説明

新規癌抗原ペプチドおよびその利用

【課題】HLA−A24型に結合し、細胞傷害性T細胞を活性化する癌抗原ペプチドを同定し、様々な癌種の治療に有効な癌ワクチンを提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるペプチドであるか、あるいは特定のアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチド。上記ペプチドと特異的に結合する抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞を標的とする免疫応答を誘導する癌抗原ペプチドに関するものであり、より詳細には、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞を活性化する癌抗原ペプチドおよびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌に対する免疫療法は、癌患者自身の免疫機構が有する抗腫瘍免疫反応を利用して癌を治療するものである。具体的には、細胞傷害性Tリンパ球が、癌細胞上に提示された白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen:HLA)と癌抗原ペプチドとの複合体を認識し、その癌細胞を殺傷することにより、癌細胞を排除する。
【0003】
癌抗原ペプチドは、癌細胞内に発現するタンパク質が細胞内で分解されて生じるペプチドのうち、HLAと複合体化し、HLA−ペプチド複合体として癌細胞表面に提示され、細胞傷害性Tリンパ球を活性化するものである。癌細胞内で生じた癌抗原ペプチドが小胞体に運ばれ、小胞体内で合成途中のHLAに結合すると、HLA−癌抗原ペプチド複合体が癌細胞表面に提示される。細胞傷害性Tリンパ球は、細胞表面に抗原受容体を有しており、この抗原受容体を介してHLA−癌抗原ペプチド複合体を認識することにより活性化され、癌細胞を選択的に殺傷する。
【0004】
癌抗原ペプチドとして機能し得るペプチドを癌患者に接種すると、接種された癌抗原ペプチドが結合パートナーであるHLAに結合し、HLA−癌抗原ペプチド複合体が癌細胞表面に提示され、その結果、細胞傷害性Tリンパ球依存性の免疫応答が誘導される。このように、癌抗原ペプチドを用いれば癌に対するワクチン療法が可能になる。
【0005】
癌細胞に発現されているタンパク質は癌種によって異なるため、癌ワクチンの候補となり得る癌抗原ペプチドは癌種により異なる。また、HLAも多種類存在し、異なる癌抗原ペプチドに結合するHLAの型はそれぞれ異なる。したがって、癌抗原ペプチドを用いた癌ワクチン療法によって様々な癌種を治療するためには、できるだけ多くの癌抗原ペプチドを同定するとともに、結合パートナーであるHLAの型を同定する必要がある。
【0006】
前立腺6回膜貫通上皮抗原(six-transmembrne epithelial antigen of the prostate:STEAP)は全長339アミノ酸からなる6回膜貫通型タンパク質である。STEAPは、正常組織では前立腺に発現しており(非特許文献1)、癌組織では前立腺癌、膀胱癌、結腸癌、卵巣癌、メラノーマ、ユーイング(Ewing)骨肉腫、横門筋肉腫等の癌組織に発現していることが知られている。しかし、その機能は未だ明らかにされていない。
【0007】
上述したように、STEAPは種々の癌種において発現が確認されているので、STEAP由来のペプチドが癌抗原ペプチドとして機能していることが予想される。非特許文献2および3には、STEAP由来の特定のペプチドが欧米人の多くが有するHLA−A2型に結合することが記載されている。非特許文献2および3に記載されたペプチドは、HLA−A2型に結合し、細胞傷害性Tリンパ球依存性の免疫応答を誘導し、標的となる癌細胞を殺傷するので、癌抗原ペプチドとして利用可能である。
【特許文献1】特開2006−8638号公報(2006年1月12日公開)
【非特許文献1】Hubertら、PNAS,96:14523−14528(1999)
【非特許文献2】Machlenkinら、Cancer Res,65(14):6435−6442(2005)
【非特許文献3】Rodebergら、Clin Cancer Res,11(12):4545−4552(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
欧米人の多くがHLA−A2型を有しているのに対して、日本人の約60%はHLA−A24型を有している。非特許文献2および3に記載されたペプチドはHLA−A2型に結合するが、HLA−A24型には結合しない。このようなペプチドは、日本人に対する癌ワクチンとして使用することができない。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、日本人に多いHLA−A24型に結合し、細胞傷害性T細胞を活性化する癌抗原ペプチドを同定し、様々な癌種の治療に有効な癌ワクチンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
HLA−A24型分子と結合し、日本人に対する癌ワクチンとして使用可能な癌抗原ペプチドとして、サバイビン由来の抗原ペプチドが知られている(特許文献1)。サバイビンは大腸癌、乳癌、肺癌等の癌組織に発現しているため、サバイビン由来のペプチドは、これらの癌種に対する癌ワクチンとしては有用であると考えられる。
【0011】
本発明者らは、これまで免疫療法を用いることができなかった癌患者に対して癌ワクチンを提供することを目的として、より多くの癌組織に発現しているタンパク質を探索している。また、このようなタンパク質が分解されて生じるペプチドのうち、日本人に多いHLA−A24型分子と複合体化して抗原提示細胞表面に提示され、細胞傷害性T細胞を活性化するものを探索している。
【0012】
上述したように、STEAPは、多種の癌組織に発現していることが知られており、本発明者らは、STEAPが上記以外の癌組織(例えば、口腔癌、胃癌、乳癌等)にも発現していることを見出した。また、このように多様な癌組織にSTEAPが発現していることから、本発明者らは、非特許文献2および3に記載されたペプチド以外にも癌抗原ペプチドとして機能し得るSTEAP由来ペプチドが存在する可能性があると考え、鋭意検討を行った。
【0013】
その結果、STEAP由来のペプチドから新規の癌抗原ペプチドを同定することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係るペプチドは、配列番号2、4または6のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドであるか、あるいは配列番号2、4または6のいずれかに示されるアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドであることを特徴としている。なお、上記ペプチドと特異的に結合する抗体もまた本発明の範囲内である。
【0015】
本発明に係るペプチドの作製方法は、化学合成であっても後述する発現ベクターを用いるものであってもよい。発現ベクターを用いる場合は、後述する発現ベクターを発現可能に導入した形質転換体からペプチドを生成してもよく、この発現ベクターを用いるインビトロ翻訳系を用いてペプチドを生成してもよい。
【0016】
本発明に係るペプチドの作製キットは、上記作製方法を実践するためのツールが備えられていることを特徴としており、後述する発現ベクター、上記形質転換体などが備えられていればよい。
【0017】
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドをコードすることが好ましいが、以下の(1)〜(4)のポリヌクレオチドであってもよい:(1)配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;(2)配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列の1個または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードするポリヌクレオチド;(3)配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードするポリヌクレオチド;(4)配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列と少なくとも80%同一であり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。なお、上記ポリヌクレオチドを含んでいるベクター(好ましくは上記ポリヌクレオチドが作動可能に連結されている発現ベクター)もまた、本発明の範囲内である。
【0018】
本発明に係る抗原提示細胞は、上記ペプチドとHLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示されていることを特徴としている。なお、本発明に係る抗原提示細胞において、HLA−A24型分子は、内因性のタンパク質であっても外因性のタンパク質であってもよい。
【0019】
本発明に係る抗原提示細胞の作製方法は、HLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞を、上記ペプチドとともに培養する工程を包含しても、HLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞を、上記発現ベクターを用いて形質転換する工程を包含してもよい。
【0020】
本発明に係る抗原提示細胞の作製キットは、上記作製方法を実践するためのツールが備えられていることを特徴としており、上記ペプチド、上記発現ベクターなどが備えられていればよく、ペプチドとHLA−A24型分子との複合体を提示した抗原提示細胞がさらに備えられていてもよい。
【0021】
本発明に係る細胞傷害性T細胞は、上記ペプチドとHLA−A24型分子との複合体に対するT細胞レセプターを細胞表面に発現していることを特徴としている。
【0022】
本発明に係る細胞傷害性T細胞の作製方法は、上記ペプチドとHLA−A24型分子との複合体を細胞表面に提示した抗原提示細胞とともに、CD8細胞を培養する工程を包含することを特徴としている。本発明に係る作製方法において、上記CD8細胞を、PHA刺激したCD4細胞とともにさらに培養する工程を包含することが好ましい。
【0023】
本発明に係る細胞傷害性T細胞の作製キットは、上記作製方法を実践するために、上記ペプチドとHLA−A24型分子との複合体を提示した抗原提示細胞が備えられていることを特徴としており、リンパ球がさらに備えられていてもよい。なお、リンパ球はCD8細胞であることが好ましいが、CD8細胞を調製し得る細胞であれば特に限定されない。
【0024】
本発明に係る癌ワクチンは、HLA−A24型分子を発現している癌細胞を標的とすることを特徴としており、有効成分として上記ペプチド、上記発現ベクター、上記抗原提示細胞または上記細胞傷害性T細胞を有している。なお、本発明に係る癌ワクチンは、一物質として組成物形態(癌ワクチン組成物)で提供されることが好ましいが、上記癌ワクチンの複数の含有成分を別々に併せ持つ形態(癌ワクチンキット)であってもよい。
【0025】
すなわち、本発明に係る癌ワクチン組成物は、上記ペプチドまたは上記発現ベクターを含有していることを特徴としており、上記抗原提示細胞やリンパ球をさらに含有していてもよい。また、本発明に係る癌ワクチン組成物は、上記細胞傷害性T細胞をさらに含有していてもよい。本発明に係る癌ワクチンキットは、上記ペプチドまたは上記発現ベクターが備えられていることを特徴としており、上記抗原提示細胞やリンパ球がさらに備えられていてもよい。なお、リンパ球はCD8細胞であることが好ましいが、CD8細胞を調製し得る細胞であれば特に限定されない。また、本発明に係る癌ワクチンキットは、上記細胞傷害性T細胞が備えられていてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明を用いれば、新規の癌ワクチンを提供することができる。また、本発明は、日本人に多いHLA−A24型分子を発現している癌細胞を標的とするので、これまで免疫療法を用いることができなかった癌患者に対して適用することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者らは、多くの癌組織に発現しているタンパク質が分解されて生じるペプチドから、癌抗原ペプチドとして機能し得るペプチド、特に、日本人に多いHLA−A24型分子と結合し、HLA−ペプチド複合体として抗原提示細胞表面に提示され、細胞傷害性T細胞を活性化するペプチドを同定することを試みた。その結果、STEAP由来の特定のペプチドがHLA−A24型分子と結合し、細胞傷害性T細胞を活性化することを見出した。
【0028】
〔1:ペプチドおよびポリヌクレオチド〕
本発明は、HLA−A24抗原と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドを提供する。本明細書中で使用される限り、「細胞傷害性T細胞」は、「細胞傷害性Tリンパ球」と交換可能に使用され、標的細胞の表面に提示されたHLA−ペプチド複合体を認識して、この複合体を提示している細胞を殺傷する免疫細胞が意図される。
【0029】
本明細書中で使用される限り、「HLA−A24型分子」は、ヒト主要組織適合性抗原(human leukocyto antigen:HLA)クラスIのサブタイプの1つであることが意図され、単に「HLA−A24型」または「HLA−A24型分子」と称されることもある。HLAクラスI分子は、細胞内において、特異的に結合し得るペプチドと複合体を形成し、HLA−ペプチド複合体として細胞表面に提示される。
【0030】
本明細書中で使用される限り、HLAクラスI分子とペプチドとの複合体は、「HLA−ペプチド複合体」と称されることもある。また特に断りのない限り、HLA−ペプチド複合体のHLA分子のサブタイプは、HLA−A24型分子が意図される。
【0031】
HLA−ペプチド複合体が細胞表面に提示された状態とは、当該複合体を特異的に認識する細胞傷害性T細胞のT細胞レセプターが結合し得る状態が意図される。なお、細胞傷害性T細胞は、HLA−ペプチド複合体が表面に提示された抗原提示細胞によってCD8細胞が活性化されることによって生成する。
【0032】
本明細書中で使用される限り、「細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導する」は、「細胞傷害性T細胞が関与する免疫応答を誘導する」、または「細胞傷害性T細胞を活性化する」と交換可能に使用され、「抗原提示細胞表面に提示されたHLA−ペプチド複合体によって活性化した細胞傷害性T細胞が、この複合体を細胞表面上に提示している癌細胞を殺傷する」ことが意図される。
【0033】
このように、本発明に係るペプチドは、HLA−A24型分子と結合して複合体化した状態で細胞表面に提示されるペプチドであって、複合体化した状態にて細胞傷害性T細胞に認識され、当該細胞傷害性T細胞を活性化するペプチドが意図される。
【0034】
1つの局面において、本発明に係るペプチドは、配列番号2、4または6に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、または当該ペプチドの変異体でありかつHLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞を活性化する機能活性を有するペプチドであり得る。なお、本明細書中で使用される場合、用語「ペプチド」は、「タンパク質」または「ポリペプチド」と交換可能に使用される。
【0035】
本明細書中においてペプチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、具体的なアミノ酸配列が異なっていても、野生型ポリペプチドの有する活性を保持するペプチドが意図される。すなわち、本明細書中において使用される場合、ペプチドの変異体は、特定のアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含むペプチドであり得、より好ましくは、1個または2個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含むペプチドであり得る。
【0036】
ペプチドを構成するアミノ酸のいくつかが、このペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに人為的に改変させるだけではなく、天然のペプチドにおいて、当該ペプチドの構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。当業者は、周知技術を使用してペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。また、当業者は、本明細書に記載の方法に従えば、作製したペプチドが所望の活性を有しているか否かを容易に確認し得る。
【0037】
一実施形態において、本発明に係るペプチドは、STEAPタンパク質に由来し、HLA−A24型分子との複合体の状態で細胞表面に提示され、細胞傷害性T細胞に認識され、当該細胞傷害性T細胞を活性化するペプチドであり得、「STEAP由来HLA−A24結合性抗原ペプチド」と称されることもある。
【0038】
本明細書中で使用される限り、「STEAPタンパク質」は、正常な前立腺組織に発現する前立腺6回膜貫通上皮抗原タンパク質が意図され、単に「STEAP」と称されることがある。本明細書中で使用される限り、「STEAPタンパク質に由来するペプチド」は、STEAPタンパク質が分解されて生じる、数個〜十数個のアミノ酸配列からなるペプチドが意図され、STEAPの全長アミノ酸配列の一部を構成するアミノ酸配列からなるペプチドであり得る。
【0039】
他の局面において、本発明に係るペプチドは、配列番号1、3または5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその変異体によってコードされるペプチドであって、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞を活性化する機能活性を有するペプチドであり得る。なお、本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0040】
本明細書中において遺伝子またはポリヌクレオチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、具体的な塩基配列が異なっていても、野生型ペプチドの活性を保持しているペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図される。すなわち、本明細書中において使用される場合、ポリヌクレオチドの変異体は、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞を活性化する機能活性を有するペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、(I)特定の塩基配列において、1個またはは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;(II)特定の塩基配列またはその相補配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;または(III)特定の塩基配列と少なくとも80%同一な塩基配列からなるポリヌクレオチド、であることが意図される。
【0041】
本発明はまた、HLA−A24抗原と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明に係るポリヌクレオチドは、上述したペプチドをコードすればよく、具体的には、以下の(A)〜(F)のポリヌクレオチドであり得る:(A)配列番号2、4または6のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードするポリヌクレオチド;(B)配列番号2、4または6のいずれかに示されるアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードするポリヌクレオチド;(C)配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;(D)配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列の1個または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードするポリヌクレオチド;(E)配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードするポリヌクレオチド;あるいは(F)配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列と少なくとも80%同一であり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ペプチドをコードしているので、後述するように、発現ベクターなどを用いて形質転換体を得ることにより、本発明に係るペプチドの生産に利用され得る。
【0042】
本発明に係るポリヌクレオチドは、DNAの形態であってもRNAの形態であってもよい。本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るペプチドのアミノ酸配列情報、および当該ペプチドをコードする塩基配列情報に基づき容易に製造することが可能である。具体的には、一般的なDNA合成法、PCR増幅等によって製造することが可能である。
【0043】
ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第3版,J.SambrookおよびD.W.Russll編,Cold Spring Harbor Laboratory,NY(2001)」(本明細書中に参考として援用される。)に記載されている方法のような周知の方法に従って行うことができる。
【0044】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。
【0045】
本発明はまた、HLA−A24抗原と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでいるベクターを提供する。ペプチドの生成に用いられる場合は、上記ベクターは、上記ポリヌクレオチドを作動可能に連結した発現ベクターであることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「作動可能に連結」は、目的のペプチド(またはタンパク質)をコードするポリヌクレオチドが、プロモータなどの制御領域の制御下にあって、このペプチド(またはタンパク質)を宿主細胞中で発現し得る形態にあることが意図される。目的のペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに「作動可能に連結」して所望のベクターを構築する手順は当該分野において周知である。また、発現ベクターを宿主細胞に導入する方法もまた、当該分野において周知である。よって、当業者は、容易に所望のペプチドを宿主細胞内に生成させることができる。
【0046】
本発明はまた、HLA−A24抗原と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されている形質転換体を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「形質転換体」は、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体もまた意図される。形質転換体の作製方法としては、当該分野で周知の手順が採用されればよく、例えば、組換えベクターを宿主に導入して形質転換する方法が挙げられる。形質転換の対象となる生物としても、特に限定されないが、各種微生物、植物および動物が挙げられる。また、遺伝子が導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。
【0047】
本発明に係る形質転換体は、少なくとも、本発明に係るペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入されていればよいといえる。すなわち、組換え発現ベクター以外の手段によって生成された形質転換体も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。なお、ペプチドの生成に用いられる場合は、上記形質転換体は、上記ポリヌクレオチドを作動可能に連結した発現ベクターが導入されていることが好ましい。また、本発明に係る形質転換体は、本発明に係るペプチドが安定的に発現することが好ましいが、一過性に発現するものであってもよい。
【0048】
このように、本発明に係るペプチドは、上述したようなアミノ酸配列からなるペプチドであっても、上述したようなポリヌクレオチドによってコードされるペプチドであってもよい。このようなペプチドの作製方法は、化学合成であっても発現ベクターを用いるものであってもよい。化学合成による場合は、本発明に係るペプチドは、公知のペプチド合成法によって製造することができる。ペプチド合成法としては、液相ペプチド合成法、固相ペプチド合成法等の化学合成法が挙げられるが、これらに限定されない。発現ベクターを用いる場合は、発現ベクターを導入した形質転換体からペプチドを生成しても、インビトロ翻訳系を用いてペプチドを生成してもよい。例えば、配列番号1、3または5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを発現ベクター中に組み込み、この発現ベクターを導入した宿主細胞中にて、配列番号2、4または6に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを生成することができる。このようにして生成されたペプチドを、公知の方法に従って、精製することができる。ペプチドの精製方法としては、特に限定されないが、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、等が挙げられる。なお、上記ペプチド作製方法を実践するためのツール(例えば、発現ベクターまたは形質転換体)が備えられたペプチド作製キットもまた本発明の範囲内であることを、当業者は容易に理解する。
【0049】
上述したように、癌抗原ペプチドとして機能し得るペプチドを癌患者に接種すると、接種された癌抗原ペプチドが結合パートナーであるHLAに結合し、HLA−癌抗原ペプチド複合体が癌細胞表面に提示される。表面提示されたHLA−癌抗原ペプチド複合体は、細胞傷害性Tリンパ球を活性化する。その結果、活性化した細胞傷害性Tリンパ球が、HLA−癌抗原ペプチド複合体を提示している癌細胞を選択的に殺傷する。本発明に係るペプチドは、後述する実施例にて示すように、HLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示している癌細胞を選択的に殺傷した。すなわち、本発明に係るペプチドは癌抗原ペプチドとして作用し、癌ワクチンとして機能する。
【0050】
〔2:抗原提示細胞〕
本発明は、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示している抗原提示細胞を提供する。抗原提示細胞は、当該分野において周知の細胞であり、HLA−抗原ペプチド複合体を細胞表面に提示し得る細胞であれば特に限定されない。また、HLA分子は内因性のタンパク質であっても外因性のタンパク質であってもよい。すなわち、HLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞は、内因性のHLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞を患者から採取して調製されても、内因性のHLA−A24型分子を発現していない抗原提示細胞に外因性のHLA−A24型分子を発現させて調製されてもよい。HLA−A24型の癌患者由来の樹状細胞を調製する場合は、患者の抹消血リンパ球から得られた接着細胞を培養すればよい。
【0051】
さらに、後述する実施例において示されるように、本発明に係るペプチドは、内因性であっても外因性であってもHLA−A24型分子を発現している細胞においてHLA−ペプチド複合体を細胞表面に提示する。すなわち、HLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞を本発明に係るペプチドとともにインキュベートすることにより、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示している抗原提示細胞を得ることができる。また、HLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞に、本発明に係るポリヌクレオチドを発現可能に導入することにより、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示している抗原提示細胞を得ることができる。本明細書中で使用される場合、「インキュベートする」は複数の物質を共存させかつ互いに十分接触し得る状態に置くことが意図され、細胞培養の局面においては「培養する」と交換可能に使用され得る。
【0052】
なお、上述した抗原提示細胞の作製方法を実践するためのツール(例えば、ペプチドまたはペプチド発現ベクター(必要に応じて、HLA−A24型分子発現細胞またはHLA−A24型分子発現用ベクター))が備えられた抗原提示細胞作製キットもまた本発明の範囲内であることを、当業者は容易に理解する。
【0053】
本発明に係る抗原提示細胞は、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体を細胞表面に提示しているため、CD8細胞を活性化し、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体に対するT細胞レセプターを細胞表面に発現した細胞傷害性T細胞を生成する。この細胞傷害性T細胞は、後述する実施例にて示すように、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示している癌細胞を選択的に殺傷した。すなわち、本発明に係る抗原提示細胞は、癌ワクチンとして機能する。
【0054】
〔3:細胞傷害性T細胞〕
本発明は、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体に対するT細胞レセプターを細胞表面に発現した細胞傷害性T細胞を提供する。本発明に係る細胞傷害性T細胞は、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示している抗原提示細胞によって刺激されたことにより、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体に対するT細胞レセプターを細胞表面に発現している。このT細胞レセプターが、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示している癌細胞を認識し、この癌細胞を殺傷する。
【0055】
本発明に係る細胞傷害性T細胞の作製方法は、本発明に係るペプチドとHLA−A24型抗原との複合体を提示した抗原提示細胞とともに、CD8細胞をインキュベートする工程を包含することを特徴としている。癌患者由来のCD8細胞を調製する場合は、患者の抹消血リンパ球から得られた非接着細胞から単離すればよい。また、本発明に係る作製方法において、上記CD8細胞を、PHA刺激したCD4細胞とともにさらにインキュベートする工程を包含することが好ましい。癌患者由来のCD4細胞を調製する場合は、患者の抹消血リンパ球から得られた非接着細胞からCD8細胞を除くことにより単離すればよい。
【0056】
上記作製方法を実践するために、上記ペプチドとHLA−A24型抗原との複合体を提示した抗原提示細胞が備えられているキットや、リンパ球(CD8細胞、必要に応じてCD4細胞)がさらに備えられているキットもまた、細胞傷害性T細胞の作製キットとして本発明の範囲内であることを、当業者は容易に理解する。
【0057】
本発明に係る細胞傷害性T細胞は、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体によって活性化され、この複合体に対するT細胞レセプターを細胞表面に発現しているため、後述する実施例にて示すように、本発明に係るペプチドとHLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示している癌細胞を選択的に殺傷した。すなわち、本発明に係る細胞傷害性T細胞は、癌ワクチンとして機能する。
【0058】
〔4:癌ワクチン〕
上述したように、本発明に係るペプチド、抗原提示細胞または細胞傷害性T細胞は、癌ワクチンの有効成分となり得る。すなわち、本発明は、癌ワクチンを提供する。本明細書中で使用される限り、「癌ワクチン」は、癌組織に対する免疫療法(ワクチン療法)に用いられるものであり、本発明に係るペプチドに特異的な免疫応答を誘導するものが意図される。
【0059】
本発明に係る癌ワクチンは、ワクチン組成物として提供されても、ワクチンキットとして提供されてもよい。本明細書中では、「有効成分を含有している癌ワクチン組成物」と「有効成分を備えている癌ワクチンキット」を総称して、「有効成分を有している癌ワクチン」という。なお、癌ワクチン組成物および癌ワクチンキットについては、以下に詳述する。
【0060】
本明細書中で使用される場合、「組成物」は各種成分が一物質中に含有されている形態であることが意図される。また、本明細書中で使用される場合、「キット」は各種成分の少なくとも1つが別物質中に含有されている形態であることが意図される。
【0061】
一般に、組成物は「二種以上の成分が全体として均質に存在し、一物質として把握されるもの」が意図され、例えば、物質Aを主成分として含有する単一物、主成分としての物質Aと物質Bとを含有する単一物であり得る。このような組成物は、物質Aおよび物質B以外に他の成分(例えば、薬学的に受容可能なキャリア)を含有してもよい。本発明に係るワクチン組成物は、後述する有効成分を物質Aとして含有していることを特徴としており、単独で使用されても、他の物質または組成物と併用されてもよい。この場合、併用されるべき他の物質または組成物が本発明に係るワクチン組成物中に提供されてもされなくてもよい。後者の場合は、これらを全体として一組成物として認識し得ないが、この場合は、後述する「キット」の範疇に入り得、組成物としてではなくキットとして提供され得ることを当業者は容易に理解する。
【0062】
1つの局面において、本発明は、癌ワクチン組成物を提供する。一実施形態において、本発明に係る癌ワクチン組成物は、本発明に係るペプチドを含有していることを特徴としている。他の実施形態において、本発明に係る癌ワクチン組成物は、本発明に係る発現ベクターを含有していることを特徴としている。別の実施形態において、本発明に係る癌ワクチン組成物は、本発明に係る抗原呈示細胞を含有していることを特徴としている。さらなる実施形態において、本発明に係る癌ワクチン組成物は、本発明に係る細胞傷害性T細胞を含有していることを特徴としている。このように、本発明に係るペプチド、発現ベクター、抗原呈示細胞または細胞傷害性T細胞が、ワクチンの有効成分として治療ワクチンまたは予防ワクチンの調製において使用される。
【0063】
本明細書中において使用される場合、「予防ワクチン」は、疾患発生を予防するために未処置の個体に投与されるワクチンであり、「治療ワクチン」は、既に罹患している個体に、その感染を低減もしくは最小にするか、またはこの疾患の免疫病理的結果を排除するために投与されるワクチンである。
【0064】
有効成分としての物質を含むワクチンの調製は、当業者に公知である。代表的には、本発明に係る癌ワクチン組成物は、液体の溶液または懸濁液のいずれかの注射可能物として調製されるが、注射前に液体に溶解もしくは懸濁するために適切な固体形態としてもまた調製され得る。この調製物は、乳化され得るか、またはリポソーム中に乳化されたタンパク質であり得る。
【0065】
本発明に係る癌ワクチン組成物の有効成分は、薬学的に受容可能かつ有効成分と適合性の賦形剤と混合され得る。好ましい賦形剤としては、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびそれらの混合物が挙げられる。さらに、所望される場合、本発明に係る癌ワクチン組成物は、微量の補助物質(例えば、湿潤剤または乳化剤およびpH緩衝剤)を含み得る。
【0066】
本発明に係る癌ワクチン組成物の処方形態は、種々の経路(鼻腔内投与、粘膜投与、経口投与、腟内投与、尿道投与または眼内投与)による注射(皮下および筋肉内注射を含む。)や、坐剤のような非経口投与形態であり得る。
【0067】
また、本発明に係る癌ワクチン組成物の処方形態は、経口投与形態であってもよい。経口投与に用いられる場合、本発明に係る癌ワクチン組成物は、例えば、製薬等級のマンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような賦形剤が併用される。経口投与形態の組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性処方物、または散剤の形態であり得る。癌ワクチン組成物が凍結乾燥形態にて提供される場合、この凍結乾燥物質は、投与前に、例えば、懸濁液として再構成され得、再構成は、好ましくは緩衝液中で行われる。
【0068】
本発明に係る癌ワクチン組成物はまた、ワクチンの有効性を増強するためのアジュバントを含み得る。有効であり得るアジュバントの例としては、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、硫酸ベリリウム、シリカ、カオリン、炭素、油中水型乳化物、水中油型乳化物、ムラミルジペプチド、細菌内毒素、リピドX、Bordetella pertussis、Corynebacterium parvum(Propionobacterium acnes)、ポリリボヌクレオチド、アルギン酸ナトリウム、ラノリン、リゾレシチン、ビタミンA、サポニン、リポソーム、レバミゾール、DEAE−デキストラン、ブロックコポリマーまたは他の合成アジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。このようなアジュバントは、種々の供給元から市販されている。代表的には、水中油型アジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、またはこれらとの混合物のようなアジュバントが使用される。なお、ヒトへの適用のためには、水酸化アルミニウムが認可されている。
【0069】
また、本発明に係る癌ワクチン組成物は、上記ペプチドとともにサイトカインを含有していてもよい。
【0070】
他の局面において、本発明は、癌ワクチンキットを提供する。本発明に係る癌ワクチンキットは、上述した癌ワクチン組成物に対応するものであり、本発明に係るペプチド、発現ベクター、抗原呈示細胞または細胞傷害性T細胞をワクチンの有効成分として備えていればよく、上述したワクチン組成物の成分をさらに備えていてもよい。
【0071】
一実施形態において、本発明に係る癌ワクチンキットは、本発明に係るペプチドを備えていることを特徴としている。本実施形態に係る癌ワクチンキットは、HLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞をさらに備えていてもよく、リンパ球をさらに備えていてもよい。
【0072】
他の実施形態において、本発明に係る癌ワクチンキットは、本発明に係る発現ベクターを備えていることを特徴としている。本実施形態に係る癌ワクチンキットは、HLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞をさらに備えていてもよく、リンパ球をさらに備えていてもよい。
【0073】
別の実施形態において、本発明に係る癌ワクチンキットは、本発明に係る抗原呈示細胞を備えていることを特徴としている。本実施形態に係る癌ワクチンキットは、リンパ球をさらに備えていてもよい。
【0074】
さらなる実施形態において、本発明に係る癌ワクチンキットは、本発明に係る細胞傷害性T細胞を備えていることを特徴としている。
【0075】
なお、本発明に係る癌ワクチンキットに備えられるべきリンパ球はCD8細胞であることが好ましいが、CD8細胞を調製し得る細胞であれば特に限定されない。具体的には、調製されたCD8細胞が、上記ペプチドと抗原提示細胞との複合体の刺激によって、目的のT細胞レセプターを発現する細胞傷害性T細胞として活性化する。なお、T細胞マイトジェンであるPHAでCD4細胞を刺激することによって得られるPHAブラストを用いて、CD8細胞をさらに刺激することが好ましいので、本発明に係る癌ワクチンキットは、CD4細胞またはCD4細胞を調製し得る細胞をさらに備えていることが好ましい。上記リンパ球が、CD4細胞を調製し得る細胞であってもよい。
【0076】
本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図される。好ましくは各材料を使用するための指示書を備える。本明細書中においてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。また、本発明に係るキットは、複数の異なる組成物を1つに梱包した包装であり得、ここで、組成物の形態は上述したような形態であり得、溶液形態の場合は容器中に内包されていてもよい。本発明に係るキットは、物質Aおよび物質Bを同一の容器に混合して備えていても別々の容器に備えていてもよい。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD−ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。本発明に係るキットはまた、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。さらに、本発明に係るキットは、癌の治療に適用するために必要な器具をあわせて備えていてもよい。
【0077】
本発明に係る癌ワクチンを適用する対象としては、好ましくはHLA−A24型分子を有するヒトであり、特に、STEAPタンパク質を発現している癌組織を有し、かつHLA−A24型分子を有するヒトが好ましい。癌ワクチンによる治療の対象となる癌組織の種類は特に限定されないが、前立腺、膀胱、結腸、卵巣、メラノーマ、ユーイング骨肉腫、横紋筋肉腫、口腔癌、胃癌、および乳癌組織に対して好適に使用することが可能である。
【0078】
このように、本発明に係る癌ワクチンを用いれば、特に日本人に多いHLA−A24型分子を有するヒトに対して有効な免疫療法を提供し得る。また本発明に係る癌ワクチンは、多種の癌細胞に発現しているSTEAP由来の抗原ペプチドを含有しているため、多種の癌細胞に対して有効な癌ワクチンを提供し得る。
【0079】
〔5:抗体〕
本発明は、本発明に係るペプチドと特異的に結合する抗体を提供する。一実施形態において、本発明に係る抗体は、配列番号2、4または6に示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合することが好ましい。本発明に係る抗体は、当該分野において周知の方法によって製造され得る。
【0080】
本発明に係る抗体を用いれば、本発明に係るペプチドの精製を容易にすることが可能となる。例えば、本発明に係るベクターまたは形質転換体を用いて細胞内で発現させた本発明に係るペプチドを、本発明に係る抗体を用いてアフィニティ精製することによって、効率よく回収することができる。さらに、本発明に係る抗体は、本発明に係るペプチドを発現する生物材料を選択するのに有効に用いられ、本発明に係るペプチドの発現部位を同定するのにも有効に用いられる。
【0081】
本明細書中で使用される場合、「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)が意図され、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体および抗イディオタイプ抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0082】
本明細書中で使用される場合、「ペプチドと特異的に結合する抗体」は、本発明に係るペプチドに特異的に結合し得る完全な抗体分子および抗体フラグメント(例えばFabおよびF(ab’)フラグメント)を含むことが意図される。このような抗体は、組換えDNA技術の適用または化学合成によって産生され得る。
【0083】
このように、本発明に係る抗体は、本発明に係るペプチドと特異的に結合する抗体であればよく、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)、キメラ抗体作製方法、ペプチド抗原作製方法等によって限定されるべきではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0084】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、請求項および上記実施形態に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0085】
〔1.悪性腫瘍におけるSTEAPの発現〕
癌細胞におけるSTEAPの発現を調べるために、口腔扁平上皮癌細胞株(OSC19、OSC20、OSC30、OSC40、OSC70、HSC2、HSC3、HSC4、HO−1−NH、SAS、KOSC3)、および前立腺癌細胞株(LNCap)におけるSTEAPの発現を調べた。また、正常組織におけるSTEAPの発現を調べるために、正常な各種組織におけるSTEAPの発現を調べた。
【0086】
OSC19、OSC20、OSC30、OSC40、およびOSC70は、本発明者らの実験室において構築したものを用いた。HSC2、HSC3、HSC4、HO−1−NH、およびKOSC3は、Human Science Research Resources Bank(HSRRB)から購入したものを用いた。
【0087】
これらの細胞を、2mM L−glutamin、10% FBS、100U/ml ペニシリンG、および100μg/ml ストレプトマイシンを含む、RPMI1640培地(Sigma−Aldrich製)中において培養した。培養条件を、37℃、湿度5%、および二酸化炭素雰囲気中とした。
【0088】
(1−1.RT−PCRによる発現解析)
ISOGEN試薬(ニッポンジーン製)を用いて、上記の培養細胞からtotal RNAを調製した。また、ヒトの正常組織から得られたtotal RNA(human total RNA master panel)をClotech社から購入した。Superscript II、およびオリゴ(dT)プライマー(Life Technologies,Inc.,製)を用いた逆転写反応によって、1μgのtotal RNAからcDNA混合物を得た。1μl cDNA混合物、KOD plus DNAポリメラーゼ(東洋紡製)、および50pmol プライマーを含むPCR混合液中において、PCR増幅を行った。
【0089】
PCR混合液を、92℃で2分間インキュベートした後、92℃で1分間の変性、62℃で1分間のアニーリング、および72℃で1分間の伸長からなるPCR工程を30サイクル行った。STEAPの発現を検出するためのプライマーとして、プライマー対(forward primer:5’−ACTTTGTTGATGACCAGGATTGG−3’(配列番号10)、reverse primer:5’−CAGAACTTCAGCACACACAGGAA−3’(配列番号11)を用いた。
【0090】
コントロールとしてG3PDHの発現を調べた。STEAPのPCR産物の予想サイズは、260塩基であり、G3PDHのPCR産物の予想サイズは、452塩基である。これらのPCR産物を1.0%アガロースゲル上において電気泳動した後、エチジウムブロマイドで染色した。
【0091】
図1に示すように、全ての口腔扁平上皮癌細胞株において、STEAP由来のmRNAの発現が見られた。一方、口腔正常粘膜をはじめとする各種正常組織においては、前立腺正常細胞においてわずかに発現が見られたのみで、他の正常組織においてはSTEAP由来のmRNAの発現は見られなかった。
【0092】
(1−2.ウエスタンブロット解析)
ウエスタンブロット解析により、上記口腔扁平上皮癌細胞株(OSC19、OSC20、OSC30、OSC40、OSC70、HSC2、HSC3、HSC4、HO−1−NH、SAS、KOSC3)におけるSTEAPタンパク質の発現を調べた。
【0093】
培養細胞をPBSで洗浄し、氷上において、溶解バッファ(50mmol/l Tris−HCl(pH8.0)、150mmol/l NaCl、1% NP40、protease inhibitor cocktail;Roche Diagnostics,Inc.,製)中でインキュベートした。細胞溶解物を4℃で20分間15,000rpmで遠心分離した。全ての細胞溶解物質をSDS sampleバッファ存在下で5分間煮沸した後、10%SDS−PAGEで電気泳動により分離し、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜(Immobilion−P、Millipore製)に転写した。
【0094】
次に、転写膜をブロッキングバッファとともに、室温で1時間インキュベートした後、ウサギ抗STEAPポリクローナル抗体(Zymed Laboratories Inc製)、またはマウス抗β−アクチンモノクローナル抗体AC−15(Sigma−Aldrich社製)とともに、60分間インキュベートした。膜を、洗浄バッファを用いて3回洗浄した後、ペルオキシダーゼで標識したヤギ抗ウサギIgG抗体(KPL、Gainthersburg製)とともに2時間反応させた。
【0095】
ECL検出システム(Amersham Life Science製)を用いて、シグナルを観察した。コントロールとしてβ−アクチンの発現を調べた。図2に示すように、口腔扁平上皮癌細胞株の11株中10株においてSTEAPタンパク質の発現が見られた。
【0096】
(1−3.免疫染色による発現解析)
免疫染色により口腔癌組織を含む各種癌組織、および正常組織におけるSTEAPの発現を調べた。
【0097】
ウサギ抗STEAPポリクローナル抗体を用いて、各種癌組織および正常組織の免疫組織化学的検討を行った。その結果、正常組織では前立腺においてのみSTEAPの発現が確認された。一方、口腔癌、胃癌、大腸癌および乳癌の癌組織において、STEAPの発現が確認された(図3)。
【0098】
以上の結果は、STEAPが各種癌細胞に選択的に発現しており、癌の診断および治療の標的分子となりうることを示している。
【0099】
〔2.STEAP由来HLA−A24結合性癌抗原ペプチドの同定〕
STEAPの全長アミノ酸配列(配列番号13)のうち、ペプチドA(配列番号2)、ペプチドB(配列番号4)、ペプチドC(配列番号7)、ペプチドD(配列番号8)、ペプチドE(配列番号9)、およびペプチドF(配列番号6)の6種類のペプチドをFmoc法により合成した。これらのペプチドを、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に濃度5mg/mlで溶解し、−80℃で保存した。
【0100】
これらのペプチドのHLA−A24分子に対するペプチド結合親和性を調べた。HIV−env由来ペプチド、サバイビン2Bペプチド、およびサバイビンCペプチドを、ポジティブコントロールとして用いた。VSVウイルス由来VSV8ペプチドをネガティブコントロールとして用いた。ヒトT2−A24細胞を培地中において26℃で18時間インキュベートした後、PBSで洗浄し、100μgの上記各ペプチド存在下、3μg/ml β2−microglobulinを含む1ml Opti−MEM(Life Technologies,Inc.製)に懸濁した。懸濁液を26℃で3時間インキュベートした後、さらに37℃で3時間インキュベートした。
【0101】
細胞をPBSで洗浄した後、抗HLA−A24モノクローナル抗体(c7709A2.6、Dr.P.G.Coulie提供、Ludwig Institute for Cancer Research, Brussels Branch)およびFITC接合ウサギ抗マウスIgGとともに4℃で30分間インキュベートした。
【0102】
細胞をさらに、1%ホルムアルデヒドを含む1ml PBSに懸濁し、フローサイトメトリー(FACScan、Becton Dickinson製)を用いて分析した。細胞表面におけるHLA−A24分子の発現を、各ペプチド存在下におけるMFI値(mean fluorescence intensity)を比較することによって評価した。MFI値を、(MFI shift)=(ペプチド添加後のMFI値)−(ペプチド添加前のMFI値)として算出した。
【0103】
図4に示すように、ペプチドA〜Fの全てがHLA−A24型分子と結合することが示された。
【0104】
〔3.癌抗原ペプチドによる細胞傷害性T細胞の活性化〕
ペプチドA〜Fの全てが、HLA−A24型分子に対して結合性を示したので、ペプチドA〜Fを用いて、口腔癌患者の抹消血リンパ球細胞を刺激培養することによる細胞傷害性T細胞の活性化を調べた。
【0105】
Lymphoprep(Nycomed製)によって、抹消血単核細胞(PBMC)を口腔癌の癌患者から単離した。単離したPBMCを、AIM−V培地(Life Technologies製)中において、37℃で2時間培養することによって、接着細胞と、非接着細胞とに分離した。
【0106】
接着細胞を、HEPES(10mmol/l)、2−mercaptoethanol(50mmol/l)、GM−CSF(1000U/ml)、およびIL−4(1000U/ml)を添加したAIM−V培地中で7日間培養することによって、自家樹状細胞(DC)を得た。
【0107】
磁気マイクロビーズに結合した抗CD8モノクローナル抗体を用いて、MACS separation system(Miltenyi Boitech製)により、非接着細胞からCD8細胞を単離した。また、CD8細胞を、IL−2(100U/ml)およびPHA(1μg/ml、和光純薬製)を含むAIM−V培地中で3日間培養することによって、PHAブラスト(PHA刺激したCD4細胞)を得た。PHAブラストを洗浄し、IL−2(100U/ml)の存在下で4日間培養した。
【0108】
上記のように得られたDCおよびPHAブラストを、50μmol/lのペプチドA〜Fがそれぞれ添加されたAIM−V培地中において、室温で2時間培養した。その後、これらをAIM−V培地で洗浄し、放射線を照射した。
【0109】
ペプチド刺激したDCでCD8細胞を刺激した。具体的には、2×10個のCD8細胞と、ペプチド刺激DCとを20:1の比率で含むAIM−V培地に、10ng/mlのIL−7を添加し、37℃で7日間インキュベートした。次に、ペプチド刺激したPHAブラストで、DC刺激後のCD8細胞を刺激した。具体的には、DC刺激後のCD8細胞とペプチド刺激PHAブラストとを5:1の比率で含むAIM−V培地を、同様にインキュベートした。PHAブラスト刺激の翌日に、培地中に50U/mlのIL−2を添加した。ペプチド刺激したPHAブラストでの刺激をさらに2回行った。最後の刺激から1週間後のCD8細胞について、51Crを用いた細胞傷害性試験を行った。
【0110】
T2−A24細胞を、50μg/mlのペプチドともに室温で2時間インキュベートした。得られたペプチド刺激T2−A24細胞を、細胞傷害性試験における標的細胞として用いた。この標的細胞を、100μCiのクロム酸ナトリウム(51Cr)を用いて37℃で1時間標識し、2回洗浄した後、AIM−V培地中に再懸濁した。次に、2×10個の51Cr標識標的細胞を、V字底96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに入れ、CD8細胞と標的細胞とが種々の比率(E/T)になるように、各ウェルにCD8細胞を添加し、37℃で6時間インキュベートした。
【0111】
インキュベート後の懸濁液を収集し、ガンマカウンターを用いて51Crの放出を測定した。特異的細胞傷害能の百分率を、(実験サンプル放出値−自発的放出値)×100/(最大放出値)−(自発的放出値)により算出した。
【0112】
なお、HLA−A24陰性の癌細胞株であるK562細胞を、100U/mlのIFN−γとともに、測定前に48〜72時間インキュベートし、ナチュラルキラー活性およびリンホカイン活性化非特異的細胞傷害性を監視するために用いた。
【0113】
その結果を図5および6に示した。図5および6において、ペプチド刺激T2−A24細胞をP(+)で示し、ペプチドで刺激していないT2−A24細胞をP(−)で示している。図5および6に示すように、特にペプチドA、BおよびFを用いて刺激したCD8細胞が、ペプチド特異的に高い細胞傷害活性(CTL活性)を示した。
【0114】
〔4.細胞傷害性T細胞による腫瘍細胞の傷害〕
次に、ペプチドA、BおよびFに特異的な細胞傷害性T細胞が、口腔扁平上皮癌細胞株OSC20細胞を傷害するか否かについて検討した。標的細胞として、HLA−A2402遺伝子が発現しているOSC30細胞(OSC30)、HLA−A2遺伝子が発現しているOSC20細胞(OSC20)、およびHLA−A2402遺伝子のcDNAを発現させたOSC細胞(OSC20−A24)を用いた。細胞傷害性T細胞による傷害を、各標的細胞について3種類のE/T比で試験し、上記3.と同様に51Crを用いた細胞傷害性試験を行った。
【0115】
その結果、図7に示すように、HLA−A2402遺伝子を発現させたOSC20 A24細胞株は、ペプチドA、BおよびFに特異的な細胞傷害性T細胞により傷害されるが、HLA−A2遺伝子が発現しているOSC20細胞株は傷害されなかった(OSC20 A24細胞株に対して、E/T比=30で37%と高い細胞傷害活性を示した)。
【0116】
すなわち本発明に係る、STEAPタンパク質由来のペプチドA、BおよびFは、内因性の抗原ペプチドとしてHLA−A24型分子と結合して抗原提示細胞表面に提示され、ペプチド特異的細胞傷害性T細胞を刺激した。そして、ペプチドA、BおよびFにより刺激された細胞傷害性T細胞は、ペプチドA、BおよびFが提示された細胞を特異的に殺傷した。
【0117】
また、これらのペプチドをそれぞれ単独で用いた場合の細胞傷害性T細胞の活性を調べるために、ペプチドA、BおよびFをそれぞれ単独で用いて刺激したCD8細胞を用いて、上記3.と同様に51Crを用いた細胞傷害性試験を行った。
【0118】
まず、ペプチドA、BおよびFをそれぞれ単独で用いて、HLA−A24陽性の癌患者から分離したCD8細胞を刺激した。標的細胞として、HLA−A24分子を発現しているLG2EBV細胞を用いた。LG2EBV細胞をペプチドA、BおよびFを用いてそれぞれ刺激し、51Crを用いた細胞傷害性試験に供した。結果を図8〜10に示す。
【0119】
図8は、ペプチドAで刺激したCD8細胞を用いた細胞傷害性試験の結果を示す。図8において、ペプチドで刺激していないLG2EBV細胞をLG2EBV P(−)で示し、ペプチドAで刺激したLG2EBV細胞をLG2EBV P(+)で示した。なお、K562細胞は、非特異的細胞傷害性を示す標的細胞である。
【0120】
図8に示すように、ペプチドAで刺激したCD8細胞は、ペプチドAで刺激したLG2EBV細胞に対して、ペプチドで刺激していないLG2EBV細胞に対する細胞傷害活性よりも高い細胞傷害活性を示した。このように、ペプチドAは、ペプチドAが提示された標的細胞を特異的に殺傷する癌患者由来のCD8細胞を活性化したため、ペプチドAは、癌ワクチンとして有用であることが示された。
【0121】
図9は、ペプチドBで刺激したCD8細胞を用いた細胞傷害性試験の結果を示す。図9において、ペプチドで刺激していないLG2EBV細胞をLG2EBV(−)で示し、ペプチドBで刺激したLG2EBV細胞をLG2EBV(STB)で示した。
【0122】
図9に示すように、ペプチドBで刺激したCD8細胞は、ペプチドBで刺激したLG2EBV細胞に対して、ペプチドで刺激していないLG2EBV細胞に対する細胞傷害活性よりも高い細胞傷害活性を示した。このように、ペプチドBは、ペプチドBが提示された標的細胞を特異的に殺傷する癌患者由来のCD8細胞を活性化したため、ペプチドBは、癌ワクチンとして有用であることが示された。
【0123】
図10は、ペプチドFで刺激したCD8細胞を用いた細胞傷害性試験の結果を示す。図10において、ペプチドで刺激していないLG2EBV細胞をLG2EBV(−)、ペプチドFで刺激したLG2EBV細胞をLG2EBV(ST6)、ペプチドBで刺激したLG2EBV細胞をLG2EBV(STB)、ペプチドAで刺激したLG2EBV細胞をLG2EBV(STA)でそれぞれ示した。
【0124】
図10に示すように、ペプチドFで刺激したCD8細胞は、ペプチドで刺激していないLG2EBV細胞、ペプチドAで刺激したLG2EBV細胞、およびペプチドBで刺激したLG2EBV細胞に対する細胞傷害活性よりも高い細胞傷害活性を、ペプチドFで刺激したLG2EBV細胞に対して示した。すなわち、ペプチドFで刺激したCD8細胞は、他のペプチドで刺激した標的細胞を殺傷しなかった。このように、ペプチドFは、ペプチドFが提示された標的細胞を特異的に殺傷する癌患者由来のCD8細胞を活性化したため、癌ワクチンとして有用であることが示された。
【0125】
以上のように、本発明に係るペプチドは、HLA−A24型分子と特異的に結合し、細胞傷害性T細胞を活性化することが可能であった。したがって、本発明によれば、HLA−A24型分子を有する癌患者に対して、新規の癌ワクチンを提供し得る。
【0126】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求の範囲内で、適宜変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明を用いれば、新規な癌ワクチンを提供し得るので、癌に対する免疫療法の発展に貢献し得る。癌に対する免疫療法は、最新の免疫理論に基づいた治療法であり、副作用が少なく癌の予防的効果が期待できる治療法として注目されている。また癌に対する免疫療法は、将来のテーラーメイド医療の一端を担う技術であるため、本発明を用いれば、新規産業の創出に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】図1は、口腔扁平上皮癌細胞株および正常なヒト組織におけるSTEAPの発現を調べたRT−PCR解析の結果を示す図である。
【図2】図2は、口腔扁平上皮癌細胞株および正常口腔粘膜組織におけるSTEAPの発現を調べたウエスタンブロット解析の結果を示す図である。
【図3】図3は、口腔扁平上皮癌細胞株におけるSTEAPの発現を調べた免疫染色の結果を示す図である。
【図4】図4は、STEAP由来のペプチドと、HLA−A24型分子との結合親和性を調べたフローサイトメトリー解析の結果を示す図である。
【図5】図5は、STEAP由来のペプチドを用いて刺激した細胞傷害性T細胞のペプチド特異的細胞傷害活性を調べた51C放出解析の結果を示す図である。
【図6】図6は、STEAP由来のペプチドを用いて刺激した細胞傷害性T細胞のペプチド特異的細胞傷害活性を調べた51C放出解析の結果を示す図である。
【図7】図7は、STEAP由来のペプチドを用いて刺激した細胞傷害性T細胞による、HLA−A2402遺伝子を発現している口腔扁平上皮癌細胞株に対する傷害活性を調べた51C放出解析の結果を示す図である。
【図8】図8は、STEAP由来のペプチドを用いて刺激した細胞傷害性T細胞のペプチド特異的細胞傷害活性を調べた51C放出解析の結果を示す図である。
【図9】図9は、STEAP由来のペプチドを用いて刺激した細胞傷害性T細胞のペプチド特異的細胞傷害活性を調べた51C放出解析の結果を示す図である。
【図10】図10は、STEAP由来のペプチドを用いて刺激した細胞傷害性T細胞のペプチド特異的細胞傷害活性を調べた51C放出解析の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2、4または6のいずれかに示されるアミノ酸配列からなる、ペプチド;あるいは
配列番号2、4または6のいずれかに示されるアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導する、ペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドを有している、癌ワクチン。
【請求項3】
請求項1に記載のペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列からなる、ポリヌクレオチド;
配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列の1個または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;あるいは
配列番号1、3または5のいずれかに示される塩基配列と少なくとも80%同一であり、HLA−A24型分子と結合して細胞傷害性T細胞依存性の免疫応答を誘導するペプチドをコードする塩基配列からなる、ポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドが作動可能に連結されている、発現ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の発現ベクターを有している、癌ワクチン。
【請求項7】
請求項1に記載のペプチドとHLA−A24型分子との複合体が細胞表面に提示されている、抗原提示細胞。
【請求項8】
請求項7に記載の抗原提示細胞を有している、癌ワクチン。
【請求項9】
請求項1に記載のペプチドとHLA−A24型分子との複合体に対するT細胞レセプターが細胞表面に発現している、細胞傷害性T細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞傷害性T細胞を有している、癌ワクチン。
【請求項11】
請求項3または4に記載のポリヌクレオチドが導入されている形質転換体を用いる工程を包含する、ペプチドの作製方法。
【請求項12】
請求項1に記載のペプチドとともに、HLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞を培養する工程を包含する、ペプチドとHLA−A24型分子との複合体を提示した抗原提示細胞の作製方法。
【請求項13】
HLA−A24型分子を発現している抗原提示細胞を、請求項8に記載の発現ベクターを用いて形質転換する工程を包含する、ペプチドとHLA−A24型分子との複合体を提示した抗原提示細胞の作製方法。
【請求項14】
請求項1に記載のペプチドとHLA−A24型分子との複合体を提示した抗原提示細胞とともに、CD8細胞を培養する工程を包含する、細胞傷害性T細胞の作製方法。
【請求項15】
請求項1に記載のペプチドと特異的に結合する、抗体。

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−289380(P2008−289380A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135766(P2007−135766)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(307014555)北海道公立大学法人 札幌医科大学 (31)
【Fターム(参考)】