説明

新規脂環式化合物、新規脂環式化合物の製造方法および重合体組成物

【課題】天然由来の原料を用いてなる、特に電子材料や光学材料等として良好な物性が期待される、新規な脂環式化合物を提供すること。
【解決手段】下式で示す脂環式化合物。


(式中、R1は、下記一般式で示す官能基を、またR2はモノテルペン化合物に由来する脂環骨格を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規脂環式化合物、新規脂環式化合物の製造方法および重合体組成物に関する。より詳細には、天然原料(モノテルペン化合物)を用いた新規脂環式化合物、新規脂環式化合物の製造方法、ならびに該モノマーを重合してなる重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環構造を有する重合性モノマーは、特に電子材料や光学材料の分野で賞用されており、これら材料の各種性能(耐熱性や強度、透明性、耐湿性等)を一層向上させるべく、種々の分子構造が検討されている。例えば特許文献1に係る特定の脂環イミドアクリレートは、耐熱性等に優れた重合体組成物を与えるとされている。しかし、従来の脂環系重合性モノマーは、脂環構造が石油系原料に由来するものであり、原油価格の変動に伴う製品コストの高騰や、環境負荷、資源枯渇といった問題があった。
【特許文献1】特開2000−239254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、天然物由来の原料を用いた新規な脂環式化合物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、天然原料由来の脂環式化合物について鋭意検討を重ねた結果、モノテルペン化合物に由来する脂環骨格を有する脂環式化合物が新規であり、当該化合物を合成する方法を見出し、本発明を完成するに到った。
【0005】
即ち本発明は、下記一般式(1)で示す脂環式化合物;
【0006】
【化1】

(式中、Rは、下記一般式(2)で示す官能基を、またRはモノテルペン化合物に由来する脂環骨格を表す。)
【0007】
【化2】

(式(2)中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を、nは1〜6の整数を、mは0〜12の整数を表す。)
【0008】
下記工程(I)と工程(II)を経由することを特徴とする、下記一般式(1)で示す脂環式化合物の製造方法;
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、Rは、下記一般式(2)で示す官能基を、またRはモノテルペン化合物に由来する脂環骨格を表す。)
【0011】
【化4】

(式(2)中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を、nは1〜6の整数を、mは0〜12の整数を表す。)
【0012】
[工程(I)]
下記一般式(4−1)で示される脂環式ジカルボン酸または下記一般式(4−2)で示される脂環式ジカルボン酸無水物に、下記一般式(5)で示されるモノアミン化合物を反応させて、下記一般式(6)で示される脂環式マレイミド化合物を製造する工程。
【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
(式(4−1)および(4−2)中、Rは前記同様である。)
【0016】
【化7】

【0017】
(式(5)中、R、R、nは前記同様である。また、Rは水酸基またはハロゲン原子を表す。)
【0018】
【化8】

【0019】
(式(6)中、R、R、R、n、Rは前記同様である。)
【0020】
[工程(II)]
一般式(6)で表される該脂環式マレイミド化合物に、下記一般式(7)で示すビニル化合物を反応させる工程。
【0021】
【化9】

【0022】
(式(7)中、mおよびRは前記同様である)
【0023】
および、前記脂環式化合物を重合してなる重合体組成物に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の脂環式化合物は、天然原料(モノテルペン化合物)を用いたものであるため、従来の石油系原料を用いた脂環式化合物と比べて、環境負荷等の問題が小さい。また、このものは、アルキル基が結合した嵩高いビシクロ骨格、または、長鎖アルキル基が結合したシクロ骨格を有しており、従来の脂環式化合物とは異なる有利な効果(例えば、その重合体の、高耐熱性、低吸水性、低透湿性など)が期待される。
【0025】
また、本発明の脂環式化合物を重合してなる重合体組成物は、各種の工学材料、例えば光学材料〔光ディスク記録媒体用オーバーコート剤、ハードコート剤、溝材、レンズ等〕や、電子材料〔層間絶縁膜、レジスト、ダイボンド剤、ダイオード・水晶振動子等の接着剤、ダイオード等の素子、モールド部材、ダイボンドフィルム、ソルダーレジスト等〕としても有用であることが期待される。また、該重合体組成物は、塗料用バインダー、印刷インキ用バインダー、接着剤、粘着剤、歯科材料、製紙用薬品等の他、各種成形品としても有用であると期待され、例えばレンズ〔フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、プリズムシート等〕においても有用であることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係る脂環式化合物(以下、脂環イミドアクリレートという)は、下記一般式(1)で示される。
【0027】
【化10】

(式中、Rは、下記一般式(2)で示す官能基を、またRはモノテルペン化合物に由来する脂環骨格を表す。)
【0028】
【化11】

(式(2)中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を、nは1〜6の整数を、mは0〜12の整数を表す。)
【0029】
前記一般式(1)で示す脂環式化合物のR(モノテルペン化合物に由来する脂環骨格)は特に限定されないが、該脂環式化合物は、具体的には下記一般式(3−1)、(3−2)、(3−3)および(3−4)から選ばれる1種で示される構造であるのが好ましい。なお、一般式(3−1)の脂環骨格はα−テルピネンに、一般式(3−2)のそれはα−フェランドレンに、一般式(3−3)のそれはミルセンに、一般式(3−4)のそれはアロオメシンに由来する。
【0030】
【化12】

【0031】
【化13】

【0032】
【化14】

【0033】
【化15】

【0034】
【化16】

【0035】
(各式中、Rは前記一般式(2)で示す官能基を表す。なお、破線部はその炭素−炭素結合が不飽和結合であってもよいことを表す。)
【0036】
前記一般式(1)で示す脂環イミドアクリレートの製造方法は特に限定されないが、例えば、下記工程(I)と工程(II)を経由することにより製造することができる。
【0037】
[工程(I)]
下記一般式(4−1)で示される脂環式ジカルボン酸または下記一般式(4−2)で示される脂環式ジカルボン酸無水物(以下、両者を脂環式ジカルボン酸(無水物)と略すことがある)に、下記一般式(5)で示されるモノアミン化合物を反応させて、下記一般式(6)で示される脂環式マレイミド化合物を製造する工程。
【0038】
【化17】

【0039】
【化18】

【0040】
(式(4−1)および(4−2)中、Rはモノテルペン化合物に由来する脂環骨格を表す。)
【0041】
【化19】

【0042】
(式(5)中、RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を、nは1〜6の整数を、Rは水酸基またはハロゲン原子を表す。)
【0043】
【化20】

【0044】
(式(6)中、R、R、R、n、Rは前記同様である。)
【0045】
[工程(II)]
前記一般式(6)で表される脂環式マレイミド化合物に、下記一般式(7)で示すビニル化合物を反応させる工程。
【0046】
【化21】

【0047】
(式(7)中、mは0〜12の整数を、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【0048】
[工程(I)について]
前記一般式(4−1)または(4−2)で示す脂環式ジカルボン酸(無水物)は、例えば、各種公知のモノテルペン化合物と、マレイン酸(無水物)(マレイン酸またはマレイン酸無水物をいう)とを、各種公知の方法でディールス・アルダー反応させることにより得ることができる。他にも、一般式(4−1)の脂環式ジカルボン酸は、該モノテルペン化合物とマレイン酸ジアルキルエステルとのディールス・アルダー反応物を、更に各種公知の方法で加水分解することによっても得ることができる。また、一般式(4−2)で示す脂環式ジカルボン酸無水物は、該脂環式ジカルボン酸を各種公知の方法で脱水縮合することにより得ることもできる。なお、該脂環式ジカルボン酸(無水物)としては、後述のアミド化ないしイミド化反応が容易に進行しやすくなることから、脂環式ジカルボン酸無水物が好ましい。
【0049】
該モノテルペン化合物としては、具体的には、分子内に共役二重結合を有するモノテルペン化合物を用いることができ、好ましくは、α-テルピネン(下記一般式(8−1))、α−フェランドレン(下記一般式(8−2))等の環式モノテルペン化合物や、ミルセン(下記一般式(8−3))、アロオメシン(下記一般式(8−4))等の非環式モノテルペン化合物を用いることができる。
ここに、α-テルピネンを用いた脂環イミドアクリレートは前記一般式(3−1)に、α−フェランドレンを用いた脂環イミドアクリレートは前記一般式(3−2)に、ミルセンを用いた脂環イミドアクリレートは前記一般式(3−3)に、アロオメシンを用いた脂環イミドアクリレートは前記一般式(3−4)または(3−5)(両者は異性体の関係にある)に対応する。
なお、該モノテルペン化合物はいずれも、高純度の市販品(通常85%以上)がそのまま利用できる。また、本発明で用いるモノテルペン化合物には、他の環式または非環式のモノテルペン化合物(例えばβ−フェランドレン、β-テルピネン、γ-テルピネン、α−ピネン、オシメン等)が残分として含まれていてもよい。
【0050】
【化22】

【0051】
【化23】

【0052】
【化24】

【0053】
【化25】

【0054】
ディールス・アルダー反応は特に限定されず、各種公知の方法を利用できる。具体的には、例えば、前記モノテルペン化合物1モルと、これに対し通常0.8〜1.2モル程度となるマレイン酸(無水物)とを、通常室温〜200℃程度の温度で、通常3〜12時間程度反応させればよい。なお、脂環式ジカルボン酸(無水物)の着色を考慮して、反応容器は密閉構造とし、更に窒素等の不活性ガスでパージするのが好ましい。また、反応の際には、各種公知の溶媒〔ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ペンタン、シクロペンタン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル等〕から選ばれる1種を単独で、または組み合わせて用いることができる。こうして得られた脂環式ジカルボン酸(無水物)は、各種の精製手段〔減圧蒸留、水蒸気蒸留、溶媒抽出、再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等〕で精製することもできる。
【0055】
また、得られた脂環式ジカルボン酸(無水物)が、分子中の脂環骨格(R)に炭素−炭素不飽和結合を含む場合には、該脂環式ジカルボン酸(無水物)を水素化反応に供して、当該炭素−炭素不飽和結合を飽和結合にすることもできる。水素化反応は特に制限されず、各種公知の方法を利用できる。具体的には、例えば、前記脂環式ジカルボン酸(無水物)を、各種公知の金属触媒〔安定化ニッケルやパラジウム、パラジウムカーボン、白金等〕と、必要に応じてTHF等の溶媒との存在下で、通常9.8MPa以下(好ましくは0.98〜9.8MPa)の水素圧、室温〜300℃程度の温度、3〜24時間程度の条件で水素化反応させればよい。
【0056】
前記一般式(5)で示すモノアミン化合物としては、前記一般式(5)中のRの種類に応じて、各種公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、Rが水酸基の場合には、各種公知のモノアミノアルコール類〔エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン等〕を例示できる。また、Rがハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素等)の場合には、各種公知のハロゲン化アルキルアミン類〔2−クロロエチルアミン、2−ブロモエチルアミン、1−アミノ−2−プロピルクロライド等〕を例示できる。これらの中でも、入手容易で安価な点より、前記モノアミノアルコール類、特にエタノールアミンが好ましい。
【0057】
前記脂環式ジカルボン酸(無水物)と前記モノアミン化合物との反応は、各種公知のアミド化・イミド化反応による。具体的には、例えば、前記脂環式ジカルボン酸(無水物)1モルと、これに対し通常0.5〜3モル程度となる前記モノアミン化合物とを、通常は水と共沸する溶媒(トルエン等)の存在下、通常10℃〜70℃程度の温度で、通常1〜12時間程度アミド化反応を行い、更に、通常80℃〜180℃程度の温度で、通常3〜20時間程度イミド化反応(脱水閉環反応)させればよい。
【0058】
なお、アミド化反応時には、反応を促進する目的で、各種公知の酸又は塩基触媒を用いてもよい。具体的には、例えば、各種公知の有機スルホン酸〔アルキルスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等〕、無機酸〔硫酸、亜リン酸等〕、塩基性化合物〔ピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等〕等を、前記脂環式ジカルボン酸(無水物)1モルに対して通常0.0005〜0.05モル程度用いることができる。
【0059】
また、イミド化反応時には、50℃〜100℃程度の低温域で反応を行う目的で、各種公知の触媒を用いてもよい。具体的には、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミドや無水酢酸などの脱水剤と、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸ナトリウムなどの塩基性化合物の組み合わせたものを利用できる。なお、当該塩基性化合物の使用量は、脱水剤1モルに対し、通常1〜5モル程度である。
【0060】
また、両反応時には、必要に応じて各種の重合禁止措置をとることができる。具体的には、例えば、重合禁止剤(フェノール類、ジチオカルバミン酸塩類、フェノチアジン類等)を、前記脂環式ジカルボン酸(無水物)1モルに対して通常0.0001〜0.01モル%程度用いたり、反応系を空気や酸素でバブリングしたりすることができる。
【0061】
こうして得られた、前記一般式(6)で示す脂環式マレイミド化合物は、前記精製手段で精製してもよい。また、該脂環式マレイミド化合物が、分子中の脂環骨格に炭素−炭素不飽和結合を含む場合には、この段階においても前記同様に水素化反応を適用してもよい。
【0062】
[工程(II)について]
該脂環式マレイミド化合物に、前記一般式(7)で示すビニル化合物を反応させる方法は、前記一般式(6)中のRの種類により異なる。例えば、Rが水酸基である場合には、当該脂環式マレイミド化合物と前記ビニル化合物とをエステル化反応させればよい。また、Rがハロゲン原子である場合には、当該脂環式マレイミド化合物と前記ビニル化合物とを各種公知の方法で置換反応させればよい。
【0063】
該ビニル化合物の具体例としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、3−ブテン酸、4−ペンテン酸等が挙げられる。
【0064】
前記エステル化反応は特に限定されず、各種公知の方法を利用できる。具体的には、例えば、前記脂環式マレイミド化合物1モルと、これに対し通常0.5〜20モル程度となる前記ビニル化合物とを、通常20℃〜150℃程度の温度で、通常2〜20時間程度反応させればよい。なお、反応時には、水と共沸する芳香族系溶媒(好ましくはトルエン)を用い、水を反応系から除去しながら反応を行うのが好ましい。また、必要に応じて各種公知のエステル化触媒、例えば酸触媒〔p−トルエンスルホン酸、硫酸等〕、金属酸化物・水酸化物〔水酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等〕を、前記マレイミド化合物1モルに対し、通常0.001〜0.2モル程度用いることができる。また、必要に応じて前記重合禁止措置を適用することもできる。重合禁止剤の使用量は、該脂環式マレイミド化合物1モルに対して通常0.0001〜0.01モル%程度である。
【0065】
前記置換反応は特に限定されず、各種公知の方法を利用できる。具体的には、例えば前記脂環式マレイミド化合物1モルと、これに対し通常0.8〜2モル程度の前記ビニル化合物と、該ビニル化合物と同モル程度の塩基性触媒(例えば水酸化ナトリウム水溶液)と、必要に応じて各種溶媒とからなる溶液に、1モル程度の前記脂環式マレイミド化合物(通常、トルエンとメタノールとからなる混合溶媒で溶解したもの)を通常30分〜2時間かけて滴下し、通常20℃〜150℃程度、通常2〜20時間程度置換反応させればよい。
【0066】
なお、前記脂環式マレイミド化合物が、前記一般式(6)のR中に炭素−炭素不飽和結合を有する場合には、前記重合禁止措置を適用することができる。重合禁止剤の使用量は、該脂環式マレイミド化合物1モルに対して通常0.0001〜0.01モル%程度である。
【0067】
こうして得られた、前記一般式(1)で示す脂環イミドアクリレートは、通常はそのままでも高純度であるが、前記精製手段で精製することにより、純度をより高めることができる。また、該脂環イミドアクリレートが、分子中の脂環骨格に炭素−炭素不飽和結合を含む場合には、前記同様水素化反応を適用してもよい。水素化した脂環イミドアクリレートを用いた重合体は耐熱性が良く、また軟化点が高いなどの特徴を有する。
【0068】
本発明に係る脂環イミドアクリレートは、分子中に重合性二重結合を有するので、単独で重合させ、若しくは他の重合性モノマーと共重合させることにより、各種の、油性ないし水性の重合体組成物とすることができる。
【0069】
他の重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステル〔(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等〕、芳香族系モノマー〔スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、メチルインデン等〕、アニオン性ビニルモノマーやその中和塩〔(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、ムコン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等や、これらの中和塩〕、第三級アミノ基含有ビニルモノマー〔アリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等〕、該第三級アミノ基含有ビニルモノマーを四級化剤〔メチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリン等〕で第四級化してなるカチオン性ビニルモノマー、多官能ビニルモノマー〔ジビニルベンゼン、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ビスフェノールAテトラエチレングリコールジアクリレート、ヘキサメチレングリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリルアミドN−ビニルホルムアミド、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル等〕、酢酸ビニルなどのモノマーが挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
なお、本発明の脂環イミドアクリレートと前記その他のモノマーを共重合させる場合において、両者の重量比は、得られる重合体組成物の用途に応じて適宜決定することができるが、例えば前者:後者で80:20〜10:90程度である。
【0071】
重合方法は特に制限されず、例えば活性エネルギー線(紫外線や電子線)を照射したり(光重合)、加熱したりする方法(加熱重合)を採用できる。また、重合は、前記溶媒の存在下または不存在下で行うこともできる。
【0072】
光重合の際には、各種公知の光重合開始剤を用いることができる。具体的には、例えば、アセトフェノン類〔アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オンおよびN,N−ジメチルアミノアセトフェノン等〕、ベンゾフェノン類〔ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトンおよび4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等〕、チオキサントン類〔2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントンおよび2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン〕、アントラキノン類〔2−メチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンおよび2−アミルアントラキノン等〕、ベンゾイン類〔ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテルおよびベンゾインプロピルエーテル等〕が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、必要に応じてN,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、トリエチルアミンおよびトリエタノールアミン等の光増感剤を併用することもできる。なお、該光重合開始剤や該光増感剤の使用量はいずれも、重合体組成物の固形分重量に対し、通常0.01〜10重量%程度である。
【0073】
また熱重合の際には、各種公知の熱重合開始剤を用いることができる。具体的には、例えば、有機過酸化物〔1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等〕、アゾ系化合物〔1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタンおよびアゾジ−t−ブタン等〕が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、前記有機過酸化物は還元剤と組み合わせることによりレドックス系開始剤としてもよい。該熱重合開始剤の使用量は、重合体組成物の固形分重量に対して、通常0.01〜10重量%程度である。
【0074】
その他、重合反応時には前記重合禁止剤や重合禁止措置を適用することもできる。
【0075】
本発明の重合体組成物には、その用途に応じて各種添加剤を適用することができる。具体的には、例えば、耐熱性、密着性、硬度などの特性を向上する目的で無機充填剤〔シリカ粉末、アルミナ、ジルコン、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム等〕を適用できるほか、着色剤〔フタロシアニン・ブルー、フタロシアニングリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック等〕、難燃剤〔三酸化アンチモン、リン酸エステル、赤リンおよびメラミン樹脂をはじめとする含窒素化合物等〕、消泡剤〔シリコーン系、フッ素系、高分子系等〕、密着性付与剤〔イミダゾール類、チアゾール類、トリアゾール類、シランカップリング剤等〕、応力緩和剤〔シリコーンオイル、シリコーンゴム粉末等〕、光安定剤〔ヒンダードアミン系化合物等〕、帯電防止剤、レベリング剤などを用いることができる。また、前記溶媒を希釈溶剤として用いることもできる。
【0076】
なお、各重合反応は各種溶媒、例えば、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)、芳香族系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル系溶媒(THF等)の存在下または不存在下で行うことできる。
【0077】
また、活性エネルギー線としては、例えば、紫外線や電子線が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極放電ランプおよびカーボンアークランプ等が挙げられる。また、電子線源としては、
例えばコックロフトワルトシン型、バンデグラフ型または共振変圧器型の照射装置が挙げ
られる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、スペクトル測定には次の装置を使用した。
H−NMR、13C−NMR:BRUKERARX300(ブルカーバイオスピン社製)
IR:AVATAR60(ThermoNicolet社製)
ガスクロマトグラフィー(GC):5890SERIES II(HEWLETT社製)
【0079】
実施例1
温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に、無水マレイン酸179.9gと脱水トルエン350mLを仕込み、系内を窒素置換した。次いで、無水マレイン酸を50℃で溶解し、攪拌下にα−テルピネン(和光純薬(株)製、純度90%)277.8gを、系内の温度が60℃程度になるように水浴で発熱を抑えながら滴下した。滴下終了後、系内の温度が下がりはじめたら、60℃で加熱攪拌しながらディールス・アルダー反応を6時間行った。反応終了後、溶媒および未反応原料を減圧留去・除去して固体を採取し、これを減圧乾燥することにより、脂環式ジカルボン酸無水物(以下、α−テルピネン酸無水物という)を417.1g得た。なお、このものの純度(GC法による測定値をいう。以下、同様)は96.9%であった。
【0080】
次に、ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に、前記α−テルピネン酸無水物180.0g、脱水トルエン200mLを仕込み、系内を窒素置換した。次いで、室温で系内を攪拌しつつ、エタノールアミン45.3gを滴下した。滴下終了後、反応系を106〜110℃まで昇温して、ディーンスターク分水器により水を系内から留去しながら、イミド化反応を20時間行った。その際、共沸除去したトルエンおよびエタノールアミンを系内に補充しながらイミド化反応を行った。反応終了後、溶媒を減圧留去してから、n−ヘキサンを加えて再結晶を行った。次いで、得られた結晶を減圧乾燥することにより、脂環式マレイミド化合物207.0gを得た。このものの純度は97.2%であった。
【0081】
次に、ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、空気バブリング用導入管、攪拌機を備えた反応容器に、当該脂環式マレイミド化合物150.0g、ヒドロキノン1.85g、トルエン300mLを仕込み、p−トルエンスルホン酸3.70g、アクリル酸185.1gを添加して攪拌した。次いで、反応系を空気でバブリングしながら106〜110℃まで昇温して、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながらエステル化反応を21時間行った。その際、反応の進行はGCで追跡した。また、反応を促進させ、完結させる目的でp−トルエンスルホン酸を系内に添加しながら反応を行った。次いで、反応溶液を室温まで冷却し、分液ロートを用いてイオン交換水、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄を3回繰り返し、更に減圧下にトルエンを留去し、脂環イミドアクリレート(A−1)(以下、化合物A−1という)128.7gを得た。なお、このものの純度は92.4%であった。
【0082】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):6.36、6.10、5.86、4.20、3.71、2.93、2.54、1.47、1.27、1.09、0.97
13C−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):177.10、165.61、135.09、135.36、131.20、128.00、127.89、60.93、50.09、46.23、43.50、36.85、34.18、29.52、22.80、18.30、16.78
IR(neat):2960、1726、1702、1692、1400、1182cm−1
【0083】
【化26】

【0084】
実施例2
温度計、水素バルーンを備えた反応容器に、実施例1で得られたα−テルピネン酸無水物180.0g、パラジウムカーボン18.0g、脱水THF200mLを仕込み、攪拌下に、50℃で30時間水素化反応を行った。反応終了後、反応系を室温まで冷却し、濾過によりパラジウムカーボンを除去した後、減圧下にTHFを留去した。次いで、得られた固体を減圧乾燥して、水素化α−テルピネン酸無水物163.4gを得た。
なお、このものの純度は98.6%であった。
【0085】
次に、ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に、前記水素化α−テルピネン酸無水物118.9g、脱水トルエン200mLを仕込み、系内を窒素置換した。その後、室温において、攪拌状態の反応系に、エタノールアミン30.7gを滴下した。滴下終了後、系内の発熱が落ち着いたら、反応系を106〜110℃まで昇温して、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながらイミド化反応を8時間行った。その際、水と共に留去したトルエンおよびエタノールアミンを系内に補充しながら反応を行った。反応終了後、溶媒を減圧下に留去し、次いでn−ヘキサンを加えて再結晶を行った。その後、得られた結晶を減圧乾燥することにより、脂環式マレイミド化合物119.6gを得た。なお、このものの純度は98.9%であった。
【0086】
次に、ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、空気バブリング用導入管、攪拌機を備えた反応容器に、当該脂環式マレイミド化合物119.5g、ヒドロキノン0.56g、トルエン400mLを仕込み、p−トルエンスルホン酸8.14g、アクリル酸146.4gを添加して攪拌した。次いで、反応系を空気でバブリングしながら106〜110℃まで昇温し、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながらエステル化反応を7時間行った。次いで、反応溶液を室温まで冷却し、分液ロートを用いてイオン交換水、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄を3回繰り返し、更に減圧下にトルエンを留去し、脂環イミドアクリレート(A−2)(以下、化合物A−2という)109.1gを得た。なお、このものの純度は97.0%であった。
【0087】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):6.39、6.10、5.83、4.32、3.83、2.94、2.54、1.47、1.13、0.97、0.81
13C−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):178.19、131.33、131.06、128.05、127.86、61.08、59.57、48.77、44.82、37.13、33.92、31.07、28.99、26.36、25.26、22.93、17.30、16.91
IR(neat):2949、1726、1702、1692、1396、1182cm−1
【0088】
【化27】

【0089】
実施例3
温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に、無水マレイン酸309.8gと脱水トルエン250mLを仕込み、系内を窒素置換した。次いで、無水マレイン酸を50℃で溶解し、攪拌下にミルセン(アルドリッチ製、純度90%)503.4gを、系内の温度が60℃程度になるように水浴で発熱を抑えながら滴下した。滴下終了後、系内の温度が下がりはじめたら、60℃で加熱攪拌しながらディールス・アルダー反応を3時間行った。反応終了後、副生物を濾過で分離後、溶媒および未反応原料を減圧留去・除去して淡黄色液体を採取し、これを減圧乾燥することにより、脂環式ジカルボン酸無水物(以下、ミルセン酸無水物という)を646.9g得た。なお、このものの純度は90.2%であった。
【0090】
次に、ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に、前記ミルセン酸無水物175.0g、脱水トルエン200mLを仕込み、系内を窒素置換した。次いで、室温で系内を攪拌しつつ、エタノールアミン45.6gを滴下した。滴下終了後、反応系を106〜110℃まで昇温して、ディーンスターク分水器により水を系内から留去しながら、イミド化反応を12時間行った。反応終了後、溶媒を減圧留去してから、得られた淡黄色粘性固体を減圧乾燥することにより、脂環式マレイミド化合物189.4gを得た。このものの純度は88.0%であった。
【0091】
次に、ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、空気バブリング用導入管、攪拌機を備えた反応容器に、当該脂環式マレイミド化合物160.0g、ヒドロキノン1.73g、トルエン200mLを仕込み、p−トルエンスルホン酸9.66g、アクリル酸173.7gを添加して攪拌した。次いで、反応系を空気でバブリングしながら106〜110℃まで昇温し、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながらエステル化反応を21時間行った。その際、反応の進行はGCで追跡した。次いで、反応溶液を室温まで冷却し、分液ロートを用いてイオン交換水、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄を3回繰り返し、更に減圧下にトルエンを留去し、脂環イミドアクリレート(A−3)(以下、化合物A−3という)132.5gを得た。なお、このものの純度は89.0%であった。
【0092】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):6.40、6.06、5.82、5.56、5.02、4.28、3.77、3.06、2.52、2.22、1.67、1.58、1.27、1.01、0.94、0.76
13C−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):179.76、165.70、140.30、131.30、127.87、123.49、119.73、60.98、39.24、37.26、27.49、25.91、24.04、19.32、17.65
IR(neat):2929、1701、1398、1182cm−1
【0093】
【化28】

【0094】
実施例4
温度計、水素バルーンを備えた反応容器に、実施例3で得られたミルセン酸無水物200.0g、パラジウムカーボン15.0g、脱水THF200mLを仕込み、攪拌下に、50℃で72時間水素化反応を行った。反応終了後、反応系を室温まで冷却し、濾過によりパラジウムカーボンを除去した後、減圧下にTHFを留去した。次いで、得られた固体を減圧乾燥して、水素化ミルセン酸無水物198.0gを得た。なお、このものの純度は90.6%であった。
【0095】
次に、ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に、前記水素化ミルセン酸無水物198.0g、脱水トルエン200mLを仕込み、系内を窒素置換した。その後、室温において、攪拌状態の反応系に、エタノールアミン52.5gを滴下した。滴下終了後、系内の発熱が落ち着いたら、反応系を106〜110℃まで昇温し、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながらイミド化反応を6時間行った。反応終了後、室温に戻し、窒素ガス導入口を空気バブリング用導入管に取り替え、ヒドロキノン2.19g、p−トルエンスルホン酸11.41g、アクリル酸218.9gを添加して攪拌した。次いで、反応系を空気でバブリングしながら106〜110℃まで昇温し、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながらエステル化反応を12時間行った。次いで、反応溶液を室温まで冷却し、分液ロートを用いてイオン交換水、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄を3回繰り返し、更に減圧下にトルエンを留去し、脂環イミドアクリレート(A−4)(以下、化合物A−4という)206.0gを得た。なお、このものの純度は85.6%であった。
【0096】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):6.34、6.07、5.82、4.33、3.81、2.87、2.22、1.67、1.58、1.27、1.22、1.15、0.86
13C−NMR(300MHz、溶媒CDCl、δ(ppm)):179.86、165.68、132.20、127.85、60.96、39.70、36.89、34.01、28.73、27.83、24.26、22.52
IR(neat):2927、1708、1397、1182cm−1
【0097】
【化29】

【0098】
比較例1
ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器にテトラヒドロ無水フタル酸(商品名「リカシッドTH」、新日本理化(株)製)200.0g、脱水トルエンを185.0gを仕込み、系内を窒素置換した。次いで、反応容器を室温で攪拌しつつエタノールアミン80.3gを滴下した。滴下終了後、還流温度(110℃)まで加熱し、水をトルエンで共沸除去しつつ6時間反応を行うことにより、環イミド化合物を得た。このものは純度99.1%であった(GC法による)。
【0099】
次いで、上記の反応溶液を室温まで戻し、窒素ガス導入口を空気バブリング用導入管に変更し、メトキノン2.57g、p−トルエンスルホン酸15g、アクリル酸185.9gを添加し攪拌した。系内で空気をバブリングしながら、還流温度(106〜110℃)まで加熱昇温し、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながら反応を16時間行った。次いで、反応溶液を40℃以下まで冷却し、分液ロートを用いてイオン交換水、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄を繰り返し、減圧濃縮でトルエンを留去し、脂環イミドアクリレートB(以下、化合物Bという)を得た。このものは純度93.1%であった(GC法による)。なお、当該化合物Bの各スペクトル測定値および構造は、以下のようになる。
【0100】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)):5.87、6.37、6.06、4.26、3.79、3.10、2.56、2.20
IR(neat):1653、1703、1725、1182、1401cm-1
【0101】
【化30】

【0102】
比較例2
ディーンスターク分水器(ジムロート冷却管)、温度計、滴下ロート、窒素ガス導入口、攪拌機を備えた反応容器に無水コハク酸(和光純薬(株)製)150.0g、脱水トルエンを150.0g仕込み、系内を窒素置換した。次いで、反応容器を室温で攪拌しつつエタノールアミン89.7gを滴下した。滴下終了後、還流温度(110℃)まで加熱し、水をトルエンで共沸除去しつつ3時間反応を行い、イミド化合物を得た。このものは純度97.0%であった(GC法による)。
【0103】
次いで、上記の反応溶液を室温まで戻し、窒素ガス導入口を空気バブリング用導入管に変え、メトキノン3.0g、p−トルエンスルホン酸30.0g、アクリル酸378.0gを添加し攪拌した。次いで、系内を空気でバブリングしながら還流温度(106〜110℃)まで加熱昇温し、ディーンスターク分水器で水を系内から留去しながら反応を16時間行った。次いで、反応溶液を40℃以下まで冷却し、分液ロートを用いてイオン交換水、炭酸水素ナトリウム水溶液での洗浄を繰り返し、減圧濃縮でトルエンを留去し、イミドアクリレートC(以下、化合物Cという)を得た。このものは純度87.0%であった(GC法による)。なお、当該化合物Cの各スペクトル測定値および構造は、以下のようになる。
【0104】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)):6.78、6.36、5.87、4.32、3.84、2.72
IR(neat):1700、1401、1184、1112cm-1
【0105】
【化31】

【0106】
以下、比較用の化合物D〜Gを示す。
【0107】
化合物D(商品名「アロニックスM140」、東亞合成(株)製)
【0108】
【化32】

【0109】
実施例5
前記化合物A−1を50部、トルエン50部、アゾビスイソブチロニトリルを0.9部(該Aに対して3mol%)を混合し、熱重合用組成物Aを調製した。次いでこれを、窒素雰囲気下、80℃、5時間の条件で重合させた。次いで、得られた各重合物を、ヘキサンを用いて再沈精製して未反応の化合物を除去し、更に減圧乾燥することによって(1333Pa、80℃、5時間)、重合体A−1を得た。当該重合体A−1は、下記耐熱性試験に供した。
【0110】
実施例6〜8
実施例5と同様の方法で、前記化合物A−2〜A−4についても重合体A−2〜A−4を作製し、それぞれを下記耐熱性試験に供した。
【0111】
(耐熱性の評価)
前記重合体A−1〜A−4について、市販の熱重量測定装置(TG−DTA)および示差走査熱量分析装置(DSC)(製品名「2000S システムWS002」、マック・サイエンス社製)を用いて、熱分解開始温度およびTgを求めた。なお、測定条件、および数値の算出法は以下の通りである。結果を表1に示す。
【0112】
・TG−DTA:室温から10℃/minで昇温して800℃までサンプルを加熱した際にチャート上に出現した屈曲点における温度を、熱分解開始温度とした。
・DSC:−50℃から10℃/minで昇温して200℃までサンプルを加熱した後、再度−50℃まで冷却し、再び200℃まで加熱した際に得られる、2サイクル目の曲線から、接線法により屈曲点を算出して、Tgとした。
【0113】
【表1】

【0114】
実施例9
前記化合物A−3を80部、ウレタンアクリレート(商品名「アロニックスM−1600」、東亞合成(株)製)20部を60℃で混合し、更に1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名「イルガキュア184」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)3部を60℃で添加して混合することにより、光重合用組成物A’を得た。次いでこれを、ガラス板上に載置したPETフィルムに膜厚が硬化後に約200μmとなるように塗布した。次いで、当該PETフィルムをガラス板に載せたまま、HO2−L21型水銀ランプを設置した紫外線照射装置(製品名「UB022−5B」、アイグラフィックス株式会社製)に10回通過させて紫外線重合を行い、重合体(硬化被膜)A’−3を得た。
【0115】
なお、紫外線照射装置は、ランプ高さが10cm、コンベアスピード10m/min、紫外線照射強度が130mJ/cmである。なお、硬化の完了は、紫外線照射のパス後、被膜の表面を指でこすり、タック(粘着性)がなくなった時点をもって判断した。
【0116】
実施例10
実施例9において、前記化合物A−3の代わりにA−4を用いた他は同様にして光重合用組成物A’−4を調製し、各組成物を前記同様の工程で紫外線重合させ、重合体(硬化被膜)A’−4を得た。
【0117】
比較例3〜5
実施例9において、前記化合物A−3の代わりに前記化合物B〜Dを用いた他は同様にして光重合用組成物B’〜D’を調製し、各組成物を前記同様の工程で紫外線重合させ、重合体(硬化被膜)B’〜D’を得た。
【0118】
(吸水性の評価)
重合体(硬化被膜)A’−3を有するPETフィルムを縦45mm×横6mmの短冊状に切り取り、PETフィルムから剥がした硬化被膜を試験片とした。この試験片を120℃で24時間乾燥してその重量(W)を測り、次いでこれを40℃の水浴に24時間浸した後に水分を十分ふき取ってその重量(W)を測り、その重量変化(W−W)/W×100を硬化被膜の吸水率(%)として評価した。また、前記重合体(硬化被膜)A’−3、A’−4、ならびに重合体(硬化被膜)B’、C’およびD’についても同様にして吸水率を評価した。結果を表2に示す。
【0119】
【表2】

【0120】
実施例11〜12、比較例6〜8
前記光重合用組成物A’−3の1gをメチルエチルケトンで希釈し、30重量%の溶液とした。次いで、バーコーターNo.12を用いて、当該溶液を膜厚が硬化後に約3μmとなるようにPETフィルムに塗工し、80℃で1分間乾燥した後、前記同様の方法で紫外線重合させ、重合体(硬化被膜)A’’−3を作成した。次いで、該重合体A’’−3について、鉛筆硬度(JIS−K−5400)、およびTgを評価した。また、前記光重合用組成物A’−4ならびにB’〜D’についても同様にして重合体A’’−4ならびにB’’〜D’’を作成し、鉛筆硬度を評価した。結果を表3に示す。
【0121】
【表3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される脂環式化合物。
【化1】

(式中、Rは、下記一般式(2)で示す官能基を、またRはモノテルペン化合物に由来する脂環骨格を表す。)
【化2】

(式(2)中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を、nは1〜6の整数を、mは0〜12の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)が、下記一般式(3−1)、(3−2)、(3−3)、(3−4)および(3−5)から選ばれる1種で示されることを特徴とする、請求項1記載の脂環式化合物。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

(各式中、Rは下記一般式(2)で示す官能基を表す。なお、破線部はその炭素−炭素結合が不飽和結合であってもよいことを表す。)
【化8】

(式(2)中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を、nは1〜6の整数を、mは0〜12の整数を表す。)
【請求項3】
下記工程(I)と工程(II)を経由することを特徴とする、下記一般式(1)で示す脂環式化合物の製造方法。
【化9】

(式中、Rは、下記一般式(2)で示す官能基を、またRはモノテルペン化合物に由来する脂環骨格を表す。)
【化10】

(式(2)中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を、nは1〜6の整数を、mは0〜12の整数を表す。)
[工程(I)]
下記一般式(4−1)で示される脂環式ジカルボン酸または下記一般式(4−2)で示される脂環式ジカルボン酸無水物に、
下記一般式(5)で示されるモノアミン化合物を反応させて、下記一般式(6)で示される脂環式マレイミド化合物を製造する工程。
【化11】

【化12】

(式(4−1)および(4−2)中、Rはモノテルペン化合物に由来する脂環骨格を表す。)
【化13】

(式(5)中、RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を、nは1〜6の整数を、Rは水酸基またはハロゲン原子を表す。)
【化14】

(式(6)中、R、R、R、n、Rは前記同様である。)
[工程(II)]
前記一般式(6)で表される脂環式マレイミド化合物に、下記一般式(7)で示すビニル化合物を反応させる工程。
【化15】

(式(7)中、mは0〜12の整数を、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項4】
前記一般式(1)が、下記一般式(3−1)、(3−2)、(3−3)、(3−4)および(3−5)から選ばれる1種で示されることを特徴とする、請求項3記載の製造方法。
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

(各式中、Rは下記一般式(2)で示す官能基を表す。なお、破線部はその炭素−炭素結合が不飽和結合であってもよいことを表す。)
【化21】

(式(2)中、R、RおよびRはそれぞれ水素原子またはメチル基を、nは1〜6の整数を、mは0〜12の整数を表す。)
【請求項5】
請求項1または2に記載の脂環式化合物を含む重合用組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の重合用組成物を重合してなる重合体組成物。


【公開番号】特開2008−88154(P2008−88154A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88562(P2007−88562)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】