説明

新規樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 顔料分散物の流動性と分散安定性が良好な、とりわけ、中性又は酸性カーボン用の顔料分散剤として有用な新規樹脂組成物及びその製造方法の提供。
【解決手段】 シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物と、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類と、必要によりロジン類及び/又はその多価アルコールエステル化物とを反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散性に優れた新規樹脂組成物及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、顔料分散物の流動性と分散安定性が良好な、とりわけ、中性又は酸性カーボン用の顔料分散剤として有用な新規樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インキ、塗料等の顔料を分散させたコーティング組成物では鮮明な色調、高い光沢及び着色力が要求される。このためには用いる顔料の粒子が微細で、かつ高濃度に微分散されている必要がある。しかしこのような顔料分散物を得ることは難しく、顔料の分散不良に起因して、しばしば取扱上あるいは製品の品質上の問題を生じることがある。
【0003】
例えば、カーボンブラックは、印刷インキ、塗料、或いはレジスト等の被覆剤において着色、遮光、導電性付与等を目的として幅広く使用されている。しかしながら、カーボンブラックは、媒体に対して親和性が低い上にストラクチャーと呼ばれる特有の高次構造を形成しやすく、カーボンブラックが再凝集を起こすことのない安定な分散物を得ることは困難であり、色調の悪化や着色力の低下、或いは、分散物が静置された場合によく見られる高い降伏値や温度上昇に伴う流動性の低下等の現象が見られる。
【0004】
こうした不都合を解消する手段としては、従来から分散剤や表面処理剤等を用いて顔料の分散性を改良する種々の方法が試みられてきた。特にインキや塗料等のコーティング組成物に対しては、高分子の分散剤を使用する方法が普及している。そしてこれらの分散剤の中でも、溶媒などの媒体やバインダー樹脂を含むビヒクルに対し親和性を有する部位と、顔料表面に対して吸着能を有する部位を併せ持つ化合物が比較的良い効果をあげてきた。これらを吸着能の付与の仕方から分類すると、所謂酸−塩基相互作用を利用するもの(例えば、特許文献1や特許文献2)と、色素残基を導入して顔料表面との類似構造を持たせるもの(例えば、特許文献3や特許文献4)とに分けられる。
【0005】
しかしながら、前者はそのメカニズムに起因して、表面官能基の少ない中性カーボンに対しては、充分な効果が得られていない。官能基濃度が低い中性カーボン等の分散性を向上させるためには、わざわざ酸性処理を行い酸性カーボンとする必要が生じる。
【0006】
また、後者は、構造の類似性に起因する親和性を利用しているので、前者の酸−塩基相互作用によるものに比べて顔料表面の官能基濃度の違いによる分散性の変化が少ないという利点がある。しかしながら、前出の特許文献4にあるように、カルボキシル基、水酸基、酸無水物環等を有する色素誘導体をポリエステルの末端水素基やカルボキシル基と直接反応させようとしても、色素誘導体の反応系中での溶解性が低いこと等に起因して、反応効率が上がらず、結果的に充分な分散性が得られなかったり、残存する未反応色素による種々の問題が生じたりすることが多く、色素誘導体を用いた類似構造の導入はその導入効率やその後の処理等に問題を抱えている。
【0007】
これら上述の問題を払拭するものとしては、表面不活性な中性カーボンをも満足に分散できる、アントラキノン残基を有するポリエステル化合物からなる顔料分散剤(特許文献5)が開示されている。
【特許文献1】特開平1−311177号公報
【特許文献2】特開昭63−175080号公報
【特許文献3】特公昭57−25251号公報
【特許文献4】特開昭63−51468号公報
【特許文献5】特開平5−5023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる上記の欠点を完全に解消した、顔料分散性に優れた新規樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以前より石油樹脂の持つ良好な顔料分散性に着目し、特願2004−230192号にて、ジシクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物を、カチオン重合させて得た石油樹脂と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物、必要に応じてロジン類とを反応させて得た反応生成物からなる、顔料分散性良好な印刷インキ用樹脂の発明を開示しているが、その後の更なる鋭意研究の結果、前記反応系に、予め、若しくは反応後にアミン類を添加すると、顔料分散物の流動性を著しく改善できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明に係る新規樹脂組成物は、シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂(A)と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(B)と、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)とを、反応させて得られる(第1の発明)。
【0011】
また、本発明に係るもう一つの新規樹脂組成物は、シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂(A)と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(B)と、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)と、ロジン類及び/又はその多価アルコールエステル化物(D)とを、反応させて得られ、酸価1〜50mgKOH/gを有する(第2の発明)。
【0012】
また、第1又は第2の発明において、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)の好ましい添加量は、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(B)1モルあたり、該アミノ基0.01〜0.8モル当量の範囲である(第3の発明)。
【0013】
また、第1乃至第3の発明において、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)が、好ましくは2価以上の多価アミンである(第4の発明)。
【0014】
さらに、第1乃至第4の発明において、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)が、より好ましくはアミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミンから選ばれる少なくとも1種の多価アミンである(第5の発明)。
【0015】
そして、第1乃至第5の発明において、反応に供せられる(B)の量が、(A)と(D)との合計量100重量部あたり、20〜150重量部の範囲である(第6の発明)。
【0016】
第1乃至第6の発明において得られる樹脂組成物は、顔料分散剤として有用であり(第7の発明)、とりわけ中性または酸性のカーボン用として好適である。
【0017】
また、第1乃至第6の発明において、シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂(A)と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(B)と、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)と、必要によりロジン類及び/又はその多価アルコールエステル化物(D)とを、反応させて得られる樹脂組成物の製造方法は、(A)及び(D)と(B)との反応前乃至反応後に、(C)を添加する工程を有する(第8の発明)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る樹脂組成物は、その原料として使用する(A)が(B)との反応性に富むため、未反応原料成分をほとんど含まず、低分子量樹脂についても、これを最少量でしか含まない。また、本発明の樹脂組成物には、(A)のシクロペンタジエン骨格が、そのまま持ち込まれるので、当該樹脂組成物は、カーボンブラックやその他の有機顔料に対する親和性がもともと高く(顔料分散性に優れる)、石油系溶剤や植物油等に対する溶解性や分散性も高い。そして、本発明の最たる要素である分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)を加えることにより、構造粘性を低減し、顔料分散物の流動性を著しく改善することができる。本発明の新規樹脂組成物は、特にオフセット印刷インキ用顔料分散剤としての適性を備えているが、これ以外の各種の用途にも幅広く使用できる汎用性を備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る新規樹脂組成物を取得するための製造原料の一つである(A)成分は、シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させることで取得することができ、この石油樹脂を、以下、カチオン重合DCPD石油樹脂と呼ぶ。
ここで「シクロペンタジエン系炭化水素」とは、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、これらのアルキル置換誘導体(例えば、メチルシクロペンタジエン)及びこれらの2量体(これには、例えば、シクロペンタジエン−メチルシクロペンタジエンなどの共2量化物が含まれる)、3量体(例えば、トリシクロペンタジエン)などの多量体を指す。
【0020】
カチオン重合に供する炭化水素混合物は、シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有していることが、(A)成分を得るための要件であり、好ましくはシクロペンタジエン系炭化水素を50〜90重量%含有する。残余の炭化水素としては、石油分解留分に通常含まれる沸点範囲−10℃〜100℃の共役二重結合炭化水素(C5留分)、沸点範囲120℃〜260℃の芳香族不飽和炭化水素(C9留分)などを例示できる。
【0021】
上記炭化水素混合物のカチオン重合は、フリーデルクラフト触媒の存在下に、常法とおり実施することができ、フリーデルクラフト触媒としては、三フッ化ホウ素又はそのコンプレックス、塩化アルミニウムなどを使用可能である。重合を温度−30℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃で、10分〜20時間、好ましくは1時間〜15時間行なわせることにより、所望のカチオン重合DCPD石油樹脂を得ることができる。
【0022】
本発明で使用するカチオン重合DCPD石油樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が800以上であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比、Mw/Mnが2以上であることが好ましい。
【0023】
本発明で使用するカチオン重合DCPD石油樹脂は、上記した重合法で製造することができるが、これを市販品で賄うこともできる。本発明で使用可能な市販カチオン重合DCPD石油樹脂を、商品名で例示すると、トーホーハイレジン PA−140、トーホーハイレジン #110T、トーホーコーポレックス #2100(以上、東邦化学工業株式会社製)などを挙げることができる。
【0024】
本発明に係る新規樹脂組成物の原料となる(B)成分は、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物である。
この(B)成分は、文字通り、フェノール類とホルムアルデヒドを公知の方法及び公知の反応条件で反応させることによって得ることができる。一般的には、フェノール類とホルムアルデヒドをアルカリ性触媒(水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなど)又は酸性触媒(硫酸、p−トルエンスルホン酸など)の存在下、無溶剤又は溶剤中で反応させ、得られた反応混合物を、必要に応じて、中和及び/又は水洗することで得ることができる。反応に際して、ホルムアルデヒド/フェノール類のモル比は、1.0〜3.0の範囲で選ばれる。
反応に供するフェノール類としては、石炭酸、クレゾール、アミルフェノール、ビスフェノールA、p−アルキル置換されているフェノール類などが何れも使用できるが、なかでも炭素数4〜12のp−アルキル置換されているフェノール類である、p−ブチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−ドデシルフェノールの使用が好ましい。
【0025】
本発明に係る新規樹脂組成物の原料となる(C)成分は分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類であり、前記アミノ基を有する化合物であれば特に限定されず、モノアミンであっても多価アミンであっても差し支えなく、いずれにおいても顔料分散物の流動性向上に多かれ少なかれ寄与する。後述する反応温度を考慮すれば、沸点150℃以上のものが好ましい。特に顔料分散物の大幅な流動性向上を主たる目的とする場合には、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有する多価アミンが好ましい。より詳しくは、2価以上のアミノ基を有する多価アミンであって、そのうち少なくとも1つが1級又は2級のアミノ基であれば、残るアミノ基が全て3級アミノ基であっても差し支えない。その具体例としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、1−メチルピペラジン、1−エチルピペラジン、ジエチレントリアミン、アミノエチルピペラジン、ヘキサメチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。このうち、アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミンが効果、入手容易等の点から特に好ましく、またこれらアミンや他のアミン類を複数種組み合わせて用いても構わない。
【0026】
本発明に係る新規樹脂組成物の原料となる(D)成分は、ロジン類及び/又はその多価アルコールエステル化物であり、ロジン類としては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジンなどの未変性ロジンが使用できるほか、不均化ロジン、重合ロジン、水添ロジンなどの変性ロジンも使用できる。また、ロジン誘導体として、上記ロジン類に(無水)マレイン酸、フマル酸、アクリル酸などの不飽和カルボン酸を反応させた不飽和カルボン酸変性ロジンなどが使用できる。
【0027】
また、ロジン類の多価アルコールエステル化物は、ロジン類やその誘導体を、多価アルコールにてエステル化することによって得ることができる。そのエステル化は無触媒或いは公知のエステル化触媒存在下、200℃〜300℃の反応温度で行なわれ、上記ロジン類及び/又はロジン誘導体と、多価アルコールとの反応比は、反応生成物であるロジンエステルの酸価が5〜100になるように選ばれる。
反応に供する多価アルコールとしては、2価以上のアルコール性水酸基を有するものであればいずれも使用可能であって、具体的には、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールなどが例示できる。
【0028】
ロジン類の多価アルコールエステル化物は、上記の如く合成することもできるが、これを市販品で賄うこともできる。使用可能な市販ロジンエステルには、テスポールTA−14−068(日立化成ポリマー株式会社製)、EP1200(理化ファインテク株式会社製)などがある。
本発明の(D)成分は、単一種のロジン類及び/又はその多価アルコールエステル化物であっても、また、その混合物であっても差し支えないが、いずれのロジン類及び/又はその多価アルコールエステル化物でも、反応して得られる樹脂組成物の酸価が1〜50の範囲になるように、随時適量使用することが好ましい。
【0029】
進んで、上記の(A)、(B)、(C)成分、及び必要に応じて(D)成分を反応させて、本発明に係る新規樹脂組成物を取得する態様について説明する。
(C)成分の添加は、(A)及び(D)成分と(B)成分との反応前乃至反応後に、好ましくは(B)成分1モルあたり、(C)成分の1級及び2級アミノ基0.01〜0.8モル当量の範囲で添加する。(C)成分の反応に対する関与は明白ではないが、おそらく、その反応性から主として(B)成分のアルコール性水酸基であるメチロール基(反応後であればその残基)に対し脱水反応し、樹脂骨格中へ導入されているのではないかと推測する。反応前に予め添加する場合であっても、反応後添加する場合であっても、0.01モル当量未満ではその添加による流動性への寄与効果があまり認められず、また0.8モル当量を超えて添加した場合、予め添加する場合においては、(B)成分の(A)、(D)成分との反応部位を大幅に減ずるためか所望の樹脂が得られなかったり、反応後添加する場合においては、その増量に見合った効果の向上が期待できなかったりする虞がある。添加の時期の差については、(C)成分の添加量が同量の場合、予め添加しておく方が反応後に添加するよりも流動性に寄与する傾向が認められる。
【0030】
反応に供せられる(B)成分の量に特に制限はないが、好ましくは、(A)成分と(D)成分の合計量100重量部あたり、20〜150重量部の範囲で選ばれる。(B)成分の量が上記の範囲であれば、未反応原料成分や低分子量反応生成物を極力低減しながら、所望の樹脂を得ることができ、かつ、反応生成物のゲル化を招く虞がない。
【0031】
また、(A)成分と任意の成分である(D)成分との割合に特に制限はないが、(A)成分と(D)成分との合計量において、(A)成分が10重量%以上含まれている場合にその顔料分散性はより向上し、(C)成分の添加による顔料分散物の流動性向上への効果がより如実に現れる。
【0032】
上記成分は、140℃〜270℃、好ましくは150℃〜240℃の温度で1時間〜20時間反応させる。(B)成分であるフェノールホルムアルデヒド初期縮合物が、溶液又は分散液として反応系に供給できる場合は、反応器内の各成分混合物を140℃〜270℃に保持しながら、これに溶液状又は分散液状の(B)成分を1時間〜20時間掛けて滴下する方法を採用することができる。この際、予め反応器中に(A)、(D)成分と(C)成分とを仕込んでおく方法のほかに、(C)成分を(B)成分に分散又は溶解できる場合には(B)成分と(C)成分との混合物を滴下する方法がある。また別法として、(B)成分と(C)成分とを同時かつ別々に滴下する方法もある。反応温度は140℃〜270℃とすることで、上記成分の重合反応を最も効率よく進行させることができ、かつ反応生成物の分解を心配する必要もない。
【0033】
反応時間は、反応に供する上記各成分の個々の反応性と、反応生成物である樹脂組成物の用途に応じて、1時間〜20時間の範囲内で選択され、反応過程で反応混合物をサンプリングし、その分子量測定又はその溶融樹脂粘度の測定で取出しのタイミングを図ることができる。(A)、(D)成分と(B)成分との反応後に(C)成分を添加する場合は、樹脂の流動性がある反応直後が好ましく、添加する際の樹脂の温度範囲としては100℃〜270℃程度が好ましい。
【0034】
顔料分散剤として使用する場合、分散対象となる顔料としては、中でもカーボンが適している。特に従来分散が困難であった中性のカーボンをも酸性カーボンと同様に充分に分散することができる。他の顔料に対しても分散剤として使用可能であるが、本発明の樹脂組成物は着色していることもあり、濃い色調の顔料に対して用いるのが好ましい。また、本発明の樹脂組成物は必要に応じて他の分散剤と併用することができる。これは対象とする顔料の種類にもよるが、カーボンについてはギルソナイトとの併用が可能である。
【0035】
また、本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、使用される用途に合わせロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などの1種または2種以上と混合して用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を提示して本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。なお、実施例及び比較例で示す「部」及び「%」は、重量部及び重量%を意味する。
【0037】
フェノールホルムアルデヒド初期縮合物の製造例
攪拌機、還流冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、トルエン1430部、p−オクチルフェノール2060部、92%パラホルムアルデヒド652.2部からなる混合物を収めて52〜57℃に加熱し、これに48%水酸化ナトリウム水溶液50部を添加した。発熱反応で反応混合物は昇温するが、これを水浴及び湯浴にて75℃に保持しながら6時間反応させた。反応終了後、反応器に濃塩酸63部、水200部を加えて攪拌し、冷却後反応器を静置した。上澄み層を分液ロートで分離し、不揮発分65%のレゾール型初期縮合物4090部を得た。
【0038】
下記の実施例及び比較例で得られた各樹脂の酸価及び亜麻仁油ワニス粘度は、次の方法で測定した。
酸価:JIS K−5902 ロジン酸価測定法に準拠。
亜麻仁油ワニス粘度:亜麻仁油と樹脂とを重量比65:35で混合し、220℃で30分加熱溶解したものを、落球粘度計で測定。測定粘度:25℃
【0039】
実施例1
攪拌機、リービッヒ冷却器、温度計付きセパラブルフラスコに、(A)成分としてカチオン重合DCPD石油樹脂(商品名:トーホーハイレジン PA−140、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約70重量%含有)1000部を仕込んで加熱し、220℃で溶解させ、(C)成分としてアミノエチルピペラジン21.9部(レゾールの0.19モル当量)を添加した。添加してから30分後(B)成分として上記の製造例で得たレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液724部を3時間かけて滴下した。滴下終了1時間後、フラスコ内を10hPaで1時間減圧することにより揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1350部を得た。この樹脂の亜麻仁油ワニス粘度43.4Pa・sであった。
【0040】
実施例2
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分としてカチオン重合DCPD石油樹脂(商品名:トーホーハイレジン PA−140、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約70重量%含有)900部と、(D)成分としてロジン100部を仕込んで加熱し、220℃で溶解させ、(C)成分としてアミノエチルピペラジン19.0部(レゾールの0.19モル当量)を添加した。添加してから30分後(B)成分として上記の製造例で得たレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液628部を3時間かけて滴下した。滴下終了1時間後、フラスコ内を10hPaで1時間減圧することにより揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1320部を得た。この樹脂の酸価9.8、亜麻仁油ワニス粘度11.5Pa・sであった。
【0041】
実施例3
(C)成分の仕込み量を87.9部(レゾールの0.77モル当量)にした以外は、実施例1と同様の操作を行い、固形樹脂1410部を得た。この樹脂の亜麻仁油ワニス粘度4.3Pa・sであった。
【0042】
実施例4
(C)成分の仕込み量を2.9部(レゾールの0.03モル当量)にした以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形樹脂1300部を得た。この樹脂の酸価9.6、亜麻仁油ワニス粘度46.5Pa・sであった。
【0043】
実施例5
(C)成分をアミノエチルピペラジンに代えて、モノエタノールアミン18.0部(レゾールの0.19モル当量)にした以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形樹脂1290部を得た。この樹脂の酸価8.4、亜麻仁油ワニス粘度12.4Pa・sであった。
【0044】
実施例6
(C)成分をアミノエチルピペラジンに代えて、ジエチレントリアミン10.0部(レゾールの0.19モル当量)にした以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形樹脂1310部を得た。この樹脂の酸価16.2、亜麻仁油ワニス粘度6.0Pa・sであった。
【0045】
実施例7
(C)成分をアミノエチルピペラジンに代えて、イソホロンジアミン25.1部(レゾールの0.19モル当量)にした以外は、実施例2と同様の操作を行い、固形樹脂1310部を得た。この樹脂の酸価10.5、亜麻仁油ワニス粘度15.4Pa・sであった。
【0046】
実施例8
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分としてカチオン重合DCPD石油樹脂(商品名:トーホーハイレジン PA−140、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約70重量%含有)1000部を仕込んで加熱し、220℃で溶解させ、(B)成分として上記の製造例で得たレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液724部を3時間かけて滴下した。滴下終了1時間後、(C)成分としてアミノエチルピペラジン21.9部(レゾールの0.19モル当量)を添加した。更に1時間後、フラスコ内を10hPaで1時間減圧することにより揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1350部を得た。この樹脂の亜麻仁油ワニス粘度63.2Pa・sであった。
【0047】
比較例1
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分としてカチオン重合DCPD石油樹脂(商品名:トーホーハイレジン PA−140、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約70重量%含有)1000部を仕込んで加熱し、220℃で溶解させ、(B)成分として上記の製造例で得たレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液628部を3時間かけて滴下した。滴下終了1時間後、フラスコ内を10hPaで1時間減圧することにより揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1300部を得た。この樹脂の亜麻仁油ワニス粘度52.2Pa・sであった。
【0048】
比較例2
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分としてカチオン重合DCPD石油樹脂(商品名:トーホーハイレジン PA−140、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約70重量%含有)900部と、(D)成分としてロジン100部を仕込んで加熱し、220℃で溶解させ、(B)成分として上記の製造例で得たレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液628部を3時間かけて滴下した。滴下終了1時間後、フラスコ内を10hPaで1時間減圧することにより揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1290部を得た。この樹脂の酸価8.5、亜麻仁油ワニス粘度45.2Pa・sであった。
【0049】
比較例3
実施例1と同様のフラスコに、(A)成分としてカチオン重合DCPD石油樹脂(商品名:トーホーハイレジン PA−140、東邦化学工業株式会社製、シクロペンタジエン系炭化水素約70重量%含有)900部と、(D)成分としてロジン100部を仕込んで加熱し、220℃で溶解させ、(C)成分としてトリエチルアミン29.7部(レゾールの0.19モル当量)を添加した。添加してから30分後(B)成分として上記の製造例で得たレゾール型初期縮合物の65%トルエン溶液628部を3時間かけて滴下した。滴下終了1時間後、フラスコ内を10hPaで1時間減圧することにより揮発成分を留去した後、反応生成物を取り出し冷却して固形樹脂1300部を得た。この樹脂の酸価7.8、亜麻仁油ワニス粘度88.5Pa・sであった。
【0050】
比較例4
(C)成分をトリエチルアミンに代えて、N,N−ジエチルエタノールアミン34.5部(レゾールの0.19モル当量)にした以外は、比較例3と同様の操作を行い、固形樹脂1310部を得た。この樹脂の酸価9.0、亜麻仁油ワニス粘度65.3Pa・sであった。
【0051】
顔料分散物の調製例
上記の実施例及び比較例で得られた固形樹脂のそれぞれを顔料分散剤として用い、樹脂成分だけが異なる複数種の顔料分散物を次に示す方法で調製した。
攪拌機、水分離冷却器及び温度計付きセパラブルフラスコに、顔料分散剤として上記の実施例及び比較例で得られた固形樹脂38部、大豆油30部、非芳香族石油系溶剤(商品名:AF6号ソルベント、新日本石油株式会社製)20部を仕込み、窒素気流下220℃で1時間混合した後、135℃まで冷却し、次いでこれにゲル化剤であるアルミニウムキレート(商品名: ALCH、川研ファインケミカル株式会社製)をゲルワニス粘度が25〜35Pa・s程度になるように0〜7.0部、または非芳香族石油系溶剤を5〜12部添加して160℃まで加熱して30分間保持することで顔料分散用樹脂ワニス(実施例:G−1〜G−8、比較例:H−1〜H−4)を得た。
【0052】
上記のワニス調製例で得たそれぞれの顔料分散用樹脂ワニス(実施例:G−1〜G−8、比較例:H−1〜H−4)と、黒色顔料(商品名: カーボンブラック#32、三菱化学株式会社製)と、非芳香族石油系溶剤(商品名:AF6号ソルベント、新日本石油株式会社製)を用い、顔料分散物のタック値が6±1.0になるように、各成分の使用量を下記の範囲に調整しながら配合した。次いで、配合物を3本ロールで練肉して顔料分散物(実施例:I−1〜I−8、比較例:J−1〜J−4)を得た。
タック値は、顔料分散物1.3mlをインコメーター(東洋精機株式会社製)のロールに展色して400rpmで回転させ、回転開始後1分後の値を測定した。
顔料分散用樹脂ワニス 72〜82部
顔料 18部
AF6号ソルベント 0〜10部
【0053】
顔料分散物の流動性試験
上記のようにして調製された各顔料分散物の流動性を次の方法で評価した。結果を表1に示す。
流動性:顔料分散物1.3mlをガラス板にのせ、70度に傾け、1日後の流れた距離を読み取った。顔料分散が良好であるほどチキソ性がなくなり、より流動するので、流動距離が長いものほど顔料分散がよい。
【0054】
【表1】












【0055】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜実施例8で得られた各固形樹脂を用いて調製された顔料分散物(I−1〜I−8)は、アミンを全く使用しない場合(J−1〜J−2)に比べ、いずれも良好な流動性を示している。特に、本発明で規定するアミン類(C)に多価アミンを用いた場合(I−2、I−6〜I−7)は、モノアミン(I−5)を用いた場合に比べ、流動性の更なる改善が認められる。しかし顔料分散物を得るのに使用したアミンが、本発明で規定するアミン類(C)以外のアミンである場合(J−3〜J−4)は、流動性に対する効果がないとは言えないものの、本発明で規定するアミン類(C)ほどの流動性の大幅な改善効果は認められない。また、本発明で規定するアミン類(C)の添加時期については、反応前(I−1)であっても、反応後(I−8)であっても、流動性の改善効果が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によって得られる新規樹脂組成物は、塗料、コーティング剤、印刷インキ、トナー或いはゴムなどの顔料分散剤としての使用のほか、塗料、コーティング剤、印刷インキ、トナーのバインダー樹脂成分として、或いはゴムやホットメルト接着剤のタッキファイヤとして、或いはゴムやプラスチックの改質剤としても使用できる。印刷インキを例に取ると、本発明の新規樹脂組成物は、オフセット印刷インキ、凸版印刷インキ、グラビア印刷インキ含む各種印刷インキの顔料分散剤又はバインダー樹脂成分として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂(A)と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(B)と、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)とを、反応させて得られることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂(A)と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(B)と、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)と、ロジン類及び/又はその多価アルコールエステル化物(D)とを、反応させて得られることを特徴とする、酸価1〜50mgKOH/gを有する樹脂組成物。
【請求項3】
分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)の添加量が、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(B)1モルあたり、該アミノ基0.01〜0.8モル当量の範囲である、請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)が、2価以上の多価アミンである、請求項1乃至請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)が、アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミンから選ばれる少なくとも1種の多価アミンである請求項1乃至請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
反応に供せられる(B)の量が、(A)と(D)との合計量100重量部あたり、20〜150重量部の範囲である、請求項1乃至請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6に記載の樹脂組成物を含有してなる顔料分散剤。
【請求項8】
シクロペンタジエン系炭化水素を35重量%以上含有する炭化水素混合物をカチオン重合させて得た石油樹脂(A)と、フェノールホルムアルデヒド初期縮合物(B)と、分子内に少なくとも1つの1級及び/又は2級アミノ基を有するアミン類(C)と、必要によりさらにロジン類及び/又はその多価アルコールエステル化物(D)とを、反応させて得られる樹脂組成物の製造方法であって、(A)及び(D)と(B)との反応前乃至反応後に、(C)を添加する工程を有することを特徴とする、請求項1乃至請求項6に記載の樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−63370(P2008−63370A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239995(P2006−239995)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】