説明

新規K99−5278物質類およびその製造法

本発明はカビや酵母などいわゆる真菌類の感染による真菌症に対する薬剤であり、ストレプトミセス属に属し、K99−5278A物質、K99−5278B物質、K99−5278C物質を生産する能力を有する微生物を培地に培養し、その培養物中にK99−5278A物質、K99−5278B物質、K99−5278C物質を蓄積せしめ、該培養物からK99−5278A物質、K99−5278B物質、K99−5278C物質を採取する。得られた物質は新しい抗真菌剤として期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、カビや酵母などの真菌類に対する抗真菌活性を有する新規K99−5278物質類およびその製造法に関する。本発明においてK99−5278物質類とはK99−5278A物質、K99−5278B物質およびK99−5278C物質を包含する。
【背景技術】
カビや酵母などいわゆる真菌類の感染による真菌感染症に対する既存の化学療法剤は非常に限れており、特に深在性真菌症などの疾患の治療に用いられるアゾール系化合物、例えばエルゴステロールのC−14脱メチル化反応を阻害する1−[(2,4−ジクロロベンジルオキシ)−2−(2,4−ジクロロフェニル)エチル]イミダゾール(一般名:ミコナゾール、シグマ社製)、2,4−ジフルオロ−α,α−ビス(1H,1,2,4−トリアゾル−1−イルメチル)ベンジルアルコール(一般名:フルコナゾール、アイシーエヌファーマス−ティカルズ社製)及び(±)−1−Sec−ブチル−4−[P−[2R,4S]−2−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(1H−1,2,4−トリアゾル−1−イルメチル)1,3−ジオキソラン−4−イル]メトキシ]フェニル]−1−ピペラジニイル]フェニル]−Δ−1,2,4−トリアゾリン−5−ワン(一般名:イトラコナゾール、協和醗酵社製)、更にポリエン系の細胞膜阻害のアンフォレリシンB及びDNA合成阻害のフルシトシンが実用化されているのみである。
上記のミコナゾール、フルコナゾール、及びイトラコナゾールは、ポリエン系の薬剤に比較して安全性が高く、最も高頻度に使用されている薬剤であることが報告されている(Anaissie E.J.ら、クリニカル インフェクシアス ディジーズ、23巻、964−972、1966年)。
しかしながら、最近これら抗菌剤の長期間または反復投与による耐性菌の出現等が問題となっているため、これらの薬剤とは異なる骨格あるいは異なる作用機構の新しい抗真菌剤の開発が強く望まれている。
【発明の開示】
かかる実情において、カビや酵母などいわゆる真菌類の感染による新しい骨格を有する真菌に対して有効な新しい抗真菌剤が開発されれば、新たな真菌症に対する有効な化学療法剤となり得ることになる。
本発明はこのような期待を満足し得る新規K99−5278物質類、及びその製造法を提供するものである。
そこで、本発明者らは上記のごとき課題を解決するために微生物の代謝産物について種々研究を続けた結果、土壌より新たに分離したK99−5278菌株の培養物中に抗真菌活性を有する物質が産生されることを見出した。次いで、該培養物中から抗真菌活性を示す活性物質を分離、精製した結果、後記の式[I]、[II]及び[III]で示される化学構造を有する物質を見出した。これらの化学構造を有する物質は従来まったく知られていないことから、本物質を各々K99−5278A物質、K99−5278B物質およびK99−5278C物質と称することにし、その総称をK99−5278物質類と称することにした。
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、下記式[I]

で表される化合物であるK99−5278A物質、および下記式[II]

で表される化合物であるK99−5278B物質、および下記式[III]

で表される化合物であるK99−5278C物質、からなる新規K99−5278物質類を提供することにある。
本発明はさらに、ストレプトミセス属に属し、K99−5278物質類を生産する能力を有する微生物を培地で培養し、培養液中にK99−5278物質類を蓄積せしめ、該培養物からK99−5278物質類を採取することを特徴とする新規K99−5278物質類の製造法を提供することにある。
本発明はまた、ストレプトミセス属に属し、K99−5278物質類を生産する能力を有する微生物が、ストレプトミセス エスピー K99−5278(Streptomyces sp.K99−5278 FERM BP−8198)であるK99−5278物質類の製造法を提供することにある。
本発明はまた、ストレプトミセス属に属し、K99−5278物質類を生産する能力を有する微生物を提供することにある。更に本発明は、ストレプトミセス属に属し、K99−5278物質類を生産する能力を有する微生物が、ストレプトミセス エスピー K99−5278(Streptomyces sp.K99−5278 FERM BP−8198)である微生物を提供することにある。
本発明はK99−5278A物質が、Aspergillus niger KF103、Mucor racemosus KF223、Candida albicans KFIおよびSaccharomyces cerevisiaeKF26に対する抗真菌活性を有するK99−5278物質類を提供することにある。
本発明はK99−5278B物質が、Aspergillus niger KF103、Mucor racemosus KF223、Candida albicans KFIおよびSaccharomyces cerevisiaeKF26に対する抗真菌活性を有するK99−5278物質類を提供することにある。
本発明はK99−5278C物質が、Aspergillus niger KF103、Mucor racemosus KF223、Candida albicans KFIおよびSaccharomyces cerevisiaeKF26に対する抗真菌活性を有するK99−5278物質類を提供することにある。
前記の式[I]、[II]及び[III]で表されるK99−5278物質類を生産する能力を有する微生物(以下「K99−5278物質生産菌」と称する)は、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属するが、例えば本発明者らが新たに東京都港区の土壌から分離したストレプトミセス エスピー(Strptomyces sp.)K99−5278菌株は、本発明において最も有効に使用される菌株の一例である。
本発明のストレプトミセス エスピー(Strptomyces sp.)K99−5278菌株の菌学的性状を示すと、以下のとおりである。
(I)形態的性質
栄養菌糸は各種寒天培地上でよく発達し、分断は観察されない。気菌糸はイースト・麦芽エキス寒天培地、オートミール寒天培地で豊富に着生し、白から茶褐色の色調を呈する。顕微鏡下の観察では気菌糸上に20ケ以上の胞子の連鎖が認められ、その形態は直鎖状で、胞子の大きさは約1.2×0.8μmの円筒状である。胞子の表面は平滑である。菌核、胞子のう及び遊走子は見出されない。
(II)各種培地上での培養性状
イー・ビー・シャーリング(E.B.Shirling)とデー・ゴットリーブ(D.Gottlieb)の方法(インターナショナル・ジャーナル・オブ・システィマティック・バクテリオロジー、16巻、313頁、1966年)によって調べた本生産菌の培養性状を以下に示す。色調は標準色として、カラー・ハーモニー・マニュアル第4版(コンテナー・コーポレーション・オブ・アメリカ・シカゴ、1958年)を用いて決定し、色票名とともに括弧内にそのコードを併せて記した。以下は特記しない限り、27℃、2週間目の各培地における観察結果である。



(III)生理学的諸性質
(1)メラニン色素の生成
(イ)チロシン寒天 陰性
(ロ)ペプトン・イースト・鉄寒天 陰性
(ハ)トリプトン・イースト液 陰性
(ニ)単純ゼラチン培地(21〜23℃) 陰性
(2)硝酸塩の還元 陽性
(3)ゼラチンの液化(21〜23℃)(単純ゼラチン培地) 陰性
(4)スターチの加水分解 陽性
(5)脱脂乳の凝固(27℃) 陰性
(6)脱脂乳のペプトン化(27℃) 陽性
(7)生育温度範囲 19〜35℃
(8)炭素源の利用性(プリドハム・ゴトリーブ寒天培地)
利用する :D−グルコース、メリビオース
やや利用する:L−アラビノース、ラフィノース
利用しない :D−キシロース、D−マンニトール、D−フラクト
ース、L−ラムノース、myo−イノシトール、
シュークロース
(9)セルロースの分解 陰性
(IV)細胞壁組成
細胞壁のジアミノピメリン酸は、LL型、主要メナキノンはMK−9(H6,)である。
(V)結論
以上、本菌の菌学的性状を要約すると次のとおりである。細胞壁のジアミノピメリン酸はLL型、主要メナキノンはMK−9(H6,8)である。胞子連鎖の形態は直鎖状で、長い胞子鎖を形成し、胞子の表面は平滑である。培養上の諸性質としては、栄養菌糸はうすい黄色から茶色の色調を呈し、気菌糸は白色からグレー系の色調を呈する。メラニン色素は産生しないが、黄色の可溶性色素を産生する。
これらの結果から本菌株はストレプトミセス(Streptomyces)属に属する菌種であり、プリドハムとトレスナーの分類(バージス・マニュアル・オブ・デタミナーティブ・バクテリオロジー、第8版、748〜829頁、1974年)によるグレーシリーズに属する菌種であると考えられる。本菌株はストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)K99−5278として、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約に基づき、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)[AIST Tsukuba Central 6,1−1,Higashi 1−Chome Tsukuba−shi,Ibaraki−ken 305−8566 Japan]に所在する独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(International Patent Organism Depositary National Institute of Advanced Industrial Science and Technology)に平成14年(2002)9月27日に寄託され、受託番号FERM BP−8198が付与された。
本発明で使用されるK99−5278物質生産菌としては、前述のストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)K99−5278菌株が好ましい例として挙げられるが、菌は一般的性状として菌学上の性状は極めて変異し易く、一定したものではなく、自然的にあるいは通常行われる紫外線照射または変異誘導体、例えばN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホネート等を用いる人工的変異手段により変異することは周知の事実であり、このような人工変異株は勿論、自然変異株も含め、ストレプトミセス属に属し、前記の式[I]、[II]及び[III]で表されるK99−5278物質類を生産する能力を有する菌株は、すべて本発明に使用することができる。
本発明のK99−5278物質類を製造するにあたっては、先ずストレプトミセス属に属するK99−5278物質生産菌を培地に培養することにより行われる。本発明のK99−5278物質類生産に適した栄養源としては、微生物が同化し得る炭素源、消化し得る窒素源、さらに必要に応じて無機塩、ビタミン等を含有させた栄養培地が使用される。炭素源としては、グルコース、、マルトース、ラクトース、ガラクトース、デキストリン、澱粉などの糖類、大豆油等の植物性油脂類が単独または組み合わせて用いられる。
窒素源としては、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粉、綿実粉、コーン・スチープ・リカー、麦芽エキス、カゼイン、アミノ酸、尿素、アンモニウム塩類、硝酸塩類などが単独または組み合わせて用いられる。その他必要に応じてリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの塩類、鉄塩、マンガン塩、銅塩、コバルト塩、亜鉛塩などの重金属塩類やビタミン類、その他K99−5278物質類の生産に好適なものが添加される。
培養するに当たり、発泡の激しいときには、必要に応じて液体パラフィン、動物油、植物油、シリコン油、界面活性剤などの消泡剤を添加してもよい。上記の培養は、上記の栄養源を含有すれば、培地は液体でも固体でもよいが、通常は液体培地を用い、培養するのがよい、少量生産の場合にはフラスコを用いる培養が好適である。
培養を大きなタンクで行う場合は、生産工程において、菌の生育遅延を防止するため、はじめに比較的少量の培地に生産菌を接種培養した後、次に培養物を大きなタンクに移して、そこで生産培養するのが好ましい。この場合、前培養に使用する培地および生産培養に使用する培地の組成は、両者ともに同一であってもよいし、必要があれば両者を変えてもよい。
培養を通気攪拌条件で行う場合は、例えばプロペラやその他機械による攪拌、ファメーターの回転または振とう、ポンプ処理、空気の吹き込みなど既知の方法が適宜使用される。通気用の空気は、滅菌したものを使用する。培養温度は、本K99−5278物質生産菌が本K99−5278物質類を生産する範囲内で適宜変更し得るが、通常は19〜35℃、好ましくは27℃前後で培養するのがよい。培養pHは、通常は6〜8、好ましくは7前後で培養するのがよい。培養時間は、培養条件によっても異なるが、通常は7日程度である。
このようにして得られた培養物に蓄積されるK99−5278物質類は、通常は培養菌体中に存在する。培養菌体から目的とするK99−5278物質類を採取するには、通常の微生物の培養物から代謝産物を採取するに用いられる手段を単独あるいは任意の順序に組み合わせて、または反復して用いられる。すなわち、例えば、ろ過、遠心分離、透析、濃縮、乾燥、凍結、吸着、脱着、各種溶媒に対する溶解度の差を利用する方法(例えば沈殿、結晶化、再結晶、転溶、向流分配等)、クロマトグラフィー等の手段が用いられる。
本K99−5278物質類を分離、採取するには菌体抽出液から採取すればよい。例えば菌体よりアセトン、エタノールあるいはメタノールなどの有機溶剤などで抽出する。抽出液を濃縮した後クロロホルムや酢酸エチルなどの有機溶剤などで抽出する。抽出液を濃縮した後シリカゲルカラムクロマトグラフイー、セファデックスLH−20、ODSカラムクロマトグラフイー等によって本K99−5278A物質、K99−5278B物質、K99−5278B物質をそれぞれ単離することができる。
本発明のK99−5278物質類の理化学的性状は次のとおりである。
[1]K99−5278A物質
(1)性状 :淡黄色粉末
(2)融点 :160℃
(3)分子式 :C3048、HRFAB−MS(m/z)[M+Na]
計算値559.3246、実測値559.3247
(4)分子量 :536
(5)紫外部吸収スペクトル:メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルは第1図に示すとおりであり、λmax306nm、319nm、334nm、352nmに特徴的な吸収極大を示す
(6)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルは第2図に示すとおりであり、λmax3415、2937、1726、1010cm−1に特徴的な吸収極大を示す
(7)比旋光度:[α]23=−15.9°(c=0.1、メタノール)
(8)溶剤に対する溶解性:ジメチルスルフォキシド(DMSO)、メタノールに可溶、ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、水に不溶
(9)塩基性、酸性、中性の区別:中性物質
(10)H−プロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)の測定には、日本国、バリアン社製400MHz核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定し、水素の化学シフト(ppm)を第1表に示す
(11)13C−核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)の測定には、日本国、バリアン社製100MHz核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定し、炭素の化学シフト(ppm)を第1表に示す


以上のように、K99−5278A物質の各種理化学的性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果、本K99−5278A物質は式[I]で表される化学構造であることが決定された。
[II]K99−5278B物質
(1)性状 :淡黄色粉末
(2)融点 :155℃
(3)分子式 :C3252、HRFAB−MS(m/z)[M+Na]
計算値587.3559、実測値587.3561
(4)分子量 :564
(5)紫外部吸収スペクトル:メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルは第3図に示すとおりであり、λmax306nm、319nm、335nm、352nmに特徴的な吸収極大を示す
(6)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルは第4図に示すとおりであり、λmax3405、2937、1726、1006cm−1に特徴的な吸収極大を示す
(7)比旋光度:[α]23=−63.9°(c=0.1、メタノール)、
(8)溶剤に対する溶解性:ジメチルスルフォキシド(DMSO)、メタノールに可溶、ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、水に不溶
(9)塩基性、酸性、中性の区別:中性物質
(10)H−プロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)の測定には、日本国、バリアン社製400MHz核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定し、水素の化学シフト(ppm)を第2表に示す
(11)13C−核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)の測定には、日本国、バリアン社製100MHz核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定し、炭素の化学シフト(ppm)を第2表に示す


以上のように、K99−5278B物質の各種理化学的性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果、本K99−5278B物質は式[II]で表される化学構造であることが決定された。
[III]K99−5278C物質
(1)性状 :淡黄色粉末
(2)融点 :156℃
(3)分子式 :C3354、HRFAB−MS(m/z)[M+Na]
計算値601.3716、実測値601.3717
(4)分子量 :578
(5)紫外部吸収スペクトル:メタノール中で測定した紫外部吸収スペクトルは第5図に示すとおりであり、λmax306nm、319nm、335nm、352nmに特徴的な吸収極大を示す
(6)赤外部吸収スペクトル:臭化カリウム錠剤法で測定した赤外部吸収スペクトルは第6図に示すとおりであり、λmax3390、2935、1727、1008cm−1に特徴的な吸収極大を示す
(7)比旋光度:[α]23=−15.9°(c=0.1、メタノール)、
(8)溶剤に対する溶解性:ジメチルスルフォキシド(DMSO)、メタノールに可溶、ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、水に不溶
(9)塩基性、酸性、中性の区別:中性物質
(10)H−プロトン核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)の測定には、日本国、バリアン社製400MHz核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定し、水素の化学シフト(ppm)を第3表に示す
(11)13C−核磁気共鳴スペクトル(重クロロホルム中)の測定には、日本国、バリアン社製100MHz核磁気共鳴スペクトロメータを用いて測定し、炭素の化学シフト(ppm)を第3表に示す


以上のように、K99−5278C物質の各種理化学的性状やスペクトルデータを詳細に検討した結果、本K99−5278C物質は式[III]で表される化学構造であることが決定された。
次に、本発明のK99−5278物質類の生物学的性状について以下に詳しく説明する。
(1)ペーパーディスク法(ろ紙円板法)による抗真菌活性の測定
K99−5278物質類の抗カビ活性の測定は、試験菌としてAspergillus niger KF103(ATCC6275)、Mucor racemosus KF223(IFO4581)、Candida albicans KFI及びSaccharomyces cerevisiae KF26を用いた。GY寒天培地(グルコース1.0%、イースト エクストラクト0.5%、寒天0.8%、pH6.0)にAspergillus niger KF103(ATCC6275)及びCandida albicans KFIは0.2%、Mucor racemosus KF223(IFO4581)及びSaccharomyces cerevisiae KF26は0.3%植菌した。活性はペーパーディスク法(厚手6mm:ADVANTEC社製、日本国)により評価し、27℃24時間培養後に阻止円を測定した。その結果は以下のとおりであった。
本発明によるK99−5278A物質は10μgで、Aspergillus niger KF103(ATCC6275)に18mm、Mucor racemosus KF223(IFO4581)に9mm、Candida albicans KFIに9mm、及びSaccharomyces cerevisiae KF26に12mmの阻止円を示した。
本発明によるK99−5278B物質は10μgで、Aspergillus niger KF103(ATCC6275)に16mm、Mucor racemosus KF223(IFO4581)に9mm、Candida albicans KFIに7mm、及びSaccharomyces cerevisiae KF26に12mmの阻止円を示した。
本発明によるK99−5278C物質は10μgで、Aspergillus niger KF103(ATCC6275)に15mm、Mucor racemosus KF223(IFO4581)に8mm、Candida albicans KFIに8mm、及びSaccharomyces cerevisiae KF26に9mmの阻止円を示した。
(2)液体培養法による抗真菌活性の測定
本発明のK99−5278A物質、K99−5278B物質及びK99−5278C物質の液体培地における抗カビ活性は、以下のようにして測定した。
1)試験菌としてSaccharomyces cerevisiae KF26を用いた。96穴マイクロプレートにDMSOに溶解したサンプルを適当量それぞれ供与し、減圧下にて溶媒を留去した。培地(グルコース1.0%、イースト・エクストラクト0.5%、pH6.0)にSaccharomyces cerevisiae KF26を0.3%植菌した懸濁液を200μl/wellづつ加え、27℃、24時間培養した。培養後、吸光度計を用い、波長550nmで濁度を測定した。活性は薬剤無添加の値を100%とし、50%の濁度を示す濃度をIC50値とした。
その結果、K99−5278A物質の試験菌の生育に対するIC50値は7.2μg/ml、K99−5278B物質の生育に対するIC50値は11.8μg/ml及びK99−5278C物質の生育に対するIC50値は16.6μg/mlであった。
2)試験菌としてAspergillus niger KF103を用いた。96穴マイクロプレートにDMSOに溶解したサンプルを適当量それぞれ供与し、減圧下にて溶媒を留去した。培地(グルコース1.0%、イースト・エクストラクト0.5%、pH6.0)にAspergillus niger KF103を0.3%植菌した懸濁液を200μl/wellづつ加え、27℃、48時間培養した。培養後、吸光度計を用い、波長550nmで濁度を測定した。活性は薬剤無添加の値を100%とし、50%の濁度を示す濃度をIC50値とした。
その結果、K99−5278A物質の試験菌に対するIC50値は0.32μg/ml、K99−5278B物質の試験菌に対するIC50値は0.53μg/ml及びK99−5278C物質の試験菌に対するIC50値は0.75μg/mlであった。
3)試験菌としてMucor racemosus KF223を用いた。96穴マイクロプレートにDMSOに溶解したサンプルを適当量それぞれ供与し、減圧下にて溶媒を留去した。培地(グルコース1.0%、イースト・エクストラクト0.5%、pH6.0)にMucor racemosus KF223を0.3%植菌した懸濁液を200μl/wellづつ加え、27℃、24時間培養した。培養後、吸光度計を用い、波長550nmで濁度を測定した。活性は薬剤無添加の値を100%とし、50%の濁度を示す濃度をIC50値とした。
その結果、K99−5278A物質の試験菌の生育に対するIC50値は15μg/ml、K99−5278B物質の試験菌の生育に対するIC50値は25μg/ml及びK99−5278C物質の試験菌の生育に対するIC50値は35μg/mlであった。
4)試験菌としてCandida albicans KFIを用いた。96穴マイクロプレートにDMSOに溶解したサンプルを適当量それぞれ供与し、減圧下にて溶媒を留去した。培地(グルコース1.0%、イースト・エクストラクト0.5%、pH6.0)にCandida albicans KFIを0.3%植菌した懸濁液を200μl/wellづつ加え、27℃、24時間培養した。培養後、吸光度計を用い、波長550nmで濁度を測定した。活性は薬剤無添加の値を100%とし、50%の濁度を示す濃度をIC50値とした。
その結果、K99−5278A物質の試験菌の生育に対するIC50値は61μg/ml、K99−5278B物質の試験菌の生育に対するIC50値は100μg/ml及びK99−5278C物質の試験菌の生育に対するIC50値は140μg/mlであった。
以上詳しく述べたように、本発明のK99−5278物質類は生物学的性状から明らかな如く新しい骨格を有する真菌に対して有効な新しい抗真菌剤として有用であると期待される。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明のK99−5278A物質の紫外部吸収スペクトル(メタノール中)を示したものである。
第2図は本発明のK99−5278A物質の赤外部吸収スペクトル(臭化カリウム法)を示したものである。
第3図は本発明のK99−5278B物質の紫外部吸収スペクトル(メタノール中)を示したものである。
第4図は本発明のK99−5278B物質の赤外部吸収スペクトル(臭化カリウム法)を示したものである。
第5図は本発明のK99−5278C物質の紫外部吸収スペクトル(メタノール中)を示したものである。
第6図は本発明のK99−5278C物質の赤外部吸収スペクトル(臭化カリウム法)を示したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれのみに限定されるものでない。
500ml容試験管にグルコース0.1%、スターチ2.4%、ペプトン0.3%、ミートエキストラクト0.3%、CaCO0.4%を含む培地(pH7.0に調整)を各10ml仕込み、綿栓後、蒸気滅菌し、セイノアガー(スターチ1%、N−Zアミン0.3%、イーストエキス0.1%、肉エキス0.1%、CaCO0.3%、アガー1.2%)に生育させたストレプトミセス K99−5278株(Streptomyces sp.K99−5278 FERM BP−8198)を滅菌的に接種し、27℃で4日間振とう培養し、種培養液を得た。
一方、500ml容三角フラスコ150本にグリセロール1.5%、マル特脱脂胚芽(日清製粉社製、日本国)1.0%、CaCO0.3%を含む培地(pH7.0に調整)を各100ml仕込み、綿栓後、蒸気滅菌し、前記の種培養液1mlを無菌的に移植し、27℃で5日間振とう培養した。得られた培養液に各100mlのアセトンを加え、よく攪拌した後、減圧濃縮し、これを再び酢酸エチルで抽出後、減圧濃縮して粗製物2.4gを得た。
次にこの粗製物2.4gをクロロホルムに溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフイー(100g、70−230mm、メルク社製、米国)を行い、クロロホルム、クロロホルム:メタノールが100:1、50:1、10:1、5:1、1:1で、各500mlずつ溶出させた。活性成分はクロロホルム:メタノールが5:1の画分に401mg得られた。これを更にシリカゲルカラムクロマトグラフイー(30g、230−400mm、メルク社製、米国)を行い、クロロホルム:メタノール=5:1で溶出させ、19〜27フラクションに活性成分を得た。
これを更に高速液体クロマトグラフイーにより分離、精製を行った。装置はSSC−5410(センシュー科学社製、日本国)を用い、カラムはPEGASIL ODS(ODS系樹脂、4.6×250mm、センシュー科学社製、日本国)を用い、溶媒系は50%アセトニトリル水を用い、検出はUV320nm、流速1.0ml/分で行った。その結果、本K99−5278A物質を12.8mg、本99−5278B物質を22.4mg、及び本99−5278C物質を8.9mgそれぞれ単離した。
産業上の利用分野
以上に説明したように、ストレプトミセス属に属し、K99−5278物質類を生産する能力を有するストレプトミセス エスピー K99−5278を培地に培養し、その培養物中にK99−5278物質類を蓄積せしめ、該培養物から採取した本発明のK99−5278A物質、K99−5278B物質およびK99−5278C物質は、深在性真菌症を含む真菌症に有効な医薬品としての効果が期待される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]

で表される化合物であるK99−5278A物質、及び下記式[II]

で表される化合物であるK99−5278B物質、及び下記式[III]

で表される化合物であるK99−5278C物質、とからなる新規K99−5278物質類。
【請求項2】
ストレプトミセス属に属し、K99−5278物質類を生産する能力を有する微生物を培地に培養し、その培養物中にK99−5278物質類を蓄積せしめ、該培養物からK99−5278物質類を採取することを特徴とする新規K99−5278物質類の製造法。
【請求項3】
前記の物質を生産する能力を有する微生物がストレプトミセス エスピー(Streptomyces sp.)K99−5278(FERM BP−8198)またはそれの変異株である請求の範囲2に記載の新規K99−5278物質の製造法。
【請求項4】
請求の範囲1に記載の物質を生産する能力を有するストレプトミセス(Streptomyces)属に属する微生物。
【請求項5】
上記の物質を生産する能力を有する微生物が、ストレプトミセス エスピー K99−5278(FERM BP−8198)またはそれの変異株である請求の範囲4に記載の微生物。
【請求項6】
K99−5278A物質が、Aspergillus niger KF103、Mucor racemosus KF223、Candida albicans KFIおよびSaccharomyces cerevisiae KF26に対する抗真菌活性を有する請求の範囲1記載の新規K99−5278物質類。
【請求項7】
K99−5278B物質が、Aspergillus niger KF103、Mucor racemosus KF223、Candida albicans KFIおよびSaccharomyces cerevisiae KF26に対する抗真菌活性を有する請求の範囲1記載の新規K99−5278物質類。
【請求項8】
K99−5278C物質が、Aspergillus niger KF103、Mucor racemosus KF223、Candida albicans KFIおよびSaccharomyces cerevisiae KF26に対する抗真菌活性を有する請求の範囲1記載の新規K99−5278物質類。

【国際公開番号】WO2004/033702
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542793(P2004−542793)
【国際出願番号】PCT/JP2002/010586
【国際出願日】平成14年10月11日(2002.10.11)
【出願人】(390027214)社団法人北里研究所 (20)
【Fターム(参考)】