水素から分離して得ることができる。
【0076】
次いで、このトリメチロール化合物(7)と下記式(8)で表される化合物とを、公知方法に従いエステル化させ、下記式(9)で表される化合物(以下、化合物(9)ともいう)を得る。
【0077】
【化10】

【0078】
(式中、R11は、水素原子又はメチル基であり、Xはヒドロキシル基又はハロゲン原子である。)
【0079】
【化11】

【0080】
(式中、R7〜R9及びkは、前記と同義である。)
【0081】
エステル化には、ショッテン−バウマン反応が好適である。この方法では、トリメチロール化合物(7)が均一に溶解している反応系に対して水酸化ナトリウム等を加えてpHをアルカリにし、これに式(8)においてXがハロゲン原子である酸ハライド(以下、酸ハライド(8)ともいう)を滴下する。滴下後に反応液を酸性にすることにより沈殿が生じ、この沈殿物を精製することにより化合物(9)が得られる。酸ハライド(8)とトリメチロール化合物(7)の使用量は特に限定されないが、トリメチロール化合物(7)1モルに対して酸ハライド(8)を0.5〜5.0モル用いることが好ましく、0.6〜4.0モル用いることがより好ましい。
【0082】
酸ハライド(8)とトリメチロール化合物(7)を反応させる際の反応温度は特に限定されない。好ましくは、トリメチロール化合物(7)を含む溶液を攪拌しながら、酸ハライド(8)を徐々に滴下する方法が採用される。酸ハライド(8)はニートで滴下してもよいし、溶媒で希釈してから滴下してもよい。滴下の際の温度は特に限定されないが、好ましくは−10〜10℃であり、より好ましくは−5〜5℃である。滴下終了後、反応が完結するまで攪拌を行うが、その際の反応温度は通常、10〜60℃の温度が採用され、好適には15〜45℃である。
【0083】
酸ハライド(8)とトリメチロール化合物(7)を反応させる際の反応時間は特に限定されず、通常、1〜6時間であり、好適には2〜4時間である。また、本反応においては応系のpHの維持が重要であり、酸性条件下ではトリメチロール化合物(7)の反応性が低下するために、反応が進行しないおそれがあるため、本反応を実施する際には、反応系のpHは8〜9であることが好ましい。酸ハライド(8)の滴下や反応の進行に伴って、系内のpHは小さくなり酸性側にシフトするため、pHメーター等を用いて系内のpHを観測しながら、塩基性の溶液を添加して適宜反応系のpHを調整することが好ましい。塩基性の溶液としては特に限定されないが、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの溶液が好適に用いられる。
【0084】
化合物(9)を、式(10)で表される有機シラン化合物(以下、有機シラン化合物(10)ともいう)と公知方法に従い反応させることによって、式(2)で表される有機珪素化合物を得ることができる。
【0085】
【化12】

【0086】
(式中、R10は、前記と同義である。)
【0087】
有機シラン化合物(10)は、その多くが市販品として入手可能であり、トリクロロシランとアルキルアルコールとを反応させることによって製造することもできる。
【0088】
具体的には、不飽和炭素−炭素結合を有する化合物(9)と有機シラン化合物(10)を、極性溶媒中でヒドロシリル化反応用触媒を添加することによりヒドロシリル化反応を進行させる。
【0089】
このヒドロシリル化反応用触媒の添加量は限定されないが、化合物(9)と有機シラン化合物(10)との合計量に対して、この触媒中の金属原子が重量単位で0.1〜1000ppmとなる範囲内の量であればよく、さらには、これが0.1〜500ppmとなる範囲内の量であることが好ましい。
【0090】
このヒドロシリル化反応の温度は0〜100℃の範囲内であることが好ましく、特に、5〜70℃の範囲内であることが好ましい。有機シラン化合物(10)の使用量は化合物(9)に対するモル比で1.0〜3.0当量の範囲内であり、1.5〜2.0当量の範囲が好ましい。反応時間としては特に限定されるものではなく、5〜48時間、好適には12〜24時間である。
【0091】
ヒドロシリル化反応用触媒の種類には特に制限はなく、例えば、白金触媒、ロジウム触媒(例えば、RhCl(PPh3 3 、RhAl2 3 )、ルテニウム触媒(例えば、RuCl3 )、イリジウム触媒(例えば、IrCl3 )、鉄触媒(例えば、FeCl3 )、アルミニウム触媒(例えば、AlCl3 )、パラジウム触媒(例えば、PdCl2 ・2H2 O)、ニッケル触媒(例えば、NiCl2 )、チタン触媒(例えば、TiCl4 )などが挙げられ、好ましくは白金触媒である。白金触媒は、担体上の白金金属、白金化合物及び白金錯体から選ばれる。白金化合物及び白金錯体は、塩化白金酸、塩化白金酸六水和物、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトンなどの錯体、白金−オレフィン錯体(例えば、Pt(CH2=CH22Cl2)、白金−ビニルシロキサン錯体(例えば、Ptp(ViMe2SiOSiMe2Vi)q、Pt[(MeViSiO)4r)、(式中、Meはメチル基、Viはビニル基を表し、p、q、及びrは整数を表す。)、ジカルボニルジクロロ白金などを挙げることができる。
【0092】
あるいは、式(9)で表される化合物を、公知方法に従い、トリクロロシランと反応させ、さらにアルキルアルコールと反応させてもよい。
【0093】
上述のような方法で得られる本発明の有機珪素化合物(I)は、単独で、例えば、無機材料の表面処理剤として用いることができ、他の成分と混合して組成物として用いることもできる。
【0094】
そこで、本発明はまた、有機珪素化合物(I)で表面処理された無機粒子である。有機珪素化合物(I)で無機粒子を表面処理する際には、有機珪素化合物のR5は、加水分解によってOH基となってシラノール基が生成し、このシラノール基が無機粒子の表面水酸基と反応して結合する。有機珪素化合物のR5が直接無機粒子の表面水酸基と反応して結合する場合もある。本発明の無機粒子においては、このようにして有機珪素化合物(I)が無機粒子に結合している。
【0095】
無機粒子の素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、二酸化珪素と、少なくとも一種の他の金属酸化物の凝集物としても用いることができる。また、例えば、微粒子シリカと重合性単量体とを混合して重合硬化させた後に粉砕して得られる複合無機粒子(有機修飾無機粒子)としてもよい。無機粒子の形状は特に限定されず、粒子の粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記無機粒子の平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
【0096】
無機粒子の形状としては、不定形粒子及び球状粒子が挙げられる。無機粒子を含む複合材料の機械的強度を向上させる観点からは、前記無機粒子として球状粒子を用いることが好ましい。さらに、前記球状粒子を歯科用コンポジットレジンに用いた場合に、表面滑沢性に優れたコンポジットレジンが得られるという利点もある。ここで球状粒子とは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)で粒子の写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上である粒子である。前記球状粒子の平均粒子径は好ましくは0.1〜5μmである。平均粒子径が0.1μm未満の場合、組成物中の球状粒子の充填率が低下し、機械的強度が低くなるおそれがある。一方、平均粒子径が5μmを超える場合、前記球状粒子の表面積が低下し、高い機械的強度を有する硬化体が得られないおそれがある。
【0097】
必要に応じて本発明の有機珪素化合物(I)と合わせて、公知のシランカップリング材等の表面処理剤を併用してもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0098】
無機粒子の有機珪素化合物(I)による表面処理の方法としては、有機珪素化合物(I)が無機粒子表面に吸着する方法であれば特に限定されず、例えば、無機粒子を混合槽で攪拌しつつ、有機珪素化合物(I)を溶媒にて希釈した溶液を噴霧し、攪拌を続けながら槽内で一定時間加熱乾燥する方法や、無機粒子及び有機珪素化合物(I)を溶媒中で攪拌混合させた後、加熱乾燥する方法等が挙げられる。
【0099】
有機珪素化合物(I)による無機粒子の処理量は、処理前の無機粒子100重量部に対して、0.5〜60重量部が好ましく、1〜50重量部がより好ましい。
【0100】
本発明の有機珪素化合物(I)で表面処理された無機粒子は、疎水性の高いスペーサーを有しているため、有機物(特に重合性単量体)に対して親和性に富んでおり、また耐水性に優れている。また、複数の重合性基を有しているために、重合性単量体に対する反応性が高い。従って、本発明の無機粒子は、有機物との接着性及び接着耐久性が高く、本発明の無機粒子を用いた複合材料は、機械的強度及び耐久性に優れたものとなる。
【0101】
また、本発明の有機珪素化合物(I)は、組成物として、また有機珪素化合物(I)で表面処理された無機粒子として、高温多湿な条件下にさらされる用途に好適であり、特に歯科用途に好適である。
【0102】
本発明の有機珪素化合物(I)を組成物(特に歯科用組成物)に用いる形態としては、第1の形態として、本発明の有機珪素化合物を(I)をそのまま重合性単量体として使用する形態が挙げられる。すなわち、本発明の有機珪素化合物(I)を含む組成物(特に歯科用組成物)である。次に、第2の形態として、有機珪素化合物(I)で表面処理された無機粒子を含む組成物(特に歯科用組成物)が挙げられる。いずれの形態においても、組成物は、前記有機珪素化合物(I)と共重合可能な重合性単量体(II)を含むことが好ましい。さらに、組成物は、重合開始剤(III)を含むことが好ましく、重合開始剤(III)と重合促進剤(IV)を併用することがより好ましい。
【0103】
有機珪素化合物(I)と共重合可能な重合性単量体(II)としては、特に限定されないが、(メタ)アクリレート化合物又は(メタ)アクリルアミド化合物であることが好ましい。(メタ)アクリレート化合物及び(メタ)アクリルアミド化合物の具体例を以下に示す。
【0104】
酸性基を持たない一官能性単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,4−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0105】
また、分子内に1つのカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等及びこれらの酸無水物が挙げられ、これらの酸ハロゲン化物も使用できる。
【0106】
分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性単量体の例としては、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリルアミドウンデカン−1,1−ジカルボン酸及びこれらの酸無水物などが挙げられる。
【0107】
分子内にホスフィニルオキシ基又はホスホノオキシ基を有する一官能性単量体(一官能性ラジカル重合性酸性リン酸エステルと呼ぶことがある)の例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリルアミドエチルジハイドロジェンフォスフェート等が挙げられる。
【0108】
その他の酸性基を有する一官能性単量体として、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、10−スルホデシル(メタ)アクリレート等の分子内にスルホン基を有する一官能性単量体などが挙げられる。
【0109】
二官能性単量体は、芳香族化合物系のものと、脂肪族化合物系のものとの大きく二つに分けられる。芳香族化合物系の二官能性単量体の例としては、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテートなどが挙げられる。
【0110】
脂肪族化合物系の二官能性単量体の例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス(6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル)ハイドロジェンフォスフェート、ビス(10−(メタ)アクリロイルオキシデシル)ハイドロジェンフォスフェート、ビス{2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル}ハイドロジェンフォスフェート等が挙げられる。
【0111】
三官能性以上の単量体の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、及び1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。
【0112】
上記(メタ)アクリレート化合物及び(メタ)アクリルアミド化合物は、単独で1種類のみ用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。また、(メタ)アクリレート化合物又は(メタ)アクリルアミド化合物とともに、α−シアノアクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和有機酸のエステル類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体等の重合性単量体を必要に応じて併用してもよい。
【0113】
本発明に用いられる重合開始剤(III)としては、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。特に、光重合及び化学重合の重合開始剤を、単独又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
【0114】
本発明に用いられる重合開始剤(III)のうち光重合開始剤としては、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、水溶性アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0115】
上記光重合開始剤として用いられる(ビス)アシルホスフィンオキサイド類のうち、アシルフォスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルフォスフィンオキサイド類としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0116】
上記光重合開始剤として用いられる水溶性アシルフォスフィンオキサイド類は、アシルフォスフィンオキサイド分子内にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ピリジニウムイオン又はアンモニウムイオンを有することが好ましい。例えば、水溶性アシルフォスフィンオキサイド類は、欧州特許第0009348号明細書又は特開昭57−197289号公報に開示されている方法により合成することができる。
【0117】
上記水溶性アシルフォスフィンオキサイド類の具体例としては、モノメチルアセチルフォスフォネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソプロピル)フォスフォネート・ナトリウム、モノメチルベンゾイルフォスフォネート・ナトリウム、モノメチル(1−オキソブチル)フォスフォネート・ナトリウム、モノメチル(2−メチル−1−オキソプロピル)フォスフォネート・ナトリウム、アセチルフォスフォネート・ナトリウム、モノメチルアセチルフォスフォネート・ナトリウム、アセチルメチルフォスフォネート・ナトリウム、メチル4−(ヒドロキシメトキシフォスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、メチル−4−オキソーフォスフォノブタノエート・モノナトリウ厶塩、アセチルフェニールフォスフィネート・ナトリウム塩、(1−オキソプロピル)ペンチルフォスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシペンチルフォスフィニル)−4−オキソブタノエート・ナトリウム塩、アセチルペンチルフォスフィネート・ナトリウム、アセチルエチルフォスフィネート・ナトリウム、メチル(1,1−ジメチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム、(1,1−ジエトキシエチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム、メチル−4−(ヒドロキシメチルフォスフィニル)−4−オキソブタノエート・リチウム塩、4−(ヒドロキシメチルフォスフィニル)−4−オキソブタノイックアシッド・ジリチウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリディン−2−イル)フォスフォナイト・ナトリウム塩、(2−メチルパーヒドロ−1,3−ディアジン−2−イル)フォスフォナイト・ナトリウム塩、アセチルフォスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)フォスフォナイト・ナトリウム塩、(1,1−ジエトキシエチル)メチルフォスフォナイト・ナトリウム塩、メチル(2−メチルオキサチオラン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2,4,5−トリメチル−1,3−ジオキソラン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1,1−プロポキシエチル)フォスフィネート・ナトリウム塩、(1−メトキシビニル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、(1−エチルチオビニル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−ジアジン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチルパーヒドロ−1,3−チアジン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−ジアゾリジン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(2−メチル−1,3−チアゾリジン−2−イル)フォスフィネート・ナトリウム塩、(2,2−ジシアノ−1−メチルエチニル)フォスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルフォスフィネートオキシム・ナトリウ厶塩、アセチルメチルフォスフィネート−O−ベンジルオキシム・ナトリウム塩、1−[(N−エトキシイミノ)エチル]メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルイミノエチル)フォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−フェニルヒドラゾンエチル)フォスフィネート・ナトリウム塩、[1−(2,4−ジニトロフェニルヒドラゾノ)エチル]メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、アセチルメチルフォスフィネートセミカルバゾン・ナトリウム塩、(1−シアノ−1−ヒドロキシエチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、(ジメトキシメチル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、フォーミルメチルフォスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルフォスフィネート・ナトリウム塩、メチル(1−オキソプロピル)フォスフィネート・ナトリウム塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルフォスフィネート・ドデシルグアニジン塩、(1,1−ジメトキシプロピル)メチルフォスフィネート・イソプロピルアミン塩、アセチルメチルフォスフィネートチオセミカルバゾン・ナトリウム塩、1,3,5−トリブチル−4−メチルアミノ−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルフォスフィネート、1−ブチル−4−ブチルアミノメチルアミノ−3,5−ジプロピル−1,2,4−トリアゾリウム(1,1−ジメトキシエチル)−メチルフォスフィネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイドナトリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイドカリウム塩、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイドのアンモニウム塩などが挙げられる。さらに、特開2000−159621号公報に記載されている化合物も挙げられる。
【0118】
これら(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類及び水溶性アシルフォスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイドナトリウム塩が特に好ましい。
【0119】
上記光重合開始剤として用いられるチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩としては、例えば、チオキサントン、2−クロルチオキサンセン−9−オン、2−ヒドロキシ−3−(9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1−メチル−9−オキシ−9H−チオキサンテン−4−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(1,3,4−トリメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
【0120】
これらチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩の中でも、特に好適なチオキサントン類は、2−クロルチオキサンセン−9−オンであり、特に好適なチオキサントン類の第4級アンモニウ厶塩は、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドである。
【0121】
上記光重合開始剤として用いられるケタール類の例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。
【0122】
上記光重合開始剤として用いられるα−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが特に好ましい。
【0123】
上記光重合開始剤として用いられるクマリン化合物の例としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイルクマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3,5−カルボニルビス(7−メトキシクマリン)、3−ベンゾイル−6−ブロモクマリン、3,3’−カルボニルビスクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3−カルボキシクマリン、3−カルボキシ−7−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−6−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−8−メトキシクマリン、3−アセチルベンゾ[f]クマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−ニトロクマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジメチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジエチルアミノ)クマリン、7−メトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−(4−ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3−(4−エトキシシンナモイル)−7−メトキシクマリン、3−(4−ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3−(4−ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3−[(3−ジメチルベンゾチアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3−[(1−メチルナフト[1,2−d]チアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3,3’−カルボニルビス(6−メトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−アセトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−ジメチルアミノクマリン)、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジブチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾイミダゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジオクチルアミノ)クマリン、3−アセチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)、3,3’−カルボニル−7−ジエチルアミノクマリン−7’−ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10−[3−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1−オキソ−2−プロペニル]−2,3,6,7−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン、10−(2−ベンゾチアゾイル)−2,3,6、7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン等の特開平9−3109号公報、特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0124】
上述のクマリン化合物の中でも、特に、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)及び3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0125】
上記光重合開始剤として用いられるアントラキノン類の例としては、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0126】
上記光重合開始剤として用いられるベンゾインアルキルエーテル類の例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0127】
上記光重合開始剤として用いられるα−アミノケトン類の例としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0128】
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類及びその塩、α−ジケトン類、及びクマリン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す組成物が得られる。
【0129】
本発明に用いられる重合開始剤(III)のうち化学重合開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0130】
上記化学重合開始剤として用いられるケトンパーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド及びシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられる。
【0131】
上記化学重合開始剤として用いられるハイドロパーオキサイドとしては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0132】
上記化学重合開始剤として用いられるジアシルパーオキサイドとしては、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0133】
上記化学重合開始剤として用いられるジアルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。
【0134】
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシケタールとしては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン及び4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレリックアシッド−n−ブチルエステル等が挙げられる。
【0135】
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシエステルとしては、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタラート、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート及びt−ブチルパーオキシマレリックアシッド等が挙げられる。
【0136】
上記化学重合開始剤として用いられるパーオキシジカーボネートとしては、ジ−3−メトキシパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート及びジアリルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0137】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルパーオキサイドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルパーオキサイドが特に好ましく用いられる。
【0138】
好ましい実施態様では、上述の重合開始剤(III)は重合促進剤(IV)と共に用いられる。本発明に用いられる重合促進剤(IV)としては、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物などが挙げられる。
【0139】
重合促進剤(IV)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN−メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
【0140】
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル及び4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0141】
重合促進剤(IV)として用いられるスルフィン酸及びその塩としては、例えば、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0142】
重合促進剤(IV)として用いられるボレート化合物は、好ましくはアリールボレート化合物である。好適に使用されるアリールボレート化合物を具体的に例示すると、1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物として、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、トリアルキル[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びトリアルキル(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基及びn−ドデシル基等からなる群から選択される少なくとも1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩及びブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
【0143】
また、1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物としては、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p−クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−フロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、ジアルキルジ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ(p−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びジアルキルジ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基及びn−ドデシル基等からなる群から選択される少なくとも1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩及びブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
【0144】
さらに、1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物としては、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−フロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びモノアルキルトリ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基又はn−ドデシル基等から選択される1種である)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
【0145】
さらに1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フロロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素、(p−フロロフェニル)トリフェニルホウ素、(3,5−ビストリフロロメチル)フェニルトリフェニルホウ素、(p−ニトロフェニル)トリフェニルホウ素、(m−ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p−ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(m−オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素及び(p−オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩及びブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
【0146】
これらアリールボレート化合物の中でも、保存安定性の観点から、1分子中に3個又は4個のアリール基を有するボレート化合物を用いることがより好ましい。また、これらアリールボレート化合物は1種又は2種以上を混合して用いることも可能である。
【0147】
重合促進剤(IV)として用いられるバビツール酸誘導体としては、バルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジフェニルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−イソプロピルバルビツール酸、5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−n−ブチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジメチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロペンチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−シクロヘキシルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−1−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、5−メチルバルビツール酸、5−プロピルバルビツール酸、1,5−ジエチルバルビツール酸、1−エチル−5−メチルバルビツール酸、1−エチル−5−イソブチルバルビツール酸、1,3−ジエチル−5−ブチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−メチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−オクチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−ヘキシルバルビツール酸、5−ブチル−1−シクロヘキシルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸及びチオバルビツール酸類、ならびにこれらの塩(特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属類が好ましい)が挙げられ、これらバルビツール酸類の塩としては、例えば、5−ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5−トリメチルバルビツール酸ナトリウム及び1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸ナトリウム等が例示される。
【0148】
特に好適なバルビツール酸誘導体としては、5−ブチルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、及びこれらバルビツール酸類のナトリウム塩が挙げられる。
【0149】
重合促進剤(IV)として用いられるトリアジン化合物としては、例えば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−エチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−{N,N−ジアリルアミノ}エトキシ]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等が例示される。
【0150】
上記で例示したトリアジン化合物の中で特に好ましいものは、重合活性の点で2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンであり、また保存安定性の点で、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンである。上記トリアジン化合物は1種又は2種以上を混合して用いても構わない。
【0151】
重合促進剤(IV)として用いられる銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に用いられる。
【0152】
重合促進剤(IV)として用いられるスズ化合物としては、例えば、ジ−n−ブチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジマレート、ジ−n−オクチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫ジラウレートなどが挙げられる。特に好適なスズ化合物は、ジ−n−オクチル錫ジラウレート及びジ−n−ブチル錫ジラウレートである。
【0153】
重合促進剤(IV)として用いられるバナジウム化合物は、好ましくはIV価及び/又はV価のバナジウム化合物類である。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等の特開2003−96122号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0154】
重合促進剤(IV)として用いられるハロゲン化合物としては、例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド等が好適に用いられる。
【0155】
重合促進剤(IV)として用いられるアルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒドやベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−メチルオキシベンズアルデヒド、p−エチルオキシベンズアルデヒド、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から、p−n−オクチルオキシベンズアルデヒドが好ましく用いられる。
【0156】
重合促進剤(IV)として用いられるチオール化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸等が挙げられる。
【0157】
有機珪素化合物をそのまま重合性単量体として用いる第1の形態において、前記化合物(I)と前記重合性単量体(II)の配合量比は特に限定されないが、好ましい実施態様では、前記(I)及び前記(II)の合計を100重量部とした場合に、配合量比は前記(I)1〜99重量部及び前記(II)1〜99重量部である。前記配合量比は、前記(I)2〜90重量部及び前記(II)10〜98重量部であることがより好ましく、前記(I)3〜80重量部及び前記(II)20〜97重量部であることがさらに好ましい。
【0158】
前記重合開始剤(III)の配合量は特に限定されない。得られる組成物の硬化性等の観点からは、前記化合物(I)と前記重合性単量体(II)の合計100重量部に対して、前記重合開始剤(III)が0.01〜15重量部配合されることが好ましく、0.03〜10重量部配合されることがより好ましい。
【0159】
前記重合促進剤(IV)の配合量は特に限定されない。得られる組成物の硬化性等の観点からは、前記化合物(I)と前記重合性単量体(II)の合計100重量部に対して、前記重合促進剤(IV)が0.01〜15重量部配合されることが好ましい。
【0160】
有機珪素化合物(I)で表面処理された無機粒子を用いる第2の態様では、重合性単量体(II)の使用量は、特に限定されない。前記化合物(I)と前記重合性単量体(II)の合計100重量部に対して、無機粒子が0.1〜2000重量部配合される。
【0161】
前記重合開始剤(III)の配合量は特に限定されない。得られる組成物の硬化性等の観点からは、前記化合物(I)と前記重合性単量体(II)の合計100重量部に対して、前記重合開始剤(III)が0.01〜15重量部配合されることが好ましく、0.03〜10重量部配合されることがより好ましい。
【0162】
前記重合促進剤(IV)の配合量は特に限定されない。得られる組成物の硬化性等の観点からは、前記化合物(I)と前記重合性単量体(II)の合計100重量部に対して、前記重合促進剤(IV)が0.01〜15重量部配合されることが好ましい。
【0163】
また組成物は、その具体的な実施態様によっては、溶媒(V)を含むことが好ましい。溶媒(V)としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と勘案した場合、水、エタノール及びアセトンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0164】
また組成物は、有機粒子又は有機−無機複合粒子を含んでいてもよい。有機粒子の素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。有機粒子の形状は特に限定されず、粒子の粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機粒子の平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
【0165】
有機−無機複合粒子とは、上述の無機粒子にモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機−無機複合粒子としては、例えば、TMPT粒子(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカ粒子を混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機−無機複合粒子の形状は特に限定されず、粒子の粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機−無機複合粒子の平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
【0166】
この他、組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲でpH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、抗菌剤、香料等を配合してもよい。
【0167】
第1の態様の組成物は、特に、ジルコニア、アルミナ等のセラミックス材料及びグラスファイバーに対して優れた接着強さを発現する歯科用接着性組成物及びプライマーとして好適に用いられる。当該接着性組成物は、高い接着性と接着耐久性を有する。当該歯科用接着性組成物は(I)、(II)、(III)、(IV)、及び(V)を含む組成物であることが好ましく、通常量の上述の無機粒子、有機粒子、又は有機−無機複合粒子をさらに含んでいてもよい。
【0168】
第2の態様の組成物は、特に、歯科用の、プライマー、ボンディング材、コンポジットレジン、セメント、小窩裂溝填塞材、義歯床用レジン等として用いることができ、中でも、歯科修復材、特に、コンポジットレジン、又はセメントとして好適に用いられる。当該歯科修復材は、高い機械的強度と耐久性を示す。このとき、組成物は、有機珪素化合物(I)で表面処理された無機粒子、(II)、(III)、(IV)、及び(V)を含む組成物であることが好ましい。
【実施例】
【0169】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0170】
合成例1
[トリメチロール−6−ヘプテンの合成]
3L三口フラスコに、12wt%ホルムアルデヒド水溶液909g(3.64mol)を加え、次いでTHF(テトラヒドロフラン)909gを加え、激しく撹拌しながら、7−オクテン−1−アール126g(1.00mol)、40wt%NaOH水溶液120g(1.20mol)を、同時に別々の滴下ロートから5時間かけて滴下した。この間、内温は35℃を保った。滴下終了後、35℃で3時間撹拌した後、還流下で6時間撹拌した。反応終了後、室温で静置して二層に分離させた。上層を取り、ロータリーエバポレーターを用いてTHFを減圧留去した。トルエン500mlを加えて、再度エバポレーターにてトルエンを減圧留去し、共沸脱水した。トルエンを少量添加して静置し、93.4gのトリメチロール−6−ヘプテンを取得した。
【0171】
[トリス(メタクリロイルオキシメチル)−6−ヘプテン合成]
2L三口フラスコに上述の方法により得られたトリメチロール−6−ヘプテン40.4g(0.22mol)にクロロホルム400mlを加え、攪拌し溶解させた後、トリエチルアミン153ml(5当量)及びMEHQ(ハイドロキノンモノメチルエーテル)0.05gを順に加え氷浴で内温が10℃以下になるまで冷却した。滴下ロートを用いてメタクリル酸クロライド75ml(3.5当量)を2時間かけて滴下した。滴下の際には反応系の内温を10℃以下に保った。室温で2時間攪拌後、アミン塩を濾過により除去した。クロロホルムに対して3容量倍の蒸留水で3回洗浄し、得られた下層に硫酸マグネシウムを添加して脱水を行った。脱水後、ロータリーエバポレーターを用いてクロロホルムを減圧除去することで、粗トリス(メタクリロイルオキシメチル)−6−ヘプテン(以下、6−TMHと略す)を得た。粗6−TMHのうち、30.0gをシリカゲルカラムにより精製し(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)、6−TMH19.5gを得た(GC純度;84.7%、net量;16.5g、40.6mmol)。
【0172】
[トリス(メタクリロイルオキシメチル)ヘプチルトリクロロシランの合成]
25mlの3つ口フラスコに6−TMH6.0g(16.7mmol)及びMEHQ0.01gを加え、さらに1%塩化白金酸6水和物/無水THF溶液1.0ml(白金17.4μmol)を加えた。トリクロロシラン3.3ml(2.0当量)を氷浴下で添加し、室温で18時間攪拌した。原料と生成物のGC面積比が一定になったところで反応を停止した(反応時間18時間)。得られた反応液を次工程に供した。
【0173】
[トリス(メタクリロイルオキシメチル)ヘプチルトリメトキシシランの合成]
200ml三口フラスコに予め硫酸マグネシウムにより脱水したメタノール16ml、トリエチルアミン21mlを加え、内温5℃まで冷却した。上述の方法で得られたトリス(メタクリロイルオキシメチル)ヘプチルトリクロロシラン溶液を、内温15℃以下に保ちながら20分かけて滴下した。滴下終了後、室温で2時間撹拌した。ロータリーエバポレーターを用いて、溶媒を半分程度留去した。ジイソプロピルエーテル20mlで抽出し、得られた抽出液をろ過した。MEHQ20mgを加えた後、エバポレーターで溶媒を除去し、針状結晶を含むオイルとして粗トリス(メタクリロイルオキシメチル)ヘプチルトリメトキシシランを得た。
【0174】
上記方法により得られたトリス(メタクリロイルオキシメチル)ヘプチルトリメトキシシラン(本発明の有機珪素化合物(I))の1H−NMRスペクトル(300MHz、CDCl3)を測定したところ、化学シフトδ(ppm)は、以下のとおりであった。
1H−NMR(300MHz、CDCl3、TMS)δ=0.60(t,2H)、1.2(m,10H)、1.9(s,9H)、3.5(s,9H)、4.1(s,6H)、5.5(s,3H)、6.0(s,3H).
【0175】
以下で用いる略記号は次の通りである。
【0176】
[有機珪素化合物]
7−TMHS:トリス(メタクリロイルオキシメチル)ヘプチルトリメトキシシラン
3−MPS:3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
11−MUS:11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン
UDMS:3−[(1,3(2)―ジメタクリロイルオキシプロピル)−2(3)−オキシカルボニルアミド]プロピルトリエトキシシラン
【0177】
[酸性基含有重合性単量体]
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート
MDPは蒸留により脱水したものを用いた。
【0178】
[架橋性を有する重合性単量体]
Bis−GMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
3G:1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン
【0179】
[第1級アルコール]
アルコールは市販のエタノールを蒸留脱水して用いた。
【0180】
[光重合開始剤]
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
CQ:カンファーキノン
【0181】
[アミン類]
アミン:N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル
【0182】
[重合禁止剤]
BHT:ブチルヒドロキシトルエン
【0183】
[重合性単量体組成物(1)の調製]
Bis−GMA 75重量部
3G 25重量部
CQ 0.3重量部
TMDPO 0.1重量部
アミン 0.5重量部
BHT 0.05重量部
【0184】
[無機粒子(a−1)の調製]
バリウムガラス「RaySolb E−3000」(Specialty Glass社製)を振動ボールミルで粉砕し、体積中位粒径2.5μm、0.2〜50μmの粒子径を有する粒子数の割合が99体積%の不定形の無機粒子微粉末を得た。得られた平均粒子径2.5μmの不定形無機粒子100g、7−TMHS2.0g、及びトルエン200mlを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で攪拌した。トルエンを減圧下で留去した後、40℃で16時間真空乾燥を行い、さらに90℃で3時間加熱し、平均粒子径2.5μmの無機粒子(a−1)を得た。
【0185】
[無機粒子(a−2)の調製]
バリウムガラス「RaySolb E−3000」(Specialty Glass社製)を振動ボールミルで粉砕し、体積中位粒径2.5μm、0.2〜50μmの粒子径を有する粒子数の割合が99体積%の不定形の無機粒子微粉末を得た。得られた平均粒子径2.5μmの不定形無機粒子100g、3−MPS2.0g、及びトルエン200mlを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で攪拌した。トルエンを減圧下で留去した後、40℃で16時間真空乾燥を行い、さらに90℃で3時間加熱し、平均粒子径2.5μmの無機粒子(a−2)を得た。
【0186】
[無機粒子(a−3)の調製]
バリウムガラス「RaySolb E−3000」(Specialty Glass社製)を振動ボールミルで粉砕し、体積中位粒径2.5μm、0.2から50μmの粒子径を有する粒子数の割合が99体積%の不定形の無機粒子微粉末を得た。得られた平均粒子径2.5μmの不定形無機粒子100g、11−MUS2.0g、及びトルエン200mlを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で攪拌した。トルエンを減圧下で留去した後、40℃で16時間真空乾燥を行い、さらに90℃で3時間加熱し、平均粒子径2.5μmの無機粒子(a−3)を得た。
【0187】
[無機粒子(a−4)の調製]
バリウムガラス「RaySolb E−3000」(Specialty Glass社製)を振動ボールミルで粉砕し、体積中位粒径2.5μm、0.2から50μmの粒子径を有する粒子数の割合が99体積%の不定形の無機粒子微粉末を得た。得られた平均粒子径2.5μmの不定形無機粒子100g、UDMS2.0g、及びトルエン200mlを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で攪拌した。トルエンを減圧下で留去した後、40℃で16時間真空乾燥を行い、さらに90℃で3時間加熱し、平均粒子径2.5μmの無機粒子(a−4)を得た。
【0188】
[無機粒子(b−1)の調製]
平均粒子径0.02μmの略球状微細粒子フィラー(「Ar130」シリカ、日本アエロジル社製)100g、11−MUS40g、及びトルエン610mlをフラスコに入れ、20分間、30℃で激しく攪拌した。トルエンを30℃、減圧下で留去した後、真空乾燥を行い、平均粒子径0.02μmの無機粒子(b−1)を得た。
【0189】
[歯科用接着性組成物の製造例]
表1に示す重合性単量体及び蒸留エタノールを室温下で混合し、実施例1及び比較例1〜3の歯科用接着性組成物を得た。
【0190】
[歯科用コンポジットレジンの製造例]
表2に示す無機粒子及び上記した重合性単量体組成物(1)を混合し、実施例2及び比較例4〜6のペースト状の歯科用コンポジットレジンを調製した。
【0191】
[接着強さの測定]
歯科用陶材ブロック(VITA社製、商品名「ビタ セレイ」)を#1000シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で平滑に研磨し、超音波洗浄した後、表面の水を歯科用エアーシリンジを用いて吹き飛ばし、被着面とした。被着面に接着性組成物を小筆ブラシを用いて塗布し、歯科用エアーシリンジを用いて薄く延ばした。このときエタノールを十分に揮発させた。次いで、被着面に、直径5mmの丸穴を有する厚さ150μmの粘着テープを貼着し、その丸穴に歯科用コンポジットレジン(クラレメディカル社製、商品名「AP−X」)を充填し、離型フィルム(クラレ社製、商品名「エバール」)を被せた後、その離型フィルムの上にスライドグラスを載置して押し付け、歯科用光照射器(モリタ社製、商品名「JETLITE3000」)を用いて20秒間光照射して硬化させた。次いで、この硬化面に対して、歯科用レジンセメント(クラレメディカル社製、商品名「パナビア21」)を用いて直径7mm、長さ1.5cmのステンレス製の円柱棒の一方の端面を接着してサンプルとした。
【0192】
接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。得られた蒸留水に浸漬したサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置することで、接着試験供試サンプルを作製した。接着試験供試サンプルは全部で5個作製した。耐久性試験として蒸留水中に50℃で2週間、50℃で4週間保存後の評価も実施した。
【0193】
上記の5個の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を接着強さ(引張接着強度)とした。
【0194】
[曲げ強さ測定]
ペーストをステンレス製の金型(寸法2mm×2mm×25mm)に充填後、上下をスライドガラスで圧接し、歯科用技工用光照射器(モリタ製、アルファーライトII)で両面から各2分間ずつ光を照射して硬化させた。各実施例及び比較例について、硬化物を5本ずつ作製し、硬化物は、金型から取り出した後、37℃の蒸留水中に24時間保存した。耐久性試験として蒸留水中に50℃で2週間保存後の評価も実施した。
【0195】
インストロン万能試験機を用いて、スパン:20mm、クロスヘッドスピード:1mm/分の条件下で曲げ強度を測定し、各試験片の測定値の平均値を算出し、曲げ強度とした。
【0196】
【表1】

【0197】
表1に示すように、実施例1の組成物を用いた場合、高い初期接着を示した。さらに、実施例1は50℃で2週間及び50℃で4週間保存後においても高い接着力を維持しており、耐久性に優れていた。一方、比較例1は50℃で2週間及び50℃で4週間保存後において接着力は低下しており、これは材料が吸水し、有機珪素化合物の加水分解が進んだためと考えられる。比較例2は50℃で2週間及び50℃で4週間保存後においても初期の接着力を維持しており、耐久性には優れているものの、接着強さは実施例1と比較すると十分ではなかった。比較例3は初期の接着強さは比較例1及び2と比較して高く、これは重合性基を2つ有しており、樹脂との界面接着強度が向上したことに起因していると考えられる。しかし、50℃で2週間及び50℃で4週間保存後において比較例3の接着強さは著しく低下しており、これは比較例3の組成物は親水性の高い有機珪素化合物を使用しており、その結果、材料の吸水が進み、加水分解が急速に進んだためと考えられる。
【0198】
【表2】

【0199】
表2に示すように、実施例2の組成物を用いた場合、初期の曲げ強さは高く、50℃で2週間保存後も強度の低下は20%未満であり、優れた耐久性を示した。比較例4の組成物を用いた場合、50℃で2週間保存後の強度は大きく低下しており、これは吸水により有機珪素化合物の加水分解が進んだためと考えられる。比較例5は50℃で2週間保存後の強度低下は30%と比較的少ないが、初期の強度及び耐久性共に、実施例2と比較すると十分ではない。比較例6の組成物を用いた場合、初期の強度は実施例2と同等に高いものであった。これは重合性基を2つ有しており、樹脂との界面接着が強化され、その結果、材料の強度が向上したためと考えられる。しかし、50℃で2週間保存後の強度は37℃で1日保存後と比較して著しく低下した。これは比較例6の組成物は親水性の高い有機珪素化合物で処理された無機粒子を使用しており、材料の吸水性が高く、加水分解が急速に進んだためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0200】
本発明の有機珪素化合物は、FRP、FRTP、エラストマー、塗料、接着剤、シーラント、レジンコンクリート、ファンドリー、封止剤、人造大理石、プラスチックマグネット、ゴムマグネット、磁気テープ、PCB、歯科修復材等の無機材料と有機材料を組み合わせた複合材料において有用であり、歯科修復材用の複合材料において特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、m個の重合性基を有する有機珪素化合物。
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、(A)は存在しないか、又は−COO−、−OCO−、−CONH−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C64O−、−C64COO−、及び−C64OCO−からなる群から選択される1種であり、mは2又は3であり、R4は置換基を有してもよい炭素数6〜40の炭化水素基であって、Si原子と重合性基とを、炭素原子が5個以上直列した鎖により結合しており、R5は加水分解可能な基であり、R6は置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、nは1〜3の整数である。)
【請求項2】
1及びR2が水素原子であり、R3が水素原子又はメチル基である請求項1に記載の有機珪素化合物。
【請求項3】
Aが、−COO−である請求項1又は2に記載の有機珪素化合物。
【請求項4】
4が、炭素数6〜40の炭化水素基である請求項1〜3のいずれかに記載の有機珪素化合物。
【請求項5】
下記一般式(2)で表される請求項1に記載の有機珪素化合物。
【化2】

(式中、R7〜R9はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R10はアルコキシ基であり、kは3〜16の整数を示す。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の有機珪素化合物で表面処理された無機粒子。
【請求項7】
請求項6に記載の無機粒子、重合性単量体、及び重合開始剤を含む歯科用組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の有機珪素化合物を含む歯科用組成物。

【公開番号】特開2010−229054(P2010−229054A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76695(P2009−76695)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】